説明

垂直磁気記録媒体の製造方法

【課題】グラニュラー構造の磁性層の結晶配向性を改善して、高記録密度化を達成可能な高S/N比の垂直磁気記録媒体を製造すること。
【解決手段】ガラス基板1と、ガラス基板1上に形成された六方晶金属を含む下地層5と、この下地層5上に形成され、六方晶金属を含む柱状の磁性結晶粒子および、酸化物を含み磁性結晶粒子を区画する粒界部を有する磁性層6とを含む垂直磁気記録媒体10の製造方法は、加熱された下地層5の上に磁性層6を成膜することを特徴としている。六方晶下地層が熱処理を受けていることにより、下地層5の垂直配向性が向上しているので、六方晶下地層(0002)面のΔθ50(結晶配向の程度を示す指標)は狭くなり、六方晶下地層の少なくとも六方晶磁性結晶粒子との境界部分についての膜応力を緩和することができ、大きな内部応力の発生を伴うことなく、磁性層6、下地層5を成膜でき、それらの結晶配向性を改善できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高記録密度の垂直磁気記録方式のHDD等に搭載するのに適した垂直磁気記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の高記録密度化を達成するために垂直磁気記録方式が提案されている。垂直磁気記録方式の磁気記録媒体(垂直磁気記録媒体)は、その磁性層の磁化容易化軸が主として基板に垂直に配向されたものである。この垂直磁気記録媒体において、さらなる高記録密度化のためには、低ノイズ化と高熱安定性を両立させることが必要である。このためには、磁性層の強磁性結晶粒子の微細化および均一化を図ることと、強磁性結晶粒子間の磁気的・空間的な分離を確実に行うことが要求される。
【0003】
近年、強磁性結晶粒子を確実に分離して粒子間相互作用を低減するために、グラニュラー構造と呼ばれる磁性層が注目されている。グラニュラー構造の磁性層では、強磁性結晶粒子間の粒界を酸化物若しくは窒化物で構成して、強磁性結晶粒子の磁気的な分離性能を確保している。特許文献1には、磁気的分離性能を確保するために、磁性結晶粒子がSiO2添加物によって取り囲まれたグラニュラー構造の磁性層を形成する方法が提案されている。特許文献2には、磁性結晶粒子がTiO2添加剤によって取り囲まれたグラニュラー構造の磁性層を形成する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2002−83411号公報
【特許文献2】特開2001−43526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、垂直磁気記録媒体の更なる高記録密度化および信頼性の向上のためには、例えば、150GB/平方インチ以上の高記録密度の垂直磁気記録媒体を実現するためには、その磁性層における磁気結晶粒子の間の磁気的、空間的な分離をより確実に形成して、S/N比をさらに高める必要がある。しかしながら、従来のグラニュラー構造の磁性層においては、結晶粒子間の交換結合が十分に低減されておらず、これが高S/N比を得るための障害となっている。
【0005】
この原因としては、垂直磁気記録媒体における磁性層を含む各層の材料やプロセス条件の違いにより、各層、あるいは各層間において発生する内部応力が大きく、これが膜の形成工程に悪影響を与えているものと考えられる。例えば、結晶配向性に悪影響を与えているものと考えられる。また、各層の膜の剥離やクラックなどの発生原因となっているものと考えられる。このような弊害が発生すると、結晶粒子間の交換結合が十分に低減できず、高S/N比を得ることができない。
【0006】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、成膜時において磁性層を含む各層の内部あるいは境界において発生する内部応力を緩和することにより、高S/N比の垂直磁気記録媒体を製造可能な方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、基板と、前記基板上に形成された六方晶金属を含む下地層と、前記下地層上に形成され、六方晶金属を含む柱状の磁性結晶粒子と酸化物を含み前記磁性結晶粒子を区画する粒界部とを有する磁性層とを含む垂直磁気記録媒体の製造方法であって、加熱された下地層の上に前記磁性層を成膜することを特徴としている。
【0008】
すなわち、本発明では、酸化物粒界で相互に区画された六方晶磁性結晶粒子(単に結晶粒子ともいう)を含む磁性層の成膜前に、六方晶下地層が熱処理を受けていることが特徴の一つである。
【0009】
六方晶下地層が熱処理を受けていることにより、この六方晶下地層の垂直配向性が向上しているので、六方晶下地層(0002)面のΔθ50(結晶配向の程度を示す指標)は狭くなっている。
【0010】
六方晶磁性粒子は、六方晶下地層に対してエピタキシャルに成長させる。六方晶下地層の垂直配向性は熱処理により向上させてあるので、エピタキシャル成長する六方晶磁性結晶粒子の垂直配向性を向上させることができる。従って、六方晶磁性結晶粒子の(0002)面のΔθ50(結晶配向の程度を示す指標)は狭くなっている。好適には4.0度以内の角度とする。また、磁性結晶粒子は、前記基板表面に対して垂直上方に向かって延びる柱状に形成される。
【0011】
なお、六方晶下地層を熱処理する方法については、特に制限は無いが、六方晶下地層を加熱してもよいし、予め加熱された基板上に六方晶下地層を成膜する方法や、基板と六方晶下地層との間に形成された膜を加熱し、この上に六方晶下地層を成膜する方法でもよい。
【0012】
本発明によれば、六方晶下地層の少なくとも六方晶磁性結晶粒子との境界部分についての膜応力を緩和することができる。
【0013】
磁性層の成膜前において、基板表面を加熱しておくと、成膜時の熱膨張による歪、欠陥を除去でき、また、アニール効果によって結晶配向性を制御できることが確認された。したがって、加熱温度を適切に設定することにより、グラニュラー構造を有する磁性層の結晶配向性を改善して結晶粒子の均一化を図ることができ、また、剥離、クラックの無い状態で成膜できる。よって、結晶粒子間の交換結合が十分に低減されたグラニュラー構造の磁性層を成膜できるので、垂直磁気記録媒体のS/N比を改善できる。
【0014】
ここで、グラニュラー構造とは、前述した六方晶金属を含む柱状の磁性結晶粒と、酸化物を含み前記磁性結晶粒を区画する粒界部とを含んでいる。
【0015】
本発明において、前記基板と前記下地層との間に軟磁性層を備えている場合において、前記軟磁性層の成膜工程と前記下地層の成膜工程の間、又は、前記下地層の成膜工程と前記磁性層の成膜工程との間において、前記基板を加熱することが好ましい。また、前記磁性結晶粒子に含まれる六方晶金属はCoであり、前記粒界部に含まれる酸化物は珪素酸化物であることが好ましい。さらには、前記下地層に含まれる前記六方晶金属がRuであることが好ましい。
【0016】
ここで、垂直磁気記録媒体では、磁気記録に用いる磁気ヘッドからの磁束を制御して、記録・再生特性を向上させるために、下地層の下側に軟磁性層が形成される場合がある。この場合には、軟磁性層の成膜工程と下地層の成膜工程の間の時点で、基板の表面を加熱する加熱工程を行うようにしてもよい。
【0017】
また、軟磁性層と下地層の間に、下地層の結晶配向性を制御するためにシード層が形成される場合がある。この場合には、軟磁性層の成膜工程とシード層の成膜工程の間の時点で、基板の表面を加熱するようにしてもよい。
【0018】
次に、本発明の加熱工程では、基板の表面温度が130℃以上となるように加熱することが望ましい。一般的な成膜工程では基板表面温度が約100℃前後となっているが、これよりも高い温度となるように基板表面を加熱することにより、下地層、磁性層の結晶配向性を改善できる。
【0019】
具体的には、磁気記録媒体における結晶配向性評価をX線回折装置で行い、磁性層と下地層との(0002)回折のロッキングカーブの半値幅Δθ50の値が4.0度以下、好ましくは、2.5〜4.0度の範囲内となるように、前記加熱工程によって得られる前記非磁性基板の表面温度を調整することが望ましい。
【0020】
また、基板の表面温度が、前記加熱工程を経て得られる加熱温度まで上昇するように、軟磁性層の成膜工程における膜厚を増加させるようにしてもよい。一般的に採用されているスパッタリングなどの成膜工程では、膜厚を増加すると、それに伴って基板表面温度も上昇する。したがって、好適な加熱温度が得られるように膜厚を設定した場合においても、基板表面をヒーターを用いて直接に加熱する場合と同様な作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法では、酸化物粒界で相互に区画された六方晶磁性結晶粒子(単に結晶粒子ともいう)を含む磁性層の成膜前に、六方晶下地層が熱処理を受けていることを特徴としている。六方晶下地層が熱処理を受けていることにより、この下地層の垂直配向性が向上しているので、六方晶下地層(0002)面のΔθ50(結晶配向の程度を示す指標)は狭くなり、六方晶下地層の少なくとも六方晶磁性結晶粒子との境界部分についての膜応力を緩和することができる。
【0022】
したがって、本発明によれば、大きな内部応力の発生を伴うことなく、磁性層および/または下地層を成膜できるので、それらの層の結晶配向性を改善して結晶粒子の均一化を図ることができ、また、剥離、クラックの無い状態でそれらの層を成膜できる。この結果、垂直磁気記録媒体のS/N比を一層高めることができるので、例えば、150GB/平方インチ以上の高記録密度の垂直磁気記録媒体の製造に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は本発明によって製造した垂直磁気記録媒体の実施の形態を示す断面模式図である。本実施の形態に係る垂直磁気記録媒体10は、ガラス基板1の上に、付着層2、軟磁性層3、シード層4、下地層5、グラニュラー構造の磁性層6、炭素系保護層7、および潤滑層8がこの順序で形成された構成となっている。
【0024】
ここで、ガラス基板1(非磁性基板)としては化学強化ガラス、結晶化ガラスなどを用いることができる。ガラス基板1の代わりに、NiPメッキを施したAl合金製の基板を用いることもできる。
【0025】
付着層2は軟磁性層3の付着性を改善するための層であり、例えば非晶質のTi、TiCrを用いることができる。軟磁性層3は、磁気ヘッドからの磁束を制御して記録・再生特性を改善するために形成されたものであり、非晶質のCoNbZr、CoTaZrなどのCo合金を用いることができる。
【0026】
シード層4は下地層5の配向性の改善、および、下地層4の結晶粒径の微細化を図るために配置されるものであり、Ni合金、例えば、NiTaを用いることができる。この層は非晶質とすることができる。結晶構造の場合には、fccあるいはbcc構造とされる。
【0027】
下地層5は磁性層6の結晶配向性、結晶粒径、粒径分布などを制御するための層である。次に述べるように、磁性層6はグラニュラー構造の垂直磁気記録層であり、hcp結晶構造となっているので、この下地層5も同じくhcp結晶構造とすることが好ましく、例えば、層材料としてRuが用いられる。
【0028】
磁性層6は、磁性結晶粒子が非磁性粒界(粒界部)によって取り囲まれた柱状構造をしたグラニュラー構造のものである。ここで、グラニュラー構造とは、磁性結晶粒子が基板表面に対して垂直上方に向かって延びる柱状に形成されている構造である。磁性結晶粒子はCoを主成分とする強磁性材料から形成することができ、非磁性粒界はCr、Si、Ti、Taなどの酸化物材料から形成することができる。
【0029】
磁性層6のCo結晶粒子は、下地層5のRu結晶粒子上にエピタキシャル成長して柱状構造となる。また、磁性層6の非磁性粒界は下地層5の結晶粒界上に成長している。磁性層6の結晶粒界の幅は、下地層5との界面から膜厚方向において一定である事が必要である。
【0030】
なお、炭素系保護層7および潤滑層8は、一般的に使用されている材料を用いて構成することができる。
【0031】
ところで、下地層5は、上部下地層と下部下地層との2層からなる。磁性層6において、Coを含む磁性結晶粒子と、この磁性結晶粒子を取り巻いて磁性結晶粒子を区画する酸化物からなる粒界部とを有する構造にするためには、磁性層6の下に位置する下地層5において粒界形成のきっかけとなる凹凸を形成する必要がある。また、酸化物を有する磁性層6を上部下地層の上に成膜すると結晶配向性が劣化しやすいため、上部下地層の下に位置する下部下地層の結晶配向をできるだけ高めておく必要がある。
【0032】
結晶配向性の高い膜を形成するためには、低いガス圧雰囲気中でのスパッタリング、あるいは高い成膜レートでのスパッタリングで形成することが望ましいが、この場合、表面に凹凸がつきにくい。一方、表面凹凸を形成するためには、高いガス圧雰囲気中でのスパッタリング、あるいは低い成膜レートでのスパッタリングで形成することが望ましいが、表面凹凸の増大とともに結晶配向性が劣化するという問題が生じる。
【0033】
そこで、高い結晶配向性と表面凹凸の形成を両立するために下部下地層と上部下地層とを異なった成膜プロセスで積層する。しかしながら、実験により、低ガス圧中で成膜した下部下地層の上に高ガス圧中で上部下地層を成膜した場合、下部下地層のRuに対する上部下地層のRuの回折ピークの分離及びシフトが確認された。このように成膜中のガス圧によりRuの格子定数は変化するので、下部下地層と上部下地層とを積層した場合に内部応力が発生することが考えられる。本発明では、高いガス圧成膜後(即ち下地層5成膜後)に熱処理を施し、欠陥と歪の除去を行なう。
【0034】
したがって、垂直磁気記録媒体10の製造においては、加熱した下地層5の上に磁性層6を成膜する。下地層5を熱処理する方法については、特に制限は無いが、下地層5を成膜した後にガラス基板1(つまり、下地層5)を加熱してもよいし、予め加熱されたガラス基板1上に下地層5を成膜する方法や、ガラス基板1と下地層5との間に形成された膜(例えば軟磁性層3,シード層4)を加熱し、この上に下地層5を成膜する方法でもよい。
【0035】
この加熱によって、下地層5および磁性層6の結晶配向性が改善されたことが確認された。また、軟磁性層3の厚さを増加させることにより、下地層5の成膜前の基板表面温度を高めるようにしても、同様な作用効果が得られることが確認された。
【0036】
(実施例1)
上記構成の垂直磁気記録媒体の具体的な製造工程を説明する。
【0037】
まず、非晶質のアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型してガラスディスクを作成した。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる直径が65mmの平滑なガラス基板1を得た。
【0038】
得られたガラス基板1の上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法により、Ar雰囲気中で、付着層2、軟磁性層3を順次に成膜した。このとき、付着層2は、膜厚20nmのTi層となるように、Tiターゲットを用いて成膜した。また、軟磁性層3は、膜厚20nmの非晶質のCoTaZr(Co:88at%、Ta:7.0at%、Zr:4.9at%)層となるように、CoTaZrターゲットを用いて成膜した。
【0039】
次に、軟磁性層3の上に、DCマグネトロンスパッタリング法により、Ar雰囲気中で、シード4、下地層5を順次成膜した。
【0040】
まず、アモルファスのNiTa(Ni:45at%、Ta:55at%)からなる10nm厚のシード層4を成膜し、その後、六方晶金属Ruからなる30nm厚の下地層5を形成した。なお、下地層5は、まず、下部下地層を成膜し、その後、下部下地層の成膜時のガス圧よりも高いガス圧(または、下部下地層の成膜時の成膜レートよりも低い成膜レート)で、上部下地層を成膜した。
【0041】
こうして下地層5まで成膜された垂直磁気記録媒体用基板を成膜装置から取り出して、加熱装置を用いてその基板表面を加熱した。加熱条件について後述する。
【0042】
次に、下地層5の上にSiO2とCoCrPtとを含む強磁性体のターゲットを用いて、15nmのhcp結晶構造からなる磁性層6を形成した。この磁性層6を形成するためのターゲットの組成は、Co:62at%、Cr:10at%、Pt:16at%、SiO2:12at%とし、ガス圧4Paで成膜した。
【0043】
次いで、Arに水素を18体積%含有させた混合ガスを用いて、カーボンターゲットをスパッタリングすることにより、水素化カーボンからなる4.5nm厚の炭素系保護層7を形成した。
【0044】
最後に、PFPE(パーフロロポリエーテル)からなる潤滑層8をディップコート法により形成した。この潤滑層8の膜厚を1nmとした。
【0045】
ここで、かかる製造工程において、下地層5の成膜直後(磁性層6の成膜工程の直前)の加熱工程において加熱条件を変えて、下地層5および磁性層6の結晶配向性の変化を調べた。結晶配向性を評価するために、X線解析評価による配向性Δθ50を測定した。
【0046】
Δθ50とは、X線回折測定(2θ/θ)で観測されるCo,Ruの(0002)回折に対するロッキングカーブの半値幅のことをいう。また、ロッキングカーブは、Co、Ruの(0002)回折の強度ピーク角度で2θ(検出角度)を固定してθ(X線入射角度)を変化させ測定する。この測定から各Co、Ruの(0002)のディスク面直に対する強度バラつきが評価できる。
【0047】
図2は測定結果の一例を示す図表である。図示の例は、加熱工程において、ヒーター出力を200W、400W、600W、800Wおよび1000Wに切り替えて、基板表面温度を、それぞれ、130℃、190℃、250℃、300℃および360℃に加熱した結果である。これらの測定結果から、下地層5のRuの結晶配向性および磁性層6のCoの結晶配向性が、基板表面温度の上昇に伴って改善されることが確認された。また、基板表面温度を130℃以上にすれば、Δθ50を4.0度以下の値にできることが確認された。さらに、磁気特性などのその他のパラメータを考慮して、Δθ50の値が4.0度以下、好ましくは、2.5〜4.0度の範囲内となるように、基板表面を加熱することが望ましいことが確認された。
【0048】
(実施例2)
次に、軟磁性層3の膜厚を増加させることにより基板表面温度を高める工程を含む垂直磁気記録媒体の製造法の実施例を説明する。
【0049】
すなわち、実施例1では、軟磁性層3を、膜厚20nmのアモルファスCoTaZr(Co:88at%、Ta:7.0at%、Zr:4.9at%)層となるように、CoTaZrターゲットを用いて成膜した。本実施例2では、軟磁性層3の成膜工程において、その膜厚を変えて、下地層5および磁性層6の結晶配向性の変化を測定した。結晶配向性の測定は、X線解析評価による配向性Δθ50を測定することにより行った。
【0050】
図3は測定結果の一例を示す図表である。図示の例は、軟磁性層3の成膜工程において、軟磁性層3の膜厚を20nm、40nm、80nm、120nmに変えた場合の結果である。膜厚が20nmの場合の基板表面温度は100℃であったが、膜厚を40nm、80nm、120nmにすると、基板表面温度がそれぞれ、130℃、180℃、240℃に上がり、下地層5のRuの結晶配向性および磁性層6のCoの結晶配向性が、軟磁性層4の膜厚を増加させることに伴って改善されることが確認された。よって、軟磁性膜3の成膜後に、基板表面を加熱する代わりに、軟磁性層3の膜厚を増加させることで、基板が加熱され、実施例1と同様な作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明により製造された垂直磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。
【図2】基板表面の加熱温度に対する結晶配向性の変化を示す図表である。
【図3】軟磁性層の膜厚に対する結晶配向性の変化を示す図表である。
【符号の説明】
【0052】
1 ガラス基板
2 付着層
3 軟磁性層
4 シード層
5 下地層
6 磁性層
7 炭素系保護層
8 潤滑層
10 垂直磁気記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された六方晶金属を含む下地層と、
前記下地層上に形成され、六方晶金属を含む柱状の磁性結晶粒子と、酸化物を含み前記磁性結晶粒子を区画する粒界部とを有する磁性層と、
を含む垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
加熱された下地層の上に前記磁性層を成膜する
ことを特徴とする、垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記基板と前記下地層との間に軟磁性層を備え、
前記軟磁性層の成膜工程と前記下地層の成膜工程の間、又は、前記下地層の成膜工程と前記磁性層の成膜工程との間に、前記基板を加熱する
ことを特徴とする、請求項1に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記磁性結晶粒子に含まれる六方晶金属はCoであり、前記粒界部に含まれる酸化物は珪素酸化物である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記下地層に含まれる前記六方晶金属は、Ruである
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記磁性結晶粒子は、前記基板表面に対して垂直上方に向かって延びる柱状に形成されている
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の製造方法によって製造された
ことを特徴とする、垂直磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−90906(P2008−90906A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269686(P2006−269686)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】