説明

内燃機関の過回転燃料カット回転数制御方法

【課題】内燃機関が暖機後に過回転領域での運転状態となった場合に、適切な機関回転数により燃料カットを実行して内燃機関が過回転になることを抑制して、内燃機関の耐久性の向上を図る。
【解決手段】自動変速機を連結してなる内燃機関において、過回転領域において機関回転数が所定回転数を上回った運転状態で燃料供給を停止する過回転燃料カット回転数を設定している内燃機関の過回転燃料カット回転数制御方法であって、自動変速機の作動油の油温を検出し、検出した油温が所定値より低い場合、検出した油温が低いほど過回転燃料カット回転数を高く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機が連結された内燃機関における過回転燃料カット回転数制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機を連結してなる内燃機関にあっては、始動後の初回の1速から2速への変速の際に、作動油の油圧の立ち上がりの遅れに起因する機関回転数の吹け上がりを防止するようにしている。例えば特許文献1のものでは、内燃機関を始動した際に自動変速機を設定時間だけ2速に変速することで、油圧を確保するように制御する構成である。
【0003】
この特許文献1では、内燃機関が始動していること、トルクコンバータのタービンが回転していること、Pレンジであること、アイドル運転状態であること、及びブレーキが操作されていることからなる条件が成立した場合に、自動変速機を設定時間だけ2速に変速する制御を実行して、前述の吹け上がりに対処している。このため、内燃機関の始動と同時にDレンジに切り替えられた場合や暖機を促進するためにアクセルペダルが踏み込まれた(空吹かしされた)場合には、設定時間だけ2速に変速する制御は適用できない。それゆえ、油圧の立ち上がり遅れによって機関回転数が吹け上がり、内燃機関が異常に高回転になることを防止するための過回転燃料カット回転数に達してしまう可能性がある。
【0004】
通常、このような自動変速機におけるシフトアップ動作は、ソレノイド弁により油圧を切り替えることにより行われる。例えば内燃機関を冷間始動する場合では、自動変速機も同様に冷えているため、油圧路内の作動油の温度も低い。このように油温が低い場合、作動油の粘性が高く、そのためにその挙動つまり油圧の伝播に遅れが生じ、シフトアップ動作が遅れることがある。これにより、内燃機関の機関回転数がシフトアップ動作のための設計回転数より高くなるまでシフトアップが実行されないことになる。
【0005】
これに対し、機関回転数が過回転領域に達した場合の過回転燃料カット回転数は、低温時におけるシフトアップ動作中に燃料の供給を停止する燃料カットに至らないように、ソレノイド弁の応答遅れによる機関回転数の上昇を見込んで高い回転数に設定してある。このように、作動油が低温の時のシフトアップ動作に合わせて過回転燃料カット回転数を設定すると、内燃機関が過回転領域で運転された際に、過回転燃料カット回転数に達するまでに時間がかかる、あるいは燃料カットを実施することができる運転状態であるにもかかわらず、燃料カットを実施できないことになる。このため、過回転燃料カット回転数に至るまでの間、不必要な過回転を許容することになるといった不具合が生じた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11‐51167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は以上の点に着目し、内燃機関が暖機後に過回転領域での運転状態となった場合に、適切な機関回転数により燃料カットを実行して内燃機関が過回転になることを抑制して、内燃機関の耐久性の向上を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の内燃機関の過回転燃料カット回転数制御方法は、自動変速機を連結してなる内燃機関において、過回転領域において機関回転数が所定回転数を上回った運転状態で燃料供給を停止する過回転燃料カット回転数を設定している内燃機関の過回転燃料カット回転数制御方法であって、自動変速機の作動油の油温を検出し、検出した油温が所定値より低い場合、検出した油温が低いほど過回転燃料カット回転数を高く設定することを特徴とする。
【0009】
このような構成であれば、作動油の油温が低いほど過回転燃料カット回転数が高くなるので、自動変速機の冷機時にはシフトアップを正常に動作させつつ、暖機後は内燃機関が不必要に高回転になることを抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以上説明したような構成であり、作動油の温度が所定値より高い領域では内燃機関が不必要に高回転になることを抑制することができるので、内燃機関の耐久性を向上させることができるとともに、その信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態を実施する制御システムの構成を示すブロック図。
【図2】同実施形態の制御手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態の自動変速機の作動油の油温に対する過回転燃料カット回転数の設定状態を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
この実施形態の車両すなわち自動車は、図1に示すように、例えば火花点火式の多気筒の内燃機関(以下、エンジンと称する)1と、エンジン1に接続される無段変速機を除く多段式の自動変速機2と、エンジン1の運転を制御する電子制御装置3とを搭載している。エンジン1は、吸気ポートもしくはシリンダ内に燃料を噴射する燃料噴射弁を備え、運転状態に応じて燃料の供給を強制的に停止する燃料カット制御が実施できる構成のものである。このような自動車自体の構成は、この分野でよく知られているものを適用するものであってよい。
【0014】
エンジン1には、その運転状態を検出するために、各種のセンサが取り付けてある。具体的には、図示しないアイドルスイッチ、O2センサ、クランク角センサなどを備えるとともに、エンジン回転数を検出する回転数センサ5、吸気管圧力を検出する吸気圧センサ6、機関温度である冷却水の温度を検出する水温センサ9を備える。又、車体には、車速を検出するための車速センサ7が、例えばプロペラシャフトの基端側に取り付けてあり、アクセルペダルにはその操作量を検出するアクセルセンサ8がそれぞれ取り付けてある。このようなエンジン1及び車体におけるそれぞれのセンサ自体の構成は、この分野でよく知られているものを適用するものであってよい。
【0015】
自動変速機2は、ロックアップクラッチ機構10を備えるトルクコンバータ11と、複数の歯車を組み合わせてなる変速機構12をトルクコンバータ11の出力側に備えるとともに、後述する作動油の油温を検出する油温センサ13を備えている。変速機構12における歯車の組み合わせの変更すなわちシフトアップ動作は、エンジン回転数に依存して実施されるもので、図示しないそれぞれのソレノイド弁に対して作動油の油圧を印加することにより実施される。変速機構12は、シフトアップを行った際の変速段を検出するためのセンサ(図示しない)を備えている。自動変速機2自体は、当該分野で知られているものであってよい。
【0016】
電子制御装置3は、マイクロコンピュータ3aを中心として構成してあり、入力インターフェース3bとメモリ3cと出力インターフェース3dとを備えている。入力インターフェース3bには、上述した回転数センサ5、吸気圧センサ6、車速センサ7、アクセルセンサ8、水温センサ9から出力される信号、及び油温センサ13から出力される油温信号が入力され、エンジン1の運転に必要な情報が入力される。又、出力インターフェース3dからは、燃料噴射弁を制御する噴射信号、点火プラグに対する点火信号、自動変速機2の各ソレノイド弁の作動を制御するための制御信号などが出力される。
【0017】
電子制御装置3のメモリ3cには、エンジン1の運転を制御するためのプログラム、自動変速機2の制御プログラム及びそれらのための各種データが格納してある。また、電子制御装置3のメモリ3cには、自動変速機2の作動油の油温を検出し、検出した油温が所定値より低い場合、検出した油温が低いほど過回転燃料カット回転数を高く設定する過回転燃料カット回転数設定プログラム(以下設定プログラムと称する)が格納してある。この設定プログラムは、エンジン回転数が所定回転数を上回った際に実行される。設定プログラムの制御手順を、図2により説明する。
【0018】
この設定プログラムにおいては、所定油温より高い油温の場合の過回転燃料カット回転数は、ほぼ一定の回転数に設定してある。所定油温は、エンジン1において暖機運転が完了した際に潤滑油の温度がほぼ一定になるのと同様に、自動車が走行して、自動変速機2においてシフトアップ動作が少なくとも1回は行われて作動油の油温がほぼ一定となる、自動変速機2の暖機後の状態の油温に基づいて設定する。作動油の油温が所定温度以上である場合は、シフトアップ動作が遅れることはほぼないので、所定温度以上の作動油の油温に対しては、過回転燃料カット回転数をほぼ一定に設定してある。しかも、この領域の過回転燃料カット回転数は、シフトアップ動作のための設計回転数から最小限だけ高い回転数に設定してある。この設計回転数は、この種の自動変速機2における一般的なものと同じであってよい。
【0019】
以上の前提において、ステップS1では、エンジン回転数が所定回転数を上回ったか否かを判定する。所定回転数は、エンジン回転数とスロットル弁開度とに基づいて設定される過回転領域での運転状態を判定するための回転数である。ステップS1において、エンジン回転数が所定回転数を上回っていないと判定した場合は、再度ステップS1を実行し、そうでない場合はステップS2に進む。
【0020】
ステップS2では、自動変速機2の作動油の油温を検出する。作動油の油温の検出は、油温センサ13が出力する油温信号に基づいて行う。
【0021】
次にステップS3では、検出した油温が所定油温より低いか否かを判定する。検出した油温が所定油温より高いと判定した場合は、すでに過回転燃料カット回転数は設定されているので、この設定プログラムを終了する。一方、検出した油温が所定油温より低いと判定した場合は、ステップS4に進む。
【0022】
ステップS4では、油温に応じて過回転燃料カット回転数を高く設定する。検出した油温が所定油温より低い場合の過回転燃料カット回転数は、油温が低くなるほど高くなるように設定するものである。すなわち、所定油温より低い低油温領域における過回転燃料カット回転数は例えば、代表的な油温に対応する値をマップに記載しておき、マップを検索して設定するとともに、検出した油温がマップにない場合は補間計算を実施して設定する。
【0023】
低油温領域における過回転燃料カット回転数は、図3に示すように、シフトアップ動作のための設計回転数に対して、油温が低い場合のソレノイド弁の応答遅れにより高くなる回転数を考慮して設定するものである。この低油温領域における過回転燃料カット回転数と推定される実際のシフトアップ回転数との差は、所定温度より高い油温領域における過回転燃料カット回転数と設計回転数との差とほぼ同じになるようにしてある。
【0024】
このような構成において、エンジン1を冷機始動した後、自動車を走行させると、走行直後は作動油の油温が上昇していないので、シフトアップ動作に応答遅れが生じてエンジン回転数が上昇する。エンジン回転数が所定回転数を上回り(ステップS1において「Yes」)、且つ検出した油温が所定油温より低い場合(ステップS3において「Yes」)、過回転燃料カット回転数を油温が低いほど高く設定するので、シフトアップ動作に応答遅れが生じてエンジン回転数が上昇しても燃料カットは実行されない。従って、このような油温が低い場合(冷機時)にあって、シフトアップを正常に実施することができる。
【0025】
これに対して、油温が所定油温を上回る状態になった場合(暖機後)は、過回転燃料カット回転数を油温が低い場合に比べて低く設定しているので、エンジン回転数が過回転燃料カット回転数に達した瞬間に燃料カットを実行する。従って、シフトアップ動作の際に仮にエンジン回転数が吹け上がるようであっても、不必要なエンジン1の回転上昇を抑制することができる。
【0026】
このように、自動変速機2の作動油の油温が、所定油温よりも高い場合にあっては、過回転燃料カット回転数が低温時より低く設定してあるため、エンジン回転数が上昇した際に早いタイミングで燃料カットを実施することができ、燃料消費量を低減することができる。そして、不必要な回転上昇を抑制することで、シリンダヘッドなどの温度が異常に上昇することを抑制することができる。従って、例えばシリンダヘッドの温度が上昇することで、点火プラグの温度が通常の運転状態における温度以上に上昇したり、ノッキングが発生するといった不具合を抑制することができる。それにより、エンジン1の耐久性を向上させることができ、従って信頼性を向上させることができる。
【0027】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0028】
過回転燃料カット回転数は、マップにより設定するもの以外に、基本となる過回転燃料カット回転数を設定しておき、その基本となる過回転燃料カット回転数に油温に基づいて設定される補正量を加算して、又は補正係数を乗算して、検出した油温に対応する過回転燃料カット回転数を設定する構成であってもよい。
【0029】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の活用例として、多段式の自動変速機を連結する内燃機関が挙げられる。
【符号の説明】
【0031】
1…エンジン
2…自動変速機
3…電子制御装置
13…油温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機を連結してなる内燃機関において、過回転領域において機関回転数が所定回転数を上回った運転状態で燃料供給を停止する過回転燃料カット回転数を設定している内燃機関の過回転燃料カット回転数制御方法であって、
自動変速機の作動油の油温を検出し、
検出した油温が所定値より低い場合、検出した油温が低いほど過回転燃料カット回転数を高く設定する内燃機関の過回転燃料カット回転数制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−241690(P2012−241690A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115806(P2011−115806)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】