説明

加熱装置

【課題】ガラス状炭素製発熱体を誘導発熱させて半導体ウェハを加熱するに際し、半導体ウェハの昇温時にはガラス状炭素製発熱体からの熱の反応容器外部への放熱を抑制して半導体ウェハの昇温速度を速め、高周波誘導コイルへの通電終了後の半導体ウェハの降温時には、前記放熱抑制状態を解除して半導体ウェハの降温速度を速めることができるようにした、加熱装置を提供すること。
【解決手段】半導体ウェハWが収納される反応容器1と、反応容器1内に配置され、半導体ウェハWを加熱するためのガラス状炭素製発熱体2と、反応容器1の外側に配置され、ガラス状炭素製発熱体2を誘導発熱させるための高周波誘導コイル3と、反応容器1と高周波誘導コイル3との間に配置され、ガラス状炭素製発熱体2との対向状態を高周波誘導コイル3への通電時と通電終了後とで異なるように変化可能に構成された可動式熱反射板4と、を備えた加熱装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路製造プロセスに用いられ、半導体ウェハ(半導体基板)を加熱するに際し、ガラス状炭素製発熱体を誘導発熱させて半導体ウェハを加熱するようにした加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の製造においては、化学気相成長(CVD)による成膜工程、アニール工程、エッチング工程など種々の工程にて半導体ウェハを加熱することが行われる。そして一般論として、半導体ウェハの加熱処理には、(a)処理の正確さ:温度を必要なだけ厳密に、再現性よく制御すること、(b)生産性:昇温・降温速度をできるだけ速くし、必要最小限の時間で処理すること、(c)清浄性:半導体ウェハを汚染しないこと、(d)コスト:運転コスト、消耗品コストが小さいこと、などが望まれている。
【0003】
この場合、半導体ウェハを加熱する方式としては、反応容器(清浄性の観点から一般に石英製である)内に収納されている半導体ウェハを、その反応容器の外側に配置された抵抗加熱ヒータによって加熱する抵抗加熱ヒータ方式、また、反応容器内に収納されている半導体ウェハを、その反応容器の外側に配置された赤外線ランプによって加熱するランプ加熱方式が知られている(例えば、特開2000−103696号公報(同図4))。
【0004】
また、表面が炭化ケイ素(SiC)でコーティングされた黒鉛製のサセプタを反応容器内に配置し、高周波誘導コイルに通電して前記サセプタを誘導発熱させることにより、前記サセプタ上に載置された半導体ウェハを加熱する誘導加熱方式が知られている(例えば、特開平6−53139号公報(同図2))。また、同じく誘導加熱方式として、反応容器内にガラス状炭素製円筒体を配置し、前記反応容器の外側に配置された高周波誘導コイルに通電してガラス状炭素製円筒体を誘導発熱させることにより、前記ガラス状炭素製円筒体の内側に収容されている半導体ウェハを加熱する誘導加熱方式が知られている(特許文献1:特開2003−151737号公報)。
【0005】
前記誘導加熱方式に発熱体として用いられるガラス状炭素よりなるガラス状炭素製発熱体は、周知のように、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を所定形状(例えば円筒)に成形し、得られた熱硬化性樹脂成形体を、不活性雰囲気中で、高温、例えば1000℃以上に高温加熱処理して炭素化することにより、製造されるものである。そして、ガラス状炭素は、導電性、耐熱性及び耐食性を有することに加えて、発熱体の材料としてみた場合、緻密な組織で化学的に安定なことから汚染物質を発生しにくく(低発塵性で、構成粒子の脱落なし)、また、熱容量が小さい、など優れた特徴を有している。したがって、ガラス状炭素よりなる発熱体を用いた誘導加熱方式による加熱装置は、半導体ウェハを汚染することなく加熱する加熱装置として適している。
【0006】
【特許文献1】特開2003−151737号公報(段落[0014]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ガラス状炭素製発熱体を誘導発熱させて半導体ウェハを加熱する従来の加熱装置では、半導体ウェハの昇温速度を速めるためにガラス状炭素製発熱体からの熱が反応容器の外部へ逃げることを防ぐようにすると、高周波誘導コイルへの通電を終了しても、半導体ウェハの温度が下がりにくく、半導体ウェハの加熱処理に時間がかかり、生産性の点で改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、ガラス状炭素製発熱体を誘導発熱させて半導体ウェハを加熱するに際し、半導体ウェハの昇温時にはガラス状炭素製発熱体からの熱の反応容器外部への放熱を抑制して半導体ウェハの昇温速度を速め、高周波誘導コイルへの通電終了後の半導体ウェハの降温時には、前記放熱抑制状態を解除して半導体ウェハの降温速度を速めることができるようにした、加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0010】
請求項1の発明は、半導体ウェハが収納される反応容器と、前記反応容器内に配置され、前記半導体ウェハを加熱するためのガラス状炭素製発熱体と、前記反応容器の外側に配置され、前記ガラス状炭素製発熱体を誘導発熱させるための高周波誘導コイルと、前記反応容器と前記高周波誘導コイルとの間に配置され、前記ガラス状炭素製発熱体との対向状態を前記高周波誘導コイルへの通電時と通電終了後とで異なるように変化可能に構成された可動式熱反射板と、を備えたことを特徴とする加熱装置である。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1記載の加熱装置において、前記ガラス状炭素製発熱体が円筒状をなしていること特徴とするものである。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1記載の加熱装置において、前記ガラス状炭素製発熱体が円盤状をなしていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4の発明は、請求項3記載の加熱装置において、前記円盤状をなすガラス状炭素製発熱体が0.45以上の放射率を有していることを特徴とするものである。
【0014】
請求項5の発明は、半導体ウェハが収納され、前記半導体ウェハを加熱するために少なくとも一部分がガラス状炭素製発熱部で構成された反応容器と、前記反応容器の外側に配置され、前記ガラス状炭素製発熱部を誘導発熱させるための高周波誘導コイルと、前記反応容器と前記高周波誘導コイルとの間に配置され、前記ガラス状炭素製発熱部との対向状態を前記高周波誘導コイルへの通電時と通電終了後とで変化可能に構成された可動式熱反射板と、を備えたことを特徴とする加熱装置である。
【0015】
請求項6の発明は、請求項5記載の加熱装置において、前記反応容器の前記ガラス状炭素製発熱部が円筒状をなしていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1、2、3又は4の加熱装置によると、半導体ウェハの昇温時には、反応容器内に配置されたガラス状炭素製発熱体からの熱の反応容器外部への放熱を抑制するように前記ガラス状炭素製発熱体に対して可動式熱反射板を対向させることにより、半導体ウェハの昇温速度を速めることができ、高周波誘導コイルへの通電終了後の半導体ウェハの降温時には、前記放熱抑制状態を解除するように前記ガラス状炭素製発熱体に対する前記可動式熱反射板の対向状態を変化させることにより、半導体ウェハの降温速度を速めることができる。これにより、半導体ウェハの加熱処理にかかる時間を短縮して、生産性を高めることができる。
【0017】
請求項5又は6の加熱装置によると、半導体ウェハの昇温時には、反応容器のガラス状炭素製発熱部からの熱の該反応容器外部への放熱を抑制するように前記ガラス状炭素製発熱部に対して可動式熱反射板を対向させることにより、半導体ウェハの昇温速度を速めることができ、高周波誘導コイルへの通電終了後の半導体ウェハの降温時には、前記放熱抑制状態を解除するように前記ガラス状炭素製発熱部に対する前記可動式熱反射板の対向状態を変化させることにより、半導体ウェハの降温速度を速めることができる。これにより、半導体ウェハの加熱処理にかかる時間を短縮して、生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の加熱装置について、より詳しく説明する。
【0019】
本発明の第1の加熱装置は、前述したように、半導体ウェハが収納される例えば石英製の反応容器と、前記反応容器内に配置され、前記半導体ウェハを加熱するためのガラス状炭素製発熱体と、前記反応容器の外側に配置され、前記ガラス状炭素製発熱体を誘導発熱させるための高周波誘導コイルと、前記反応容器と前記高周波誘導コイルとの間に配置され、前記ガラス状炭素製発熱体との対向状態を変化可能に構成された可動式熱反射板とを備えている。なお、前記反応容器は、石英などの耐熱性に優れた絶縁材料からなっている。
【0020】
このように、半導体ウェハの近傍にガラス状炭素製発熱体が配置されており、このガラス状炭素製発熱体を誘導発熱させることにより、パーティクルなどの汚染物質を半導体ウェハに移すことなく、急速に半導体ウェハを加熱することができる。これに対して、抵抗加熱ヒータを反応容器内に配置したり、反応容器の外側から抵抗加熱ヒータ、あるいは赤外線ランプで加熱したりするようなものでは、急速に半導体ウェハを加熱することが難しい。また、誘導発熱させる発熱体として、ガラス状炭素以外の黒鉛をはじめとする炭素材料では、それ自体が炭素微粉などのパーティクルを発することが避けがたく、これを回避するために、表面に炭化ケイ素(SiC)をコーティングして使用されるものの、コーティングが剥がれてパーティクルが生じる心配があり、半導体ウェハを汚染しないようにすることが難しい。
【0021】
また、特徴として、反応容器と高周波誘導コイルとの間に配置され、ガラス状炭素製発熱体との対向状態を高周波誘導コイルへの通電時と通電終了後とで異なるように変化可能に構成された可動式熱反射板を備えている。この可動式熱反射板は、例えば、短冊板状をなして上下方向に延びる複数個の熱反射板片を備え、個々の熱反射板片を動かすことにより、ガラス状炭素製発熱体に対する対向状態を変化させることができるようにしたものである。
【0022】
すなわち、円筒状をなすガラス状炭素製円筒状発熱体の場合(図1参照)、半導体ウェハの昇温時には、反応容器の外周周りに、各熱反射板片をその隣り合う熱反射板片同士が互いに実質的に隙間をあけることなく位置させることにより(図2(a),図3(a)参照)、ガラス状炭素製円筒状発熱体からの放射熱を反射する度合いを大きくし、ガラス状炭素製円筒状発熱体からの熱の反応容器外部への放熱をできるだけ抑制することで、ガラス状炭素製円筒状発熱体からの熱を半導体ウェハに効率的に伝えて、半導体ウェハの昇温速度を速めることができる。
【0023】
一方、高周波誘導コイルへの通電終了後の半導体ウェハの降温時には、反応容器の外周周りに、各熱反射板片をその隣り合う熱反射板片同士が互いに隙間をあけて位置させることにより(図2(b),図3(b)参照)、半導体ウェハの昇温時の前記放熱抑制状態を解除することで、前記放熱抑制状態をそのまま保持する場合に比べ半導体ウェハの降温速度を速めることができる。
【0024】
また、例えば、反応容器の軸線方向に移動可能な円筒状熱反射板14により可動式熱反射板を構成し、図4に示すように、半導体ウェハの昇温時には、円筒状熱反射板14により反応容器の外周周りを取り囲み、半導体ウェハの降温時には、円筒状熱反射板14を例えば上方へ移動させて反応容器の外周周りから退避させるようにしてもよい。
【0025】
前記のガラス状炭素製発熱体としては、その形状が円筒状をなすガラス状炭素製円筒状発熱体が好適である。縦型ボードに半導体ウェハを複数枚(数十枚)縦に並べて積載し、これを取り囲むように前記ガラス状炭素製円筒状発熱体を配置して(ガラス状炭素製円筒状発熱体の内側に複数枚の半導体ウェハが積載された前記縦型ボードを収容して)、ガラス状炭素製円筒状発熱体を誘導発熱させるという構成を採用することができる。
【0026】
本発明の第2の加熱装置は、前述したように、半導体ウェハが収納され、前記半導体ウェハを加熱するために少なくともその一部分がガラス状炭素製発熱部で構成された反応容器と、前記反応容器の外側に配置され、前記ガラス状炭素製発熱部を誘導発熱させるための高周波誘導コイルと、前記反応容器と前記高周波誘導コイルとの間に配置され、前記ガラス状炭素製発熱部との対向状態を変化可能に構成された可動式熱反射板とを備えている。
【0027】
このように、半導体ウェハが収納される反応容器の一部分(例えば円筒状をなす胴部)自体をガラス状炭素からなるガラス状炭素製発熱部として利用する構成とし、半導体ウェハの近傍の前記ガラス状炭素製発熱部を誘導発熱させることにより、前記第1の加熱装置と同様に、汚染物質を半導体ウェハに移すことなく、急速に半導体ウェハを加熱することができる。
【0028】
また、反応容器と高周波誘導コイルとの間に配置され、ガラス状炭素製発熱部との対向状態を高周波誘導コイルへの通電時と通電終了後とで異なるように変化可能に構成された可動式熱反射板を備えており、この可動式熱反射板は、前述したところの、第1の加熱装置の前記可動式熱反射板と同様の構成をなしている。
【0029】
すなわち、反応容器の円筒状をなす胴部がガラス状炭素製円筒状発熱部により構成されている場合、半導体ウェハの昇温時には、反応容器の外周周りに、各熱反射板片をその隣り合う熱反射板片同士が互いに隙間をあけることなく位置させることにより、ガラス状炭素製円筒状発熱部(反応容器胴部)からの放射熱を反射する度合いを大きくし、ガラス状炭素製円筒状発熱部(反応容器胴部)からの熱の反応容器外部への放熱をできるだけ抑制することで、ガラス状炭素製円筒状発熱部(反応容器胴部)からの熱を半導体ウェハに効率的に伝えて、半導体ウェハの昇温速度を速めることができる。一方、高周波誘導コイルへの通電終了後の半導体ウェハの降温時には、反応容器の外周周りに、各熱反射板片をその隣り合う熱反射板片同士が互いに隙間をあけて位置させることにより、半導体ウェハの昇温時の前記放熱抑制状態を解除することで、前記放熱抑制状態をそのまま保持する場合に比べ半導体ウェハの降温速度を速めることができる。また、前述したように、例えば、反応容器の軸線方向に移動可能な円筒状熱反射板により可動式熱反射板を構成するようにしてもよい。
【0030】
なお、本発明の第2の加熱装置は、少なくともその一部分がガラス状炭素製発熱部で構成された反応容器の外部空間を雰囲気制御する手段を備えていてよい。ガラス状炭素は高温の酸化性雰囲気に曝されると酸化消耗するが、前記反応容器の外部空間を不活性雰囲気とすることで、前記反応容器を高温でも酸化消耗が生じることなく使用することが可能となる。
【0031】
本発明の加熱装置において、前記したガラス状炭素製発熱体、あるいは反応容器の一部分(例えば前記した胴部)を構成する前記したガラス状炭素製発熱部の製造については、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を所定形状(例えば円筒形)に成形し、得られた熱硬化性樹脂成形体を、不活性雰囲気中で、高温、例えば1000℃以上に高温加熱処理して炭素化することにより、製造することができる。熱硬化性樹脂成形体の成形方法としては、遠心成形、プレス成形、射出成形、注型成形、あるいは接合などの公知の方法から選択することができる。
【0032】
また、本発明の加熱装置において、前記可動式熱反射板の材質は、アルミナ(Al)、不透明石英などの耐熱性を有する絶縁材料、あるいは、高周波誘導コイルによって誘導加熱されない耐熱材料から選択される。
【0033】
図1は本発明の一実施形態による加熱装置を示す構成説明図である。この加熱装置は、縦型減圧CVD装置として構成されたものである。
【0034】
図1に示すように、この加熱装置は、中空断面円形で上部がドーム状をなして閉じられた石英製の反応容器1と、この反応容器1内に配置され、ガラス状炭素からなり円筒状をなす内管であって、シリコンウェハWを加熱するためのガラス状炭素製円筒状発熱体2と、このガラス状炭素製円筒状発熱体2の内側に配され、シリコンウェハWを複数枚(多数枚)縦に並べて積載する縦型ボード6と、マニホールド7とを備えている。この実施形態のマニホールド7は、ガラス状炭素製円筒状発熱体2内にその下方より反応ガスを導入するとともに、ガラス状炭素製円筒状発熱体2の上端開口より導出された反応後のガスを反応容器1とガラス状炭素製円筒状発熱体2との間の空間通路を下降させて反応容器1から排出するためのものである。
【0035】
さらに、この加熱装置は、反応容器1の外側に配置され、ガラス状炭素製円筒状発熱体2を誘導発熱させるための高周波誘導コイル3と、反応容器1と高周波誘導コイル3との間に反応容器1の外周に沿うようにして配置され、ガラス状炭素製円筒状発熱体2との対向状態を変化可能に構成された後述する可動式熱反射板4とを備えている。高周波誘導コイル3には、高周波交流電源から整合器を介して交流高周波電力が供給されるようになっている。
【0036】
前記の反応容器1、ガラス状炭素製円筒状発熱体2、縦型ボード6、可動式熱反射板4及び高周波誘導コイル3は、軸線を同じにして設けられている。前記マニホールド7には、反応容器1とガラス状炭素製円筒状発熱体2が載置されるとともに、縦型ボード6が図示しない保温筒を介して載置されるようになっている。また、マニホールド7は、ガラス状炭素製円筒状発熱体2の内側に反応ガスなどを導入するガスインジェクタ8a,8bを備えるとともに、反応後のガスあるいは未反応ガスを反応容器1から排出させるガス排気口9を有している。マニホールド7の開口部は図示しないハッチによって塞がれるようになっている。
【0037】
この加熱装置は、ガラス状炭素製円筒状発熱体2を誘導発熱させることにより、ガラス状炭素製円筒状発熱体2の内側に収容された縦型ボード6に縦に並べられている各シリコンウェハWを加熱することで、ガラス状炭素製円筒状発熱体2内へ導入された反応ガスを熱エネルギーにより熱分解反応させて、各シリコンウェハW上に成膜を行うようにしたものである。
【0038】
図2は図1における可動式熱反射板を説明するための平面図であって、その(a)は半導体ウェハの昇温時における可動式熱反射板の様子を説明するための図、その(b)は高周波誘導コイルへの通電終了後の半導体ウェハの降温時における可動式熱反射板の様子を説明するための図である。
【0039】
前記可動式熱反射板4は、短冊板状をなして上下方向に延びる複数個、例えば20枚程度の熱反射板片4aを備え、個々の熱反射板片4aを動かすことにより、ガラス状炭素製円筒状発熱体2に対する対向状態を変化させることができるようにしたものである。この例では、各熱反射板片4aは、上下方向に延びる一方端側の長辺から所定距離隔てて該長辺と平行をなす線を回動中心として回動可能に支持されている。各熱反射板片4aは、アルミナなどの耐熱性を有する絶縁材料からなっている。
【0040】
そして、図2(a)に示すように、シリコンウェハWの昇温時には、反応容器1の外周周りに、各熱反射板片4aをその隣り合う熱反射板片4a同士が互いにわずかの隙間を有して、つまり実質的に隙間をあけることなく位置させるようにしてある。すなわち、可動式熱反射板4は、シリコンウェハWの昇温時には、平面視でみてガラス状炭素製円筒状発熱体2(反応容器1)に対して同心円状をなして対向するように構成されている。
【0041】
また一方、図2(b)に示すように、高周波誘導コイル3への通電終了後のシリコンウェハWの降温時には、各熱反射板片4aを前記回動中心周りに90度回動させることで、反応容器1の外周周りに、各熱反射板片4aをその隣り合う熱反射板片4a同士が互いに熱反射板片4a1枚分の隙間をあけて位置させるようにしてある。すなわち、可動式熱反射板4は、シリコンウェハWの降温時には、平面視でみてガラス状炭素製円筒状発熱体2(反応容器1)に対して放射状をなして対向するように構成されている。
【0042】
このように構成される加熱装置によると、シリコンウェハWの昇温時には、図2(a)に示すように、反応容器1の外周周りに、可動式熱反射板4の各熱反射板片4aをその隣り合う熱反射板片4a同士が実質的に隙間をあけることなく位置させて、平面視でみてガラス状炭素製円筒状発熱体2(反応容器1)に対して可動式熱反射板4を全体として同心円状をなして対向させることで、ガラス状炭素製円筒状発熱体2からの熱の反応容器1外部への放熱を抑制して、シリコンウェハWの昇温速度を速めることができる
【0043】
また、高周波誘導コイル3への通電終了後のシリコンウェハWの降温時には、反応容器1の外周周りに、可動式熱反射板4の各熱反射板片4aをその隣り合う熱反射板片4a同士が互いに熱反射板片4a1枚分の隙間をあけて位置させて、平面視でみてガラス状炭素製円筒状発熱体2(反応容器1)に対して可動式熱反射板4を全体として放射状をなして対向させることで、シリコンウェハWの前記昇温時における前記放熱抑制状態をそのまま保持する場合に比べてシリコンウェハWの降温速度を速めることができる。
【0044】
図3は図1における可動式熱反射板の別の例を説明するための平面図であって、その(a)は半導体ウェハの昇温時における可動式熱反射板の様子を説明するための図、その(b)は高周波誘導コイルへの通電終了後の半導体ウェハの降温時における可動式熱反射板の様子を説明するための図である。
【0045】
この例の可動式熱反射板5は、短冊板状をなして上下方向に延びる複数個、例えば20枚程度の熱反射板片5aを備え、適宜の熱反射板片5aを動かすことにより、ガラス状炭素製円筒状発熱体2に対する対向状態を変化させることができるようにしたものである。この例では、半数の熱反射板片5aは、反応容器1の外周に沿って熱反射板片5a1枚分の距離の往復の平行移動が可能になっている。可動式熱反射板5を構成する各熱反射板片4aは、アルミナなどの耐熱性を有する絶縁材料からなっている。
【0046】
そして、図3(a)に示すように、シリコンウェハWの昇温時には、反応容器1の外周周りに、各熱反射板片5aをその隣り合う熱反射板片5a同士が互いにわずかの隙間を有して、つまり実質的に隙間をあけることなく平面視で千鳥配置にて位置させるようにしてある。
【0047】
また、図3(b)に示すように、高周波誘導コイル3への通電終了後のシリコンウェハWの降温時には、反応容器1に対してより外側に位置する半数の熱反射板片5aを、それぞれ、反応容器1の外周に沿って平面視で時計回り方向に熱反射板片5a1枚分の距離だけ平行移動させることで、反応容器1の外周周りに、2枚重ねされた熱反射板片5aをその隣り合うもの同士が互いに熱反射板片5a1枚分の隙間をあけて位置させるようにしてある。
【0048】
図5は本発明の別の実施形態による加熱装置を示す構成説明図である。
【0049】
図5に示すように、箱状をなす石英製の反応容器15内には、ガラス状炭素製円盤状発熱体18が配置されている。1枚のシリコンウェハWは、ガラス状炭素製円盤状発熱体18上に支持されている。反応容器15の下方には、ガラス状炭素製円盤状発熱体18を誘導発熱させるための渦巻き状の高周波誘導コイル19が配置されている。さらに、反応容器15と高周波誘導コイル19との間には、円盤状をなす可動式熱反射板20が、図5における左右方向に移動可能に配置されている。高周波誘導コイル19には、高周波交流電源から整合器を介して交流高周波電力が供給されるようになっている。
【0050】
この加熱装置は、ガラス状炭素製円盤状発熱体18を誘導発熱させてシリコンウェハWを加熱し、これによりシリコンウェハWを熱処理したり、反応ガスを熱エネルギーにより熱分解反応させて、シリコンウェハW上に成膜したりするようにしたものである。反応ガスは、反応容器15の一端にある反応ガス導入口16から反応容器15内に導入される。反応容器15内に導入された反応ガスは、シリコンウェハWの上方を図5における左から右の方向に流れ、反応ガス排出口17に流れる。
【0051】
そして、ガラス状炭素製円盤状発熱体18を誘導発熱させるときには、ガラス状炭素製円盤状発熱体18に対して可動式熱反射板20を相対して位置させ、対向状態とする。これにより、ガラス状炭素製円盤状発熱体18からの放射熱を反射する度合いを大きくし、ガラス状炭素製円盤状発熱体18からの熱の反応容器15外部への放熱を抑制することで、シリコンウェハWの昇温速度を速めることができる。
【0052】
一方、高周波誘導コイル19の通電終了後は、可動式熱反射板20を、図5における右方向に移動させて、ガラス状炭素製円盤状発熱体18に対して対向しない非対向状態とする。これにより、可動式熱反射板20を非対向状態としない場合(対向状態をそのまま保持する場合)に比べて、シリコンウェハWの降温速度を速めることができる。
【0053】
図5に示す加熱装置のガラス状炭素製円盤状発熱体18は、0.45以上の放射率を有している。
【0054】
ここで、ガラス状炭素製発熱体の放射率は、次のようにして測定される。測定用試料は、測定対象のガラス状炭素製発熱体からなる大きさ3cm×3cmの基板である。測定装置は、フーリエ変換型赤外分光光度計(日本電子製:JIR−5500型)、及び赤外放射測定ユニット(日本電子製:IRR−200型)を使用した。
【0055】
放射率の測定方法は、黒体炉2点(160℃、80℃)及び測定用試料の分光放射強度[実測値]を測定し、これらの強度と黒体の分光放射強度[理論値]とから、測定用試料の分光放射率を求める。得られた該分光放射率の値から測定用試料の積分放射率を算出し、これを放射率とする。測定条件は、分解能:16cm−1、測定温度:200℃(試料加熱ステージの温度)、波長範囲:4.5〜15.4μmとした。そして、この放射率の測定を測定用試料の有効発熱面積中における任意の3点に対して行い、その平均値をもって、当該測定用試料の放射率とする。
【0056】
さて、本発明者の調査によると、ガラス状炭素製円盤状発熱体18などのガラス状炭素製発熱体の放射率は、製造条件により変動し、通常、0.35〜0.8程度の範囲の値をとる。そして、ガラス状炭素製円盤状発熱体18の放射率は、0.45以上であることがよい。ガラス状炭素製円盤状発熱体18は、その放射率が0.45以上であると、半導体ウェハに当該発熱体18の熱を効率的に伝達することができる。ガラス状炭素製円盤状発熱体18は、その放射率が0.45を下回ると、半導体ウェハに当該発熱体18の熱を効率良く伝達することができない。
【0057】
そして、ガラス状炭素製円盤状発熱体18の放射率が0.45以上となるようにするには、次のようにすることがよい。すなわち、円盤状の熱硬化樹脂製成形体を炭素化することにより、ガラス状炭素製円盤状発熱体が得られると、得られたガラス状炭素製円盤状発熱体の表面部分を、少なくとも厚み50μm以上にわたって機械的に除去することがよい。なぜなら、理由は定かでないが、炭素化されたままの状態のガラス状炭素製円盤状発熱体は、その表面部分が炭素化されたままの状態であり、特異的に放射率が小さいからである。前記の除去を行う方法としては、ラッピング処理、ブラスト処理、研磨処理、研削加工など、公知の方法を採用することができる。
【0058】
図6は本発明の別の実施形態による加熱装置を示す構成説明図である。ここで、前記図1の加熱装置と同一の部分には図1と同一の符号を付している。
【0059】
図6に示すように、この加熱装置は、シリコンウェハWを加熱するためにその胴部が円筒状をなすガラス状炭素製円筒状発熱部12で構成されるとともに、ガラス状炭素製円筒状発熱部12の両端にSUS316製のマニホールド13A,13Bが取り付けられてなる反応容器11と、この反応容器11の前記ガラス状炭素製円筒状発熱部12の内側に配置され、シリコンウェハWを複数枚縦に並べて積載する縦型ボード6と、ガラス状炭素製円筒状発熱部12(反応容器11胴部)の外側に配置され、ガラス状炭素製円筒状発熱部12を誘導発熱させるための高周波誘導コイル3と、ガラス状炭素製円筒状発熱部12と高周波誘導コイル3との間に配置され、ガラス状炭素製円筒状発熱部12との対向状態を変化可能に構成された可動式熱反射板4とを備えたものである。
【0060】
このように、反応容器11の一部分、この例では円筒状をなす胴部がガラス状炭素製円筒状発熱部12で構成された反応容器11を備えた加熱装置においても、シリコンウェハWの昇温時には、反応容器11のガラス状炭素製円筒状発熱部12からの熱の該反応容器11外部への放熱を抑制するようにガラス状炭素製円筒状発熱部12に対して可動式熱反射板4を対向させることにより(図2(a),図3(a)参照)、シリコンウェハWの昇温速度を速めることができ、高周波誘導コイル3への通電終了後のシリコンウェハWの降温時には、前記放熱抑制状態を解除するようにガラス状炭素製円筒状発熱部12に対する可動式熱反射板4の対向状態を変化させることにより(図2(b),図3(b)参照)、シリコンウェハWの降温速度を速めることができる。
【実施例1】
【0061】
前記図1に示す加熱装置において、シリコンウェハの昇温速度及び降温速度について測定した。
【0062】
ガラス状炭素製円筒状発熱体2の作製について説明すると、まず、ガラス状炭素の原料樹脂については、市販の液状フェノール樹脂である群栄化学工業製PL−4804を、減圧下100℃で5時間熱処理して水分率を調整し、これをガラス状炭素原料樹脂とした。なお、群栄化学工業製PL−4804の特性値は、比重(at25℃):1.198、粘度(at25℃):690cP、ゲル化時間(at150℃):7分50秒、不揮発成分:72.5%というものである。
【0063】
次に、ステンレス製円筒形遠心成形金型を使用して遠心成形法により、前記原料樹脂を硬化させ、フェノール樹脂製円筒体を得た。次いで、このフェノール樹脂製円筒体を空気中にて200℃で50時間加熱するキュアリング処理を行って完全硬化させた。そして、このキュアリング処理したフェノール樹脂製円筒体について、窒素雰囲気中において2℃/hの昇温速度で1000℃まで昇温し、さらに10℃/hの昇温速度で2000℃まで昇温し、このような加熱により炭素化して、外径100mm、肉厚3mm、長さ300mmのガラス状炭素製円筒状発熱体(ガラス状炭素製円筒体)2を得た。
【0064】
石英製の反応容器1(内径120mm、深さ400mm)内に前記得られたガラス状炭素製円筒状発熱体2を配置し、このガラス状炭素製円筒状発熱体2の内側に配置された縦型ボード6に、直径2インチのシリコンウェハWを10枚縦に並べて載置した。また、可動式熱反射板4は20枚の熱反射板片4aから構成されており、アルミナからなる熱反射板片4aの寸法は、厚み2mm、幅20mm、長さ400mmである。平面視(前記図2(a))において可動式熱反射板4と反応容器1との間隔距離は約5mmである。
【0065】
また、比較例2として、内径130mm、厚み2mm、長さ400mmのアルミナ製円筒体を準備し、反応容器1と高周波誘導コイル3との間に、反応容器1と同心状に配置するようにした。
【0066】
シリコンウェハの温度測定は、10枚縦に並べられたシリコンウェハのうちの最上段のシリコンウェハの温度を放射温度計により測定するようにした。また、反応容器1内には窒素ガスを5リットル/分の流量で供給した。
【0067】
実施例1、比較例1及び比較例2において、同一の高周波電力供給条件で高周波誘導コイル3に通電し、前記最上段のシリコンウェハが300℃から500℃に達するまでの該シリコンウェハの平均昇温速度と、高周波誘導コイル3への通電を終了し、前記最上段のシリコンウェハが300℃に達するまでの該シリコンウェハの降温速度とを測定した。その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
実施例1は、シリコンウェハの昇温時には、図2(a)に示すように、可動式熱反射板4を閉じた状態(平面視でみて可動式熱反射板4をガラス状炭素製円筒状発熱体2(反応容器1)に対して同心円状をなして対向させる状態)にし、高周波誘導コイル3への通電終了後のシリコンウェハの降温時には、図2(b)に示すように、可動式熱反射板4を開いた状態(平面視でみて可動式熱反射板4をガラス状炭素製円筒状発熱体2(反応容器1)に対して放射状をなして対向させる状態)にした。そして、この場合、昇温速度:150℃/分、降温速度:100℃/分、という比較的大きな値が得られた。なお、昇温時に可動式熱反射板4を開いた状態(放射状をなして対向)にすると、その昇温速度は40℃/分であった。
【0070】
一方、比較例1では、シリコンウェハの昇温時については実施例1と同じであるが、降温時にも可動式熱反射板4をそのまま閉じた状態(同心円状をなして対向)にすると、降温速度は30℃/分となり実施例1の降温速度100℃/分に比べて1/3以下の小さい値であった。
【0071】
また、可動式熱反射板4に代えて可動式でない前記アルミナ製円筒体を用いた比較例2では、昇温速度は160℃/分と大きかったが(実施例1:昇温速度150℃/分)、降温速度は20℃/分となり実施例1の降温速度100℃/分に比べて1/5という小さい値であった。
【実施例2】
【0072】
前記図6に示す加熱装置において、シリコンウェハの昇温速度及び降温速度について測定した。
【0073】
前記実施例1と同一の方法により、外径100mm、肉厚3mm、長さ300mmのガラス状炭素製円筒状発熱部12を得た。反応容器11のガラス状炭素製円筒状発熱部12の内側に縦型ボード6を配置し、この縦型ボード6に、前記実施例1の場合と同様に直径2インチのシリコンウェハWを10枚縦に並べて載置した。
【0074】
また、可動式熱反射板4は17枚の熱反射板片4aから構成されており、アルミナからなる熱反射板片4aの寸法は、厚み2mm、幅20mm、長さ300mmである。平面視において可動式熱反射板4とガラス状炭素製円筒状発熱部12との間隔距離は約5mmである。反応容器1内には窒素ガスを5リットル/分の流量で供給した。
【0075】
実施例2、比較例3及び比較例4において、同一の高周波電力供給条件で高周波誘導コイル3に通電し、前記最上段のシリコンウェハが300℃から500℃に達するまでの該シリコンウェハの平均昇温速度と、高周波誘導コイル3への通電を終了し、前記最上段のシリコンウェハが300℃に達するまでの該シリコンウェハの降温速度とを測定した。その結果を表1に示す。
【0076】
実施例2は、シリコンウェハの昇温時には、可動式熱反射板4を閉じた状態(平面視でみて可動式熱反射板4をガラス状炭素製円筒状発熱部12に対して同心円状をなして対向させる状態)にし、高周波誘導コイル3への通電終了後のシリコンウェハの降温時には、可動式熱反射板4を開いた状態(平面視でみて可動式熱反射板4をガラス状炭素製円筒状発熱部12に対して放射状をなして対向させる状態)にした。そして、この場合、昇温速度:145℃/分、降温速度:130℃/分、という比較的大きな値が得られた。
【0077】
一方、比較例3では、シリコンウェハの昇温時と降温時ともに、可動式熱反射板4を開いた状態(放射状をなして対向)にした。ガラス状炭素製円筒状発熱部12からの外部への放熱が大きくなり、昇温速度は45℃/分という小さい値であった。降温速度は実施例2と同じく130℃/分であった。
【0078】
また、比較例4では、シリコンウェハの昇温時については実施例2とほぼ同じであるが、降温時にも可動式熱反射板4をそのまま閉じた状態(同心円状をなして対向)にすると、降温速度は40℃/分となり実施例2の降温速度130℃/分に比べて1/3以下の小さい値であった。
【実施例3】
【0079】
前記図5に示す加熱装置において、シリコンウェハの昇温速度及び降温速度について測定した。
【0080】
前記実施例1と同一のガラス状炭素原料樹脂を用い、ステンレス製円筒形遠心成形金型を使用して遠心成形法により、フェノール樹脂製円筒体を得た。このフェノール樹脂製円筒体の胴部を一箇所だけ長手方向に沿って直線状に切断し、この切断されたものを100℃に加熱した状態で平板状に押し広げることにより、フェノール樹脂製平板体を得た。このフェノール樹脂製板状体から直径100mmのフェノール樹脂製円盤体を切り出した。
【0081】
次いで、このフェノール樹脂製円盤体を空気中にて200℃で50時間加熱するキュアリング処理を行って完全硬化させた。そして、このキュアリング処理したフェノール樹脂製円盤体について、窒素雰囲気中において2℃/hの昇温速度で1000℃まで昇温し、さらに10℃/hの昇温速度で2000℃まで昇温し、このような加熱により炭素化して、直径85mm、肉厚3mmのガラス状炭素製円盤体を得た。
【0082】
次に、前記ガラス状炭素製円盤体の両面を、該両面が粗面化するように、#320の研磨材を用いてブラスト処理した。これにより、0.65の放射率を有するガラス状炭素製円盤状発熱体18を得た。
【0083】
石英製の反応容器15の寸法は、縦120mm、横120mm、深さ100mmである。図5に示すように、この反応容器15内に、0.65の放射率を有する前記ガラス状炭素製円盤状発熱体18を配置した。直径2インチの1枚のシリコンウェハWは、ガラス状炭素製円盤状発熱体18上に載置した。円盤状をなす可動式熱反射板20の寸法は、直径100mm、厚み2mmである。可動式熱反射板20の材質は、アルミナである。反応容器15と可動式熱反射板20との間隔距離は、約2mmである。
【0084】
シリコンウェハWの温度は、放射温度計を用いて測定した。また、反応容器15内には窒素ガスを5リットル/分の流量で供給した。
【0085】
実施例3、比較例5、比較例7及び比較例8において、同一の高周波電力供給条件で高周波誘導コイル19に通電し、シリコンウェハWが300℃から750℃に達するまでのシリコンウェハWの平均昇温速度と、高周波誘導コイル19への通電を終了し、シリコンウェハWが300℃に達するまでのシリコンウェハWの降温速度とを測定した。高周波誘導コイル19には、周波数40kHz、出力3kWの高周波電力を供給した。その結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
実施例3は、0.65の放射率を有するガラス状炭素製円盤状発熱体18を用い、シリコンウェハWの昇温時には、ガラス状炭素製円盤状発熱体18に対して可動式熱反射板20を対向状態とし、シリコンウェハWの降温時には、ガラス状炭素製円盤状発熱体18に対して可動式熱反射板20を非対向状態とした。実施例3では、シリコンウェハWの昇温速度:92℃/秒、シリコンウェハWの降温速度:85℃/秒、という極めて大きい値が得られた。
【0088】
比較例5は、0.65の放射率を有するガラス状炭素製円盤状発熱体18を用い、シリコンウェハWの昇温時及び降温時ともに、ガラス状炭素製円盤状発熱体18に対して可動式熱反射板20を対向状態とした。比較例5では、シリコンウェハWの降温時に、ガラス状炭素製円盤状発熱体18に対して可動式熱反射板20を対向状態としたので、シリコンウェハWの降温速度は、23℃/秒となり、実施例3の降温速度に比べて大幅に小さい値であった。
【0089】
比較例7は、実施例3のガラス状炭素製円盤状発熱体18に代えて0.43の放射率を有するガラス状炭素製円盤状発熱体を用い、シリコンウェハWの昇温時には、前記ガラス状炭素製円盤状発熱体に対して可動式熱反射板20を対向状態とし、シリコンウェハWの降温時には、前記ガラス状炭素製円盤状発熱体に対して可動式熱反射板20を非対向状態とした。この比較例7で用いたガラス状炭素製円盤状発熱体は、表面処理がなされておらず、炭素化されたままの状態のものであり、放射率が0.45を下回るものである。
【0090】
比較例7では、シリコンウェハWの昇温速度は62℃/秒、シリコンウェハWの降温速度は39℃/秒であった。ガラス状炭素製円盤状発熱体の放射率が0.45を下回ると、可動式熱反射板20を用いても、シリコンウェハWの昇温速度及び降温速度を速めるという効果が十分に得られなかった。
【0091】
比較例8は、実施例3のガラス状炭素製円盤状発熱体18に代えて0.38の放射率を有するガラス状炭素製円盤状発熱体を用い、シリコンウェハWの昇温時には、前記ガラス状炭素製円盤状発熱体に対して可動式熱反射板20を対向状態とし、シリコンウェハWの降温時には、前記ガラス状炭素製円盤状発熱体に対して可動式熱反射板20を非対向状態とした。この比較例8で用いたガラス状炭素製円盤状発熱体は、表面処理がなされておらず、炭素化されたままの状態のものであり、放射率が0.45を下回るものである。
【0092】
比較例8では、シリコンウェハWの昇温速度は59℃/秒、シリコンウェハWの降温速度は35℃/秒であった。ガラス状炭素製円盤状発熱体の放射率が0.45を下回ると、可動式熱反射板20を用いても、シリコンウェハWの昇温速度及び降温速度を速めるという効果が十分に得られなかった。
【実施例4】
【0093】
前記図5に示す加熱装置において、シリコンウェハの昇温速度及び降温速度について測定した。
【0094】
前記実施例3と同一の手順にて、直径85mm、肉厚3mmのガラス状炭素製円盤体を得た。次に、前記ガラス状炭素製円盤体の両面を、該両面が粗面化するように、サンドペーパーを用いて研磨処理した。これにより、0.51の放射率を有するガラス状炭素製円盤状発熱体18を得た。
【0095】
実施例4及び比較例6において、前記の実施例3、比較例5、比較例7及び比較例8と同一の高周波電力供給条件で高周波誘導コイル19に通電し、シリコンウェハWが300℃から750℃に達するまでのシリコンウェハWの平均昇温速度と、高周波誘導コイル19への通電を終了し、シリコンウェハWが300℃に達するまでのシリコンウェハWの降温速度とを測定した。その結果を表2に示す。
【0096】
実施例4は、0.51の放射率を有するガラス状炭素製円盤状発熱体18を用い、シリコンウェハWの昇温時には、ガラス状炭素製円盤状発熱体18に対して可動式熱反射板20を対向状態とし、シリコンウェハWの降温時には、ガラス状炭素製円盤状発熱体18に対して可動式熱反射板20を非対向状態とした。実施例4では、シリコンウェハWの昇温速度は83℃/秒であり、シリコンウェハWの降温速度は62℃/秒であった。このシリコンウェハWの昇温速度及び降温速度は、実施例3の結果には及ばないものの、大きい値が得られた。
【0097】
比較例6は、0.51の放射率を有するガラス状炭素製円盤状発熱体18を用い、シリコンウェハWの昇温時及び降温時ともに、ガラス状炭素製円盤状発熱体18に対して可動式熱反射板20を対向状態とした。比較例6では、シリコンウェハWの降温時に、ガラス状炭素製円盤状発熱体18に対して可動式熱反射板20を対向状態としたので、シリコンウェハWの降温速度は、19℃/秒となり、実施例4の降温速度に比べて大幅に小さい値であった。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の一実施形態による加熱装置を示す構成説明図である。
【図2】図1における可動式熱反射板を説明するための平面図であって、その(a)は半導体ウェハの昇温時における可動式熱反射板の様子を説明するための図、その(b)は高周波誘導コイルへの通電終了後の半導体ウェハの降温時における可動式熱反射板の様子を説明するための図である。
【図3】図1における可動式熱反射板の別の例を説明するための平面図であって、その(a)は半導体ウェハの昇温時における可動式熱反射板の様子を説明するための図、その(b)は高周波誘導コイルへの通電終了後の半導体ウェハの降温時における可動式熱反射板の様子を説明するための図である。
【図4】図1における可動式熱反射板の別の例を説明するための図である。
【図5】本発明の別の実施形態による加熱装置を示す構成説明図である。
【図6】本発明の別の実施形態による加熱装置を示す構成説明図である。
【符号の説明】
【0099】
1…反応容器
2…ガラス状炭素製円筒状発熱体
3…高周波誘導コイル
4,5…可動式熱反射板
4a,5a…熱反射板片
6…縦型ボード
7…マニホールド
8a,8b…ガスインジェクタ
9…ガス排気口
11…反応容器
12…ガラス状炭素製円筒状発熱部
13A,13B…マニホールド
14…円筒状熱反射板
15…反応容器
16…反応ガス導入口
17…反応ガス排出口
18…ガラス状炭素製円盤状発熱体
19…高周波誘導コイル
20…可動式熱反射板
W…シリコンウェハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェハが収納される反応容器と、前記反応容器内に配置され、前記半導体ウェハを加熱するためのガラス状炭素製発熱体と、前記反応容器の外側に配置され、前記ガラス状炭素製発熱体を誘導発熱させるための高周波誘導コイルと、前記反応容器と前記高周波誘導コイルとの間に配置され、前記ガラス状炭素製発熱体との対向状態を前記高周波誘導コイルへの通電時と通電終了後とで異なるように変化可能に構成された可動式熱反射板と、を備えたことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記ガラス状炭素製発熱体が円筒状をなしていることを特徴とする請求項1記載の加熱装置。
【請求項3】
前記ガラス状炭素製発熱体が円盤状をなしていることを特徴とする請求項1記載の加熱装置。
【請求項4】
前記円盤状をなすガラス状炭素製発熱体が0.45以上の放射率を有していることを特徴とする請求項3記載の加熱装置。
【請求項5】
半導体ウェハが収納され、前記半導体ウェハを加熱するために少なくとも一部分がガラス状炭素製発熱部で構成された反応容器と、前記反応容器の外側に配置され、前記ガラス状炭素製発熱部を誘導発熱させるための高周波誘導コイルと、前記反応容器と前記高周波誘導コイルとの間に配置され、前記ガラス状炭素製発熱部との対向状態を前記高周波誘導コイルへの通電時と通電終了後とで変化可能に構成された可動式熱反射板と、を備えたことを特徴とする加熱装置。
【請求項6】
前記反応容器の前記ガラス状炭素製発熱部が円筒状をなしていることを特徴とする請求項5記載の加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−72080(P2008−72080A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47493(P2007−47493)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】