説明

双腕ロボット

【課題】汎用性が高く複雑な組立作業ができる双腕ロボットを提供する。
【解決手段】第1アーム1は、第1ハンド2と第1視覚センサ3を有し、第1力センサ4を搭載する。第2アーム5は、第2ハンド6と第2視覚センサ7を有し、第2力センサ8を搭載する。各視覚センサ3、7で鏡筒9及び固定筒10の位置を検出して把持し、中央の組立エリア13に搬送する。フレキ9aの位置を第1視覚センサ3で測定し、フレキ9aを固定筒10の中に通し、固定筒10と鏡筒9を、力センサ4、8の出力を用いた力制御で嵌合して組み立てる。各視覚センサによって検出されたワークの位置座標を、ロボット座標に変換して各ハンドの軌道を計算し、各アームを駆動することで、2つのアームの協調動作を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれ視覚センサを備えた2本のアームを互いに協調動作させてワークを組み立てる双腕ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロボットによる組立作業は広く実施されているが、ロボットはあらかじめ位置と姿勢が教示され、その教示に従って繰り返し作業を行うものがほとんどである。近年では、部品同士の嵌合作業といったより高度な作業が求められており、特許文献1に開示されたように、視覚センサによるワーク位置の検出と力センサによる力制御を用いた力制御ロボットシステムが知られている。このシステムは、図4に示すように、ロボット101の手先部102に取り付けられた力センサ103及びハンド104、ロボット101を制御する制御装置105等を有し、ハンド104の把持爪で把持された第1の部品107を第2の部品108に組み付ける。第2の部品108は、位置決め装置109によって位置決めされ、第1及び第2の部品107、108の位置及び姿勢を検出する視覚センサ110は定盤111に固定されている。
【0003】
このように力制御システムは、第1の部品を把持するハンドと、第1の部品に加わる力を検知する力センサを有するロボットと、第1、第2の部品間の位置関係を得るための画像データを得る視覚センサと、ロボットと視覚センサを制御する制御手段とを備える。制御手段は、ロボットのハンドに把持された第1の部品を第2の部品に接近させ、力センサからの出力に基づく力制御を行いつつ嵌合動作を実行させる嵌合動作実行手段を有する。また、嵌合動作に先立って、視覚センサで得られた画像データに基づいて第1の部品と第2の部品との間の位置関係を表わすワーク位置データを取得し、取得されたワーク位置データに基づいて、ロボットの位置及び姿勢を補正する補正手段を有する。さらに、嵌合動作の終了後に、視覚センサで得られた第1及び第2の部品の画像データを用いて、第1の部品と第2の部品の嵌合状態を表わすデータを取得し、取得された嵌合状態データに基づいて嵌合状態の適否を判別する判別手段を有する。
【0004】
また、2本のアームを備える双腕ロボットも生産現場に導入され始めており、特許文献2に開示されたように、双腕ロボットによってワークを把持し、把持したワークを高精度で取り付けることができるワーク取付けシステムも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO0098−017444号公報
【特許文献2】特開2008−168406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記従来例では、視覚センサが1ヶ所に固定されており、視覚センサの位置が常に同じであるため、以下のような問題点があった。
【0007】
一方のワークがヒンジによる折り曲げ開閉部やケーブルといった可動部を持ち、その可動部を持ち上げてよける操作をしながら他方のワークを組み付けるといった複雑な動作が困難である。すなわち、一方のワークが持つ可動部の姿勢を操作しつつ、他方のワークを組み付けるなど、2本のアームが互いのワーク位置を認識しながら同時に動作して組み立てる協調動作が困難である。
【0008】
また、フレキやケーブルなどの柔軟物を組み立てる際、柔軟物をハンドで把持した後も、搬送する際に受ける重力や慣性力などの影響でたわむため、その形状が刻一刻と変化する。高精度な組立を行うためには柔軟物の姿勢変化を視覚センサで監視しなければならないが、固定された視覚センサでは柔軟物の姿勢変化を追従することが困難である。
【0009】
さらに、ワークの決まった箇所を視覚センサで検出するにはワークの位置を一定に固定するための治具が必要となるため、ワークの種類が変わったりした場合に、治具を作り変える段取り替えが必要になり、時間とコストがかかる。
【0010】
本発明は、汎用性が高く複雑な作業を効率的に行うことのできる協調動作可能な双腕ロボットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の双腕ロボットは、第1ハンド及び第1視覚センサを有する第1アームと、第2ハンド及び第2視覚センサを有する第2アームと、前記第1ハンド及び前記第2ハンドの位置座標を表わすためのロボット座標系と、前記第1アーム及び前記第2アームによるワークの組立作業において、前記第1視覚センサ及び前記第2視覚センサによって検出される前記ワークの位置座標を表わすための視覚センサ座標系と、前記ワークの位置座標を前記視覚センサ座標系から前記ロボット座標系に変換して、前記組立作業のための前記第1ハンド及び前記第2ハンドのそれぞれの軌道を計算する手段と、前記軌道に基づいて、前記第1アーム及び前記第2アームの動作を制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記構成において、2台のアームはそれぞれの視覚センサをワークに接近させてワークの位置座標を検出することができる。検出したワークの位置座標は視覚センサ座標系からロボット座標系へと変換され、ロボット座標系を基準としてワークを把持するために必要な軌道を計算し、各ハンドでワークを把持する。把持したワークの位置座標を再び視覚センサによって検出することで、第1アームと第2のアームの相対位置を確認する。次に、組立に必要な各ハンドの軌道をそれぞれ計算して各アームの動作を制御する。各アームに視覚センサが設けられているため、2本のアームが互いにワークの位置座標を認識して組立を行うことができる。
【0013】
また、フレキやケーブルなどの柔軟物を有するワークを組み立てる際は、形状が刻一刻と変化する柔軟物を視覚センサで追従して位置を測定することで、高精度な組立を行うことが可能となる。
【0014】
一方のアームのハンドでワークの姿勢を保持しつつ、他方のアームの視覚センサでワークの位置座標を検出し、組み付けることができる。そのため、ワークを固定するための治具をワークの種類が変わるたびに替える必要がなく、治具を作り変える段取り換えが必要なくなり時間とコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施例による双腕ロボットを示すもので、(a)はその全体を示す斜視図、(b)は座標変換を説明する図である。
【図2】実施例1に係る動作手順を示すフローチャートである。
【図3】図1に示す装置の動作を説明するもので、(a)は協調動作によりフレキと固定筒の位置を合わせている状況を示す図、(b)はハンドを退避させると同時に、固定筒の中にフレキを通している状況を示す図である。
【図4】従来例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0016】
本実施例は、図1(a)に示すように、カメラのレンズ鏡筒の組立を行う双腕ロボットである。第1アーム1は、第1ハンド2と、第1アーム1の手首部に固定された第1視覚センサ3と、を有し、手首部には第1力センサ4が内蔵(搭載)される。第2アーム5は、第2ハンド6と、第2視覚センサ7と、を有し、手首部には第2力センサ8が内蔵(搭載)される。2台のアーム1、5は、それぞれの動作を制御する制御手段を有し、不図示のコントローラと相互に通信している。
【0017】
各ハンドの位置(位置座標)を検出する各視覚センサ及び各力センサの出力値データ(出力)は全てコントローラによって共有される。そのデータに基づいて座標変換及び組立作業のための軌道の計算を行うことで、ワークである鏡筒9と固定筒10の組立作業に必要な協調制御を行う。固定筒供給トレー11には固定筒10が配置され、鏡筒供給エリア12には上端から柔軟軽薄なフレキ9aが伸びた状態の鏡筒9が配置される。そして、組立エリア13において、鏡筒9と固定筒10が組み立てられる。組立後の鏡筒14は、組立後鏡筒保管エリア15に配置される。
【0018】
図1(b)は、第2アーム5、第2ハンド6、第2視覚センサ7によって鏡筒9を把持する工程におけるワークの位置座標であるワーク座標Pwと、視覚センサ座標系Σv、ハンド6の位置座標を表わすロボット座標系Σrの関係を示す図である。第1アーム1、第1ハンド2、第1視覚センサ3についても同様である。
【0019】
図2のフローチャートに示す協調動作においては、図3(a)に示すように、鏡筒9のフレキ9aの先端の方向と固定筒10の中心軸の方向を揃えながら互いに接近させる。次いで、図3(b)に示すように、フレキ9aを固定筒10に通した後に、第1ハンド2の退避と同時に第2ハンド6を下降させ、固定筒10の内部にフレキ9aを通す。
【0020】
図2のフローチャートに従って本実施例の動作手順を説明する。まず、第1アーム1は、固定筒供給トレー11付近に移動し、第1視覚センサ3によって固定筒供給トレー11に並べられた固定筒10の位置を検出する姿勢をとる。第2アーム5は、鏡筒供給エリア12付近へ移動し、第2視覚センサ7によって鏡筒9の位置を検出する姿勢をとる(ステップS1)。
【0021】
第1アーム1は、第1視覚センサ3を用いて固定筒10の把持位置を検出する。CAD等によって作成されたワークの形状データがコントローラに記憶されており、第1視覚センサ3を用いて固定筒10のエッジを検出した際に、その形状データを照会することで円の中心点の位置をワーク座標として算出する。そのワーク座標とハンドの相対距離からアームが動く距離を計算し、各アームを把持位置へ移動させる。
【0022】
各アームの動作を制御するために、変換手段を用いてワーク座標の座標変換を行い、視覚センサ座標系からロボット座標系に変換する。ここでは、固定筒10のワーク座標である固定筒座標と、鏡筒9のワーク座標である鏡筒座標に対してそれぞれ座標変換を行う。同様に、第2アーム5は第2視覚センサ7を用いて鏡筒9の位置を検出し、第2アーム5を把持位置へ移動させる(ステップS2)。
【0023】
ワークの把持位置は予めコントローラに記憶されており、ステップS2で検出したワーク座標から把持位置を算出して把持する。第1ハンド2は固定筒10を、第2ハンド6は鏡筒9をそれぞれ把持する(ステップS3)。
【0024】
第1アーム1は組立エリア13の上空で固定筒10を把持した状態で待機する。第2アーム5は鏡筒9を組立エリア面上に配置する。把持した鏡筒9の姿勢が組立エリア面上に垂直になるように維持しながら鏡筒9を下降させる。鏡筒9の底面と組立エリア面上の距離が近くなると下降速度を落として接地させる。鏡筒9の底面と組立エリア面上の距離は第2アーム5の移動距離から算出する。鏡筒9の底面が地面に接すると第2力センサ8の出力値が増大する。その出力値が閾値を越えることで鏡筒9が組立エリア面上に配置されたということを検出し、第2ハンド6による鏡筒9の把持を解除する(ステップS4)。
【0025】
第1アーム1は第2アーム5が把持しやすい位置に固定筒10の姿勢を維持する。第2アーム5は第1ハンド2が把持する固定筒10の位置を第2視覚センサ7で検出する(ステップS5)。
【0026】
ステップS5で検出した第1ハンド1が把持する固定筒10を第2ハンド6で把持する。第2ハンド6による固定筒10の把持が完了後、第1ハンド2による把持を解除する。固定筒10の受け渡し作業の間、第1力センサ4と第2力センサ8の出力値を監視することで、固定筒10に過度の力が加わることで破壊されないように力制御を行う(ステップS6)。
【0027】
鏡筒9の配置位置はステップS4で第2アーム5が配置した位置となることから既知であり、そこから鏡筒9の姿勢とフレキ9aの位置を推測して第1視覚センサ3で撮影する。フレキ9aは薄く柔軟であるために姿勢が容易に変化する。そのために、一度第1視覚センサ3で撮影してフレキ9aの位置が高精度に検出できない場合は、検出したエッジからフレキ9aの正面位置を推測し、フレキ9aが正面になるように撮影角度を変化させ、再度撮影を行いフレキ9aの先端の位置を高精度に検出する。同時に、第2ハンド6で把持した固定筒10の位置を第2視覚センサ7で検出する(ステップS7)。
【0028】
次に、第1ハンド2でフレキ9aを把持する。第2アーム5は把持した固定筒10を鏡筒9上部へ移動させる(ステップS8)。
【0029】
第1ハンド2によって把持されたフレキ9aは、把持によって姿勢が変形して第1視覚センサ3を用いて正面から撮影することができなくなる。そのために、第2視覚センサ7を用いてフレキ9aを正面から撮影して位置を検出する。ステップS7で検出した固定筒10の位置とフレキ9aの位置から、コントローラの計算手段によって、固定筒10の中心軸とフレキ9aの先端部の方向が揃い、フレキ9aを固定筒10の中へ通すための軌道を計算する。生成した軌道に従って第1アーム1と第2アーム5を同時に動作させ、図3(a)に示すように、フレキ9aの先端の方向と固定筒10の中心軸の方向を揃えながら互いに接近させてフレキ9aの先端部を固定筒10の中央に通す(ステップS9)。
【0030】
次に、第1ハンド2によるフレキ9aの把持を解除し、第1ハンド2を固定筒10と鏡筒9の間から退避させる。退避と同時にフレキ9aは、自らの弾性と重力の影響で元の形状に戻ろうとし、固定筒10の中から逃げようとする。第1ハンド2の退避と同時にフレキ9aが固定筒10の外側に逃げないように、フレキ9aの先頭部と固定筒10の中心軸を合わせつつ第2ハンド6を下降させて、図3(b)に示すように固定筒10の内部にフレキ9aを通す(ステップS10)。
【0031】
退避させた第1ハンド2で鏡筒9を把持して姿勢を保持する。次に、第1視覚センサ3を用いて鏡筒9の中心軸の位置を検出し、第2視覚センサ7を用いて固定筒10の中心軸を検出する。それぞれの中心軸が一致するように固定筒10と鏡筒9を互いに組み付ける。このとき、第1アーム1は第1力センサ4の出力値から鏡筒9に加わる力を測定し、第2アーム5は第2力センサ8の出力値から固定筒10に加わる力を測定する。それぞれの力センサの出力値を用いて組立の軌道を補正することで、力制御を行いながら固定筒10と鏡筒9を互いに嵌合させることができる(ステップS11)。
【0032】
第2力センサ8からの出力値が閾値を越えたら嵌合組立完了とする。第1視覚センサ3を用いて側面から鏡筒9を撮影して嵌合組立完了を確認する。組立後の鏡筒14は、第2アーム5によって組立後鏡筒保管エリア15へ搬送される(ステップS12)。搬送後、ステップS1に戻り再び各アームをワーク供給位置へ移動させて次の組立を開始する。ステップS7からステップS11までは、第1アーム1と第2アーム5が協調動作を行う。
【0033】
フレキ9aの先端の方向と固定筒10の中心軸の方向を揃えながら互いに接近させフレキ9aを固定筒10に通した後に、第1ハンド2の退避と同時に第2ハンド6を下降させることで、固定筒10の内部にフレキ9aを通すことができる。薄く柔軟なフレキ9aは容易にその形状が変形するためにロボットによる組立が困難であったが、本実施例の双腕ロボットによる協調動作によってそれが可能となる。
【0034】
フレキ9aを第1ハンド2で把持した後、把持によって姿勢が変わり第1視覚センサ3でフレキ9aを正面から撮影できなくなっても、第2視覚センサ7でフレキ9aを正面から撮影して位置を高精度に検出することができる。
【0035】
このように、一方の視覚センサで検出することができない位置や姿勢にあるワークでも、他方の視覚センサを動作させることによって撮影して位置を高精度に検出することができるため、高精度な組立が可能となる。
【0036】
第1視覚センサ3を用いて鏡筒9の中心軸の位置を検出し、第2視覚センサ7を用いて固定筒10の中心軸を検出する。それぞれの中心軸が一致するように固定筒10と鏡筒9を互いに組み付ける。このとき、第1アーム1は第1力センサ4の出力値から鏡筒9に加わる力を測定し、第2アーム5は第2力センサ8の出力値から固定筒10に加わる力を測定する。それぞれの力センサの出力値を用いてアームの軌道を補正することで、力制御を行いながら固定筒10と鏡筒9を互いに嵌合させて取り付けることができる。よって、ワークを固定する治具が無くても高精度なワークの嵌合を実現することができる。
【0037】
なお、本実施例では、視覚センサをアームの手首部に備える構成であるが、ハンド部に備える構成でも同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 第1アーム
2 第1ハンド
3 第1視覚センサ
4 第1力センサ
5 第2アーム
6 第2ハンド
7 第2視覚センサ
8 第2力センサ
9、14 鏡筒
9a フレキ
10 固定筒
11 固定筒供給トレー
12 鏡筒供給トレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ハンド及び第1視覚センサを有する第1アームと、
第2ハンド及び第2視覚センサを有する第2アームと、
前記第1ハンド及び前記第2ハンドの位置座標を表わすためのロボット座標系と、
前記第1アーム及び前記第2アームによるワークの組立作業において、前記第1視覚センサ及び前記第2視覚センサによって検出される前記ワークの位置座標を表わすための視覚センサ座標系と、
前記ワークの位置座標を前記視覚センサ座標系から前記ロボット座標系に変換して、前記組立作業のための前記第1ハンド及び前記第2ハンドのそれぞれの軌道を計算する手段と、
前記軌道に基づいて、前記第1アーム及び前記第2アームの動作を制御する制御手段と、を有することを特徴とする双腕ロボット。
【請求項2】
前記第1アームに搭載された第1力センサと、
前記第2アームに搭載された第2力センサと、を有し、
前記制御手段は、前記第1力センサ及び前記第2力センサの出力に基づいて前記軌道を補正することを特徴とする請求項1に記載の双腕ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−115877(P2011−115877A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274307(P2009−274307)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】