説明

内燃機関制御装置

【課題】駆動部の不要な変動を抑制することのできる内燃機関制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関1は、オイルの圧力により駆動されるベーン53へのオイルの供給態様を制御するオイルコントロールバルブ33を有し、ハウジング51及びベーン53によって区画形成される各圧力室55、56へのオイルの供給態様をオイルコントロールバルブ33により制御することを通じて吸気バルブの開閉タイミングを可変とするバルブタイミング可変機構5と、バルブタイミング可変機構5に供給するオイルの圧力段を可変とする圧力段可変機構7と、を備える。電子制御装置8は、圧力段可変機構7によるオイルの圧力段の変更中にオイルコントロールバルブ33によって各圧力室55、56へのオイルの供給を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルの圧力により駆動される駆動部及び駆動部へのオイルの供給態様を制御する制御弁を有し、制御弁による駆動部へのオイルの供給態様の制御を通じて内燃機関の運転状態を可変とする運転状態可変機構と、運転状態可変機構に供給するオイルの圧力段を機関運転状態に応じて可変とする圧力段可変機構と、を備える内燃機関制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の内燃機関制御装置としては例えば特許文献1に記載のものがある。特許文献1に記載のものも含め、従来一般の内燃機関では、オイルポンプから供給されるオイルの圧力により駆動されて、機関バルブの開閉タイミングを可変とするバルブタイミング可変機構が設けられている。具体的には、バルブタイミング可変機構は、機関出力軸により回転駆動されるハウジングと、同ハウジングに収容されるベーンとを有しており、これらハウジングとベーンとによって圧力室が区画されている。そして、この圧力室に供給されるオイルの圧力を機関運転状態に応じて制御弁によって調整することにより、ハウジングとベーンとの相対回転位相が変更され、この相対回転位相の変更を通じて機関バルブの開閉タイミングがそのときどきの機関運転状態に適したタイミングに変更される。
【0003】
また従来、機関駆動式のオイルポンプから吐出されたオイルを機関の各部に供給するに先立ち調圧するリリーフ弁が周知である。こうしたリリーフ弁は、オイルポンプから供給されるオイルの圧力が所定のリリーフ圧以上となると開弁して余剰のオイルをオイルポンプの上流側にリリーフすることで、機関の各部に供給するオイルの圧力を調整する。
【0004】
また近年、機関運転状態に応じてリリーフ弁のリリーフ圧を段階的に変更することにより、機関の各部に供給するオイルの圧力段を可変とする圧力段可変機構が開発されるに至っている。こうした圧力段可変機構としては、例えば機関の各部に供給するオイルの圧力段を高圧段と低圧段との2段階で変更するものがある(例えば特許文献2参照)。こうした圧力段可変機構を備える内燃機関制御装置によれば、例えば機関の各部に供給するオイルの圧力をそれほど高くする必要のない低負荷低回転時においてはオイルの圧力段を低圧段とすることで、オイルポンプの駆動に伴い機関負荷が増大することを抑制することができる。また、機関の各部に供給するオイルの圧力をある程度高くする必要のある高負荷高回転時においてはオイルの圧力段を高圧段とすることで、オイルによる十分な潤滑や冷却等を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007―64022号公報
【特許文献2】特開2010―116890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したバルブタイミング可変機構と圧力段可変機構とを併せ備える内燃機関にあっては、以下の問題が生じるおそれがある。すなわち、圧力段可変機構によりオイルの圧力段を低圧段から高圧段に変更する際や高圧段から低圧段に変更する際には、圧力段可変機構によって調圧されたオイルの圧力が急激に上昇或いは低下するとともに、これに伴ってオイルの圧力に脈動が生じる。そのため、バルブタイミング可変機構の圧力室に圧力脈動の生じたオイルが供給されることにより、ベーンが不要に変動することとなる。その結果、ベーンがハウジングに衝突するといった問題や、機関バルブのバルブタイミングが不要に変動するといった問題が生じる。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、駆動部の不要な変動を抑制することのできる内燃機関制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、オイルの圧力により駆動される駆動部及び前記駆動部へのオイルの供給態様を制御する制御弁を有し、前記制御弁による前記駆動部へのオイルの供給態様の制御を通じて内燃機関の運転状態を可変とする運転状態可変機構と、前記運転状態可変機構に供給するオイルの圧力段を機関運転状態に応じて可変とする圧力段可変機構と、を備える内燃機関を制御する制御装置において、前記圧力段可変機構によるオイルの圧力段の変更中に前記駆動部へのオイルの供給を禁止する禁止手段を備えることをその要旨としている。
【0009】
同構成によれば、圧力段可変機構によるオイルの圧力段の変更中、すなわち圧力段可変機構によって調圧されたオイルの圧力が急激に変化することに伴いオイルの圧力脈動が生じる状態であるときには、禁止手段を通じて駆動部へのオイルの供給が禁止される。従って、圧力脈動の生じたオイルが駆動部に供給されることを抑制することができ、駆動部の不要な変動を抑制することができるようになる。
【0010】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関制御装置において、前記禁止手段は、前記運転状態可変機構へのオイルの供給態様を制御する制御弁であることをその要旨としている。
【0011】
同構成によれば、運転状態可変機構を構成する制御弁によって、圧力段可変機構によるオイルの圧力段の変更中に駆動部へのオイルの供給を禁止するようにしている。従って、駆動部へのオイルの供給を禁止する禁止手段を実現する上で新たな機械的構成の追加が不要となる。
【0012】
(3)請求項1又は請求項2に記載の発明は、請求項3に記載の発明によるように、前記駆動部は、機関出力軸により回転駆動されるハウジングと、同ハウジングに収容されるベーンとを有し、これらハウジングとベーンとによって区画される圧力室に供給されるオイルの圧力に応じてこれらハウジングとベーンとの相対回転位相が変更されるものであり、前記運転状態可変機構は、前記制御弁による前記圧力室へのオイルの供給態様の制御を通じて前記ハウジングに対する前記ベーンの相対回転位相を変更することにより機関バルブの開閉タイミングを可変とするバルブタイミング可変機構であるといった態様をもって具体化することができる。こうしたバルブタイミング可変機構を備える内燃機関に対して請求項1に記載の発明を適用すれば、オイルの圧力脈動に起因するベーンの不要な変動を抑制することができ、ベーンがハウジングに衝突するといった問題や、機関バルブのバルブタイミングが不要に変動するといった問題の発生を抑制することができるようになる。
【0013】
(4)圧力段可変機構が機関回転速度に応じてオイルの圧力段を変更する構成にあっては、例えば請求項4に記載の発明によるように、機関回転速度がオイルの圧力段の変更期間に対応する所定範囲内にあるときに駆動部へのオイルの供給を禁止するといった態様をもって具体化することが望ましい。この場合、機関回転速度が所定範囲内にあるときに、圧力段可変機構によるオイルの圧力段が変更されるとともに、禁止手段による駆動部へのオイルの供給が禁止されることとなる。従って、圧力段可変機構によりオイルの圧力段が変更されている期間を的確に把握することができ、禁止手段を通じて駆動部へのオイルの供給を禁止する期間を的確に設定することができるようになる。
【0014】
(5)請求項1〜請求項4に記載の発明は、請求項5に記載の発明によるように、前記圧力段可変機構は、機関駆動式のオイルポンプから供給されるオイルの圧力が所定のリリーフ圧以上となると開弁して余剰のオイルを前記オイルポンプの上流側にリリーフするリリーフ弁と、前記リリーフ弁のリリーフ圧を段階的に変更するリリーフ圧変更部とを有するといった態様をもって具体化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る内燃機関制御装置の一実施形態について、内燃機関におけるオイル供給システム及びバルブタイミング可変機構を中心とした概略構成を示す概略構成図。
【図2】同実施形態における機関回転速度と圧力段可変機構により調圧されたオイルの圧力との関係を示すグラフであって、機関回転速度の上昇時におけるオイルの圧力の推移を説明するためのグラフ。
【図3】同実施形態における機関回転速度と圧力段可変機構により調圧されたオイルの圧力との関係を示すグラフであって、機関回転速度の低下時におけるオイルの圧力の推移を説明するためのグラフ。
【図4】同実施形態におけるOCV制御の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜図3を参照して、本発明に係る内燃機関制御装置を車載内燃機関の制御装置として具体化した一実施形態について詳細に説明する。
図1に、本実施形態の内燃機関1におけるオイル供給システム及びバルブタイミング可変機構5を中心とした概略構成を示す。
【0017】
図1に示すように、内燃機関1には、オイルパン2の内部に貯留されているオイルを内燃機関1の各部に対して供給するための供給通路3が設けられている。供給通路3には、内燃機関1により駆動されてオイルを吸引・吐出するオイルポンプ4が設けられている。オイルポンプ4は、内燃機関1の運転に伴って駆動されることにより、供給通路3を通じてオイルパン2内のオイルを吸引するとともに、供給通路3の下流側に吐出することで、吸気バルブの開閉タイミングを可変とするバルブタイミング可変機構5に供給される。尚、ここでは図示を割愛するが、オイルポンプ4から吐出されるオイルは、オイルの圧力により駆動されるその他の各種駆動装置や、オイルによって潤滑すべき被潤滑部、オイルによって冷却すべき被冷却部等にも供給されるようになっている。
【0018】
バルブタイミング可変機構5は、円筒状のハウジング51と、同ハウジング51の内部において回転自在に収容されるベーン53とを備えている。これらハウジング51及びベーン53はそれぞれ図中に矢印Aにて示す回転方向Aに回転可能に設けられている。
【0019】
ハウジング51は機関出力軸であるクランクシャフトからの動力がタイミングベルト(図示略)を介して伝達される。また、ハウジング51の内周面には、断面略扇状をなす2つの凹部52が同ハウジング51の回転中心を挟んで互いに対向する態様にて形成されている。
【0020】
ベーン53は、吸気バルブを開閉駆動する吸気カムシャフトに連結されている。また、ベーン53には上記凹部52に収容される態様にて断面略扇状をなす2つの凸部54が同ベーン53の回転中心を挟んで180度間隔にて設けられている。
【0021】
また、ハウジング51の内部において、回転方向Aにおいてベーン53の凸部54の後側及び前側には、凹部52と凸部54とにより区画される2つの圧力室55,56(進角側圧力室55、遅角側圧力室56)がそれぞれ区画形成される。
【0022】
進角側圧力室55には、同圧力室55にオイルを供給する或いは同圧力室55からオイルを排出するための進角側オイル通路31が接続されている。また、遅角側圧力室56には、同圧力室56にオイルを供給或いは同圧力室55からオイルを排出するための遅角側オイル通路32が接続されている。進角側オイル通路31及び遅角側オイル通路32はそれぞれオイルコントロールバルブ(以下、OCV)33を介して供給通路3及び排出通路9に接続可能となっている。
【0023】
OCV33は電磁式の4ポート方向弁であり、電子制御装置8により制御される。そして、OCV33の開閉態様(進角モード、遅角モード、保持モード)を切り替えることにより各オイル通路31,32を通じてのオイルの供給態様或いは排出態様が切り替えられることで、各圧力室55,56におけるオイルの圧力が調節される。
【0024】
こうしたバルブタイミング可変機構5において、各圧力室55,56におけるオイルの圧力を変更することによりハウジング51とベーン53との相対回転位相が変更されることで、クランクシャフトと吸気カムシャフトとの相対回転位相が変更されて、吸気バルブの開閉タイミングが変更される。
【0025】
具体的には、OCV33の開閉モードを進角モードに設定すると、進角側圧力室55にオイルが供給される一方、遅角側圧力室56からオイルが排出されるようになり、ハウジング51に対してベーン53が回転方向Aに向けて相対的に回転することで、吸気バルブの開閉タイミングが進角するようになる。
【0026】
また、OCV33の開閉モードを遅角モードとすると、遅角側圧力室56にオイルが供給される一方、進角側圧力室55からオイルが排出されるようになり、ハウジング51に対してベーン53が回転方向Aとは反対の方向に向けて相対的に回転することで、吸気バルブの開閉タイミングが遅角するようになる。
【0027】
また、OCV33の開閉モードを保持モードとすると、供給通路3と各オイル通路31、32との連通が遮断されるとともに、排出通路9と各オイル通路31、32との連通が遮断されるようになり、ハウジング51に対してベーン53が相対的に回転停止することで、吸気バルブの開閉タイミングが保持されるようになる。
【0028】
また、供給通路3においてOCV33の上流側には、オイルポンプ4の下流側と上流側とを接続するリリーフ通路6が設けられている。リリーフ通路6には、内燃機関1の各部に対して供給するオイルの圧力段を高圧段と低圧段との2段階に変更する圧力段可変機構7が設けられている。圧力段可変機構7は、オイルポンプ4から供給されるオイルの圧力Pが所定のリリーフ圧力PR以上となると開弁して余剰のオイルをオイルポンプ4の上流側にリリーフするリリーフ弁71と、リリーフ弁71のリリーフ圧PRを第1のリリーフ圧PR1とこれよりも高い第2のリリーフ圧PR2との2段階に変更するリリーフ圧変更部72とを備えている。リリーフ圧変更部72は電子制御装置8により駆動制御される。
【0029】
電子制御装置8には、機関回転速度NEを検出する機関回転速度センサ81の出力信号や、吸入空気量GAを検出する吸入空気量センサ82の出力信号、アクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度ACCPを検出するアクセル開度センサ83が入力されている。更に、電子制御装置8には、オイルの温度THOを検出するオイル温度センサ84の出力信号等の各種センサからの出力信号が入力されている。
【0030】
電子制御装置8は、これら各種のセンサの出力信号に基づいて機関運転状態を把握するとともに、機関運転状態に応じてバルブタイミング可変機構5や圧力段可変機構7(リリーフ圧変更部72)を含む内燃機関1の制御を実行する。
【0031】
バルブタイミング可変機構5により吸気バルブの開閉タイミングを変更する制御(以下、バルブタイミング制御)では、各圧力室55、56に供給されるオイルの圧力を機関運転状態に応じてOCV33によって調整することにより、吸気バルブの開閉タイミングがそのときどきの機関運転状態に適したタイミングに変更される。
【0032】
次に、圧力段可変機構7によりオイルの圧力段を変更する制御(以下、圧力段制御)について説明する。本実施形態の圧力段制御では、機関回転速度NEに応じてオイルの圧力段を変更する。具体的には、機関回転速度NEの上昇時において、機関回転速度NEが第1の回転速度N1以上となると、リリーフ圧変更部72によってリリーフ弁71のリリーフ圧PRが第1のリリーフ圧PR1から同リリーフ圧PR1よりも大きい第2のリリーフ圧PR2(>PR1)に変更される。また、機関回転速度NEの低下時において、第1の回転速度N1以下となると、リリーフ圧変更部72によってリリーフ弁71のリリーフ圧PRが第2のリリーフ圧PR2から第1のリリーフ圧PR1に変更される。
【0033】
ここで、図2を参照して、機関回転速度NEの上昇時における圧力段可変機構7により調圧されたオイルの圧力Pの推移について説明する。
図2に示すように、機関回転速度NEが「0」から第1の回転速度N1までの範囲においては、リリーフ弁71のリリーフ圧PRが第1のリリーフ圧PR1に設定される。このため、機関回転速度NEが上昇して「N0」(0<N0<N1)以上となり、リリーフ弁71に作用するオイルの圧力が第1のリリーフ圧PR1以上となると、リリーフ弁71が開弁する。これにより、余剰のオイルがリリーフされるようになるため、オイルの圧力Pは低圧段に対応した大きさとなる。また、機関回転速度NEの上昇に対するオイルの圧力Pの上昇度合は、「0」から「N0」までの範囲に比べて小さくなる。
【0034】
機関回転速度NEが更に上昇して第1の回転速度N1以上となると、リリーフ弁71のリリーフ圧PRがそれまでの第1のリリーフ圧PR1からそれよりも大きい第2のリリーフ圧PR2に変更される。このため、それまで行なわれていたリリーフ弁71によるオイルのリリーフが行なわれなくなることで、オイルの圧力Pは急激に上昇するようになる。
【0035】
そして、機関回転速度NEが更に上昇して第2の回転速度N2以上となり、リリーフ弁71に作用するオイルの圧力が第2のリリーフ圧PR2以上となると、リリーフ弁71が再び開弁する。これにより、余剰のオイルがリリーフされるようになるため、オイルの圧力Pは高圧段に対応した大きさとなる。また、機関回転速度NEの上昇に対するオイルの圧力Pの上昇度合は、第1の回転速度N1から第2の回転速度N2までの範囲に比べて小さくなる。
【0036】
次に、図3を参照して、機関回転速度NEの低下時における圧力段可変機構7により調圧されたオイルの圧力Pの推移について説明する。
図3に示すように、機関回転速度NEの低下時に、機関回転速度NEが第1の回転速度N1以下となると、リリーフ弁71のリリーフ圧PRがそれまでの第2のリリーフ圧PR2から第1のリリーフ圧PR1に変更される。このため、機関回転速度NEが第1の回転速度N1以上の範囲に比べて多くのオイルがリリーフされるようになることで、オイルの圧力Pは急激に低下するようになる。
【0037】
そして、機関回転速度NEが更に低下して第3の回転速度N3以下となると、オイルの圧力Pは低圧段に対応した大きさとなる。
こうした圧力段制御を行なうことにより、例えば内燃機関1の各部に供給するオイルの圧力をそれほど高くする必要のない低回転時においてはオイルの圧力段を低圧段とすることで、オイルポンプ4の駆動に伴う機関負荷の増大が抑制されるようになる。また、内燃機関1の各部に供給するオイルの圧力をある程度高くする必要のある高回転時においてはオイルの圧力段を高圧段とすることで、オイルによる十分な潤滑や冷却等が図られるようになる。
【0038】
ところで、本実施形態の内燃機関1は、バルブタイミング可変機構5と圧力段可変機構7とを併せ備えていることから、以下の問題が生じるおそれがある。すなわち、圧力段可変機構7によりオイルの圧力段を低圧段から高圧段に変更する際、より詳細には、先の図2の例において、機関回転速度NEが第1の回転速度N1から第2の回転速度N2までの範囲内にあるときには、圧力段可変機構7によって調圧されたオイルの圧力Pが急激に上昇するとともに、これに伴ってオイルの圧力に脈動が生じる。また、圧力段可変機構7によりオイルの圧力段を高圧段から低圧段に変更する際、より詳細には、先の図3の例において、機関回転速度NEが第1の回転速度N1から第3の回転速度N3までの範囲内にあるときには、圧力段可変機構7によって調圧されたオイルの圧力Pが急激に低下するとともに、これに伴ってオイルの圧力に脈動が生じる。そのため、バルブタイミング可変機構5の圧力室55、56に圧力脈動の生じたオイルが供給されることにより、ベーン53が不要に変動することとなる。その結果、ベーン53がハウジング51に衝突するといった問題や、吸気バルブのバルブタイミングが不要に変動するといった問題が生じる。
【0039】
そこで、本実施形態では、以下に説明するOCV制御を実行することにより、圧力脈動の生じたオイルが各圧力室55、56に供給されることを抑制して、ベーン53の不要な変動の抑制を図るようにしている。
【0040】
次に、図4を参照して、本実施形態におけるOCV制御について説明する。尚、図4は、OCV制御の処理手順を示すためのフローチャートである。尚、このフローチャートに示される一連の処理は、機関運転中に所定期間毎に繰り返し実行される。
【0041】
図4に示すように、この一連の処理では、まず、ステップS1の処理として、圧力段可変機構7によるオイルの圧力段の変更中であるか否かを判断する。具体的には、機関回転速度NEがオイルの圧力段の変更期間に対応する所定範囲内にあるか否かを判断する。ここで、機関回転速度NEの上昇時においては、上記所定範囲を第1の回転速度N1と第2の回転速度N2とに基づいて設定している。また、機関回転速度NEの低下時においては、上記所定範囲を第1の回転速度N1と第3の回転速度N3とに基づいて設定している。より詳細には、機関回転速度NEの上昇時においては、上記所定範囲を第1の回転速度N1から第2の回転速度N2までの範囲としている。また、機関回転速度NEの低下時においては、上記所定範囲を第3の回転速度N3から第1の回転速度N1までの範囲としている。
【0042】
上記ステップS1において、オイルの圧力段の変更中ではない場合(ステップS1:「NO」)には、本制御の実行タイミングではないとして、この一連の処理を一旦終了する。
【0043】
一方、オイルの圧力段の変更中である場合(ステップS1:「YES」)には、各圧力室55、56に向けて供給されるオイルの圧力が急激に変化することに伴いオイルの圧力脈動が生じる状態であるとして、これら圧力室55、56へのオイルの供給を禁止すべく、次に、ステップS2に進んで、OCV33の開閉モードを保持モードに設定して、この一連の処理を一旦終了する。
【0044】
尚、本実施形態におけるハウジング51及びベーン53によって区画形成される各圧力室55、56が本発明に係る駆動部に相当する。また、バルブタイミング可変機構5が本発明に係る運転状態可変機構に相当する。また、OCV33が本発明に係る制御弁に相当する。
【0045】
以上説明した本実施形態に係る内燃機関制御装置によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、圧力段可変機構7によるオイルの圧力段の変更中にOCV33によって各圧力室55、56へのオイルの供給を禁止するようにした。これにより、圧力段可変機構7によるオイルの圧力段の変更中、すなわち進角側圧力室55或いは遅角側圧力室56に向けて供給されるオイルの圧力が急激に変化することに伴いオイルの圧力脈動が生じる状態であるときには、これら圧力室55、56へのオイルの供給が禁止される。従って、圧力脈動の生じたオイルが各圧力室55、56に供給されることを抑制することができ、ベーン53の不要な変動を抑制することができるようになる。その結果、ベーン53がハウジング51に衝突するといった問題や、吸気バルブのバルブタイミングが不要に変動するといった問題の発生を抑制することができるようになる。
【0046】
(2)本実施形態では、バルブタイミング可変機構5を構成するOCV33によって、圧力段可変機構7によるオイルの圧力段の変更中に各圧力室55、56へのオイルの供給を禁止するようにしている。従って、各圧力室55、56へのオイルの供給を禁止する構成を実現する上で新たな機械的構成の追加が不要となる。
【0047】
(3)本実施形態では、圧力段可変機構7を機関回転速度NEに応じてオイルの圧力段を変更するものとした。また、機関回転速度NEがオイルの圧力段の変更期間に対応する所定範囲内にあるときに各圧力室55、56へのオイルの供給を禁止するようにした。これにより、機関回転速度NEが上記所定範囲内にあるときに、圧力段可変機構7によるオイルの圧力段が変更されるとともに、オイルコントロールバルブ33による各圧力室55、56へのオイルの供給が禁止されることとなる。従って、圧力段可変機構7によりオイルの圧力段が変更されている期間を的確に把握することができ、オイルコントロールバルブ33を通じて各圧力室55、56へのオイルの供給を禁止する期間を的確に設定することができるようになる。
【0048】
尚、本発明にかかる内燃機関制御装置は、上記実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、これを適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
・上記実施形態のOCV制御では、OCV33の開閉モードを保持モードに設定するための条件となる所定範囲(以下、保持モード設定範囲)を、機関回転速度NEの上昇時においては、第1の回転速度N1から第2の回転速度N2までの範囲(N1〜N2)とした。また、機関回転速度NEの低下時においては、第3の回転速度N3から第1の回転速度N1までの範囲(N3〜N1)とした。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。すなわち、作動指令が出力されてからOCV33が実際に保持モードとなるまでには所定の時間遅れが存在することや、機関回転速度NEが上記所定範囲外となった後においてもしばらくの間はオイルの圧力脈動の影響が残存するおそれがあることを考慮することにより、保持モード設定範囲を、上記実施形態にて例示した範囲よりもある程度大きく設定するようにしてもよい。
【0049】
・上記実施形態の圧力段制御では、機関回転速度NEの上昇時及び低下時の双方で、機関回転速度NEが第1の回転速度N1以上となる、或いは第1の回転速度N1以下となることをもってオイルの圧力段を低圧段から高圧段へと変更する、或いは高圧段から低圧段へと変更するようにした。しかしながら、本発明はこれに限られるものではなく、他に例えば、機関回転速度NEの上昇時には上記実施形態と同様に第1の回転速度N1を採用する一方、機関回転速度NEの低下時には第1の回転速度N1よりも小さい所定の回転速度NX以下となることをもってオイルの圧力段を高圧段から低圧段に変更するようにしてもよい。尚、この場合には、所定の回転速度NXに基づいてOCV制御における機関回転速度NEの所定範囲を適宜設定するようにすればよい。
【0050】
・オイルの圧力Pの急激な上昇や低下の態様は、オイルの温度THOによっても大きく変化することから、オイル温度センサ84からの出力信号から把握されるオイルの温度THOに基づいて、OCV制御におけるOCV制御における機関回転速度NEの所定範囲を可変設定するようにしてもよい。
【0051】
・上記実施形態及びその変形例では、リリーフ弁71及びリリーフ圧変更部72を有する圧力段可変機構7について例示したが、圧力段可変機構の構成はこれに限られるものではなく、他に例えば、吐出するオイルの圧力段を可変とするオイルポンプを採用することにより圧力段可変機構を具現化するようにしてもよい。
【0052】
・上記実施形態及びその変形例では、圧力段可変機構を機関回転速度NEに応じてオイルの圧力段を変更するものとし、機関回転速度NEがオイルの圧力段の変更期間に対応する所定範囲内にあるときに各圧力室55、56へのオイルの供給を禁止するようにした。しかしながら、圧力段可変機構が機関負荷に応じてオイルの圧力段を変更する構成にあっては、機関負荷がオイルの圧力段の変更期間に対応する所定範囲内にあるときに各圧力室55、56へのオイルの供給を禁止するものとすればよい。
【0053】
・上記実施形態では、吸気バルブの開閉タイミングを可変とするバルブタイミング可変機構5について例示したが、バルブタイミング可変機構の構成はこれに限られるものではなく、他に例えば、排気バルブの開閉タイミングを可変とするものとしてもよい。また、吸気バルブの開閉タイミングを可変とするバルブタイミング可変機構と、排気バルブのバルブタイミングを可変とするバルブタイミング可変機構とを併せ備えるものとしてもよい。
【0054】
・上記実施形態及びその変形例では、運転状態可変機構を、機関バルブのバルブタイミングを可変とするバルブタイミング可変機構として具現化したが、本発明に係る運転状態可変機構はこれに限られるものではない。要するに、オイルの圧力により駆動される駆動部及び駆動部へのオイルの供給態様を制御する制御弁を有し、制御弁による駆動部へのオイルの供給態様の制御を通じて内燃機関の運転状態を可変とするものであればよい。
【0055】
・上記実施形態及びその変形例では、バルブタイミング可変機構を構成するOCV33(制御弁)によって、圧力段可変機構によるオイルの圧力段の変更中に各圧力室(駆動部)へのオイルの供給を禁止する禁止手段を具現化した。しかしながら、本発明はこれに限られるものではなく、制御弁とは別に駆動部へのオイルの供給を禁止する弁を設けるようにすることもできる。
【符号の説明】
【0056】
1…内燃機関、2…オイルパン、3…供給通路、31…進角側オイル通路、32…遅角側オイル通路、33…オイルコントロールバルブ(OCV)、4…オイルポンプ、5…バルブタイミング可変機構、51…ハウジング、52…凹部、53…ベーン、54…凸部、55…進角側圧力室、56…遅角側圧力室、6…リリーフ通路、7…圧力段変更機構、71…リリーフ弁、72…リリーフ圧変更部、8…電子制御装置、81…機関回転速度センサ、82…吸入空気量センサ、83…アクセル開度センサ、84…オイル温度センサ、9…排出通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルの圧力により駆動される駆動部及び前記駆動部へのオイルの供給態様を制御する制御弁を有し、前記制御弁による前記駆動部へのオイルの供給態様の制御を通じて内燃機関の運転状態を可変とする運転状態可変機構と、前記運転状態可変機構に供給するオイルの圧力段を機関運転状態に応じて可変とする圧力段可変機構と、を備える内燃機関を制御する制御装置において、
前記圧力段可変機構によるオイルの圧力段の変更中に前記駆動部へのオイルの供給を禁止する禁止手段を備える
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関制御装置において、
前記禁止手段は、前記運転状態可変機構へのオイルの供給態様を制御する制御弁である
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関制御装置において、
前記駆動部は、機関出力軸により回転駆動されるハウジングと、同ハウジングに収容されるベーンとを有し、これらハウジングとベーンとによって区画される圧力室に供給されるオイルの圧力に応じてこれらハウジングとベーンとの相対回転位相が変更されるものであり、
前記運転状態可変機構は、前記制御弁による前記圧力室へのオイルの供給態様の制御を通じて前記ハウジングに対する前記ベーンの相対回転位相を変更することにより機関バルブの開閉タイミングを可変とするバルブタイミング可変機構である
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の内燃機関制御装置において、
前記圧力段可変機構は機関回転速度に応じてオイルの圧力段を変更するものであり、
前記禁止手段は機関回転速度がオイルの圧力段の変更期間に対応する所定範囲内にあるときに前記駆動部へのオイルの供給を禁止する
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関制御装置において、
前記圧力段可変機構は、機関駆動式のオイルポンプから供給されるオイルの圧力が所定のリリーフ圧以上となると開弁して余剰のオイルを前記オイルポンプの上流側にリリーフするリリーフ弁と、前記リリーフ弁のリリーフ圧を段階的に変更するリリーフ圧変更部とを有する
ことを特徴とする内燃機関制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−62789(P2012−62789A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205750(P2010−205750)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】