説明

内装品の製造方法

【課題】発泡射出成形法を利用して、意匠表面の意匠性を高く確保しつつ局部的に発泡倍率を高める。
【解決手段】貫通部23を有する硬質の芯材2を形成し、貫通部23を塞いだ状態で芯材2をキャビティ内に配置し、芯材の表面側に発泡剤を含む軟質樹脂からなる成形材料を射出して積層し、貫通部23を閉じた状態を開くことで成形材料を貫通部23を介して膨出させる。軟質樹脂層3の表面にパーティングラインが形成されることがなく、貫通部23に対向する部位の発泡倍率が高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質の芯材の表面に軟質樹脂層が積層された内装品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装品は、硬質樹脂製の芯材と芯材表面に形成された軟質樹脂層との二層構造、あるいは芯材と軟質の表皮層との間に発泡体層を介在させた三層構造の成形品から形成されている。三層構造の内装品は、発泡体層によって柔らかな触感が得られるため、アームレスト、インストルメントパネル、ドアトリムなどに広く用いられている。しかし三層構造の内装品は高価であるため、安価な二層構造の内装品が用いられる場合も多い。
【0003】
一方、発泡剤を含有する樹脂を金型内へ射出し、金型内で発泡させる発泡射出成形法が知られている。例えば特開昭58−078733号公報、特開平07−052186号公報、特開平10−052835号公報、特開平08−300391号公報、特開2003−326539号公報には、発泡剤を含有する樹脂を金型内へ射出した直後に一方の型を後退させてキャビティを拡張し、拡張したキャビティ内で発泡させることで発泡倍率を上昇させることが記載されている。この技術を利用して二層構造の内装品における軟質樹脂層を形成すれば、型面と接触する部位に形成されるスキン層で意匠性を確保できるとともに、軟質樹脂層の軟質度を高めることができ、コストの増大を僅かとして、二層構造の内装品に高級感を付与することができる。
【特許文献1】特開昭58−078733号公報
【特許文献2】特開平07−052186号公報
【特許文献3】特開平10−052835号公報
【特許文献4】特開平08−300391号公報
【特許文献5】特開2003−326539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが従来の発泡射出成形法において、一方の型を後退させてキャビティを拡張するのみでは、成形品全体の発泡倍率が上昇するため特定の部位のみを軟質とすることは困難である。この問題を解決するために、特許文献1、3にはスライドコアを後退することで局部的に発泡倍率を高める方法が記載されている。しかしスライドコアなどによってキャビティを局部的に拡張した場合には、成形品の意匠表面にパーティングラインが形成され、意匠性が悪化するという不具合があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、発泡射出成形法を利用して、意匠表面の意匠性を高く確保しつつ局部的に発泡倍率を高めることを可能とすることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の内装品の製造方法の特徴は、硬質の芯材と、芯材の表面に積層された軟質樹脂層と、よりなる内装品の製造方法であって、少なくとも貫通部を有する硬質の芯材を形成し、
貫通部を塞いだ状態で芯材をキャビティ内に配置し、芯材の表面側のキャビティに発泡剤を含む軟質樹脂からなる成形材料を射出して芯材の表面に積層し、
貫通部を塞いだ状態を開くことで、芯材の表面側に積層された成形材料を貫通部を介して芯材の裏面から膨出させ、芯材の表面側に積層された成形材料の貫通部に対向する部位における発泡倍率を高めることにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明の内装品の製造方法によれば、軟質樹脂層は貫通部に対向する部位の発泡倍率が高く、軟質の触感を有する。また軟質樹脂層の表面は型面によって冷却されることでスキン層が形成され、さらにスキン層には型面が転写されることで意匠表面が形成される。したがって得られた内装品は、軟質の触感と意匠性とを併せもつ。
【0008】
さらに本発明では、成形材料が貫通部を介して意匠表面と反対側へ膨出することで、芯材の表面側に積層された成形材料の貫通部に対向する部位における発泡倍率が高まる。したがって意匠表面に必要以上にパーティングラインが形成されることがないので、高い意匠性が発現される。そして貫通部の個数、開口面積、あるいはキャビティ拡張のタイミングなどを調整することで、発泡倍率自体を調整でき、あるいは発泡倍率が高まる部位の位置を自在に調整でき、軟質樹脂層の触感を自由に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の製造方法で製造される内装品は、硬質の芯材と、芯材の表面に積層された軟質樹脂層と、よりなる。芯材は種々の形状とすることができるが、例えば板状の場合には、内装品としてはアームレスト、ドアトリム、インストルメントパネル、コンソールリッド、ピラーガーニッシュ、グラブドアなどが例示される。また芯材を筒状とすることもでき、この場合の内装品としては、アシストグリップなどがある。
【0010】
芯材の材質は硬質であれば特に制限されず、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂などの硬質樹脂、木材、金属などを用いることができる。また軟質樹脂層の材質は、発泡射出成形法で成形可能な軟質樹脂であれば特に制限されず、公知の熱可塑性エラストマなどを用いることができる。
【0011】
本発明の製造方法では、先ず、貫通部を有する硬質の芯材が形成される。貫通部は、貫通孔あるいは切り欠き溝などとすることができる。貫通部の数及び開口の面積は、用途や目的に応じて適宜決定される。貫通部の開口径は、少なくとも2mm以上とすることが望ましい。径が2mmに満たない場合は、貫通部を介しての成形材料の膨出が困難となり、貫通部に対向する部位の発泡倍率を高めることが困難となる場合がある。
【0012】
この芯材は、貫通部を塞いだ状態でキャビティ内に配置される。そして芯材の表面に発泡剤を含む軟質樹脂からなる成形材料を射出して積層し、貫通部を塞いだ状態を開くことで成形材料を貫通部を介して膨出させる。
【0013】
芯材が板状である場合には、貫通部を可動型の型面あるいはスライドコアで塞ぐことができる。そして芯材の表面に発泡剤を含む軟質樹脂からなる成形材料を射出して積層し、可動型あるいはスライドコアを後退させることで貫通部を塞いだ状態を開く。すると芯材裏面側に空間が形成されるため、成形材料は貫通部から芯材の裏面側に膨出する。これにより貫通部に対向する部位における成形材料の発泡倍率が高まり、その部位の軟質度が向上する。さらに、貫通部から芯材の裏面側に膨出した膨出部によって芯材と軟質樹脂層とを物理的に結合することが可能となるので、芯材と軟質樹脂層との材料の選択の自由度が向上する。
【0014】
また芯材が筒状である場合には、貫通部は芯材の外周表面から中心孔に貫通する貫通孔であり、中心孔に表出する貫通孔は中心孔に挿入された中子で塞がれる。そして中子を中心孔から抜くように後退させることで貫通孔を塞いだ状態が開かれ、成形材料は芯材の貫通孔から中心孔内へ膨出する。これにより貫通孔に対向する部位における成形材料の発泡倍率が高まり、その部位の軟質度が向上する。
【0015】
ここで、可動型あるいはスライドコアあるいは中子によって貫通部を閉じた状態を開く速度が大きすぎると、キャビティ内の圧力が負圧になり、発泡セルが破裂して潰れる場合がある。そこで貫通部を閉じた状態を開く速度と発泡によるガス圧の増大とに鑑みて、キャビティ内の圧力を負圧にならないように制御することが望ましい。
【0016】
なお可動型あるいはスライドコアあるいは中子によって貫通部を閉じた状態を開く場合、複数の貫通部の全てを同時に開いてもよいし、複数の貫通部を開くのに所定の順序を設けてもよい。発泡剤の発泡と成形材料の固化との関係から、開く順に発泡倍率を異ならせることができ、発泡倍率を各貫通部に対応する部位毎に異ならせることができる。
【0017】
また成形材料中に含まれる発泡剤としては、成形時にガス化するものが用いられ、低沸点溶剤、アゾジカルボンアミドなどのアゾ化合物、オキシビススルホニルヒドラジドなどのスルホヒドラジド化合物、炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、テレフタルアジドなどのアジド化合物、N,N−ジニトロソペンタメチレンテトラミンなどのニトロソ化合物、あるいは超臨界液体など公知の発泡剤を用いることができる。発泡剤の最適な含有量は種類によって異なるが、一般には成形材料中に0.5〜5質量%の範囲が好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0019】
(実施例1)
本実施例は、図1〜3に示すドア用アシストグリップ1の製造に本発明を適用している。このアシストグリップ1はポリプロピレンから射出成形によって形成され図4に斜視図を示す筒状の芯材2と、芯材2の外周表面に発泡射出成形法によって形成された筒状の軟質樹脂層3とから構成されている。芯材2は、円筒形状の筒部20と、筒部20の両端に形成されたフランジ部21とからなり、筒部20は中心孔22を有している。また筒部20には、外周表面と内周表面とを貫通する複数の貫通孔23が形成されている。そして軟質樹脂層3は、筒部20の外周全面に被覆され、貫通孔23内を充填するとともに、それぞれの貫通孔23から中心孔22内に膨出した複数の膨出部30を有している。
【0020】
本実施例の製造方法では、先ず図5に示すように、一対の金型40、41と中子42とを用い、図示しない経路から樹脂を充填して芯材2を射出形成する。型開き後に中子42が中心孔22に挿入された状態で芯材2を脱型し、図6に示すように芯材2と中子42を別の金型43、44に配置し、さらに押さえ板45を組み付ける。芯材2の周囲には、貫通孔23と連通するキャビティ100が形成されている。また金型43、44のキャビティ100に対向する型面には、図示されないシボ模様が形成されている。
【0021】
次いで、ポリエステル系熱可塑性エラストマに発泡剤として無機系発泡剤を5質量%含む成形材料を図示しない経路を通じてキャビティ100に射出し、キャビティ100と貫通孔23が成形材料で充填された直後に押さえ板45を除去するとともに、図7に示すように中子42を中心孔22から抜く。この時、中心孔22の内圧が負圧とならないように、中子42の抜き速度を調整する。するとキャビティ 100及び貫通孔23を充填した成形材料は、主として発泡圧力によって貫通孔23から中心孔22内へ膨出し、膨出部30が形成される。
【0022】
こうして得られたアシストグリップ1では、膨出部30及び軟質樹脂層3の膨出部30と反対側の部位の発泡倍率が高くなり、柔らかな触感が得られる。また軟質樹脂層3の表面には、スキン層が形成されるとともに型面のシボ模様が転写され、一対の金型40、41によるパーティングライン以外の余分なパーティングラインが形成されることもないので、意匠性に優れている。
【0023】
なお本実施例では一個の中子42を一方のみに移動させたが、二個の中子を両側から中心孔22に挿入し、互いに離れる方向へ抜くこともできる。このようにすれば、筒部20の中央部ほど発泡倍率が高くなるように設定するのが容易となり、触感がより向上する場合がある。
【0024】
(実施例2)
図8〜図10に本実施例の製造方法を示す。本実施例は、インストルメントパネルあるいはドアトリムなどの製造に本発明を適用している。
【0025】
先ず図8に示すように、図示しない経路を通じてポリプロピレンを充填して上型60と下型61とで板状の芯材7を射出成形する。芯材7には、表裏を貫通する複数の貫通孔70と切り欠き71が形成されている。次に芯材7を下型61の型面に残した状態で、上型60を別の上型62に交換する。上型62の型面と芯材7との間には、板状のキャビティ200が形成されている。また上型62の型面には、シボ模様が形成されている。
【0026】
そして実施例1と同様の成形材料を図示しない経路を通じてキャビティ200に射出し、キャビティ200が充填された直後に下型61を下方へ移動させ、貫通孔70及び切り欠き71を介してキャビティ200を芯材7の裏面側に拡張する。するとキャビティ200を充填した成形材料は、主として発泡圧力によって貫通孔70及び切り欠き71から裏面側へ膨出する。芯材7の裏面側は大気と連通しているので、負圧によって発泡セルが破裂することもない。
【0027】
こうして得られた成形品では、芯材7の表面側に軟質樹脂層8が形成され、裏面側には膨出部80、81が形成されている。また膨出部80、81及び軟質樹脂層8の膨出部80、81と反対側の部位の発泡倍率が高くなり、柔らかな触感が得られる。そして軟質樹脂層8の表面には、スキン層が形成されるとともに上型62の型面のシボ模様が転写され、パーティングラインが形成されることもないので、意匠性に優れている。さらに、膨出部80、81の径は貫通孔70の径より大きいので、軟質樹脂層8と芯材7との剥離が物理的に防止されている。なお切り欠き71によって形成された膨出部81は一部がバリとなるが、はみ出し部を切除すればよい。なお図10において下型61を下方へ移動させる際、成形品が下方へ落下しないよう図示しない機構により芯材7が上型62に保持されている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例に係る製造方法で製造されたアシストグリップをもつ自動車ドアの正面図である。
【図2】本発明の一実施例に係る製造方法で製造されたアシストグリップの斜視図である。
【図3】本発明の一実施例に係る製造方法で製造されたアシストグリップの断面図である。
【図4】本発明の一実施例に係る製造方法で製造されたアシストグリップの芯材の斜視図である。
【図5】本発明の一実施例に係る製造方法において、芯材を成形する金型の断面図である。
【図6】本発明の一実施例に係る製造方法において、軟質樹脂層を成形する金型の断面図である。
【図7】本発明の一実施例に係る製造方法において、軟質樹脂層を成形している状態を示す金型の断面図である。
【図8】本発明の第2の実施例に係る製造方法において、芯材を成形した金型の断面図である。
【図9】本発明の第2の実施例に係る製造方法において、軟質樹脂層を成形する金型の断面図である。
【図10】本発明の第2の実施例に係る製造方法において、軟質樹脂層を成形している状態を示す金型の断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1:アシストグリップ 2:芯材 3:軟質樹脂層
22:中心孔 23:貫通孔(貫通部)
30:膨出部 42:中子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質の芯材と、該芯材の表面に積層された軟質樹脂層と、よりなる内装品の製造方法であって、
少なくとも貫通部を有する硬質の芯材を形成し、
該貫通部を塞いだ状態で該芯材をキャビティ内に配置し、該芯材の表面側のキャビティに発泡剤を含む軟質樹脂からなる成形材料を射出して該芯材の表面に積層し、
該貫通部を塞いだ状態を開くことで、該芯材の表面側に積層された該成形材料を該貫通部を介して該芯材の裏面から膨出させ、該芯材の表面側に積層された該成形材料の該貫通部に対向する部位における発泡倍率を高めることを特徴とする内装品の製造方法。
【請求項2】
前記貫通部を塞いだ状態を開く速度を制御することでキャビティ内の圧力を負圧にならないように制御する請求項1に記載の内装品の製造方法。
【請求項3】
前記芯材は板状をなし、前記貫通部は前記芯材の表裏を貫通する貫通孔又は切り欠きであり、前記芯材の裏面側の型面を後退させることで前記貫通部を塞いだ状態を開く請求項1又は請求項2に記載の内装品の製造方法。
【請求項4】
前記芯材は中心孔をもつ筒形状をなし、前記貫通部は前記芯材の前記表面側である外周表面から該中心孔に貫通する貫通孔であり、該中心孔に挿入された中子を該中心孔から抜くことで前記貫通部を塞いだ状態を開く請求項1又は請求項2に記載の内装品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−36347(P2010−36347A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198126(P2008−198126)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000219668)東海化成工業株式会社 (39)
【Fターム(参考)】