説明

圧縮木製品の製造方法

【課題】圧縮木材を補強するとともに、該圧縮木材の木目や風合いが損なわれない圧縮木製品を得る。
【解決手段】本発明の圧縮木製品の製造方法は、略椀状をなす木材からなるブランク材を軟化し、圧縮力を加えることによって軟化前とは異なる略椀状の圧縮木材に圧縮する圧縮工程と(ステップS33)、圧縮されたブランク材の内壁面に、溶融した合成樹脂を通さない材料からなる保護膜を取り付ける保護膜取付工程と(ステップS33)、保護膜が内壁面に取り付けられた圧縮木材を射出成形用金型に配置し、合成樹脂を射出成形することによって保護膜10上に所定形状の樹脂補強部を形成する樹脂補強部成形工程と(ステップS37)、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材を所定の三次元形状に圧縮成形する圧縮木製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然素材である木材が注目されている。木材はさまざまな木目を有するため、原木から形取る箇所に応じて個体差が生じ、その個体差が製品ごとの個性となる。また、長期の使用によって生じる傷や色合いの変化自体も、独特の風合いとなって使用者に親しみを生じさせることがある。これらの理由により、合成樹脂や軽金属を用いた製品にはない、個性的で味わい深い製品を生み出すことの出来る素材として木材が注目されており、その成形技術も飛躍的に進歩しつつある。
【0003】
従来より、木材の圧縮成形技術として、軟化処理した状態で圧縮した1枚の木材を仮固定し、この木材を型に入れて回復させることによって三次元形状を有する木材を成形する技術が知られている。この技術により圧縮された木材は、その形状によって木材の繊維方向に応じて強度が強い部分と弱い部分が生じてしまうことがあるため、圧縮木材内部で射出成形された合成樹脂により、木材を補強する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−118457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、加熱されて溶融した合成樹脂が金型から射出されると、圧縮木材に溶融した合成樹脂が含浸し、圧縮木材の表面まで表出して木材製品の特徴である木目や風合いを損なう場合があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、合成樹脂製の補強部材を簡易に取り付けるとともに、圧縮木材の木目や風合いを損なうことのない圧縮木製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、木材を圧縮することによって曲面を含む三次元形状を有する圧縮木製品を製造する圧縮木製品の製造方法であって、略椀状をなす木材からなるブランク材を軟化し、圧縮力を加えることによって軟化前とは異なる略椀状の圧縮木材を形成する圧縮工程と、前記圧縮木材の内壁面に、溶融した合成樹脂を通さない材料からなる保護膜を取り付ける保護膜取付工程と、前記保護膜が内壁面に取り付けられた圧縮木材を射出成形用金型に配置し、合成樹脂を射出成形することによって前記保護膜上に所定形状の樹脂補強部を成形する樹脂補強部成形工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記圧縮工程および前記保護膜取付工程は、並行して行なうことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記保護膜の外壁面の形状は、前記圧縮工程後の圧縮木材の内壁面の形状と同一であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記圧縮工程後、前記圧縮木材を大気中で加熱しながら圧縮して該圧縮木材の形状と略相似する形状に整形する加熱整形工程を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記加熱整形工程および前記保護膜取付工程は、並行して行なうことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記保護膜取付工程は、前記加熱整形工程の後に行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記保護膜の外壁面の形状は、前記加熱整形工程後の圧縮木材の内壁面の形状と同一であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記保護膜の材料は、金属または熱硬化性樹脂であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記樹脂補強部は、一連の形状をなすことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記樹脂補強部の一部は、ボス状および/またはリブ状をなすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧縮木材と樹脂補強部との間に、溶融した樹脂を遮断する保護膜を形成することにより、圧縮木材への溶融樹脂の含浸を防止して、圧縮木材表面の木目や風合いを保持できるとともに、簡易に樹脂補強部を取り付けることができる圧縮木製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法の概要を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造工程の形取工程の概要を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造工程の圧縮工程の概要を模式的に示す図である。
【図4】図4は、図3のA−A線断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造工程の圧縮工程において、ブランク材の変形がほぼ完了した状態を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造工程の乾燥工程終了後の圧縮木材の構成を示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造工程の加熱整形および保護膜取付工程の概要を模式的に示す図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造工程の保護膜取付の概要を示す図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法の加熱整形工程において、一対の加熱整形用凹金型と加熱整形用凸金型とを型締めした状態を模式的に示す図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造工程の加熱整形工程後の圧縮木材の構成を示す斜視図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造工程の樹脂補強部成形工程の概要を示す斜視図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造工程の樹脂補強部成形工程後の圧縮木材の構成を示す斜視図である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態1の変形例に係る圧縮木製品の製造工程の保護膜取付工程の概要を示す図である。
【図14】図14は、本発明の実施の形態1の変形例に係る圧縮木製品の製造工程の保護膜取付工程の概要を示す図である。
【図15】図15は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法の概要を示すフローチャートである。
【図16】図16は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造工程の加熱整形工程後の圧縮木材の構成を示す斜視図である。
【図17】図17は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造工程の開口部形成工程後の圧縮木材の構成を示す斜視図である。
【図18】図18は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造工程の保護膜取付工程の概要を示す図である。
【図19】図19は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造工程の保護膜取付工程後の圧縮木材の構成を示す斜視図である。
【図20】図20は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造工程の樹脂補強部成形工程の概要を示す図である。
【図21】図21は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造工程の樹脂補強部成形工程を経て完成した圧縮木材の構成を示す斜視図である。
【図22】図22は、本発明の実施の形態2の変形例に係る圧縮木製品の製造工程の保護膜の概要を示す図である。
【図23】図23は、本発明の実施の形態3に係る圧縮木製品の製造方法の概要を示すフローチャートである。
【図24】図24は、本発明の実施の形態3に係る圧縮木製品の製造工程の圧縮工程の概要を模式的に示す図である。
【図25】図25は、図24のD−D線断面図である。
【図26】図26は、本発明の実施の形態3に係る圧縮木製品の製造工程の圧縮工程において、ブランク材の変形がほぼ完了した状態を示す図である。
【図27】図27は、本発明の実施の形態3に係る圧縮木製品の製造工程の圧縮工程後の圧縮木材の構成を示す斜視図である。
【図28】図28は、本発明の実施の形態3の変形例に係る圧縮木製品の製造工程の保護膜取付工程の概要を示す図である。
【図29】図29は、本発明の実施の形態3の変形例に係る圧縮木製品の製造工程の保護膜取付工程の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、以下の説明で参照する図面は模式的なものであって、同じ物体を異なる図面で示す場合には、寸法や縮尺等が異なる場合もある。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法の処理の概要を示すフローチャートである。まず、原木から略椀状をなすブランク材を形取る(ステップS1)。図2は、形取工程の概要を模式的に示す図である。形取工程では、無垢材などの原木1から、略椀状をなすブランク材2を切削等によって形取る。
【0021】
ブランク材2は、略長方形の表面を有する平板状の主板部2aと、主板部2aの表面で対向する二つの長辺部の各々から主板部2aに対して湾曲して延在する二つの側板部2bと、主板部2aの表面で対向する二つの短辺部の各々から主板部2aに対して湾曲して延在する二つの側板部2cと、を備える。ブランク材2は、後述する圧縮工程によって減少する分の容積を予め加えた容積を有する。なお、図2では、主板部2aの木目Gがブランク材2の繊維方向と略平行な柾目材を形取った場合を示しているが、形取工程で形取るブランク材は板目材や木口材でもよい。また、ブランク材2の形状はあくまでも一例に過ぎない。すなわち、ここでいう略椀状には、椀状のほか皿状や函形状などの形状も含まれるものとする。
【0022】
次に、形取ったブランク材2を、高温高圧の水蒸気雰囲気中で所定時間放置して、ブランク材2を軟化させる(ステップS2)。この水蒸気雰囲気は、圧力が0.1〜0.6MPa程度であり、温度が100〜160℃程度である。このような水蒸気雰囲気は、圧力容器を用いることによって実現される。圧力容器を用いる場合には、上記水蒸気雰囲気を有する圧力容器の中にブランク材2を放置することによって軟化させればよい。なお、高温高圧の水蒸気雰囲気中でブランク材2を軟化させる代わりに、マイクロ波によってブランク材2を加熱して軟化させてもよい。またブランク材2を煮沸して軟化させてもよい。
【0023】
この後、軟化させたブランク材2を圧縮する(ステップS3)。この工程では、軟化工程と同じ水蒸気雰囲気中で一対の金型を用いてブランク材2を挟持して圧縮力を加えることにより、ブランク材2を軟化工程前とは異なる略椀状に変形させる。圧力容器の中でブランク材2を軟化させた場合には、引き続きその圧力容器の中でブランク材2を圧縮すればよい。
【0024】
図3は、圧縮工程の概要を示すとともに、圧縮工程で使用する圧縮金型100の要部の構成を示す図である。図4は、図3のA−A線断面図である。図3および図4に示すように、ブランク材2は、一対の凹金型101、凸金型102によって挟持され、所定の圧縮力が加えられる。
【0025】
圧縮工程の際にブランク材2の上方から圧縮力を加える凹金型101は、ブランク材2の突出している外側面に当接する平滑面を有する凹部111を備える。主板部2aから側板部2bにかけて湾曲する部分の表面であって凹金型101と対向する側の表面の曲率半径をROとし、この表面に当接する凹部111の表面の曲率半径をRAとすると、二つの曲率半径RO、RAは、RO≧RAという関係を満たす。
【0026】
一方、圧縮工程の際にブランク材2の下方から圧縮力を加える凸金型102は、ブランク材2の窪んでいる内側面に当接する平滑面を有する凸部121を備える。主板部2aから側板部2bにかけて湾曲する部分の表面であって凸金型102と対向する側の表面の曲率半径をRIとし、この表面に当接する凸部121の表面の曲率半径をRBとすると、二つの曲率半径RI、RBは、RI≧RBという関係を満たす。
【0027】
図5は、圧縮工程において、凹金型101および凸金型102によってブランク材2が挟持されて所定の圧力が加えられた状態を示す図であり、ブランク材2の変形がほぼ完了した状態を示す図である。図5に示す状態で、ブランク材2は、凹金型101および凸金型102から圧縮力を受けることにより、軟化工程前とは異なる略椀状に変形する。ここでいう略椀状は、凹金型101と凸金型102が最接近した状態で凹部111および凸部121が形成する隙間に相当する形状である。ここで、凸金型102の凸部121の表面は、本実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法によって形成されるべき圧縮木製品の形状、すなわち後述する加熱整形および保護膜取り付け工程(ステップS6)の後で到達すべき形状(以下、「最終形状」という)と同じ形状をなしている。したがって、圧縮工程後のブランク材2において、凸部121と対向して凹状をなす内側面の形状は、最終形状と略等しくなる。これに対して、凹金型101の凹部111の表面積は、最終形状における略椀状の外側面の表面積よりも大きい。
【0028】
圧縮工程が終了した後、凹金型101および凸金型102によってブランク材2を挟持し、所定の三次元形状に保持したままの状態で、上述した水蒸気雰囲気よりもさらに高温高圧の水蒸気雰囲気を凹金型101および凸金型102の周囲に形成することにより、ブランク材2の形状を固定化する(ステップS4)。このときの水蒸気雰囲気は、圧力が0.6〜3.4MPa程度であるとともに、温度が160〜240℃程度であり、圧縮工程における水蒸気雰囲気よりも高温高圧となるように定められる。この固定化処理を圧力容器中で行う場合には、軟化工程における容器内圧力を上述した範囲に含まれる値とすればよい。
【0029】
続いて、凹金型101、凸金型102、およびブランク材2を大気中へ放出し、ブランク材2を乾燥させる(ステップS5)。この際には、凹金型101と凸金型102を離間することによってブランク材2の乾燥を促進するようにしてもよい。
【0030】
図6は、乾燥工程が終了したブランク材2(以下、「圧縮木材3」という)の構成を示す斜視図である。圧縮木材3の略椀状における内側面の形状は、その外側面の形状よりも最終形状に近い。乾燥工程後の圧縮木材3の主板部3aの肉厚は、圧縮工程前のブランク材2の主板部2aの厚さの20〜50%程度であるのが好ましい。ここで、圧縮木材3は、厚さに若干のバラツキを有している可能性がある。そのため、本実施の形態においては、圧縮木材3の肉厚の最小値が、最終形状の肉厚以上となるように設定されることが望ましい。
【0031】
乾燥工程の後、大気中で圧縮木材3を加熱しながら圧縮木材3と略相似する形状に加熱整形するとともに、保護膜10を圧縮木材3の内壁面に取り付ける(ステップS6)。後述する圧縮木材への樹脂補強部の取り付けにおいて、該樹脂補強部の材料である合成樹脂を溶融し射出成形させて圧縮木材に取り付けている。保護膜はこの溶融した合成樹脂を通さない材料からなり、たとえば、金属箔または熱硬化性樹脂が使用される。金属箔は、アルミ、銅、錫、鉛、青銅、洋白、ステンレス、チタン合金、ニッケルなどが使用できる。また、熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、シリコン樹脂などが使用される。また、耐熱性および耐油性を有する紙なども使用することができる。
【0032】
加熱整形および保護膜取付工程は、図7に示す加熱整形装置200を使用して行う。図7は、加熱整形及び保護膜取付工程の概要を模式的に示す図である。例えば、アルミ箔を保護膜として使用する場合、図8に示すように、加熱整形装置200の加熱整型用凸金型202上に保護膜10として使用するアルミ箔を重ね合わせた後、圧縮木材3の加熱整形と保護膜10の取り付けを並行して行う。加熱整形および保護膜取付工程では、一対の加熱整形用凹金型201および保護膜10で表面を覆われた加熱整形用凸金型202を用いて圧縮木材3を挟持することにより、圧縮木材3を整形すると同時に、圧縮木材3の内壁面に保護膜10を取り付ける。
【0033】
加熱整形用凹金型201および加熱整形用凸金型202の内部には、熱を発生するヒータ203、204がそれぞれ設けられている。ヒータ203、204は、温度制御機能を有する制御装置205にそれぞれ接続されており、制御装置205のもとで発熱し、加熱整形用凹金型201および加熱整形用凸金型202にそれぞれ熱を加える。制御装置205は、圧縮木材3を挟持している時の金型温度を、木質部の非結晶領域が結晶化する温度以上であって木質部の熱分解温度以下となるように制御する。
【0034】
図9に示すように、圧縮木材3を、制御装置205で加熱整形用凹金型201と加熱整形用凸金型202とを加熱制御しながら型締めすることにより、保護膜10を圧縮木材3の内壁面に付着させるとともに、圧縮木材3を最終形状に整形することができる。圧縮木材3を加熱整形により最終形状に圧縮成形する際、圧縮木材3から漏出した樹液により保護膜10は圧縮木材3内壁面に接着される。また、ブランク材3は、加熱整形工程の最中に木質部の結晶化が進むと同時に木質部の密度が一段と高くなるため、木質部の表面硬度が増加する。その結果、吸湿がなく形状安定性に優れた圧縮木材を得ることができる(以下、加熱整形工程まで終了した圧縮木材3を「圧縮木材4」という)。
【0035】
加熱整形用凹金型201の凹部211の表面積は、図4等に示す凹金型101の凹部111の表面積よりも小さく、整形代がほぼ均一に設けられているため、加熱整形時に圧縮木材3の外側表面に働く引っ張り力を極力抑えることができる。したがって、加熱整形時における圧縮木材3の表面の割れ等を防止することができる。
【0036】
また、圧縮木材3の表面を大気中で加熱整形することにより、木質部の細胞壁の内部に含まれている物質が表面に抽出され、保護膜10を接着するとともに、その表面に色、艶を生じる。その結果、木材ならではの独特の風合いを醸し出すことができる。なお、金属材料による保護膜は、上述した金属箔を使用するほか、圧縮木材3に金属を蒸着させることにより保護膜を形成してもよい。
【0037】
図10は、圧縮木材3を加熱整形することによって得られる圧縮木材4の構成を示す斜視図である。同図に示す圧縮木材4は、圧縮木材3の主板部3aおよび側板部3b、3cにそれぞれ対応する主板部4aおよび側板部4b、4cを有するとともに、内壁面には一様の厚さの保護膜10を備える。本実施の形態1では加熱整型用凸金型202上に金属箔を重ねた後加熱整形して保護膜を形成しているが、圧縮木材3の内壁面に金属箔を重ねて合わせた後、同様に加熱整形して保護膜を形成することとしてもよい。
【0038】
加熱整形後、圧縮木材4の内壁面に対し、補強部材として、ポリカーボネート、ABS、またはポリプロピレンなどから成る合成樹脂を付着固定させ、所定の形状をなす樹脂補強部を成形する(ステップS7)。図11は、この樹脂補強部成形工程の概要を示す図であり、図10の圧縮木材4のB−B線断面図に相当する部分を示す断面図である。この図11に示す場合、圧縮木材4は、コア金型301(射出成形金型)とキャビティ金型300(射出成形金型)との間の所定の位置に配置される。コア金型301には、加熱溶融した合成樹脂を射出する射出部303の下端に設けられた吐出用のノズルに接続するスプルー302が形成されている。このスプルー302は、成形部分と同じ形状をなす空間部305a、305b、305cなどに接続されており、それらの空間部305a〜305cを含む空間部に溶融した合成樹脂を注入するための流路をなす。
【0039】
以上の構成を有する射出成形金型(コア金型301およびキャビティ金型300)を加熱してその温度を120℃程度とした後、300℃程度に加熱溶融した合成樹脂を射出部303から射出することにより、各空間部に合成樹脂を注入する。この注入した合成樹脂が固化した後、コア金型301とキャビティ金型300とを離間する。その際には、固化した合成樹脂を突き当てピン304によってコア金型301から取り外しながらコア金型301をキャビティ金型300に対して上昇させる。
【0040】
図12は、樹脂補強部成形工程を経て完成した圧縮木材5の構成を示す斜視図である(以下、樹脂補強部成形工程まで終了した圧縮木材4を「圧縮木材5」という)。圧縮木材5は、圧縮木材4の主板部4aおよび側板部4b、4cにそれぞれ対応する主板部5aおよび側板部5b、5cを備え、主板部5aの内壁面に、合成樹脂部の一部としてボス52、53、54、およびリブ55、56が形成されている。これらのボスやリブは連結部50(合成樹脂部の一部)を介して一体的に繋がった一連の形状をなしている。図12を図11と比較すれば明らかなように、空間部305aがボス52に対応し、空間部305bがリブ55に対応し、空間部305cが連結部50のモールド部分に対応している。このモールド部分は連結部50等の保護膜10との接触面を介し保護膜10と接着している。保護膜10と連結部50との接着力が所望する程度に得られない場合は、連結部50を圧縮木材5の主板部5aにビス止めして固定してもよい。
【0041】
このように、樹脂補強部成形工程においては、内壁面に保護膜10を備えた圧縮木材4に対して溶融樹脂の射出成形を行っているため、圧縮木材4への溶融樹脂の含浸を防止して、木目や風合いが損なわれない圧縮木材5を製造することが可能になる。また、圧縮木材4に対して通常の射出成形技術を適用することにより、補強部材としての樹脂補強部を圧縮木材4に対して容易にかつ確実に付着固定させることができる。圧縮木材4は、無圧縮状態の木材とは異なり形状が固定されている。このため、樹脂補強部を成形することによって圧縮木材5の形状や圧縮木材5の繊維方向等の条件に応じた補強を容易にかつ適確に実現することができる。なお、樹脂補強部成形工程は上述した方法に限定されるわけではなく、一般的な射出成形技術(アウトサート成形、インサート成形、モールド成形などに関する技術を含む)の中から、圧縮木材の形状や素材、樹脂補強部の形状や素材などの条件に応じて最適な方法を選択すればよい。
【0042】
樹脂補強部成形工程の後、圧縮木材5の所定箇所に切削等によって開口部や切欠きなどを形成し、最終形状である圧縮木製品とする。このような開口部を有する圧縮木材を用いて製造される圧縮木製品は、例えば小型デジタルカメラの外装材の一部をなすカバー部材として使用される。
【0043】
以上説明した本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の製造方法によれば、樹脂補強部を簡易に取り付けることができるだけでなく、樹脂補強部を射出成形により圧縮木材に取り付ける際に、保護膜により溶融樹脂の圧縮木材への含浸を遮蔽することができるので、圧縮木材の木目や風合いを損なうことなく樹脂補強部を取り付けることが可能となる。
【0044】
一方、本実施の形態1の変形例として、保護膜を熱硬化性樹脂で形成し、圧縮木材の内壁面に取り付けた後、樹脂補強部を成形する圧縮木製品の製造方法が例示される。本実施の形態1の変形例に係る保護膜は、図13および図14に示す加熱整形装置200Aを使用して成形する。
【0045】
図13および図14は、本発明の実施の形態1の変形例に係る圧縮木製品の製造工程の保護膜取付工程の概要を示す図である。加熱整形用凸金型208上に未硬化の液状熱硬化性樹脂10aを所定量載置した後、加熱整形用凹金型206および加熱整形用凸金型208により液状熱硬化性樹脂10aを挟持して、制御装置205の制御のもと、加熱整形用凹金型206および加熱整形用凸金型208内に内蔵されるヒータ207および209で液状熱硬化性樹脂10aを加熱することにより、熱硬化性樹脂の保護膜10bを形成する。保護膜10bの外壁面の形状は、保護膜10bが取り付けられる加熱整形された圧縮木材3の内壁面の形状と同一形状とするのが好ましい。したがって、加熱整形用凹金型206の凹部210の形状は、加熱整形工程後の圧縮木材3の内壁面の形状と同一とする。形成された保護膜10bは、図7に示す加熱整形装置200を用いて、圧縮木材3とともに加熱整形することにより、最終形状に加熱整形された圧縮木材3の内壁面に接着される。
【0046】
本発明の実施の形態1に係る変形例では、加熱整形装置200Aを使用して保護膜10bを形成したが、保護膜10bの外壁面の形状を加熱整形後の圧縮木材3の内壁面の形状と略同一形状に成形できるものであれば、加熱整形装置はいかなる構成を有していてもよい。
【0047】
また、硬化剤添加により硬化する二液混合型の熱硬化性樹脂や、常温硬化する熱硬化性樹脂を保護膜として使用する場合は、二液混合型の熱硬化性樹脂または常温硬化型の熱硬化性樹脂を加熱整形装置200の加熱整形用凸金型202に塗布し、二液混合型の熱硬化性樹脂または常温硬化型の熱硬化性樹脂を硬化させた後、加熱整形装置200により、圧縮木材3とともに加熱整形することにより圧縮木材3の内壁面に接着してもよい。
【0048】
あるいは、圧縮木材3の内壁面に直接二液混合型の熱硬化性樹脂または常温硬化型の熱硬化性樹脂を塗布し、二液混合型の熱硬化性樹脂または常温硬化型の熱硬化性樹脂が硬化した後、加熱整形装置200を用いて、圧縮木材3とともに加熱整形することにより圧縮木材3の内壁面に接着してもよい。
【0049】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法は、ブランク材を最終形状の圧縮木材に加熱整形し、開口部を形成した後、あらかじめ圧縮木材の形状等に合わせて成形した保護膜を取り付け、樹脂補強部を射出成形により取り付ける。
【0050】
図15は、本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法の処理の概要を示すフローチャートである。ステップS21〜ステップS25は、実施の形態1のステップS1〜ステップS5と同様に、原木から略椀状をなすブランク材2を形取り(ステップS21)、形取ったブランク材2を、高温高圧の水蒸気雰囲気中で所定時間放置して、ブランク材2を軟化し(ステップS22)、軟化させたブランク材2を圧縮後(ステップS23)、圧縮された圧縮木材の形状を固定化し(ステップS24)、圧縮木材を乾燥させる(ステップS25)。
【0051】
乾燥工程の後、大気中で圧縮木材を加熱しながら圧縮木材と略相似する形状に整形する(ステップS26)。実施の形態2に係る圧縮木製品の製造方法の加熱整形工程(ステップS26)は、図7および図9に示す加熱整形装置において、加熱整形用凸金型202に保護膜10を取り付けていない状態で、加熱整形用凹金型201および加熱整形用凸金型202により圧縮木材3を加熱しながら挟持して整形する。図16は、圧縮木材3を加熱整形することによって得られる圧縮木材6の構成を示す斜視図である(以下、加熱整形工程まで終了した圧縮木材3を「圧縮木材6」という)。同図に示す圧縮木材6は、圧縮木材3の主板部3aおよび側板部3b、3cにそれぞれ対応する主板部6aおよび側板部6b、6cを有する。
【0052】
加熱整形工程の後、圧縮木材6の所定箇所に切削等によって開口部を形成する(ステップS27)。図17は、開口部形成工程後の圧縮木材7の構成を示す斜視図である(以下、開口部形成工程まで終了した圧縮木材6を「圧縮木材7」という)。同図に示す圧縮木材7は、圧縮木材6の主板部6aおよび側板部6b、6cにそれぞれ対応する主板部7aおよび側板部7b、7cを有するとともに、開口部71を有する。
【0053】
開口部71形成後、圧縮木材7の内壁面に保護膜10cを取り付ける(ステップS28)。樹脂補強部を射出成形する際、保護膜10cは溶融した合成樹脂の圧縮木材7への含浸を遮断する。図18に示すように、保護膜10cの外壁面は圧縮木材7の内壁面と隙間なく密着する形状に加工し、金属または熱硬化性樹脂等を原料として、切削または鋳造等により形成する。保護膜10cは、その中央部に、圧縮木材7の開口部71に対応する開口部13を有し、開口部13から鉛直方向に圧縮木材7の開口部71を覆う縦壁部12を有する。縦壁部12の外径は圧縮木材7の開口部71の内径と同一であり、また、縦壁部12は圧縮木材7の開口部71の内壁面をすべて覆う形状とする。使用される金属および熱硬化性樹脂は、実施の形態1と同様の材料が使用できる。保護膜10cは、接着剤等により圧縮木材7の内壁面に取り付けられる。
【0054】
図19は、圧縮木材7に保護膜10cを取り付けた圧縮木材8の構成を示す斜視図である(以下、保護膜取付工程まで終了した圧縮木材7を「圧縮木材8」という)。同図に示す圧縮木材8は、圧縮木材7の主板部7aおよび側板部7b、7cにそれぞれ対応する主板部8aおよび側板部8b、8cを有し、また、開口部71に対応する開口部81を有するとともに、内壁面には一様の厚さの保護膜10cを備える。
【0055】
保護膜10cの取り付け後、圧縮木材8の内壁面に対し、補強部材として、ポリカーボネート、ABS、またはポリプロピレンなどから成る合成樹脂を付着固定させ、所定の形状をなす樹脂補強部を成形する(ステップS29)。図20は、この樹脂補強部成形工程の概要を示す図であり、図19の圧縮木材8のC−C線断面図に相当する部分を示す断面図である。この図20に示す場合、圧縮木材8は、コア金型311(射出成形金型)とキャビティ金型310(射出成形金型)との間の所定の位置に配置される。コア金型311には、加熱溶融した合成樹脂を射出する射出部313の下端に設けられた吐出用のノズルに接続するスプルー312が形成されている。このスプルー312は、成形部分と同じ形状をなす空間部315a、315b、315cなどに接続されており、それらの空間部315a〜315cを含む空間部に溶融した合成樹脂を注入するための流路をなす。
【0056】
以上の構成を有する射出成形金型(コア金型311およびキャビティ金型310)を加熱してその温度を120℃程度とした後、300℃程度に加熱溶融した合成樹脂を射出部313から射出することにより、各空間部に合成樹脂を注入する。この注入した合成樹脂が固化した後、コア金型311とキャビティ金型310とを離間する。その際には、固化した合成樹脂を突き当てピン314によってコア金型311から取り外しながらコア金型311をキャビティ金型310に対して上昇させる。
【0057】
図21は、樹脂補強部成形工程を経て完成した圧縮木製品9の構成を示す斜視図である(以下、樹脂補強部成形工程まで終了した圧縮木材8を「圧縮木製品9」という)。圧縮木製品9は、圧縮木材8の主板部8aおよび側板部8b、8cにそれぞれ対応する主板部9aおよび側板部9b、9cを備え、主板部9aの内壁面に、合成樹脂部の一部としてボス92、93、94、およびリブ95、96が形成されている。これらのボスやリブは連結部90(樹脂補強部の一部)を介して一体的に繋がった一連の形状をなしている。図21を図20と比較すれば明らかなように、空間部315aがボス92に対応し、空間部315bがリブ95に対応し、空間部315cが連結部90のモールド部分に対応している。このモールド部分は連結部90等の保護膜10cとの接触面を介し保護膜10cと接着している。保護膜10cと連結部90との接着力が所望する程度に得られない場合は、連結部90を圧縮木製品9の主板部9aにビス止めして固定してもよい。
【0058】
このように、樹脂補強部成形工程においては、内壁面に保護膜10cを備えた圧縮木材8に対して溶融樹脂の射出成形を行っているため、圧縮木材8への溶融樹脂の含浸を防止して、木目や風合いが損なわれない圧縮木製品9を製造することができる。また、圧縮木材8に対して通常の射出成形技術を適用することにより、補強部材としての樹脂補強部を圧縮木材8に対して容易にかつ確実に付着固定させることができる。圧縮木材8は、無圧縮状態の木材とは異なり形状が固定されている。このため、合成樹脂部を形成することによって圧縮木製品9の形状や圧縮木製品9の繊維方向等の条件に応じた補強を容易にかつ適確に実現することができる。
【0059】
本実施の形態2では、保護膜10cを接着剤により圧縮木材7に取り付けているが、図22に示すような保護膜10dを圧縮木材7に取り付けてもよい。図22は、本発明の実施の形態2の変形例1に係る圧縮木製品の製造工程の保護膜10dの概要を示す図である。図22に示すように、保護膜10dは、圧縮木材7と接する外壁面に複数の突起部14を備える。保護膜10dを圧縮木材7に押圧し、突起部14を圧縮木材7の内壁面内に突出させることにより保護膜10dを圧縮木材7に取り付ける。保護膜10dは、保護膜10cと同様の材料を用いて、図22に示すような形状に予め切削または鋳造等により加工される。このような保護膜10dを圧縮木材7に取り付けた場合も、樹脂補強部成形の際、溶融した樹脂の圧縮木材への含浸を防止することが出来る。
【0060】
本実施の形態2において、硬化剤添加により硬化する二液混合型の熱硬化性樹脂や、常温硬化する熱硬化性樹脂を保護膜として使用する場合は、二液混合型の熱硬化性樹脂または常温硬化型の熱硬化性樹脂を開口部形成工程まで終了した圧縮木材7の内壁面に直接塗布し、二液混合型の熱硬化性樹脂または常温硬化型の熱硬化性樹脂が硬化した後、所定の形状をなす樹脂補強部を成形するようにしてもよい。
【0061】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3に係る圧縮木製品の製造方法は、ブランク材を軟化し、圧縮力を加えることによって軟化前とは異なる略椀状の圧縮木材に圧縮する圧縮工程において、保護膜を取り付け、その後、圧縮木材の固定化、乾燥および加熱整形を行った後、樹脂補強部を射出成形により取り付ける。
【0062】
図23は、本発明の実施の形態3に係る圧縮木製品の製造方法の処理の概要を示すフローチャートである。ステップS31およびステップS32は、実施の形態1のステップS1およびステップS2と同様に、原木から略椀状をなすブランク材2を形取り(ステップS31)、形取ったブランク材2を、高温高圧の水蒸気雰囲気中で所定時間放置して、ブランク材2を軟化する(ステップS32)。形取工程および軟化工程は、実施の形態1と同様にして行なう。
【0063】
この後、ブランク材2を圧縮するとともに、ブランク材2の内壁面に保護膜を取り付ける(ステップS33)。この工程では、軟化工程と同じ水蒸気雰囲気中で一対の金型、凹金型101、凸金型103を用いてブランク材2を挟持して圧縮力を加えることにより、ブランク材2を軟化工程前とは異なる略椀状に変形させるとともに、ブランク材2の内壁面に保護膜10dを取り付ける。実施の形態3で保護膜の材料として使用される金属および熱硬化性樹脂は、実施の形態1と同様の材料が使用できる。
【0064】
図24は、圧縮工程の概要を示すとともに、圧縮工程で使用する圧縮金型100Aの要部の構成を示す図である。図25は、図24のD−D線断面図である。図24および図25に示すように、ブランク材2は、凸部に保護膜10dが重ね合わせられた凸金型103と、凹金型101によって挟持され、所定の圧縮力が加えられることにより、ブランク材2を圧縮するとともに、ブランク材2の内壁面に保護膜10dを取り付ける。
【0065】
図26は、圧縮工程において、凹金型101および凸金型103によってブランク材2が挟持されて所定の圧力が加えられた状態を示す図であり、ブランク材2の変形がほぼ完了した状態を示す図である。図26に示す状態で、ブランク材2は、凹金型101および凸金型103から圧縮力を受けることにより、軟化工程前とは異なる略椀状に変形するとともに、内壁面に保護膜10dが取り付けられる。
【0066】
圧縮工程が終了した後、凹金型101および凸金型103によってブランク材2を挟持し、所定の三次元形状に保持したままの状態で、上述した水蒸気雰囲気よりもさらに高温高圧の水蒸気雰囲気を凹金型101および凸金型103の周囲に形成することにより、ブランク材2の形状を固定化する(ステップS34)。その後、凹金型101、凸金型103、およびブランク材2を大気中へ放出し、ブランク材2を乾燥させる(ステップS35)。固定化工程および乾燥工程は、実施の形態1と同様にして行なう。
【0067】
図27は、乾燥工程が終了したブランク材2(以下、「圧縮木材11」という)の構成を示す斜視図である。圧縮木材11は、ブランク材2の主板部2aおよび側板部2b、2cにそれぞれ対応する主板部11aおよび側板部11b、11cを有するとともに、内壁面には一様の厚さの保護膜10dを備える。本実施の形態3では凸金型103上に保護膜10dを重ねた後圧縮して保護膜を取り付けているが、ブランク材2の内壁面に保護膜10dを重ねて合わせた後、同様に圧縮して保護膜10dを取り付けてもよい。
【0068】
乾燥工程の後、大気中で圧縮木材11を加熱しながら圧縮木材11と略相似する形状に整形する(ステップS36)。加熱整形工程の後、圧縮木材11の内壁面に対し、補強部材として、ポリカーボネート、ABS、またはポリプロピレンなどから成る合成樹脂を射出成形により付着固定させ、所定の形状をなす樹脂補強部を成形する(ステップS37)。
【0069】
実施の形態3では、圧縮工程において、ブランク材2を圧縮するのと並行してブランク材2の内壁面に保護膜10dを取り付け、固定、乾燥工程後、加熱整形工程を経て樹脂補強部を成形する。実施の形態3に係る圧縮木製品の製造方法においても、内壁面に保護膜10dを備えた圧縮木材に対して溶融樹脂の射出成形を行っているため、圧縮木材への溶融樹脂の含浸を防止して、木目や風合いが損なわれない圧縮木製品を製造することが可能になる。なお、本実施の形態3では、樹脂補強部成形工程前に加熱整形を行う方法を例示しているが、これはあくまで例示であって、加熱整形を行わずに樹脂補強部を成形しても同様の効果を得ることが可能である。
【0070】
ここで、本実施の形態3の変形例として、保護膜を熱硬化性樹脂で形成し、形成した保護膜をブランク材の圧縮工程において並行して取り付けた後、樹脂補強部を成形する圧縮木製品の製造方法が例示される。本実施の形態3の変形例に係る保護膜は、図28および図29に示す加熱整形装置200Bを使用して成形する。
【0071】
図28および図29は、本発明の実施の形態3の変形例に係る圧縮木製品の製造工程の保護膜取付工程の概要を示す図である。加熱整形用凸金型213上に未硬化の液状熱硬化性樹脂10aを所定量載置した後、加熱整形用凹金型211および加熱整形用凸金型213により液状熱硬化性樹脂10aを挟持して、制御装置205の制御のもと、加熱整形用凹金型211および加熱整形用凸金型213内に内蔵されるヒータ212および214で液状熱硬化性樹脂10aを加熱することにより、熱硬化性樹脂の保護膜10eを形成する。保護膜10eの外壁面の形状は、保護膜10eが取り付けられる圧縮されたブランク材2の内壁面の形状と同一形状とするのが好ましい。したがって、加熱整形用凹金型211の凹部215の形状は、圧縮されたブランク材2の内壁面の形状と同一とする。形成された保護膜10eは、図24および図25に示す圧縮金型100Aにより、ブランク材2とともに圧縮することによりブランク材2の内壁面に接着される。
【0072】
本発明の実施の形態3に係る変形例では、加熱整形装置200Bを使用して保護膜10eを形成したが、保護膜10eの外壁面の形状が圧縮されたブランク材2の内壁面の形状と略同一形状に成形できるものであれば、加熱整形装置はいかなる構成を有していてもよい。
【0073】
また、硬化剤添加により硬化する二液混合型の熱硬化性樹脂や、常温硬化する熱硬化性樹脂を保護膜として使用する場合は、二液混合型の熱硬化性樹脂または常温硬化型の熱硬化性樹脂を圧縮金型100Aの凸金型103に塗布し、二液混合型の熱硬化性樹脂または常温硬化型の熱硬化性樹脂を硬化させた後、図24等に示す圧縮金型100Aを用いて、ブランク材2とともに圧縮することにより、圧縮されたブランク材2の内壁面に接着してもよい。
【0074】
あるいは、ブランク材2の内壁面に直接二液混合型の熱硬化性樹脂または常温硬化型の熱硬化性樹脂を塗布し、二液混合型の熱硬化性樹脂または常温硬化型の熱硬化性樹脂が硬化した後、圧縮金型100Aを用いて、ブランク材2とともに圧縮することによりブランク材2の内壁面に接着してもよい。
【0075】
なお、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品は、電子機器用外装体として有用であり、特にデジタルカメラの外装体として好適に使用できる。また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品は、例えば食器、各種筐体、建材などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 原木
2 ブランク材
2a、3a、4a、5a、6a、7a、8a、9a、11a 主板部
2b、2c、3b、3c、4b、4c、5b、5c、6b、6c、7b、7c、8b、8c、9b、9c、11b、11c 側板部
3、4、5、6、7、8、11 圧縮木材
9 圧縮木製品
10、10b、10c、10d、10e 保護膜
71、81、91 開口部
50、90 連結部
52、53、54、92、93、94 ボス
55、56、95、96 リブ
100、100A 圧縮金型
101 凹金型
102、103 凸金型
111、210、215 凹部
121、221 凸部
200、200A、200B 加熱整形装置
201、206、211 加熱整形用凹金型
202、208、213 加熱整形用凸金型
203、204、207、209、212、214 ヒータ
205 制御装置
300、310 キャビティ金型
301、311 コア金型
302、312 スプルー
303、313 射出部
304、314 突き当てピン
305a、305b、305c、315a、315b、315c 空間部
G 木目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材を圧縮することによって曲面を含む三次元形状を有する圧縮木製品を製造する圧縮木製品の製造方法であって、
略椀状をなす木材からなるブランク材を軟化し、圧縮力を加えることによって軟化前とは異なる略椀状の圧縮木材を形成する圧縮工程と、
前記圧縮木材の内壁面に、溶融した合成樹脂を通さない材料からなる保護膜を取り付ける保護膜取付工程と、
前記保護膜が内壁面に取り付けられた圧縮木材を射出成形用金型に配置し、合成樹脂を射出成形することによって前記保護膜上に所定形状の樹脂補強部を成形する樹脂補強部成形工程と、
を含むことを特徴とする圧縮木製品の製造方法。
【請求項2】
前記圧縮工程および前記保護膜取付工程は、並行して行なうことを特徴とする請求項1に記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項3】
前記保護膜の外壁面の形状は、前記圧縮工程後の圧縮木材の内壁面の形状と同一であることを特徴とする請求項2に記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項4】
前記圧縮工程後、前記圧縮木材を大気中で加熱しながら圧縮して該圧縮木材の形状と略相似する形状に整形する加熱整形工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項5】
前記加熱整形工程および前記保護膜取付工程は、並行して行なうことを特徴とする請求項4に記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項6】
前記保護膜取付工程は、前記加熱整形工程の後に行うことを特徴とする請求項4に記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項7】
前記保護膜の外壁面の形状は、前記加熱整形工程後の圧縮木材の内壁面の形状と同一であることを特徴とする請求項5または6に記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項8】
前記保護膜の材料は、金属または熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂補強部は、一連の形状をなすことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂補強部の一部は、ボス状および/またはリブ状をなすことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の圧縮木製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2012−45906(P2012−45906A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192615(P2010−192615)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】