説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】この発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関し、車両システムの起動中に内燃機関を自動的に停止させる機能を有する車両に適用した場合に、内燃機関の停止中に燃料噴射弁の噴孔部を腐食から保護することと、そのような保護のための燃料噴射弁の動作によって排気エミッションや燃費が悪化しないようにすることをバランス良く両立することを目的とする。
【解決手段】アイドルストップ機能を有する車両に搭載される内燃機関10に燃料を噴射する燃料噴射弁12を備える。エンジン停止時においてトルク発生のための燃料噴射の停止後に、燃料噴射弁12の噴孔部(噴孔12eの内壁面やサック12dの壁面)に燃料が付着するように、少量の燃料噴射を実行する。アイドルストップによる停止時には、アイドルストップによるエンジン停止後にIGスイッチ44がOFFとされる動作が実行される確率が所定値以上である場合に限って、上記少量の燃料噴射を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、内燃機関の燃料噴射制御装置が開示されている。この従来の燃料噴射制御装置は、エンジン停止中に燃料噴射制御装置の故障によってコモンレール内の燃料が漏れてしまうのを回避するために、エンジン自動停止・再始動装置が作動することなくエンジンが停止する場合よりも、上記装置が作動することによってエンジンが停止する場合の方が、エンジン停止時のコモンレール圧力の減少量が少なくなるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−41978号公報
【特許文献2】特開平9−203363号公報
【特許文献3】特開2008−222066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料噴射弁の噴孔やサック(以下、「噴孔部」と総称する)が内燃機関の停止中に腐食するのを防止するために、内燃機関の運転停止時においてトルク発生のための燃料噴射の停止後に、噴孔部に燃料が付着するように燃料噴射弁を動作させる(少量の燃料噴射を行う)ことにより、噴孔部に油膜を形成させることが考えられる。
【0005】
ところで、アイドルストップ機能付きの車両やハイブリッド車両のように、燃費向上を目的として、車両システムの起動中に所定の自動停止条件が成立する場合に内燃機関を自動的に停止(以下、「自動停止」と称する)させる機能を有する車両が知られている。このような車両において、自動停止が行われた際に、上記の腐食防止のために噴孔部に燃料が付着するように(より具体的には、噴孔部に油膜が形成されるように)少量の燃料噴射を行うようにすると、その後に内燃機関が再始動した際に、噴射された燃料がHCとなって排気通路に排出されることになる。その結果、排気エミッションの悪化を招き、また、わずかではあるが燃費の悪化を招くこととなる。そこで、イグニッションスイッチのOFFによってではなく自動停止によって内燃機関が停止する場合には、上記少量の燃料噴射を実施しないようにすることが考えられる。
【0006】
しかしながら、自動停止条件の成立に伴って内燃機関が自動的に停止している間に、イグニッションスイッチをOFFとすることによって車両システムが停止される可能性がある。このため、上記少量の燃料噴射の実施を一律に禁止することにすると、このように自動停止後にイグニッションスイッチがOFFとされた状況下において、噴孔部を腐食から保護することができなくなってしまう。従って、自動停止を行う機能を有する車両では、内燃機関の停止中に燃料噴射弁の噴孔部を腐食から保護することと、そのような保護のための燃料噴射弁の動作によって排気エミッションや燃費が悪化しないようにすることをバランス良く両立することが要求される。
【0007】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、車両システムの起動中に内燃機関を自動的に停止させる機能を有する車両に適用した場合に、内燃機関の停止中に燃料噴射弁の噴孔部を腐食から保護することと、そのような保護のための燃料噴射弁の動作によって排気エミッションや燃費が悪化しないようにすることをバランス良く両立することのできる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
車両システムの起動中に所定の自動停止条件が成立する場合に自動的に停止させられる内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
前記内燃機関に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記内燃機関の運転停止時において当該内燃機関のトルク発生のための燃料噴射の停止後に、前記燃料噴射弁の噴孔部に燃料が付着するように前記燃料噴射弁を動作させる停止時燃料噴射弁制御手段と、
前記自動停止条件の成立に伴って前記内燃機関が自動的に停止している状況下において、前記車両システムを停止させる動作が実行される確率を算出する確率算出手段と、
を備え、
前記停止時燃料噴射弁制御手段は、前記自動停止条件の成立に伴って前記内燃機関が自動的に停止する際には、前記確率が所定値以上である場合に限って、前記燃料噴射弁の噴孔部に燃料が付着するように前記燃料噴射弁を動作させることを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記停止時燃料噴射弁制御手段による前記燃料噴射弁の動作が実施されることによる前記燃料噴射弁の前記噴孔部の温度の温度低下量を考慮しつつ、前記内燃機関が自動的に停止する際に当該噴孔部の温度を推定する噴孔部温度推定手段を更に備え、
前記停止時燃料噴射弁制御手段は、前記噴孔部温度推定手段により推定された前記噴孔部の温度が所定値未満となるまで、前記燃料噴射弁の前記動作を繰り返し実行することを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記内燃機関は、複数の気筒を備えるものであって、
前記停止時燃料噴射弁制御手段は、前記内燃機関が備える前記複数の気筒において互いに重ならないタイミングで、前記噴孔部に燃料が付着するように各気筒の前記燃料噴射弁を動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、上記自動停止条件の成立に伴って内燃機関が自動的に停止している状況下において車両システムを停止させる動作が実行される確率の高低に応じて、自動停止によるエンジン停止が行われる際に、噴孔部に燃料を付着させるための燃料噴射弁の動作を実施するか否かが決定される。このような手法によれば、ユーザによる自動停止機能付き車両の使用態様(ユーザの癖)を考慮した、噴孔部の腐食防止制御を実現することができる。これにより、内燃機関の停止中に燃料噴射弁の噴孔部を腐食から保護することと、そのような保護のための燃料噴射弁の動作によって排気エミッションや燃費が悪化しないようにすることをバランス良く両立することが可能となる。
【0012】
第2の発明によれば、燃料噴射弁の噴孔部が高温である場合であっても、燃料噴射弁の上記動作の実行によって噴孔部に確実な油膜を形成させられるようになる。
【0013】
第3の発明によれば、複数の気筒で同時に燃料噴射弁の上記動作を実行する場合と比べ、消費電力のピーク値を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1において燃料噴射弁の噴孔部の腐食防止のために実行される燃料噴射弁の動作(少量の燃料噴射)を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図4】腐食防止のための少量の燃料噴射を行う際のコモンレール圧力と燃料噴射弁の開弁期間の設定例を表した図である。
【図5】本発明の実施の形態2において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図6】燃料噴射弁の噴孔部の腐食を防止するうえで好適な他の制御を実現するために、ECUが実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
[実施の形態1のシステム構成]
図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。図1に示すシステムは、多気筒型の内燃機関10を備えている。ここでは、内燃機関10は、一例として、4サイクルのディーゼル機関(圧縮着火内燃機関)10であり、車両に搭載され、その動力源とされているものとする。本実施形態の内燃機関10は、#1〜#4の4つの気筒を有する直列4気筒型であるが、本発明における内燃機関の気筒数および気筒配置はこれに限定されるものではない。
【0016】
内燃機関10の各気筒には、燃料を筒内に直接噴射する燃料噴射弁12が設置されている。各気筒の燃料噴射弁12は、共通のコモンレール14に接続されている。コモンレール14内には、燃料ポンプ16によって加圧された高圧の燃料が貯留されている。そして、このコモンレール14から各気筒の燃料噴射弁12へ燃料が供給される。コモンレール14の一端には、コモンレール内の燃料圧力(以下、単に「レール圧」と略する。)を検知するためのコモンレール圧力センサ18が取り付けられている。更に、コモンレール14の他端には、レール圧を制御するための電磁式の減圧弁20が取り付けられている。このような構成によれば、レール圧を下げる要求がある時に減圧弁20を開くことにより、コモンレール14内の燃料を燃料タンク(図示省略)に向けてリークさせ、レール圧を下げることができる。
【0017】
各気筒から排出される排気ガスは、排気マニホールド22aによって集合されたうえで排気通路22を通って排出される。内燃機関10は、ターボ過給機24を備えている。ターボ過給機24は、排気ガスの排気エネルギによって作動するタービン24aと、タービン24aと一体的に連結され、タービン24aに入力される排気ガスの排気エネルギによって回転駆動されるコンプレッサ24bとを有している。
【0018】
ターボ過給機24のタービン24aは、排気通路22の途中に配置されている。タービン24aよりも下流側の排気通路22には、排気ガスを浄化可能な排気浄化装置26が設置されている。排気浄化装置26は、一例として、NOxの浄化のための触媒とともに粒子状物質PMを除去するためのパティキュレートフィルタ(DPF)を含むDPNR(Diesel Particulate NOx Reduction)触媒、および酸化触媒によって構成されている。
【0019】
内燃機関10の吸気通路28の入口付近には、エアクリーナ30が設けられている。エアクリーナ30を通って吸入された空気は、ターボ過給機24のコンプレッサ24bで圧縮された後、インタークーラ32で冷却される。インタークーラ32を通過した吸入空気は、吸気通路28の吸気マニホールド28aにより分配された後に各気筒に流入する。吸気通路28におけるインタークーラ32と吸気マニホールド28aとの間には、吸気絞り弁34が設置されている。また、吸気通路28におけるエアクリーナ30の下流近傍には、吸入空気量を検出するエアフローメータ36が設置されている。また、内燃機関10には、排気通路22を流れる排気ガスの一部を吸気通路28に還流させるためのEGR通路38が備えられている。
【0020】
更に、図1に示すシステムは、ECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40の入力部には、上述したコモンレール圧力センサ18およびエアフローメータ36に加え、エンジン回転数を検知するためのクランク角センサ42等の内燃機関10の運転状態を検知するための各種センサが電気的に接続されている。また、ECU40の入力部には、内燃機関10が搭載された車両システムの起動およびその停止を行うためのイグニッションスイッチ(IGスイッチ)44が電気的に接続されている。更に、ECU40の出力部には、上述した燃料噴射弁12、燃料ポンプ16、減圧弁20および吸気絞り弁34等の内燃機関10の運転を制御するための各種のアクチュエータが電気的に接続されている。また、ECU40の出力部には、内燃機関10を始動するためのスターターモータ46が電気的に接続されている。ECU40は、上述した各種センサの出力に基づき、所定のプログラムに従って各種アクチュエータを作動させることにより、内燃機関10の運転状態を制御するものである。
【0021】
また、上述した内燃機関10を備える本実施形態の車両では、燃費向上のために、車両システムの起動中(車両のIGスイッチ44がONとされた状態)であっても、所定の自動停止条件(アイドルストップ条件)が成立した場合に、内燃機関10の運転を自動的に停止させる機能(アイドルストップ機能)を有している。以下、本明細書中においては、このような場合の内燃機関10の停止を、IGスイッチ44のOFFに伴う内燃機関10の運転停止と区別するために、「自動停止」と称する。
【0022】
[実施の形態1の制御]
図2は、本発明の実施の形態1において燃料噴射弁12の噴孔部の腐食防止のために実行される燃料噴射弁12の動作(少量の燃料噴射)を説明するための図である。
先ず、図2を利用して、図1に示す燃料噴射弁12において燃料噴射が行われる側の先端部の具体的な構成について説明する。
【0023】
燃料噴射弁12は、略円筒状の弁ボディ12aを備えている。弁ボディ12aの内部には、ニードル弁12bが往復移動自在に配置されている。弁ボディ12aの内周面とニードル弁12bの外周面との間には、燃料が流通する燃料通路12cが形成されている。燃料通路12cには、図2における燃料通路12cの上方側から高圧の燃料が供給されるようになっている。
【0024】
ニードル弁12bの先端付近の弁ボディ12aの内周面には、ニードル弁12bが着座可能なシート部12a1が形成されている。より具体的には、ニードル弁12bは、燃料噴射弁12が備える電磁石(図示省略)が磁力を発していない場合には、シート部12a1に着座するように構成されている。この場合には、シート部12a1の下流側に向けての燃料の流れが遮断される。一方、ニードル弁12bは、上記ECU40からの指令に基づく励磁電流の供給を受けて電磁石が磁力を発した場合には、シート部12a1から離座するように構成されている。その結果、シート部12a1の上流に蓄えられていた高圧の燃料がシート部12a1の下流側に供給される。
【0025】
また、シート部12a1の下流側の弁ボディ12aには、ニードル弁12bの近傍に、サック(燃料受け部)12dと、サック12dと弁ボディ12aの外部とを連通する噴孔12eが形成されている。このような構成を有する燃料噴射弁12によれば、ECU40からの開弁指令に基づいてニードル弁12bがシート部12a1から離座すると、ニードル弁12bの周囲に蓄えられていた高圧の燃料が、サック12dに流入し、更に、噴孔12eから外部へ噴射されるようになる。
【0026】
(エンジン停止時の燃料噴射弁の噴孔部の腐食防止に関する課題)
本明細書中においては、上記のように構成された燃料噴射弁12において、シート部12a1よりも下流側で燃料が流通する部位、すなわち、噴孔12eの内壁面やサック12dの壁面のことを総称して「噴孔部」ということとする。
【0027】
内燃機関が停止し、内燃機関が冷えてくると、筒内に残った燃焼ガスが結露する。その結果、燃料噴射弁において筒内に晒された部位にも水滴が付着する。噴孔の径が小さいため、燃料噴射弁の外部に付着した水は、毛細管現象によって噴孔の内部に浸入し、サックの内部にまで及ぶ。このため、噴孔の内壁面等の噴孔部が、浸入した水によって腐食してしまう。
【0028】
排気ガス規制が厳しくなるにつれ、NOxを低減するために要求されるEGRガス量が年々増え、これにより、筒内の燃焼時の空燃比がリッチとなってきている。その結果、燃焼ガス中には多量の水が含まれており、内燃機関が停止して冷えた後に発生する結露水の量は年々増加している。このような背景により、EGR通路中で凝縮水(結露水)が発生してしまうエンジンでは、ミスト状もしくは液滴状の凝縮水が、吸気とともに筒内に吸い込まれたうえで燃料噴射弁に付着し、噴孔部を腐食させ易くなる。また、燃料やオイル中の硫黄分により、燃焼ガス中には、微量ではあるがSOxが含まれる。特に、SOは結露した水とともにHSO(硫酸)となるため、単なる水よりも腐食性が高い。
【0029】
上記の腐食を防止するために、噴孔やサックに対して腐食に強いコーティングやメッキを施すことが考えられる。しかしながら、噴孔の内面は、噴孔流量、噴霧形状、噴霧粒径分布に大きく影響を与えるものであるため、径が非常に小さい噴孔に対してコーティング等を施すと、噴孔径に対して性能確保のために必要な精度を確保することが困難となる。更に付け加えると、噴孔内が腐食すると、燃料噴射量特性や噴霧粒径分布が大きく変化したり、噴霧到達距離が変化してしまうなどといった噴霧への大きな影響が生ずるため、内燃機関の排気エミッション、燃費および出力の各性能の悪化が懸念される。
【0030】
以上のように、燃料噴射弁の噴孔の内部は、腐食対策のコーティング等を適切に行うことはできず、その結果として、腐食に弱いものとなっている。噴孔部の内部に燃料油膜を形成できれば、上記の腐食を防止することができる。しかしながら、通常の燃料噴射時には、高圧噴射によって燃料が噴孔の外に吹き飛ばされてしまう。また、筒内が高温であることと、膨張行程において筒内が減圧することによって、噴孔およびサックの内部の燃料は蒸発してしまう。このように、通常の燃料噴射では、腐食を防ぐための油膜を噴孔部に上手く形成することができない。その結果、エンジン停止時には、図2(A)に示すように、噴孔12eの内壁面やサック12dの壁面に形成される油膜が少なくなる。
【0031】
(噴孔部の腐食防止のための少量の燃料噴射制御)
そこで、本実施形態では、内燃機関10の運転停止時において通常の(トルク発生のための)燃料噴射の停止後に、コモンレール14内の燃料残圧が十分に低くなった状態において、図2(B)に示すように、ニードル弁12bをリフトさせることにより、少量の燃料を噴孔12eの内壁面およびサック12dの壁面に供給するようにした。そして、噴孔12eの内壁面およびサック12dの壁面に行き渡るようにするための必要な燃料量を供給した後に、図2(C)に示すように、ニードル弁12bを閉弁するようにした。これにより、噴孔12eの内壁面およびサック12dの壁面に付着した燃料によって噴孔部の表面に油膜を形成することができるので、内燃機関10の停止中に噴孔12eの内壁面等が腐食するのを防止することができる。
【0032】
(アイドルストップを行う車両における停止時の噴孔部の腐食防止に対する課題)
本実施形態の内燃機関10を備える車両のように、燃費向上のためにアイドルストップ機能による内燃機関10の自動停止が行われた際に、上記の腐食防止のための少量の燃料噴射を行うようにすると、その後に内燃機関10が再始動した際に、噴射された燃料がHCとなって排気通路22に排出されることになる。その結果、排気エミッションの悪化を招き、また、わずかではあるが燃費の悪化を招くこととなる。また、アイドルストップ後に再始動する際には、短時間で始動を完了させて排気エミッション(NOx)を低く抑える必要がある。このため、エンジン停止中にレール圧を高く維持することができるタイプのコモンレールシステムの場合には、アイドルストップによるエンジン停止中に、レール圧を高いままにしたいという要求がある。しかしながら、上記の少量の燃料噴射を実施するためには、その高いレール圧を低下させる必要が生ずる。そこで、IGスイッチ44のOFFによってではなく上記自動停止によって内燃機関10が停止する場合には、上記少量の燃料噴射を実施しないようにすることが考えられる。
【0033】
しかしながら、所定の自動停止条件の成立に伴って内燃機関10が自動的に停止している間に、IGスイッチ44をOFFとすることによって車両システムが停止される(車両が駐車される)可能性がある。このため、上記少量の燃料噴射の実施を一律に禁止することにすると、自動停止後にIGスイッチ44がOFFとされた状況下において、噴孔部を腐食から保護することができなくなってしまう。従って、アイドルストップ機能を有する車両では、内燃機関10の停止中に燃料噴射弁12の噴孔部を腐食から保護することと、そのような保護のための燃料噴射弁12の動作(上記の少量の燃料噴射)によって排気エミッションや燃費が悪化しないようにすることをバランス良く両立することが要求される。
【0034】
(実施の形態1における特徴的な制御)
そこで、本実施形態では、所定期間(例えば、1ヶ月)における車両の使用履歴に基づいて、アイドルストップによって内燃機関10が自動停止している状況下においてIGスイッチ44をOFFとする動作が実行される確率を算出するようにした。そのうえで、アイドルストップによるエンジン停止が行われる際には、算出された確率が所定値(例えば、10%)以上である場合に限って、アイドルストップによるものではないIGスイッチ44のOFFに伴うエンジン停止時と同様に、上記の腐食防止のための少量の燃料噴射を実施するようにした。
【0035】
図3は、本発明の実施の形態1の制御を実現するために、ECU40が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。
図3に示すルーチンでは、先ず、エンジン停止要求があるか否かが判定される(ステップ100)。具体的には、本ステップ100の判定は、内燃機関10の運転中に、IGスイッチ44をOFFとする動作が行われた場合、または、所定の自動停止条件(アイドルストップ条件)が成立した場合に成立する。
【0036】
上記ステップ100の判定が成立した場合には、次いで、今回のエンジン停止要求が上記アイドルストップ条件の成立に伴うものであるか(すなわち、S&S(アイドルストップ)による停止要求か)否かが判定される(ステップ102)。
【0037】
上記ステップ102において今回のエンジン停止要求がアイドルストップによるエンジン停止要求ではなく、IGスイッチ44のOFFによるものであると判定された場合には、内燃機関10のトルク発生のための燃料噴射が終了した後に、コモンレール圧の減圧弁20を用いて、レール圧を下げる制御が実行される(ステップ104)。
【0038】
次に、上記ステップ104の制御の実行中に、コモンレール圧力センサ18を用いてレール圧が所定値(一例として、10MPa)よりも低いか否かが判定される(ステップ106)。その結果、レール圧が所定値よりも低いと判定された場合には、噴孔部の腐食防止のための上述した少量の燃料噴射が実行される(ステップ108)。図4は、腐食防止のための少量の燃料噴射を行う際のレール圧と燃料噴射弁12の開弁期間の設定例を表した図である。すなわち、本ステップ108では、図4に示すような設定を利用して、現在のレール圧に応じて、良好な油膜形成のために噴孔12eの内壁面やサック12dの壁面に付着させておくべき燃料噴射量が決定される。
【0039】
また、本ステップ108における少量の燃料噴射は、ここでは、内燃機関10が備える4つの気筒において互いに重ならないタイミングで各気筒において実行されるものとする。ただし、本ステップ108における少量の燃料噴射は、必ずしも上記のような態様で実行されるものに限らず、例えば、全気筒同時に実施してもよいし、或いは、所定のグループ気筒をいくつか形成したうえで、グループ気筒毎に実施してもよい。また、上記少量の燃料噴射を実行するタイミングとしては、トルク発生のための燃料噴射の停止後であれば、内燃機関10が完全に停止した後であってもよく、或いは、内燃機関10が完全に停止していないタイミングであってもよい。
【0040】
一方、上記ステップ102において今回のエンジン停止要求がアイドルストップによるエンジン停止要求であると判定された場合には、次いで、過去一ヶ月(一例)においてS&S(アイドルストップ)によるエンジン停止の後に(再始動が行われることなく)IGスイッチ44がOFFとされた(車両のキーがOFFとされた)確率が算出されたうえで、当該確率が所定値(例えば、10%)以上であるか否かが判定される(ステップ110)。
【0041】
その結果、上記ステップ110の判定が不成立である場合、すなわち、アイドルストップによるエンジン停止の後にIGスイッチ44がOFFとされる可能性が低いと判断できる場合には、上記ステップ104〜108による少量の燃料噴射は実施されない。一方、上記ステップ110の判定が成立する場合、すなわち、アイドルストップによるエンジン停止の後にIGスイッチ44がOFFとされる可能性が高いと判断できる場合には、アイドルストップによるエンジン停止時であっても、IGスイッチ44のOFFによるエンジン停止時と同様に、上記ステップ104〜108による少量の燃料噴射が実施される。
【0042】
以上説明した図3に示すルーチンによれば、アイドルストップによるエンジン停止の後にIGスイッチ44がOFFとされる確率の高低に応じて、アイドルストップによるエンジン停止が行われる際に、噴孔部の腐食防止のための少量の燃料噴射を実施するか否かが決定される。このような手法によれば、ユーザによるアイドルストップ機能付き車両の使用態様(ユーザの癖)を考慮した、噴孔部の腐食防止制御を実現することができる。これにより、内燃機関10の停止中に燃料噴射弁12の噴孔部を腐食から保護することと、そのような保護のための燃料噴射弁12の動作(少量の燃料噴射)によって排気エミッションや燃費が悪化しないようにすることをバランス良く両立することが可能となる。
【0043】
また、上記ルーチンによれば、噴孔部の腐食防止のための少量の燃料噴射は、内燃機関10が備える4つの気筒において互いに重ならないタイミングで各気筒において実行される。このような手法によれば、複数の気筒で同時に少量の燃料噴射を実行する場合と比べ、消費電力のピーク値を抑えることができる。
【0044】
ところで、上述した実施の形態1においては、エンジン停止時に上記少量の燃料噴射を実施するにあたって、減圧弁20を制御して積極的にレール圧を所定値未満に低下させるようにしている。しかしながら、このような手法に代え、エンジン停止時にレール圧が自然に低下するのを待ったうえで、上記少量の燃料噴射を実施するようにしてもよい。
【0045】
また、上述した実施の形態1においては、アイドルストップ機能を有する車両を例に挙げて説明を行った。しかしながら、本発明の対象は、車両システムの起動中に所定の自動停止条件が成立する場合に内燃機関を自動的に停止させる機能を有する車両であればよく、例えば、内燃機関とともに電動モータを動力源として備えるハイブリッド車両であってもよい。
【0046】
また、上述した実施の形態1においては、コモンレールシステムを用いて筒内に燃料を直接噴射可能な燃料噴射弁12を備える圧縮着火式の内燃機関(例えば、ディーゼルエンジン)10を例に挙げて説明を行った。しかしながら、本発明の対象となる燃料噴射弁は、筒内に直接燃料を噴射可能なものに限らず、例えば、吸気ポートに燃料を噴射可能なポート噴射用の燃料噴射弁であってもよい。
【0047】
尚、上述した実施の形態1においては、ECU40が、上記ステップ102および110の判定結果に従って上記ステップ104〜108の一連の処理を実行することにより前記第1の発明における「停止時燃料噴射弁制御手段」が、上記ステップ110の処理を実行することにより前記第1の発明における「確率算出手段」が、それぞれ実現されている。
【0048】
実施の形態2.
次に、図5を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
本実施形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、ECU40に図3に示すルーチンに代えて後述の図5に示すルーチンを実行させることにより実現することができるものである。
【0049】
内燃機関10の停止時に上述した実施の形態1における少量の燃料噴射を実施する際、燃料噴射弁12の噴孔部の温度が高い場合には、噴孔12eおよびサック12d内に燃料を供給しても、燃料が蒸発してしまう。このため、噴孔12eの内壁面やサック12dの壁面に油膜を形成できない可能性がある。
【0050】
そこで、本実施形態では、エンジン停止時に上記少量の燃料噴射を実施した後に、過去(例えば、直近の数分間)の内燃機関10の運転履歴と、上記少量の燃料噴射を1回行った際の噴孔部の温度低下量(予測値)とに基づいて、噴孔部の温度を推定するようにした。そのうえで、噴孔部の推定温度が所定値未満に低下するまで、上記少量の燃料噴射を繰り返し実行するようにした。
【0051】
図5は、本発明の実施の形態2の制御を実現するために、ECU40が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。尚、図5において、実施の形態1における図3に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0052】
図5に示すルーチンでは、上記ステップ106においてレール圧が所定値よりも低下したと判定された場合には、次いで、噴孔部の腐食防止のための上記の少量の燃料噴射が実行される(ステップ200)。
【0053】
次に、噴孔部の推定温度が算出される(ステップ202)。具体的には、本ステップ202では、過去(例えば、直近の数分間)の内燃機関10の運転履歴(エンジン回転数とエンジン負荷で規定される運転条件の履歴)に基づいて噴孔部の熱負荷積算値(熱量)を算出したうえで、当該熱負荷積算値を噴孔部の熱容量で除することにより、噴孔部の推定温度のベース値が算出される。そのうえで、この噴孔部の推定温度のベース値から、上記少量の燃料噴射を1回行った際の燃料の気化潜熱による噴孔部の温度低下量(事前に設定した予測値)を減じることにより、直近のステップ200における少量の燃料噴射の実行直後の噴孔部の推定温度が算出される。
【0054】
次に、上記ステップ202において算出された噴孔部の推定温度が所定値(例えば、150℃)よりも低いか否かが判定される(ステップ204)。本ステップ204における所定値は、上記少量の燃料噴射によって噴孔12eの内壁面やサック12dの壁面に確実な油膜を形成できる程度にまで噴孔部の温度が低下したか否かを判断するための閾値として予め設定された値である。
【0055】
上記ステップ204の判定が未だ不成立である間は、上記ステップ200および202の処理が繰り返される。これにより、上記少量の燃料噴射の実行と、当該少量の燃料噴射の実行により低下した噴孔部の最新の推定温度の算出とが繰り返される。一方、上記ステップ204の判定が成立した場合、すなわち、上記少量の燃料噴射によって噴孔部への確実な油膜の形成が可能な状況にあると判断できる場合には、本ルーチンの処理が速やかに終了される。
【0056】
以上説明した図5に示すルーチンによれば、上述した実施の形態1の効果に加え、燃料噴射弁12の噴孔部が高温である場合であっても、上記の少量の燃料噴射によって噴孔12eの内壁面やサック12dの壁面に確実な油膜を形成させられるようになる。
【0057】
尚、上述した実施の形態2においては、ECU40が上記ステップ202の処理を実行することにより前記第2の発明における「噴孔部温度推定手段」が実現されている。
【0058】
その他の制御.
次に、所定の自動停止条件の成立に伴って内燃機関10が自動的に停止している間に、IGスイッチ44をOFFとすることによって車両システムが停止される(車両が駐車される)場合をも想定して、燃料噴射弁12の噴孔部の腐食防止のための上記少量の燃料噴射を実施する場合のその他の制御について説明する。
【0059】
図6は、燃料噴射弁12の噴孔部の腐食を防止するうえで好適な他の制御を実現するために、ECU40が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。尚、図6において、実施の形態1における図3に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0060】
図6に示すルーチンでは、先ず、S&S(アイドルストップ)によるエンジン停止中にキーオフ(IGスイッチ44のOFF)がなされたか否かが判定される(ステップ300)。その結果、本ステップ300の判定が成立する場合には、コモンレール残圧が所定値(例えば、10MPa)以上であるか否かが判定される(ステップ302)。
【0061】
上記ステップ302の判定が成立する場合には、上記ステップ104〜108による少量の燃料噴射が実施される。一方、上記ステップ302の判定が不成立である場合には、スターターモータ46を駆動して燃料ポンプ16を作動させることにより、レール圧を所定値(例えば、10MPa)にまで高める制御が実行される(ステップ304)。この場合にも、次いで、上記ステップ104〜108による少量の燃料噴射が実施される。尚、ハイブリッド車両の場合には、電動モータによってクランク軸を回転させて燃料ポンプを作動させるようにしてもよい。
【0062】
このような手法によれば、アイドルストップによるエンジン停止後にIGスイッチ44がOFFとされる場合であっても、噴孔部に油膜が形成されることなく長時駐車状態となるのを確実に防止することができる。しかしながら、本手法によれば、アイドルストップによるエンジン停止後に、ユーザの意思とは別にもう一度スターターモータなどを用いてクランク軸を回転させることにより、振動が発生する。このため、ユーザに違和感を与える可能性がある(上記ステップ302の判定が不成立となるケース)。しかしながら、上述した実施の形態1の手法によれば、そのような違和感をユーザに与えることのない対応が可能となる。
【符号の説明】
【0063】
10 内燃機関
12 燃料噴射弁
12a 弁ボディ
12a1 シート部
12b ニードル弁
12c 燃料通路
12d サック
12e 噴孔
14 コモンレール
16 燃料ポンプ
18 コモンレール圧力センサ
20 減圧弁
22 排気通路
24 ターボ過給機
26 排気浄化装置
28 吸気通路
32 インタークーラ
34 吸気絞り弁
36 エアフローメータ
38 EGR通路
40 ECU(Electronic Control Unit)
42 クランク角センサ
44 イグニッションスイッチ(IGスイッチ)
46 スターターモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両システムの起動中に所定の自動停止条件が成立する場合に自動的に停止させられる内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
前記内燃機関に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記内燃機関の運転停止時において当該内燃機関のトルク発生のための燃料噴射の停止後に、前記燃料噴射弁の噴孔部に燃料が付着するように前記燃料噴射弁を動作させる停止時燃料噴射弁制御手段と、
前記自動停止条件の成立に伴って前記内燃機関が自動的に停止している状況下において、前記車両システムを停止させる動作が実行される確率を算出する確率算出手段と、
を備え、
前記停止時燃料噴射弁制御手段は、前記自動停止条件の成立に伴って前記内燃機関が自動的に停止する際には、前記確率が所定値以上である場合に限って、前記燃料噴射弁の噴孔部に燃料が付着するように前記燃料噴射弁を動作させることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記停止時燃料噴射弁制御手段による前記燃料噴射弁の動作が実施されることによる前記燃料噴射弁の前記噴孔部の温度の温度低下量を考慮しつつ、前記内燃機関が自動的に停止する際に当該噴孔部の温度を推定する噴孔部温度推定手段を更に備え、
前記停止時燃料噴射弁制御手段は、前記噴孔部温度推定手段により推定された前記噴孔部の温度が所定値未満となるまで、前記燃料噴射弁の前記動作を繰り返し実行することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関は、複数の気筒を備えるものであって、
前記停止時燃料噴射弁制御手段は、前記内燃機関が備える前記複数の気筒において互いに重ならないタイミングで、前記噴孔部に燃料が付着するように各気筒の前記燃料噴射弁を動作させることを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−87749(P2013−87749A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231698(P2011−231698)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】