説明

圧縮機の製造方法および圧縮機

【課題】圧縮機の胴体ケーシングに対して内部部品を溶接しつつ、内部部品の位置精度の確保が容易となる圧縮機の製造方法を提供する。
【解決手段】圧縮機の製造方法は、第1工程と、第2工程とを備えている。製造される圧縮機は、ケーシング10および下部主軸受60を備える。ケーシング10は、その胴体ケーシング部11の内面に被溶接部を有している。下部主軸受60は、ケーシング10の内部に収容されるものであり、被溶接部に対向する外周部61を有している。第1工程では、胴体ケーシング11の被溶接部と下部主軸受60の外周部61とを対面させる。第2工程では、被溶接部と外周部61との対面部分の少なくとも一部に、胴体ケーシング部11の内面に沿うようにレーザー光を照射して、ケーシング10と下部主軸受60とをレーザー溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍装置などにおいて冷媒を圧縮するために、スクロール圧縮機やロータリー圧縮機といった圧縮機が従来から広く用いられている。
これらの圧縮機において、胴体ケーシングに対して、ケーシングの内部に配置される内部部品を、スポット溶接で固定することが行われている。例えば、特許文献1の圧縮機では、モータの回転軸を軸支する軸受と胴体ケーシングとが、複数位置において胴体ケーシングの外側からスポット溶接されて接合している。具体的には、胴体ケーシングに穴を開け、その穴に溶加材を用いてアーク溶接(TIG溶接など)を行うことで、胴体ケーシングに軸受を固定するとともに胴体ケーシングに開けていた穴を塞いでいる。
【特許文献1】特開2000−104691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のスクロール圧縮機の軸受やロータリー圧縮機のシリンダなどの内部部品は、圧縮機において極めて高い位置精度が確保されている必要がある。もしも、溶接時の入熱による歪みが大きくなって圧縮機の内部部品の位置精度が悪化すると、内部部品等の摩耗量が大きくなったり圧縮機の性能が低下したりする。
しかし、近年のCO2(二酸化炭素)冷媒を圧縮するための圧縮機などでは、従来のフロン系冷媒に較べて圧縮機内での圧力が高くなるため、ケーシングの板厚を大きくする傾向にある。例えば、従来であれば3〜4mmであったケーシングの板厚が、最近のC02圧縮機の場合には、8〜10mmにまで厚くなっている。このようなケーシングを備える圧縮機において、アーク溶接によって胴体ケーシングに内部部品を固定する従来の方法を採用すると、入熱量が大きくなりすぎて、内部部品の位置精度を確保することが難しくなる。一方、高い位置精度が要求される内部部品を直接胴体ケーシングに溶接するのではなく、マウンティングプレートを胴体ケーシングに溶接し、内部部品をマウンティングプレートに対してボルトで締結するという方法を採ることが考えられるが、この方法を採る場合にはコストアップや圧縮機の大型化が懸念される。
【0004】
本発明の課題は、圧縮機の胴体ケーシングに対して内部部品を溶接しつつ、内部部品の位置精度の確保が容易となる圧縮機の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1発明に係る圧縮機の製造方法は、第1工程と、第2工程とを備えている。製造される圧縮機は、ケーシングおよび内部部品を備える。ケーシングは、内面に第1部を有している。内部部品は、ケーシングの内部に収容されるものであり、第1部に対向する第2部を有している。第1工程では、ケーシングの第1部と内部部品の第2部とを対面させる。第2工程では、第1部と第2部との対面部分の少なくとも一部に、ケーシングの内面に沿うようにレーザー光を照射して、ケーシングと内部部品とをレーザー溶接する。
【0006】
ここでは、従来のようにアーク溶接によりケーシングと内部部品とを溶接するのではなく、レーザー溶接により両者の溶接を行っている。
ただ、ケーシングの外側からケーシングを貫通させる形でレーザーを照射するのでは、ケーシングの板厚が大きい場合には、時間をかけて入熱量を多く確保しなければ、ケーシングと内部部品との溶け込み領域が小さくなってしまう。一方、入熱量を大きくすると、歪みによって内部部品の位置精度の確保が難しくなる。
【0007】
これに鑑み、第1発明では、ケーシングの内面の第1部と、その第1部に接する内部部品の第2部との対面部分に対して、ケーシングの内面に沿う角度で直接レーザー光を照射している。このように、ここでは、ケーシングの内側から第1部と第2部との対面部分に直接レーザー光を照射してレーザー溶接をする方法を採ることで、比較的少ない入熱量で両者の溶け込み領域を大きくして接合部分の強度を確保している。
【0008】
また、レーザー溶接によりケーシングと内部部品とを直接溶接するため、従来用いていたマウンティングプレートなどの仲介部材を介在させる必要がなくなり、コストダウンや圧縮機の小型化を図ることができる。
なお、同じ入熱量である場合、ケーシングの外側からレーザー光を照射してケーシングを貫通させて内部部品を溶接する方法に較べ、両者の対面部分に直接レーザー光を当てる本発明の方法を採ったほうが、接合部分の強度が高くなる。
【0009】
第2発明に係る圧縮機の製造方法は、第1発明の方法であって、ケーシングの第1部の厚みが5mm以上である。
このようにケーシングが厚い場合、ケーシングの外側からレーザー光を貫通させてケーシング内面の第1部と内部部品の第2部とを溶接しようとすると、溶接領域が小さくなったり、溶接領域を確保させるために内部部品に大きな入熱が加わったりする。
【0010】
しかし、ここでは第1部と第2部との対面部分にケーシングの内側から直接レーザー光を当てる方法を採っているため、小さな入熱量で十分な溶接領域を確保することができる。
なお、本発明は、ケーシングの板厚が7mmを超えるような場合に、特にその効果が顕著となる。
【0011】
第3発明に係る圧縮機の製造方法は、第1又は第2発明の方法であって、圧縮機は、スクロール式の圧縮機であり、回転機械および回転機械の回転軸を軸支する軸受を有する回転機構を備えている。また、内部部品は、回転機構の軸受である。
ここでは、回転機械の回転軸の芯の位置精度を比較的容易に確保することができる。
【0012】
第4発明に係る圧縮機の製造方法は、第1又は第2発明の方法であって、圧縮機は、ロータリー式の圧縮機であり、シリンダ部材およびシリンダ部材の開口を塞ぐヘッド部材を有する圧縮機構を備えている。また、内部部品は、シリンダ部材あるいはヘッド部材である。
ここでは、圧縮機構の構成部品であるシリンダ部材やヘッド部材の相対位置精度などを比較的容易に確保することができ、圧縮機の振動や圧縮機構の各部品の摩耗量を所定の設計値の範囲内に収めることができる。
【0013】
第5発明に係る圧縮機の製造方法は、第4発明の方法であって、内部部品は、半溶融/半凝固ダイキャストにより成形されたシリンダ部材あるいはヘッド部材である。
ここでは、半溶融/半凝固ダイキャストによりニアネットシェイプに部材を成形することができて切削加工等の機械加工処理が少なくて済み、また、FC材よりも溶接強度が高くなる。
【0014】
第6発明に係る圧縮機の製造方法は、第4又は第5発明の方法であって、圧縮機は、シリンダ部材およびヘッド部材により形成される空間の中で偏芯回転するロータを回す回転機械をさらに備えている。ヘッド部材は、シリンダ部材の回転機械側に位置する第1ヘッド部材と、シリンダ部材を挟んで第1ヘッド部材と対向する第2ヘッド部材とから成っている。内部部品は、第2ヘッド部材である。そして、第2工程では、ケーシングの第1部と、第2ヘッド部材の第2部との対面部分に、回転機械が存在する側とは反対の側からレーザー光を照射する。
ここでは、シリンダ部材、第1ヘッド部材および第2ヘッド部材を有する圧縮機構の片側(シリンダ部材から見て第1ヘッド部材側)に回転機械が存在するが、レーザー光の照射は反対側(シリンダ部材から見て第2ヘッド部材側)から行うため、回転機械がレーザー溶接を妨げる恐れが少なくなる。
【0015】
第7発明に係る圧縮機の製造方法は、第1〜第6発明のいずれかの方法であって、第2工程において、レーザー光は、ケーシングの内面に対して30度以下の角度で照射される。
【0016】
第8発明に係る圧縮機の製造方法は、第1〜第7発明のいずれかの方法であって、第2工程において、レーザー光は、第1部と第2部との対面部分に対し全周にわたって照射される。
ここでは、全周にわたってレーザー溶接が為されるため、CO2を冷媒とする冷凍機械に圧縮機が用いられて内部圧力が非常に高くなるような場合でも、ケーシングから内部部品が外れるといった恐れが殆どなくなる。
【0017】
第9発明に係る圧縮機は、内面に第1部を有するケーシングと、そのケーシングの内部に収容され第1部に対向する第2部を有する内部部品とを備えている。第1部と第2部とは、ケーシングの内面に沿うようにレーザー光が照射され、レーザー溶接されている。
【0018】
第10発明に係る圧縮機は、第9発明の圧縮機であって、圧縮対象が、二酸化炭素冷媒である。
【0019】
第11発明に係る圧縮機は、第9又は第10発明の圧縮機であって、ケーシングの第1部は、厚みが5mm以上である。
【0020】
第12発明に係る圧縮機は、第9〜第11発明のいずれかの圧縮機であって、スクロール式の圧縮機である。この圧縮機は、回転機構をさらに備えている。回転機構は、回転機械と、その回転機械の回転軸を軸支する軸受とを有している。そして、ケーシングにレーザー溶接される内部部品は、回転機構の軸受である。
【0021】
第13発明に係る圧縮機は、第9〜第11発明のいずれかの圧縮機であって、ロータリー式の圧縮機である。この圧縮機は、圧縮機構をさらに備えている。圧縮機構は、シリンダ部材と、そのシリンダ部材の開口を塞ぐヘッド部材とを有している。そして、ケーシングにレーザー溶接される内部部品は、シリンダ部材あるいはヘッド部材である。
【0022】
第14発明に係る圧縮機は、第13発明の圧縮機であって、ケーシングにレーザー溶接される内部部品は、半溶融/半凝固ダイキャストにより成形されたシリンダ部材あるいはヘッド部材である。
【0023】
第15発明に係る圧縮機は、第13又は第14発明の圧縮機であって、回転機械をさらに備えている。回転機械は、シリンダ部材およびヘッド部材により形成される空間の中で偏芯回転するロータを回す。ヘッド部材は、シリンダ部材の回転機械側に位置する第1ヘッド部材と、シリンダ部材を挟んで第1ヘッド部材と対向する第2ヘッド部材とを有している。そして、ケーシングにレーザー溶接される内部部品は、第2ヘッド部材である。ケーシングの第1部と、第2ヘッド部材の第2部との対面部分には、回転機械が存在する側とは反対の側からレーザー光が照射されている。
【0024】
第16発明に係る圧縮機は、第9〜第15発明のいずれかの圧縮機であって、レーザー光が、ケーシングの内面に対して30度以下の角度で照射されて、第1部と第2部とがレーザー溶接されている。
【0025】
第17発明に係る圧縮機は、第9〜第16発明のいずれかの圧縮機であって、レーザー光が、第1部と第2部との対面部分に対し、その全周にわたって照射されて、第1部と第2部とがレーザー溶接されている。
【発明の効果】
【0026】
第1発明に係る圧縮機の製造方法では、ケーシングの内側から第1部と第2部との対面部分に直接レーザー光を照射してレーザー溶接をする方法を採ることで、比較的少ない入熱量で両者の溶け込み領域を大きくして接合部分の強度を確保している。そして、レーザー溶接によりケーシングと内部部品とを直接溶接するため、従来用いていたマウンティングプレートなどの仲介部材を介在させる必要がなくなり、コストダウンや圧縮機の小型化を図ることができる。
第2発明に係る圧縮機の製造方法では、ケーシングが厚いが、第1部と第2部との対面部分にケーシングの内側から直接レーザー光を当てる方法を採っているため、小さな入熱量で十分な溶接領域を確保することができる。
第3発明や第4発明に係る圧縮機の製造方法では、回転機械の回転軸の芯の位置精度を比較的容易に確保することができる。
第5発明に係る圧縮機の製造方法では、半溶融/半凝固ダイキャストによりニアネットシェイプに部材を成形することができて切削加工等の機械加工処理が少なくて済み、また、FC材よりも溶接強度が高くなる。
【0027】
第6発明に係る圧縮機の製造方法では、シリンダ部材、第1ヘッド部材および第2ヘッド部材を有する圧縮機構の片側に回転機械が存在するが、レーザー光の照射は反対側から行うため、回転機械がレーザー溶接を妨げる恐れが少なくなる。
第7発明に係る圧縮機の製造方法では、第1部と第2部とを広い面積でレーザー溶接できる。
第8発明に係る圧縮機の製造方法では、全周にわたってレーザー溶接が為されるため、CO2を冷媒とする冷凍機械に圧縮機が用いられて内部圧力が非常に高くなるような場合でも、ケーシングから内部部品が外れるといった恐れが殆どなくなる。
第9発明や第10発明に係る圧縮機では、ケーシングの内側から第1部と第2部との対面部分に直接レーザー光を照射してレーザー溶接をする方法を採ることで、比較的少ない入熱量で両者の溶け込み領域を大きくして接合部分の強度を確保している。そして、レーザー溶接によりケーシングと内部部品とを直接溶接するため、従来用いていたマウンティングプレートなどの仲介部材を介在させる必要がなくなり、コストダウンや圧縮機の小型化を図ることができる。
第11発明に係る圧縮機では、ケーシングが厚いが、第1部と第2部との対面部分にケーシングの内側から直接レーザー光を当てる方法を採っているため、小さな入熱量で十分な溶接領域を確保することができる。
【0028】
第12発明や第13発明に係る圧縮機では、回転機械の回転軸の芯の位置精度を比較的容易に確保することができる。
第14発明に係る圧縮機では、半溶融/半凝固ダイキャストによりニアネットシェイプに部材を成形することができて切削加工等の機械加工処理が少なくて済み、また、FC材よりも溶接強度が高くなる。
第15発明に係る圧縮機では、シリンダ部材、第1ヘッド部材および第2ヘッド部材を有する圧縮機構の片側に回転機械が存在するが、レーザー光の照射は反対側から行うため、回転機械がレーザー溶接を妨げる恐れが少なくなる。
第16発明に係る圧縮機では、第1部と第2部とを広い面積でレーザー溶接できる。
第17発明に係る圧縮機では、全周にわたってレーザー溶接が為されるため、CO2を冷媒とする冷凍機械に圧縮機が用いられて内部圧力が非常に高くなるような場合でも、ケーシングから内部部品が外れるといった恐れが殆どなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
〔第1実施形態〕
<圧縮機の概略構成>
本発明の第1実施形態に係るスクロール式の圧縮機1を、図1に示す。この圧縮機1は、蒸発器、凝縮器、膨張弁などと共に冷媒回路を構成し、その冷媒回路中のガス冷媒を圧縮する役割を担うものであって、主に、円筒状の密閉ドーム型のケーシング10、スクロール圧縮機構15、オルダムリング39、駆動モータ16、下部主軸受60、吸入管19a、および吐出管19bから構成されている。
なお、圧縮機1は、圧縮する対象のガス冷媒としてCO2(二酸化炭素)が使用されることを前提に設計されているものである。
【0030】
(1)ケーシング
ケーシング10は、略円筒状の胴体ケーシング部11と、胴体ケーシング部11の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁ケーシング部12と、胴体ケーシング部11の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁ケーシング部13とを有する。そして、このケーシング10には、主に、ガス冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構15と、スクロール圧縮機構15の下方に配置される駆動モータ16とが収容されている。このスクロール圧縮機構15と駆動モータ16とは、ケーシング10内を上下方向に延びるように配置される駆動軸17によって連結されている。そして、この結果、スクロール圧縮機構15と駆動モータ16との間には、間隙空間18が生じる。
なお、この圧縮機1がCO2冷媒用のものであり、高い耐圧性が必要になるため、胴体ケーシング部11、上壁ケーシング部12および底壁ケーシング部13の板厚は、8〜10mmとされており、通常のR410Aなどの冷媒用の圧縮機のケーシング厚み(3〜4mm)に較べてかなり厚くなっている。
【0031】
(2)スクロール圧縮機構
スクロール圧縮機構15は、図1に示されるように、主に、ハウジング23と、ハウジング23の上方に密着して配置される固定スクロール部材24と、固定スクロール部材24に噛み合う可動スクロール部材26とから構成されている。
【0032】
(2−1)固定スクロール部材
固定スクロール部材24は、主に、鏡板24aと、鏡板24aから下方に延びる渦巻き状(インボリュート状)のラップ24bとから構成される。
鏡板24aには、後述する圧縮室40に連通する吐出穴41と、吐出穴41に連通する拡大凹部42とが形成されている。吐出穴41は、鏡板24aの中央部分において上下方向に延びるように形成されている。
【0033】
拡大凹部42は、吐出穴41と連続し、吐出穴41よりも拡大した空間を形成するもので、鏡板24aの上面に水平方向に広がるように形成された凹部である。そして、固定スクロール部材24には、この拡大凹部42の上を塞ぐように、蓋体44がボルトにより締結固定される。そして、拡大凹部42に蓋体44が覆い被せられることにより、スクロール圧縮機構15の運転音を消音させる膨張室としてのマフラー空間45が形成される。固定スクロール部材24と蓋体44とは、図示しないパッキンを介して密着させることによりシールされている。
【0034】
(2−2)可動スクロール部材
可動スクロール部材26は、主に、鏡板26aと、鏡板26aから上方に延びる渦巻き状(インボリュート状)のラップ26bとから構成される。可動スクロール部材26は、アウタードライブタイプの可動スクロールであり、駆動軸17の外周溝に嵌合する軸受部を有している。可動スクロール部材26は、鏡板26aの下面に形成される溝部にオルダムリング39が嵌め込まれることにより、ハウジング23に支持される。
【0035】
可動スクロール部材26は、駆動軸17の回転により自転することなくハウジング23内を公転する。可動スクロール部材26のラップ26bは固定スクロール部材24のラップ24bに噛み合っており、両ラップ24b、26bの接触部の間には圧縮室40が形成される。そして、この圧縮室40は、可動スクロール部材26の公転に伴い中心に向かって変移し、その容積が収縮していく。これにより、圧縮機1では、圧縮室40に入ったガス冷媒が圧縮される。
【0036】
(2−3)ハウジング
ハウジング23は、その外周面において、周方向の全体に亘って胴体ケーシング部11に圧入固定されている。つまり、胴体ケーシング部11とハウジング23とは全周に亘って密着されている。これにより、ケーシング10の内部は、ハウジング23よりも下方の高圧空間28と、ハウジング23よりも上方の低圧空間29とに区画される。また、このハウジング23は、その上端面が固定スクロール部材24の下端面と密着するように、複数のボルトにより固定スクロール部材24と締結固定されている。また、このハウジング23には、上面中央に凹設されたハウジング凹部31と、下面中央から下方に延設された軸受部32とが形成されている。そして、この軸受部32には、上下方向に貫通する軸受孔33が形成されており、この軸受孔33に駆動軸17が軸受34を介して回転自在に嵌入されている。
【0037】
(2−4)その他
また、このスクロール圧縮機構15には、固定スクロール部材24とハウジング23とに亘り、連絡通路46が形成されている。連絡通路46の上端はマフラー空間45を形成する拡大凹部42に開口し、連絡通路46の下端はハウジング23の下端面に開口している。つまり、圧縮された冷媒は、圧縮室40からマフラー空間45を経て間隙空間18に流出する。
【0038】
(3)オルダムリング
オルダムリング39は、上述したように、可動スクロール部材26の自転運動を防止するための部材であって、ハウジング23に形成されるオルダム溝(図示せず)に嵌め込まれている。なお、このオルダム溝は、長円形状の溝であって、ハウジング23において互いに対向する位置に配設されている。
【0039】
(4)駆動モータ
駆動モータ16は、直流モータであって、主に、ケーシング10の内壁面に固定された環状のステータ51と、ステータ51の内側に僅かな隙間(エアギャップ通路)を空けて回転自在に収容されたロータ52とから構成されている。そして、この駆動モータ16は、ステータ51の上側に形成されているコイルエンド53の上端がハウジング23の軸受部32の下端とほぼ同じ高さ位置になるように配置されている。
【0040】
ステータ51には、ティース部に銅線が巻回されており、上方および下方にコイルエンド53が形成されている。また、ステータ51の外周面には、ステータ51の上端面から下端面に亘り且つ周方向に所定間隔をおいて複数個所に切欠形成されているコアカット部が設けられている。
ロータ52は、上下方向に延びるように胴体ケーシング部11の軸心に配置された駆動軸17を介して、スクロール圧縮機構15の可動スクロール部材26に駆動連結されている。
【0041】
(5)下部主軸受
下部主軸受60は、駆動モータ16の下方の下部空間に配設されている。この下部主軸受60は、胴体ケーシング部11に固定されるとともに駆動軸17の下部を軸支している。
また、下部主軸受60は、周方向に複数箇所、胴体ケーシング部11まで延びる外周部61を有している。これらの外周部61は、それぞれ、その下部において胴体ケーシング部11とレーザー溶接される。このレーザー溶接については後述する。
【0042】
(6)吸入管
吸入管19aは、冷媒回路の冷媒をスクロール圧縮機構15に導くためのものであって、ケーシング10の上壁ケーシング部12に気密状に嵌入されている。吸入管19aは、低圧空間29を上下方向に貫通すると共に、内端部が固定スクロール部材24に嵌入されている。
【0043】
(7)吐出管
吐出管19bは、ケーシング10内の冷媒をケーシング10外に吐出させるためのものであって、ケーシング10の胴体ケーシング部11に気密状に嵌入されている。そして、この吐出管19bは、上下方向に延びる円筒形状に形成されハウジング23の下端部の近傍に内端部36を有している。なお、吐出管19bの内端開口、即ち流入口は、ハウジング23によって下方に向かって開口されている。
【0044】
(8)下部主軸受の製造方法
下部主軸受60は、ダイキャストによって成形された後、切削加工を施すことによって製造される。
(8−1)素材
下部主軸受60の原材料である鉄素材は、C:2.3〜2.4wt%、Si:1.95〜2.05wt%、Mn:0.6〜0.7wt%、P:<0.035wt%、S:<0.04wt%、Cr:0.00〜0.50wt%、Ni:0.50〜1.00wt%が添加されているビレットである。ここにいう重量割合は、全量に対する割合である。また、ビレットとは、上記成分の鉄素材が溶融炉において溶融された後に、連続鋳造装置により円柱形状等に成形された最終成形前の素材を意味する。なお、ここで、CおよびSiの含有量は、引張強度および引張弾性率が片状黒鉛鋳鉄より高くなること、および複雑な形状の摺動部品基体を成形するのに適切な流動性を備えていることの両方を満足するように決定されている。また、Niの含有量は、金属組織の靭性を向上させて成形時の表面クラックを防止するのに適切な金属組成となるように決定されている。
【0045】
(8−2)半溶融ダイキャスト成形
上記の鉄素材を使い、ダイキャストの一種である半溶融ダイキャスト成形法により、下部主軸受60が成形される。
半溶融ダイキャスト成形工程では、先ず、ビレットを高周波加熱することにより半溶融状態とする。次いで、その半溶融状態のビレットを金型に注入する際に、ダイキャストマシンで所定圧力を加え、ビレットを所望の形状に成形する。そして、金型から取り出して急冷させることにより、その金属組織は、全体的に白銑化したものとなる。その後、熱処理を施すと、この下部主軸受60の金属組織は、白銑化組織からパーライト/フェライト基地、粒状黒鉛から成る金属組織へと変化する。
【0046】
(8−3)機械加工
上記の半溶融ダイキャスト成形法により成形された下部主軸受60は、さらに機械加工されることによって、圧縮機1に組み込まれる最終の形状となる。
(9)下部主軸受と胴体ケーシング部との固定
互いに隣接する、下部主軸受60の外周部61と、胴体ケーシング部11とは、図2に示すように、レーザー溶接される。具体的には、外周部61の下部と、そこに対向する胴体ケーシング部11の被溶接部11bとが、対面状態(接触状態)とされ、その対面部分に、レーザー溶接機(本体は図示せず)のレーザー光照射部72からレーザー光が照射されて、レーザー溶接が為される。ここで、レーザー光照射部72から照射されるレーザー光は、胴体ケーシング部11の内面11aに沿うように、具体的には、胴体ケーシング部11の内面11aに対して5〜20°程度の小さな角度θ(図2の角度θを参照)で、照射される。このため、下部主軸受60の外周部61と胴体ケーシング部11の被溶接部11bとは、比較的小さな入熱量で、接合部分の溶け込み領域を大きく確保することができている。また、レーザー溶接を採用していることに加え、胴体ケーシング部11の内面11aに沿うようにレーザー光を接合部分に直接照射しているため、下部主軸受60に入熱される熱量を少なくすることができており、下部主軸受60に歪みが殆ど生じず、駆動軸17の軸芯がずれるような不具合が回避できている。
【0047】
なお、外周部61の下部と、そこに対向する胴体ケーシング部11の被溶接部11bとを対面状態にする際には、胴体ケーシング部11に対し、わずかな隙間を持たせて下部主軸受60の外周部61を挿入する。これにより、外周部61の下部と被溶接部11bとが、わずかな隙間を挟んで対面するようになる。このように両者の間にわずかな隙間があくようにしているのは、胴体ケーシング部11の芯と下部主軸受60との芯とを合わせるためである。
【0048】
<圧縮機の運転動作>
駆動モータ16が駆動されると、駆動軸17が回転し、可動スクロール部材26が自転することなく公転運転を行う。すると、低圧のガス冷媒が、吸入管19から圧縮室40に吸引され、圧縮室40の容積変化に伴って圧縮され、高圧のガス冷媒となる。そして、この高圧のガス冷媒は、圧縮室40から吐出穴41を通ってマフラー空間45へ吐出され、その後、連絡通路46を通って間隙空間18へ流出し、吐出管20を通ってケーシング10の外に吐出される。そして、圧縮機1から吐出されたガス冷媒は、図示しない冷媒回路を循環した後、再度吸入管19を通ってスクロール圧縮機構15に吸入され圧縮される。
【0049】
<圧縮機の特徴>
(1)
第1実施形態に係るスクロール式の圧縮機1では、従来のようにアーク溶接により胴体ケーシング部11と下部主軸受60とを溶接するのではなく、レーザー溶接により両者の接合を行っている。
【0050】
ただ、ケーシング10の外側から胴体ケーシング部11を貫通させる形でレーザー光を照射するのでは、胴体ケーシング部11が5mm以上(ここでは、8〜10mm)の板厚を有していることから、時間をかけて入熱量を多く確保しなければ、胴体ケーシング部11と下部主軸受60との溶け込み領域が小さくなってしまう。一方、入熱量を大きくすると、胴体ケーシング部11等に生じる歪みによって下部主軸受60の位置精度の確保が難しくなる。
【0051】
これに鑑み、圧縮機1では、胴体ケーシング部11の内面11aの被溶接部11bと下部主軸受60の外周部61の下部との対面部分に対して、直接、胴体ケーシング部11の内面11aに沿う角度θでレーザー光を照射している。このように、ケーシング10の内側から被溶接部11bと外周部61との対面部分に直接レーザー光を照射してレーザー溶接をする方法を採ることで、比較的少ない入熱量で両者の溶け込み領域を大きくして接合部分の強度を確保している。
なお、同じ入熱量である場合、ケーシング10の外側からレーザー光を照射して胴体ケーシング部11を貫通させて下部主軸受60を胴体ケーシング部11に溶接する方法に較べ、下部主軸受60と胴体ケーシング部11との対面部分に直接レーザー光を当てる上記方法を採ったほうが、接合部分の強度が高くなる。
【0052】
(2)
ケーシング10の外側からレーザー光を照射して胴体ケーシング部11を貫通させて下部主軸受60を溶接するのではなく、上記(1)のように、ケーシング10の内側から被溶接部11bと外周部61との対面部分に直接レーザー光を照射してレーザー溶接をする方法を採ることによる、入熱量低減の効果は、胴体ケーシング部11の板厚が、5mm以上、特に7mmを超えるような場合に非常に有利に働く。圧縮機1のように胴体ケーシング部11の板厚が8〜10mmとなる場合に、ケーシング10の外側からレーザー光を照射してレーザー溶接を行おうとすると、胴体ケーシング部11と下部主軸受60との溶け込み領域を十分に確保するためには大きな熱量が下部主軸受60に入ることになり、歪みが生じて軸芯の精度を確保することが難しくなるからである。
【0053】
〔第2実施形態〕
<圧縮機の概略構成>
本発明の第2実施形態に係るロータリー式(より詳細にはスイング式)の圧縮機101は、図3に示すように、主として、密閉ドーム型のケーシング110、スイング圧縮機構115、駆動モータ116、吸入管119a,119b、および吐出管119cから構成されている。このスイング圧縮機101には、ケーシング110にアキュームレータ(気液分離器)190が取り付けられている。
なお、圧縮機101は、圧縮する対象のガス冷媒としてCO2(二酸化炭素)が使用されることを前提に設計されているものである。
【0054】
(1)ケーシング
ケーシング110は、略円筒状の胴体ケーシング部111と、胴体ケーシング部111の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁ケーシング部112と、胴体ケーシング部111の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁ケーシング部113とを有する。そして、このケーシング110には、主に、ガス冷媒を圧縮するスイング圧縮機構115と、スイング圧縮機構115の上方に配置される駆動モータ116とが収容されている。このスイング圧縮機構115と駆動モータ116とは、ケーシング110内を上下方向に延びるように配置されるクランク軸117によって連結されている。
なお、この圧縮機101がCO2冷媒用のものであり、高い耐圧性が必要になるため、胴体ケーシング部111、上壁ケーシング部112および底壁ケーシング部113の板厚は、8〜10mmとされており、通常のR410Aなどの冷媒用の圧縮機のケーシング厚み(3〜4mm)に較べてかなり厚くなっている。
【0055】
(2)スイング圧縮機構
スイング圧縮機構115は、図3および図4に示すように、主に、クランク軸117と、ピストン121,128と、ブッシュ122,122と、フロントヘッド123と、第1シリンダブロック124と、ミドルプレート127と、第2シリンダブロック126と、リアヘッド125とから構成されている。なお、本実施の形態において、フロントヘッド123、第1シリンダブロック124、ミドルプレート127、第2シリンダブロック126およびリアヘッド125は、複数本のボルトによって一体に締結されている。
【0056】
(2−1)シリンダブロック
第1シリンダブロック124と第2シリンダブロック126とは、同様の構成であるため、主として第1シリンダブロック124について説明を行い、第2シリンダブロック126については重複部分の説明を省略する。
第1シリンダブロック124には、図4に示すように、シリンダ孔124a、吸入孔124b、吐出路124cおよびブレード収容孔124dが形成されている。シリンダ孔124aは、回転軸101aに沿って貫通する円柱状の孔である。吸入孔124bは、外周面124eからシリンダ孔124aに貫通している。吐出路124cは、シリンダ孔124aを形作る円筒部の内周側の一部が切り欠かれることによって形成されている。ブレード収容孔124dは、後述するピストン121のブレード部121bを収容するための孔であり、第1シリンダブロック124の板厚方向に沿って貫通している。ブレード収容孔124dの回転軸101a側の部分は、後述するブッシュ122を収容しブッシュ122と摺動する。
【0057】
そして、この第1シリンダブロック124のシリンダ孔124aには、クランク軸117の偏心軸部117aおよびピストン121のローラ部121aが収容され、ブレード収容孔124dには、ピストン121のブレード部121bおよびブッシュ122が収容された状態で、吐出路124cがフロントヘッド123側を向くようにしてフロントヘッド123とミドルプレート127とに挟まれる。この結果、スイング圧縮機構115には、フロントヘッド123とミドルプレート127との間においてシリンダ室が形成され、このシリンダ室はピストン121によって吸入孔124bと連通する吸入室115aと、吐出路124cと連通する吐出室115bとに区画されることになる。
【0058】
第2シリンダブロック126にも、同様に、シリンダ孔、吸入孔、吐出路およびブレード収容孔が形成されている。第2シリンダブロック126のシリンダ孔にも、クランク軸117の偏心軸部117bおよびピストン128のローラ部が収容されるが、第1シリンダブロック124のシリンダ孔124aに収容されている偏心軸部117aおよびローラ部121aとは位相が180°ずれている。また、第2シリンダブロック126の吐出路は、ミドルプレート127とリアヘッド125とに挟まれる。この結果、スイング圧縮機構115には、ミドルプレート127とリアヘッド125との間においてもシリンダ室が形成される。
【0059】
(2−2)クランク軸
クランク軸117には、下部に、第1シリンダブロック124のシリンダ孔124aの中に配置される偏心軸部117aと、第2シリンダブロック126のシリンダ孔の中に配置される偏心軸部117bとが設けられている。2つの偏心軸部117a,117bは、互いの偏心軸がクランク軸117の回転軸101aを挟んで対向するように形成されている。クランク軸117の上部は、駆動モータ116のロータ152に固定されている。
【0060】
(2−3)ピストン
第1シリンダブロック124のシリンダ孔124aの中に配置されるピストン121も、第2シリンダブロック126のシリンダ孔の中に配置されるピストン128も、同様の構成である。ここでは、ピストン121を例にとって説明を行う。
ピストン121は、図4に示すように、円筒状のローラ部121aと、そのローラ部121aの径方向外側に突出するブレード部121bとを有する。なお、ローラ部121aは、クランク軸117の偏心軸部117aに嵌合された状態で第1シリンダブロック124のシリンダ孔124aに挿入される。これにより、ローラ部121aは、クランク軸117が回転すると、クランク軸117の回転軸101aを中心とした公転運動を行う。また、ブレード部121bは、ブレード収容孔124dに収容される。これによりブレード部121bは、揺動すると同時に長手方向に沿ってブッシュ122およびブレード収容孔124dに対して進退運動を行うことになる。
【0061】
(2−4)ブッシュ
ブッシュ122は、ピストン121に対してもピストン128に対しても設けられるが、ここではピストン121に対して設けられるものを例にとって説明を行う。
ブッシュ122は、略半円柱状の一対の部材であって、ピストン121のブレード部121bを挟み込むようにして第1シリンダブロック124のブレード収容孔124dに収容される。
【0062】
(2−5)フロントヘッド
フロントヘッド123は、第1シリンダブロック124の吐出路124c側を覆う部材であって、ケーシング110に嵌合されている。このフロントヘッド123には軸受部123aが形成されており、この軸受部123aにはクランク軸117が挿入される。また、このフロントヘッド123には、第1シリンダブロック124に形成された吐出路124cを通って流れてくる冷媒ガスを吐出管119cに導くための開口123bが形成されている。そして、この開口123bは、冷媒ガスの逆流を防止するための吐出弁(図示せず)により閉塞されたり開放されたりする。
【0063】
(2−6)リアヘッド
リアヘッド125は、シリンダブロック124,126およびミドルプレート127を挟んでフロントヘッド123と対向する部材であり、第2シリンダブロック126の下方を覆う。このリアヘッド125には、軸受部125aが形成されており、この軸受部125aにはクランク軸117が挿入される。また、リアヘッド125は、環状の外周部125bを有している。外周部125bの外周面は、胴体ケーシング部111の内面111aと対向しており、両面は対面している。後述するように、リアヘッド125の外周部125bの外周面の下部と、それに対向する胴体ケーシング部111の内面111aの被溶接部111bとは、レーザー溶接によって接合される。
なお、図示していないが、このリアヘッド125には、第2シリンダブロック126に形成された吐出路を通って流れてくる冷媒ガスを吐出管119cに導くための開口が形成されている。
【0064】
(2−7)ミドルプレート
ミドルプレート127は、第1シリンダブロック124と第2シリンダブロック126との間に配置され、上下それぞれに形成されるシリンダ室を分けている。
【0065】
(3)駆動モータ
駆動モータ116は、本実施の形態において直流モータであって、主に、ケーシング110の内壁面に固定された環状のステータ151と、ステータ151の内側に僅かな隙間(エアギャップ通路)を空けて回転自在に収容されたロータ152とから構成されている。
【0066】
ステータ151には、ティース部(図示せず)に銅線が巻回されており、上方および下方にコイルエンド153が形成されている。また、ステータ151の外周面には、ステータ151の上端面から下端面に亘り且つ周方向に所定間隔をおいて複数個所に切欠形成されているコアカット部(図示せず)が設けられている。
ロータ152には、回転軸101aに沿うようにクランク軸117が固定されている。
なお、駆動モータ116のステータ151に巻回されている銅線は、ターミナル170の3本のターミナルピンと接続され電源供給されている。
【0067】
(4)吸入管
吸入管119aは、ケーシング110を貫通するように設けられており、一端が第1シリンダブロック124に形成される吸入孔124bに連通しており、他端がアキュームレータ190に連通している。
吸入管119bも、ケーシング110を貫通するように設けられており、一端が第2シリンダブロック126に形成される吸入孔に連通しており、他端がアキュームレータ190に連通している。
【0068】
(5)吐出管
吐出管119cは、ケーシング110の上壁ケーシング部112を貫通するように設けられている。
【0069】
(6)摺動部品の製造方法
本実施形態に係る圧縮機101において、ピストン121,128、フロントヘッド123、ミドルプレート127、リアヘッド125等の摺動部品は、第1実施形態の下部主軸受60の製造方法と同様に、ダイキャストによって成形された後、切削加工を施すことによって製造される。
【0070】
(7)スイング圧縮機構のリアヘッドと胴体ケーシング部との固定
スイング圧縮機構115のリアヘッド125は、図5に示すように、胴体ケーシング部111に、レーザー溶接によって固定される。具体的には、リアヘッド125の外周部125bの外周面の下部と、それに対向する胴体ケーシング部111の内面111aの被溶接部111bとが、対面状態(接触状態)とされ、その対面部分に、レーザー溶接機(本体は図示せず)のレーザー光照射部72からレーザー光が照射されて、レーザー溶接が為される。ここで、レーザー光照射部72から照射されるレーザー光は、胴体ケーシング部111の内面111aに沿うように、具体的には、胴体ケーシング部111の内面111aに対して5〜20°程度の小さな角度θ(図5の角度θを参照)で、レーザー光が照射される。このため、リアヘッド125の外周部125bと胴体ケーシング部111の被溶接部111bとは、比較的小さな入熱量で、接合部分の溶け込み領域を大きく確保することができている。また、レーザー溶接を採用していることに加え、胴体ケーシング部111の内面111aに沿うようにレーザー光を接合部分に直接照射しているため、リアヘッド125に入熱される熱量を少なくすることができており、リアヘッド125に歪みが殆ど生じず、クランク軸117の軸芯がずれたりスイング圧縮機構115における摩耗量が大きくなったりする不具合が回避できている。
【0071】
なお、図3および図5から明らかなように、レーザー溶接機のレーザー光照射部72からのレーザー光は、リアヘッド125の下方から、すなわち、リアヘッド125の駆動モータ116が存在する側と反対の側から、照射されている。また、図3より明らかなように、スイング圧縮機構115のうち最も下側(駆動モータ116から離れた側)にあるリアヘッド125を胴体ケーシング部111まで延ばし、リアヘッド125と胴体ケーシング部111とを下方からレーザー溶接する方法を採用しているため、レーザーの焦点距離を小さくすることができ、接合の精度を高くすることができている。
また、レーザー溶接は、リアヘッド125の環状の外周部125bと胴体ケーシング部111の被溶接部111bとの対面部分に対し、全周にわたって実施されている。
【0072】
<圧縮機の運転動作>
駆動モータ116が駆動されると、クランク軸117が回転軸101a周りに回転し、偏心軸部117aが偏心回転し、この偏心軸部117aに嵌合されたピストン121のローラ部121aが、その外周面を、第1シリンダブロック124のシリンダ孔124aの内周面に接しながら公転する。そして、ローラ部121aがシリンダ室内で公転するに伴って、ブレード部121bは両側面をブッシュ122によって保持されながら進退動する。そうすると、第1シリンダブロック124の吸入孔124bに接続された吸入管119aから低圧の冷媒ガスが吸入され、圧縮されて高圧にされた後、吐出路124cから高圧の冷媒ガスとして吐出される。
【0073】
同様に、駆動モータ116が駆動されると、偏心軸部117bが偏心回転し、この偏心軸部117bに嵌合されたピストン128のローラ部が、その外周面を、第2シリンダブロック126のシリンダ孔の内周面に接しながら公転する。これにより、第2シリンダブロック126の吸入孔に接続された吸入管119bから低圧の冷媒ガスが吸入され、圧縮されて高圧にされた後、吐出路から高圧の冷媒ガスとして吐出される。
【0074】
<圧縮機の特徴>
(1)
第2実施形態に係るスイング式の圧縮機101では、従来のようにアーク溶接により胴体ケーシング部111とスイング圧縮機構115とを溶接するのではなく、レーザー溶接により両者の接合を行っている。
【0075】
ただ、ケーシング110の外側から胴体ケーシング部111を貫通させる形でレーザー光を照射するのでは、胴体ケーシング部111が5mm以上(ここでは、8〜10mm)の板厚を有していることから、時間をかけて入熱量を多く確保しなければ、胴体ケーシング部111とリアヘッド125との溶け込み領域が小さくなってしまう。一方、入熱量を大きくすると、胴体ケーシング部111に歪みが生じ、リアヘッド125の位置精度の確保、すなわち、スイング圧縮機構115とクランク軸117との相対位置精度の確保が難しくなる。
【0076】
これに鑑み、圧縮機101では、胴体ケーシング部111の内面111aの被溶接部111bと、その被溶接部111bに接するリアヘッド125の外周部125bの外周面との対面部分に対して、直接、胴体ケーシング部111の内面111aに沿うようにレーザー光を照射している。このように、ケーシング110の内側から被溶接部111bと外周部125bとの対面部分に直接レーザー光を照射してレーザー溶接をする方法を採ることで、比較的少ない入熱量で両者の溶け込み領域を大きくして接合部分の強度を確保している。
【0077】
また、レーザー溶接により胴体ケーシング部111とリアヘッド125とを直接溶接するため、従来用いていたマウンティングプレートなどの仲介部材を介在させる必要がなくなり、コストダウンや圧縮機101の小型化を図ることができている。
なお、同じ入熱量である場合、ケーシング110の外側からレーザー光を照射して胴体ケーシング部111を貫通させてリアヘッド125を胴体ケーシング部111に溶接する方法に較べ、リアヘッド125と胴体ケーシング部111との対面部分に直接レーザー光を当てる上記方法を採ったほうが、接合部分の強度が高くなる。
【0078】
(2)
ケーシング110の外側からレーザー光を照射して胴体ケーシング部111を貫通させてリアヘッド125を溶接するのではなく、上記(1)のように、ケーシング110の内側から被溶接部111bと外周部125bとの対面部分に直接レーザー光を照射してレーザー溶接をする方法を採ることによる、入熱量低減の効果は、胴体ケーシング部111の板厚が、5mm以上、特に7mmを超えるような場合に非常に有利に働く。圧縮機101のように胴体ケーシング部111の板厚が8〜10mmとなる場合に、ケーシング110の外側からレーザー光を照射してレーザー溶接を行おうとすると、胴体ケーシング部111とリアヘッド125との溶け込み領域を十分に確保するためには大きな熱量がリアヘッド125と胴体ケーシング部111とに入ることになり、胴体ケーシング部111に歪みが生じてスイング圧縮機構115とクランク軸117との相対位置精度を確保することが難しくなるからである。
【0079】
(3)
第2実施形態に係るスイング式の圧縮機101では、フロントヘッド123、第1シリンダブロック124、リアヘッド125、ピストン121などが、半溶融ダイキャスト成形工程を経て製造される。このため、従来の砂型鋳造方法により製造される片状黒鉛鋳鉄製のシリンダブロックやピストンよりも高引張強度かつ高硬度のシリンダブロックやピストンを容易に得ることができる。また、半溶融ダイキャストによりニアネットシェイプに部材を成形することができており、切削加工等の機械加工処理が少なくて済み、また、FC材よりも溶接強度が高くなっている。
なお、半溶融ダイキャスト成形法ではなく、半凝固ダイキャスト成型法を採用することも可能である。
【0080】
(4)
第2実施形態に係るスイング式の圧縮機101は、CO2冷媒用の圧縮機であり内部圧力が非常に高くなるが、リアヘッド125の環状の外周部125bと胴体ケーシング部111の被溶接部111bとの対面部分に対し、その全周にわたってレーザー溶接が為されているため、ケーシング110からスイング圧縮機構115が外れるといった不具合は生じない。
【0081】
(5)
第2実施形態に係るスイング式の圧縮機101では、スイング圧縮機構115の構成部品の1つであるリアヘッド125を、駆動モータ116のロータ152と一体の状態で胴体ケーシング部111に挿入し、ステータ151とロータ152との芯を出して組み立てた状態でレーザー溶接を行う。そして、レーザー溶接により上述のように歪みが抑制されているため、圧縮機101では、ステータ151とロータ152との隙間の均一性が向上し、またスイング圧縮機構115の各構成部品の相対位置精度を容易に確保することができるので、振動やスイング圧縮機構115の各構成部品の摩耗量を所定の設計値の範囲内に収めることができている。
【0082】
<変形例>
(A)
第2実施形態に係る圧縮機101は、シリンダ室の中でピストンが回転することで圧縮を行うロータリー式の圧縮機の中でも、ローラ部とブレード部とを一体化した形のスイング式を採用しているが、本発明は、ローラ部とブレード部とが別体である圧縮機に対しても適用可能である。
【0083】
(B)
第2実施形態に係る圧縮機101では、リアヘッド125の環状の外周部125bを胴体ケーシング部111にレーザー溶接しているが、リアヘッド125ではなく第1シリンダブロック124、ミドルプレート127、第2シリンダブロック126あるいはフロントヘッド123を胴体ケーシング部111まで延ばし、その部品と胴体ケーシング部111とをレーザー溶接する構成とすることもできる。
【0084】
(C)
第2実施形態に係る圧縮機101は、フロントヘッド123とミドルプレート127との間にシリンダ室が形成されるとともに、ミドルプレート127とリアヘッド125との間にもシリンダ室が形成される、いわゆる2シリンダ−タイプの圧縮機であるが、ミドルプレートがない圧縮機(いわゆる1シリンダ−タイプの圧縮機)においても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の第1実施形態に係る圧縮機の縦断面図。
【図2】下部主軸受と胴体ケーシング部との接合部分の拡大図。
【図3】本発明の第2実施形態に係る圧縮機の縦断面図。
【図4】図3のIV-IV矢視断面図。
【図5】スイング圧縮機構のリアヘッドと胴体ケーシング部との接合部分の拡大図。
【符号の説明】
【0086】
1 スクロール式の圧縮機
11 胴体ケーシング部
11a 胴体ケーシング部の内面
11b 胴体ケーシング部の内面の被溶接部(第1部)
16 駆動モータ(回転機械)
17 駆動軸(回転軸)
60 下部主軸受(軸受)
61 下部主軸受の外周部(第2部)
101 ロータリー式(スイング式)の圧縮機
111 胴体ケーシング部
111a 胴体ケーシング部の内面
111b 胴体ケーシング部の内面の被溶接部(第1部)
115 スイング圧縮機構
116 駆動モータ(回転機械)
121 ピストン(ロータ)
123 フロントヘッド(第1ヘッド部材)
124 第1シリンダブロック(シリンダ部材)
125 リアヘッド(第2ヘッド部材)
125b リアヘッドの外周部(第2部)
126 第2シリンダブロック(シリンダ部材)
127 ミドルプレート(ヘッド部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面(11a,111a)に第1部(11b,111b)を有するケーシング(11,111)と、前記ケーシングの内部に収容され前記第1部に対向する第2部(61,125b)を有する内部部品(60,125)とを備える圧縮機(1,101)の製造方法であって、
前記ケーシングの第1部と前記内部部品の第2部とを対面させる第1工程と、
前記第1部と前記第2部との対面部分の少なくとも一部に、前記ケーシングの内面に沿うようにレーザー光を照射して、前記ケーシングと前記内部部品とをレーザー溶接する第2工程と、
を備えた圧縮機の製造方法。
【請求項2】
前記ケーシングの第1部は、厚みが5mm以上である、
請求項1に記載の圧縮機の製造方法。
【請求項3】
前記圧縮機は、スクロール式の圧縮機(1)であり、回転機械(16)および前記回転機械の回転軸(17)を軸支する軸受(60)を有する回転機構を備え、
前記内部部品は、前記軸受である、
請求項1又は2に記載の圧縮機の製造方法。
【請求項4】
前記圧縮機は、ロータリー式の圧縮機(101)であり、シリンダ部材(124,126)および前記シリンダ部材の開口を塞ぐヘッド部材(123,125,127)を有する圧縮機構(115)を備え、
前記内部部品は、前記シリンダ部材あるいは前記ヘッド部材である、
請求項1又は2に記載の圧縮機の製造方法。
【請求項5】
前記内部部品は、半溶融/半凝固ダイキャストにより成形された前記シリンダ部材あるいは前記ヘッド部材である、
請求項4に記載の圧縮機の製造方法。
【請求項6】
前記圧縮機は、前記シリンダ部材および前記ヘッド部材により形成される空間の中で偏芯回転するロータ(121)を回す回転機械(116)をさらに備えており、
前記ヘッド部材は、前記シリンダ部材の前記回転機械側に位置する第1ヘッド部材(123)と、前記シリンダ部材を挟んで前記第1ヘッド部材と対向する第2ヘッド部材(125)とを有し、
前記内部部品は、前記第2ヘッド部材であり、
前記第2工程では、前記ケーシングの前記第1部と、前記第2ヘッド部材の前記第2部との対面部分に、前記回転機械が存在する側とは反対の側から前記レーザー光を照射する、
請求項4又は5に記載の圧縮機の製造方法。
【請求項7】
前記第2工程において、前記レーザー光は、前記ケーシングの内面に対して30度以下の角度で照射される、
請求項1から6のいずれかに記載の圧縮機の製造方法。
【請求項8】
前記第2工程において、前記レーザー光は、前記第1部と前記第2部との対面部分に対し、その全周にわたって照射される、
請求項1から7のいずれかに記載の圧縮機の製造方法。
【請求項9】
内面(11a,111a)に第1部(11b,111b)を有するケーシング(11,111)と、
前記ケーシングの内部に収容され前記第1部に対向する第2部(61,125b)を有する内部部品(60,125)と、
を備え、
前記第1部と前記第2部とは、前記ケーシングの内面に沿うようにレーザー光が照射され、レーザー溶接されている、
圧縮機。
【請求項10】
圧縮対象が、二酸化炭素冷媒である、
請求項9に記載の圧縮機。
【請求項11】
前記ケーシングの第1部は、厚みが5mm以上である、
請求項9又は10に記載の圧縮機。
【請求項12】
回転機械(16)および前記回転機械の回転軸(17)を軸支する軸受(60)を有する回転機構をさらに備え、
前記内部部品は、前記軸受である、
請求項9から11のいずれかに記載のスクロール式の圧縮機(1)。
【請求項13】
シリンダ部材(124,126)および前記シリンダ部材の開口を塞ぐヘッド部材(123,125,127)を有する圧縮機構(115)を備え、
前記内部部品は、前記シリンダ部材あるいは前記ヘッド部材である、
請求項9から11のいずれかに記載のロータリー式の圧縮機(101)。
【請求項14】
前記内部部品は、半溶融/半凝固ダイキャストにより成形された前記シリンダ部材あるいは前記ヘッド部材である、
請求項13に記載の圧縮機。
【請求項15】
前記シリンダ部材および前記ヘッド部材により形成される空間の中で偏芯回転するロータ(121,128)を回す回転機械(116)をさらに備えており、
前記ヘッド部材は、前記シリンダ部材の前記回転機械側に位置する第1ヘッド部材(123)と、前記シリンダ部材を挟んで前記第1ヘッド部材と対向する第2ヘッド部材(125)とを有し、
前記内部部品は、前記第2ヘッド部材であり、
前記ケーシングの前記第1部と、前記第2ヘッド部材の前記第2部との対面部分には、前記回転機械が存在する側とは反対の側から前記レーザー光が照射されている、
請求項13又は14に記載の圧縮機。
【請求項16】
前記レーザー光が、前記ケーシングの内面に対して30度以下の角度で照射されて、前記第1部と前記第2部とがレーザー溶接されている、
請求項9から15のいずれかに記載の圧縮機。
【請求項17】
前記レーザー光が、前記第1部と前記第2部との対面部分に対し、その全周にわたって照射されて、前記第1部と前記第2部とがレーザー溶接されている、
請求項9から16のいずれかに記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−291972(P2007−291972A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121670(P2006−121670)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】