説明

円筒ワーク内面検査装置

【課題】本発明は、簡単な制御機構を用いるだけで、ボアの内径の変化に対応させることができる円筒ワーク内面検査装置を提供することを課題とする。
【解決手段】筒状の支持体29と、この支持体に基部が支持され支持体から延びていて途中が支持体の中心軸から離れるように曲げられている傾斜部32とされ先端に円筒ワークの内面を検査するセンサー24、24、24が設けられ弾性変形可能な複数個の撓み部材23、23、23と、これらの撓み部材23、23、23の外側に且つ支持体の中心軸に平行に移動可能に配置され傾斜部32に接触することで撓み部材23の先端を前記支持体の中心軸側へ撓ませる撓ませ機構20を用いた。撓み部材23を撓ませ機構20で支持体29の中心線に向かって撓ませることで、円筒ワークの内径の変化に対応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒ワークの内面を検査する円筒ワーク内面検査装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダは、内面が粗いとピストンリングの摩耗が激しくなる。そこで、シリンダの内面の粗さを検査し、得られた粗さが所定の基準を満たしているか否かを調べることが必要となる。
【0003】
上記の要求に応える装置として、シリンダブロックのボアの粗残り検査装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平5−346320号公報(図1)
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図9は従来の技術の基本構成を説明する図であり、(a)に示すように、シリンダブロックのボアの粗残り検査装置100は、光学ユニット101と撮像器102と画像処理装置103とで構成され、光学ユニット101に内蔵されているレーザダイオード104で発生したレーザビーム105をボアの内面106に当て、反射ビーム107を撮像器102に入力し、画像処理装置103で画像処理し、画像の画素数の大小からボアの内面106の粗さの良否を判定する検査装置である。
【0005】
検査対象物であるボアの内面106は、直径がDの縦長の円周面である。このような円周面を検査するために、光学ユニット101は回転させながら上から下へ移動させる。(b)に示すように、光学ユニット101が回転しながら、下限位置に達した時点で、検査は終了する。
【0006】
ところで、シリンダブロックはエンジンの排気量に応じて、様々な径のシリンダボアが開けられている。近年の混流生産方式によれば、大小のシリンダブロックが混合した形態で検査ラインを流れる。
従来は、(a)に示した径Dが異なる複数個の光学ユニット101を準備し、検査対象のボアの径に対応する光学ユニット101で当該ボアの内面を検査するようにしている。
光学ユニット101の交換が面倒であり、検査工数の増加を招いている。
【0007】
光学ユニット101に内蔵されているミラー108、109の角度を変更することで、径Dの変化に対応させることは可能である。しかし、ミラー108、109と高精度で角度制御しなければならず、複雑な制御機構を内蔵すると、光学ユニット101が高価になり、且つ重くなるという問題が起こる。
複雑な制御機構を用いないで、径Dの変化に対応できる円筒ワーク内面検査装置が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、簡単な制御機構を用いるだけで、ボアの内径の変化に対応させることができる円筒ワーク内面検査装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、円筒ワークの内面を検査する円筒ワーク内面検査装置において、この円筒ワーク内面検査装置は、筒状の支持体と、この支持体に基部が支持され支持体から延びていて途中が前記支持体の中心軸から離れるように曲げられている傾斜部とされ先端に前記円筒ワークの内面を検査するセンサーが設けられ弾性変形可能な複数個の撓み部材と、これらの撓み部材の外側に且つ前記支持体の中心軸に平行に移動可能に配置され前記傾斜部に接触することで撓み部材の先端を前記支持体の中心軸側へ撓ませる撓ませ機構と、前記撓み部材の先端が必要以上に前記支持体の中心軸側へ撓むこと防止するために前記撓み部材の先端で把持させるリング部材とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、筒状の支持体から複数個の撓み部材を延ばし、これらの撓み部材の先端にセンサーを設け、このような撓み部材を撓ませ機構で支持体の中心線に向かって撓ませることで、円筒ワークの内径の変化に対応させる。撓ませ機構は、撓み部材中の傾斜部に接触して撓み部材を押し出すだけの機構であればよく、簡単な制御機構で済ませることができる。
【0011】
ところで、撓ませ機構で片持ち梁状の撓み部材を撓ませると、センサーの軸が円筒ワークの内面に直角にならなくなる。そこで、撓み部材の先端にリング部材を噛ませることで、撓み部材の不都合な倒れを是正し、任意の円筒ワークの内径に設定できるようにした。また、センサーはある程度傾きを許容するが、その傾きを極力抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は、本発明に係る円筒ワーク内面検査装置の正面図であり、円筒ワーク内面検査装置10は、ロボットアームに接続されるロボット接続フランジ11と、このロボット接続フランジ11に一体形成されている上部筒体12と、この上部筒体12の上部フランジ13に縦向きに取付けられているセンサー旋回用モータ14と、このセンサー旋回用モータ14により駆動ギヤ15及び従動ギヤ16を介して回されるとともに上部筒体12の中心を上下に貫通し且つ上部筒体12で支持されている回転軸17と、この回転軸17の上端に設けられている信号処理部18と、回転軸17とともに回される下部筒体19と、この下部筒体19を支えるために、上部筒体12の下部フランジ21に縦向きに取付けられているセンサー昇降機構22と、下部筒体19の下端から下へ延びている複数個の撓み部材23、23、23と、これらの撓み部材23、23、23の先端(図では下端)近傍に取付けられているセンサー24、24、24と、撓み部材23、23、23で把持されるリング部材25とを主たる構成要素とした装置である。
【0013】
図2は図1の2−2線断面図であり、回転軸17は、複数の信号線(例えば光ファイバー26、26、26)を通すことができる中空軸であり、従動ギヤ16で回される。この従動ギヤ16は駆動ギヤ15で回すことができる。
【0014】
図3は図1の3−3線断面図であり、上部筒体12に軸受27を介して中空の回転軸17が支持され、この回転軸17の下端にフランジ28、28を介して筒状の支持体29が吊り下げられ、この筒状の支持体29の上端内面にビス31、31で板ばね状の撓み部材23が固定されている。これらの撓み部材23、23は縦長の筒状の支持体29の内面に沿って下降し、支持体29から下へ突出した部分が図面左右方向へ折り曲げられて傾斜部32とされ、これらの傾斜部32から下位の部分にセンサー24、24が設けられている。
【0015】
さらに、筒状の支持体29を囲うように下部筒体19が配置され、この下部筒体19は、軸受33、鍔状ブラケット34及び雌雄ソケット35により、センサー昇降機構22の昇降軸36に連結されている。センサー昇降機構22は通常のブレーキ付きシリンダや、位置精度がよいサーボモータを内蔵した電動シリンダや、サーボ制御が可能の油圧サーボシリンダが好適である。
37,38は雌雄ソケット35の空転を防止する緩み止めナットである。
【0016】
下部筒体19の下端には、回転自在なコロ39、39が設けられていて、これらのコロ39、39が撓み部材23、23の傾斜部32、32に接触して、撓み部材23、23を強制的に撓ませる。
すなわち、撓み部材23、23を強制的に撓ませる、撓ませ機構20は、コロ39、39と下部筒体19と鍔状ブラケット34とセンサー昇降機構22とで構成される。
【0017】
以上に述べた構成要素のうちで、回転軸17、筒状の支持体29、撓み部材23、23、及び下部筒体19は回転部材である。一方、上部筒体12、下部フランジ21、センサー昇降機構22、昇降軸36、雌雄ソケット35及び鍔状ブラケット34は、非回転部材である。
【0018】
すなわち、鍔状ブラケット34はセンサー昇降機構22により上下にだけ移動する。このような鍔状ブラケット34により、下部筒体19は回転しながら上下に移動する。同時に、コロ39、39も上下に移動する。
【0019】
図4は本発明で採用した、撓み部材とコロの相互関係を説明する図であり、(a)に示すように、撓み部材23は上端が支持体29に固定され、他の部分が拘束されていない、片持ち梁である。そして、傾斜部32の上位に、コロ39があるときに支持体の中心軸41からセンサー24の先端までの距離R1は最大である。逆に、(b)に示すように、傾斜部32の下位に、コロ39があるときには支持体の中心軸41からセンサー24の先端までの距離R2は最小になる。撓み部材23は、ばね鋼のように弾性体で構成されるため、コロ39を傾斜部32の任意の箇所に臨ませることで、支持体の中心軸41からセンサー24の先端までの距離は、R2とR1の範囲から任意に選択することができる。
【0020】
以上の構成からなる円筒ワーク内面検査装置の作用を次に説明する。
図5は本発明の撓み部材の作用説明図であり、(a)に示すように、大径のリング部材25L(Lは大を意味する添え字。以下同様)を、撓み部材23の先端(下端)の内側に臨ませ、傾斜部32に沿ってコロ39を下降させると、撓み部材23は図左へ撓み、リング部材25Lに当たる。
傾斜部の始点42とコロ39の間隔が、距離L1のときに、センサーの軸43が想像線で示すとともに内径がD1である円筒ワークの内面44にほぼ直角であった。すなわち、θ1≒90°。
【0021】
次に、大径のリング部材25Lを、(b)に示すように、小径のリング部材25S(Sは小を意味する添え字。以下同様)に交換する。そして、コロ39を下げると、撓み部材23が図左へ大きく撓む。小径のリング部材25Sに当たる前では、撓み部材23が図面時計方向に曲がるため、センサーの軸43と円筒ワークの内面45とのなす角度は約90°にならない。しかし、小径のリング部材25Sに当たると、撓み部材23の先端の曲がりが是正される。
すなわち、傾斜部の始点42とコロ39の間隔が、距離L2のときに、センサーの軸43が想像線で示すとともに内径がD2である円筒ワークの内面45にほぼ直角となった。すなわち、θ2≒90°。
【0022】
次に、本発明に係る円筒ワーク内面検査方法を説明する。
図6は、本発明に係る円筒ワーク内面検査を用いて行う検査フロー図である。
ステップ(以下STと略記する。)01で、コロを待機位置へ戻す。具体的には図5の始点42近傍へ移動する。
ロボットアームを操作して、所定の径のリング部材に撓み部材の先端を臨ませる(ST02)。
コロを撓み部材に沿って下降させ、リング部材を撓み部材で押し付ける(ST03)。
【0023】
検査装置を、検査対象物である円筒ワークへ移動する(ST04)。
検査装置は昇降はロボットアームで行い、センサーの旋回は検査装置自体で行うことで、円筒ワークの内面の検査を実施する(ST05)。
検査が終わったら、ロボットアームにより、検査装置をリング置き場まで移動する(ST06)。
コロを待機位置へ戻すことで、把持していたリング部材をリング置き場へ返却する(ST07)。
【0024】
ところで、図5(b)においてコロ39を下へ移動すると、リング部材25に接触していたとしても傾斜部32より下位の部分では撓み部材23は、反時計方向へ曲がり、θ2は90°未満になることが考えられる。また、コロ39を上へ移動してもθ2は90°から外れることが考えられる。
そこで、リング部材25L、25S毎に適正な距離L1やL2を実験的に決める。そして、図7に示すようなリング径とコロの位置との相関グラフを作成し、この相関グラフに基づいて、円筒ワークの内径に対応するコロの位置を決めるようにすることが推奨できる。
【0025】
図8は図6の別実施例フロー図であり、ST11で、コロを待機位置へ戻す。具体的には図5の始点42近傍へ移動する。
ロボットアームを操作して、所定の径のリング部材に撓み部材の先端を臨ませる(ST12)。
コロの位置を制御する(ST13)。具体的には、図6のグラフに基づいてコロの位置を制御する。
【0026】
検査装置を、検査対象物である円筒ワークへ移動する(ST14)。
検査装置は昇降はロボットアームで行い、センサーの旋回は検査装置自体で行うことで、円筒ワークの内面の検査を実施する(ST15)。
検査が終わったら、ロボットアームにより、検査装置をリング置き場まで移動する(ST16)。
コロを待機位置へ戻すことで、把持していたリング部材をリング置き場へ返却する(ST17)。
【0027】
なお、コロは回転自在の小径ローラが望ましいが、回転しない摺り板であってもよい。
また、円筒ワークは、シリンダ一体型シリンダブロックのシリンダの他、分離型シリンダブロックのシリンダ、内面研削盤で加工するシリンダであれば種類は問わない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の円筒ワーク内面検査装置は、シリンダブロックのシリンダの内面検査に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る円筒ワーク内面検査装置の正面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】本発明で採用した、撓み部材とコロの相互関係を説明する図である。
【図5】本発明の撓み部材の作用説明図である。
【図6】本発明に係る円筒ワーク内面検査を用いて行う検査フロー図である。
【図7】リング径とコロの位置との相関グラフである。
【図8】図6の別実施例フロー図である。
【図9】従来の技術の基本構成を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
10…円筒ワーク内面検査装置、12…上部筒体、14…センサー旋回用モータ、15…駆動ギヤ、16…従動ギヤ、17…回転軸、18…信号処理部、19…下部筒体、20…撓ませ機構、22…センサー昇降機構、23…撓み部材、24…センサー、25…リング部材、29…筒状の支持体、32…傾斜部、41…支持体の中心軸、44…円筒ワークの内面、45…円筒ワークの内面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒ワークの内面を検査する円筒ワーク内面検査装置において、
この円筒ワーク内面検査装置は、筒状の支持体と、この支持体に基部が支持され支持体から延びていて途中が前記支持体の中心軸から離れるように曲げられている傾斜部とされ先端に前記円筒ワークの内面を検査するセンサーが設けられ弾性変形可能な複数個の撓み部材と、これらの撓み部材の外側に且つ前記支持体の中心軸に平行に移動可能に配置され前記傾斜部に接触することで撓み部材の先端を前記支持体の中心軸側へ撓ませる撓ませ機構と、前記撓み部材の先端が必要以上に前記支持体の中心軸側へ撓むこと防止するために前記撓み部材の先端で把持されるリング部材とを備えることを特徴とする円筒ワーク内面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−180534(P2008−180534A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12593(P2007−12593)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】