説明

半導体発光デバイスおよび半導体デバイスの製造方法

【課題】高いシートキャリア濃度を持つ電子ガスを与える窒化物半導体デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物半導体デバイスの製造方法は、InGa1−xN(0≦x≦1)層27を成長させるステップと、InGa1−xN層27の上にアルミニウム含有窒化物半導体層26を500℃以上の成長温度で成長させ、これによりInGa1−xN層27と窒化物半導体層26との間の界面に電子ガス領域28を形成させるステップとを含む。その後、上記アルミニウム含有窒化物半導体層を800℃以上の温度でアニールする。この方法により、比較的低いアルミニウム濃度、例えば0.3以下のアルミニウム・モル分率等を持つアルミニウム含有窒化物半導体層26を用いて、アルミニウム含有窒化物半導体層26またはInGa1−xN層27をドープする必要なしに、6×1013cm−2以上のシートキャリア濃度を持つ電子ガスを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光デバイスに関し、特に、窒化物材料系、例えば(Al,Ga,In)N材料系などで作製された半導体発光デバイスに関する。本発明は、半導体デバイスの製造方法に関し、より詳細には、例えば(Al,Ga,In)N材料系等のような窒化物材料系による半導体デバイスの製造方法にも関する。本発明は、発光ダイオード(以下、適宜「LED」と略記する)やレーザーダイオード(以下、適宜「LD」と略記する)等に、あるいは、発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)等のような光半導体デバイスの製造に、適用できる。また、本発明は、ヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET)や高電子移動度トランジスタ(HEMT)等のような電子半導体デバイスにも適用できる。
【背景技術】
【0002】
(Al,Ga,In)N材料系は、一般式AlGaIn1−x−yN(ここで0≦x≦1かつ0≦y≦1)で表される材料を含んでいる。本願明細書においては、(Al,Ga,In)N材料系のうちで、アルミニウム、ガリウム、およびインジウムのモル分率が0でないものを「AlGaInN」と記す。また、本願明細書においては、(Al,Ga,In)N材料系のうちで、アルミニウムのモル分率が0であるが、ガリウムおよびインジウムのモル分率が0でないものを「InGaN」と記す。また、本願明細書においては、(Al,Ga,In)N材料系のうちで、インジウムのモル分率が0であるが、ガリウムおよびアルミニウムのモル分率が0でないものを「AlGaN」と記す。その他の種類の(Al,Ga,In)N材料系も同様に記す。(Al,Ga,In)N材料系で作製されたデバイスは、スペクトルにおける青波長領域の光を発することができるので、(Al,Ga,In)N材料系による半導体発光デバイスの作製には、現在大きな関心が寄せられている。(Al,Ga,In)N材料系で作製された半導体発光デバイスは、例えば特許文献1に記述されている。(Al,Ga,In)N材料系による、高性能トランジスタ等のような電子デバイスの製造にも、関心が寄せられている。
【0003】
図1は、(Al,Ga,In)N材料系で作製された典型的な半導体レーザーデバイス(レーザーダイオード(LD)とも記す)10の概略図である。上記半導体レーザーデバイスは、青波長領域の光を発することができる。
【0004】
図1の半導体レーザーデバイス10は、基板1上に成長されている。図1のレーザーダイオード10では、基板1はサファイア基板である。バッファ層2、第1クラッド層3および第1光ガイド層4は、基板1上にこの順に成長されている。図1の実施形態において、バッファ層2はn型GaN層であり、第1クラッド層3はn型AlGaN層であり、第1光ガイド層4はn型GaN層である。
【0005】
活性領域5は、第1光ガイド層4上に成長されている。
【0006】
第2光ガイド層7、第2クラッド層8およびキャップ層9は、活性領域5上にこの順に成長されている。第2光ガイド層7および第2クラッド層8は、第1光ガイド層4および第1クラッド層3とは逆の導電型を持つ。図1のレーザーデバイス10において、第1光ガイド層4および第1クラッド層3は、n型である。したがって、第2光ガイド層7および第2クラッド層8は、p型層である。図1のレーザーデバイス10では、第2光ガイド層7はp型GaN層であり、第2クラッド層8はp型のAlGaN層であり、キャップ層9はp型GaN層である。
【0007】
レーザーデバイス10の活性領域5の構造は、図1では詳細には示していない。しかしながら、一般に、活性領域5は、第1バリア層と第2バリア層との間に配置された1つの量子井戸層を有する一つの量子井戸(SQW)活性領域、あるいは、各々(各量子井戸層)が2つのバリア層の間に配置されている2つ以上の量子井戸層を有する多量子井戸(MQW)活性領域のいずれかであろう。量子井戸層は、例えば、InGaN、AlGaNあるいはAlGaInNなどの層であってもよい。
【0008】
高品質ヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET)および高電子移動度トランジスタ(HEMT)は、典型的には、大きなシート電子密度(シートキャリア濃度)と高い電子移動度との組み合わせをチャネル領域内に必要とする。必要な電子シート濃度および電子移動度を得るための1つのアプローチは、デバイスに電子ガス領域を組み込むことである。電子ガス中の電子は、ホストまたはドーパント原子との相互作用(あるいは拡散)が小さい結果として、バルク半導体結晶中の電子よりもはるかに高い移動度を持つことができる。
【0009】
また、後述するように、窒化物半導体光電子デバイスに電子ガス領域を組み込むことも望ましい。
【0010】
既に知られているように、電子ガス領域は、例えば、電子が蓄積して電子ガスを形成することが可能なポテンシャル井戸で構成できる。電子ガス中の電子は、ポテンシャル井戸の形状および厚さによって、量子井戸の面に垂直な方向に束縛され、量子井戸の面と平行な2次元の中でのみ自由に移動できる場合がある。この場合、電子ガスは、「2次元電子ガス」(以下、適宜「2DEG」と略記する)と呼ばれる。また、電子ガスの電子は、ポテンシャル井戸の形状および厚さによって、3次元全ての中で自由に移動できる場合もある。この場合、電子ガスは、「3次元電子ガス」(以下、適宜「3DEG」と略記する)と呼ばれる。電子ガス中の電子は宿主またはドーパントの原子で、より少数の相互作用(あるいは散乱)の結果バルク半導体結晶中のものよりはるかに高い移動度を有することができる。
【0011】
Jeganathanらは、非特許文献1において、AlGaN/GaNヘテロ構造が、ヘテロ構造を意図的にドープすることなしに最高5×1013cm−2のシートキャリア濃度を持つ2DEGを実現するのに使用できることを報告している。このシートキャリア濃度は、AlGaAs/GaAs系等のような他のIII−V族系で達成可能なシートキャリア濃度よりもかなり大きい。また、これは、主として、AlGaN歪み層がAlGaAsと比較して5倍大きな圧電分極を持つこと、およびウルツ鉱III族窒化物の中では他のIII−V族材料と比較して非常に大きな自発分極(ゼロ歪みでの分極)が生じることによる。しかしながら、Jeganathanらの方法は、5×1013cm−2のシートキャリア濃度を持つ2DEGを得るためには、非常に高いアルミニウム・モル分率を持つAlGaN層の使用を必要とし、場合によってはAlN層の使用さえ必要とする。これは、デバイス内の過度の歪み、転位の発生、および不要な不純物の取り込みを招く可能性があるので、高いアルミニウム・モル分率を備えた、AlNあるいはAlGaNの層をデバイスに組み込むことは、一般に望ましくない。
【0012】
同時係属の特願2004−304941号(英国特許出願第0325100.6号に対応)の明細書及び図面は、窒化物材料系で作製され、基板の上に配置された活性領域を持つ半導体発光デバイスを開示している。上記活性領域は、活性領域の最下層を形成する第1のアルミニウム含有層(例えばAlGaN層)、活性領域の最上層を形成する第2のアルミニウム含有層、および、上記第1のアルミニウム含有層と第2のアルミニウム含有層との間に配置された少なくとも1つのInGaN量子井戸層を含んでいる。
【0013】
Jenaらは、非特許文献2の中で、選別されたアルミニウム・モル分率を持つAlGaN層を、3次元電子ガスあるいは3次元電子スラブを生成させるために使用することを報告している。この方法は、最大9×1012cm−2のシート電子濃度を持つ電子ガスを生成させる。
【0014】
Ibbetsonらは、非特許文献3の中で、AlGaN/GaN界面における電子ガス中の電子の供給源について議論している。Ibbetsonらは、表面準位を電子の主な供給源と特定し、AlGaN/GaN界面における電子ガスについて最大4.8×1013cm−2のシート電子濃度(シートキャリア濃度)が得られると予測している。Ibbetsonらは、表面準位を形成する方法に言及していない。
【0015】
Mkhovanらは、非特許文献4の中で、AlGaN/GaN材料系において約5×1013cm−2の電子シート濃度を持つ疑似2DEGを形成することを記述している。Mkhovanらは、シート電子濃度、が分極誘導電荷に左右され、界面拡散によって影響を受ける、と述べている。Mkhovanらは、2DEGがどのように形成されるかについて、あるいは2DEGのための電子の供給源についての詳細をほとんど示していない。
【0016】
Jeganathanらは、非特許文献1において、AlGaN/GaNヘテロ構造が、ヘテロ構造を意図的にドープすることなしに最高5×1013cm−2のシートキャリア濃度を持つ2DEGを実現するのに使用できることを報告している。このシートキャリア濃度は、AlGaAs/GaAs系等のような他のIII−V族系で達成可能なシートキャリア濃度よりもかなり大きい。また、これは、主として、AlGaN歪み層がAlGaAsと比較して5倍大きな圧電分極を持つこと、およびウルツ鉱III族窒化物の中では他のIII−V族材料と比較して非常に大きな自発分極(ゼロ歪みでの分極)が生じることによる。しかしながら、上記非特許文献1には、電子ガス領域を形成すること、および、光電子デバイスの光効率を向上させるために、AlGaN/GaNヘテロ構造を光電子デバイスに組み込むことは、教示されていない。
【0017】
特許文献2は、光効率が向上するようにデバイスの活性領域にわたる如何なる分極誘導領域をも低減するために(界面選別あるいは界面ドープ等のような)双極子低減方法が使用される発光デバイスを開示している。しかしながら、本発明において、双極子および分極領域は、電子ガスを形成するために特別に導入されたものである。
【0018】
特許文献3は、窒化物材料系で作製され、活性領域内におけるp型側に形成された(5×1013cm−2未満のシートキャリア濃度を持つ)2DEGを有する発光デバイスを開示している。2DEG領域は、効率的な正孔組換えのための収集領域として機能する。対照的に、本発明においては、電子ガス領域は、活性領域の外部に位置し、活性領域のn型側にある。
【0019】
特許文献4は、電子捕獲および活性領域中への電子の共鳴トンネリングのために活性領域の下に配置された広いInGaN層を含む発光デバイスを記述している。上記特許文献4には、デバイス内のいかなる場所にも電子ガスが形成されることは示されていない。
【0020】
Kimらは、非特許文献5の中で、光効率の向上のために窒化物LED中に電子トンネルバリアを使用することを報告している。上記電子トンネルバリアは、LEDの活性領域の中あるいは直下に配置された厚さ2nmのAlGaN層によって提供される。上記AlGaN層が、活性領域からの熱電子の流出を低減することが報告されている。AlGaNトンネルバリアとその下にあるGaNとの間の界面に電子ガスを形成することは、Kimらによって報告も示唆もされていない。非特許文献6におけるSmorchovaらの報告によれば、そのような薄いAlGaN層は、2DEGの形成をもたらさない。
【0021】
Luoらは、非特許文献7の中で、2DEGに連関されたInAs量子ドット(以下「QD」と略記する)からのフォトルミネセンス発光強度の向上を報告している。2DEGは、QDと重なる2DEG中の電子の波動関数によって、QDのための電子溜めの機能を果たすと思われる。しかしながら、本発明においては、電子ガスが活性領域の外部にあり、したがって、電子ガス中の電子の波動関数は活性領域に連関されていない。
【特許文献1】米国特許第5,777,350号(1995年11月30日公開)
【特許文献2】米国特許第6,515,313号(2000年11月28日公開)
【特許文献3】米国特許第6,541,797号(2003年4月1日公開)
【特許文献4】米国特許第6,614,060号(2003年9月2日公開)
【非特許文献1】K. Jeganathan et al., J. Appl. Phys. 94, p3260 (2003)
【非特許文献2】D. Jena et al., Appl. Phys. Lett. 81(23), p4395 (2002)
【非特許文献3】J. P. Ibbetson et al., Appl. Phys. Lett. 77(2), p250(2000)
【非特許文献4】K. A. Mkhoyan et al., Appl. Phys. 95(4), p1843 (2004)
【非特許文献5】K. C. Kim et al., Phys. Stat. Sol. (a) 201, p2663 (2004)
【非特許文献6】I. P. Smorchova et al., J. App. Phys. 86, p4520 (1999)
【非特許文献7】Y. H. Luo et al., J. Elec. Matl. 30(5), p459 (2001)
【非特許文献8】N. Maeda et al., Appl. Phys, Lett. 79(11), p1634 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、シート電子密度を持つ電子ガスを含む高性能の半導体デバイスおよびその製造方法、特に、高い光出力パワーを持つ半導体発光デバイスおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の第一の面は、窒化物半導体デバイスを製造する方法であって、InGa1−xN(0≦x≦1)層を成長させるステップと、上記InGa1−xN層の上にアルミニウム含有窒化物半導体層を500℃以上の成長温度で成長させるステップと、上記アルミニウム含有窒化物半導体層を800℃以上の温度でアニールするステップとを含み、上記アルミニウム含有窒化物半導体層の厚さが、上記InGa1−xN層と上記アルミニウム含有窒化物半導体層との間の界面に電子ガス領域を形成させるような厚みである方法を提供する。
【0024】
本願明細書で使用する「電子ガス領域」は、(デバイスの動作時に)電子ガスが生じうる領域を意味する。電子ガス中の電子は、ホストまたはドーパント原子との相互作用(あるいは拡散)が小さい結果として、バルク半導体結晶中の電子よりもはるかに高い移動度を持ちうる。
【0025】
本願明細書で使用する用語「窒化物半導体デバイス」は、全ての半導体層が窒化物材料系の一種である半導体デバイスを意味する。上記窒化物材料系の一例は、(Al,Ga,In)N材料系である。
【0026】
アルミニウム含有窒化物半導体層を750℃以下の成長温度で成長させてもよい。
【0027】
アルミニウム含有窒化物半導体層に対して比較的低い成長温度を用いた後、続いてアニールするステップを行うことによって、従来技術の方法によって得られる電子ガスのシート電子濃度より顕著に高いシート電子濃度を持つ電子ガスを電子ガス領域内で形成できることが見出された。本発明は、300Kで6×1013cm−2以上のシート電子濃度を持つ電子ガスを得ることを可能にする。(本願明細書に記載の「シート電子濃度」は全て、印加電界または印加磁界が0の条件下でのシート電子濃度を指すものとする。)さらに、この高いシート電子濃度を持つ電子ガスは、InGa1−xN層あるいは窒化物半導体層のいずれかを意図的にドープすることなく、比較的低いアルミニウム濃度を持つ窒化物半導体層を用いることによって、得ることができる。本発明は、高いアルミニウム・モル分率を持つAlNまたはAlGaNの層の使用を必要としない。したがって、本発明は、III族窒化物半導体で作製された光電子デバイスおよび電子デバイス双方の効率および性能の向上をもたらすことができる。本発明によって達成されるシートキャリア濃度は、従来法による成長(例えば、非特許文献8に示された前田らの方法による成長)がなされ調節ドープされた2D電子ガスを持つHFETで達成できるシートキャリア濃度よりも高い。
【0028】
上記窒化物半導体層は、AlGaIn1−y−zN(ここで0<y≦1かつ0≦z≦1)層であってもよい。
【0029】
上記AlGaIn1−y−zN層は、0<y<0.3を満たすものであってもよい。そのような低いアルミニウム・モル分率を持つ(Al,Ga,In)N層を使用すると、6×1013cm−2以上のシートキャリア濃度を持つ電子ガスの生成が可能であり、また、高いアルミニウム・モル分率を持つAlN層あるいは(Al,Ga,In)N層の使用に関連する不都合を回避でき、その結果、良質のデバイスを得ることができる。
【0030】
上記窒化物半導体層は、AlGa1−yN層であってもよい。
【0031】
上記窒化物半導体層の厚さは、5nm以上であってもよく、また、50nm未満であってもよい。上記窒化物半導体層の厚さは、電子ガスが形成されるかどうかを決める1つの要素である。上記窒化物半導体層の厚さをこれらの範囲内にすることは、高いシート電子濃度を持つ電子ガスの形成を可能にする。上記窒化物半導体層の厚さが、5nmより著しく薄いか、あるいは50nmより著しく厚い場合、電子ガスが形成されない可能性が高い。
【0032】
上記InGa1−xN層は、GaNの層であってもよい。
【0033】
上記InGa1−xN層は、20nm以上の厚さを有していてもよく、また、3μm未満の厚さを有していてもよい。上記InGa1−xN層の厚さが20nmより著しく薄い場合、上記電子ガス領域内に蓄積する電子ガスを含むことができない可能性が高い。
【0034】
上記InGa1−xN層は、意図的にドープされていないものであってもよい。また、上記窒化物半導体層も、意図的にドープされていないものであってもよい。本発明の方法は、層をドープすることに依存することなく、高いシート電子濃度を持つ電子ガスを得るためのものである。これは、高濃度にドープされた層の使用に依存して高いシート電子濃度を持つ電子ガスを提供する従来技術の方法に対して、利点を与える。なぜなら、高濃度にドープされた層をデバイス構造内に設けることは、デバイスの他の層内への不純物の拡散に起因して、デバイスの性能を低下させたり、デバイスの性能の経時変化を招いたりする可能性があるからである。
【0035】
あるいは、InGa1−xN層は、ドープされたn型であってもよい。これは、上記電子ガス領域内での電子ガスの形成に必要ではない。しかし、それは、InGa1−xN層の電気抵抗を低減し、それゆえに、上記デバイスの電気抵抗を過度に上昇させることなく、厚いInGa1−xN層を上記デバイス構造に組み込むことを可能にする。上記窒化物半導体層は、典型的に薄層であり、それゆえに意図的にドープされなかった場合でさえ低い抵抗を持つので、上記窒化物半導体層のドープはそれほど重要ではないが、上記窒化物半導体層は、ドープされたn型であってもよい。適切なn型ドーパントの一例は、シリコンである。
【0036】
上記方法は、上記窒化物半導体層をInGa1−xN層上に直接成長するステップを含んでいてもよい。
【0037】
上記方法は、上記InGa1−xN層および上記窒化物半導体層を成長室内で成長させるステップを含んでいてもよい。また、上記方法は、上記窒化物半導体層を上記成長室内でアニールするステップを含んでいてもよい。これは、"in-situ"(室内)アニールとして知られており、アニールを実行するために上記窒化物半導体層を成長室から取り除く必要を避けることができる。これは、上記窒化物半導体層の上に他の層を成長させることが望ましい場合に、特に利点となる。上記窒化物半導体層のアニールは、上記窒化物半導体層を成長させた直後であって、他の層を成長させる前に、行うことが好ましい。
【0038】
あるいは、上記窒化物半導体層を成長室の外部でアニールするために、上記層構造を成長室から取り除いてもよい(これは"ex-situ"(室外)アニールとして知られている)。窒化物半導体層を成長させた直後であって、他の層を成長させる前に、上記層構造をアニールのために成長室から取り除くことが好ましい。
【0039】
上記方法は、上記窒化物半導体層の上に1つまたはそれ以上の他の(Al,Ga,In)N層を成長させるステップを含んでいてもよい。さらに、上記InGa1−xN層を成長させる前に、1つまたはそれ以上の他の(Al,Ga,In)N層を成長させてもよい。これは、LED、LD、HEMT、あるいはHFET等のような、(Al,Ga,In)N電子デバイスあるいは(Al,Ga,In)N光電子デバイスの構造に電子ガス領域を組み込むことを可能にする。
【0040】
300Kの温度で、6×1013cm−2以上のシートキャリア濃度、あるいは1×1014cm−2以上のシートキャリア濃度を持つ電子ガスが、上記電子ガス領域内に生成しうる。
【0041】
上記窒化物半導体層をアニールするステップの継続時間は、10分以下であってもよい。
【0042】
本発明の第二の面は、窒化物材料系で作製され、発光のための活性領域と、活性領域のn型側に配置された電子ガス領域とを含み、上記電子ガス領域は、使用時(デバイスの動作時)に、300Kで6×1013cm−2以上のシート電子密度を持つ電子ガスを含む半導体発光デバイスを提供する。
【0043】
デバイスの動作時に、電子が、電子ガス領域に蓄積し、電子ガスを形成する。電子ガスは、活性領域の外部における、活性領域のn側境界あるいはその近傍に、高濃度の電子荷電領域を形成し、活性領域へキャリアを供給するための電子溜めとして機能する。このようにしてデバイス中における電子ガス領域の形成はデバイスの活性領域への電子の注入を改善し、それによって、発光デバイスの光効率(光効率は、デバイスの消費電力に対するデバイスの光出力パワーの割合として定義される)を向上させる。
【0044】
電子ガス領域は、例えば、電子が蓄積することで電子ガスを形成しうるポテンシャル井戸からなっていてもよい。電子ガス中の電子は、ポテンシャル井戸の形状および厚さによって、量子井戸の面に垂直な方向に束縛され、量子井戸の面と平行な2次元の中でのみ自由に移動できる場合がある。この場合、電子ガスは、2次元電子ガス(2DEG)として知られている。また、電子ガスの電子は、ポテンシャル井戸の形状および厚さによって、3次元全ての中で自由に移動できる場合もある。この場合、電子ガスは3次元電子ガス(3DEG)として知られている。
【0045】
上記デバイスは、上記活性領域のn型側に配置された第1層と、上記デバイスの活性領域の一部をなし、かつ、上記第1層に近接する(adjacent to)ように配置された第2層とを含み、上記第2層は、第1層とは異なる組成を持ち、それによって第1層と第2層との間の界面に電子ガス領域が形成されている構成であってもよい。第1層は、活性領域の一部をなさない。また、電子ガス領域は、活性領域の外部に(活性領域のn側に)ある。
【0046】
上記第1層は、第2層に直接隣接して(immediately adjacent to)配置されていてもよい。これは、電子ガス領域をできるだけ活性領域に近い位置に配置し、それによって活性領域への電子の注入を最大限に増進させ、その結果、デバイスの光効率を最大限に向上させることができる。
【0047】
上記電子ガス領域は、使用時(デバイスの動作時)に、2次元電子ガスまたは3次元電子ガスを含んでいてもよい。
【0048】
上記第1層は、GaN層であってもよく、InGaN層であってもよい。上記第2層は、AlGaN層であってもよい。
【0049】
上記電子ガス領域は、意図的にドープされていないものであってもよい。電子ガス領域が上述した第1層および第2層を含む場合、これは、第1層および第2層が意図的にドープされないことを必要とする。
【0050】
また、上記電子ガス領域は、ドープされたn型であってもよい。電子ガス領域が上述した第1層および第2層を含む場合、これは、第1層および第2層の少なくとも1つがドープされたn型であることを必要とする。シリコンは、適切なドーパントの一例である。
【0051】
上記デバイスは、発光ダイオードであってもよく、半導体レーザーデバイスであってもよい。
【0052】
本発明の好ましい特徴は、以下の添付図面を参照した具体例に基づく説明によって分かるであろう。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、シート電子密度を持つ電子ガスを含む高性能の半導体デバイスおよびその製造方法、特に、高い光出力パワーを持つ半導体発光デバイスおよびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
図2は、本発明の一態様に係る発光デバイスの伝導帯の概略図である。上記デバイスは、光放出のための活性領域を有している。上記活性領域は、複数の量子井戸層11を含み、互いに隣接する量子井戸層11の対の各々の間にバリア層12が配置されている。図2は、活性領域を3つの量子井戸層11と2つのバリア層12とを有しているものとして示している。しかしながら、本発明における活性領域は、この特定の構造の活性領域に限定されない。
【0055】
上記活性領域は、一番下の量子井戸層11の直下に配置された第1バリア層15、および一番上の量子井戸層11の直上に配置された第2バリア層16をさらに含む。図2の例では、第1バリア層15および第2バリア層16は各々、AlGaN層である。
【0056】
図2中で活性領域10の左に位置するデバイスの部分は、デバイスのn型側であり、図2中で活性領域10の右に位置するデバイスの部分は、デバイスのp型側である。n型コンタクト(図示しない)は、デバイスのn型側に配設され、p型のコンタクト(図示しない)は、デバイスのp型側に配設されている。
【0057】
本発明によれば、電子ガス領域13は、上記デバイスにおいて、活性領域10のn型側で、かつ、活性領域の外部に設けられている。デバイスが動作中であるときには、6×1013cm−2以上のシート電子密度を持つ電子ガスが、電子ガス領域13内に発生する。図2の実施形態では、上記デバイスは、活性領域10のn型側に配置された第1層14を含む。上記第1層14は、好ましくは第1バリア層15に直接隣接している。第1層14は、第1バリア層15とは異なる組成を持っている。第1バリア層15の伝導帯レベルは、第1層14との組成の相違のために第1層14の伝導帯レベルと等しくなく、その結果、よく知られているように、ポテンシャル井戸が、第1層14と第1バリア層15との間の界面で形成される。ポテンシャル井戸は電子ガス領域13を形成する。デバイスが動作中であるとき、電子が、第1層14と第1バリア層15の間の界面でポテンシャル井戸に蓄積し、それによって電子ガスが上記界面に形成される。ポテンシャル井戸の面に垂直な方向(すなわち図2中の左から右に向かう方向)における電子ガスの電子の束縛は、井戸の幅によって決まり、井戸が十分に狭ければ、井戸中の電子ガスは2次元電子ガス(2DEG)になるであろう。
【0058】
第1バリア層15は、好ましくは比較的薄い。これは、電子ガスと活性領域の量子井戸との間の分離ができるだけ小さく(第2の層15の厚さと等しく)なることを保証し、それによって、電子ガスから活性領域の量子井戸内への最大限に効率的な電子の注入をもたらし、その結果としてデバイスの光効率の最大限に増大させる。
【0059】
図2のデバイスは、窒化物材料系で作製される。例として、デバイスは(Al,Ga,In)Nで作製されうる。この場合、量子井戸層11がInGaN層であり、バリア層12がGaN層であってもよい。電子ガス領域13を定める第1層14および第1バリア層15は、図2に示すようにそれぞれGaN層およびAlGaN層であってもよく、それぞれInGaN層およびAlGaN層であってもよい。第1層14がInGaN層である場合、InGa1−xN中のインジウム・モル分率xの好ましい範囲は、0≦x≦0.1である。
【0060】
第2バリア層16は、例えばp型ドープされたAlGaNで形成されうる。
【0061】
第1バリア層15のアルミニウム濃度は、好ましくは0.3以下である。すなわち、第1バリア層15は、好ましくはAlGa1−xN(ここで0<x≦0.3)の組成を持つ。そのような比較的低いアルミニウム濃度の使用は、高いアルミニウム・モル分率を持つAlN層あるいはAlGaN層の使用に関連する不都合を回避し、良質のデバイスを得ることを可能にする。特に、0.3以下のアルミニウム・モル分数を持つAlGaN層は、デバイス内の顕著な歪みの発生も、著しい数の転位の発生も、不要な不純物の顕著な混入も引き起こさない。第2バリア層16も、好ましくはAlGa1−xN(ここで0<x≦0.3)の組成を持つ。
【0062】
第1バリア層15の厚さは、第1バリア層15と第1層14との間の界面に電子ガス領域が形成されるように選択されている。これを達成するために、第1バリア層15の厚さは、好ましくは5nm以上であり、また好ましくは50nm未満である。この範囲の厚さは、デバイスの最大限の光出力パワーを与える。第1層14の厚さは第1バリア層15の厚さほど重要ではないが、第1層14の厚さは、(電子ガス領域内での電子の効果的な束縛を与えるために)20nmより厚く、かつ、3μm未満であることが好ましい。これらの厚さの範囲は、高いシート電子濃度(シートキャリア濃度)を持つ電子ガスを得るのに好適であることが分かっている。特に、第1バリア層15の厚さが、5nmより著しく薄いか、あるいは50nmより著しく大きければ、電子ガスを得ることができないであろう。
【0063】
電子ガス領域13内に発生する電子ガスが、2次元電子ガスになるか3次元電子ガスになるかは、主として第1バリア層15の厚さによって決まる。第1バリア層15の厚さが約20nmより薄い場合、2DEGが電子ガス領域13内に発生する可能性が高い。一方、第1バリア層15の厚さが約20nmより厚い場合、3DEGが電子ガス領域13内に発生する可能性が高い。
【0064】
図2のデバイス構造の第1層14および第1バリア層15は、意図的にドープされていないものであってもよい。デバイスが後述する方法に従って作製された場合、図2のデバイスの第1層14および第1バリア層15が両方とも意図的に(名目上)ドープされていない場合であっても、高いシート電子濃度を持つ電子ガスを得ることができる。これは、利点である。なぜなら、デバイス構造内に高濃度にドープされた層を設けることは、デバイスの他の層内へのドーパントの不要な拡散に起因してデバイスの性能の低下を引き起こす可能性があるからである。
【0065】
また、必要に応じて、図2のデバイス構造の第1層14および第1バリア層15の一方または両方を、意図的にドープされたn型としてもよい。例えば、第1層14が厚い層である場合、その電気抵抗を低減するために第1層をドープすることが望ましいであろう。電子ガス領域13内での電子ガスの形成は、第1層14のドーピングレベルには顕著な影響を受けない。
【0066】
図3は、本発明を具現化した半導体レーザーダイオードの概略断面図である。レーザーダイオード17は、基板18と、基板18の上に成長されたバッファ層19とを有している。図3の例では、基板18はGaN基板であり、バッファ層19は250nmの厚さを持つn型のGaN層である。シリコンは、適切なドーパントである。
【0067】
n型クラッド領域20は、バッファ層19の上に配置されている。図3の例において、n型クラッド領域20は、超格子構造を有しており、GaNの層と交互に配置された0.12のアルミニウム・モル分率を持つAlGaNの層からなる。図3のクラッド領域は、900nmの厚さを持つ。しかしながら、レーザーデバイスは、図3に示す特定の形や厚さを持つn型クラッド領域に限定されるものではない。
【0068】
第1層14は、n型クラッド層20の上に成長されている。図3の実施形態では、第1層14は、100nmの厚さを持つn型ドープされたGaN層である。シリコンが、ドーパントとして使用される。
【0069】
活性領域10は、第1層14の上に成長されている。図3の例において、第1バリア層15は、15nm厚のAl0.1Ga0.9N層である。量子井戸層11の各々は、2nm厚のIn0.1Ga0.9N層である。中間のバリア層12の各々は、15nm厚のGaN層である。また、第2バリア層16は、5nm厚のAl0.15Ga0.85Nの層である。図3の実施形態では、活性領域10の各層は意図的にドープされていない。
【0070】
光ガイド領域21は、活性領域の上に成長されている。図3の実施形態において、光ガイド領域21は、ドープされたp型であり、100nmの厚さを持つGaNの層である。マグネシウムは、適切なp型ドーパントである。
【0071】
p型のクラッド領域22は、光ガイド領域21上に設けられている。図3の例において、p型のクラッド領域22は、超格子構造を有しており、GaNの層と交互に配置された0.12のアルミニウム・モル分率を持つAlGaNの層からなる。図3のp型のクラッド・領域の厚さは500nmである。しかしながら、レーザーデバイスは、図3に示す特定の形や厚さを持つp型のクラッド領域に限定されない。
【0072】
p型キャップ層23は、p型のクラッド領域22の上に設けられている。図3の実施形態では、キャップ層23は、20nm厚のドープされたp型のGaN層である。マグネシウムは、適切なドーパントである。
【0073】
金属コンタクト(図3には示さない)は、活性領域10のn側およびp側に設けられている。この金属コンタクトは、簡便には、基板18の下側およびキャップ層23の上面上に設けることができる。
【0074】
図4は、本発明を具現化したLED24を示す。LED24は、基板18を有している。図4の実施形態では、上記基板は、(0001)表面をその最上部に持つサファイア基板である。
【0075】
バッファ層19は、基板18上に成長されている。図4の実施形態では、バッファ層19は、は、4μmの厚さを持つn型ドープされたGaN層である。
シリコンは、適切なドーパントである。
【0076】
活性領域10は、バッファ層18上に成長されている。図4のLEDの活性領域は、図3のレーザーダイオードの活性領域と同一であるので、その説明は省略する。
【0077】
図4のLED24は、活性領域10上に成長されたキャップ層25をさらに含んでいる。図4では、キャップ層25は、300nmの厚さを持つp型ドープされたGaN層である。マグネシウムは、適切なドーパントである。
【0078】
金属コンタクト(図4には示さない)は、活性領域10のn側およびp側に設けられている。この金属コンタクトは、簡便には、基板18の下側およびキャップ層25の上面上に設けることができる。
【0079】
図5は、本発明の電子ガス領域を含むLEDの光出力パワーが、電子ガス領域の電子ガスの(300Kでの)シートキャリア密度(シートキャリア濃度)にどのように依存するかを示す。図5中に示す出力の値は、図4に示す一般的な構造を持っているが、異なるシート電子濃度の電子ガスを含んでいるLEDから得られたものである。シート電子濃度の値は、AlGaN層26とGaN層27との界面に電子ガス領域28が発生するように、GaN層27上にAlGaN層26が配置された図6に示す構造29を使用し、等価電子ガスについてホール効果測定を行うことにより得られた。特定の電子ガスを持つLEDによって発生される出力の測定には、その特定の電子ガスのシート電子濃度の値を得るのに使用した図6の構造29のGaN層27およびAlGaN層26と同じ組成および厚さを有する第1層14および第1バリア層15を使用した。したがって、図5中の各データ点を得るために2つの別個の構造を使用した。
【0080】
図5から分かるように、電子ガスのシートキャリア濃度が増加するにしたがって、LEDの光出力パワーは増加する。電子ガス領域のない従来のデバイスは、約50μW(0.05mW)の出力パワーを持つと予測される。電子ガスのシートキャリア濃度の増加に伴う光出力の増加は、初期は比較的低い。しかし、図5の曲線は、約4.5×1013cm−2から約6×1013cm−2までの範囲に(300Kでの)シート電子濃度の「肘部(急激に曲がっている部分)」を有している。300Kで6×1013cm−2を越えるシート電子濃度では、LEDの光出力は、電子ガスのシート電子濃度の増加にしたがって急激に増加する。したがって、電子ガス領域13の電子ガスは、300Kで6×1013cm−2以上のシート電子濃度を有していることが望ましい。
【0081】
本発明の発光デバイスにおける光出力パワーと電子ガスのシート電子濃度との関係は、常に図5に示す普遍的な形態を持つものと思われる。特に、光出力パワーとシート電子濃度との関係は、それ以上であれば電子ガスのシート電子濃度の増加にしたがってデバイスの光出力が急激に増加する「肘部(elbow)」を有すると予想される。したがって、使用時に、300Kで6×1013cm−2以上のシート電子密度(シートキャリア濃度)を持つ電子ガスを含む電子ガス領域を組み込むことは、高い光出力パワーを持つデバイスを与えるはずである。
【0082】
図2のデバイス構造を製造する1つの方法をここで述べる。図2の半導体層構造を成長させるために、適切な基板(図2には示さない)は、任意の適切な方法で用意され清浄された後、成長装置の成長室内に導入される。適切な1つの基板は、サファイア基板上に成長されたn型ドープされたGaN層からなるテンプレート基板である。しかしながら、本発明は、いかなる特定の基板にも限定されない。本発明は、いかなる特定の成長装置に限定されるものではなく、上記デバイスは、任意の従来の半導体成長技術、例えばMBE(分子線エピタキシー)やMOVPE(有機金属気相エピタキシー)などによって作製可能である。
【0083】
1つあるいはそれ以上の層、例えばバッファ層やn型クラッド層等が、レーザーダイオードの場合にはさらにn型光ガイド層が、上記基板の上に成長される。これらの層の成長は、本発明の一部をなすものではないので、これ以上説明しない。
【0084】
次に、第1層(InGa1−xN層)14が成長される。InGa1−xN層14は、500℃以上の成長温度で成長される。(一般に基板は成長プロセス中に加熱され、「成長温度」は基板の温度として定義される。)
【0085】
次に、AlGaN層15が、InGa1−xN層14の上に直接成長される。AlGaN層15は、500℃以上の成長温度で成長される。AlGaN層15の成長温度は、原則的にはInGa1−xN層14の成長温度とは異なる。比較的低い成長温度は、その後にアニールすることで、高いシート電子濃度を持つ電子ガスを与えるので、AlGaN層15の成長温度は、好ましくは750℃未満である。このようにして、例えば、6×1013cm−2より大きい(300Kでの)シート電子濃度を持つ電子ガスが得られ、1×1014cm−2までの(300Kでの)シート電子濃度を持つ電子ガスでさえ得ることができる。300Kで1×1014cm−2より大きいシート電子濃度を持つ電子ガスを得ることができる成長方法の一例が、後段で表1の実施例1を参照して述べる成長方法である。
【0086】
続いて、AlGaN層15は、その成長温度より少なくとも50℃以上高い温度である800℃以上の温度でアニールされる。アニールは、成長プロセスを停止し、成長室内の温度をAlGaN層15のアニールに適した温度まで上昇させることで、成長装置の成長室内で行うもの(これは「in situ(室内)アニール」として知られている)であってもよい。あるいは、基板を成長室から取り除くことで、成長室の外部でアニールが行えるようにしてもよい(これは「ex situ(室外)アニール」として知られている)。上述したように、電子ガス領域は、AlGaN層15とInGa1−xN層14との間の界面に設けられる。また、アニールステップの効果は、電子ガス領域内に発生する電子ガスのシート電子濃度を増加させることである。アニールステップの他の詳細については後述する。
【0087】
アニールステップが、ex situ(室外)アニールステップである場合には、アニールステップが完了した後に、基板が成長室に戻される。
【0088】
次に、量子井戸層11およびバリア層12が成長され、これにより、活性領域10が形成される。次に、p型層16が活性領域10の上に成長される。
【0089】
その後に、キャップ層および/またはp型コンタクト層などのような他の層が、p型層16の上に成長され、これによりデバイスが完成される。後に行われるこれら層の成長は、本発明の一部をなすものではないので、これ以上説明しない。
【0090】
最後に、基板が、個々のデバイスに分離されるようにダイシングされ、コンタクトが設けられる(ウェーハをダイシングするステップ、およびコンタクトを形成するステップは、本発明の一部を形成するものではないので、これ以上説明しない)。
【0091】
上述した図2の例では、第1バリア層15はAlGaN層であった。しかしながら、本発明は第1バリア層としてAlGaN層を用いたものに限定されるものではなく、第1バリア層は、原則的に任意の適切なアルミニウムを含む窒化物半導体、例えばAlGaInNの層であってもよい。
【0092】
上述した実施形態において、第1層14は、第1バリア層15に近接している。必要に応じて、第1層14と第1バリア層15との間に薄い中間層を成長させても、本発明に係る高いシートキャリア濃度を持つ電子ガスを得ることが可能である。例えば、第1層14と第1バリア層15との間にInGaN量子井戸層を成長させることができ、そのような層の典型的な厚みは、約10nmである。他の例として、第1層14と第1バリア層15との間にシリコン層(デルタ層として知られている)を成長させることができ、シリコンデルタ層の典型的な厚みは、0.5nmである。
【0093】
アニールステップのさらなる詳細について、図6を参照して説明する。前述したように、図6の半導体層構造29は、InGa1−xN(0≦x≦1)層27の上に成長されたAlGa1−yN(0<x≦1)層26を含んでいる。電子ガス領域28は、AlGa1−yN層26とInGa1−xN層27との間の界面に作成される。図6において、InGa1−xN層27は、GaN層である。しかしながら、InGa1−xN層27は、0でないインジウム・モル分率を有していてもよい。インジウム・モル分率は、好ましくは、0≦x≦0.05の範囲内である。
【0094】
図6の半導体層構造29を成長させるために、適切な基板(図6には示していない)を任意の適切な方法で用意し洗浄した後、成長装置の成長室内へ導入する。適切な1つの基板は、サファイアベースの基板上に成長されたn型ドープされたGaN層からなるテンプレート基板である。しかし、本発明は、いかなる特定の基板にも限定されない。さらに、本発明は、いかなる特定の成長装置にも限定されるものではなく、本発明は、例えばMBE(分子線エピタキシー)やMOVPE(有機金属気相エピタキシー)等のような任意の従来の半導体成長技術によって実施できる。
【0095】
その後、InGa1−xN層27を、上記基板の上に成長させる。InGa1−xN層27は、500℃以上の成長温度で、好ましくは600℃以上の成長温度で成長させる。(一般に、基板は成長プロセス中に加熱され、「成長温度」は基板の温度として定義される。)
【0096】
図6の層構造29をデバイス構造に組み込む場合、InGa1−xN層27を成長させる前に、1つまたはそれ以上の層を基板上に成長させてもよい。いかなるそのような介在層の成長も、本発明の一部を形成しないので、これ以上説明しない。
【0097】
その後、アルミニウム含有窒化物半導体層26(この実施形態ではAlGa1−yN層)をInGa1−xN層27の上に成長させ、AlGa1−yN層26は、少なくとも500℃の成長温度、および好ましくは少なくとも600℃の成長温度で成長する。AlGa1−yN層26の成長温度は、原則としては、InGa1−xN層27の成長温度とは異なる。AlGa1−yN層26は、一実施形態においては、20nmの厚さを持ち、0.1のアルミニウム・モル分率を持つ。しかしながら、本発明は、この特定の厚さやアルミニウム・モル分率を持つAlGa1−yN層26に限定されない。
【0098】
さらに、窒化物半導体層26の成長温度は、後述する理由から、750℃以下であることが好ましい。
【0099】
上記窒化物半導体層は、上記窒化物半導体層とInGa1−xN層27との間に介在層が存在しないように、InGa1−xN層27の上に直接成長されることが好ましい。しかしながら、本発明の方法によれば、薄い中間層が上記窒化物半導体層とInGa1−xN層との間に成長されていても、高いシートキャリア濃度を持つ電子ガスを得ることができる。
【0100】
本発明によれば、続いて、窒化物半導体層26(この実施形態においてはAlGa1−yN層)を、800℃以上であり、かつ、その成長温度より高い温度で、アニールする。窒化物半導体層26をアニールする温度は、好ましくは、窒化物半導体層26の成長温度より50℃以上高い温度である。既に知られているように、上記電子ガス領域は、窒化物半導体層26とInGa1−xN層27との間の界面に形成される。また、本発明のアニールステップの効果は、電子ガス領域内に発生する電子ガスのシート電子濃度を増大させることにある。
【0101】
上記アニールステップの典型的な継続時間は、1分間である。注意すべきは、基板中、あるいは基板の上に成長された層中に、顕著な熱応力が発生することを避けるために、基板温度を望ましいアニール温度まで上昇する速度、およびアニールステップの後に基板温度を低下させる速度は、低くするべきである、ということである。これは、in-situアニールおよびex-situアニールの両方に当てはまる。in-situアニールには40〜50℃/分以下の温度変更(上昇または下降)速度が適していることが分かったが、ex-situアニールには100℃/分までの温度変更速度を使用できる(用語「in-situアニール」および「ex-situアニール」は後述する)。ここで使用する「アニールステップの継続時間」という用語は、アニール温度にある時間であり、温度をアニール温度まで上昇させるのに必要な時間、およびそれに続いて温度を下降させるのに必要な時間を含んでいない。したがって、例えば、アニールステップの継続時間自体は典型的な1分間あるいは数分間であっても、in-situアニールの場合には、基板温度を500℃の成長温度から800℃のアニール温度まで上昇させるのに、およそ6〜10分間かかり、アニールステップの後に基板温度を次の層の成長に適した温度まで上昇させるのに、さらに6〜10分間かかるであろう。
【0102】
図6の層構造29をデバイス構造に組み込む場合、AlGa1−yN層26の上への1つまたはそれ以上の層の成長、および/または、GaN層27を成長させる前の1つまたはそれ以上の層の成長を行ってもよい。例えば、活性領域を層構造29の上に成長させてもよい。あるいは、図2を参照して上述した一般的なタイプのデバイスが得られるように、他の層を、窒化物半導体層26(ただしGaN層27ではない)を含む発光のための活性領域を形成するために層構造29の上に成長させてもよい。いかなるそのような他の層の成長も、本発明の一部を形成しないので、これ以上説明しない。
【0103】
上記アニールステップは、成長装置の成長室内で行う"in-situ"アニールステップであってもよく、層構造を成長室から取り除いた後にアニールステップを行う"ex-situ"アニールステップであってもよい。両方の場合において、AlGa1−yN層26を成長させた直後にアニールステップを行ってもよく、1つあるいはそれ以上の他の層をAlGa1−yN層26の上に成長させた後にアニールステップを行ってもよい。図6の層構造をデバイス構造に組み込む場合、AlGa1−yN層26を成長させた直後にアニールステップを行うことは、AlGa1−yN層26の上に成長されるいかなる層もアニールされないという利点がある。これに対し、完全な層構造を成長させた後にアニールを行うことは、デバイスの全ての層がアニールされるであろうことを意味する。しかしながら、図6の層構造をデバイス構造に組み込む場合、AlGa1−yN層26を成長した直後にアニールステップを行うことは、アニールステップを行うことを可能にするために、成長プロセスを停止しなければならないという欠点を有している。ex-situアニールステップは、例えばデバイスを大量生産する際に多数群のウェーハをアニールする場合には、好ましい。
【0104】
本発明の結果を、表1中に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
表1の中の第1項は、AlGa1−yN層26を630℃の成長温度で成長し、880℃の成長温度でin-situアニールする本発明の方法によって成長された半導体層構造に関する。表1中の第2項および第3項は、比較例に関する。第2項は、AlGa1−yN層を630℃の成長温度で成長したが、アニールしなかった例に関する。第3項は、AlGa1−yN層を900℃という、より高い成長温度で成長したが、アニールしなかった例に関する。
【0107】
表1の第1項は、ドープされていないGaNテンプレート基板を有する半導体層構造を用いて製造されたものである。アンモニア蒸気下、MBE室(チャンバ)内で、名目上ドープされていない1μm厚のGaN層を900℃の成長温度で、上記基板の上に成長させた。その後、成長温度を630℃まで低下させ、名目上ドープされていない20nm厚のAl0.1Ga0.9N層を900℃の成長温度で成長させた。試料の温度を、10分間かけて880℃まで上昇させ、1分間880℃に保持した。その後、上記試料を15分間かけて200℃未満の温度まで冷却した。
【0108】
表1から分かるように、本発明の方法は、比較例の成長方法を使用して得られる電子ガスのシート電子濃度と比較して顕著に高いシート電子濃度を持つ電子ガスを与える。表1中の第1項に示す成長温度およびアニール温度を用いた本発明の方法によって得られた電子ガスのシート電子濃度は、1×1014cm−2(300Kの温度で測定)である。表1中の第2項および第3項で示される比較例の成長方法は、たったの1×1013cm−2あるいは2×1013cm−2(300Kで測定)のシート電子濃度を持つ電子ガスをそれぞれ発生させるだけである。本発明によってこのようなシート電子濃度の増大が起こる機構として考えられるのは、アニールステップの間に、AlGa1−yN層26および/またはその表面に窒素空孔が作成されることである。上記空孔は、電子ガスに追加の電子を与え、その結果、電子ガスの高いシートキャリア濃度をもたらす。
【0109】
本発明の方法によって得られた電子ガスの電子移動度が、表1の第2項および第3項に示される比較例の方法によって得られた電子ガスの電子移動度よりわずかに低いことが分かるであろう。しかしながら、電子移動度が低下する率は、シート電子濃度が増大する率と比較して顕著に小さい。
【0110】
表1の結果は、図6に示す層構造を用いて得たものである。アルミニウム含有窒化物層26は、0.1のアルミニウム・モル分率および20nmの厚さを持つAlGaN層であり、AlGaN層の成長の直後に、続いてアニールを行ったものである。GaN層の成長温度もその厚さも、得られる電子ガスの電子濃度には顕著な影響を与えないはずであるが、GaN層は、900℃の温度で成長され、1μmの厚さを有していた。
【0111】
表1に示すように、表1の第1項の結果は880℃のアニール温度を用いて得たものである。(ex-situアニールステップではより高いアニール温度を使用することができるが)in-situアニールステップについては、アニール温度は、800℃から1000℃までの温度範囲内にあることが好ましい。in-situアニールステップの場合には、約880℃のアニール温度が最も高いシート電子濃度をもたらし、約880℃より顕著に高いかあるいは低いアニール温度の使用はより低いシートキャリア濃度をもたらすことが分かった。したがって、in-situアニールを使用する場合、アニール温度は、ほぼ880℃であることが特に好ましい。
【0112】
表1の第1項の結果は、継続時間が1分間であるアニールステップを用いて得られた結果である。アニールステップは、この継続時間に限定されない。また、アニールステップの継続時間は、1分間より短くてもよく、1分間より長くてもよい。一般に、(in-situアニールおよびex-situアニールの両方について)アニール温度が高くなるほど、必要なアニール時間は短くなる。
【0113】
アニールステップの長い継続時間が、シートキャリア濃度の減少を招くことが分かった。これは、おそらく表面の粗面化に起因するものである。したがって、アニールステップの継続時間は、in-situアニールおよびex-situアニールの両方について、1時間未満であることが好ましい。多くの場合において、1時間よりかなり短いアニール時間が使用できる。多くのアニール温度において、10分間以内のアニール時間で、あるいは2分間以内のアニール時間でさえ、高いシートキャリア濃度が得られるであろう。
【0114】
表2は、アルミニウム含有窒化物層(この例においてもAlGa1−yN層)26をex-situアニールした場合の、本発明の結果を示す。
【0115】
【表2】

【0116】
表2の第1項は、AlGa1−yN層26をアニールしない比較例に関する。また、第2項、第3項、および第4項は、1000℃、1050℃、および1100℃のそれぞれの温度でのex-situアニールステップの効果を示す。表2から分かるように、アニールステップの効果は、得られる電子ガスのシート電子濃度を(アニールステップなしで得られたシート電子濃度と比較して)増大させることである。アニールステップの温度が高いほど、得られる電子ガスのシート電子濃度が大きくなり、1100℃のアニール温度は、6.0×1013cm−2のシート電子濃度を持つ電子ガスを発生させる。シート電子濃度の増大は、おそらくAlGa1−yN層26の表面に生成されている窒素空孔の結果として生じるものである。
【0117】
表2の結果は、表1と同じ層構造を用い、アルミニウム含有層26として20nm厚のAl0.1Ga0.9N層を用いて得られたものである。GaN層およびAlGaN層は各々、900℃の温度で成長させた。アニールステップを行った場合の各々において、そのステップの継続時間を1分間とした。
【0118】
表2の第4項は、ドープされていないGaNテンプレート基板を有する半導体層構造を用いて得られたものである。アンモニア蒸気下、MBE室内で、名目上ドープされていない1μm厚のGaN層を900℃の成長温度で、上記基板の上に成長させ、次いで、名目上ドープされていない20nm厚のAl0.1Ga0.9N層を900℃の成長温度で成長させた。その後、上記試料を、15分間かけて200℃未満の温度まで冷却し、MBE室から取り除き、急速熱アニール装置に挿入した。この急速熱アニール装置内で、試料を窒素雰囲気下で1分間かけて1100℃まで加熱し、窒素雰囲気下で1分間、1100℃でアニールした。次に、上記試料を窒素雰囲気下で1分間かけて300℃以下の温度まで冷却した。
【0119】
表2のシートキャリア濃度が表1のものより低いことが分かるであろう。この結果が生じたのは、表1(630℃)と比較して、表2(900℃)におけるAlGaN層の成長温度が高いことに起因する。上述したように、窒化物半導体層の成長温度は、好ましくは750℃以下であり、特に好ましくは700℃以下である。他のすべての因子を一定に保ったまま、窒化物半導体層の成長温度を500〜750℃の範囲にすることが、得られる電子ガスに最高のシート電子濃度をもたらすことが分かった。(しかしながら、注目すべきは、アニール温度を十分に高くした場合、電子移動度は500℃〜750℃の範囲の成長温度で得られる値よりも低下する可能性があるものの、500℃より高い任意の窒化物半導体層成長温度で、300Kで6×1011cm−2のシートキャリア濃度を持つ電子ガスを得ることができることである。上述したように、本発明によって得られる高いシート電子濃度は、アニールステップの間に窒化物半導体層26内および/またはその表面に生成される窒素空孔に起因すると考えられる。さらに、500℃〜750℃の範囲の窒化物半導体層の成長温度は、高密度の窒素空孔を与えるものと考えられる。
【0120】
さらに、ex-situアニールに用いる窒素圧を下げれば、特定のex-situアニール温度でより高いシートキャリア濃度を得ることができるであろうと期待される。高いシート電子濃度を持つ電子ガスを形成するためにはAlGaN層内に窒素空孔を生成することが必要であり、ex-situアニールに用いる窒素圧を下げれば、より多くの窒素空孔を生成されるであろうと思われる。ex-situアニールに用いる窒素圧を下げれば、1100℃未満のex-situアニール温度で6×1013cm−2以上のシート電子濃度を持つ電子ガスを得ることができるものと期待される。
【0121】
本発明の方法において、窒化物半導体層(すなわち図6の実施形態におけるAlGa1−yN層26)の厚さは、好ましくは、5nmを超え50nm未満である。InGa1−xN層27の厚さは、好ましくは、20nmを超え3μm未満である。これらの厚さ範囲は、高いシート電子濃度を持つ電子ガスを得るのに適していることが分かった。窒化物半導体層の厚さが、50nmから5nmの範囲から著しく外れている場合、電子ガスが得られない可能性が高い。また、20nmより著しく薄い厚みを有している場合、恐らくInGaN層27が有効に電子ガスを形成できない。窒化物半導体層の厚さは、電子ガスが2次元電子ガスになるか3次元の電子ガスになるかを決める。窒化物半導体層の厚さが約20nmを超える場合には、電子ガスが3次元電子ガスとなる可能性が高い。一方、窒化物半導体層の厚さが約20nm未満である場合には、電子ガスが2次元電子ガスとなる可能性が高い。
【0122】
本発明の方法において、AlGa1−yN層26は、0.3以下のアルミニウム・モル分率yを持つことが好ましい。そのような低いアルミニウム・モル分率を持つAlGaN層を使用すると、本発明の方法による6×1013cm−2以上のシートキャリア濃度を持つ電子ガスの生成が可能であり、また、高いアルミニウム・モル分率を持つAlN層あるいはAlGaN層の使用に関連する不都合を回避でき、その結果、良質のデバイスを得ることができる。特に、0.3以下のアルミニウム・モル分率を持つAlGaN層は、デバイス内での顕著な歪みの発生も、顕著な数の転位の発生も、不要な不純物の顕著な取り込みも引き起こさない。
【0123】
図6の層構造のInGa1−xN層27およびAlGa1−yN層26は、意図的にドープされていないものであってもよい。本発明の方法は、層のドープに依存しない。本発明の方法は、図6の層構造のInGa1−xN層27およびAlGa1−yN層26の両方共が意図的に(名目上)ドープされていない場合であっても、高いシート電子濃度を持つ電子ガスを得ることができる。このことは、図6の層構造を電子デバイスまたは光電子デバイスの構造に組み込む場合に、特に利点となる。なぜなら、デバイス構造内に高濃度にドープされた層を設けることは、デバイスの他の層内へのドーパントの不要な拡散に起因してデバイスの性能を劣化させる可能性があるからである。
【0124】
しかしながら、望みであれば、図6の層構造のInGa1−xN層27およびAlGa1−yN層26の一方または両方を意図的にドープしてもよい。InGa1−xN層27およびAlGa1−yN層26の一方または両方をドープしn型とすることを望む場合、1つの適切なドーパントはシリコンである。例えば、もし厚いGaN層が、ドープされず、高い電気抵抗を有するであろう場合、厚いドープされていないGaN層をデバイス構造に組み込むと、高い抵抗を持つデバイスが得られるであろう。したがって、GaN層を、その抵抗を低減するためにドープすることが望ましい。
【0125】
図6の例において、アルミニウム含有窒化物半導体層は、AlGaNの層である。本発明は、これに限定されるものではなく、アルミニウム含有窒化物半導体層は、例えば、AlGaIn1−y−zN(0<y≦1、0≦z≦1)の層であってもよい。アルミニウム・モル分率(y)は、0.3未満であることが好ましい。
【0126】
上述したように、InGaN層27およびアルミニウム含有窒化物半導体層26の成長温度は、500℃以上であることが好ましい。500℃の成長温度は、InGaNおよびAlGaN等のような材料のMBE成長のための下限温度である。また、500℃より低い成長温度で成長された層は、良好な材料品質を持たない可能性が高い。
【0127】
1050℃の温度は、AlGaNのMOCVD成長のための概算の上限温度である。
したがって、図6の層構造の層26および27に対して、約500℃から約1050℃までの範囲内の成長温度を用いることは、用いる成長技術にかかわらず良好な材料品質をもたらすはずである。例外的に、InGaNやAlGaInN等のようなインジウム含有材料の成長のための概算の温度上限は、850℃の温度である。これは、850℃より著しく大きな温度ではインジウムを材料に含ませることが困難であるためである。インジウムを含む層の成長については、例えば層27がInGaN層である場合、あるいはアルミニウム含有窒化物層26がAlGaInN層である場合には、約500℃から約850℃までの範囲内の成長温度を用いることが、用いる成長技術にかかわらず良好な材料品質をもたらすはずである。
【0128】
さらに、アルミニウム含有窒化物層の成長温度は550℃〜700℃の範囲内であることが好ましい。これは、最高のシートキャリア濃度を持つ電子ガスを与える温度であることが見出された。これは、この温度範囲では、原子窒素へのアンモニア転化が乏しいために、成長に利用されうる原子窒素の濃度が低く、この温度での成長の間に窒素空孔が形成されることに起因しているものと考えられる。
【0129】
図7は、図4に示す全体構造を持つLEDの光出力パワーを、より低いAlGaNバリア層15の成長温度の関数として示す。図7から、より低いAlGaNバリア層15に用いられた3つの成長温度(600℃、630℃、および650℃)の全てが高い光出力パワーを与え、630℃の成長温度が最高の光出力パワーを与えることが分かる。これは、3つの成長温度全てにおいて高いシートキャリア濃度を持つ電子ガスが形成されること、また、より低いAlGaNバリア層15については630℃の成長温度が最高のシートキャリア濃度を電子ガスに与えることを示している。
【0130】
最高のシートキャリア濃度を与えるアニール温度は、アルミニウム含有窒化物層の厚みに依存することが分かった。これは、層再結晶化と表面窒素空孔の形成との組み合わせが起こったことに起因すると考えられる。本願明細書で述べたアルミニウム含有窒化物層の典型的な厚みでは、850℃〜950℃の範囲内のアニール温度が最高のシートキャリア濃度を与えることが分かった。
【0131】
図8は、図4に示す全体構造を持つLEDの光出力パワーを、アニール温度の関数として示す。図8から、825℃〜925℃の範囲内のアニール温度が高い光出力パワーを与え、870℃〜900℃の範囲内のアニール温度で最高の光出力パワーが得られることが分かる。これは、図8の全てのアニール温度で高いシートキャリア濃度を持つ電子ガスが形成されること、また、870℃〜900℃の範囲内のアニール温度が最高のシートキャリア濃度を電子ガスに与えることを示している。
【0132】
図7および図8の結果は、上述した表1の第1項の構造および成長条件を用い、AlGaN層の成長温度またはアニール温度を図に示すように変化させることで得られたものである。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明は、発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)等のような半導体発光デバイスや、ヘテロ構造電界効果トランジスタ(HFET)や高電子移動度トランジスタ(HEMT)等のような半導体電子デバイスなどの製造に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】(Al,Ga,In)N系で作製された公知の半導体レーザーデバイスの概略断面図である。
【図2】本発明に係るデバイスの伝導帯の概略図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係る半導体レーザーデバイスの概略断面図である。
【図4】本発明の実施の一形態に係る発光ダイオードの概略断面図である。
【図5】本発明の発光ダイオードの光出力パワーを示す図である。
【図6】図5の結果を得るために使用された半導体構造を示す図である。
【図7】図4に示す全体構造を持つLEDの光出力パワーを、より低いAlGaNバリア層の成長温度の関数として示す図である。
【図8】図4に示す全体構造を持つLEDの光出力パワーを、アニール温度の関数として示す図である。
【符号の説明】
【0135】
26 アルミニウム含有窒化物半導体層(AlGaN層)
27 InGa1−xN層(GaN層)
28 電子ガス領域
29 半導体層構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体デバイスを製造する方法であって、
InGa1−xN(0≦x≦1)層を成長させるステップと、
上記InGa1−xN層の上にアルミニウム含有窒化物半導体層を500℃以上の成長温度で成長させるステップと、
上記アルミニウム含有窒化物半導体層を800℃以上の温度でアニールするステップとを含み、
上記アルミニウム含有窒化物半導体層の厚さが、上記InGa1−xN層と上記アルミニウム含有窒化物半導体層との間の界面に電子ガス領域を形成させるような厚みである窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項2】
上記アルミニウム含有窒化物半導体層を750℃以下の成長温度で成長させる請求項1記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項3】
上記アルミニウム含有窒化物半導体層は、AlGaIn1−y−zN(ここで0<y≦1かつ0≦z≦1)層である請求項1または2に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項4】
上記AlGaIn1−y−zN層は、0<y<0.3を満たす請求項3記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項5】
上記アルミニウム含有窒化物半導体層が、AlGa1−yN層である請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項6】
上記アルミニウム含有窒化物半導体層の厚さが、5nm以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項7】
上記アルミニウム含有窒化物半導体層の厚さが、50nm未満である請求項6記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項8】
上記InGa1−xN層が、GaNの層である請求項1〜7のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項9】
上記InGa1−xN層の厚さが、20nm以上である請求項1〜8のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項10】
上記InGa1−xN層が、3μm未満の厚さを持つ請求項9記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項11】
上記InGa1−xN層が、意図的にドープされていない請求項1〜10のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項12】
上記InGa1−xN層が、ドープされたn型である請求項1〜11のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項13】
上記アルミニウム含有窒化物半導体層が、意図的にドープされていない請求項1〜12のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項14】
上記アルミニウム含有窒化物半導体層が、ドープされたn型である請求項1〜12のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項15】
上記アルミニウム含有窒化物半導体層をInGa1−xN層上に直接成長させるステップを含む請求項1〜14のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項16】
上記InGa1−xN層および上記アルミニウム含有窒化物半導体層を成長室内で成長させるステップを含み、かつ、
上記アルミニウム含有窒化物半導体層を成長室内でアニールするステップを含む請求項1〜15のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項17】
上記アルミニウム含有窒化物半導体層の上に1つまたはそれ以上の他の(Al,Ga,In)N層を成長させるステップを含む請求項1〜16のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項18】
上記電子ガス領域内には、使用時に、300Kの温度で6×1013cm−2以上のシートキャリア濃度を持つ電子ガスが発生する請求項1〜17のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項19】
上記電子ガス領域内には、使用時に、300Kの温度で1×1014cm−2以上のシートキャリア濃度を持つ電子ガスが発生する請求項18記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項20】
上記アルミニウム含有窒化物半導体層をアニールするステップの継続時間が、10分間以内である請求項1〜19のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項21】
窒化物材料系で作製された半導体発光デバイスであって、
発光のための活性領域と、
上記活性領域のn型側に配置された電子ガス領域とを含み、
上記電子ガス領域は、使用時に6×1013cm−2以上のシート電子密度を持つ電子ガスを含む半導体発光デバイス。
【請求項22】
上記活性領域のn型側に配置された第1層と、上記半導体発光デバイスの上記活性領域の一部をなし、かつ、上記第1層に近接するように配置された第2層とを含み、上記第2層は、上記第1層とは異なる組成を持ち、それによって上記第1層と上記第2層との間の界面に上記電子ガス領域が形成されている請求項21記載の半導体発光デバイス。
【請求項23】
上記第1層が、上記第2層に直接隣接するように配置されている請求項22に記載の半導体発光デバイス。
【請求項24】
上記電子ガス領域が、使用時に2次元電子ガスを含むことを特徴とする請求項21、22または23に記載の半導体発光デバイス。
【請求項25】
上記電子ガス領域が、使用時に3次元電子ガスを含む請求項21、22または23に記載の半導体発光デバイス。
【請求項26】
請求項22、または請求項22に直接もしくは間接的に従属する場合の請求項23〜25のいずれか1項に記載の半導体発光デバイスであって、
上記第1層が、GaN層である半導体発光デバイス。
【請求項27】
請求項22、または請求項22に直接もしくは間接的に従属する場合の請求項23〜25のいずれか1項に記載のデバイスであって、
上記第1層が、InGaN層である半導体発光デバイス。
【請求項28】
請求項22、または請求項22に直接もしくは間接的に従属する場合の請求項23〜27のいずれか1項に記載の半導体発光デバイスであって、
上記第2層が、アルミニウムを含む窒化物層である半導体発光デバイス。
【請求項29】
上記第2層が、AlGaN層である請求項28記載の半導体発光デバイス。
【請求項30】
請求項22、または請求項22に直接もしくは間接的に従属する場合の請求項23〜29のいずれか1項に記載の半導体発光デバイスであって、
上記第1層が、意図的にドープされていない半導体発光デバイス。
【請求項31】
請求項22、または請求項22に直接もしくは間接的に従属する場合の請求項23〜29のいずれか1項に記載の半導体発光デバイスであって、
上記第1層が、ドープされたn型である半導体発光デバイス。
【請求項32】
請求項22、または請求項22に直接もしくは間接的に従属する場合の請求項23〜31のいずれか1項に記載の半導体発光デバイスであって、
上記第2層が、意図的にドープされていない半導体発光デバイス。
【請求項33】
請求項22、または請求項22に直接あるいは間接的に従属する場合の請求項23〜31のいずれか1項に記載の半導体発光デバイスであって、
上記第2層が、ドープされたn型である半導体発光デバイス。
【請求項34】
上記半導体発光デバイスが、発光ダイオードである請求項21〜33のいずれか1項に記載の半導体発光デバイス。
【請求項35】
上記半導体発光デバイスが、半導体レーザーデバイスである請求項21〜34のいずれか1項に記載の半導体発光デバイス。
【請求項36】
上記窒化物半導体デバイスが、発光デバイスである請求項1〜20のいずれか1項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項37】
上記窒化物半導体デバイスが、発光ダイオードである請求項36記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項38】
上記窒化物半導体デバイスが、半導体レーザーデバイスである請求項36記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−310864(P2006−310864A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124485(P2006−124485)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】