説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】吸気バルブのバルブリフト量を可変とする可変リフト機構を備える内燃機関での、軽負荷時における点火プラグの燻りを好適に回避することのできる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】吸気バルブ16のバルブリフト量を可変とする可変リフト機構17と、吸気ポート噴射用のポート噴射インジェクタ12と、筒内噴射用の筒内噴射インジェクタ14と、を備える内燃機関10にあって、電子制御ユニット18は、吸気ポート噴射と筒内噴射との燃料の噴射比率を機関運転条件に応じて設定する一方、吸気バルブ16のバルブリフト量が可変リフト機構17によって規定の燻り判定値以下に設定されているときには、機関運転条件により設定された比率よりも筒内噴射の比率が大きくなるように上記噴射比率を強制変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気バルブのバルブリフト量を可変とする可変リフト機構と、燃料の吸気ポート噴射を行う吸気ポートインジェクタと、燃料の筒内噴射を行う筒内噴射インジェクタと、を備える内燃機関に適用される内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、吸気ポート噴射用と筒内噴射用との2つのインジェクタを備える、所謂デュアル・インジェクション・システムを採用する内燃機関が提案され、実用されている。こうした内燃機関では、その運転状況に応じて2つのインジェクタを使い分けることで、燃費特性や出力特性の改善を図ることができる。
【0003】
従来、こうしたデュアル・インジェクション・システムを採用する内燃機関の燃料噴射制御装置として、特許文献1に記載のものが知られている。同文献に記載の燃料噴射制御装置では、中高負荷時には、点火プラグのギャップ部や筒内噴射インジェクタの噴口周りへのデポジットの堆積を抑制すべく、ポート噴射インジェクタ、筒内噴射インジェクタの双方から燃料噴射を行うようにしている。また燃料噴射量の少ない軽負荷時には、燃料噴射量の制御を容易として機関の運転を安定させるために、ポート噴射インジェクタのみから燃料噴射を行うようにしている。
【特許文献1】特開2005−113745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年には、吸気バルブのバルブリフト量を可変とする可変リフト機構を備え、そうした可変リフト機構による吸気バルブのバルブリフト量の変更を通じて吸入空気量の調整を行う内燃機関が実用されている。こうした内燃機関では、軽負荷時には、吸気バルブのバルブリフト量を小さくすることで、吸入空気量を低減するようにしている。
【0005】
ここで、こうした可変リフト機構を備える内燃機関に、上記デュアル・インジェクション・システムを採用し、更に上記従来の燃料噴射制御装置を適用することを考えると、次のような不具合が発生してしまうようになる。
【0006】
図7は、こうした場合の軽負荷時における筒内への混合気の流入態様を示している。同図に示すように、こうした場合の内燃機関には、その吸気ポート50にポート噴射インジェクタ51が、その燃焼室52に筒内噴射インジェクタ53がそれぞれ設置される。そしてこの場合の内燃機関の軽負荷運転時には、吸入空気量を低減すべく、吸気バルブ54のバルブリフト量が小さくされた状態で、ポート噴射インジェクタ51から燃料噴射が行われることになる。吸気バルブ54のバルブリフト量が小さくされると、同図に示すように、ポート噴射インジェクタ51から噴射された燃料と空気との混合気は、わずかに開いた吸気バルブ54の狭い隙間を通って、吸気ポート50から燃焼室52内に流入することとなり、燃焼室52への混合気の流入速度は高くなる。そしてそうした高流速の混合気が点火プラグ55の近傍に流れ込むようになり、点火プラグ55のギャップ部に燃料が付着して、燻りが発生してしまうようになる。
【0007】
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであって、その解決しようとする課題は、吸気バルブのバルブリフト量を可変とする可変リフト機構を備える内燃機関での、軽負荷時における点火プラグの燻りを好適に回避することのできる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果を記載する。
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、吸気バルブのバルブリフト量を可変とする可変リフト機構と、吸気ポート噴射用のポート噴射インジェクタと、筒内噴射用の筒内噴射インジェクタと、を備える内燃機関に適用される燃料噴射制御装置であって、吸気ポート噴射と筒内噴射との燃料の噴射比率を機関回転速度及び機関負荷に基づき設定する噴射比率設定手段と、前記吸気バルブのバルブリフト量が前記可変リフト機構によって規定値以下に設定されているときには、前記噴射比率設定手段により設定される比率よりも、前記筒内噴射の比率が大きくなるように前記噴射比率を強制変更する強制変更手段と、を備えることをその要旨としている。
【0009】
上記構成では、通常は、機関回転速度及び機関負荷に基づいて、筒内での燃料の分布が最適となるように吸気ポート噴射と筒内噴射との噴射比率が設定される。一方、吸気バルブのバルブリフト量が規定値以下のときには、上記のような機関運転状態に応じた最適な比率よりも筒内噴射の比率が大きくなるように、換言すれば、吸気ポート噴射の比率が小さくなるように、上記噴射比率が強制変更されるようになる。そのため、吸気バルブのバルブリフト量が小さく、ポート噴射された燃料が点火プラグに付着し易い状況にあるときには、ポート噴射される燃料が低減されることとなり、点火プラグの燻りが好適に抑制されるようになる。
【0010】
また上記課題を解決するため、請求項2に記載の発明では、吸気バルブのバルブリフト量を可変とする可変リフト機構と、吸気ポート噴射用のポート噴射インジェクタと、筒内噴射用の筒内噴射インジェクタと、を備えるとともに、前記可変リフト機構による前記吸気バルブのバルブリフト量の変更を通じて吸入空気量を調整する内燃機関に適用される燃料噴射制御装置であって、吸気ポート噴射と筒内噴射との燃料の噴射比率を機関回転速度及び機関負荷に基づき設定する噴射比率設定手段と、前記吸入空気量が規定値以下に設定されているときには、前記噴射比率設定手段により設定される比率よりも、前記筒内噴射の比率が大きくなるように噴射比率を強制変更する強制変更手段と、を備えることをその要旨とする。
【0011】
上記構成でも、通常は、機関回転速度及び機関負荷に基づいて、筒内での燃料の分布が最適となるように吸気ポート噴射と筒内噴射との噴射比率が設定される。一方、上記構成では、可変リフト機構による吸気バルブのバルブリフト量の変更を通じて吸入空気量が調整されており、吸入空気量が少ないときには、可変リフト機構による吸気バルブのバルブリフト量が小さくされるようになっている。そして吸入空気量が規定値以下に設定されているとき、すなわち吸気バルブのバルブリフト量が小さくされているときには、上記のような機関運転条件に応じた最適な比率よりも筒内噴射の比率が大きくなるように上記噴射比率が強制変更されるようになる。すなわち、このときの吸気ポート噴射の比率は小さくなるようになる。そのため、上記構成においても、吸気バルブのバルブリフト量が小さく、ポート噴射された燃料が点火プラグに付着し易い状況にあるときには、ポート噴射される燃料が低減されることとなり、点火プラグの燻りが好適に抑制されるようになる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記強制変更手段は、燃料噴射のすべてが前記筒内噴射により行われるように、前記噴射比率の強制変更を行うことをその要旨としている。
【0013】
上記構成では、吸気バルブのバルブリフト量が小さくされているときには、燃料噴射のすべてが筒内噴射により行われるようになる。すなわち、筒内噴射の比率が「100%」、吸気ポート噴射の比率が「0%」となるように、噴射比率の強制変更が行われるようになる。このときの吸気ポート噴射の量は「0」となるため、点火プラグの燻りは、より確実に抑制されるようになる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記規定値は、機関温度が低いときほど、大きい値に設定されることをその要旨としている。
【0015】
機関温度が低いほど、燃料が気化し難くなるため、点火プラグに付着した燃料がそのまま残留して、燻りが発生し易くなる。上記構成では、機関温度が低く、点火プラグの燻りが発生し易い状況となるほど、より大きいバルブリフト量、或いはより多い吸入空気量から、上記強制変更手段による筒内噴射の比率の増大が行われるようになる。そのため、機関温度が低いときほど、上記強制変更手段による筒内噴射の比率の増大が、より広い領域で行われるようになり、点火プラグの燻りをより確実に抑制することができるようになる。一方、機関温度が高く、点火プラグの燻りがあまり発生しないときには、上記強制変更手段による筒内噴射の比率の増大が行われる領域が狭くなるため、機関運転条件に応じた最適な上記噴射比率の設定がより広い領域で行われるようになる。したがって上記構成によれば、点火プラグの燻りをより効率的に抑制することができるようになる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記強制変更手段は、機関温度が低いときにのみ、前記噴射比率の強制変更を実施することをその要旨としている。
【0017】
上述したように、吸気ポートに噴射された燃料の付着による点火プラグの燻りは、機関温度が低いときほど、発生し易くなる。その点、上記構成では、点火プラグの燻りが発生し易い機関低温時にのみ、上記強制変更手段による筒内噴射の比率の増大が行われるようになる。すなわち、点火プラグの燻りがあまり発生しない機関高温時には、吸気バルブのバルブリフト量が小さくとも、或いは吸入空気量が少なくとも、上記強制変更手段による筒内噴射の比率の増大は行われず、噴射比率がそのときの機関運転条件に応じた最適な値に設定されるようになる。したがって上記構成によれば、点火プラグの燻りをより効率的に抑制することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の内燃機関の燃料噴射制御装置を具体化した第1の実施の形態を、図1及び図2を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1に、本実施の形態に係る内燃機関の燃料噴射制御装置の全体構成を示す。同図に示すように、本実施の形態の燃料噴射制御装置の適用される内燃機関10には、その吸気ポート11に設置された吸気ポート噴射用のポート噴射インジェクタ12と、その燃焼室13に設置された筒内噴射用の筒内噴射インジェクタ14との2つのインジェクタを備える、デュアル・インジェクション・システムが採用されている。またこうした内燃機関10の燃焼室13の頂面には、燃料と空気との混合気を火花点火する点火プラグ15が設けられている。
【0020】
こうした内燃機関10には、その吸気ポート11を燃焼室13に対して開閉する吸気バルブ16が設けられ、そうした吸気バルブ16のバルブリフト量を可変とする可変リフト機構17が設置されている。そしてこの可変リフト機構17による吸気バルブ16のバルブリフト量の変更を通じて、吸入空気量が調整されるようになっている。
【0021】
こうした内燃機関10の制御は、電子制御ユニット18により行われるようになっている。電子制御ユニット18は、機関制御に係る各種演算処理を実行する中央演算処理装置(CPU)、機関制御用のプログラムやデータの記憶された読込専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果を一次記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、外部との信号の入出力のための入出力ポート(I/O)を備えて構成されている。
【0022】
こうした電子制御ユニット18の入力ポートには、機関運転状況を検出するための各種のセンサが接続されている。こうしたセンサとしては、例えば機関回転速度を検出するNEセンサ19、アクセル操作量を検出するアクセルセンサ20、吸入空気量を検出するエアフローメータ21、上記可変リフト機構17により変更される吸気バルブ16のバルブリフト量を検出するリフト量センサ22、機関冷却水の温度を検出する水温センサ23などがある。
【0023】
また電子制御ユニット18の出力ポートには、上記ポート噴射インジェクタ12、筒内噴射インジェクタ14、点火プラグ15、可変リフト機構17などが接続されている。そして電子制御ユニット18は、上記各センサの検出結果に基づいて、これらに指令信号を出力することで、燃料噴射制御、点火制御、バルブリフト制御などの機関制御を実施する。
【0024】
こうした内燃機関10での吸気バルブ16のバルブリフト制御は、以下の態様で行われる。まず電子制御ユニット18は、上記NEセンサ19の検出する機関回転速度、及び上記アクセルセンサ20の検出するアクセル操作量などに基づいて、現状の機関運転条件に応じた吸入空気量の目標値を算出する。そして電子制御ユニット18は、その目標とする吸入空気量の得られる吸気バルブ16のバルブリフト量を算出し、これを吸気バルブ16の目標リフト量として設定する。続いて電子制御ユニット18は、上記リフト量センサ22の検出結果に基づいて、吸気バルブ16のバルブリフト量を目標リフト量とすべく可変リフト機構17に指令信号を出力する。そしてこれにより、吸気バルブ16のバルブリフト量が目標リフト量となるように可変リフト機構17を駆動するようにしている。
【0025】
次に、こうした本実施の形態での燃料噴射制御の詳細について説明する。この内燃機関10での燃料噴射制御は、基本的には以下の態様で行われる。まず電子制御ユニット18は、上記エアフローメータ21の検出する吸入空気量に基づいて、燃焼室13に導入される混合気の空燃比が目標空燃比となるように、燃料噴射量を算出する。続いて電子制御ユニット18は、機関回転速度及び機関負荷に基づいて、燃焼室13内の燃料分布が現状の機関運転条件に応じた最適な分布となるような、吸気ポート噴射と筒内噴射との燃料の噴射比率を設定する。なお本実施の形態では、吸入空気量を機関負荷の指標値として、ここでの噴射比率の算出を行っている。そして電子制御ユニット18は、上記算出された燃料噴射量、及び上記設定された噴射比率に応じて、ポート噴射インジェクタ12及び筒内噴射インジェクタ14のそれぞれの燃料噴射量を決定して、各インジェクタに指令信号を出力する。これにより、ポート噴射インジェクタ12及び筒内噴射インジェクタ14のそれぞれに、燃焼状態が最適となるように、上記算出された燃料噴射量を分配するようにしている。
【0026】
ところで本実施の形態では、上述したように、吸気バルブ16のバルブリフト量が小さくされており、吸気ポート噴射を行った場合に点火プラグ15の燻りが懸念されるような状況では、筒内噴射の比率が大きくなるように上記設定された噴射比率を強制的に変更するようにしている。すなわち、このときには、例外として、ポート噴射インジェクタ12及び筒内噴射インジェクタ14の噴射比率は、現状の機関運転状態において燃焼状態が最適となる比率とは異なる値に設定される。こうして筒内噴射の比率を大きくすれば、吸気ポート噴射される燃料の量はその分、減少することになり、点火プラグ15への燃料付着が、ひいてはその燻りの発生が抑制されるようになる。
【0027】
図2は、こうした本実施の形態における両インジェクタの噴射比率を設定するための噴射比率設定ルーチンのフローチャートを示している。本ルーチンの処理は、上述したような燃料噴射量の算出に係る処理に続いて、電子制御ユニット18により実行されるものとなっている。
【0028】
さて本ルーチンが開始されると、電子制御ユニット18はまずステップS10において、機関回転速度及び機関負荷に基づく噴射比率の設定を行う。上述したように、ここでの噴射比率の設定は、現状の機関回転速度及び機関負荷において、燃焼室13内の燃料分布が最適となって燃焼状態が最適となるように行われる。
【0029】
続いて電子制御ユニット18は、ステップS20において、上記リフト量センサ22の検出した吸気バルブ16のバルブリフト量が、規定の燻り判定値A以下であるか否かを確認する。なお燻り判定値Aの値は、吸気ポート噴射を行った場合に点火プラグ15の燻りが発生する吸気バルブ16のバルブリフト量の範囲の上限値に設定されている。
【0030】
ここで吸気バルブ16のバルブリフト量が上記燻り判定値Aよりも大きければ(S20:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理を終了する。すなわち、このときには、上記ステップS10にて算出された噴射比率をそのまま使用して、ポート噴射インジェクタ12及び筒内噴射インジェクタ14への燃料噴射量の分配が行われるようになる。
【0031】
一方、吸気バルブ16のバルブリフト量が燻り判定値A以下であれば(S20:YES)、電子制御ユニット18は、ステップS30において、筒内噴射の比率がより大きくなるように、上記ステップS10にて算出された噴射比率を強制的に変更する。したがって、このときの筒内噴射の比率は、燃焼状態を最適とする比率よりも大きい値に設定される。そしてその後、電子制御ユニット18は、今回の本ルーチンの処理を終了する。
【0032】
なお、以上の本実施の形態では、こうした噴射比率設定ルーチンでのステップS10における電子制御ユニット18の処理が、上記噴射比率設定手段の行う処理に相当する。また噴射比率設定ルーチンのステップS30における電子制御ユニット18の処理が、上記強制変更手段の行う処理に相当する。
【0033】
以上説明した本実施の形態の内燃機関の燃料噴射制御装置によれば、次の効果を奏することができる。
・本実施の形態では、電子制御ユニット18は、噴射比率設定ルーチンにおいて、吸気ポート噴射と筒内噴射との燃料の噴射比率を機関回転速度及び機関負荷に基づいて設定するようにしている。その一方で電子制御ユニット18は、吸気バルブ16のバルブリフト量が可変リフト機構17によって規定値(燻り判定値A)以下に設定されているときには、上記設定された比率よりも、筒内噴射の燃料の噴射比率が大きくなるように上記噴射比率を強制変更するようにしている。こうした本実施の形態では、通常は、機関運転条件に応じて、筒内での燃料の分布が最適となるように吸気ポート噴射と筒内噴射との噴射比率が設定される。一方、吸気バルブ16のバルブリフト量が燻り判定値A以下のときには、上記のような機関運転条件に応じた最適な比率よりも筒内噴射の比率が大きくなるように、換言すれば、ポート噴射の比率が小さくなるように、上記噴射比率が強制変更されるようになる。そのため、吸気バルブ16のバルブリフト量が小さく、ポート噴射された燃料が点火プラグ15に付着し易い状況にあるときには、吸気ポート噴射される燃料が低減されることとなり、点火プラグ15の燻りが好適に抑制されるようになる。
【0034】
(第2の実施の形態)
続いて、本発明の内燃機関の燃料噴射制御装置を具体化した第2の実施の形態を、図3を併せ参照して、上記実施形態と異なる点を中心に説明する。なお、本実施の形態以降の各実施の形態において、上述の実施の形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0035】
第1の実施の形態では、吸気バルブ16のバルブリフト量が可変リフト機構17によって規定の燻り判定値A以下に設定されているときには、機関運転条件に応じて設定された比率よりも、筒内噴射の比率が大きくなるように噴射比率を強制変更するようにしていた。もっとも、吸気バルブ16のバルブリフト量が小さいときに、すべての燃料噴射を筒内噴射により行い、吸気ポート噴射は一切行わないようにすれば、点火プラグ15の燻りをより確実に抑制することができる。そこで本実施の形態では、吸気バルブ16のバルブリフト量が可変リフト機構17によって規定の燻り判定値A以下に設定されているときには、燃料噴射のすべてが筒内噴射により行われるように、上記噴射比率の強制変更を行うようにしている。
【0036】
図3は、こうした本実施の形態に採用の噴射比率設定ルーチンのフローチャートを示している。本ルーチンの処理も、上述したような燃料噴射量の算出に係る処理に続いて、電子制御ユニット18により実行されるものとなっている。
【0037】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、そのステップS10においては、機関回転速度及び機関負荷に基づく噴射比率の設定が行なわれ、そのステップS20においては、吸気バルブ16のバルブリフト量が、規定の燻り判定値A以下であるか否かの確認が行われる。そして吸気バルブ16のバルブリフト量が燻り判定値Aよりも大きければ(S20:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了され、上記ステップS10にて算出された噴射比率をそのまま使用して、ポート噴射インジェクタ12及び筒内噴射インジェクタ14への燃料噴射量の分配が行われるようになっている。
【0038】
一方、本実施の形態では、吸気バルブ16のバルブリフト量が燻り判定値A以下であれば(S20:YES)、電子制御ユニット18は、ステップS301において、筒内噴射の比率を「100%」とし、吸気ポート噴射の比率が「0%」となるように、上記ステップS10にて算出された噴射比率を強制的に変更するようにしている。これにより、このときの燃料噴射は、すべて筒内噴射インジェクタ14から行われるようになり、ポート噴射インジェクタ12からは、燃料噴射は全く行われないようになる。そのため、本実施の形態によれば、吸気バルブ16のバルブリフト量が小さいときの吸気ポート噴射の燃料量は「0」となり、点火プラグ15の燻りがより確実に抑制されるようになる。
【0039】
(第3の実施の形態)
続いて、本発明の内燃機関の燃料噴射制御装置を具体化した第3の実施の形態を、図4及び図5を併せ参照して、上記実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0040】
上述したような点火プラグ15の燻りは、燃料が気化し難くなり、点火プラグ15に付着した燃料がそのまま残留するようになるため、機関温度が低いほど、発生し易くなる。そこで本実施の形態では、機関温度が低いときほど、上記燻り判定値Aを大きい値に設定することで、機関温度が低く、点火プラグの燻りが発生し易い状況となるほど、より大きいバルブリフト量から、筒内噴射の比率を増大するための噴射比率の強制変更を行うようにしている。具体的には、本実施の形態では、機関温度の指標値である機関冷却水温に基づいて、燻り判定値Aを可変設定するようにしている。ここでは、電子制御ユニット18は、図4に例示するような演算マップを用いて、機関冷却水温に基づき燻り判定値Aを算出するようにしている。同図に示すように、燻り判定値Aは、機関冷却水温が低いときほど、大きい値に設定されるようになっている。
【0041】
図5は、こうした本実施の形態に採用される噴射比率設定ルーチンのフローチャートを示している。本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、そのステップS10においては、機関運転条件に基づく噴射比率の設定が行なわれ、そのステップS20においては、吸気バルブ16のバルブリフト量が燻り判定値A以下であるか否かの確認が行われる。そして吸気バルブ16のバルブリフト量が燻り判定値Aよりも大きければ(S20:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了され、上記ステップS10にて算出された噴射比率をそのまま使用して、ポート噴射インジェクタ12及び筒内噴射インジェクタ14への燃料噴射量の分配が行われるようになっている。また吸気バルブ16のバルブリフト量が燻り判定値A以下であれば(S20:YES)、ステップS30において、筒内噴射の比率がより大きくなるように、上記ステップS10にて算出された噴射比率が強制的に変更されるようになっている。ただし、本実施の形態では、ステップS10に続き実施されるステップS15の処理において、上記ステップS20での判定に使用される燻り判定値Aが、先の図4に例示したような演算マップを用いて、機関冷却水温に基づいて算出されるようになっている。
【0042】
こうした本実施の形態では、機関温度が低いときほど、筒内噴射の比率の増大が、より広い領域で行われることとなり、点火プラグ15の燻りがより確実に抑制されるようになっている。また本実施の形態では、機関温度が高く、点火プラグ15の燻りがあまり発生しないときには、筒内噴射の比率の増大が行われる領域が狭くなる、すなわち機関運転条件に応じた最適な噴射比率の設定がより広い領域で行われるようになる。そのため、本実施の形態によれば、点火プラグ15の燻りをより効率的に抑制することができるようになる。
【0043】
なお、こうした本実施の形態における機関温度(機関冷却水温)に応じた燻り判定値Aの設定態様は、第2の実施の形態での噴射比率設定ルーチンにおいて使用する燻り判定値Aの設定にも適用することが可能である。
【0044】
(第4の実施の形態)
続いて、本発明の内燃機関の燃料噴射制御装置を具体化した第4の実施の形態を、図6を併せ参照して、上記実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0045】
上述したように、吸気ポート11に噴射された燃料の付着による点火プラグ15の燻りは、機関温度が低いときほど、発生し易くなる。換言すれば、燃料が気化し易い、機関温度が高いときには、たとえ吸気バルブ16のバルブリフト量が小さく設定されていても、点火プラグ15の燻りは、あまり発生しないことになる。
【0046】
そこで本実施の形態では、上述したような、吸気バルブ16のバルブリフト量が小さく設定されているときの、筒内噴射の比率を増大させるための噴射比率の強制変更を、機関温度が低いときに限り行うようにしている。すなわち、本実施の形態では、点火プラグ15の燻りがあまり発生しない機関高温時には、吸気バルブ16のバルブリフト量が小さくとも、筒内噴射の比率の増大は行われず、噴射比率がそのときの機関運転条件に応じた最適な値に設定されるようにしている。
【0047】
図6は、こうした本実施の形態に採用される噴射比率設定ルーチンのフローチャートを示している。本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、そのステップS10においては、機関運転条件に基づく噴射比率の設定が行なわれ、そのステップS20においては、吸気バルブ16のバルブリフト量が燻り判定値A以下であるか否かの確認が行われる。そして吸気バルブ16のバルブリフト量が燻り判定値Aよりも大きければ(S20:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了され、上記ステップS10にて算出された噴射比率をそのまま使用して、ポート噴射インジェクタ12及び筒内噴射インジェクタ14への燃料噴射量の分配が行われるようになっている。
【0048】
一方、本実施の形態では電子制御ユニット18は、吸気バルブ16のバルブリフト量が燻り判定値A以下のときに(S20:YES)、ステップS25において、機関冷却水温が規定の判定値B以上であるか否かを確認する。ここでの判定値Bは、たとえ点火プラグ15に燃料が付着しても、燻りが殆ど発生しない機関冷却水温の下限値に設定されている。すなわち、このステップS25では、内燃機関10が、点火プラグ15に燃料が付着しても、その殆どが気化されてしまい、燻りが発生しないような温度条件にあるか否かが確認される。
【0049】
ここで機関冷却水温が判定値B以上であれば(S25:YES)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了され、ステップS10において機関運転条件に基づき設定された噴射比率により、両インジェクタへの燃料噴射量の分配が行われる。一方、本実施の形態では、ここで機関冷却水温が判定値Bよりも低いときに限り(S25:NO)、ステップS30において、筒内噴射の比率がより増大されるように、ステップS10にて設定された噴射比率を強制変更するようにしている。
【0050】
こうした本実施の形態では、点火プラグ15の燻りが発生し易い機関低温時以外は、両インジェクタの噴射比率が、機関運転条件に応じた、最適な燃焼状態の得られる比率に設定されるようになる。そのため、本実施の形態によれば、点火プラグ15の燻りをより効率的に抑制することができるようになる。
【0051】
なお本実施の形態における、機関温度に応じた噴射比率の強制変更の実施の可否の判定は、第2の実施の形態での噴射比率設定ルーチンにも適用することが可能である。
以上説明した各実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
【0052】
上記各実施の形態では、吸気バルブ16のバルブリフト量が可変リフト機構17によって燻り判定値A以下に設定されているときには、機関運転条件に応じて設定される比率よりも、筒内噴射の比率が大きくなるように噴射比率を強制変更するようにしていた。もっとも、可変リフト機構17による吸気バルブ16のバルブリフト量の変更を通じて吸入空気量を調整する内燃機関10では、その吸入空気量は、吸気バルブ16のバルブリフト量にほぼ一義的に対応するパラメータとなる。すなわち、こうした内燃機関10では、吸入空気量が少ないときには、吸気バルブ16のバルブリフト量は小さくされ、吸入空気量が多いときには、吸気バルブ16のバルブリフト量は大きくされるようになっている。そこで、吸入空気量に基づいて、吸気バルブ16のバルブリフト量が小さいか否かの判定を行い、上記のような噴射比率の強制変更の可否を決定するようにすることも可能である。
【0053】
こうした場合には、吸入空気量が規定の燻り判定値以下であるか否かによって、機関運転条件に応じて設定された噴射比率をそのまま使用するか、筒内噴射の比率が増大されるように同噴射比率の強制変更を行うかを決定するようにすることになる。すなわち、こうした場合には、上記各実施の形態の噴射比率設定ルーチンのステップS20における判定が、吸入空気量が規定の燻り判定値以下であるか否かにより行われることになる。
【0054】
なお、こうしてステップS20での判定を吸入空気量に基づいて行うようにした場合にも、第2の実施の形態と同様に、吸入空気量が燻り判定値以下のときに、燃料噴射のすべてが筒内噴射により行われるように噴射比率の強制変更を行うようにすることが可能である。また第3の実施の形態における吸気バルブ16のバルブリフト量についての燻り判定値Aの機関温度に応じた可変設定は、こうした場合の吸入空気量についての燻り判定値の設定にも、同様或いはそれに準じた態様で適用することも可能である。更に第4の実施の形態と同様に、吸入空気量が燻り判定値以下のときの噴射比率の強制変更を、機関温度が低いときに限り行うようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置を具体化した第1実施形態についてその全体構成を模式的に示す略図。
【図2】同実施形態に採用される噴射比率設定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図3】本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置を具体化した第2実施形態に採用される噴射比率設定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図4】本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置を具体化した第3実施形態に適用される燻り判定値算出用の演算マップについてそのマップでの機関冷却水温と燻り判定値との関係を示すグラフ。
【図5】同実施形態に採用される噴射比率設定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図6】本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置を具体化した第4実施形態に採用される噴射比率設定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図7】吸気バルブのバルブリフト量が小さいときの筒内への混合気の流入態様を模式的に示す略図。
【符号の説明】
【0056】
10…内燃機関、11…吸気ポート、12…ポート噴射インジェクタ、13…燃焼室、14…筒内噴射インジェクタ、15…点火プラグ、16…吸気バルブ、17…可変リフト機構、18…電子制御ユニット、19…NEセンサ、20…アクセルセンサ、21…エアフローメータ、22リフト量センサ、23…水温センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気バルブのバルブリフト量を可変とする可変リフト機構と、吸気ポート噴射用のポート噴射インジェクタと、筒内噴射用の筒内噴射インジェクタと、を備える内燃機関に適用される燃料噴射制御装置であって、
吸気ポート噴射と筒内噴射との燃料の噴射比率を機関回転速度及び機関負荷に基づき設定する噴射比率設定手段と、
前記吸気バルブのバルブリフト量が前記可変リフト機構によって規定値以下に設定されているときには、前記噴射比率設定手段により設定される比率よりも、前記筒内噴射の比率が大きくなるように前記噴射比率を強制変更する強制変更手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
吸気バルブのバルブリフト量を可変とする可変リフト機構と、吸気ポート噴射用のポート噴射インジェクタと、筒内噴射用の筒内噴射インジェクタと、を備えるとともに、前記可変リフト機構による前記吸気バルブのバルブリフト量の変更を通じて吸入空気量を調整する内燃機関に適用される燃料噴射制御装置であって、
吸気ポート噴射と筒内噴射との燃料の噴射比率を機関回転速度及び機関負荷に基づき設定する噴射比率設定手段と、
前記吸入空気量が規定値以下に設定されているときには、前記噴射比率設定手段により設定される比率よりも、前記筒内噴射の比率が大きくなるように前記噴射比率を強制変更する強制変更手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記強制変更手段は、燃料噴射のすべてが筒内噴射により行われるように、前記噴射比率の強制変更を行う
請求項1又は2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記規定値は、機関温度が低いときほど、大きい値に設定される
請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記強制変更手段は、機関温度が低いときにのみ、前記噴射比率の強制変更を実施する
請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−108691(P2009−108691A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278854(P2007−278854)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】