制御装置
【課題】トルク指令に周期的なトルク振動が含まれる場合であっても、電流指令に対する追従性能を向上させるとともに、矩形波制御が実行される場合に、制御系が不安定になることを抑制できる交流回転電機の制御装置が求められる。
【解決手段】電圧制御部は、第一変調率域ではパルス幅変調制御を実行し、第二変調率域では矩形波制御を実行し、電流フィードバック制御部は、トルク指令に周期的なトルク振動が含まれる場合に、振動周波数の周期関数の特性を有する高調波モデルにより二相電圧指令を算出し、トルク電流演算部は、第一変調率域において変調率が増加するに従ってトルク振動の振幅を減少させ、第二変調率域でトルク振動の振幅をゼロとするように、トルク指令に含まれる前記トルク振動の制限を実行する制御装置。
【解決手段】電圧制御部は、第一変調率域ではパルス幅変調制御を実行し、第二変調率域では矩形波制御を実行し、電流フィードバック制御部は、トルク指令に周期的なトルク振動が含まれる場合に、振動周波数の周期関数の特性を有する高調波モデルにより二相電圧指令を算出し、トルク電流演算部は、第一変調率域において変調率が増加するに従ってトルク振動の振幅を減少させ、第二変調率域でトルク振動の振幅をゼロとするように、トルク指令に含まれる前記トルク振動の制限を実行する制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源の直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータを介して、ロータを有する交流回転電機を制御するための制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような制御装置に関して、例えば下記の特許文献1には、交流回転電機が内燃機関に連結され、内燃機関から伝達される周期的なトルク振動を制振するためのトルクを交流回転電機に出力させる技術が開示されている。この際、交流回転電機に対するトルク指令は、伝達トルク振動の逆位相のトルク指令とされる。
【0003】
しかしながら、トルク指令に周期的なトルク振動が含まれると、トルク指令に基づいて電流指令を演算する際に、電流指令にトルク振動の周波数よりも高次の周波数の振動成分が生じる。このため、電流指令に対する実電流の良好な追従性能を得るための電流フィードバック制御系の設計が難しくなる恐れがあった。
【0004】
また、インバータの制御方式として、下記の特許文献2には、パルス幅変調制御、又は矩形波制御を行う技術が開示されている。しかしながら、矩形波制御は、インバータの出力電圧波形を、電気角の回転周期で1回だけオンオフする制御であるため、トルク指令に含まれる周期的なトルク振動に応じた振動成分を、インバータの出力電圧波形に反映させることができない。このため、矩形波制御が実行される場合に、トルク指令に周期的なトルク振動が含まれると、制御系が不安定化しやすくなる恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−33969号公報
【特許文献2】特開2010−119245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、トルク指令に周期的なトルク振動が含まれる場合であっても、トルク指令に基づいて算出される電流指令に対する追従性能を向上させるとともに、矩形波制御が実行される場合に、トルク指令に含まれる周期的なトルク振動により、制御系が不安定になることを抑制できる交流回転電機の制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る、直流電源の直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータを介して、ロータを有する交流回転電機を制御するための制御装置の特徴構成は、前記ロータの電気角に同期して回転する二軸の回転座標系である二軸回転座標系を用い、前記交流回転電機に出力させるトルク指令に基づいて、前記交流回転電機に流す電流の指令値を前記二軸回転座標系で表した二相電流指令を演算するトルク電流演算部と、前記交流回転電機に流れる実電流に基づいて、前記二軸回転座標系で表した二相実電流を演算する実電流演算部と、前記交流回転電機に印加する電圧指令を前記二軸回転座標系で表した二相電圧指令を、前記二相実電流が前記二相電流指令に近づくように変化させる電流フィードバック制御部と、前記二相電圧指令に基づいて、前記交流回転電機に印加する交流電圧指令を算出し、前記交流電圧指令に基づいて前記交流回転電機に印加する電圧を制御する電圧制御部と、前記直流電源の直流電圧に対する前記交流回転電機に印加される交流電圧の実効値の割合である変調率を算出する変調率演算部と、を備え、前記電圧制御部は、前記変調率の所定域である第一変調率域ではパルス幅変調制御を実行し、当該第一変調率域よりも高い前記変調率の域である第二変調率域では矩形波制御を実行し、前記電流フィードバック制御部は、前記トルク指令に周期的なトルク振動が含まれる場合に、前記トルク振動の周波数の周期関数の特性を有する高調波モデルを用いた演算を少なくとも実行して前記二相電圧指令を算出し、前記トルク電流演算部は、前記第一変調率域の中の少なくとも前記第二変調率域に隣接する領域において前記変調率が増加するに従って前記トルク振動の振幅を減少させ、前記第二変調率域で前記トルク振動の振幅をゼロとするように、前記トルク指令に含まれる前記トルク振動の制限を実行する点にある。
【0008】
なお、本願において「交流回転電機」は、交流駆動のモータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0009】
上記の特徴構成によれば、周期的なトルク振動が含まれるトルク指令を二軸回転座標系で表した二相電流指令にもトルク振動の周波数の振動成分が含まれる。電流フィードバック制御部は、二相電流指令に含まれるトルク振動の周波数の周期関数と同様の特性を有する高調波モデルを、制御系内に有している。このため、内部モデル原理より、二相電流指令に含まれる周期的な振動成分に対して、定常偏差を減少させて二相実電流を追従させることが可能となり、トルク指令に含まれる周期的なトルク振動に対する実トルクの追従性を向上させることができる。
【0010】
但し、矩形波制御が実行される場合は、インバータの出力電圧波形が1パルスの矩形波であるため、インバータの出力電圧波形に、周期的な振動成分を重畳させることができない。このため、周期的なトルク振動が含まれるトルク指令に基づいて、周期的に振動する二相電流指令を設定し、高調波モデルを有する電流フィードバック制御により二相電圧指令を周期的に振動させても、最終的なインバータの出力電圧波形に周期的な振動成分を重畳させることができない。よって、矩形波制御が実行される場合は、電流フィードバック制御系が、トルク指令に含まれる周期的なトルク振動に対して追従せず、制御系が不安定化しやすくなる。上記の特徴構成によれば、矩形波制御が実行される第二変調率域では、トルク振動の振幅がゼロまで制限されるので、制御系が不安定化することを抑制でき、回転電機の出力トルクがトルク指令から大きく変動することを抑制できる。
【0011】
また、第一変調率域の中の少なくとも第二変調率域に隣接する領域では、インバータの出力電圧波形が矩形波に近くなるため、変調率が第二変調率域に近づくに従い、トルク振動に対する追従性能が悪化する。上記の特徴構成によれば、第二変調率域に隣接する領域では、変調率が増加するに従ってトルク振動の振幅が減少されるので、トルク振動に対する追従性能の悪化の影響を軽減できる。
また、上記の構成によれば、変調率が増加するに従ってトルク振動の振幅が減少されるので、第二変調率域と、第二変調率域に隣接する領域との間で、トルク指令に含まれるトルク振動の振幅が急変することを防止できる。その結果、当該トルク振動の振幅の急変により、制御系の挙動が一時的に不安定になったり、急激な出力トルクの変動が生じたりすることを防止できる。
【0012】
ここで、前記電流フィードバック制御部は、前記矩形波制御が実行される場合は、前記高調波モデルを用いた演算を停止して、比例積分演算により前記二相電圧指令を算出すると好適である。
【0013】
矩形波制御では、二相実電流に電気角の回転周波数の3次以上の高調波成分が重畳されやすい。上記の構成によれば、矩形波制御が実行される場合は、高調波モデルを用いた演算が停止される。このため、二相実電流に重畳する3次以上の高調波成分に対して高調波モデルが反応して、高調波モデルの出力が発散傾向になって大きく変動することを防止できる。
【0014】
ここで、前記トルク電流演算部は、前記トルク振動に応じて振動する前記変調率の振動最大値が増加するに従って前記トルク振動の振幅を減少させる前記トルク振動の制限を実行すると好適である。
【0015】
この構成によれば、変調率の振動最大値が増加するに従って、トルク振動の振幅を減少させているので、例えば、変調率の振動中心値が第一変調率域内にあるような場合においても、変調率の振動最大値が、第二変調率域内にならないように、トルク振動の振幅を低減させることができる。
また、これにより、トルク指令に周期的なトルク振動が含まれる場合に、トルク振動周期内で部分的に矩形波制御が実行されることを防止することができる。
【0016】
ここで、前記第一変調率域は、前記交流電圧指令の振幅が前記直流電圧以下となる変調率域である第1A変調率域と、前記交流電圧指令の振幅が前記直流電圧より大きくなる変調率域である第1B変調率域と、を含み、前記電圧制御部は、前記パルス幅変調制御として、前記第1A変調率域では通常パルス幅変調制御を実行し、前記第1B変調率域では過変調パルス幅変調制御を実行し、前記トルク電流演算部は、前記第1A変調率域では、前記トルク指令に含まれる前記トルク振動の制限を実行せず、前記第1B変調率域で、前記トルク振動の制限を実行すると好適である。
【0017】
この構成によれば、交流電圧指令の振幅が直流電圧より大きくなる第1B変調率域で実行される過変調パルス幅変調制御では、インバータの出力電圧がオン又はオフに固定される期間が生じ、この期間では、周期的な振動成分をインバータの出力電圧波形に反映させることが困難になる。このため、過変調パルス幅変調制御では、電気角の回転周期内で部分的に、電流フィードバック制御系が、トルク指令に含まれる周期的なトルク振動に対して働かず、トルク振動に対する追従性能が悪化する。上記の構成によれば、第1B変調率域で、トルク振動の制限が実行されるので、過変調パルス変調制御におけるトルク振動に対する追従性能の悪化の影響を軽減できる。
一方、交流電圧指令の振幅が直流電圧以下になる第1A変調率域で実行される通常パルス幅変調制御では、周期的な振動成分をインバータの出力電圧波形に反映させることができる。よって、通常パルス幅変調制御では、電流フィードバック制御系が、トルク指令に含まれる周期的なトルク振動に対して良好な追従性能を示すことができる。上記の構成によれば、第1A変調率域で、トルク振動の制限を実行しないので、周期的なトルク振動に対して良好な追従性能が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る二軸回転座標系を説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するタイムチャートである。
【図9】本発明の実施形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図11】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図12】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図13】本発明の実施形態に係る装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
交流回転電機MGは、ロータ及びステータを有している。ステータは、非回転部材に固定され、ロータは、当該ステータの径方向内側に回転自在に支持されている。本実施形態では、交流回転電機MGは、ロータ内部に永久磁石を埋め込んだ埋込磁石同期電動機(IPMSM)とされている。なお、永久磁石の代わりに電磁石が備えられていてもよい。
図1に示すように、交流回転電機MGのステータに備えられた三相のコイルは、直流交流変換を行うインバータINを介して直流電源としての蓄電装置Btに電気的に接続されている。そして、交流回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。インバータINは、蓄電装置Btの直流電力を交流電力に変換して交流回転電機MGを駆動するため、或いは交流回転電機MGが発電した交流電力を直流電力に変換して蓄電装置Btに充電するための複数のスイッチング素子を備えている。
【0020】
制御装置30は、直流電源の直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータINを介して、交流回転電機MGを制御するための装置である。制御装置30は、図1に示すように、出力トルク指令設定部39、トルク電流演算部40、実電流演算部41、電流フィードバック制御部42、電圧制御部47としての交流電圧指令算出部43及びインバータ制御部44、変調率演算部48を備えている。
出力トルク指令設定部39は、交流回転電機MGに出力させるトルク指令である出力トルク指令値Tmoを設定する。トルク電流演算部40は、出力トルク指令値Tmoに基づいて、交流回転電機MGに流す電流の指令値を後述するdq軸回転座標系(二軸回転座標系)で表した二相電流指令Idc、Iqcを演算する。実電流演算部41は、交流回転電機MGに流れる実電流に基づいて、dq軸回転座標系で表した二相実電流Id、Iqを演算する。電流フィードバック制御部42は、交流回転電機MGに印加する電圧指令をdq軸回転座標系で表した二相電圧指令Vdc、Vqcを、二相実電流Id、Iqが二相電流指令Idc、Iqcに近づくように変化させる。そして、交流電圧指令算出部43は、二相電圧指令Vdc、Vqcに基づいて、交流回転電機MGに印加する交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを算出する。インバータ制御部44は、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づいて、インバータINを介して交流回転電機MGに印加する電圧を制御する。また、変調率演算部48は、直流電源の直流電圧VHに対する交流回転電機MGに印加される交流電圧の実効値の割合である変調率Mを算出する。
なお、dq軸回転座標系が、本発明における「二軸回転座標系」に相当する。
【0021】
ここで、dq軸回転座標系は、図2にモデルを示すように、ロータの電気角に同期して回転するd軸及びq軸からなる二軸の回転座標系である。
d軸は、ロータに備えられた磁石の界磁磁束の方向(N極方向)に定められ、q軸は、d軸に対して電気角で90度位相が進んだ方向に定められている。
本実施形態では、ステータに備えられたU相コイルを基準にした場合の、d軸(磁極)の電気角を磁極位置θreとし、d軸(磁極)の電気角速度を磁極回転速度ωreとする。
【0022】
このような構成において、電圧制御部47は、変調率Mの所定域である第一変調率域ではパルス幅変調制御を実行し、当該第一変調率域よりも高い変調率Mの域である第二変調率域では矩形波制御を実行する。また、電流フィードバック制御部42は、出力トルク指令値Tmoに周期的なトルク振動が含まれる場合に、当該トルク振動の周波数の周期関数の特性を有する高調波モデルを用いた演算を少なくとも実行して二相電圧指令Vdc、Vqcを算出する。そして、トルク電流演算部40は、第一変調率域の中の少なくとも第二変調率域に隣接する領域において変調率Mが増加するに従ってトルク振動の振幅を減少させ、第二変調率域でトルク振動の振幅をゼロとするように、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の制限を実行する点に特徴を有している。
以下、本実施形態に係る制御装置30について、詳細に説明する。
【0023】
1.制御装置30の構成
次に、交流回転電機MGを制御するための制御装置30の構成について説明する。
制御装置30は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、制御装置30のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、図1に示すような制御装置30の機能部39〜49などが構成されている。
【0024】
制御装置30には、センサSe1、Se2、Se3から出力される電気信号が入力される。制御装置30は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。
電流センサSe1は、各相のコイルに流れる電流を検出するためのセンサであり、インバータINと各相のコイルとをつなぐ電線上に備えられている。制御装置30は、電流センサSe1の入力信号に基づいて各相のコイルを流れる実電流Iu、Iv、Iwを検出する。
回転速度センサSe2は、ロータの回転速度及び回転角度を検出するためのセンサであり、ロータの回転軸に取り付けられている。制御装置30は、回転速度センサSe2の入力信号に基づいて、交流回転電機MGの磁極位置θre、磁極回転速度ωreを検出する。なお、回転速度センサSe2として、レゾルバ、又はロータリエンコーダなどが用いられる。
電圧センサSe3は、直流電源の直流電圧VHを検出するためのセンサであり、本実施形態では、蓄電装置BtとインバータINとをつなぐ電線上に備えられている。制御装置30は、電圧センサSe3の入力信号に基づいて、直流電圧VHを検出する。なお、電圧センサSe3は、蓄電装置BtとインバータINとの間にDC−DCコンバータが備えられる場合には、DC−DCコンバータとインバータINとをつなぐ電線上に備えられる。すなわち、電圧センサSe3により検出される直流電圧VHは、インバータINのスイッチング素子に供給されている直流電圧であり、スイッチング素子がオンの場合に交流回転電機MGに印加される電圧である。
【0025】
制御装置30は、交流回転電機MGの動作制御を行う制御装置である。図1に示すように、制御装置30は、出力トルク指令設定部39、トルク電流演算部40、実電流演算部41、電流フィードバック制御部42、交流電圧指令算出部43、及びインバータ制御部44など、の機能部を備えており、各機能部が協働して、出力トルク指令値Tmoのトルクを交流回転電機MGに出力させるように制御する。
【0026】
1−1.制御モードの決定
1−1−1.インバータINの制御方式
制御モード決定部49は、インバータINの制御方式を、変調率Mの所定域である第一変調率域ではパルス幅変調制御(PWM:Pulse Width Modulation)に決定し、当該第一変調率域よりも高い変調率Mの域である第二変調率域では矩形波制御に決定する。本実施形態では、図3に示すように、第一変調率域は、変調率Mが0.0以上、0.78未満の範囲に設定されており、第二変調率域は、変調率Mが0.78に設定されている。
ここで、パルス幅変調制御は、代表的には、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcと搬送波とに基づいて、インバータINのスイッチング素子をオンオフして回転電機MGに電圧を印加する制御であり、電気角の回転周期でコイル各相への電圧印加が2回以上オンオフされる。
矩形波制御は、電気角の回転周期内で、オン期間及びオフ期間の比が1:1である矩形波1パルス分をコイル各相に印加する制御であり、電気角の回転周期でコイル各相への電圧印加が1回だけオンオフされる。
変調率Mは、直流電圧VHに対する、インバータINの出力電圧波形(印加電圧波形)の基本波成分(電気角の回転周波数(ωre)の正弦波又は余弦波成分)の割合を表す。
【0027】
また、本実施形態では、制御モード決定部49は、パルス幅変調制御として、第1A変調率域では通常パルス幅変調制御に決定し、第1B変調率域では過変調パルス幅変調制御に決定する。
第1A変調率域は、第一変調率域で交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcの振幅が直流電圧VH以下となる変調率域に設定されている。第1B変調率域は、第一変調率域で交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcの振幅が直流電圧VHより大きくなる変調率域に設定されている。
本実施形態では、通常パルス幅変調制御として、正弦波パルス幅変調制御が設定されているので、第1A変調率域は、変調率Mが0.0以上、0.61以下の範囲に設定され、第1B変調率域は、変調率Mが0.61より大きく、0.78未満の範囲に設定されている。
【0028】
1−1−2.ベクトル制御方式
制御モード決定部49は、ベクトル制御方式を、第一変調率域では最大トルク電流制御に決定し、第二変調率域では弱め磁束制御に決定するように構成されている。
【0029】
1−1−3.制御モードの決定
本実施形態では、制御モード決定部49は、図4に示すような、予め設定された制御モード決定マップを用いて、磁極回転速度ωre及び出力トルク指令値Tmoに基づいて、インバータINの制御方式及びベクトル制御方式を決定するように構成されている。
制御モード決定マップは、上記のような各変調率域に対応して、図4に示すような磁極回転速度ωre及び出力トルク指令値Tmoの座標系(以下、回転トルク座標系と称する)における所定の領域毎に、インバータINの制御方式及びベクトル制御方式が予め設定されたマップとされている。
例えば、第一変調率域(0.0≦M<0.78)、第1A変調率域(0.0≦M≦0.61)、第1B変調率域(0.61<M<0.78)は、最大トルク電流制御が実行される条件では、図4に示すような回転トルク座標系における所定の領域に対応する。また、第二変調率域(M=0.78)は、弱め磁束制御が実行される条件では、図4に示すような回転トルク座標系における所定の領域に対応する。
なお、図4に、第一変調率域内(0.0≦M<0.78)における、最大トルク電流制御が実行される条件での、等変調率曲線をM=0.05〜0.75まで、ΔM=0.05間隔で示している。等変調率曲線は、所定の変調率Mとなる回転トルク座標系における座標点の軌跡である。なお、第一変調率域と第二変調率域との境界曲線は、M=0.78の等変調率曲線であり、第1A変調率域と第1B変調率域との境界曲線は、M=0.61の等変調率曲線である。
【0030】
なお、制御モード決定部49は、変調率演算部48が算出した変調率Mに応じて、インバータINの制御方式及びベクトル制御方式を決定するように構成されてもよい。
【0031】
1−2.出力トルク指令値の設定
出力トルク指令値Tmoには、周期的なトルク振動が含まれる場合がある。
本実施形態では、出力トルク指令設定部39は、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動成分となる振動トルク指令値Tpを算出する周期振動トルク指令設定部58と、周期的なトルク振動成分を含まない指令値であって、振動している出力トルク指令値Tmoの中心値となる基準トルク指令値Tbを算出する基準トルク指令設定部57と、を備えるように構成されている。そして、出力トルク指令設定部39は、基準トルク指令値Tbと、振動トルク指令値Tpと、を加算した値を、出力トルク指令値Tmoとして設定するように構成されている。なお、出力トルク指令値Tmoが、本発明における「トルク指令」に相当する。
本実施形態では、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動は、正弦波状にされている。
具体的には、振動トルク指令値Tpは、式(1)に示すように、トルク振動周波数ωp(角周波数)の正弦波とされている。
【数1】
ここで、ΔTpは、振動トルク指令値Tpの振幅であり、αは、振動トルク指令値Tpの位相である。なお、振動トルク指令値Tpは、余弦波とされてもよい。
【0032】
1−3.トルク制御及び電流フィードバック制御
制御装置30は、出力トルク指令値Tmoに基づいて電流指令を算出し、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御により交流回転電機MGの制御を行うように構成されている。ベクトル制御では、電流指令をdq軸回転座標系で設定し、各相のコイルに流れる実電流Iu、Iv、Iwを、磁極位置θreに基づき、dq軸回転座標系で表した二相実電流Id、Iqに変換し、二相実電流Id、Iqが電流指令に近づくように、交流回転電機MGに印加する電圧を制御する電流フィードバック制御を行う。以下、本実施形態に係わるトルク制御及び電流フィードバック制御について詳細に説明する。
【0033】
1−3−1.トルク電流演算部40
トルク電流演算部40は、交流回転電機MGに出力させる出力トルク指令値Tmoに基づいて、交流回転電機MGに流す電流の指令値をdq軸回転座標系で表した二相電流指令Idc、Iqcを演算する機能部である。
本実施形態では、トルク電流演算部40は、振幅制限部51と二相電流指令演算部52とを備えている。そして、振幅制限部51は、上記のように、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の制限を実行するように構成されている。そして、二相電流指令演算部52は、振幅制限部51の処理後の出力トルク指令値Tmoに基づいて、二相電流指令Idc、Iqcを演算するように構成されている。なお、以下の実施形態の説明では、特に断らない限り、出力トルク指令値Tmoは、振幅制限部51の処理後の出力トルク指令値Tmo(Tmol)を指すものとする。
この節では、二相電流指令演算部52の処理について詳細に説明し、振幅制限部51の処理については、制御装置30の各部の処理を説明した後に、詳述する。
【0034】
1−3−1−1.二相電流指令演算部52
二相電流指令演算部52は、振幅制限部51の処理後の出力トルク指令値Tmo(Tmol)に基づいて、出力トルク指令値Tmoのトルクを交流回転電機MGに出力させるようなd軸電流指令Idc及びq軸電流指令Iqcを算出するように構成されている。
交流回転電機MGの出力トルクTmと、d軸実電流Id及びq軸実電流Iqとの関係は、式(2)で示すように表せる。
【数2】
ここで、Φは、永久磁石による鎖交磁束であり、Ldは、コイルのd軸インダクタンスであり、Lqは、コイルのq軸インダクタンスであり、Pnは、極対数である。埋込磁石構造では、Ld<Lqの突極性となる。
【0035】
<ベクトル制御方式>
式(2)から、交流回転電機MGに同じ大きさの出力トルクTmを出力させるような、d軸電流指令Idc及びq軸電流指令Iqcの組み合わせは無数に存在することがわかる。
そこで、トルク電流演算部40は、制御モード決定部49によって決定されたベクトル制御方式に従って、二相電流指令Idc、Iqcを演算する。
ベクトル制御方式が最大トルク電流制御に決定されている場合は、トルク電流演算部40は、同一電流に対して発生トルクを最大にするような二相電流指令Idc、Iqcを算出する。二相電流指令Idc、Iqcは、最大トルク電流曲線上(図5参照)に決定される。ここで、最大トルク電流曲線は、最大トルク電流制御を行う際に、二相実電流Id、Iqが取り得る値をつないでなる曲線である。
一方、ベクトル制御方式が弱め磁束制御に決定されている場合は、トルク電流演算部40は、負のd軸電流を流すことで、d軸電機子反作用による減磁効果を利用してd軸方向の磁束を減少させるように、二相電流指令Idc、Iqcを算出する。二相電流指令Idc、Iqcは、弱め磁束制御に対応して設定されている変調率M(本実施形態では、0.78)、直流電圧VH、及び磁極回転速度ωreに対応する定誘起電圧楕円(電圧制限楕円)上に決定される。
以下では、最大トルク電流制御が行われる場合を例に説明する。
【0036】
図5(a)に示すように、トルク電流演算部40は、出力トルク指令値Tmoが0から増加するにつれ、最大トルク電流曲線に沿って、q軸電流指令Iqcを0から増加させ、d軸電流指令Idcを0から減少させる。一方、トルク電流演算部40は、出力トルク指令値Tmoが0から減少するにつれ、最大トルク電流曲線に沿って、q軸電流指令Iqcを0から減少させ、d軸電流指令Idcを0から減少させる。図5(b)(c)に、出力トルク指令値Tmoに対する各電流指令Idc、Iqcの関係特性を示すように、q軸電流指令Iqcは、出力トルク指令値Tmoの増加に対して単調増加するように算出される。一方、d軸電流指令Idcは、出力トルク指令値Tmoが0未満の場合は、出力トルク指令値Tmoの増加に対して単調増加するように算出され、出力トルク指令値Tmoが0より大きい場合は、出力トルク指令値Tmoの増加に対して単調減少するように算出される。また、出力トルク指令値Tmoに対する各電流指令Idc、Iqcの関係特性は、曲線となっており、1次より大きい高次の関数となっている。
【0037】
<トルク指令が0を中心に振動している場合>
まず、図6(b)に示すように、出力トルク指令値Tmoが、0を中心に周期的に振動している場合について説明する。
この場合は、図6(a)に示すように、二相電流指令Idc、Iqcは、dq軸回転座標系において、最大トルク電流曲線上を、出力トルク指令値Tmoの振動最大値に対応した等トルク曲線と振動最小値に対応した等トルク曲線との間を振動するように決定される。図6(a)には、このようなdq軸回転座標系における二相電流指令Idc、Iqcの振動軌跡が太線で示されている。
【0038】
d軸電流指令Idc及びq軸電流指令Iqcは、図5(b)(c)に示すような関係特性に従い、出力トルク指令値Tmoに基づいて算出される。図6(b)に示すように、出力トルク指令値Tmoが、トルク振動周波数ωp(トルク振動周期2π/ωp)の正弦波で振動しているのに対して、d軸電流指令Idcは、主にトルク振動周波数ωpの2倍の周波数で振動し、q軸電流指令Iqcは、主にトルク振動周波数ωpと同じ周波数で振動している。このため、図6(b)の右側に、各波形をフーリエ変換した周波数特性を示すように、出力トルク指令値Tmoは、トルク振動周波数ωpの成分(基本波成分、1次)の振幅が大きいのに対して、d軸電流指令Idcは、トルク振動周波数ωpに対して、トルク振動周波数ωpの2倍の2次(2ωp)の周波数成分の振幅が大きくなっている。q軸電流指令Iqcは、トルク振動周波数ωpと同じ1次(ωp)の周波数成分の振幅が大きくなっている。
【0039】
また、出力トルク指令値Tmoに対する各電流指令Idc、Iqcの関係特性は、1次より大きい高次の関数となっているため、d軸電流指令Idcには、4次(4ωp)、6次(6ωp)の高次の周波数成分の振幅が生じており、q軸電流指令Iqcには、3次(3ωp)、5次(5ωp)の高次の周波数成分の振幅が生じている。
【0040】
<トルク指令が0を跨いで振動している場合>
次に、図7(b)に示すように、出力トルク指令値Tmoが、0より小さい値を中心に、0を跨いで周期的に振動している場合について説明する。
この場合は、図7(a)に示すように、出力トルク指令値Tmoの振動最大値に対応した等トルク曲線、振動最小値に対応した等トルク曲線、振動中心値に対応した等トルク曲線は、図6(a)に示す場合と比べて、q軸実電流Iqが小さくなる方にシフトしている。
【0041】
図7(b)に示すように、d軸電流指令Idcは、1次(ωp)と2次(2ωp)の周波数成分が組み合わさったような複雑な波形で振動し、q軸電流指令Iqcは、主に1次(ωp)の周波数で振動している。このため、図7(b)の右側に、各波形をフーリエ変換した周波数特性を示すように、d軸電流指令Idcには、1次(ωp)に加えて、2次(2ωp)、3次(3ωp)、4次(4ωp)、5次(5ωp)、及び6次(6ωp)の周波数成分の振幅も大きくなっている。q軸電流指令Iqcには、1次(ωp)に加えて、2次(2ωp)、4次(4ωp)、及び5次(5ωp)の周波数成分の振幅も大きくなっている。
【0042】
1−3−2.電流フィードバック制御部42
上記のように、出力トルク指令値Tmoに周期的なトルク振動が含まれる場合は、最大トルク電流曲線上に決定される各二相電流指令Idc、Iqcにも周期的な振動成分が含まれる。
また、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動が正弦波であっても、特に、出力トルク指令値Tmoが0を跨いで振動する場合は、d軸電流指令Idcには、1次より大きい高次の周波数成分が大幅に増加する。また、出力トルク指令値Tmoに対するq軸電流指令Iqcの関係特性は、出力トルク指令値Tmoの0付近では高次の関数成分が多く含まれるので、出力トルク指令値Tmoが0付近で振動する場合は、q軸電流指令Iqcには、1次より大きい高次の周波数成分が増加する。
【0043】
電流フィードバック制御において目標値となる二相電流指令Idc、Iqcに周期的な振動成分が含まれると、比例積分制御(PI制御)などの単純な制御だけでは、目標値に含まれる周期的な振動成分に対する実値の追従性能を確保しにくくなる。
そこで、二相電流指令Idc、Iqcに含まれる周期的な振動成分に対する追従性能を向上させるために、電流フィードバック制御部42は、出力トルク指令値Tmoに周期的なトルク振動が含まれる場合に、トルク振動周波数ωpの周波数に対応する周期関数の特性を有する高調波モデルを用いた演算を少なくとも実行して二相電圧指令を算出するように構成されている。
本実施形態では、電流フィードバック制御部42は、d軸電流及びq軸電流それぞれについて、高調波モデルを用いて高調波電圧指令Vhd、Vhqを算出するd軸高調波制御器53及びq軸高調波制御器56を備えている。
また、電流フィードバック制御部42は、d軸電流及びq軸電流それぞれについて、基本電圧指令Vbd、Vbqを算出するd軸比例積分制御器54及びq軸比例積分制御器55を備えている。
そして、電流フィードバック制御部42は、d軸高調波電圧指令Vhdと、d軸基本電圧指令Vbdと、を加算した値を、d軸電圧指令Vdcとして設定し、q軸高調波電圧指令Vhqと、q軸基本電圧指令Vbqと、を加算した値を、q軸電圧指令Vqcとして設定するように構成されている。
【0044】
ただし、電流フィードバック制御部42は、矩形波制御が実行される場合は、高調波制御器53、56における高調波モデルを用いた演算を停止して、比例積分制御器54、55により二相電圧指令Vdc、Vqcを算出するように構成されている。
【0045】
1−3−2−1.比例積分制御器
本実施形態では、各比例積分制御器54、55は、式(3)、式(4)に示すように、二相実電流Id、Iqと二相電流指令Idc、Iqcとの電流偏差に基づいて、比例演算及び積分演算を行って基本電圧指令Vbd、Vbqを算出する比例積分(PI)制御器とされている。
【数3】
【数4】
ここで、Kpdは、d軸比例ゲインであり、Kpqは、q軸比例ゲインであり、Kidは、d軸積分ゲインであり、Kiqは、q軸積分ゲインである。
【0046】
なお、各比例積分制御器54、55は、比例積分(PI)制御器以外の制御器、例えば、比例積分微分(PID)制御器とされていてもよい。
また、電流フィードバック制御部42には、各比例積分制御器54、55に加えて、式(5)に示すような、非干渉器が追加的に備えられてもよい。この場合は、非干渉器の算出値ΔVud、ΔVuqが、追加的に二相電圧指令Vdc、Vqcに加算される。
【数5】
【0047】
1−3−2−2.高調波制御器
<周期振動成分に対する追従誤差>
非干渉器が備えられる場合は、非干渉器の算出値ΔVud、ΔVuqを除いた二相電圧指令Vdc、Vqcに対する、交流回転電機MGを流れる二相実電流Id、Iqの応答を表す伝達関数は、式(6)で示すように、一次遅れで表せる。
【数6】
二相電流指令Idc、Iqcに周期的な振動成分が含まれない場合は、比例積分制御器54、55だけでも、二相電流指令Idc、Iqcに対して二相実電流Id、Iqを後述するような定常偏差なく追従させることができる。
しかし、二相電流指令Idc、Iqcには、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動周波数ωpの振動成分に起因して、トルク振動周波数ωpの1倍からn倍(nは2以上の自然数)の周期的な振動成分が含まれる。
この場合は、比例積分制御器54、55だけでは、二相電流指令Idc、Iqcの周期的な振動成分に対して二相実電流Id、Iqが位相遅れを持って追従し、定常偏差が生じる。例えば、図8のタイムチャートに示すように、時刻t11までの期間は、q軸比例積分制御器55だけでq軸電圧指令Vqcを算出しており、q軸実電流Iqは、周期振動しているq軸電流指令Iqcに対して位相遅れ及びゲイン低下を持って追従しており、定常偏差を有している。
【0048】
<内部モデル原理>
そこで、指令値に定常偏差なく追従させるために、フィードバック系の内部に、指令値の極と同じ極を有する制御器を導入することが有効であるという、内部モデル原理の制御理論を用いる。
二相電流指令Idc、Iqcには、式(7)のように表せる、トルク振動周波数ωpの1倍からn倍(nは2以上の自然数)の正弦波(又は余弦波)の周期振動成分が含まれている。
【数7】
式(7)の二相電流指令Idc、Iqcは、周波数領域(s領域)では、式(8)の伝達関数で表せる。ここで、sは、ラプラス演算子である。
【数8】
なお、二相電流指令Idc、Iqcが余弦波の場合は、式(9)の伝達関数で表せる。
【数9】
【0049】
式(7)、式(8)より、二相電流指令Idc、Iqcの極、すなわち、伝達関数の分母が0になるsは、式(10)となる。
【数10】
よって、内部モデル原理により、電流フィードバック制御部42の伝達関数Gfbは、式(11)のように、式(10)の極を有するように構成すれば、指令値に定常偏差なく追従させることが可能となる。
【数11】
式(11)の右辺の第一項は、比例積分制御器54、55の積分演算として含まれる。
【0050】
<高調波モデル>
よって、各高調波制御器53、56は、式(11)の右辺の第一項を削除した式(12)に示す伝達関数Ghの特性を有する高調波モデルを用いるように構成される。
【数12】
ここで、式(12)に示す高調波モデルの伝達関数Ghの分母(s2+(nωp)2)は、トルク振動周波数ωpのn倍(nは、1以上の自然数)の周波数の正弦波又は余弦波の周期関数に対応する伝達関数である。よって、各高調波制御器53、56が用いる高調波モデルは、トルク振動周波数ωpの1倍からn倍までの各周波数の正弦波又は余弦波の周期関数に対応する伝達関数(1/(s2+(nωp)2))の特性を並列した特性を有するように構成される。
【0051】
本実施形態では、式(13)に示すように、式(12)に示す高調波モデルの伝達関数Ghの分子Bn(s)を0次(sの0乗)の伝達関数、すなわち、定数に設定する場合を例に説明する。
【数13】
ここで、Kh1、Kh2、...は、トルク振動周波数ωpの1倍からn倍のそれぞれに対応する各高調波制御器53、56の制御ゲインであり、電流フィードバック制御系の応答性及び安定性を考慮して設定される。なお、制御ゲインKh1、Kh2、...は、トルク振動周波数ωpに比例して変更されるように構成されてもよい。
【0052】
なお、式(14)及び式(15)で示すように、高調波モデルの伝達関数Ghの分子Bn(s)を1次(sの1乗)又は2次(sの2乗)の伝達関数に設定してもよい。
【数14】
【数15】
ここで、Khp1、Khp2、...、及びKhi1、Khi2、...は、トルク振動周波数ωpの1倍からn倍のそれぞれに対応する各高調波制御器53、56の制御ゲインである。
【0053】
出力トルク指令値Tmoが0を跨いで振動する場合のように、二相電流指令Idc、Iqcにトルク振動周波数ωpの1倍からn倍の複数の周波数の振動成分が多く含まれる場合は、各周波数の振動成分による定常偏差を減少させるためには、各周波数に対応する複数の高調波モデルを並列して用いる必要がある。
よって、高調波制御器53、56それぞれの高調波モデルは、トルク振動周波数ωpの1倍からn倍までの各周波数の正弦波又は余弦波の特性(伝達関数では(1/(s2+(nωp)2))を有するように構成することができる。この場合、各二相電流指令Idc、Iqcに含まれる、各次数の成分の大きさに応じて、nの値が設定される。すなわち、比較的大きい振動成分を有する次数に対応する、次数(n)の高調波モデルが備えられる。
【0054】
例えば、図6及び図7に示すように、各二相電流指令Idc、Iqcに1次から4次の成分が比較的多く含まれるので、高調波制御器53、56それぞれの高調波モデルは、トルク振動周波数ωpの1倍から4倍(1次から4次)までの各周波数の正弦波又は余弦波の特性を有するように構成することができる。
【0055】
或いは、d軸電流指令Idcには、出力トルク指令値Tmoが0を跨いで振動する場合に、2次の成分が大幅に多くなるので、d軸高調波制御器53の高調波モデルは、トルク振動周波数ωpの1倍及び2倍(1次及び2次)の各周波数の正弦波又は余弦波の特性を有するように構成されてもよい。また、q軸電流指令Iqcには、出力トルク指令値Tmoが0を跨いで振動する場合でも、2次の成分が大幅に多くならない。従って、q軸高調波制御器56の高調波モデルは、トルク振動周波数ωpの1倍(1次)の周波数の正弦波又は余弦波の特性を有するように構成されてもよい。
【0056】
なお、式(13)の各周波数(nωp)の高調波モデルは、例えば、式(16)に示すように、2つの積分器(1/s)と、帰還ループを有する演算により、構成することができる。
【数16】
矩形波制御を実行する場合に、高調波モデルを用いた演算を停止する場合は、2つの積分器を0にリセットする。
【0057】
<高調波制御の挙動>
次に、図8を参照して、高調波制御の挙動を説明する。
図8では、q軸電流指令Iqcにおいて、トルク振動周波数ωp(1次)の成分の割合が大きい場合(図8では、100%)であって、q軸高調波制御器56が、トルク振動周波数ωp(1次)のみの正弦波又は余弦波の伝達関数(1/(s2+ωp2))の特性を有するように構成されている場合の例を示す。
時刻t11までは、高調波制御の効果をわかりやすくするために、高調波制御が実行されていない。すなわち、q軸高調波電圧指令Vhqが0に設定されており、q軸電圧指令Vqcは、q軸比例積分制御器55により算出されたq軸基本電圧指令Vbqからなる。高調波制御が実行されていない場合は、q軸基本電圧指令Vbqは、トルク振動周波数ωpで振動しているq軸電流指令Iqcにq軸実電流Iqを一致させるために周期変化しているが、q軸実電流Iqは、周期振動しているq軸電流指令Iqcに対して位相遅れ及びゲイン低下を持って追従しており、電流偏差に定常偏差を有している。
【0058】
一方、時刻t11で高調波制御が開始されると、q軸高調波電圧指令Vhqが、q軸電流指令Iqcとq軸実電流Iqとの電流偏差に応じて、トルク振動周波数ωpで自己励起的に振動し始めると共に振幅が増加していく。この際、高調波モデルは、電流偏差を積分すると共に自己励起的にトルク振動周波数ωpで振動して、q軸高調波電圧指令Vhqを生成するように作用する。また、電流偏差は、トルク振動周波数ωpで振動している。このため、トルク振動周波数ωpで振動しているq軸高調波電圧指令Vhqの位相は、電流偏差が減少する方向に進角又は遅角されると共に、q軸高調波電圧指令Vhqの振幅は、電流指令が減少する方向に増加又は減少される。よって、q軸電流指令Iqcとq軸実電流Iqとの電流偏差が減少していく。
【0059】
このため、電流偏差に応じて算出されるq軸基本電圧指令Vbqも減少していく。そして、時刻t12で、q軸高調波電圧指令Vhqによって、定常偏差を減少させてq軸実電流Iqをq軸電流指令Iqcに追従させることができ、q軸基本電圧指令Vbqの周期変化を0近くまで減少させることができている。
【0060】
1−4.実電流演算部41
図1に示すように、実電流演算部41は、交流回転電機MGを流れる実電流に基づいて、dq軸回転座標系で表した二相実電流Id、Iqを演算する機能部である。本実施形態では、実電流演算部41は、各相のコイルを流れる実電流Iu、Iv、Iwを、磁極位置θreに基づいて、三相二相変換及び回転座標変換を行って、dq軸回転座標系で表したd軸実電流Id、q軸実電流Iqに変換する。
【0061】
1−5.交流電圧指令算出部43
交流電圧指令算出部43は、電流フィードバック制御部42が算出した二相電圧指令Vdc、Vqcに基づいて、交流回転電機MGに印加する交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを算出する機能部である。
【0062】
<パルス幅変調制御>
交流電圧指令算出部43は、インバータINの制御方式としてパルス幅変調制御が決定されている場合は、dq軸回転座標系で表した二相電圧指令Vdc、Vqcを、磁極位置θreに基づいて、固定座標変換及び二相三相変換を行って、三相それぞれのコイルへの電圧指令である交流電圧指令Vu、Vv、Vwに変換する。
過変調パルス幅変調制御が決定されている場合は、インバータINの出力電圧波形における基本波成分の変調率が、目標とする変調率に一致するように、固定座標変換及び二相三相変換に加えて、交流電圧指令Vu、Vv、Vwを歪ませる振幅補正が行われる。
【0063】
<矩形波制御>
交流電圧指令算出部43は、インバータINの制御方式として矩形波制御が決定されている場合は、dq軸回転座標系で表した二相電圧指令ベクトルの位相θvを式(17)に従い算出し、磁極位置θreと位相θvに基づいて、位相が調整された1パルス矩形波の交流電圧指令Vu、Vv、Vwを算出する。
【数17】
ここで、二相電圧指令ベクトルは、dq回転座標系において原点から二相電圧指令Vdc、Vqcの座標点に向うベクトルである。二相電圧指令ベクトルの位相θvは、q軸に対する二相電圧指令ベクトルの電気角での位相である。
【0064】
1−6.インバータ制御部44
インバータ制御部44は、交流電圧指令Vu、Vv、Vwに基づき、インバータINが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成する。
<パルス幅変調制御>
インバータ制御部44は、インバータINの制御方式としてパルス幅変調制御が決定されている場合は、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcと搬送波とに基づいてスイッチング素子をオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成する。代表的には、直流電圧VHの振幅を有する三角波の搬送波と、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcと、の比較結果に基づき、インバータ制御信号Suvwが生成される。
あるいは、式(18)に基づいて算出された変調率Mと、式(17)に基づいて算出された二相電圧指令ベクトルの位相θvと、磁極位置θreと、に基づいて、スイッチング素子をオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成するように構成されてもよい。
【0065】
<矩形波制御>
インバータ制御部44は、インバータINの制御方式として矩形波制御が決定されている場合は、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づいてインバータ制御信号Suvwを生成する。
あるいは、矩形波制御が決定されている場合は、交流電圧指令算出部43は交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを算出せずに、インバータ制御部44は、磁極位置θreと二相電圧指令ベクトルの位相θvに基づいて、直接、インバータ制御信号Suvwを生成するように構成されてもよい。
【0066】
1−7.変調率演算部48
変調率演算部48は、直流電源の直流電圧VHに対する交流回転電機MGに印加される交流電圧の実効値の割合である変調率Mを算出する。
本実施形態では、変調率演算部48は、式(18)に示すように、二相電圧指令Vdc、Vqc及び直流電圧VHに基づいて、変調率Mを算出するように構成されている。
【数18】
【0067】
1−8.トルク振動の制限
次に、トルク電流演算部40において実行されるトルク振動の制限について詳細に説明する。
振幅制限部51は、上記のように、第一変調率域の中の少なくとも第二変調率域に隣接する領域において変調率Mが増加するに従ってトルク振動の振幅を減少させ、第二変調率域でトルク振動の振幅をゼロとするように、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の制限を実行する。
本実施形態では、振幅制限部51は、トルク振動に応じて振動する変調率Mの振動最大値Mmx(以下、最大変調率と称す)が増加するに従ってトルク振動の振幅を減少させるトルク振動の制限を実行するように構成されている。
また、振幅制限部51は、図10に示すように、通常PWM制御が実行される第1A変調率域(0.0≦M≦0.61)では、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の制限を実行せず、過変調PWM制御が実行される第1B変調率域(0.61<M<0.78)で、トルク振動の制限を実行するように構成されている。
【0068】
本実施形態では、図9に示すように、振幅制限部51は、トルク振動中心算出器60、トルク振動成分算出器61、最大変調率算出器62、及び振幅制限ゲイン算出器63を備えている。
【0069】
トルク振動成分算出器61は、出力トルク指令値Tmoに基づいて、トルク振動成分Tpを算出するように構成されている。周期振動トルク指令設定部58により設定された振動トルク指令値Tpの情報が得られる場合は、トルク振動成分算出器61は、振動トルク指令値Tpをそのままトルク振動成分Tpに設定する。振動トルク指令値Tpの情報が得られない場合は、出力トルク指令値Tmoに対してフィルタ処理などを行うことにより、トルク振動成分Tpを算出する。
トルク振動中心算出器60は、出力トルク指令値Tmoに基づいて、トルク振動中心値Tbを算出するように構成されている。基準トルク指令設定部57により設定された基準トルク指令値Tbの情報が得られる場合は、トルク振動中心算出器60は、基準トルク指令値Tbをそのままトルク振動中心値Tbに設定する。基準トルク指令値Tbの情報が得られない場合は、出力トルク指令値Tmoに対してフィルタ処理などを行うことにより、トルク振動中心値Tbを算出する。
【0070】
最大変調率算出器62は、トルク振動周波数ωpに応じた周波数で振動している変調率Mの最大値を算出可能に構成されている。例えば、トルク振動周期2π/ωp以上の長さに設定された周期間の変調率Mの最大値を算出するように構成できる。
そして、振幅制限ゲイン算出器63は、図10に示すような制限ゲイン設定マップを用い、最大変調率Mmxに基づいて、振幅制限ゲインKtを算出するように構成されている。
制限ゲイン設定マップは、最大変調率Mmxが第1A変調率域(0.0≦M≦0.61)内である場合は、振幅制限ゲインKtを1.0に設定し、最大変調率Mmxが第1B変調率域(0.61<M<0.78)内である場合は、最大変調率Mmxが増加するに従って、振幅制限ゲインKtを1.0から0.0まで徐々に減少させて設定するように構成されている。
【0071】
振幅制限部51は、トルク振動成分Tpに振幅制限ゲインKtを乗算して、振幅制限後のトルク振動成分Tplを算出する。そして、振幅制限部51は、振幅制限後のトルク振動成分Tplを、トルク振動中心値Tbに加算した値を、振幅制限部51の処理後の出力トルク指令値Tmo(Tmol)に設定する。
【0072】
<トルク振動制限の制御挙動>
次に、トルク振動制限の制御挙動について説明する。
図11に示すように、振幅制限部51の処理前の出力トルク指令値Tmoが、所定の振幅ΔTpで、所定値を中心に、0より大きい範囲をトルク振動周波数ωpで振動している条件において、磁極回転速度ωreを変化させる場合の例を示す。
磁極回転速度ωreが0から増加するに従い、変調率Mの振動中心が0から増加すると共に、変調率Mの振幅が0から増加していく。このことは、図11のトルク振動範囲を、図4に示した等変調率曲線に重ね書きした図12から理解できる。すなわち、図12に示すように、磁極回転速度ωreが0から増加するに従い、トルク振動中心値と交わる等変調率曲線の変調率Mが増加していく。また、磁極回転速度ωreが0から増加するに従い、トルク振動最小値と交わる等変調率曲線の変調率Mと、トルク振動最大値と交わる等変調率曲線の変調率Mと、の差、すなわち変調率Mの振幅が増加していく。
【0073】
<矩形波制御の課題>
まず、本実施形態とは異なりトルク振動の振幅を制限しないように構成された場合における課題について説明する。この場合は、図11に破線で示すように、変調率Mの振動中心値が、第二変調率域(M=0.78)まで増加する前(磁極回転速度ω3より低い回転速度)で、変調率Mの振動最大値が、第二変調率域まで増加している(磁極回転速度ω2)。この磁極回転速度ω2からω3では、図12に示すように、出力トルク指令値Tmoの振動中心値が、パルス幅変調制御が決定される領域にある場合でも、出力トルク指令値Tmoが、矩形波制御が決定される領域に亘って周期的に振動する。よって、インバータINの制御方式が矩形波制御に決定されている場合においても、出力トルク指令値Tmoが周期的に振動する。
【0074】
矩形波制御では、インバータINの出力電圧波形が1パルスの矩形波であるため、インバータINの出力電圧波形に、周期的な振動成分を重畳させることができない。このため、周期的なトルク振動が含まれる出力トルク指令値Tmoに基づいて、周期的に振動する二相電流指令Idc、Iqcを設定し、電流フィードバック制御により二相電圧指令Vdc、Vqcを周期的に振動させても、最終的なインバータINの出力電圧波形に周期的な振動成分を重畳させることができない。よって、矩形波制御では、電流フィードバック制御系が、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動に対して追従せず、制御系が不安定化しやすくなる。
従って、出力トルク指令値Tmoの振動中心値が、パルス幅変調制御が決定される領域にある場合でも、出力トルク指令値Tmoが、矩形波制御が決定される領域に亘って周期的に振動しないように、トルク振動の振幅を制限することが望ましい。なお、出力トルク指令値Tmoの振動中心値が、矩形波制御が決定される領域にある場合には、当然ながら、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動の振幅を0まで制限することが望ましい。
【0075】
また、矩形波制御における1パルス矩形波のインバータINの出力電圧波形は、電気角の回転周波数ωre(1次)の正弦波の基本波成分に加えて、3次(3ωre)、5次(5ωre)、7次(7ωre)、...の3次以上の高調波成分が重畳されてなる。このため、二相実電流Id、Iqには、電気角の回転周波数ωreの3次(3ωre)以上の高調波成分が重畳する。
一方、電流フィードバック制御部42には、高調波制御器53、56が備えられており、二相電流指令Idc、Iqcに含まれるトルク振動周波数ωpの1倍(1次)からn倍(n次)までの振動成分に対して追従性を向上させるために、高調波制御器53、56の高調波モデルは、トルク振動周波数ωpの1倍(1次)からn倍(n次)までの各周波数の周期関数の特性を有するように構成されている。
ここで、高調波モデルが有する周期関数の周波数と、矩形波制御により二相実電流Id、Iqに重畳する高調波の周波数と、が一致する場合であって、本実施形態と異なり矩形波制御が実行される際に高調波モデルを用いた演算を停止しないように構成された場合を考える。この場合には、トルク振動の振幅を0まで制限した場合でも、高調波モデルが二相実電流Id、Iqに重畳している高調波の振動成分に反応し、高調波モデルの出力が変動してしまう。この際、矩形波制御では、上記のように、周期的な振動成分に対して追従しないため、高調波モデルの出力が発散傾向になる。
従って、矩形波制御が実行される場合に、トルク振動の振幅を0まで制限した場合でも、高調波モデルが有する周期関数の周波数と、矩形波制御により二相実電流Id、Iqに重畳する高調波の周波数が一致する場合は、高調波モデルを用いた演算を停止する必要がある。
【0076】
<内燃機関のトルク振動を打ち消す場合の矩形波制御の課題>
特に、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動が、内燃機関Eから交流回転電機MGに伝達されるトルク振動を打ち消すためのトルク振動である場合は、高調波モデルを用いた演算を停止する必要性が高くなる。
具体的には、交流回転電機MGが、図13の例に示すように、内燃機関Eに駆動連結されるとともに、車輪Wに駆動連結されるように構成されている。図13に示す例では、交流回転電機MGと車輪Wとの動力伝達経路に変速機構TMが設けられている。
このような構成において、出力トルク指令値Tmoは、内燃機関Eから交流回転電機MGに伝達されるトルク振動を打ち消すためのトルク振動を含むように構成される。この場合、トルク振動周波数ωpは、内燃機関Eの燃焼周波数に応じた周波数になる。
例えば、気筒数Nの4サイクルエンジンでは、トルク振動周波数ωpは式(19)のようになる。
【数19】
ここで、ωmは、交流回転電機MG(内燃機関E)の回転周波数である。
なお、電気角の回転周波数ωreは、式(20)のようになる。
【数20】
例えば、気筒数N=4、極対数Pn=2、又は気筒数N=6、極対数Pn=3では、トルク振動周波数ωpと電気角の回転周波数ωreとは等しくなり、式(21)のようになる。
【数21】
この場合は、矩形波制御により二相実電流Id、Iqに重畳する高調波の内、電気角の回転周波数ωreの3次の周波数(3ωre)と、高調波モデルが有する周期関数の内、トルク振動周波数ωpの3次の周波数(3ωp)とが、一致する。よって、上記のように、高調波モデルを用いた演算を停止する必要性が高くなる。
【0077】
<過変調パルス幅変調制御の課題>
また、パルス幅変調制御でも、過変調パルス幅変調制御の場合は、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcの振幅が直流電圧VHより大きくなる。この交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcの振幅が直流電圧VHより大きくなっている期間では、インバータINの出力電圧がオン又はオフに固定されるため、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwc、又は二相電圧指令Vdc、Vqcに重畳しているトルク振動周波数ωpに応じた周期的な振動成分をインバータINの出力電圧波形に反映させることが困難になる。このため、過変調パルス幅変調制御では、電気角の回転周期内で部分的に、電流フィードバック制御系が、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動に対して働かず、トルク振動に対する追従性能が悪化する。このトルク振動に対する追従性の悪化は、変調率Mが0.61から0.78に近づくに従い増大する。
【0078】
従って、出力トルク指令値Tmoが、過変調パルス幅変調制御が決定される領域に亘って周期的に振動する場合は、トルク振動の振幅を制限することが望ましく、振動している変調率Mが0.78に近づくに従い、トルク振動の振幅制限を増大させることが望ましい。
【0079】
なお、パルス幅変調制御でも、通常パルス幅変調制御の場合は、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcの振幅が直流電圧VH以下になる。このため、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwc、又は二相電圧指令Vdc、Vqcに重畳しているトルク振動周波数ωpに応じた周期的な振動成分をインバータINの出力電圧波形に反映させることができる。よって、通常パルス幅変調制御では、電流フィードバック制御系が、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動に対して良好な追従性能を示すことができる。従って、出力トルク指令値Tmoが、通常パルス幅変調制御が決定される領域内で振動する場合は、トルク振動の振幅を制限する必要はない。
【0080】
<本実施形態の挙動>
次に、本実施形態によりトルク振動の振幅を制限するように構成された場合における制御挙動及び効果について説明する。
磁極回転速度ωreが0からω1の範囲内にある場合のように、最大変調率Mmxが、通常パルス幅変調制御が実行される第1A変調率域内(M=0〜0.61)にある場合は、振幅制限ゲインKtは1.0に設定されており、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動は制限されていない。この場合は、トルク振動の振幅を制限しなくとも、周期的なトルク振動に対して良好な追従性能が確保される。
【0081】
一方、最大変調率Mmxが、過変調パルス幅変調制御が実行される第1B変調率域内(0.61<M<0.78)及び矩形波制御が実行される第二変調率域内(M=0.78)になる場合(磁極回転速度ω1からω3)は、振幅制限ゲインKtが1.0から減少されており、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の振幅が制限されている。この場合において、最大変調率Mmxが第二変調率域内(M=0.78)にならずに、第1B変調率域内(0.61<M<0.78)になる場合(磁極回転速度ω1からω2)であっても、トルク振動の振幅が制限されている。これにより、振動している変調率Mが0.78に近づくに従い、トルク振動の振幅制限を増大させることができており、過変調パルス変調制御におけるトルク振動に対する追従性能の悪化の影響を軽減できる。また、トルク振動の振幅の制限を行わないように構成された場合に、最大変調率Mmxが第二変調率域内(M=0.78)になる場合(磁極回転速度ω2からω3)において、トルク振動の振幅が制限され、最大変調率Mmxが第二変調率域内になることを回避できている。これにより、矩形波制御において出力トルク指令値Tmoが周期的に振動することを防止できており、トルク振動に対する追従性の悪化を防止できる。
【0082】
また、変調率Mの振動中心値が、矩形波制御が実行される第二変調率域内(M=0.78)になる場合は、振幅制限ゲインKtが0.0まで減少されており、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の振幅が0まで制限されている。これにより、矩形波制御が実行される場合に、電流フィードバック制御系が不安定になることを抑制でき、交流回転電機MGの出力トルクが出力トルク指令値Tmoから大きく変動することを抑制できる。
また、上記のように、矩形波制御が実行される場合は、高調波モデルを用いた演算が停止されるため、矩形波制御において二相実電流Id、Iqに重畳する電気角の回転周波数ωreの3次(3ωre)以上の高調波成分に対して高調波モデルが反応し、高調波モデルの出力が発散傾向になって大きく変動することを防止できる。
特に、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動が、内燃機関Eのトルク振動を打ち消すためのトルク振動である場合は、高調波モデルの出力変動の防止効果が高くなる。
【0083】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0084】
(1)上記の実施形態において、通常パルス幅変調制御として、正弦波パルス幅変調制御が設定され、第1A変調率域が、変調率Mが0.0以上、0.61以下の範囲に設定され、第1B変調率域が、変調率Mが0.61より大きく、0.78未満の範囲に設定されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、通常パルス幅変調制御として、3次高調波注入パルス幅変調制御(THIPWM:third harmonics injection PWM)、空間パルス幅変調制御(SVPWM:space vector PWM)、又は不連続パルス幅変調制御(DPWM:discontinuous PWM)が設定されるように構成されてもよい。この場合は、第1A変調率域は、変調率Mが0.0以上、0.707以下の範囲まで広げられ、第1B変調率域は、変調率Mが0.707より大きく、0.78未満の範囲に狭められる。また、通常パルス幅変調制御として、第1A変調率域内の低い変調率域で正弦波PWMが設定され、高い変調率域でSVPWMなどが設定されるなど、第1A変調率域内で通常PWMの各方式が切り替え可能に構成されてもよい。
また、第1A変調率域と第1B変調率域との境界の変調率Mは、例えば、搬送波を生成する制御装置30のタイマの分解能などの制約により、0.61又は0.707より小さい値、例えば0.51に設定されてもよい。
【0085】
(2)上記の実施形態において、制御装置30に備えられた出力トルク指令設定部39が、出力トルク指令値Tmoを設定している場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、外部の装置から制御装置30に出力トルク指令値Tmo、又は振動トルク指令値Tpが伝達されるように構成されてもよい。
【0086】
(3)上記の実施形態において、出力トルク指令値Tmoにトルク振動周波数ωpの正弦波(又は余弦波)が含まれる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、出力トルク指令値Tmoが周期的なトルク振動が含まれればよく、例えば、周期的なトルク振動は、複数の異なる周波数の正弦波(又は余弦波)からなる波、或いは、三角波、のこぎり波、又は任意の波形の周期関数であってもよい。この場合でも、高調波モデルは、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の複数の異なる周波数に対応する周期関数の特性を有するように構成されてもよい。
【0087】
(4)上記の実施形態において、電流フィードバック制御部42は、矩形波制御が実行される場合は、高調波モデルを用いた演算を停止する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、高調波モデルが有する周期関数の周波数と、矩形波制御により二相実電流Id、Iqに重畳する高調波の周波数が一致しない場合は、矩形波制御が実行される場合でも、高調波モデルを用いた演算を停止せずに、当該演算を実行するように構成されてもよい。
【0088】
(5)上記の実施形態において、二相電圧指令Vdc、Vqcに基づいて算出される変調率Mに基づいて、トルク振動の振幅制限を実行する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、図4の等変調率曲線で示すように、磁極回転速度ωre及び出力トルク指令値Tmoの動作点毎に変調率Mが予め設定された変調率決定マップを用いて、磁極回転速度ωre及び出力トルク指令値Tmoに基づいて、変調率Mを算出し、当該変調率Mに基づいて、トルク振動の振幅制限を実行するように構成されてもよい。
【0089】
(6)上記の実施形態において、図10に示すような制限ゲイン設定マップを用いて、トルク振動の振幅制限を行う場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、最大変調率Mmxが増加するに従ってトルク振動の振幅を減少させる方法であればどのような方法でもよく、例えば、最大変調率Mmxが第二変調率域未満になるように、フィードバック的にトルク振動の振幅制限を増加させるように構成されてもよい。
【0090】
(7)上記の実施形態において、図10に示すように、振幅制限ゲインKtは、第1B変調率域内において、1.0から0.0まで直線的に減少されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、振幅制限ゲインKtは、第1B変調率域内において、1.0から0.0まで任意の曲線、又は直線の組み合わせに沿って減少されるように構成されてもよい。
また、トルク振動の振幅は、第二変調率域内においてゼロに制限されていればよく、第1B変調率域内の所定の変調率(例えば、M=0.73)から、第二変調率域(M=0.78)までの変調率域においても、トルク振動の振幅がゼロに制限されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、本発明は、直流電源の直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータを介して、ロータを有する交流回転電機を制御するための制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0092】
θre :磁極位置
θv :二相電圧指令ベクトルの位相
ωp :トルク振動周波数(角周波数)
ωre :磁極回転速度(電気角の回転周波数)
30 :制御装置
39 :出力トルク指令設定部
40 :トルク電流演算部
41 :実電流演算部
42 :電流フィードバック制御部
43 :交流電圧指令算出部
44 :インバータ制御部
47 :電圧制御部
48 :変調率演算部
49 :制御モード決定部
51 :振幅制限部
52 :二相電流指令演算部
53 :d軸高調波制御器
54 :d軸比例積分制御器
55 :q軸比例積分制御器
56 :q軸高調波制御器
57 :基準トルク指令設定部
58 :周期振動トルク指令設定部
60 :トルク振動中心算出器
61 :トルク振動成分算出器
62 :最大変調率算出器
63 :振幅制限ゲイン算出器
Bt :蓄電装置(直流電源)
IN :インバータ
Id :d軸実電流
Iq :q軸実電流
Idc :d軸電流指令
Iqc :q軸電流指令
Kt :振幅制限ゲイン
M :変調率
MG :交流回転電機
Mmx :最大変調率(変調率の振動最大値)
Pn :極対数
Se1 :電流センサ
Se2 :回転速度センサ
Se3 :電圧センサ
Suvw :インバータ制御信号
Tmo :出力トルク指令値(トルク指令)
VH :直流電圧
Vbd :d軸基本電圧指令
Vbq :q軸基本電圧指令
Vdc :d軸電圧指令
Vqc :q軸電圧指令
Vhd :d軸高調波電圧指令
Vhq :q軸高調波電圧指令
Vuc、Vvc、Vwc :交流電圧指令
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源の直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータを介して、ロータを有する交流回転電機を制御するための制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような制御装置に関して、例えば下記の特許文献1には、交流回転電機が内燃機関に連結され、内燃機関から伝達される周期的なトルク振動を制振するためのトルクを交流回転電機に出力させる技術が開示されている。この際、交流回転電機に対するトルク指令は、伝達トルク振動の逆位相のトルク指令とされる。
【0003】
しかしながら、トルク指令に周期的なトルク振動が含まれると、トルク指令に基づいて電流指令を演算する際に、電流指令にトルク振動の周波数よりも高次の周波数の振動成分が生じる。このため、電流指令に対する実電流の良好な追従性能を得るための電流フィードバック制御系の設計が難しくなる恐れがあった。
【0004】
また、インバータの制御方式として、下記の特許文献2には、パルス幅変調制御、又は矩形波制御を行う技術が開示されている。しかしながら、矩形波制御は、インバータの出力電圧波形を、電気角の回転周期で1回だけオンオフする制御であるため、トルク指令に含まれる周期的なトルク振動に応じた振動成分を、インバータの出力電圧波形に反映させることができない。このため、矩形波制御が実行される場合に、トルク指令に周期的なトルク振動が含まれると、制御系が不安定化しやすくなる恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−33969号公報
【特許文献2】特開2010−119245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、トルク指令に周期的なトルク振動が含まれる場合であっても、トルク指令に基づいて算出される電流指令に対する追従性能を向上させるとともに、矩形波制御が実行される場合に、トルク指令に含まれる周期的なトルク振動により、制御系が不安定になることを抑制できる交流回転電機の制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る、直流電源の直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータを介して、ロータを有する交流回転電機を制御するための制御装置の特徴構成は、前記ロータの電気角に同期して回転する二軸の回転座標系である二軸回転座標系を用い、前記交流回転電機に出力させるトルク指令に基づいて、前記交流回転電機に流す電流の指令値を前記二軸回転座標系で表した二相電流指令を演算するトルク電流演算部と、前記交流回転電機に流れる実電流に基づいて、前記二軸回転座標系で表した二相実電流を演算する実電流演算部と、前記交流回転電機に印加する電圧指令を前記二軸回転座標系で表した二相電圧指令を、前記二相実電流が前記二相電流指令に近づくように変化させる電流フィードバック制御部と、前記二相電圧指令に基づいて、前記交流回転電機に印加する交流電圧指令を算出し、前記交流電圧指令に基づいて前記交流回転電機に印加する電圧を制御する電圧制御部と、前記直流電源の直流電圧に対する前記交流回転電機に印加される交流電圧の実効値の割合である変調率を算出する変調率演算部と、を備え、前記電圧制御部は、前記変調率の所定域である第一変調率域ではパルス幅変調制御を実行し、当該第一変調率域よりも高い前記変調率の域である第二変調率域では矩形波制御を実行し、前記電流フィードバック制御部は、前記トルク指令に周期的なトルク振動が含まれる場合に、前記トルク振動の周波数の周期関数の特性を有する高調波モデルを用いた演算を少なくとも実行して前記二相電圧指令を算出し、前記トルク電流演算部は、前記第一変調率域の中の少なくとも前記第二変調率域に隣接する領域において前記変調率が増加するに従って前記トルク振動の振幅を減少させ、前記第二変調率域で前記トルク振動の振幅をゼロとするように、前記トルク指令に含まれる前記トルク振動の制限を実行する点にある。
【0008】
なお、本願において「交流回転電機」は、交流駆動のモータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0009】
上記の特徴構成によれば、周期的なトルク振動が含まれるトルク指令を二軸回転座標系で表した二相電流指令にもトルク振動の周波数の振動成分が含まれる。電流フィードバック制御部は、二相電流指令に含まれるトルク振動の周波数の周期関数と同様の特性を有する高調波モデルを、制御系内に有している。このため、内部モデル原理より、二相電流指令に含まれる周期的な振動成分に対して、定常偏差を減少させて二相実電流を追従させることが可能となり、トルク指令に含まれる周期的なトルク振動に対する実トルクの追従性を向上させることができる。
【0010】
但し、矩形波制御が実行される場合は、インバータの出力電圧波形が1パルスの矩形波であるため、インバータの出力電圧波形に、周期的な振動成分を重畳させることができない。このため、周期的なトルク振動が含まれるトルク指令に基づいて、周期的に振動する二相電流指令を設定し、高調波モデルを有する電流フィードバック制御により二相電圧指令を周期的に振動させても、最終的なインバータの出力電圧波形に周期的な振動成分を重畳させることができない。よって、矩形波制御が実行される場合は、電流フィードバック制御系が、トルク指令に含まれる周期的なトルク振動に対して追従せず、制御系が不安定化しやすくなる。上記の特徴構成によれば、矩形波制御が実行される第二変調率域では、トルク振動の振幅がゼロまで制限されるので、制御系が不安定化することを抑制でき、回転電機の出力トルクがトルク指令から大きく変動することを抑制できる。
【0011】
また、第一変調率域の中の少なくとも第二変調率域に隣接する領域では、インバータの出力電圧波形が矩形波に近くなるため、変調率が第二変調率域に近づくに従い、トルク振動に対する追従性能が悪化する。上記の特徴構成によれば、第二変調率域に隣接する領域では、変調率が増加するに従ってトルク振動の振幅が減少されるので、トルク振動に対する追従性能の悪化の影響を軽減できる。
また、上記の構成によれば、変調率が増加するに従ってトルク振動の振幅が減少されるので、第二変調率域と、第二変調率域に隣接する領域との間で、トルク指令に含まれるトルク振動の振幅が急変することを防止できる。その結果、当該トルク振動の振幅の急変により、制御系の挙動が一時的に不安定になったり、急激な出力トルクの変動が生じたりすることを防止できる。
【0012】
ここで、前記電流フィードバック制御部は、前記矩形波制御が実行される場合は、前記高調波モデルを用いた演算を停止して、比例積分演算により前記二相電圧指令を算出すると好適である。
【0013】
矩形波制御では、二相実電流に電気角の回転周波数の3次以上の高調波成分が重畳されやすい。上記の構成によれば、矩形波制御が実行される場合は、高調波モデルを用いた演算が停止される。このため、二相実電流に重畳する3次以上の高調波成分に対して高調波モデルが反応して、高調波モデルの出力が発散傾向になって大きく変動することを防止できる。
【0014】
ここで、前記トルク電流演算部は、前記トルク振動に応じて振動する前記変調率の振動最大値が増加するに従って前記トルク振動の振幅を減少させる前記トルク振動の制限を実行すると好適である。
【0015】
この構成によれば、変調率の振動最大値が増加するに従って、トルク振動の振幅を減少させているので、例えば、変調率の振動中心値が第一変調率域内にあるような場合においても、変調率の振動最大値が、第二変調率域内にならないように、トルク振動の振幅を低減させることができる。
また、これにより、トルク指令に周期的なトルク振動が含まれる場合に、トルク振動周期内で部分的に矩形波制御が実行されることを防止することができる。
【0016】
ここで、前記第一変調率域は、前記交流電圧指令の振幅が前記直流電圧以下となる変調率域である第1A変調率域と、前記交流電圧指令の振幅が前記直流電圧より大きくなる変調率域である第1B変調率域と、を含み、前記電圧制御部は、前記パルス幅変調制御として、前記第1A変調率域では通常パルス幅変調制御を実行し、前記第1B変調率域では過変調パルス幅変調制御を実行し、前記トルク電流演算部は、前記第1A変調率域では、前記トルク指令に含まれる前記トルク振動の制限を実行せず、前記第1B変調率域で、前記トルク振動の制限を実行すると好適である。
【0017】
この構成によれば、交流電圧指令の振幅が直流電圧より大きくなる第1B変調率域で実行される過変調パルス幅変調制御では、インバータの出力電圧がオン又はオフに固定される期間が生じ、この期間では、周期的な振動成分をインバータの出力電圧波形に反映させることが困難になる。このため、過変調パルス幅変調制御では、電気角の回転周期内で部分的に、電流フィードバック制御系が、トルク指令に含まれる周期的なトルク振動に対して働かず、トルク振動に対する追従性能が悪化する。上記の構成によれば、第1B変調率域で、トルク振動の制限が実行されるので、過変調パルス変調制御におけるトルク振動に対する追従性能の悪化の影響を軽減できる。
一方、交流電圧指令の振幅が直流電圧以下になる第1A変調率域で実行される通常パルス幅変調制御では、周期的な振動成分をインバータの出力電圧波形に反映させることができる。よって、通常パルス幅変調制御では、電流フィードバック制御系が、トルク指令に含まれる周期的なトルク振動に対して良好な追従性能を示すことができる。上記の構成によれば、第1A変調率域で、トルク振動の制限を実行しないので、周期的なトルク振動に対して良好な追従性能が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る二軸回転座標系を説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するタイムチャートである。
【図9】本発明の実施形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図11】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図12】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を説明するための図である。
【図13】本発明の実施形態に係る装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
交流回転電機MGは、ロータ及びステータを有している。ステータは、非回転部材に固定され、ロータは、当該ステータの径方向内側に回転自在に支持されている。本実施形態では、交流回転電機MGは、ロータ内部に永久磁石を埋め込んだ埋込磁石同期電動機(IPMSM)とされている。なお、永久磁石の代わりに電磁石が備えられていてもよい。
図1に示すように、交流回転電機MGのステータに備えられた三相のコイルは、直流交流変換を行うインバータINを介して直流電源としての蓄電装置Btに電気的に接続されている。そして、交流回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。インバータINは、蓄電装置Btの直流電力を交流電力に変換して交流回転電機MGを駆動するため、或いは交流回転電機MGが発電した交流電力を直流電力に変換して蓄電装置Btに充電するための複数のスイッチング素子を備えている。
【0020】
制御装置30は、直流電源の直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータINを介して、交流回転電機MGを制御するための装置である。制御装置30は、図1に示すように、出力トルク指令設定部39、トルク電流演算部40、実電流演算部41、電流フィードバック制御部42、電圧制御部47としての交流電圧指令算出部43及びインバータ制御部44、変調率演算部48を備えている。
出力トルク指令設定部39は、交流回転電機MGに出力させるトルク指令である出力トルク指令値Tmoを設定する。トルク電流演算部40は、出力トルク指令値Tmoに基づいて、交流回転電機MGに流す電流の指令値を後述するdq軸回転座標系(二軸回転座標系)で表した二相電流指令Idc、Iqcを演算する。実電流演算部41は、交流回転電機MGに流れる実電流に基づいて、dq軸回転座標系で表した二相実電流Id、Iqを演算する。電流フィードバック制御部42は、交流回転電機MGに印加する電圧指令をdq軸回転座標系で表した二相電圧指令Vdc、Vqcを、二相実電流Id、Iqが二相電流指令Idc、Iqcに近づくように変化させる。そして、交流電圧指令算出部43は、二相電圧指令Vdc、Vqcに基づいて、交流回転電機MGに印加する交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを算出する。インバータ制御部44は、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づいて、インバータINを介して交流回転電機MGに印加する電圧を制御する。また、変調率演算部48は、直流電源の直流電圧VHに対する交流回転電機MGに印加される交流電圧の実効値の割合である変調率Mを算出する。
なお、dq軸回転座標系が、本発明における「二軸回転座標系」に相当する。
【0021】
ここで、dq軸回転座標系は、図2にモデルを示すように、ロータの電気角に同期して回転するd軸及びq軸からなる二軸の回転座標系である。
d軸は、ロータに備えられた磁石の界磁磁束の方向(N極方向)に定められ、q軸は、d軸に対して電気角で90度位相が進んだ方向に定められている。
本実施形態では、ステータに備えられたU相コイルを基準にした場合の、d軸(磁極)の電気角を磁極位置θreとし、d軸(磁極)の電気角速度を磁極回転速度ωreとする。
【0022】
このような構成において、電圧制御部47は、変調率Mの所定域である第一変調率域ではパルス幅変調制御を実行し、当該第一変調率域よりも高い変調率Mの域である第二変調率域では矩形波制御を実行する。また、電流フィードバック制御部42は、出力トルク指令値Tmoに周期的なトルク振動が含まれる場合に、当該トルク振動の周波数の周期関数の特性を有する高調波モデルを用いた演算を少なくとも実行して二相電圧指令Vdc、Vqcを算出する。そして、トルク電流演算部40は、第一変調率域の中の少なくとも第二変調率域に隣接する領域において変調率Mが増加するに従ってトルク振動の振幅を減少させ、第二変調率域でトルク振動の振幅をゼロとするように、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の制限を実行する点に特徴を有している。
以下、本実施形態に係る制御装置30について、詳細に説明する。
【0023】
1.制御装置30の構成
次に、交流回転電機MGを制御するための制御装置30の構成について説明する。
制御装置30は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、制御装置30のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、図1に示すような制御装置30の機能部39〜49などが構成されている。
【0024】
制御装置30には、センサSe1、Se2、Se3から出力される電気信号が入力される。制御装置30は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。
電流センサSe1は、各相のコイルに流れる電流を検出するためのセンサであり、インバータINと各相のコイルとをつなぐ電線上に備えられている。制御装置30は、電流センサSe1の入力信号に基づいて各相のコイルを流れる実電流Iu、Iv、Iwを検出する。
回転速度センサSe2は、ロータの回転速度及び回転角度を検出するためのセンサであり、ロータの回転軸に取り付けられている。制御装置30は、回転速度センサSe2の入力信号に基づいて、交流回転電機MGの磁極位置θre、磁極回転速度ωreを検出する。なお、回転速度センサSe2として、レゾルバ、又はロータリエンコーダなどが用いられる。
電圧センサSe3は、直流電源の直流電圧VHを検出するためのセンサであり、本実施形態では、蓄電装置BtとインバータINとをつなぐ電線上に備えられている。制御装置30は、電圧センサSe3の入力信号に基づいて、直流電圧VHを検出する。なお、電圧センサSe3は、蓄電装置BtとインバータINとの間にDC−DCコンバータが備えられる場合には、DC−DCコンバータとインバータINとをつなぐ電線上に備えられる。すなわち、電圧センサSe3により検出される直流電圧VHは、インバータINのスイッチング素子に供給されている直流電圧であり、スイッチング素子がオンの場合に交流回転電機MGに印加される電圧である。
【0025】
制御装置30は、交流回転電機MGの動作制御を行う制御装置である。図1に示すように、制御装置30は、出力トルク指令設定部39、トルク電流演算部40、実電流演算部41、電流フィードバック制御部42、交流電圧指令算出部43、及びインバータ制御部44など、の機能部を備えており、各機能部が協働して、出力トルク指令値Tmoのトルクを交流回転電機MGに出力させるように制御する。
【0026】
1−1.制御モードの決定
1−1−1.インバータINの制御方式
制御モード決定部49は、インバータINの制御方式を、変調率Mの所定域である第一変調率域ではパルス幅変調制御(PWM:Pulse Width Modulation)に決定し、当該第一変調率域よりも高い変調率Mの域である第二変調率域では矩形波制御に決定する。本実施形態では、図3に示すように、第一変調率域は、変調率Mが0.0以上、0.78未満の範囲に設定されており、第二変調率域は、変調率Mが0.78に設定されている。
ここで、パルス幅変調制御は、代表的には、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcと搬送波とに基づいて、インバータINのスイッチング素子をオンオフして回転電機MGに電圧を印加する制御であり、電気角の回転周期でコイル各相への電圧印加が2回以上オンオフされる。
矩形波制御は、電気角の回転周期内で、オン期間及びオフ期間の比が1:1である矩形波1パルス分をコイル各相に印加する制御であり、電気角の回転周期でコイル各相への電圧印加が1回だけオンオフされる。
変調率Mは、直流電圧VHに対する、インバータINの出力電圧波形(印加電圧波形)の基本波成分(電気角の回転周波数(ωre)の正弦波又は余弦波成分)の割合を表す。
【0027】
また、本実施形態では、制御モード決定部49は、パルス幅変調制御として、第1A変調率域では通常パルス幅変調制御に決定し、第1B変調率域では過変調パルス幅変調制御に決定する。
第1A変調率域は、第一変調率域で交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcの振幅が直流電圧VH以下となる変調率域に設定されている。第1B変調率域は、第一変調率域で交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcの振幅が直流電圧VHより大きくなる変調率域に設定されている。
本実施形態では、通常パルス幅変調制御として、正弦波パルス幅変調制御が設定されているので、第1A変調率域は、変調率Mが0.0以上、0.61以下の範囲に設定され、第1B変調率域は、変調率Mが0.61より大きく、0.78未満の範囲に設定されている。
【0028】
1−1−2.ベクトル制御方式
制御モード決定部49は、ベクトル制御方式を、第一変調率域では最大トルク電流制御に決定し、第二変調率域では弱め磁束制御に決定するように構成されている。
【0029】
1−1−3.制御モードの決定
本実施形態では、制御モード決定部49は、図4に示すような、予め設定された制御モード決定マップを用いて、磁極回転速度ωre及び出力トルク指令値Tmoに基づいて、インバータINの制御方式及びベクトル制御方式を決定するように構成されている。
制御モード決定マップは、上記のような各変調率域に対応して、図4に示すような磁極回転速度ωre及び出力トルク指令値Tmoの座標系(以下、回転トルク座標系と称する)における所定の領域毎に、インバータINの制御方式及びベクトル制御方式が予め設定されたマップとされている。
例えば、第一変調率域(0.0≦M<0.78)、第1A変調率域(0.0≦M≦0.61)、第1B変調率域(0.61<M<0.78)は、最大トルク電流制御が実行される条件では、図4に示すような回転トルク座標系における所定の領域に対応する。また、第二変調率域(M=0.78)は、弱め磁束制御が実行される条件では、図4に示すような回転トルク座標系における所定の領域に対応する。
なお、図4に、第一変調率域内(0.0≦M<0.78)における、最大トルク電流制御が実行される条件での、等変調率曲線をM=0.05〜0.75まで、ΔM=0.05間隔で示している。等変調率曲線は、所定の変調率Mとなる回転トルク座標系における座標点の軌跡である。なお、第一変調率域と第二変調率域との境界曲線は、M=0.78の等変調率曲線であり、第1A変調率域と第1B変調率域との境界曲線は、M=0.61の等変調率曲線である。
【0030】
なお、制御モード決定部49は、変調率演算部48が算出した変調率Mに応じて、インバータINの制御方式及びベクトル制御方式を決定するように構成されてもよい。
【0031】
1−2.出力トルク指令値の設定
出力トルク指令値Tmoには、周期的なトルク振動が含まれる場合がある。
本実施形態では、出力トルク指令設定部39は、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動成分となる振動トルク指令値Tpを算出する周期振動トルク指令設定部58と、周期的なトルク振動成分を含まない指令値であって、振動している出力トルク指令値Tmoの中心値となる基準トルク指令値Tbを算出する基準トルク指令設定部57と、を備えるように構成されている。そして、出力トルク指令設定部39は、基準トルク指令値Tbと、振動トルク指令値Tpと、を加算した値を、出力トルク指令値Tmoとして設定するように構成されている。なお、出力トルク指令値Tmoが、本発明における「トルク指令」に相当する。
本実施形態では、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動は、正弦波状にされている。
具体的には、振動トルク指令値Tpは、式(1)に示すように、トルク振動周波数ωp(角周波数)の正弦波とされている。
【数1】
ここで、ΔTpは、振動トルク指令値Tpの振幅であり、αは、振動トルク指令値Tpの位相である。なお、振動トルク指令値Tpは、余弦波とされてもよい。
【0032】
1−3.トルク制御及び電流フィードバック制御
制御装置30は、出力トルク指令値Tmoに基づいて電流指令を算出し、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御により交流回転電機MGの制御を行うように構成されている。ベクトル制御では、電流指令をdq軸回転座標系で設定し、各相のコイルに流れる実電流Iu、Iv、Iwを、磁極位置θreに基づき、dq軸回転座標系で表した二相実電流Id、Iqに変換し、二相実電流Id、Iqが電流指令に近づくように、交流回転電機MGに印加する電圧を制御する電流フィードバック制御を行う。以下、本実施形態に係わるトルク制御及び電流フィードバック制御について詳細に説明する。
【0033】
1−3−1.トルク電流演算部40
トルク電流演算部40は、交流回転電機MGに出力させる出力トルク指令値Tmoに基づいて、交流回転電機MGに流す電流の指令値をdq軸回転座標系で表した二相電流指令Idc、Iqcを演算する機能部である。
本実施形態では、トルク電流演算部40は、振幅制限部51と二相電流指令演算部52とを備えている。そして、振幅制限部51は、上記のように、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の制限を実行するように構成されている。そして、二相電流指令演算部52は、振幅制限部51の処理後の出力トルク指令値Tmoに基づいて、二相電流指令Idc、Iqcを演算するように構成されている。なお、以下の実施形態の説明では、特に断らない限り、出力トルク指令値Tmoは、振幅制限部51の処理後の出力トルク指令値Tmo(Tmol)を指すものとする。
この節では、二相電流指令演算部52の処理について詳細に説明し、振幅制限部51の処理については、制御装置30の各部の処理を説明した後に、詳述する。
【0034】
1−3−1−1.二相電流指令演算部52
二相電流指令演算部52は、振幅制限部51の処理後の出力トルク指令値Tmo(Tmol)に基づいて、出力トルク指令値Tmoのトルクを交流回転電機MGに出力させるようなd軸電流指令Idc及びq軸電流指令Iqcを算出するように構成されている。
交流回転電機MGの出力トルクTmと、d軸実電流Id及びq軸実電流Iqとの関係は、式(2)で示すように表せる。
【数2】
ここで、Φは、永久磁石による鎖交磁束であり、Ldは、コイルのd軸インダクタンスであり、Lqは、コイルのq軸インダクタンスであり、Pnは、極対数である。埋込磁石構造では、Ld<Lqの突極性となる。
【0035】
<ベクトル制御方式>
式(2)から、交流回転電機MGに同じ大きさの出力トルクTmを出力させるような、d軸電流指令Idc及びq軸電流指令Iqcの組み合わせは無数に存在することがわかる。
そこで、トルク電流演算部40は、制御モード決定部49によって決定されたベクトル制御方式に従って、二相電流指令Idc、Iqcを演算する。
ベクトル制御方式が最大トルク電流制御に決定されている場合は、トルク電流演算部40は、同一電流に対して発生トルクを最大にするような二相電流指令Idc、Iqcを算出する。二相電流指令Idc、Iqcは、最大トルク電流曲線上(図5参照)に決定される。ここで、最大トルク電流曲線は、最大トルク電流制御を行う際に、二相実電流Id、Iqが取り得る値をつないでなる曲線である。
一方、ベクトル制御方式が弱め磁束制御に決定されている場合は、トルク電流演算部40は、負のd軸電流を流すことで、d軸電機子反作用による減磁効果を利用してd軸方向の磁束を減少させるように、二相電流指令Idc、Iqcを算出する。二相電流指令Idc、Iqcは、弱め磁束制御に対応して設定されている変調率M(本実施形態では、0.78)、直流電圧VH、及び磁極回転速度ωreに対応する定誘起電圧楕円(電圧制限楕円)上に決定される。
以下では、最大トルク電流制御が行われる場合を例に説明する。
【0036】
図5(a)に示すように、トルク電流演算部40は、出力トルク指令値Tmoが0から増加するにつれ、最大トルク電流曲線に沿って、q軸電流指令Iqcを0から増加させ、d軸電流指令Idcを0から減少させる。一方、トルク電流演算部40は、出力トルク指令値Tmoが0から減少するにつれ、最大トルク電流曲線に沿って、q軸電流指令Iqcを0から減少させ、d軸電流指令Idcを0から減少させる。図5(b)(c)に、出力トルク指令値Tmoに対する各電流指令Idc、Iqcの関係特性を示すように、q軸電流指令Iqcは、出力トルク指令値Tmoの増加に対して単調増加するように算出される。一方、d軸電流指令Idcは、出力トルク指令値Tmoが0未満の場合は、出力トルク指令値Tmoの増加に対して単調増加するように算出され、出力トルク指令値Tmoが0より大きい場合は、出力トルク指令値Tmoの増加に対して単調減少するように算出される。また、出力トルク指令値Tmoに対する各電流指令Idc、Iqcの関係特性は、曲線となっており、1次より大きい高次の関数となっている。
【0037】
<トルク指令が0を中心に振動している場合>
まず、図6(b)に示すように、出力トルク指令値Tmoが、0を中心に周期的に振動している場合について説明する。
この場合は、図6(a)に示すように、二相電流指令Idc、Iqcは、dq軸回転座標系において、最大トルク電流曲線上を、出力トルク指令値Tmoの振動最大値に対応した等トルク曲線と振動最小値に対応した等トルク曲線との間を振動するように決定される。図6(a)には、このようなdq軸回転座標系における二相電流指令Idc、Iqcの振動軌跡が太線で示されている。
【0038】
d軸電流指令Idc及びq軸電流指令Iqcは、図5(b)(c)に示すような関係特性に従い、出力トルク指令値Tmoに基づいて算出される。図6(b)に示すように、出力トルク指令値Tmoが、トルク振動周波数ωp(トルク振動周期2π/ωp)の正弦波で振動しているのに対して、d軸電流指令Idcは、主にトルク振動周波数ωpの2倍の周波数で振動し、q軸電流指令Iqcは、主にトルク振動周波数ωpと同じ周波数で振動している。このため、図6(b)の右側に、各波形をフーリエ変換した周波数特性を示すように、出力トルク指令値Tmoは、トルク振動周波数ωpの成分(基本波成分、1次)の振幅が大きいのに対して、d軸電流指令Idcは、トルク振動周波数ωpに対して、トルク振動周波数ωpの2倍の2次(2ωp)の周波数成分の振幅が大きくなっている。q軸電流指令Iqcは、トルク振動周波数ωpと同じ1次(ωp)の周波数成分の振幅が大きくなっている。
【0039】
また、出力トルク指令値Tmoに対する各電流指令Idc、Iqcの関係特性は、1次より大きい高次の関数となっているため、d軸電流指令Idcには、4次(4ωp)、6次(6ωp)の高次の周波数成分の振幅が生じており、q軸電流指令Iqcには、3次(3ωp)、5次(5ωp)の高次の周波数成分の振幅が生じている。
【0040】
<トルク指令が0を跨いで振動している場合>
次に、図7(b)に示すように、出力トルク指令値Tmoが、0より小さい値を中心に、0を跨いで周期的に振動している場合について説明する。
この場合は、図7(a)に示すように、出力トルク指令値Tmoの振動最大値に対応した等トルク曲線、振動最小値に対応した等トルク曲線、振動中心値に対応した等トルク曲線は、図6(a)に示す場合と比べて、q軸実電流Iqが小さくなる方にシフトしている。
【0041】
図7(b)に示すように、d軸電流指令Idcは、1次(ωp)と2次(2ωp)の周波数成分が組み合わさったような複雑な波形で振動し、q軸電流指令Iqcは、主に1次(ωp)の周波数で振動している。このため、図7(b)の右側に、各波形をフーリエ変換した周波数特性を示すように、d軸電流指令Idcには、1次(ωp)に加えて、2次(2ωp)、3次(3ωp)、4次(4ωp)、5次(5ωp)、及び6次(6ωp)の周波数成分の振幅も大きくなっている。q軸電流指令Iqcには、1次(ωp)に加えて、2次(2ωp)、4次(4ωp)、及び5次(5ωp)の周波数成分の振幅も大きくなっている。
【0042】
1−3−2.電流フィードバック制御部42
上記のように、出力トルク指令値Tmoに周期的なトルク振動が含まれる場合は、最大トルク電流曲線上に決定される各二相電流指令Idc、Iqcにも周期的な振動成分が含まれる。
また、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動が正弦波であっても、特に、出力トルク指令値Tmoが0を跨いで振動する場合は、d軸電流指令Idcには、1次より大きい高次の周波数成分が大幅に増加する。また、出力トルク指令値Tmoに対するq軸電流指令Iqcの関係特性は、出力トルク指令値Tmoの0付近では高次の関数成分が多く含まれるので、出力トルク指令値Tmoが0付近で振動する場合は、q軸電流指令Iqcには、1次より大きい高次の周波数成分が増加する。
【0043】
電流フィードバック制御において目標値となる二相電流指令Idc、Iqcに周期的な振動成分が含まれると、比例積分制御(PI制御)などの単純な制御だけでは、目標値に含まれる周期的な振動成分に対する実値の追従性能を確保しにくくなる。
そこで、二相電流指令Idc、Iqcに含まれる周期的な振動成分に対する追従性能を向上させるために、電流フィードバック制御部42は、出力トルク指令値Tmoに周期的なトルク振動が含まれる場合に、トルク振動周波数ωpの周波数に対応する周期関数の特性を有する高調波モデルを用いた演算を少なくとも実行して二相電圧指令を算出するように構成されている。
本実施形態では、電流フィードバック制御部42は、d軸電流及びq軸電流それぞれについて、高調波モデルを用いて高調波電圧指令Vhd、Vhqを算出するd軸高調波制御器53及びq軸高調波制御器56を備えている。
また、電流フィードバック制御部42は、d軸電流及びq軸電流それぞれについて、基本電圧指令Vbd、Vbqを算出するd軸比例積分制御器54及びq軸比例積分制御器55を備えている。
そして、電流フィードバック制御部42は、d軸高調波電圧指令Vhdと、d軸基本電圧指令Vbdと、を加算した値を、d軸電圧指令Vdcとして設定し、q軸高調波電圧指令Vhqと、q軸基本電圧指令Vbqと、を加算した値を、q軸電圧指令Vqcとして設定するように構成されている。
【0044】
ただし、電流フィードバック制御部42は、矩形波制御が実行される場合は、高調波制御器53、56における高調波モデルを用いた演算を停止して、比例積分制御器54、55により二相電圧指令Vdc、Vqcを算出するように構成されている。
【0045】
1−3−2−1.比例積分制御器
本実施形態では、各比例積分制御器54、55は、式(3)、式(4)に示すように、二相実電流Id、Iqと二相電流指令Idc、Iqcとの電流偏差に基づいて、比例演算及び積分演算を行って基本電圧指令Vbd、Vbqを算出する比例積分(PI)制御器とされている。
【数3】
【数4】
ここで、Kpdは、d軸比例ゲインであり、Kpqは、q軸比例ゲインであり、Kidは、d軸積分ゲインであり、Kiqは、q軸積分ゲインである。
【0046】
なお、各比例積分制御器54、55は、比例積分(PI)制御器以外の制御器、例えば、比例積分微分(PID)制御器とされていてもよい。
また、電流フィードバック制御部42には、各比例積分制御器54、55に加えて、式(5)に示すような、非干渉器が追加的に備えられてもよい。この場合は、非干渉器の算出値ΔVud、ΔVuqが、追加的に二相電圧指令Vdc、Vqcに加算される。
【数5】
【0047】
1−3−2−2.高調波制御器
<周期振動成分に対する追従誤差>
非干渉器が備えられる場合は、非干渉器の算出値ΔVud、ΔVuqを除いた二相電圧指令Vdc、Vqcに対する、交流回転電機MGを流れる二相実電流Id、Iqの応答を表す伝達関数は、式(6)で示すように、一次遅れで表せる。
【数6】
二相電流指令Idc、Iqcに周期的な振動成分が含まれない場合は、比例積分制御器54、55だけでも、二相電流指令Idc、Iqcに対して二相実電流Id、Iqを後述するような定常偏差なく追従させることができる。
しかし、二相電流指令Idc、Iqcには、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動周波数ωpの振動成分に起因して、トルク振動周波数ωpの1倍からn倍(nは2以上の自然数)の周期的な振動成分が含まれる。
この場合は、比例積分制御器54、55だけでは、二相電流指令Idc、Iqcの周期的な振動成分に対して二相実電流Id、Iqが位相遅れを持って追従し、定常偏差が生じる。例えば、図8のタイムチャートに示すように、時刻t11までの期間は、q軸比例積分制御器55だけでq軸電圧指令Vqcを算出しており、q軸実電流Iqは、周期振動しているq軸電流指令Iqcに対して位相遅れ及びゲイン低下を持って追従しており、定常偏差を有している。
【0048】
<内部モデル原理>
そこで、指令値に定常偏差なく追従させるために、フィードバック系の内部に、指令値の極と同じ極を有する制御器を導入することが有効であるという、内部モデル原理の制御理論を用いる。
二相電流指令Idc、Iqcには、式(7)のように表せる、トルク振動周波数ωpの1倍からn倍(nは2以上の自然数)の正弦波(又は余弦波)の周期振動成分が含まれている。
【数7】
式(7)の二相電流指令Idc、Iqcは、周波数領域(s領域)では、式(8)の伝達関数で表せる。ここで、sは、ラプラス演算子である。
【数8】
なお、二相電流指令Idc、Iqcが余弦波の場合は、式(9)の伝達関数で表せる。
【数9】
【0049】
式(7)、式(8)より、二相電流指令Idc、Iqcの極、すなわち、伝達関数の分母が0になるsは、式(10)となる。
【数10】
よって、内部モデル原理により、電流フィードバック制御部42の伝達関数Gfbは、式(11)のように、式(10)の極を有するように構成すれば、指令値に定常偏差なく追従させることが可能となる。
【数11】
式(11)の右辺の第一項は、比例積分制御器54、55の積分演算として含まれる。
【0050】
<高調波モデル>
よって、各高調波制御器53、56は、式(11)の右辺の第一項を削除した式(12)に示す伝達関数Ghの特性を有する高調波モデルを用いるように構成される。
【数12】
ここで、式(12)に示す高調波モデルの伝達関数Ghの分母(s2+(nωp)2)は、トルク振動周波数ωpのn倍(nは、1以上の自然数)の周波数の正弦波又は余弦波の周期関数に対応する伝達関数である。よって、各高調波制御器53、56が用いる高調波モデルは、トルク振動周波数ωpの1倍からn倍までの各周波数の正弦波又は余弦波の周期関数に対応する伝達関数(1/(s2+(nωp)2))の特性を並列した特性を有するように構成される。
【0051】
本実施形態では、式(13)に示すように、式(12)に示す高調波モデルの伝達関数Ghの分子Bn(s)を0次(sの0乗)の伝達関数、すなわち、定数に設定する場合を例に説明する。
【数13】
ここで、Kh1、Kh2、...は、トルク振動周波数ωpの1倍からn倍のそれぞれに対応する各高調波制御器53、56の制御ゲインであり、電流フィードバック制御系の応答性及び安定性を考慮して設定される。なお、制御ゲインKh1、Kh2、...は、トルク振動周波数ωpに比例して変更されるように構成されてもよい。
【0052】
なお、式(14)及び式(15)で示すように、高調波モデルの伝達関数Ghの分子Bn(s)を1次(sの1乗)又は2次(sの2乗)の伝達関数に設定してもよい。
【数14】
【数15】
ここで、Khp1、Khp2、...、及びKhi1、Khi2、...は、トルク振動周波数ωpの1倍からn倍のそれぞれに対応する各高調波制御器53、56の制御ゲインである。
【0053】
出力トルク指令値Tmoが0を跨いで振動する場合のように、二相電流指令Idc、Iqcにトルク振動周波数ωpの1倍からn倍の複数の周波数の振動成分が多く含まれる場合は、各周波数の振動成分による定常偏差を減少させるためには、各周波数に対応する複数の高調波モデルを並列して用いる必要がある。
よって、高調波制御器53、56それぞれの高調波モデルは、トルク振動周波数ωpの1倍からn倍までの各周波数の正弦波又は余弦波の特性(伝達関数では(1/(s2+(nωp)2))を有するように構成することができる。この場合、各二相電流指令Idc、Iqcに含まれる、各次数の成分の大きさに応じて、nの値が設定される。すなわち、比較的大きい振動成分を有する次数に対応する、次数(n)の高調波モデルが備えられる。
【0054】
例えば、図6及び図7に示すように、各二相電流指令Idc、Iqcに1次から4次の成分が比較的多く含まれるので、高調波制御器53、56それぞれの高調波モデルは、トルク振動周波数ωpの1倍から4倍(1次から4次)までの各周波数の正弦波又は余弦波の特性を有するように構成することができる。
【0055】
或いは、d軸電流指令Idcには、出力トルク指令値Tmoが0を跨いで振動する場合に、2次の成分が大幅に多くなるので、d軸高調波制御器53の高調波モデルは、トルク振動周波数ωpの1倍及び2倍(1次及び2次)の各周波数の正弦波又は余弦波の特性を有するように構成されてもよい。また、q軸電流指令Iqcには、出力トルク指令値Tmoが0を跨いで振動する場合でも、2次の成分が大幅に多くならない。従って、q軸高調波制御器56の高調波モデルは、トルク振動周波数ωpの1倍(1次)の周波数の正弦波又は余弦波の特性を有するように構成されてもよい。
【0056】
なお、式(13)の各周波数(nωp)の高調波モデルは、例えば、式(16)に示すように、2つの積分器(1/s)と、帰還ループを有する演算により、構成することができる。
【数16】
矩形波制御を実行する場合に、高調波モデルを用いた演算を停止する場合は、2つの積分器を0にリセットする。
【0057】
<高調波制御の挙動>
次に、図8を参照して、高調波制御の挙動を説明する。
図8では、q軸電流指令Iqcにおいて、トルク振動周波数ωp(1次)の成分の割合が大きい場合(図8では、100%)であって、q軸高調波制御器56が、トルク振動周波数ωp(1次)のみの正弦波又は余弦波の伝達関数(1/(s2+ωp2))の特性を有するように構成されている場合の例を示す。
時刻t11までは、高調波制御の効果をわかりやすくするために、高調波制御が実行されていない。すなわち、q軸高調波電圧指令Vhqが0に設定されており、q軸電圧指令Vqcは、q軸比例積分制御器55により算出されたq軸基本電圧指令Vbqからなる。高調波制御が実行されていない場合は、q軸基本電圧指令Vbqは、トルク振動周波数ωpで振動しているq軸電流指令Iqcにq軸実電流Iqを一致させるために周期変化しているが、q軸実電流Iqは、周期振動しているq軸電流指令Iqcに対して位相遅れ及びゲイン低下を持って追従しており、電流偏差に定常偏差を有している。
【0058】
一方、時刻t11で高調波制御が開始されると、q軸高調波電圧指令Vhqが、q軸電流指令Iqcとq軸実電流Iqとの電流偏差に応じて、トルク振動周波数ωpで自己励起的に振動し始めると共に振幅が増加していく。この際、高調波モデルは、電流偏差を積分すると共に自己励起的にトルク振動周波数ωpで振動して、q軸高調波電圧指令Vhqを生成するように作用する。また、電流偏差は、トルク振動周波数ωpで振動している。このため、トルク振動周波数ωpで振動しているq軸高調波電圧指令Vhqの位相は、電流偏差が減少する方向に進角又は遅角されると共に、q軸高調波電圧指令Vhqの振幅は、電流指令が減少する方向に増加又は減少される。よって、q軸電流指令Iqcとq軸実電流Iqとの電流偏差が減少していく。
【0059】
このため、電流偏差に応じて算出されるq軸基本電圧指令Vbqも減少していく。そして、時刻t12で、q軸高調波電圧指令Vhqによって、定常偏差を減少させてq軸実電流Iqをq軸電流指令Iqcに追従させることができ、q軸基本電圧指令Vbqの周期変化を0近くまで減少させることができている。
【0060】
1−4.実電流演算部41
図1に示すように、実電流演算部41は、交流回転電機MGを流れる実電流に基づいて、dq軸回転座標系で表した二相実電流Id、Iqを演算する機能部である。本実施形態では、実電流演算部41は、各相のコイルを流れる実電流Iu、Iv、Iwを、磁極位置θreに基づいて、三相二相変換及び回転座標変換を行って、dq軸回転座標系で表したd軸実電流Id、q軸実電流Iqに変換する。
【0061】
1−5.交流電圧指令算出部43
交流電圧指令算出部43は、電流フィードバック制御部42が算出した二相電圧指令Vdc、Vqcに基づいて、交流回転電機MGに印加する交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを算出する機能部である。
【0062】
<パルス幅変調制御>
交流電圧指令算出部43は、インバータINの制御方式としてパルス幅変調制御が決定されている場合は、dq軸回転座標系で表した二相電圧指令Vdc、Vqcを、磁極位置θreに基づいて、固定座標変換及び二相三相変換を行って、三相それぞれのコイルへの電圧指令である交流電圧指令Vu、Vv、Vwに変換する。
過変調パルス幅変調制御が決定されている場合は、インバータINの出力電圧波形における基本波成分の変調率が、目標とする変調率に一致するように、固定座標変換及び二相三相変換に加えて、交流電圧指令Vu、Vv、Vwを歪ませる振幅補正が行われる。
【0063】
<矩形波制御>
交流電圧指令算出部43は、インバータINの制御方式として矩形波制御が決定されている場合は、dq軸回転座標系で表した二相電圧指令ベクトルの位相θvを式(17)に従い算出し、磁極位置θreと位相θvに基づいて、位相が調整された1パルス矩形波の交流電圧指令Vu、Vv、Vwを算出する。
【数17】
ここで、二相電圧指令ベクトルは、dq回転座標系において原点から二相電圧指令Vdc、Vqcの座標点に向うベクトルである。二相電圧指令ベクトルの位相θvは、q軸に対する二相電圧指令ベクトルの電気角での位相である。
【0064】
1−6.インバータ制御部44
インバータ制御部44は、交流電圧指令Vu、Vv、Vwに基づき、インバータINが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成する。
<パルス幅変調制御>
インバータ制御部44は、インバータINの制御方式としてパルス幅変調制御が決定されている場合は、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcと搬送波とに基づいてスイッチング素子をオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成する。代表的には、直流電圧VHの振幅を有する三角波の搬送波と、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcと、の比較結果に基づき、インバータ制御信号Suvwが生成される。
あるいは、式(18)に基づいて算出された変調率Mと、式(17)に基づいて算出された二相電圧指令ベクトルの位相θvと、磁極位置θreと、に基づいて、スイッチング素子をオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成するように構成されてもよい。
【0065】
<矩形波制御>
インバータ制御部44は、インバータINの制御方式として矩形波制御が決定されている場合は、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づいてインバータ制御信号Suvwを生成する。
あるいは、矩形波制御が決定されている場合は、交流電圧指令算出部43は交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを算出せずに、インバータ制御部44は、磁極位置θreと二相電圧指令ベクトルの位相θvに基づいて、直接、インバータ制御信号Suvwを生成するように構成されてもよい。
【0066】
1−7.変調率演算部48
変調率演算部48は、直流電源の直流電圧VHに対する交流回転電機MGに印加される交流電圧の実効値の割合である変調率Mを算出する。
本実施形態では、変調率演算部48は、式(18)に示すように、二相電圧指令Vdc、Vqc及び直流電圧VHに基づいて、変調率Mを算出するように構成されている。
【数18】
【0067】
1−8.トルク振動の制限
次に、トルク電流演算部40において実行されるトルク振動の制限について詳細に説明する。
振幅制限部51は、上記のように、第一変調率域の中の少なくとも第二変調率域に隣接する領域において変調率Mが増加するに従ってトルク振動の振幅を減少させ、第二変調率域でトルク振動の振幅をゼロとするように、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の制限を実行する。
本実施形態では、振幅制限部51は、トルク振動に応じて振動する変調率Mの振動最大値Mmx(以下、最大変調率と称す)が増加するに従ってトルク振動の振幅を減少させるトルク振動の制限を実行するように構成されている。
また、振幅制限部51は、図10に示すように、通常PWM制御が実行される第1A変調率域(0.0≦M≦0.61)では、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の制限を実行せず、過変調PWM制御が実行される第1B変調率域(0.61<M<0.78)で、トルク振動の制限を実行するように構成されている。
【0068】
本実施形態では、図9に示すように、振幅制限部51は、トルク振動中心算出器60、トルク振動成分算出器61、最大変調率算出器62、及び振幅制限ゲイン算出器63を備えている。
【0069】
トルク振動成分算出器61は、出力トルク指令値Tmoに基づいて、トルク振動成分Tpを算出するように構成されている。周期振動トルク指令設定部58により設定された振動トルク指令値Tpの情報が得られる場合は、トルク振動成分算出器61は、振動トルク指令値Tpをそのままトルク振動成分Tpに設定する。振動トルク指令値Tpの情報が得られない場合は、出力トルク指令値Tmoに対してフィルタ処理などを行うことにより、トルク振動成分Tpを算出する。
トルク振動中心算出器60は、出力トルク指令値Tmoに基づいて、トルク振動中心値Tbを算出するように構成されている。基準トルク指令設定部57により設定された基準トルク指令値Tbの情報が得られる場合は、トルク振動中心算出器60は、基準トルク指令値Tbをそのままトルク振動中心値Tbに設定する。基準トルク指令値Tbの情報が得られない場合は、出力トルク指令値Tmoに対してフィルタ処理などを行うことにより、トルク振動中心値Tbを算出する。
【0070】
最大変調率算出器62は、トルク振動周波数ωpに応じた周波数で振動している変調率Mの最大値を算出可能に構成されている。例えば、トルク振動周期2π/ωp以上の長さに設定された周期間の変調率Mの最大値を算出するように構成できる。
そして、振幅制限ゲイン算出器63は、図10に示すような制限ゲイン設定マップを用い、最大変調率Mmxに基づいて、振幅制限ゲインKtを算出するように構成されている。
制限ゲイン設定マップは、最大変調率Mmxが第1A変調率域(0.0≦M≦0.61)内である場合は、振幅制限ゲインKtを1.0に設定し、最大変調率Mmxが第1B変調率域(0.61<M<0.78)内である場合は、最大変調率Mmxが増加するに従って、振幅制限ゲインKtを1.0から0.0まで徐々に減少させて設定するように構成されている。
【0071】
振幅制限部51は、トルク振動成分Tpに振幅制限ゲインKtを乗算して、振幅制限後のトルク振動成分Tplを算出する。そして、振幅制限部51は、振幅制限後のトルク振動成分Tplを、トルク振動中心値Tbに加算した値を、振幅制限部51の処理後の出力トルク指令値Tmo(Tmol)に設定する。
【0072】
<トルク振動制限の制御挙動>
次に、トルク振動制限の制御挙動について説明する。
図11に示すように、振幅制限部51の処理前の出力トルク指令値Tmoが、所定の振幅ΔTpで、所定値を中心に、0より大きい範囲をトルク振動周波数ωpで振動している条件において、磁極回転速度ωreを変化させる場合の例を示す。
磁極回転速度ωreが0から増加するに従い、変調率Mの振動中心が0から増加すると共に、変調率Mの振幅が0から増加していく。このことは、図11のトルク振動範囲を、図4に示した等変調率曲線に重ね書きした図12から理解できる。すなわち、図12に示すように、磁極回転速度ωreが0から増加するに従い、トルク振動中心値と交わる等変調率曲線の変調率Mが増加していく。また、磁極回転速度ωreが0から増加するに従い、トルク振動最小値と交わる等変調率曲線の変調率Mと、トルク振動最大値と交わる等変調率曲線の変調率Mと、の差、すなわち変調率Mの振幅が増加していく。
【0073】
<矩形波制御の課題>
まず、本実施形態とは異なりトルク振動の振幅を制限しないように構成された場合における課題について説明する。この場合は、図11に破線で示すように、変調率Mの振動中心値が、第二変調率域(M=0.78)まで増加する前(磁極回転速度ω3より低い回転速度)で、変調率Mの振動最大値が、第二変調率域まで増加している(磁極回転速度ω2)。この磁極回転速度ω2からω3では、図12に示すように、出力トルク指令値Tmoの振動中心値が、パルス幅変調制御が決定される領域にある場合でも、出力トルク指令値Tmoが、矩形波制御が決定される領域に亘って周期的に振動する。よって、インバータINの制御方式が矩形波制御に決定されている場合においても、出力トルク指令値Tmoが周期的に振動する。
【0074】
矩形波制御では、インバータINの出力電圧波形が1パルスの矩形波であるため、インバータINの出力電圧波形に、周期的な振動成分を重畳させることができない。このため、周期的なトルク振動が含まれる出力トルク指令値Tmoに基づいて、周期的に振動する二相電流指令Idc、Iqcを設定し、電流フィードバック制御により二相電圧指令Vdc、Vqcを周期的に振動させても、最終的なインバータINの出力電圧波形に周期的な振動成分を重畳させることができない。よって、矩形波制御では、電流フィードバック制御系が、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動に対して追従せず、制御系が不安定化しやすくなる。
従って、出力トルク指令値Tmoの振動中心値が、パルス幅変調制御が決定される領域にある場合でも、出力トルク指令値Tmoが、矩形波制御が決定される領域に亘って周期的に振動しないように、トルク振動の振幅を制限することが望ましい。なお、出力トルク指令値Tmoの振動中心値が、矩形波制御が決定される領域にある場合には、当然ながら、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動の振幅を0まで制限することが望ましい。
【0075】
また、矩形波制御における1パルス矩形波のインバータINの出力電圧波形は、電気角の回転周波数ωre(1次)の正弦波の基本波成分に加えて、3次(3ωre)、5次(5ωre)、7次(7ωre)、...の3次以上の高調波成分が重畳されてなる。このため、二相実電流Id、Iqには、電気角の回転周波数ωreの3次(3ωre)以上の高調波成分が重畳する。
一方、電流フィードバック制御部42には、高調波制御器53、56が備えられており、二相電流指令Idc、Iqcに含まれるトルク振動周波数ωpの1倍(1次)からn倍(n次)までの振動成分に対して追従性を向上させるために、高調波制御器53、56の高調波モデルは、トルク振動周波数ωpの1倍(1次)からn倍(n次)までの各周波数の周期関数の特性を有するように構成されている。
ここで、高調波モデルが有する周期関数の周波数と、矩形波制御により二相実電流Id、Iqに重畳する高調波の周波数と、が一致する場合であって、本実施形態と異なり矩形波制御が実行される際に高調波モデルを用いた演算を停止しないように構成された場合を考える。この場合には、トルク振動の振幅を0まで制限した場合でも、高調波モデルが二相実電流Id、Iqに重畳している高調波の振動成分に反応し、高調波モデルの出力が変動してしまう。この際、矩形波制御では、上記のように、周期的な振動成分に対して追従しないため、高調波モデルの出力が発散傾向になる。
従って、矩形波制御が実行される場合に、トルク振動の振幅を0まで制限した場合でも、高調波モデルが有する周期関数の周波数と、矩形波制御により二相実電流Id、Iqに重畳する高調波の周波数が一致する場合は、高調波モデルを用いた演算を停止する必要がある。
【0076】
<内燃機関のトルク振動を打ち消す場合の矩形波制御の課題>
特に、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動が、内燃機関Eから交流回転電機MGに伝達されるトルク振動を打ち消すためのトルク振動である場合は、高調波モデルを用いた演算を停止する必要性が高くなる。
具体的には、交流回転電機MGが、図13の例に示すように、内燃機関Eに駆動連結されるとともに、車輪Wに駆動連結されるように構成されている。図13に示す例では、交流回転電機MGと車輪Wとの動力伝達経路に変速機構TMが設けられている。
このような構成において、出力トルク指令値Tmoは、内燃機関Eから交流回転電機MGに伝達されるトルク振動を打ち消すためのトルク振動を含むように構成される。この場合、トルク振動周波数ωpは、内燃機関Eの燃焼周波数に応じた周波数になる。
例えば、気筒数Nの4サイクルエンジンでは、トルク振動周波数ωpは式(19)のようになる。
【数19】
ここで、ωmは、交流回転電機MG(内燃機関E)の回転周波数である。
なお、電気角の回転周波数ωreは、式(20)のようになる。
【数20】
例えば、気筒数N=4、極対数Pn=2、又は気筒数N=6、極対数Pn=3では、トルク振動周波数ωpと電気角の回転周波数ωreとは等しくなり、式(21)のようになる。
【数21】
この場合は、矩形波制御により二相実電流Id、Iqに重畳する高調波の内、電気角の回転周波数ωreの3次の周波数(3ωre)と、高調波モデルが有する周期関数の内、トルク振動周波数ωpの3次の周波数(3ωp)とが、一致する。よって、上記のように、高調波モデルを用いた演算を停止する必要性が高くなる。
【0077】
<過変調パルス幅変調制御の課題>
また、パルス幅変調制御でも、過変調パルス幅変調制御の場合は、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcの振幅が直流電圧VHより大きくなる。この交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcの振幅が直流電圧VHより大きくなっている期間では、インバータINの出力電圧がオン又はオフに固定されるため、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwc、又は二相電圧指令Vdc、Vqcに重畳しているトルク振動周波数ωpに応じた周期的な振動成分をインバータINの出力電圧波形に反映させることが困難になる。このため、過変調パルス幅変調制御では、電気角の回転周期内で部分的に、電流フィードバック制御系が、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動に対して働かず、トルク振動に対する追従性能が悪化する。このトルク振動に対する追従性の悪化は、変調率Mが0.61から0.78に近づくに従い増大する。
【0078】
従って、出力トルク指令値Tmoが、過変調パルス幅変調制御が決定される領域に亘って周期的に振動する場合は、トルク振動の振幅を制限することが望ましく、振動している変調率Mが0.78に近づくに従い、トルク振動の振幅制限を増大させることが望ましい。
【0079】
なお、パルス幅変調制御でも、通常パルス幅変調制御の場合は、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwcの振幅が直流電圧VH以下になる。このため、交流電圧指令Vuc、Vvc、Vwc、又は二相電圧指令Vdc、Vqcに重畳しているトルク振動周波数ωpに応じた周期的な振動成分をインバータINの出力電圧波形に反映させることができる。よって、通常パルス幅変調制御では、電流フィードバック制御系が、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動に対して良好な追従性能を示すことができる。従って、出力トルク指令値Tmoが、通常パルス幅変調制御が決定される領域内で振動する場合は、トルク振動の振幅を制限する必要はない。
【0080】
<本実施形態の挙動>
次に、本実施形態によりトルク振動の振幅を制限するように構成された場合における制御挙動及び効果について説明する。
磁極回転速度ωreが0からω1の範囲内にある場合のように、最大変調率Mmxが、通常パルス幅変調制御が実行される第1A変調率域内(M=0〜0.61)にある場合は、振幅制限ゲインKtは1.0に設定されており、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動は制限されていない。この場合は、トルク振動の振幅を制限しなくとも、周期的なトルク振動に対して良好な追従性能が確保される。
【0081】
一方、最大変調率Mmxが、過変調パルス幅変調制御が実行される第1B変調率域内(0.61<M<0.78)及び矩形波制御が実行される第二変調率域内(M=0.78)になる場合(磁極回転速度ω1からω3)は、振幅制限ゲインKtが1.0から減少されており、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の振幅が制限されている。この場合において、最大変調率Mmxが第二変調率域内(M=0.78)にならずに、第1B変調率域内(0.61<M<0.78)になる場合(磁極回転速度ω1からω2)であっても、トルク振動の振幅が制限されている。これにより、振動している変調率Mが0.78に近づくに従い、トルク振動の振幅制限を増大させることができており、過変調パルス変調制御におけるトルク振動に対する追従性能の悪化の影響を軽減できる。また、トルク振動の振幅の制限を行わないように構成された場合に、最大変調率Mmxが第二変調率域内(M=0.78)になる場合(磁極回転速度ω2からω3)において、トルク振動の振幅が制限され、最大変調率Mmxが第二変調率域内になることを回避できている。これにより、矩形波制御において出力トルク指令値Tmoが周期的に振動することを防止できており、トルク振動に対する追従性の悪化を防止できる。
【0082】
また、変調率Mの振動中心値が、矩形波制御が実行される第二変調率域内(M=0.78)になる場合は、振幅制限ゲインKtが0.0まで減少されており、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の振幅が0まで制限されている。これにより、矩形波制御が実行される場合に、電流フィードバック制御系が不安定になることを抑制でき、交流回転電機MGの出力トルクが出力トルク指令値Tmoから大きく変動することを抑制できる。
また、上記のように、矩形波制御が実行される場合は、高調波モデルを用いた演算が停止されるため、矩形波制御において二相実電流Id、Iqに重畳する電気角の回転周波数ωreの3次(3ωre)以上の高調波成分に対して高調波モデルが反応し、高調波モデルの出力が発散傾向になって大きく変動することを防止できる。
特に、出力トルク指令値Tmoに含まれる周期的なトルク振動が、内燃機関Eのトルク振動を打ち消すためのトルク振動である場合は、高調波モデルの出力変動の防止効果が高くなる。
【0083】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0084】
(1)上記の実施形態において、通常パルス幅変調制御として、正弦波パルス幅変調制御が設定され、第1A変調率域が、変調率Mが0.0以上、0.61以下の範囲に設定され、第1B変調率域が、変調率Mが0.61より大きく、0.78未満の範囲に設定されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、通常パルス幅変調制御として、3次高調波注入パルス幅変調制御(THIPWM:third harmonics injection PWM)、空間パルス幅変調制御(SVPWM:space vector PWM)、又は不連続パルス幅変調制御(DPWM:discontinuous PWM)が設定されるように構成されてもよい。この場合は、第1A変調率域は、変調率Mが0.0以上、0.707以下の範囲まで広げられ、第1B変調率域は、変調率Mが0.707より大きく、0.78未満の範囲に狭められる。また、通常パルス幅変調制御として、第1A変調率域内の低い変調率域で正弦波PWMが設定され、高い変調率域でSVPWMなどが設定されるなど、第1A変調率域内で通常PWMの各方式が切り替え可能に構成されてもよい。
また、第1A変調率域と第1B変調率域との境界の変調率Mは、例えば、搬送波を生成する制御装置30のタイマの分解能などの制約により、0.61又は0.707より小さい値、例えば0.51に設定されてもよい。
【0085】
(2)上記の実施形態において、制御装置30に備えられた出力トルク指令設定部39が、出力トルク指令値Tmoを設定している場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、外部の装置から制御装置30に出力トルク指令値Tmo、又は振動トルク指令値Tpが伝達されるように構成されてもよい。
【0086】
(3)上記の実施形態において、出力トルク指令値Tmoにトルク振動周波数ωpの正弦波(又は余弦波)が含まれる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、出力トルク指令値Tmoが周期的なトルク振動が含まれればよく、例えば、周期的なトルク振動は、複数の異なる周波数の正弦波(又は余弦波)からなる波、或いは、三角波、のこぎり波、又は任意の波形の周期関数であってもよい。この場合でも、高調波モデルは、出力トルク指令値Tmoに含まれるトルク振動の複数の異なる周波数に対応する周期関数の特性を有するように構成されてもよい。
【0087】
(4)上記の実施形態において、電流フィードバック制御部42は、矩形波制御が実行される場合は、高調波モデルを用いた演算を停止する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、高調波モデルが有する周期関数の周波数と、矩形波制御により二相実電流Id、Iqに重畳する高調波の周波数が一致しない場合は、矩形波制御が実行される場合でも、高調波モデルを用いた演算を停止せずに、当該演算を実行するように構成されてもよい。
【0088】
(5)上記の実施形態において、二相電圧指令Vdc、Vqcに基づいて算出される変調率Mに基づいて、トルク振動の振幅制限を実行する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、図4の等変調率曲線で示すように、磁極回転速度ωre及び出力トルク指令値Tmoの動作点毎に変調率Mが予め設定された変調率決定マップを用いて、磁極回転速度ωre及び出力トルク指令値Tmoに基づいて、変調率Mを算出し、当該変調率Mに基づいて、トルク振動の振幅制限を実行するように構成されてもよい。
【0089】
(6)上記の実施形態において、図10に示すような制限ゲイン設定マップを用いて、トルク振動の振幅制限を行う場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、最大変調率Mmxが増加するに従ってトルク振動の振幅を減少させる方法であればどのような方法でもよく、例えば、最大変調率Mmxが第二変調率域未満になるように、フィードバック的にトルク振動の振幅制限を増加させるように構成されてもよい。
【0090】
(7)上記の実施形態において、図10に示すように、振幅制限ゲインKtは、第1B変調率域内において、1.0から0.0まで直線的に減少されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、振幅制限ゲインKtは、第1B変調率域内において、1.0から0.0まで任意の曲線、又は直線の組み合わせに沿って減少されるように構成されてもよい。
また、トルク振動の振幅は、第二変調率域内においてゼロに制限されていればよく、第1B変調率域内の所定の変調率(例えば、M=0.73)から、第二変調率域(M=0.78)までの変調率域においても、トルク振動の振幅がゼロに制限されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、本発明は、直流電源の直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータを介して、ロータを有する交流回転電機を制御するための制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0092】
θre :磁極位置
θv :二相電圧指令ベクトルの位相
ωp :トルク振動周波数(角周波数)
ωre :磁極回転速度(電気角の回転周波数)
30 :制御装置
39 :出力トルク指令設定部
40 :トルク電流演算部
41 :実電流演算部
42 :電流フィードバック制御部
43 :交流電圧指令算出部
44 :インバータ制御部
47 :電圧制御部
48 :変調率演算部
49 :制御モード決定部
51 :振幅制限部
52 :二相電流指令演算部
53 :d軸高調波制御器
54 :d軸比例積分制御器
55 :q軸比例積分制御器
56 :q軸高調波制御器
57 :基準トルク指令設定部
58 :周期振動トルク指令設定部
60 :トルク振動中心算出器
61 :トルク振動成分算出器
62 :最大変調率算出器
63 :振幅制限ゲイン算出器
Bt :蓄電装置(直流電源)
IN :インバータ
Id :d軸実電流
Iq :q軸実電流
Idc :d軸電流指令
Iqc :q軸電流指令
Kt :振幅制限ゲイン
M :変調率
MG :交流回転電機
Mmx :最大変調率(変調率の振動最大値)
Pn :極対数
Se1 :電流センサ
Se2 :回転速度センサ
Se3 :電圧センサ
Suvw :インバータ制御信号
Tmo :出力トルク指令値(トルク指令)
VH :直流電圧
Vbd :d軸基本電圧指令
Vbq :q軸基本電圧指令
Vdc :d軸電圧指令
Vqc :q軸電圧指令
Vhd :d軸高調波電圧指令
Vhq :q軸高調波電圧指令
Vuc、Vvc、Vwc :交流電圧指令
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源の直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータを介して、ロータを有する交流回転電機を制御するための制御装置であって、
前記ロータの電気角に同期して回転する二軸の回転座標系である二軸回転座標系を用い、前記交流回転電機に出力させるトルク指令に基づいて、前記交流回転電機に流す電流の指令値を前記二軸回転座標系で表した二相電流指令を演算するトルク電流演算部と、
前記交流回転電機に流れる実電流に基づいて、前記二軸回転座標系で表した二相実電流を演算する実電流演算部と、
前記交流回転電機に印加する電圧指令を前記二軸回転座標系で表した二相電圧指令を、前記二相実電流が前記二相電流指令に近づくように変化させる電流フィードバック制御部と、
前記二相電圧指令に基づいて、前記交流回転電機に印加する交流電圧指令を算出し、前記交流電圧指令に基づいて前記交流回転電機に印加する電圧を制御する電圧制御部と、
前記直流電源の直流電圧に対する前記交流回転電機に印加される交流電圧の実効値の割合である変調率を算出する変調率演算部と、を備え、
前記電圧制御部は、前記変調率の所定域である第一変調率域ではパルス幅変調制御を実行し、当該第一変調率域よりも高い前記変調率の域である第二変調率域では矩形波制御を実行し、
前記電流フィードバック制御部は、前記トルク指令に周期的なトルク振動が含まれる場合に、前記トルク振動の周波数の周期関数の特性を有する高調波モデルを用いた演算を少なくとも実行して前記二相電圧指令を算出し、
前記トルク電流演算部は、前記第一変調率域の中の少なくとも前記第二変調率域に隣接する領域において前記変調率が増加するに従って前記トルク振動の振幅を減少させ、前記第二変調率域で前記トルク振動の振幅をゼロとするように、前記トルク指令に含まれる前記トルク振動の制限を実行する制御装置。
【請求項2】
前記電流フィードバック制御部は、前記矩形波制御が実行される場合は、前記高調波モデルを用いた演算を停止して、比例積分演算により前記二相電圧指令を算出する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記トルク電流演算部は、前記トルク振動に応じて振動する前記変調率の振動最大値が増加するに従って前記トルク振動の振幅を減少させる前記トルク振動の制限を実行する請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記第一変調率域は、前記交流電圧指令の振幅が前記直流電圧以下となる変調率域である第1A変調率域と、前記交流電圧指令の振幅が前記直流電圧より大きくなる変調率域である第1B変調率域と、を含み、
前記電圧制御部は、前記パルス幅変調制御として、前記第1A変調率域では通常パルス幅変調制御を実行し、前記第1B変調率域では過変調パルス幅変調制御を実行し、
前記トルク電流演算部は、前記第1A変調率域では、前記トルク指令に含まれる前記トルク振動の制限を実行せず、前記第1B変調率域で、前記トルク振動の制限を実行する請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項1】
直流電源の直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータを介して、ロータを有する交流回転電機を制御するための制御装置であって、
前記ロータの電気角に同期して回転する二軸の回転座標系である二軸回転座標系を用い、前記交流回転電機に出力させるトルク指令に基づいて、前記交流回転電機に流す電流の指令値を前記二軸回転座標系で表した二相電流指令を演算するトルク電流演算部と、
前記交流回転電機に流れる実電流に基づいて、前記二軸回転座標系で表した二相実電流を演算する実電流演算部と、
前記交流回転電機に印加する電圧指令を前記二軸回転座標系で表した二相電圧指令を、前記二相実電流が前記二相電流指令に近づくように変化させる電流フィードバック制御部と、
前記二相電圧指令に基づいて、前記交流回転電機に印加する交流電圧指令を算出し、前記交流電圧指令に基づいて前記交流回転電機に印加する電圧を制御する電圧制御部と、
前記直流電源の直流電圧に対する前記交流回転電機に印加される交流電圧の実効値の割合である変調率を算出する変調率演算部と、を備え、
前記電圧制御部は、前記変調率の所定域である第一変調率域ではパルス幅変調制御を実行し、当該第一変調率域よりも高い前記変調率の域である第二変調率域では矩形波制御を実行し、
前記電流フィードバック制御部は、前記トルク指令に周期的なトルク振動が含まれる場合に、前記トルク振動の周波数の周期関数の特性を有する高調波モデルを用いた演算を少なくとも実行して前記二相電圧指令を算出し、
前記トルク電流演算部は、前記第一変調率域の中の少なくとも前記第二変調率域に隣接する領域において前記変調率が増加するに従って前記トルク振動の振幅を減少させ、前記第二変調率域で前記トルク振動の振幅をゼロとするように、前記トルク指令に含まれる前記トルク振動の制限を実行する制御装置。
【請求項2】
前記電流フィードバック制御部は、前記矩形波制御が実行される場合は、前記高調波モデルを用いた演算を停止して、比例積分演算により前記二相電圧指令を算出する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記トルク電流演算部は、前記トルク振動に応じて振動する前記変調率の振動最大値が増加するに従って前記トルク振動の振幅を減少させる前記トルク振動の制限を実行する請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記第一変調率域は、前記交流電圧指令の振幅が前記直流電圧以下となる変調率域である第1A変調率域と、前記交流電圧指令の振幅が前記直流電圧より大きくなる変調率域である第1B変調率域と、を含み、
前記電圧制御部は、前記パルス幅変調制御として、前記第1A変調率域では通常パルス幅変調制御を実行し、前記第1B変調率域では過変調パルス幅変調制御を実行し、
前記トルク電流演算部は、前記第1A変調率域では、前記トルク指令に含まれる前記トルク振動の制限を実行せず、前記第1B変調率域で、前記トルク振動の制限を実行する請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−27133(P2013−27133A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159176(P2011−159176)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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