説明

半導体装置の製法

【課題】成形性および硬化性を低下させることなく、高温高湿信頼性に優れた半導体装置の製法を提供する。
【解決手段】下記の一般式(1)で表されるエポキシ樹脂を含有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いた樹脂封止後に、加熱処理工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性および硬化性、さらには高温高湿信頼性に優れた半導体装置の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、トランジスターやIC、LSI等の半導体素子は、外部環境からの保護および半導体素子のハンドリングを可能にするという観点から、プラスチックパッケージ、例えば、エポキシ樹脂組成物を用いて樹脂封止され半導体装置化されている。
【0003】
上記エポキシ樹脂組成物は、成形時における樹脂の硬化反応を速めるために、一般に硬化促進剤が配合される。上記硬化促進剤としては、例えば、アミン類、イミダゾール系化合物、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン−7等のような含窒素複素環式化合物、ホスフィン系化合物、第四級アンモニウム化合物、ホスホニウム化合物、アルソニウム化合物等が用いられている。
【0004】
通常、これら硬化促進剤を含有するエポキシ樹脂組成物は、成形時の高温条件においては速やかに反応が生じ、短時間のうちに硬化が完了するように配合設計されている。このため、成形時において上記エポキシ樹脂組成物が成形金型に完全に充填される前に硬化反応が始まる場合があり、このような状況では、樹脂粘度の上昇や流動性の低下をもたらし、半導体素子とリードフレーム等の外部端子とを接続するボンディングワイヤーの変形や、隣り合ったボンディングワイヤー同士の接触、あるいはボンディングワイヤーの切断といった不具合、さらに樹脂の未充填といった不具合、成形性における重大な不具合を生じる場合がある。
【0005】
このような不具合を回避する方法としては、例えば、マイクロカプセル型硬化促進剤を用いることにより硬化反応の開始を遅らせる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、上記のような方法では、硬化反応の進行が遅くなることによる生産性の大幅な低下や、硬化物自身の硬度および強度が不充分となるという問題があった。このようなことから、上記のような硬化性の問題を考慮し、さらに成形性の不具合を回避する方法として、イミダゾール系化合物を硬化促進剤として用いることにより良好な硬化性および流動性を得る方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
一方、半導体用封止樹脂のもう一つの重要な要求特性として、高温高湿信頼性があげられる。すなわち、高温または高湿下では、エポキシ樹脂に含まれる塩素イオン等のイオン性不純物が動きやすくなるため、半導体素子上のアルミニウム配線の腐食が進行し易く、従来の半導体封止用エポキシ樹脂組成物では、高温高湿信頼性に関して難点があった。上記高温高湿信頼性の不良原因となるエポキシ樹脂に含まれる塩素イオン等のイオン性不純物は、エポキシ樹脂の製造工程におけるフェノールのエピハロヒドリンによるグリシジルエーテル化に起因するものである。従来のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂では溶剤への溶解性が高いため、水洗が可能となり、より低塩素な(高純度な)エポキシ樹脂を得ることができるが、配合成分の一つである無機質充填剤の高充填化のために用いられる低粘度結晶性エポキシ樹脂は溶剤に対する溶解性が低いことから、高純度なエポキシ樹脂を得ることが困難である(特許文献3参照)。
【0008】
このようなことから、高温高湿信頼性の不良原因となる半導体封止用エポキシ樹脂組成物に含まれるイオン性不純物を捕捉するために、Bi系無機化合物を含んだイオン捕捉剤やハイドロタルサイト類化合物を用いて陰イオン性不純物を捕捉する方法がいくつか提案されている(特許文献4〜6参照)。しかしながら、これら方法を用いても、充分満足のいく高温高湿信頼性の向上効果を得ることは困難であり、またエポキシ樹脂組成物が高粘度化するため流動性が低下し、その結果、成形性に悪影響を与えるという問題が発生していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−168164号公報
【特許文献2】特開2005−162943号公報
【特許文献3】特開平2−187420号公報
【特許文献4】特開平11−240937号公報
【特許文献5】特開平9−157497号公報
【特許文献6】特開平9−169830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、例えば、成形性および硬化性を低下させることなく、高温高湿信頼性に優れた半導体装置の製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の半導体装置の製法は、下記の(A)〜(D)成分を含有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて、半導体素子を樹脂封止することにより半導体装置を製造する方法であって、樹脂封止後に加熱処理工程を加え、この加熱処理を下記(x)に示す条件にて行うという構成をとる。
(A)下記の一般式(1)で表されるエポキシ樹脂。
【化1】

(B)フェノール樹脂。
(C)アミン系硬化促進剤。
(D)無機質充填剤。
(x)熱処理時間(t分)と熱処理温度(T℃)との関係が、t≧3.3×10-5exp(2871/T)を満足する領域からなる熱処理条件〔ただし、185℃≦熱処理温度T℃≦300℃である。〕
【0012】
すなわち、本発明者らは、適正な硬化反応を生じ、封止材料となるエポキシ樹脂組成物に優れた成形性および硬化性が付与され、例えば、金線ワイヤー流れ等の発生が抑制され優れた高温高湿信頼性を備えた半導体装置を得るために鋭意研究を重ねた。その過程において、従来のように封止材料となる配合成分のみによる解決ではなく、封止材料に加えて半導体装置の製造条件にも着目し、配合成分および製造条件の双方からの上記課題の解決を想起し研究を重ねた。そして、エポキシ樹脂として前記特定のビフェニル型エポキシ樹脂を用い、かつ硬化促進剤としてアミン系硬化促進剤を用いた封止材料による樹脂封止とともに、樹脂封止後に加熱処理を行なうと、成形性および硬化性とともに高温高湿信頼性の向上が図られることを突き止めた。このことから、上記加熱処理の条件に関してさらに研究を重ね、優れた効果を奏する加熱時間および加熱温度の関係を多岐にわたって実験・検討した結果、上記特定の成分を用いた封止材料の使用とともに上記条件(x)を満足する加熱条件にて加熱処理を行うと、優れた成形性および硬化性が得られ、しかも高温高湿信頼性に優れた半導体装置が得られることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明は、上記(A)〜(D)成分を含有するエポキシ樹脂組成物を用いて、半導体素子を樹脂封止することにより半導体装置を製造する方法であって、樹脂封止後に加熱処理工程を加え、この加熱処理を上記(x)に示す条件にて行うというものである。このため、成形性および硬化性を低下させることなく、高温高湿信頼性に優れた半導体装置が得られる。
【0014】
そして、アミン系硬化促進剤〔(C)成分〕として、後述の一般式(2)で表されるイミダゾール化合物を用いると、流動性等の成形性および硬化性に一層優れたものが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の半導体装置の製法における加熱処理工程の条件(x)である、熱処理時間t(縦軸)−熱処理温度T(横軸)の関係を示す曲線図である。
【図2】金線ワイヤー流れ評価の測定に用いられる半導体装置を模式的に示す平面図である。
【図3】金線ワイヤー流れ量の測定方法を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に用いられる半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、特定のエポキシ樹脂(A成分)と、フェノール樹脂(B成分)と、アミン系硬化促進剤(C成分)と、無機質充填剤(D成分)とを用いて得られるものであり、通常、液状、あるいは粉末状、もしくはその粉末を打錠したタブレット状、あるいはシート状にして封止材料に供される。
【0017】
上記特定のエポキシ樹脂(A成分)は、下記の一般式(1)で表されるエポキシ樹脂である。
【0018】
【化2】

【0019】
なかでも流動性等の成形性の観点から、上記式(1)において、Xは単結合であり、かつR1〜R4は全てCH3となるエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0020】
なお、本発明においては、エポキシ樹脂成分が上記特定のエポキシ樹脂(A成分)のみから構成されていることが好ましいが、他のエポキシ樹脂を併用してもよい。上記他のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。そして、このようなエポキシ樹脂の中でも、上記A成分を含めエポキシ当量150〜250、軟化点もしくは融点が50〜130℃のものを用いることが好ましい。上記他のエポキシ樹脂を併用する場合、その併用割合は本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定するものではないが、具体的にはエポキシ樹脂成分全体の30重量%以下に設定することが好ましい。
【0021】
上記エポキシ樹脂(A成分)とともに用いられるフェノール樹脂(B)は、上記エポキシ樹脂(A成分)の硬化剤としての作用を奏するものであり、1分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般をいう。例えば、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビフェニル型ノボラック、トリフェニルメタン型、ナフトールノボラック、キシリレンノボラック、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。中でも、フェノールアラルキル樹脂やビフェニルアラルキル樹脂のような低吸湿性のものを用いることが成形性および信頼性の点から好ましい。
【0022】
上記エポキシ樹脂(A成分)およびフェノール樹脂(B成分)の配合割合は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量あたりフェノール樹脂中の水酸基が0.5〜2.0当量あたりになるように配合することが好ましい。より好ましくは0.8〜1.2当量である。
【0023】
上記A成分およびB成分とともに用いられるアミン系硬化促進剤(C成分)としては、例えば、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリエタノールアミン、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン−7等の三級アミン類、2,4−ジアミノ−6−〔2′−ウンデシルイミダゾリル−(1′)〕−エチル−s−トリアジン等があげられる。これらアミン系硬化促進剤の中でも、下記の一般式(2)で表されるイミダゾール化合物を用いることが流動性等の成形性および硬化性の点から好ましい。
【0024】
【化3】

【0025】
上記式(2)において、R′としては、アルキル基、アリール基があげられる。上記アルキル基としては、具体的には、炭素数1〜6のアルキル基等があげられる。また、上記アリール基としては、具体的には、フェニル基、p−トリル基等があげられる。そして、上記一般式(2)で表されるイミダゾール化合物としては、具体的には、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールがあげられる。
【0026】
上記一般式(2)で表されるイミダゾール化合物は、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、2−置換イミダゾール類とホルムアルデヒドとをアルカリ存在下にて反応させることによって製造することができる。
【0027】
上記アミン系硬化促進剤(C成分)の含有量は、上記フェノール樹脂(B成分)100重量部に対して1〜20重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは2〜10重量部である。すなわち、アミン系硬化促進剤(C成分)の含有量が少な過ぎると、目的とするエポキシ樹脂(A成分)とフェノール樹脂(B成分)との硬化反応が進み難いため、充分な硬化性を得ることが困難となり、多過ぎると、硬化反応が速過ぎて成形性を損なう傾向がみられるからである。
【0028】
また、本発明においては、上記アミン系硬化促進剤(C成分)とともに、本発明の特性を損なわない範囲で他の硬化促進剤を併用してもよい。上記他の硬化促進剤としては、例えば、トリアリールホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なお、上記他の硬化促進剤を併用する場合には、具体的には、他の硬化促進剤の含有量を硬化促進剤成分全体の50重量%以下に設定することが好ましい。
【0029】
上記A〜C成分とともに用いられる無機質充填剤(D成分)としては、例えば、溶融シリカ粉末や結晶性シリカ粉末等のシリカ粉末、アルミナ粉末、タルク等があげられる。これら無機質充填剤は、破砕状、球状、あるいは摩砕処理したもの等いずれのものでも使用可能である。なかでも、球状溶融シリカ粉末を用いることが好ましい。そして、これら無機質充填剤は単独でもしくは2種以上併せて用いられる。上記無機質充填剤(D成分)としては、平均粒径が5〜40μmの範囲のものを用いることが、流動性を良好にするという点から好ましい。上記平均粒径の測定は、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0030】
そして、上記無機質充填剤(D成分)の含有量は、エポキシ樹脂組成物全体の70〜95重量%であることが好ましい。特に好ましくは85〜92重量%である。すなわち、無機質充填剤(D成分)の含有量が少な過ぎると、エポキシ樹脂組成物の粘度が低くなり過ぎて成形時の外観不良(ボイド)が発生しやすくなる傾向がみられ、多過ぎると、流動性が低下し、ワイヤー流れや未充填が発生する傾向がみられるからである。
【0031】
なお、本発明に用いられる半導体封止用エポキシ樹脂組成物では、上記A〜D成分に加えて、シランカップリング剤、難燃剤、難燃助剤、離型剤、イオントラップ剤、カーボンブラック等の顔料や着色料、低応力化剤、粘着付与剤等の他の添加剤を適宜配合することができる。
【0032】
上記シランカップリング剤としては、各種シランカップリング剤を用いることかでき、中でも2個以上のアルコキシ基を有するシランカップリング剤が好適に用いられる。具体的には、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0033】
上記難燃剤としては、ノボラック型ブロム化エポキシ樹脂や金属水酸化物等があげられる。さらに上記難燃助剤としては、三酸化二アンチモンや五酸化二アンチモン等が用いられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0034】
上記離型剤としては、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸カルシウム等の化合物があげられ、例えば、カルナバワックスやポリエチレン系ワックス等が用いられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0035】
上記イオントラップ剤としては、イオントラップ能力を有する化合物全てを使用することが可能であり、例えば、ハイドロタルサイト類化合物、水酸化ビスマス等が用いられる。
【0036】
また、上記低応力化剤としては、例えば、アクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体等のブタジエン系ゴムやシリコーン化合物等があげられる。
【0037】
本発明に用いられる半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、上記A〜D成分および必要に応じて他の添加剤を配合し混合した後、ミキシングロール機等の混練機にかけ加熱状態で溶融混合し、これをシート状に圧延する。あるいは溶融混合し、これを室温に冷却した後、公知の手段によって粉砕し、必要に応じて打錠するという一連の工程により製造することができる。
【0038】
このような半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いての半導体素子の樹脂封止は、特に制限するものではなく、通常のトランスファー成形等の公知のモールド方法により行うことができる。
【0039】
そして、本発明の半導体装置の製法では、その製造工程において、上記樹脂封止後に、加熱処理工程を加えるものであり、その加熱処理を下記(x)に示す条件にて行なうことを特徴とする。
(x)熱処理時間(t分)と熱処理温度(T℃)との関係が、t≧3.3×10-5exp(2871/T)を満足する領域からなる熱処理条件〔ただし、185℃≦熱処理温度T℃≦300℃である。〕
【0040】
このように、本発明では、上記加熱処理においては、熱処理に要する時間、すなわち熱処理時間(t分)は、その熱処理温度(T℃)に応じて異なり変化するものであり、上記条件(x)での熱処理時間と熱処理温度との関係を図1に示す。図1において、曲線aはt=3.3×10-5exp(2871/T)を示す。本発明における条件(x)は、曲線aを含み、それより大きい値(t分)の領域を指す。そして、生産性および半導体素子の耐熱性を考慮した場合、実際的ではないことから、熱処理時間(t分)に関しては、直線bである熱処理時間t=180分を一般的な上限とする。また、熱処理温度(T℃)に関しては、直線cである熱処理温度T(℃)=300℃を上限としてそれぞれ示す。
【0041】
すなわち、上記直線bである上記熱処理時間(t分)に関しては、生産性を考慮して、180分以上の熱処理は現実的ではないことから、180分を上限とする。また、上記直線cである上記熱処理温度(T℃)に関しては、半導体素子の耐熱性を考慮して、300℃が現実的な上限温度となる。したがって、熱処理時間(t分)の上限時間である180分において信頼性改善効果が確認される熱処理温度(T℃)は、図1から明らかなように、185℃となり、これを熱処理温度(T℃)の実質的な下限値とする。さらに、熱処理時間(t分)の下限に関しては、図1から明らかなように、熱処理温度(T℃)が300℃において、熱処理時間0.47分での処理にて信頼性改善効果が確認されており、この0.47分を実質的な熱処理時間(t分)の下限値とする。このようなことから、本発明における条件(x)の実質的な範囲は、図1に示すように、曲線a〔t=3.3×10-5exp(2871/T)〕,直線b(t=180分),直線c(T=300℃)にて囲まれた領域となる(曲線a,直線b,直線c上を含む)。
【0042】
上記条件(x)において、信頼性に対する必要充分な効果と生産性を考慮した場合、特に好ましい熱処理条件の一例として、例えば、300℃にて3分の熱処理、275℃にて5分の熱処理、250℃にて20分の熱処理等があげられる。
【0043】
本発明では、樹脂封止された半導体装置に対して、先に述べた条件(x)にて加熱処理を行なうことを特徴とするものであるが、上記加熱処理の態様としては、例えば、(1)半導体装置の樹脂封止後に行なわれる後加熱(PMC)工程(後硬化工程:アフターキュア)での加熱処理を、上記条件(x)を満たす加熱処理とし後加熱(PMC)工程を行なう、(2)後加熱(PMC)工程後に行なわれる半田リフロー工程での加熱処理を、上記条件(x)を満たす加熱処理とし半田リフロー工程を行なう、(3)上記後加熱(PMC)工程および後加熱(PMC)工程後の半田リフロー工程とは別に、独立した上記条件(x)での加熱処理工程を設け加熱処理を行なう、等があげられる。なお、本発明の加熱条件の上記条件(x)と比べて、通常の後加熱(PMC)工程での加熱温度はその温度が低いことから温度不足となり、また通常の半田リフロー工程での加熱時間はその時間が短いことから時間不足となる。
【実施例】
【0044】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0045】
まず、実施例に先立って下記に示す各成分を準備した。
【0046】
〔エポキシ樹脂a1〕
一般式(1)で表されるビフェニル型エポキシ樹脂〔式(1)中、Xは単結合であり、R1〜R4は全てCH3である:エポキシ当量192、融点105℃〕
〔エポキシ樹脂a2〕
トリフェニルメタン型多官能エポキシ樹脂(エポキシ当量169、融点60℃)
【0047】
〔フェノール樹脂b1〕
ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂(水酸基当量203、軟化点65℃)
〔フェノール樹脂b2〕
フェノールノボラック樹脂(水酸基当量104、軟化点60℃)
〔フェノール樹脂b3〕
キシリレンノボラック型フェノール樹脂(水酸基当量175、軟化点72℃)
〔フェノール樹脂b4〕
トリフェニルメタン型フェノール樹脂(水酸基当量103、軟化点83℃)
〔フェノール樹脂b5〕
トリフェニルメタン型フェノール樹脂(水酸基当量97、軟化点111℃)
【0048】
〔硬化促進剤c1〕
2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール
〔硬化促進剤c2〕
2,4−ジアミノ−6−〔2′−ウンデシルイミダゾリル−(1′)〕−エチル−s−トリアジン
〔硬化促進剤c3〕
テトラフェニルホスホニウム・テトラ−p−トリルボレート
【0049】
〔無機質充填剤〕
球状溶融シリカ粉末(平均粒径13μm)
【0050】
〔顔料〕
カーボンブラック
【0051】
〔難燃剤〕
水酸化マグネシウム
【0052】
〔シランカップリング剤〕
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
【0053】
〔離型剤〕
酸化ポリエチレンワックス
【0054】
〔エポキシ樹脂組成物の作製〕
下記の表1〜表2に示す各成分を同表に示す割合で配合しミキサーにて充分混合した後、2軸混練機を用い100℃で2分間溶融混練した。つぎに、この溶融物を冷却した後、粉砕することにより目的とする粉末状のエポキシ樹脂組成物a〜lを作製した。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
上記のようにして作製したエポキシ樹脂組成物を用い、下記の方法に従ってゲル化時間および熱時硬度を測定した。
【0058】
〔ゲル化時間〕
175℃の熱板上にてエポキシ樹脂組成物を溶融させ、ゲル化するまでの時間を測定した。なお、硬化性を考慮すると、ゲル化時間は60秒以下が妥当な時間である。
【0059】
〔熱時硬度〕
エポキシ樹脂組成物を用い、金型温度175℃,硬化時間90秒にて成形し、型開き10秒後にショアD硬度計を用いて測定した硬化物のショアD硬度の値を熱時硬度とした。すなわち、この熱時硬度の値が高いほど硬化性が良好であるといえる。
【0060】
〈半導体装置の製造〉
〔実施例1〜12、比較例1〜24〕
つぎに、上記各エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を、TOWA社製の自動成型機(CPS−40L)によりトランスファー成形(成形条件:175℃×90秒)にて樹脂封止し、さらに175℃×3時間にて後硬化することにより半導体装置(LQFP−144:大きさ20mm×20mm×厚み1.4mm)を作製した。続いて上記半導体装置に対して下記の条件にて加熱処理(未処理も含む)を行なうことにより目的とする半導体装置を得た。得られた半導体装置の高温高湿信頼性および金線ワイヤー流れの各評価を下記の方法に従って評価した。
【0061】
なお、上記高温高湿信頼性の評価に際して、エポキシ樹脂組成物a〜fを用い、かつ本発明の条件(x)を満たす条件での熱処理を加えた場合(250℃×3分、250℃×20分)の半導体装置を実施例品とした。一方、熱処理なしの場合でエポキシ樹脂組成物a〜fを用いたもの(比較例1〜6)、条件(x)の範囲外となる条件での熱処理を加えた場合(250℃×1分)の半導体装置(比較例7〜12)、熱処理なしの場合でエポキシ樹脂組成物g〜lを用いたもの(比較例13〜18)、さらには本発明の条件(x)を満たす条件での熱処理を加えた場合(250℃×20分)であるがエポキシ樹脂組成物g〜lを用いたもの(比較例19〜24)を比較例品とした。
【0062】
〔高温高湿信頼性寿命上昇率〕
作製した半導体装置に対して、上述の条件にて熱処理を加えた(熱処理なしも含む)。このように処理して得られた半導体装置を、130℃×85%RH環境下でのHAST試験(Highly Accelerated Steam and Temperatuer Test:半導体装置を130℃×85%RHの条件下で暴露しながら一定時間毎の抵抗値を測定:バイアスなし)に供した。そして、HAST試験処理後の抵抗値の測定を行ない、この抵抗値の上昇率が10%以上であった場合を断線不良とし、この断線不良が発生するHAST処理時間が、上述の条件にて熱処理を加えた(未処理の熱処理なしも含む)場合、その熱処理前の場合に比較してどの程度長くなったかを算出し(熱処理を加えた場合の断線不良が発生するHAST処理時間/熱処理前の断線不良が発生するHAST処理時間)、高温高湿信頼性の寿命上昇率として評価した。
【0063】
〔金線ワイヤー流れ〕
上記エポキシ樹脂組成物a〜lを用い、金線ワイヤー(ワイヤー径23μm、ワイヤー長6mm)を張ったLQFP−144(大きさ:20mm×20mm×厚み1.4mm)を、TOWA社製の自動成型機(CPS−40L)により成型(条件:175℃×90秒)し、175℃×3時間で後硬化することにより半導体装置を得た。すなわち、上記半導体装置の作製時において、図2に示すように、ダイパッド1を有するLQFPのパッケージフレームに金線ワイヤー2を張り、これを用い上記エポキシ樹脂組成物により樹脂封止してパッケージを作製した。図2において、3は半導体チップ、4はリードピンである。そして、作製したパッケージを軟X線解析装置を用いて、金線ワイヤー流れ量を測定した。測定は、各パッケージから10本ずつ金線ワイヤーを選定して測定し、図3に示すように、正面方向からの金線ワイヤー2の流れ量を測定した。そして、金線ワイヤー2の流れ量の最大部分となる値をそのパッケージの金線ワイヤー流れ量の値(dmm)とし、金線流れ率〔(d/L)×100〕を算出した。なお、Lは金線ワイヤー2間の距離(mm)を示す。そして、上記金線流れ率が6%以上のものを×、金線流れ率が4%以上6%未満のものを△、金線流れ率が4%未満のものを○として表示した。
【0064】
これらの評価結果を下記の表3〜表8に併せて示す。
【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
【表6】

【0069】
【表7】

【0070】
【表8】

【0071】
上記結果から、特定の配合成分からなるエポキシ樹脂組成物を用いて樹脂封止し、かつ特定の条件(x)を満足する条件にて加熱処理された実施例品は、流動性および硬化性において良好な結果が得られ、しかも信頼性寿命上昇率も高く、金線ワイヤー流れ評価にも優れ信頼性に優れた半導体装置が得られたことがわかる。
【0072】
さらに、樹脂封止後の加熱処理条件を300℃×3分とした場合、また275℃×5分とした場合の半導体装置を作製し、この半導体装置についても上記と同様の測定評価を行なった。その結果、上記と同様の優れた測定評価が得られ、信頼性に優れた半導体装置が得られた。
【0073】
これに対して、樹脂封止後に加熱処理を行なわなかった(熱処理なし)、または特定のエポキシ樹脂またはアミン系硬化促進剤を用いなかったエポキシ樹脂組成物により樹脂封止して加熱処理された、あるいは特定の条件(x)を外れた条件にて加熱処理された各比較例品は、高温高湿信頼性の上昇率が低いかワイヤー流れ評価に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の半導体装置の製法により得られる半導体装置は、従来の封止材料では実現出来なかった、優れた高温高湿信頼性を有するものである。したがって、本発明の製法は、各種の半導体装置の製造に際して有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(D)成分を含有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて、半導体素子を樹脂封止することにより半導体装置を製造する方法であって、樹脂封止後に加熱処理工程を加え、この加熱処理を下記(x)に示す条件にて行うことを特徴とする半導体装置の製法。
(A)下記の一般式(1)で表されるエポキシ樹脂。
【化1】

(B)フェノール樹脂。
(C)アミン系硬化促進剤。
(D)無機質充填剤。
(x)熱処理時間(t分)と熱処理温度(T℃)との関係が、t≧3.3×10-5exp(2871/T)を満足する領域からなる熱処理条件〔ただし、185℃≦熱処理温度T℃≦300℃である。〕
【請求項2】
上記(C)成分であるアミン系硬化促進剤の含有量が、(B)成分であるフェノール樹脂100重量部に対して1〜20重量部である請求項1記載の半導体装置の製法。
【請求項3】
上記(C)成分であるアミン系硬化促進剤が、下記の一般式(2)で表されるイミダゾール化合物である請求項1または2記載の半導体装置の製法。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−104674(P2012−104674A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252315(P2010−252315)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】