説明

回転式ポンプ装置およびそれを備えた車両用ブレーキ装置

【課題】ポンプ本体に対して適切な押し付け力が発生させられる回転式ポンプ装置およびそれを備えた車両用ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】回転式ポンプ19、39を収容する第1ケースの挿入方向の前後両端面に回転式ポンプ19、39の吐出口81、83が繋がるようにし、高圧な吐出圧が印加されるようにする。これにより、第1ケースの両端面という広い面積の領域に高圧が印加されることになり、バネを備えていなくても、もしくは、弱い弾性力のバネしか備えられていなくても、第1ケースに所望の押し付け力を付与した状態で第1ケースを所定位置に保持することが可能となる。そして、バネによる押し付け力を用いていないため、ポンプ本体100に対して適切な押し付け力を発生させられる回転式ポンプ装置とすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロコイドポンプ等の内接型ギアポンプにて構成される回転式ポンプ装置およびそれを備えた車両用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、2系統分の回転式ポンプが収容されたポンプ本体の軸方向の動きを規制するため、および、回転式ポンプが発生させる高圧な吐出圧による内部圧力によってケースが破損することを防止するために、バネで軸方向の力を発生させている。つまり、バネによる弾性力によってポンプ本体を軸方向に押し付ける力を発生させることで、ポンプ本体の軸方向の動きを規制することおよびケースの破損を防止することを可能としている。
【0003】
また、特許文献2では、回転式ポンプの吐出側に繋がる高圧油路を形成すると共に、ポンプ本体とポンプ本体が挿入されるハウジングの凹部の底面との間、つまりポンプ本体の挿入方向前方のうち吸入側の背室を囲む背室に高圧が印加されるようにしている。これにより、ポンプ本体を挿入方向後方に付勢する力が加えられるため、ポンプ本体の軸方向前方への動きを規制することおよびケースの破損を防止することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−125929号公報
【特許文献2】特開2002−87236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、バネを用いてポンプ本体を押し付ける力を得る場合、ポンプ本体の内部圧力に関係なく力が加えられることになるため、ポンプ本体およびハウジングの剛性としてそれに耐えられる剛性が必要となる。また、剛性を得るために、ポンプ本体を構成するための部品構成の制約や、バネ押し付け力を調整しながら組付けなければならないなどの組付け上の制約も発生する。また、バネ力とポンプ本体の内部に発生させられる圧力とに基づいてポンプ本体を軸方向に押し付ける力が決まる。このため、2系統のうちの片系統のみでホイールシリンダ(以下、W/Cという)の加圧がなされて他系統ではW/Cの加圧がなされない場合には、片系統のみしか高圧にならないため、ポンプ本体を押し付ける力が小さいが、逆に、2系統共にW/Cの加圧がなされる場合には、ポンプ本体を押し付ける力が大きくなるため、ポンプ本体やハウジングの剛性をこれに十分耐え得るものとせねばならない。
【0006】
一方、特許文献2に示されるようにポンプ本体の挿入方向前方の端面に高圧が導入されるようにした構造の場合、吸入側の背室を囲む背室のみに高圧が導入されるだけであるため、ポンプ本体の挿入方向前方の端面に高圧が掛かる面積が狭く、ポンプ本体を押し付ける力が不足することがある。また、この押し付け力の不足によって、ポンプ本体の挿入方向前方の端面側とポンプ本体の内部圧力との間で差圧が生じて、ポンプ本体のケースの変形や同ケースを構成する部材間の隙間の増大などが発生し、これによりポンプ効率の低下などの問題が引き起こされることも懸念される。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、ポンプ本体に対して適切な押し付け力が発生させられる回転式ポンプ装置およびそれを備えた車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、第1吐出口(81)が、ハウジング(101)に形成された凹部(101a)において、ポンプ本体(100)の凹部への挿入方向前方の端面である第1ケースの前方端面と同前方端面に対向する凹部の底面との間の領域に開口することで、同領域に第1回転式ポンプ(19)の吐出圧を導入し、第2吐出口(83)が、凹部において、第1ケースの第2ケースと対向する後方端面と第2ケースとの間の領域に開口することで、同領域に第2回転式ポンプ(39)の吐出圧を導入するように構成されていることを特徴としている。
【0009】
このように、第1、第2回転式ポンプを収容する第1ケースの挿入方向の前後両端面に第1、第2回転式ポンプの高圧な吐出圧が印加されるようにしている。このため、第1ケースの両端面という広い面積の領域に高圧が印加されることになり、バネを備えていなくても、もしくは、弱い弾性力のバネしか備えられていなくても、第1ケースに所望の押し付け力をバランスよく付与した状態で第1ケースを所定位置に保持することが可能となる。そして、バネによる押し付け力を用いない、あるいは、弱くすることができるため、ポンプ本体に対して適切な押し付け力を発生させられる回転式ポンプ装置とすることが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、第1、第2回転式ポンプ(19、39)が収容される第1ロータ室(100a)および第2ロータ室(100b)が備えられる第1ケース(71a〜71c、73a、73b)に対して、第1吐出口が第1ケースのうちポンプ本体(100)のハウジング(101)の凹部(101a)への挿入方向前方の端面である前方端面に至ることで、前方端面に第1回転式ポンプの吐出圧を導入し、第2吐出口が第1ケースのうち第2ケースと対向する後方端面に至ることで、後方端面に第2回転式ポンプの吐出圧を導入するように構成することを特徴としている。
【0011】
このような構成とすることで、請求項1に記載の効果が得られると共に、第1ケースの前後各端面に作用させる第1、第2回転式ポンプの吐出圧を導入するための構造が簡素なものとなる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、第1ケースは、前方端面に印加される液圧と後方端面に印加される液圧に基づいて、挿入方向前後方向に移動可能に構成されていることを特徴としている。
【0013】
このように、第1ケースが挿入方向前後方向に移動可能となっている。このため、第1、第2回転式ポンプの一方のみで加圧を行うような場合に、加圧する側の系統の回転式ポンプの吐出圧に応じて、第1ケースがハウジングの凹部の底面もしくは第2ケースの端面に接する位置まで移動させられる。したがって、加圧する側の回転式ポンプで発生させられている高圧と対応した圧力で第1ケースの前方端面もしくは後方端面を押え付けることができ、ポンプ本体に対して適切な押し付け力が発生させられる回転式ポンプ装置とすることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明では、第1回転式ポンプの吐出タイミングと第2回転式ポンプの吐出タイミングの位相が180°ずらされていることを特徴としている。
【0015】
このように、第1回転式ポンプの吐出タイミングと第2回転式ポンプの吐出タイミングの位相が180°ずらされるようにすることで、ポンプ本体内でのブレーキ液の圧力脈動を第1回転式ポンプと第2回転式ポンプとの間において相殺することが可能となり、より脈動低減を図ることが可能となる。具体的には、第1回転式ポンプの空隙部(19c)が第1吐出口に繋がるタイミングと、第2回転式ポンプの空隙部(39c)が第2吐出口に繋がるタイミングとが同時ではなく、180°位相がずらされるようにすれば良い。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の回転式ポンプ装置を備えた車両用ブレーキ装置に関するものであって、回転式ポンプ装置に備えられた第1回転式ポンプと第2回転式ポンプのいずれか一方が第1差圧制御弁(16)と第1、第2増圧制御弁(17、18)の間において第1配管系統(50a)の主管路(A)にブレーキ液を吐出すると共に他方が第2差圧制御弁(36)と第3、第4増圧制御弁(37、38)の間において第2配管系統(50b)の主管路(E)にブレーキ液を吐出するように構成され、第1、第2回転式ポンプを駆動するとき、後輪系統となる第2配管系統の第2差圧制御弁を遮断状態にすると共に第3、第4増圧制御弁を遮断状態にすることで、第1ケースの前方端面とハウジング(101)の凹部(101a)の底面との間の空間、もしくは、第1ケースの後方端面と第2ケースとの間の空間のうち第1配管系統の主管路に接続される側の空間を縮小させる方向に第1ケースを移動させ、この空間が縮小されることによってブレーキ液を第1配管系統の主管路に導出させることを特徴としている。
【0017】
このように、第1ケースを挿入方向前後方向の一方に移動させておいた状態で、第1、第2配管系統の消費液量の差に基づいて第1ケースを他方に移動させるようにすれば、そのときの移動によって押し出されるブレーキ液を用いて一方の系統の昇圧応答性を向上させることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明では、第1、第2回転式ポンプを駆動する前の状態において、第1ケースの前方端面とハウジングの凹部の底面との間の空間、もしくは、第1ケースの後方端面と第2ケースとの間の空間のうち第2配管系統の主管路に接続される側の空間を縮小させる方向に第1ケースを移動させるリターンスプリング(200)が備えられていることを特徴としている。
【0019】
このように、リターンスプリングを備えるようにすれば、イニシャルチェック時などに第1、第2回転式ポンプや各種制御弁を駆動させなくても、第1ケースが挿入方向の一方に移動するようにできる。さらに、前輪系統の昇圧応答性を向上させるために用いることができるブレーキ液量をより多くできるため、昇圧応答性をさらに向上させることが可能となる。
【0020】
請求項7に記載の発明では、第1ケースは、駆動軸が挿入される第1中心孔(72a)が形成された第1シリンダ(71a)と、第1シリンダと隣接して配置され、第1回転式ポンプを収容する第1中央プレート(73a)と、第1中央プレートと隣接して配置され、駆動軸が挿入される第2中心孔(72b)が形成された第2シリンダ(71b)と、第2シリンダと隣接して配置され、第2回転式ポンプを収容する第2中央プレート(73b)と、第2中央プレートと隣接して配置され、駆動軸が挿入される第3中心孔(72c)が形成された第3シリンダ(71c)とを有し、第2シリンダがハウジングの凹部内において固定されていることを特徴としている。
【0021】
このように、第2シリンダがハウジングに固定される構造においても、バネを備えていなくても、もしくは、弱い弾性力のバネしか備えられていなくても、第1ケースの前後両端面にバランスよく所望の押し付け力を付与した状態とすることが可能となる。また、第2シリンダがハウジングの凹部内において固定されることで、第1ケースの前方端面には第1回転式ポンプ側の液圧系統にて必要とされる液圧を作用させ、後方端面には第2回転式ポンプ側の液圧系統にて必要とされる液圧を作用させる、といったように前後各端面に対して独立した(例えば必要最小限の)液圧を作用させることができるようになる。これによれば、例えば、ハウジング等に求められる剛性を小さくすることや、耐久性の向上を図ることができる。
【0022】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる回転式ポンプ装置を適用した車両用ブレーキ装置のブレーキ配管概略図である。
【図2】回転式ポンプ19、39を含むポンプ本体100およびモータ60を備えた回転式ポンプ装置の断面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】回転式ポンプ装置に作用する圧力の関係を表した模式図である。
【図5】本発明の第3実施形態で説明するW/C圧の変化の様子を示したグラフである。
【図6】本発明の第1実施形態にかかる車両用ブレーキ装置に備えられる回転式ポンプ装置のポンプ本体100の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0025】
(第1実施形態)
以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。図1に、本発明の一実施形態にかかる回転式ポンプ装置を適用した車両用ブレーキ装置のブレーキ配管概略図を示す。以下、車両用ブレーキ装置の基本構成を、図1に基づいて説明する。ここでは前輪駆動の4輪車において、前後配管の油圧回路を構成する車両に本発明による車両用ブレーキ装置を適用した例について説明するが、右前輪−左後輪、左前輪−右後輪の各配管系統を備えるX配管などにも適用可能である。
【0026】
図1において、ドライバがブレーキ操作部材としてのブレーキペダル11を踏み込むと、倍力装置12にて踏力が倍力され、マスタシリンダ(以下、M/Cという)13に配設されたマスタピストン13a、13bを押圧する。これにより、これらマスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとに同圧のM/C圧が発生する。M/C圧は、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50を通じて各ホイールシリンダ(以下、W/Cという)14、15、34、35に伝えられる。このM/C13には、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通する通路を有するマスタリザーバ13eが備えられている。
【0027】
ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを有している。第1配管系統50aは、左前輪FLと右前輪FRに加えられるブレーキ液圧を制御し、第2配管系統50bは、右後輪RRと左後輪RLに加えられるブレーキ液圧を制御する。
【0028】
第1配管系統50aと第2配管系統50bとは、同様の構成であるため、以下では第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては説明を省略する。
【0029】
第1配管系統50aは、上述したM/C圧を左前輪FLに備えられたW/C14および右前輪FRに備えられたW/C15に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備える。
【0030】
また、管路Aは、連通状態と差圧状態に制御できる第1差圧制御弁16を備えている。この第1差圧制御弁16は、ドライバがブレーキペダル11の操作を行う通常ブレーキ時(車両運動制御が実行されていない時)には連通状態となるように弁位置が調整されており、第1差圧制御弁16に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
【0031】
この第1差圧制御弁16が差圧状態のときには、W/C14、15側のブレーキ液圧がM/C圧よりも所定以上高くなった際にのみ、W/C14、15側からM/C13側へのみブレーキ液の流動が許容される。このため、常時W/C14、15側がM/C13側よりも所定圧力以上高くならないように維持される。
【0032】
そして、管路Aは、この第1差圧制御弁16よりも下流になるW/C14、15側において、2つの管路A1、A2に分岐する。管路A1にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁17が備えられ、管路A2にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2増圧制御弁18が備えられている。
【0033】
第1、第2増圧制御弁17、18は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。具体的には、第1、第2増圧制御弁17、18は、第1、第2増圧制御弁17、18に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
【0034】
管路Aにおける第1、第2増圧制御弁17、18および各W/C14、15の間と調圧リザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第1減圧制御弁21と第2減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。そして、これら第1、第2減圧制御弁21、22はノーマルクローズ型となっている。
【0035】
調圧リザーバ20と主管路である管路Aとの間には還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ60によって駆動される自吸式のポンプ19が設けられている。モータ60は図示しないモータリレーに対する通電が制御されることで駆動される。
【0036】
そして、調圧リザーバ20とM/C13の間には補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じ、ポンプ19にてM/C13からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、車両運動制御時において、W/C14、15側にブレーキ液を供給し、対象となる車輪のW/C圧を加圧する。なお、ここでは第1配管系統50aについて説明したが、第2配管系統50bも同様の構成であり、第1配管系統50aに備えられた各構成と同様の構成を第2配管系統50bも備えている。具体的には、第1差圧制御弁16と対応する第2差圧制御弁36、第1、第2増圧制御弁17、18と対応する第3、第4増圧制御弁37、38、第1、第2減圧制御弁21、22と対応する第3、第4減圧制御弁41、42、ポンプ19と対応するポンプ39、リザーバ20と対応するリザーバ40、管路A〜Dと対応する管路E〜Hがある。
【0037】
また、ブレーキECU70は、ブレーキ制御システム1の制御系を司る本発明の車両運動制御装置に相当するもので、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行し、横滑り防止制御等の車両運動制御を実行する。すなわち、ブレーキECU70は、図示しないセンサ類の検出に基づいて各種物理量を演算し、その演算結果に基づいて車両運動制御を実行すか否かを判定し、実行する際には、制御対象輪に対する制御量、すなわち制御対象輪のW/Cに発生させるW/C圧を求める。その結果に基づいて、ブレーキECU70が各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42への電流供給制御およびポンプ19、39を駆動するためのモータ60の電流量制御を実行することで、制御対象輪のW/C圧が制御され、車両運動制御が行われる。
【0038】
例えば、トラクション制御や横滑り防止制御のようにM/C13に圧力が発生させられていないときには、ポンプ19、39を駆動すると共に、第1、第2差圧制御弁16、36を差圧状態にすることで、管路D、Hを通じてブレーキ液を第1、第2差圧制御弁16、36の下流側、つまりW/C14、15、34、35側に供給する。そして、第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38や第1〜第4減圧制御弁21、22、41、42を適宜制御することで制御対象輪のW/C圧の増減圧を制御し、W/C圧が所望の制御量となるように制御する。
【0039】
また、アンチスキッド(ABS)制御時には、第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38や第1〜第4減圧制御弁21、22、41、42を適宜制御すると共に、ポンプ19、39を駆動することでW/C圧の増減圧を制御し、W/C圧が所望の制御量となるように制御する。
【0040】
次に、上記のように構成される車両用ブレーキ装置における回転式ポンプ装置の構成、つまり回転式ポンプ19、39およびモータ60の詳細構造について説明する。図2は、回転式ポンプ19、39を含むポンプ本体100およびモータ60を備えた回転式ポンプ装置の断面図である。この図は、ポンプ本体100をブレーキ液圧制御用アクチュエータ50のハウジング101に組付けたときの様子を示しており、例えば、紙面上下方向が車両天地方向となるように組付けられる。
【0041】
上述したように、車両用ブレーキ装置は、第1配管系統と第2配管系統の2系統から構成されている。このため、ポンプ本体100には図1および図2に示された第1配管系統用の回転式ポンプ19と、図2に示された第2配管系統用の回転式ポンプ39の2つが備えられている。
【0042】
ポンプ本体100に内蔵される回転式ポンプ19、39は、モータ60が第1ベアリング51および第2ベアリング52で支持された駆動軸54を回転させることによって駆動される。ポンプ本体100の外形を構成するケーシングは、第1、第2、第3、第4シリンダ(サイドプレート)71a、71b、71c、71dおよび円筒状の第1、第2中央プレート73a、73bによって構成されており、第1ベアリング51は第1シリンダ71aに配置され、第2ベアリング52は第4シリンダ71dに配置されている。
【0043】
第1シリンダ71a、第1中央プレート73a、第2シリンダ71b、第2中央プレート73b、第3シリンダ71cが順に重ねられ、重なり合う部分の外周が溶接されることで接合されている。そして、これら溶接されてユニット化された部分を第1ケースとして、第2ケースに相当する第4シリンダ71dが第1ケースに対して同軸的に配置されることで、ポンプ本体100のケースが構成されている。なお、第3シリンダ71cと第4シリンダ71dのうち互いに向かい合う端面には凹部74a、74bが備えられており、これらの中に配置されたピン74cにて、第1ケースと第2ケースにおける駆動軸54の回転方向での位置合わせがなされている。
【0044】
このようにして一体構造のポンプ本体100が構成されている。そして、一体構造とされたポンプ本体100が、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50のハウジング101に形成された略円筒形状の凹部101a内に紙面右方向から挿入されている(以下、このポンプ本体100のハウジング101の凹部101aへの挿入方向のことを単に挿入方向という)。
【0045】
そして、凹部101aの入口に掘られた雌ネジ溝101bにリング状の雄ネジ部材(スクリュー)102がネジ締めされて、ポンプ本体100がハウジング101に固定されている。この雄ネジ部材102のネジ締めによってポンプ本体100がハウジング101から抜けない構造とされている。
【0046】
また、挿入方向の先端位置のうち駆動軸54の先端と対応する位置において、ハウジング101の凹部101aに円形状の第2の凹部101cが形成されている。この第2の凹部101cの径は、第1シリンダ71aから突出している第1ベアリング51の外径と同等、かつ、第1シリンダ71aの外径より小さくされている。このため、第1ベアリング51のうち第1シリンダ71aの挿入方向前方側の端面(前方端面)から突出する部分が第2の凹部101c内に入り込み、凹部101aの底面うち第2の凹部101c以外の部分が第1シリンダ71aの端面と対向する構造となる。
【0047】
また、第1〜第4シリンダ71a〜71dには、それぞれ第1、第2、第3、第4中心孔72a、72b、72c、72dが備えられている。これら第1〜第4中心孔72a〜72d内に駆動軸54が挿入され、第1シリンダ71aに形成された第1中心孔72aの内周に固定された第1ベアリング51と第4シリンダ71dに形成された第4中心孔72dの内周に固定された第2ベアリング52にて支持されている。第1、第2ベアリング51、52にはどのような構造のベアリングを適用しても良いが、本実施形態では、ボールベアリングを用いている。
【0048】
具体的には、第1ベアリング51は、内輪51aと外輪51bおよび転動体51cを備えた構成とされ、駆動軸54が内輪51aの穴内に嵌め込まれることで駆動軸54を軸支している。第1ベアリング51は、第1シリンダ71aの中心孔72aが挿入方向前方において第1ベアリング51の外径と対応する寸法に拡径されていることから、この拡径された部分において第1シリンダ71aに固定されている。そして、内輪51aと比較して外輪51bの軸方向長が長くされることで、外輪51bが第1シリンダ71aの端面より突き出す構造とされ、この部分が第2の凹部101c内に嵌め込まれている。なお、外輪51bの周囲を囲むように、第2の凹部101cの内壁にはOリング101dが備えられている。
【0049】
また、第2ベアリング52は、内輪52a、外輪52bおよび転動体52cを備えた構成とされ、外輪52bが第4シリンダ71dの中心孔72d内に圧入されることによって固定されている。この第2ベアリング52の内輪52aの穴内に駆動軸54が嵌め込まれることで、駆動軸54が軸支されている。ただし、駆動軸54が第2ベアリング52の内輪52a内において軸方向に移動可能なように、遊嵌合とされている。また、第2ベアリング52には、シールプレート52dも備えられている。第2ベアリング52は挿入方向後方に位置しているため、シールプレート52dを備えることにより、ポンプ本体100内のブレーキ液が第2ベアリング52を通じて外部に洩れることを防止している。
【0050】
そして、第1、第2ベアリング51、52に挟まれた領域に、回転式ポンプ19、39が備えられている。図3に図2のA−A断面図を示し、回転式ポンプ19、39の詳細構造について説明する。
【0051】
回転式ポンプ19は、円筒状の第1中央プレート73aの両側を第1シリンダ71aおよび第2シリンダ71bで挟み込んで形成されたロータ室(第1ロータ室)100a内に配置されており、ロータ室100a内に挿通された駆動軸54によって駆動される内接型ギアポンプ(トロコイドポンプ)で構成されている。
【0052】
具体的には、回転式ポンプ19は、内周に内歯部が形成されたアウターロータ19aと外周に外歯部が形成されたインナーロータ19bとからなる回転部を備えており、インナーロータ19bの中心にある孔内に駆動軸54が挿入された構成となっている。そして、駆動軸54に形成された穴54a内にキー54bが嵌入されており、このキー54bによってインナーロータ19bへのトルク伝達がなされる。
【0053】
アウターロータ19aとインナーロータ19bは、それぞれに形成された内歯部と外歯部とが噛み合わさって複数の空隙部19cを形成している。そして、駆動軸54の回転によって空隙部19cが大小変化することで、ブレーキ液の吸入吐出が行われる。
【0054】
一方、回転式ポンプ39は、円筒状の第2中央プレート73bの両側を第2シリンダ71bおよび第3シリンダ71cで挟み込んで形成されたロータ室(第2ロータ室)100b内に配置されており、ロータ室100b内に挿通される駆動軸54にて駆動される。回転式ポンプ39も、回転式ポンプ19と同様にアウターロータ39aおよびインナーロータ39bを備え、これらの両歯部が噛み合わさって形成される複数の空隙部39aにてブレーキ液の吸入吐出を行う内接型ギアポンプで構成されている。この回転式ポンプ39は、駆動軸54を中心として回転式ポンプ19をほぼ180°回転させた配置となっている。このように配置することで、回転式ポンプ19、39のそれぞれの吸入側の空隙部19cと吐出側の空隙部19cとが駆動軸54を中心として対称位置となるようにし、吐出側における高圧なブレーキ液圧が駆動軸54に与える力を相殺できるようにしている。
【0055】
ただし、ここでは回転式ポンプ19と回転式ポンプ39との吸入と吐出の位置関係を正確に反対にした訳ではなく、回転式ポンプ19の吐出タイミングと回転式ポンプ39の吐出タイミングとの位相が180°ずれるようにしてある。すなわち、回転式ポンプ19の回転に伴って空隙部19cが後述する吐出口81に繋がるタイミングと、回転式ポンプ39の回転に伴って空隙部39cが後述する吐出口83に繋がるタイミングとが同時ではなく、180°位相がずらされている。このようにすることで、ポンプ本体100内でのブレーキ液の圧力脈動を回転式ポンプ19と回転式ポンプ39との間において相殺することが可能となり、より脈動低減を図ることが可能となる。
【0056】
第2シリンダ71bには、回転式ポンプ19の吸入側の空隙部19cと連通する吸入口80が形成されている。この吸入口80は、第2シリンダ71bのうち回転式ポンプ19側の端面から外周面に至るように延設されている。そして、ハウジング101に対して凹部101aの内周面に沿って周方向を全周を囲むように形成された環状溝90aを介して、この環状溝90aの一部に繋がるように形成された吸入用管路90bに接続されている。このため、回転式ポンプ19は、ポンプ本体100の外周側から吸入用管路90bや環状溝90aおよび吸入口80を通じてブレーキ液が導入される構造となる。
【0057】
また、第1シリンダ71aには、回転式ポンプ19の吐出側の空隙部19cと連通する吐出口81が備えられている。吐出口81は、第1シリンダ71aの回転式ポンプ19側の端面から反対側の端面まで貫通するように形成されている。この吐出口81は、ハウジング101に対して凹部101aの底面に至るように形成された吐出用管路91に接続されている。このため、回転式ポンプ19は、吐出口81および吐出用管路91を通じてポンプ本体100における凹部101aの底部側からブレーキ液を排出する構造となる。より詳しくは、吐出口81は以下のように構成されている。
【0058】
吐出口81には、第1シリンダ71aの回転式ポンプ19側の端面から反対側の端面まで貫通させられた部分に加えて、第1シリンダ71aのうち回転式ポンプ19の回転部側の端面において、駆動軸54を囲むように形成された環状溝110にて構成される通路も含まれる。
【0059】
具体的には、環状溝110内には、アウターロータ19aおよびインナーロータ19bを挟み込むように配置されたリング状のシール部材111が備えられている。シール部材111は、回転部側に配置された樹脂部材111aと、樹脂部材111aを回転部側に押圧するゴム部材111bとから構成されている。このシール部材111の内周側には、吸入側の空隙部19cおよび吸入側の空隙部19cに対向するアウターロータ19aの外周と第1中央プレート73aとの隙間が含まれ、シール部材111の外周側には、吐出側の空隙部19cおよび吐出側の空隙部19cに対向するアウターロータ19aの外周と第1中央プレート73aとの隙間が含まれるようにされている。すなわち、シール部材111によって、シール部材111の内外周の比較的低圧な部位と比較的高圧な部位とのシールが行われている。
【0060】
また、シール部材111は、環状溝110の内周と接し、外周とは一部しか接しないように構成されており、環状溝110のうちシール部材111よりも外周側の一部接しない部分は隙間となっている。つまり、環状溝110には、外周全周がシール部材111と接しないように構成された領域があり、この領域をブレーキ液が流動できるようになっている。このように構成された環状溝110の隙間を含めて吐出口81が構成されている。
【0061】
さらに、第1シリンダ71aにおける挿入方向前方側の端面には、吐出口81と吐出用管路91とを連通させるための連通路81aが形成されている。この連通路81aは、第1ベアリング51の周囲を全周囲むようにザグリ形状の環状溝にて構成される。この連通路81aにより、吐出用管路91の形成位置がずれたとしても、吐出口81と吐出用管路91とを確実に連通させることができる。つまり、第1シリンダ71aの端面が凹部101aの底面に接すると、これらの間の隙間が無くなって吐出口81と吐出用管路91とが連通しなくなる可能性があるが、連通路81aを形成しておくことで、確実に吐出口81と吐出用管路91とが連通させられる。
【0062】
第2シリンダ71bにおける吸入口80が形成された端面と反対側の端面には、回転式ポンプ39における吸入側の空隙部39cと連通する吸入口82が備えられている。吸入口82は、第2シリンダ71bのうち回転式ポンプ39側の端面から外周面に至るように形成されている。そして、ハウジング101に対して凹部101aの内周面に沿って周方向を全周囲むように形成された環状溝92aを介して、この環状溝92aの一部に繋がるように形成された吸入用管路92bに接続されている。このため、回転式ポンプ39は、ポンプ本体100の外周側から吸入用管路92bや環状溝92aおよび吸入口82を通じてブレーキ液が導入される構造となる。
【0063】
また、第3シリンダ71cには、回転式ポンプ39の吐出側の空隙部39cと連通する吐出口83が備えられている。吐出口83は、第3シリンダ71cのうちの回転式ポンプ39側の端面から反対側の端面(後方端面)まで貫通するように形成されている。この吐出口83は、第3シリンダ71cと第4シリンダ71dの間の隙間94を通じて、ハウジング101に対して凹部101aの内周面に至るように形成された吐出用管路93に接続されている。このため、回転式ポンプ39は、吐出口83、隙間94および吐出用管路93を通じてポンプ本体100の外周面側からブレーキ液を排出する構造となる。より詳しくは、吐出口83は以下のように構成されている。
【0064】
吐出口83には、第3シリンダ71cの回転式ポンプ39側の端面から反対側の端面まで貫通させられた部分に加えて、第3シリンダ71cのうち回転式ポンプ39の回転部側の端面において、駆動軸54を囲むように形成された環状溝112にて構成される通路も含まれる。
【0065】
具体的には、環状溝112内には、アウターロータ39aおよびインナーロータ39bを挟み込むように配置されたリング状のシール部材113が備えられている。このシール部材113は、回転部側に配置された樹脂部材113aと、樹脂部材113aを回転部側に押圧するゴム部材113bとから構成されている。このシール部材113の内周側には、吸入側の空隙部39cおよび吸入側の空隙部39cに対向するアウターロータ39aの外周と第2中央プレート73bとの隙間が含まれ、シール部材113の外周側には、吐出側の空隙部39cおよび吐出側の空隙部39cに対向するアウターロータ39aの外周と第2中央プレート73bとの隙間が含まれるようにされている。すなわち、シール部材113によって、シール部材113の内外周の比較的低圧な部位と比較的高圧な部位とがシールされるように構成されている。
【0066】
また、シール部材113は、環状溝112の内周と接し、外周とは一部しか接しないように構成されており、環状溝112のうちシール部材113よりも外周側の一部接しない部分は隙間となっている。つまり、環状溝112には、外周全周がシール部材113と接しないように構成された領域があり、この領域をブレーキ液が流動できるようになっている。このように構成された環状溝112の隙間を含めて吐出口83が構成されている。
【0067】
なお、図2において、吸入用管路90bおよび吐出用管路91が図1における管路Cに相当し、吸入用管路92bおよび吐出用管路93が図1における管路Gに相当する。
【0068】
また、第2シリンダ71bの第2中心孔72bは部分的に駆動軸54より径大とされており、この径大とされた部位に回転式ポンプ19と回転式ポンプ39とを遮断するシール部材120が収容されている。このシール部材120は、リング状のOリング120aを、径方向を深さ方向とする溝部が形成されたリング状の樹脂部材120bに嵌め込んだものであり、Oリング120aの弾性力によって樹脂部材120bが押圧されて駆動軸54と接するようになっている。
【0069】
同様に、第3シリンダ71cの第3中心孔72cも部分的に駆動軸54より径大とされており、この径大とされた部位に回転式ポンプ39とハウジング101の外部とを遮断するシール部材121が収容されている。このシール部材121は、ゴムなどの弾性部材からなるリング状の弾性リング121aを、径方向を深さ方向とする溝部が形成されたリング状の樹脂部材121bに嵌め込んだものであり、弾性リング121aの弾性力によって樹脂部材121bが押圧されて駆動軸54と接するようになっている。さらに、このシール部材121よりもモータ60側には、オイルシール(シール部材)122が備えられている。このような構成により、基本的には、シール部材121によって中心孔72cを通じた外部へのブレーキ液洩れを防止しているが、オイルシール122により、より確実にその効果が得られるようにしている。
【0070】
また、第3シリンダ71cのうち第4シリンダ71d側では、外径が凹部101aの内径より縮径されており、この部分が第4シリンダ71dの中心孔72d内に嵌め込まれている。第3シリンダ71cの外周のうち第4シリンダ71dの中心孔72d内に嵌め込まれる部分には溝部74dが形成され、この溝部74d内にOリング74eが嵌め込まれている。このOリング74eにより、第3シリンダ71cと第4シリンダ71dとの間からを通じて第2ベアリング52側にブレーキ液が洩れることを防止している。
【0071】
なお、本実施形態では、第3シリンダ71cにおける縮径された部分全体が第4シリンダ71dの中心孔72d内に嵌め込まれることで、第3シリンダ71cの端面が第4シリンダ71dの端面に接するようにしている。このため、第3シリンダ71cと第4シリンダ71dのいずれかの端面に吐出口83と連通する環状溝95を形成しており、第3シリンダ71cと第4シリンダ71dとの両端面が接した時にも、これらの間に隙間94が残るようにすることで、駆動軸54の周方向を囲む第3シリンダ71cの端面のほぼ全面に回転式ポンプ39の吐出圧が加えられるようにしている。
【0072】
ただし、このような構造は必須のものではなく、例えば第3シリンダ71cのうち第4シリンダ71dの中心孔72d内に嵌め込まれる部分が、第3シリンダ71cにおける縮径された部分よりも短くされていても良い。この場合、後述するように第1ケースが紙面右側に移動したときに、第3シリンダ71cのうち第4シリンダ71dの中心孔72d内に嵌まり込んだ部分が第4シリンダ72dと接することによって、第1ケースの移動が規制されることになる。
【0073】
このような構造により、第3シリンダ71cと第4シリンダ71dのうち互いに対向配置されている面の間に形成された隙間94を通じて回転式ポンプ39の吐出口83から排出されるブレーキ液が吐出用管路93側に導かれるようになっている。
【0074】
また、第1〜第4シリンダ71a〜71dのそれぞれの外周面にはOリング75a、75b、75c、75dが配置されている。これらOリング75a〜75dは、ハウジング101に形成された吸入用管路90b、92bや吐出用管路91、93におけるブレーキ液をシールするものであり、Oリング75aは吸入用管路90bと吐出用管路91の間、Oリング75bは吸入用管路90bと吸入用管路92bの間、Oリング75cは吸入用管路92bと吐出用管路93の間、Oリング75dは吐出用管路93とハウジング101の外部の間に配置されている。ただし、Oリング75a〜75cとハウジング101に形成された凹部101aとの密着力は、第1〜第3シリンダ71dおよび第1、第2中央プレート73a、73bによって構成される第1ケースが駆動軸54と共に紙面左右方向に移動できる程度とされている。なお、図2中には示されていないが、駆動軸54とモータ60の回転軸とは例えば半円状のカップリング構造にて連結されるが、そのカップリング構造が駆動軸54の紙面左右方向の移動を許可できるように隙間が設けられた構造とされれている。
【0075】
そして、第4シリンダ71dの凹み部分の入口側の先端の外周面は縮径されており、段付き部を構成している。上記したリング状の雄ネジ部材102はこの縮径された部分に嵌装され、ポンプ本体100が固定されるようになっている。また、第4シリンダ71dにおける外周面のうち最も挿入方向後方は徐々に拡径されるテーパ面とされており、雄ネジ部材102にて第4シリンダ71dが締め付けられることで、第4シリンダ71dのテーパ面がハウジング101の凹部101aに形成されたテーパ面に押し付けられる。これにより、駆動軸54が回転させられても、それに伴って第4シリンダ71dが回転してしまわないようにされている。
【0076】
以上のような構造によってポンプ本体100が構成されている。このように構成されたポンプ本体100では、内蔵された回転式ポンプ19、39が駆動軸54がモータ60の回転軸によって回転させられることにより、ブレーキ液の吸入・吐出というポンプ動作を行う。これにより、車両用ブレーキ装置による車両運動制御が為される。
【0077】
例えば、ブレーキECU70は、横転抑制制御やトラクション制御もしくはABS制御などの車両運動制御を実行する際に、モータ60を駆動することによって回転式ポンプ19、39を駆動する。これにより、ポンプ本体100内では、回転式ポンプ19、39が吸入用管路90a、92aを通じてブレーキ液を吸入して吐出用管路91、93を通じてブレーキ液を吐出するという基本的なポンプ動作が行われ、リザーバ20、40内のブレーキ液を吸入吐出して、管路A、Eに供給する。
【0078】
このため、横転抑制制御やトラクション制御等のように、M/C13内にM/C圧が発生させられていないときには、管路D、Hを通じて回転式ポンプ19、39によってブレーキ液が吸入され、管路A、Eに供給されることでW/C14、15、34、35が加圧される。また、ABS制御のように、ロック傾向に至るような過剰なW/C圧が発生しているときには、管路B、Fを通じてリザーバ20、40に逃がされたブレーキ液を回転式ポンプ19、39にて吸入することで、リザーバ20、40内がブレーキ液で満たされないようにし、適正スリップ率となるようにW/C圧を増減圧させる。このようにして、車両用ブレーキ装置および回転式ポンプ19、39が作動する。
【0079】
このように構成された本実施形態の回転式ポンプ19、39を含むポンプ本体100が備えられる車両用ブレーキ装置では、吐出口81を第1ケースの挿入方向前方の端面に至るように形成していると共に、吐出口83を第1ケースの挿入方向後方の端面に至るように形成している。このため、回転式ポンプ19の作動時には吐出口81を通じて第1ケースにおける挿入方向前方の端面に高圧が印加されるようにでき、回転式ポンプ39の作動時には吐出口83を通じて第1ケースにおける挿入方向後方の端面に高圧が印加されるようにできる。
【0080】
したがって、回転式ポンプ装置に作用する圧力は、第1、第2配管系統50a、50bのいずれに高圧を発生させるかに応じて、次の(1)〜(3)に示されるような形態となる。図4に、回転式ポンプ装置に作用する圧力の関係を表した模式図を示し、この図を参照して説明する。
【0081】
(1)まず、第1、第2配管系統50a、50bの両方のW/C14、15、34、35を加圧させるときには、回転式ポンプ19、39の吐出口81、83に繋がる吐出用管路91、93が高圧となるため、第1ケースの両端面という広い面積の領域に高圧が印加されることになる。このため、図4(a)中の矢印で示したように、第1ケースは両端から印加される高圧により、第1ケースを挟み込むような押さえ付け力が作用し、バネを備えていなくても、もしくは、弱い弾性力のバネしか備えられていなくても、第1ケースを所定位置に保持することが可能となる。
【0082】
また、第1ケースの両端に印加される高圧は、第1ケース内に収容された回転式ポンプ19、39で発生させられている高圧(具体的には、回転式ポンプ19、39のうち高圧な方の圧力)と対応しているため、第1ケースの内外において圧力バランスを保つことができる。したがって、第1ケースを押し付ける力が不足したり、逆に過大な力になったりすることがなく、ポンプ本体100に対して適切な押し付け力が発生させられる回転式ポンプ装置とすることができる。
【0083】
(2)第1配管系統50aと対応するW/C14、15のみを加圧させ、第2配管系統50bと対応するW/C34、35を加圧させないときには、回転式ポンプ19の吐出口81に繋がる吐出用管路91は高圧になるが、回転式ポンプ39の吐出口83に繋がる吐出用管路93は高圧にならない。この場合には、第1ケースにおける挿入方向前方の端面に印加されるブレーキ液圧が挿入方向後方の端面に印加されるブレーキ液圧よりも高圧となる。このため、第1ケースが駆動軸54と共に紙面右側に移動して第4シリンダ71dの端面に接触させられる。そして、図4(a)中の矢印で示したように、第1ケースにおける挿入方向前方の端面に印加されるブレーキ液圧を押し付け力として、第1ケースが紙面右側に押し付けられる。
【0084】
このとき第1ケースを紙面右側に押し付けるブレーキ液圧は、第1ケース内に収容された回転式ポンプ19で発生させられている高圧と対応している。このため、第1ケースの内外において圧力バランスを保つこともできるし、回転式ポンプ19で発生させられている高圧と対応した圧力で第1ケースが押え付けられているだけであるため、過大な力で押し付けられることもない。
【0085】
(3)第2配管系統50bと対応するW/C34、35のみを加圧させ、第1配管系統50aと対応するW/C14、15を加圧させないときには、回転式ポンプ39の吐出口83に繋がる吐出用管路93は高圧になるが、回転式ポンプ19の吐出口81に繋がる吐出用管路91は高圧にならない。この場合には、第1ケースにおける挿入方向後方の端面に印加されるブレーキ液圧が挿入方向前方の端面に印加されるブレーキ液圧よりも高圧となる。このため、第1ケースが駆動軸54と共に紙面左側に移動して凹部101aの底面に接触させられる。そして、図4(c)中の矢印で示したように、第1ケースにおける挿入方向後方の端面に印加されるブレーキ液圧を押し付け力として、第1ケースが紙面左側に押し付けられる。
【0086】
このとき第1ケースを紙面左側に押し付けるブレーキ液圧は、第1ケース内に収容された回転式ポンプ39で発生させられている高圧と対応している。このため、第1ケースの内外において圧力バランスを保つこともできるし、回転式ポンプ39で発生させられている高圧と対応した圧力で第1ケースが押え付けられているだけであるため、過大な力で押し付けられることもない。
【0087】
以上説明したように、本実施形態の回転式ポンプ装置では、回転式ポンプ19、39を収容する第1ケースの挿入方向の前後両端面に回転式ポンプ19、39の吐出口81、83が繋がるようにし、高圧な吐出圧が印加されるようにしている。このため、第1ケースの両端面という広い面積の領域に高圧が印加されることになり、バネを備えていなくても、もしくは、弱い弾性力のバネしか備えられていなくても、第1ケースに所望の押し付け力を付与した状態で第1ケースを所定位置に保持することが可能となる。そして、バネによる押し付け力を用いていないため、ポンプ本体100に対して適切な押し付け力を発生させられる回転式ポンプ装置とすることが可能となる。したがって、回転式ポンプ装置の軸方向における小型化を図ることもできるし、ポンプ本体100やハウジング101の剛性を確保するための大型化、重量化を抑制することもできる。
【0088】
また、回転式ポンプ19、39を収容する第1ケースが挿入方向前後方向に移動可能となっている。このため、第1、第2配管系統50a、50bの一方のみのW/C圧の加圧が行われるような場合には、加圧する側の配管系統の回転式ポンプ19、39の吐出圧に応じて、第1ケースが凹部101aの底面もしくは第4シリンダ71dの端面に接する位置まで移動させられる。したがって、加圧する側の配管系統の回転式ポンプ19、39で発生させられている高圧(具体的には、回転式ポンプ19、39のうち高圧な方の圧力)と対応した圧力で第1ケースを押え付けることができ、第1、第2配管系統50a、50bの一方のみのW/C圧を加圧する場合にも、ポンプ本体100に対して適切な押し付け力が発生させられる回転式ポンプ装置とすることができる。
【0089】
また、本実施形態では、回転式ポンプ19の吐出タイミングと回転式ポンプ39の吐出タイミングとの位相が180°ずれるようにしてある。すなわち、回転式ポンプ19の回転に伴って空隙部19cが吐出口81に繋がるタイミングと、回転式ポンプ39の回転に伴って空隙部39cが後述する吐出口83に繋がるタイミングとが同時ではなく、180°位相がずらされている。このため、ポンプ本体100内でのブレーキ液の圧力脈動を回転式ポンプ19と回転式ポンプ39との間において相殺することが可能となり、より脈動低減を図ることが可能となる。
【0090】
さらに、本実施形態のように、第1ケースが挿入方向前後方向に移動する形態とされる場合には、第1、第2配管系統50a、50bの一方のみのW/C圧の加圧が行われるような場合であっても、第1ケースが移動して凹部101aの底面もしくは第4シリンダ71dのいずれかに接した状態となる。このため、第1、第2配管系統50a、50bの両方のW/C圧を加圧する場合と同様、第1ケースの両端面に高圧を印加するのと同じように力が作用する。したがって、第1〜第3シリンダ71a〜71cや第1、第2中央プレート73a、73bが溶接によって一体化されていなかったとしても、これらの間からブレーキ液が洩れないようにできる。
【0091】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態の回転式ポンプ装置を用いた車両用ブレーキ装置は、第1実施形態に対して回転式ポンプ装置の構成の一部を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。ただし、回転式ポンプ装置の見た目の構造は、図2と同じであるため、図2を参照して説明する。
【0092】
本実施形態の車両用ブレーキ装置に備えられる回転式ポンプ装置は、基本的には図2に示す構造であるが、第1実施形態と異なり、第2シリンダ71bの外周面をハウジング101の凹部101aの内周面に圧入や接着等によって固定している点が異なる。回転式ポンプ装置のその他の部分に関しては、第1実施形態と同様の構成となっている。
【0093】
このように構成される回転式ポンプ装置は、基本的には第1実施形態と同様の動作を行うが、第2シリンダ71bがハウジング101に固定されていることから、第1ケースが挿入方向前後方向に移動しない。このため、回転式ポンプ装置に作用する圧力は、次のようになる。
【0094】
(1)まず、第1、第2配管系統50a、50bの両方のW/C14、15、34、35を加圧させるときには、回転式ポンプ19、39の吐出口81、83に繋がる吐出用管路91、93が高圧となるため、第1ケースの両端面という広い面積の領域に高圧が印加されることになる。このとき、第2シリンダ71bがハウジング101に固定されているため、第1ケースの両端から印加される高圧は、第2シリンダ71bとハウジング101との固定箇所によって受け止められる。
【0095】
そして、第1ケースにおける挿入方向前方の端面に印加される高圧と回転式ポンプ19で発生させられている高圧とが対応しているため、第1ケースの挿入方向前方の端面において第1ケース内外での圧力バランスが保たれる。また、第1ケースにおける挿入方向後方の端面に印加される高圧は、回転式ポンプ39で発生させられている高圧と対応しているため、第1ケースの挿入方向後方の端面でも第1ケース内外での圧力バランスが保たれる。したがって、第1ケースを押し付ける力が不足したり、逆に過大な力になったりすることがなく、ポンプ本体100に対して適切な押し付け力が発生させられる回転式ポンプ装置とすることができる。
【0096】
(2)第1配管系統50aと対応するW/C14、15のみを加圧させ、第2配管系統50bと対応するW/C34、35を加圧させないときには、回転式ポンプ19の吐出口81に繋がる吐出用管路91は高圧になるが、回転式ポンプ39の吐出口83に繋がる吐出用管路93は高圧にならない。この場合にも、第2シリンダ71bがハウジング101に固定されているため、低圧となる第3シリンダ71cと第4シリンダ71dとの間の隙間94を押し縮めることなく、第1ケースの挿入方向前方の端面に印加される高圧が第2シリンダ71bとハウジング101との固定箇所によって受け止められる。
【0097】
そして、第1ケースにおける挿入方向前方の端面に印加される高圧と回転式ポンプ19で発生させられている高圧とが対応しているため、第1ケースの挿入方向前方の端面において第1ケース内外での圧力バランスが保たれる。また、第1ケースにおける挿入方向後方の端面に印加される低圧は、回転式ポンプ39内の低圧と対応しているため、第1ケースの挿入方向後方の端面でも第1ケース内外での圧力バランスが保たれる。したがって、第1ケースを押し付ける力が不足したり、逆に過大な力になったりすることがなく、ポンプ本体100に対して適切な押し付け力が発生させられる回転式ポンプ装置とすることができる。
【0098】
(3)第2配管系統50bと対応するW/C34、35のみを加圧させ、第1配管系統50aと対応するW/C14、15を加圧させないときには、回転式ポンプ39の吐出口83に繋がる吐出用管路93は高圧になるが、回転式ポンプ19の吐出口81に繋がる吐出用管路91は高圧にならない。この場合にも、第2シリンダ71bがハウジング101に固定されているため、低圧となる第1シリンダ71aと凹部101aの底面との間隔が押し縮められることなく、第1ケースの挿入方向後方の端面に印加される高圧が第2シリンダ71bとハウジング101との固定箇所によって受け止められる。
【0099】
そして、第1ケースにおける挿入方向後方の端面に印加される高圧と回転式ポンプ39で発生させられている高圧とが対応しているため、第1ケースの挿入方向後方の端面において第1ケース内外での圧力バランスが保たれる。また、第1ケースにおける挿入方向前方の端面に印加される低圧は、回転式ポンプ19内の低圧と対応しているため、第1ケースの挿入方向前方の端面でも第1ケース内外での圧力バランスが保たれる。したがって、第1ケースを押し付ける力が不足したり、逆に過大な力になったりすることがなく、ポンプ本体100に対して適切な押し付け力が発生させられる回転式ポンプ装置とすることができる。
【0100】
このように、第2シリンダ71bがハウジング101に固定される構造においても、バネを備えていなくても、もしくは、弱い弾性力のバネしか備えられていなくても、第1ケースに所望の押し付け力を付与した状態で所定位置に保持することが可能となる。そして、バネによる押し付け力を用いていないため、ポンプ本体100に対して適切な押し付け力を発生させられる回転式ポンプ装置とすることが可能となる。
【0101】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態で示した車両用ブレーキ装置に対してブレーキ液圧制御用アクチュエータ50での制御弁を使用することでW/C圧の加圧応答性の向上を図るものである。なお、回転式ポンプ装置が備えられた車両用ブレーキ装置の基本的な構成については第1実施形態と同様であるため、ここでは本実施形態の特徴である制御弁の駆動方法等について説明する。
【0102】
まず、イニシャルチェックや停車時もしくは車両運動制御終了時に、例えば第1配管系統50aと対応するW/C14、15のみを加圧させる動作を行うことにより、第1ケースを挿入方向後方に移動させておく。そして、車両運動制御時に、ブレーキECU70にて以下の動作を行う。
【0103】
具体的には、車両運動制御が開始されると同時に、図1に示す後輪系統である第2配管系統50bにおける第2差圧制御弁36および第3、第4増圧制御弁37、38を遮断状態にし、回転式ポンプ19、39を作動させる。このとき、第2配管系統50bの第2差圧制御弁36および第3、第4増圧制御弁37、38が遮断状態になっているため、第2配管系統50bの方が第1配管系統50aよりも早く高圧になる。したがって、第3シリンダ71cと第4シリンダ71dの間の隙間94の方が第1シリンダ71aと凹部101aの底面との間の連通路81aよりも早く高圧になり、第1ケースが挿入方向前方に移動させられる。これにより、第1ケースの移動によって押し出されるブレーキ液が吐出用管路91を通じて第1配管系統50a側のW/C14、15側に導出させられる。
【0104】
図5は、このときのW/C圧の変化の様子を示したグラフである。この図に示されるように、第2配管系統50bの消費液量に達すると同時に第1ケースが挿入方向前方に移動させられ、この第1ケースの移動によって第2配管系統50b側のブレーキ液が第1配管系統50a側の吐出量に上乗せされる。このため、第1配管系統50aのW/C圧の加圧勾配が上昇し、特に制動力を早く高めたい前輪系統においてW/C圧の昇圧応答性を向上させることが可能になる。
【0105】
この後、第1配管系統50aでの昇圧応答性が得られたら、第2配管系統50bの第2差圧制御弁36および第3、第4増圧制御弁37、38を連通状態にして、後輪系統のW/C34、35の加圧も行う。
【0106】
以上説明したように、第1ケースを挿入方向前後方向の一方に移動させておいた状態で、第1、第2配管系統50a、50bの消費液量の差に基づいて第1ケースを他方に移動させるようにし、そのときの移動によって押し出されるブレーキ液を用いて一方の系統の昇圧応答性を向上させることができる。
【0107】
なお、前輪系統と後輪系統のいずれについても昇圧応答性を向上させることは可能であるが、制動性能向上、例えば制動距離の短縮を図るためには、後輪系統よりも前輪系統のW/C圧の昇圧応答性を高めるのが効果的である。そして、本実施形態の場合、後輪系統について、昇圧応答性が低下することになるが、後輪系統の昇圧応答性が多少低下したとしても、前輪系統の昇圧応答性を向上させることで、高い制動性能を得ることが可能となる。
【0108】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。上記第3実施形態では、イニシャルチェック時などにおいて、第1ケースを挿入方向後方に移動させておくようにしたが、本実施形態では、機械的に第1ケースが挿入方向後方に移動させられるようにする。なお、本実施形態でも、回転式ポンプ装置が備えられた車両用ブレーキ装置の基本的な構成については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0109】
図6は、本実施形態の車両用ブレーキ装置に備えられる回転式ポンプ装置のポンプ本体100の断面図である。
【0110】
この図に示されるように、図2に示される回転式ポンプ装置に対して、第1ケースと凹部101の底面との間にリターンスプリング200を備えた構造としてある。このように、リターンスプリング200を備えるようにすれば、回転式ポンプ19、39の非作動時にリターンスプリング200の弾性力によって自動的に第1ケースが挿入方向後方に移動する。このようにすれば、イニシャルチェック時などに回転式ポンプ19、39や制御弁を駆動させなくても、第1ケースが挿入方向後方に移動するようにできる。
【0111】
さらに、本実施形態の回転式ポンプ装置では、第3シリンダ71cと第4シリンダ71dとの摺動面、つまり第3シリンダ71cのうち外径が縮径された部分の軸方向長と、第4シリンダ71dの中心孔72dのうち第3シリンダ71cが嵌め込まれる部分の軸方向長を第1実施形態よりも長くしてある。また、第1ベアリング51の外輪51bの軸方向長も第1実施形態よりも長くしてある。これにより、前輪系統の昇圧応答性を向上させるために用いられるブレーキ液量をより多くできるように、第1シリンダ71aと凹部101aの底面の間にできる空間容量と第3シリンダ71cと第4シリンダ71dとの間にできる隙間94の容量が図2の回転式ポンプ装置と比較して多くなるようにしている。
【0112】
このような構成としても、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。また、イニシャルチェック時などに回転式ポンプ19、39や各種制御弁を駆動させなくても、第1ケースが挿入方向後方に移動するようにできる。さらに、前輪系統の昇圧応答性を向上させるために用いることができるブレーキ液量をより多くできるため、昇圧応答性をさらに向上させることが可能となる。
【0113】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、後輪系統である第2配管系統50bの第3、第4増圧制御弁37、38をノーマルオープン型の電磁弁とする場合について説明したが、第3、第4実施形態では、第3、第4増圧制御弁37、38を差圧制御弁とすれば、第2配管系統50bのW/C圧を調整することもできる。
【0114】
第4実施形態では、リターンスプリング200を備える構造において、昇圧応答性を向上させるために用いられるブレーキ液量が多くなる構造を採用したが、第3実施形態のようにリターンスプリング200が備えられていない構造に対してそのような構造を採用しても良い。
【0115】
また、上記各実施形態では、第1配管系統50aの回転式ポンプ19が挿入方向前方側、第2配管系統50bの回転式ポンプ39が挿入方向後方側となる場合を例に挙げて説明したが、逆であっても構わない。
【0116】
また、上記各実施形態では、車両用ブレーキ装置に対して本発明にかかる回転式ポンプ装置を適用した場合について説明したが、車両用ブレーキ装置に限るものではない。すなわち、2つの回転式ポンプを用いて異なる配管系統に対して液体の吸入吐出を行うような装置であれば、他のものにも本発明にかかる回転式ポンプ装置を適用することができる。
【0117】
また、上記各実施形態では、第1ケースの両端面に吐出口81、83が形成される場合について説明したが、ハウジング101に吐出口を設け、第1ケースの外周面からハウジング101に形成した吐出口を経て、第1ケースの両端面にと出圧が導入されるような形態としても良い。
【符号の説明】
【0118】
1…ブレーキ制御システム、11…ブレーキペダル、19、39…回転式ポンプ、19a、39a…アウターロータ、19b、39b…インナーロータ、19c、39c…空隙部、20、40…リザーバ、50…ブレーキ液圧制御用アクチュエータ、51、52…第1、第2ベアリング、54…駆動軸、60…モータ、71a〜71d…第1〜第4シリンダ、72a〜72d…中心孔、73a、73b…第1、第2中央プレート、80、82…吸入口、81、83…吐出口、100…ポンプ本体、101…ハウジング、101a…凹部、200…リターンスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の吸入吐出を行う内接型ギアポンプにて構成される第1、第2回転式ポンプ(19、39)と、
前記第1、第2回転式ポンプを駆動する駆動軸(54)と、
前記駆動軸が挿通されると共に該駆動軸の先端側から順に前記第1回転式ポンプ(19)が収容される第1ロータ室(100a)および前記第2回転式ポンプ(39)が収容される第2ロータ室(100b)を構成し、前記第1ロータ室に繋がる第1吸入口(80)および第1吐出口(81)と、前記第2ロータ室に繋がる第2吸入口(82)および第2吐出口(83)とが形成されたシリンダ状の第1ケース(71a〜71c、73a、73b)と、
前記第1ケースに対して前記駆動軸の軸方向に同軸上に配置される第2ケース(71d)と、
を備えたポンプ本体(100)と、
前記駆動軸(54)を回転させるモータ(60)と、
前記第1ケース側を先端として前記ポンプ本体が挿入される凹部(101a)が形成されたハウジング(101)と、を備え、
前記第1吐出口が、前記凹部において、前記ポンプ本体の前記凹部への挿入方向前方の端面である前記第1ケースの前方端面と同前方端面に対向する前記凹部の底面との間の領域に開口することで、同領域に前記第1回転式ポンプの吐出圧を導入し、
前記第2吐出口が、前記凹部において、前記第1ケースの前記第2ケースと対向する後方端面と前記第2ケースとの間の領域に開口することで、同領域に前記第2回転式ポンプの吐出圧を導入するように構成されていることを特徴とする回転式ポンプ装置。
【請求項2】
液体の吸入吐出を行う内接型ギアポンプにて構成される第1、第2回転式ポンプ(19、39)と、
前記第1、第2回転式ポンプを駆動する駆動軸(54)と、
前記駆動軸が挿通されると共に該駆動軸の先端側から順に前記第1回転式ポンプ(19)が収容される第1ロータ室(100a)および前記第2回転式ポンプ(39)が収容される第2ロータ室(100b)を構成し、前記第1ロータ室に繋がる第1吸入口(80)および第1吐出口(81)と、前記第2ロータ室に繋がる第2吸入口(82)および第2吐出口(83)とが形成されたシリンダ状の第1ケース(71a〜71c、73a、73b)と、
前記第1ケースに対して前記駆動軸の軸方向に同軸上に配置される第2ケース(71d)と、
を備えたポンプ本体(100)と、
前記駆動軸(54)を回転させるモータ(60)と、
前記第1ケース側を先端として前記ポンプ本体が挿入される凹部(101a)が形成されたハウジング(101)と、を備え、
前記第1吐出口が前記第1ケースのうち前記ポンプ本体の前記凹部への挿入方向前方の端面である前方端面に至ることで、前記前方端面に前記第1回転式ポンプの吐出圧を導入し、
前記第2吐出口が前記第1ケースのうち前記第2ケースと対向する後方端面に至ることで、前記後方端面に前記第2回転式ポンプの吐出圧を導入するように構成されていることを特徴とする回転式ポンプ装置。
【請求項3】
前記第1ケースは、前記前方端面に印加される液圧と前記後方端面に印加される液圧に基づいて、前記挿入方向前後方向に移動可能に構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の回転式ポンプ装置。
【請求項4】
前記第1回転式ポンプの吐出タイミングと前記第2回転式ポンプの吐出タイミングの位相が180°ずらされていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の回転式ポンプ装置。
【請求項5】
請求項3に記載の回転式ポンプ装置を備えた車両用ブレーキ装置であって、
ブレーキ操作部材(11)の操作に応じたブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダ(13)と、
前記マスタシリンダに対して接続される前輪系統となる第1配管系統(50a)および後輪系統となる第2配管系統(50b)と、
前記マスタシリンダ(13)に発生させられるブレーキ液圧に応じて制動力を発生させる前輪(FL、FR)および後輪(RL、RR)に対応するホイールシリンダ(14、15、34、35)とを備え、
前記第1配管系統および前記第2配管系統には、前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとを接続する主管路(A、E)と、
前記第1配管系統の主管路(A)に備えられた第1差圧制御弁(16)および前記第2配管系統の主管路(A)に備えられた第2差圧制御弁(36)と、
前記第1配管系統において前記第1差圧制御弁と両前輪に対応する前記ホイールシリンダ(14、15)との間に備えられた第1、第2増圧制御弁(17、18)および前記第2配管系統において前記第2差圧制御弁と両後輪に対応する前記ホイールシリンダ(34、35)との間に備えられた第1、第2増圧制御弁(37、38)と、を有し、
前記回転式ポンプ装置に備えられた前記第1回転式ポンプと前記第2回転式ポンプのいずれか一方が前記第1差圧制御弁と前記第1、第2増圧制御弁の間において前記第1配管系統の主管路にブレーキ液を吐出すると共に他方が前記第2差圧制御弁と前記第3、第4増圧制御弁の間において前記第2配管系統の主管路にブレーキ液を吐出するように構成され、
前記第1、第2回転式ポンプを駆動するとき、前記後輪系統となる前記第2配管系統の第2差圧制御弁を遮断状態にすると共に前記第3、第4増圧制御弁を遮断状態にすることで、前記第1ケースの前記前方端面と前記ハウジングの前記凹部の底面との間の空間、もしくは、前記第1ケースの前記後方端面と前記第2ケースとの間の空間のうち前記第1配管系統の前記主管路に接続される側の空間を縮小させる方向に前記第1ケースを移動させ、この空間が縮小されることによってブレーキ液を前記第1配管系統の前記主管路に導出させることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
前記第1、第2回転式ポンプを駆動する前の状態において、前記第1ケースの前記前方端面と前記ハウジングの前記凹部の底面との間の空間、もしくは、前記第1ケースの前記後方端面と前記第2ケースとの間の空間のうち前記第2配管系統の前記主管路に接続される側の空間を縮小させる方向に前記第1ケースを移動させるリターンスプリング(200)が備えられていることを特徴とする請求項5に記載の車両用ブレーキ装置
【請求項7】
前記第1ケースは、
前記駆動軸が挿入される第1中心孔(72a)が形成された第1シリンダ(71a)と、
前記第1シリンダと隣接して配置され、前記第1回転式ポンプを収容する第1中央プレート(73a)と、
前記第1中央プレートと隣接して配置され、前記駆動軸が挿入される第2中心孔(72b)が形成された第2シリンダ(71b)と、
前記第2シリンダと隣接して配置され、前記第2回転式ポンプを収容する第2中央プレート(73b)と、
前記第2中央プレートと隣接して配置され、前記駆動軸が挿入される第3中心孔(72c)が形成された第3シリンダ(71c)とを有し、
前記第2シリンダが前記ハウジングの前記凹部内において固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の回転式ポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−105207(P2011−105207A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263864(P2009−263864)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】