説明

回転塗布装置および記録媒体

【課題】 均一な膜厚の塗膜を各基材に対して連続かつ安定して形成し得る回転塗布装置を提供する。
【解決手段】 回転塗布によって回転中心の近傍または外周寄りの所定位置に塗液が滴下された基材を回転させることにより塗液を基材に塗布可能に構成された回転部と、回転部の回転数を回転開始時から所定回転数まで漸増制御する制御部とを備えた回転塗布装置であって、制御部は、回転開始時を起点とする時間軸上において予め設定された複数の基準時間毎における回転数が所定の固定回転数に達するように回転部を制御し、かつ入力した補正用データに基づいて基準時間を伸縮制御する(ステップ34,36,38)。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光記録媒体などの基材に塗膜を形成する回転塗布装置、およびその回転塗布装置に対して各種処理を実行させるための塗膜形成用プログラムを記録した記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】回転塗布(スピンコート法)によって基材に均一な膜厚の塗膜を形成する技術は、各種分野で非常に重要である。例えば、光記録媒体や半導体ウェハなどでは、均一な膜厚の塗膜を形成することが、その性能を確保する前提となる。この種の基材に塗膜を形成する装置として、実開平5−85035号公報に開示された半導体ウェハ塗布装置が従来から知られている。
【0003】この従来の塗布装置では、制御部が予め設定された基準回転数で半導体ウェハを回転させることにより、その半導体ウェハ上に塗膜を形成させる。次いで、既に塗膜が形成された半導体ウェハの膜厚を測定し、その膜厚測定値と塗膜形成時の塗布回転速度のデータとを次回の塗膜形成処理を行うための制御用データとして制御部にフィードバックする。この後、制御部は、フィードバックされた膜厚測定値と基準膜厚との差異量を算出し、基礎データを参照して基準膜厚となる塗布回転速度を決定し、その決定した塗布回転速度を維持するように回転塗布部の回転を制御する。これにより、この塗布装置によれば、膜厚測定値をフィードバックしない方式と比較して、所定膜厚の塗膜が形成された半導体ウェハを連続かつ安定して製造することが可能となっている。
【0004】ところが、塗布回転速度を単一回転速度に維持して塗膜を形成する場合、以下の問題点があることを発明者は見出している。すなわち、例えば中心孔が形成されている基材に対してスピンコート法によって有機色素などを塗布する塗布工程では、基材の中心より若干外側の部分に色素溶液を滴下しつつ基材を回転させると、色素溶液が遠心力によって基材の内周部分から外周部分に亘って拡散する。これと同時に、色素溶解用の溶剤が基材の内周部分から外周部分に亘って徐々に蒸発する。このため、この溶剤の蒸発に伴って、色素溶液中の有機色素が、基材の内周部分から外周部分に向かって徐々に定着する。したがって、基材の全域に亘って有機色素を均一の膜厚に塗布するためには、溶剤の蒸発が進行している部分に応じて回転数を適切に制御する必要がある。これに対して、従来の塗布装置では、予め設定された単一の回転数で基材(半導体ウェハ)の回転を維持するという単純な回転制御のため、たとえ、膜厚測定値に基づいて決定した塗布回転速度を次回の塗膜成処理時にフィードバックしたとしても、基材の外周部分の膜厚が内周部分の膜厚と比較して厚くなる事に変わりはなく、基材の内周部分から外周部分に亘る全域において有機色素を均一の膜厚に塗布するのは非常に困難である。
【0005】このため、出願人は、有機色素を均一の膜厚に塗布することができるスピンコート法を特許第2850121号公報に開示している。このスピンコート法では、まず、基材としての光記録媒体を回転始動し、150〜600rpm にて例えばほぼ等速の回転数で回転させ、この回転数が安定する以前に塗布液を滴下する。次いで、回転数を初期回転数の2〜10倍程度まで1〜30秒程度の時間で徐々に増加させた後、一気に500〜5000rpm 程度まで急増する。このスピンコート法によれば、溶剤の蒸発が進行している部分に応じて回転数を制御できる結果、従来の半導体ウェハの塗布装置と比較して、光記録媒体の半径方向に対する膜厚分布を適切に制御することができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところが、出願の開示したスピンコート法による光記録媒体の製造方法にも、以下の改善すべき点がある。すなわち、このスピンコート法では、光記録媒体の回転数を2段階で制御しているため、膜厚分布に関しては、現在の規格を十分に満足している。その一方、近年、光記録媒体の高記録密度化が急ピッチで進行しているため、将来的には光記録媒体の半径方向に対する膜厚分布のさらなる均一化が必要とされると予測される。また、有機色素を光記録媒体に塗布する場合、室温や湿度などの環境条件の変動に応じて溶剤の蒸発速度が微妙に変化し、その変化の度合いに応じて膜厚分布の均一化も低下する。この場合、環境条件をまったく変動させることなく一定に維持するのは技術的にも極めて困難であり、しかも、そのために投資する設備費は膨大となる。その結果、光記録媒体のコストアップを招くことになる。このため、この種の製造業界においては、環境条件が若干変動したとしても、均一な膜厚の塗膜を各基材に対して連続かつ安定して形成することができる回転塗布装置の登場が待ち望まれている。
【0007】本発明は、かかる要請に鑑みてなされたものであり、均一な膜厚の塗膜を各基材に対して連続かつ安定して形成し得る回転塗布装置、および回転塗布装置に対して均一な膜厚の塗膜が形成された基材を連続かつ安定して製造させ得る塗膜形成用プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することを主目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成すべく本発明に係る回転塗布装置は、回転塗布によって回転中心の近傍または外周寄りの所定位置に塗液が滴下された基材を回転させることにより当該塗液を当該基材に塗布可能に構成された回転部と、当該回転部の回転数を回転開始時から所定回転数まで漸増制御する制御部とを備えた回転塗布装置であって、前記制御部は、前記回転開始時を起点とする時間軸上において予め設定された複数の基準時間毎における前記回転数が所定の固定回転数に達するように前記回転部を制御し、かつ入力した補正用データに基づいて前記基準時間を伸縮制御することを特徴とする。
【0009】この場合、前記制御部は、前記塗液が塗布された基材の所定部位における塗膜の膜厚に応じて特定されるパラメータ値を示すパラメータデータを前記補正用データとして入力し、当該入力したパラメータ値と基準パラメータ値との差異量に基づいて、その所定部位に予め対応させられた前記基準時間を伸縮制御することが好ましい。
【0010】また、前記制御部は、前記塗液が塗布された基材の所定部位における塗膜の膜厚に応じて特定されるパラメータ値と基準パラメータ値との差異量を示す差異量データを前記補正用データとして入力し、当該入力した差異量に基づいて、その所定部位に予め対応させられた前記基準時間を伸縮制御することが好ましい。
【0011】さらに、前記制御部は、予め規定された単位塗布時間当りの前記パラメータ値の変化量で前記差異量を除算した除算値に所定の乗率を乗算して求めた補正量に従って前記基準時間を伸縮制御することが、好ましい。この場合、前記差異量が、予め決定した第1の差異量を超えるときには、前記所定の乗率として値1を乗算し、前記差異量が、前記第1の差異量以下のときには、前記所定の乗率として値1未満の値を乗算することが、より好ましいフィードバック制御となる。また、前記差異量が、前記第1の差異量よりも大きい値に予め規定された第2の差異量を超えるときには、前記伸縮制御を行わずに直前の前記基準時間を維持する。これにより、不要なフィードバック処理が避けられるため、さらに好ましいフィードバック制御となる。
【0012】また、前記基材が円盤状の光透過性基板で構成され、前記塗液として有機色素を用い、かつ、前記パラメータ値として前記塗膜の透過率を用いて、前記基準パラメータ値として基準透過率を用いることにより、例えば、面内の全域に亘って極めて均一な膜厚の光吸収層が形成された光記録媒体を製造することができる。
【0013】加えて、本発明に係る記録媒体は、回転部の回転開始時を起点とする時間軸上において予め設定された複数の基準時間毎における回転数が所定の固定回転数に達するように当該回転部を制御する制御処理と、塗液が塗布された基材の所定部位における塗膜の膜厚に応じて特定されるパラメータ値を示す補正用データを入力する入力処理と、前記入力したパラメータ値と基準パラメータ値との差異量に基づいて当該所定部位に予め対応させられた前記基準時間を補正する補正処理とをコンピュータに実行可能な塗膜形成用プログラムが記録されていることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、添付図面を参照して、本発明に係る回転塗布装置を光記録媒体の製造装置に適用した実施の形態について説明する。
【0015】最初に、光記録媒体の製造装置1の構成について、図1を参照して説明する。
【0016】製造装置1は、回転塗布装置2、および膜厚測定装置に相当する透過率測定装置3を備えている。この場合、回転塗布装置2は、色素溶液を滴下する滴下ノズル11と、例えばCD−Rなどの基材4を保持する基材チャック12と、基材チャック12を回転させるための回転軸13と、本発明における回転部に相当し回転軸13が軸着されたスピンドルモータ14と、スピンドルモータ14の回転数を制御する制御部15とを備えて構成されている。また、制御部15は、例えば、マイクロコンピュータと、記録媒体からプログラムを読み取り可能なドライブ装置と、ドライブ装置によって読み込まれたプログラムを記憶するメモリとを少なくとも備えて構成されている(いずれも図示せず)。この場合、ドライブ装置としては、FD(フロッピィーディスク)からプログラムを読み取り可能なFDドライブ、CD−RやCD−ROM等からプログラムを読み取り可能なCD−ROMドライブ、およびその他の記録媒体からプログラムを読み取り可能なドライブ装置のいずれか任意のタイプの装置を用いることができる。一方、透過率測定装置3は、レーザ光を照射する発光素子21と、基材4を透過したレーザ光を受光する受光素子22と、受光素子22によって受光された光量に基づき基材4に形成された光吸収層の透過率を膜厚に代用して測定する透過率測定部23と、透過率測定部23によって測定された透過率などを表示する表示部24とを備えて構成されている。
【0017】次に、この製造装置1によって行われる色素塗布方法について説明する。
【0018】最初に、色素塗布方法の原理について説明する。この回転塗布装置2では、スピンドルモータ14の回転開始時を起点とする時間軸上において、予め設定された複数の基準時間T1〜TN(Nは自然数)毎における各回転数が予め固定的に設定された回転数と等しくなるようにスピンドルモータ14を制御する。具体的には、一例として、図2に示すように、スピンドルモータ14の回転開始時の時間を0sec とした場合、回転開始時から基準時間T1(約1sec )経過後の回転数が400rpm に規定され、同様にして、基準時間T2(約3sec )、基準時間T3(約6sec )、基準時間T4(約8sec )および基準時間T5(約9sec )経過後の回転数が、それぞれ、500rpm 、1500rpm 、2000rpm および4000rpm に規定されている。
【0019】また、有機色素を溶剤に溶解させた色素溶液を回転開始時から基準時間T1を経過するまでの間に図4に示す基材4の内周部分4a(基材4の中心を基準としてR20mmおよびR25mmの同心円で囲われたリング状部分)の最内周部分に滴下した場合、発明者の実験によれば、図2に示すように、基準時間T1から基準時間T2までの塗布時間Taaでは、主としてその内周部分4aにおいて溶剤の蒸発が進行し、基準時間T3から基準時間T4までの塗布時間Tbaでは、主として基材4の中周部分4b(基材4の中心を基準としてR30mmおよびR40mmの同心円で囲われたリング状部分)において溶剤の蒸発が進行し、基準時間T4から基準時間T5までの塗布時間Tcaでは、主として基材4の外周部分4c(基材4の中心を基準としてR40mmおよびR56mmの同心円で囲われたリング状部分)において溶剤の蒸発が進行することが確認されている。
【0020】このため、基材4の内周部分4a、中周部分4bおよび外周部分4c毎に、各塗布時間Taa〜Tcaの各単位時間当りの膜厚の変化量を予めそれぞれ測定する。この場合、膜厚の直接的な変化量の測定に代えて、等価的に膜厚の変化量にほぼ比例する透過率の変化量(本発明におけるパラメータ値の変化量に相当する)を測定する。また、基材4の内周部分4a、中周部分4bおよび外周部分4cにそれぞれ対応する透過率の各変化量をΔSa(%/sec )、ΔSb(%/sec)およびΔSc(%/sec )とし(以下、区別しないときには、「変化量ΔS」という)、有機色素を塗布後の基材4における透過率の目標値(本発明における基準パラメータ値に相当する)をCmid (%)とし、有機色素を実際に塗布した基材4の透過率をCr(%)とした場合、透過率の目標値Cmid と製造した基材4の透過率Crとの差異量である透過率差(%)を変化量ΔSで除算したオフセット時間TFa(sec )は、下記の■式で表され、各周部分4a〜4cにそれぞれ予め対応させた各塗布時間Taa〜Tcaの時間と、目標透過率の有機色素を基材4に塗布するのに必要な時間との差異量を意味する。したがって、予め設定された各塗布時間Taa〜Tcaに対してオフセット時間TFa分をそれぞれ伸縮制御することにより、目標とする膜厚の有機色素を各周部分4a〜4cに塗布することが可能となる。
TFa=((Cmid −Cr)/ΔS)・・・・■式
【0021】この場合、直前に設定されている各塗布時間Taa〜Tcaにオフセット時間TFaをそのままフィードバックしたときには、フィードバック制御量が過多となり、制御量がオーバーシュートする現象が生じるおそれがある。このため、オフセット時間TFaに所定の乗率Kを乗算したオフセット時間TFb(下記の■式で表される)をフィードバック制御することにより、適正なフィードバック量に規定することができる。なお、乗率Kは、例えば、図3に示すように、透過率差が透過率の目標値Cmid (例えば60%)に対して±1%の範囲である目標上限値から目標下限値までの範囲内のときには、有機色素の膜厚が適正のため、値0とする。つまり、フィードバック制御を行わない。一方、透過率差が透過率の目標値Cmid に対して−1%〜−2%の範囲である目標下限値から規格下限値までの範囲内、および目標値Cmid に対して1%〜2%の範囲である目標上限値から規格上限値までの範囲内のときには、目標とする膜厚に対して僅かなズレが生じているため、値0.5とする。この場合、塗布した基材4の透過率Crは、目標値Cmid に徐々に近づくことになる。なお、規格上下限値が本発明における第1の差異量に相当する。
TFb=((Cmid −Cr)/ΔS)×K・・■式
【0022】さらに、透過率差が透過率の目標値Cmid に対して−2%〜−5%の範囲である規格下限値から不良品下限値までの範囲内、および目標値Cmid に対して2%〜5%の範囲である規格上限値から不良品上限値までの範囲内のときには、目標とする膜厚に対してさらなるズレが生じているため、値1とする。この場合、塗布した基材4の透過率Crは、目標値Cmid に一気に近づくことになる。また、透過率差が不良品上下限値の範囲を外れているときには、フィードバック制御を行わずに現状の塗布時間Taa〜Tcaを維持する。これは、温度や湿度などの塗布環境がほぼ一定に維持され、かつ適正なフィードバック制御が行われている動作環境下において不良品上下限値を外れる場合には、何らかの異常が発生したと考えられるからである。このため、透過率差が不良品上下限値を外れる事態が連続または頻繁に発生したときには、速やかに回転塗布装置2を停止させて、その異常となる要因を排除する。なお、不良品上下限値が本発明における第2の差異量に相当する。
【0023】したがって、各塗布時間Taa〜Tcaに対してフィードバック制御した後の塗布時間Tab〜Tcbは、下記の■式〜■式で表される。これらの各式によれば、各塗布時間Tab〜Tcbは、有機色素の膜厚が目標値Cmid よりも薄めに塗布されているときには、長目の時間に制御される。したがって、スピンドルモータ14が低速で長時間回転することになるため、その分、遠心力が弱まる結果、有機色素の膜厚が厚くなる。逆に、有機色素の膜厚が目標値Cmid よりも厚めのときには、短めの時間に制御される。したがって、スピンドルモータ14が高速で回転することになるため、その分、遠心力が強まる結果、有機色素の膜厚が薄くなる。
Tab=Taa+TFb・・・・・・・・・・■式Tbb=Tba+TFb・・・・・・・・・・■式Tcb=Tca+TFb・・・・・・・・・・■式
【0024】次に、製造装置1によるスピンコート制御処理について、図5を参照して説明する。
【0025】最初に、FDまたはCD−R等の記録媒体に記録させた色素塗布用プログラム(塗膜形成用プログラム)を予め制御部15にインストールする。この場合、記録媒体には、スピンドルモータ14の回転開始時を起点とする時間軸上において予め設定された上記の基準時間T1〜T5毎における回転数が上記回転数に達するようにスピンドルモータ14を制御する制御処理と、有機色素が塗布された基材4の各周部分4a〜4cにおける透過率についてのフィードバックデータDf(パラメータデータ)を補正用データとして入力する入力処理と、フィードバックデータDfと透過率の目標値Cmid との透過率差に基づいて各周部分4a〜4cに予め対応させられた塗布時間Taa〜Tcaを塗布時間Tab〜Tcbに補正する補正処理とを制御部15に実行させる色素塗布用プログラムが記録されている。
【0026】次いで、制御部15は、透過率測定部23から出力されるフィードバックデータDfを入力したか否かを判別する(ステップ31)。入力されていないと判別したときには、直前に行ったスピンコート処理と同様にして、次の基材4に対してスピンコート処理を実行する(ステップ32)。この際には、制御部15は、回転制御信号Scrを出力して、図2に示す時間0sec の時点で回転を開始させ、基準時間T1の時点で回転数を400rpm まで上昇させると共に、基準時間T1までの間に滴下ノズル11から色素溶液を滴下させる。この場合、滴下ノズル11は、基材4の回転中心から半径方向に対して外周寄りの所定位置に色素溶液を滴下する。また、色素溶液としては、例えばアルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系、芳香族系、フッ素系およびハロゲン化アルキル系などの溶剤に有機色素を溶解させたものが用いられる。また、有機色素としては、シアニン系色素、フタロシアニン系色素およびアゾ系色素などが用いられる。
【0027】次いで、制御部15は、各基準時間T2〜T5を経過した各時点において、上記した固定回転数に達するようにスピンドルモータ14の回転数を制御する。続いて、基準時間T5から基準時間T6(約13sec )までの間において、スピンドルモータ14の回転数を4000rpm に維持することによって不要な色素溶液を飛散させ、基準時間T6を経過した時点で、スピンドルモータ14を停止させる。
【0028】一方、1枚の基材4に有機色素を塗布している間に、透過率測定装置3では、有機色素が既に塗布された基材4の各周部分4a〜4cに対応する各透過率を測定する。この際には、透過率測定部23が開始信号Ssを発光素子21に出力することにより、発光素子21がレーザ光を発射させる。同時に、受光素子22が、基材4を介して入射したレーザ光を受光し、その受光信号Srを透過率測定部23に出力する。次いで、透過率測定部23が、受光信号Srに基づいて各周部分4a〜4cにそれぞれ対応する各透過率Crを測定し、その各透過率Crを示すフィードバックデータDfを回転塗布装置2の制御部15に出力すると共に各透過率Crを表示部24に表示させる。したがって、オペレータが回転塗布装置2の制御部15に対してキー操作で各透過率Crを入力することもできる。
【0029】引き続き、回転塗布装置2の制御部15は、フィードバックデータDfの入力の有無を判別し(ステップ31)、入力有りと判別したときには、内周部分4aに対応するフィードバックデータDfが存在するか否かを判別する(ステップ33)。内周用のフィードバックデータDfが存在すると判別したときには、制御部15は、上記■式および■式に基づいて内周用の塗布時間Taaを塗布時間Tabに補正する(ステップ34)。したがって、この補正により、基準時間T1と、基準時間T1におけるスピンドルモータ14の回転数とを変えずに、基準時間T2(つまり、基準時間T1から基準時間T2までの時間)が、透過率差に応じて伸縮補正される。
【0030】同様にして、制御部15は、中周用フィードバックデータDfが存在するか否かを判別し(ステップ35)、存在すると判別したときには、上記■式および■式に基づいて中周用の塗布時間Tbaを塗布時間Tbbに補正する(ステップ36)。この補正により、基準時間T3と、基準時間T3におけるスピンドルモータ14の回転数とを変えずに、基準時間T4(つまり、基準時間T3から基準時間T4までの時間)が、透過率差に応じて伸縮補正される。次いで、制御部15は、外周用フィードバックデータDfが存在するか否かを判別し(ステップ37)、存在すると判別したときには、上記■式および■式に基づいて外周用の塗布時間Tcaを塗布時間Tcbに補正する(ステップ38)。この補正により、基準時間T4と、基準時間T4におけるスピンドルモータ14の回転数とを変えずに、基準時間T5(つまり、基準時間T4から基準時間T5までの時間)が、透過率差に応じて伸縮補正される。なお、ステップ34,36において基準時間T2,T4を伸縮補正した場合には、基準時間T4の絶対的な時間が変更されているのは勿論である。
【0031】次いで、制御部15は、ステップ32と同じようにして、次の基材4に対してスピンコート処理を実行する(ステップ39)。この後、制御部15は、上記のステップ31〜39を繰り返し実行する。この結果、基材4の面内において極めて均一な膜厚の有機色素の塗膜(光吸収層)が形成された基材4が連続かつ安定して製造される。
【0032】なお、本発明は、上記した発明の実施の形態に限らず、適宜変更が可能である。例えば、製造装置1では、制御部15が基材4の透過率Crに対応するフィードバックデータDfを透過率測定部23から入力しているが、各周部分4a〜4cの透過率Crと目標値Cmid (基準パラメータ値)との透過率差(差異量)を示すフィードバックデータDfを入力し、その透過率差に基づいて、各基準時間T2,T4,T5を伸縮制御してもよい。さらに、透過率測定部23が各塗布時間Tab〜Tcb自体を演算して、その各塗布時間Tab〜Tcbに対応する補正用データを制御部15に出力する構成を採用してもよい。また、本発明の実施の形態では、内周部分4a、中周部分4bおよび外周部分4cの3つの部分に区別して光吸収層の膜厚をフィードバック制御する例を挙げて説明したが、基材4の半径方向に対してさらに細かい部分(リング状部分)に区別し、かつその各部分にそれぞれ対応する基準時間を細分化して、各基準時間をきめ細やかに伸縮制御することもできる。
【0033】さらに、乗率Kについても限定されず、任意の値に変更が可能である。加えて、スピンドルモータ14の回転数や、基準時間T1〜T6の時間長についても一例であり、色素溶液の種類などに応じて適宜変更が可能である。また、本明細書では、スピンドルモータ14の回転数を固定回転数に維持して基準時間の長さを伸縮制御する発明として捉えたが、基準時間を固定時間に維持して、各基準時間におけるスピンドルモータ14の回転数を変更する制御方式としても把握することができる。ただし、この方式を採用した場合には、最高回転数(本発明の実施の形態で示した基準時間T5における回転数)が一定にならないため、より均一な膜厚で有機色素を塗布するためには、本発明の実施の形態で示した制御方式が優れているのは勿論である。また、有機色素の塗膜を有するCD−R等のディスクを製造する上で必要な他の工程については、特に限定されず、公知の製造方法を適宜採用することができる。加えて、本発明における基材は、光記録媒体に限らず、有色または無色の色素が塗布される半導体ウェハなどの各種基材が含まれる概念であることは上記した通りである。すなわち、本発明の実施の形態では、透過率を膜厚に代用した例について説明したが、他の手段によって膜厚の測定を行うことで、スピンコート法によって形成される有機色素以外の塗膜を塗布する回転塗布装置に本発明を適用することができる。
【0034】
【発明の効果】以上のように、本発明に係る回転塗布装置によれば、制御部が、予め設定された複数の基準時間毎における回転数が所定の固定回転数に達するように回転部を制御し、かつ入力した補正用データに基づいて基準時間を伸縮制御することにより、極めて均一な膜厚の塗膜を基材に形成することができると共に、均一な膜厚の塗膜が形成された基材を連続かつ安定して製造することができる。
【0035】また、制御部が、パラメータ値と基準パラメータ値との差異量に基づいて、その所定部位に予め対応させられた基準時間を伸縮制御することにより、フィードバック系を含めて塗布装置の完全自動化システムを構築することができる。
【0036】さらに、制御部が、単位塗布時間当りのパラメータ値の変化量で差異量を除算した除算値に所定の乗率を乗算して求めた補正量に従って基準時間を伸縮制御することにより、差異量の大きさに応じてフィードバック制御量の適正化を図ることができる。
【0037】また、差異量が、予め決定した第1の差異量を超えるときに所定の乗率として値1を乗算することにより、速やかに目標とする膜厚に制御することができる。一方、差異量が第1の差異量以下のときには、所定の乗率として値1未満の値を乗算することにより、塗膜の膜厚が目標とする膜厚に徐々に近づくため、フィードバック制御量の過多に起因するオーバーシュート制御を回避することができる。
【0038】また、差異量が、第1の差異量よりも大きい値に予め規定された第2の差異量を超えるときに直前の基準時間を維持することにより、異常要因に起因する誤ったフィードバック制御を回避することができる。
【0039】加えて、基材として円盤状の光透過性基板を用い、塗液として有機色素を用い、かつ、パラメータ値として塗膜の透過率を用いて、基準パラメータ値として基準透過率を用いることにより、例えば、面内の全域に亘って極めて均一な膜厚の光吸収層が形成された光記録媒体を製造することができる。
【0040】また、本発明に係る記録媒体によれば、回転塗布装置に対して、基材の全域に亘って極めて均一な膜厚の塗膜を形成させることができる。また、回転塗布装置に対して均一な膜厚の塗膜が形成された基材を連続かつ安定して製造させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】製造装置1の構成図である。
【図2】回転塗布装置2の制御部15による回転制御方法を説明するための塗布時間に対する回転数を示す特性図である。
【図3】制御部15によるスピンコート制御処理の際に用いられる乗率Kの値を示す説明図である。
【図4】基材4の各部を示す上面図である。
【図5】制御部15によるスピンコート制御処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 製造装置
2 回転塗布装置
3 透過率測定装置
4 基材
4a 内周部分
4b 中周部分
4c 外周部分
14 スピンドルモータ
15 制御部
Df フィードバックデータ
T1〜T5 基準時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】 回転塗布によって回転中心の近傍または外周寄りの所定位置に塗液が滴下された基材を回転させることにより当該塗液を当該基材に塗布可能に構成された回転部と、当該回転部の回転数を回転開始時から所定回転数まで漸増制御する制御部とを備えた回転塗布装置であって、前記制御部は、前記回転開始時を起点とする時間軸上において予め設定された複数の基準時間毎における前記回転数が所定の固定回転数に達するように前記回転部を制御し、かつ入力した補正用データに基づいて前記基準時間を伸縮制御することを特徴とする回転塗布装置。
【請求項2】 前記制御部は、前記塗液が塗布された基材の所定部位における塗膜の膜厚に応じて特定されるパラメータ値を示すパラメータデータを前記補正用データとして入力し、当該入力したパラメータ値と基準パラメータ値との差異量に基づいて、その所定部位に予め対応させられた前記基準時間を伸縮制御することを特徴とする請求項1記載の回転塗布装置。
【請求項3】 前記制御部は、前記塗液が塗布された基材の所定部位における塗膜の膜厚に応じて特定されるパラメータ値と基準パラメータ値との差異量を示す差異量データを前記補正用データとして入力し、当該入力した差異量に基づいて、その所定部位に予め対応させられた前記基準時間を伸縮制御することを特徴とする請求項1記載の回転塗布装置。
【請求項4】 前記制御部は、予め規定された単位塗布時間当りの前記パラメータ値の変化量で前記差異量を除算した除算値に所定の乗率を乗算して求めた補正量に従って前記基準時間を伸縮制御することを特徴とする請求項2または3記載の回転塗布装置。
【請求項5】 前記制御部は、前記差異量が予め決定した第1の差異量を超えるときには、前記所定の乗率として値1を乗算し、前記差異量が前記第1の差異量以下のときには、前記所定の乗率として値1未満の値を乗算することを特徴とする請求項4記載の回転塗布装置。
【請求項6】 前記制御部は、前記差異量が前記第1の差異量よりも大きい値に予め規定された第2の差異量を超えるときには、前記伸縮制御を行わずに直前の前記基準時間を維持することを特徴とする請求項5記載の回転塗布装置。
【請求項7】 前記基材は、円盤状の光透過性基板で構成され、前記塗液は、有機色素が用いられ、前記パラメータ値は、前記塗膜の透過率であって、前記基準パラメータ値は、基準透過率であることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の回転塗布装置。
【請求項8】 回転部の回転開始時を起点とする時間軸上において予め設定された複数の基準時間毎における回転数が所定の固定回転数に達するように当該回転部を制御する制御処理と、塗液が塗布された基材の所定部位における塗膜の膜厚に応じて特定されるパラメータ値を示す補正用データを入力する入力処理と、前記入力したパラメータ値と基準パラメータ値との差異量に基づいて当該所定部位に予め対応させられた前記基準時間を補正する補正処理とをコンピュータに実行させることを特徴とする塗膜形成用プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2002−45769(P2002−45769A)
【公開日】平成14年2月12日(2002.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−236460(P2000−236460)
【出願日】平成12年8月4日(2000.8.4)
【出願人】(000003067)ティーディーケイ株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】