説明

化粧シートの製造方法及び化粧成形品の製造方法

【課題】生産性に優れ、木材の木目感を高めることができる化粧シートの製造方法及び化粧成形品の製造方法を提供すること。
【解決手段】接合層形成工程とロール加工工程と凹凸形成工程とを行なうことにより化粧シートを製造する方法である。接合層形成工程においては、シート状の木材を含む装飾シート10の裏面側19に接合層11を形成して積層シート15を得る。ロール加工工程においては、積層シート15をロール状に巻回して積層シートロールを作製する。凹凸形成工程においては、積層シートロールから積層シート15を送り出しながらその装飾シート10の表面に凹凸105を形成して化粧シート1を得る。化粧成形品は、化粧シート1を成形型内に配置し、化粧シート1における接合層11側に基材樹脂を射出成形することにより作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形型内で裏面側に基材樹脂を射出成形することにより、基材樹脂と一体化させて用いられる化粧シートの製造方法、及び該化粧シートを用いた化粧成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アームレスト等の自動車の内装等には、本木の突板からなる装飾シートを用いた化粧シートをインモールド成型した化粧成形品が用いられている。
従来、化粧成形品の作製にあたっては、図9(a)に示すごとく、まず、装飾シートとして、厚み約200〜500μmの本木の突板92を準備する。
【0003】
次いで、図9(b)に示すごとく、突板92に対して、例えばポリエステル系スチレン架橋アルキッド樹脂等の熱硬化型樹脂93を含浸させ、化粧シート90を得る。次に、図10(a)に示すごとく、化粧シート90の裏面側に、後にモールドする基材樹脂に適合した接着剤層94を接合する。次いで、図10(b)に示すごとく、化粧シート90を成形型内にインサートし、その後裏面側に基材樹脂を射出成形し、中間成形品97を得る。
【0004】
次に、図10(c)〜(f)に示すごとく、中間成形品97に対して、化粧シート90の表面にポリエステルよりなる第1クリア層95を塗装により形成した後、塗装面を研磨する。更に第2クリア層96を第1クリア層95の上に塗装した後、その塗装面を研磨することにより、化粧成形品98が得られる。
【0005】
また、本杢を用いた意匠製品においては、その導管等の模様を生かして木目感を強調するために、サンドブラスト等の処理を行なう方法が開発されている(特許文献1及び2参照)。従来、サンドブラスト等の処理は、成形後の成形品に対して行なわれ、その後成形品表面にクリア層を形成していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−335922号公報
【特許文献2】特開昭61−58799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ブラスト処理を成形後に行なうと、成形品一つ一つに対してブラスト処理が必要になるため生産性が低下してしまう。そのため、予め表面に凹凸を形成した化粧シートの開発が望まれる。
ところが、凹凸を形成した化粧シートに対して射出成形等の成形を行なうと、凹凸が小さくなり、強調した木目感が損なわれてしまうという問題があった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、生産性に優れ、木材の木目感を高めることができる化粧シートの製造方法、及び化粧成形品の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、成形型内で裏面側に基材樹脂を射出成形して用いられる化粧シートの製造方法であって、
シート状の木材を含む装飾シートの上記裏面側に、上記基材樹脂との接合用の接合層を形成して積層シートを得る接合層形成工程と、
上記積層シートをロール状に巻回して積層シートロールを作製するロール加工工程と、
上記積層シートロールから上記積層シートを送り出しながら、該積層シートにおける上記装飾シートの表面に凹凸を形成して上記化粧シートを得る凹凸形成工程とを有することを特徴とする化粧シートの製造方法にある(請求項1)。
【0010】
第2の発明は、第1の発明の製造方法によって得られる上記化粧シートを成形型内に配置し、上記化粧シートにおける上記接合層側に基材樹脂を射出成形する射出成形工程を有することを特徴とする化粧成形品の製造方法にある(請求項5)。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明において、上記化粧シートは、成形型内で裏面側に基材樹脂を射出成形して用いられ、上記接合層形成工程と、上記ロール加工工程と、上記凹凸形成工程とを行なって製造する。
上記接合層形成工程においては、シート状の木材を含む装飾シートの上記裏面側に、上記基材樹脂との接合用の接合層を形成する。これにより、上記基材樹脂との接合性に優れた上記積層シートを得ることができる。
【0012】
また、上記ロール加工工程においては、上記積層シートをロール状に巻回して積層シートロールを作製する。次いで、上記凹凸形成工程においては、上記積層シートロールから上記積層シートを送り出しながら、該積層シートにおける上記装飾シートの表面に凹凸を形成する。上記積層シートロールから上記積層シートを送り出しながら上記積層シートの表面に凹凸を形成するため、連続的に上記装飾シートの表面に凹凸を形成することができる。そのため、生産性よく上記化粧シートを製造することができる。
【0013】
また、上記装飾シートの表面に凹凸が形成された上記化粧シートを得ることができる。そのため、上記化粧シートにおいては、上記装飾シートの上記木材の木目感が強調され、上記化粧シートは優れた意匠性を発揮することができる。
【0014】
さらに、上記凹凸形成工程においては、上記装飾シートの裏面側に上記接合層が形成された上記積層シートに対して凹凸の形成を行なう。そのため、凹凸が形成された上記装飾シートと、その裏面側に形成された上記接合層とを有する上記化粧シートを得ることができる。かかる構成の化粧シートに対して、その裏面側に基材樹脂を射出成形しても、成形時に凹凸が小さくなることを抑制することができる。そのため、上記化粧シートは、射出成形後においても、優れた木目感を発揮することができる。
【0015】
このように、第1の発明によれば、生産性に優れ、木材の木目感を高めることができる化粧シートの製造方法を提供することができる。
【0016】
第2の発明においては、上記射出成形工程を行なうことにより化粧成形品を製造する。
上記射出形成工程においては、上記化粧シートを成形型内に配置し、上記化粧シートにおける上記接合層側に基材樹脂を射出成形する。上記接合層側に上記基材樹脂を射出成形するため、上記化粧シートと密着性よく基材樹脂を接合させることができる。
【0017】
また、上記射出成形工程においては、凹凸が形成された上記装飾シートとその裏面側に形成された上記接合層とを有する、上記第1の発明の製造方法によって得られた上記化粧シートを用いている。そのため、上記化粧シートの裏面側に基材樹脂を射出成形しても、成形時に上記装飾シートに形成された凹凸が小さくなり難い。そのため、上記化粧成形品は、上記化粧シートが有する木目感を生かして優れた意匠性を発揮することができる。
【0018】
さらに、上記化粧成形品は、凹凸を形成した上記化粧シートに対して射出成形を行なうことにより製造することができる。そのため、成形後の成形品に対してそれぞれ凹凸を形成する操作が不要になり、生産性よく化粧成形品を製造することができる。
【0019】
このように、第2の発明によれば、生産性に優れ、木材の木目感を高めることができる化粧成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1における、装飾シートの断面を示す説明図(a)、積層シートの断面を示す説明図(b)、化粧シートの断面を示す説明図(c)。
【図2】実施例1における、化粧成形品の断面構造を示す説明図。
【図3】実施例1における、ラミネート装置の構成を示す説明図。
【図4】実施例1における、ブラスト処理により、積層シートに凹凸を形成する様子を示す説明図。
【図5】実施例1における、ブラスト処理を行なう前の装飾シートの三次元写真を示す説明図。
【図6】実施例1における、ブラスト処理後の装飾シートの三次元写真を示す説明図。
【図7】実施例1における、ブラスト処理を行なう前の装飾シートの表面状態を示す写真代用図(a)、ブラスト処理を行なう前の装飾シートの凹凸状態を示す説明図。
【図8】実施例1における、ブラスト処理後の装飾シートの表面状態を示す写真代用図(a)、ブラスト処理後の装飾シートの凹凸状態を示す説明図。
【図9】従来の化粧シートの製造手順を示す説明図。
【図10】従来の化粧成形品の製造手順を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
上記化粧シートは、上記接合層形成工程と上記ロール加工工程と上記凹凸形成工程とを行なうことにより製造することができる。
【0022】
上記接合層形成工程においては、シート状の木材を含む装飾シートの上記裏面側に、上記基材樹脂との接合用の接合層を形成して積層シートを得る。
上記装飾シートとしては、例えば木材を極薄く切り出した本木の突板等を採用することができる。また、上記装飾シートは、突板等の木材からなる層以外にもこれに積層された他の材質からなる層を有していてもよい。上記突板は、木材を極薄く削り出した多孔質状のシートであり、本木の優れた意匠性を示すことができる。
上記装飾シートの厚みは例えば200〜1000μmにすることができる。
【0023】
上記装飾シートとしては、合成樹脂をシート状の上記木材の導管部に加圧充填したものを採用することが好ましい。
この場合には、成形時に上記突板から気泡が発生することを防止することができる。
上記突板の導管部に加圧する合成樹脂としては、例えばポリエチレングリコール、又はポリプロピレングリコール等を採用することができる。また、ポリブチレンテレフタレート又はポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂等を採用することもできる。
【0024】
次に、上記接合層としては、上記基材樹脂に対する接着性に優れた樹脂を含浸させた含浸紙、樹脂シート、及び不織布等を採用することができる。
即ち、上記接合層形成工程においては、上記装飾シートの裏面側に不織布、樹脂含浸紙、又は樹脂シートを貼着することにより上記接合層を形成することができる(請求項3)。
【0025】
不織布を貼着して上記接合層を形成した場合には、多孔質状の不織布の特性を生かして、アンカー効果により上記基材樹脂に対する接着性を向上させることができる。不織布としては、例えばポリエステル不織布、レーヨン不織布、ポリオレフィン系不織布等を採用することができる。また、含浸紙又は樹脂シートを採用した場合には、上記化粧シートに射出成形する基材樹脂の種類に応じてその材質を適宜選択することが可能になる。
【0026】
含浸紙としては、例えばアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂等を含浸させた含浸紙を採用することができる。
また、樹脂シートとしては、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂を含むアロイ材料、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂等からなるものを採用することができる。上記樹脂シートは熱融着により上記基材樹脂と接着させることができる。
【0027】
上記接合層として、上記樹脂シート又は上記含浸紙を採用することにより、硬質な上記接合層を形成することができる。そのため、上述の射出成形時等に、上記凹凸形成工程において上記装飾シートの表面に形成した凹凸が小さくなることをより一層抑制することができる。
【0028】
上記接合層の厚みは例えば50μm〜1000μmにすることができる。
50μm以上の厚みの上記接合層を形成することにより、上記化粧シートの成形時等に、上記凹凸形成工程において上記装飾シートの表面に形成した凹凸が小さくなることをより一層抑制することができる。より好ましくは、上記接合層の厚みは100μm以上がよい。また、1000μmを超える接合層を形成しても大きなメリットはなく、さらに上記積層シートの厚みが大きくなりすぎて上記ロール加工工程においてロール状に巻回することが困難になるおそれがある。より好ましくは、上記接合層の厚みは500μm以下がよい。
【0029】
上記接合層形成工程においては、湿気硬化型のポリウレタン系接着剤を用いて貼着することが好ましい(請求項4)。
この場合には、柔軟性よく上記接合層を形成することができ、上記化粧シート全体の柔軟性をより向上させることができる。また、この場合には、ポリウレタン樹脂がシート状の木材のセルロースに対して優れた接着性を示すため、密着性よく上記接合層を上記装飾シートに貼着させることができる。
【0030】
次に、上記ロール加工工程においては、上記積層シートをロール状に巻回して積層シートロールを作製する。そして、上記凹凸形成工程においては、上記積層シートロールから上記積層シートを送り出しながら、該積層シートにおける上記装飾シートの表面に凹凸を形成して上記化粧シートを得る。
【0031】
凹凸の形成は、サンドブラスト等のショットブラスト処理、火炎処理等により行なうことができる。
ブラスト処理においては、ナイロンビーズ等の樹脂ビーズ、ガラスビーズ、クルミ、アルミナビーズ等の研磨粒子を上記装飾シートに吹き付けることにより凹凸を形成することができる。
また、上記火炎処理においては、上記装飾シートの表面を燃やすことにより凹凸を形成することができる。
【0032】
好ましくは、上記凹凸形成工程においては、ショットブラストにより上記凹凸の形成を行なうことがよい(請求項2)。
この場合には、研磨粒子の粒径、形状、材質(硬度)、吹き付け時の圧力を調整することにより、形成する凹凸の大きさを容易に調整することが可能になる。
【0033】
研磨粒子の形状は、例えば略球形、円柱形、多角形等を採用することができる。
また、研磨粒子としては、モース硬度が例えば2〜12程度のものを採用することができる。より好ましくは、モース硬度は10以下、さらにより好ましくは7以下がよい。
研磨粒子は、例えば1〜5kg/cm2、好ましくは2〜3kg/cm2の圧力で吹き付けることができる。
また、ブラスト処理は1回だけでもよいが、複数回繰り返して行なうことができる。
【0034】
次に、上記化粧成形品は、上記化粧シートに対して射出成形工程を行なうことにより製造することができる。即ち、上記射出成形工程においては、上記化粧シートを成形型内に配置し、上記化粧シートにおける上記接合層側に基材樹脂を射出成形する。
【0035】
上記射出成形工程の前には、上記化粧シートに対して真空成形又はプレス成形を行うことができる(請求項6)。
この場合には、化粧シート表面を曲面にしたり、湾曲部を形成することにより、曲面や湾曲部を有する化粧成形品を製造することができる。即ち、所望の表面形状を有する化粧成形品を製造することができる。また、一般に、表面に凹凸を形成した突き板に対して真空成形やプレス成形を行なうと、凹凸が小さくなる傾向にある。しかし、本発明においては、上記装飾シートの裏面側に上記接合層を形成してあるため、真空成形やプレス成形を施しても、上記装飾シートに形成した凹凸が小さくなってしまうことを抑制することができる。
【0036】
また、上記射出成形工程後に、上記化粧シートにおける上記装飾シート側に透明の合成樹脂を塗布し、硬化させてクリア層を形成するクリア層形成工程を有することが好ましい(請求項7)。
透明の上記クリア層を形成することにより、上記装飾シートの木目感に深み感を与えることができ、より一層意匠性を向上させることができる。また、上記クリア層により、上記装飾シートの表面を保護することができる。
【0037】
上記クリア層は、透明の合成樹脂からなる。ここでいう透明性は、完全な透明だけでなく、着色透明、半透明等も含む。この透明性により装飾シートによる装飾効果を充分に発揮させることができる。上記クリア層は上記化粧シートを上記クリア層側から視認したときに、上記装飾シートの意匠が透けて視認できる程度の透明性を有していればよい。
【0038】
上記クリア層は、光線透過率が90%以上であることが好ましい。
この場合には、使用者が、上記クリア層側から上記化粧成形品を視認した場合に、上記クリア層を介して上記装飾シートの装飾を充分に視認することができる。なお、上記光線透過率は、全光線透過率である。
【0039】
上記クリア層は、曇り度2%以下であることが好ましい。
この場合にも、使用者が上記クリア層を介して上記装飾シートの装飾を充分に視認することができる。
【0040】
上記クリア層は、ガラス転移点が90〜130℃であることが好ましい。
ガラス転移点が90℃未満の場合には、耐熱性が不十分になり、上記化粧成形品を、自動車の内装品等のように高温環境下で使用する製品に適用することが困難になるおそれがある。
【0041】
次に、上記クリア層の厚みは10〜50μmであることが好ましい。
厚みが50μmを超える場合には、上記クリア層が上記装飾シートにおける木材の木目溝を埋めてしまい、木質感が十分に発揮されなくなるおそれがある。また、10μm未満の場合には、高温高湿環境下で上記化粧成形品を長時間保持したときに、上記装飾シートの寸法変化により凹凸が発生し易くなるおそれがある。また、上記クリア層の厚みは、実用上40μm以下が好ましい。より好ましくは、上記クリア層の厚みは15μm以上、35μm以下がよい。
上記装飾シートの表面に形成する上記クリア層は1層で形成することができるが、例えば互いに材質の異なる合成樹脂からなる複数層で形成することができる。
【0042】
上記クリア層形成用の合成樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アミノ樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂等を採用することができる。
【0043】
また、上記クリア層形成工程の前に、上記装飾シートの表面に、着色剤を塗布したり、ポリウレタン樹脂及び/又はアクリル樹脂等の合成樹脂を主成分とするシーラーを塗布することができる。
着色剤を塗布することにより、意匠性をより向上させることができる。
また、シーラーを塗布することにより、シート状の木材から発生しうる気泡が上記クリア層等に侵入してくることを防止することができる。また、ポリウレタン樹脂を主成分とするシーラー(ウレタン系接着剤)を採用した場合には、該ポリウレタン樹脂がシート状の木材のセルロースと優れた接着性を示すため、上記装飾シートとの密着性良くシーラーからなる層(目止め層)を形成することができる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
次に、本発明の実施例にかかる化粧シート及び化粧成形品について説明する。
本例においては、図1(c)に示すごとく、シート状の木材を含む装飾シート10と、その裏面側19に形成された合成樹脂からなる接合層11との積層シートからなる化粧シート1を作製する。
【0045】
装飾シート10は、厚み200μmのシート状の木材(突き板)からなり、木材の導管部には合成樹脂が加圧充填されている。装飾シート10の表面側18は、凹凸105が形成されている。
また、接合層11は、厚み200μmのABS樹脂シートからなる。このABS樹脂シートは湿気硬化型のポリウレタン系の接着剤12により装飾シート10に貼着されて接合層11を形成している。
【0046】
また、本例の化粧シートは、これを成形型内で裏面側(接合層側)に基材樹脂を射出成形することにより、図2に示すごとく、化粧シート1と基材樹脂20とを一体化してなる化粧成形品2を作製するために用いられる。
【0047】
図2に示すごとく、本例の化粧成形品2は、化粧シート1と基材樹脂20とを一体化してなる。同図には明確に示していないが、化粧シート1には、真空成形又は熱プレス成形により湾曲部が形成されている。そして、化粧シート1の裏面(接合層)側19に基材樹脂20が射出成形により一体的に接合されて化粧成形品2を形成している。
本例において、基材樹脂は、PC樹脂とABS樹脂との複合樹脂(PC/ABS樹脂)からなる。
【0048】
また、化粧シート1の表面側18においては、凹凸を形成した装飾シート10の表面に厚み20μmのクリア層25が形成されている。クリア層25は、ポリカーボネート(PC)とポリブチレンテレフタレート(PBT)との複合樹脂からなる第1のクリア層と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる第2のクリア層とからなる。同図においては、これらを一つのクリア層25として示してある。
また、図2には示していないが、クリア層25と装飾シート10との間には、装飾シート10側から純に着色層(図示略)と目止め層(図示略)とが形成されている。
【0049】
以下、本例の化粧シート及び化粧成形品の製造方法について説明する。
化粧シートは、図1(a)〜(c)に示すごとく、接合層形成工程とロール加工工程と凹凸形成工程とを行なうことにより製造することができる。
接合層形成工程においては、図1(a)、(b)及び図3に示すごとく、シート状の木材を含む装飾シート10の裏面側19に、基材樹脂との接合用の接合層11を形成して積層シート15を得る。
【0050】
また、ロール加工工程においては、積層シート15をロール状に巻回して積層シートロール150を作製する(図3及び図4参照)。
凹凸形成工程においては、図4及び図1(c)に示すごとく積層シートロール150から積層シート15を送り出しながら、積層シート15における装飾シート10の表面に凹凸105を形成して化粧シート1を得る。
【0051】
以下、化粧シート1の製造方法につき、詳細に説明する。
まず、厚み200μmのシート状の木材(突き板)からなり、予めポリエチレングリコールが加圧充填された装飾シート10を準備した。かかる装飾シート10は市販のものを採用することができる(図1(a)参照)。
【0052】
次に、接合層11の形成用に、厚み約200μmのABS樹脂シートを準備し、接着剤12として、粘度5000mPa・s、ヤング率1MPaの湿気硬化ポリウレタンホットメルト接着剤を準備した(図1(b)参照)。ポリウレタン系接着剤の粘度は、ヤマト科学(株)製のコーンプレート粘度計DV1を用いて測定できる。また、ヤング率は、(株)東洋精機製のストログラフVGを用いて測定できる。
次いで、以下のようにして装飾シート10の裏面側に、接着剤12を用いて接合層11を形成する。
【0053】
接合層の形成は、図3に示すごとくラミネート装置3を用いて行う。
ラミネート装置3は、溶融状態の湿気硬化型のポリウレタン系の接着剤12(湿気硬化ポリウレタンホットメルト接着剤)を貯蔵するメルター31と、接着剤12を吐出するTダイ32と、Tダイ32から吐出された接着剤12を装飾シート10上に塗布する塗布ローラ33と、装飾シート10とABS樹脂シート(接合層)11とを圧着する圧着ローラ34と、圧着台35とを有する。
【0054】
ラミネート装置3に、装飾シート10をロール状に巻回してなる装飾ロール100と、ABS樹脂シート11をロール状に巻回してなる樹脂ロール110とを設置した。
装飾ロール100からは、送りロール36を介して装飾シート10が塗布ローラ33に送り出される。塗布ローラ33においては、メルター31内の接着剤12がTダイ32から押出され、装飾シート10の裏面側19に所定の厚みで塗布されてさらに圧着ローラ34まで送られる。一方、樹脂ロール110からは、ABS樹脂シート11が圧着台35上に沿って圧着ローラ34まで送り出される。圧着ローラ34まで送り出された装飾シート10とABS樹脂シート11は、圧着ローラ34と圧着台35との間で圧着される。このとき、装飾シート10に塗布された接着剤12により装飾シート10とABS樹脂シート(接合層)11が接着する。装飾シート13と接合層11とが一体化してなる積層シート15は、積層シートロール150により巻取られる。
このようにして、装飾シート10の裏面側19に接着剤12を介して接合層11を形成し、積層シート15を得る(図1(b)参照)と共に、積層シートをロール状に巻回してなる積層シートロール150を得た(図3参照)。
【0055】
次に、図4に示すごとく、積層シートロール150から積層シート15を送り出しながら、積層シート15における装飾シートの表面側18に凹凸を形成して上記化粧シート1を得る。
【0056】
具体的には、図4に示すごとく、積層シートロール150と、巻き取りロール190とを対向するように配置し、積層シートロール150と巻き取りロール190との間にはサンドブラスト装置4を配置した。サンドブラスト装置4は、研磨粒子40を吹き出すように構成されている。本例において、研磨粒子40として、粒径90〜106μm、モース硬度6.5のガラスビーズを採用した。
【0057】
そして、積層シートロール150から積層シート15を送り出し、巻き取りロール190により巻き取る。このとき、積層シートロール150と巻き取りロール190との間に配置したサンドブラスト装置4から研磨粒子40を圧力3kg/cm2の条件で吹出し、積層シート15の表面側18に研磨粒子40を衝突させた。また、このとき、積層シートロール150及び巻き取りロール190間で積層シート15を往復させて、積層シート15の所定の領域に繰り返し研磨粒子40を衝突させることもできる。
【0058】
このようにして、積層シートの表面側18、即ち、装飾シート10の表面に凹凸を形成し、図1の(c)に示すごとく、化粧シート1を作製した。
なお、図5に、ブラスト処理を行なう前の積層シートの三次元写真を示し、図6にブラスト処理後の凹凸を形成した化粧シートの三次元写真を示しておく。
【0059】
また、本例においてはブラスト処理前後における装飾シート表面の凹凸の変化を調べた。その測定にあたっては、(株)キーエンス製のデジタルマイクロスコープVHX−900を用いた。
【0060】
図7(a)に、ブラスト処理前の装飾シート(突き板)の表面の三次元写真(倍率100倍)を示す。図7(b)には、図7(a)に示す線X上における凹凸の大きさを示す。図7(b)において横軸は、図7(a)の線X上の位置を示し、縦軸は凹凸の大きさを示す。図7(b)に示すごとく、ブラスト処理前においては、凹凸はほとんどない。
【0061】
図8(a)には、ブラスト処理後の装飾シート(突き板)の表面の三次元写真(倍率100倍)を示す。図8(b)には、図8(a)に示す線Y上における凹凸の大きさを示す。図8(b)において横軸は、図8(a)の線Y上の位置を示し、縦軸は凹凸の大きさを示す。図8(b)に示すごとく、ブラスト処理後においては、凹凸が大きくなっている。
【0062】
このように、本例においては、上記接合層形成工程と上記ロール加工工程と上記凹凸形成工程とを行なって表面に装飾シート10の表面に凹凸105を形成した化粧シートを作製した(図1(c)参照)。
【0063】
本例においては、図1(a)及び(b)に示すごとく、シート状の木材を含む装飾シート10の裏面側19に、基材樹脂との接合用の接合層11を形成する。これにより、基材樹脂との接合性に優れた積層シート15を得ることができる。
【0064】
また、ロール加工工程においては、積層シート15をロール状に巻回して積層シートロール150を作製する(図3及び図4参照)。次いで、上記凹凸形成工程においては、積層シートロール150から積層シート15を送り出しながら、積層シート15における装飾シート10の表面に凹凸105を形成する(図4及び図1(c)参照)。
積層シートロール150から積層シート15を送り出しながらその表面に凹凸105を形成するため、連続的に装飾シート10の表面に凹凸105を形成することができる。そのため、生産性よく上記化粧シート1を製造することができる。
【0065】
そして、本例においては、装飾シート10の表面に凹凸105が形成された化粧シート1を得ることができる。そのため、化粧シート1においては、装飾シート10の木材の木目感が強調され、化粧シート1は優れた意匠性を発揮することができる。
【0066】
さらに、上記凹凸形成工程においては、装飾シート10の裏面側19に接合層11が形成された積層シート15に対して凹凸の形成を行なう(図1(b)、(c)、及び図4参照)。そのため、凹凸が形成された装飾シート10と、その裏面側19に形成された接合層15とを有する化粧シート1を得ることができる。かかる構成の化粧シート1に対して、その裏面側に基材樹脂を射出成形しても、成形時に装飾シート10の凹凸105が小さくなることを抑制することができる。そのため、化粧シート1は、射出成形後においても、優れた木目感を発揮することができる。
【0067】
次に、上記のようにして作製した化粧シートを用いて図2に示すごとく化粧成形品2を作製する。本例においては、化粧シートを成形型内に配置し、化粧シートにおける接合層側に基材樹脂を射出成形することにより、化粧成形品2を作製する。
【0068】
具体的には、まず、化粧シートを成形型内に配置し、真空成形を行なった(図示略)。真空成形時の加熱温度は100℃(シート表面温度)とした。この真空成形により、化粧シート1に湾曲部(図示略)を形成した。
【0069】
次に、化粧シートを、射出成形用の成形型内に配置し、射出成型機を用いて成形型内に基材樹脂を射出し、図2に示すごとく、化粧シート1の裏面側19に基材樹脂2を射出成形した。基材樹脂2としては、PC樹脂とABS樹脂との複合樹脂(PC/ABS樹脂)を用いた。
このようにして、図2に示すごとく、化粧シート1の裏面側19に基材樹脂2を一体化させてなる化粧成形品2を作製した。
【0070】
次に、化粧シート1(装飾シート10)の表面側に着色剤を塗布し、さらにポリウレタン樹脂のシーラーを塗布することにより目止め層(図示略)を形成した。
【0071】
次いで、化粧シート1(装飾シート10)の表面、より具体的には、目止め層上に、ポリカーボネート(PC)とポリブチレンテレフタレート(PBT)との複合樹脂を主成分とする塗料を塗布し、硬化させて、第1のクリア層25を形成した。次いで、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を主成分とする塗料を塗布し、硬化させて第2のクリア層25を形成した。
【0072】
図2においては、第1のクリア層と第2のクリア層とを1つのクリア層25として示してある。本例においてクリア層25のガラス転移点は120℃である。
また、クリア層25は、全光線透過率が91.2%であり、曇り度(ヘーズ)は、1%である。
【0073】
全光線透過率Ltは、透明プラスチックの光線透過度のことで、可視光線と紫外線についての試験がある。ヘーズ値の小さい場合、試験は積分球式光線透過率測定装置を用いて、可視光線及び紫外線について入射光量L1と試験片を通った全光量L2との比を百分率(Lt(%)=L2/L1×100)で示すことができる。
【0074】
曇り度(ヘーズ;Lh)は、透明プラスチックの内部又は表面の不明瞭なくもり様の外観の度合いのことで、数値はくもり価(曇り度、ヘーズ)という。くもり価の試験方法は、全光線透過率試験と同様な操作で試験片の光線透過率を測定し、Lh(%)=Ld/Lt×100(Ldは散乱光線透過率、Ltは全光線透過率)という式によって算出することができる。
【0075】
本例においては、積分球式光線透過率測定装置として、(株)スガ試験機(株)製のデジタルヘーズコンピュータHGM−2DPを用いた。ガラス転移点は、粘弾性測定装置((株)レオロジ製のFTレオスペクトラーDVE−V4)により測定することができる。
【0076】
以上のようにして、図2に示すごとく、化粧シート1の裏面側19に基材樹脂を接合し、表面側18にクリアシート25を形成した化粧成形品2を作製した。
本例においては、上記のごとく、上記凹凸形成工程を行なって表面に凹凸を形成した化粧シートを用いて化粧成形品を作製するだけでなく、上記凹凸形成工程を行なわず、表面に凹凸を形成していない化粧シートを用いて比較用の化粧成形品を作製した。
そして、これらの化粧成形品について木目感を目視にて評価した。
その結果、上記凹凸形成工程を行なった化粧シートを用いて作製した化粧成形品は、木目感が強く、優れた意匠性を示した。
【0077】
本例の化粧成形品2の製造にあたっては、図2に示すごとく、化粧シート1における接合層11側に基材樹脂20を射出成形する。接合層11側に基材樹脂20を射出成形するため、化粧シート1と密着性よく基材樹脂20を接合させることができる。
【0078】
また、図1(c)に示すごとく、凹凸105が形成された装飾シート10とその裏面側19に形成された接合層11とを有する化粧シート1を用いている。そのため、図2に示すごとく化粧シート1の裏面側19に基材樹脂20を射出成形しても、装飾シート10に形成された凹凸105が小さくなり難い。そのため、化粧成形品2は、化粧シート1が有する木目感を生かして優れた意匠性を発揮することができる。
【0079】
さらに、化粧成形品2は、凹凸を形成した化粧シート1に対して射出成形を行なうことにより製造することができる。そのため、成形後の成形品に対してそれぞれ凹凸を形成する操作が不要になり、生産性よく化粧成形品2を製造することができる。
【0080】
以上のように、本例によれば、生産性に優れ、木材の木目感を高めることができる化粧シート及び化粧成形品を製造することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 化粧シート
10 装飾シート
105 凹凸
11 接合層
18 表面側
19 裏面側
2 化粧成形品
20 基材樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型内で裏面側に基材樹脂を射出成形して用いられる化粧シートの製造方法であって、
シート状の木材を含む装飾シートの上記裏面側に、上記基材樹脂との接合用の接合層を形成して積層シートを得る接合層形成工程と、
上記積層シートをロール状に巻回して積層シートロールを作製するロール加工工程と、
上記積層シートロールから上記積層シートを送り出しながら、該積層シートにおける上記装飾シートの表面に凹凸を形成して上記化粧シートを得る凹凸形成工程とを有することを特徴とする化粧シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、上記凹凸形成工程においては、ショットブラストにより上記凹凸の形成を行なうことを特徴とする化粧シートの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法において、上記接合層形成工程においては、上記装飾シートの裏面側に不織布、樹脂含浸紙、又は樹脂シートを貼着することにより上記接合層を形成することを特徴とする化粧シートの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法において、上記接合層形成工程においては、湿気硬化型のポリウレタン系接着剤を用いて貼着することを特徴とする化粧シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法によって得られる上記化粧シートを成形型内に配置し、上記化粧シートにおける上記接合層側に基材樹脂を射出成形する射出成形工程を有することを特徴とする化粧成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法において、上記射出成形工程の前に、上記化粧シートに対して真空成形又はプレス成形を行うことを特徴とする化粧成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の製造方法において、上記射出成形工程後に、上記化粧シートにおける上記装飾シート側に透明の合成樹脂を塗布し、硬化させてクリア層を形成するクリア層形成工程を有することを特徴とする化粧成形品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−213067(P2011−213067A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85710(P2010−85710)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】