説明

吐出装置および液状体配置方法

【課題】インクジェットヘッドにおけるノズル間での吐出量の差を低減させること。
【解決手段】吐出装置におけるインクジェットヘッドが、インクジェットヘッドの短手方向に伸びた複数の隔壁によって分割された複数の吐出ブロックを有している。そして、複数のノズルは、少なくとも一つのノズルが複数の吐出ブロックの各々に配置されるように、複数の吐出ブロックに分散して配置され、複数の吐出ブロックは第1吐出ブロックと、第2吐出ブロックと、第3吐出ブロックとを少なくとも有し、第2吐出ブロックは第1吐出ブロックと第3吐出ブロックとの間に配置されている。さらに、第2吐出ブロックに供給される第2液状体は、第1吐出ブロックに供給される第1液状体及び第3吐出ブロックに供給される第3液状体よりも粘度が低く、第1液状体、第2液状体及び第3液状体は共通の機能性材料からなる溶質を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吐出装置および液状体配置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドにおけるノズル間での吐出量のばらつきを補正する技術が知られている。特許文献1は、ノズル列を複数のノズルグループに分割し、それぞれのノズルグループに異なる駆動波形を与えて、このことでノズル間での吐出量の差を抑えることを記載している。
【0003】
【特許文献1】特開2002−196127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1による解決策では、駆動回路の回路構成が複雑になってしまい、このためコストが増加するという問題がある。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされ、その目的の一つは、駆動回路を複雑にすることなくインクジェットヘッド上のノズル間での吐出量の差を低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、吐出装置が、液状体を吐出する複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを有している。ここで、前記インクジェットヘッドは前記インクジェットヘッドの短手方向に伸びた複数の隔壁によって分割された複数の吐出ブロックを有している。そして、前記複数のノズルは、少なくとも一つのノズルが前記複数の吐出ブロックの各々に配置されるように、前記複数の吐出ブロックに分散して配置され、前記複数の吐出ブロックは第1吐出ブロックと、第2吐出ブロックと、第3吐出ブロックとを少なくとも有し、前記第2吐出ブロックは前記第1吐出ブロックと前記第3吐出ブロックとの間に配置されている。さらに、前記第2吐出ブロックに供給される第2液状体は、前記第1吐出ブロックに供給される第1液状体及び前記第3吐出ブロックに供給される第3液状体よりも粘度が低く、前記第1液状体、前記第2液状体及び前記第3液状体は共通の機能性材料からなる溶質を含む。
【0007】
上記構成によって、インクジェットヘッドの両端側に位置したノズルの吐出量と、両端側以外の位置にあるノズルの吐出量との間の差を、低減できる。
【0008】
本発明の他の態様によれば、上記吐出装置が、前記第1吐出ブロックに供給される前記第1液状体を備えた第1タンクと、前記第2吐出ブロックに供給される前記第2液状体を備えた第2タンクと、前記第3吐出ブロックに供給される前記第3液状体を備えた第3タンクと、をさらに有する。
【0009】
上記構成によれば、上記のような粘度を有する第1液状体、第2液状体、および第3液状体を1つのインクジェットヘッドに供給できる。
【0010】
本発明の他の態様によれば、前記複数のノズルのうちの前記第2吐出ブロックに配置されたノズルの数は、前記複数のノズルのうちの前記第1吐出ブロックに配置されたノズルの数及び前記複数のノズルののうちの前記第3吐出ブロックに配置されたノズルの数よりも多い。
【0011】
さらに、本発明のある態様の液状体配置方法によれば、液状体を吐出する複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを有し、前記インクジェットヘッドは前記インクジェットヘッドの短手方向に伸びた複数の隔壁によって分割された複数の吐出ブロックを有し、前記複数のノズルは、少なくとも一つのノズルが前記複数の吐出ブロックの各々に配置されるように、前記複数の吐出ブロックに分散して配置され、前記複数の吐出ブロックは第1吐出ブロックと、第2吐出ブロックと、第3吐出ブロックとを少なくとも有し、前記第2吐出ブロックは前記第1吐出ブロックと前記第3吐出ブロックとの間に配置された液滴吐出装置、を用いて基体上に液状体を配置する。ここで、前記第2吐出ブロックに供給する第2液状体として、前記第1吐出ブロックに供給する第1液状体及び前記第3吐出ブロックに供給する第3液状体よりも粘度が低く、かつ前記第1液状体及び前記第3液状体に含まれる機能性材料からなる溶質と共通の溶質を含む液状体が用いられる。
【0012】
上記構成によれば、インクジェットヘッドの両端側に位置したノズルの吐出量と、両端側以外の位置にあるノズルの吐出量との間の差を、低減できる。
【0013】
さらに本発明の他の態様によれば、前記吐出装置は、前記第1吐出ブロックに接続された第1タンクと、前記第2吐出ブロックに接続された第2タンクと、前記第3吐出ブロックに接続された第3タンクと、を有している。そして、前記第1タンクに前記第1液状体、前記第2タンクに前記第2液状体、前記第3タンクに前記第3液状体を供給する。
【0014】
上記構成によれば、上記のような粘度を有する第1液状体、第2液状体、および第3液状体を1つのインクジェットヘッドに供給できる。
【0015】
さらに、本発明の他の態様によれば、前記第1液状体に含まれる前記機能性材料からなる第1溶質が前記第1液状体に占める割合と、前記第2液状体に含まれる前記機能性材料からなる第2溶質が前記第1液状体に占める割合と、前記第3液状体に含まれる前記機能性材料からなる第3溶質が前記第1液状体に占める割合と、は同じ割合である。
【0016】
上記構成によれば、第1液状体、第2液状体および第3液状体のいずれにおいても機能性材料が占める割合が同じである。したがって、第1吐出ブロック、第2吐出ブロック、および第3吐出ブロックのいずれに属するノズルからでも同じ回数だけ液滴が吐出されれば、得られる機能性材料の層の厚さ(例えば当該層の中央部の厚さ)は、所定の一定値に近くなる。
【0017】
さらに、本発明の他の態様によれば、前記第2液状体に含まれる第2溶媒の粘度は、前記第1液状体に含まれる第2溶媒の粘度及び前記第3液状体に含まれる第3溶媒の粘度よりも粘度が低い。
【0018】
上記構成によれば、共通の機能性材料を含有しながらも第1液状体、第2液状体、および第3液状体の粘度が異なる。
【0019】
さらに、本発明の他の態様によれば、前記第1溶媒の沸点、前記第2溶媒の沸点、前記第3溶媒沸点の差は、共通の条件下で0℃以上10℃以下である。
【0020】
上記構成によれば、吐出された第1液状体、第2液状体、および第3液状体の乾燥挙動がより均一になり、そしてこのため、最終的に得られる機能性材料からなる層の厚さのばらつきが低減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(A.インクジェットヘッド)
図1(a)および(b)は、本実施形態で用いられるインクジェットヘッド1の一例を模式的に示している。図1(a)が示すように、インクジェットヘッド1は、複数の吐出ブロック2A,2B,2C,2Dに区分されている。ここで、吐出ブロック2Bと吐出ブロック2Cとは隣り合っていて、かつこれら吐出ブロック2Bと吐出ブロック2Cとは、吐出ブロック2Aと吐出ブロック2Dとの間に位置している。
【0022】
吐出ブロック2A,2B,2C,2Dのそれぞれは、図1(b)が示すように、ノズルプレート3と、複数のノズル4と、複数のノズル4に1対1で導通した複数の吐出機構5と、共通インク室11と、共通流路12と、を備えている。このため、インクジェットヘッド1は、4つの共通インク室11と、4つの共通流路12と、を備えていることになる。ここで、同じ吐出ブロックに属する複数のノズル4は、ノズルプレート3の一方向に並んで配列されている。同様に、同じ吐出ブロックに属する複数の吐出機構5もノズルプレート3の一方向に並んで配列されている。ここで、同じ吐出ブロックに属した複数のノズル4は、1つの「ノズルグループ」を構成するとも表現される。さらに、この表現によれば、同じ吐出ブロックに属した複数のノズル4は、同じ「ノズルグループ」に属すると表現され得る。
【0023】
なお、本実施形態では、ノズルプレート3は、吐出ブロック2A,2B,2C,2Dにとって共通である。また、ノズルプレート3は、複数のノズル4の開口を縁取っている。
【0024】
本実施形態では、吐出ブロック2Aは3個のノズル4を備えており、吐出ブロック2Bは、8個のノズル4を備えており、吐出ブロック2Cは、17個のノズル4を備えており、吐出ブロック2Dは、2個のノズル4を備えている。このため、吐出ブロック2A,2B,2C,2Dには、全部で30個のノズル4が存在する。なお、本実施形態では、吐出ブロック2A,2B,2C,2Dのそれぞれが、ノズル4と1対1で対応した吐出機構5を備えている。ただし、他の形態では、吐出ブロック2A,2B,2C,2Dの少なくともいずれか一つが、ノズル4と吐出機構5とのセットを、1つだけ備えていてもよい。
【0025】
これら30個のノズル4は、ノズルプレート3上でノズル列を構成するように一列に並んでいる。このことから、インクジェットヘッド1はノズル列を備えているとも表記される。なお、本明細書では、ノズル列が延びる方向を、便宜上、X軸方向として表記している。また、X軸方向に対して垂直な2方向をY軸方向およびZ軸方向としている。また、ノズル4の開口は、ほぼZ軸方向に沿ってノズルプレート3を貫いている。そして、後述する吐出装置80(図9)によって、ターゲット30(図5)に対するノズル4の相対位置が、X軸方向とY軸方向とに平行な面内で変化させられることになる。
【0026】
図1(b)に示すように、複数の吐出機構5のそれぞれは、振動板6と、振動板6上に位置した振動素子7と、振動板6を介して振動素子7の振動が伝わる圧力室8と、振動板6とともに圧力室8を規定する隔壁構造9と、圧力室8内へ液状体を供給するインク流路10と、を備えている。それぞれの圧力室8内へは、それぞれのインク流路10を介して、共通インク室11からの液状体が導かれている。また、共通インク室11へは、共通流路12を介して、外部の共通タンク13(図9)から液状体が供給されている。ここで、共通インク室11と、共通流路12と、共通タンク13と、はいずれも、同じ吐出ブロックに属する吐出機構5にとって共通である。このため、インクジェットヘッド1において、同じ吐出ブロックに属する吐出機構5には、共通の液状体が供給される。
【0027】
振動素子7は、振動板6上に位置している。本実施形態での振動素子7は、一対の電極7A,7Bと、一対の電極7A,7B間に位置したピエゾ素子7Cと、を備えたアクチュエータである。さらに、一対の電極7A,7Bへは、図示しない駆動回路からの駆動信号が与えられるように、吐出機構5は構成されている。このような構成を備えた吐出機構5は、駆動信号における駆動波形に応じて、振動板6を撓ませることで、圧力室8内の液状体をノズル4から液滴として吐出する。なお、他の実施の形態では、振動素子7は、一対の電極間に働く静電力(クーロン力)を利用して、液状体をノズル4から吐出する構成を有していてもよい。
【0028】
図2は、インクジェットヘッド1の内部を、Z軸方向からXY平面へ写像するように描いた模式図である。図2に示すように、上述の隔壁構造9は、吐出ブロックごとに、共通インク室11が仕切られるように、インクジェットヘッド1の短手方向に延びた複数の隔壁を有している。このことから、インクジェットヘッド1は、その短手方向に延びた複数の隔壁によって、複数の吐出ブロック2A,2B,2C,2Dに分割されているとも表現され得る。なお、ここでの短手方向はY軸方向に平行である。
【0029】
ここで、インクジェットヘッド1に含まれる複数の吐出機構5のすべてへ共通の液状体を供給し、かつ同じ駆動波形を印加する場合には、吐出機構5(またはノズル4)間で、ノズル4からの吐出量が異なってしまう。これは吐出機構5のインクジェットヘッド1内部での相対位置に応じて、吐出機構5とその周囲とを含めた部分の剛性が異なるからである。しかも、本実施形態では、複数の吐出機構5は互いに接している。また、複数の吐出機構5は、振動板6と、ノズルプレート3と、を共有部分として共有している。さらに、複数の吐出機構5間での振動素子7の性能差もあり得る。これらのことも、ノズル4間での吐出量の差を生じる原因になり得る。
【0030】
図3に示すように、具体的には、ノズル列の両端側に位置したノズル4からの吐出量が、それら両端側のノズル4の間に位置したノズル4からの吐出量よりも大きくなる。図3は一例であるが、要するにインクジェットヘッド1には、両端側に位置したノズル4の吐出量と、両端側以外の位置にあるノズル4の吐出量との間に、無視できない差がある。このような両端側のノズル4の吐出量と、それ以外のノズル4の吐出量と、の間に差が現れる現象は、複数の吐出機構5に同時に駆動波形を与える場合でも、複数の吐出機構5の1つずつに駆動波形を与える場合でも、現れる。
【0031】
ここで、本実施形態での「吐出量」は、規定の駆動波形に応じた規定数(例えば500回)の吐出によって1つのノズル4から吐出された液状体の合計質量で表されている。ただし、「吐出量」は、この合計質量を上記既定数で割った平均質量で表されてもよい。さらに、液状体の比重が既知ならば、「吐出量」は、液状体の比重に基づいて、合計質量または平均質量から換算された合計体積または平均体積で表されてもよい。いずれにせよ、複数のノズル4間で、同じ駆動波形が用いられ、かつ共通の計測・導出方法が適用される限り、どのような計測・導出方法を用いて「吐出量」が計測・導出されてもよい。
【0032】
本実施形態によれば、隣り合う吐出機構5(あるいは隣り合うノズル4)のうち、比較的に吐出量が近い吐出機構5同士が同じ吐出ブロックに属するように、インクジェットヘッド1が区分されている。そして、複数のノズル4の吐出量が互いに近づくように、インクジェットヘッド1が吐出ブロック2A,2B,2C,2Dに区分されて、かつ吐出ブロック2A,2B,2C,2Dへそれぞれ異なる粘度の液状体が供給される。
【0033】
具体的には、吐出量が相対的に大きい吐出機構5が属している吐出ブロックへは、相対的に高い粘度を有する液状体が供給されている。一方で、吐出量が相対的に小さい吐出機構5が属している吐出ブロックへは、相対的に低い粘度を有する液状体が供給されている。このため、複数の吐出機構5(複数のノズル4)間での吐出量の差が、共通の液状体が用いられた場合の吐出量の差よりも小さくなる。
【0034】
インクジェットヘッド1を複数の吐出ブロックへ区分する方法は以下の通りである。
【0035】
まず、インクジェットヘッド1に含まれるすべての吐出機構5へ1つの共通インク室が導通するように構成された試験用インクジェットヘッドを準備する。そして、試験用インクジェットヘッドに液状体を供給し、それぞれのノズル4からの吐出量を計測する。そうすると、例えば図3のような吐出量のプロファイルが得られる。
【0036】
次に、得られた吐出量のプロファイルから算出される、それぞれのノズル4からの吐出量に基づいて、インクジェットヘッド1を複数の吐出ブロックに区分する。具体的には、吐出ブロックごとに異なる粘度の液状体が流れるように、吐出ブロックごとに共通インク室11と、共通流路12と、を設ける。より具体的には、試験用インクジェットヘッドにおける共通インク室を、隔壁構造9の形状を改変することで、吐出ブロックごとに個別な共通インク室11にする。そして、それぞれの吐出ブロックにおいて、共通インク室11に繋がった共通流路12を設ける。そうすると、本実施形態のインクジェットヘッド1が得られる。なお、試験用インクジェットヘッドの構造と、得られたインクジェットヘッド1の構造とは、インクジェットヘッド1が、区分された吐出ブロック毎に共通インク室11と共通流路12とを備える点を除くと、基本的に同じである。
【0037】
さらに、得られたインクジェットヘッド1を用いて、それぞれの吐出ブロックへ異なる粘度の液状体を同時に供給し、それぞれのノズル4からの吐出量を計測する。このような計測を様々な液状体のセットを用いて行う。そして、ノズル4間の吐出量の差が、共通の液状体が用いられた場合の吐出量の差よりも小さくなるような、各液状体の粘度を選択する。
【0038】
(B.液状体)
本実施形態では、吐出ブロック2Aへは、液状体20Aが供給されている。また、吐出ブロック2Bへは、液状体20Bが供給されている。吐出ブロック2Cへは、液状体20Cが供給されている。そして、吐出ブロック2Dへは、液状体20Dが供給されている。
【0039】
本実施形態ではより具体的には、吐出ブロック2Aの共通インク室11へは、インクジェットヘッド1の外部の共通タンク13(図9)から共通流路12を介して、液状体20Aが供給される。共通インク室11に導かれた液状体20Aは、それぞれのインク流路10を流れて、それぞれの吐出機構5へ供給される。このため、吐出ブロック2Aに属する複数の吐出機構5のいずれへも、共通の液状体20Aが供給される。そしてこのため、吐出ブロック2Aに属する複数のノズル4のそれぞれから、共通の液状体20Aが吐出される。
【0040】
吐出ブロック2B,2C,2Dへも、吐出ブロック2Aと同様に、それぞれ液状体20B,20C,20Dが供給されているので、吐出ブロック2Bに属する複数のノズル4からは、共通の液状体20Bが吐出され、吐出ブロック2Cに属する複数のノズル4からは、共通の液状体20Cが吐出され、吐出ブロック2Dに属する複数のノズル4からは、共通の液状体20Dが吐出される。
【0041】
本実施形態の液状体20A,20B,20C,20Dのそれぞれにおける溶媒と機能性材料との組み合わせは、表1に示す通りである。具体的には、液状体20A,20B,20C,20Dはいずれも、機能性材料として、共通の青色EL材料を、約1.0重量%の割合で含有している。そして、液状体20Aは、約99.0重量%の溶媒22Aを含有している。液状体20Bは、約99.0重量%の溶媒22Bを含有している。液状体20Cは、約99.0重量%の溶媒22Cを含有している。液状体20Dは、約99.0重量%の溶媒22Dを含有している。このように本実施形態では、3つの液状体20A,20B,20Cのいずれにおいても機能性材料が占める割合(本実施形態では重量%)が同じである。このことから、吐出ブロック2A,2B,2C,2Dのいずれに属するノズル4からでも液状体が同じ回数だけ液滴として吐出されれば、得られる機能性材料の層の厚さ(例えば層の中央部の厚さ)は、所定の一定値に近くなる。
【0042】
【表1】

【0043】
ここで、溶媒22A,22B,22C,22Dのそれぞれは、表2に示す通り、1つの要素溶媒、または2つの要素溶媒の混合物からなっている。具体的には、溶媒22Aは、50重量%のテトラリンと、50重量%の1,2,3,5テトラメチルベンゼンと、からなる。溶媒22Bは、10重量%のテトラリンと、90重量%の1,2,3,5テトラメチルベンゼンと、からなる。溶媒22Cは、100重量%の1,2,3,5テトラメチルベンゼンからなる。溶媒22Dは、30重量%のテトラリンと、70重量%の1,2,3,5テトラメチルベンゼンからなる。
【0044】
【表2】

【0045】
ここで、要素溶媒の一つであるテトラリンの粘度は、20℃の温度で約2.2mPa・secである。また、1,2,3,5テトラメチルベンゼンの粘度は、同温度で約1.4mPa・secである。また、テトラリンの沸点は、常圧下で約208℃である。テトラメチルベンゼンの沸点は、常圧下で約198℃である。このように本実施形態では、2つの要素溶媒の沸点の差が、同条件下で10℃である。そしてこのため、2つの要素溶媒の組み合わせから得られる溶媒22A,22B,22C,22D間の沸点の差は、同条件下で10℃以下である。
【0046】
最終的に得られる機能性材料からなる層の厚さのばらつきを低減させる目的からは、理想的には、組み合わせられる2つの要素溶媒の間での沸点の差は、共通の条件下で0℃であることが好ましい。そうすれば、吐出された液状体20A,20B,20C,20Dから溶媒が蒸発する速度が互いに近くなり、このため液状体20A,20B,20C,20Dの乾燥挙動がより均一になるからである。これに加えて、本実施形態では、2つの要素溶媒の沸点の差が共通の条件下で10℃の場合であっても、最終的に得られる機能性材料からなる層の厚さが許容範囲内にあることを確認した。このため、2つの要素溶媒の沸点の差は共通の条件下で0℃以上10℃以下であればよいと結論付けられる。あるいは言い換えると、溶媒22A,22B,22C,22Dの間の沸点の差が共通の条件下で0℃以上10℃以下であればよいと結論付けられる。
【0047】
さて、溶媒22A,22B,22C,22Dのそれぞれにおいて、互いに異なる粘度を有する2つの要素溶媒が異なる比率で混合されていることから、溶媒22A,22B,22C,22Dのそれぞれの粘度が互いに異なる。具体的には、粘度の大きい順に並べるとこれら4つの溶媒22A,22B,22C,22Dは、溶媒22A、溶媒22D、溶媒22B、溶媒22Cの順に並ぶ。そして、このことから、液状体20A、20B、20C、20Dのそれぞれの粘度は互いに異なっていて、粘度の大きい順に並べるとこれら4つの液状体20A,20B,20C,20Dは、液状体20A、液状体20D、液状体20B、液状体20Cの順に並ぶ。
【0048】
ここで、本実施形態では、液状体20A,20B,20C,20Dは、機能性材料を溶質とした溶質・溶媒系である。そして、異なる粘度を有する溶媒を利用することで、異なる粘度を有する液状体を実現している。ただし、液状体は、溶質・溶媒系以外のものでもよい。そして、溶質・溶媒系以外の液状体の場合に、異なる粘度を有する液状体を実現するには、例えば、1)機能性材料をコロイド状態にするための液体を変える、2)液状体に含有されている機能性材料を粒子として分散する液体(つまり狭義の分散媒)を変える、3)機能性材料を膨潤させる液体を変える、または4)液状体に流動性を与えている主成分を変える、ことがあり得る。
【0049】
図4は、吐出ブロック2A,2B,2C,2Dに、それぞれ液状体20A,20B,20C,20Dを供給して、インクジェットヘッド1におけるそれぞれのノズル4からの吐出量を計測した結果を示している。図4には、比較のために、吐出ブロック2A,2B,2C,2Dに共通の液状体が供給された場合のグラフ(図3と同じ)も重ねて描かれている。共通の液状体を用いた場合には、吐出量の最大値が9.50であり、最小値が9.00であり、標準偏差が0.1168であった。
【0050】
図4が示すように、4つの吐出ブロック2A,2B,2C,2Dへそれぞれの液状体20A,20B,20C,20Dを供給した場合には、吐出ブロック2A,2Dに属するノズル4からの吐出量は、吐出ブロック2B,2Cに属するノズル4からの吐出量に近づいた。具体的には、吐出量の最大値が9.15であり、最小値が8.90であり、標準偏差が0.0574である。このデータから、複数のノズル4間の吐出量のばらつきが低減したことが分かる。つまり、吐出機構5(つまりノズル4)間の吐出量の差が縮小した。
【0051】
(C.液状体配置方法)
図5が示すように、さらに、本実施形態では、インクジェットヘッド1を、それぞれが同数(10個)のノズル4を含む3つの部分1A,1B,1Cに区分けした。これら部分1A,1B,1Cは、上述の吐出ブロック2A,2B,2C,2Dと一致していなくてよい。本実施形態では、部分1A,1B,1Cの幅はいずれも同じである。
【0052】
そして、ターゲット30の表面を、部分1A,1B,1Cに対応するように、3つの領域30A,30B,30Cに区分けした。具体的には、これら3つの領域30A,30B,30Cは、X軸方向に沿って連続している。また、これら3つの領域30A,30B,30CのそれぞれのX軸方向に沿った幅は、部分1A(つまり部分1B,1C)の幅とほぼ同じである。このように構成したうえで、ターゲット30上の3つ領域30A,30B,30Cのいずれにも、部分1A,1B,1Cが重なるようにした。このため、3つの領域30A,30B,30Cのそれぞれが、3回の吐出走査を受けることになる。
【0053】
ここで、「吐出走査」とは、インクジェットヘッド1およびターゲット30の少なくとも一方が他方に対して相対移動することと、この相対移動の期間中にインクジェットヘッド1からターゲット30へ液状体が吐出されることと、の組み合わせを指している。なお、ここでは、インクジェットヘッド1および/またはターゲット30が相対移動する方向は、Y軸方向に平行である。
【0054】
ノズル4と、領域30A,30B,30Cとの間の位置関係をより具体的に説明する。
【0055】
図7および図8は、図5が示す領域30A,30B,30C上の構造を拡大して示している。領域30A,30B,30Cのそれぞれは、マトリクス状に並んだ複数の機能領域31と、複数の機能領域31のそれぞれを縁取るバンク構造32と、を備えている。本実施形態において、機能領域31のXY平面上での形状は矩形である。そして、機能領域31の短辺はX軸方向に沿っており、長辺はY軸方向に沿っている。そして、一つの機能領域31に一つのノズル4が対応するように、複数の機能領域31は、ノズル4のピッチとほぼ同じピッチ(約140μm)でX軸方向に並んでいる。
【0056】
なお、本実施形態では、機能領域31の一例は、有機EL装置の画素領域である。また、他の形態では、機能領域31は、カラーフィルタ基板上でカラーフィルタ層が設けられる領域である。
【0057】
このような構造を有するターゲット30に対して、領域30A,30B,30Cのいずれへも、部分1A,1B,1Cからの液滴D(液状体20A,20B,20C,20D)が配置されるように、インクジェットヘッド1に所定のタイミングで駆動波形を与えながら、インクジェットヘッド1およびターゲット30の少なくとも一方を他方に対して、Y軸方向と平行に相対移動させた。
【0058】
図6は、図5、図7および図8に示した吐出走査による結果を示している。図6のグラフG1は、従来のインクジェットヘッドを用いて得られた結果であり、グラフG2,G3は、本実施形態のインクジェットヘッド1を用いた結果である。グラフG1,G2,G3のいずれも、機能性材料からなる層の厚さのプロファイルを示している。このプロファイルは図5のA−A線に沿って計測されている。なお、グラフG2は、グラフG1との比較が容易なように、グラフG3を0.2だけ上方へ平行移動させたグラフである。
【0059】
従来のインクジェットヘッドでも、図5のような吐出走査を行えば、領域30A,30B,30C間での層の厚さのばらつきを減らせる。ここで、本実施形態によれば、ノズル4間での吐出量の差が小さくなるように、異なる吐出ブロックに属する吐出機構5へ異なる液状体が供給されている。したがって、領域30A,30B,30C間での厚さのばらつきが低減されるだけでなく、3つの領域30A,30B,30Cのそれぞれの内での厚さのばらつきも低減される。
【0060】
(D.吐出装置)
図9を参照しながら、図5で説明した吐出走査を実現する吐出装置を説明する。
【0061】
図9に示す吐出装置80は、液滴吐出装置とも表記され、基本的にインクジェット装置である。具体的には、吐出装置80は、複数のノズル4(図1)を有するインクジェットヘッド1(図1)と、吐出ブロックの数と等しい数の共通タンク13と、ターゲット30(図5)が載置されるステージ83と、Z軸方向に所定の距離を置いて複数のノズル4のそれぞれの開口がターゲット30に対面するようにインクジェットヘッド1を保持するキャリッジ84と、インクジェットヘッド1とターゲット30との少なくとも一方が他方に対してX軸方向およびY軸方向に相対移動するように、ステージ83および/またはキャリッジ84の位置を変えるXY走査装置85と、インクジェットヘッド1からの液滴Dの吐出を制御する制御装置86と、を備えている。
【0062】
本実施形態によれば、吐出装置80が、インクジェットヘッド1を備えているので、厚さのばらつきが低減された機能性材料の層を効率的に形成することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、ノズル4間の吐出量の差の原因の一つとして、主に、吐出機構5の位置の違い(あるいはノズル4の位置の違い)が説明された。ただし、上述のように、ノズル4間の吐出量の差の原因の他の一つには、振動素子7自体の性能ばらつきがある。そして、本実施形態によれば、このような原因による吐出量の差も低減できる。さらに、振動素子7に代えて、電気熱変換素子によってノズルから液滴を吐出する構成を有したインクジェットヘッドへも、本実施形態は適用され得る。具体的には、電気熱変換素子の性能ばらつきによってノズルからの吐出量が異なり得るので、ノズルからの吐出量の差が低減するように、互いに異なる粘度を有した複数の液状体をインクジェットヘッドに供給すればよい。
【0064】
上記実施形態では、液状体配置方法が、有機EL装置の製造またはカラーフィルタ基板の製造に適用される。また、上記実施形態では、液状体が配置される領域が画素領域に対応した機能領域である。しかしながら他の形態では、上述の液状体配置方法が、複数の画素領域に亘るベタの配向膜を形成する際に適用されてもよいし、液晶層を形成する際に適用されてもよい。また上述の液状体配置方法が、配線パターンまたは絶縁パターンを形成する際に適用されてもよい。さらに、上述の液状体配置方法は、コンシューマ用のプリンタが実行する印刷方法として具現化されてもよい。
【0065】
また、上記実施形態の吐出装置80は、いわゆる工業用のインクジェット装置として説明された。ただし、他の形態では、吐出装置が、コンシューマ用のプリンタとして具現化されてもよい。吐出装置がプリンタとして具現化される場合でも、上記実施形態と同様に、駆動回路を複雑化することなく、ノズル間での吐出量の差を低減できる。そしてこのため、高品位なプリントを提供するプリンタが低コストで実現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(a)本実施形態のインクジェットヘッドの平面図であり、(b)は(a)のインクジェットヘッド内部の吐出機構の断面図である。
【図2】本実施形態のインクジェットヘッドの内部をZ軸方向からXY平面へ写像した模式図。
【図3】従来のインクジェットヘッドの吐出量をノズルごとに示すグラフ。
【図4】本実施形態のインクジェットヘッドからの吐出量をノズルごとに示すグラフ。
【図5】本実施形態の吐出走査の方法を示す模式図。
【図6】図5の吐出走査により得られた機能性材料の層の厚さのプロファイル。
【図7】図5の吐出走査を行う場合のノズルとターゲットとの位置関係を示す図。
【図8】図5の吐出走査を行う場合のノズルとターゲットとの位置関係を示す図。
【図9】本実施形態の吐出装置を示す模式図。
【符号の説明】
【0067】
D…液滴、1…インクジェットヘッド、1A,1B,1C…部分、2A,2B,2C,2D…吐出ブロック、3…ノズルプレート、4…ノズル、5…吐出機構、6…振動板、7…振動素子、8…圧力室、9…隔壁構造、10…インク流路、11…共通インク室、12…共通流路、13…共通タンク、30…ターゲット、30A,30B,30C…領域、31…機能領域,32…バンク構造、80…吐出装置、83…ステージ、84…キャリッジ、85…XY走査装置、86…制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状体を吐出する複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを有する吐出装置であって、
前記インクジェットヘッドは前記インクジェットヘッドの短手方向に伸びた複数の隔壁によって分割された複数の吐出ブロックを有し、
前記複数のノズルは、少なくとも一つのノズルが前記複数の吐出ブロックの各々に配置されるように、前記複数の吐出ブロックに分散して配置され、
前記複数の吐出ブロックは第1吐出ブロックと、第2吐出ブロックと、第3吐出ブロックとを少なくとも有し、前記第2吐出ブロックは前記第1吐出ブロックと前記第3吐出ブロックとの間に配置され、
前記第2吐出ブロックに供給される第2液状体は、前記第1吐出ブロックに供給される第1液状体及び前記第3吐出ブロックに供給される第3液状体よりも粘度が低く、
前記第1液状体、前記第2液状体及び前記第3液状体は共通の機能性材料からなる溶質を含むことを特徴とする吐出装置。
【請求項2】
前記第1吐出ブロックに供給される前記第1液状体を備えた第1タンクと、
前記第2吐出ブロックに供給される前記第2液状体を備えた第2タンクと、
前記第3吐出ブロックに供給される前記第3液状体を備えた第3タンクと、
をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の吐出装置。
【請求項3】
前記複数のノズルのうちの前記第2吐出ブロックに配置されたノズルの数は、前記複数のノズルのうちの前記第1吐出ブロックに配置されたノズルの数及び前記複数のノズルののうちの前記第3吐出ブロックに配置されたノズルの数よりも多いことを特徴とする請求項1又は2に記載の吐出装置。
【請求項4】
液状体を吐出する複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを有し、前記インクジェットヘッドは前記インクジェットヘッドの短手方向に伸びた複数の隔壁によって分割された複数の吐出ブロックを有し、前記複数のノズルは、少なくとも一つのノズルが前記複数の吐出ブロックの各々に配置されるように、前記複数の吐出ブロックに分散して配置され、前記複数の吐出ブロックは第1吐出ブロックと、第2吐出ブロックと、第3吐出ブロックとを少なくとも有し、前記第2吐出ブロックは前記第1吐出ブロックと前記第3吐出ブロックとの間に配置された液滴吐出装置、を用いて基体上に液状体を配置する液状体配置方法であって、
前記第2吐出ブロックに供給する第2液状体として、前記第1吐出ブロックに供給する第1液状体及び前記第3吐出ブロックに供給する第3液状体よりも粘度が低く、かつ前記第1液状体及び前記第3液状体に含まれる機能性材料からなる溶質と共通の溶質を含む液状体を用いることを特徴とする液状体配置方法。
【請求項5】
前記吐出装置は、前記第1吐出ブロックに接続された第1タンクと、前記第2吐出ブロックに接続された第2タンクと、前記第3吐出ブロックに接続された第3タンクと、を有し、
前記第1タンクに前記第1液状体、前記第2タンクに前記第2液状体、前記第3タンクに前記第3液状体を供給することを特徴とする請求項4に記載の液状体配置方法。
【請求項6】
前記第1液状体に含まれる前記機能性材料からなる第1溶質が前記第1液状体に占める割合と、前記第2液状体に含まれる前記機能性材料からなる第2溶質が前記第1液状体に占める割合と、前記第3液状体に含まれる前記機能性材料からなる第3溶質が前記第1液状体に占める割合と、は同じ割合であることを特徴とする請求項4又は5に記載の液状体配置方法。
【請求項7】
前記第2液状体に含まれる第2溶媒の粘度は、前記第1液状体に含まれる第2溶媒の粘度及び前記第3液状体に含まれる第3溶媒の粘度よりも粘度が低いことを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の液状体配置方法。
【請求項8】
前記第1溶媒の沸点、前記第2溶媒の沸点、前記第3溶媒沸点の差は、共通の条件下で
0℃以上10℃以下であることを特徴とする請求項7に記載の液状体配置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−238023(P2008−238023A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80854(P2007−80854)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】