説明

回転電機制御装置

【課題】回転電機のロック状態におけるトルク制限を最小限に抑制することを可能とすることである。
【解決手段】回転電機制御装置10は、電源回路12と、制御部40と、制御部40に接続される記憶部32とを含んで構成される。制御部40は、回転電機12がロック状態となったか否かを判断するロック状態判断モジュール42、ロック状態における電気角を特定する電気角特定モジュール44、その特定された電気角における電流評価度を記憶部32から読み出して取得する電流評価度取得モジュール46と、電流評価度に基づきトルク制限値を設定するトルク制限値設定モジュール48と、電流評価度を最小になるように回転可変機構52を介して回転軸8を回転させる回転軸回転モジュール50を含んで構成される。ここで電流評価度は、その電気角における電流値/最大電流値で計算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転電機制御装置に係り、特に多相回転電機がロック状態となったときの制御を行う回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は、負荷とトルクとがバランスが取れた状態でロックすることがあり、そのときには、駆動電流状態がそのロック状態のまま固定されるので、場合によっては大きな電流が流れ続け、過大な発熱を生じることがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両を駆動するモータの制御装置において、登坂路上の車両が自重による後退とモータのトルクによる前進とのバランスがとれたとき、モータがロック状態あるいはストール状態となり、そのときに3相コイルのいずれかが最大電流であると、その最大電流状態が継続され、そのコイルの温度が上昇することが述べられている。これを防止するため、3相の各巻線の温度を見て、最大温度差Tdを求め、最大温度差がTh0より広がるとトルク低減処理を行って坂道を下らせてモータを逆回転させてロック状態を解消させ、その最大温度のコイルの温度を下げることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、電動ステアリング装置において、ステアリングハンドルの据え切り等によってロータが所定の回転位置でロックし、そのときにステータコイルを流れる電流がたまたまピーク電流であると、そのピーク電流の状態が継続して、ステータコイル、インバータが強く発熱することが述べられている。そこで、UVWの各相の電流がピーク位置かどうかロータの回転位置検出で判断し、ピーク位置で数秒から数十秒ロックしているときは、180度×n倍以外の角度各相電流の電気角の位相を変更することが開示されている。例えば90度進角させることが述べられている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−94867号公報
【特許文献2】特開2005−247078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、回転電機がロック状態になると、場合によっては大きな電流が流れ続け、過大な発熱を生じることがある。従来技術においては、トルク低減処理を行い、あるいは電気角の位相を変更して、ロック状態を解消することが述べられている。
【0007】
このように、回転電機のロック状態における過大な発熱を防止するため、トルク制限等が行われるが、その際に、例えば、回転電機の温度等に基づいて、現在のトルクに一律の制限低下率を乗じて実行される。すなわち、現在のトルクの大小に関らず一律に回転電機のトルクダウンが生じ、駆動力が低下する。例えば、車両走行用の回転電機の場合には、走行性が低下する。したがって、トルク制限等は必要最小限とすることが望ましいが、従来技術においてはそのようになっていない。
【0008】
本発明の目的は、回転電機のロック状態におけるトルク制限を最小限に抑制することを可能とする回転電機制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る回転電機制御装置は、多相回転電機のロック状態のときに各相の電気角を特定する状態特定手段と、ロック状態になったとしてそのときの各相の電気角について、電流集中相の電流値と最大電流値との比である電流評価度を予め求めておき、状態特定手段によって特定された電気角に対応する電流評価度に応じてトルク制限値を設定する制限設定手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る回転電機制御装置において、制限設定手段は、多相回転電機が3相駆動の場合、電流評価度を100%以下87%以上としてトルク制限値を設定することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る回転電機制御装置は、多相回転電機のロック状態のときに各相の電気角を特定する状態特定手段と、ロック状態になったとしてそのときの各相の電気角について、電流集中相の電流値と最大電流値との比である電流評価度を予め求めておき、状態特定手段によって特定された電気角に対応する電流評価度よりも電流評価度が低くなる電気角に対応する回転状態に回転軸を可変する可変手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る回転電機制御装置において、可変手段は、多相回転電機が3相駆動の場合、電流評価度が87%となる電気角に対応する回転状態に回転軸を可変することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記構成の少なくとも1つにより、回転電機制御装置は、多相回転電機がロック状態になったとしてそのときの各相の電気角について、電流集中相の電流値と最大電流値との比である電流評価度を予め求めておき、ロック状態になったときその電気角に対応する電流評価度に応じてトルク制限値を設定する。
【0014】
多相回転電機は、電気角で所定の位相差を保ちながら各相電流が変化するように駆動される。したがって、電気角によっては、いずれの相電流もその相の最大電流にならないことがあり、電気角によっては、どの相電流も最大電流とならないことがある。実際の電流値と最大電流と比を電流評価度とすると、電気角によっては、電流評価度が1とならず、1より小さいことがある。なお、電気角と電流評価度の関係は、多相回転電機における各相の位相差の関係から予め容易に求めることができる。
【0015】
ロック状態におけるトルク制限を、各相電流の最大電流値に基づいて、すなわち電流評価度を1としての、ロック状態におけるトルク制限をすると、実際の相電流はそれより少なく、すなわち電流評価度が1より小さい場合に、過大にトルク制限をしていることになる。上記構成によれば、ロック状態における電気角に対応する電流評価度に応じてトルク制限を設定するのでので、回転電機のロック状態におけるトルク制限を最小限に抑制することができる。
【0016】
また、回転電機制御装置において、多相回転電機が3相駆動の場合には、電流評価度を100%以下87%以上としてトルク制限値を設定する。3相駆動の場合、電気角で120度の位相差で各相電流が変化するので、電気角によって電流評価度が100%から87%まで変化する。したがって、上記の電流評価度の範囲でトルク制限を設定することができる。このことで、一律に最大電流値でトルク制限をする場合に比較し、最大で、1/0.87=/1.13だけ、トルク制限の余裕度があり、その分実際に出力できるトルクを大きくでき、車両の場合走行性が向上する。
【0017】
また、回転電機制御装置は、ロック状態になったとしてそのときの各相の電気角について、電流集中相の電流値と最大電流値との比である電流評価度を予め求めておき、ロック状態における電気角に対応する電流評価度よりも電流評価度が低くなる電気角に対応する回転状態に回転軸を可変する。
【0018】
上記のように、多相回転電機は、電気角で所定の位相差を保ちながら各相電流が変化するように駆動され、電気角によっては、いずれの相電流もその相の最大電流にならないことがあり、電気角によっては、どの相電流も最大電流とならないことがある。つまり、ロック状態の電気角によっては、いずれの相電流もその相の最大電流にならないことがあり、少し電気角をずらすことでどの相電流も最大電流とならないようにできる。上記構成によれば、ロック状態から回転軸を回転させて、電流評価度が低い電気角とするので、回転電機のロック状態におけるトルク制限を最小限に抑制することができる。
【0019】
また、回転電機制御装置において、多相回転電機が3相駆動の場合、電流評価度が87%となる電気角に対応する回転状態に回転軸を可変する。上記のように、3相駆動の場合において電流評価度は100%から87%の範囲である。上記構成により、電流評価度を最も低くでき、一律に最大電流値でトルク制限をする場合に比較し、1/0.87=/1.13だけ、トルク制限に余裕度を持たせることができ、その分実際に出力できるトルクを大きくでき、車両の場合走行性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。なお以下では、回転電機として、車両に搭載されるモータ・ジェネレータを説明するが、単にモータとしての機能を有するものでもよく、あるいは単に発電機としての機能を有するものであってもよい。車両に搭載される回転電機の数は複数であってもよい。また、電源回路の構成として、2次電池、電圧変換器、インバータ回路を有するものとして説明するが、これ以外の要素、例えば、低電圧DC/DCコンバータ等を有するものであってもよい。また、以下では、回転電機のトルク制限の手段として、電源回路の昇圧コンバータの昇圧上限値の制限を説明するが、これ以外のトルク制限手段であってもよい。例えば、トルク指令値の上限制限、回転数制限等によってトルク制限を行うものであってもよい。なお、以下で述べる電圧値等は説明のための例示であり、回転電機の仕様等に応じ、適当に変更が可能である。
【0021】
図1は、回転電機制御装置10の構成を示す図である。ここでは、回転電機制御装置10の構成要素ではないが、モータ・ジェネレータである回転電機6と、その出力軸である回転軸8が示されている。回転電機制御装置10は、回転電機6の作動を制御する装置であるが、ここでは特に、回転電機6がロック状態になったときの制御を行う機能を有する。
【0022】
回転電機制御装置10は、電源回路12と、制御部40と、制御部40に接続される記憶部32とを含んで構成される。
【0023】
回転電機6は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータであって、電力が供給されるときはモータとして機能し、制動時には発電機として機能する3相同期型回転電機である。図1には、3相巻線のU相、V相、W相に対応して、U,V,Wの符号が付されている。
【0024】
回転電機6は、3相巻線が巻回される多極ステータと、永久磁石が配置されるロータとを含んで構成される。回転電機6の回転軸8は、ロータの中心回転軸で、トルクを出力し、車両の駆動軸に接続される。
【0025】
一般的に多相回転電機における各相巻線は、相互に所定の位相差を有しながら交流駆動される。3相回転電機の場合は、各相巻線は360度/3=120度の位相差で交流駆動される。ここでいう360度、120度というのはいわゆる電気角で、360度を1周期としたときの位相角度を示すものである。
【0026】
多極ステータの極数とは、ステータにおいて巻線が巻回されるティースと呼ばれる突部の数を相数で除した数である。換言すれば、ティースの数=相数×極数である。3相回転電機における4極ステータとは、12個のティース、すなわち12個の巻線を有する。この場合には、各相は、極数の数だけあるので、ステータに対するロータの回転角度は、電気角を極数で除したものになる。3相回転電機で4極ステータの場合、電気角/4=機械的あるいは幾何学的回転角度となる。つまり、ロータ回転角度30度が、電気角120度に相当することになる。
【0027】
回転電機6の回転軸8に接続して設けられる回転可変機構52は、回転軸8の回転角度を変更することで、回転電機6におけるロータとステータとの間の電気角を変更する機能を有する機構装置である。上記の例では、(回転軸8の回転角度)×4=電気角の関係で、回転軸8の回転によって電気角を変更できることになる。かかる回転可変機構としては、小型モータまたは油圧回転機構等を用いることができる。
【0028】
回転電機12の2つの相、例えばU相及びV相にそれぞれ設けられる電流センサ30は、U相巻線及びV相巻線を流れる電流をそれぞれ検出する機能を有する電流検出手段である。W相巻線には電流センサが設けられていないが、これは、通常は、上記2つの電流センサ30の検出データから、W相巻線を流れる電流を推定することができるからである。すなわち、U相巻線、V相巻線、W相巻線は、それぞれの一方端が相互に接続されて中立点となっているので、2つの相巻線を流れる電流の和が、残りの相巻線を流れる電流となるからである。
【0029】
上記では、2つの電流センサ30によってU相巻線、V相巻線を流れる電流を検出するものとしたが、これは一例であって、U相巻線とW相巻線とにそれぞれ電流センサを設けるものとしてもよく、V相巻線とW相巻線とにそれぞれ電流センサを設けるものとしてもよい。勿論、3つの相巻線それぞれに電流センサを設けるものとしてもよい。また、かかる電流センサ30としては、電流による磁界を検出するホール素子等を用いることができる。電流センサ30の検出データは、制御部40に伝送される。
【0030】
電源回路12は、回転電機6と接続され、蓄電装置14を含む回路である。回転電機6が駆動モータとして機能するときにこれに電力を供給し、あるいは回転電機6が発電機として機能するときは回生電力を受け取って蓄電装置14を充電する機能を有する。
【0031】
電源回路12は、2次電池である蓄電装置14と、蓄電装置14側の平滑コンデンサ16と、電圧変換器18と、昇圧側の平滑コンデンサ20と、インバータ回路22とを含んで構成される。
【0032】
蓄電装置14としては、例えば、約200Vから約300Vの端子電圧を有するリチウムイオン組電池あるいはニッケル水素組電池、またはキャパシタ等を用いることができる。
【0033】
電圧変換器18は、蓄電装置14側の電圧をリアクトルのエネルギ蓄積作用を利用して例えば約600Vに昇圧する機能を有する回路である。電圧変換器18は双方向機能を有し、インバータ回路22側からの電力を蓄電装置14側に充電電力として供給するときには、インバータ回路22側の高圧を蓄電装置14に適した電圧に降圧する作用も有する。
【0034】
インバータ回路22は、高圧直流電力を交流3相駆動電力に変換し、これを回転電機6に供給する機能と、逆に回転電機6からの交流3相回生電力を高圧直流充電電力に変換する機能とを有する回路である。
【0035】
制御部40は、電源回路12の制御を通して、車両に搭載される回転電機6の作動を制御する機能を有し、特にここでは、回転電機6がロック状態になったときに電源回路12及び回転可変機構52の制御により、回転電機6の各相巻線が過度に発熱しないように、かつ、回転電機6のトルクが過度に低下しないように、電流評価度を用いてトルク制限値を最小限度に抑制しながら設定する機能を有する。
【0036】
電流評価度とは、各相電流値について、その最大電流値との比である。各相電流値は、電気角によって周期的に変化するので、ある電気角で最大電流値をとり、他の電気角では最大電流値よりも小さくなる。電流評価度=ある電気角における電流値/最大電流値である。この意味からは、電流評価度とは、最大電流値で規格化された各相電流値と呼ぶことができる。
【0037】
回転電機6がロック状態になると、そのロック状態のまま、電気角が進まなくなり、各相電流がその電気角のときの電流値で固定される。このような場合に、固定された各相電流値が最大電流値に対しどの程度の大きさかを評価する場合に、電流評価度という語が的確なものとなる。例えば、最も電流が流れる状態で固定された相は、電流集中相と呼ばれるが、電流集中相がその相の最大電流値で固定されると、電流評価度=100%であり、このときに電流集中相の巻線は最も発熱する。電流集中相がその相の最大電流値より低い電流値で固定されると、電流評価度は100%より小さくなり、電流集中相の巻線の発熱も最大発熱よりも緩和される。換言すれば、最大電流値で固定されるときに比べ、若干余裕がある状態である。例えば電流評価度=90%で固定されるときは、電流評価度=100%に比べ、発熱の程度の余裕が10%あることになる。
【0038】
制御部40に接続される記憶部32は、回転電機制御プログラム等を格納する記憶装置であるが、ここでは特に、電気角に対する電流評価度の計算値が記憶される。
【0039】
制御部40は、回転電機12がロック状態となったか否かを判断するロック状態判断モジュール42、ロック状態における電気角を特定する電気角特定モジュール44、その特定された電気角における電流評価度を記憶部32から読み出して取得する電流評価度取得モジュール46と、電流評価度に基づきトルク制限値を設定するトルク制限値設定モジュール48と、電流評価度を最小になるように回転可変機構52を介して回転軸8を回転させる回転軸回転モジュール50を含んで構成される。かかる制御部40はCPUによって構成することができる。また、制御部40の各機能はソフトウェアを実行することで実現でき、具体的には、回転電機制御プログラムのロック状態対応処理プログラムを実行することで実現できる。これらの機能の一部をハードウェアによって実現するものとしてもよい。
【0040】
上記構成の作用、特に制御部40の各機能について、図2のフローチャート等を用いて詳細に説明する。なお、以下では、図1の符号を用いて説明する。図2は、回転電機6がロック状態となったときの処理の手順を示すフローチャートで、各手順は、車両制御プログラムのロック状態対応処理プログラムにおける各処理手順を示すものである。
【0041】
図2に示すように、回転電機12にロック状態が発生したか否か、すなわちロック状態の有無発生が判断される(S10)。この工程は制御部40のロック状態判断モジュール42の機能によって実行される。具体的に、ロック状態有無の判断は、電流センサ30において、電流の時間変化の停止で行うことができる。また、簡便には車両に設けられる各種センサ、例えば、回転軸8の回転速度の検出手段、あるいはステータとロータとの間の相対的回転角の検出手段等を用いて行うこともできる。前者としては回転速度センサ、後者としてはレゾルバ等を用いることができる。この場合には、回転電機6の単なる作動停止と区別するために、他の複数の情報を組み合わせて判断することが好ましい。
【0042】
ロック状態であると判断されると、次にロック状態における電気角が特定される(S12)。この工程は制御部40の電気角特定モジュール44の機能によって実行される。電気角の測定はレゾルバで行うことができるが、電流センサ30を用いて行うこともできる。すなわち、多相回転電機は、電気角で所定の位相差を保ちながら各相電流が変化するように駆動されており、正弦波駆動の場合は、各相電流は電気角で360度を1周期とする正弦波でその電流値が規則的に変化する。その規則性は予め分かっているので、各相電流値がそれぞれ求められれば、そのときの電気角を特定することができる。
【0043】
その様子を図3に示す。この図は、横軸に電気角をとり、縦軸に規格化された電流値をとり、各相電流の電気角に対する変化を示すものである。この図で実線、破線、一点鎖線で示されるものが、3相電流のそれぞれ、すなわちU相電流、V相電流、W相電流である。この図から分かるように、電気角で360度の範囲では、(U相電流値、V相電流値、W相電流値)の組合せにおいて、同じ値を2以上の電気角で取ることはない。換言すれば、3相電流の組合せによって、電気角が特定できる。なお、電気角の原点は適当に定めることができる。図3の例では、実線で示した相電流、例えばU相電流について、電流値がゼロで、電気角に対する電流値の微分係数がプラスとなる電気角を原点としている。
【0044】
このように、ロック状態における各相電流の電流値を検出し、図3の特性図を用いることで、ロック状態の電気角を特定できる。図3の特性図あるいはこれに対応する計算式は、記憶部32に予め格納することができ、S12の工程の実行に際し、記憶部32から読み出し、これに電流センサ30の検出値を当てはめることで、電気角を容易に特定できる。
【0045】
再び図2に戻り、ロック状態における電気角が特定されると、次に電流評価度が取得される(S14)。上記のように、多相回転電機は、電気角で所定の位相差を保ちながら各相電流が変化するように駆動されており、各相電流は電気角で360度を1周期とする正弦波でその電流値が規則的に変化する。3相回転電機の場合は、120度の位相差をもって各相電流値が変化する。したがって、電気角によっては、いずれの相電流もその相の最大電流にならないことがあり、電気角によっては、どの相電流も最大電流とならないことがある。
【0046】
その様子を図4、図5を用いて説明する。これらの図は、図3と横軸、縦軸は同じで、
図4は電気角=210度でロック状態となった場合、図5は電気角=180度でロック状態となった場合である。回転電機がロック状態となると、回転軸の回転が止まり、その時点で電流値は固定される。
【0047】
図4の電気角=210度の場合は、破線で示す相電流が最大電流値で固定され、実線及び一点鎖線で示される相電流は最大電流値の0.5倍で固定される。この場合には、破線で示される相電流が電流集中相となり、その相電流がその最大電流値で固定される。電流集中相では、例えば巻線等の発熱が最大となるので、これが過大にならないように、巻線温度、あるいは最大電流値を基準に、回転電機のトルク制限が行われることになる。
【0048】
図5の電気角=180度の場合は、実線で示される相電流がゼロ、破線および一点鎖線で示される相電流が最大電流値の0.87倍で固定される。この場合は、いずれの相電流も最大電流値とならず、電流集中相となる破線および一点鎖線で示される相電流でも最大電流値の0.87倍である。この場合もこの電流値で固定されると交流駆動の場合に比べ発熱が大きくなるので、これが過大にならないように回転電機のトルク制限が行われる。しかし、この場合は、図4の場合と異なり、最も多い相電流値でも最大電流値とならないので、最大電流値に基づくトルク制限を行うと、必要以上にトルク制限をすることになる。
【0049】
このように、ロック状態における電気角によっては、固定される相電流値の最も大きな値が最大電流値とならないことがある。そこで、回転電機のトルク制限をする際に考慮すべき電流値は最大電流値ではなく、ロック状態においてもっとも高い値を示す相電流値である。そこで、電流評価度として、(電流集中相の電流値/最大電流値)を定義し、電流評価度に応じて回転電機のトルク制限値の設定を行うことが好ましい。
【0050】
電流評価度は、図3から図5の説明から分かるように、ロック状態における電気角が特定されれば、図3の特性図を用いて容易に取得できる。上記の例で、ロック状態の電気角が210度のときは電流評価度=1.0であり、ロック状態の電気角が180度のときは電流評価度=0.87である。その他の電気角については図3の特性図にしたがって電流評価度を求めて取得できる。このように、図2におけるS14の工程は、記憶部32に記憶される電気角に対する電流評価度の計算値について、電気角を検索キーとして、その電気角における電流評価度を読み出し、取得することで実行される。記憶部32に記憶するのは、計算式以外に、図3のような換算図あるいは換算表であってもよい。
【0051】
再び図2に戻り、ロック状態における電気角が特定され、その電気角における電流評価度が取得されると、次に、電流評価度に応じてトルク制限値の設定が行われる(S16)。この工程は、制御部40のトルク制限値設定モジュール48の機能によって実行される。具体的には、電流評価度=1のときが標準的あるいはトルク最大制限値で、電流評価度が1より小さいときは、トルク最大制限値/電流評価度を、その電流評価度におけるトルク制限値として設定する。
【0052】
例えば、回転電機6の構造に基づき、あるいは実験的に、電流集中相の相電流がその相電流の最大電流値であるときのトルク最大制限値を100Nmとすると、ロック状態のときの電気角における電流評価度をEとして、その場合のトルク制限値は、100Nm/Eとして設定される。すなわち、トルク制限値は、電流評価度が低いほど、トルク最大制限値よりも緩和されて、大きな値に設定される。すなわち、電流評価度に応じ、トルク制限が最小限に抑制される。
【0053】
トルク制限の様子を図6に示す。図6は横軸に回転電機の温度、例えば電流集中相の相巻線の温度をとり、縦軸に回転電機のトルク制限値をとったもので、巻線温度と回転電機のトルク制限値との関係を示す図である。巻線温度が所定の閾値温度Tth以下のときは一定値の最大トルクまでの範囲で、回転電機のトルクを出すことが許される。巻線温度が閾値温度Tthを超えると、過度の発熱による回転電機の損傷等を防止するため、回転電機のトルクの上限は温度上昇とともに低い値に制限される。これがロック状態における過度の発熱防止のために取られるトルク制限である。したがって、トルク制限値は、Tth以下では一定の最大トルクに設定され、Tthを超えると、温度上昇と共に最大トルクより小さな値となる。
【0054】
図6では、電流評価度E=1のときのトルク制限値を実線で示し、電流評価度E=0.87のときのトルク制限値を破線で示した。このように、電流評価度が1より小さくなると、Tthを超える温度で、トルク制限値はE=1の場合に比べて大きな値に設定される。すなわち、電流評価度に応じ、トルク制限が最小限に抑制される。この例では、トルク制限は、E=1の場合に比べ、1/0.87=1.13と、13%緩和されることになる。
【0055】
上記では、ロック状態の電気角に対応する電流評価度に応じてトルク制限値の設定を行い、これによりロック状態におけるトルク制限を最小限に抑制する。ところで、図4と図5とを比較して分かるように、電気角=210度でロック状態となっている場合に、電気角=180度の状態まで電気角を変更することができれば、トルク制限は1.13倍まで緩和されることになる。電気角の変更は、回転電機の回転軸の回転角度を変更することで行うことができる。以下では、図7を用いて、回転軸の回転を変更することでトルク設定値を最小限にする制御の手順を説明する。なお、以下では、図1の符号を用いて説明する。
【0056】
図7は、制御部40の制御の下で、回転可変機構52の作動を制御し、回転電機6の回転軸8を回転し、電流評価度が最小となる電気角の状態にする手順を示すフローチャートである。図7の各手順は、車両制御プログラムのロック状態対応処理プログラムにおける各処理手順を示すものである。
【0057】
図7において、S10からS14までは、図2で説明した各工程の内容と同じである。すなわち、回転電機6がロック状態か否かを判断し(S10)、ロック状態における電気角を特定し(S12)、その電気角における電流評価度を取得する(S14)。
【0058】
そして、次に、その電流評価度が最小であるか否か判断する(S20)。上記のように、電気角に対する電流評価度は、相数が定まれば、正弦波駆動の場合、予め分かっており、電流評価度の最小値も分かっている。その様子を図8に示す。図8は、横軸、縦軸とも図3から図5と同様で、各相電流波形の振幅最大値の包絡線を太い実線で示してある。この太い実線が、ロック状態における各電気角に対する電流評価度である。図8から分かるように、3相の回転電機6の場合、ロック状態における電流評価度の最大値は1.0、最小値は0.87である。そして電流評価度が最小となる電気角は、図8のように電気角の原点をとった場合、0度、60度、120度、180度、240度、300度、360度である。
【0059】
したがって、S20において、実際には、上記の例で、電流評価度が0.87であるか否かが判断される。そして、判断が肯定のときはそのまま処理を終了し、判断が否定のとき、電流評価度が最小となる電気角に対応するように、回転軸8が回転される(S22)。この工程は、制御部40の回転軸回転モジュール50の機能によって、回転可変機構52を作動させて実行される。
【0060】
上記の例で、ロック状態の電気角=210度、電流評価度=1.0の場合、電流評価度=0.87になる電気角=180度になるように、回転軸8が回転される。上記の例のように、回転電機6が3相4極のときは、機械角=電気角/4であるので、電気角の回転角度=210度−180度=30度は、機械角で30度/4=7.5度となる。したがって、回転電機6の回転軸8に対し回転可変機構52を用いて、−7.5度回転させることで、電流評価度=0.87の電気角=180度の状態とできる。そして、ここで、トルク制限値が、最小限に抑制された値、すなわち、トルク最大制限値/0.87と設定される(S24)。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る実施の形態における回転電機制御装置の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、回転電機がロック状態となったときの処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】横軸に電気角をとり、縦軸に規格化された電流値をとり、各相電流の電気角に対する変化を示す図である。
【図4】電気角=210度でロック状態となった場合の様子を示す図である。
【図5】電気角=180度でロック状態となった場合の様子を示す図である。
【図6】本発明に係る実施の形態におけるトルク制限を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、回転電機の回転軸を回転し、電流評価度が最小となる電気角の状態にする手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明に係る実施の形態において、ロック状態における各電気角に対する電流評価度を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
6 回転電機、8 回転軸、10 回転電機制御装置、12 電源回路、14 蓄電装置、16 平滑コンデンサ、18 電圧変換器、20 平滑コンデンサ、 22 インバータ回路、30 電流センサ、32 記憶部、40 制御部、42 ロック状態判断モジュール、44 電気角特定モジュール、46 電流評価度取得モジュール、48 トルク制限値設定モジュール、50 回転軸回転モジュール、52 回転可変機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相回転電機のロック状態のときに各相の電気角を特定する状態特定手段と、
ロック状態になったとしてそのときの各相の電気角について、電流集中相の電流値と最大電流値との比である電流評価度を予め求めておき、状態特定手段によって特定された電気角に対応する電流評価度に応じてトルク制限値を設定する制限設定手段と、
を有することを特徴とする回転電機制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機制御装置において、
制限設定手段は、多相回転電機が3相駆動の場合、電流評価度を100%以下87%以上としてトルク制限値を設定することを特徴とする回転電機制御装置。
【請求項3】
多相回転電機のロック状態のときに各相の電気角を特定する状態特定手段と、
ロック状態になったとしてそのときの各相の電気角について、電流集中相の電流値と最大電流値との比である電流評価度を予め求めておき、状態特定手段によって特定された電気角に対応する電流評価度よりも電流評価度が低くなる電気角に対応する回転状態に回転軸を可変する可変手段と、
を有することを特徴とする回転電機制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の回転電機制御装置において、
可変手段は、多相回転電機が3相駆動の場合、電流評価度が87%となる電気角に対応する回転状態に回転軸を可変することを特徴とする回転電機制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−33838(P2009−33838A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194067(P2007−194067)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】