説明

半導体チップおよびその設計方法

【課題】設計期間が短く、面積効率が高く、電源配線における電圧降下が小さな半導体チップと、その設計方法を提供する。
【解決手段】この半導体チップは、複数の電源ドメインD1〜D4に分割された内部回路2を備える。互いに異なる電流駆動能力を有する複数種類のレギュレータR1,R2を予め準備しておき、各電源領域毎に、当該電源領域の最大負荷電流を供給するために必要なレギュレータの種類と数を選択し、選択した1または2以上のレギュレータによって当該電源領域用の電源回路を構成する。したがって、設計期間が短くて済む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は半導体チップおよびその設計方法に関し、特に、複数の電源領域に分割された内部回路を備えた半導体チップと、その設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の第1の半導体チップでは、内部回路が複数の電源領域に分割され、各電源領域毎にレギュレータが設けられている。各レギュレータは、その最大出力電流が対応の電源領域の最大負荷電流よりも大きくなるように設計される(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の第2の半導体チップでは、内部回路が複数の電源領域に分割され、各電源領域毎に1または2以上のレギュレータ単位回路が設けられている。各電源領域に対応するレギュレータ単位回路の数は、当該電源領域に対応する1または2以上のレギュレータ単位回路の出力電流の和が当該電源領域の最大負荷電流よりも大きくなるように設計される(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−211640号公報
【特許文献2】特開2002−83872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の第1の半導体チップでは、電源領域の数が増えると、レギュレータの種類が増えて設計期間が長くなると言う問題がある。また、電源領域の最大負荷電流が変更されると、レギュレータを再度設計する必要がある。なお、電流駆動能力が大きな1個のレギュレータを複数の電源領域に対して共通に設けると、電源配線における電圧降下(電流ドロップ)が大きくなる。
【0006】
また、従来の第2の半導体チップによれば、第1の半導体チップの問題点を解決することができる。しかし、第2の半導体チップでは、レギュレータの面積効率が低下し、面積が増大すると言う問題がある。また、多数のレギュレータ単位回路に参照電圧を供給する基準電圧源の負荷が増大し、基準電圧バッファのサイズが大きくなる。
【0007】
それゆえに、この発明の主たる目的は、設計期間が短く、面積効率が高く、電源配線における電圧降下が小さな半導体チップと、その設計方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る半導体チップは、複数の電源領域に分割された内部回路と、各電源領域に対応して設けられ、対応の電源領域に電源電圧を与える電源回路とを備えた半導体チップであって、互いに異なる電流駆動能力を有する複数種類のレギュレータが予め準備されており、各電源領域毎に、当該電源領域の最大負荷電流を供給するために必要なレギュレータの種類と数が選択され、選択された1または2以上のレギュレータによって当該電源領域用の電源回路が構成されている。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、予め準備した複数種類のレギュレータを組み合わせて各電源領域の電源回路を構成するので、各電源領域毎に電源回路を設計する場合に比べて設計期間が短くて済む。また、複数種類のレギュレータを用いるので、1種類のレギュレータ単位回路を用いる場合に比べて面積効率が高くなる。また、各電源領域毎に電源回路を設けるので、複数の電源領域に共通に1つの電源回路を設ける場合に比べ、電源配線における電圧降下が小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1による半導体チップの構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態2による半導体チップの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態1]
本願の実施の形態1による半導体チップは、四角形の半導体基板1を備える。半導体基板1の表面には、所定の動作を行なう内部回路2が形成されており、その内部回路2は複数(本実施の形態1では4個)の電源ドメイン(電源領域)D1〜D4に分割されている。電源ドメインD1〜D4の電源配線は、互いに分離されている。電源ドメインD1〜D4の最大負荷電流は、それぞれ60mA,16mA,4mA,1mAである。
【0012】
また、半導体基板1の表面には、参照電圧を発生する1個の参照電圧源3と、電源ドメインD1に電源電圧を与える3個のレギュレータR1と、電源ドメインD2に電源電圧を与える1個のレギュレータR1とが設けられている。さらに、半導体基板1の表面には、電源ドメインD3に電源電圧を与える2個のレギュレータR2と、電源ドメインD4に電源電圧を与える1個のレギュレータR2とが設けられている。レギュレータR1,R2の最大出力電流(電流駆動能力)は、それぞれ20mA,2mAである。
【0013】
参照電圧源3は、たとえば電源ドメインD4の近傍に配置され、参照電圧を発生する。この参照電圧は、各レギュレータに与えられる。レギュレータR1,R2の各々は、参照電圧源3からの参照電圧に基づいて電源電圧を生成し、その電源電圧を対応の電源ドメインに与える。
【0014】
3個のレギュレータR1は、電源ドメインD1の近傍に分散配置されており、合計60mA(=3×20mA)の電流駆動能力を有し、電源ドメインD1に電源電流を供給する。1個のレギュレータR1は、電源ドメインD2の近傍に配置されており、20mAの電流駆動能力を有し、電源ドメインD2に電源電流を供給する。
【0015】
また、2個のレギュレータR2は、電源ドメインD3の近傍に分散配置されており、合計4mA(=2×2mA)の電流駆動能力を有し、電源ドメインD3に電源電流を供給する。1個のレギュレータR2は、2mAの電流駆動能力を有し、電源ドメインD4に電源電流を供給する。
【0016】
この半導体チップの設計段階においては、複数種類(本実施の形態1では2種類である)のレギュレータR1,R2の設計図が予め準備されている。各電源ドメイン毎に、当該電源ドメインの最大負荷電流を供給するために必要なレギュレータの種類と数が選択される。
【0017】
すなわち、電源ドメインD1に対しては、電源ドメインD1の最大負荷電流(60mA)を供給するために、3個のレギュレータR1が選択される。選択された3個のレギュレータR1は、電源ドメインD1の電源回路を構成し、電源配線における電圧降下を抑制するために、電源ドメインD1の近傍に分散配置される。
【0018】
電源ドメインD2に対しては、電源ドメインD2の最大負荷電流(16mA)を供給するために、1個のレギュレータR1が選択される。選択された1個のレギュレータR1は、電源ドメインD2の電源回路を構成し、電源配線における電圧降下を抑制するために、電源ドメインD2の近傍に配置される。
【0019】
電源ドメインD3に対しては、電源ドメインD3の最大負荷電流(4mA)を供給するために、2個のレギュレータR2が選択される。選択された2個のレギュレータR2は、電源ドメインD3の電源回路を構成し、電源配線における電圧降下を抑制するために、電源ドメインD3の近傍に分散配置される。
【0020】
電源ドメインD4に対しては、電源ドメインD4の最大負荷電流(1mA)を供給するために、1個のレギュレータR2が選択される。選択された1個のレギュレータR2は、電源ドメインD4の電源回路を構成し、電源配線における電圧降下を抑制するために、電源ドメインD4の近傍に配置される。
【0021】
この実施の形態1では、複数種類のレギュレータの設計図を予め準備しておき、各電源ドメイン毎にレギュレータの種類と個数を決定するので、各電源ドメイン毎にレギュレータを設計する場合に比べ、設計期間が短くて済む。
【0022】
また、複数種類のレギュレータを用いるので、1種類のレギュレータ単位回路を用いる場合に比べ、面積効率が高くなる。
【0023】
また、各電源ドメイン毎にレギュレータを設けるので、複数の電源ドメインに共通に1つのレギュレータを設ける場合に比べ、電源配線における電圧降下が小さくなる。
【0024】
[実施の形態2]
図2は、この発明の実施の形態2による半導体チップの構成を示すブロック図であって、図1と対比される図である。図2を参照して、この半導体チップが図1の半導体チップと異なる点は、2個のレギュレータR2と、4個のレギュレータR3とが追加されている点である。レギュレータR3は、参照電圧源3からの参照電圧に基づいて電源電圧を生成する。レギュレータR3の電流駆動能力は、0.2mAである。
【0025】
追加された2個のレギュレータR2は、それぞれ電源ドメインD1,D2の近傍に配置され、それぞれ電源ドメインD1,D2に電源電圧および電源電流を供給する。追加された4個のレギュレータR3は、ともに参照電圧源3の近傍に配置され、それぞれ電源ドメインD1〜D4に電源電圧および電源電流を供給する。
【0026】
また、この半導体チップは、データの保持のみを行なうスタンバイモードと、データの保持、書込、読出、演算を行なうアクティブモードとを有する。スタンバイモードでは、消費電流が小さいので、レギュレータR3のみが活性化される。なお、スタンバイモードでは消費電流が小さく、電源配線における電圧降下は問題にならないので、4つのレギュレータR3を1箇所にまとめて配置することが可能となっている。
【0027】
アクティブモードでは、消費電流が大きいので、全てのレギュレータR1〜R3が活性化される。なお、スタンバイモード時にレギュレータR1,R2を非活性化させるのは、スタンバイモード時にレギュレータR1,R2を活性化させると、レギュレータR1,R2において無駄な電流が消費されるからである。
【0028】
また、電源が遮断された状態からアクティブモードに移行する遮断復帰や電源投入立ち上げの際に、大容量の電源ドメインD1,D2において急にレギュレータR1を活性化させると、突入電流が流れ、電源電圧が不安定になる。そこで、それらの場合は、まずレギュレータR2を活性化させて電源配線を充電した後にレギュレータR1を活性化させる。これにより、電源電圧の安定化を図ることができる。
【0029】
この半導体チップの設計段階においては、複数種類(本実施の形態2では3種類である)のレギュレータR1〜R3の設計図が予め準備されている。各電源ドメイン毎に、当該電源ドメインの最大負荷電流を供給するために必要であり、かつ当該電源ドメインの動作モードを行なうために必要なレギュレータの種類と数が選択される。
【0030】
すなわち、電源ドメインD1に対しては、電源ドメインD1の最大負荷電流(60mA)を供給し、スタンバイモードとアクティブモードを実行し、かつ突入電流を抑制するために、3個のレギュレータR1と、1個のレギュレータR2と、1個のレギュレータR3が選択される。選択された3個のレギュレータR1と1個のレギュレータR2は、電源配線における電圧降下を抑制するために、電源ドメインD1の近傍に分散配置される。選択された1個のレギュレータR3は、参照電圧源3の近傍に配置される。
【0031】
電源ドメインD2に対しては、電源ドメインD2の最大負荷電流(16mA)を供給し、スタンバイモードとアクティブモードを実行し、かつ突入電流を抑制するために、1個のレギュレータR1と、1個のレギュレータR2と、1個のレギュレータR3が選択される。選択されたレギュレータR1,R2は、電源配線における電圧降下を抑制するために、電源ドメインD2の近傍に配置される。選択された1個のレギュレータR3は、参照電圧源3の近傍に配置される。
【0032】
電源ドメインD3に対しては、電源ドメインD3の最大負荷電流(4mA)を供給し、スタンバイモードとアクティブモードを実行し、かつ突入電流を抑制するために、2個のレギュレータR2と、1個のレギュレータR3が選択される。選択された2個のレギュレータR2は、電源配線における電圧降下を抑制するために、電源ドメインD3の近傍に分散配置される。選択された1個のレギュレータR3は、参照電圧源3の近傍に配置される。
【0033】
電源ドメインD4に対しては、電源ドメインD4の最大負荷電流(1mA)を供給し、スタンバイモードとアクティブモードを実行し、かつ突入電流を抑制するために、1個のレギュレータR2と、1個のレギュレータR3が選択される。選択された1個のレギュレータR2は、電源配線における電圧降下を抑制するために、電源ドメインD4の近傍に配置される。選択された1個のレギュレータR3は、参照電圧源3の近傍に配置される。
【0034】
この実施の形態2では、実施の形態1と同じ効果が得られる他、スタンバイモード時における消費電流の低減化を図ることができる。また、遮断復帰や電源投入立ち上げの際に突入電流が発生することを防止することができ、電源電圧の安定化を図ることができる。
【0035】
[実施の形態2の具体例]
具体的には、電源ドメインD1はCPUを含むロジック回路であり、電源ドメインD3はSRAMであり、電源ドメインD2,D4はフラッシュメモリである。フラッシュメモリのメモリセルは、データを記憶するために用いられるMOS型の第1トランジスタ部と、第1トランジスタ部を選択するためのMOS型の第2トランジスタ部とを含む。第1トランジスタ部はメモリゲート電極を有し、第2トランジスタ部はコントロール電極を有する。このようなフラッシュメモリは、たとえば国際公開されたWO2003−012878号公報に開示されている。
【0036】
このフラッシュメモリでは、コントロール電極を制御するための電源電圧VCGには、信頼性の観点から下限電圧が厳しく規定されている。たとえば、電源電圧VCGの許容範囲は1.5−0.05V〜1.5+0.15Vであるのに対し、フラッシュメモリの他の部分の電源電圧VCCの許容範囲は1.5±0.15Vである。このため、フラッシュメモリは、電源電圧VCCを使用する電源ドメインD2と、電源電圧VCGを使用する電源ドメインD4とに分割されている。これにより、電源ドメインD2の負荷電流変動による電源電圧VCCの変動が電源ドメインD4に及ぶのを防止することができ、電源ドメインD4に安定した電源電圧VCGを供給することができる。なお、電源のオン/オフ制御は、電源ドメインD2とD4で同時もしくは先にオンした方が後でオフするように行なわれる。
【0037】
[具体例の変更例]
電源ドメインD4の下限電圧の規定が厳しいので、電源ドメインD4用のレギュレータR2,R3の出力電圧VCGを他の電源ドメインD1〜D3用のレギュレータR1〜R3の出力電圧VCCよりも50mVだけ高く設定する。電源ドメインD4用のレギュレータR2,R3の出力電圧VCGの典型値は1.55Vとなり、他の電源ドメインD1〜D3用のレギュレータR1〜R3の出力電圧VCCの典型値は1.5Vとなる。これにより、電源ドメインD4用のレギュレータR2,R3の出力電圧VCGの下限値を高く維持できる。
【0038】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0039】
1 半導体基板、2 内部回路、3 参照電圧源、D1〜D4 電源ドメイン、R1〜R3 レギュレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電源領域に分割された内部回路と、各電源領域に対応して設けられ、対応の電源領域に電源電圧を与える電源回路とを備えた半導体チップであって、
互いに異なる電流駆動能力を有する複数種類のレギュレータが予め準備されており、
各電源領域毎に、当該電源領域の最大負荷電流を供給するために必要な前記レギュレータの種類と数が選択され、選択された1または2以上のレギュレータによって当該電源領域用の電源回路が構成されている、半導体チップ。
【請求項2】
消費電流の大きさが異なる複数の動作モードを有し、
各電源領域毎に、当該電源領域の最大負荷電流を供給するために必要であり、かつ当該電源領域の動作モードを行なうために必要な前記レギュレータの種類と数が選択され、選択された1または2以上のレギュレータによって当該電源領域用の電源回路が構成されている、請求項1に記載の半導体チップ。
【請求項3】
さらに、前記複数の電源領域に共通に設けられ、参照電圧を発生する参照電圧源を備え、
各レギュレータは、前記参照電圧源で生成された前記参照電圧に基づいて前記電源電圧を生成する、請求項1または請求項2に記載の半導体チップ。
【請求項4】
前記内部回路はフラッシュメモリを含み、
前記フラッシュメモリは、互いに消費電流が異なる複数の電源領域に分割されている、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の半導体チップ。
【請求項5】
複数の電源領域に分割された内部回路と、各電源領域に対応して設けられ、対応の電源領域に電源電圧を与える電源回路とを備えた半導体チップの設計方法であって、
互いに異なる電流駆動能力を有する複数種類のレギュレータを予め準備しておき、
各電源領域毎に、当該電源領域の最大負荷電流を供給するために必要な前記レギュレータの種類と数を選択し、選択した1または2以上のレギュレータによって当該電源領域用の電源回路を構成する、半導体チップの設計方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−49294(P2012−49294A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189351(P2010−189351)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】