説明

半導体発光素子及びその製造方法

【課題】発光素子の製造プロセスにおいて、あるいは又、発光素子の動作時、安定した挙動を示す第2電極を有する発光素子を提供する。
【解決手段】発光素子は、n型の導電型を有する第1化合物半導体層11、第1化合物半導体層11上に形成され化合物半導体から成る活性層12、活性層12の上に形成された、p型の導電型を有する第2化合物半導体層13、第1化合物半導体層11に電気的に接続された第1電極15、及び、第2化合物半導体層13上に形成された第2電極14を備えており、第2電極14は、チタン酸化物から成り、4×1021/cm3以上の電子濃度を有し、活性層で発光した光を反射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)等の半導体発光素子は、例えば、基体10上に、n型導電型を有する第1化合物半導体層11、活性層12、p型導電型を有する第2化合物半導体層13が、順次、積層された構造を有する。そして、基板あるいは露出した第1化合物半導体層11の部分11Aには第1電極(n側電極)15が設けられ、第2化合物半導体層13の頂面には第2電極(p側電極)114が設けられている。このような半導体発光素子は、活性層12からの光が第2化合物半導体層13を介して出射される形式の半導体発光素子と、例えば、WO2003/007390に開示されているように、活性層12からの光が第1化合物半導体層11を介して出射される形式(便宜上、ボトム・エミッション型と呼ぶ)の半導体発光素子の2種類に分類することができる。
【0003】
従来のボトム・エミッション型の半導体発光素子にあっては、発光効率を高く維持するために、通常、図5に示すように、第2電極114には活性層12からの可視光を反射する反射電極が多く用いられている。ここで、第2電極114には、活性層12から出射された可視光を反射させるために十分な電子密度が必要とされ、第2電極114は、例えば、銀(Ag)やアルミニウム(Al)等の金属から構成されている。しかしながら、これらの金属から構成された第2電極にあっては、半導体発光素子の製造プロセスにおいて、あるいは又、半導体発光素子の動作時、電気的マイグレーションが生じ易く、また、酸化等の劣化が顕著である。それ故、屡々、第2電極を覆うように、例えばTiWから成る被覆層100が形成されている。尚、図5における半導体発光素子のその他の構成要素に関しては、後述する実施例1において、詳しく説明する。
【0004】
【特許文献1】WO2003/007390
【非特許文献1】T. Hitotsugi, A. Ueda, Y. Furubayashi, Y. Hirose, S. Nomura, T. Shimada, T. Hasegawa, Jpn. J. Appl. Phys. 46, L86 (2007)
【非特許文献2】N. Yamada, T. Hitotsugi, N. L. Kuong, Y. Furubayashi, Y. Hirose, T. Shimada, T. Hasegawa, Jpn. J. Appl. Phys. 46, 5275 (2007)
【非特許文献3】T. Hitotsugi, Y. Furubayashi, A. Ueda, K. Itabashi, K. Inaba, Y. Hirose, G. Kinoda, Y. Yamamoto, T. Shimada, T. Hasegawa, Jpn. J. Appl. Phys. 44, L1063 (2005)
【非特許文献4】Y. Furubayashi, T. Hitotsugi, Y. Yamamoto, K. Inaba, G. Kinoda, T. Shimada, T. Hasegawa, Appl. Phys. Lett. 86, 252101 (2005)
【非特許文献5】T. Hitotsugi, A. Ueda, S. Nakano, N. Yamada, Y. Furubayashi, Y. Hirose, T. Shimada, T. Hasegawa, Appl. Phys. Lett. 90, 212106 (2007)
【非特許文献6】T. Hitotsugi, Y. Hirose, J. Kasai, Y. Furubayashi, M. Ohtani, K. Nakajima, T. Chilyow, T. Shimada, T. Hasegawa, Jpn. J. Appl. Phys. 44, L1503 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、被覆層100によって第2電極114を覆うためには、例えば、物理的気相成長法(PVD法)に基づく被覆層100の形成、リソグラフィ技術及びエッチング技術による被覆層100のパターニングといった種々のプロセスを必要とする。それ故、半導体発光素子の製造コストの増加を免れない。
【0006】
従って、本発明の目的は、半導体発光素子の製造プロセスにおいて、あるいは又、半導体発光素子の動作時、安定した挙動を示す第2電極を有する半導体発光素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の半導体発光素子は、
(A)n型の導電型を有する第1化合物半導体層、
(B)第1化合物半導体層上に形成された、化合物半導体から成る活性層、
(C)活性層の上に形成された、p型の導電型を有する第2化合物半導体層、
(D)第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極、及び、
(E)第2化合物半導体層上に形成された第2電極、
を備えており、
第2電極は、チタン酸化物から成り、4×1021/cm3以上の電子濃度を有し、活性層で発光した光を反射する。
【0008】
本発明の半導体発光素子にあっては、第2電極には、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、又は、バナジウム(V)がドープされている形態とすることができる。云い換えれば、第2電極にドープされた不純物は、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)及びバナジウム(V)から成る群から選択された少なくとも1種の原子である形態とすることができる。
【0009】
また、上記の好ましい形態を含む本発明の半導体発光素子において、第1化合物半導体層、活性層、及び、第2化合物半導体層を構成する化合物半導体は、AlXGaYIn1-X-YN(0≦X≦1,0≦Y≦1,0≦X+Y≦1)である構成とすることができる。
【0010】
更には、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の半導体発光素子にあっては、チタン酸化物の結晶構造はルチル構造である構成とすることが好ましい。
【0011】
また、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の半導体発光素子にあっては、第2電極が形成された第2化合物半導体層の頂面は(0001)面(C面とも呼ばれる)を有する構成とすることが望ましい。このように、第2化合物半導体層の頂面をC面とすることで、化合物半導体層を構成する化合物半導体にも依るが、第2電極との間で高い格子整合性を図ることができる。
【0012】
上記の目的を達成するための本発明の半導体発光素子の製造方法は、
(a)基体上に、n型の導電型を有する第1化合物半導体層、活性層、及び、p型の導電型を有する第2化合物半導体層が順次積層されて成る発光部を形成した後、
(b)第2化合物半導体層上に第2電極を形成する、
工程を少なくとも具備し、
第1化合物半導体層、活性層、及び、第2化合物半導体層を構成する化合物半導体は、AlXGaYIn1-X-YN(0≦X≦1,0≦Y≦1,0≦X+Y≦1)であり、
前記工程(b)にあっては、(0001)面を有する第2化合物半導体層の頂面上に、結晶構造がルチル構造であるチタン酸化物から成る第2電極を、電子濃度が4×1021/cm3以上となるように不純物がドープされた状態でエピタキシャル成長させる。
【0013】
本発明の半導体発光素子の製造方法にあっては、不純物は、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、又は、バナジウム(V)である形態とすることができる。云い換えれば、第2電極にドープされた不純物は、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)及びバナジウム(V)から成る群から選択された少なくとも1種の原子である形態とすることができる。尚、場合によっては、第2電極を形成した後、不純物の追加といった観点から、例えば、イオン注入法によって不純物を第2電極に注入してもよい。
【0014】
上記の好ましい形態を含む本発明の半導体発光素子の製造方法においては、第2電極を、物理的気相成長法の一種であるパルス・レーザ・デポジッション法(Pulse Laser Deposition法、PLD法)に基づき形成することが望ましいが、これに限定するものではなく、その他、分子線エピタキシー法(MBE法)やスパッタリング法に基づき第2電極を形成することもできる。
【0015】
また、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の半導体発光素子あるいはその製造方法にあっては、第2電極を構成する材料は、温度の増加と共に電気伝導率が増加する性質、所謂、金属ライクの性質を有していることが好ましい。尚、金属ライクであるか否かは、電気伝導率の測定以外にも、X線光電子分光法(XPS法)に基づき物質の状態密度を測定し、フェルミエッジが存在するか否かで調べることもできる。
【0016】
更には、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の半導体発光素子あるいはその製造方法にあっては、第2電極において、以下の式(1)で表されるプラズマ振動数(ω)が425nm以下である形態とすることが望ましい。
【0017】
ω={(ne・e2)/(ε0・me)}1/2 (1)
但し、
e:電子密度
e :電気素量
ε0:真空の誘電率
e:電子の静止質量
である。
【0018】
また、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の半導体発光素子あるいはその製造方法において、活性層で発光した光は、第1化合物半導体層を介して外部に出射される構成とすることが好ましい。即ち、半導体発光素子を、ボトム・エミッション型とすることが好ましい。
【0019】
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の半導体発光素子、あるいは、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の半導体発光素子の製造方法(以下、これらを総称して、『本発明』と呼ぶ場合がある)にあっては、上述したとおり、化合物半導体として、GaN系化合物半導体(AlGaN混晶あるいはAlGaInN混晶、GaInN混晶を含む)だけでなく、InN系化合物半導体、AlN系化合物半導体を挙げることができる。また、これらの層の形成方法(成膜方法)として、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法)やMBE法、ハロゲンが輸送あるいは反応に寄与するハイドライド気相成長法を挙げることができる。化合物半導体層に添加されるn型不純物として、例えば、ケイ素(Si)やセレン(Se)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、炭素(C)、チタン(Ti)を挙げることができるし、p型不純物として、亜鉛(Zn)や、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、カドミウム(Cd)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、酸素(O)を挙ることができる。
【0020】
本発明において、基体として、サファイア基板、GaAs基板、GaN基板、SiC基板、アルミナ基板、ZnS基板、ZnO基板、AlN基板、LiMgO基板、LiGaO2基板、MgAl24基板、InP基板、Si基板、Ge基板、これらの基板の表面(主面)に下地層やバッファ層が形成されたものを挙げることができる。また、本発明において、半導体発光素子は、先ず、基体上に設けられるが、半導体発光素子の最終形態として、基体上に形成されている形態、及び、基体が除去されている形態を挙げることができる。
【0021】
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の半導体発光素子、あるいは、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の半導体発光素子の製造方法によって得られる半導体発光素子(以下、これらを総称して、『本発明の半導体発光素子等』と呼ぶ場合がある)にあっては、第1電極を構成する材料として、チタン(Ti)、TiWやTiMoといったチタン合金から構成することができるし(例えば、TiW層、Ti層/Ni層/Au層等)、あるいは又、アルミニウム(Al)やアルミニウム合金、AuGe、AuGe/Ni/Au等から構成することもできる。尚、電極が積層構造を有する場合、「/」の前の材料が基体側に位置する。第1電極や第2電極に対して、必要に応じて、例えば、Ti層/Pt層/Au層等といった[接着層(Ti層やCr層等)]/[バリアメタル層(Pt層、Ni層、TiW層やMo層等)]/[実装に対して融和性の良い金属層(例えばAu層)]のような積層構成とした多層メタル層から成るコンタクト部(パッド部)を設けてもよい。第1電極やコンタクト部(パッド部)は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法といった各種のPVD法、各種の化学的気相成長法(CVD法)、メッキ法によって形成することができる。
【0022】
本発明の半導体発光素子等によって、具体的には、例えば、発光ダイオード(LED)、端面発光型の半導体レーザや、面発光レーザ素子(垂直共振器レーザ、VCSEL)を構成することができる。
【0023】
本発明の半導体発光素子等にあっては、第2電極は活性層で発光した光を反射するが、ここで、第2電極が光を反射するとは、波長380nmから800nmでの光反射率が40%以上であることを意味する。第2電極の光反射率は、理論的に光反射率が100%である誘電体多層膜を基準として、相対的な反射光強度を比較することで求めることができる。第2電極における電子濃度は、ホール測定(ファン・デル・ポー法)に基づき求めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明においては、高電子密度を有するチタン酸化物から第2電極を構成することで、高い導電性を得ることができるだけでなく、高い光反射率を得ることができる結果、半導体発光素子の発光効率を大幅に向上させることができる。しかも、第2電極をチタン酸化物から構成するので、酸化による劣化といった問題が生じることもないし、チタン酸化物は極めて安定した物質であることから、電気的マイグレーションが発生することもない。従って、第2電極を被覆層によって被覆する必要がなく、半導体発光素子の製造工程の簡素化、半導体発光素子の製造コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明するが、それに先立ち、本発明の第2電極の考察を行う。
【0026】
チタン酸化物に5価のニオブ(Nb)やタンタル(Ta)をドープすると、即ち、Ti1-ZZ2(Aは5価の不純物)とすることで、ITOに匹敵するほどの高い伝導性が得られることが知られている(例えば、非特許文献1:T. Hitotsugi, A. Ueda, Y. Furubayashi, Y. Hirose, S. Nomura, T. Shimada, T. Hasegawa, Jpn. J. Appl. Phys. 46, L86 (2007)、非特許文献2:N. Yamada, T. Hitotsugi, N. L. Kuong, Y. Furubayashi, Y. Hirose, T. Shimada, T. Hasegawa, Jpn. J. Appl. Phys. 46, 5275 (2007)、非特許文献3:T. Hitotsugi, Y. Furubayashi, A. Ueda, K. Itabashi, K. Inaba, Y. Hirose, G. Kinoda, Y. Yamamoto, T. Shimada, T. Hasegawa, Jpn. J. Appl. Phys. 44, L1063 (2005)、非特許文献4:Y. Furubayashi, T. Hitotsugi, Y. Yamamoto, K. Inaba, G. Kinoda, T. Shimada, T. Hasegawa, Appl. Phys. Lett. 86, 252101 (2005)、非特許文献5:T. Hitotsugi, A. Ueda, S. Nakano, N. Yamada, Y. Furubayashi, Y. Hirose, T. Shimada, T. Hasegawa, Appl. Phys. Lett. 90, 212106 (2007) を参照)。ここで、ドルーデの電子論に基づき、遍歴のない自由電子を仮定すると、式(1)に従いプラスモンと呼ばれるプラズマ振動数(ω)が決定される(例えば、C.Kittel 「固体物理学入門上」第7版 第304頁 (1998) 参照)。
【0027】
ω={(ne・e2)/(ε0・me)}1/2 (1)
【0028】
但し、
e:電子密度
e :電気素量
ε0:真空の誘電率
e:電子の静止質量
である。
【0029】
プラスモンとは電子振動を量子化したもので、これ以下のエネルギーの光は理論上全反射されてしまう。そこで、チタン酸化物中の電子濃度をプラズマ振動数以上に増加させることで、可視光領域の光を全反射させることが可能となる。チタン酸化物中では、不純物であるNbやTaの活性化率は、約80%と云われている。従って、5×1021/cm3の不純物をドーズすることで、電子濃度(キャリア濃度)は4×1021/cm3となり、約423nmの光まで全反射させることができる(図2参照)。尚、図2の横軸は電子濃度であり、縦軸は波長に換算したプラズマ振動数である。当然、これ以上の不純物をドープすることで、一層、高いプラズマ振動数を得ることができる。
【0030】
また、チタン酸化物は非常に安定な物質であるため、チタン酸化物から構成した第2電極は、プロセス耐性、熱耐性、電気的耐性に非常に強い。更には、チタン酸化物(二酸化チタン,酸化チタン(IV))は大気中ではルチル型が安定であり、また、ルチル構造を有するチタン酸化物(ルチル型TiO2と呼ぶ場合もある)は、GaNのC面上でヘテロエピタキシャル成長することが知られている(例えば、非特許文献6:T. Hitotsugi, Y. Hirose, J. Kasai, Y. Furubayashi, M. Ohtani, K. Nakajima, T. Chilyow, T. Shimada, T. Hasegawa, Jpn. J. Appl. Phys. 44, L1503 (2005) 参照)。従って、ルチル型TiO2から成る第2電極を、第2化合物半導体層のC面上でヘテロエピタキシャル成長させることによって、化合物半導体層と第2電極との界面に欠陥等で生じる準位が存在しない、電気的に良好な界面を得ることができる。
【実施例1】
【0031】
実施例1は、本発明の半導体発光素子及びその製造方法に関する。
【0032】
実施例1の半導体発光素子は、発光ダイオード(LED)から成り、図1の(A)に構成要素の模式的な配置図を示し、図1の(A)の矢印B−Bに沿った図1の(B)に模式的な断面図を示すように、
(A)n型の導電型を有する第1化合物半導体層11、
(B)第1化合物半導体層11上に形成された、化合物半導体から成る活性層12、
(C)活性層12の上に形成された、p型の導電型を有する第2化合物半導体層13、
(D)第1化合物半導体層11に電気的に接続された第1電極15、及び、
(E)第2化合物半導体層13上に形成された第2電極14、
を備えている。
【0033】
そして、第2電極14は、チタン酸化物、具体的には、結晶構造がルチル構造を有するチタン酸化物から成り、4×1021/cm3以上の電子濃度を有し、活性層12で発光した光を反射する。即ち、実施例1の半導体発光素子はボトム・エミッション型であり、活性層12で発光した光は、第1化合物半導体層11を介して外部に出射される。ここで、第2電極14においては、チタン酸化物(ルチル型TiO2)にニオブ(Nb)又はタンタル(Ta)がドープされている。そして、ホール測定(ファン・デル・ポー法)に基づき求められた第2電極14における電子濃度の値は4×1021/cm3である。従って、第2電極14において、上述した式(1)で表されるプラズマ振動数(ω)は425nm以下である。第2電極14を構成する材料(Nb又はTaがドープされたルチル型TiO2)は、温度の増加と共に電気伝導率が増加する性質、所謂、金属ライクの性質を有している。
【0034】
ここで、基体10は、例えばサファイアから成る基板10A、及び、基板10A上に形成されたGaNから成る下地層10Bから構成されている。また、第1化合物半導体層11、活性層12、及び、第2化合物半導体層13を構成する化合物半導体は、AlXGaYIn1-X-YN(0≦X≦1,0≦Y≦1,0≦X+Y≦1)、より具体的には、GaN系化合物半導体から構成されている。即ち、第1化合物半導体層11はSiドープのGaN(GaN:Si)から成り、活性層12はInGaN層(井戸層)及びGaN層(障壁層)から成り、多重量子井戸構造を有する。また、第2化合物半導体層13はMgドープのGaN(GaN:Mg)から成る。そして、第1化合物半導体層11、活性層12及び第2化合物半導体層13が積層された積層構造から、発光部が構成されている。尚、第2電極14が形成された第2化合物半導体層13の頂面はC面である(0001)面を有する。
【0035】
更には、第1電極15は、第2化合物半導体層13及び活性層12の一部分を除去する(エッチングする)ことで露出した第1化合物半導体層11の一部分11Aの上に設けられている。そして、第2電極14から、残された第2化合物半導体層13の直下の活性層12の部分を経由して、第1化合物半導体層11、第1電極15へと電流を流すことで、活性層12にあっては、電流注入によって活性層12の量子井戸構造が励起され、全面で発光状態となる。尚、図1の(A)においては、発光ダイオードの構成要素の一部のみを図示している。
【0036】
また、実施例1の発光ダイオードにおいては、第1電極15上には、絶縁層16に設けられた第1開口部17Aから絶縁層16上を延びる第1コンタクト部(第1パッド部)18Aが形成され、第2電極14上には、絶縁層16に設けられた第2開口部17Bから絶縁層16上を延びる第2コンタクト部(第2パッド部)18Bが形成されている。絶縁層16を構成する材料として、SiOX系材料、SiNY系材料、SiOXY系材料、Ta25、ZrO2、AlN、Al23を例示することができる。
【0037】
以下、基板等の模式的な一部断面図である図3の(A)、(B)、及び、図4の(A)、(B)を参照して、実施例1の半導体発光素子の製造方法を説明する。
【0038】
[工程−100]
先ず、サファイアから成る基板10AをMOCVD装置に搬入し、水素から成るキャリアガス中、基板温度1050゜Cで10分間の基板クリーニングを行った後、基板温度を500゜Cまで低下させる。そして、MOCVD法に基づき、窒素原料であるアンモニアガスを供給しながら、ガリウム原料であるトリメチルガリウム(TMG)ガスの供給を行い、GaNから成る下地層10Bを基板10Aの表面に結晶成長させた後、TMGガスの供給を中断する。
【0039】
[工程−110]
次いで、基体10上に、n型を有する第1化合物半導体層11、活性層12、及び、p型を有する第2化合物半導体層13が、順次、積層されて成る発光部を形成する。
【0040】
具体的には、MOCVD法に基づき、基板温度を1020゜Cまで上昇させた後、常圧にて、シリコン原料であるモノシラン(SiH4)ガスの供給を開始することで、SiドープのGaN(GaN:Si)から成り、n型の導電型を有する厚さ3μmの第1化合物半導体層11を、下地層10Bに結晶成長させる。尚、ドーピング濃度は、例えば、約5×1018/cm3である。
【0041】
その後、一旦、TMGガス、SiH4ガスの供給を中断し、基板温度を750゜Cまで低下させる。そして、トリエチルガリウム(TEG)ガス及びトリメチルインジウム(TMI)ガスを使用し、バルブ切り替えによりこれらのガスの供給を行うことで、InGaN及びGaNから成り、多重量子井戸構造を有する活性層12を結晶成長させる。
【0042】
例えば、発光波長400nmの発光ダイオードであれば、In組成約9%のInGaNとGaN(それぞれの厚さ:2.5nm及び7.5nm)の多重量子井戸構造(例えば、2層の井戸層から成る)とすればよい。また、発光波長460nm±10nmの青色発光ダイオードであれば、In組成15%のInGaNとGaN(それぞれの厚さ:2.5nm及び7.5nm)の多重量子井戸構造(例えば、15層の井戸層から成る)とすればよい。更には、発光波長520nm±10nmの緑色発光ダイオードであれば、In組成23%のInGaNとGaN(それぞれの厚さ:2.5nm及び15nm)の多重量子井戸構造(例えば、9層の井戸層から成る)とすればよい。
【0043】
活性層12の形成完了後、TEGガス、TMIガスの供給中断と共に、キャリアガスを窒素から水素に切り替え、850゜Cまで基板温度を上昇させ、TMGガスとビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)ガスの供給を開始することで、厚さ100nmのMgドープのGaN(GaN:Mg)から成る第2化合物半導体層13を活性層12の上に結晶成長させる。尚、ドーピング濃度は、約5×1019/cm3である。その後、TMGガス及びCp2Mgガスの供給中止と共に基板温度を低下させ、室温まで基板温度を下げて結晶成長を完了させる。
【0044】
[工程−120]
こうして結晶成長を完了した後、窒素ガス雰囲気中で約800゜C、10分間のアニール処理を行って、p型不純物(p型ドーパント)の活性化を行う。
【0045】
[工程−130]
次に、第2電極(p側電極)14として、第2化合物半導体層上に、Ti1-ZZ2(Aは5価の不純物であり、具体的には、Nb又はTa)をPLD法に基づき堆積させる。具体的には、例えば、以下の表1に示す条件にて第2電極14を成膜する。次いで、例えば、水素雰囲気で400゜C、5分といった条件の還元アニールを行うことで、過酸化された第2電極14を構成するTiOx(x>2)をTiO2へとすることができる。ここで、不純物濃度は、活性層12からの光が第2電極14によって反射されるように、キャリア濃度が4×1021/cm3以上となるような値とする。例えば、上述したとおり、NbやTaの場合、TiO2中での電気的活性化率は約80%であるが故に、約5×1021/cm3以上のドーズ量とすればよい。尚、一般には、TiO2中での不純物の電気的活性化率をαとすれば、不純物のドーズ量は、4×1021×(1/α)/cm3以上とすればよい。また、ルチル型TiO2はGaNのC面上にヘテロエピタキシャル成長することが知られており、非常に良好な界面が得られ易い。
【0046】
[表1]
レーザ光源 :KrFエキシマレーザ(波長:248nm)
強度 :2J/cm2 2Hz
ターゲット :TiO2粉末の焼結体
(Nb又はTaとしてNb25,Ta25を添加)
ターゲットから第2化合物半導体層までの距離:約50mm
プロセスガス:O2
基板温度 :250゜C
【0047】
[工程−140]
その後、第1化合物半導体層11の一部分を露出させる。具体的には、リソグラフィ技術及びドライエッチング技術にて、第2電極14、第2化合物半導体層13、活性層12の一部を除去して、第1化合物半導体層11の一部分11Aを露出させる(図3の(A)参照)。その後、リフトオフ法に基づき、露出した第1化合物半導体層11の一部分の上に第1電極15を形成する。具体的には、全面にレジスト層を形成し、第1電極15を形成すべき第1化合物半導体層11の一部分の上のレジスト層に開口を形成する。そして、全面に、第1電極15を構成する金属層(例えば、Ti層)をスパッタリング法にて成膜し、次いで、レジスト層を除去することで、第1電極15を形成することができる(図3の(B)参照)。
【0048】
[工程−150]
その後、少なくとも、露出した第1化合物半導体層11の一部分、露出した活性層12の部分、及び、露出した第2化合物半導体層13の部分、並びに、第2電極14の一部分を、絶縁層16で被覆する(図4の(A)参照)。絶縁層16の形成方法として、例えば真空蒸着法やスパッタリング法といったPVD法、あるいは、CVD法を挙げることができる。その後、第1電極15上の絶縁層16の部分及び第2電極14上の絶縁層16の部分に、それぞれ、リソグラフィ技術及びドライエッチング技術に基づき、第1開口部17A及び第2開口部17Bを形成する(図4の(B)参照)。次いで、第1電極15から第1開口部17Aを介して絶縁層16上に延びる第1コンタクト部(第1パッド部)18Aを形成し、同時に、第2電極14から第2開口部17Bを介して絶縁層16上に延びる第2コンタクト部(第2パッド部)18Bを形成する。尚、第1コンタクト部(第1パッド部)18A及び第2コンタクト部(第2パッド部)18Bは、例えば、真空蒸着法によって形成されたTi層/Pt層、及び、その上にメッキ法によって形成されたAu層から成る。その後、ダイシングによりチップ化を行い、図1に示した半導体発光素子(発光ダイオード)を得ることができる。更には、樹脂モールド、パッケージ化を行うことで、例えば、砲弾型や面実装型といった種々の半導体発光素子(具体的には、発光ダイオード)を作製することができる。
【0049】
実施例1にあっては、不純物がドープされ、高電子密度を有するチタン酸化物から第2電極14を構成することで、高い導電性を得ることができるだけでなく、高い光反射率を得ることができる結果、半導体発光素子の発光効率を大幅に向上させることができる。しかも、第2電極14をチタン酸化物から構成するので、酸化によって劣化することがないし、電気的マイグレーションが発生することもない。従って、従来の技術と異なり、第2電極14を被覆層によって被覆する必要がなく、半導体発光素子の製造工程の簡素化、製造コストの低減を図ることができる。また、不純物がドープされたチタン酸化物は仕事関数が大きいので、p型の導電型を有する第2化合物半導体層13との間のショットキバリアが低く、第2電極14と第2化合物半導体層13との間の電気的接続として良好なオーミック・コンタクトを得ることができる。
【0050】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。実施例において説明した半導体発光素子の構成、構造、半導体発光素子を構成する材料、半導体発光素子の製造条件や各種数値は例示であり、適宜変更することができる。例えば、実施例1において説明した半導体発光素子においては、半導体発光素子の最終形態として基体上に形成されている形態を挙げたが、代替的に、基体を研磨やエッチングすることで除去し、露出した第1化合物半導体層11に第1電極15を形成する構造とすることもできる。また、導電性を有する基板を用いれば、基板の主面(表面,おもてめん)に第1化合物半導体層等を形成し、基板の裏面に第1電極15を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1の半導体発光素子の構成要素の模式的な配置図、及び、図1の(A)の矢印B−Bに沿った実施例1の半導体発光素子の模式的な断面図である。
【図2】図2は、電子濃度と波長に換算したプラズマ振動数との関係を示すグラフである。
【図3】図3の(A)及び(B)は、実施例1の半導体発光素子の製造方法を説明するための基体等の模式的な一部端面図である。
【図4】図4の(A)及び(B)は、図3の(B)に引き続き、実施例1の半導体発光素子の製造方法を説明するための基体等の模式的な一部端面図である。
【図5】図5は、従来の半導体発光素子の模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0052】
10・・・基体、10A・・・基板、10B・・・下地層、11・・・第1化合物半導体層、12・・・活性層、13・・・第2化合物半導体層、14・・・第2電極、15・・・第1電極、16・・・絶縁層、17A,17B・・・開口部、18A,18B・・・コンタクト部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)n型の導電型を有する第1化合物半導体層、
(B)第1化合物半導体層上に形成された、化合物半導体から成る活性層、
(C)活性層の上に形成された、p型の導電型を有する第2化合物半導体層、
(D)第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極、及び、
(E)第2化合物半導体層上に形成された第2電極、
を備えており、
第2電極は、チタン酸化物から成り、4×1021/cm3以上の電子濃度を有し、活性層で発光した光を反射する半導体発光素子。
【請求項2】
第2電極にはニオブ又はタンタルがドープされている請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
第1化合物半導体層、活性層、及び、第2化合物半導体層を構成する化合物半導体は、AlXGaYIn1-X-YN(0≦X≦1,0≦Y≦1,0≦X+Y≦1)である請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
チタン酸化物の結晶構造はルチル構造である請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
第2電極が形成された第2化合物半導体層の頂面は(0001)面を有する請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
第2電極を構成する材料は、温度の増加と共に電気伝導率が増加する性質を有する請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
第2電極において、以下の式(1)で表されるプラズマ振動数(ω)が425nm以下である請求項1に記載の半導体発光素子。
ω={(ne・e2)/(ε0・me)}1/2 (1)
但し、
e:電子密度
e :電気素量
ε0:真空の誘電率
e:電子の静止質量
【請求項8】
活性層で発光した光は、第1化合物半導体層を介して外部に出射される請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項9】
(a)基体上に、n型の導電型を有する第1化合物半導体層、活性層、及び、p型の導電型を有する第2化合物半導体層が順次積層されて成る発光部を形成した後、
(b)第2化合物半導体層上に第2電極を形成する、
工程を少なくとも具備し、
第1化合物半導体層、活性層、及び、第2化合物半導体層を構成する化合物半導体は、AlXGaYIn1-X-YN(0≦X≦1,0≦Y≦1,0≦X+Y≦1)であり、
前記工程(b)にあっては、(0001)面を有する第2化合物半導体層の頂面上に、結晶構造がルチル構造であるチタン酸化物から成る第2電極を、電子濃度が4×1021/cm3以上となるように不純物がドープされた状態でエピタキシャル成長させる半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
不純物は、ニオブ又はタンタルである請求項9に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項11】
第2電極を、パルス・レーザ・デポジッション法に基づき形成する請求項9に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項12】
第2電極を構成する材料は、温度の増加と共に電気伝導率が増加する性質を有する請求項9に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項13】
第2電極において、以下の式(1)で表されるプラズマ振動数(ω)が425nm以下である請求項9に記載の半導体発光素子の製造方法。
ω={(ne・e2)/(ε0・me)}1/2 (1)
但し、
e:電子密度
e :電気素量
ε0:真空の誘電率
e:電子の静止質量
【請求項14】
活性層で発光した光は、第1化合物半導体層を介して外部に出射される請求項9に記載の半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−231523(P2009−231523A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74875(P2008−74875)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】