説明

刈取収穫機の走行変速装置

【課題】エンジンの始動時に、オペレータが違和感を覚えず、作業効率を低下させることのない刈取収穫機の走行用変速装置を提供する。
【解決手段】エンジンの動力を走行装置に伝達する伝動系に、複数段に変速可能な第1変速装置と、複数段に変速可能な第2変速装置とを直列に備え、第1変速装置が低速位置で且つ第2変速装置が高速位置の場合の伝動比と、第1変速装置が高速位置で且つ第2変速装置が低速位置の場合の伝動比とが同じであり、エンジンの始動時に(#10)、第1変速装置が低速位置にあれば(#11)、第2変速装置を高速位置に操作し(#13)、第1変速装置が高速位置にあれば(#11)、第2変速装置を低速位置に操作する(#12)制御装置を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの動力を走行装置に伝達する伝動系に、複数段に変速可能な第1変速装置と、複数段に変速可能な第2変速装置とを直列に備えた刈取収穫機の走行変速装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
倒伏した作物の刈取作業から畦道などでの移動走行等、状況に応じて適切な走行速度を得られるように、低速位置、中速位置及び高速位置の複数段に変速可能に構成された刈取収穫機の走行変速装置が特許文献1に記載されている。この走行変速装置においては、副変速装置が低速用、中速用及び高速用の3つの伝動系を有し、各伝動系を択一的に選択して使用することにより、変速可能に構成されている。
【0003】
ここで、中速位置は通常の刈取作業状態に適した刈取作業速度が得られるものであり、高速位置は畦道等での走行のように非作業状態で使用される場合の移動速度が得られるものである。また、低速位置は刈取作業速度よりもさらに低速で、作物が倒伏している場合の刈取作業が可能である低速刈取作業速度が得られるものである。
【0004】
このように変速可能な刈取収穫機においては、刈取作業中か非刈取作業中か、あるいは、刈取対象作物が倒伏状態であるか非倒伏状態であるか等の条件の違いによって、オペレータは条件に適した速度に変速する必要がある。この変速操作が頻繁に必要な場合にはオペレータはこれを煩わしく感じ、また、変速操作を怠った場合には条件に適した速度とならず、作業効率が低下するおそれがある。
【0005】
上記問題を解決するために、特許文献1に記載の走行変速装置は、刈取作業の状態を判別する刈取作業状態判別手段を備え、この刈取作業状態判別手段の判別情報に基づいて、副変速装置を自動変速できるように構成されている。この構成により、作業条件に応じて従来オペレータが行っていた変速操作が自動化され、作業効率の向上が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−104812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
刈取収穫機の走行変速装置には、オペレータに違和感を与えない仕様であることも求められるところ、上記走行変速装置のように自動変速可能に構成した場合は、オペレータが変速位置を認識し難くなるおそれがある。このため、刈取収穫機のキーオフ操作を行った後に再びキーオン操作してエンジンを始動した場合に、オペレータが想定していなかった変速位置で刈取収穫機が作動を開始すると、オペレータが違和感を覚えたり、作業効率が低下したりするおそれがある。また、作業中にオペレータが変速操作をした場合に、その操作後にオペレータが意図した速度が得られない場合にも、同様に違和感の発生や作業効率の低下を招くおそれがある。
【0008】
本発明は以上の課題を鑑みてなされたものであり、特許文献1とは異なる変速構造を採用して作業効率の向上を図りながら、エンジンの始動時や作業中の変速時に、オペレータが違和感を覚えず、作業効率を低下させることのない刈取収穫機の走行用変速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る刈取収穫機の走行変速装置の第1特徴構成は、エンジンの動力を走行装置に伝達する伝動系に、複数段に変速可能な第1変速装置と、複数段に変速可能な第2変速装置とを直列に備え、前記第1変速装置が低速位置で且つ前記第2変速装置が高速位置の場合の伝動比と、前記第1変速装置が高速位置で且つ前記第2変速装置が低速位置の場合の伝動比とが同じであり、前記第1変速装置が高速位置で且つ前記第2変速装置が高速位置の場合は移動速度が得られ、前記第1変速装置が高速位置で且つ前記第2変速装置が低速位置の場合、及び前記第1変速装置が低速位置で且つ前記第2変速装置が高速位置の場合は刈取作業速度が得られ、前記第1変速装置が低速位置で且つ前記第2変速装置が低速位置の場合は低速刈取作業速度が得られ、前記エンジンの始動時に、前記第1変速装置が低速位置にあれば前記第2変速装置を高速位置に操作し、前記第1変速装置が高速位置にあれば前記第2変速装置を低速位置に操作する制御装置を備えた点にある。
【0010】
一般的に、刈取収穫機の走行変速装置は、圃場での刈取作業に適した「刈取作業速度(中速)」、倒伏状態の刈取対象作物を刈り取るのに適した「低速刈取作業速度(低速)」、及び非刈取作業中に移動するのに適した「移動速度(高速)」の少なくとも3段階の変速状態が実現可能に構成されていることが望ましい。
【0011】
第1特徴構成によれば、この3段階の変速状態を第1変速装置の変速位置と第2変速装置の変速位置との組み合わせによって実現できる。すなわち、第1変速装置が高速位置で且つ第2変速装置が高速位置の場合は移動速度が得られ、第1変速装置が高速位置で且つ第2変速装置が低速位置の場合、及び第1変速装置が低速位置で且つ第2変速装置が高速位置の場合は刈取作業速度が得られ、第1変速装置が低速位置で且つ第2変速装置が低速位置の場合は低速刈取作業速度が得られる。なお、第1変速装置が低速位置で且つ第2変速装置が高速位置の場合の伝動比と、第1変速装置が高速位置で且つ第2変速装置が低速位置の場合の伝動比とが同じになるよう構成されているので、これらの状態において得られる刈取作業速度は同速度となる。
【0012】
このように構成すると、第1変速装置を低速位置に維持しておけば、通常の刈取作業時には第2変速装置を高速位置にして刈取作業速度とし、刈取対象作物が倒伏状態の時には第2変速装置を低速位置に変速するだけで低速刈取作業速度が得られる。したがって、刈取作業途中に、部分的に存在している倒伏状態の刈取対象作物を一時的に低速刈取作業速度で刈り取って、すぐに元の刈取作業速度に復帰させるような一連の変速操作を容易に行うことが可能となり、作業効率が向上する。
【0013】
また、第1変速装置を高速位置に維持しておけば、第2変速装置を操作するだけで、移動速度と刈取作業速度とに変速可能となる。したがって、圃場から畦へ出てすぐに高速で移動したい場合や、特許文献1の図8に示すように、刈取作業と枕地での高速の移動とを繰り返すような場合に、機体を停止させずに第2変速装置を操作して容易に移動速度と刈取作業速度とを得ることができ、作業効率が向上する。
【0014】
さらに、第1特徴構成によれば、エンジンの始動時に、第1変速装置が低速位置にあれば第2変速装置を高速位置に操作し、第1変速装置が高速位置にあれば第2変速装置を低速位置に操作するよう制御されるため、エンジン始動時には常に中速に相当する刈取作業速度が得られる。このため、オペレータが遅すぎると感じたり、速すぎると感じたりすることによる違和感の発生を回避することができる。また、エンジン始動時には必ず刈取作業速度が得られるので、オペレータの予測しない速度で刈取収穫機が作動開始するという事態を防止でき、作業効率の低下を回避することができる。
【0015】
第2特徴構成は、前記第2変速装置は、人為的に操作される操作具の操作により制御弁が切り換えられ、前記制御弁からの作動油により変速操作されるように構成してある点にある。
【0016】
第2特徴構成によると、第2変速装置の変速を制御弁の切り換えで行うことになるので、例えば電磁切換弁等を用いることにより、前述の第1特徴構成において行われる第2変速装置の操作を、電気的な制御によって容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】コンバインの全体を示す側面図である。
【図2】伝動系を示す線図である。
【図3】走行伝動装置の縦断正面図である。
【図4】走行伝動装置の縦断側面図である。
【図5】走行伝動装置の上部を示す縦断正面図である。
【図6】走行伝動装置の下部を示す縦断正面図である。
【図7】第2変速装置の作動形態を示す縦断正面図である。
【図8】操向機構の縦断正面図である。
【図9】油圧操作系統を示す回路図である。
【図10】制御装置と入出力装置とを示すブロック図である。
【図11】走行副変速部の変速位置と速度との関係を示す図である。
【図12】始動時速度制御を示すフローチャートである。
【図13】作業時速度制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をコンバインに適用した実施形態について、図面に基づいて説明する。
〔コンバインの全体構成〕
図1はコンバインの全体側面図である。このコンバインは、稲、麦などの収穫作業を行うものであり、左右一対のクローラ式の走行装置1と、運転座席2を有した走行機体と、この走行機体の機体フレーム3の前部に連結された刈取り前処理部10とを備える。機体フレーム3の後部側には、走行機体横方向に並べて脱穀装置4と穀粒タンク5とが設けられている。
【0019】
走行機体は、運転座席2の下方に設けたエンジン6(図2参照)と、機体フレーム3の前端部に設けた走行伝動装置20とを備え、エンジン6から出力された駆動力を走行伝動装置20によって変速して走行装置1に伝達する。走行装置1に伝達された駆動力は、左右一対の走行装置1を駆動し、コンバインを走行させる。
【0020】
図1に示すように、刈取り前処理部10は、油圧シリンダ12によって機体フレーム3に対して上下に揺動操作される前処理部フレーム11を備える。この前処理部フレーム11の揺動操作により、刈取り前処理部10は、前端部に位置する分草具13が地面近くに下降した下降作業状態と、分草具13が地面から高く上昇した上昇非作業状態とに昇降可能に構成されている。
【0021】
刈取り前処理部10を下降作業状態にして走行機体を走行させると、刈取り前処理部10は、分草具13によって植立穀稈を引起し装置14に導入し、引起し装置14によって植立穀稈を引起し処理する。引起し処理された植立穀稈は、バリカン形の刈取り装置15によって刈取り処理され、搬送装置16によって機体後方側に搬送される。
【0022】
刈取り穀稈が脱穀装置4の脱穀フィードチェーン4aの始端部に到達すると、脱穀フィードチェーン4aは刈取り穀稈の株元側を挟持して走行機体後方に搬送し、刈取り穀稈の穂先側を扱室に供給して脱穀処理する。穀粒タンク5は、脱穀装置4からの脱穀粒を回収して貯留する。
【0023】
〔伝動系の構成〕
図2は、エンジン6から出力された動力を、走行装置1及び刈取り前処理部10へ導く伝動系を示す線図である。図3は走行伝動装置20の縦断正面図、図4は走行伝動装置20の縦断側面図、図5は走行伝動装置20の上部を示す縦断正面図、図6は走行伝動装置20の下部を示す縦断正面図である。
【0024】
これらの図に示すように、走行伝動装置20は、ミッションケース22と、ミッションケース22の上端部に収容された走行主変速部としての静油圧式無段変速装置23(以下、HST23と呼称する)と、このHST23よりも走行機体下方側に位置させてミッションケース22に収容された走行ミッション部30とを備えている。ミッションケース22は、その上端部に入力軸であるポンプ軸21を回転自在に備え、その下端部に左右一対の走行駆動軸1aを回転自在に備えている。
【0025】
HST23は、アキシャルプランジャ形で且つ可変容量形の油圧ポンプ24と、この油圧ポンプ24からの圧油によって駆動されるアキシャルプランジャ形の油圧モータ25とを備えている。油圧ポンプ24は、ポンプ軸21がエンジン6からの動力により回転することによって駆動される。走行ミッション部30は、入力ギヤ31及び出力ギヤ33を備える走行副変速部32と、センタギヤ50と走行駆動軸1aとにわたって設けた操向機構51とを備えている。センタギヤ50は出力ギヤ33と噛み合っている。
【0026】
エンジン6の出力軸6aの駆動力が、ベルト伝動機構7によってベルトプーリ76に伝達され、ポンプ軸21が回転する。ポンプ軸21を介してミッションケース22に入力されたエンジン6の駆動力は、HST23に入力され、HST23によって前進駆動力又は後進駆動力に変換され、且つ前進側においても後進側においても無段階に変速し得るように構成されている。
【0027】
HST23のモータ軸26からの出力は、モータ軸26に一体回転自在に設けたモータ軸ギヤ27から、走行ミッション部30の入力ギヤ31へと伝達される。入力ギヤ31の駆動力を、走行副変速部32によって変速して出力ギヤ33からセンタギヤ50に伝達し、センタギヤ50の駆動力を操向機構51によって走行駆動軸1aに伝達することによって走行装置1が駆動される。
【0028】
走行伝動装置20は、左右一対の走行駆動軸1aに対する伝動を、操向機構51によって左右各別に切ったり変速したりして、左右一対の走行装置1を直進状態と旋回状態とに切り換えられるように構成されている。また、走行伝動装置20は、入力ギヤ31を一体回転自在に有した入力軸34を備え、ミッションケース22から横外側に突出した入力軸34の端部に一体回転自在に設けた出力プーリ70を備え、入力軸34の駆動力を出力プーリ70から刈取り前処理部10に伝達する。
【0029】
〔走行副変速部〕
図2〜図5に示すように、走行副変速部32は、複数段に変速可能な第1変速装置Aと、複数段に変速可能な第2変速装置Bとを直列に備えて構成されている。
【0030】
第1変速装置Aは、図10に示す副変速レバー81によって変速可能に構成されている。この副変速レバー81は運転座席2を有した搭乗運転部に設けられており、オペレータが副変速レバー81を揺動操作することにより、第1変速装置Aの変速ギヤの噛合状態を切り換えて変速できるように構成されている。すなわち、入力ギヤ31を一体回転自在に有した入力軸34に一体回転及びシフト操作自在に設けたシフトギヤ35が、副変速レバー81の揺動操作に伴ってシフト操作されて、高速ギヤ36と低速ギヤ37とに択一的に噛合対象を変更するように構成したギヤ伝動機構によって構成されている。
【0031】
以下、第1変速装置Aにおいて、副変速レバー81を高速側に操作し、シフトギヤ35が高速ギヤ36と噛み合っている状態を「高速位置」、副変速レバー81を低速側に操作し、シフトギヤ35が低速ギヤ37と噛み合っている状態を「低速位置」と称する。第1変速装置Aが高速位置の時は、高速ギヤ36と噛み合う中間軸第2ギヤ43を介して、中間伝動軸38に動力が伝達される。一方、第1変速装置Aが低速位置の時は、低速ギヤ37と噛み合う中間軸第1ギヤ40を介して、中間伝動軸38に動力が伝達される。
【0032】
第2変速装置Bは、変速操作に伴って伝動上手側と伝動下手側との間に生じた速度差を自動的に漸減させて動力伝達を行うための速度差緩和手段Cを備えた変速装置によって構成されている。第2変速装置Bは、中間伝動軸38に相対回転及び摺動自在に支持されたクラッチギヤ式のクラッチギヤ39と、中間伝動軸38の一端部に相対回転自在に支持された高速ギヤ41とを備えている。
【0033】
以下、第2変速装置Bにおいて、高速ギヤ41が動力を伝達している状態を「高速位置」、クラッチギヤ39が動力を伝達している状態を「低速位置」と称する。第2変速装置Bが高速位置の時は、高速ギヤ41と噛み合う出力軸第2ギヤ46を介して、出力軸45に動力が伝達される。一方、第2変速装置Bが低速位置の時は、クラッチギヤ39と噛み合う出力軸第1ギヤ44を介して、出力軸45に動力が伝達される。
【0034】
速度差緩和手段Cは、中間伝動軸38上のクラッチギヤ39と高速ギヤ41との中間位置に設けられている。この速度差緩和手段Cには、変速操作に伴って伝動上手側と伝動下手側との間に生じた速度差を自動的に漸減させて動力伝達を行うため、多数の摩擦板を備えた油圧操作式の摩擦クラッチ42が設けられている。
【0035】
図10に示すように、走行変速用のHST23は、搭乗運転部でオペレータが変速操作するための変速レバー80を揺動操作することによって無段変速可能に構成されている。第2変速装置Bは、この変速レバー80の握り部80aに設けた押しボタン型式の操作ボタン80bのプッシュオン・プッシュオフ操作で、高速位置又は低速位置の何れか一方へ交互に切り換えられるように構成してある。つまり、操作ボタン80bの操作により、後述する副変速用電磁弁V1が切り状態となり、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部と噛み合って動力を伝達する低速位置と、副変速用電磁弁V1が入り状態となり、摩擦クラッチ42を介して高速ギヤ41が動力を伝達する高速位置とに切り換えることができる。
【0036】
図5及び図7に示されるように、クラッチギヤ39は、外周側にギヤ部分が一体形成されたシリンダ部39aを備え、シリンダ部39aに油圧ピストン39bを内装してある。油圧ピストン39bは、中間軸第1ギヤ40の横側部側へ向けて押圧バネ39cで押し付け付勢されている。また、クラッチギヤ39は、そのギヤ部分が、高速位置及び低速位置の何れの側に変速されても、出力軸45側の出力軸第1ギヤ44との噛合状態を維持し得る歯幅に設定されている。
【0037】
図7(a)に示すように、シリンダ部39a及び油圧ピストン39bが中間軸第1ギヤ40の横側部に押し当てられた状態では、シリンダ部39aの外周側のギヤ部分が、中間軸第1ギヤ40の横側部に形成された内歯状ギヤ部40aと噛み合う。この時、摩擦クラッチ42はクラッチ切り状態にあり、中間伝動軸38の回転は高速ギヤ41に伝わらないように構成されている。
【0038】
図7(a)の状態でシリンダ部39aに圧油が供給されると、図7(b)に示すように、押圧バネ39cの付勢力に抗して、シリンダ部39aが中間軸第1ギヤ40の横側部から離れる側へ移動し、中間軸第1ギヤ40の内歯状ギヤ部40aとの噛み合いが解除される。同時的に、摩擦クラッチ42が、油圧ピストン42bによって切り状態から入り状態に切り換えられ、中間伝動軸38の回転を高速ギヤ41に伝えられるように構成してある。
【0039】
第1変速装置Aが高速位置か低速位置か、及び第2変速装置Bが高速位置か低速位置かによって、走行副変速部32の変速位置は図11に示す4パターンが得られる。本実施形態においては、第1変速装置Aが低速位置で且つ第2変速装置Bが高速位置の場合の伝動比と、第1変速装置Aが高速位置で且つ第2変速装置Bが低速位置の場合の伝動比とが同じになるように設定している。したがって、走行副変速部32で得られる速度は、移動速度(高速)、刈取作業速度(中速)及び低速刈取作業速度(低速)の3段階である。
【0040】
以上の構成により、シフトギヤ35が高速ギヤ36に噛合操作され(第1変速装置Aが高速位置)、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部に噛合操作され、摩擦クラッチ42が切り状態に切り換えられると(第2変速装置Bが低速位置)、走行副変速部32において通常の刈取作業に適した刈取作業速度が得られる。この時、図2から明らかなように、入力ギヤ31の駆動力は、入力軸34、シフトギヤ35、高速ギヤ36、中間軸第2ギヤ43、中間伝動軸38、中間軸第1ギヤ40、クラッチギヤ39、出力軸第1ギヤ44、出力軸45を介して出力ギヤ33に伝達される。
【0041】
シフトギヤ35が高速ギヤ36に噛合操作され(第1変速装置Aが高速位置)、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部から離脱操作され、摩擦クラッチ42が入り状態に切り換えられると(第2変速装置Bが高速位置)、走行副変速部32において畦などの移動に適した移動速度が得られる。この時、入力ギヤ31の駆動力は、入力軸34、シフトギヤ35、高速ギヤ36、中間軸第2ギヤ43、中間伝動軸38、摩擦クラッチ42、高速ギヤ41、出力軸第2ギヤ46、出力軸45を介して出力ギヤ33に伝達される。
【0042】
シフトギヤ35が低速ギヤ37に噛合操作され(第1変速装置Aが低速位置)、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部に噛合操作され、摩擦クラッチ42が切り状態に切り換えられると(第2変速装置Bが低速位置)、走行副変速部32において倒伏茎稈の刈取などに適した低速刈取作業速度が得られる。この時、入力ギヤ31の駆動力は、入力軸34、シフトギヤ35、低速ギヤ37、中間軸第1ギヤ40、クラッチギヤ39、出力軸第1ギヤ44、出力軸45を介して出力ギヤ33に伝達される。
【0043】
シフトギヤ35が低速ギヤ37に噛合操作され(第1変速装置Aが低速位置)、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部から離脱操作され、摩擦クラッチ42が入り状態に切り換えられると(第2変速装置Bが高速位置)、走行副変速部32において通常の刈取作業に適した刈取作業速度が得られる。この時、入力ギヤ31の駆動力は、入力軸34、シフトギヤ35、低速ギヤ37、中間軸第1ギヤ40、中間伝動軸38、摩擦クラッチ42、高速ギヤ41、出力軸第2ギヤ46、出力軸45を介して出力ギヤ33に伝達される。
【0044】
〔速度差緩和手段〕
第2変速装置Bにおいて、変速操作に伴って伝動上手側と伝動下手側との間に生じた速度差を自動的に漸減させて動力伝達を行うために速度差緩和手段Cが設けられている。図7に示すように、速度差緩和手段Cは、中間伝動軸38上のクラッチギヤ39と高速ギヤ41との中間位置に配置された油圧操作式の摩擦クラッチ42によって構成されている。
【0045】
摩擦クラッチ42は、中間伝動軸38に外嵌して固定されたケース部42aと、中間伝動軸38に対して相対回転のみ自在で軸線方向移動を阻止した状態に支持された高速ギヤ41と、ケース部42aと高速ギヤ41との間で支持された多数の摩擦板と、その摩擦板を高速ギヤ41との間で挟持するように高速ギヤ41側へ押し付け可能な油圧ピストン42bとで構成されている。
【0046】
第2変速装置Bにおいて、高速位置への変速操作を行うと、クラッチギヤ39が中間軸第1ギヤ40の横側部から離脱操作され、供給された圧油によって油圧ピストン42bが、高速ギヤ41との間で支持された摩擦板を押圧してクラッチ入り状態とする。この時、摩擦板同士のスリップにより、伝動上手側と伝動下手側との間に生じた速度差を自動的に漸減させて動力伝達を行うことが可能となる。
【0047】
また、第2変速装置Bにおいて、低速位置へ変速操作を行う場合には、摩擦板のスリップによる速度差の漸減は期待できない。しかし、クラッチギヤ39は常時出力軸第1ギヤ44と噛合状態を維持するように構成されているので、クラッチギヤ39と中間軸第1ギヤ40とは同方向に回転をしている。このため、クラッチギヤ39と中間軸第1ギヤ40との相対速度差が小さく、比較的変速ショックの少ない変速操作が行われ易い。
【0048】
〔操向機構〕
操向機構51は、図2、図3、図6及び図8に示すように、左右一対の走行装置1を直進状態と大半径旋回状態と小半径旋回状態とに切換操作するためのものである。操向機構51は、左右一対の操向クラッチギヤ52、これに一体成形された油圧ピストン52a、操向クラッチギヤ52と噛み合う内歯部を備えたセンタギヤ50、センタギヤ50の小径ギヤ部に噛み合った減速ギヤ57と中間伝動軸58とにわたって設けた減速伝動クラッチ59、中間伝動軸58からの動力を左右の操向クラッチギヤ52に対して断続切り操作する左右の伝動クラッチ54,56を備えて構成されている。
【0049】
操向機構51では、図6及び図8に示すように、左右一対の操向クラッチギヤ52が、これに一体成形された油圧ピストン52aによって摺動操作されてセンタギヤ50の内歯部に噛合操作される。左側の操向クラッチギヤ52と左側の伝動ギヤ53とにわたって設けた左側の伝動クラッチ54が、油圧ピストン54aによって入り状態と切り状態とに切換操作される。同様に、右側の操向クラッチギヤ52と右側の伝動ギヤ55とにわたって設けた右側の伝動クラッチ56が、油圧ピストン56aによって入り状態と切り状態とに切換操作される。また、センタギヤ50の小径ギヤ部に噛み合った減速ギヤ57と中間伝動軸58とにわたって設けた減速伝動クラッチ59が、油圧ピストン59aによって入り状態と切り状態とに切換操作される。以上の構成によって、左右一対の走行装置1を直進状態と大半径旋回状態と小半径旋回状態とに切り換えられる。
【0050】
直進状態を得るためには、左右一対の操向クラッチギヤ52の両方をセンタギヤ50の内歯部に噛み合せた状態に切換操作し、左側の伝動クラッチ54及び右側の伝動クラッチ56を切り状態に切換操作する。すると、センタギヤ50の駆動力を左側の操向クラッチギヤ52と左走行駆動ギヤ60とを介して左側の走行駆動軸1aに伝達するとともに、センタギヤ50の駆動力を右側の操向クラッチギヤ52と右走行駆動ギヤ61とを介して右側の走行駆動軸1aに伝達する。その結果、操向機構51は左右の走行装置1を同じ駆動方向に同じ駆動速度で駆動して走行機体を直進走行させる。
【0051】
大半径旋回状態を得るためには、左右一対の操向クラッチギヤ52の一方をセンタギヤ50の内歯部に噛み合った状態に切換操作し、他方の操向クラッチギヤ52をセンタギヤ50の内歯部から離脱した状態に切換操作する。すると、センタギヤ50の駆動力をこれの内歯部に噛み合った操向クラッチギヤ52を介してこの操向クラッチギヤ52に対応した走行駆動軸1aに伝達し、センタギヤ50の内歯部から離脱した操向クラッチギヤ52に対応した走行駆動軸1aを遊転状態にする。その結果、操向機構51は、左右一対の走行駆動軸1aの一方を駆動し、他方の走行駆動軸1aを遊転状態にし、一方の走行装置1のみを駆動して走行機体を大旋回半径で旋回走行させる。
【0052】
小半径旋回状態を得るためには、左右一対の操向クラッチギヤ52の一方をセンタギヤ50の内歯部に噛み合った状態に切換操作し、他方の操向クラッチギヤ52をセンタギヤ50の内歯部から離脱した状態に切換操作し、減速伝動クラッチ59を入り状態に切換操作する(操向クラッチギヤ52がセンタギヤ50から離脱した側の左側又は右側の伝動クラッチ54,56は入り状態となっている)。
【0053】
すると、センタギヤ50の駆動力をこれの内歯部に噛み合った操向クラッチギヤ52を介してこの操向クラッチギヤ52に対応した走行駆動軸1aに伝達する。また、センタギヤ50の内歯部から離脱したクラッチギヤ52に対応する走行駆動軸1aへは、センタギヤ50の駆動力が減速ギヤ57、減速伝動クラッチ59、中間伝動軸58、左中間軸ギヤ62又は右中間軸ギヤ63、左側の伝動ギヤ53又は右側の伝動ギヤ55、左側の伝動クラッチ54又は右側の伝動クラッチ56、左走行駆動ギヤ60又は右走行駆動ギヤ61を介して伝達される。その結果、操向機構51は、左右一対の走行駆動軸1aの一方を直進走行時と同じ駆動速度で駆動し、他方の走行駆動軸1aを直進走行時よりも低速で駆動し、左右の走行装置1を同じ駆動方向に異なる駆動速度で駆動して走行機体を小旋回半径で旋回走行させる。
【0054】
図2、図3、図5及び図6に示すように、操向機構51は、中間伝動軸58の一端部に設けた油圧操作式の操向ブレーキ64を備えている。操向ブレーキ64によって中間伝動軸58に摩擦ブレーキを掛けることにより、センタギヤ50から離脱操作された操向クラッチギヤ52に対応する走行装置1(旋回内側の走行装置)にブレーキを掛け、走行機体の旋回半径を、旋回内側の走行装置1を減速駆動した場合の旋回半径よりも小にする。
【0055】
〔制御形態〕
図5に示すように、走行伝動装置20は、ミッションケース22の上端部に組み付けた油圧ポンプ71を備えている。油圧ポンプ71は、ポンプ軸21に付設されたポンプ歯車を備えたトロコイドポンプによって構成してある。
【0056】
この油圧ポンプ71は、ミッションケース22の上端部に設けたサクションフィルタ73(図4参照)と、ミッションケース22に穿設された吸い込み油路と有した油圧回路によって、ミッションケース22の内部の油貯留部、及び走行ミッション部30が備える各油圧ピストン39b,42b,52a,54a,56a,59aの操作弁に接続されている。つまり、油圧ポンプ71は、ポンプ軸21によって駆動され、ミッションケース22の内部に貯留されている潤滑油を吸引して圧油を吐出し、吐出した圧油を各油圧ピストン39b,42b,52a,54a,56a,59aに供給して走行ミッション部30の切換操作を行わせる。
【0057】
図9に示すように、油圧ポンプ71からの吐出油路Lは、途中で第1油路L1と第2油路L2とに分岐する。第1油路L1には、減圧弁V11、走行副変速部32を操作するための副変速用電磁弁V1、旋回制動状態を制御するための制動制御用電磁弁V2、左右一対の操向クラッチギヤ52及び左右の伝動クラッチ54,56を操作するための操向用電磁弁V3,V4を配設してある。図10に示すように、副変速用電磁弁V1、制動制御用電磁弁V2、操向用電磁弁V3,V4、及び後述する圧力調節用の比例電磁制御弁V9は、それぞれ制御装置100からの制御信号を受けて制御されるように構成されている。
【0058】
第2油路L2には、シーケンス弁V12を経て、一対のパイロット操作弁V7,V8が並列に接続してあり、パイロット操作弁V7,V8を通過した圧油を、それぞれ後続の第7油路L7、第8油路L8に供給されるように構成してある。パイロット操作弁V7は、左側の伝動クラッチ54を操作する操向用電磁弁V4から供給されるパイロット圧で作動するように構成してある。同様に、パイロット操作弁V8は、右側の伝動クラッチ56を操作する操向用電磁弁V3から供給されるパイロット圧で作動するように構成してある。
【0059】
パイロット操作弁V7に接続される第7油路L7は、左側の操向クラッチギヤ52と左側の伝動クラッチ54との双方に対して圧油を供給するように接続してあり、且つ、伝動クラッチ54に対しては、絞りS2を介して伝動クラッチ54が操向クラッチギヤ52よりも緩やかに作動するように構成してある。同様に、パイロット操作弁V8に接続される第8油路L8は、右側の操向クラッチギヤ52と右側の伝動クラッチ56との双方に対して圧油を供給するように接続してあり、且つ、伝動クラッチ56に対しては、絞りS3を介して伝動クラッチ56が操向クラッチギヤ52よりも緩やかに作動するように構成してある。
【0060】
左右一対の操向クラッチギヤ52の何れか一方を通過した圧油は、後続の第9油路L9に供給され、さらに圧力調節用の比例電磁制御弁V9を経て第10油路L10へ供給される。この第10油路L10へ供給された圧油は、旋回制動状態を制御するための制動制御用電磁弁V2のパイロット圧で制御される制動切換弁V10によって、減速伝動クラッチ59又は操向ブレーキ64の何れか一方へ選択的に供給される。第9油路L9の途中にはリリーフ弁V13が接続されている。
【0061】
第1油路L1に設けられた副変速用電磁弁V1は、図10に示す変速レバー80の握り部80aに設けた操作ボタン80bの操作により、第1油路L1から供給される圧油を後続の第3油路に供給する状態と、ミッションケース22内に戻す状態とに、交互に択一切り換え自在に構成してある。
【0062】
第3油路L3には開閉弁V5が接続されている。この開閉弁V5は、一次側圧が所定値以上に上昇するとクラッチギヤ39のシリンダ部39aへ圧油を供給する状態に切り替わり、一次側圧が所定値未満に低下すると復帰バネでシリンダ部39a及び摩擦クラッチ42から圧油をドレン側に開放する状態に切り替わるように構成されている。
【0063】
第3油路L3の途中から、摩擦クラッチ42のケース部42aと油圧ピストン42bとの間の油室に対して圧油を供給するための第4油路L4が分岐されている。この第4油路L4は、油路途中にアキュムレータ77を設けてあって、摩擦クラッチ42における油圧ピストン42bに対してはアキュムレータ77で設定された圧の圧油が供給される。アキュムレータ77を介して圧油が供給されるので、副変速用電磁弁V1の切換操作に伴って急速に圧油が供給された場合にも、アキュムレータ77の緩衝効果で、摩擦クラッチ42の摩擦板が急激に圧接されることを回避できる。
【0064】
第4油路L4のアキュムレータ77を設けた箇所と摩擦クラッチ42との間の箇所には、第4油路L4の圧をアンロード可能な第6油路L6が接続されている。図7に示すように、第6油路L6は絞りS1を備えるとともに、第6油路L6を閉塞することのできる弁機構V6が設けられている。弁機構V6では、クラッチギヤ39に圧油が供給されてシリンダ部39aが中間第1ギヤ40から離れる側へ移行すると、絞りS1がシリンダ部39bで閉塞されて第6油路L6の開放状態を阻止した状態に切り替わり、アキュムレータ77側から供給される圧で摩擦クラッチ42をクラッチ入り側へ操作するように構成してある。この時、第5油路L5も開閉弁V5で閉じられている。
【0065】
第1油路L1に設けられた制動制御用電磁弁V2は、図10に示すように、搭乗運転部に設けた旋回モード切換スイッチ84で切換操作されるように構成されている。つまり、旋回モード切換スイッチ84が「緩」の位置に操作されていると、制動制御用電磁弁V2は図9に図示されるように、第1油路L1からのパイロット圧が制動切換弁V10側に作用しない状態となり、減速伝動クラッチ59が作用する状態となる。旋回モード切換スイッチ84が「信地」の位置に操作されていると、制動制御用電磁弁V2は図9に図示される状態から切り換えられて、第1油路L1からのパイロット圧が制動切換弁V10側に作用する状態となり、制動切換弁V10が操向ブレーキ64を操作する側に切り換えられる。
【0066】
第9油路L9に設けられた圧力調節用の比例電磁制御弁V9は、図10に示す操向レバー83の左右何れかへの操作量をポテンショメータ83aで検出し、その操作量に基づいて操向ブレーキ64又は減速伝動クラッチ59に対する第10油路L10からの供給圧を変化させるように、制御装置100からの制御信号に基づいて制御される。
【0067】
第1油路L1に設けられた操向用電磁弁V3,V4は、図10に示すように、搭乗運転部に設けた操向レバー83によって切換操作されるように構成してある。すなわち、操向レバー83が中立位置Nに位置している状態では、操向用電磁弁V3,V4の何れもが作用しない機体直進状態となっている。
【0068】
操向レバー83が右側の旋回位置R1に操作されると、右用の操向用電磁弁V3が入り側に操作されて、右側の操向クラッチギヤ52と右側の伝動クラッチ56との双方を操作する右用のパイロット弁V8に圧油が供給される。この時、比例電磁制御弁V9は閉じ側の状態にあり、第10油路L10には圧油が供給されないので、旋回モード切換スイッチ84の位置に関わらず右の走行装置1が遊転状態となる。
【0069】
操向レバー83が右側の旋回位置R2に操作されると、比例電磁制御弁V9は入り側の状態となり、第10油路L10には圧油が供給される。この時、旋回モード切換スイッチ84が「緩」の位置に操作されていると、制動制御用電磁弁V2は図9に図示されるように、第1油路L1からのパイロット圧が制動切換弁V10側に作用しない状態となる。よって、減速伝動クラッチ59に圧油が供給され、右の走行装置1が直進走行時よりも低速で駆動される。一方、旋回モード切換スイッチ84が「信地」の位置に操作されていると、制動制御用電磁弁V2は図9に図示される状態から切り換えられて、第1油路L1からのパイロット圧が制動切換弁V10側に作用する状態となる。よって、操向ブレーキ64に圧油が供給され、右の走行装置1にブレーキが掛かる。
【0070】
操向レバー83が左側の旋回位置L1に操作されると、左用の操向用電磁弁V4が入り側に操作されて、左側の操向クラッチギヤ52と左側の伝動クラッチ54との双方を操作する左用のパイロット弁V7に圧油が供給される。この時、比例電磁制御弁V9は閉じ側の状態にあり、第10油路L10には圧油が供給されないので、旋回モード切換スイッチ84の位置に関わらず右の走行装置1が遊転状態となる。
【0071】
操向レバー83が左側の旋回位置L2に操作されると、比例電磁制御弁V9は入り側の状態となり、第10油路L10には圧油が供給される。この時、旋回モード切換スイッチ84が「緩」の位置に操作されていると、制動制御用電磁弁V2は図9に図示されるように、第1油路L1からのパイロット圧が制動切換弁V10側に作用しない状態となる。よって、減速伝動クラッチ59に圧油が供給され、左の走行装置1が直進走行時よりも低速で駆動される。一方、旋回モード切換スイッチ84が「信地」の位置に操作されていると、制動制御用電磁弁V2は図9に図示される状態から切り換えられて、第1油路L1からのパイロット圧が制動切換弁V10側に作用する状態となる。よって、操向ブレーキ64に圧油が供給され、左の走行装置1にブレーキが掛かる。
【0072】
油圧ポンプ71とは別に設けたチャージポンプ72からの供給油路LLがHST23のチャージ油供給回路に接続されている。この供給油路LLにリリーフ弁V14が設けられている。
【0073】
〔始動時速度制御〕
エンジン6の始動時に制御装置100で実行される始動時速度制御について、図12のフローチャートに基づいて説明する。エンジン6が始動されると(#10)、第1変速装置Aの変速位置を、副変速レバー81に取り付けられた位置センサ81aによって検出する。制御装置100は、位置センサ81aの検出信号の立ち上がりエッジの検出時に第1変速装置Aが高速位置、立ち下がりエッジの検出時に第1変速装置Aが低速位置と認識して記憶する。
【0074】
位置センサ81aにより検出した第1変速装置Aの変速位置が低速位置か高速位置かを判定し(#11)、第1変速装置Aが高速位置であると判定されれば、第2変速装置Bを低速位置に操作する(#12)。すなわち、制御装置100は副変速用電磁弁V1を切り状態とすることによって、クラッチギヤ39を中間軸第1ギヤ40の横側部と噛み合っている状態とし、且つ摩擦クラッチ42を切り状態とする。一方、第1変速装置Aが低速位置であると判定されれば、第2変速装置Bを高速位置に操作する(#13)。すなわち、制御装置100は副変速用電磁弁V1を入り状態とすることによって、クラッチギヤ39を中間軸第1ギヤ40の横側部と離脱している状態とし、且つ摩擦クラッチ42を入り状態とする。以上で始動時速度制御が終了する。
【0075】
上記始動時速度制御が実行されることにより、エンジン6の始動時に走行副変速部32で得られる速度は、必ず中速の刈取作業速度となる。したがって、オペレータが遅すぎると感じたり、速すぎると感じたりすることによる違和感の発生を回避することができる。また、オペレータがエンジン6の始動時に必ず刈取作業速度が得られることを認識していれば、オペレータはそれを踏まえて作業をすぐに開始できるため、作業効率の低下を回避することができる。
【0076】
始動時速度制御の終了後は、オペレータが操作ボタン80b(図10参照)を操作すれば、移動速度(高速)又は低速刈取作業速度(低速)とすることができる。すなわち、始動時速度制御の終了時の第1変速装置Aの変速位置が高速位置(第2変速装置Bが低速位置)であった場合は、その後に操作ボタン80bを操作することにより、第2変速装置Bが高速位置に操作されて移動速度が得られる。始動時速度制御の終了時の第1変速装置Aの変速位置が低速位置(第2変速装置Bが高速位置)であった場合は、その後に操作ボタン80bを操作することにより、第2変速装置Bが低速位置に操作されて低速刈取作業速度が得られる。
【0077】
〔作業時速度制御〕
中速に相当する刈取作業速度の状態で第1変速装置Aが操作された場合に、制御装置100で実行される作業時速度制御について、図13のフローチャートに基づいて説明する。刈取作業速度の時に、副変速レバー81に取り付けられた位置センサ81aの検出信号の立ち上がりエッジ又は立ち下がりエッジを検出すると、第1変速装置Aが操作された判断され(#20)、作業時速度制御が開始される。
【0078】
次に、上記操作後の第1変速装置Aの変速位置が、高速位置か低速位置かを判定する(#21)。その結果、位置センサ81aの検出信号の立ち上がりエッジを検出し、第1変速装置Aが高速位置であると判定されれば、第2変速装置Bを低速位置に操作する(#22)。すなわち、制御装置100は副変速用電磁弁V1を切り状態とすることによって、クラッチギヤ39を中間軸第1ギヤ40の横側部と噛み合っている状態とし、且つ摩擦クラッチ42を切り状態とする。
【0079】
一方、位置センサ81aの検出信号の立ち下がりエッジを検出し、第1変速装置Aが低速位置であると判定されれば、第2変速装置Bを高速位置に操作する(#23)。すなわち、制御装置100は副変速用電磁弁V1を入り状態とすることによって、クラッチギヤ39を中間軸第1ギヤ40の横側部と離脱している状態とし、且つ摩擦クラッチ42を入り状態とする。以上で始動時速度制御が終了する。
【0080】
上記作業時速度制御が実行されることにより、刈取作業速度の状態で第1変速装置Aを操作した場合に、その操作前後において、走行副変速部32で得られる速度は刈取作業速度で維持されることになる。この後に操作ボタン80bを操作すると、作業時速度制御が終了するのであり、作業時速度制御が終了したときの第1変速装置Aの変速位置が高速位置(第2変速装置Bが低速位置)であった場合には、第2変速装置Bが高速装置に操作されて移動速度が得られ、作業時速度制御が終了したときの第1変速装置Aの変速位置が低速位置(第2変速装置Bが高速位置)であった場合には、第2変速装置Bが低速位置に操作されて低速刈取作業速度が得られる。
【0081】
また、上記制御によれば、第1変速装置Aを変速するための副変速レバー81(図10参照)を操作することによっては、走行副変速部32全体として変速されることはなく、第2変速装置Bを変速するための操作ボタン80b(図10参照)のプッシュオン・プッシュオフ操作のみによって変速が可能となる。速度差緩和手段Cを備えた第2変速装置Bでのみ変速されることにより、変速時の衝撃が緩和されるという効果も得られる。
【0082】
〔別実施形態〕
速度差緩和手段Cとしては、上記実施形態で示したように、油圧操作式の摩擦クラッチ42を採用したものに限らず、例えばシンクロメッシュ式の機械的なギヤ伝動装置や、このギヤ伝動装置を操作する油圧シリンダ等のアクチュエータ、流体を介して伝動する機構を採用するなど、適宜の構造を採用することができる。
【0083】
また、上記実施形態においては、第1変速装置Aを副変速レバー81の操作によってシフトギヤ35を機械的に動かす構成としたが、シフトギヤ35を操作する油圧式のアクチュエータと、このアクチュエータに作動油を供給する制御弁を備えた油圧回路で操作するものとしてもよい。また、第1変速装置Aの全体的な構成を、第2変速装置Bと全く同様なものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、上記実施形態で示した自脱型コンバインの他、普通型コンバインにも適用することができる。また、コンバイン以外の、玉ねぎ、人参などを各種の作物を収穫対象とするものや、運搬車、トラクタ、土工作業車などの各種作業車でクローラ走行装置を用いるものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 走行装置
6 エンジン
20 走行伝動装置(伝動系)
32 走行副変速部
80b 操作ボタン(操作具)
81 副変速レバー
100 制御装置
A 第1変速装置
B 第2変速装置
C 速度差緩和手段
V1 副変速用電磁弁(制御弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力を走行装置に伝達する伝動系に、複数段に変速可能な第1変速装置と、複数段に変速可能な第2変速装置とを直列に備え、
前記第1変速装置が低速位置で且つ前記第2変速装置が高速位置の場合の伝動比と、前記第1変速装置が高速位置で且つ前記第2変速装置が低速位置の場合の伝動比とが同じであり、
前記第1変速装置が高速位置で且つ前記第2変速装置が高速位置の場合は移動速度が得られ、
前記第1変速装置が高速位置で且つ前記第2変速装置が低速位置の場合、及び前記第1変速装置が低速位置で且つ前記第2変速装置が高速位置の場合は刈取作業速度が得られ、
前記第1変速装置が低速位置で且つ前記第2変速装置が低速位置の場合は低速刈取作業速度が得られ、
前記エンジンの始動時に、前記第1変速装置が低速位置にあれば前記第2変速装置を高速位置に操作し、前記第1変速装置が高速位置にあれば前記第2変速装置を低速位置に操作する制御装置を備えた刈取収穫機の走行変速装置。
【請求項2】
前記第2変速装置は、人為的に操作される操作具の操作により制御弁が切り換えられ、前記制御弁からの作動油により変速操作されるように構成してある請求項1に記載の刈取収穫機の走行変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−94702(P2011−94702A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249252(P2009−249252)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】