説明

回路パターンを有するガラス基板およびその製造方法

【課題】微細なパターニングが可能であり、大量の現像液やエッチング剤等の薬液等を使用せず製造コストおよび環境負荷を抑制すること等ができ、さらにレーザ照射欠陥が生じない、回路パターンを有するガラス基板の製造方法、およびこれにより製造される回路パターンを有するガラス基板の提供。
【解決手段】ガラス基板10上に薄膜層12を形成した後、レーザ光22をして、ガラス基板上に回路パターン26を形成する工程と、ガラス基板上に、低融点ガラス28を付着させる工程と、低融点ガラスを焼結して低融点ガラス層32を形成し、さらに、ガラス基板と低融点ガラス層との間に、レーザ光の照射によってガラス基板に形成されたレーザ照射欠陥24の厚さ以上の厚さを有する相溶層を形成する工程とを具備する回路パターンを有するガラス基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路パターンを有するガラス基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンピュータ、通信、情報家電、各種表示デバイス等には、基板上に薄膜状の金属や絶縁物からなる回路パターンを有する電子回路基板が使用されている。
そして、この電子回路基板は急速に進展する高度情報化社会に対応するために、より高集積(高精細化)、大面積化が求められている。
【0003】
この回路パターンの形成には、概ね、フォトリソグラフィ・エッチングプロセスを用いた方法が採用されてきた。この方法の典型的なプロセスを図9および図10に示す。
ここで、図9は、従来の回路パターンを形成する工程の一部を示すものであり、(a)〜(e)は、電子回路基板の概略構成を示す断面図であり、図10は、図9の工程の続きを示すものであり、(f)〜(j)は、電子回路基板の概略構成を示す断面図である。
【0004】
図9および図10に示すように、この方法は、基板の全面にまたは部分的に回路パターンを形成するための薄膜を成膜した後に、レジストを塗布・乾燥してレジスト層を形成する。そして、マスクを介してレジスト層を露光・現像することによって、回路パターンとは逆のパターン(逆回路パターン)を形成する。その後、エッチング、レジスト層除去を経て所望の回路パターンを形成する方法である。この方法は、パターンの形成精度が良く、同じパターンを何回でも再現できるとともに、同一基板上に複数個の回路パターンを形成できるため、量産性を有している点で優れている。
【0005】
しかしながら、このフォトリソグラフィ・エッチングプロセスを用いた方法は、図9および図10に示すように、多数の工程を繰り返して回路パターンを完成させていくものである。具体的には、図9および図10に示す方法では、基板50上に金属薄膜51を形成した後に、レジスト層52を形成し、露光・現像処理・エッチング・レジスト層52剥離を行い、さらに、絶縁層53を形成した後に、レジスト層54の形成・露光・現像・エッチング・レジスト層54剥離を行っている。
【0006】
このように、この方法では金属薄膜と絶縁層とからなる回路パターンを形成する度に、成膜・レジスト塗布・乾燥・露光・現像・エッチング・レジスト層剥離等からなる約22工程の非常に多数の工程数を必要とする。このため、製造コストが非常に高くなるという問題があった。
また、この方法では、上記多数の工程の度に大量の現像液や、エッチング剤等の薬液および洗浄液を使用することとなる。これは、単に歩留まりが悪く製造コストが非常に高くなるということのみならず、昨今、重大な関心事となってきた廃液の処理などの環境負荷が非常に大きいという問題があった。
さらに、金属酸化物膜等に用いる材料の種類によってはエッチング剤等によるエッチングが困難であった。従って、フォトリソグラフィ・エッチングプロセスには、エッチング性に優れる特定の材料しか適用することはできなかった。
【0007】
このような種々の問題に対応した従来法として、例えば、次に示す特許文献1、2に記載されたレーザ光を用いたパターニング方法がある。
特許文献1には、ウェットプロセスを用いることなく確実にパターニングを行い、薄膜回路パターンの微細化及びプロセスの短縮化、簡略化をはかることを目的として、基体の表面上にステンシルをパターン形成した後、上記ステンシル上に成膜すべき薄膜を被着して、上記基体の裏面側からエネルギービームを照射して、上記ステンシルを剥離させて上記薄膜をパターニングすることを特徴とする薄膜パターン形成方法が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、レジスト膜の現像と残留レジストの剥離、および金属薄膜や半導体薄膜あるいは絶縁耐薄膜の加工を完全ドライプロセスで行うことを目的として、液晶表示素子を構成するための金属膜、誘電体絶縁膜、半導体膜の薄膜、ないしは前記薄膜の一部がパターン状に形成された多層膜を成膜したガラス基板上にウレタン結合および/またはウレア結合をもつ高分子材料から構成したレジスト膜を塗布し、所定の開口パターンを有するマスクを介してエキシマレーザを照射して照射部分のレジスト膜をアブレーション現象により除去することで前記マスクの開口パターンに対応して前記薄膜を露出したレジスト膜パターンを形成し、前記レジスト膜パターンで露出された前記薄膜にエッチング処理を施して除去した後、エキシマレーザを照射して残留レジスト膜をアブレーション現象により除去することを特徴とする液晶表示素子の製造方法が記載されている。
【0009】
ところで、特許文献1、2のようなレーザ光を用いたパターニング方法にはいくつかの種類があるが、基板上に形成した薄膜にフォトマスクを介してレーザ光を直接照射し、その薄膜の一部を除去して基板上にパターンを形成するレーザーパターニング法が、環境面、コスト面等の観点から好ましい。このような方法はダイレクトパターニング法ともいう。
さらに、このダイレクトパターニング法の中でもステップ照射によるレーザーパターニング法は、微細なパターニングが可能であるのでより高集積(高精細)な回路を形成することができ、また、小さなマスクを用いることができるのでコスト的に優れており好ましい。
【0010】
ここで、ステップ照射によるレーザーパターニング法とはダイレクトパターニング法の一種であって、従来から、回路パターン形成方法における露光工程において好適に採用されているステップ露光法と同様の方法で、薄膜を形成した基板をステップ移動させながらレーザ光を照射し、レーザーパターニングする方法である。
【0011】
このようなステップ照射によるレーザーパターニング法に関連する従来法として、例えば、特許文献3に記載のプラズマディスプレイパネルおよびその製造方法が挙げられる。
特許文献3には、前面基板と該前面基板との間に所定の間隔をあけて略平行に配置された背面基板とを有し、背面基板に対向する前面基板の背面上に、第1の方向に伸びる複数の第1電極を平行に設け、前面基板に対向する背面基板の前面上に、第1の方向と直交する第2の方向に伸びる複数の第2電極を平行に設け、また、隣接する第2の電極の間に隔壁を設け、さらに、隣接する第2の電極の間に蛍光体を設けたプラズマディスプレイパネルにおいて、第1の電極は、まず、前面基板上に第1の電極用薄膜を設け、次に、周期的に発振されるレーザビームを薄膜上で第1の方向に連続的にかつ第2の方向に所定の間隔をあけて照射することでレーザビームのライン状照射領域間に薄膜を残して形成されており、レーザビームは、任意のレーザビームが照射される薄膜上の照射領域と、続くレーザビームが照射される薄膜上の照射領域とが一部重合するように照射され、プラズマディスプレイパネルの前面から見たとき、この照射領域の重合部が隔壁に一致するように、前面基板と背面基板が貼り合わされていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル、およびその製造方法が記載されている。
【0012】
上記フォトリソグラフィ・エッチングプロセスに代わり、特許文献3に記載されているようなステップ照射によるレーザーパターニング法によってガラス基板上に回路パターンを形成すると、ガラス基板上であって、ステップ照射のレーザ光が二重に照射される重ね合わせ部分(オーバーラップ部分)が変質して欠陥となる場合や、レーザ光の照射により蒸発した物質の再付着等により欠陥となる場合がある。このようなレーザ照射欠陥は、回路パターンを有するガラス基板の品質を低下させる。例えばこれをプラズマディスプレイ用のガラス基板として用いれば、そのレーザ照射欠陥部分の可視光透過率がその他の部分と相違するので、画面の表示に悪影響を及ぼす。
【特許文献1】特開平6−13356号公報
【特許文献2】特開平10−20509号公報
【特許文献3】特開2000−348611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献3の方法は、レーザビームの照射領域の重合部(レーザ照射欠陥部分)が隔壁に一致するように、前面基板と背面基板が貼り合わせることで、このようなレーザ照射欠陥の悪影響をカバーすることが記載されているが、レーザ照射欠陥部分と隔壁部との位置を一致させることにより、設計の自由度や生産性向上のための自由度が制限されるという問題がある。例えば、レーザの加工速度を向上させるためにレーザ加工が可能な大きな加工領域で加工したい場合でも、最適な設計ができないという問題がある。
【0014】
したがって、これらの問題を含めてレーザ照射欠陥がない、または表示素子に用いられる場合には表示欠陥とならない回路パターンを有するガラス基板の提供が望まれる。しかし、レーザ欠陥のないものは、原理的に原則として存在しない。
【0015】
本発明は、上記フォトリソグラフィ・エッチングプロセスにおける問題点を解決し、さらにレーザ照射欠陥がない、または表示素子に用いられる場合には表示欠陥とならない回路パターンを有するガラス基板、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、レーザ照射により形成した回路パターンを有するガラス基板に、ある特定の低融点ガラスを付着させ、焼結することで、レーザ照射によりガラス基板に形成されたレーザ照射欠陥を消失できること、または表示素子に用いられる場合には表示欠陥とならないことを見出した。
【0017】
すなわち、本発明は次の(1)〜(13)を提供するものである。
(1)回路パターンを有するガラス基板の製造方法であって、ガラス基板上に薄膜層を形成した後、レーザ光を照射して、前記ガラス基板上に回路パターンを形成する回路パターン形成工程と、前記回路パターンを形成した前記ガラス基板上に、軟化点が450〜630℃である低融点ガラスを付着させる低融点ガラス付着工程と、前記低融点ガラスを焼結させることにより前記ガラス基板上および前記回路パターン上に、焼結した前記低融点ガラスからなる低融点ガラス層を形成し、さらに、前記ガラス基板と前記低融点ガラス層との間に相溶層を形成する焼結工程とを具備する回路パターンを有するガラス基板の製造方法。
(2)前記相溶層の厚さが、前記レーザ光の照射によって前記ガラス基板に形成されたレーザ照射欠陥の厚さ以上の厚さである、上記(1)に記載の回路パターンを有するガラス基板の製造方法。
(3)前記相溶層の厚さが、前記レーザ光の照射によって前記ガラス基板に形成されたレーザ照射欠陥の厚さの0.7〜20倍である、上記(1)に記載の回路パターンを有するガラス基板の製造方法。
(4)表示欠陥となるレーザ照射欠陥を有しない上記(1)〜(3)のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板の製造方法。
【0018】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法により製造される回路パターンを有するガラス基板。
(6)回路パターンを有するガラス基板であって、前記ガラス基板上に、このガラス基板上に形成した薄膜層にレーザ光を照射して得られる回路パターンを有し、この回路パターンおよび前記ガラス基板上に、軟化点が450〜630℃である低融点ガラスからなる低融点ガラス層を有し、さらに、この低融点ガラス層と前記ガラス基板との間に相溶層を有する、回路パターンを有するガラス基板。
(7)前記低融点ガラスの50〜350℃における平均線膨張係数が、60×10−7〜100×10−7/℃である上記(5)または(6)に記載の回路パターンを有するガラス基板。
(8)前記相溶層は、前記ガラス基板上に前記低融点ガラスを付着した後、この低融点ガラスの軟化点よりも50℃低い温度から150℃高い温度の範囲の温度で焼結して得られる上記(5)〜(7)のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板。
(9)前記相溶層の厚さが、前記レーザ光の照射によって前記ガラス基板に形成されたレーザ照射欠陥の厚さの0.7〜20倍である上記(5)〜(8)のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板。
(10)前記薄膜層が、金属酸化物および/または金属を含有する上記(5)〜(9)のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板。
(11)前記薄膜層が、酸化錫を80質量%以上含有する上記(5)〜(10)のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板。
(12)前記回路パターンが付いた一方主面側から入射し、他方主面側へ透過する可視光透過率が60%以上である上記(5)〜(11)のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板。
(13)上記(5)〜(12)のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板を用いてなるプラズマディスプレイパネル。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ステップ照射等のレーザーパターニングにより形成されたレーザ照射欠陥を、簡易な方法で消失させることができ、結果的にレーザ照射欠陥を有しない回路パターンを有するガラス基板を提供することができる。また、回路パターンを有するガラス基板の可視光透過率の低下、ばらつきや歪み応力の増大等を生じることがない。
また、微細なパターニングが可能であるのでより高集積(高精細)な回路の形成が可能であり、小さなマスクを用いることができるのでコスト的に優れ、工程数を少なくして製造コストを抑制することができる。また、大量の現像液やエッチング剤等の薬液および洗浄液を使用せず製造コストおよび環境負荷を抑制することができ、従来、エッチング液等によるエッチングが困難であった材料を用いてパターニングすることも可能となる。さらにレーザ照射欠陥が生じない回路パターンを有するガラス基板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、回路パターンを有するガラス基板の製造方法であって、ガラス基板上に薄膜層を形成した後、レーザ光を照射して、前記ガラス基板上に回路パターンを形成する回路パターン形成工程と、前記回路パターンを形成した前記ガラス基板上に、軟化点が450〜630℃である低融点ガラスを付着させる低融点ガラス付着工程と、前記低融点ガラスを焼結させることにより前記ガラス基板上および前記回路パターン上に、焼結した前記低融点ガラスからなる低融点ガラス層を形成し、さらに、前記ガラス基板と前記低融点ガラス層との間に相溶層を形成する焼結工程とを具備する回路パターンを有するガラス基板の製造方法である。
このような製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0021】
また、本発明は、このような本発明の製造方法によって得られうる回路パターンを有するガラス基板であって、前記ガラス基板上に、このガラス基板上に形成した薄膜層にレーザ光を照射して得られる回路パターンを有し、この回路パターンおよび前記ガラス基板上に、軟化点が450〜630℃である低融点ガラスからなる低融点ガラス層を有し、さらに、この低融点ガラス層と前記ガラス基板との間に相溶層を有する、回路パターンを有するガラス基板である。
このような回路パターンを有するガラス基板を、以下では「本発明のガラス基板」ともいう。
【0022】
始めに、本発明の製造方法について、図1〜図7を用いて説明する。
本発明の製造方法は、回路パターン形成工程と、低融点ガラス付着工程と、焼結工程とを具備する。
【0023】
<回路パターン形成工程>
本発明の製造方法が具備する回路パターン形成工程では、まず、ガラス基板10上に薄膜層12を形成する(図1(a))。次に、この薄膜層にレーザ光を照射する。
【0024】
本発明の製造方法が具備する回路パターン形成工程において、ガラス基板10上に薄膜層12を形成する方法は特に限定されず、通常の方法で行うことができる。
例えば、スパッタリングや蒸着法を適用することができる。
スパッタリングにより金属酸化物からなる薄膜層12を形成する場合であれば、後述する金属酸化物をターゲットに用い、アルゴン等の不活性雰囲気下でスパッタリングを行なえばよい。また、金属をターゲットに用い、酸素を含む雰囲気下でスパッタリングを行えば、その金属の酸化物からなる薄膜層12を形成することができる。また、スパッタリングにより金属からなる薄膜層12を形成する場合であれば、金属をターゲットに用い、アルゴン等の不活性雰囲気下でスパッタリングを行なえばよい。ここで、基板温度、スパッタガスの圧力、スパッタ時間等の反応条件は通常の範囲内で行うことができる。
蒸着法などのその他の方法で行う場合も、通常の成膜条件等で行うことができる。
なお、薄膜層12の厚さ等については後述する。
また、このような薄膜層が表面に形成されたガラス基板を、以下では「薄膜付き基板」ともいう。
【0025】
本発明の製造方法が具備する回路パターン形成工程では、まず、上記のような方法でガラス基板10上に薄膜層12を形成し、次に、この薄膜層12にレーザ光22を、マスク20を介して照射し、前記ガラス基板10上に薄膜層をパターニングした回路パターン26を形成する(図1(b)〜(c)、図4)。レーザ照射としては、ステップ照射が好ましく、これ以後はレーザ照射はステップ照射を意味するものとする。なお、図1(b)に1回のステップ照射でレーザ光が照射される範囲を「1ステップ」として示した。また、図4は図1(b)の斜視図である。
【0026】
このレーザ光のステップ照射とは、従来から回路パターン形成方法における露光工程において好適に採用されているステップ露光法と同様の方法で、薄膜付き基板を(同間隔で細かく)ステップ移動させながらレーザ光を照射する方法である。
【0027】
例えば、1枚の薄膜付き基板の上面に、複数の被レーザ照射箇所がX方向およびY方向に行列状に存在する場合、1つの被レーザ照射箇所にマスクパターンを介してレーザ光を照射した後、薄膜付き基板をレーザ光の照射位置に対して相対的に移動(ステップ移動)し、次のレーザ照射箇所をレーザ照射位置に合わせて、順次レーザ照射を行う。
【0028】
これについて図2の具体例を用いて説明する。
図2(a)に示されるような1500μm×1200μmの被レーザ照射箇所が薄膜付き基板上に存在するものとする。また、1回のレーザ照射でレーザ光を照射できる面積が図2(c)のように505μm×205μmであるとする。なお、この1回のレーザ照射でレーザ光を照射できる領域を、以下では「セルブロック」ともいう。
まず、図2(b)における番号1の領域(「セルブロック1」という。以下、番号2〜18の領域において同様。)にマスクパターンを介してレーザ光を照射する。そして、薄膜付き基板をレーザ光の照射位置に対して相対的に移動(ステップ移動)し、セルブロック2にレーザ光を照射する。その後、このステップ移動とレーザ光の照射とを繰り返し、セルブロック18までレーザ光を照射する。
【0029】
ここで、セルブロック2にレーザ光を照射する場合、セルブロック1とわずかにオーバーラップするようにレーザ光を照射する。同様に、あるセルブロックにレーザ光を照射する場合、その直前にレーザ光を照射したセルブロックと、わずかにオーバーラップするようにレーザ光を照射する。
これは、ステップ移動を行う装置の移動精度誤差等を補うためのものであり、通常、5μm程度のオーバーラップ幅を設けるようにレーザ光を照射する。
したがって、このようなレーザ光のステップ照射において、隣り合うセルブロックの境界線に当る部分(5μm程度の幅のオーバーラップ部分)は、レーザ光が2回照射されることとなる。そして、このガラス基板上のオーバーラップ部分は、レーザ照射欠陥24が形成されうる(図1(b)、(c)、図4)。
【0030】
本発明の製造方法が具備する回路パターン形成工程においてレーザ光のステップ照射の方法は、このような方法を適用することができる。ただし、これに限定されるものではない。
【0031】
また、この図2に示した具体例において照射するレーザ光はエキシマレーザ光、YAGレーザ光等のレーザ光を、ホモジナイザ等により図2(c)のような長方形状であって、エネルギー分布がレーザ照射面(セルブロック)において均一化するように調整されたものである。同様なレーザ光であって長方形以外の形状に調整したものを照射してもよい。
また、1回のレーザ照射とは、1パルスまたは数パルスのレーザ光を照射することである。パルス数は前記薄膜層を前記ガラス基板上から除去することができ、かつ、前記ガラス基板に多大な欠陥(具体的には、ダメージ欠陥、薄膜層の飛び残りによる欠陥や、薄膜層の一部が飛んだ後に再付着する再付着欠陥など)をもたらさない程度であればよい。少々の欠陥であれば、後の焼結工程における低融点ガラス層の形成(相溶層の形成)により、除去することができる。
【0032】
なお、レーザ光は、例えば、波長が248〜1600nm、エネルギー密度が1〜50J/cmのものを用いることができる。この波長は532nm(YAGレーザの2倍波)〜1064nm(YAGレーザの基本波)であることが好ましく、1064nm(YAGレーザの基本波)であることがより好ましい。また、このエネルギー密度は2〜30J/cmであることが好ましく、5〜30J/cmであることがより好ましい。
レーザ光の波長およびエネルギー密度がこのような範囲であれば、前記薄膜層を前記ガラス基板上からほぼ完全に除去することができるので好ましい。
【0033】
また、用いるマスクパターンは所望の開口を有するものであり、例えば、後述する図7のような開口部44を有するマスクパターン49を用いることができる。
マスクパターンの材質、厚さ、形状等は特に限定されず、照射するレーザ光を透過せず、レーザ光によって損耗しない材質、厚さ等であればよい。
【0034】
本発明の製造方法が具備する回路パターン形成工程において、レーザ光をステップ照射して前記ガラス基板上に回路パターンを形成するための装置として、例えば、次の図3に示す装置を適用することができる。
図3において、40は薄膜付き基板を示しており、この薄膜付き基板40には複数の被レーザ照射箇所が存在する。このレーザ照射箇所はセルブロック41が集合したものである。
【0035】
薄膜付き基板40はステッパーシステム(ステップ移動するシステム)を構成するステージ(不図示)に載置されており、このステージにより薄膜付き基板40をX方向、Y方向にステップ移動できるようになっている。
また、薄膜付き基板40の上方にはステッパーシステムの光学系が設けられており、図3中、48はそのレーザ光源を示している。このレーザ光源48から出射したレーザ光47は、ホモジナイザ(不図示)を通過した後、マスクパターン45を通り、そして、縮小投影レンズ43を介して、セルブロック41に照射される。このようにして、マスクパターン45の微細パターンが繰り返しセルブロック41に照射され、回路パターンが形成される。
【0036】
<低融点ガラス付着工程>
本発明の製造方法が具備する低融点ガラス付着工程では、上記のような方法によって前記回路パターン26を形成した前記ガラス基板10上に低融点ガラス28を付着させる。
低融点ガラスの性質等は後述する。
ここで、この低融点ガラス28は、通常、前記回路パターン26上および前記ガラス基板10上に付着させるが、少なくとも、前記ガラス基板10の少なくとも一部に付着させればよい。この場合であっても、本発明の範囲内である。
【0037】
本発明の製造方法が具備する低融点ガラス付着工程において、前記回路パターン26を形成した前記ガラス基板10上に低融点ガラス28を付着させる方法は特に限定されず、通常の方法で行うことができる。
例えば、粉末状(質量平均粒径が0.5〜4μm程度)の低融点ガラス28をセルロース等を含む有機溶剤30に含有させペースト状インクとし、これを用いてスクリーン印刷する方法が挙げられる(図1(d))。
その他にも、ダイコータ、バーコータなど異なる塗布方法やシート状にして貼付する方法が例示できる。
【0038】
この低融点ガラス28を付着する量は特に限定されず、形成する低融点ガラス層の厚さによって適宜選択すればよい。例えばガラス基板の単位面積に対して50〜200g/m程度付着させれば、低融点ガラス層を形成することができる。低融点ガラス層の厚さは、10〜60μmであることが好ましい。
【0039】
<焼結工程>
本発明の製造方法が具備する焼結工程では、上記のような方法で前記低融点ガラス28が付着した前記ガラス基板10を大気中で加熱し、低融点ガラスを焼結させる。焼結温度は、前記低融点ガラスの軟化点よりも50℃低い温度から150℃高い温度の範囲の温度であることが好ましい。
【0040】
ここで焼結手段は特に限定されず、前記低融点ガラス28が付着した前記ガラス基板10を所定の焼結温度で所定の焼結時間大気中で焼結することができるものであればよい。例えば、電気炉を用いて焼結することができる。
また、焼結時間は特に限定されない。例えば、10〜60min程度の焼結時間を例示できる。
具体的には、例えば、3〜20℃/minの昇温条件で上記の焼結温度まで昇温し、10〜60min程度保持した後に、焼成炉内に放置して徐冷する方法が挙げられる。
【0041】
また、焼結温度は低融点ガラス28の軟化点よりも50℃低い温度から150℃高い温度の範囲の温度であることが好ましく、低融点ガラス28の軟化点よりも60〜140℃高い温度であることがさらに好ましく、90〜130℃高い温度であることが最も好ましい。このような温度で焼結して前記ガラス基板10上および前記回路パターン26上に、前記低融点ガラス28からなる低融点ガラス層32を形成することができる。さらに、前記ガラス基板10と前記低融点ガラス層32との間に相溶層34を形成することができる(図1(e))。
【0042】
ここで図5は、回路パターン26を有するガラス基板10の上面の一部に、低融点ガラス層32を形成したものの断面図である。また、図6は、図5に示したものの上面側からの写真である。
このように、ガラス基板10と低融点ガラス層32とが接している部分に、相溶層34が形成される(図5、図6参照)。
この相溶層の厚さに関しては後述する。図5、図6においては、この相溶層34の厚さはレーザ照射欠陥24の厚さよりも厚いため、レーザ照射欠陥24は完全に消失している。また、本ガラス基板を表示素子用として使用する場合、相溶層厚さよりもレーザ欠陥厚さが厚い場合でも、相溶層の厚さがレーザ欠陥厚さの0.7倍以上であれば、表示欠陥として視認されず、この場合にも有効である。
【0043】
ここで、前記焼結温度が低すぎると相溶層34の厚さが薄くなり、前記レーザ照射欠陥の厚さが消失しない可能性がある。逆に前記焼結温度が高すぎると薄膜層12に亀裂が走ったりする可能性がある。
【0044】
このような本発明の製造方法により、本発明のガラス基板を製造することができる。
本発明のガラス基板を図1(e)を用いて説明する。
本発明のガラス基板は、前記ガラス基板10上に回路パターン26を有する。この回路パターン26は、このガラス基板10上に形成した薄膜層12にレーザ光をステップ照射して得られる回路パターンである。また、本発明のガラス基板は、この回路パターン26および前記ガラス基板10上に、軟化点が450〜630℃である低融点ガラスからなる低融点ガラス層32を有する。ここで、この低融点ガラス層32は、通常、前記回路パターン26上および前記ガラス基板10上に存在するが、少なくとも、前記ガラス基板10の少なくとも一部に接して存在していればよい。この場合であっても、本発明の範囲内である。さらに、本発明のガラス基板は、前記ガラス基板10と前記低融点ガラス層32との間に相溶層34を有する。
【0045】
本発明の製造方法および本発明のガラス基板(以下、単に「本発明」ともいう)においてガラス基板は特に限定されず、後述する低融点ガラスの軟化点よりも高い軟化点を有するものであれば、組成、厚さ、大きさ等は任意である。例えば、軟化点が700〜900℃であるガラス基板を好ましく用いることができる。また、例えば、50〜350℃の平均線膨張係数が60×10−7〜100×10−7/℃であるガラス基板を好ましく用いることができる。また、例えば、プラズマディスプレイパネル(PDP)用のガラス基板として従来から用いられている厚さ1.5〜3mm程度のガラス基板を好ましく用いることができる。
【0046】
また、本発明において薄膜層は、金属酸化物および/または金属を含むことが好ましい。
金属酸化物であれば、例えば、酸化錫を主成分とするものや、酸化インジウムを主成分とするものが好ましい。上記酸化錫や酸化インジウムは、他の金属を含有してもよい。例えば、酸化インジウムには、錫を全体の3〜15質量%添加することができる。この中でも、アンチモン、タンタルおよびニオブからなる群から選ばれる1種以上を含有する酸化錫が低抵抗の点で特に好ましい。
また、本発明において薄膜層は酸化錫を80質量%以上含むことが好ましい。理由は、この薄膜層上に層を形成する低融点ガラスに対する耐性の高さおよびレーザパターニングのしやすさの点である。
本発明において薄膜層は金属を含むことが好ましく、低抵抗である点で、Cr、Cu、Ti、Ni等を好ましく用いることができる。
【0047】
また、この薄膜層は、このような金属酸化物や金属を主成分とするものであり、金属酸化物や金属以外の成分が少量含まれていてもよい。「少量」とは、薄膜層にレーザ光を照射して形成する回路パターンの機能(例えば、この回路パターンを電極として用いる場合であれば、電極としての機能)を損なわない程度の量を意味する。
【0048】
また、この薄膜層の厚さ(平均厚さ)は特に限定されないが、薄膜層の材料が金属酸化物膜の場合は、100〜1000nmであることが好ましく、100〜400nmであることがさらに好ましく、200〜350nmであることが最も好ましい。このような範囲であれば、所望の抵抗値と透過率とが同時に得られるという点で好ましい。薄膜層の材料が金属膜の場合は、厚さは500〜5000nmであることが好ましい。この厚さは、上記のスパッタリングや蒸着法等における成膜時間等を制御することで調整することができる。
なお、本発明でいう薄膜層の厚さは、触針式膜厚計で測定される平均膜厚をいう。
【0049】
また、本発明において低融点ガラスは軟化点が450〜630℃である。
ここで軟化点は460〜540℃であることが好ましく、470〜510℃であることがさらに好ましい。450〜630℃といった範囲であれば、前記ガラス基板の軟化点と相違幅が大きいので、焼結工程においてガラス基板を変形させることなく、この低融点ガラスのみを焼結でき、かつガラス基板との相溶層を形成することができる。また、本発明のガラス基板をプラズマディスプレイパネルに適用する場合、本発明のガラス基板の周辺部を加熱封止するが、低融点ガラスの軟化点が低すぎると、この封止温度(約400℃)において低融点ガラスが軟化してしまう。しかし、上記のような範囲であれば封止温度において低融点ガラスは軟化せず、封止を行うことができる。
ここで、軟化点は、ガラス粉末を試料とし、アルミナ粉末を標準試料として、示差熱分析により昇温速度10℃/分で室温から800℃までの範囲で測定した。本発明において軟化点は、すべてこの方法により測定した値である。
【0050】
また、この低融点ガラスは、50〜350℃の平均線膨張係数が、60×10−7〜100×10−7/℃であることが好ましく、65×10−7〜90×10−7/℃であることがさらに好ましく、70×10−7〜85×10−7/℃であることが最も好ましい。このような範囲あれば、通常用いるガラス基板の平均線膨張係数と同程度であるので、この低融点ガラスを用いてなる低融点ガラス層に亀裂等が生じにくく、ガラス基板の反りや強度の低下を防止することができるという効果を奏する。
ここで、平均線膨張係数は、まず、溶融ガラスをステンレス製板の上に流し出しガラス転移点付近で徐冷し、次に、徐冷したガラスを直径2mm、長さ20mmの円柱状に加工したものを試料とし、石英ガラスを標準試料として示差熱膨張計により昇温速度10℃/分で50〜350℃の範囲を測定して求めた値である。本発明において平均線膨張係数は、すべてこの方法により測定した値である。
【0051】
本発明で用いることができる低融点ガラスとしては、酸化物基準のモル%表示で実質的に、
SiO : 1〜55mol%
: 5〜60mol%
PbO+Bi : 0〜70mol%
ZnO : 0〜30mol%
Al : 0〜10mol%
MgO+CaO : 0〜15mol%
SrO+BaO : 0〜15mol%
LiO+NaO+KO : 0〜15mol%
CuO+CeO+SnO : 0〜2mol%
からなる組成を例示できる。
より好ましくは、酸化物基準のモル%表示で実質的に、
SiO : 2〜15mol%
: 35〜45mol%
PbO+Bi : 25〜45mol%
ZnO : 5〜15mol%
CuO+CeO+SnO : 0.1〜1mol%
からなる組成を例示できる。
【0052】
また、本発明において相溶層は、前記ガラス基板と前記低融点ガラス層との間に存在する。この相溶層は、前記ガラス基板上に前記低融点ガラスを付着した後、この低融点ガラスを焼結して得ることができる。この相溶層は、前記ガラス基板の材料と前記低融点ガラスの材料とが相互に拡散した層である。
本発明における相溶層は、前記ガラス基板上に低融点ガラスを付着した後、この低融点ガラスの軟化点よりも50℃低い温度から150℃高い温度の範囲で加熱し、焼結して得ることが好ましい。理由は、十分な高温により、低融点ガラスを十分に溶融させ、ガラス基板との相溶性を高めることができ、さらに焼結温度を調整することで相溶層の厚さを任意に調整することができ、形成されたレーザ照射欠陥の厚さに応じて、その相溶層の厚さを好ましい値に調整することができる。
【0053】
また、この相溶層の厚さは、前記レーザ光の前記ステップ照射によって前記ガラス基板に形成されたレーザ照射欠陥の厚さの0.7〜20倍であることが好ましく、レーザ照射欠陥の厚さよりも厚いこと、つまり1.0倍以上であることがさらに好ましく、1.5〜3倍であることがさらに好ましく、2倍程度の厚さであることが最も好ましい。この場合、前記ガラス基板表面のレーザ照射欠陥を消失することができる。0.7倍以上1.0倍未満の場合、レーザ照射欠陥が若干残存することとなるが、その残存量が少ないので、製造された回路パターンを有するガラス基板の使用時において可視光透過率の低下、ばらつき等の問題はほとんど生じず、表示欠陥として視認されない。
このレーザ照射欠陥は、前記レーザ光の前記ステップ照射におけるオーバーラップ部分(ガラス基板上)に生じる傷のようなものである(図6参照)。
【0054】
このレーザ照射欠陥の深さは一定ではないが、概ね0.1〜1.0μm程度である。
従って、前記相溶層の厚さは0.07〜10μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがさらに好ましく、0.1〜4μmであることが最も好ましい。このような範囲よりも薄すぎるとレーザ照射欠陥が消えなくなってしまうが、逆に、このような範囲よりも厚すぎるとフリットの性能等に問題が生じる可能性がある。従って、このような範囲の厚さを有する相溶層であることが好ましい。
さらに、このような相溶層の形成により、レーザによる蒸発残りや蒸発物の再付着による欠陥の除外ができるという効果も発揮できる。
なお、このレーザ照射欠陥の厚さは、相溶層の断面を電子顕微鏡で観察して測定したものである。相溶層の厚さは必ずしも均一ではないが、本発明でいう相溶層の厚さは平均厚さをいう。
【0055】
このような相溶層の厚さは、焼結工程におけるいくつかのパラメータを変化させて調整することができる。ただし、主なパラメータは焼結温度および前記低融点ガラスの軟化点の2つである。この2つのパラメータを調整することで、相溶層の厚さを調整することが可能である。
例えば、480℃の軟化点を有する低融点ガラスをガラス基板上に付着させ600℃で焼結すれば、約3.5μmの厚さの相溶層を形成することができる。
また、例えば、620℃の軟化点を有する低融点ガラスをガラス基板上に付着させ600℃で焼結すれば、約0.15μmの厚さの相溶層を形成することができる。
【0056】
本発明の製造方法により得られる回路パターンを有するガラス基板、および本発明のガラス基板は、前記回路パターンが付いた一方主面側から入射し、他方主面側へ透過する可視光透過率(JIS R3106(1998年))は、60%以上、好ましくは70%以上である。
なお、可視光透過率は、株式会社日立製作所製の自記分光光度計U−3500(積分球型)を用いて波長550nmの透過率を測定した。なお、ガラス基板のない状態を100%とした。本発明において可視光透過率は、すべてこの方法により測定した値である。
【0057】
本発明の製造方法により得られる回路パターンを有するガラス基板、および本発明のガラス基板はフラットパネルディスプレイ、特に、プラズマディスプレイパネル(PDP)の基板として好ましく用いることができる。
すなわち、本発明の製造方法により得られる回路パターンを有するガラス基板、および本発明のガラス基板において、ガラス基板上のSnOやITOからなる薄膜層は表示電極として、また、低融点ガラス層は誘電体層として働き、全体としてPDPの前面基板となりえる。このPDPは従来よりも上記のように可視光透過率が高く好ましい。
【0058】
また、本発明の製造方法は、次に示すパターン形成方法を適用してガラス基板上に回路パターンを形成する回路パターンを有するガラス基板の製造方法であるといえる。
すなわち、ガラス基板上に薄膜層を形成した後、レーザ光をステップ照射して、前記ガラス基板上に回路パターンを形成し、この回路パターンを形成した前記ガラス基板上に、軟化点が450〜630℃である低融点ガラスを付着した後に焼結する、好ましくは前記低融点ガラスの軟化点よりも50℃低い温度から150℃高い温度の範囲の温度で焼結する、パターン形成方法である。
【実施例】
【0059】
本発明の好適実施例を示す。本発明はこれに限定されるものではない。
<実施例1>
40mm角で厚さ2.8mmのガラス基板(PD200、旭硝子社製)を用意した。このガラス基板の50〜350℃の平均線膨張係数(JIS−R3102(1995年))は83×10−7/℃であり、歪点(JIS−R3104(1995年))は570℃であり、軟化点(JIS−R3103(1995年))は830℃である。
このガラス基板を以下では「ガラス基板A」ともいう。
【0060】
このガラス基板Aの一方の主面上に、スパッタリング成膜装置を用いて、アンチモンドープ酸化錫膜を形成した。
具体的には、酸化錫を95質量%、酸化アンチモンを5質量%含有する焼結体をターゲットとして用い、初期真空度を1.3×10−4Pa、ガラス板温度を250℃、アルゴン/酸素ガス導入時真空度を6.7×10−1Pa(その時の酸素分圧は5%)としたスパッタリング成膜を行った。
この結果、ガラス基板A上に均一に300nmの薄膜層(アンチモンドープ酸化錫膜)を形成できた。形成された膜の組成は、ターゲットと同等であった。
このような、ガラス基板A上に薄膜層を有するガラス基板を以下では「ガラス基板A1」ともいう。
【0061】
次にレーザ光照射装置(スペクトロン社製)を用いて、ガラス基板A1にレーザ光をステップ照射し、回路パターンを形成した。
この装置のレーザ光はYAGレーザ光(50Hz)であり、波長は1064nm、エネルギー密度は11J/cmとした。このレーザ光は、ホモジナイザを通過させ、図2(c)に示したような長方形状に調整した。そして、図7に示したパターン(開口)を有するマスクパターンを介してガラス基板A1に照射した。そして、ガラス基板のレーザ照射部分(上記のセルブロックに相当)の長辺が505μm、短辺が205μmの長方形となるように調整した。
また、オーバーラップ幅は5μmとし、ステップ照射に同期するようにステージを移動させ、ステップ照射を行った。
【0062】
そして、ステップ照射を行った後、レーザ照射を行ったガラス基板A1の表面を電子顕微鏡により観察し、オーバーラップ部分に0.2μm程度の深さを有するレーザ照射欠陥が存在することを確認した。
ここで得られたガラス基板を、以下では「ガラス基板A2」ともいう。
【0063】
次に、低融点ガラス粉末100gを有機ビヒクル25gと混練しガラスペーストを作成した。前記有機ビヒクルは、α‐テルピネオールまたはジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートにエチルセルロースを質量百分率表示で10%溶解したものである。
また、この低融点ガラス粉末の質量平均粒径は1μmである。
さらに、この低融点ガラスの軟化点は478℃であり、ガラス転移点は418℃であり、50〜350℃の平均線膨張係数は84×10−7/℃である。また、この低融点ガラスは、酸化物換算でSiOを12mol%、Bを40mol%、PbOを42mol%、ZnOを6mol%、SnOを0.5mol%含有する。
【0064】
なお、低融点ガラスの特性の測定方法は下記のとおりである。
<質量平均粒径>
まず、溶融ガラスをステンレス鋼製ローラーに流し込んでフレーク化した。次に、得られたガラスフレークをアルミナ製のボールミルで16時間乾式粉砕後、気流分級を行い、質量平均粒径が2〜4μmであるガラス粉末を作製した。
そして、このガラス粉末を水に分散し、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製 SALD2100)を用いて質量平均粒径を測定した(単位:μm)。
【0065】
<平均線膨張係数>
まず、得られた溶融ガラスの一部をステンレス鋼製の型枠に流し込み、徐冷した。
次に、徐冷されたガラスを長さ20mm、直径5mmの円柱状に加工し、これを試料として、水平示差検出方式熱膨張計(ブルカー・エイエックスエス株式会社製DILATOMETER TD5000SAーN)を用いて50〜350℃の平均線膨張係数を測定した(単位:10−7/℃)。
【0066】
<軟化点、ガラス転移点>
上記の質量平均粒径の測定において作製したガラス粉末を試料として、800℃までの範囲で、示差熱分析装置(株式会社リガク製、Thermo plus TG8110)を用いて軟化点、及びガラス転移点を測定した。
【0067】
次に、このペースト状インクをガラス基板A2上にスクリーン印刷した。そして、120℃で10分間乾燥した後この印刷乾燥膜の厚みを、触針式表面粗さ計で測定し、ペースト状インクがガラス基板上に45μm厚みで塗布されたことを確認した。
ここでペースト状インクが塗布されたガラス基板を、以下では「ガラス基板A3」ともいう。
【0068】
次に、このガラス基板A3を電気炉に装入して加熱した。加熱条件は、常温から10℃/分の速度で600℃まで昇温し、600℃で30分間保持した。その後は、電気炉内で徐冷した。
ここで得られたガラス基板を、以下では「ガラス基板A4」ともいう。
【0069】
このガラス基板A4の断面を光学顕微鏡および電子顕微鏡により観察した。そして、低融点ガラス層の厚さを測定した。その結果、この厚さは30μmであった。また、相溶層の厚さは約3.5μmであり、レーザ照射欠陥が消失していることを確認した(図8(a)、(b)参照)。
また、このガラス基板A4の標準C光源による可視光透過率を測定した。その結果、可視光透過率は84%であった。また、レーザ照射欠陥の存在は確認できなかった。
【0070】
さらに、このガラス基板A4の歪み応力を偏光解析装置を用いて測定した。測定方法は、ガラス基板A4の低融点ガラスで被覆された領域を幅15mmとなるように切り出し、切断面を光学研磨した後、断面方向に偏光顕微鏡(干渉計)で観察し、ガラス基板表面部の歪み応力(kg/cm)を光弾性法により算定した。
そして、歪みは無視できる範囲(±12kg/cm以内)であることを確認した。よって、ガラス基板に異常な反りがなく、強度の低下が見られないいことを確認した。また、上記ガラス基板を用いてPDPを点灯させたところ、表示欠陥は視認できない。
【0071】
<実施例2>
実施例1において用いた軟化点が478℃である低融点ガラスの代わりに、軟化点が620℃である低融点ガラスを用い、その他の操作、条件等は、全て実施例1と同じとした試験を行った。
そして、形成された低融点ガラス層が形成されたガラス基板の断面を光学顕微鏡および電子顕微鏡により観察したところ、低融点ガラス層の厚さは20μmであった。また、相溶層の厚さは0.15μmであり、レーザ照射欠陥が消失していることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1(a)〜(e)は、本発明の製造方法を説明するための、回路パターンを有するガラス基板の概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の製造方法のレーザ光のステップ照射におけるステップ移動を説明するため図である。
【図3】図3は、本発明の製造方法のレーザ光のステップ照射をするための好適実施例を示す概略図である。
【図4】図4は、図1(b)の概略断面図の斜視図である。
【図5】図5は、本発明のガラス基板を説明するための、回路パターンを有するガラス基板の概略断面図である。
【図6】図6は、本発明のガラス基板を説明するための、回路パターンを有するガラス基板の上面写真(顕微鏡写真)である。
【図7】図7は、実施例で用いたマスクパターンの形状を示す図である。
【図8】図8(b)は、実施例1で得られた本発明のガラス基板の断面写真(顕微鏡写真)であり、(a)はその説明図である。
【図9】図9(a)〜(e)は、従来の回路パターン形成方法を説明するための、電子回路を有するガラス基板の概略断面図である。
【図10】図10(f)〜(j)は、従来の回路パターン形成方法を説明するための、電子回路を有するガラス基板の概略断面図である。
【符号の説明】
【0073】
10 ガラス基板
12 薄膜層
20 マスク
22 レーザ光
24 レーザ照射欠陥
26 回路パターン
28 低融点ガラス
30 有機溶剤
32 低融点ガラス層
34 相溶層
40 薄膜付き基板
41 セルブロック
43 縮小投影レンズ
44 開口部
45 マスクパターン
47 レーザ光
48 レーザ光源
49 マスクパターン
50 基板
51 金属薄膜
52 レジスト層
53 絶縁層
54 レジスト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路パターンを有するガラス基板の製造方法であって、
ガラス基板上に薄膜層を形成した後、レーザ光を照射して、前記ガラス基板上に回路パターンを形成する回路パターン形成工程と、
前記回路パターンを形成した前記ガラス基板上に、軟化点が450〜630℃である低融点ガラスを付着させる低融点ガラス付着工程と、
前記低融点ガラスを焼結させることにより前記ガラス基板上および前記回路パターン上に、焼結した前記低融点ガラスからなる低融点ガラス層を形成し、さらに、前記ガラス基板と前記低融点ガラス層との間に相溶層を形成する焼結工程と
を具備する回路パターンを有するガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記相溶層の厚さが、前記レーザ光の照射によって前記ガラス基板に形成されたレーザ照射欠陥の厚さ以上の厚さである、請求項1に記載の回路パターンを有するガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記相溶層の厚さが、前記レーザ光の照射によって前記ガラス基板に形成されたレーザ照射欠陥の厚さの0.7〜20倍である、請求項1に記載の回路パターンを有するガラス基板の製造方法。
【請求項4】
表示欠陥となるレーザ照射欠陥を有しない請求項1〜3のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により製造される回路パターンを有するガラス基板。
【請求項6】
回路パターンを有するガラス基板であって、
前記ガラス基板上に、このガラス基板上に形成した薄膜層にレーザ光を照射して得られる回路パターンを有し、
この回路パターンおよび前記ガラス基板上に、軟化点が450〜630℃である低融点ガラスからなる低融点ガラス層を有し、
さらに、この低融点ガラス層と前記ガラス基板との間に相溶層を有する、回路パターンを有するガラス基板。
【請求項7】
前記低融点ガラスの50〜350℃における平均線膨張係数が、60×10−7〜100×10−7/℃である請求項5または6に記載の回路パターンを有するガラス基板。
【請求項8】
前記相溶層は、前記ガラス基板上に前記低融点ガラスを付着した後、この低融点ガラスの軟化点よりも50℃低い温度から150℃高い温度の範囲の温度で焼結して得られる請求項5〜7のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板。
【請求項9】
前記相溶層の厚さが、前記レーザ光の照射によって前記ガラス基板に形成されたレーザ照射欠陥の厚さの0.7〜20倍である請求項5〜8のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板。
【請求項10】
前記薄膜層が、金属酸化物および/または金属を含有する請求項5〜9のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板。
【請求項11】
前記薄膜層が、酸化錫を80質量%以上含有する請求項5〜10のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板。
【請求項12】
前記回路パターンが付いた一方主面側から入射し、他方主面側へ透過する可視光透過率が60%以上である請求項5〜11のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板。
【請求項13】
請求項5〜12のいずれかに記載の回路パターンを有するガラス基板を用いてなるプラズマディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−173366(P2007−173366A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366410(P2005−366410)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】