説明

半導体装置の製造方法

【課題】半田バンプ同士の接続性を良好に保ちつつ、溶融後の半田バンプ内に発生するボイドを抑制した半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の半田バンプ1を有する第1の基板2と第2の半田バンプ3を有する第2の基板4とを、半田バンプ1、3同士を仮固定しつつ積層した後に炉内に配置する。炉内に不活性ガスを導入した後、炉内の温度を半田バンプ1、3の溶融温度以上の温度域まで上昇させる。炉内の温度を半田バンプ1、3の溶融温度以上の温度域に維持しつつ、不活性ガスを排気して減圧雰囲気とした後、炉内にカルボン酸ガスを導入し、第1および第2の半田バンプ1、3の表面に存在する酸化膜を除去しつつ、溶融した第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3とを一体化して接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップ間の接続や半導体チップとシリコンインターポーザとの接続等にフリップチップ接続を適用する場合、上下のチップ(半導体チップやシリコンインターポーザ)の電極パッド上にそれぞれ形成された半田バンプを接触させた後、半田バンプを加熱・溶融させて接続する。半田バンプ自体の微小化や形成ピッチの微細化等に伴って、半田バンプ表面の酸化膜を除去するフラックス剤を完全に洗浄することが困難になってきている。そこで、ギ酸等のカルボン酸ガスで半田バンプ表面の酸化膜を除去しながら、半田バンプを加熱・溶融して接続することが検討されている。
【0003】
半田バンプの表面に形成された酸化膜の除去剤(還元剤)としてカルボン酸ガスを使用する場合には、例えば上下のチップの半田バンプ同士を接触させて仮固定した後にリフロー炉内に配置する。次いで、リフロー炉内を排気して減圧した後、リフロー炉内にカルボン酸ガスを導入する。この状態でリフロー炉内を半田バンプの融点以上の温度まで昇温し、昇温過程で半田バンプ表面の酸化膜を除去しながら半田バンプを溶融して接続する。カルボン酸ガスは仮固定された半田バンプの接触界面の僅かな隙間にも侵入するため、接触界面に噛み込まれた酸化膜も還元して除去することができる。
【0004】
ただし、接触界面に存在する酸化膜の還元時に発生するガスや接触界面に侵入したカルボン酸ガス自体は、半田バンプを溶融したときにその内部に取り込まれ、半田バンプ内にボイドを発生させる要因となる。このような点に対して、カルボン酸ガスの導入後の雰囲気圧を減圧状態とし、このような減圧雰囲気内で半田バンプの溶融温度以上に昇温する過程で酸化膜を還元・除去しつつ、仮固定された半田バンプを溶融することによって、還元時に発生するガスやカルボン酸ガスを減圧雰囲気中に拡散させることが検討されている。
【0005】
半田溶融時の雰囲気圧は酸化膜の還元状態に影響を及ぼすため、場合によっては酸化膜の還元効果を十分に得ることができないおそれがある。接触界面に残存する酸化膜は、半田バンプ間の接続不良や溶融後の半田バンプの抵抗を増大させる要因となる。また、カルボン酸ガスによる酸化膜の還元は半田バンプの溶融温度への昇温過程で生じるため、半田バンプの溶融時に酸化膜の還元時に発生するガス等が取り込まれるおそれがある。これは上記したように半田バンプ内にボイドを発生させる要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−244283号公報
【特許文献2】特開2001−244618号公報
【特許文献3】特開2010−000513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、半田バンプ同士の接続性を良好に維持しつつ、半田バンプ内に発生するボイドを抑制することを可能にした半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の半導体装置の製造方法は、第1の半田バンプを有する第1の基板上に第2の半田バンプを有する第2の基板を、第1の半田バンプと第2の半田バンプとを仮固定しつつ積層する工程と、半田バンプ同士を仮固定した第1の基板と第2の基板との積層体を炉内に配置した後、炉内を排気して減圧雰囲気とする工程と、炉内に不活性ガスを導入する工程と、不活性ガスを導入した炉内の温度を半田バンプの溶融温度以上の温度域まで上昇させる工程と、炉内の温度を半田バンプの溶融温度以上の温度域に維持しつつ、炉内に導入された不活性ガスを排気して減圧雰囲気とする工程と、炉内の温度を維持しつつ、減圧雰囲気の炉内にカルボン酸ガスを導入し、第1および第2の半田バンプの表面に存在する酸化膜を除去しつつ、溶融した第1の半田バンプと第2の半田バンプとを一体化して接合する工程とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態による半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図2】図1に示す半導体装置の製造工程における半田バンプの状態を拡大して示す断面図である。
【図3】図1に示す半導体装置の製造工程における半田バンプ同士を仮固定した状態を拡大して示す断面図である。
【図4】実施形態における半田バンプの溶融工程の圧力および温度プロファイルとガス導入時期を示す図である。
【図5】実施形態における第1の基板と第2の基板との積層体の炉内への配置状態の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の半導体装置の製造方法について、図面を参照して説明する。図1は実施形態による半導体装置の製造工程を示す断面図である。まず、図1(a)に示すように、第1の半田バンプ1を有する第1の基板2と、第2の半田バンプ3を有する第2の基板4とを用意する。第1および第2の基板2、4は、例えば半導体チップ(シリコン(Si)チップ等)やシリコン(Si)インターポーザである。第1および第2の基板2、4における組合せは、例えば第1の半導体チップ(2)と第2の半導体チップ(4)との組合せ、Siインターポーザ(2)と半導体チップ(4)との組合せ、半導体チップ(2)とSiインターポーザ(4)との組合せ等、特に限定されるものではない。
【0011】
第1および第2の半田バンプ1、3は、それぞれ基板2、4の所定の領域内にマトリクス状に配列されている。半田バンプ1、3はそれぞれ図2に示すように、基板2、4の表面側に設けられた電極パッド5、7上にバリアメタル層6、8を介して形成されている。半田バンプ1、3の構成材料としては、例えばSn−Ag系半田合金、Sn−Cu系半田合金、Sn−Ag−Cu系半田合金、Sn−Bi系半田合金、Sn−In系半田合金等の鉛フリー半田合金、あるいはSn−Pb系半田合金が用いられる。半田バンプ1、3は、鉛を実質的に含まない鉛フリー半田および鉛半田のいずれであってもよい。
【0012】
半田バンプ1、3は、例えばメッキ法で形成したり、あるいは半田合金からなる微小ボールを用いて形成される。電極パッド5、7上に形成された直後の半田バンプ1、3の表面には酸化膜が存在していないが、時間を経ると図2に示したように半田バンプ1、3の表面が酸化される。半田バンプ1、3の表面に形成された酸化膜9は、半田バンプ1、3同士を溶融して接続する際に半田バンプ1、3間の抵抗を増大させたり、また半田バンプ1、3間に接続不良を発生させる要因となる。このため、半田バンプ1、3を加熱・溶融する前に、半田バンプ1、3表面の酸化膜9を除去する必要がある。
【0013】
第1の基板2と第2の基板4とをフリップチップ接続するにあたって、まず第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3とを位置合せしつつ、第1の基板2上に第2の基板4を積層する。この際に、図1(b)および図3に示すように、第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3とを仮固定する。仮固定は次工程(酸化膜9の除去工程)に投入する際に上下の基板2、4が外れない程度の強度が得られればよい。半田バンプ1、3の仮固定には、超音波フリップチップボンダによる室温下での超音波と荷重の印加、パルスヒータ加熱型フリップチップボンダによる半田の融点付近の温度の印加等が適用される。
【0014】
第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3との仮固定は、それらの表面に酸化膜9が存在している状態で実施される。このため、第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3との接触界面には、図3に示すように酸化膜9が噛み込まれた状態となる。ただし、第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3とは仮固定された状態であるため、第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3との接触界面には、図3に示すように隙間Gが存在している。このような接触界面の隙間Gを利用して、接触界面に噛み込まれた酸化膜9を含めて、半田バンプ1、3の表面に存在する酸化膜9をカルボン酸ガスで除去する。
【0015】
半田バンプ1、3の加熱・溶融工程と半田バンプ1、3の表面に存在する酸化膜9の還元除去工程について、図4に示す加熱炉内の圧力および温度プロファイルを参照して述べる。まず、半田バンプ1、3同士を仮固定した第1の基板2と第2の基板4との積層体を加熱炉(リフロー炉等)内に配置した後、加熱炉内を真空引きして減圧雰囲気とする。加熱炉内に残留する酸素は半田バンプ1、3を酸化させるため、加熱炉内を大気圧状態(1.01×105Pa)から1×103Pa以下、特に5Pa以下の減圧状態まで排気することが好ましい。このような減圧雰囲気の加熱炉内に不活性ガスを導入する。
【0016】
不活性ガスは、加熱炉内を半田バンプ1、3の溶融温度以上(融点以上)の温度域まで上昇させる際に、半田バンプ1、3の表面のさらなる酸化を防止しつつ、半田バンプ1、3の溶融を実現するものであり、加熱炉内の熱媒体として機能させるものである。このような不活性ガスとしては、例えば窒素(N2)ガスやアルゴン(Ar)ガス等を用いることができる。不活性ガスの導入後の加熱炉内の雰囲気圧は、大気圧より低い状態(減圧状態)に設定することが好ましい。これによって、雰囲気中の酸素が大幅に減少するため、加熱による半田バンプ1、3の表面の再酸化を再現性よく抑制することが可能となる。具体的な加熱炉の雰囲気圧は8×104Pa以下に維持することが好ましい。
【0017】
加熱炉内に不活性ガスを導入した後、もくしは不活性ガスの導入とほぼ同時に、所定の昇温速度(例えば35〜45℃/分)で加熱炉内を昇温し、不活性ガスが導入された状態の加熱炉内の温度を半田バンプ1、3の融点以上の温度域まで上昇させる。例えば、半田バンプ1、3を鉛フリー半田で構成した場合、鉛フリー半田の融点は半田合金の組成によって異なるものの、おおよそ220〜230℃であるため、そのような温度以上の温度域まで加熱炉内の温度を上昇させる。半田バンプ1、3を鉛半田で構成した場合、鉛半田の融点である183℃以上の温度域まで加熱炉内の温度を上昇させる。
【0018】
加熱炉内の温度を半田バンプ1、3の融点以上の温度域まで上昇させることによって、半田バンプ1、3は溶融する。ただし、この段階では半田バンプ1、3の表面に酸化膜9が存在しているため、半田バンプ1、3は個々に溶融しているものの、半田バンプ1、3同士は接合(一体化)していない。次いで、加熱炉内の温度を半田バンプ1、3の融点以上の温度域に維持しつつ、加熱炉内に導入した不活性ガスを真空引きして排気し、加熱炉内を減圧雰囲気とする。加熱炉内の雰囲気圧は1×103Pa以下、特に5Pa以下とすることが好ましい。これによって、続いて加熱炉内に導入するカルボン酸ガスによる酸化膜9の還元効果と還元時に発生するガス等の除去効果を高めることができる。
【0019】
上記した炉内温度が半田バンプ1、3の融点以上の温度域に維持され、かつ減圧雰囲気(好ましく1×103Pa以下、特に好ましくは5Pa以下)とされた加熱炉内に、半田バンプ1、3の表面に存在する酸化膜9の還元剤としてカルボン酸ガスを導入する。カルボン酸は、特に限定されるものではなく、例えばギ酸、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸等の脂肪族の1価または2価の低級カルボン酸が挙げられる。これらの内でも、それ自体のコストやガス化のためのコストが低く、また酸化膜9の還元作用に優れることから、ギ酸を使用することが好ましい。
【0020】
カルボン酸ガスの導入は、加熱炉の雰囲気圧を減圧状態に維持しつつ実施することが好ましい。特に、カルボン酸ガスの導入後の加熱炉内の雰囲気圧は、1.3×104Pa以上8×104Pa以下の範囲に維持することが好ましい。すなわち、加熱炉内を適度な減圧状態に維持しつつ、加熱炉内にカルボン酸ガスを導入することが好ましい。具体的には、加熱炉内の不活性ガスを除去するように真空引きした後、真空引き(排気)を継続しながら適度な濃度と流量のカルボン酸ガスを供給しつ続ける。これによって、加熱炉内のカルボン酸ガスの濃度を適度な状態に維持した減圧雰囲気下で、半田バンプ1、3の表面に存在する酸化膜9を還元除去することができる。
【0021】
このように、半田バンプ1、3の融点以上の温度に維持された加熱炉内にカルボン酸ガスを導入することによって、半田バンプ1、3の表面に存在する酸化膜9が還元除去される。半田バンプ1、3同士の接触界面に噛み込まれた酸化膜9についても、その隙間Gにカルボン酸ガスが侵入することで還元除去される。この際に、半田バンプ1、3は既に溶融しているため、酸化膜9が還元除去されることで、溶融している半田バンプ1、3同士が一体化(接合)し、図1(c)に示すように接続部10が形成される。
【0022】
カルボン酸ガスは半田バンプ1、3の融点以上の温度域に維持された加熱炉内に導入されるため、酸化膜9が還元除去されると溶融している半田バンプ1、3同士が短時間で一体化する。さらに、加熱炉内は減圧雰囲気とされているため、接触界面(隙間G)に侵入したカルボン酸ガスや酸化膜9の還元時に発生したガスが半田バンプ1、3の接合体(接続体10)内に取り込まれることが抑制される。すなわち、接触界面(隙間G)に侵入もしくは発生したガス等に起因して、一体化後の半田バンプ1、3(接続体10)の内部に発生するボイドを抑制することが可能となる。
【0023】
一方、加熱炉内を昇温する以前、もしくは昇温過程でカルボン酸ガスを導入した場合、半田バンプ1、3がカルボン酸ガスに晒される時間が長く、さらに半田バンプ1、3はカルボン酸ガスを含む雰囲気中で溶融温度を迎えることになる。カルボン酸ガスとしてギ酸を用いた場合、150℃以上の温度で酸化膜9の還元作用が発現するため、酸化膜9は溶融温度までの昇温過程で還元除去されることになる。この状態で半田バンプ1、3の溶融温度に達すると、半田バンプ1、3間の部分的な接触界面から溶融する際に、その周囲には隙間Gに侵入もしくは発生したガス等が存在していることになるため、これが半田バンプ1、3全体が溶融した際に取り込まれてボイドの発生原因となる。
【0024】
この実施形態における半田バンプ1、3の溶融・接合工程は、上記した半田バンプ1、3のカルボン酸ガスに晒される時間や半田バンプ1、3間の部分的な接触界面からの溶融等に起因するボイドの発生を、半田バンプ1、3の溶融温度以上に維持された加熱炉内にカルボン酸ガスを導入することで抑制するものである。これによって、半田バンプ1、3の溶融・接合工程において、半田バンプ1、3間の接続不良や接合後の半田バンプ1、3(接続体10)の抵抗の増加を抑制することができる。言い換えると、半田バンプ1、3で良好な接続部(形状や導通性等に優れる接続部)10を形成しつつ、接続部10内のボイドの発生を抑制することが可能となる。すなわち、電気的および機械的に優れる接続部10で基板2、4間を接続することができる。
【0025】
カルボン酸ガスの導入後の加熱炉内の雰囲気圧は、上述したように1.3〜8×104Paの範囲に維持することが好ましい。酸化膜9の除去工程における加熱炉内のカルボン酸ガスの濃度が高すぎると、余分なカルボン酸ガスが溶融した半田バンプ1、3内に取り込まれてボイドとなるおそれがある。このようなカルボン酸ガスによるボイドの発生を抑制する上で、カルボン酸ガスを導入した後の加熱炉内の雰囲気圧は8×104Pa以下とすることが好ましい。ただし、加熱炉内の雰囲気圧が低すぎるとカルボン酸ガスの存在量が低下しすぎて、酸化膜9の還元除去作用が不十分になるおそれがあるため、加熱炉内の雰囲気圧は1.3×104Pa以上とすることが好ましい。
【0026】
このような減圧雰囲気下でのカルボン酸ガスの存在量(濃度)であっても、半田バンプ1、3表面の酸化膜9還元除去することができる。すなわち、加熱炉内のカルボン酸ガスの濃度を比較的低濃度側としても、上下の基板2、4に設けられた半田バンプ1、3を溶融して接続する場合には、半田バンプ1、3の表面に存在する酸化膜9を還元して除去することができる。カルボン酸ガスを導入した後の加熱炉内の雰囲気圧は2.6〜8×104Paの範囲とすることがより好ましい。
【0027】
また、上記したような減圧雰囲気下でのカルボン酸ガスの導入は、カルボン酸濃度が0.6〜9.2体積%の範囲となるように実施することが好ましい。このカルボン酸濃度を例えばギ酸のモル濃度に換算すると3.19×10-6〜2.87×10-3mol/Lの範囲となる。カルボン酸ガスの濃度が高すぎると、加熱炉内のガス濃度が増加して半田バンプ1、3内にボイドが発生しやすくなる。一方、カルボン酸ガスの濃度が低すぎると、カルボン酸ガスによる酸化膜9の還元作用を十分に得ることができず、半田バンプ1、3間の接続不良や抵抗値の増大等を招くおそれがある。
【0028】
このように、カルボン酸ガスの導入後の加熱炉内の雰囲気圧を1.3〜8×104Paの範囲とし、かつその際のカルボン酸濃度を0.6〜9.2体積%の範囲(カルボン酸ガスがギ酸の場合のモル濃度は3.19×10-6〜2.87×10-3mol/L)とすることによって、酸化膜9の還元除去効果を良好に維持しつつ、加熱炉内のガス濃度に起因するボイドの発生を再現性よく抑制することが可能となる。酸化膜9を還元するためのカルボン酸濃度は、例えばカルボン酸ガスがギ酸の場合におけるモル濃度で6.38×10-6〜2.87×10-3mol/Lの範囲とすることがより好ましい。
【0029】
半田バンプ1、3の溶融温度以上の温度域に維持された加熱炉内で、半田バンプ1、3をカルボン酸ガスに所定時間(例えば0.5〜3分)晒した後、加熱炉内に導入したカルボン酸を真空引きして排気する。加熱炉内のカルボン酸ガスを排気した後、もしくはカルボン酸ガスの排気とほぼ同時に、所定の降温速度(例えば−5〜−40℃/分)で加熱炉内を降温する。加熱炉内の温度が溶融一体化した半田バンプ1、3(接続体10)がある程度固化する温度域まで降温したところで、加熱炉内に窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを導入して大気圧まで戻すことが好ましい。
【0030】
そして、加熱炉内を接続構造体が容易に取り出せる温度、例えば100℃程度の温度まで降温した後に、第1の基板2と第2の基板4とを溶融一体化した半田バンプ1、3からなる接続部10を介して接続した構造体を加熱炉から取り出す。加熱炉から取り出した構造体(第1の基板2と第2の基板4との接続体)は、通常の半導体装置と同様にアセンブリ工程に送られる。アセンブリ工程は半導体装置に応じて選択される。
【0031】
アセンブリ工程は、特に限定されるものではない。その一例を述べると、まず第1の基板2と第2の基板4との間の隙間に熱硬化性のアンダーフィル樹脂を充填し、これをキュア処理して硬化させる。さらに、第1の基板2と第2の基板4との接続体を、例えば配線基板からなる第3の基板上に搭載した後、接続体と第3の基板との間をワイヤーボンディング等で接続する。このような構造体を樹脂モールドした後、アウターリードボールを配置して半導体装置(半導体パッケージ)の外部接続端子を形成する。
【0032】
次に、実施形態による半導体装置の製造工程の具体例について述べる。まず、鉛フリー半田(Sn−Cu(0.7%)半田/融点:227℃)からなる半田バンプ(直径:30μm)を有するSiチップを2個用意し、Siチップの半田バンプ同士をパルスヒータ加熱型フリップチップボンダ(加熱温度:250℃)を用いて仮固定した。この仮固定体を加熱炉内に配置した後、加熱炉内を5Pa以下まで真空引きした。その後の加熱炉内の雰囲気圧と加熱炉に供給する窒素やギ酸ガスの濃度および流量を以下のように調整した。
【0033】
実施例1では、5Pa以下まで真空引きした加熱炉内に、炉内圧力を2.7×104Paに維持しつつ、窒素ガスを15L/分の流量で流した。次いで、加熱炉を250℃まで昇温した後、加熱炉内を5Pa以下まで真空引きした。続いて、加熱炉内の温度を維持しつつ、ギ酸濃度が9.2体積%(3.64×10-3mol/L)のギ酸含有ガスを15L/分の流量で流した。この際の炉内圧力は8×104Paとした。炉内のギ酸濃度は9.2体積%(2.87×10-3mol/L)である。実施例2〜4では、上記した各条件を表1および表2に示す条件に変更してガス供給や炉内昇温を行った。実施例2〜4における炉内のギ酸濃度(250℃)は表2に示す通りである。
【0034】
また、比較例1〜4では、5Pa以下まで真空引きした加熱炉内に、炉内圧力を8.0×104Pa(比較例1、3)または2.7×104Pa(比較例2、4)に維持しつつ、ギ酸濃度が9.2体積%(3.64×10-3mol/L:比較例1、3)または0.6体積%(2.43×10-4mol/L:比較例2、4)のギ酸含有ガスを15L/分の流量で流した。この状態で加熱炉を250℃まで昇温した。比較例1〜4における炉内のギ酸濃度は表2に示す通りである。
【0035】
上述した実施例1〜4については、ギ酸含有ガスを導入して所定圧力に到達してから表1に示す時間維持した後に、加熱炉内を5Pa以下まで真空引きすると同時に常温まで降温させた。比較例1〜4については、ギ酸含有ガスを導入した状態で昇温した炉内温度が250℃に到達してから表1に示す時間維持した後に、加熱炉内を5Pa以下まで真空引きすると同時に常温まで降温させた。降温時においては、炉内温度が200℃に到達したところで窒素ガスを導入し、炉内圧力を大気圧状態に戻した。
【0036】
このようにして、それぞれ2個のSiチップの半田バンプ同士を溶融させて接合した。各例のチップ接合体(半田バンプを溶融一体化して形成した接続体で2個のSiチップを接続した構造体)をそれぞれ10個ずつ作製し、各チップの半田バンプ(各262個/計2620個)内のボイドの有無を調べた。半田バンプ内のボイドに関しては、ボイドが発生した半田バンプの数とボイドの最大径を調べた。その結果を表2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表1から明らかなように、半田バンプの溶融温度以上に昇温した炉内にギ酸含有ガスを導入した実施例1〜4は、炉内を昇温する以前からギ酸含有ガスを導入した比較例1〜4に比べてボイドが発生したバンプ数が大幅に少ないことが分かる。また、ボイドが発生した場合においても、その最大径が抑えられていることが分かる。このように、実施例1〜4によれば、ボイドの発生を大幅に抑制することが可能となる。なお、実施例1〜4の各チップ接合体の導通試験結果を実施したところ、いずれも良好な結果が得られた。このことから半田バンプ表面の酸化膜は残存していないことが分かる。
【0040】
ところで、半田バンプ1、3同士を仮固定した第1の基板2と第2の基板4との積層体を、半田バンプ1、3の溶融温度以上の温度域まで加熱するにあたって、半導体チップ(例えばSiチップ)やSiインターポーザ等からなる第1および第2の基板2、4と、半導体チップやSiインターポーザ上に形成された表面膜(Low−k膜、SiOx膜、SiNx膜、有機樹脂膜のような絶縁膜や導電性金属膜等)との熱膨張率差によって、加熱時に第1および第2の基板2、4に反りが発生する場合がある。第1および第2の基板2、4の反りは、半田バンプ1、3による接続を離間させる原因となる。
【0041】
このような点に対しては、半田バンプ1、3同士を仮固定した第1の基板2と第2の基板4との積層体において、第1および第2の基板2、4のうちの少なくとも一方を吸着固定した状態で、上述した各工程(加熱炉内の排気工程から半田バンプの接合工程まで)を実施することが好ましい。例えば、積層体を加熱源上に配置して加熱する場合、第1および第2の基板2、4のうちの加熱面側の基板を吸着固定する。これによって、加熱時における基板2、4の反りを抑制することができる。
【0042】
図5は半田バンプ1、3同士を仮固定した第1の基板2と第2の基板4との積層体の加熱炉内への配置状態の一例を示している。第1の基板2と第2の基板4との積層体11を加熱炉12内に配置するにあたって、積層体は例えばチップトレイ13に収納されている。チップトレイ13は積層体11を吸着する溝を含む吸着用経路14を有している。加熱炉12内の加熱ヒータ板(例えばグラファイトヒータ)15上には、積層体11を含めたチップトレイ13への伝熱が均一になるように、例えばアルミパレット16が配置されている。アルミパレット16にも吸着用経路17が設けられている。
【0043】
積層体11を収納したチップトレイ13は、その吸着用経路14がアルミパレット16の吸着用経路17と接続された状態で、アルミパレット16上に配置される。アルミパレット16の吸着用経路17は、加熱炉12外への吸着用吸引口18と接続されている。そして、加熱炉12内に配置された積層体11を吸引して固定する。この際、積層体11の吸着は、加熱炉12内の減圧雰囲気における圧力値(例えば5Pa)より低い圧力値で実施する。これによって、減圧雰囲気とした加熱炉12内においても、積層体11の吸着による固定状態を安定させることができる。
【0044】
図5に示す積層体11は、加熱面側の第1の基板2(加熱ヒータ板15に近い側に配置される第1の基板2)がチップトレイ13に吸着固定されている。なお、加熱炉12は炉内に不活性ガスやカルボン酸ガスを導入するガス導入口19と、炉内を真空引きして減圧雰囲気とする減圧用排気口20とを備えている。
【0045】
次に、積層体11が吸着固定された加熱炉12内の排気、不活性ガスの導入、加熱炉の昇温、加熱炉12内の排気、カルボン酸ガスの導入等の各工程を実施する。各工程の具体的な条件は前述した通りである。第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3とを溶融一体化(接合)した後に、前述したように加熱炉12内の温度を降温させる。この際、吸着固定した第1の基板2の温度が半田バンプ1、3の溶融温度より低い温度(凝固温度以下の温度)に達し、かつ加熱炉12内不活性ガス等を充填して大気圧状態に戻した後に、第1の基板2の吸着固定を解除する。これらによって、基板2、4の反りが抑制される。すなわち、基板2、4の反りによる接続不良の発生を抑制することができる。
【0046】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1…第1の半田バンプ、2…第1の基板、3…第2の半田バンプ、4…第2の基板、5,7…電極パッド、6,8…バリアメタル層、9…酸化膜、10…接続部、11…積層体、12…加熱炉、13…チップトレイ、14,17…吸着用経路、15…加熱ヒータ板、16…アルミパレット、18…吸着用吸引口、19…ガス導入口、20…減圧用排気口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の半田バンプを有する第1の基板上に第2の半田バンプを有する第2の基板を、前記第1の半田バンプと前記第2の半田バンプとを仮固定しつつ積層する工程と、
前記半田バンプ同士を仮固定した前記第1の基板と前記第2の基板との積層体を炉内に配置した後、前記炉内を排気して減圧雰囲気とする工程と、
前記炉内に不活性ガスを導入する工程と、
前記不活性ガスを導入した前記炉内の温度を前記半田バンプの溶融温度以上の温度域まで上昇させる工程と、
前記炉内に導入された前記不活性ガスを排気して減圧雰囲気とする工程と、
前記炉内の温度を前記半田バンプの溶融温度以上の温度域に維持しつつ、前記減圧雰囲気の炉内にカルボン酸ガスを導入し、前記第1および第2の半田バンプの表面に存在する酸化膜を除去しつつ、溶融した前記第1の半田バンプと前記第2の半田バンプとを一体化して接合する工程と
を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置の製造方法において、
前記不活性ガスを、前記炉内を減圧雰囲気に維持しつつ導入することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の半導体装置の製造方法において、
前記炉内の雰囲気圧を1.3×104Pa以上8×104Pa以下の範囲に維持しつつ、カルボン酸濃度が0.6〜9.2体積%の範囲となるように、前記炉内に前記カルボン酸ガスを導入することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の半導体装置の製造方法において、
前記積層体における前記第1および第2の基板のうちの少なくとも一方を吸着固定した状態で、前記炉内の排気工程から前記半田バンプの接合工程までを実施することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1の半田バンプと前記第2の半田バンプとの接合後に前記炉内を降温させる過程で、前記吸着固定された基板の温度が前記半田バンプの溶融温度より低い温度に達し、かつ前記炉内を大気圧状態に戻した後に、前記基板の吸着を解除することを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−129482(P2012−129482A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282287(P2010−282287)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】