説明

円錐ころ軸受

【課題】軸受内での潤滑油の滞留の発生を抑止して、潤滑油の滞留に起因していた各種の不都合を解消することができる円錐ころ軸受を得る。
【解決手段】円錐ころ軸受21において、転動体29に、外周面が樽形の凸曲面に形成されたものを使用すると共に、内外輪23,26の各軌道面24,27は、内外輪23,26の軸線ずれの際にエッジ応力の発生を抑止できる凹状曲面に形成し、保持器31は、ポケット33の大径側を開放した櫛形で、且つ、ポケット柱部35の側面35aを転動体29の樽形の凸曲面に相応する凹曲面に形成し、更に、ポケット33開放端の開口幅を転動体29の中間部外径よりも小さく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内輪外周と外輪内周との間に配置される複数個の転動体相互の周方向の間隔が、内外輪間を周回する保持器により保持される円錐ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来の円錐ころ軸受の構成を示す要部の断面図である。
円錐ころ軸受1は、内輪3の外周の円錐形軌道面4と外輪6の内周の円錐形軌道面7との間に配置される複数個の転動体9相互の周方向の間隔が、内外輪間を周回する保持器11により保持されている。
【0003】
一般に、保持器11としては、図6に示すように、転動体9を収容するポケット13を、周方向に一定間隔に設けたものである。各ポケット13は、内外輪間を周回する円環状の一対のリム14,15と、これらのリム間に橋渡しされる複数本のポケット柱部16とによって、転動体9の周囲を囲う窓枠形に形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−69421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、円錐ころ軸受は、自動車の最終減速装置部分などに使用される場合も多い。このような場合では、装置内の潤滑油が、軸受内部の潤滑にも利用されることが少なくない。そして、軸受内への潤滑油供給量が必要以上に多くなる場合も少なくない。
前述の円錐ころ軸受1の場合、装置内の潤滑油は、例えば、内輪3の小鍔3a側から軸受内部に流入して、大鍔3b側から流出するが、図6に示した構造の保持器11の場合は、大鍔3b側に位置しているリム14が、軸受内の潤滑油の流出の妨げとなり、軸受内に滞留する潤滑油の撹拌抵抗が軸受の回転抵抗を増大させる要因となったり、軸受内に滞留する潤滑油が軸受内の撹拌により許容温度以上に昇温したりして、潤滑油の早期劣化を招く虞があった。
【0006】
そこで、このような不都合を解消するため、大鍔3b側に位置しているリム14を切除し軸受内の潤滑油の流れを良くした櫛形の保持器の採用も検討された。しかし、一般の円錐ころ軸受の場合、保持器11のポケット13は、転動体9のテーパ形状に合わせて、大鍔3b側に向かってポケット幅が徐々に広がる末広がりの形状をしているため、リム14を切除すると、ポケット13と転動体9との引っ掛かりがなくなり、保持器11が小鍔3a側に抜ける虞があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は上記課題を解消することに係り、軸受内への潤滑油供給が多い環境で利用される場合でも、軸受内での潤滑油の滞留の発生を抑止して軸受内での潤滑油の滞留に起因していた各種の不都合の発生を解消することができ、更に、保持器の抜け落ちも防止することができる円錐ころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は下記構成により達成される。
(1)内輪外周の円錐形軌道面と外輪内周の円錐形軌道面との間に配置される複数個の転動体相互の周方向の間隔が、内外輪間を周回する保持器により保持される円錐ころ軸受において、
前記転動体として、軌道面に転動自在に接触する外周面が樽形の凸曲面に形成されたものが使用されると共に、内外輪の各軌道面は、内外輪の軸線ずれの際に前記転動体端部の接触によるエッジ応力の発生を抑止できる凹状曲面に形成され、
前記保持器は、前記転動体を収容するポケットの大径側を開放した櫛形で、且つ、前記転動体の外周面に対向するポケット柱部の側面が、前記転動体の樽形の凸曲面に相応する凹曲面に形成され、更に、ポケット開放端における開口幅が前記転動体の中間部外径よりも小さく設定されていることを特徴とする円錐ころ軸受。
【0009】
(2)上記(1)において、前記保持器が樹脂の射出成形により形成されたことを特徴とする円錐ころ軸受。
【発明の効果】
【0010】
上記(1)に記載の円錐ころ軸受では、保持器の構造を櫛形にしたため、軸受内部の潤滑油の内輪大鍔側への流出が保持器によって妨げられることがない。
また、潤滑油供給が多い環境で利用される場合でも、軸受内部に流入した潤滑油を速やかに大鍔側から軸受外に流出させて、軸受内での潤滑油の滞留の発生を抑止することができる。従って、滞留している潤滑油の撹拌抵抗による軸受の回転抵抗の増大や、潤滑油の撹拌による過昇温がまねく潤滑油の早期劣化等といった、潤滑油の滞留に起因していた各種の不都合の発生を解消することができる。
そして、転動体を樽形とすると共に、櫛形の保持器のポケット柱部の側面を転動体の樽形の凸曲面に相応する凹曲面に形成し、且つ、保持器のポケット開放端における開口幅を転動体の中間部外径よりも小さく設定しているため、保持器に抜け方向の力が作用しても、ポケット柱部のポケット開放端側の端部が転動体の中間部に引っ掛かるため、保持器の抜け落ちを防止できて、安定した軸受性能を発揮できる。
【0011】
上記(2)に記載の円錐ころ軸受では、保持器が樹脂の一体成形品であるため、ポケット柱部の側面を樽形の転動体に相応した凹曲面とするなど、保持器に曲面加工部分が多くても、保持器を高精度に量産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る円錐ころ軸受の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る円錐ころ軸受の一実施の形態における保持器のポケット柱部を縦断する縦断面図、図2は図1に示した円錐ころ軸受における保持器のポケットを縦断する縦断面図、図3は図1に示した保持器の斜視図、図4は図3に示した保持器の要部拡大図である。
【0013】
この一実施の形態の円錐ころ軸受21は、内輪23の外周の円錐形軌道面24と外輪26の内周の円錐形軌道面27との間に配置される複数個の転動体29相互の周方向の間隔が、内外輪23,26間を周回する保持器31により保持されている。
【0014】
本実施の形態の場合、転動体29としては、軌道面に転動自在に接触する外周面が、自動調心軸受に採用されているころのように、樽形の凸曲面に形成されたものが使用されている。
【0015】
また、内外輪23,26の各軌道面24,27は、厳密には円錐型ではなく、内外輪23,26の軸線ずれの際に転動体29の端部の局部的な接触によるエッジ応力の発生を抑止できる凹状曲面に形成されている。なお、この凹状曲面は、特開2000−74075号公報に開示されているように、中央部の曲率と両端部との曲率を違えて、エッジ応力の発生の抑止に優れた複合曲面に形成することが望ましい。
【0016】
本実施の形態における保持器31は、図3に示すように、転動体29を収容するポケット33を周方向に一定間隔に設けたものであるが、ポケット33を区画する複数本のポケット柱部35相互を連結する円環状のリム37は小径側にのみ設けられていて、転動体29を収容するポケット33の大径側を開放した櫛形構造になっている。
【0017】
また、本実施の形態の保持器31は、図4に示すように、転動体29の外周面に対向するポケット柱部35の側面35aが、転動体29の樽形の凸曲面に相応する逆樽形の凹曲面に形成され、更に、ポケット33の開放端における開口幅w1が転動体29の中間部外径D(図2参照)よりも小さく設定されている。
なお、転動体29の中間部外径Dとは、転動体29の最大外径を意味するものではなく、転動体29の端部から徐々に拡径する樽形凸曲線の中間部の外径を意味している。
【0018】
また、本実施の形態の保持器31は、樹脂の射出成形により形成された一体物である。
使用する樹脂は、例えば、46ナイロンや、66ナイロンなどのポリアミド系樹脂や、ポリブチレンテレフタレートやポリフェレンサルサイド(PPS)や、ポリアミドイミド(PAI)や、熱可塑性ポリイミドや、ポリエーテルケトン(PEEK)や、ポリエーテルニトリル(PEN)などが好適である。
また、上記の樹脂材料に、10〜50wt%の繊維状充填材(例えば、ガラス繊維や炭素繊維など)を適宜添加することにより、保持器の剛性及び寸法精度を向上させることができる。
【0019】
内輪23上への転動体29及び保持器31の組み込みは、次のようにして行う。最初に保持器31の各ポケット33に転動体29を配置し、その後、内輪23の小鍔23a側から、小鍔23aを乗り越えさせるようにして、保持器31及び転動体29を内輪23の外周に組み付ける。
【0020】
以上に説明した円錐ころ軸受21では、自動車の最終減速装置部分などに使用されて、減速装置内の潤滑油が円錐ころ軸受21に供給されるとき、潤滑油は図1の矢印A,Bに示すように内輪23の小鍔23a側から軸受内部に流入して、大鍔23b側から流出するが、保持器31の構造を櫛形にしたため、軸受内部の潤滑油の大鍔23b側への流出が保持器31によって妨げられることがなく、潤滑油供給が多い環境で利用される場合でも、軸受内部に流入した潤滑油を速やかに大鍔23b側から軸受外に流出させて、軸受内での潤滑油の滞留の発生を抑止することができる。
【0021】
従って、滞留している潤滑油の撹拌抵抗による軸受の回転抵抗の増大や、潤滑油の撹拌による過昇温がまねく潤滑油の早期劣化等といった、潤滑油の滞留に起因していた各種の不都合の発生を解消することができる。
【0022】
そして、転動体29を樽形とすると共に、櫛形の保持器31のポケット柱部35の側面35aを転動体29の樽形の凸曲面に相応する凹曲面に形成し、且つ、保持器31のポケット33開放端における開口幅w1を転動体29の中間部外径Dよりも小さく設定しているため、保持器31に抜け方向の力が作用しても、ポケット柱部35のポケット開放端側の端部が転動体29の中間部に引っ掛かるため、保持器31の抜け落ちを防止することもができ、安定した軸受性能を発揮できる。
【0023】
また、本実施の形態の円錐ころ軸受21では、保持器31が樹脂の一体成形品であるため、ポケット柱部35の側面35aを樽形の転動体29に相応した凹曲面とするなど、保持器31に曲面加工部分が多くても、保持器31を高精度に量産することができる。
【0024】
なお、保持器31は、樹脂の一体成形に限らない。金属製にすることもできる。そして、金属板のプレス加工により形成する場合は、SPCCなどの低炭素鋼板や、黄銅板、あるいはステンレス鋼板を利用することができる。
また、金属無垢材の切削加工により形成する場合は、高力黄銅や炭素鋼を利用すると良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る円錐ころ軸受の一実施の形態における保持器のポケット柱部を縦断する縦断面図である。
【図2】図1に示した円錐ころ軸受における保持器のポケットを縦断する縦断面図である。
【図3】図1に示した保持器の斜視図である。
【図4】図3に示した保持器の要部拡大図である。
【図5】従来の円錐ころ軸受の縦断面図である。
【図6】図5に示した円錐ころ軸受に使用されている保持器の斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
21 円錐ころ軸受
23 内輪
23a 小鍔
23b 大鍔
24 円錐形軌道面
26 外輪
27 円錐形軌道面
29 転動体
31 保持器
33 ポケット
35 ポケット柱部
35a 側面
37 リム
D 転動体の中間部外径
w1 ポケット開放端の開口幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪外周の円錐形軌道面と外輪内周の円錐形軌道面との間に配置される複数個の転動体相互の周方向の間隔が、内外輪間を周回する保持器により保持される円錐ころ軸受において、
前記転動体として、軌道面に転動自在に接触する外周面が樽形の凸曲面に形成されたものが使用されると共に、内外輪の各軌道面は、内外輪の軸線ずれの際に前記転動体端部の接触によるエッジ応力の発生を抑止できる凹状曲面に形成され、
前記保持器は、前記転動体を収容するポケットの大径側を開放した櫛形で、且つ、前記転動体の外周面に対向するポケット柱部の側面が、前記転動体の樽形の凸曲面に相応する凹曲面に形成され、更に、ポケット開放端における開口幅が前記転動体の中間部外径よりも小さく設定されていることを特徴とする円錐ころ軸受。
【請求項2】
前記保持器が樹脂の射出成形により形成されたことを特徴とする請求項1に記載の円錐ころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−174689(P2009−174689A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16580(P2008−16580)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】