説明

内燃機関の過給制御装置

【課題】内燃機関の過給制御装置に関し、簡素な構成でエネルギー効率を向上させる。
【解決手段】過給機15のコンプレッサー15aを内燃機関10の吸気通路12に介装し、タービン15bを排気通路11に介装する。排気通路11におけるタービン15bよりも上流側11aと下流側11bとを接続するバイパス通路1を設け、コンプレッサー15aの過給圧に応じてバイパス通路1を開閉するウェストゲート弁2を、バイパス通路1上に介装する。
また、ウェストゲート弁2よりもバイパス通路1の下流側に、排気圧を蓄圧する蓄圧器6を接続する。さらに、蓄圧器6とタービン15bの上流側11cとを還流通路8で接続し、出力要求に応じて還流通路8を開閉する還流弁9を還流通路8上に介装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に搭載された過給機の動作を制御する過給制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気圧を利用して内燃機関に過給を実施するターボチャージャーが広く利用されている。一般的なターボチャージャーでは、吸入空気を圧縮して気筒内に圧送するためのコンプレッサーが吸気通路内に設けられるとともに、排気通路内に排気圧を受けて回転するタービンが設けられる。タービンの回転軸はコンプレッサーの回転軸に対して接続され、タービンの回転力がコンプレッサーの駆動力として利用される。排気圧を利用して吸入空気量を増大させることで、燃費性を損なうことなく内燃機関の出力を向上させることが可能となる。
【0003】
一方、ターボチャージャーの回転数を制御することで過給圧を調整する技術も知られている。例えば、特許文献1に示すように、タービンの上流側の排気通路と下流側の排気通路と接続するバイパス通路を設け、内燃機関の運転状況に応じて排気の流通経路を変更することで過給圧を増減させる技術が存在する。
【0004】
この技術では、開度を変更可能なウェストゲートバルブがバイパス通路に介装され、ウェストゲートバルブの開度が吸気通路内の過給圧に応じて制御される。ウェストゲートバルブの開度を増大させるとタービンを迂回してバイパス通路から排出される排気流量が増大するため、タービンの回転数が低下し、これに応じてコンプレッサーによる過給圧も低下する。また、ウェストゲートバルブの開度を減少させるとタービンに導入される排気流量が増加するため、タービンの回転数が上昇し、過給圧も上昇する。このように、ウェストゲートバルブの開度制御によりタービンの回転数を変化させることができ、内燃機関からの排気流量や排気圧が一定であったとしても過給圧を変化させることができる。
【0005】
また、特許文献2に示すように、ウェストゲートバルブによる過給圧の制御に加えて、電動モーターを用いてコンプレッサーの駆動力をアシストすることで過給圧を増減制御する技術も開発されている。電動モーターは、例えばコンプレッサーとタービンとを接続する回転軸に介装され、タービンからの駆動力と電動モーターの駆動力とをともにコンプレッサーへ伝達可能となるように構成される。タービンの回転数が排気の流通状態に依存するものであるのに対し、電動モーターの回転数は排気の流通状態に依存しない。したがって、タービンの駆動力が不足するような場合に電動モーターを駆動することにより、安定した過給圧を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−144575号公報
【特許文献2】特開2008−75549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ウェストゲートバルブを備えた従来のターボチャージャーの制御では、ウェストゲートバルブの開放によって排気圧がタービンの下流側へ廃棄されるため、排気された排気中のエネルギーを回収することができない。つまり、その分のエネルギーを損失することになり、燃費性の面で改善の余地がある。
また、車両に搭載された内燃機関の過給制御では、車両の発進加速時や低回転高負荷での運転時に大きな過給圧が要求される場合がある。一方、内燃機関からの排気流量や排気圧が十分に大きくなっていない運転状態では、大きな過給圧を確保することができない。この点、特許文献2に記載のように、コンプレッサーに電動モーターを併設することで過給圧を確保することも考えられるものの、装置構成が複雑化し、製造コストが上昇してしまう。
【0008】
本件は、上記のような課題に鑑み創案されたもので、簡素な構成でエネルギー効率を向上させることができるようにした、内燃機関の過給制御装置を提供することを目的とする。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ここで開示する内燃機関の過給制御装置は、内燃機関の吸気通路に介装されたコンプレッサーと排気通路に介装されたタービンとを有する過給機の動作を制御する過給制御装置であって、前記タービンよりも前記排気通路の上流側と下流側とを接続するバイパス通路と、前記バイパス通路上に介装され、前記コンプレッサーの過給圧に応じて前記バイパス通路を開閉するウェストゲートバルブを備える。
また、前記ウェストゲートバルブよりも前記バイパス通路の下流側に接続され、排気圧を蓄圧する蓄圧器と、前記蓄圧器と前記タービンの上流側とを接続する還流通路と、前記還流通路上に介装され、出力要求に応じて前記蓄圧通路を開閉する還流弁とを備える。
【0010】
(2)また、前記タービンよりも下流側の前記バイパス通路上に介装された三方弁と、前記蓄圧器と前記三方弁との間を接続する蓄圧通路とを備えることが好ましい。この場合、前記三方弁が、前記蓄圧器の内圧に応じて、前記タービンの上流側を前記蓄圧通路又は前記タービンの下流側の何れか一方に連通させることが好ましい。
【0011】
(3)また、前記蓄圧器の内圧を前記三方弁に伝達するパイロット通路を備えることが好ましい。この場合、前記三方弁が、前記パイロット通路から導入される前記内圧が所定圧以上であるときに、前記タービンの上流側を前記タービンの下流側に連通させるとともに、前記内圧が前記所定圧未満であるときに、前記タービンの上流側を前記蓄圧通路に連通させることが好ましい。
【0012】
(4)また、前記蓄圧通路に介装された逆止弁を備えることが好ましい。
(5)また、前記還流弁の開度を制御する制御手段を備えることが好ましい。この場合、前記制御手段が、前記過給圧が所定圧未満でありかつ前記出力要求が所定量以上であるときに前記還流弁の開度を増大させるとともに、前記過給圧が所定圧以上であり又は前記出力要求が所定量未満であるときに前記還流弁の開度を減少させることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
(1)開示の内燃機関の過給制御装置によれば、ウェストゲートバルブの開放時にバイパス通路を流れる排気圧を蓄圧器に蓄えることで、その排気圧を再利用することができ、エネルギーロスを減少させることができる。また、排気圧の再利用により内燃機関の出力を高めることができる。
特に、ブースト圧が比較的低圧である車両発進時や低速走行時に高出力が要求されたような場合に排気圧を再利用することで、車両の発進性,加速性を向上させることができる。また、ブースト圧を上昇させることで排ガス性能や燃費性能を向上させることができる。
【0014】
(2)また、三方弁を設けることで、バイパス通路から蓄圧器へ導入される排気圧の流通方向を制御することができ、従来のウェストゲートバルブの機能を損なうことなく蓄圧機能を付加することができる。
(3)また、蓄圧器の内圧に応じて三方弁の連通先が変更されるため、確実に所定圧まで排気圧を蓄えることができ、再利用時の排気圧を確保することができる。
【0015】
(4)また、蓄圧器から三方弁側への逆流を防止することができ、確実に蓄圧器に排気圧を蓄えることができる。
(5)また、過給機による過給が追いつかない運転状況下で還流弁の開度を増大させることにより、出力要求に適した過給圧を確保することができる。これにより、車両の発進性の向上や、排ガスの改善、燃費の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態に係る過給制御装置が適用された内燃機関の全体構成を模式的に例示する図である。
【図2】本過給制御装置の三方弁の動作を説明するための図であり、(a)はパイロット圧が所定圧PMAX未満のときの状態を示し、(b)はパイロット圧が所定圧PMAX以上のときの状態を示す。
【図3】本過給制御装置で実施される制御内容を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本過給機の制御装置に係る実施の形態を説明する。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも例示に過ぎず、以下に示す実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。すなわち、本実施形態をその趣旨を逸脱しない範囲で種々変形(実施形態及び各変形例を組み合わせる等)して実施することができる。
【0018】
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態の過給制御装置は、図1に示す車載のエンジン10(内燃機関)に適用される。このエンジン10は、図1中に白抜き矢印で示すように、吸気通路12を介して吸入された空気(新気やEGRガス等)をシリンダーに導入し、シリンダー内で燃焼した排気を排気通路11へと排出する。これらの吸気通路12及び排気通路11は、エンジン10の図示しないインテークマニホールド,エキゾーストマニホールドに接続される。
【0019】
このエンジン10の吸排気系には、排気通路11を流通する排気の圧力を利用して過給を実施するターボチャージャー15が設けられる。このターボチャージャー15は、吸気通路12と排気通路11との両方に跨がるように介装された過給機であり、吸気通路12内に配置されたコンプレッサー15aと、排気通路11内に配置されたタービン15bとを有する。コンプレッサー15aの回転軸はタービン15bの回転軸に接続され、それぞれの回転中心軸は一致している。
【0020】
タービン15bは、排気通路11内を流通する排気の圧力を受けて回転し、その回転力をコンプレッサー15aに伝達する。また、コンプレッサー15aは吸気通路12内の空気を圧縮して下流側へと送出する圧縮機であり、ここで加圧された空気がエンジン10のシリンダーへと過給される。
【0021】
排気通路11上には、排気中に含まれる各種成分を除去するための排気触媒16が介装される。この排気触媒16は、例えばPM(Particulate Matter,粒子状物質)や窒素酸化物(NOx),炭化水素(HC)等の成分を浄化するように機能する。
【0022】
このエンジン10には、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサー17が併設される。このエンジン回転数センサー17は、例えばクランクシャフトの角速度を検出し、これに応じたエンジン回転数の信号を出力するセンサーである。また、車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み量に対応する操作量(アクセル操作量)を検出するアクセル開度センサー18が設けられる。
【0023】
アクセル操作量は、運転者の加速要求に対応するパラメーターであり、すなわちエンジン10への出力要求に相当する。これらのセンサー17,18で検出されたエンジン回転数やアクセルペダルの踏み込み操作量の情報は、後述するエンジン制御装置20に伝達される。
【0024】
[1−2.過給制御回路]
排気通路11には、タービン15bを迂回するように排気を流通させるためのバイパス通路1が形成される。バイパス通路1の上流端部は、タービン15bよりも排気の流れの上流側に位置する上流穴部11aに接続される。一方、バイパス通路1の下流端部は、タービン15bよりも下流側に位置する下流穴部11bに接続される。
【0025】
また、排気通路11上には、ウェストゲートバルブ2が介装される。このウェストゲートバルブ2は、コンプレッサー15aの下流圧(すなわち過給圧,ターボ圧)に応じてバイパス通路1を開閉制御する制御弁である。図1中では、ウェストゲートアクチュエーター13を用いてウェストゲートバルブ2の開閉状態を制御するものを例示する。
【0026】
このウェストゲートアクチュエーター13は、図1に示すように、弾性体(ゴム,バネ等)を介してケース内に弾性的に固定されたダイヤフラム(膜体)によってその内部を二室に区画された構造を持つ。これらの二室のうちの一方の室には過給圧通路14の一端が接続され、過給圧通路14の他端はコンプレッサー15aよりも吸気通路12の下流側に位置する下流穴部12aに接続される。つまり、一方の室内にはコンプレッサー15aの過給圧が導入される。これにより、ウェストゲートアクチュエーター13のダイヤフラムは、過給圧の大きさに応じた圧力で弾性体を押圧し、その位置を移動させる。
【0027】
また、ウェストゲートアクチュエーター13のダイヤフラムとウェストゲートバルブ2の弁体との間はリンク部材で連結され、ダイヤフラムの位置に応じてウェストゲートバルブ2の開度が制御される。ここでは、過給圧が大きいほどウェストゲートバルブ2が開放され、過給圧が小さいほどウェストゲートバルブ2が閉鎖されるように、ウェストゲートバルブ2の弁体の動作が設定される。これにより、過給圧が大きいほどバイパス通路1の排気流量が増加し、過給圧が小さいほどバイパス通路1の排気流量が減少する。
【0028】
ウェストゲートバルブ2よりもバイパス通路1の下流側には三方弁3が介装され、この三方弁3に対して蓄圧通路4及びパイロット通路7が接続される。以下、バイパス通路1のうち、上流穴部11aからウェストゲートバルブ2までの区間を第一バイパス通路1aと呼ぶ。また、ウェストゲートバルブ2から三方弁3までの区間を第二バイパス通路1bとし、三方弁3から下流穴部11bまでの区間を第三バイパス通路1cとする。
【0029】
三方弁3は、第二バイパス通路1b,第三バイパス通路1c及び蓄圧通路4の三つの通路が接続した部位に介装された方向切換弁であり、パイロット通路7から導入されるパイロット圧に応じて排気の流通方向を切り換える機能を持つ。図2(a),(b)は典型的な三方弁3の構成例である。ここでは、中空円柱状のボディ3aとその内部に挿入された円柱状のボール弁体3bとから構成された三方弁3が図示されている。
【0030】
ボディ3aには、第二バイパス通路1b,第三バイパス通路1c及び蓄圧通路4の三つの通路が接続される。また、これらの通路1b,1c,4の間を繋ぐ通路がボール弁体3bの内部を貫通して形成される。ボール弁体3bはボディ3aに対して回転自在に挿入されており、パイロット通路7から導入されるパイロット圧に応じて回転角を変化させることにより、内部の流路を変更する。
【0031】
なお、第二バイパス通路1bは排気が流入する通路であり、第三バイパス通路1c及び蓄圧通路4は排気が流出する通路である。つまり、三方弁3は、第二バイパス通路1bを第三バイパス通路1c及び蓄圧通路4の何れか一方に連通させるように機能する。
第三バイパス通路1cは、排気をタービン15bよりも下流側へと廃棄するための通路であり、蓄圧通路4は、排気をアキュムレーター6(蓄圧器)へと供給するための通路である。したがって、ウェストゲートバルブ2を通過した排気は、三方弁3によってその後の行き先が決定される。
【0032】
アキュムレーター6は、その内部に高圧の排気を蓄える蓄圧室と、蓄圧室の内圧に応じて伸縮する伸縮室とを有する蓄圧装置である。本実施形態では、バイパス通路1から廃棄される排気を一時的にアキュムレーター6に蓄えるとともに、『排圧の放出条件』が成立したときに排気をターボチャージャー15のタービン15bの上流側へと放出することにより、排気圧のエネルギーを回生利用する。なお、アキュムレーター6の種別は、ピストン式アキュムレーターでもよいし、ブラダ式アキュムレーターでもよい。
【0033】
パイロット通路7は、アキュムレーター6の内圧を三方弁3の制御用のパイロット圧として伝達する通路である。パイロット通路7の一端は三方弁3に接続され、他端はアキュムレーター6に接続される。
【0034】
ここで、パイロット通路7を介して伝達されるパイロット圧Pと三方弁3の動作との関係を説明する。パイロット圧Pが所定圧PMAX未満であるときには、三方弁3のボディ3a内に挿入されたボール弁体3bが図2(a)に示す位置に設定され、第二バイパス通路1bと蓄圧通路4とが連通状態とされる。このとき、第三バイパス通路1cは閉鎖される。
【0035】
一方、パイロット圧Pが所定圧PMAX以上になると、ボール弁体3bが図2(b)に示す位置に設定され、第二バイパス通路1bと第三バイパス通路1cとが連通状態とされる。このとき、蓄圧通路4は閉鎖される。なお、この所定圧PMAXの具体的な値は、アキュムレーター6に蓄えることのできる上限圧以下の範囲で任意に設定すればよい。所定圧PMAXが高いほどアキュムレーター6に回収されるエネルギーが増大することになる。
【0036】
蓄圧通路4の中途には、排気の逆流を防止するための逆止弁5が介装される。この逆止弁5は、三方弁3側からアキュムレーター6側への排気の流通を許容し、アキュムレーター6側から三方弁3側への排気の流通を遮断するチェック弁として機能する。
蓄圧通路4における逆止弁5とアキュムレーター6との間には、還流通路8が分岐形成される。この還流通路8は、一端を蓄圧通路4に接続され、他端を排気通路11のタービン15bよりも上流側に位置する第二上流穴部11cに接続された通路である。還流通路8は、アキュムレーター6に蓄えられた排気の再利用時の通路となる。
【0037】
また、還流通路8の中途には、還流弁9が介装される。この還流弁9は、エンジン制御装置20によって開度を制御される電磁制御弁であり、前述の『排圧の放出条件』が成立したときに開放される。アキュムレーター6に排気圧が蓄圧された状態では、還流弁9よりもアキュムレーター6側の通路内には高圧の排気が充填されているため、還流弁9の開放時には排気が急激に第二上流穴部11cから排気通路11へと供給される。
【0038】
エンジン制御装置20(制御手段)は、エンジン10に関する燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを制御する電子制御装置であり、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成される。エンジン制御装置20の具体的な制御対象としては、エンジン10のインジェクターから噴射される燃料噴射量とその噴射時期,吸気弁及び排気弁のバルブリフト量及びバルブタイミング,ターボチャージャー15の作動状態,各種補機の作動状態,スロットルバルブの開度,EGRバルブの開度等が挙げられる。
【0039】
本実施形態では、アキュムレーター6に蓄圧された排気圧を再利用する還流弁9の制御について詳述する。このエンジン制御装置20には、車両に設けられた車内通信網や専用通信ラインを介して他の車載電子制御装置やエンジン回転数センサー17及びアクセル開度センサー18等の各種センサーが接続される。ここでは、『排圧の放出条件』が成立するか否かが判定され、その判定結果に応じて還流弁9の開度が制御される。
【0040】
『排圧の放出条件』は、例えば以下のような条件(1),(2)がともに成立することとされる。
(1)エンジン回転数が予め設定された所定値未満である(低回転状態である)
(2)アクセル操作量等に基づく指示燃料噴射量の単位時間あたりの増加量が所定量以上である(加速状態である)
【0041】
これらの条件(1),(2)がともに成立したとき、エンジン制御装置20から還流弁9に制御信号が伝達され、還流弁9の開度が開放される。一方、上記の(1),(2)の何れか一方でも成立しない場合には、還流弁9の開度が閉鎖状態に維持される。
【0042】
[2.フローチャート]
エンジン制御装置20で実施される例御内容を図3のフローチャートに例示する。
ステップA10では、エンジン制御装置20に各種情報が読み込まれる。例えば、エンジン回転数センサー17で検出されたエンジン回転数の情報や、アクセル開度センサー18で検出されたアクセル操作量の情報は、このステップでエンジン制御装置20に入力される。
【0043】
続くステップA20では、エンジン回転数が所定値以下であるか否かが判定される。ここでは、上記の『排圧の放出条件』のうちの(1)が判定される。この条件の成立時にはステップA30に進み、不成立の場合にはステップA50に進む。
ステップA30では、アクセル操作量等に基づく指示燃料噴射量の単位時間当たりの増加量が所定量以上であるか否かが判定される。つまり、指示燃料噴射量の増加勾配に基づいて出力要求が判定される。ここでは、上記の『排圧の放出条件』のうちの(2)が判定される。この条件の成立時にはステップA40に進み、不成立時にはステップA50へ進む。
【0044】
ステップA40では、エンジン制御装置20から還流弁の制御信号が出力され、還流弁9の開度が開放される。これにより、アキュムレーター6内に蓄圧された排気圧がタービン15bの上流側に供給され、一時的にタービン15bの回転数が上昇する。したがって、コンプレッサー15aの回転数も上昇して過給圧が一時的に高められ、過給圧が増加する。
一方、ステップA50では、還流弁9が閉鎖状態に維持される。これにより、『排圧の放出条件』が成立しない限り、アキュムレーター6内に蓄えられた圧力のエネルギーが温存される。
【0045】
[3.作用]
[3−1.排圧の回収時]
アキュムレーター6の内圧(すなわちパイロット圧P)が所定圧PMAX未満のときには、三方弁3のボール弁体3bが図2(a)に示す位置に制御され、第二バイパス通路1bと蓄圧通路4とが連通した状態である。また、過給圧が比較的小さいエンジン10の通常運転時には、ウェストゲートバルブ2が閉鎖されている。
【0046】
ターボチャージャー15のタービン15bは、排気通路11の排気流量や排気圧に応じた回転数で回転し、コンプレッサー15aを駆動する。これにより、吸気通路12の過給圧はコンプレッサー15aの回転数が大きくなるほど上昇する。この過給圧は、コンプレッサー15aの下流側から過給圧通路14を通って、ウェストゲートアクチュエーター13に伝達される。
【0047】
過給圧が上昇するとウェストゲートバルブ2が開放され、排気通路11内の排気の一部が上流穴部11aからバイパス通路1を介してタービン15bの下流側へと流出する。これにより、タービン15b近傍の排気圧や排気流量が減少し、タービン15bの過回転が抑制される。つまり、コンプレッサー15aの回転の過上昇が抑えられることになり、過給圧が過剰に上昇してしまうような事態が防止される。
【0048】
一方、バイパス通路1を通る排気は、三方弁3を介して蓄圧通路4側へと流通し、逆止弁5を通過してアキュムレーター6の内部に導入される。蓄圧通路4内の排気は、逆止弁5によって三方弁3側への逆流が阻止される。また、還流通路8上の還流弁9は閉鎖状態に制御されているため、還流通路8側への流出も阻止される。
【0049】
したがって、蓄圧通路4内の排圧はもれなくアキュムレーター6内に蓄圧される。アキュムレーター6の内圧は、パイロット通路7を介して三方弁3のボール弁体3bに作用するが、その内圧が所定圧PMAX未満の状態では三方弁3での連通状態は変化せず、図2(a)に示すような状態が維持される。
【0050】
なお、アキュムレーター6の内圧が所定圧PMAX以上になる前にエンジン10の運転状態が変化して過給圧が低下した場合(例えば、エンジン回転数が低下した場合)には、ウェストゲートアクチュエーター13の作用によりウェストゲートバルブ2が閉鎖されるため、蓄圧されなくなる。しかし、三方弁3の連通状態は過給の実施状態に関わらず維持される。つまり、たとえ過給状態でなくても三方弁3の連通状態は維持されるため、再び過給圧が上昇してウェストゲートバルブ2が開放されたときには、蓄圧が再開される。
【0051】
[3−2.蓄圧の完了時]
アキュムレーター6内に排気が満充填されて内圧が所定圧PMAX以上になると、パイロット通路7を介して三方弁3に作用するパイロット圧Pによって三方弁3のボール弁体3bが図2(b)に示す位置に制御され、第二バイパス通路1bと第三バイパス通路1cとが連通した状態となる。つまり、蓄圧通路4側への排気の流れが遮断され、それ以上の蓄圧が禁止される。
【0052】
また、このときウェストゲートバルブ2が開放されると、排気通路11の上流穴部11aと下流穴部11bとが連通した状態となり、タービン15bの過回転が抑制される。したがって、アキュムレーター6の蓄圧状態によってウェストゲートバルブ2の排気バイパス機能が妨げられることはない。
【0053】
[3−3.排圧の再利用時]
例えば、エンジン10がアイドリング状態のときにアクセルペダルが急激に踏み込まれると、アクセル踏み込み量等に応じた加速要求の大きさがエンジン制御装置20の内部で演算され、その加速要求に応じたエンジン出力が得られるようにエンジン10の指示燃料噴射量が制御される。
【0054】
一方、アイドリング状態ではエンジン10の排気量が比較的少なく排気圧が低圧であるため、タービン15bの回転数の上昇速度が緩慢となり、一時的に過給圧が不足した状態となる。特に、エンジン回転数が低回転であるときに負荷が急増した場合(要求される過給圧が急上昇した場合)には、過給圧の不足量が大きくなり、筒内燃焼に係る酸素量が不足して黒煙が発生しやすくなるほか、十分なエンジン出力が確保しにくくなる。
【0055】
しかしながら、本エンジン制御装置20では、このような運転状態で『排圧の放出条件』が成立すると還流弁9が開放され、アキュムレーター6に蓄圧された排気圧がタービン15bの上流側に導入される。すなわち、エンジン回転数が予め設定された所定値未満の低回転状態であり、かつ、アクセル操作量等に基づく指示燃料噴射量の単位時間当たりの増加量が所定量以上となる加速状態であるときに、アキュムレーター6に蓄えられていた排気が再利用される。
【0056】
これにより、タービン15bの回転速度が瞬時に加速され、過給圧が上昇する。したがって、筒内燃焼に係る酸素量が十分に確保され、黒煙の発生が抑制されるとともにエンジン出力が上昇する。
【0057】
[4.効果]
(1)このように、上記の過給制御装置では、ウェストゲートバルブ2の開放時にバイパス通路1を流れる排気圧がアキュムレーター6に回収され、必要に応じてその排気圧をタービン15bの上流側に再び供給する制御が実施される。このような制御により、簡素な構成でエネルギーロスを減少させることができる。
【0058】
また、排気圧の再利用によりエンジン10の出力を高めることができる。特に、過給圧が比較的低圧である車両発進時や低速走行時に高出力が要求されたような場合に排気圧を再利用することで、車両の発進性,加速性を向上させることができる。また、過給圧を上昇させることで排ガス性能やエンジン出力を向上させることができる。
【0059】
さらに、従来はエネルギーが回収されずにバイパス通路1から廃棄されていた排気の圧力を利用して、ターボチャージャー15の回転をアシストする構造となっているため、従来の車両と比較してエネルギー効率を向上させることができ、燃費性能を向上させることができる。また、電動モーターを用いて過給アシストを実施するようなものと比較しても、装置構成を簡素化することができ、コストを削減しつつ十分な過給性能を維持することができる。
【0060】
(2)また、上記の過給制御装置は、バイパス通路1上に介装された三方弁3から蓄圧通路4を分岐形成した排気回路を備えている。これにより、バイパス通路1からアキュムレーター6に導入される排気の流通方向を容易に制御することができ、従来のウェストゲートバルブ2の機能を損なうことなく蓄圧機能を付加することができる。
【0061】
(3)また、上記の過給制御装置には、三方弁3での排気の流通方向を制御するためのパイロット圧Pとしてアキュムレーターの内圧を伝達するパイロット通路7が設けられている。これにより、アキュムレーター6の蓄圧状態に応じて三方弁3の連通先を変更することが可能となり、確実にアキュムレーター6の内圧を所定圧PMAXまで高めることができる。
【0062】
(4)また、蓄圧通路4上には逆止弁5が介装されているため、アキュムレーター6側から三方弁3側への排気の逆流を防止することができ、確実にアキュムレーター6に排気圧を蓄えることができる。
【0063】
なお、アキュムレーター6の内圧が所定圧PMAX以上になる前にウェストゲートバルブ2が閉鎖された場合であっても(つまり、蓄圧通路4側からの排気の流入が停止した場合であっても)、蓄圧通路4内の排気は、逆止弁5によって三方弁3側への逆流が阻止される。このように、アキュムレーター6への蓄圧は必ずしも一回の操作で完了させる必要はなく、複数回に分けて蓄圧することが可能である。
【0064】
(5)また、上記の過給制御装置では、アキュムレーター6に蓄えられた排気圧を再利用するための条件として『排圧の放出条件』が設定されている。この『排圧の放出条件』は、ターボチャージャー15による過給が不足しうる運転状態であるか否かを判断するための条件である。このように、過給が不足しうる運転状態で排気圧の再利用を許可することにより、出力要求に見合ったエンジン出力を確保することができる。
【0065】
特に、車両発進時のように、エンジン回転数が低回転の状態で出力要求が急増したときに蓄圧が再利用されるため、発進性や低速走行域での加速性を向上させることができ、ドライブフィーリングを高めることができるとともに、排ガスの改善や燃費の向上を図ることができる。
【0066】
[5.変形例]
上述の実施形態では、ターボチャージャー15のコンプレッサー15aよりも下流側の吸気通路12内の圧力(すなわち過給圧)に応じて、ウェストゲートバルブ2の開度を機械的に制御する排気回路を例示したが、具体的なウェストゲートバルブ2やウェストゲートアクチュエーター13等の構造はこれに限定されない。
【0067】
例えば、コンプレッサー15aの過給圧(下流圧)だけでなく上流圧も用いて、ウェストゲートアクチュエーター13がウェストゲートバルブ2の開度を制御する構成としてもよい。あるいは、電磁制御のウェストゲートアクチュエーター13やウェストゲートバルブ2を適用してもよい。少なくとも、排気にタービン15bを迂回させる経路上にバルブを介装した排気回路であって、そのバルブの開度が過給圧に応じて開閉制御されるものであれば、上記の過給制御装置を適用することが可能である。
【0068】
また、上述の実施形態では、バイパス通路1と蓄圧通路4との分岐点に三方弁3を介装した排気回路を例示したが、三方弁3の代わりに流量制御弁を用いてもよい。この場合、アキュムレーター6の内圧が高いほど第三バイパス通路1c側への排気流量を増大させ、アキュムレーター6の内圧が低いほど蓄圧通路4側への排気流量を増大させるように、流量制御弁の制御スプールを駆動させればよい。
【0069】
また、上述の実施形態における排気通路11の第二上流穴部11cは、タービン15bの上流側に設けられるものであるが、第二上流穴部11cの位置を工夫することでタービン回転の上昇効率を高めることも考えられる。すなわち、第二上流穴部11cから噴出する排気が直接的にタービン15bの動翼やベーンに当接する位置に第二上流穴部11cを設けてもよい。このような構成により、過給効率をさらに向上させることができる。
【0070】
なお、エンジン制御装置20で判定される『排圧の放出条件』は上述の実施形態のものに限定されない。例えば、吸気通路12のコンプレッサー13よりも下流側に設けられた圧力センサーの検出値に基づき、過給圧の不足が検出された場合に還流弁9を開放する制御構成としてもよい。あるいは、エンジン10の燃料噴射量の制御値が急増した場合に還流弁9を開放させてもよい。
【0071】
また、上述の実施形態では、排気圧を利用して過給を実施するターボチャージャー15の排圧を回収するものを例示したが、これに代えて、電動アシスト式のターボチャージャーや可変容量ターボチャージャー等の排圧を回収する構成としてもよい。少なくとも、吸気通路12に介装されたコンプレッサー15aと排気通路11に介装されたタービン15bとを有する過給機であれば、上述の過給制御装置を適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 バイパス通路
2 ウェストゲートバルブ
3 三方弁
4 蓄圧通路
5 逆止弁
6 アキュムレーター(蓄圧器)
7 パイロット通路
8 還流通路
9 還流弁
10 エンジン
11 排気通路
11a 上流穴部(上流側)
11b 下流穴部(下流側)
11c 第二上流穴部(上流側)
15 ターボチャージャー(過給機)
15a コンプレッサー
15b タービン
20 エンジン制御装置(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路に介装されたコンプレッサーと排気通路に介装されたタービンとを有する過給機の動作を制御する過給制御装置であって、
前記タービンよりも前記排気通路の上流側と下流側とを接続するバイパス通路と、
前記バイパス通路上に介装され、前記コンプレッサーの過給圧に応じて前記バイパス通路を開閉するウェストゲートバルブと、
前記ウェストゲートバルブよりも前記バイパス通路の下流側に接続され、排気圧を蓄圧する蓄圧器と、
前記蓄圧器と前記タービンの上流側とを接続する還流通路と、
前記還流通路上に介装され、出力要求に応じて前記蓄圧通路を開閉する還流弁と
を備えたことを特徴とする、内燃機関の過給制御装置。
【請求項2】
前記タービンよりも下流側の前記バイパス通路上に介装された三方弁と、
前記蓄圧器と前記三方弁との間を接続する蓄圧通路とを備え、
前記三方弁が、前記蓄圧器の内圧に応じて、前記タービンの上流側を前記蓄圧通路又は前記タービンの下流側の何れか一方に連通させる
ことを特徴とする、請求項1記載の内燃機関の過給制御装置。
【請求項3】
前記蓄圧器の内圧を前記三方弁に伝達するパイロット通路を備え、
前記三方弁が、前記パイロット通路から導入される前記内圧が所定圧以上であるときに、前記タービンの上流側を前記タービンの下流側に連通させるとともに、前記内圧が前記所定圧未満であるときに、前記タービンの上流側を前記蓄圧通路に連通させる
ことを特徴とする、請求項2記載の内燃機関の過給制御装置。
【請求項4】
前記蓄圧通路に介装された逆止弁を備えた
ことを特徴とする、請求項2又は3記載の内燃機関の過給制御装置。
【請求項5】
前記還流弁の開度を制御する制御手段を備え、
前記制御手段が、前記過給圧が所定圧未満でありかつ前記出力要求が所定量以上であるときに前記還流弁の開度を増大させるとともに、前記過給圧が所定圧以上であり又は前記出力要求が所定量未満であるときに前記還流弁の開度を減少させる
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の内燃機関の過給制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−53547(P2013−53547A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191728(P2011−191728)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】