説明

動力伝達装置の制御装置

【課題】内燃機関で発生した排ガスの圧力を、有効に利用することのできる動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】動力伝達装置14の動力伝達状態を制御するために移動可能に設けられた可動部材19,22と、可動部材19,22に与える力を発生する圧力室20,23とを備えた動力伝達装置の制御装置において、燃焼室5で燃焼させたときに発生する熱エネルギーを運動エネルギーに変換して出力する内燃機関2と、燃焼室5から排出される排ガスの圧力を圧力室20,23に伝達する圧力伝達機構25,26と、燃焼室5から排出された排ガスの圧力と吸気管7内の圧力との差に基づいて排ガスの一部を吸気管7に還流させることにより、圧力室20,23に伝達される排ガスの圧力を制御する圧力制御機構29,30,33,34とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力を伝達する装置における動力伝達状態を制御する装置に関し、特に作用させる圧力を変化させることにより動力の伝達状態を制御する制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体の圧力によって可動部材の動作を制御することにより、動力伝達装置の動力伝達状態を制御するように構成された車両の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された車両は、エンジンが出力したトルクを変速装置によって増大もしくは低減させて駆動輪に出力するように構成されている。そのエンジンは、従来知られている車両用の内燃機関と同様の構成であって、スロットルバルブによって調整された吸気と燃料との混合気をシリンダの内部で燃焼させて機械的な動力を発生する熱機関である。したがって、燃料の燃焼によって圧力の高い排ガスが生じ、その排ガスは排気管を通って車外に排出される。
【0003】
一方、特許文献1に記載された変速装置は、相互に平行に設けられた駆動軸および従動軸を有している。この駆動軸がエンジンのクランク軸に連結されている。また、駆動軸と一体回転する駆動プーリが設けられている。この駆動プーリは、軸方向に移動可能な第1可動円板と、軸方向には移動しない第1固定円板とを備えている。この第1可動円板と第1固定円板との間に第1係合溝が形成されている。さらに、駆動軸にはバックアップ円板が固定されており、第1可動円板とバックアップ円板との間に球状の重りが配置されている。この重りは駆動軸の半径方向に移動自在に構成されており、重りは遠心力により半径方向で外側に移動する。
【0004】
さらに、前記従動軸と一体回転する従動プーリが設けられている。この従動プーリは、軸方向に移動可能な第2可動円板と、軸方向には移動しない第2固定円板とを備えている。この第2可動円板と第2固定円板との間に第2係合溝が形成されている。また、第2可動円板を第2固定円板に向かって押すバネが設けられている。さらに、駆動プーリには負圧導入室が形成されており、その負圧導入室は、エンジンの吸気管におけるスロットルバルブよりも下流に接続され、したがって吸気管における負圧が負圧導入室に作用するように構成されている。上記のように構成された駆動プーリおよび従動プーリに、Vベルトが巻き掛けられている。
【0005】
この特許文献1に記載された変速装置においては、エンジンの動力が駆動軸に伝達されて駆動軸が回転するとともに、駆動軸が相対的に低速で回転するときには、バネが第2可動円板を押す力は、重りが遠心力で外側に移動しようとして第1可動円板を押す力よりも大きい。このため、従動プーリにおける第2係合溝の幅が狭められ、駆動プーリにおける第1係合溝の幅が拡大される。このようにして、駆動プーリにおけるVベルト巻き掛け径が相対的に小さくなり、変速装置の変速比が相対的に大きくなる。これに対して、駆動軸が相対的に高速で回転するときには、バネが第2可動円板を押す力よりも、重りが遠心力で外側に移動しようとして第1可動円板を押す力が大きくなる。すると、駆動プーリにおける第1係合溝の幅が狭められ、かつ、従動プーリにおける第2係合溝の幅が拡大される。このようにして、駆動プーリにおけるVベルト巻き掛け半径が相対的に大きくなり、変速装置の変速比が相対的に小さくなる。
【0006】
さらに、特許文献1に記載された車両においては、車両の走行中にライダーが車両を減速させようとして、エンジンのスロットル弁を全閉に動作させると、エンジンブレーキ力が生じる。この作用と並行して、吸気管の負圧が負圧導入室に導入される。すると、この負圧により、重りが遠心力に抗して半径方向で内側に移動するとともに、駆動プーリの第1可動円板を第1固定円板に向けて押す力が低下する。そして、バネが第2可動円板を押す力が、重りが第1可動円板を押す力よりも大きくなり、従動プーリにおける第2係合溝の幅が狭められ、駆動プーリにおける第1係合溝の幅が拡大される。このようにして、駆動プーリにおけるVベルト巻き掛け半径が相対的に小さくなり、変速装置の変速比が相対的に大きくなる。その結果、エンジンブレーキ力が強められる。
【0007】
なお、車両の変速機の油圧制御装置が特許文献2に記載され、ベルト型無段変速機の制御装置が特許文献3に記載され、エンジンのエネルギー回収装置が特許文献4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−2316号公報
【特許文献2】特開昭61−228149号公報
【特許文献3】特開昭62−127550号公報
【特許文献4】特開2007−85440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1に記載されている車両においては、車両の減速時に、内燃機関の吸気管負圧を変速装置の負圧導入室に導くことで、変速装置の変速比を大きくする変速をおこなっている。つまり、内燃機関の吸気管負圧が、車両の減速時におけるエンジンブレーキ力を強める制御に利用されている。しかしながら、特許文献1に記載された車両においては、燃料の燃焼時に発生する排気ガスが排気管を経由して大気中に放出されている。従来、その排ガスのエネルギー、特に排ガスの圧力を利用することについての考慮がなされておらず、排ガスのエネルギーを有効に利用する上では、未だ改善の余地が残されていた。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、内燃機関において燃料を燃焼させたときに発生する排ガスの圧力を有効に利用してエネルギー効率を向上させることのできる動力伝達装置の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、動力が入力される動力伝達装置と、この動力伝達装置の動力伝達状態を制御するために移動可能に設けられた可動部材と、圧力が伝達されて前記可動部材に与える力を発生する圧力室とを備えた動力伝達装置の制御装置において、吸気管を経由して空気が吸入され、かつ、吸入した空気と燃料との混合気を燃焼室で燃焼させたときに発生する熱エネルギーを運動エネルギーに変換して出力する内燃機関と、前記燃焼室から排出される排ガスの圧力を前記圧力室に伝達する圧力伝達機構と、前記燃焼室から排出された排ガスの圧力と前記吸気管内の圧力との差に基づいて、前記燃焼室から排出された排ガスの一部を前記吸気管に還流させることにより、前記圧力室に伝達される排ガスの圧力を制御する圧力制御機構とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、内燃機関において燃料を燃焼させたときに発生する熱エネルギーを運動エネルギーに変換する一方、燃料を燃焼させたときに発生する排ガスの圧力を圧力室に伝達し、その圧力室の圧力で可動部材を移動させることにより、動力伝達装置の動力伝達状態を制御することができる。したがって、内燃機関から排出される排ガスの圧力を有効に利用することができる。また、燃焼室から排出された排ガスの圧力と吸気管内の圧力との差に基づいて、排ガスの一部を吸気管に還流させることにより、圧力室に伝達される排ガスの圧力を制御するために、専用の減圧機構を格別に設けずに済む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明における動力伝達装置の制御装置を、車両の無段変速機の制御に用いた第1具体例を示す模式図である。
【図2】この発明における動力伝達装置の制御装置を、車両の無段変速機の制御に用いた第2具体例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明における動力伝達装置の制御装置は、圧力室の圧力を制御する装置であり、特に、内燃機関の排ガスの圧力を圧力室に伝達することにより、動力伝達状態を制御することのできる制御装置である。この発明における動力伝達装置の動力伝達状態には、動力伝達装置を構成する回転部材同士の間の変速比、動力伝達装置を構成する回転部材同士の間におけるトルク容量、動力伝達装置を構成する一方の回転部材に対する他方の回転部材の回転方向などが含まれる。この発明における可動部材は、動力伝達装置を構成する回転部材の回転中心軸線に沿った方向に移動可能に設けられている。この発明における圧力伝達機構は、燃焼室から排出される排ガスの圧力を圧力室に伝達する経路を構成するものであり、流路、ポート、通路、バルブなどが、この発明における圧力伝達機構に含まれる。この発明における圧力制御機構には、排ガスの通路に設けられたバルブ、このバルブの開度を制御するコントロールユニットが含まれる。以下、この発明の具体例を図面に基づいて説明する。
【0015】
(第1具体例)
この発明を車両の無段変速機の制御装置として用いた第1具体例を図1に基づいて説明する。この図1に示された車両1はエンジン2を有している。車両1は、乗用車、トラック、バスなどのいずれでもよい。このエンジン2は燃料を燃焼させた時に生じる熱エネルギーを運動エネルギーに変換して出力する原動機であり、このエンジン2としては内燃機関、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることができる。このエンジン2は、シリンダ3内に往復動移動可能に配置されたピストン4と、シリンダ内でピストン4の頂面付近に形成され、かつ、燃料と空気との混合気が供給される燃焼室5と、この燃焼室5に接続され、かつ、電子スロットルバルブ6が設けられた吸気管7と、この吸気管7内へ燃料を噴射する燃料噴射バルブ8と、吸気管7と燃焼室5とを接続するポート9を開閉する吸気バルブ10と、燃焼室5において燃料が燃焼して発生したガスが排出される排気管11と、排気管11と燃焼室5とを接続するポート12を開閉する排気バルブ13とを備えている。前記吸気管7は空気を燃焼室5に吸入する経路であり、電子スロットルバルブ6の開度を制御することにより、吸気管7を経由して燃焼室5に吸入される空気量が制御されるように構成されている。さらに、排気管11は排気浄化触媒13に接続されている。この排気浄化触媒13は、排ガスに含まれる汚染物質、例えば、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)などを低減して、排ガスを浄化する装置である。
【0016】
一方、車両1は駆動輪(図示せず)を有しており、その駆動輪にトルクが伝達されて駆動力が発生するように構成されている。この第1具体例においては、前記エンジン2の動力が駆動輪に伝達されるように構成され、そのエンジン2から駆動輪に至る動力伝達経路の一部を形成する無段変速機14が設けられている。前記無段変速機14は、プライマリプーリ(駆動プーリ)15とセカンダリプーリ(従動プーリ)16とを備え、そのプライマリプーリ15およびセカンダリプーリ16にベルト17を巻き掛けて構成されたベルト型無段変速機であり、プライマリプーリ15の回転数とセカンダリプーリ16の回転数との比、つまり変速比を無段階に(連続的に)変更することの可能な変速機である。
【0017】
前記プライマリプーリ15は、回転中心軸線を中心として回転可能に設けられており、そのプライマリプーリ15は、回転中心軸線に沿った方向には移動不可能な固定片18と、回転中心軸線に沿った方向に移動可能に構成された可動片19とを備えており、その固定片18と可動片19との間にベルト17が挟まれている。また、回転中心軸線に沿って可動片19を固定片18に近づける向きの推力(押圧力)を発生させるプライマリ圧力室20が形成されている。このプライマリ圧力室20に流体が供給および排出されるように構成されている。ここで、プライマリ圧力室20の圧力が直接可動片19に伝達されるように構成されていてもよいし、そのプライマリ圧力室20の圧力がピストン(図示せず)を介在させて可動片19に伝達されるように構成されていてもよい。
【0018】
一方、セカンダリプーリ16は、回転中心軸線を中心として回転可能に設けられており、そのセカンダリプーリ16は、回転中心軸線に沿った方向には移動不可能な固定片21と、回転中心軸線に沿った方向に移動可能に構成された可動片22とを備えており、その固定片21と可動片22との間にベルト17が挟まれている。また、可動片22を回転中心軸線に沿って固定片21に近づける向きの力を与えるセカンダリ圧力室23が設けられている。このセカンダリ圧力室23内に流体が供給および排出されるように構成されているとともに、可動片22に予圧を与えるバネ24が設けられている。
【0019】
上記のように構成された無段変速機14においては、プライマリ圧力室20の圧力を制御することにより、変速比を制御することができる。例えば、プライマリ圧力室20の圧力を上昇させると、可動片19が押圧されてプライマリプーリ15の溝幅が狭くなるとともに、そのプライマリプーリ15におけるベルト17の巻き掛け半径が相対的に大きくなる。この作用と並行して、セカンダリプーリ16の可動片22が、セカンダリ圧力室23およびバネ24の押圧力に抗して、固定片21から離れる向きに移動し、セカンダリプーリ16におけるベルト17の巻き掛け半径が相対的に小さくなる。このようにして、無段変速機14の変速比が相対的に小さくなる変速、つまりアップシフトがおこなわれる。
【0020】
これに対して、プライマリ圧力室20の圧力が低下すると、セカンダリ圧力室23およびバネ24から可動片22に与えられる押圧力によって、可動片22が固定片21に近づき、セカンダリプーリ16におけるベルト17の巻き掛け半径が相対的に大きくなる。これと同時に、プライマリプーリ15における溝幅が拡大し、そのプライマリプーリ15におけるベルト17の巻き掛け半径が相対的に小さくなる。このようにして、無段変速機14の変速比が相対的に大きくなる変速、つまりダウンシフトがおこなわれる。なお、プライマリ圧力室20の圧力が一定に制御されると、プライマリプーリ15におけるベルト17の巻き掛け半径およびセカンダリプーリ16におけるベルト17の巻き掛け半径が一定に維持され、無段変速機14の変速比が一定に維持される。
【0021】
さらに、第1具体例においては、エンジン2で発生した高圧の排ガスの圧力をプライマリ圧力室20に伝達する圧力伝達機構25が設けられているとともに、エンジン2で発生した高圧の排ガスの圧力をセカンダリ圧力室23に伝達する圧力伝達機構26が設けられている。この圧力伝達機構25は、一端が排気管11に接続され、かつ、他端がプライマリ圧力室20に接続された分岐管路27を有している。この分岐管路27には、排気管11から分岐管路27に流れ込む排ガスの流速を低下させるためのオリフィス28が設けられている。このオリフィス28は、分岐管路27における他の部位よりも、排ガスの流通方向と垂直な平面内における断面積が狭く構成されている。
【0022】
さらに、プライマリ圧力室20に伝達される排ガスの圧力を制御する機構として、分岐管路27の排ガスを吸気管7に戻す経路を構成するように、バイパス管路29が設けられている。このバイパス管路29の一端は、分岐管路27におけるオリフィス28とプライマリ圧力室20との間に接続され、バイパス管路29の他端は、吸気管7における電子スロットルバルブ6と吸気ポート9との間に接続されている。さらにバイパス管路29には絞り弁30が設けられている。この絞り弁30は、バイパス管路29における排ガスの流通面積を調整して、分岐管路27の排ガスの圧力を吸気管7へ放出させることにより、分岐管路27内の圧力を制御する圧力制御弁である。この絞り弁30は、従来から知られているものと同様のバタフライバルブにより構成されており、この絞り弁30の開度を制御するアクチュエータ(図示せず)が設けられている。
【0023】
一方、圧力伝達機構26も圧力伝達機構25と同様に構成されており、圧力伝達機構26は、一端が排気管11に接続され、かつ、他端がセカンダリ圧力室23に接続された分岐管路31を有している。この分岐管路31には、排気管11から分岐管路31に流れ込む排ガスの流速を低下させるためのオリフィス32が設けられている。このオリフィス32は、分岐管路31における他の部位よりも、排ガスの流通方向と垂直な平面内における断面積が狭く構成されている。
【0024】
さらに、セカンダリ圧力室23に伝達される排ガスの圧力を制御する機構として、分岐管路31の排ガスを吸気管7に戻す経路を構成するように、バイパス管路33が設けられている。このバイパス管路33の一端は、分岐管路31におけるオリフィス32とセカンダリ圧力室23との間に接続され、バイパス管路33の他端は、吸気管7における電子スロットルバルブ6と吸気ポート9との間に接続されている。さらにバイパス管路33には絞り弁34が設けられている。この絞り弁34は、バイパス管路33における排ガスの流通面積を調整して、分岐管路31の排ガスの圧力を吸気管7へ放出させることにより、分岐管路31内の圧力を制御する機能を備えた圧力制御弁である。この絞り弁34は、従来から知られているものと同様のバタフライバルブにより構成されており、この絞り弁34の開度を制御するアクチュエータ(図示せず)が設けられている。
【0025】
さらに、エンジン2の吸入空気量および燃料噴射量、絞り弁30,34の開度を制御するコントロールユニット(電子制御装置)35が設けられている。このコントロールユニット35には、車両1における各種情報、例えば、アクセル開度、車速、エンジン回転数、無段変速機14の入力回転数および出力回転数、プライマリ圧力室20の圧力、セカンダリ圧力室23の圧力などを検知するセンサやスイッチの信号が入力される。このコントロールユニット35からは、エンジントルクを制御する信号、無段変速機14の変速比およびトルク容量を制御する信号が出力される。上記のバイパス管路29,33および絞り弁30,34、さらに絞り弁30,34の開度を制御するコントロールユニット35により、圧力制御機構が構成されている。
【0026】
上記のように構成された車両1の制御および作用を説明すると、エンジン1においては、吸気管7を経由して空気が燃焼室5に吸入されるとともに、燃焼室5で混合気が燃焼するときの爆発エネルギでピストン4が押圧されてクランク軸からトルクが出力される。このエンジントルクは無段変速機14を経由して駆動輪に伝達される。前記燃焼室5で発生した排ガスは、燃焼室5から排気管11に排出されるとともに、排気浄化触媒13により浄化されて大気中に排出される。
【0027】
一方、コントロールユニット35においては、車速およびアクセル開度に基づいて、車両1における要求駆動力(目標駆動力)が求められ、その要求駆動力に基づいて目標エンジン出力が求められる。その目標エンジン出力に基づいて、実際のエンジン出力を制御するために用いる最適燃費線が、予めコントロールユニット35に記憶されている。そして、実際のエンジン出力を最適燃費線に沿ったものとするように、目標エンジン回転数および目標エンジントルクが求められる。そして、実際のエンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるために、無段変速機14の変速比が制御される。また、実際のエンジントルクを目標エンジントルクに近づけるために、吸入空気量および燃料噴射量が制御される。
【0028】
ところで、排気管11内を通る排ガスの一部は分岐管路27に流れ込むとともに、排ガスがオリフィス28を通過するときに排ガスの流速が低下し、分岐管路27内における排ガスの圧力(静圧)がプライマリ圧力室20に伝達される。この第1具体例においては、プライマリ圧力室20に供給される排ガスの圧力を制御することにより、無段変速機14の変速比を制御するように構成されている。分岐管路27内の排ガスは高温高圧であり、吸気管7内は負圧であるため、分岐管路27内において、バイパス管路29と分岐管路27との接続部分に対して上流の圧力p1よりも、バイパス管路29における絞り弁30の下流における圧力p2の方が低い。なお、上流および下流は、排ガスの流れ方向における上流および下流を意味する。このため、分岐管路27内の排ガスの一部がバイパス管路29を経由して吸気管7内に還流されるとともに、絞り弁30の開度を制御することにより、分岐管路27からプライマリ圧力室20に伝達される排ガスの圧力p3を制御することができる。
【0029】
例えば、絞り弁30の開度を相対的に小さくすると、プライマリ圧力室20の圧力が上昇する。すると、前記のように可動片19が固定片18に向けて移動し、プライマリプーリ15におけるベルト17の巻き掛け半径が相対的に大きくなる。このようにして、無段変速機14の変速比が相対的に小さくなるアップシフトが生じる。これに対して、絞り弁30の開度を相対的に大きくすると、プライマリ圧力室20の圧力が低下する。このように、プライマリ圧力室20の圧力が低下すると、セカンダリ圧力室23の圧力およびバネ24の力でセカンダリプーリ16の可動片22が固定片21に向けて移動するとともに、プライマリプーリ15におけるベルト17の巻き掛け半径が相対的に小さくなる。すなわち、無段変速機14の変速比が相対的に大きくなるダウンシフトが生じる。なお、絞り弁30の開度を制御して、プライマリ圧力室20の圧力を一定に維持し、無段変速機14の変速比を一定に制御することもできる。
【0030】
一方、排気管11を流れる排ガスの一部は分岐管路31にも流れ込み、その分岐管路31の排ガスの圧力がセカンダリ圧力室23に伝達される。ここで、排ガスがオリフィス28を通過するときに排ガスの流速が低下し、分岐管路27の排ガスの圧力(静圧)がプライマリ圧力室20に伝達される。また、分岐管路31内の排ガスは高温高圧であり、吸気管7内は負圧であるため、分岐管路31内において、バイパス管路33の接続部分に対して上流の圧力p1よりも、バイパス管路33内において、絞り弁34の下流の圧力p2の方が低くなる。このため、分岐管路31内の排ガスの一部がバイパス管路33を経由して吸気管7内に還流されるとともに、絞り弁34の開度を制御することにより、分岐管路31からセカンダリ圧力室23に伝達される排ガスの圧力p3を制御することができる。
【0031】
具体的には、絞り弁34の開度を相対的に小さくすると、セカンダリ圧力室23の圧力が上昇してベルト17を挟み付ける力が強められ、無段変速機14のトルク容量が増加する。これに対して、絞り弁34の開度を相対的に大きくすると、セカンダリ圧力室23の圧力が低下する。すると、セカンダリプーリ16によりベルト17を挟み付ける力が弱められ、無段変速機14のトルク容量が低下する。なお、絞り弁34の開度を制御して、セカンダリ圧力室23の圧力を一定に維持し、無段変速機14のトルク容量を一定に制御することもできる。
【0032】
以上のように、第1具体例においては、排ガスの圧力をプライマリ圧力室20に伝達して、無段変速機14の変速比を制御するとともに、排ガスの圧力をセカンダリ圧力室23に伝達して、無段変速機14のトルク容量を制御することができるように構成されている。したがって、エンジン2において燃料を燃焼させたときに発生する排ガスの圧力を有効に利用し、エネルギー効率を向上させることができる。また、第1具体例においては、無段変速機14の変速比およびトルク容量を制御するにあたり、プライマリ圧力室20およびセカンダリ圧力室23に供給するオイルを吐出するオイルポンプを設けずに済み、そのオイルポンプをエンジン2の動力により駆動せずに済むため、エンジンの動力損失を抑制でき燃費が向上する。
【0033】
また、第1具体例においては、プライマリ圧力室20またはセカンダリ圧力室23の圧力を制御するにあたり、分岐管路内の圧力と吸気管7内の圧力との差を利用して、すなわち、流体同士の圧力差を利用して、分岐管路内の排ガスを吸気管7に還流させるように構成されている。したがって、分岐管路内の排ガスを吸気管7に還流させるために、減圧機構を新たに設けずに済む。さらに、第1具体例においては、燃焼室5から排気管11に排出された排ガスを、バイパス管路を経由させて吸気管7に還流されるように構成されており、その排ガスを吸入吸気に混ぜると酸素濃度が低下するため、窒素酸化物の発生を抑制する効果、いわゆる排気ガス再循環(EGR)効果を得られる。さらにまた、バイパス管路29を経由して吸気管7に戻る排ガスは、電子スロットルバルブ6よりも下流に戻るため、電子スロットルバルブ6と吸気管7の内面との間を空気が通過することにより生じるポンピングロスが増加することもない。
【0034】
なお、特に図示はしないが、プライマリ圧力室20またはセカンダリ圧力室23のうちのいずれか一方の圧力室に排ガスの圧力が伝達されるように構成され、他方の圧力室には排ガスの圧力が伝達されないように構成することもできる。このように構成する場合、排ガスの圧力が伝達されない圧力室には、トルクカム、バネなどのアクチュエータを設けることにより、可動片に与える押圧力を制御することができる。
【0035】
(第2具体例)
この発明を車両の無段変速機の制御装置として用いた第2具体例を図2に基づいて説明する。この図2に示された構成において、第1具体例と同じ構成部分については、第1具体例と同じ符号を付してある。この図2においては、主として排気管9内の排ガスをプライマリ圧力室20に供給する分岐管路27、および圧力伝達機構25が示されている。この第2具体例と第1具体例とを比べると、バイパス管路29の他に、排気管9内の排ガスを吸気管7に還流させる排ガス再循環装置36が設けられている点が異なる。この排ガス再循環装置36は、従来から知られているものと同様に構成されており、吸気管7と排気管11とを接続した還流通路37と、この還流通路37に設けられた流量制御弁38とを有している。この排ガス再循環装置36の構成、排気管11から吸気管7に戻す排ガスの目標還流量の求め方、目標還流量に対応する流量制御弁38の開度の制御などについては、例えば、特開2000−205054号公報、特開2004−036413号公報、特開2009−068403号公報等に記載されているように公知であるため詳細な説明を省略する。
【0036】
この第2具体例において、第1具体例と同じ構成部分については第1具体例と同じ作用効果を得られる。また、この第2具体例においては、コントロールユニット35において、排気管11から吸気管7に戻すべき排ガスの目標還流量が求められ、その目標還流量から、バイパス管路29を経由して吸気管7に戻される排ガスの流量を減算する。ここで、目標還流量の方が、バイパス管路29を経由して吸気管7に戻される排ガスの流量よりも多い場合は、その差に相当する排ガスの還流量が、還流通路37を経由して吸気管7に戻されるように流量制御弁38の開度を制御する。
【0037】
なお、図1のように分岐管路27,31が設けられ、かつ、バイパス管路29,33が設けられている車両1において、図2に示された排ガス循環装置36を設けることも可能である。さらに、分岐管路31およびバイパス管路33が設けられており、分岐管路27およびバイパス管路29が設けられていない車両(図示せず)に、図2に示された排ガス循環装置36を設けることも可能である。この場合、バイパス管路33を経由して吸気管7に戻る排ガスは、電子スロットルバルブ6よりも下流に戻るため、電子スロットルバルブ6と吸気管7の内面との間を空気が通過することにより生じるポンピングロスが増加することもない。
【0038】
ここで、上記の具体例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、無段変速機14が、この発明の動力伝達装置に相当し、無段変速機14の変速比およびトルク容量が、この発明の動力伝達状態に相当し、可動片19,22が、この発明の可動部材に相当し、プライマリ圧力室20およびセカンダリ圧力室23が、この発明の圧力室に相当し、吸気管7が、この発明の吸気管に相当し、燃焼室5が、この発明の燃焼室に相当し、エンジン2が、この発明の内燃機関に相当し、排気管11が、この発明の排気管に相当し、圧力伝達機構25,26が、この発明の圧力伝達機構に相当し、バイパス管路29,33および絞り弁30,34、絞り弁30,34の開度を制御するコントロールユニット35が、この発明の圧力制御機構に相当する。
【0039】
また、特に図示はしないが、エンジンの燃焼室から排出された排ガスを、ベルト型無段変速機以外の無段変速機、例えば、トロイダル型無段変速機の変速比およびトルク容量を制御する制御装置に用いることもできる。トロイダル型無段変速機は、入力ディスクおよび出力ディスクと、入力ディスクおよび出力ディスクの間に介在されるパワーローラと、このパワーローラの傾転角度を制御して変速比を制御するトラニオンと、入力ディスクおよび出力ディスクに挟圧力を与えてトルク容量を制御する加圧室とを備えている。そして、トラニオンを直線状に往復動させるために圧力が制御される圧力室が設けられている。そこで、圧力伝達機構を経由して供給される排ガスを、圧力室および加圧室に供給するように構成すれば、第1具体例および第2具体例と同様の効果を得られる。
【0040】
さらに、特に図示はしないが、エンジンの燃焼室から排出された排ガスを、無段変速機以外の動力伝達装置、例えば、前後進切換装置を制御する制御装置に用いることもできる。前後進切換装置は無段変速機を有する車両に用いられるものであり、動力源から駆動輪に至る経路に無段変速機と前後進切換装置とが直列に配置される。この前後進切換装置としては、例えば、遊星歯車機構と、遊星歯車機構の回転要素同士を接続するクラッチと、回転要素の固定または回転を制御するブレーキとを備えた、遊星歯車機構式の前後進切換装置を用いることができる。この遊星歯車機構式の前後進切換装置は、クラッチの係合および解放を制御するクラッチ用圧力室と、ブレーキの係合および解放を制御するブレーキ用圧力室とを備えている。この遊星歯車機構式の前後進切換装置は、クラッチおよびブレーキの係合および解放を制御することにより、入力部材に対する出力部材の回転方向を正逆に切り替えることができるように構成されている。この前後進切換装置の入力部材に対する出力部材の回転方向が、この発明の動力伝達装置の動力伝達状態に相当する。そして、クラッチ用圧力室またはブレーキ用圧力室の少なくとも一方の圧力室に、前記圧力伝達機構により供給される排ガスの圧力を伝達するように構成することができる。
【符号の説明】
【0041】
2…エンジン、 5…燃焼室、 7…吸気管、 11…排気管、 14…無段変速機、 19,22…可動片、 20…プライマリ圧力室、 23…セカンダリ圧力室、 25,26…圧力伝達機構、 29,33…バイパス管路、 30,34…絞り弁、 35…コントロールユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力が入力される動力伝達装置と、この動力伝達装置の動力伝達状態を制御するために移動可能に設けられた可動部材と、圧力が伝達されて前記可動部材に与える力を発生する圧力室とを備えた動力伝達装置の制御装置において、
吸気管を経由して空気が吸入され、かつ、吸入した空気と燃料との混合気を燃焼室で燃焼させたときに発生する熱エネルギーを運動エネルギーに変換して出力する内燃機関と、
前記燃焼室から排出される排ガスの圧力を前記圧力室に伝達する圧力伝達機構と、
前記燃焼室から排出された排ガスの圧力と前記吸気管内の圧力との差に基づいて、前記燃焼室から排出された排ガスの一部を前記吸気管に還流させることにより、前記圧力室に伝達される排ガスの圧力を制御する圧力制御機構と
を備えていることを特徴とする動力伝達装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−153594(P2011−153594A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16750(P2010−16750)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】