説明

圧電振動片、圧電発振器

【課題】十分な周波数可変量を有する電圧制御型の圧電発振器、および、それに用いる圧電振動片を提供する。
【解決手段】水晶振動片1において、水晶基板の一方の主面側の第1突部5A上には、駆動用の電極である第1励振電極15Aが設けられ、水晶基板の一端側近傍には第1外部接続電極18Aが設けられている。第1励振電極15Aと第1外部接続電極18Aとは、第1電極間配線16Aにより電気的に接続されている。同様に、水晶基板の他方の主面の第2突部5B上には、第1励振電極15Aの対向電極である第2励振電極15Bが設けられ、水晶基板の一端側近傍の上記第1外部接続電極18Aと平面視で重ならない領域に設けられた第2外部接続電極18Bとが、第2電極間配線16Bにより電気的に接続されている。第1電極間配線16Aと、第2電極間配線16Bとは、平面視で重なる立体交差領域17を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数制御デバイスなどとして使用される圧電発振器、および、それに用いる圧電振動片に関し、特に、電圧制御型の圧電発振器、および、それに用いる圧電振動片に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧電振動片をパッケージ内に気密封止して構成された表面実装型の圧電デバイスが広く用いられている。ここで、圧電振動片は、水晶などの圧電体基板を所定の角度および厚さに切り出した薄板が固有の共振周波数を有する特性を利用するもので、例えば、圧電体基板を所謂ATカットと呼ばれるカット角にて切り出した薄板を用いた厚み滑り振動をするATカット水晶振動片などが利用される。
このような水晶振動片を用いた圧電デバイスとして、例えば、水晶振動片と、その水晶振動片を発振させる発振回路を含む半導体回路素子などの電子部品とを同一パッケージ内に接合して気密封止して構成された表面実装型の水晶振動子を用いた圧電発振器としての水晶発振器が、周波数や時間などの基準源として多く用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、上記水晶振動子を利用した電圧制御型水晶発振器は、周波数安定度が高く、経年変化を補正し得る周波数制御ができるなどの優れた特性を有していることから、近年、移動体通信機器や伝送通信機器などの各種通信機器に広く利用されている。図7は、従来の電圧制御型水晶発振器の一例を示す回路図であり、X1は水晶振動子、A1は増幅器、CaおよびCbはコンデンサー、D1は可変容量ダイオード、INは制御電圧入力端子、Rdは制御電圧印加用抵抗、OUTは電圧制御型水晶発振器の周波数出力端子をそれぞれを表す。
また、水晶振動子X1の一般的な等価回路は図8のように表される。図8において、L1は等価直列インダクタンス、C1は等価直列容量、R1は等価直列抵抗、C0は並列容量である。
水晶振動子X1からみた増幅器A1を含む回路側の負荷容量(合成容量)をCLとし、容量比をγ(C0/C1)とすると、この負荷容量CLによる共振周波数f0の変化量Δf/f0は周知の次式で表される。
Δf/f0=C0/(2γ(C0+CL))
すなわち、電圧制御型水晶発振器の周波数は、発振ループ中の負荷容量によりその共振周波数が変化する。
また、可変容量ダイオードD1は、その2端子間に印加する逆電圧に応じて容量値が変化するダイオードである。したがって、可変容量ダイオードD1を発振ループ中に挿入し、その印加電圧を変化させることによって発振周波数を制御することができる。
【0004】
また、図9は、周波数可変範囲をさらに広げるために、水晶振動子X1に直列にインダクタンスLを接続する構成の電圧制御型水晶発振器の一例を示す回路図である。このような目的で発振ループに挿入するインダクタンスLを一般的に伸長コイル(あるいは、単に「コイル」)と称する。これは、水晶振動子X1に直列にインダクタンスLを接続すると、共振周波数はインダクタンスLを挿入する以前の周波数よりも低くなるが、反共振周波数は変化しないため、共振・反共振周波数間隔が広がるという原理に基づくものである。
【0005】
近年、光デジタル通信網や移動体通信網などの普及に伴い、より周波数安定度が高く、且つ、広い周波数可変幅の電圧制御型水晶発振器の需要が増大している。これは、例えば、網同期においてPLL(Phase Locked Loop)発振器を構成するローカル発振器として電圧制御型水晶発振器を用いた場合、これを構成する水晶振動片やその他の電子部品が経年劣化することによって周波数がシフトしても、周波数可動幅が十分に大きければ、PLL発振器に供給される基準発振周波数に同期させることができるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−374146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の水晶振動片を用いて上記図7の回路図に示す電圧制御型水晶発振器を用いた場合には十分な周波数可変量が得られずに、所望の周波数安定度の保持や経年劣化に対応する周波数制御ができない虞があるという課題があった。
発明者は、図9の上記回路図に示すような、水晶振動子X1に直列にインダクタンスL(伸長コイル)を接続する構成を含む電圧制御型水晶発振器において、水晶振動片の両主面にそれぞれ形成された励振電極から引き出された電極間配線の一部が平面視で重なる領域を設けることにより、図8に示す上記水晶振動子の等価回路における並列容量C0を増大させることにより、電圧制御型水晶発振器の周波数可変量が十分に得られることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
〔適用例1〕本適用例にかかる圧電振動片は、厚みすべり振動可能な圧電体基板と、前記圧電体基板の一方の主面に形成された第1励振電極、および、前記第1励振電極と第1電極間配線により電気的に接続された第1外部接続電極と、前記圧電体基板の他方の主面に前記第1励振電極と平面視で重なるように配置されて形成された第2励振電極、および、前記第2励振電極と第2電極間配線により電気的に接続された第2外部接続電極と、を備え、前記第1電極間配線と前記第2電極間配線との一部が、前記圧電体基板の前記第1励振電極および前記第2励振電極が形成された部分よりも薄い部分で平面視で重なる立体交差領域を有することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、圧電振動片を用いた圧電振動子において、第1励振電極および第2励振電極による圧電振動片の主振動への影響を抑えながら、立体交差領域で発生する容量(圧電振動子の等価回路における並列容量)により、圧電振動子を用いた電圧制御型の圧電発振器において周波数可変範囲を大きくすることができることを発明者は見出した。
【0011】
〔適用例2〕上記適用例にかかる圧電振動片は、前記圧電体基板の前記第1励振電極および前記第2励振電極が形成された部分が、その周縁部に比べて肉厚なメサ型振動片であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、従来のメサ型振動片の製造プロセスにて、電極間配線のレイアウトを考慮することのみにより、十分に大きな周波数可変量を有する電圧制御型の圧電発振器を実現する圧電振動片を製造することができる。
【0013】
〔適用例3〕上記適用例にかかる圧電振動片は、前記圧電体基板の前記立体交差領域の肉厚がその他の領域よりも薄く加工されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、圧電体基板の立体交差領域に相当する部位を薄く加工することのみにより、十分に大きな周波数可変量を有する電圧制御型の圧電発振器を実現する圧電振動片を製造することができる。
【0015】
〔適用例4〕上記適用例にかかる圧電振動片は、前記第1電極間配線および前記第2電極間配線の前記立体交差領域となる部分が、他の部分よりも広げて形成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、立体交差領域にて効率的に大きな容量(並列容量)を得ることができるので、水晶振動片を用いた電圧制御型の水晶発振器の周波数可変範囲を広げる効果をより顕著に得ることができる。
【0017】
〔適用例5〕本適用例にかかる圧電発振器は、圧電振動片と、前記圧電振動片を発振させるための発振回路と、を有し、前記発振回路が、可変容量素子と、該可変容量素子に直列に接続されたコイルと、を含む圧電発振回路を有し、前記圧電振動片が、厚みすべり振動可能な圧電体基板と、前記圧電体基板の一方の主面に形成された第1励振電極、および、前記第1励振電極と第1電極間配線により電気的に接続された第1外部接続電極と、前記圧電体基板の他方の主面に前記第1励振電極と平面視で重なるように配置されて形成された第2励振電極、および、前記第2励振電極と第2電極間配線により電気的に接続された第2外部接続電極と、を備え、前記第1電極間配線と前記第2電極間配線との一部が、前記圧電体基板の前記第1励振電極および前記第2励振電極が形成された部分よりも薄い部分で平面視で重なる立体交差領域を有することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、第1励振電極および第2励振電極による圧電振動片の主振動への影響を抑えながら、立体交差領域で発生する容量(圧電振動子の等価回路における並列容量)により、十分に大きな周波数可変範囲を有する電圧制御型の圧電発振器を提供することができることを発明者は見出した。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は、電圧制御型圧電発振器にかかる圧電振動片としての水晶振動片の一実施形態を上側からみて模式的に説明する平面図、(b)は、水晶振動片を下側からみて模式的に説明する平面図、(c)は、(a)のA−A線模式平面図。
【図2】(a)は、本発明にかかる水晶振動子の一実施形態を模式的に説明する平面図、(b)は、(a)のB−B線断面図。
【図3】(a)は、従来の電圧制御型水晶発振器における制御電圧−可変量(周波数変化量)と、本発明の電圧制御型水晶発振器における制御電圧−可変量の実施例を説明するグラフ、(b)は、比較表。
【図4】(a)は、水晶振動片の変形例1の1つのバリエーションを説明する概略平面図、(b)は、(a)のC−C線断面図。
【図5】(a)は、水晶振動片の変形例1の他のバリエーションを説明する概略平面図、(b)は、(a)のD−D線断面図。
【図6】水晶振動片の変形例2を説明する概略平面図。
【図7】従来の圧電発振器としての電圧制御型水晶発振器の一例を説明する回路図。
【図8】水晶振動子の等価回路の一例を説明する回路図。
【図9】電圧制御型水晶発振器の他の例を説明する回路図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、圧電振動片としての水晶振動片、および、それを用いた圧電発振器としての電圧制御型水晶発振器について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本実施形態の電圧制御型水晶発振器に含まれる水晶振動子に用いられる水晶振動片1を模式的に説明するものであり、図1(a)は上側からみた平面図、(b)は下側からみた平面図、(c)は(a)のA−A線断面図である。
また、図2は、上記水晶振動片を用いた水晶振動子の一実施形態を説明するものであり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。なお、(a)において、水晶振動子の内部の構成を説明する便宜上、水晶振動子の上部に接合される蓋体としてのリッド30の一部を切り欠いて図示している。
【0022】
〔水晶振動片〕
まず、水晶振動片1について説明する。
図1(a)において、水晶振動片1は、水晶ブロックから所謂ATカットと呼ばれるカット角で切り出した水晶基材を所定の形状に成形した圧電体基板としての水晶基板を基材として用いている。本実施形態の水晶振動片1は、矩形平板状の水晶基板の両主面の一部が突出して肉厚部分となる第1および第2突部5A,5Bを有した所謂メサ形状を呈している。
【0023】
メサ形状の水晶基板の一方の主面側の第1突部5A上には、駆動用の電極である第1励振電極15Aが設けられている。また、水晶基板の一端側近傍には第1外部接続電極18Aが設けられている。第1励振電極15Aと第1外部接続電極18Aとは、第1電極間配線16Aにより電気的に接続されている。
これと同様に、図1(b)に示すように、水晶基板の他方の主面の第2突部5B上には、第1励振電極15Aの対向電極である第2励振電極15Bが設けられ、水晶基板の一端側近傍の上記第1外部接続電極18Aと平面視で重ならない領域に設けられた第2外部接続電極18Bとが、第2電極間配線16Bにより電気的に接続されている。
メサ形状の水晶基板において、第1および第2励振電極15A,15Bが設けられた第1および第2突部5A,5Bからなる肉厚部分は、水晶振動片1の振動部となる。また、第1および第2外部接続電極18A,18Bが形成された水晶基板の一端側近傍は、水晶振動片1をパッケージ20に接合する際の接合部(支持部)となる。
【0024】
第1励振電極15Aと第1外部接続電極18Aとを接続する第1電極間配線16Aと、第2励振電極15Bと第2外部接続電極18Bとを接続する第2電極間配線16Bとは、平面視で重なる立体交差領域17を有している。この立体交差領域17は、詳細は後述するが、水晶振動片1を用いた電圧制御型水晶発振器において、容量を効率的に発生させることにより、電圧制御型水晶発振器の周波数可変範囲を広げる効果を奏する。
【0025】
なお、第1および第2励振電極15A,15B、第1および第2外部接続電極18A,18B、第1および第2電極間配線16A,16Bなどの電極や配線は、水晶基板(水晶ウェハー)をエッチングしてメサ型の水晶振動片1の外形を形成した後に、蒸着またはスパッタリングにより、例えばニッケル(Ni)またはクロム(Cr)を下地層として、その上に例えば金(Au)による金属膜を成膜し、その後フォトリソグラフィを用いてパターニングすることにより形成することができる。
【0026】
〔水晶振動子〕
次に、上記水晶振動片1を用いた水晶振動子について説明する。
図2に示すように、本実施形態の水晶発振器には、パッケージ20内に水晶振動片1および水晶振動片1を駆動させる駆動回路を含む半導体回路素子としてのICチップ40が接合されて封止された、表面実装が可能な所謂SMD(Surface Mount Device)タイプの水晶振動子10を用いることができる。小型化・薄型化の進展がめざましいSMDタイプの水晶振動子10は、電圧制御型水晶発振器の小型、薄型化を図るのに有利である。また、表面実装部品として規格化されているSMDタイプの水晶振動子10は、例えば、基板に接合した水晶振動片を筒状のキャップで覆うことにより封止するタイプの水晶振動子のように、外部接続用のリード線を外部基板の接続端子形状に合わせて切断したり成形したりする必要がなく、外部基板への搭載の自動化も図りやすいので、実装工程の簡略化や低コスト化に有利である。
【0027】
パッケージ20は、略矩形の平板状の第1層基板21と、その第1層基板21上に順次積層された略矩形フレーム状の第2層基板22、第3層基板23、および第4層基板24を有し、さらに、第4層基板24上には、略矩形フレーム状のシールリング29を有している。略矩形フレーム状の第2層基板22〜第4層基板24の開口部の大きさが上方にいくに従って小さくなることにより、パッケージ20には、第1層基板21の上面側を凹底部分とし、第2層基板22〜第4層基板24側に開口した段差を有する凹部が形成されている。
【0028】
このようなパッケージ20の凹部において、凹部の凹底部分となる第1層基板21上にはダイパッド26が設けられている。また、パッケージ20の外底面となる第1層基板21のダイパッド26が設けられた面とは異なる側の面には、外部基板との接合に供する外部実装端子25が設けられている。
また、第2層基板22によりダイパッド26を平面視で囲むように形成される段差上には、後述するICチップ40の複数の電極パッド45と対応して接続されるIC接続端子27が設けられている。
さらに、第3層基板23により第2層基板22上に形成される段差上には、水晶振動片1が接合される複数の振動片接続端子28が設けられている。
なお、これらの各振動片接続端子28やIC接続端子27、あるいは外部実装端子25などの各端子は、第1層基板21〜第3層基板23に形成された図示しない引き回し配線またはスルーホールなどの層内配線により、それぞれ対応する端子どうしが接続されて回路配線を形成している。
【0029】
なお、パッケージ20の第1層基板21〜第4層基板24は、セラミックス絶縁材料などからなる。また、パッケージ20に設けられた振動片接続端子28、IC接続端子27、外部実装端子25、および、それらを電気的に接続する配線パターンまたは層内配線パターンなどは、一般に、タングステン(W)、モリブデン(Mo)などの金属配線材料をセラミックス絶縁材料上にスクリーン印刷して焼成し、その上にニッケル(Ni)、金(Au)などのめっきを施すことにより形成される。
【0030】
図2(a),(b)において、水晶振動片1を駆動振動させるための駆動回路を含む半導体回路素子としてのICチップ40は、パッケージ20の凹部の凹底部分に設けられたダイパッド26上に、例えばろう材あるいは接着剤(図示せず)によって接着・固定されている。また、本実施形態では、ICチップ40とパッケージ20とが、ワイヤーボンディング法を用いて電気的に接続されている。すなわち、ICチップ40に設けられた複数の電極パッド45と、パッケージ20の対応するIC接続端子27とが、ボンディングワイヤー37により接続されている。
【0031】
水晶振動片1は、その水晶振動片1の保持部となる一端側近傍に設けられた外部接続電極18A,18Bと、パッケージ20の第3層基板23に設けられた対応する振動片接続端子28とを位置合わせした状態で、例えば導電性接着剤39などの接合部材により接合されている。これにより、水晶振動片1は、パッケージ20と接合された外部接続電極18A,18B側の反対側を自由端として第1層基板21と接触しないように隙間を空けた状態で、外部接続電極18A,18Bが設けられた保持部を固定端として片持ち支持されている。
なお、接合部材として用いられる導電性接着剤39は、一般に、ポリイミド、シリコン系、またはエポキシ系などの樹脂に、銀(Ag)フィラメント、またはニッケル(Ni)粉を混入したものが使用される。また、水晶振動片1を接合する接合部材は導電性接着剤39に限らず、半田などの他の接合部材を用いることもできる。
【0032】
水晶振動片1が接合されたパッケージ20の第4層基板24上には、蓋体としてのリッド30が接合されている。本実施形態では、例えば、42アロイ(鉄にニッケルが42%含有された合金)やコバール(鉄、ニッケルおよびコバルトの合金)等の金属製のリッド30が、鉄−ニッケル(Fe−Ni)合金などをフレーム状に型抜きして形成されたシールリング29を介してシーム溶接されている。なお、リッド30には、上記した金属以外に、セラミックス、あるいはガラスなどを用いることができ、例えばガラス製のリッド30を用いた場合には、低融点ガラスを接合部材として用いるなど、リッド30の材料に応じて適宜に接合部材を選定し、パッケージ20とリッド30との接合を行うことができる。
【0033】
パッケージ20およびリッド30によって形成されるキャビティーは、水晶振動片1が動作するための空間となる。このキャビティーは、本実施形態の水晶振動子10において、減圧空間または不活性ガス雰囲気に密閉・封止することができる。例えば、キャビティー内を減圧空間にして密閉封止する場合には、パッケージ20の図示しない封止孔に固形の封止材を配置させた状態で真空チャンバー内に入れ、所定の真空度まで減圧させて水晶振動子10の内側から出るガスを封止孔から排出させた後、固形の封止材を溶融してから固化させることにより封止孔を閉塞させて封止する。これにより、パッケージ20の凹部内に接合された水晶振動片1およびICチップ40を気密封止することができる。
なお、封止材の材料としては、完成した水晶振動子10を外部実装基板に実装する際のリフロー温度よりも高い温度を融点として有したものが望ましく、例えば、金と錫(Sn)との合金、あるいは、金とゲルマニウム(Ge)との合金などを用いることができる。
【0034】
〔電圧制御型水晶発振器〕
次に、上記水晶振動子10を備えた電圧制御型水晶発振器について説明する。
電圧制御型水晶発振器は、上記背景技術の説明で参照した図8および図9を用いて説明することができる。すなわち、電圧制御型水晶発振器は、図9の回路図に示すように、INで表す制御電圧入力端子と、OUTで表す周波数出力端子との間に、制御電圧印加用抵抗Rd、可変容量ダイオードD1、水晶振動子X1、インダクタンスいわゆるコイル(伸長コイル)L、コンデンサーCa,Cb、増幅器A1を有している。ここで、可変容量ダイオードD1は、その2端子間に印加する逆電圧に応じて容量値が変化するダイオードである。したがって、可変容量ダイオードD1を発振ループ中に挿入し、その印加電圧を変化させることによって発振周波数を制御することができる。
さらに、図9に示す回路図の電圧制御型水晶発振器では、水晶振動子X1に直列にコイルLが接続されていることにより、共振周波数はインダクタンスLを挿入する以前の周波数よりも低くなるが、反共振周波数は変化しないため、共振・反共振周波数間隔が広がるという原理に基づいて、電圧制御型水晶発振器の周波数可変範囲をさらに広げることを可能にしている。
【0035】
ここで、水晶振動子X1の一般的な等価回路は図8のように表され、図中、L1は等価直列インダクタンス、C1は等価直列容量、R1は等価直列抵抗、C0は並列容量である。水晶振動子X1からみた増幅器A1を含む回路側の負荷容量(合成容量)をCLとし、容量比をγ(C0/C1)とすると、この負荷容量CLによる共振周波数f0の変化量Δf/f0は、周知の次式で表される。
Δf/f0=C0/(2γ(C0+CL))
すなわち、電圧制御型水晶発振器の周波数は、発振ループ中の負荷容量によりその共振周波数が変化する。
さらに、本実施形態の電圧制御型水晶発振器では、図1に示す水晶振動片1の、第1電極間配線16Aと第2電極間配線16Bとが水晶基板を挟んで平面視で重なる立体交差領域17には容量が発生する。この立体交差領域17に容量が発生することにより、図8に示す水晶振動子の等価回路における並列容量C0が見かけ上大きくなったことと同等になり、その結果、電圧制御型水晶発振器の周波数可変範囲を大きくすることができることを発明者は見出した。しかも、本実施形態のメサ形状の水晶振動片1においては、立体交差領域17の水晶基板の肉厚が、第1および第2突部5A,5Bにおいて第1励振電極15Aおよび第2励振電極15Bとが平面視で重なるように設けられた振動部に比して薄いので、振動部で発生させる水晶振動片1の主振動への影響を抑えながら効率的に容量を発生させることができる。
【0036】
(実施例)
以下、実施例に基づく本発明の効果を説明するが、本発明は以下の実施例およびその効果に限定されるものではない。
【0037】
図3は、従来(従来品)の電圧制御型水晶発振器における制御電圧−可変量(周波数変化量)と、本発明(実施例)の電圧制御型水晶発振器における制御電圧−可変量を示すものであり、(a)はグラフ、(b)は比較表である。
ここで、従来品とは、図9に示す回路図と同様な回路構成において、水晶振動片の両主面に対向させて設けられた各励振電極と、各励振電極と対応して設けられた各外部接続電極とを電気的に接続する電極間配線とが平面視で重ならないように配線された(立体交差領域がないように配線された)水晶振動片を用いたものである。
【0038】
一方、本実施例の電圧制御型水晶発振器は、図9に示す回路構成にて、水晶振動子X1に上記実施形態の立体交差領域17を有する水晶振動片1を用いたものである。
なお、従来および実施例の電圧制御型水晶発振器のいずれにおいても、水晶振動子(X1)の等価直列容量は略同一値のものを用いて、印加する制御電圧と周波数変化量(可変量)の関係を確認した。
その結果、図9に示すような水晶振動子に直列にコイル(インダクタンス)Lを挿入した回路構成の電圧制御型水晶発振器においては、図3(b)に示すように、水晶振動子(X1)の等価回路における並列容量C0(図8を参照)が大きくなって、等価直列容量C1と並列容量C0との容量比γが大きくなり、図3(a)に示すように、従来品に比して本実施例の電圧制御型水晶発振器の周波数可変範囲が大きくなることを確認した。
【0039】
上記実施形態で説明した水晶振動片およびそれを用いた水晶発振器は、以下の変形例として実施することも可能である。
【0040】
(変形例1)
上記実施形態の電圧制御型水晶発振器に用いる水晶振動片1は、水晶基板の第1および第2突部5A,5Bが設けられた肉厚部分を振動部としたメサ形状のものを用いた。これに限らず、本発明の水晶振動片では、水晶振動子の等価回路において並列容量を大きくする立体交差領域を、水晶基板の振動部よりも肉薄な部分に設ける構成とすればよく、例えば、以下説明する変形例1のバリエーションを挙げることができる。
図4および図5は、水晶振動片の変形例のバリエーションを説明するものである。なお、図4および図5において、上記実施形態と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
まず、図4は、水晶振動片の変形例1の1つのバリエーションを説明するものであり、(a)が概略平面図、(b)は(a)のC−C線断面図である。
また、図5は、本変形例1の他のバリエーションを説明するものであり、(a)が概略平面図、(b)は(a)のD−D線断面図である。
【0041】
まず、変形例1の水晶振動片の1つめのバリエーションについて説明する。
図4において、本変形例の1つめのバリエーションである水晶振動片51は、矩形平板状の水晶基板の一方の主面側には、第1励振電極15Aが設けられ、水晶基板の一端側近傍に設けられた第1外部接続電極18Aと第1電極間配線16Aにより電気的に接続されている。
同様に、水晶基板の他方の主面側には、第1励振電極15Aの対向電極である第2励振電極15Bが設けられ、水晶基板の一端側近傍の上記第1外部接続電極18Aと平面視で重ならない領域に設けられた第2外部接続電極18Bと、第2電極間配線16Bにより電気的に接続されている。
【0042】
水晶基板の一方の主面側において、第1励振電極15Aと第1外部接続電極18Aとの間の第1電極間配線16Aの一部を含む領域には凹部55Aが設けられている。また、水晶基板の他方の主面側において、第2励振電極15Bと第2外部接続電極18Bとの間の第2電極間配線16Bの一部を含み、かつ、凹部55Aと平面視で重なる領域には、凹部55Bが設けられている(図4(b)を併せて参照)。
第1励振電極15Aと第1外部接続電極18Aとを接続する第1電極間配線16Aと、第2励振電極15Bと第2外部接続電極18Bとを接続する第2電極間配線16Bとは、凹部55Aおよび凹部55Bにおいて、平面視で重なる立体交差領域17を有している。
【0043】
この構成によれば、凹部55Aおよび凹部55Bにおいて第1電極間配線16Aと第2電極間配線16Bとが平面視で重なる立体交差領域17が、第1励振電極15Aおよび第2励振電極15Bが形成された水晶基板の振動部よりも肉薄な部分で形成される。これにより、振動部の主振動への影響を抑えながら、立体交差領域17で対向する第1電極間配線16Aと第2電極間配線16Bによって発生する容量(図8における並列容量C0)を見かけ上大きくする効果を奏するので上記実施形態と同様な効果が得られ、水晶振動片51を用いた電圧制御型水晶発振器の周波数可変範囲を広げる効果を奏する。
【0044】
次に、変形例1の水晶振動片の他のバリエーションについて説明する。
図5において、本変形例の他のバリエーションである水晶振動片61は、矩形平板状の水晶基板の一方の主面側に形成された凹部65A内に第1励振電極15Aが設けられ、水晶基板の一端側近傍に設けられた第1外部接続電極18Aと第1電極間配線16Aにより電気的に接続されている。
同様に、水晶基板の他方の主面側に形成された凹部65B内には、第1励振電極15Aの対向電極である第2励振電極15Bが設けられ、水晶基板の一端側近傍の上記第1外部接続電極18Aと平面視で重ならない領域に設けられた第2外部接続電極18Bと、第2電極間配線16Bにより電気的に接続されている。
このように、第1および第2励振電極15A,15Bが形成された水晶振動片61の主振動部に凹部65A,65Bを設けることによって、水晶振動片61の振動部が動きやすくなって効率的に振動することが可能になりCI値を下げることができることが一般に知られている。
【0045】
水晶基板の一方の主面側において、第1励振電極15Aと第1外部接続電極18Aとの間の第1電極間配線16Aの一部を含む領域には凹部75Aが設けられている。また、水晶基板の他方の主面側において、第2励振電極15Bと第2外部接続電極18Bとの間の第2電極間配線16Bの一部を含み、かつ、凹部75Aと平面視で重なる領域には、凹部75Bが設けられている(図5(b)を併せて参照)。これらの凹部75Aおよび凹部75Bは、第1および第2励振電極15A,15Bが形成された水晶基板の凹部65A,65Bよりも浅く形成されている。これにより、凹部75Aおよび凹部75Bの各凹底面での水晶基板の肉厚が、第1および第2励振電極15A,15Bが形成された凹部65Aおよび凹部65Bの各凹底面の水晶基板の肉厚よりも肉薄になっている。
そして、その凹部75Aおよび凹部75Bにおいて、第1励振電極15Aと第1外部接続電極18Aとを接続する第1電極間配線16Aと、第2励振電極15Bと第2外部接続電極18Bとを接続する第2電極間配線16Bとは、平面視で重なる立体交差領域17を有している。
【0046】
この構成によれば、凹部75Aおよび凹部75Bにおいて第1電極間配線16Aと第2電極間配線16Bとが平面視で重なる立体交差領域17が、第1励振電極15Aおよび第2励振電極15Bが形成された水晶基板の振動部よりも肉薄な部分で形成されるので、振動部の主振動への影響を抑えながら、立体交差領域17で対向する第1電極間配線16Aと第2電極間配線16Bによって発生する容量(図8における並列容量C0)を見かけ上大きくする効果を奏し、その結果、水晶振動片61を用いた電圧制御型水晶発振器の周波数可変範囲を広げる効果を得ることができる。しかも、第1および第2励振電極15A,15Bが形成された水晶振動片61の主振動部に凹部65A,65Bを設けることによって水晶振動片61の振動部が効率的に振動することが可能になりCI値を下げることができる。
【0047】
(変形例2)
上記実施形態および変形例1の水晶振動片1,51,61において、水晶基板の各主面の電極間配線16A,16Bの立体交差領域17は、その対向面積を大きくすることによって、水晶振動片を用いた電圧制御型水晶発振器の周波数可変範囲をより大きく広げる効果を奏する。
図6は、水晶振動片の変形例2を説明する概略平面図である。なお、本変形例2では、上記実施形態の水晶振動片1と同じメサ形状の水晶振動片を一例として説明することとし、図6において、上記実施形態と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0048】
図6において、本変形例2の水晶振動片71は、矩形平板状の水晶基板の両主面の一部が突出して肉厚部分となる第1突部5Aおよび第2突部(不図示)を有した所謂メサ形状を呈している。
メサ形状の水晶基板の一方の主面側の第1突部5A上には第1励振電極15Aが設けられ、水晶基板の一端側近傍には第1外部接続電極18Aが設けられている。第1励振電極15Aと第1外部接続電極18Aとは、第1電極間配線16Aにより電気的に接続されている。
同様に、水晶基板の他方の主面側の突部(第2突部)には、第1励振電極15Aの対向電極である第2励振電極15B(図1を参照)が設けられ、水晶基板の一端側近傍の上記第1外部接続電極18Aと平面視で重ならない領域に設けられた第2外部接続電極18Bと、第2電極間配線16Bにより電気的に接続されている。
【0049】
第1励振電極15Aと第1外部接続電極18Aとを接続する第1電極間配線16Aは、意図的に面積を広くして形成されたランド部77を有している。同様に、第2励振電極15Bと第2外部接続電極18Bとを接続する第2電極間配線16Bは、第1電極間配線16Aのランド部77と平面視で重なる配置および形状のランド部(図中、ランド部77の下方に隠れて図示できず)を有し、これらの各ランド部77が平面視で重なる立体交差領域17´が形成されている。
【0050】
この構成によれば、立体交差領域17´が大きく得られるので、立体交差領域17´にて効率的に大きな並列容量(C0)が得られることにより、水晶振動片71を用いた電圧制御型水晶発振器の周波数可変範囲を広げる効果をより顕著に得ることができる。
【0051】
以上、発明者によってなされた本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0052】
例えば、上記実施形態および変形例では、圧電体基板として水晶基板を用いた水晶振動片1,51,61,71、および、それを用いた水晶振動子を備えた電圧制御型水晶発振器について説明した。これに限らず、水晶以外に、窒化アルミニウム(AlN)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、四ほう酸リチウム(Li247)などの酸化物基板や、ガラス基板上に窒化アルミニウム、五酸化タンタル(Ta25)などの薄膜圧電材料を積層させて構成された圧電体材料からなる圧電振動片を用いることもできる。
【0053】
また、上記実施形態および変形例で説明した特定の形態、例えば、水晶振動片1,51,61,71、あるいはパッケージ20などの形状は限定されるものではない。例えば、パッケージ20は、上記実施形態で説明した積層構造を有するものに限らず、機械加工などにより一体化した形のものを使用してもよい。
同様に、各電極、配線、端子などの位置や形状についても上記実施形態およびに限定されない。
【符号の説明】
【0054】
1,51,61,71…圧電振動片としての水晶振動片、5A…第1突部、5B…第2突部、10…圧電振動子としての水晶振動子、15A…第1励振電極、15B…第2励振電極、16A…第1電極間配線、16B…第2電極間配線、17,17´…立体交差領域、18A…第1外部接続電極、18B…第2外部接続電極、20…パッケージ、21…第1層基板、22…第2層基板、23…第3層基板、24…第4層基板、25…外部実装端子、26…ダイパッド、27…IC接続端子、28…振動片接続端子、29…シールリング、30…リッド、37…ボンディングワイヤー、39…導電性接着剤、40…ICチップ、45…複数の電極パッド、51…水晶振動片、55A,55B…凹部、65A,65B…凹部、75A,75B…凹部、77…ランド部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みすべり振動可能な圧電体基板と、
前記圧電体基板の一方の主面に形成された第1励振電極、および、前記第1励振電極と第1電極間配線により電気的に接続された第1外部接続電極と、
前記圧電体基板の他方の主面に前記第1励振電極と平面視で重なるように配置されて形成された第2励振電極、および、前記第2励振電極と第2電極間配線により電気的に接続された第2外部接続電極と、を備え、
前記第1電極間配線と前記第2電極間配線との一部が、前記圧電体基板の前記第1励振電極および前記第2励振電極が形成された部分よりも薄い部分で平面視で重なる立体交差領域を有することを特徴とする圧電振動片。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電振動片において、
前記圧電体基板の前記第1励振電極および前記第2励振電極が形成された部分が、その周縁部に比べて肉厚なメサ型振動片であることを特徴とする圧電振動片。
【請求項3】
請求項1に記載の圧電振動片において、
前記圧電体基板の前記立体交差領域の肉厚がその他の領域よりも薄く加工されていることを特徴とする圧電振動片。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の圧電振動片において、
前記第1電極間配線および前記第2電極間配線の前記立体交差領域となる部分が、他の部分よりも広げて形成されていることを特徴とする圧電振動片。
【請求項5】
圧電振動片と、前記圧電振動片を発振させるための発振回路と、を有し、前記発振回路が、可変容量素子と、該可変容量素子に直列に接続されたコイルと、を含む圧電発振回路を有する圧電発振器であって、
前記圧電振動片が、
厚みすべり振動可能な圧電体基板と、
前記圧電体基板の一方の主面に形成された第1励振電極、および、前記第1励振電極と第1電極間配線により電気的に接続された第1外部接続電極と、
前記圧電体基板の他方の主面に前記第1励振電極と平面視で重なるように配置されて形成された第2励振電極、および、前記第2励振電極と第2電極間配線により電気的に接続された第2外部接続電極と、を備え、
前記第1電極間配線と前記第2電極間配線との一部が、前記圧電体基板の前記第1励振電極および前記第2励振電極が形成された部分よりも薄い部分で平面視で重なる立体交差領域を有することを特徴とする圧電発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−147053(P2011−147053A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7861(P2010−7861)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】