説明

半導体光素子

【課題】p型InP基板のZn濃度(2〜4×1018cm−3)は、p型クラッド層のZn濃度(1×1018cm−3)よりも高い。このため、熱処理によってp型InP基板のZnがp型クラッド層に拡散し、さらにp型クラッド層の上部にある活性層まで拡散して、発光効率を低下させるという問題があった。特に、埋込構造の半導体光素子では、結晶成長の回数が多いことから高温の熱処理の回数が多く、この問題が顕著であった。本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、基板からのZnの拡散を抑えることができる半導体光素子を提供する。
【解決手段】p型InP基板10とp型InPクラッド層16の間に、RuがドープされたInP拡散防止層14を設けることにより、p型InP基板10やp型InPバッファ層12から活性層20へのZnの拡散を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛(Zn)がドープされたp型InP基板を備える半導体光素子に関し、特に基板からのZnの拡散を抑えることができる半導体光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
InPのp型不純物として主にZnが用いられる。しかし、ZnはInPなどの結晶中で非常に拡散しやすい。p型不純物の拡散を抑えるには、Zn以外のp型不純物を用いるか、Znの拡散を抑えることが必要となる。
【0003】
InPのp型不純物であってZnよりも低拡散なものとしてBe,Mgなどが有る。しかし、Be,Mgなどは、ドーピング成長が困難であり、デバイスの歩留やドーパント材料の安定供給観点からも、全層へp型不純物として使用することは難しい。
【0004】
Znの拡散を抑える方法として、近年注目されているのがInP中へのルテニウム(Ru)ドーピングである。InPにRuをドーピングすると、FeをドーピングしたInPと同様に半絶縁性が得られる。そして、RuはZnとの相互拡散をほとんど起こさない。例えば、Feドープ半絶縁性基板とZnドープ層の間にRuドープ層を挿入して、FeとZnの相互拡散を防ぐ技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−344087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体光素子を製造する際に、p型InP基板上に、p型InPバッファ層、p型クラッド層、活性層、及びn型クラッド層を順次形成する。埋込構造の半導体光素子の場合は、活性層の両側にメサを形成した後、埋込成長を行う。次に、電極とのコンタクト層を成長する。このように結晶成長が複数回必要である。
【0007】
p型InP基板のZn濃度(2〜4×1018cm−3)は、p型クラッド層のZn濃度(1×1018cm−3)よりも高い。このため、熱処理によってp型InP基板のZnがp型クラッド層に拡散し、さらにp型クラッド層の上部にある活性層まで拡散して、発光効率を低下させるという問題があった。特に、埋込構造の半導体光素子では、結晶成長の回数が多いことから高温の熱処理の回数が多く、この問題が顕著であった。
【0008】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、基板からのZnの拡散を抑えることができる半導体光素子を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、Znがドープされたp型InP基板と、前記p型InP基板上に順次形成された、Ruがドープされた拡散防止層、p型InPクラッド層、活性層、及びn型InPクラッド層とを備えることを特徴とする半導体光素子である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、基板からのZnの拡散を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体光素子を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る半導体光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る半導体光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る半導体光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る半導体光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る半導体光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る半導体光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る半導体光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る半導体光素子を示す断面図である。p型InP基板10には、p型不純物としてZnがドープされている。
【0013】
p型InP基板10上に、Znがドープされたp型InPバッファ層12、RuがドープされたInP拡散防止層14、p型InPクラッド層16、p型InGaAsP光閉込層18、InGaAsPからなる活性層20、n型InGaAsP光閉込層22、n型InGaAsPガイド層24、及びn型InPクラッド層26が順次形成されている。活性層20は、InGaAsPの量子井戸層とInGaAsPの障壁層とからなる多重量子井戸(Multiple Quantum Well: MQW)構造を有する。なお、n型不純物としてS又はSiが用いられている。
【0014】
p型InPクラッド層16はBeがドープされている。なお、Znよりも拡散定数が小さいp型不純物であればよく、Beの代わりにMgなどを用いてもよい。p型InPバッファ層12のZn濃度は、p型InP基板10のZn濃度よりも低い。
【0015】
p型InPクラッド層16、p型InGaAsP光閉込層18、InGaAsPからなる活性層20、n型InGaAsP光閉込層22、n型InGaAsPガイド層24、及びn型InPクラッド層26がエッチングされて、光の導波方向に延在したメサストライプ28が形成されている。メサストライプ28は、p型InP基板10に近いほど幅が広くなっている。
【0016】
メサストライプ28の両側にp型InP埋込層30、n型InP電流ブロック層32及びp型InP電流ブロック層34が埋め込まれている。n型InPクラッド層26上にn型InPコンタクト層36が形成されている。このようにメサストライプ28の両側をpnp型の電流ブロック構造で埋め込むことで、駆動電流が効率よくメサストライプ28内の活性層20に流れるようになっている。
【0017】
n型InPコンタクト層36、p型InP埋込層30、n型InP電流ブロック層32及びp型InP電流ブロック層34がエッチングされて分離溝38が形成されている。InP拡散防止層14は、メサストライプ28や分離溝38の底面より下に存在する。
【0018】
この半導体光素子では、通電時に、p型InP基板10側に正電界が印加され、n型InPコンタクト層36側に負電界が印加される。そして、p型InPクラッド層16側から活性層20に正孔が注入され、n型InPクラッド層26側から活性層20に電子が注入される。これらの正孔と電子を結合させることにより、活性層20からレーザ光が放出される。
【0019】
本発明の実施の形態に係る半導体光素子の製造方法について説明する。
まず、図2に示すように、Znがドープされたp型InP基板10を用意する。そして、有機金属気相成長法(MOVPE: Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)を用いて、p型InP基板10上に、Znがドープされたp型InPバッファ層12、RuがドープされたInP拡散防止層14、p型InPクラッド層16、p型InGaAsP光閉込層18、活性層20、n型InGaAsP光閉込層22、n型InGaAsPガイド層24、及びn型InPクラッド層26を順次形成する。
【0020】
これらの層を形成する場合、例えば成長温度を650℃とし、成長圧力を100mbarとする。また、これらの層を形成するための原料ガスとしては、トリメチルインジウム(TMI: Trimethylindium)、トリメチルガリウム(TMG: Trimethylgallium)、フォスフィン(PH3: Phosphine)、アルシン(AsH3: Arsine)、ジエチル亜鉛(DEZ: Diethylzinc)及び二硫化水素(H2S)を用いる。そして、これらの原料ガスの流量をマスフローコントローラー(MFC: Mass Flow Controller)を用いて制御することにより、各層を所望の組成にする。
【0021】
次に、図3に示すように、n型InPクラッド層26上にSiO膜40を成膜する。そして、フォトリソグラフィによりメサ上部のみ残るようにSiO膜40をパターニングする。
【0022】
次に、図4に示すように、SiO膜40をマスクとし、HBr等のウェットエッチャントを用いて、p型InPクラッド層16、p型InGaAsP光閉込層18、活性層20、n型InGaAsP光閉込層22、n型InGaAsPガイド層24、及びn型InPクラッド層26をウェットエッチングしてメサストライプ28を形成する。この際に、InP拡散防止層14がエッチングされないようにする。
【0023】
次に、図5に示すように、メサストライプ28の両側にp型InP埋込層30、n型InP電流ブロック層32及びp型InP電流ブロック層34を順次成長させる。その後、HF等のウェットエッチャントによりSiO膜40をエッチング除去する。
【0024】
次に、図6に示すように、n型InPクラッド層26及びp型InP電流ブロック層34上にn型InPコンタクト層36を成長する。そして、図7に示すように、n型InPコンタクト層36上にSiO膜42を成膜する。さらに、フォトリソグラフィによりSiO膜42をパターニングする。
【0025】
次に、図8に示すように、SiO膜42をマスクとし、HBr等のウェットエッチャントを用いて、p型InP埋込層30、n型InP電流ブロック層32、p型InP電流ブロック層34及びn型InPコンタクト層36をウェットエッチングして分離溝38を形成する。この際に、InP拡散防止層14がエッチングされないようにする。その後、HF等のウェットエッチャントによりSiO膜42をエッチング除去する。
以上の工程により本発明の実施の形態に係る半導体光素子が製造される。
【0026】
本実施の形態では、p型InP基板10とp型InPクラッド層16の間に、RuがドープされたInP拡散防止層14を設けている。RuはZnと相互拡散しないことが知られている。従って、InP拡散防止層14により、p型InP基板10やp型InPバッファ層12から活性層20へのZnの拡散を抑えることができる。この結果、デバイス特性や歩留を向上させることができる。
【0027】
また、p型InPクラッド層16には、BeやMgなどのZnよりも拡散定数が小さいp型不純物がドープされている。これにより、活性層20へのp型不純物の拡散量を減らすことができる。そして、活性層20近傍での急峻なドーピングプロファイルを実現し、半導体レーザ素子の特性を向上させることができる。なお、BeやMgなどのp型不純物を全てのp型層に適用するのは困難であるが、p型クラッド層のみに適用することは十分に可能である。
【0028】
また、p型InP基板10のZn濃度は2〜4×1018cm−3と高濃度であり、p型InP基板10の格子間位置に不活性なZnが多く含まれている。この格子間位置のZnは拡散しやすい。そこで、p型InP基板10とInP拡散防止層14の間に、p型InP基板10よりもZn濃度が低いp型InPバッファ層12を設けている。これにより、p型InP基板10からのZnの拡散を更に抑えることができる。
【0029】
また、p型InPバッファ層12及びInP拡散防止層14の層厚は、その後の結晶成長及びプロセスの熱処理でp型InP基板10から拡散してくるZnが活性層20まで拡散しないように設定する。ただし、RuがドープされたInP拡散防止層14は、FeドープInPと同様に半絶縁性を示す。このため、InP拡散防止層14を設けたことにより素子抵抗が大きくなる。そこで、InP拡散防止層14は、Znの拡散を防止できる層厚を確保しつつ、できるだけ薄くする。
【0030】
また、半絶縁性のInP拡散防止層14がメサストライプ28や分離溝38の底面より上に存在すると、電流経路が狭窄され、素子抵抗の増加は更に顕著になり素子特性が悪化する。そこで、InP拡散防止層14をメサストライプ28や分離溝38の底面より下に設けている。
【0031】
なお、本実施の形態ではInGaAsP系半導体レーザについて述べたが、AlGaInAsなど、InP基板にヘテロ成長可能な材料を活性層に用いた半導体レーザでも有効である。さらに、半導体レーザだけでなく、光変調器、フォトダイオード等の他の半導体光素子や、半導体レーザと光変調器やフォトダイオードなどを集積した光半導体素子についても同様の効果が期待できる。
【0032】
また、本実施の形態ではメサストライプ28及び分離溝38をウェットエッチングにより形成したが、これに限らずRIE(Reactive Ion Etching)などのドライエッチングにより形成してもよい。また、本実施の形態ではMOCVD法を用いて結晶成長を行ったが、これに限らず分子線エピタキシャル成長法(MBE: Molecular Beam Epitaxy)や液相エピタキシー成長法(LPE: Liquid Phase Epitaxy)を用いてもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 p型InP基板
12 p型InPバッファ層
14 InP拡散防止層(拡散防止層)
16 p型InPクラッド層
20 活性層
26 n型InPクラッド層
28 メサストライプ
30 p型InP埋込層(埋込層)
32 n型InP電流ブロック層(電流ブロック層)
34 p型InP電流ブロック層(電流ブロック層)
36 n型InPコンタクト層
38 分離溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znがドープされたp型InP基板と、
前記p型InP基板上に順次形成された、Ruがドープされた拡散防止層、p型InPクラッド層、活性層、及びn型InPクラッド層とを備えることを特徴とする半導体光素子。
【請求項2】
前記p型InPクラッド層は、Znよりも拡散定数が小さいp型不純物がドープされていることを特徴とする請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項3】
前記p型InP基板と前記拡散防止層の間に形成され、Znがドープされ、前記p型InP基板よりもZn濃度が低いp型InPバッファ層を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体光素子。
【請求項4】
前記p型InPクラッド層、前記活性層、及び前記n型InPクラッド層がエッチングされてメサストライプが形成され、
前記拡散防止層は、前記メサストライプの底面より下に存在することを特徴とする請求項1−3の何れか1項に記載の半導体光素子。
【請求項5】
前記メサストライプの両側に埋め込まれた埋込層及び電流ブロック層と、
前記n型InPクラッド層上に形成されたn型コンタクト層とを更に備え、
前記n型コンタクト層、前記埋込層及び前記電流ブロック層がエッチングされて分離溝が形成され、
前記拡散防止層は、前記分離溝の底面より下に存在することを特徴とする請求項4に記載の半導体光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−287804(P2010−287804A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141782(P2009−141782)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】