説明

可変圧縮比内燃機関

【課題】2次空気供給装置を備えた可変圧縮比内燃機関において、2次空気を供給することにより、より確実に排気浄化を促進しまたは排気浄化装置の暖機を促進できる技術を提供する。
【解決手段】2次空気供給装置によって排気通路に2次空気を供給する際(S103)には、可変圧縮比内燃機関における圧縮比を低下させ、2次空気対応圧縮比となるよう制御する(S104)。それにより、排気中の未燃燃料を増加させ、未燃燃料の2次燃焼を活発化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前記内燃機関の排気通路に2次空気を供給して排気の浄化と排気浄化装置の暖機とを促進する機能を有するとともに、前記内燃機関の圧縮比を変更する機能を有する可変圧縮比内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の燃費性能や出力性能などを向上させることを目的とした、内燃機関の圧縮比を可変にする技術が提案されている。この種の技術としては、シリンダブロックとクランクケースとを相対移動可能に連結するとともにその連結部分にカム軸を設け、前記カム軸を回動させてシリンダブロックとクランクケースとを、気筒の軸線方向に相対移動させることで燃焼室の容積を変更し、以て内燃機関の圧縮比を変更する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
また、コンロッドを2分割し、クランクシャフトに連結された方のコンロッドに所定の揺動中心を中心に揺動可能な揺動部材を連結し、前記揺動中心がカム軸を回転させることによって移動することで燃焼室の容積及びピストンのストロークを変更し、以って内燃機関の圧縮比を変更する技術も提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0004】
一方、内燃機関の排気系に排気浄化触媒を配置し、排気ガス中のCO、HC、NOx成分の浄化を図る装置が知られている。さらに、排気通路に接続された開閉弁を有する2次空気供給通路にエアポンプから空気を圧送することで、排気通路内に2次空気を供給して酸素濃度を高くする技術が知られている。この技術によれば、排気ガス中のHC、COを酸化させることにより排気の浄化を促進できるとともに、排気浄化触媒の暖機を促進することができる(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2003−206771号公報
【特許文献2】特開2001−317383号公報
【特許文献3】特開2005−009412号公報
【特許文献4】特開2003−328794号公報
【特許文献5】特開2004−308431号公報
【特許文献6】特開2002−285898号公報
【特許文献7】特開2004−278415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術による効果をより顕著にするためのものであり、その目的とするところは、2次空気供給装置を備えた可変圧縮比内燃機関において、2次空気を供給することにより、より確実に排気浄化を促進しまたは排気浄化装置の暖機を促進できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、2次空気供給装置によって内燃機関の排気通路に2次空気を供給する際には、圧縮比を低下させることを最大の特徴とする。
【0007】
より詳しくは、内燃機関の燃焼室の容積および/またはピストンのストロークを変更することによって前記内燃機関の圧縮比を変更する可変圧縮比機構と、
前記内燃機関からの排気が通過する排気通路に設けられ、前記排気を浄化する排気浄化装置と、
前記排気通路における前記排気浄化装置の上流に2次空気を供給する2次空気供給装置と、
前記内燃機関の運転状態または暖機状態に応じて、前記可変圧縮比機構により前記内燃機関の圧縮比を所定の機関状態対応圧縮比に制御する圧縮比制御手段と、
を備える可変圧縮比内燃機関であって、
前記2次空気供給装置から前記排気通路に2次空気が供給されている期間の少なくとも一部において、前記可変圧縮比機構により前記内燃機関の圧縮比を、前記機関状態対応圧縮比より低い2次空気対応圧縮比に制御することを特徴とする。
【0008】
ここで、2次空気供給装置によって前記内燃機関の排気通路に2次空気を供給する場合、供給された2次空気中の酸素によって、排気中に存在する未燃燃料の燃焼が促進される。これにより、排気の浄化が促進されるとともに、排気の温度を上昇させて排気浄化装置の暖機が促進される。
【0009】
一方、前記内燃機関の排気通路に2次空気を供給する際に、前記内燃機関における圧縮比を低圧縮比にすると、前記内燃機関の燃焼室における燃焼効率が低下し、それに応じて排気中の未燃燃料の量が増加する。そうすると、2次空気を供給することによる未燃燃料の燃焼の発熱量を増加させることができる。また、前記内燃機関からの排気による排気通路の背圧を低減させることができ、2次空気供給装置からの2次空気の供給をより容易にすることができる。
【0010】
そこで、本発明においては、前記2次空気供給装置から前記排気通路に2次空気が供給されている期間の少なくとも一部において、前記内燃機関の圧縮比を、前記圧縮比制御手段によって内燃機関の運転状態または暖機状態に応じて設定される機関状態対応圧縮比より低い、2次空気対応圧縮比に制御することとした。
【0011】
そうすれば、2次空気供給装置により前記排気通路に2次空気が供給されている期間の少なくとも一部において、前記内燃機関からの排気中の未燃燃料を増加させることができるとともに、2次空気供給装置からの2次空気の供給をより容易にすることができる。
【0012】
ここで、機関状態対応圧縮比とは、圧縮比制御手段によって内燃機関の運転状態または暖機状態に応じて設定される圧縮比である。例えば内燃機関の冷間始動時など暖機が不十分な状態においては機関状態対応圧縮比は比較的高圧縮比に設定され燃焼効率を高めて内燃機関の暖機が促進される。また、暖機完了後は、機関状態対応圧縮比はノッキングが発生しない範囲で高圧縮比側に設定されることにより燃費の向上が図られる。
【0013】
そして、本発明における2次空気対応圧縮比とは、上述のような機関状態対応圧縮比より低く設定される圧縮比であり、排気の後燃えによる浄化効率の向上と排気浄化装置の暖機の促進という観点から予め実験的に求められた圧縮比である。
【0014】
この制御を行うことにより、より確実に排気の浄化を促進できるとともに、排気浄化装置の暖機を促進することができる。
【0015】
また、本発明においては、前記内燃機関が搭載された車両の周囲の大気圧を検出または推定する大気圧取得手段をさらに備え、
該大気圧取得手段により検出または推定された大気圧が所定値以下の場合に、前記2次空気供給装置から前記排気通路に2次空気が供給されている期間の少なくとも一部において、前記可変圧縮比機構により前記内燃機関の圧縮比を、前記2次空気対応圧縮比に制御するようにしてもよい。
【0016】
ここで、内燃機関が搭載される車両の周囲の大気圧が低下した場合、例えば車両が高地を走行する場合には、2次空気供給装置によって供給可能な2次空気の量が減少する。また、内燃機関からの排気の温度が低下する。従って内燃機関の周囲の大気圧が低下した状態では、2次空気の供給によって排気中の未燃燃料の燃焼を促進できる度合いが低下し、排気の浄化の促進が阻害されるとともに、排気浄化装置の暖機の効率が低下するおそれがある。すなわち、内燃機関が搭載される車両の周囲の大気圧が低下した状態においては、2次空気供給装置から2次空気を供給するとともに前記内燃機関の圧縮比を、前記2次空気対応圧縮比にする制御の必要性が高まる。
【0017】
一方、内燃機関において圧縮比を低下させた場合には、内燃機関の気筒における燃焼効率の低下により、燃費が悪化するとともに、特に冷間始動時においては内燃機関自体の暖機の効率が低下するおそれがある。従って、内燃機関の圧縮比を2次空気対応圧縮比にする制御は限定的に実行することが望ましい。
【0018】
上記のような事情を鑑み、本発明においては、内燃機関が搭載された車両の周囲の大気圧が所定値以下である場合にのみ、2次空気供給中の期間の少なくとも一部において圧縮比を2次空気対応圧縮比に制御することとした。そうすれば、そのままの状態だと排気の浄化の促進が阻害されるとともに、排気浄化装置の暖機の効率が低下するおそれがある場合に限定して圧縮比を2次空気対応圧縮比に制御することができ、排気の浄化を促進できる度合いの低下及び排気浄化装置の暖機の遅れを抑制することができる。同時に、それ以外の場合の内燃機関における圧縮比は圧縮比制御手段により機関状態対応圧縮比とされるので、燃費の向上及び冷間始動時における内燃機関自体の暖機も可及的に促進することができる。
【0019】
また、本発明においては、前記内燃機関が搭載された車両の周囲の大気圧を検出または推定する大気圧取得手段をさらに備え、
該大気圧取得手段により検出または推定された大気圧が低いほど、前記2次空気対応圧縮比を低くするようにしてもよい。
【0020】
そうすれば、大気圧が低くなることによる、排気浄化の促進に対する阻害の程度または排気浄化装置の暖機の遅れ度合いに応じて圧縮比を低下させることができ、排気中の未燃燃料の燃焼をより確実に促進することができる。そうすれば、大気圧の状態に拘らず、排気の浄化及び排気浄化装置の暖機を効率的に促進することができる。
【0021】
また、本発明においては、前記大気圧取得手段により検出または推定された大気圧が低いほど、前記2次空気供給手段から供給される2次空気の量を増加させるようにしてもよい。
【0022】
すなわち、大気圧が低下すると、そのことに起因して2次空気供給装置から排気通路に供給できる空気の量自体が減少するおそれがある。これに対応し、前記大気圧取得手段により検出または推定された大気圧が低いほど、前記2次空気供給手段により前記排気通路に供給される空気の量を増加させるようにすれば、大気圧の低下に起因して、2次空気供給装置から排気通路に供給できる2次空気の量自体が減少することを抑制することができる。その結果、2次空気の供給によって、排気の浄化及び排気浄化装置の暖機をより確実に促進することができる。
【0023】
なおここで、前記大気圧取得手段により検出または推定された大気圧が低いほど、前記2次空気供給手段から供給される2次空気の量を増加させるとは、大気圧と2次空気量とを1対1に対応させて変化させる態様に限られない。例えば上述した、前記大気圧が所定値以下のときに、前記2次空気が供給されている期間の少なくとも一部において、前記前
記内燃機関の圧縮比を前記2次空気対応圧縮比に制御する場合においては、前記大気圧が前記所定値以下の場合に、前記大気圧が前記所定値より高い場合と比較して前記2次空気量を増加させるという、前記2次空気量を2段階に増加させる態様を含んでいる。
【0024】
なお、上記した本発明の課題を解決する手段については、可能なかぎり組み合わせて用いることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明にあっては、2次空気供給装置を備えた可変圧縮比内燃機関において、2次空気を供給することにより、より確実に排気浄化を促進することができ、またはより確実に排気浄化装置の暖機を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。
【実施例1】
【0027】
以下に説明する内燃機関1は、可変圧縮比内燃機関であり、シリンダ2を有するシリンダブロック3を、ピストンが連結されたクランクケース4に対してシリンダ2の中心軸方向に移動させることによって圧縮比を変更するものである。
【0028】
先ず、図1を用いて、本実施例に係る可変圧縮比機構の構成について説明する。図1に
示されるように、シリンダブロック3の両側下部に複数の隆起部が形成されており、この各隆起部に軸受収納孔5が形成されている。軸受収納孔5は、円形をしており、シリンダ2の軸方向に対して直角に、かつ複数のシリンダ2の配列方向に平行になるようにそれぞれ形成されている。軸受収納孔5はすべて同一軸線上に位置している。そして、シリンダブロック3の両側の軸受収納孔5の一対の軸線は平行である。
【0029】
クランクケース4には、上述した軸受収納孔5が形成された複数の隆起部の間に位置するように、立壁部が形成されている。各立壁部のクランクケース4外側に向けられた表面には、半円形の凹部が形成されている。また、各立壁部には、ボルト6によって取り付けられるキャップ7が用意されており、キャップ7も半円形の凹部を有している。また、各立壁部にキャップ7を取り付けると、円形のカム収納孔8が形成される。カム収納孔8の形状は、上述した軸受収納孔5と同一である。
【0030】
複数のカム収納孔8は、軸受収納孔5と同様に、シリンダブロック3をクランクケース4に取り付けたときにシリンダ2の軸方向に対して直角に、且つ、複数のシリンダ2の配列方向に平行になるようにそれぞれ形成されている。これらの複数のカム収納孔8も、シリンダブロック3の両側に形成されることとなり、片側の複数のカム収納孔8はすべて同一軸線上に位置している。そして、シリンダブロック3の両側のカム収納孔8の一対の軸線は平行である。また、両側の軸受収納孔5の間の距離と、両側のカム収納孔8との間の距離は同一である。
【0031】
交互に配置される二列の軸受収納孔5とカム収納孔8には、それぞれカム軸9が挿通される。カム軸9は、図1に示されるように、軸部9aと、軸部9aの中心軸に対して偏心された状態で軸部9aに固定された正円形のカムプロフィールを有するカム部9bと、カム部9bと同一外形を有し軸部9aに対して回転可能に取り付けられた可動軸受部9cとが交互に配置されている。一対のカム軸9は鏡像の関係を有している。また、カム軸9の端部には、後述するギア10の取り付け部9dが形成されている。軸部9aの中心軸と取り付け部9dの中心とは偏心しており、カム部9bの中心と取り付け部9dの中心とは一
致している。
【0032】
可動軸受部9cも、軸部9aに対して偏心されておりその偏心量はカム部9bと同一である。また、各カム軸9において、複数のカム部9bの偏心方向は同一である。また、可動軸受部9cの外形は、カム部9bと同一直径の正円であるので、可動軸受部9cを回転させることで、複数のカム部9bの外表面と複数の可動軸受部9cの外側面とを一致させることができる。
【0033】
各カム軸9の一端にはギア10が取り付けられている。一対のカム軸9の端部に固定された一対のギア10には、それぞれウォームギア11a、11bがかみ合っている。ウォームギア11a、11bは単一のモータ12の一本の出力軸にとりつけられている。ウォームギア11a、11bは、互いに逆方向に回転する螺旋溝を有している。このため、モータ12を回転させると、一対のカム軸9は、ギア10を介して互いに逆方向に回転する。モータ12は、シリンダブロック3に固定されており、シリンダブロック3と一体的に移動する。
【0034】
次に、上述した構成の内燃機関1において圧縮比を制御する方法について詳しく説明する。図2(a)から図2(c)にシリンダブロック3と、クランクケース4と、これら両者の間に構築されたカム軸9との関係を示した断面図を示す。図2(a)から図2(c)において、軸部9aの中心軸をa、カム部9bの中心をb、可動軸受部9cの中心をcとして示す。図2(a)は、軸部9aの延長線上から見て全てのカム部9b及び可動軸受部9cの外周が一致した状態である。このとき、ここでは一対の軸部9aは、軸受収納孔5及びカム収納孔8の中で外側に位置している。
【0035】
図2(a)の状態から、モータ12を駆動して軸部9aを矢印方向に回転させると、図2(b)の状態となる。このとき、軸部9aに対して、カム部9bと可動軸受部9cの偏心方向にずれが生じるので、クランクケース4に対してシリンダブロック3を上死点側にスライドさせることができる。そして、そのスライド量は図2(c)のような状態となるまでカム軸9を回転させたときが最大となり、カム部9bや可動軸受部9cの偏心量の2倍となる。カム部9b及び可動軸受部9cは、それぞれカム収納孔8及び軸受収納孔5の内部で回転し、それぞれカム収納孔8及び軸受収納孔5の内部で軸部9aの位置が移動するのを許容している。
【0036】
上述したような機構を用いることによって、シリンダブロック3をクランクケース4に対して、シリンダ2の軸線方向に相対移動させることが可能となり、圧縮比を可変制御することができる。なお、上述の機構は本実施例における可変圧縮比機構を構成する。
【0037】
次に、図3を用いて本実施例における内燃機関の吸排気系の詳細について説明する。図3において、内燃機関1の吸気系には吸気枝管18及び吸気管19が取り付けられており、内燃機関1の排気系には排気枝管28及び排気管29が取り付けられている。吸気管19には、スロットル20及び、空気量(1次空気量)を測定するためのエアフローメータ21が配置されている。一方、排気管29の下流には、3元触媒からなる排気浄化触媒30が配置されている。また、内燃機関1には、その回転数Neを検出するクランクポジションセンサ31と、冷却水温を検出する冷却水温センサ32が取り付けられ、その出力は、エアフローメータ21の出力とともにECU35に入力されている。さらに、内燃機関1が搭載された車両の周囲の大気圧を検出する圧力センサ33が車両に備えられており、その出力もECU35に入力されている。
【0038】
2次空気供給装置40は、2次空気フィルタ41を介して外界に開放された2次空気供給通路42を備えており、この2次空気供給通路42上に2次空気フィルタ41側から電
気モータ駆動式のエアポンプ(AP)43、エアスイッチングバルブ(ASV)44、逆止弁であるリードバルブ(RV)45が配置される。このASV44には、吸気枝管18から延びる配管46が接続されており、この配管46上にはバキュームスイッチングバルブ(VSV)47が配置されている。
【0039】
この2次空気供給装置40は、所定の条件、例えば、排気浄化触媒30が充分に昇温しておらずその機能が充分に発揮されにくい状態において、2次空気供給制御を実行する。具体的には、VSV47を制御して、配管46と吸気枝管18とを連通させることにより、吸気枝管18内の負圧をASV44に導いて、ASV44を開制御するとともに、AP43を駆動させる。これにより、2次空気フィルタ41を通過した空気の一部が2次空気供給通路42及び2次空気供給管14を介して排気枝管28内へと導かれる。この結果、排気中の酸素濃度が上昇し、排気中のHC、COの排気管29における2次燃焼が促されて排気の浄化が図られるとともに、排気温度が上昇することにより排気浄化触媒30の3元触媒の昇温が促進される。
【0040】
ここで、内燃機関1の気筒における燃焼効率を低下させ、排気中の未燃のHC、COの濃度を上昇させることにより、排気枝管28、排気管29における2次燃焼をより活発化できることが分かっている。そうすれば、排気の浄化をさらに促進できるとともに、排気浄化触媒30に導入される排気をさらに昇温させることにより排気浄化触媒30をさらに早期に暖機させることができる。
【0041】
そこで、本実施例においては、2次空気供給装置40から排気枝管28及び排気管29に2次空気を供給している期間中は、内燃機関1の圧縮比を低下させることとした。そうすれば、2次空気を供給している期間中に、内燃機関1から排出される未燃のHC,COの量を増加させることができ、それらの2次燃焼による排気の温度上昇を促進することができる。
【0042】
また、内燃機関の1の圧縮比を低下させることにより、内燃機関1からの排気による、排気枝管28及び排気管29における背圧が低下するため、2次空気供給通路14から排気枝管28及び排気管29への2次空気の供給がより容易になるという効果もある。
【0043】
図4には排気の温度と排気浄化触媒30における排気浄化率との関係を示すグラフを示す。破線で示す曲線は圧縮比が高い場合、実線で示す曲線は圧縮比が低い場合について示している。ここで、排気浄化触媒30においては、圧縮比の高低に拘らず、排気温度が比較的低い範囲では、排気温度の上昇に伴って排気浄化率が上昇することが分かる。
【0044】
そして、図4において、圧縮比が高い状態から低い状態へと変化した場合について考えると、まず前述の、排気枝管28及び排気管29における背圧の低下により、2次空気の供給がより容易になるという効果は、図中A点からB点への変化によって図示される。そして、排気浄化触媒30に導入される排気をさらに昇温できることによる効果は図中B点からC点への変化によって図示される。このように、内燃機関1の圧縮比を低下させれば、図4に示すような2つの効果の相乗効果により、排気浄化率を大幅に向上させることができる。
【0045】
図5には、本実施例における始動時排気昇温ルーチンを示す。本ルーチンはECU35によって所定期間毎に実行されるルーチンである。
【0046】
本ルーチンが実行されると、まずS101において内燃機関1が始動したかどうかが判定される。具体的にはクランクポジションセンサ31の出力をECU35に取り込み、内燃機関1のクランク軸が回転していることを検出することによって判定してもよい。
【0047】
ここで内燃機関1が始動していないと判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。一方、内燃機関1が始動していると判定された場合には、S102に進む。
【0048】
S102においては、2次空気を排気通路に供給する2次空気供給条件が成立しているかどうかが判定される。具体的には触媒温度を検出し、その検出値が予め実験的に求められた2次空気供給範囲に属しているかどうかによって判定する。なお、この温度については、エアフローメータ21の出力から得られる吸入空気量の始動時からの積算値によって推定するようにしてもよい。
【0049】
ここで、2次空気供給条件については、上記の他、冷却水温または始動後の経過時間を検出し、その検出値が予め実験的に求められた範囲に属しているかどうかによって判定してもよい。また、それらの検出値の組合せによって判定してもよい。なお、冷却水温については、冷却水温センサ32の出力をECU35に取り込むことによって検出する。
【0050】
ここで2次空気供給条件が成立していると判定された場合にはS103に進む。一方2次空気供給条件が成立していないと判定された場合にはS105に進む。
【0051】
S103においては2次空気の供給が開始され、あるいは2次空気の供給状態を継続する。具体的にはVSV47を制御して、配管46と吸気枝管18とを連通させることにより、吸気枝管18内の負圧をASV44に導いて、ASV44を開制御するとともに、AP43を駆動させる。
【0052】
S105においては2次空気の供給を停止し、あるいは2次空気の供給停止状態を継続する。具体的にはVSV47を制御して、配管46と吸気枝管18とを遮断させることにより、ASV44を閉制御するとともに、AP43を停止させる。
【0053】
S104においては、内燃機関1の圧縮比を2次空気対応圧縮比に変更する。ここで、通常の圧縮比制御においては、内燃機関1の始動後の所定期間においては、内燃機関1自体の暖機を促進すべく、比較的高圧縮比の始動時圧縮比となるように制御される。この始動時圧縮比とは、内燃機関1においてノッキングが発生しない範囲で、可及的に内燃機関1の暖機を促進できる圧縮比として実験的に求められた圧縮比の値である。なお、この始動時圧縮比は本実施例における機関状態対応圧縮比に相当する。
【0054】
そして、上記の2次空気対応圧縮比とは、始動時圧縮比より低圧縮比側の圧縮比であり、内燃機関1における始動時の燃費が極端に悪くならない範囲で、可及的に排気中の未燃のHC、COの2次燃焼を促進させ、排気浄化を促進させるとともに排気温度を上昇させることができる圧縮比として実験的に求められた値である。
【0055】
S106においては、内燃機関1の圧縮比を始動時圧縮比に設定する。S104またはS106の処理が終了すると本ルーチンを一旦終了する。なお、ここでS106の処理を実行するECU35は、本実施例において圧縮比制御手段に相当する。
【0056】
以上、説明したとおり、本実施例においては、2次空気供給装置40から2次空気の供給を行っている期間中には、内燃機関1の圧縮比を2次空気対応圧縮比に設定して排気中の未燃のHC、COを増加させるとともに、排気の背圧を低下させることとした。これにより、2次空気による排気中の未燃のHC、COの2次燃焼がより活発化され、排気浄化が促進されるとともに排気浄化触媒30の暖機がより確実に促進される。
【0057】
なお、本実施例においては、2次空気供給装置40から2次空気の供給を行っている期
間中の略全期間に亘り、内燃機関1の圧縮比を2次空気対応圧縮比に設定しているが、2次空気供給装置40から2次空気の供給を行っている期間の一部において、内燃機関1の圧縮比を2次空気対応圧縮比に設定するようにしてもよい。この場合でも、2次空気による排気中の未燃のHC、COの2次燃焼が活発化され、排気浄化が促進されるとともに排気浄化触媒30の暖機が促進されるという効果を得ることができる。
【実施例2】
【0058】
次に本発明の実施例2について説明する。本実施例においては、内燃機関1が搭載された車両の周囲の大気圧が所定圧より低いときに限って、2次空気の供給時に合わせて圧縮比を変更させる制御について説明する。なお、本実施例における内燃機関1及び吸排気系については実施例1で説明したものと同等であり、説明は省略する。
【0059】
図6には、本実施例における始動時排気昇温ルーチン2についてのフローチャートを示す。本ルーチンと実施例1において説明した始動時排気昇温ルーチンとの相違点は、S201の処理が加えられたことである。他の処理については始動時排気昇温ルーチンと同等であるので説明を省略する。
【0060】
S201においては、車両の周囲の大気圧が所定値以下かどうかが判定される。ここで所定値とは、車両の周囲の大気圧がこれ以下の場合には、2次空気供給装置40から2次空気として供給される空気自体の量が減少し、さらに排気の温度(エネルギー)が低下することにより、2次空気供給による効果が低下してしまうと考えられる閾値としての大気圧である。この所定値については予め実験的に求められる。
【0061】
S201において車両の周囲の大気圧が所定値より高いと判定された場合には2次空気供給の効果が充分にあり、必ずしも内燃機関1の圧縮比を低下させる必要はないと判断できるので、S106に進む。一方、S201において車両の周囲の大気圧が所定値以下であると判定された場合には、そのままでは2次空気供給の効果を充分に発揮させることが困難であると判断できるので、S104に進み、圧縮比を2次空気対応圧縮比に変更する。
【0062】
以上、説明したとおり、本実施例においては、車両の大気圧が所定値より低く、そのまま圧縮比を始動時圧縮比に設定したのでは、2次空気供給の効果が充分に得られないと判断された場合にのみ、内燃機関1の圧縮比を2次空気対応圧縮比に設定することとしている。
【0063】
従って、圧縮比を無駄に低下させることを抑制することができ、排気の浄化及び排気浄化触媒30の暖機を促進できるとともに、圧縮比の低下による燃費の悪化を抑制することができる。
【実施例3】
【0064】
次に本発明の実施例3について説明する。本実施例においては、内燃機関1の車両の周囲の大気圧に対して最良の圧縮比を逐一導出し、2次空気対応圧縮比とする制御について説明する。なお、本実施例における内燃機関1及び吸排気系についても実施例1で説明したものと同等であり、説明は省略する。
【0065】
図7には、本実施例における始動時排気昇温ルーチン3のついてのフローチャートを示す。本ルーチンと実施例1において説明した始動時排気昇温ルーチンとの相違点は、S301及びS302の処理が加えられた点である。すなわち、S301の処理においては車両の周囲の大気圧が読み込まれる。具体的には圧力センサ33の出力をECU35に読み込むようにしてもよいし、図示しないアクセルポジションセンサの出力とエアフローメー
タ21の出力との関係から大気圧を推定するようにしてもよい。なお、圧力センサ33は本実施例における大気圧取得手段に相当する。S301の処理が終了するとS302に進む。
【0066】
S302においては、S301で読み込まれた大気圧の値に応じた2次空気対応圧縮比の値を、2次空気対応圧縮比マップから読み出すことによって導出する。ここで2次空気対応圧縮比マップとは、大気圧の値と、その大気圧の状態において最も効率よく排気中のHC、OCを2次燃焼させることができる圧縮比との関係が格納されたマップであり、予め実験的に求められる。
【0067】
具体的には、大気圧の値が低いほど2次空気対応圧縮比の値が低くなるような関係に定められている。これは、内燃機関1が搭載される車両の周囲の大気圧が低くなることによって、2次空気供給装置40により供給可能な2次空気の量が減少し、内燃機関1からの排気の温度も低下することに対応したものである。すなわち、2次空気対応圧縮比の値をより低くして、未燃のHC、COの量をより増加させるとともに排気の背圧を低下させ、2次空気供給装置40から2次空気をより容易に供給可能にする。
【0068】
なお、2次空気対応圧縮比マップにおける大気圧と2次空気対応圧縮比との関係は1対1の関係になるように定めてもよいし、大気圧の値に応じて2次空気対応圧縮比の値を2以上の段階に分けるように、すなわち多対1の関係になるように定めてもよい。
【0069】
そして、S102において2次空気供給条件が成立していると判定された場合には、S103において2次空気供給が開始され、S104においては、S302で導出された2次空気対応圧縮比に内燃機関1の圧縮比が変更される。
【0070】
そうすれば、大気圧に応じて2次空気供給による効果が最大限得られる圧縮比に内燃機関1の圧縮比を変更することができ、どのような環境においても、排気の浄化及び排気浄化触媒30の暖機をより効率的に促進させることができる。
【0071】
なお、本実施例における始動時排気昇温ルーチン3においては、S301において読み込んだ大気圧の値に応じた最適な2次空気対応圧縮比の値を導出したが、これに合わせて、S103において大気圧の値に応じた量の2次空気を供給するようにしてもよい。具体的には大気圧が低いほど供給する2次空気の量を増加させる。この2次空気の量は、大気圧と、必要な2次空気の量との関係を予め計算または実験により求めてマップ化しておき、該マップから読み出して導出するようにしてもよい。
【0072】
そうすれば、大気圧の値に拘らず、排気中のHC、COと反応する酸素量を充分に確保することができ、より確実に排気の浄化及び排気浄化触媒の暖気を促進することができる。
【0073】
なお、上記の大気圧と2次空気の量との関係は1対1の関係になるように定めてもよいし、大気圧の値に応じて2次空気の量を2以上の段階に分けるように、すなわち多対1の関係になるように定めてもよい。
【0074】
また、上記の実施例においては、カム軸を回転させることによって、シリンダブロックをクランクケースに対して相対移動させる構成を例にとって説明した。しかし本発明を適用する構成は上記に限られるものではない。例えば、コンロッドを2分割し、クランクシャフトに連結された方のコンロッドに所定の揺動中心を中心に揺動可能な揺動部材を連結し、前記揺動中心がカム軸を回転させることによって移動することで燃焼室の容積及びピストンのストロークを変更する構成に対して本発明を適用してもよい。
【0075】
また、上記の実施例においては、排気浄化触媒30として三元触媒を使用した例について説明したが、他の種類の触媒、例えば吸蔵還元型NOx触媒などを使用してもよいし、
排気中の微粒子物質を捕集するフィルタを含むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施例に係る内燃機関の概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施例に係る内燃機関におけるシリンダブロックがクランクケースに対して相対移動する経過を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例に係る内燃機関の吸排気系の詳細を説明するための図である。
【図4】本発明の内燃機関において圧縮比が低下することにより、排気の浄化率が上昇することについて説明するための図である。
【図5】本発明の実施例1に係る始動時排気昇温ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施例2に係る始動時排気昇温ルーチン2を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施例3に係る始動時排気昇温ルーチン3を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0077】
1・・・内燃機関
2・・・シリンダ
3・・・シリンダブロック
4・・・クランクケース
9・・・カム軸
10・・・ギア
11a、11b・・・ウォームギア
12・・・モータ
14・・・2次空気供給管
18・・・吸気枝管
19・・・吸気管
20・・・スロットル
21・・・エアフローメータ
28・・・排気枝管
29・・・排気管
30・・・排気浄化触媒
31・・・クランクポジションセンサ
32・・・冷却水温センサ
33・・・圧力センサ
35・・・ECU
40・・・2次空気供給装置
41・・・2次空気フィルタ
42・・・2次空気供給通路
43・・・エアポンプ(AP)
44・・・エアスイッチングバルブ(ASV)
45・・・リードバルブ(RV)
46・・・配管
47・・・バキュームスイッチングバルブ(VSV)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室の容積および/またはピストンのストロークを変更することによって前記内燃機関の圧縮比を変更する可変圧縮比機構と、
前記内燃機関からの排気が通過する排気通路に設けられ、前記排気を浄化する排気浄化装置と、
前記排気通路における前記排気浄化装置の上流に2次空気を供給する2次空気供給装置と、
前記内燃機関の運転状態または暖機状態に応じて、前記可変圧縮比機構により前記内燃機関の圧縮比を所定の機関状態対応圧縮比に制御する圧縮比制御手段と、
を備える可変圧縮比内燃機関であって、
前記2次空気供給装置から前記排気通路に2次空気が供給されている期間の少なくとも一部において、前記可変圧縮比機構により前記内燃機関の圧縮比を、前記機関状態対応圧縮比より低い2次空気対応圧縮比に制御することを特徴とする可変圧縮比内燃機関。
【請求項2】
前記内燃機関が搭載された車両の周囲の大気圧を検出または推定する大気圧取得手段をさらに備え、
該大気圧取得手段により検出または推定された大気圧が所定値以下の場合に、前記2次空気供給装置から前記排気通路に2次空気が供給されている期間の少なくとも一部において、前記可変圧縮比機構により前記内燃機関の圧縮比を、前記2次空気対応圧縮比に制御することを特徴とする請求項1に記載の可変圧縮比内燃機関。
【請求項3】
前記内燃機関が搭載された車両の周囲の大気圧を検出または推定する大気圧取得手段をさらに備え、
該大気圧取得手段により検出または推定された大気圧が低いほど、前記2次空気対応圧縮比を低くすることを特徴とする請求項1に記載の可変圧縮比内燃機関。
【請求項4】
前記大気圧取得手段により検出または推定された大気圧が低いほど、前記2次空気供給手段から供給される2次空気の量を増加させることを特徴とする請求項2または3に記載の可変圧縮比内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−85300(P2007−85300A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278072(P2005−278072)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】