説明

半導体装置およびその製造方法

【課題】 縦型GaN系半導体装置において、p型GaNバリア層による耐圧性能の向上を得ながら、オン抵抗を低くできる半導体装置を提供する。
【解決手段】 開口部28壁面に位置するチャネルを含む再成長層27と、端面が被覆されるp型バリア層6と、p型バリア層上に接するソース層7と、再成長層の上に位置するゲート電極Gと、開口部の周囲に位置するソース電極Sとを備え、ソース層が超格子構造で構成され、該超格子構造が、p型バリア層よりも小さい格子定数を持つ第1の層(a層)と、該第1の層よりも格子定数が大きい第2の層(b層)との積層体である、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電力のスイッチングに用いられる、半導体装置およびその製造方法、とくに窒化物半導体のうちGaN系半導体を用いた半導体装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大電流用のスイッチング素子には、高い逆方向耐圧と低いオン抵抗とが求められる。III族窒化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)は、バンドギャップが大きいことから、高耐圧、高温動作などの点で優れており、とくにGaN系半導体を用いた縦型トランジスタは、大電力の制御用トランジスタとして注目されている。たとえばGaN系半導体に開口部を設けて、その開口部の壁面に二次元電子ガス(2DEG:2 Dimensional Electron Gas)のチャネルを含む再成長層を設けることで、移動度を高めオン抵抗を低くした縦型GaN系FETの提案がなされている(特許文献1、2)。この縦型GaN系FETでは,耐圧性能を改善するためにp型GaNバリア層をnソース層の直下に配置する機構が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−286942号公報
【特許文献2】特開2008−192701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の縦型GaN系FETでは、上記p型GaNバリア層により、耐圧性能を改善できるかもしれない。しかし、p型GaNバリア層に含まれるアクセプタのMgは移動しやすく、上記のnソース層に侵入してそのnソース層の電気抵抗を増大する。電子が、開口部壁面の電子走行層(チャネル)に移動する経路には、(P1)ソース電極から、直接、電子走行層に移動する経路、および(P2)ソース電極から、ソース層を経由して電子走行層に移動する経路、の2通りがある。たとえばMgがnソース層に侵入してそのnソース層の電気抵抗を増大したのでは、上記(P2)の経路の電気抵抗を増大させて、その結果、この縦型半導体装置の全体のオン抵抗を増大させる。したがって、p型バリア層の配置によって耐圧性能は向上するかもしれないが、オン抵抗の増大を招いてしまう。もともとオン抵抗と耐圧性能とはトレードオフの関係にあり、両方の性能を共に向上させることは難しい。
【0005】
本発明は、縦型GaN系半導体装置において、p型GaNバリア層による耐圧性能の向上を得ながら、オン抵抗を低くすることができる半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の半導体装置は、開口部が設けられた3族窒化物系積層体を備える縦型の半導体装置である。この半導体装置は、開口部の壁面を覆うように位置するチャネルを含む再成長層と、開口部の壁面において再成長層にその端面が被覆されるp型3族窒化物系半導体層(以下、p型バリア層と記す)と、3族窒化物系積層体の表層を形成し、p型バリア層上に接して位置する3族窒化物系ソース層(以下、ソース層と記す)と、開口部において再成長層の上に位置するゲート電極と、開口部の周囲の3族窒化物系積層体上において再成長層およびソース層に接して位置するソース電極とを備える。再成長層は電子走行層および電子供給層を含み、チャネルが電子走行層内の電子供給層との界面に生じる二次元電子ガス(2DEG:2 Dimensional Electron Gas)により形成される。そして、ソース層が超格子構造で構成され、該超格子構造が、p型バリア層よりも小さい格子定数を持つ第1の層と、該第1の層(a層)よりも格子定数が大きい第2の層(b層)との積層体である、ことを特徴とする。
【0007】
上記の構成によれば、ソース層を形成する超格子構造内に、p型バリア層よりも格子定数が小さい第1の層(a層)を含む。このため、Mgなどアクセプタは第1の層を通り抜けることが難しくなり、ソース層内にMg等が侵入することは抑止される。Mgがソース層内に入るとソース層の電気抵抗は増大する。また、Mg等は、p型バリア層と接触面積が大きいソース層を経由して電子走行層の上流側にも入り、電子ガス流の散乱を引き起こし、電気抵抗を増大させる。
超格子構造内に第1の層を含むことで、上記のようなMgの進入を抑止することができる。その結果、ソース電極からソース層を経由して電子走行層にいたる経路(P2)の電気抵抗の増大を防止することで、半導体装置全体のオン抵抗の増大を防ぎことができる。
そして、結晶構造や格子定数の違いに起因する自然分極やピエゾ分極等によって二次元電子ガスが第2の層内の第1の層側の界面に生じる。この結果、ソース電極から超格子構造(ソース層)内の二次元電子ガスを経て、電子走行層にいたる経路の電気抵抗を、従来のnソース層よりも低くできることができる。
上記を整理すると、本発明では、次の2つの作用によって、低いオン抵抗を得ることができる。
(E1)p型バリア層からのMg等のソース層、およびソース層を経由した電子走行層上流への侵入を、超格子構造内の第1の層によって難しくする。
(E2)超格子構造を、格子定数が小さい第1の層と、それより大きな格子定数を持つ第2の層とで構成することで、第2の層内の第1の層側に二次元電子ガスを生じる。二次元電子ガスの濃度を十分高くすることで、ソース層の電気抵抗を、従来のnソース層よりも低くすることができる。
上記の超格子構造は、ドナー等をドープしてもよいが、電子はドナーで散乱する可能性があり、アンドープまたは不純物を抑制することが望ましい。耐圧性能という点からも不純物の導入は抑制するのがよい。
超格子構造では、(第1の層(a層)/第2の層(b層))を1ペアとして、何ペアであってもよい。また、第1の層と第2の層は、第1の層をp型バリア層上に接して位置させてもよいし、第2の層をp型バリア層上に接して位置させてもよい。すなわちどちらを下にしてp型バリア層上に接してもよい。ただ、Mgの侵入を抑止する上では第1の層をp型バリア層上に接して位置させるのがよい。
【0008】
第1の層を、AlNか、またはAl組成比が第2の層よりも大きいGaN系半導体とし、第2の層をGaN系半導体とすることができる。
これによって、第1の層の格子定数を、簡単に、第2の層の格子定数よりも小さくすることができる。その結果、Mgのソース層への侵入を抑止しながら、格子定数の差に起因して誘起される二次元電子ガスによって低いオン抵抗とすることができる。
【0009】
前記第1の層および/または第2の層、の厚みを、10nm以上100nm以下とすることができる。
これによって、ピエゾ分極を高い強度で生じさせて、第2の層内の第1の層側に十分高濃度の二次元電子ガスを誘起することができる。この結果、経路(P2)の電気抵抗を低くでき、ひいては半導体装置における全体のオン抵抗を低くすることができる。
【0010】
超格子構造は、該超格子構造内およびp型バリア層との界面に亀裂が生じないような、材料、厚み構成およびその組み合わせ、で形成することができる。
これによって製品歩留まりを低下させないようにできる。
【0011】
第1の層および第2の層を、1.5ペア以上積層することができる。
2ペア以上積層することで二次元電子ガスを2層以上形成することができ、よりオン抵抗の低減を得ることができる。とくに1.5ペアの場合は、p型バリア層に、直接、格子定数の小さい層で蓋をし、したがってMg等の侵入を排除しながら二次元電子ガスを必ず1層形成することができる。なお、上記のペア数は自然数だけでなく、0.5の端数(ペアを組まないa層またはb層の存在)を持ってもよい。
【0012】
再成長層上であって、ゲート電極の下に、絶縁層を備えることができる。
ゲート電極下に絶縁層を配置することで、ゲートに正電圧を印加したときのゲートリーク電流を抑制できるため、大電流動作がしやすくなる。また、しきい値電圧をより正方向にシフトできるため、ノーマリーオフを得やすくなる。
【0013】
本発明の半導体装置の製造方法は、縦型GaN系半導体装置を製造する。この製造方法は、n型GaN系半導体層(以下、n−型ドリフト層と記す)上にp型バリア層を形成する工程と、p型バリア層上に3族元素窒化物の超格子構造を形成する工程と、エッチングにより、表層からn型ドリフト層にまで届く開口部を形成する工程と、開口部に、電子走行層および電子供給層を含む再成長層をエピタキシャル成長させる工程と、開口部の周囲において再成長層および超格子構造に接して位置するソース電極を形成する工程とを備える。そして、超格子構造形成工程において、超格子構造が、p型バリア層よりも小さい格子定数を持つ第1の層と、該第1の層よりも格子定数が大きい第2の層との積層体となるように形成する、ことを特徴とする。
上記の方法によって、容易に、オン抵抗の低い縦型の半導体装置を製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の半導体装置によれば、縦型GaN系半導体装置において、p型バリア層による耐圧性能の向上を得ながら、低いオン抵抗を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態における縦型GaN系FET(半導体装置)を示し、(a)は図3の平面図のI−I線に沿う断面図、(b)は超格子構造、(c)は別の超格子構造、の断面図である。
【図2】超格子構造の材料の組み合わせを示す図である。
【図3】図1に示す半導体装置の平面図である。
【図4】図1の縦型GaN系FETの製造方法を示し、支持基体上にオーミック接触するGaN層を有する基板にソース層までの積層体を形成した状態を示す図である。
【図5】エッチングによって開口部を設けた状態を示す図である。
【図6】RIEによって開口部を設ける段階を示し、(a)はレジストパターンを配置した状態、(b)はイオンを照射しながら開口を掘り下げて開口を拡大(後退)させてゆく状態、を示す図である。
【図7】開口部に、再成長層を形成した状態を示す図である。
【図8】再成長層上に絶縁膜を成長させた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1(a)は、本発明の実施の形態における縦型GaN系FET(半導体装置)10の断面図である。縦型GaN系FET10は、導電性のGaN基板1と、その上にエピタキシャル成長した、n型GaNドリフト層4/p型GaNバリア層6//ソース層7、を備える。本実施の形態では、ソース層7を超格子構造で形成する点に特徴を有する。
上記の、n型GaNドリフト層4/p型GaNバリア層6/超格子構造のソース層7は、連続して形成された積層体15を形成する。GaN基板1の種類によっては、GaN基板1とn型GaNドリフト層4との間にAlGaN層またはGaN層からなるバッファ層を挿入してもよい。
なお、GaN基板1は、いわゆる一体物の厚手のGaN基板でも、または支持基体上にオーミック接触するGaN層を有する基板であってもよい。さらに、GaN系積層体の成長時にGaN基板等の上に形成して、その後の工程で、GaN基板等の所定厚み部分を除いて、製品の状態では薄いGaN層下地のみが残っているものであってもよい。これら、GaN基板、支持基体上にオーミック接触するGaN層を有する基板、製品に薄く残された下地のGaN層などを、単にGaN基板と略称する場合もある。
上記の薄い下地のGaN層は、導電性でも非導電性でもよく、ドレイン電極は、製造工程および製品の構造によるが、薄いGaN層の表面または裏面に設けることができる。GaN基板または支持基体等が製品に残る場合、当該支持基体または基板は、導電性でも、非導電性でもよい。導電性の場合は、ドレイン電極は、その支持基体または基板の裏面(下)またはおもて面(上)に直接設けることができる。また、非導電性の場合は、非導電性基板の上であって、上記半導体層中の下層側に位置する導電層の上に、ドレイン電極を設けることができる。
また、p型GaNバリア層は、本実施の形態ではp型GaNバリア層6としているが、p型AlGaN層を用いてもよい。積層体15を構成するその他の層についても、場合に応じて、上記に示したGaN層を他のGaN系半導体層としてよい。
【0017】
積層体15には、超格子構造のソース層7からp型GaNバリア層6を貫通してn型GaNドリフト層4内に至る開口部28が設けられている。その開口部28の壁面および積層体15の表層(ソース層7)を被覆するように、エピタキシャル成長した再成長層27が形成されている。再成長層27は、i(intrinsic)型GaN電子走行層22およびAlGaN電子供給層26で構成される。i型GaN電子走行層22とAlGaN電子供給層26との間にAlN等の中間層を挿入してもよい。ゲート電極Gは、絶縁膜9を介在させて、再成長層27上に位置し、ドレイン電極DはGaN基板1の裏面に位置する。ソース電極Sは、積層体15上において再成長層27および超格子構造のソース層7に接触する。図1では、ソース電極Sは、再成長層27および超格子構造7の端面に、当該ソース電極Sの側面で接触している。
【0018】
本実施の形態の半導体装置では、電子は、ソース電極Sから、(P1)直接、電子走行層22に入るか、または(P2)超格子構造のソース層7を経て、電子走行層22に入る。上記(P1)および(P2)を経て、電子走行層22内において、電子走行層22内の電子供給層との界面に2次元電子ガスを形成する。この2次元電子ガスの電子は、電子走行層22からn型GaNドリフト層4を経てドレイン電極Dへと、厚み方向または縦方向に流れる。この電子の経路において、p型GaNバリア層6は、n型GaNドリフト層4と、ソース層7とに挟まれている。p型GaNバリア層6は、電子のバンドエネルギーを持ち上げ、かつ耐圧性能を向上するなどのバックゲート効果を発揮して、次の作用(a1)および(a2)を奏する。
(a1)耐圧性能の向上
(a2)バンドの正方向へのシフトによるピンチオフ特性の向上
さらに(a1)に関連して、p型GaNバリア層6とn型GaNドリフト層4とのpn接合に逆バイアス時に生じる正孔を吸収することができる。この結果、正孔が残存することによる耐圧低下が防止され、良好な耐圧性能を継続して長期間、安定に得ることができる。
【0019】
上記のように、ソース電極Sから電子走行層22に入る経路には、(P1)と(P2)の2つの経路があり、ソース層7の厚み等に依存するが、両経路を通る電子の量的な比率は、ほぼ等しいと見積もられる。したがって、両方の経路の電気抵抗を減らすことは、直ちにオン抵抗を低くする。本発明では、上記のように、ソース層7を超格子構造で形成する。本実施の形態における超格子構造7の特徴は、次の(F1)および(F2)に示すとおりである。
【0020】
(F1)超格子構造の一方の層である第1の層またはa層は、格子定数がp型GaNバリア層6の格子定数より小さい材料で形成する。たとえばAlGaNなどAl組成比が大きいGaN系半導体で形成する。AlNであってもよい。格子定数がp型バリア層よりも小さい格子定数のa層は、格子定数が小さいことで、アクセプとくにMgの移動を妨げる。格子定数は、エピタキシャル成長の底面における格子定数である。とくにAlN、GaN等の3族窒化物半導体が属するウルツ鉱型の六方晶系では、底面のa軸の格子定数である。すなわち、たとえばAlGaNのa軸の格子定数は、GaNのa軸の格子定数より小さい。これによって厚み方向の通り抜けを有効に抑止することができる。
本発明では、上述したように、超格子構造を形成する一方の層であるa層の格子定数をp型GaNバリア層6の格子定数よりも小さくする。この結果、Mgは、容易にa層を通過できず、Mgによる弊害(このあと説明する)を除くことができる。また、第2の層であるb層は、ピエゾ分極によって2次元電子ガスを生じるように、a層の格子定数よりも小さくする。
図1(b)は、超格子構造が2.5ペアの場合で、a層がp型GaNバリア層6に接している場合、すなわちa層が下側および上側に位置する超格子構造の場合を示す。これによって、p型GaNバリア層6に接して水際でMgの移動を抑止することができる。
また、図1(c)は、b層が下側に位置する2ペアの場合の超格子構造の場合である。この場合でも、最下層のb層の上のa層がMgの移動を妨げるので、図1(b)の超格子と比べて大きな相違はない。
本実施の形態では、a層またはb層のどちらを下側に配置した超格子構造であってもよい。
【0021】
(F2)超格子構造の第2の層またはb層は、a層よりも格子定数が大きい材料で形成される。このため、ピエゾ分極が生じて2次元電子ガスが、b層内のa層側(+c軸方向)に形成される。2次元電子ガスは、ピエゾ分極の度合いに応じてその濃度を高める。本実施の形態では、高濃度の2次元電子ガスを生じて、ソース電極Sから、超格子構造のソース層を経由して電子走行層22に入る経路(P2)の電気抵抗を小さくする。この結果、全体のオン抵抗を低くすることができる。
超格子構造のペア数は、1ペアでも1.5以上のペア数でもよい。すなわち(a層/b層)を1ペアまたは周期1として、(a層/b層/a層)のように1.5ペア以上または1.5周期あってもよく、また、(a層/b層/a層/b層)のように2ペアまたは2周期であってもよい。さらに3ペア以上であってもよい。単位厚み当たりのペア数が多くなるにつれ、0.5ペア分の増大の場合はともかく、2次元電子ガスの単位厚み当たりの層数が増す。しかし、超格子構造の各層の厚みを過度に小さくするとピエゾ分極に起因する2次元電子ガスの電子濃度が低くなるので、適正範囲がある。
【0022】
Mgが超格子構造内に進入すると2次元電子ガスの電子を散乱させ、オン抵抗を高める。また、p型GaNバリア層6と接触面積の大きいソース層7または超格子構造を経由して電子走行層22の上流側に進入する。このため、やはりオン抵抗を低くするのに大きな障害になる。
本実施の形態では、半導体装置におけるソース層7を超格子構造(a層/b層/a層/b層)で構成し、そのa層の格子定数を小さくしてMgの移動を妨げる。このため、Mgが超格子構造内に進入するのを抑止することができる。この結果、p型GaNバリア層6による耐圧性能およびピンチオフ特性の向上を得ながら、オン抵抗を低くすることができる。
【0023】
上記のa層およびb層は、図2に例示するように、次のような組み合わせとすることができる。
(s1)AlGaN(a層)/GaN(b層)
(s2)AlN(a層)/GaN(b層)
(s3)AlGa1−xN(a層)/AlGa1−yN(b層):(x>y)
Al組成が高いほうが格子定数は小さくなり、Mgの移動を妨げ、かつピエゾ分極を生じる。
(s4)AlInN(a層)/GaN(b層)
(s5)AlInGaN(a層)/GaN(b層)
(s6)AlGaN(a層)/InGaN(b層)
上記の組み合わせのいくつかにおいて、Al組成が高いGaN系半導体の格子定数がAl組成が低いものより小さいことは、Al組成が有限とゼロとの組み合わせの場合にも当てはまる。
上記(s1)〜(s6)以外の組み合わせであってもよい。
また、ペア数は限定されず、1ペア以上、何ペアでもよい。ただし、半導体装置のサイズの制限、ピエゾ分極発生のための各層の厚み下限などから適正なペア数の範囲は自ずと定まる。
【0024】
p型GaNバリア層6のp型不純物濃度は、1E17cm−3〜1E19cm−3程度とするのがよい。p型不純物には、MgなどのGaN系半導体中にアクセプタを形成する不純物が用いられる。また、p型GaNバリア層6の厚みは、n型GaNドリフト層の厚み等によって変わり、設計事項である。このため、厚み範囲は一概に決めることはできない。しかし、代表的な厚みについては、多くの仕様において用いられる厚みという点から、0.3μm〜1μm程度をあげることができる。これより薄いと、上記の(a1)および(a2)の作用を十分得られないので、厚みの下限とみてもよい。このp型GaNバリア層6は、この0.3μm〜1μm程度の厚みを持つことから、あまり高濃度のMg濃度を含有させると、p型GaNバリア層6の端面に向かって直線的に移動してチャネルに悪影響を及ぼす。また、チャネルOFF時のn型GaNドリフト層とのpn接合での逆方向特性(耐圧性能)を劣化させる。
ソース層7の厚みは、0.1μm〜0.6μm程度とするのがよい。その上で、超格子構造を形成するa層の厚みは10nm(0.01μm)以上100nm(0.1μm)以下とするのがよい。b層の厚みも同程度とするのがよい。超格子構造のソース層7は、アンドープとしてドナーを意図的に含有させないほうがよい。その理由は、ドナーの存在によって電子ガスの流れが散乱されてオン抵抗がかえって増大するおそれがあるからである。
ソース層7の長さは、0.5μm以上5μm以下とするのがよい。このようにソース層7の長さが、比較的、大きいので、従来のようにドナー濃度を高めたn+型GaNソース層では、電気抵抗の低減には限度があった。本実施の形態のように、超格子構造にして十分高い濃度の二次元電子ガスを用いることで、ソース電極Sからソース層7を経由する電子走行層22への経路(P2)の電気抵抗を大幅に下げることができる。この結果、半導体装置10全体のオン抵抗を下げることができる。
【0025】
図3は、図1(a)に示した縦型GaN系半導体装置10の平面図であり、図1(a)は本図におけるI−I線に沿う断面図である。図3によれば、開口部28およびゲート電極Gを六角形とし、ゲート配線12を避けながら、その周囲をほぼソース電極Sで覆って、最密充填(ハニカム構造)とすることにより単位面積当たりのゲート電極周囲長を長く取れる。このような形状の面からも、オン抵抗を下げることができる。電流は、ソース電極Sから、(P1)直接に、または(P2)超格子構造のソース層7を経由して、再成長層27内のチャネル(電子走行層22)に入り、n型GaNドリフト層4を経て、ドレイン電極Dへと流れる。ソース電極Sおよびその配線と、ゲート電極G、ゲート配線12およびゲートパッド13から構成されるゲート構成体とが、相互に干渉しないために、ソース配線は、図示しない層間絶縁膜上に設けられる。層間絶縁膜にはビアホールが設けられ、そのビアホールに充填された導電部を含むソース電極Sは、層間絶縁膜上のソース導電層(図示せず)と導電接続される。このような構造によって、ソース電極Sを含むソース構成体は、大電力用の素子に好適な、低い電気抵抗および高い移動度、を持つことができる。
上記の六角形のハニカム構造は、畝状にして、畝状の開口部を密に配置することでも、上記の面積当たりの開口部周囲長を大きくでき、この結果、電流密度を向上させることができる。
【0026】
次に、本実施の形態における半導体装置10の製造方法を説明する。図4に示すように、上記の意味のGaN基板1の上に、n型GaNドリフト層4/p型GaNバリア層6/超格子構造のソース層7、の積層体15を成長する。GaN基板1とn型GaNドリフト層4との間にGaN系バッファ層(図示せず)を挿入してもよい。
上記の層の形成は、MOCVD(有機金属化学気相成長)法などを用いるのがよい。たとえばMOCVD法で成長することで、結晶性の良好な積層体15を形成できる。GaN基板1の形成において、導電性基板上に窒化ガリウム膜をMOCVD法によって成長させる場合、ガリウム原料として、トリメチルガリウムを用いる。窒素原料としては高純度アンモニアを用いる。キャリアガスとしては純化水素を用いる。高純度アンモニアの純度は99.999%以上、純化水素の純度は99.999995%以上である。n型ドーパント(ドナー)のSi原料には水素ベースのシランを用い、p型ドーパント(アクセプタ)のMg原料にはシクロペンタジエニルマグネシウムを用いるのがよい。
導電性基板としては、直径2インチの導電性窒化ガリウム基板を用いる。1030℃、100Torrで、アンモニアおよび水素の雰囲気中で、基板クリーニングを実施する。その後、1050℃に昇温して、200Torr、V/III比=1500で窒化ガリウム層を成長させる。上記の導電性基板上のGaN層の形成は、GaN基板1の形成だけでなく、GaN基板1上の積層体15の成長においても共通する方法である。
上記の方法で、GaN基板1上に、n型GaN層ドリフト層4/p型GaNバリア層6/超格子構造のソース層7、の順に成長する。
【0027】
超格子構造7の成長においては、言うまでもなく、すべての層を最初から最後まで連続して、成長することが重要である。空気中の酸素等に汚染されると、不純物準位が形成され、電子ガス流が散乱されて電気抵抗が増大するからである。a層およびb層は、それぞれ厚み10nm以下100nm以下で形成し、アンドープにするのがよい。ペア数は、たとえば2とする。これによって2次元電子ガスの層数を2とすることができ、オン抵抗の低減に有益である。
【0028】
次に、図5に示すように、開口部28をRIE(反応性イオンエッチング)によって形成する。図6(a)および(b)に示すように、エピタキシャル層4,6,7の表面にレジストパターンM1を形成した後、RIEによって、レジストパターンM1をエッチングして後退させながら開口を広げて開口部28を設ける。このRIE工程において、開口部28の斜面、すなわち積層体15の端面は、イオン照射を受けて損傷される。損傷部では、ダングリンドボンド、格子欠陥の高密度領域などが発生し、その損傷部にRIE装置由来または特定できていない部分からの導電性不純物が到達して富化が生じる。この損傷部の発生は、ドレインリーク電流の増大をもたらすので、修復する必要がある。水素やアンモニアを所定レベル含むことで、このあと説明する再成長層27の成長時に、ダングリンドボンド等の修復、および不純物の除去や不活性化を得ることができる。
【0029】
次いで、レジストパターンM1を除去し、ウエハを洗浄した後、当該ウエハをMOCVD装置に導入して、図7に示すように、アンドープGaNからなる電子走行層22、およびアンドープAlGaNからなる電子供給層26を含む再成長層27を成長する。このアンドープGaN層22およびAlGaN層26の成長においては、(NH+H)雰囲気において熱クリーニングを行い、引き続き(NH+H)を導入しつつ有機金属原料を供給する。この再成長層27の形成前の熱クリーニング時または形成時に、上記の損傷部の修復、導電性不純物の除去やパッシベーション化を進行させる。
次いで、上記ウエハをMOCVD装置から取り出し、図8に示すように、絶縁膜9を成長させる。その後、再びフォトリソグラフィと電子ビーム蒸着法を用いて、図1に示すように、ソース電極Sをエピタキシャル層表面に、ドレイン電極DをGaN系基板1の裏面に形成する。さらにゲート電極Gを開口部28の側面に形成する。
【実施例】
【0030】
図1(a)に示す縦型GaN系半導体装置(トランジスタ)を作製して、オン抵抗の構成要素であるソースゲート間抵抗Rsgを測定した。オン抵抗は、ソース電極抵抗、ソースゲート間抵抗、チャネル抵抗、ドリフト層抵抗、および基板抵抗の総和からなるが、本超格子ソース層により、ソース・ゲート間抵抗Rsgを大きく低減させることができる。具体的な構成はつぎのとおりである。
<本発明例A>:
GaN基板1/n型GaN層ドリフト層4/p型GaNバリア層6/超格子構造のソース層1、とした。超格子構造は、(AlGaN(a層)/GaN(b層))の2ペアとした。AlGaN層(a層)を上側に、GaN(b層)を下側に、に配置した(図1(c)の構造)。AlGaNのAl組成を0.2とし、厚みは30nm、GaNの厚みも同様とした。したがってソース層7の厚みは120nm(0.12μm)である。
p型GaNバリア層は厚み1.0μm、Mg濃度3E18cm−3とし、n型GaNドリフト層は、厚み5.0μm、キャリア濃度7E15cm−3とした。
その後、RIEを用いてメサエッチを行い、再成長エピタキシャル層(GaN:厚み100nm/Al0.2Ga0.8N:厚み20nm)を成長し、電極プロセスにてソース電極、ドレイン電極をよびゲート電極を形成した。
<比較例B>
形状およびサイズは、本発明例Aと同様とした。ソース層については、従来と同じn型不純物を含むn型GaNソース層を用い、本発明例Aと同様に、厚みは0.12μmにした。n型GaNソース層のドナーにはSiを用い、ドナー濃度3E18cm−3とした。その他の部分は、本発明例Aと同様の構造とした。
上記の試験体、本発明例Aおよび比較例Bについて、TLM法(Transmission line model)によりソースゲート間抵抗Rsgを測定した結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1によれば、本発明例Aでは、比較例Bに比べて、ソースゲート間抵抗Rsgをは400Ω/□から200Ω/□へと半減する。これより、ソース層7を、上記の格子定数を満たす超格子構造によって構成することで、オン抵抗を低くできることが分かる。
【0033】
上記開示された本発明の実施形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の半導体装置等によれば、縦型GaN系半導体装置において、p型バリア層による耐圧性能の向上を得ながらオン抵抗を低くできる。このため、パワーデバイスへの用途が期待される。
【符号の説明】
【0035】
1 GaN基板、4 n型GaNドリフト層、 6 p型GaNバリア層、7 超格子構造によるソース層、9 絶縁膜、10 半導体装置(縦型GaN系FET)、12 ゲート配線、13 ゲートパッド、15 積層体、22 GaN電子走行層、26 AlGaN電子供給層、 27 再成長層、28 開口部、S ソース電極、G ゲート電極、D ドレイン電極、M1 レジストパターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が設けられた3族窒化物系積層体を備える縦型の半導体装置であって、
前記開口部の壁面を覆うように位置するチャネルを含む再成長層と、
前記開口部の壁面で前記再成長層にその端面が被覆されるp型3族窒化物系半導体層と、
前記3族窒化物系積層体の表層を形成し、前記p型3族窒化物系半導体層上に接して位置する3族窒化物系ソース層と、
前記開口部において前記再成長層の上に位置するゲート電極と、
前記開口部の周囲の前記3族窒化物系積層体上において前記再成長層および3族窒化物系ソース層に接して位置するソース電極とを備え、
前記再成長層は電子走行層および電子供給層を含み、前記チャネルが前記電子走行層内の前記電子供給層との界面に生じる二次元電子ガスにより形成され、
前記3族窒化物系ソース層が超格子構造で構成され、該超格子構造が、前記p型3族窒化物系半導体層よりも小さい格子定数を持つ第1の層と、該第1の層よりも格子定数が大きい第2の層との積層体である、ことを特徴とする、半導体装置。
【請求項2】
前記第1の層が、AlNか、またはAl組成比が第2の層よりも大きいGaN系半導体であり、前記第2の層がGaN系半導体であることを特徴とする、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1の層および/または第2の層、の厚みが、10nm以上100nm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記超格子構造は、該超格子構造内および前記p型3族窒化物系半導体層との界面に亀裂が生じないような、材料、厚み構成およびその組み合わせ、で形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1の層および第2の層が、1.5ペア以上、積層されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記再成長層上であって、前記ゲート電極の下に、絶縁層を備えることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
縦型GaN系半導体装置の製造方法であって、
型GaN系半導体層上にp型GaN系半導体層を形成する工程と、
前記p型GaN系半導体層上に3族元素窒化物の超格子構造を形成する工程と、
エッチングにより、表層から前記n型GaN系半導体層にまで届く開口部を形成する工程と、
前記開口部に、電子走行層および電子供給層を含む再成長層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記開口部の周囲において前記再成長層および前記超格子構造に接するようにソース電極を形成する工程とを備え、
前記超格子構造形成工程において、前記超格子構造が、前記p型GaN系半導体層よりも小さい格子定数を持つ第1の層と、該第1の層よりも格子定数が大きい第2の層との積層体となるように形成する、ことを特徴とする、半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記超格子構造を、第1の層と第2の層が、1ペアまたは2ペア以上、形成することを特徴とする、請求項7に記載の半導体装置の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−84562(P2012−84562A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226937(P2010−226937)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】