説明

半導体ウエハ加工用粘着シート

【課題】放射線照射によって粘着力が低減する再剥離型粘着シートであって、長時間保存した場合にも、放射線照射による粘着力低減の効果が低下しない、ダイシング工程用保持シートなどとして有用な半導体ウエハ加工用粘着シートを提供することにある。
【解決手段】本発明の半導体ウエハ加工用粘着シートは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を主成分とする基材フィルム(A層)の少なくとも片側に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体をベースポリマーとして含み、且つ、分子内に炭素−炭素二重結合を2個以上有する放射線重合性化合物を、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して、0.1〜300重量部含む放射線反応性粘着剤層(B層)を有する粘着シートであって、前記放射線重合性化合物の60℃における粘度が1Pa・S以上、または、重量平均分子量が1000以上であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線照射によって粘着力が低減する再剥離型粘着シートであって、長時間保存した場合にも、放射線照射による粘着力低減の効果が低下しない、ダイシング工程用保持シートなどとして有用な、半導体ウエハ加工用粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体の製造工程においては、様々な粘着シートが用いられている。中でも、半導体ウエハの裏面研削(バックグラインド)工程でウエハを保護するために用いられる保護シートや、素子小片への切断分割(ダイシング)工程で用いられる固定用シート等には、貼付後、所定の工程が終了した後に再び剥離される「再剥離型」の粘着シートが使用されている。
【0003】
これらの再剥離型の粘着シートには様々な特性が要求される。例えば、粘着層には、加工工程では十分な密着力を発揮するが、剥離工程では、容易に剥離でき(易剥離性)、剥離後に被着体である半導体ウエハに粘着剤などの有機物が転写(転写汚染という)しない特性が求められる。また、基材フィルムには、バックグラインド用保護シートとしては研削砥石の高い圧力によるウエハ破損を防止する目的で、ダイシング用シートとしてはピックアップ回収時のエキスパンド性を向上する目的で、高い柔軟性・伸縮性が必要とされる。
【0004】
上記、課題を満足するために、多くの開発が進められている。例えば、粘着剤としては、分子内に炭素−炭素二重結合を有する放射線重合化合物を用いた放射線反応性粘着剤が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。放射線重合化合物は、放射線照射をしない状態では粘着成分として働くが、紫外線などの放射線を照射すると、重合・硬化し、粘着力を失う再剥離性に優れた粘着剤である。
【0005】
一方、基材フィルムとしては、従来は、柔軟性などの観点から軟質塩化ビニルフィルムが用いられていたが、近年では、塩化ビニルフィルムは含有する可塑剤のブリードによる再剥離時の転写汚染が問題となり、これを解決するために、柔軟性を有しつつ、かつ、転写汚染の少ないアクリル樹脂からなる基材フィルムが開発されている。さらに、上記の粘着層と組み合わせたアクリル系の放射線反応性粘着剤層を有するアクリルフィルムも知られている(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。
【0006】
しかしながら、上記のように、アクリル樹脂からなる基材フィルム上にアクリル系の粘着剤層を形成した場合は、塩化ビニルフィルム上に同一の粘着剤層を形成した場合と比べて、長時間保存した後に使用する際に、粘着力が低下したり、放射線照射による粘着力低減効果(再剥離性)が失われる問題が発生することがわかった。この原因は、前記の粘着剤層中の放射線重合化合物は、アクリル樹脂に対して浸透性が高いため、時間とともに、粘着剤層中から基材フィルム中に浸透・拡散し、粘着剤層中の放射線重合化合物の含有量が実質的に低下するためと考えられる。このため、放射線重合化合物の低減を見越して、あらかじめ多量の放射線重合化合物を添加することも考えられるが、この場合には、基材フィルムにも粘着成分が浸透するため、ブロッキングなどの取り扱い性低下を招いたり、放射線照射時に基材フィルム中でも架橋反応が起こってしまい、基材フィルムが収縮変形し、しわが発生したりして、後のピックアップ工程での収率を低下させることがある。
【0007】
すなわち、再剥離性、低転写汚染、柔軟性のすべての要求を満たす、アクリル系粘着剤層とアクリルフィルムの組み合わせは、いまだ再剥離性の安定性に課題が残っているのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特許第2119328号明細書
【特許文献2】特許第2126520号明細書
【特許文献3】特開2004−79916号公報
【特許文献4】特開2002−228420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、再剥離による転写汚染が起こりにくく、また、再剥離性、柔軟性に優れるため、半導体ウエハの加工工程で、高いエキスパンド性、ピックアップ性を発揮する、半導体ウエハ加工用粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の分子量または粘度を有する放射線反応性重合化合物を用いることによって、アクリル樹脂からなる基材フィルムに対しても浸透・拡散を抑制し、放射線照射による粘着力低減効果の低下を防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を主成分とする基材フィルム(A層)の少なくとも片側に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体をベースポリマーとして含み、且つ、分子内に炭素−炭素二重結合を2個以上有する放射線重合性化合物を、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して、0.1〜300重量部含む放射線反応性粘着剤層(B層)を有する粘着シートであって、前記放射線重合性化合物の60℃における粘度が1Pa・S以上であることを特徴とする半導体ウエハ加工用粘着シートを提供する。
【0012】
または、本発明は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を主成分とする基材フィルム(A層)の少なくとも片側に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体をベースポリマーとして含み、且つ、分子内に炭素−炭素二重結合を2個以上有する放射線重合性化合物を、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して、0.1〜300重量部含む放射線反応性粘着剤層(B層)を有する粘着シートであって、前記放射線重合性化合物の重量平均分子量が1000以上であることを特徴とする半導体ウエハ加工用粘着シートを提供する。
【0013】
または、本発明は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を主成分とする基材フィルム(A層)の少なくとも片側に、分子内に炭素−炭素二重結合を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体をベースポリマーとして含む放射線反応性粘着剤層(B層)を有することを特徴とする半導体ウエハ加工用粘着シートを提供する。
【0014】
さらに、本発明は、B層のベースポリマーが反応性官能基を有しているとともに、該ベースポリマーの反応性官能基に対して反応しうる官能基を有する放射線重合開始剤を含む、上記の半導体ウエハ加工用粘着シートを提供する。
【0015】
さらに、本発明は、B層に、反応性官能基を有する架橋剤を含み、且つ、該架橋剤の反応性官能基に対して反応しうる官能基を有する放射線重合開始剤を含む、上記の半導体ウエハ加工用粘着シートを提供する。
【0016】
さらに、本発明は、B層に、水酸基、イソシアネート基、アミノ基から選ばれた少なくとも1つの官能基を有する、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、架橋剤及び放射線重合開始剤の少なくとも3成分を含み、さらに、上記3成分のそれぞれの官能基の組み合わせが、これら3成分の全てが反応しうる組み合わせである、前記の半導体ウエハ加工用粘着シートを提供する。
【0017】
さらに、本発明は、上記のいずれかに記載の半導体ウエハ加工用粘着シートを用いた半導体ウエハの加工方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の半導体ウエハ加工用粘着シートは、アクリル基材フィルムを用いることができるため転写汚染が少なく、さらに長時間保存した場合にも、再剥離性の低下が生じないため、産業上有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の半導体ウエハ加工用粘着シートの一例を示す概略断面図である。図1に示される半導体ウエハ加工用粘着シート1は、基材フィルム2の片面に、粘着剤層3が設けられている。
【0020】
本発明の半導体ウエハ加工用粘着シートは、基材フィルム(A層という)の少なくとも片側に粘着剤層(B層)を有する少なくとも2層構造を有する。なお、用途によっては、さらに離型フィルムが設けられていてもよく、その場合は、基材フィルム/粘着剤層/離型フィルムの順に設けられることが好ましい。
【0021】
本発明のA層は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を主成分とする。なお、ここでいう「主成分とする」とは、層中の含有量が80重量%以上、好ましくは90重量%以上、最も好ましくは、95重量%以上であることをいう。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルの総称を意味する。(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体以外には、滑剤や酸化防止剤、その他の安定剤などが添加されてもよいが、転写汚染の原因となるため、添加剤の含有量はできる限り少量であることが好ましい。
【0022】
基材フィルムとして、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を用いることによって、柔軟性・伸縮性と低転写汚染性を両立できる。例えば、アクリル樹脂以外の基材フィルム素材として、ポリ塩化ビニル樹脂やポリエステル樹脂などが挙げられるが、ポリ塩化ビニル樹脂を用いた場合には、柔軟性・伸縮性は良く、エキスパンド性は良好であるが、ポリ塩化ビニル樹脂に含まれる可塑剤がB層表面に析出し、再剥離の際、半導体ウエハに転写することがある。転写した汚染物は、その後の半導体製造工程において、ワイヤボンディング不良やパッケージクラックの原因となり、生産性を低下させることがある。また、ポリエステル樹脂を用いる場合には、柔軟性・伸縮性に劣り、エキスパンド性が低下することがある。
【0023】
さらに、基材フィルムとしては、特に、A層を構成する樹脂とB層を構成する樹脂を、共に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体とすることにより、転写汚染が格段に低減できる。これは、B層に残存する未反応の架橋剤が低減するためと考えられる。B層は通常、粘着力の調製や糊残りの抑制のため、架橋剤により架橋されている。しかし、添加された架橋剤の一部は、未反応のまま、低分子量体またはオリゴマーとして残存するのであるが、これらはB層と半導体ウエハとの界面に析出し、転写汚染物となることがある。ここで、A層がB層と同様の樹脂である場合には、B層中の未反応成分はA層に浸透し、B層中の未反応成分は大幅に低減することとなる。例えば、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンなどの樹脂である場合には、未反応成分はA層中へ拡散が困難なため、B層の未反応成分の低減効果はほとんどない。
【0024】
本発明のA層に用いられる(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、アクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルから選択された少なくとも1種の単量体成分を含む共重合体である。共重合体の単量体成分は、上記、アクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルから選択された単量体成分のみからなる共重合体であってもよいし、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステル以外の共重合成分を含んでいてもよい。
【0025】
本発明のA層に用いられる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸とC1〜C22の飽和脂肪族アルコールとのエステルなどが挙げられる。
【0026】
本発明のA層に用いられる上記以外の共重合体成分としては、単官能性、多官能性の単量体成分が挙げられる。単官能性の単量体成分としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、2−メチル−3−エチルブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−ヘプタジエン、3−メチル−1,3−ヘプタジエン、1,3−オクタジエン、シクロペンタジエン、クロロプレン、ミルセン等の共役ジエン系単量体が挙げられる。多官能性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸メタリル、桂皮酸アリル、桂皮酸メタリル等のアクリル酸、不飽和モノカルボン酸とアリルアルコール、メタリルアルコールとのエステル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等の不飽和モノカルボン酸とグリコールとのジエステル、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等のジカルボン酸と不飽和アルコールとのエステル等やシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式アルコールとのエステル、フェニル(メタ)アクリレート等のフェノール類とのエステル、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族アルコールとのエステル等、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0027】
本発明のA層は、例えば、特開2004−79916号公報で示されている、多層構造重合体粒子と熱可塑性樹脂からなるものである場合に、特にエキスパンド性が良好となるため好ましい。ただし、この場合においても、多層構造重合体粒子と熱可塑性樹脂は、上記に示される、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を主成分とするものでなければ、本発明の効果は得られない。
【0028】
本発明のA層の厚みは、使用目的によって異なり、特に制限されないが、10〜500μmが好ましく、より好ましくは、25〜300μm、さらに好ましくは38〜250μmである。厚みが10μmより小さい場合には、取り扱い性が低下したり、未反応成分のA層中の拡散体積が小さくなり、転写汚染低減効果が不十分となることがある。また、厚みが300μmより厚い場合には、搬送性、コスト面などで好ましくない。
【0029】
本発明のB層は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体をベースポリマーとし、さらに、分子内に炭素−炭素二重結合を2個以上有する放射線重合化合物、および、放射線重合開始剤(光重合開始剤とも称する)を含んでなる。または、本発明のB層は、分子内に炭素−炭素二重結合を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、および、放射線重合開始剤を含んでなる。B層樹脂は放射線反応性の粘着剤であり、放射線照射による反応硬化により、剥離が極めて容易となる、再剥離性を有する。ここでいう放射線には、X線、紫外線、電子線などが挙げられる。
【0030】
本発明のB層のベースポリマーとして用いられる(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、アクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを主たる単量体(モノマー)成分とする。B層の(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、2種以上のアクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルのみを単量体成分としてなる共重合体であってもよいし、1種以上のアクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルと他の共重合成分の共重合体であってもよい。
【0031】
アクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルのモノマー単位としては、例えば、メチル基、エチル基、プルピル基、イソプルピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、オクタデシル基、ドデシル基の如き炭素数30以下、就中4〜18の直鎖又は分岐のアルキル基を有するアクリル酸やメタクリル酸のエステルが挙げられる。
【0032】
また、その他の共重合モノマー成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸等のカルボキシル基含有モノマー、あるいは無水マレイン酸や無水イタコン酸等の酸無水物モノマー、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレート等のヒドロキシル基含有モノマー、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等の燐酸基含有モノマーが挙げられる。さらに、多官能モノマーを共重合させる場合には、架橋剤を用いた架橋処理等による、粘着力調整や転写汚染抑制が可能となる。多官能モノマー成分としては、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等が挙げられる。上記のモノマーは、2種以上を用いてもよい。なお、多官能モノマーの使用量は、粘着特性等の観点から、全モノマー成分の30重量%以下が好ましい。
【0033】
本発明のB層に、分子内に炭素−炭素二重結合を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が用いられる場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、上述の(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体に炭素−炭素二重結合を導入することによって得られる。これを調製するには既知の様々な方法があるが、分子設計の容易さから、あらかじめポリマーに官能基を有するモノマーを共重合した後、この官能基と付加反応し得るようなもう一方の官能基とかつ炭素−炭素二重結合を有するモノマーを、炭素−炭素二重結合を維持したまま付加反応させる方法が好ましい。このアクリルポリマー側の官能基と炭素−炭素二重結合を有するモノマー側の官能基の組合せとしては、例えば、カルボン酸基とエポキシ基またはアジリジル基、水酸基とイソシアネート基などが挙げられる。中でも、反応追跡の容易さから、アクリルポリマー側として水酸基、モノマー側としてイソシアネート基を用いる組合せが、特に好ましい。炭素−炭素二重結合を有するイソシアネート化合物としては、例えば、メタクリロイルイソシアネートや2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートなどが挙げられる。また、アクリルポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルや(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルや(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングルコールモノビニルエーテルなどをモノマー単位として有するポリマーが挙げられる。
【0034】
本発明のB層に用いられる(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の含有量はB層の重量に対して、例えば、25〜90重量%が好ましく、より好ましくは40〜70重量%である。B層中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の含有量が25重量%未満の場合は、塗布性が低下して、工業上製造が困難となりやすく、90重量%を超える場合は、放射線照射による再剥離性向上効果が得られにくくなる。
【0035】
本発明のB層に用いられる放射線重合化合物は、分子内に炭素−炭素二重結合を2個以上有する化合物であって、60℃での粘度は1.0Pa・S以上であるか、または、重量平均分子量が1000以上であるかのいずれかでなければならない。
【0036】
本発明のB層に用いられる放射線重合化合物の、まず一つめの態様は、60℃における粘度が1.0Pa・S以上である。好ましくは1.5Pa・S以上、さらに好ましくは2.0Pa・S以上である。粘度が1.0Pa・S未満である場合には、放射線重合化合物が基材フィルムに浸透・拡散しやすくなるため、UV照射前の粘着性およびUV照射後の再剥離性が経時で低下する。
【0037】
本発明のB層に用いられる放射線重合化合物の、もう一つの態様は、重量平均分子量が1000以上であることである。好ましくは1200以上、さらに好ましくは1500以上である。重量平均分子量が1000未満である場合には、この場合も、放射線重合化合物が基材フィルムに浸透・拡散しやすくなるため、UV照射前の粘着性およびUV照射後の再剥離性が経時で低下する。
【0038】
本発明の放射線重合化合物としては、ウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系のオリゴマー(あるいはモノマー)等から選ばれ、上記の要件を満たす化合物であれば特に限定されないが、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーなどが好ましく用いられる。ウレタン(メタ)アクリレートは、多価イソシアネート化合物と、これと反応しうる官能基を有する(メタ)アクリレートとから合成できる。例えば、多価イソシアネートユニットとしてのイソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネートなどに、これと反応しうる水酸基を有する(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、あるいは、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシルなどを反応させると2官能のウレタン(メタ)アクリレートとなり、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどを反応させると6官能のウレタン(メタ)アクリレートが得られる。さらに、必要に応じて、ポリオール化合物などを加えて分子鎖を調整することができる。
【0039】
本発明の放射線重合化合物の添加量は、適宜選定すればよいが、通常ポリマー100重量部に対して0.1〜300重量部の範囲内であり、好ましくは10〜250重量部、さらに好ましくは15〜200重量部の範囲である。放射線重合化合物の添加量が0.1重量部未満である場合には、放射線照射による再剥離性向上の効果が小さく、添加量が300重量部を超える場合には、放射線重合化合物がB層表層へブリードし、表層で重合して、逆に転写汚染の原因となったりする。
【0040】
本発明の特徴は、放射線重合化合物のA層への浸透・拡散を抑制することにある。元来、B層中に添加される放射線重合化合物は、A、B層に用いられている(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体との親和性が高いが、高粘度化、高分子量化することによって、拡散速度が極端に遅くなるため、長時間保存した場合においても、B層から失われにくくなり、粘着性や放射線照射による再剥離性が長時間維持される。
【0041】
なお、放射線重合化合物の高分子量化の最たる場合が、炭素−炭素二重結合を(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体に導入した場合である。ポリマー中に導入する場合には、A層へは全く浸透しないため、粘着性・再剥離性の保持性能は最もよい。しかし、一方、重合工程など製造工程が煩雑化し、コストアップするという欠点もある。
【0042】
本発明のB層には、放射線重合開始剤を含有する。放射線重合開始剤は、用いる放射線の種類によっても異なるが、例えば、紫外線を用いる場合、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、α−ヒドロキシ−α、α’−ジメチルアセトフェノン、メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)−フェニルコ−2−モルホリノプロパン−1などのアセトフェノン系化合物、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アニゾインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル系化合物、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノンなどのα−ケトール系化合物、ベンジルジメチルケタールなどのケタール系化合物、2−ナフタレンスルホニルクロリドなどの芳香族スルホニルクロリド系化合物、1−フェノン−1,1−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシムなどの光活性オキシム系化合物、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物、チオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、2−ジクロロチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソンなどのチオキサンソン系化合物、カンファーキノン、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド、アシルホスフオナートなどが挙げられる。
【0043】
本発明のB層に用いられる放射線重合開始剤は、B層のベースポリマーまたは架橋剤の官能基と反応しうる官能基を有することが好ましい。放射線重合開始剤は、通常B層中を移動しにくいが、ベースポリマーまたは架橋剤と反応することによって、完全にB層中に拘束されるため、浸透・拡散を起こさなくなる。このような官能基としては、例えば、水酸基やアミノ基などが挙げられ、放射線重合開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンや1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンなどが挙げられる。
【0044】
本発明の放射線重合開始剤の添加量は、特に限定されないが、B層の(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。
【0045】
本発明のB層には、粘着力を調整したり、凝集力を高めて糊残りを抑制するために、架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤は、ベースポリマーである(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の官能基と反応して、架橋構造を生成する。このような架橋剤の例としては、多価イソシアネート化合物、多価エポキシ化合物、多価イミン化合物、キレート化合物などがあげられる。特に、多価イソシアネート化合物を用いる場合には、ベースポリマーや上記水酸基やアミノ基を有する放射線重合開始剤と反応し、架橋剤や放射線重合開始剤低分子量体がB層から浸透・拡散することを抑制できるため好ましい。
【0046】
本発明の架橋剤として用いられる多価イソシアネート化合物としては、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物、脂環族多価イソシアネート化合物などがあげられる。例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアネート、リジンイソシアネートなどがある。
【0047】
本発明の架橋剤として用いられる多価エポキシ化合物の具体例としては、1,3−ビス(N,N−)ジグリシジルアミノメチル)ベンゼン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)トルエン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4−ジアミノジフェニルメタンなどがある。
【0048】
本発明の架橋剤として用いられる多価イミン化合物の具体例としては、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、N,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミンなどがある。
【0049】
本発明のB層に用いられる架橋剤の含有量は、特に限定されないが、粘着性やB層の硬さの制御の観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して0.05〜20重量部、好ましくは0.1〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。
【0050】
本発明のB層に用いられるベースポリマー((メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体)、放射線重合開始剤、架橋剤は、それぞれの官能基の反応による巨大分子を形成している場合に、全ての低分子量体が他の層へ浸透・拡散しにくい構造となるため、粘着性や再剥離性の長時間安定性や転写汚染防止の観点から好ましい。このような官能基の反応としては、例えば、イソシアネート基と水酸基との反応によるウレタン結合の生成、イソシアネート基とアミノ基との反応によるウレア(尿素)結合の生成などが挙げられる。上記のような構造をとりうるには、B層に用いられる(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、放射線重合開始剤、架橋剤(以下、当段落では3成分と称する)がそれぞれ、水酸基、イソシアネート基、アミノ基から選ばれた少なくとも1つの官能基を有しており、さらにこれら3成分の官能基の組み合わせが、これら3成分の全てが反応しうるような組み合わせとなっていることが好ましい。なお、ここでいう「3成分の全てが反応しうる」とは、必ずしも3成分の全ての組み合わせが反応可能である必要はない。例えば、架橋剤の官能基にそれぞれ(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の官能基と放射線重合開始剤の官能基が反応することによって、[(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体成分]−[架橋剤成分]−[放射線重合開始剤成分]という反応物を形成する場合であってもよい。上記のような3成分が全て反応しうる組み合わせとしては、例えば、水酸基及び/又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、水酸基を有する放射線重合開始剤と多価イソシアネート化合物である架橋剤の組み合わせなどが挙げられる。
【0051】
本発明のB層の厚みは、用途によっても異なるが、1〜300μm、好ましくは3〜200μm、さらに好ましくは5〜100μm程度である。厚みが300μmを超える場合には、放射線重合化合物などの添加量が多くなり、コストが増加したり、厚みが1μm未満である場合には、製造が困難となって、収率が低下したりする。
【0052】
本発明の粘着シートには、前述の通り、B層の表層に離型フィルム層を設けてもよい。その際、離型フィルムを設ける側は、A層と反対側である。すなわち、層構成としては、離型フィルム層/B層/A層となる。本発明の粘着シートは、使用されるまでは、ロール状に巻き取られて保存することが多いが、離型フィルム層は、その際に、粘着層と基材フィルムの裏面の張り付き防止や、粘着層表面の汚染を防ぐために設ける層である。本発明の粘着シートに離型フィルムを設ける場合、離型フィルムの素材は、特に限定されず、一般的には、ポリエステルフィルムや、ポリオレフィンフィルムなどの表面に有機シリコンなどの離型剤を塗布したものを用いることができる。離型フィルムを、B層と同様の(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体とする場合には、B層中で生成した架橋剤の未反応性成分などが、A層だけでなく、離型フィルム側にも拡散することが可能となるため、転写汚染抑制効果が一層顕著となる。
【0053】
本発明の粘着シートは、利便性や保存中の表面の汚染防止の観点から、ロール状に巻き取った形状で保存されることが好ましい。なお、上記のように離型フィルムを設けない場合に、ロール状に巻き取る場合には、A層のB層と反対側の表面に、有機シリコンなどによって離型処理を施すことが好ましい。
【0054】
本発明の粘着シートは用途に応じてどのような形状にも加工でき、例えば、バックグラインド用途では、あらかじめウエハと同形状に切断加工して用いることが好ましい。
【0055】
本発明の粘着シートの用途としては、半導体ウエハの加工用であれば特に限定されないが、特に好ましくは、バックグラインド工程の表面保護シートやダイシング工程のウエハ保持シートが挙げられる。
【0056】
本発明の粘着シートを用いて半導体ウエハを加工することにより、半導体ウエハの汚染を著しく低減できるため好ましい。半導体ウエハの加工方法としては、例えば、本発明の粘着シートを半導体ウエハ表面に貼付し裏面を研磨するバックグラインド加工や、本発明の粘着シートを半導体ウエハ裏面に貼付しウエハを小片に切断するダイシング加工などが挙げられる。
【0057】
本発明の粘着シートをシリコンウエハに貼付後、剥離した場合に、シリコンウエハに転写する有機汚染量(転写汚染量という)は、表面元素比率の炭素換算で10%(Atomic%)未満が好ましく、より好ましくは5%未満、最も好ましくは2%未満である。なお、転写汚染量は、粘着シートの貼付・剥離後の有機汚染量から粘着シート貼付前の有機汚染量を差し引いた値である。転写汚染量が10%を超える場合には、粘着シートを用いた工程の後の工程において、ワイヤボンディング不良やパッケージクラックなどの工程トラブルが発生して、生産性が低下することがある。
【0058】
以下に、本発明の粘着シートの製造方法の例を説明すが、製造方法はこれに限定されるものではない。
【0059】
[粘着剤(B層)組成物]
本発明のB層を形成する粘着剤組成物((メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体)は、溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法等の既知の重合方法に従って製造することができるが、フィルムへの塗工の容易さの観点などからは、例えば、溶液重合を用いることができる。主たるモノマー成分、共重合モノマー成分を、所定量、トルエンなどの溶媒に溶解させ、モノマーの種類にもよるが、50〜70℃で5〜12時間共重合させ、必要に応じて架橋剤を加えて、粘着剤組成物の溶液が得られる。なお、放射線重合性粘着剤とする場合には、所定の共重合成分を共重合し、放射線重合開始剤を添加しておく必要がある。
【0060】
[基材フィルム(A層)]
本発明のA層に用いられる基材フィルムは、既存の方法(例えば、特開2004−79916号公報)で作成された樹脂を用い、溶融押出法、溶液流延法、カレンダー法などの既存の製膜方法を用いて作成することができる。また、放射線重合による方法を用いてもよい。放射線重合は、1種または2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーと光重合開始剤、必要に応じて、粘度調整のための(メタ)アクリルオリゴマーと混合した溶液を、離型処理された透過性のシート間に層を成すように設けた後、光反応により硬化させフィルム状とする方法であり、たとえは、特開平9−253964に記載されている方法である。
【0061】
[粘着シートの調製]
本発明の粘着シートは、上記で得られた基材フィルムの少なくとも一方の面に、上記粘着剤を塗布することによって得られる。塗布は、既存の方法で行うことが可能で、例えば、ダイコート法、グラビアコート法や、フレキソ印刷などの方式を用いることができる。中でもダイコート法が好ましく用いられる。さらに、オーブンを用いて、70〜170℃で1〜15分乾燥を行い、溶媒を除去する。得られた粘着シートは、必要に応じて、A層の、B層と反対側の表面に離型処理を施して、ロール状に巻き取られる。なお、離型フィルムが設けられる場合は、前記離型処理は行われず、B層表面に離型フィルムを貼り合わせた後、ロール状に巻き取られる。
【0062】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
以下に、本願で用いられる測定方法および効果の評価方法について例示する。
【0063】
(1)分子量
測定溶液は、0.45μmメンブレンフィルターでろ過した後、ろ液を風乾しポリマー固形分を得た。前記ポリマー固形分について、下記の条件にて測定を行い、「TSK標準ポリスチレン」換算値として算出した。
GPC装置:TOSOH社製HLC−8120GPC
カラム:TSKgel GMH−H(S) × 2本
カラムサイズ:7.8mmI.D. × 300mm
溶離液:THF
流量:0.5ml/min
濃度:0.1wt%
注入量:100μl
カラム温度:40℃
【0064】
(2)粘度
粘度範囲に応じて、装置を変更して、サンプル量200g、測定温度60℃で行った。
(a)粘度範囲:0.01Pa・S以上、1.0Pa・S以下の場合
粘度計(トキメック(株)製粘度計、型式BL型、ローターNo.7)を用いて、回転数20rpmにて測定した。
(b)粘度範囲:1Pa・Sを超え、100Pa・S以下の場合
粘度計(トキメック(株)製粘度計、型式BH型、ローターNo.4)を用いて、回転数60rpmにて測定した。
【0065】
(3)粘着力
エポキシ系封止樹脂(日東電工(株)製、HC−300B6)をモールドマシン(TOWA(株)製、Model−Y−series)を用いて、175℃で、プレヒート設定3秒、インジェクション時間12秒、キュア時間90秒にてモールドし、面積51mm×51mmの樹脂基盤を得た。さらに175℃にて3時間ポストモールドキュアを行って樹脂を完全に硬化させた。
上記エポキシ樹脂基盤を被着材として、粘着シートサンプルを、重量2kgのローラーを1往復させて接着させ(接着部分:長さ40mm×幅25mm)、測定に用いた。引張試験機(オリエンテック(株)製、TENSILON:RTM−100型)を用い、JIS−Z0237に準拠して、下記の条件で測定を行い、180°引き剥がし粘着力をもって、粘着力とした。
温度:23℃
湿度:60%RH
剥離角度:180°
剥離速度:300mm/分
粘着シート幅:25mm
試験回数:5回
なお、UV照射前の粘着力は、サンプルと被着材の貼付後、23℃、60%RHの条件下で30分間保管した後に測定を実施した。UV照射後の粘着力は、貼付後、23℃、60%RHの条件下で30分間保管した後、紫外線(UV)照射装置(日東精機(株)製、装置名「NEL UM−810」)を用いて、粘着シートサンプル側より、積算光量460mJ/cm2となるようにUV照射し、測定を実施した。
【0066】
(4)粘着力及び粘着剤層重量変化
粘着シートサンプルを、作製直後から、完全遮光下、25℃で7日間保管した。
保管の前後で(3)の方法に従って粘着力(UV照射前、UV照射後)を測定した。また、25cm×25cmのサンプル片から、粘着剤層のみをピンセットおよびカミソリ刃を用いて剥ぎ取り、保管前後での重量変化を測定した。
以下の(i)〜(iii)の基準を全て満たす場合には、粘着剤層が変化した(即ち、粘着剤成分が移動、浸透した)と判断した。
(i)保管後(UV照射前)の粘着力の低下が、初期値(保管前、UV照射前)の20%以上である。
(ii)保管後(UV照射後)の粘着力の上昇が、初期値(保管前、UV照射後)の50%以上である。
(iii)保管後(UV照射前)の重量減少が、初期値(保管前、UV照射前)の15%以上である。
【0067】
(5)ダイシング時の部品飛散個数(ダイシング実用特性)
粘着シートを、ステンレス製で内径が250mmのダイシングリングに貼合せ、上記エポキシ樹脂基板をこの粘着シート上保持して、以下の条件でダイシングし、部品の飛散個数(部品100個に対する飛散個数)をカウントし、試験回数3回の平均値をもって、部品の飛散個数とした。部品の飛散が10個(100個中)未満である場合はダイシング実用特性が良好であるとし、部品の飛散が10個以上の場合はダイシング実用特性が不良であると判断した。
ダイシング装置:ディスコ社製 DFD651
ダイシング速度:120mm/sec
ダイシングブレード:ディスコ社製 NBC−ZH2050HECC
ダイシングブレード回転数:35000rpm
ダイシング切り込み深さ(粘着剤面より):50μm
基板カットサイズ:5mm×5mm
カットモード:ダウンカット
【0068】
(6)基材フィルムの厚み、粘着層厚み
厚みはJIS Z0237に準拠して測定した。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0070】
実施例1
(粘着剤の調製)
2−エチルヘキシルアクリレート34重量部、メチルアクリレート66重量部、アクリル酸9重量部、過酸化ベンゾイル0.2重量部から成る酢酸エチル50重量%溶液を60℃で8時間共重合させることにより、重量平均分子量90万の(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体ポリマーを得た。このポリマー100重量部に対して、放射線重合化合物として、UV硬化型ウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学工業(株)製、商品名「紫光 UV−7640B」:粘度3Pa・S(60℃)、重量平均分子量1500)を100重量部、光重合開始剤として、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガキュア651」、)5重量部、架橋剤として、エポキシ系架橋剤(三菱瓦斯化学(株)製、商品名「テトラッドC」)を0.03重量部、多価イソシアネート架橋剤(日本ポリウレタン(株)製、商品名「コロネートL」)2.5重量部を加えて、放射線反応性粘着剤溶液を調製した。
(基材フィルムの調整)
アクリル樹脂(クラレ(株)製、商品名「パラペットSA」)95重量%とポリメチルメタクリレート5重量%からなる樹脂をカレンダー製膜法(温度240℃)により製膜し、基材フィルム(アクリルフィルム)を得た。フィルム厚みは210μmであった。
(粘着シートの調製)
離型処理を施されたポリエステルフィルム(東レ(株)製PETフィルム、商品名「ルミラー」、フィルム厚み50μm)の離型処理された側の表面に、上記の放射線反応性粘着剤溶液を、ダイコート法によって塗布した後、120℃、3分間の乾燥を行い塗布層を形成した。さらに、この塗布層側の表面上に、上記の基材フィルムを貼り合せることによって、粘着シートを得た。塗布層(B層)の厚みは20μmであった。
得られた粘着シートは、表1に示すように、長時間保存した後も、粘着剤層の変化(粘着剤成分の基材フィルムへの浸透)がなく、ダイシング実用特性にも優れた粘着シートであった。
【0071】
実施例2
放射線重合化合物として、粘度と分子量の異なるUV硬化型ウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学工業(株)製、「紫光 UV−1700B」:粘度1Pa・S(60℃)、重量平均分子量2000)100重量部を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、粘着シートを得た。
得られた粘着シートは、表1に示すように、長時間保存した後も、粘着剤層の変化(粘着剤成分の基材フィルムへの浸透)がなく、ダイシング実用特性にも優れた粘着シートであった。
【0072】
実施例3
放射線重合化合物として、粘度と分子量の異なるUV硬化型ウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学工業(株)製、「紫光 UV−6630B」:粘度11Pa・S(60℃)、重量平均分子量3000)100重量部を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、粘着シートを得た。
得られた粘着シートは、表1に示すように、長時間保存した後も、粘着剤層の変化(粘着剤成分の基材フィルムへの浸透)がなく、ダイシング実用特性にも優れた粘着シートであった。
【0073】
実施例4
放射線重合化合物として、粘度と分子量の異なるUV硬化型ウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学工業(株)製、「紫光 UV−3000B」:粘度50Pa・S(60℃)、重量平均分子量18000)100重量部を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、粘着シートを得た。
得られた粘着シートは、表1に示すように、長時間保存した後も、粘着剤層の変化(粘着剤成分の基材フィルムへの浸透)がなく、ダイシング実用特性にも優れた粘着シートであった。
【0074】
実施例5
(粘着剤の調製)
2−エチルヘキシルアクリレート100重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート14重量部、および重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.2重量部からなる配合組成物をトルエン溶液中で60重量%となるよう配合し、窒素雰囲気下60℃で7時間共重合させて、共重合ポリマーを得た。続いて、このポリマー固形分100重量部に対して、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート10重量部を、0.01部のジブチル錫ジラウレート触媒存在下で、付加反応(50℃×12時間)させ、ポリマーの側鎖に炭素−炭素二重結合が導入された放射線反応性を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体ポリマーを得た。
さらに、この放射線反応性共重合ポリマー100重量部に対して、多価イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業(株)製、商品名「コロネートL」)5重量部、光重合開始剤として、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガキュア2959」)4重量部を加えて、放射線反応性粘着剤溶液を調製した。なお、上記架橋剤のイソシアネート基は、共重合ポリマーおよび光重合開始剤のヒドロキシル基と反応するため、上記の共重合ポリマー、架橋剤、重合開始剤は全てが化学結合しうる。
(粘着シートの調製)
上記の粘着剤を用いる以外は、実施例1と全く同様にして、粘着シートを得た。
得られた粘着シートは、表1に示すように、長時間保存した後も、粘着剤層の変化(粘着剤成分の基材フィルムへの浸透)がなく、ダイシング実用特性にも優れた粘着シートであった。
【0075】
比較例1
放射線重合化合物として、特開2004−79916号公報に用いられている、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート(粘度0.8Pa・S(60℃)、分子量524)100重量部を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、粘着シートを得た。
得られた粘着シートは、表1に示すように、長時間保存時に、粘着剤層の変化(粘着剤成分の基材フィルムへの浸透)がみられ、ダイシング実用特性にも劣る粘着シートであった。
【0076】
比較例2
放射線重合化合物として、特開2004−22840号公報に用いられている、テトラメチロールメタンテトラアクリレート(=ペンタエリスリトールテトラアクリレート)(粘度0.02Pa・S(60℃)、分子量352)100重量部を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、粘着シートを得た。
得られた粘着シートは、表1に示すように、長時間保存時に、粘着剤層の変化(粘着剤成分の基材フィルムへの浸透)がみられ、ダイシング実用特性にも劣る粘着シートであった。
【0077】
比較例3
放射線重合化合物として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(粘度0.6Pa・S(60℃)、分子量547)100重量部を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、粘着シートを得た。
得られた粘着シートは、表1に示すように、長時間保存時に、粘着剤層の変化(粘着剤成分の基材フィルムへの浸透)がみられ、ダイシング実用特性にも劣る粘着シートであった。
【0078】
【表1】

【0079】
実施例および比較例の結果より、放射線重合化合物の粘度、分子量を本発明に規定する範囲とすることで保存安定性に優れた粘着シートとなることは明白である。粘度、分子量が低い場合は、長時間保存により、粘着力が低下するためダイシング工程でチップが飛散したり、また、放射線照射による粘着力低減効果(再剥離性)も低下するためピックアップ性が低下する問題が生じた。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の半導体ウエハ加工用粘着シートの一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1 半導体ウエハ加工用粘着シート
2 基材フィルム(A層)
3 粘着剤層(B層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を主成分とする基材フィルム(A層)の少なくとも片側に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体をベースポリマーとして含み、且つ、分子内に炭素−炭素二重結合を2個以上有する放射線重合性化合物を、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して、0.1〜300重量部含む放射線反応性粘着剤層(B層)を有する粘着シートであって、前記放射線重合性化合物の60℃における粘度が1Pa・S以上であることを特徴とする半導体ウエハ加工用粘着シート。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を主成分とする基材フィルム(A層)の少なくとも片側に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体をベースポリマーとして含み、且つ、分子内に炭素−炭素二重結合を2個以上有する放射線重合性化合物を、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して、0.1〜300重量部含む放射線反応性粘着剤層(B層)を有する粘着シートであって、前記放射線重合性化合物の重量平均分子量が1000以上であることを特徴とする半導体ウエハ加工用粘着シート。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を主成分とする基材フィルム(A層)の少なくとも片側に、分子内に炭素−炭素二重結合を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体をベースポリマーとして含む放射線反応性粘着剤層(B層)を有することを特徴とする半導体ウエハ加工用粘着シート。
【請求項4】
B層のベースポリマーが反応性官能基を有しているとともに、該ベースポリマーの反応性官能基に対して反応しうる官能基を有する放射線重合開始剤を含む、請求項1〜3のいずれかの項に記載の半導体ウエハ加工用粘着シート。
【請求項5】
B層に、反応性官能基を有する架橋剤を含み、且つ、該架橋剤の反応性官能基に対して反応しうる官能基を有する放射線重合開始剤を含む、請求項1〜4のいずれかの項に記載の半導体ウエハ加工用粘着シート。
【請求項6】
B層に、水酸基、イソシアネート基、アミノ基から選ばれた少なくとも1つの官能基を有する、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、架橋剤及び放射線重合開始剤の少なくとも3成分を含み、さらに、上記3成分のそれぞれの官能基の組み合わせが、これら3成分の全てが反応しうる組み合わせである、請求項1〜5のいずれかの項に記載の半導体ウエハ加工用粘着シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の半導体ウエハ加工用粘着シートを用いた半導体ウエハの加工方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−277282(P2007−277282A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101418(P2006−101418)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】