説明

半導体の不純物分布測定用試料の製造方法および不純物分布測定方法

【課題】半導体試料に加えられるダメージの影響の低減が可能で、より鮮明な不純物濃度分布に関する情報を取得することが可能な半導体の不純物分布測定用試料の製造方法および不純物分布測定方法を提供すること。
【解決手段】収束イオンビームを用いて、p型とn型のうちの1つ以上の導電型の不純物を含む半導体基板から半導体片を切り出す切出工程S110と、切出工程S110で切り出した半導体片を、10μm以下の厚さの導電性の箔の上に固定して電気的に接続する箔固定工程S120と、箔固定工程S120で導電性の箔の上に固定された半導体片に、所定の希ガスイオンを照射して、切出工程S110で生じたダメージ層の一部または全部を除去して半導体試料を形成するダメージ緩和工程S130と、を備える構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体試料に電子線を照射し半導体部分を透過した電子線の位相に応じた干渉縞に関する情報に基づいて、半導体内の不純物濃度分布に関する情報を取得する半導体の不純物分布測定用試料の製造方法および不純物分布測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体内の不純物濃度分布に関する情報(以下、単に不純物濃度分布情報という。)を取得するための方法として、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いる方法(以下、単にSEM法という。)、オージェ電子分光技術を用いる方法(以下、オージェ分析法という。)、SCM(Scanning Capacitance Microscope)を用いる方法(以下、単にSCM法という。)等がある。
【0003】
SEM法は、試料表面に高速の電子線を照射し、得られる2次電子等の情報に基づいて試料表面近傍の不純物濃度分布情報を取得するものである。このSEM法は、劈開という簡易な方法で得られる試料を用いて観察できるため、簡便な手法として広く知られている。しかしながら、試料の劈開面に吸着した酸素等による影響を受けるため、定量的な評価が困難である。
【0004】
オージェ分析法は、いわゆるオージェ電子が試料を構成する元素に特有のエネルギーに関する情報を有することに基づいて、試料表面近傍の不純物濃度分布情報を取得するものである。オージェ分析分光装置を用いることによって試料の仕事関数の大きさを測定できるため、オージェ分析法は、仕事関数の情報の得られないSEM法に比べ定量性を向上できる。しかしながら、オージェ電子は表面数原子層内の情報を有するものであるため、少なくとも試料表面を清浄にしておかなければ正確な測定はできない。
【0005】
SCM法は、試料の面内で静電容量を測定し、静電容量およびその面内分布に基づいて、試料内の不純物濃度分布情報を取得するものである(例えば、非特許文献1参照。)。SCM法は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)技術を用いて得られる不純物濃度の測定値を用いて、静電容量と不純物濃度との対応関係を得ることによって、試料内の不純物濃度分布を間接的に測定することができる。しかしながら、分解能が数十nm以上であるため、ナノオーダーの大きさの半導体デバイスの評価には適用できない。
【0006】
これに対して、電子線ホログラムを用いる手法(以下、電子線ホログラム法という。)は、電子線を試料に照射するものと試料外を通過するものとに分け、試料を透過した電子と試料外を通過した電子とを干渉させ、得られた干渉縞に関する情報に基づいて試料内の電位分布等に関する情報を得るものである(例えば、非特許文献2参照。)。上記のように電子線を偏向して干渉させるために、いわゆる電子線バイプリズム等が用いられる。
【0007】
電子線ホログラム法は、TEM(Transmission Electron Microscope)と同様の構成で電子線を用いるため、理論的には1Å以下の分解能を得ることも可能である。そのため、半導体の評価に電子線ホログラム法を用いることが10年程度以前から行われ、特に単一元素から成るシリコンを用いた半導体に適用されてきた。電子線ホログラム法を用いて、試料を評価するには、数十nmから数百nm以下に試料を薄くする必要がある。
【0008】
電子線ホログラム法を用いて評価する試料内を透過した電子の位相φは、以下の式(1)のように表される。
φ=πVt/(λE) (1)
ここで、Vは試料の内部電位、tは試料の厚さ、λは電子線の波長、Eは電子の加速電圧に応じて決定される定数である。
【0009】
上記の式(1)から明らかなように電子の位相φが試料の厚さtに依存することため、試料の評価を容易にするには、この厚さtを均一にする必要がある。このように評価可能な試料を作製する場合、従来、収束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)法が用いられている。そして、Si系の半導体では、FIB法を用い照射するイオンビームのエネルギーを低下させて表面近傍でのダメージを抑えて得られる試料を用いて、不純物濃度分布の測定に成功している。
【0010】
具体的には、pn接合を有するSi半導体について報告されている。図7に示すように、独立に存在するp型とn型の半導体では真空準位が一致しフェルミ準位が異なるが、pn接合を介して接合されたp型とn型の半導体では、それぞれのフェルミ準位が一致しているため、伝導帯の電位がp型の領域とn型の領域とで異なる。試料を透過する電子線は、かかる試料内の電位に応じて位相が変化するため、p型の領域を透過した電子とn型の領域を透過した電子とでは位相が異なる。そのため、電子線ホログラム法を用いることによって、この位相の差に基づき、試料内の電位分布の差、独立に存在する各フェルミ準位、不純物濃度分布等の情報を取得することができる。
【0011】
【非特許文献1】エー エリッチソン、エス サンドウィック著、「ナノスケールでの2次元不純物濃度分布の定量的なSCM解析」、ジャーナル オブ エレクトリック マテリアル、25巻、2号、301頁、1996年(A. Erichson and S Sandwick, “Quantitative Scanning Capacitance Microscopy Analysis of Two-dimensional Dopant Concentrations at Nanoscale Dimensions,”, Journal of Electric Material, Vol.25, No.25, p301, 1996)。
【非特許文献2】マッカートニーら著、「オフ−アキス電子線ホログラフィを用いた、Si/Si p−n接合を横切る方向のポテンシャル分布の直接測定」、アプライド フジックス レター、65巻、2603−2605頁、1994年(McCartney et al., “Direct Observation of Potential Distribution across Si/Si p-n Junction Using Off-axis Electron Holography”, Applied Physics Letter, Vol.65, p2603−2605, 1994)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、FIB法を用いて評価対象の試料を作製する従来の電子線ホログラム法では、照射したイオンビームによるダメージが発生し、適切に不純物濃度分布等の情報を取得できない場合があるという問題があった。具体的には、例えば図8に示すように、試料810に照射したイオンビームによってダメージ層811が発生し、ダメージを受けた部分のSiが例えばアモルファスに変化する等によって性質が変わってしまうことが起こっていた。そのため、適切に測定するためには、ダメージを受けた部分を除去する必要があった。
【0013】
また、GaAs、InP、GaN等の多元系の化合物半導体では、アモルファスの相に加え多結晶の相も出現することになり、より複雑な性質のダメージ層が形成され、さらに重大な問題となっていた。具体的には、Si半導体に関しては、アモルファス層が存在する場合、不純物濃度分布の情報は得られるが、像質が劣化する。一方、化合物半導体では、入射した電子が上記の多結晶によって回折され、ダメージ層の存在によって像質は極めて劣化し、ダメージ層を除去しなければ不純物濃度分布を反映した位相像を取得することは極めて困難である。
【0014】
本発明は、半導体試料に加えられるダメージの影響の低減が可能で、より鮮明な不純物濃度分布に関する情報を取得することが可能な半導体の不純物分布測定用試料の製造方法および不純物分布測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る第1の態様は、収束イオンビームを用いて、p型とn型のうちの1つ以上の導電型の不純物を含む半導体基板から半導体片を切り出す切出工程と、前記切出工程で切り出した前記半導体片を、10μm以下の厚さの導電性の箔の上に固定して電気的に接続する箔固定工程と、前記箔固定工程で導電性の箔の上に固定した前記半導体片の厚さを薄くする薄膜化工程と、前記薄膜化工程で厚さが薄くなった前記半導体片に所定の希ガスイオンを照射して、前記切出工程で生じたダメージ層の一部または全部を除去して半導体試料を形成するダメージ緩和工程と、を備えることを特徴とする半導体の不純物分布測定用試料の製造方法である。
【0016】
本発明に係る第2の態様は、収束イオンビームを用いて、p型とn型のうちの1つ以上の導電型の不純物を含む半導体から半導体片を切り出す切出工程と、前記切出工程で切り出した前記半導体片の厚さを薄くする薄膜化工程と、前記薄膜化工程で厚さが薄くなった前記半導体片を、10μm以下の厚さの導電性の箔の上に固定して電気的に接続する箔固定工程と、前記箔固定工程で導電性の箔の上に固定された前記半導体片に、所定の希ガスイオンを照射して、前記切出工程で生じたダメージ層の一部または全部を除去して半導体試料を形成するダメージ緩和工程と、を備えることを特徴とする半導体の不純物分布測定用試料の製造方法である。
【0017】
本発明に係る第3の態様は、第1または第2の態様において、前記導電性の箔が、アルミ箔または銅箔であることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る第4の態様は、第1乃至第3までのいずれか1つの態様において、前記ダメージ緩和工程で、前記希ガスイオンを、前記半導体片の対向する1対の面のうちの1つ以上の面に斜めに照射することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る第5の態様は、第4の態様において、前記ダメージ緩和工程で前記希ガスイオンを照射する角度が、前記希ガスイオンを照射する前記半導体片の面に対し20°以下であることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る第6の態様は、第4または第5の態様において、前記ダメージ緩和工程で、前記半導体試料を、前記希ガスイオンが照射される角度を一定に保ちながら回転させることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る第7の態様は、第1または第2の態様の態様において、前記ダメージ緩和工程で、Arイオンを前記半導体片に照射することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る第8の態様は、第1乃至第7のいずれか1つの態様において、前記半導体が、p型とn型のうちの1つ以上の導電型の不純物を含む化合物半導体であることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る第9の態様は、第1乃至第8のいずれか1つの態様に係る半導体の不純物分布測定用試料の製造方法を用いて製造した半導体試料の前記半導体片に電子線の一部が照射されるように前記電子線を射出し、前記半導体片を透過した電子線と前記半導体試料に照射されずに通過する電子線とを重畳させて干渉させ、前記半導体片を透過した電子線に応じて得られる干渉縞に関する情報を取得する干渉縞情報取得工程と、前記干渉縞に関する情報に応じて、前記半導体片内の不純物濃度分布に関する情報を生成する不純物分布情報生成工程と、を備えることを特徴とする半導体の不純物分布測定方法である。
【0024】
本発明に係る第10の態様は、第9の態様において、前記不純物分布情報生成工程が、フーリエ変換法または位相シフト法を用いて、前記干渉縞に関する情報を、前記半導体片を透過した電子線の位相の情報に変換する像位相変換工程と、前記像位相変換工程で得られた電子線の位相の情報を前記半導体片内の不純物濃度分布の情報に変換する位相濃度変換工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、半導体試料に加えられるダメージの影響の低減が可能で、より鮮明な不純物濃度分布に関する情報を取得することが可能な半導体の不純物分布測定用試料の製造方法および不純物分布測定方法を実現できる。
【0026】
また、半導体試料に加えられるダメージの影響を低減することができるため、従来困難であって多元系の化合物半導体についても不純物濃度分布に関する情報が取得可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の態様に係る半導体の不純物分布測定用試料の製造方法の工程を説明するためのフローチャートである。図1において、半導体の不純物分布測定用試料の製造方法は、収束イオンビームを用いて、p型とn型のうちの1つ以上の導電型の不純物を含む半導体基板から半導体片を切り出す切出工程S110と、切出工程S110で切り出した半導体片を、10μm以下の厚さの導電性の箔の上に固定して電気的に接続する箔固定工程S120と、箔固定工程S120で導電性の箔の上に固定された半導体片に、所定の希ガスイオンを照射して、切出工程S110で生じたダメージ層の一部または全部を除去して半導体試料を形成するダメージ緩和工程S130と、を備える。
【0028】
切出工程S110は、例えば、W等の耐熱性の金属からなる薄膜(以下、W薄膜とする。)をマスクとして形成し、Ga等からなる細いイオンビーム(以下、収束イオンビームという。)を上記の半導体基板に射出して、例えば板状等の均一な厚さの部分を有する形状の半導体片を切り出す工程である。このように半導体片を切り出す方法は、FIB(Focused Ion Beam)−マイクロサンプリング法と称される。半導体片11は、板状の形状を有するものでは、例えば200nm等の数十nm〜数百nmの厚さで切り出される。
【0029】
図2は、本発明の第1の実施の態様に係る半導体試料を模式的に示す斜視図である。箔固定工程S120は、切出工程S110で切り出した半導体片11を図2に示すように、例えば、アルミ箔、銅箔等の10マイクロ○以下の厚さの導電性の箔12の上に固定して電気的に接続する工程である。以下、上記の導電性の箔12をアルミ箔12として説明する。また、図2において、半導体片11のアルミ箔12側の面に対向する面には上記のW薄膜13が形成されている。
【0030】
なお、切出工程S110で得られる半導体片11が、電子線ホログラムを適切に得ることができる程度に薄くない場合、切出工程S110で切り出した半導体片11の厚さを薄くする工程、または、箔固定工程S120でアルミ箔12の上に固定した半導体片11の厚さを薄くする工程を設けて半導体片11を適切な厚さまで薄くし、その後、後続の工程を行うのでも良い。ここで、半導体片11の厚さを薄くする上記のいずれの工程も薄膜化工程というものとする。薄膜化工程では、収束イオンビームを用いて半導体片11の厚さを薄くするのは、制御が容易であることなどのため好ましい。以下、切出工程S110または箔固定工程S120で得られた半導体片11は、必要に応じて薄膜化され適切な厚さになっているものとする。
【0031】
ダメージ緩和工程S130は、箔固定工程S120でアルミ箔12上に固定された半導体片11に所定のイオンを照射してイオンミリングを行い、切出工程S110で発生したダメージ層の一部または全部を除去して半導体試料10を形成する工程である。図3は、半導体試料10をArイオンミリングして加工する概略の様子を示す図である。図3において、Arイオンは、半導体片11の電子線を入射させる面及びその対向する面に、例えば、10°等の20°以下の浅い角度で斜めに照射され、半導体試料10はこの角度を保ちながら回転させられる。上記の浅い角度でArイオンを入射させることによって、ダメージ層を除去しつつ半導体片11に新たに加わるダメージを効果的に抑えることができると共に、半導体片11の除去される部分の厚さも均一に保つことができ、極めて好ましい。ここで、一方のダメージ層が薄い等の所定の場合には、この面に対して行うイオンミリングを省略することができる。
【0032】
ここで、上記で説明したように、切り出した半導体片11は、厚さが電子線ホログラムを適切に得ることができる程度になっていない場合、上記の薄膜化工程で収束イオンビームを用いて薄膜化の加工(通常、数百nmまで加工)が行われる。従来、半導体片11を薄膜化する場合、半導体片11を固定する試料台として30〜50μmのTEM観察用の半切りの試料台を用いていた。半導体片1は、半切りにされた断面である平面部分に固定される。ダメージ層を取り除くには、半導体片11を中心に両方向から半導体片11に対して低角度でArイオンを照射する必要がある。しかしながら、TEM観察用の半切りの試料台に半導体片11を固定してArイオンを照射すると、試料台が壁となり、Arイオンビームが半導体片11に到達しないという問題があった。さらに、Arイオンが試料台の壁を削り、これによって飛散した試料台の成分が半導体片11にも付着してしまい、画質の低下すなわち測定精度の低下を招いていた。本発明では、半導体11を上記のように厚さ数μmのアルミ箔12上に載せてイオンミリングを行うため、Arイオンは試料台に遮られずに半導体11に到達し、試料台が削られることによって試料台を構成する成分等が飛散して半導体片11に付着することを防止又は低減できる。
【0033】
なお、イオンミリングに用いるイオンビームの径は、半導体片11の大きさと同程度以下が、不必要な部分をミリングしてしまい半導体片11が汚染されることを防止する観点から好ましい。具体的には、数百μm程度以下が好ましい。また、イオンミリングで用いるイオンの加速電圧としては、切出工程S110で設定する加速電圧よりも低くして新たなダメージの発生を抑制できる電圧に設定する。具体的には、イオンミリングのための加速電圧は、数十mV〜数V程度に設定されるが、材料、加工の段階、その他の加工の条件等に応じて調整される。以下、上記のイオンミリングの方法をポストマイクロサンプリング法という。
【0034】
以下、図面を用いて、本発明の第2の実施の態様に係る半導体の不純物分布測定方法について説明する。
図4は、本発明の第2の実施の態様に係る半導体の不純物分布測定方法を説明するためのフローチャートである。図4(a)に示すように、本発明の第2の実施の態様に係る半導体の不純物分布測定方法は、本発明の第1の実施の態様に係る半導体の不純物分布測定用試料の製造方法を用いて製造した半導体試料10の半導体片11に電子線eの一部が照射されるように電子線eを射出し、半導体片11を透過した電子線に応じて得られる干渉縞に関する情報を取得する干渉縞情報取得工程S410と、得られた干渉縞に関する情報に応じて、半導体片11内の不純物濃度分布に関する情報を生成する不純物分布情報生成工程S420と、を備える。
【0035】
図5は、干渉縞情報取得工程S410で上記の干渉縞に関する情報を有する電子線ホログラムを得るための測定装置の構成を模式的に示す図である。干渉縞情報取得工程S410では、まず、図5に示すように、上記の測定装置500の、電界放射型等の干渉性の高い電子銃510から出射した電子eを、電子レンズ520を用いて平行ビームにし、一部が半導体片11に垂直に照射されるように、出射する。そして、半導体片11を透過した物質波と、電子ビームのうち電子レンズ520から直接入射する成分である参照波とを、複プリズム530を用いて互いに重なり合うようにそれぞれ異なる方向に偏向させる。複プリズム530を出射した物質波と参照波とは検出器540上で重畳されて干渉し、干渉によって生じた干渉縞に関する情報は検出器540によって電気信号に変換されて電子線ホログラムとして出力される。
【0036】
ここで、上記の複プリズム530は、電子線の進行方向に対してほぼ垂直な面内で、電子線が通過する領域を第1の領域と第2の領域の2つの領域に分割するようになっている。そして、例えば、第1の領域を参照波が通過し、第2の領域を物質波が通過するようになっている。複プリズム530として、例えば、電子線の進行方向に平行に電子線を挟むように配置された一対の対向する平板電極(以下、対向平板電極という。)と、この対向平板電極に挟まれ、且つ、電子線の進行方向に垂直な面内に配置された直径の数十μm程度の針状導体とを有するものを用いることができる。この場合、この対向平板電極が接地電位となり、針状導体が正電位となるように構成される。
【0037】
検出器540として、例えば、電子線が入射することによって発光するスクリーン541とCCD(Charge Coupled Device)カメラ等の撮像手段542とを有し、スクリーン上に電子線が入射することによって形成された干渉縞に関する情報を有する電子線ホログラムを撮像手段542によって撮像して画像化し、画像データとして出力する構成を有するものを用いるのでもよい。
【0038】
不純物分布情報生成工程S420は、説明の都合上、図4(b)に示すように像位相変換工程S421と位相濃度変換工程S422とによって構成されるものとする。ここで、像位相変換工程S421は、フーリエ変換法、位相シフト法等の方法のうちのいずれかの方法を用いて、干渉縞情報取得工程S410で得られた電子線ホログラムが有する干渉縞に関する情報を、半導体片11を透過した電子線の位相の情報に変換する工程である。位相濃度変換工程S422は、像位相変換工程S421で得られた電子線の位相の情報を半導体片11内の不純物濃度分布の情報に変換する工程である。
【0039】
まず、像位相変換工程S421について説明する。像位相変換工程S421では、上記の検出器540から出力された干渉縞に関する情報を有する電子線ホログラムの画像データに基づいて、半導体片11を透過した電子線の位相の情報を有する再生像(以下、単に再生像という。)を生成する。再生像は、物質波についての、参照波に対する相対的な位相の情報を有する。ここで、フーリエ変換法は、分解能が干渉縞の間隔の3倍となってしまうため、高い分解能を要する観測には適さないが、容易に再生できるという利点を有する。これに対し、位相シフト法では、分解能は、干渉縞の間隔に制限されず、測定装置に対応するTEMの分解能、すなわち、1Å以下とすることが原理上可能である。なお、CCDカメラを用いて撮像する場合、分解能は、ピクセル間の間隔に依存することになるが、フーリエ変換法よりはるかに高い。そのため、再生像の生成方法を、例えば、粗い分解能であっても簡易に再生像を取得したい場合等はフーリエ変換法を用い、時間をかけても高い分解能で再生像を取得したい場合等は位相シフト法を用いる等、切り替えるのでもよい。
【0040】
次に、位相濃度変換工程S422について説明する。位相濃度変換工程S422では、図5に示す情報処理装置550を用いて、像位相変換工程S421で生成された再生像から得られる位相の情報と、以下の式(2)とに基づいて、半導体片11内のポテンシャル分布を生成する。
V(x、y)=λEφ(X、Y)/(tπ) (2)
ここで、φ(X、Y)は電子線ホログラム上の座標(X、Y)における再生像の位相、V(x、y)は電子線ホログラム上の座標(X、Y)に対応する半導体片11の面内の座標(x、y)における内部電位、tは半導体片11の厚さ、λは電子線の波長、Eは加速電圧に応じて決定される定数である。
【0041】
上記のようにして半導体片11の内部電位V(x、y)が算出されたとき、半導体片11の材質、不純物の種類等に応じたバンドギャップの大きさ、不純物準位の深さ等を考慮して、半導体片11の内部電位V(x、y)を不純物濃度分布の情報に変換する。ここで、予め、対象とする半導体について不純物の種類および濃度が既知の複数の試料を作製し、内部電位と不純物濃度との対応関係を得るための測定を行っておき、この対応関係を用いて不純物濃度を算出するのでもよい。または、その他の理論的な計算結果等の既知の情報に基づいて不純物濃度を算出するのでもよい。
【0042】
また、本発明に係る半導体の不純物分布測定方法は、上記のようにポストマイクロサンプリング法を用いてダメージ層の一部または全部を除去するため、高い像質の電子線ホログラムを得ることができ、Si半導体のみならず、GaAs、InP、GaN等の多元系の化合物半導体にも同様に適用できる。さらに、例えばGaAs片内に同一種類の不純物が異なる濃度でドープされた複数の領域がある場合でも、識別可能となる。具体的には、p型不純物が1018cm−3の濃度でドープされた領域と1020cm−3の濃度でドープされた領域とがGaAs片内に存在する場合でも識別可能である。不純物濃度に応じて、フェルミ準位等が変化することが起こるからである。上述のことは、n型の不純物についても同様である。
【0043】
図6は、半導体片11の表面近傍に形成される空乏層を模式的に示す断面図である。イオンミリングを行うことによって表面近傍に多少のダメージ層が残り、これによって表面近傍のフェルミ準位がピン止めされ、空乏層が発生する。ここで、上記の空乏層は不純物濃度に応じた厚さを有するため、半導体内部の電位の情報以外にもこの情報を用いてまたはこの情報を付加することによって、さらに不純物濃度分布の情報を高い精度で取得することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る半導体の不純物分布測定用試料の製造方法および不純物分布測定方法は、半導体試料に加えられるダメージの影響の低減が可能で、より鮮明な不純物濃度分布に関する情報を取得することができるという効果を有し、かかる効果が有効な半導体の不純物分布測定用試料の製造方法および不純物分布測定方法等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の態様に係る半導体の不純物分布測定用試料の製造方法の工程を説明するためのフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の第1の実施の態様に係る半導体試料を模式的に示す斜視図である。
【図3】図3は、半導体試料10をArイオンミリングして加工する概略の様子を示す図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施の態様に係る半導体の不純物分布測定方法を説明するためのフローチャートである。
【図5】図5は、干渉縞に関する情報を有する電子線ホログラムを得るための測定装置の構成を模式的に示す図である。
【図6】図6は、半導体片11の表面近傍に形成される空乏層を模式的に示す断面図である。
【図7】図7は、半導体におけるエネルギーダイヤグラムを説明するための概念図である。
【図8】図8は、電子線ホログラムの取得に用いられる従来の半導体試料に生じているダメージ層を説明するための模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0046】
10、810 半導体試料
11 半導体片
12 導電性の箔
13 マスク
500 測定装置
510 電子銃
520 電子レンズ
530 複プリズム
540 検出器
541 スクリーン
542 撮像手段
550 情報処理装置
811 ダメージ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収束イオンビームを用いて、p型とn型のうちの1つ以上の導電型の不純物を含む半導体から半導体片を切り出す切出工程と、
前記切出工程で切り出した前記半導体片を、10μm以下の厚さの導電性の箔の上に固定して電気的に接続する箔固定工程と、
前記箔固定工程で導電性の箔の上に固定した前記半導体片の厚さを薄くする薄膜化工程と、
前記薄膜化工程で厚さが薄くなった前記半導体片に所定の希ガスイオンを照射して、前記切出工程で生じたダメージ層の一部または全部を除去して半導体試料を形成するダメージ緩和工程と、を備えることを特徴とする半導体の不純物分布測定用試料の製造方法。
【請求項2】
追加しました。
収束イオンビームを用いて、p型とn型のうちの1つ以上の導電型の不純物を含む半導体から半導体片を切り出す切出工程と、
前記切出工程で切り出した前記半導体片の厚さを薄くする薄膜化工程と、
前記薄膜化工程で厚さが薄くなった前記半導体片を、10μm以下の厚さの導電性の箔の上に固定して電気的に接続する箔固定工程と、
前記箔固定工程で導電性の箔の上に固定された前記半導体片に、所定の希ガスイオンを照射して、前記切出工程で生じたダメージ層の一部または全部を除去して半導体試料を形成するダメージ緩和工程と、を備えることを特徴とする半導体の不純物分布測定用試料の製造方法。
【請求項3】
前記導電性の箔が、アルミ箔または銅箔であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体の不純物分布測定用試料の製造方法。
【請求項4】
前記ダメージ緩和工程で、前記希ガスイオンを、前記半導体片の対向する1対の面のうちの1つ以上の面に斜めに照射することを特徴とする請求項1乃至請求項3までのいずれか1項に記載の半導体の不純物分布測定用試料の製造方法。
【請求項5】
前記ダメージ緩和工程で前記希ガスイオンを照射する角度が、前記希ガスイオンを照射する前記半導体片の面に対し20°以下であることを特徴とする請求項4に記載の半導体の不純物分布測定用試料の製造方法。
【請求項6】
前記ダメージ緩和工程で、前記半導体試料を、前記希ガスイオンが照射される角度を一定に保ちながら回転させることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の半導体の不純物分布測定用試料の製造方法。
【請求項7】
前記ダメージ緩和工程で、Arイオンを前記半導体片に照射することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体の不純物分布測定用試料の製造方法。
【請求項8】
前記半導体が、p型とn型のうちの1つ以上の導電型の不純物を含む化合物半導体であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の半導体の不純物分布測定用試料の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の半導体の不純物分布測定用試料の製造方法を用いて製造した半導体試料の前記半導体片に電子線の一部が照射されるように前記電子線を射出し、前記半導体片を透過した電子線と前記半導体試料に照射されずに通過する電子線とを重畳させて干渉させ、前記半導体片を透過した電子線に応じて得られる干渉縞に関する情報を取得する干渉縞情報取得工程と、
前記干渉縞に関する情報に応じて、前記半導体片内の不純物濃度分布に関する情報を生成する不純物分布情報生成工程と、を備えることを特徴とする半導体の不純物分布測定方法。
【請求項10】
前記不純物分布情報生成工程が、フーリエ変換法または位相シフト法を用いて、前記干渉縞に関する情報を、前記半導体片を透過した電子線の位相の情報に変換する像位相変換工程と、前記像位相変換工程で得られた電子線の位相の情報を前記半導体片内の不純物濃度分布の情報に変換する位相濃度変換工程とを有することを特徴とする請求項9に記載の半導体の不純物分布測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−178205(P2007−178205A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375477(P2005−375477)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【Fターム(参考)】