説明

半導体製造装置用部材

【課題】接合時の残留応力を下げ、セラミックス基体にクラックが発生せず、使用温度が200℃であっても十分な接合強度が得られる。
【解決手段】静電チャックは、電極14が埋設されたセラミックス基体12と、セラミックス基体12の裏面に設けた凹部16の底面に露出する電極端子14aと、電極14に給電するための給電部材20と、この給電部材20とセラミックス基体12とを接続する接合層22とを備えている。接合層22は、AuGe系合金、AuSn系合金、又はAuSi系合金を用いて形成されている。セラミックス基体12と給電部材20とは、給電部材20の熱膨張係数からセラミックス基体12の熱膨張係数を引いた熱膨張係数差Dが−2.2≦D≦6(単位:ppm/K)となるように選択されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置の分野では、静電チャックの基体として緻密質セラミックスのアルミナ(Al23)、窒化アルミ(AlN)等が使用される。セラミックス基体中には、半導体プロセス処理のプラズマを発生するために高周波電極を埋設して製造される。ここで、セラミックス基体に埋設された電極には電力供給用端子と電気的に接合する必要がある。この電力供給用端子には導電性に優れた金属材料が好適に用いられるが、一般的に金属材料はセラミックスに対して熱膨張係数が大きく、セラミックス基体に接合して製品にするためには、接合時にセラミックス/金属間の熱膨張係数差に起因したクラックが発生せず、尚且つ製品としての信頼性のために高い接合強度が必要になる。こうした接合材として、例えば、特許文献1,2ではインジウムが使用されている。こうすれば、セラミック基体と電力供給用端子とを十分に高い接合強度をもって接合することができる。また、インジウムは軟質なため、セラミックス基体にクラックが発生するのを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−293655号公報
【特許文献2】特開2009−60103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、静電チャックの使用温度が室温から80℃程度であれば、特許文献1,2のように接合材としてインジウムを用いても問題はないが、近年、新材料をエッチングするために静電チャックの使用温度の高温化ニーズが高まっている。こうした中、使用温度を150〜200℃にした場合にはインジウムの融点が低いことから十分な接合強度が得られないという問題があった。また、セラミックス基体との接合用ロウ材に、Ag系、Al系合金が一般に存在するが、いずれも接合温度が500℃以上と高く、接合時の残留応力が高くなる問題があった。また、近年薄肉化するセラミックス誘電層中へのクラック発生を完全に抑制するためには、残留応力が低い接合技術が必要であり、尚且つ200℃における接合強度の高い接合体が求められていた。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、接合時の残留応力を下げ、セラミックス基体にクラックが発生せず、使用温度が200℃であっても十分な接合強度が得られる半導体製造装置用部材を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の半導体製造装置用部材は、
ウエハー載置面を有するセラミックス基体と、
該セラミックス基体の内部に埋設された電極と、
前記電極の一部であって前記セラミックス基体の前記ウエハー載置面とは反対側の面に露出する電極露出部と、
前記電極に給電するための給電部材と、
前記セラミックス基体と前記給電部材との間に介在し、前記給電部材と前記セラミックス基体とを接合すると同時に前記給電部材と前記電極露出部とを電気的に接続する接合層と、
を備え、
前記接合層は、接合材であるAuGe系合金、AuSn系合金、又はAuSi系合金を用いて形成され、
前記セラミックス基体と前記給電部材とは、前記給電部材の熱膨張係数から前記セラミックス基体の熱膨張係数を引いた熱膨張係数差Dが−2.2≦D≦6(単位:ppm/K)となるように選択され、
200℃における接合強度が3.5MPa以上
のものである。
【0007】
この半導体製造装置用部材によれば、接合時の残留応力を下げ、薄肉化したセラミックス基体においてもクラックが発生せず、使用温度が200℃であっても十分な接合強度が得られる。つまり、本発明の半導体製造装置用部材は、室温〜200℃まで使用可能になるため、近年の静電チャックなどに要求される高温化ニーズに十分応えることができる。
【0008】
ここで、熱膨張係数差Dが上限値6より大きい場合には、熱膨張係数差に起因する応力によって接合端部から界面剥離が生じて接合強度が低下するおそれがあるため、好ましくない。また、熱膨張係数差Dが下限値−2.2より小さい場合には、熱膨張係数差に起因する応力によってセラミックス基体にクラックが発生するおそれがあるため、好ましくない。セラミックス基体と給電部材とは、熱膨張係数差Dが−2.2≦D≦0となるように選択されることがより好ましい。なお、基礎出願時には、−1.5≦D≦6が適切な範囲であると考えていたが、その後更に検討を重ねたところ、今回、−2.2≦D≦6であっても適切であることがわかった。
【0009】
本発明の半導体製造装置用部材において、前記接合層は、接合前に前記電極露出部を含む所定領域を被覆していたメタライズ層に含まれていた金属と前記接合材中のAu以外の元素とが反応して生成した金属間化合物相を含有することが好ましく、更に、前記接合材中のAu以外の元素が前記メタライズ層に含まれていた金属と反応して消費されることにより生成したAuリッチ相を含有することが好ましい。このAuリッチ相は、電気抵抗が低いため給電時の電力損失が少なく、軟質であるため接合時の残留応力を緩和しやすく、接合時に反応によりAu濃度が高くなるほど融点が上がり耐熱性を高めることが出来る利点がある。
【0010】
本発明の半導体製造装置用部材において、前記接合層が前記金属間化合物層と前記Auリッチ相とを含有する場合、前記セラミックス基体と前記Auリッチ相との間に前記金属間化合物相が存在していることが好ましい。こうすれば、界面剥離による強度低下を招きにくい。なお、金属間化合物相を主体とする層は、メタライズ層またはセラミックス基体と接していることが好ましい。また、前記接合層には、前記セラミックス基体側から順に、前記メタライズ層、前記金属間化合物相を主体とする層及び前記Auリッチ相を主体とする層が積層されていることが好ましい。こうすれば、界面剥離による強度低下を一層招きにくい。この場合、接合層のうち給電部材とセラミックス基体とを接合する部分では、セラミック基体はメタライズ層と接し、メタライズ層は金属間化合物相を主体とする層と接し、金属間化合物相を主体とする層はAuリッチ相を主体とする層と接していることが好ましい。
【0011】
本発明の半導体製造装置用部材において、前記セラミックス基体は、Al23,AlN,MgO,Y23及びSiCからなる群より選ばれた1種を主成分とするものであり、前記給電部材は、Ti,Cu,Ni,Mo,CuW,W及びこれらの合金並びにFeNiCo系合金(例えばKovar(登録商標))からなる群より選ばれたものとしてもよい。これらの中からセラミックス基体と給電部材とを、給電部材の熱膨張係数からセラミックス基体の熱膨張係数を引いた熱膨張係数差Dが−2.2≦D≦6(単位:ppm/K)となるように選択すればよい。
【0012】
本発明の半導体製造装置用部材において、前記セラミックス基体の穴の直径から前記給電部材の直径を差し引いた値であるクリアランス値をCとした場合、前記セラミックス基体の穴の直径Rとの比率C/Rは、C/R≦0.15を満たすことが好ましい。この場合、セラミックス基体と給電部材とは、C/R≦0.15であればC/Rがこの範囲外のものに比べて接合強度が高くなるが、熱膨張係数差Dが−2.2≦D≦0(単位:ppm/K)となるように選択されていることが好ましく、−2.2≦D≦−1.0(単位:ppm/K)となるように選択されていることがより好ましい。こうすれば、セラミックス基体が接合層を介して給電部材を焼きばめする状態とすることが出来るため、接合強度がより高くなる。また、C/R≦0.15を満たす場合において、C/Rの値が大きいと、給電部材をセラミックス基体の穴の中心に上手く配置することが難しく、結果として強度バラツキが生じやすい。このため、より高強度且つバラツキの少ない信頼性の高い接合体を得るためにはC/R≦0.09を満たすことが好ましい。
【0013】
本発明の半導体製造装置用部材において、前記給電部材は、前記セラミックス基体と接合される面とは反対側の面に連結部材が接合され、該連結部材の熱膨張係数から前記セラミックス基体の熱膨張係数を引いた熱膨張係数差D’が6ppm/Kを超えるようにしてもよい。こうした構造は、電気抵抗が低く大電流を電極へ供給したい場合、例えば純Cuやその合金を使用したい場合に適している。ちなみに、給電部材を介さずに連結部材をセラミックス基体に接合すると、熱膨張係数差D’が大きいため、接合界面に剥離が生じるが、ここでは給電部材を介して接合しているため、そうした問題は発生しない。
【0014】
本発明の半導体製造装置用部材の製法は、
(a)ウエハー載置面を有し、内部に電極が埋設され、該電極の一部であって前記ウエハー載置面とは反対側の面に電極露出部が露出し、前記ウエハー載置面とは反対側の面のうち前記電極露出部を含む所定領域をメタライズ層が被覆しているセラミックス基体を準備する工程と、
(b)前記電極に給電するための給電部材を、該給電部材の熱膨張係数から前記セラミックス基体の熱膨張係数を引いた熱膨張係数差Dが−2.2≦D≦6(単位:ppm/K)となるように選択する工程と、
(c)前記給電部材を前記メタライズ層で被覆された領域に接合材としてAuGe系合金、AuSn系合金、又はAuSi系合金を介して固定した状態で加熱したあと冷却する工程と、
を含むものである。
【0015】
本発明の半導体製造装置用部材の製法によれば、上述した本発明の半導体製造装置用部材を容易に作製することができる。なお、工程(c)で加熱する際の温度は、熱膨張係数差Dに応じて、接合界面に剥離が発生したりセラミックス基体にクラックが発生したりすることのない温度に適宜設定すればよいが、加熱温度が高いほど接合界面近傍での残留応力が高くなるため、200〜500℃が望ましく、特に250〜420℃が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】静電チャック10の斜視図である。
【図2】給電部材20の接続部分の周辺の断面図である。
【図3】セラミックス基体12と給電部材20との接合手順を示す説明図である。
【図4】給電部材50の接続部分の周辺の断面図である。
【図5】凹部16がない場合の給電部材20の接続部分の周辺の断面図である。
【図6】試験体S1の組立斜視図である。
【図7】試験体S2の組立斜視図である。
【図8】実施例6のSEM写真(反射電子像)である。
【図9】実施例5のSEM写真(反射電子像)である。
【図10】実施例7のSEM写真(反射電子像)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態は、半導体製造装置用部材の一例である静電チャック10について説明する。図1は静電チャック10の斜視図、図2は給電部材20の接続部分の周辺を縦方向に切断したときの断面図(図1とは上下が逆になっている)である。
【0018】
静電チャック10は、図1に示すように、ウエハー載置面12aを有する円板状のセラミックス基体12と、このセラミックス基体12に接合された給電部材20とを備えている。
【0019】
セラミックス基体12は、図2に示すように、内部に電極14が埋設されている。なお、電極14は、静電チャック、ヒーター、高周波などの印加用に使用されるものである。このセラミックス基体12のウエハー載置面12aとは反対側の面の中央には、凹部16が形成されている。この凹部16の底面には、電極14の一部である電極端子14aが露出している。尚、ここでは、電極端子14aは、電極14とは別部材として形成されているが、電極14と同一部材であってもよい。セラミックス基体12のうち、ウエハー載置面12aから電極14までの部分は、セラミックス誘電層や絶縁層などとして機能する。
【0020】
給電部材20は、電極14に給電するための部材であり、凹部16に挿入された状態で接合層22を介してセラミックス基体12に接合されている。この給電部材20の直径は、凹部16の直径よりも僅かに小さく設計されている。つまり、給電部材20の外周面と凹部16の内周面との間には隙間が存在している。この隙間は、接合時に給電部材20が熱膨張したとしても凹部16に接触しない程度に設けられている。また、給電部材20の上部では、溝20a等によって外部電源と接続される。接合層22は、給電部材20とセラミックス基体12の凹部16との間に介在し、給電部材20とセラミックス基体12とを接合すると同時に、給電部材20と電極端子14aとを電気的に接続する。
【0021】
セラミックス基体12としては、例えば、緻密質セラミックスのアルミナ(Al23)、窒化アルミ(AlN)、イットリア(Y23)又は炭化ケイ素(SiC)で作製されている。各セラミックスの300℃における熱膨張係数を表1に示す。熱膨張係数として300℃の値を示したのは、本発明での接合温度が300℃前後だからである。また、セラミックス基体12としては、緻密質のマグネシア(MgO)を主成分とする緻密質材料も用いることができる。表1には示していないが、高純度なMgOの300℃における熱膨張係数は12.6ppm/Kである。
【0022】
電極14としては、導電性があり、尚且つセラミックス基体の焼成時に溶融しない材料が好適であり、例えば、W、W炭化物、W珪化物、Mo、Mo炭化物、Mo珪化物、Nb、Nb炭化物、Nbケイ化物、Ta、Ta炭化物、Ta珪化物、Fe、Ni、Ti、白金、ロジウムなどのほか、これらとセラミックス基体の材料との混合物を用いることができる。
【0023】
給電部材20は、電極14へ給電する必要があるため、電気抵抗が低いものが好適である。この際、電気抵抗率の目安としては、概ね1.0×10-3Ωcm以下が好ましい。給電部材20の材料は、接合時にセラミックス基体12のクラック発生を抑制したり界面の剥離を抑制したりすることを考慮すると、セラミックス基体12に近い熱膨張係数のものが好適であるが、製品の使用環境や用途によって使用可能な材質に対して制約が生じる場合がある。ここでは、セラミックス基体12と給電部材20は、給電部材20の熱膨張係数からセラミックス基体12の熱膨張係数を引いた熱膨張係数差Dが−2.2≦D≦6(単位:ppm/K)となるように選択されたものとした。熱膨張係数差Dが上限値より大きい場合には、接合時の給電部材20側の収縮応力が強すぎ、接合端部から界面剥離が生じて接合強度が低下するため、好ましくない。また、熱膨張係数差Dが下限値より小さい場合には、給電部材の径方向に生じる応力によってセラミックス基体12の凹部側面側にクラックが発生するおそれがあるため、好ましくない。給電部材20の材料としては、例えばTi、Mo、CuW、W、及びこれらの合金からなる群より選ばれる金属、更にFeNiCo系合金(Kovar(登録商標))などが挙げられる。また、MgOなどの高熱膨張な材料をセラミックス基体に用いる場合は、給電部材20の材料としてTi、Cu、Ni又はその合金などが使用できる。それぞれの300℃における熱膨張係数を表1に示す。なお、給電部材20は、導電性材料で形成されていればよく、特に金属に限定されるものではない。例えば、グラファイト、炭化物セラミックス(WC、TaC等)、ケイ化物セラミックス(MoSi2、TiSi2等)、ホウ化物セラミックス(TaB2、TiB2等)、セラミックス/金属複合材(SiC/Al、C/Cu等)等であってもよい。
【0024】
【表1】

【0025】
接合層22は、基本的には、接合材であるAuGe系合金、AuSn系合金、又はAuSi系合金からなる層である。近年、熱応答性向上のため、静電チャックの厚みは薄肉化してきており、ウエハーを吸着するためのセラミックス誘電層の厚みも薄くなり、接合時の残留応力によっては誘電層へクラックが入り易い問題がある。このため、低温接合が求められている。
【0026】
ここで、セラミックス基体12と給電部材20とを接合するための接合材としては、Alロウ、Agロウ、Niロウ、Cuロウ、Pbフリー半田、In半田等が一般的に存在する。この中で、例えばセラミックス接合に汎用的なAgロウ(またはAgCuTi活性金属ロウ)では、接合温度が約800℃と高く、Alロウでも約600℃程度となり、セラミックス誘電層が薄肉化していることからも、接合時の残留応力によってクラック発生の確率が高くなる問題があり、残留応力低減の点から更に低温の約500℃以下で接合できる技術が求められていた。加えて、接合温度の低減により、製造サイクルの短時間化による製品の低コスト化が可能となる利点がある。尚、給電部材20と電極14との間を電気的に接続することからも、接合材の電気抵抗率は低い方が好適であり、概ね1.0×10-3Ωcm以下であることが望ましい。このため、低温接合として約200℃程度で接合ができるPbフリー半田、In半田等が従来使用されていたが、静電チャックのトレンドとしてこれまでの使用温度が室温〜80℃程度であったのに対し、近年、新材料エッチングのためにプロセス温度の高温化ニーズ(150〜200℃)が高まっており、接合温度を約500℃以下に低減させながら200℃での耐熱性を有した接合技術が要求されていた。
【0027】
本発明者らは、接合材を種々検討したところ、Au系接合材のうち、共晶組成により低融点化させたAuSn系合金(例えばSnの含有率が15〜37wt%)、AuGe系合金(例えばGeの含有率が10〜17wt%)やAuSi系合金(例えばSiの含有率が3〜4wt%)が好適であることを見いだした。また、接合前にセラミックス基体12の凹部16の底面及び側面を被覆していたメタライズ層の金属とAu系接合材中の溶質元素とが反応して、金属間化合物相が接合層22に生成する。例えば、メタライズ層がNiでAu系接合材がAuGe系合金の場合には金属間化合物相としてNiGe相が生成し、メタライズ層がNiでAu系接合材がAuSn系合金の場合には金属間化合物相としてNi3Sn4相が生成し、メタライズ層がNiでAu系接合材がAuSi系合金の場合には金属間化合物相としてNiSi2相が生成する。この他に、他の金属間化合物が生成してもよい。この接合層22には、溶質元素がメタライズ層中の金属と反応して消費されることにより、溶質元素の少ない相つまりAu濃度が高いAuリッチ相も生成する。Auリッチ相は、電気抵抗が低いため給電時の電力損失が少なく、軟質であるため接合時の残留応力を緩和しやすく、反応によりAu濃度が高くなるほど融点が上がり耐熱性を高めることが出来る利点がある。
【0028】
次に、セラミックス基体12と給電部材20とを接合する方法の一例について、図3を参照しながら説明する。図3は、セラミックス基体12と給電部材20との接合手順を示す説明図である。説明の便宜上、セラミックス基体12は緻密質セラミックスからなるものとする。
【0029】
まず、図3(a)に示すように、焼成により作製したセラミックス基体12の表面から電極14に向かう凹部16を有し、電極端子14aの上面を凹部16の底面に露出させた部材を用意する。次に、凹部16の底面にサンドブラスト法を用いて粗化処理を施す。その後、凹部16の全面と電極端子14aの上面に無電解メッキによりメタライズ層18を形成する(図3(b)参照)。メタライズ層18は、例えば、気相法(CVD、スパッタ)、液相法(電解メッキ、無電解メッキ)により形成することができる。特に、無電解メッキでは、セラミックス基体12の表面を容易に被覆することが可能である。無電解メッキの中では、材料種としてNi、Cu、Auなどが挙げられるが、ここでは無電解Niメッキを使用した。メタライズ層18は、後述する接合材の濡れ拡がりを促進する効果があり、濡れ拡がりを生じる厚さが必要であるが、概ね0.1μm以上であれば良い。膜厚が厚すぎるとメッキ処理時間が長時間になりコスト高になると共に、肉厚化に伴い膜応力によるセラミックス基体12との密着不足が問題になるため好ましくなく、概ね約20μm以下とすれば良い。
【0030】
次に、メタライズ層18の上に接合材44(AuSn系合金、AuGe系合金、又はAuSi系合金)を準備する。ここでは、接合材として箔状の圧延薄板を用いたが、ペースト状の接合材を用いてもよい。続いて、別途用意しておいた給電部材20の下部を凹部16に挿入し、給電部材20上に重りを載せた状態で炉内にセットする(図3(c)参照)。給電部材20は、接合時の濡れ性向上のために下面と側面に金属膜24が形成されている。金属膜24は、気相法(CVD、スパッタ)、液相法(電解メッキ、無電解メッキ)により形成することができる。特に、給電部材20が金属製の場合、電解メッキで表面を容易に被覆することができる。このときのメッキの種類については、接合層22を形成する接合材がAu系接合材の場合には、Niメッキが好適である。そして、給電部材20を炉内にセットした状態で、不活性ガス中又は真空中で加熱して接合材44を溶融させ、その後、セラミックス基体側へクラックが生じないように冷却し、接合材44を固化して接合する。その結果、接合層22には、金属間化合物相とAuリッチ相が含有され、加熱温度に応じて、セラミックス基体12とAuリッチ相との間に金属間化合物相が存在したり、セラミックス基体12側から順に、接合前に凹部16の底面及び側面を被覆していたメタライズ層、金属間化合物相を主体とする層及びAuリッチ相を主体とする層が積層されたりする。これにより、図2に示す接合構造を持つ静電チャック10が製造される。
【0031】
以上説明した本実施形態の静電チャック10によれば、上述した接合構造を採用したため、接合時の残留応力を下げ、セラミックス基体にクラックが発生せず、使用温度が200℃であっても十分な接合強度と通電特性が得られる。つまり、静電チャック10は、室温〜200℃まで使用可能になるため、高温化ニーズに十分応えることができる。
【0032】
また、接合層22は、Auリッチ相を有している。このAuリッチ相は、電気抵抗が低いため給電時の電力損失が少なく、軟質であるため接合時の残留応力を緩和しやすく、融点が高いため耐熱性が高いという利点がある。
【0033】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0034】
例えば、上述した実施形態の給電部材20の代わりに、図4に示す給電部材50を採用してもよい。この給電部材50は、溝のない円柱部材であり、上面つまりセラミックス基体12と接合される面とは反対側の面に、連結部材60が接合されている。この給電部材50の全面には、メタライズ層52が形成されている。連結部材60は、連結部材60の熱膨張係数からセラミックス基体12の熱膨張係数を引いた熱膨張係数差D’が6ppm/Kを超えるもの、例えば純Cuやその合金を使用したい場合に好適である。この連結部材60の上部では、溝60a等によって外部電源と接続される。また、連結部材60の下面及び側面には、メタライズ層62が形成されている。連結部材60の下面は、上述した接合材44と同様の接合材45を用いて給電部材50の上面と接合されている。こうした構造は、大電流を電極14へ供給したい場合、例えば純Cuやその合金を使用したい場合に好適である。このような連結部材60を図1の給電部材20の代わりに使用すると、セラミックス基体12との熱膨張係数差が大きすぎるため、接合界面に剥離が生じるおそれがある。しかし、図4では、連結部材60を給電部材50を介してセラミックス基体12に連結しているため、そうした問題は発生しない。なお、セラミックス基体12と給電部材50と連結部材60とは、それぞれの間に接合材44,45を挟んで一回の接合工程で接合してもよいが、予め給電部材50と連結部材60とを接合して一体化したあと、その一体化物とセラミックス基体12との間に接合材を挟んで接合してもよい。後者の場合には、接合材44,45は同じであっても異なっていてもよく、接合材44,45が異なっている場合には、2回の接合工程における接合温度は異なっていてもよい。予め給電部材50と連結部材60とを接合して一体化する方法としては、例えば本願発明のAu系合金の接合温度にて溶融しないように、溶接やロウ接などにより行うことができる。この場合、給電部材と連結部材が予め一体化されているため、一回での同時接合工程の際に比べ、接合時に部材をハンドリングし易い利点がある。
【0035】
上述した実施形態では、セラミックス基体12に凹部16を設けたが、図5に示すように、凹部16のない構成としてもよい。この場合、給電部材20は下面と側面に金属膜24が形成されている。なお、図5の符号は、上述した実施形態と同様の構成要素を示すため、ここではその説明を省略する。
【0036】
上述した実施形態では、本発明の半導体製造装置用部材の構造を静電チャック10に適用した例を示したが、特にこれに限定されるものではなく、例えばセラミックヒーターなどに適用してもよい。
【実施例】
【0037】
[1]試験体の作製
[1−1]試験体S1の作製手順
図2の接合構造を模擬した試験体S1を以下のようにして作製した。図6は試験体S1の組立斜視図である。まず、縦20mm、横20mm、厚さ5mmのセラミックス基体72に直径6.00mm、深さ0.5mmの凹部74を形成した後、凹部内をサンドブラストにより粗化処理を行い、無電解Niメッキを約3μm施した。セラミックス基体72の材料としては、アルミナ(Al23)、窒化アルミ(AlN)、イットリア(Y23)、炭化ケイ素(SiC)、マグネシア(MgO)を使用した。また、直径5.95mm、高さ6mmの給電部材76と、直径5.8mm、箔厚100μmの接合材78を準備した。なお、凹部74の直径Rと、Rから給電部材76の直径を差し引いたクリアランスCの比率C/Rの値は0.008であった。給電部材76の材料としては、Ti,Mo,CuW,FeNiCo系合金(Kovar(登録商標)),Ni,Cuを用い、Ni以外は下面と側面に電解Niメッキ処理を施してNi層を形成したものを準備した。一方、接合材78としては、AuGe系合金(Au−12wt%Ge、融点356℃)、AuSn系合金(Au−20wt%Sn、融点280℃)、AuSi系合金(Au−3.15wt%Si、融点363℃)、ZnAl系合金(Zn−5wt%Al、融点382℃)、純In(融点156℃)、AgCuTi系活性金属(田中貴金属製、TKC−711、融点790℃)を使用した。これらのセラミックス基体72、給電部材76及び接合材78をアセトン中にて超音波洗浄した。その後、セラミックス基体72の凹部74に接合材78を入れ、その上に給電部材76を設置した後、給電部材76の上面に重り荷重(200g)を掛けた状態で炉内にセットし、表2に示す接合温度及び雰囲気中で接合した。なお、接合温度での保持時間は10分とし、昇降温速度5℃/minで接合した。
【0038】
[1−2]試験体S2の作製手順
図4の接合構造を模擬した試験体S2を以下のようにして作製した。図7は試験体S2の組立斜視図である。まず、縦20mm、横20mm、厚さ5mmのセラミックス基体82に直径6.00mm、深さ0.5mmの凹部84を形成した後、凹部内をサンドブラストにより粗化処理を行い、無電解Niメッキを約3μm施した。また、直径5.95mm、高さ1mmの給電部材86と、 直径5.95mm、高さ6mmの連結部材89と、直径5.8mm、箔厚100μmの接合材88(2枚)を準備した。なお、凹部84の直径Rと、Rから給電部材86の直径を差し引いたクリアランスCの比率C/Rの値は0.008であった。給電部材86は全面、連結部材89は下面と側面に、電解Niメッキ処理を施してNi層を形成したものを準備した。これらのセラミックス基体82、給電部材86、連結部材89及び接合材88をアセトン中にて超音波洗浄した。その後、セラミックス基体82の凹部84に接合材88を入れ、その上に給電部材86、もう一枚の接合材88、連結部材89をこの順に設置した後、連結部材89の上面に重り荷重(200g)を掛けた状態で炉内にセットし、表3に示す接合温度及び雰囲気中で接合した。なお、接合温度での保持時間は10分とし、昇降温速度5℃/minで接合した。
【0039】
[1−3]試験体S3〜S6の作製手順
図2の接合構造を模擬した試験体S3〜S6を、試験体S1の作製手順に準じて作製した。具体的には、給電部材76の直径をそれぞれ5.90mm,5.75mm,5.50mm,5.20mmとした以外は、試験体S1の作製手順と同様にして試験体S3〜S6を作製した。得られた試験体S3〜S6は、セラミックス基体72の凹部74の直径RとクリアランスCとの比率C/Rの値がそれぞれ0.017,0.042,0.083,0.133であった。なお、セラミックス基体72の材料としてはアルミナ、給電部材76の材料としてはMoを用い、底面及び側面に電解Niメッキ処理を施してNi層を形成したものを準備した。一方、接合材78としては、AuGe系合金、AuSn系合金を使用した。なお、試験体S3〜S6は、給電部材76の直径が異なる以外は試験体S1と同じであるため、図示を省略した。
【0040】
[2]評価
[2−1]接合強度の評価
接合強度を評価するために引張試験を実施した。引張試験に使用する試験体S1〜S6を上述した作製手順により作製した。但し、セラミックス基体72,82は、電極を埋設していないものを使用した。また、給電部材76,連結部材89として、上面にM3の雌ネジが形成されたものを使用した。引張試験は、試験体S1〜S6を試験治具で固定し、給電部材76、連結部材89の上面の雌ネジを介して接続し、クロスヘッドスピード:0.5mm/minで給電部材76、連結部材89を引っ張り、破断時の荷重を測定した。その後、各部材底面の面積より、接合強度を算出した。この試験は、200℃で実施した。200℃での試験は、ヒーターにより試験体S1〜S6を加熱し、全体が200℃に達した均熱化後に実施した。引張試験は、最低3体に対して行い、接合体の平均強度を算出した。なお、ここでは、接合部位の使用環境やハンドリング時に負荷される力で耐久性があるように、200℃での破断応力が3.5MPa以上の場合に十分な接合強度を有するとした。
【0041】
[2−2]クラックの評価
セラミックス基体中の誘電層へのクラックの有無を評価するために非破壊試験である蛍光探傷試験を実施した。蛍光探傷試験に使用する試験体S1〜S6を上述した[1]の作製手順により作製した。但し、セラミックス基体72,82は、電極を埋設したものを使用した。具体的には、セラミックス基体72,82の凹部74,84を形成した面とは反対側の面(ウェハー面)から高さ0.3〜0.5mmの位置に電極を埋設した。蛍光探傷試験は、試験体S1〜S6のうち凹部74,84を形成した面とは反対側の面に市販の蛍光探傷液を浸透させた。その後、ブラックライト(紫外線)を照射し、クラックの有無を評価した。
【0042】
[2−3]界面剥離の評価
セラミックス基体の凹部と給電部材の下面の接合部での界面剥離の有無を評価するために蛍光探傷試験を実施した。この蛍光探傷試験は、上述した[2−1]の室温での引張試験と同時に実施した。すなわち、上述した[2−1]の引張試験において、予め、試験体S1〜S6のセラミックス基体72,82と給電部材76,86との接合部分に、給電部材76,86の外周より蛍光探傷液(前出)を塗布し、真空含浸処理により界面部に浸透させ乾燥した。その後、試験体S1〜S6の室温での引張試験を行い、破断時の荷重を測定すると共に、破断後のセラミックス基体72,82の凹部74,84に対し、ブラックライトを照射し、接合界面の剥離状態の評価を行った。ここで、引張試験前に接合界面に剥離が生じていた場合には、給電部材の下面に蛍光探傷液が浸透しているため、ブラックライトを照射したときに界面が明るく光るのに対し、引張試験前に接合界面に剥離が生じていなかった場合には、そのように界面が明るく光らずに暗い状態のままとなる。したがって、ブラックライトを照射したときに界面が光るか否かによって、界面剥離の有無を評価した。尚、評価基準として、給電部材底面での接合部の面積率をもとに、○:100〜70%、△:70〜30%、×:≦30%とした。
【0043】
[2−5]微構造観察、EDS分析
SEM(走査型電子顕微鏡)を用い、サンプルの微構造観察を行った。また、SEM観察時には、接合後の各相の元素分析のためEDSによる点分析を行った。
【0044】
[3]試験体S1に関する実施例及び比較例
[3−1]実施例1〜10,比較例1〜4
ここでは、セラミックス基体72としてAl23、接合材78としてAuGe系合金を使用し、給電部材76の材料を各種検討した。そのときの接合時の温度や雰囲気を表2に示す。また、各評価結果も併せて表2に示す。
【0045】
実施例1〜4及び比較例1,2では、給電部材76の材料としてTiを使用した。このときの熱膨張係数差D(ppm/K)は3.8である。実施例1〜4に示すように、接合温度が330〜390℃の場合には、200℃における接合強度はいずれも3.5MPa以上でありクラックも発生しなかった。実施例4(接合温度330℃)では、微構造観察において、後述する図8と同様に、セラミックス基体と給電部材との間には3つの層が観察された。実施例2(接合温度360℃)では、微構造観察において、後述する図9と同様に、セラミックス基体とAuリッチ相との間にNiGe相が存在していることが分かった。一方、比較例1に示すように、接合温度が310℃の場合には、接合材が上手く溶融せず接合強度を評価できなかった。また、比較例2に示すように、接合温度が410℃の場合には、接合強度が3.5MPa以下であり、不十分だった。この比較例2では、後述する図10と同様の微構造観察及びEDS分析から、接合材によるNiメッキ層との反応が強すぎると共に熱膨張係数差Dが大きいため、界面剥離する結果であった。
【0046】
こうしたことから、給電部材76がTi、セラミックス基体72がアルミナの場合、つまり熱膨張係数差D(ppm/K)が3.8であり0〜6の範囲内の場合、後述する図8や図9の微構造を有する実施例2,4では、セラミックス基体側に、メタライズ層(Ni相を主体とする層)や金属間化合物相(NiGe相)を主体とする層が存在していたため、界面剥離が抑制され、200℃における接合強度の低下を招かなかったと考えられる。
【0047】
実施例5〜7では、給電部材76の材料としてMoを使用した。接合温度が340〜410℃の範囲であれば、200℃における接合強度はいずれも高く、クラックも発生しなかった。実施例6(接合温度330℃)では、微構造観察において、図8に示すように、セラミックス基体と給電部材との間には3つの層が観察された。EDS分析の結果から、これらの層は、セラミックス基体側から順に、Ni相を主体とする層、NiGe相を主体とする層、Auリッチ相(Au濃度≧95wt%)を主体とする層であることが分かった。実施例5(接合温度360℃)では、微構造観察において、図9に示すように、セラミックス基体とAuリッチ相との間にNiGe相が存在していることが分かった。具体的には、セラミックス基体側から順に、NiGe相を主体とする層、Auリッチ相を主体とする層が積層された構造となっていた。実施例7(接合温度410℃)では、微構造観察において、図10に示すように、セラミックス基体とAuリッチ相との間にNiGe相が存在していることが分かった。具体的には、セラミックス基体側にNi相を主体とする層やNiGe相を主体とする層が存在しておらず、Auリッチ相を主体とする層の中にNiGe相が分散している構造となっていた。
【0048】
こうしたことから、給電部材76がMo、セラミックス基体72がアルミナの場合、熱膨張係数差D(ppm/K)が−1.3であり−2.2〜0の範囲内であることから、接合温度が410℃つまり図10に示す微構造であっても、あまり界面生成物に影響を受けず、界面剥離が抑制され、その結果、安定的に信頼性ある耐熱強度が得られたと考えられる。なお、Dが−2.2〜0の範囲では、界面剥離が抑制されると共に、給電部材76の径方向で接合層を介してセラミックス基体側へ働く圧縮応力が、セラミックス基体を破損させない範囲で適度に負荷されるため、接合材を介して給電部材がセラミックス基体の凹部の側面で焼きばめされた状態となり、接合強度が高まるとも考えられる。
【0049】
実施例8では、給電部材76の材料としてCuWを使用し、実施例9では、給電部材76の材料としてFeNiCo系合金(Kovar(登録商標))を使用し、実施例10では、給電部材76の材料としてWを使用した。いずれも、200℃における接合強度は高く、クラックも発生しなかった。これらも、図9のような微構造をとり、且つMoと同様、熱膨張係数がアルミナセラミックスに近く、熱膨張係数差Dが−2.2〜0の範囲内であるため、焼きばめ状態となり、界面剥離が抑制されたと考えられる。更に、実施例5,8,9,10は、接合材及び接合温度が同じでD値が異なるものであるが、これらを比較すると、Dが−2.2〜−1.0の範囲内にある実施例5,9,10の方が、その範囲を外れている実施例8に比べて、焼きばめの効果が高くなり、接合強度がより高くなった。
【0050】
比較例3,4では、給電部材76の材料としてNi、Cuを使用した。接合温度が360℃であっても、200℃における接合強度は3.5MPa以下と低かった。特に給電部材にCuを使用した場合では、蛍光探傷試験による界面剥離の評価結果は×で、微構造観察の結果もセラミックス基体と接合材との間に界面剥離に伴う隙間がみられた。これは、給電部材76の材料としてNi,Cuを使用した場合には、熱膨張係数差D(ppm/K)がそれぞれ7.7,12.3であり、6を超えていることから、接合時に給電部材76の径方向での収縮応力が大きく、界面剥離を誘発したものと考えられる。
【0051】
[3−2]実施例11〜21,比較例5〜8
ここでは、セラミックス基体72としてAl23、接合材78としてAuSn系合金を使用し、給電部材76の材料を各種検討した。そのときの接合時の温度や雰囲気を表2に示す。また、各評価結果も併せて表2に示す。
【0052】
実施例11〜13及び比較例5,6では、給電部材76の材料としてTiを使用した。実施例11〜13に示すように、接合温度が290〜330℃の場合には、200℃における接合強度はいずれも3.5MPa以上でありクラックも発生しなかった。一方、比較例5のように、接合温度が280℃の場合には、接合材が上手く溶融せず接合強度を評価できなかった。また、比較例6のように、接合温度が370℃の場合には、接合強度が3.5MPa未満であり、不十分だった。比較例6は、比較例2と同様、微構造観察及びEDS分析から、接合材によるNiメッキ層との反応が強すぎ、給電部材76とセラミックス基体72との熱膨張差があることから界面剥離が生じ易く強度低下に繋がったものと考えられる。
【0053】
実施例14〜17では、給電部材76の材料としてMoを使用した。接合温度が310〜370℃の範囲であれば、200℃における接合強度はいずれも高く、クラックも発生しなかった。実施例18,19では、給電部材76の材料としてCuWを使用し、実施例20では、給電部材76の材料としてFeNiCo系合金(Kovar(登録商標))を使用し、実施例21では、給電部材76の材料としてWを使用した。いずれも、200℃における接合強度は高く、クラックも発生しなかった。Mo,CuW,Kovar及びWは、いずれも熱膨張係数がアルミナセラミックスと近いため、界面剥離が抑制されたと考えられる。
【0054】
比較例7,8では、給電部材76の材料としてNi、Cuを使用した。接合温度が310℃であっても、200℃における接合強度は3.5MPa以下と低かった。特に給電部材にCuを使用した場合では、比較例4と同様に、熱膨張差が大きいことから、接合時に給電部材Cuの径方向での収縮応力が大きく、界面剥離を誘発したものと考えられた。
【0055】
[3−3]実施例22〜29
セラミックス基体72として、実施例22〜25ではAlN,実施例26,27ではY23、実施例28,29ではSiCを使用した。また、接合材78としてAuGe系合金とAuSn系合金を使用した。更に、給電部材76としては、Mo,CuW,Wのいずれかを使用した。そして、表2に示す接合温度及び雰囲気で接合したところ、表2に示すようにセラミックス基体を変化した場合においても良好な結果が得られることが分かった。
【0056】
[3−4]実施例30〜32
セラミックス基体72として、Al23、AlN、Y23を使用した。また、接合材78としてAuSi系合金を使用した。更に、給電部材76としては、Mo,CuWのいずれかを使用した。そして、表2に示す接合温度及び雰囲気で接合したところ、表2に示すようにAuSi系合金においても、他の接合材同様に良好な結果が得られることが分かった。
【0057】
[3−5]比較例9〜12
いずれも、セラミックス基体72としてAl23を使用した。比較例9では、接合材78として500℃以下に融点を持つZnAl系合金を使用したが、200℃における接合強度は3.5MPa未満であった。ZnAlは濡れ広がりが悪く、接合強度が低くなったと考えられる。比較例10,11では、接合材78としてInを使用したが、Inの融点が約180℃のため、200℃における強度が発現しなかった。比較例12では、接合材78としてセラミックス接合用に汎用的に使用される活性金属ろう(Ag−Cu−Ti材)を使用したが、接合温度が高いため、残留応力が高くなり、クラックが発生した。なお、比較例12では、凹部74にメタライズ層を形成しなかったが、これは活性金属を用いているため、アルミナへの直接接合が可能だからである。以上のことから、残留応力低減によるクラック抑制には、約500℃以下の低温接合が有効であり、尚且つ200℃強度を得るためには本願発明のAu系合金を使用した接合体を用いることが有効であると考えられた。
【0058】
[3−6]実施例33〜37,比較例13
実施例33〜35では、セラミックス基体72としてAl23、給電部材76としてMo,CuW,Kovarを使用し、実施例36,37では、セラミックス基体72としてMgOを使用し、給電部材76としてNiを使用した。また、接合材78として、実施例33〜35,37ではAuSnを使用し、実施例36ではAuGeを使用した。そして、表2に示す接合温度及び雰囲気で接合したところ、いずれの場合においても良好な結果が得られることが分かった。これはAuGe、AuSnの濡れ広がりが良好であり、熱膨張係数差Dも小さいためと考えられる。また、比較例13では、セラミックス基体72としてMgOを使用し、給電部材76としてWを使用し、接合材78としてAuGeを使用したが、この場合にはD値が小さくなり過ぎたため、先述のようにセラミックス基体72へのクラックが生じ接合不具合となった。
【0059】
[3−7]実機模擬サンプル
上述した試験体S1の結果を踏まえて、図2を模擬した構造、すなわちセラミックス基体に電極が埋設された実機模擬サンプルを用いて接合体を作製し評価を行った。セラミックス基体中に電極14、14aとしてのMoを埋設した以外は、実施例5、実施例17、実施例30と同じ条件にて接合した結果、電極埋設しなかった場合と同等の200℃強度が得られ、クラックも発生しなかった。また、上記接合体サンプルに対し通電試験を行ったところ、十分な導電性が得られることがわかった。
【0060】
[4]試験体S2に関する実施例
実施例38〜45では、試験体S2を用いて評価試験を行った。セラミックス基体82の材料として、実施例38〜42,45ではAl23を使用し、実施例43ではAlNを使用し、実施例44ではY23を使用した。また、給電部材86はMo,CuW,FeNiCo系合金(Kovar)のいずれかを使用し、連結部材89はすべてCuを使用した。接合材88は、AuGe系合金、AuSn系合金、又はAuSi系合金を用いた。そして、表3に示す接合温度及び雰囲気で接合した。そうしたところ、表3に示すようにいずれも良好な結果が得られた。これより、比較例4,8のようにセラミックス基体に直接給電部材のCuを接合した場合には界面剥離のため200℃強度が低かったが、上記の構造にすることで、熱膨張係数差の緩和に繋がり、尚且つ一回だけの同時接合にて一体化が可能なことが分かった。
【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
なお、試験体S2は、セラミックス基体82と給電部材86、給電部材86と連結部材89をそれぞれ接合材88により同時に接合したが、予め給電部材86と連結部材89とを溶接やろう付けにより接合しておき、その後、セラミックス基体82と連結部材89に連結された給電部材86とを接合材88により接合してもよい。例えば、予めMo製の給電部材86とCu製の連結部材89とをAgCu系合金を用いて溶接することでCu/Mo複合給電部材を作製後、その下面と側面に電解Niメッキを施し、アルミナからなるセラミックス基体82の凹部84にAuGe系合金からなる接合材88を用いて360℃、N2雰囲気中で接合したところ、200℃における接合強度は11.3MPaとなり、クラックの発生もみられず、特性良好であった。
【0064】
[5]試験体S3〜S6に関する実施例
比率C/Rが異なる試験体S3〜S6について各種検討した。実施例46では、試験体S3(C/R=0.017)、実施例47,49では、試験体S4(C/R=0.042)、実施例48では、試験体S5(C/R=0.083)、実施例50では、試験体S6(C/R=0.133)を用いた。また、セラミックス基体72としてAl23、接合材78としてAuGe系合金又はAuSn系合金、給電部材76としてMoを使用した。実施例46〜50の接合温度や雰囲気を表4に示す。また、各評価結果も併せて表4に示す。実施例46〜48、50の強度を評価した結果、C/Rが小さくなるに従い強度が徐々に増加した。また、実施例5はC/Rが0.008であり、実施例46〜48と比べてC/Rが一層小さいことから、更に高強度となった。また、接合材78にAuSn合金を用いた実施例49と実施例17とを比べると、実施例49では12.4MPaの強度を得たが、実施例17ではC/Rが0.008と実施例49よりも小さいため、更に高強度となった。実施例46〜50では、先述のようにDが−2.2〜−1.0の範囲内であるため、給電部材76の径方向で接合層を介してセラミックス基体側へ働く圧縮応力が強まり、その結果接合強度が高まったと考えられる。なお、これらの実施例では、C/R≦0.15であり、200℃強度が3.5MPaを満足したが、実施例50のようにC/Rの値が大きいとハンドリング時において給電部材をセラミックス基体穴の中心に上手く配置することが難しく、結果として強度バラツキが生じやすい。このため、より高強度且つバラツキの少ない信頼性の高い接合体を得るためにはC/R≦0.09を満たすことが好ましい。
【0065】
【表4】

【符号の説明】
【0066】
10 静電チャック、12 セラミックス基体、12a ウエハー載置面、14 電極、14a 電極端子、16 凹部、18 メタライズ層、20 給電部材、20a 溝、22 接合層、24 金属膜、44 接合材、45 接合材、50 給電部材、52 メタライズ層、60 連結部材、60a 溝、72 セラミックス基体、74 凹部、76 給電部材、78 接合材、82 セラミックス基体、84 凹部、86 給電部材、88 接合材、89 連結部材、S1〜S6 試験体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエハー載置面を有するセラミックス基体と、
該セラミックス基体の内部に埋設された電極と、
前記電極の一部であって前記セラミックス基体の前記ウエハー載置面とは反対側の面に露出する電極露出部と、
前記電極に給電するための給電部材と、
前記セラミックス基体と前記給電部材との間に介在し、前記給電部材と前記セラミックス基体とを接合すると同時に前記給電部材と前記電極露出部とを電気的に接続する接合層と、
を備え、
前記接合層は、接合材であるAuGe系合金、AuSn系合金、又はAuSi系合金を用いて形成され、
前記セラミックス基体と前記給電部材とは、前記給電部材の熱膨張係数から前記セラミックス基体の熱膨張係数を引いた熱膨張係数差Dが−2.2≦D≦6(単位:ppm/K)となるように選択され、
200℃における接合強度が3.5MPa以上である、
半導体製造装置用部材。
【請求項2】
前記セラミックス基体と前記給電部材とは、前記熱膨張係数差Dが−1.5≦D≦6(単位:ppm/K)となるように選択されている、
請求項1に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項3】
前記接合層は、接合前に前記電極露出部を含む所定領域を被覆していたメタライズ層に含まれていた金属と前記接合材中のAu以外の元素とが反応して生成した金属間化合物相を含有する、
請求項1又は2に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項4】
前記接合層は、前記接合材中のAu以外の元素が前記メタライズ層に含まれていた金属と反応して消費されることにより生成したAuリッチ相を含有する、
請求項3に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項5】
前記接合層には、前記セラミックス基体側から順に、前記メタライズ層、前記金属間化合物相を主体とする層及び前記Auリッチ相を主体とする層が積層されている、
請求項4に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項6】
前記接合層では、前記金属間化合物相を主体とする層が前記メタライズ層または前記セラミックス基体に接している、
請求項3〜5のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項7】
前記セラミックス基体は、Al23,AlN,MgO,Y23及びSiCからなる群より選ばれた1種を主成分とするものであり、
前記給電部材は、Ti,Cu,Ni,Mo,CuW,W及びこれらの合金並びにFeNiCo系合金からなる群より選ばれたものである、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項8】
前記セラミックス基体の穴の直径から前記給電部材の直径を差し引いた値であるクリアランスCと、前記セラミックス基体の穴径Rとの比率C/Rは、C/R≦0.15を満たす、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項9】
前記比率C/Rは、C/R≦0.09を満たす、
請求項8に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項10】
前記給電部材は、前記セラミックス基体と接合される面とは反対側の面に連結部材が接合され、該連結部材の熱膨張係数から前記セラミックス基体の熱膨張係数を引いた熱膨張係数差D’が6ppm/Kを超える、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項11】
前記連結部材は、Cu及びその合金からなる金属である、
請求項10に記載の半導体製造装置用部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−216786(P2012−216786A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−58586(P2012−58586)
【出願日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】