説明

加飾樹脂成形品の製造方法及び加飾樹脂成形品

【課題】木質感がよりリアルに表現された加飾樹脂成形品と、その有利な製造技術を提供する。
【解決手段】本木材の表面の微細な溝状凹部を転写して、かかる溝状凹部に対応する凸部がキャビティ面に設けられた成形キャビティを有する成形用型を形成した後、この成形用型を用いて、成形用型の成形キャビティ内に所定の溶融樹脂材料を充填し、固化することにより、成形キャビティのキャビティ面の凸部に対応した凹部22を、前記微細な溝状凹部と同様な形状をもって表面に形成して、木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品10を成形するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾樹脂成形品の製造方法と加飾樹脂成形品と加飾樹脂成形品の成形用型とに係り、特に、木質感をよりリアルに表現する加飾が施された加飾樹脂成形品の製造方法と、そのような加飾樹脂成形品と、それを成形するのに有利に用いられる加飾樹脂成形品の成形用型とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、木質感を擬似的に表現する加飾が施された加飾樹脂成形品が、自動車内装部品や家具、建築材、家電製品等の様々な製品や物品の表面材として、多く利用されている(例えば、下記特許文献1参照)。この加飾樹脂成形品を用いることで、木材の風合いや高級感が、手軽に且つ低コストに得られるからである。
【0003】
そして、そのような加飾樹脂成形品は、例えば、樹脂成形品の表面に木目模様等を印刷したり、或いは本木材の表面に存在する微細な溝状凹部を模して、かかる溝状凹部と同様な形状の凹部、所謂木目調シボを樹脂成形品の表面に形成したりすることで、所定の樹脂成形品に対して、木質感を、見た目や肌触りによって表現する加飾が施されて、製造されているのである。
【0004】
ところで、かかる加飾樹脂成形品のうち、木目調シボを表面に形成することにより木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品を製造する場合には、一般に、キャビティ面にエッチング加工が施された成形用型が、利用される(例えば、下記特許文献1及び2参照)。即ち、例えば、先ず、突き板等の本木材表面の微細な溝状凹部の形状に基づいて、目的とする加飾樹脂成形品を与える成形キャビティのキャビティ面に対してマスキングが施された後、エッチング加工が施されることで、かかるキャビティ面に微細な凸部が多数設けられた成形用型が、形成される。そして、その後、この成形用型が用いられて、例えば射出成形等の金型成形を実施することにより、キャビティ面に設けられた微細な凸部に対応した凹部からなる木目調シボが表面に多数形成された、目的とする加飾樹脂成形品が得られることとなる。このような製造手法によれば、目的とする樹脂成形品の成形と同時に、その表面に対して所望の加飾が施されるといった利点がある。
【0005】
ところが、かくの如き従来の加飾樹脂成形品の製造手法では、成形キャビティのキャビティ面の微細な凸部がエッチング加工によって形成されるものであるところから、それら多数の凸部の全てが一定の高さとなり、そのため、樹脂成形品の成形と同時に、その表面に、各凸部に対応した形状で形成される木目調シボも、全て、必然的に一定の深さとなってしまう。これに対して、本木材(天然木)の表面に存在する多数の微細な溝状凹部は、異なる溝状凹部同士の間で、互いに異なる深さとされ、或いは一つの溝状凹部についても浅い部分と深い部分とがある等、様々な深さを有している。それ故、従来手法によって、木目調シボが表面に形成されて、製造された加飾樹脂成形品は、今一つ、リアル感に欠けるものとなってしまうことが避けられなかった。
【0006】
しかも、従来手法では、本木材表面の溝状凹部の形状に基づいて、キャビティ面にマスキングが施されて、エッチング加工が行われるため、本木材の表面に存在する多数の微細な溝状凹部の開口部形状や断面形状も、実際の複雑な形状とは微妙に異なる単調な形状となりがちで、これも、従来手法にて得られる加飾樹脂成形品の表面が、自然物とは異なる不自然なものとなる原因となっていたのである。
【0007】
【特許文献1】特開平9−240386号公報
【特許文献2】特開平9−155971号公報
【特許文献3】特開平9−202979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、木質感が、よりリアルに表現された加飾樹脂成形品の有利な製造方法と、よりリアルな木質感を有する加飾樹脂成形品と、そのような加飾樹脂成形品の製造に際して有利に用いられる加飾樹脂成形品の成形用型とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明にあっては、加飾樹脂成形品の製造方法に係る課題の解決のために、その要旨とするところは、本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部を表面に形成することにより、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品の製造方法であって、(a)前記本木材を用いて、該本木材の表面の前記微細な溝状凹部を転写することにより、該溝状凹部に対応する凸部がキャビティ面に設けられた成形キャビティを有する成形用型を形成する工程と、(b)該形成された成形用型を用いて、該成形用型の前記成形キャビティ内に所定の溶融樹脂材料を充填し、固化することにより、該成形キャビティの前記キャビティ面の前記凸部に対応した凹部が、前記微細な溝状凹部と同様な形状をもって表面に形成されて、前記木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品を成形する工程とを含むことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法にある。
【0010】
また、このような本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法の好ましい態様の一つによれば、前記本木材が、突き板にて構成される。
【0011】
さらに、本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法の望ましい態様の一つによれば、前記成形用型の前記成形キャビティ内に、木目模様を有する意匠面を備えた薄肉の表皮材を、該意匠面が該成形キャビティの前記キャビティ面に接触乃至は対向させた状態で収容、配置した後、該成形キャビティ内に、前記溶融樹脂材料を射出、充填して、該溶融樹脂材料の射出圧により、該表皮材の全体を該キャビティ面に密接させることで、該表皮材の該意匠面に、該キャビティ面の前記凸部に対応した凹部を形成すると共に、該溶融樹脂材料を固化して、該表皮材を表面に固着することにより、該凸部に対応した凹部が、前記微細な溝状凹部と同様な形状をもって表面に形成されて、前記木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品を成形するように構成される。
【0012】
なお、かくの如く、薄肉の表皮材に凸部が形成されて、この表皮材が樹脂成形体の表面に固着されて、目的とする加飾樹脂成形品が製造される場合には、かかる表皮材として、有利には、意匠面に木目模様が印刷された樹脂フィルムや薄膜状の本木シートが用いられる。
【0013】
また、本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法の別の好ましい態様の一つによれば、前記木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品を成形した後、該樹脂成形品における前記凹部が形成された表面に、透明な塗膜を形成する工程が更に実施される。
【0014】
さらに、そのような透明な塗膜を形成する工程が実施される場合には、例えば、かかる透明な塗膜が、透明なつや消し塗料を用いて形成される。
【0015】
更にまた、本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法の他の好適な態様の一つによれば、前記本木材の燃焼温度よりも低い温度で可塑化されて、可塑化状態からの硬化後には前記溶融樹脂材料との接触によって再び可塑化することのない成形材料を用いて、該本木材の表面から前記微細な溝状凹部を型取りすることにより、該微細な溝状凹部が転写されて、該溝状凹部に対応する凸部が形成された型取り面を有する型取り成形体を形成する一方、かかる型取り成形体を第一の型として用いて、該第一の型との間で、該型取り面をキャビティ面の一部とする成形キャビティを形成する第二の型を該第一の型と組み合わせて、前記成形用型が形成されることとなる。
【0016】
また、本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法の別の望ましい態様の一つによれば、前記成形用型を形成する工程が、(a)前記本木材の燃焼温度よりも低い温度で可塑化されて、可塑化状態からの硬化後には前記溶融樹脂材料との接触によって再び可塑化することのない成形材料を用いて、該本木材の表面から前記微細な溝状凹部を型取りすることにより、該微細な溝状凹部が転写されて、該溝状凹部に対応する凸部が形成された型取り面を有する型取り成形体を形成する工程と、(b)該形成された型取り成形体を、前記型取り面とは反対側の面において、前記成形キャビティの前記キャビティ面に固着することにより、該キャビティ面に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部に対応する凸部を形成する工程とを含んで構成される。なお、ここで言う可塑化とは、溶融化も含む。
【0017】
さらに、本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法の更に別の有利な態様の一つによれば、前記成形用型を形成する工程が、(a)前記本木材の燃焼温度よりも低い温度で可塑化される樹脂材料を用いて、該本木材の表面から前記微細な溝状凹部を型取りすることにより、該微細な溝状凹部が転写されて、該溝状凹部に対応する第一凸部が形成された第一型取り面を有する第一型取り成形体を形成する工程と、(b)所定のセラミックス材料を用いて、前記第一型取り成形体の前記第一型取り面から前記第一凸部を型取りすることにより、該第一凸部が転写されて、該第一凸部に対応した、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部と同一の形状を有する溝状凹部が形成された第二型取り面を有する第二型取り成形体を形成する工程と、(c)所定のセラミックス材料を用いて、前記第二型取り成形体の前記第二型取り面から前記溝状凹部を型取りすることにより、該溝状凹部が転写されて、該溝状凹部に対応する第二凸部が形成された第三型取り面を有する第三型取り成形体を形成する工程と、(d)該形成された第三型取り成形体を、前記第三型取り面とは反対側の面において、前記成形キャビティの前記キャビティ面に固着することにより、該キャビティ面に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部に対応する凸部を、前記第二凸部にて形成する工程とを含んで構成される。なお、ここで言う可塑化とは、溶融化も含む。
【0018】
そして、前記せる加飾樹脂成形品に係る課題の解決のために、本発明にあっては、本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部が表面に形成されて、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品であって、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部が転写されて、該溝状凹部に対応する凸部がキャビティ面に設けられた成形キャビティを有する成形用型が用いられて、該成形用型の前記成形キャビティ内に所定の溶融樹脂材料が充填され、固化されることで、該成形キャビティの前記キャビティ面の前記凸部に対応した凹部が、前記微細な溝状凹部と同様な形状をもって表面に形成されて、前記木質感を表現する加飾が施されてなることを特徴とする加飾樹脂成形品をも、その要旨とするものである。
【0019】
また、前記せる加飾樹脂成形品に係る課題の解決のために、本発明においては、本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部が表面に多数形成されて、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品であって、前記溝状凹部と同様な形状の多数の凹部が、互いに異なる深さを有するものを含んで形成されていることを特徴とする加飾樹脂成形品をも、また、その要旨とするものである。
【0020】
さらに、前記せる加飾樹脂成形品の成形用型に係る課題の解決のために、本発明にあっては、本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部を表面に形成することによって、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品を成形するための成形用型であって、前記加飾樹脂成形品を与える成形キャビティを有すると共に、該成形キャビティのキャビティ面に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部が転写されてなる、該溝状凹部に対応する形状の凸部が設けられていることを特徴とする加飾樹脂成形品の成形用型を、その要旨とするものである。
【0021】
更にまた、前記せる加飾樹脂成形品の成形用型に係る課題の解決のために、本発明においては、本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部を表面に多数形成することによって、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品を成形するための成形用型であって、前記加飾樹脂成形品を与える成形キャビティを有すると共に、該成形キャビティのキャビティ面に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部に対応する形状の凸部が、互いに異なる高さを有するものを含んで、多数設けられていることを特徴とする加飾樹脂成形品の成形用型をも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0022】
すなわち、本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法においては、目的とする加飾樹脂成形品の成形に際して、本木材表面の微細な溝状凹部を転写した凸部がキャビティ面に設けられた成形キャビティを有する成形用型が用いられるところから、かかる成形キャビティ内で成形される樹脂成形品の表面に、本木材表面の溝状凹部と同様に、互いに異なるもの同士の間において、或いは一つのものにおいても様々な深さと、各種の複雑な開口部形状や断面形状とを備えた溝状凹部が形成されるようになる。
【0023】
従って、このような本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法によれば、それまでの製造手法では到底得られない、よりリアルな木質感を有する加飾樹脂成形品が、極めて有利に製造され得るのである。
【0024】
また、本発明に従う加飾樹脂成形品にあっては、上記の優れた特徴を発揮する製造方法において用いられる成形用型が使用されて得られるものであるため、或いは本木材表面の多数の微細な溝状凹部と同様な形状の多数の凹部が、互いに異なる深さを有するものを含んで、表面に形成されるものであるため、木質感が、よりリアルに表現され得て、木材の風合いや高級感が、更に一層有利に得られることとなる。
【0025】
さらに、本発明に従う加飾樹脂成形品の成形用型にあっても、本木材表面の微細な溝状凹部が転写されてなる凸部が、キャビティ面に設けられてなるものであるため、或いは本木材表面の微細な溝状凹部に対応する形状の凸部が、互いに異なる高さを有するものを含んで、キャビティ面に多数設けられてなるものであるため、木質感がよりリアルに表現された加飾樹脂成形品を、極めて有利に得ることが出来るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0027】
先ず、図1及び図2には、本発明手法に従って製造された加飾樹脂成形品の一例として、自動車用内装部品の一種たる収納ボックスのカバーパネル(蓋体)が、その斜視形態と縦断面形態とにおいて、それぞれ概略的に示されている。それらの図から明らかなように、カバーパネル10は、その裏面側部分を構成する基材12と、表面側部分を構成する表皮材14とを有し、それらが一体的に積層されてなる一体積層品として構成されている。
【0028】
そして、基材12は、全体として、所定の厚さを有する矩形筐体形状を有しており、自動車用内装部品の形成材料として一般的に用いられる熱可塑性の樹脂材料(例えば、ABS樹脂等)を用いて、形成されている。
【0029】
一方、表皮材14は、全体として、基材12よりも一周り大きな矩形筐体形状を呈する樹脂フィルム16と、この樹脂フィルム16の表面の全面に、公知の印刷手法により印刷形成された木目模様を有する印刷層18とからなる積層体として、構成されている。また、樹脂フィルム16は、基材12を構成する樹脂材料よりも高い融点と透明性とを有する熱可塑性樹脂材料(例えば、基材12がABS樹脂製である場合には、アクリル樹脂等)を用いて、形成されている。
【0030】
そして、ここでは、特に、図2及び図3に示されるように、表皮材14の表面に、木目調シボ22が、多数形成されている。これら多数の木目調シボ22は、樹脂フィルム16の印刷層20によって表皮材14に付与される木目模様とは別に、様々な長さをもって延びる微細な溝状凹部からなっている。そして、そのような木目調シボ22にあっては、特に、断面形状が、三角形状やU字状、台形状、或いは無定形状等の様々な形状とされていると共に、開口部形状も、別々の木目調シボ22同士の間で、互いに異なる、比較的に複雑な形状とされている。また、かかる木目調シボ22の深さも、別々のもの同士の間で、種々異なる深さとされている。更に、図示されてはいないものの、一つの木目調シボ22においても、浅い部分と深い部分とが存在している。
【0031】
かくして、本実施形態のカバーパネル10にあっては、樹脂フィルム16の印刷層20にて、表皮材14に木目模様が付与されていることに加えて、本木材(天然木)からなる突き板表面に存在する微細な溝状凹部と同様に、様々な長さや深さと各種の複雑な開口部形状や断面形状とを備えた溝状の凹部からなる木目調シボ22が、表皮材14の表面に多数形成されている。これによって、カバーパネル10の表面に、木質感を表現する加飾が、より一層リアルな木質感を表現し得るように施されているのである。
【0032】
また、かかるカバーパネル10においては、多数の木目調シボ22が形成された表皮材14の表面の全面、つまり表皮材14における印刷層18の樹脂フィルム16側とは反対側の全面に、クリヤ塗膜20が、更に積層形成されている。このクリヤ塗膜20は、公知の透明なつや消し塗料が公知の手法により塗布されることで、表皮材14の表面の全面を被覆して、平滑な表面を有するように形成されているのである。これによって、カバーパネル10の表面の触感が、樹脂の硬質な感じではなく、木の柔らかな感じとされ得ており、また、カバーパネル10表面の耐候性や耐衝撃性が高められて、かかるカバーパネル10の表面に疵が付き難くなっている。なお、例えば、かかるクリヤ塗膜20の厚さを、より薄肉とすること等により、クリヤ塗膜20の表面にも、多数の木目調シボ22にそれぞれ対応した微細な溝状凹部を設けることも出来る。それによって、更に一層本木に近い触感が得られることとなる。
【0033】
ところで、かくの如き構造とされたカバーパネル10を製造する際には、例えば、先ず、目的とするカバーパネル10の外形形状に対応した成形キャビティを有する成形用型が形成され、次いで、この形成された成形用型の成形キャビティ内で、カバーパネル10が成形されることとなる。
【0034】
より詳細には、カバーパネル10の外形形状に対応した成形キャビティを有する成形用型を形成するに際して、先ず、図4に示される如く、様々な深さと各種の複雑な開口部形状や断面形状とを有する微細な溝状凹部24が表面に多数存在する本木材からなる突き板26が、準備される。この突き板26としては、例えば、表皮材14の樹脂フィルム16の表面に印刷形成される印刷層18の木目模様と同じ木目模様を有するものが、好適に用いられる。つまり、かかる印刷層18の印刷形成時に用いられる刷版の形成用の画像データが採取される突き板26が、ここで、好適に使用されるのである。
【0035】
そして、この準備された突き板26を基にして、図5乃至図7に示される如き第一、第二、及び第三の型取り工程が、順次、実施されて、突き板26表面の多数の溝状凹部24に対応する凸部(後述する第二凸部44)を備えた型取り成形体(後述する第三型取り成形体40)が、形成される。
【0036】
すなわち、第一の型取り工程では、図5に示されるように、準備された突き板26を用いて、その表面から、多数の微細な溝状凹部24が、所定の樹脂材料からなる第一型取り成形体28の第一型取り面30に型取りされて、かかる第一型取り面30に、多数の溝状凹部24に対応する第一凸部32が、多数形成される。
【0037】
なお、この第一の型取り工程は、実施されるべき具体的な操作が、特に限定されるものではないものの、例えば、以下の手順に従って進められる。即ち、先ず、上側と下型とからなる成形用金型の成形キャビティ内に、突き板26が、微細な溝状凹部24が多数存在する表面とは反対側の面を下型のキャビティ面に接触させた状態で、収容配置される。次いで、突き板26が収容された成形キャビティ内に、第一型取り成形体28を与える所定の樹脂材料が、溶融乃至は可塑化状態で、突き板26の微細な溝状凹部24が多数存在する表面上に接するように充填される。そして、必要に応じて、成形キャビティ内の樹脂材料が、上型にて加圧された状態で、固化乃至は硬化せしめられて、樹脂成形体が形成される。その後、それら樹脂成形体と突き板26とが、成形用金型から離型せしめられた後、突き板26が、樹脂成形体から剥離される。
【0038】
かくして、本工程では、上記のようにして成形された樹脂成形体にて、第一型取り成形体28が形成され、また、それと同時に、成形キャビティ内での突き板26との接触面からなる第一型取り面30に、突き板26表面の多数の微細な溝状凹部24が転写されて、多数の溝状凹部24に対応する第一凸部32が、多数形成されるのである。
【0039】
なお、本工程で、第一型取り成形体28を形成する樹脂材料としては、好ましくは、突き板26の燃焼温度よりも低い温度で溶融乃至は可塑化されるものが用いられ、また、そのような樹脂材料の中でも、硬化した状態で適度なゴム状弾性を有するもの、例えばシリコン樹脂等が、より好適に用いられる。前者の樹脂材料が用いられる場合には、かかる樹脂材料が、溶融乃至は可塑化状態で突き板26と接触したときに、突き板26が燃焼することがなく、突き板26表面の型取りが確実に行われ得るようになる。また、後者の樹脂材料が用いられるときには、突き板26の溝状凹部24の内面形状が、たとえアンダーカット形状とされていても、第一凸部32が弾性変形することで、突き板26が、第一型取り成形体28から確実に離型せしめられ得るようになる。また、本工程においては、突き板26が収容された成形キャビティ内に所定の樹脂材料が充填されるのに先立って、必要に応じて、突き板26の表面に、公知の離型剤が塗布される等して、離型剤層が形成される。そうして、第一型取り成形体28の突き板26からの離型性が高められる。
【0040】
次に、第二の型取り工程では、図6に示される如く、上記のようにして形成された第一型取り成形体28を用いて、その第一型取り面30から、多数の第一凸部32が、所定のセラミックス材料(例えば、アルミナ等)からなる第二型取り成形体34の第二型取り面36に型取りされて、かかる第二型取り面36に、多数の第一凸部32に対応する溝状凹部38が、多数形成される。
【0041】
ここで行われる第二の型取り工程の具体的な操作も、特に限定されるものではなく、例えば、第一型取り成形体28と所定のセラミックス材料とを用い、セラミックス材料の成形手法の一種として公知の金型プレス成形を実施すること等によって、その操作が進められる。
【0042】
すなわち、先ず、例えば上型と下型とからなる成形用金型の成形キャビティ内に、第一型取り成形体28が、第一型取り面30とは反対側の面を下型のキャビティ面に接触させた状態で、収容配置される。次いで、第二型取り成形体34を与える所定のセラミックス材料が、例えば乾燥した粉末状態で、成形用金型の成形キャビティ内における第一型取り成形体28の第一型取り面30と上型のキャビティ面との間の間隙内に、充填された後、上型と下型との間で圧縮成形されて、第一型取り成形体28の第一型取り面30との接触面に、多数の第一凸部に対応した凹部が多数形成された中間成形体が成形される。その後、この中間成形体と第一型取り成形体28とが成形用金型内から離型されて、第一型取り成形体28を中間成形体から剥離された後、かかる中間成形体が焼成されて、焼結体が得られる。
【0043】
これによって、本工程では、上記のようにして得られた焼結体にて、第二型取り成形体34が形成されると共に、成形キャビティ内での第一型取り面30との接触面からなる第二型取り面36に、第一型取り面30の多数の第一凸部32が転写されて、かかる第一凸部32に対応し、且つ前記突き板26表面の多数の溝状凹部24と同一の形状を有する溝状凹部38が、多数形成されるのである。また、本工程においても、第一型取り成形体28が収容された成形キャビティ内に所定のセラミックス材料が充填されるのに先立って、必要に応じて、第一型取り成形体28の第一型取り面30に、公知の離型剤が塗布される等して、離型剤層が形成される。そうして、第二型取り成形体34を与える中間成形体の第一型取り成形体28からの離型性が高められる。
【0044】
引き続き、第三の型取り工程では、図7に示される如く、第二の型取り工程で形成された第二型取り成形体34を用いて、その第二型取り面36から、多数の溝状凹部38が、所定のセラミックス材料(例えば、アルミナ等)からなる第三型取り成形体40の第三型取り面42に型取りされて、かかる第三型取り面42に、多数の溝状凹部38に対応する第二凸部44が、多数形成される。
【0045】
この第三の型取り工程の具体的な操作も、特に限定されるものではなく、例えば、第一型取り成形体28に代えて、第二型取り成形体34を用いる以外、第二の型取り工程で実施される操作と同様な操作が行われる。即ち、第二型取り成形体34と所定のセラミックス材料とを用いて、上記と同様な公知の金型プレス成形を実施することによって得られる中間成形体の焼結体にて、第三型取り成形体40が形成されると共に、成形キャビティ内での第二型取り面36との接触面からなる第三型取り面42に、第二型取り面36の多数の溝状凹部38が転写されて、かかる溝状凹部38に対応し且つ突き板26表面の多数の溝状凹部24にも対応する第二凸部44が、多数形成されるのである。なお、ここでは、第三型取り成形体40が、比較的に薄肉の板状形態をもって、形成されることとなる。また、本工程においても、第二型取り成形体34が収容された成形キャビティ内に所定のセラミックス材料が充填されるのに先立って、必要に応じて、第二型取り成形体34の第二型取り面36に、公知の離型剤が塗布される等して、離型剤層が形成される。そうして、第三型取り成形体40を与える中間成形体の第二型取り成形体34からの離型性が高められる。
【0046】
また、そのようにして、第三の型取り成形体40を形成する操作を行う一方で、図8に示される如く、矩形のキャビティ形成凹部45を有する、第一の型としての上型46と、第二の型としての下型48とを備える共に、それら上型46と下型48との互いの型合せ状態下において、上型46のキャビティ形成凹部45が、その底面と対向する下型48の対向面(下型側キャビティ面56)にて覆蓋されることで、矩形の成形キャビティ50が形成される成形用型52が、準備される。
【0047】
そして、図9に示される如く、前述のようにして形成された第三型取り成形体40が、準備された成形用型52の上型46における上型側キャビティ面54の一部を構成するキャビティ形成凹部45の底面の全面に、第三型取り面42とは反対側の面において、接着剤層58を介して接着されることで、固着される。
【0048】
これにより、下型側キャビティ面56と対向するキャビティ形成凹部45の底面からなる上型側キャビティ面54部分の全面に、突き板26表面の多数の微細な溝状凹部24に対応する第二凸部44が多数形成され、以て、カバーパネル10の外形形状に対応した内面形状を有する成形キャビティ50が、互いに型合せされた上型46と下型48との間に形成される成形用型52が、作製されるのである。
【0049】
そして、本実施形態では、このような成形用型52が射出成形用型として用いられて、目的とするカバーパネル10が射出成形されるのであるが、それには、先ず、図10に示されるように、カバーパネル10における矩形筐体形状の表皮材14(樹脂フィルム16と印刷層18との積層体)が、型開きされた成形用型52の上型46のキャビティ形成凹部45内にセットされる。このとき、表皮材14は、印刷層18側の表面のうち、矩形筐体形状の天板部分が、キャビティ形成凹部45の底面(上型側キャビティ面54の一部)に固着された第三型取り成形体40の第三型取り面42に対向して配置される。
【0050】
なお、ここで用いられる矩形筐体形状の表皮材14は、例えば、樹脂フィルム16が、それを与える熱可塑性樹脂材料(ここでは、アクリル樹脂)からなる薄肉矩形平板状の原料フィルムに対する加圧成形や真空成形等を行うことにより、或いはかかる熱可塑性樹脂材料を用いたスタンピング成形等を行うことにより、矩形筐体形状を呈するように予め成形された後、この樹脂フィルム16の表面の全面に、木目模様を有する印刷層18が、例えばスクリーン印刷手法等により印刷形成されることで、容易に得られることとなる。
【0051】
その後、図11に示される如く、上型46と下型48とが型閉めされることによって、それらの間に、成形キャビティ50が形成されると共に、かかる成形キャビティ50内に、表皮材14が、その裏面(印刷層18とは反対側の面)を下型側キャビティ面56に対向させて、成形キャビティ50内に露呈せしめられた状態で、収容、配置される。なお、このとき、表皮材14は、矩形筐体形状の側壁部位の表面部分(印刷層18側の表面)が、全周に亘って、上型46のキャビティ形成凹部45の側面(上型側キャビティ面54の一部)に接触するように配置される。これによって、後述する如く、成形キャビティ50内に樹脂材料が射出された際に、かかる樹脂材料が表皮材14の表面側に回り込むことが阻止され得るようになっている。
【0052】
そうして、表皮材14が成形キャビティ50内に収容配置されたら、所謂フィルムインモールド成形が実施される。即ち、図12に示されるように、表皮材14の樹脂フィルム16よりも融点の低い、例えば熱可塑性樹脂(ここでは、ABS樹脂が用いられる)からなる溶融樹脂が、図示しない射出成形機のノズルから所定の射出圧をもって成形キャビティ50内に射出されて、成形キャビティ50内の、下型側キャビティ面56と成形キャビティ50内に収容配置された表皮材14の裏面との間に充填され、固化せしめられて、樹脂成形品60が、成形される。
【0053】
そして、この樹脂成形品60の成形過程で、表皮材14の樹脂フィルム16が、高温の溶融樹脂との接触により加熱されて、軟化せしめられ、また、そのような樹脂フィルム16の軟化状態下で、表皮材14の裏面に対して、溶融樹脂の射出圧に基づく押圧力が作用せしめられて、表皮材14が、上側46のキャビティ形成凹部45の底面に固着された第三型取り成形体40の第三型取り面42側に向かって略均等に押圧されるようになる。これにより、表皮材14が塑性変形せしめられて、表皮材14の印刷層18側の表面に、第三型取り面42に設けられる多数の第二凸部44が転写されて、それら多数の第二凸部44に対応する木目調シボ22が、多数形成される。
【0054】
そして、そのような多数の木目調シボ22は、それぞれ、第二凸部44に対応した形状とされることで、突き板26表面に存在する前記微細な溝状凹部24と同様に、断面形状が、三角形状やU字状、台形状、或いは無定形状等の様々な形状とされていると共に、開口部形状も、別々の木目調シボ22同士の間で、互いに異なる、比較的に複雑な形状とされている。また、かかる木目調シボ22の深さも、別々のもの同士の間で、種々異なる深さとされている。更に、図示されてはいないものの、一つの木目調シボ22においても、浅い部分と深い部分とが存在している。
【0055】
かくして、突き板26表面に存在する多数の微細な溝状凹部24と同様形状の木目調シボ22が表面に多数形成されることにより、木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品60が、成形用型52(成形キャビティ50)内で成形される。その後、図13に示されるように、樹脂成形品60が成形用型52から離型される。そして、それに引き続いて、図示されてはいないものの、バリ等が除去された後、樹脂成形品60の表面の全面に対して、透明なつや消し塗料が塗布等されて、クリヤ塗膜20が形成される。そうして、図1乃至図3に示される如き構造を有する、目的とするカバーパネル10が、得られることとなるのである。なお、本工程においても、成形用型52の成形キャビティ50内への溶融樹脂54の射出に先立って、成形用型52の上型46に固着された第三型取り成形体40の第三型取り面42に、公知の離型剤が塗布される等して、離型剤層が形成される。これによって、樹脂成形品60の成形用型52内からの離型性が高められる。
【0056】
このように、本実施形態においては、表面に多数の木目調シボ22が形成されたカバーパネル10が、射出成形により、比較的に容易に製造され得るだけでなく、かかる木目調シボ22が、突き板26表面の溝状凹部24と同様に、互いに異なるもの同士の間において、或いは一つのものにおいても様々な深さと、各種の複雑な開口部形状や断面形状とを有するようにされる。
【0057】
従って、かくの如き本実施形態によれば、カバーパネル10が、従来においては到底得られないような、よりリアルな木質感を有して、極めて有利に製造され得るのである。そして、そのようにして得られたカバーパネル10を、例えば高級感が不足するために、従来では使用が困難であった用途等に対しても、広く適用することが可能となるのである。
【0058】
また、本実施形態では、カバーパネル10の成形時において、その表面に木目調シボ22を形成する第二凸部44が、突き板26を用いて、その表面に存在する微細な溝状凹部24を複数回に亘って転写された形状を有しているところから、カバーパネル10に対して、それが、あたかも、実際の突き板26を用いて形成されているようなリアル感を付与することが出来る。
【0059】
さらに、かかる本実施形態においては、射出成形を利用したフィルムインモールド成形によって、カバーパネル10が、表面に木目模様が印刷された表皮材14(樹脂フィルム16と印刷層18の積層体)と基材12との一体積層品として形成されるようになっているため、木質感のリアルさが、木目模様によって更に一層有利に高められたカバーパネル10が、より容易に且つ効率的に製造され得る。
【0060】
更にまた、本実施形態では、突き板26表面の溝状凹部24が転写された第一凸部32を有する第一型取り成形体28を、突き板26の燃焼温度よりも低い温度で可塑化される樹脂材料にて形成した後、この第一型取り成形体28の第一凸部32が転写された溝状凹部38を有する第二型取り成形体34を、セラミックス材料にて形成し、更に、かかる第二型取り成形体の溝状凹部38が転写された第二凸部44を有する第三型取り成形体40を、セラミックス材料にて形成して、所定の成形用型52の上型側キャビティ面54に固着することで、目的とするカバーパネル10の成形に用いられる成形用型52が形成されるようになっている。それ故、突き板26を燃焼せることなく、溝状凹部24を基にして、カバーパネル10の表面に木目調シボ22を与える第二凸部44が形成され、それによって、かかる木目調シボ22の形状を、突き板26表面の溝状凹部24と正確に一致させることが出来る。また、第二凸部44が、セラミックス材料にて構成されるため、例えば、カバーパネル10の成形時に、樹脂材料の流動圧(ここでは、射出圧)によって、第二凸部44が変形せしめられることが有利に回避され、これによっても、木目調シボ22の形状が、突き板26表面の溝状凹部24の形状と正確に一致せしめられ得ることとなる。
【0061】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0062】
例えば、前記実施形態では、基材12の表面に、木目模様を有する表皮材14が一体的に積層され、この表皮材14の表面に対して、多数の木目調シボ22が形成されていたが、かかる表皮材14を省略して、多数の木目調シボ22を、基材12の表面に直接に形成するようにしても良い。
【0063】
また、表皮材14を基材12の表面に一体的に積層形成する場合にあっても、その表皮材14の材質や構造は、例示のものに、何等限定されるものではない。従って、例えば、かかる表皮材14として、薄膜状の本木シートを用いることも出来る。これによって、加飾樹脂成形品たるカバーパネル10に対して、更に一層リアルな木質感を付与することが可能となる。
【0064】
さらに、表皮材14として、単層又は複数層の積層体からなる基材12のみにて構成されたもの、或いは基材12の表面に、印刷層18が、複数層において印刷形成されたもの等も、適宜に用いられ得る。
【0065】
また、表皮材14を与える樹脂フィルム16や基材12の構成材料の種類、形状、厚さ等は、例示のものに、特に限定されるものでないことは、勿論である。
【0066】
さらに、加飾樹脂成形品としてのカバーパネル10の表面に形成されたクリヤ塗膜20を省略しても、何等差し支えない。なお、クリヤ塗膜20を形成する場合にあっても、かかるクリヤ塗膜20を、つや消しでない、一般的な透明な塗料を用いて形成することも出来る。これによって、カバーパネル10に対して、表面が鏡面仕上げされたような高級感が、効果的に付与され得る。
【0067】
更にまた、基材12の成形手法も、例示の射出成形手法以外の公知の金型成形手法が、適宜に採用される。
【0068】
また、前記実施形態では、微細な溝状凹部24の被転写材料として、突き板26が用いられていたが、かかる被転写材料には、突き板26以外の各種の本木材が、利用可能である。
【0069】
さらに、突き板26の溝状凹部24を、樹脂製の第一型取り成形体28の第一型取り面30に転写する方法は、例示される方法以外の公知の各種の樹脂成形品の成形方法が、適宜に利用される。また、第一型取り成形体28の第一凸部32を、セラミックス製の第二型取り成形体34の第二型取り面36に転写する方法、更には、第二型取り成形体34の溝状凹部38を、セラミックス製の第三型取り成形体40の第三型取り面42に転写する方法も、例示される方法以外の公知の各種のセラミックス成形品の成形方法が、適宜に利用される。
【0070】
更にまた、目的とする加飾樹脂成形品たるカバーパネル10の成形に用いられる成形用型52の形成に際しても、例示された方法以外の手法も、適宜に採用され得る。
【0071】
例えば、本木材の燃焼温度よりも低い温度で可塑化されて、可塑化状態からの硬化後には溶融樹脂材料との接触によって再び可塑化することのない成形材料を用いて、本木材の表面から微細な溝状凹部を型取りすることにより、かかる微細な溝状凹部が転写されて、その溝状凹部に対応する凸部が形成された型取り面を有する型取り成形体を形成する。そして、かかる型取り成形体を第一の型として用いて、この第一の型との間で、型取り面をキャビティ面の一部とする成形キャビティを形成する第二の型を第一の型と組み合わせることで、成形用型を形成することも出来る。これによって、目的とする成形用型が、より容易に且つ更に低コストに形成され得る。なお、このような手法にて形成される成形用型を与える材料としては、例えば、熱硬化性樹脂材料やセラミックス材料などが、適宜に使用されることとなる。
【0072】
また、上記と同様にして得られた型取り成形体を、所定の成形用型の成形キャビティのキャビティ面に固着することで、キャビティ面に、本木材表面の微細な溝状凹部に対応する凸部を形成して、目的とする成形用型を形成することも出来る。これによって、本木材表面の微細な溝状凹部に対応する凸部の成形用型のキャビティ面への形成作業が、大型の成形用型のキャビティ面に対して直接に形成する場合に比して、より手軽に、しかも優れた作業性をもって実施され得ることとなる。
【0073】
さらに、第三型取り成形体40の成形用型52への固着部位は、例示のものに、特に限定されるものではなく、加飾樹脂成形品(カバーパネル10)が表皮材14を有する場合には、基材12の成形時に、表皮材14の表面と接触せしめられるキャビティ面部分に対して、第三型取り成形体40が固着され、また、加飾樹脂成形品が基材12のみで構成される場合には、かかる加飾樹脂成形品の表面を与えるキャビティ面部分に対して、第三型取り成形体40が固着されることとなる。
【0074】
加えて、前記実施形態では、本発明を、自動車用内装部品の一種たる収納ボックスのカバーパネルとその製造方法とそれに用いられる成形用型に適用したものの具体例を示したが、本発明は、他の自動車用内装部品や自動車用内装部品以外の部品乃至は部材を構成する加飾樹脂成形品の製造方法と加飾樹脂成形品と加飾樹脂成形品の成形用型の何れに対しても、有利に適用されるものであることは、勿論である。
【0075】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明手法に従って製造される加飾樹脂成形品の一実施形態としてのカバーパネルを示す斜視説明図である。
【図2】図1におけるII−II断面説明図である。
【図3】図1における部分拡大説明図である。
【図4】本発明手法に従って、図1に示されたカバーパネルを製造するのに準備される突き板を示す縦断面説明図である
【図5】本発明に従って、図1に示されたカバーパネルを製造するに際して、成形用型を形成する際の一工程例を示す説明図であって、突き板表面の溝状凹部を型取りして、第一型取り成形体を形成した状態を示している。
【図6】図5に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、第一型取り成形体に形成される第一凸部を型取りして、第二型取り成形体を形成した状態を示している。
【図7】図6に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、第二型取り成形体に形成される溝状凹部を型取りして、第三型取り成形体を形成した状態を示している。
【図8】本発明手法に従って、製造するに際して、第三型取り成形体を固着するために準備される成形用型を示している。
【図9】図8に示された成形用型に第三型取り成形体を固着した状態を示している。
【図10】本発明手法に従って、図1に示されたカバーパネルを図9に示された成形用型を用いて製造する際の一工程例を示す説明図であって、かかる成形用型のキャビティ形成凹部内に、表皮材をセットした状態を示している。
【図11】図10に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、成形用金型を型閉めして、成形キャビティを形成すると共に、かかる成形キャビティ内に表皮材を収容配置した状態を示している。
【図12】図11に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、成形キャビティ内に溶融樹脂を射出、充填し、固化せしめた状態を示している。
【図13】図12に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、成形キャビティ内で成形された樹脂成形品を離型した状態を示している。
【符号の説明】
【0077】
10 カバーパネル 12 基材
14 表皮材 16 樹脂フィルム
18 印刷層 20 クリヤ塗膜
22 木目調シボ 24 溝状凹部
26 突き板 28 第一型取り成形体
34 第二型取り成形体 40 第三型取り成形体
44 第二凸部 50 成形キャビティ
52 成形用型 60 樹脂成形品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部を表面に形成することにより、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品の製造方法であって、
前記本木材を用いて、該本木材の表面の前記微細な溝状凹部を転写することにより、該溝状凹部に対応する凸部がキャビティ面に設けられた成形キャビティを有する成形用型を形成する工程と、
該形成された成形用型を用いて、該成形用型の前記成形キャビティ内に所定の溶融樹脂材料を充填し、固化することにより、該成形キャビティの前記キャビティ面の前記凸部に対応した凹部が、前記微細な溝状凹部と同様な形状をもって表面に形成されて、前記木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品を成形する工程と、
を含むことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記本木材が、突き板である請求項1に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記成形用型の前記成形キャビティ内に、木目模様を有する意匠面を備えた薄肉の表皮材を、該意匠面が該成形キャビティの前記キャビティ面に接触乃至は対向させた状態で収容、配置した後、該成形キャビティ内に、前記溶融樹脂材料を射出、充填して、該溶融樹脂材料の射出圧により、該表皮材の全体を該キャビティ面に密接させることで、該表皮材の該意匠面に、該キャビティ面の前記凸部に対応した凹部を形成すると共に、該溶融樹脂材料を固化して、該表皮材を表面に固着することにより、該凸部に対応した凹部が、前記微細な溝状凹部と同様な形状をもって表面に形成されて、前記木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品を成形するようにした請求項1又は請求項2に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記表皮材が、前記意匠面に木目模様が印刷された樹脂フィルムである請求項3に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記表皮材が、薄膜状の本木シートである請求項3に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品を成形した後、該樹脂成形品における前記凹部が形成された表面に、透明な塗膜を形成する工程を更に含んでいる請求項1乃至請求項5のうちの何れか1項に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記透明な塗膜が、透明なつや消し塗料を用いて形成されている請求項6に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
前記本木材の燃焼温度よりも低い温度で可塑化されて、可塑化状態からの硬化後には前記溶融樹脂材料との接触によって再び可塑化することのない成形材料を用いて、該本木材の表面から前記微細な溝状凹部を型取りすることにより、該微細な溝状凹部が転写されて、該溝状凹部に対応する凸部が形成された型取り面を有する型取り成形体を形成する一方、かかる型取り成形体を第一の型として用いて、該第一の型との間で、該型取り面をキャビティ面の一部とする成形キャビティを形成する第二の型を該第一の型と組み合わせて、前記成形用型を形成するようにした請求項1乃至請求項7のうちの何れか1項に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項9】
前記成形用型を形成する工程が、
前記本木材の燃焼温度よりも低い温度で可塑化されて、可塑化状態からの硬化後には前記溶融樹脂材料との接触によって再び可塑化することのない成形材料を用いて、該本木材の表面から前記微細な溝状凹部を型取りすることにより、該微細な溝状凹部が転写されて、該溝状凹部に対応する凸部が形成された型取り面を有する型取り成形体を形成する工程と、
該形成された型取り成形体を、前記型取り面とは反対側の面において、前記成形キャビティの前記キャビティ面に固着することにより、該キャビティ面に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部に対応する凸部を形成する工程と、
を含んでいる請求項1乃至請求項7のうちの何れか1項に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項10】
前記成形用型を形成する工程が、
前記本木材の燃焼温度よりも低い温度で可塑化される樹脂材料を用いて、該本木材の表面から前記微細な溝状凹部を型取りすることにより、該微細な溝状凹部が転写されて、該溝状凹部に対応する第一凸部が形成された第一型取り面を有する第一型取り成形体を形成する工程と、
所定のセラミックス材料を用いて、前記第一型取り成形体の前記第一型取り面から前記第一凸部を型取りすることにより、該第一凸部が転写されて、該第一凸部に対応した、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部と同一の形状を有する溝状凹部が形成された第二型取り面を有する第二型取り成形体を形成する工程と、
所定のセラミックス材料を用いて、前記第二型取り成形体の前記第二型取り面から前記溝状凹部を型取りすることにより、該溝状凹部が転写されて、該溝状凹部に対応する第二凸部が形成された第三型取り面を有する第三型取り成形体を形成する工程と、
該形成された第三型取り成形体を、前記第三型取り面とは反対側の面において、前記成形キャビティの前記キャビティ面に固着することにより、該キャビティ面に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部に対応する凸部を、前記第二凸部にて形成する工程と、
を含んでいる請求項1乃至請求項7のうちの何れか1項に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項11】
本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部が表面に形成されて、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品であって、
前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部が転写されて、該溝状凹部に対応する凸部がキャビティ面に設けられた成形キャビティを有する成形用型が用いられて、該成形用型の前記成形キャビティ内に所定の溶融樹脂材料が充填され、固化されることで、該成形キャビティの前記キャビティ面の前記凸部に対応した凹部が、前記微細な溝状凹部と同様な形状をもって表面に形成されて、前記木質感を表現する加飾が施されてなることを特徴とする加飾樹脂成形品。
【請求項12】
本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部が表面に多数形成されて、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品であって、
前記溝状凹部と同様な形状の多数の凹部が、互いに異なる深さを有するものを含んで形成されていることを特徴とする加飾樹脂成形品。
【請求項13】
本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部を表面に形成することによって、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品を成形するための成形用型であって、
前記加飾樹脂成形品を与える成形キャビティを有すると共に、該成形キャビティのキャビティ面に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部が転写されてなる、該溝状凹部に対応する形状の凸部が設けられていることを特徴とする加飾樹脂成形品の成形用型。
【請求項14】
本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部を表面に多数形成することによって、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品を成形するための成形用型であって、
前記加飾樹脂成形品を与える成形キャビティを有すると共に、該成形キャビティのキャビティ面に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部に対応する形状の凸部が、互いに異なる高さを有するものを含んで、多数設けられていることを特徴とする加飾樹脂成形品の成形用型。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−194994(P2008−194994A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34407(P2007−34407)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】