説明

基板洗浄方法及び基板洗浄装置

【課題】基板表面を水溶液が乾燥することなく、基板表面を均一に洗浄することができる基板洗浄方法及び基板洗浄装置を提供する。
【解決手段】基板洗浄方法及び基板洗浄装置は、基板の洗浄に有効な成分を含んだ水溶液に、前記基板を浸漬して洗浄を行う洗浄工程と、洗浄工程と移動工程とを備え、洗浄と移動工程が行われる空間領域を加湿する加湿工程と洗浄の次工程として水洗工程を有し、基板洗浄装置は、基板を洗浄する洗浄部と洗浄後の基板を次工程に移動する移動部とを備え、洗浄部と移動部が備えられる空間領域を相対湿度60%RH以上100%RH未満に加湿する加湿部と洗浄後の基板を水洗する水洗部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄に有効な成分を含んだ水溶液を用いる基板洗浄方法及び基板洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体等の製造において、水溶液を用いて化学的に洗浄を行う、基板洗浄方法(いわゆるウエットエッチング方法)が行われている。この基板洗浄方法は、基となる基板に、導電性膜や半導体膜や絶縁膜などを形成し、これらの膜を洗浄することで、トランジスター等の回路を形成する。
【0003】
前述の基板洗浄方法では、洗浄後の膜厚のバラツキが洗浄品質上の課題となる。特許文献1では、洗浄槽に貯留された水溶液の液面近傍に加湿された空気を送風することで、水溶液の蒸発を抑制し、濃度を一定に保つことで、基板洗浄の均一化と安定化、並びに水溶液交換頻度の低減に関する基板洗浄方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−172366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、基板が水溶液から鉛直方向に取り出され、次工程が開始されるまでの移動工程の間に、水溶液が基板表面の鉛直線上部から部分的に基板表面が乾燥する課題があった。特許文献1では、基板が水溶液から取り出された時に、基板表面が乾燥することについては触れられていない。
【0006】
水溶液が基板の上部で乾燥することは、基板表面に付着する水溶液に対する重力の作用と、基板表面と水溶液との表面張力の作用によって乾燥が促進することに起因する。水溶液が基板表面の上部で乾燥が生じると、水溶液と基板表面との接触する時間(接液時間)が部分的に異なる。接液時間が部分的に異なることで、基板表面の洗浄量のムラを生じさせるという課題もある。さらに部分的な乾燥が進行すると、乾燥した水溶液と基板表面との境界面で、水溶液中の水分が蒸発する。水溶液中の水分が蒸発すると、水溶液中の成分が蒸発残留物として、水分が蒸発した水溶液と基板表面の境界面に残留する課題もある。蒸発残留物は、前記ウエットエッチング方法では除去できず、蒸発残留物が付着した部分を別の工程を追加して取り除く必要がある。このことから、生産性の低下になる課題もある。従って、基板を水溶液から取り出した場合に水溶液が基板表面を乾燥することなく、基板表面を均一に洗浄することができる基板洗浄方法及び基板洗浄装置が要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
(適用例1)本適用例に係る基板洗浄方法は、基板の洗浄に有効な成分を含んだ水溶液に、基板を浸漬して洗浄を行う洗浄工程と、洗浄された基板を水溶液から取り出して次工程に移動する移動工程と、洗浄工程及び移動工程が行われる空間領域を相対湿度60%RH(単位:%RH(Relative Humidity))以上100%RH未満に加湿する加湿工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
このような基板洗浄方法によれば、洗浄工程及び移動工程が行われる空間領域を相対湿度60%RH以上100%RH未満に加湿することで、空間領域の空気中に内在する水分子量(水蒸気量)が増加する。空間領域に内在する水分子は、洗浄工程から取り出された基板に付着することで基板表面からの水溶液の乾燥を抑制し、基板表面を均一に水溶液の液膜が覆っている状態を維持することができる。従って、基板を水溶液から取り出した場合に基板表面と水溶液との接液状態を均一に保ち、基板表面を均一に洗浄することができる基板洗浄方法を実現できる。
【0010】
(適用例2)上記適用例に係る基板洗浄方法において、水溶液はフッ化水素酸を有し構成されていることが好ましい。
【0011】
このような基板洗浄方法によれば、相対湿度を60%RH以上100%RH未満に加湿し、さらに、洗浄工程に用いる水溶液は、フッ化水素酸を有した構成にすることで、基板の表面を水溶液の液膜が均一に覆うことができる。
【0012】
(適用例3)上記適用例に係る基板の洗浄方法において、加湿工程は、空間領域に導入される空気が有する熱エネルギーを利用して水を気化する気化工程を備えることが好ましい。
【0013】
このような基板洗浄方法によれば、気化工程による加湿は、導入される空気が有する熱エネルギーで水を蒸発させることから、気化工程で新たにエネルギーを消費することなく加湿をおこなうことができる。また、加湿される水分量は、常に導入する空気に保有できる水分量以下であり、過剰な加湿が行われることがない。従って、エネルギー消費が少なく、過剰な加湿による水滴が基板に付着することがない加湿を実現することができる。
【0014】
(適用例4)上記適用例に係る基板洗浄方法において、移動工程の次工程として、洗浄された基板を水で洗浄する水洗工程を備えることが好ましい。
【0015】
このような基板洗浄方法によれば、移動工程の次工程として水洗工程を備えることで、洗浄工程から水洗工程までの間の移動工程において、基板表面を均一に水溶液の液膜で覆った状態を維持することができる。
【0016】
(適用例5)本適用例に係る基板洗浄装置は、基板の洗浄に有効な成分を含んだ水溶液を用いて基板を洗浄する洗浄部と、洗浄部で洗浄された基板を取り出して次工程に移動する移動部と、洗浄部による洗浄及び、移動部による基板の移動が行われる空間領域を相対湿度60%RH以上100%RH未満に加湿する加湿部とを備えることを特徴とする。
【0017】
このような基板洗浄装置によれば、加湿部によって、洗浄部と移動部とを備える空間領域を相対湿度60%RH以上100%RH未満に加湿することで、空間領域の空気中に内在する水分子量を変化させることができる。このことから、洗浄部から取り出された基板の表面に空間領域に内在する水分子が付着することで、基板表面の親水性を高めることができる。従って、基板を水溶液から取り出した場合に水溶液と基板表面との接液時間を均一に保ち、基板表面を均一に洗浄することができる基板洗浄装置が実現できる。
【0018】
(適用例6)上記適用例に係る基板洗浄装置において、加湿部は、空間領域に導入される空気が有する熱エネルギーを利用して水を気化する気化部を備えることが好ましい。
【0019】
このような基板洗浄装置によれば、気化部による加湿は、導入される空気が有する熱エネルギーで水を蒸発させることから、加湿を行うために必要であった加熱装置などが不要となる。また、加湿量の制御装置を設けなくても常に導入する空気が保有できる水分量以下の加湿となり、過剰な加湿が行われることがない。従って、構造が簡便な加湿部を構成でき、過剰な加湿による水滴によって基板を汚染することなく加湿を行うことができる。
【0020】
(適用例7)上記適用例に係る基板洗浄装置において、基板洗浄装置で洗浄された基板を水で洗浄する水洗部を備えることが好ましい。
【0021】
このような基板洗浄装置によれば、水洗部を備えることで、洗浄部から取り出された基板の表面に水溶液が均一に付着した状態で基板の水洗を開始することができる。従って、水溶液と基板表面との接液時間を均一に保ち、基板表面を均一に洗浄した状態で洗浄を停止することができる基板洗浄装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る基板洗浄方法の各工程を示すフロー図。
【図2】基板洗浄方法を実行する基板洗浄装置の概構成を示すブロック図。
【図3】図2の基板洗浄装置の詳細な構成を示す構成図。
【図4】洗浄工程で洗浄される基板の例を示す図。
【図5】空間領域の相対湿度と洗浄後の膜厚のバラツキの関係を示す散布図。
【図6】膜厚の測定箇所を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
(実施形態)
【0025】
図1は、基板洗浄方法の洗浄工程を示すフロー図である。図1を用いて基板洗浄方法を工程順に説明する。
【0026】
先ず、基板セット工程P201では、洗浄を行う基板4(図3参照)を基板カセット45(図3参照)に装填を行う。本実施形態では作業者によって装填が行われる。次にローダー工程P202では、基板カセット45を所定の位置へ載置する。本実施形態では作業者によって載置する。次に移動工程P207では、ローダー工程P202にて載置された基板カセット45を次工程である洗浄工程P203へ移動を行う。
【0027】
次に洗浄工程P203では、基板カセット45に装填されている基板4の洗浄を行う。次に移動工程P207では、洗浄工程P203で洗浄が行われた基板4が装填されている基板カセット45を次工程である水洗工程P204へ移動を行う。次に水洗工程P204では、基板カセット45に装填されている基板4の水洗を行う。次に移動工程P207では、水洗工程P204で水洗が行われた基板4が装填されている基板カセット45をアンローダー工程P205へ移動を行う。
【0028】
なお、加湿工程P208と気化工程P209とでは、洗浄工程P203と水洗工程P204と移動工程P207との加湿を行う。次にアンローダー工程P205では、移動工程P207によって移動された基板カセット45の取り出しを装置から行う。本実施形態では作業者によって基板カセット45が取り出され洗浄工程が終了する。
【0029】
図2は、図1の基板洗浄方法を実行する基板洗浄装置の概構成を示すブロック図である。図2を用いて基板洗浄装置の概構成について説明する。
【0030】
本実施形態の基板洗浄方法を実行する基板洗浄装置1は、外装筐体11と、その内部に洗浄チャンバー12とを備える。洗浄チャンバー12内には、洗浄部2と水洗部3とを備える。加湿部14は、洗浄チャンバー12外から吸気部18を介して継合する。また、外装筐体11内の移動部5は、ローダー部161とアンローダー部162と洗浄部2と水洗部3との間を所定方向に移動自在に接続されている。
【0031】
図3は、図2の基板洗浄装置の詳細な構成を示す構成図である。図3を用いて基板洗浄装置1の構成及び動作を各工程との対応関係を含めて説明する。
【0032】
基板洗浄装置1は、図2で説明した通り外装筐体11を備える。外装筐体11には、移動部5と洗浄チャンバー12とローダー部161とアンローダー部162と、洗浄チャンバー12へ基板4の出し入れを行う窓15とを備える。また、外装筐体11には、図示を省略するが基板洗浄装置1の制御を行う制御装置及び水溶液21と水洗水31との配管並びにタンクなどを備える。加湿部14は、洗浄チャンバー12の外部から吸気ダクト143と吸気部18を介し継合され、加湿部14によって加湿された空気172が、吸気部18から洗浄チャンバー12内へ吸気される。洗浄チャンバー12には、排気口19が設けられ、洗浄チャンバー12内で発生した不要な蒸気を吸気された空気172と共に基板洗浄装置1の外部に設けられた排気ファン(図示省略)によって洗浄チャンバー12の外へ排気する。
【0033】
洗浄を行う基板4は、基板カセット45の鉛直方向に1枚または複数枚を等間隔に装填される。これは、基板セット工程P201に対応する。以下、説明の便宜上、基板カセット45には基板4が装填されていることとし、基板4として説明をする。
【0034】
ローダー部161は、外装筐体11内の所定位置に基板カセット45を載置する部分である。これは、ローダー工程P202に対応する。
【0035】
移動部5は、基板カセット45を取り付けるハンガー部51と移動駆動部(図示省略)を備える。移動部5は、外装筐体11に設けられたローダー部161とアンローダー部162と、洗浄チャンバー12に備えられた洗浄部2と水洗部3との間で基板4の移動を行う。これは、移動工程P207に対応する。
【0036】
アンローダー部162は、外装筐体11内の所定位置に水洗工程P204によって水洗が完了した基板カセット45を載置する部分である。これは、アンローダー工程P205に対応する。
【0037】
洗浄チャンバー12は、洗浄部2と水洗部3とを備えている。また、洗浄チャンバー12内の空間領域13は、後述する加湿部14により相対湿度60%RH以上100%RH未満に加湿される。洗浄チャンバー12は、洗浄工程P203に用いる。
【0038】
洗浄部2は、洗浄槽22と循環装置23と温度調整装置233とを備えている。洗浄槽22は、洗浄内槽221と、洗浄内槽221の外側に配置される洗浄外槽222とで構成されている。循環装置23は、循環配管230と循環ポンプ231を備える。温度調整装置233は、洗浄外槽222と洗浄内槽221との循環配管230の経路中に設けられる。
【0039】
循環装置23は、洗浄内槽221に貯留された水溶液21を洗浄外槽222へオーバーフローさせる。また、水溶液21を洗浄外槽222から循環ポンプ231で吸引し、洗浄内槽221に循環し供給を行い、洗浄槽22に貯留された水溶液21の攪拌を行う。
【0040】
温度調整装置233は、水溶液21を循環装置23で循環させながら一定の液温に調整する。
【0041】
洗浄部2による基板4の洗浄は、洗浄内槽221内の水溶液21に基板4を浸漬して行われる。基板4の洗浄は、基板4に形成されている膜41と水溶液21の接液による化学反応で洗浄(エッチング)を行う。これは、洗浄工程P203に対応する。
【0042】
基板4の水溶液21への浸漬は、移動部5によって行われる。前工程から移動された基板4は、鉛直方向に基板4の下部から水溶液21に接液し、最後に上部が接液し基板4の全面が水溶液21に浸漬される。基板4に形成された膜41の所定の洗浄が完了した場合に、移動部5によって鉛直方向に基板4の上部から取り出され、最後に基板4の下部が取り出される。水溶液21から取り出された基板4は、移動部5によって次工程に移動する。
【0043】
洗浄槽22内の水溶液21は、フッ化水素酸を有し、水で希釈して構成される。水溶液21は、洗浄工程P203に用いる。
【0044】
水洗部3は、水洗槽32と給水装置33と排水装置34とを備えている。水洗槽32は、水洗内槽321と、水洗内槽321の外側に配置される水洗外槽322とで構成されている。水洗水31は、常に水洗内槽321へ給水され、水洗外槽322へオーバーフローし排水される。
【0045】
水洗部3による基板4の水洗は、水洗内槽321内の水洗水31に基板4を浸漬して行われる。基板4の水洗は、洗浄工程P203によって基板4に付着した水溶液21の液膜を保ちながら、水洗水31へ浸漬し水洗を行う。これは、水洗工程P204に対応する。
【0046】
基板4の水洗水31への浸漬は、移動部5によって行われる。前工程から移動された基板4は鉛直方向に、基板4の下部から水洗水31に接液し、最後に上部が接液し基板4の全面が水洗水31に浸漬される。基板4の表面は水溶液21の液膜を保ちながら水洗水31に浸漬され、基板4の表面は水洗水31に置換される。所定の水洗を完了した場合、移動部5によって、鉛直方向に基板4の上部から取り出され最後に基板4の下部が取り出される。水洗水31から取り出された基板4は、移動部5によって次工程に移動する。
【0047】
加湿部14は、気化部141と給水装置142とを備える。加湿部14は、洗浄チャンバー12外から吸気ダクト143と吸気部18によって洗浄チャンバー12内に継合される。本実施形態の加湿部14は、気化部141に透湿膜を用いて加湿を行う。これは、加湿工程P208に対応する。
【0048】
加湿部14による加湿は、洗浄チャンバー12へ吸気される空気171が気化部141を通過する際に、空気171が有する熱エネルギーで水を気化させることによって相対湿度60%RH以上100%RH未満に加湿を行う。
【0049】
加湿部14での加湿は、加湿される空気171が有する熱エネルギーである顕熱と潜熱とを利用して、加湿に用いる水を蒸発(気化)させて加湿を行う。顕熱とは、物質の温度変化に供する熱で、加湿される水の温度を高めるために用いられる。潜熱とは、物質の状態変化のために供する熱で、加湿する水が水蒸気になるために用いられる。
【0050】
これにより、加湿される空気171が有する熱エネルギーである顕熱から加湿される水は熱を奪い、加湿される水の温度を高め蒸発しやすくなる。これと同時に、加湿される空気171は顕熱を奪われることで、加湿前の空気171に比べて加湿後の空気172は温度(気温)が低下する。さらに、潜熱から加湿される水は熱を奪い蒸発し加湿されることになる。加湿される空気171が有する熱エネルギーの全てを蒸発(気化)に用いることができれば、加湿される空気171における相対湿度100%RHの加湿となる。よって、加湿される空気171が有する熱エネルギー以外の熱エネルギーを加えない限り、加湿された空気172は常に相対湿度100%RH未満の加湿となる。
【0051】
気化部141に用いる透湿膜は、水(液体)を通さず水蒸気(気体)は通す性質を有する撥水性の多孔質膜材で構成されている。図示は省略するが透湿膜は、枠材に貼り付けられ、透湿膜が貼り付けられた枠とパッキンとを積層に貼り合わせて、加湿に用いる水の水路となる部分(内側)と、加湿を行う空気の通路となる部分(外側)とを形成し組み立てられる。
【0052】
透湿膜を用いた加湿は、透湿膜の外側に接する空気171の熱が、透湿膜の内側の水に伝熱され、前記水が水蒸気(気化)となり透湿膜を通過する。透湿膜を通過した水蒸気は、透湿膜の外側に接する空気171が水蒸気を吸収して加湿される。また、透湿膜は水蒸気以上の大きさの分子を透過させることができない。従って、加湿に用いる水に含まれる不純物が洗浄チャンバー12へ供給される空気172を汚染することなく、基板4の加湿による汚染を抑制することができる。
【0053】
図4は、図1の洗浄工程で洗浄される基板の例を示す図である。図4を用いて洗浄される基板について説明する。
【0054】
基板4は、基板4の表面に導電性膜や半導体膜や絶縁膜などを膜41として形成し、膜41を選択的に洗浄することで、トランジスター等の回路を形成する。
【0055】
膜41を選択的に洗浄するため、膜41の表面の洗浄を行わない部分44には、レジスト膜42を形成する。一方、洗浄を行う部分43は、膜41の表面が現れている。なお、レジスト膜42は、水溶液21によって洗浄(エッチング)されない特性を有する。
【0056】
本実施形態における基板表面を均一に洗浄し、洗浄後の膜厚のバラツキが減少することについて説明する。
【0057】
基板4の表面を均一に洗浄を行うことは、洗浄工程P203の水溶液21から取り出された基板4の表面に、水溶液21の液膜を均一に付着させた状態で水洗工程P204を開始することで実現する。
【0058】
基板4の表面に水溶液21の液膜を均一に付着させるためには、基板4の表面の親水性を高めることで実現する。本実施形態では、洗浄工程P203と移動工程P207と水洗工程P204とが行われる空間領域13を加湿工程P208によって、相対湿度60%RH以上100%RH未満に加湿することで基板4の表面の親水性を高めることができる。
【0059】
基板4の表面を相対湿度60%RH以上100%RH未満に加湿された空気で覆うことで、基板4の表面に水分子が付着する。
【0060】
これにより、付着した水分子が基板4の表面と水溶液21との間に生じる表面張力を緩和し、基板表面の親水性(いわゆる濡れ性)が高まる。基板4の表面の親水性が高まることで、基板4を水溶液21から取り出した場合に、水溶液21は、基板4の表面を乾燥することなく均等に付着する。水溶液21が基板4の表面に均等に付着することで基板表面と水溶液との接液時間を均一に保つことで、均一に洗浄ができ、洗浄後の膜厚のバラツキを減少させることができる。
【0061】
次に、空間領域13を加湿することで、基板4の表面の親水性が高まることについて説明する。
【0062】
空間領域13を加湿することで、空間領域13内の水蒸気量が変化し、空間領域13に内在する基板4の表面を覆う水蒸気である水分子が増加する。基板4の表面を覆う水分子は、空間領域13の空気と基板4の表面に付着している水溶液21との気液境界に付着する。
【0063】
前述の基板4の表面を覆う水分子は、酸素原子1つに水素原子2つで構成されている。前記水分子は、基板4の表面の気液境界に付着するときに、基板4の表面に存在する分子(例えば珪素分子)と、基板4の表面に付着する水分子の酸素原子とが結合し、付着する水分子に含まれていた水素原子の1つが離脱する。これにより、1つの酸素原子(O)に1つの水素原子(H)が結合した1価の基である水酸基(OH基)となる。1価の基は、化学反応の時に分解せずに一つにまとまった原子団である。
【0064】
基板4に付着した水酸基を構成する水素原子は、前記水素原子の電子が、他の水素原子の電子を共有する共有結合によって連鎖的に結合が生じる。これにより、水酸基を構成する水素分子と、水溶液21を構成する水素分子などが結合する。よって、基板4の表面を水溶液21が乾燥する動きを気液境界に付着した水酸基と水溶液21との結合によって抑制する。従って、基板表面の親水性を高めることができ、水溶液21が基板表面を乾燥することを抑制することができる。
【0065】
図5は、空間領域13の相対湿度と洗浄後の膜厚のバラツキの関係を示す散布図である。図5は、発明者が行った実験によって、空間領域13を相対湿度60%RH以上100%RH未満、さらに好ましくは相対湿度65%RH以上85%RH未満に加湿することで、洗浄後の基板表面の膜厚の均一性が得られることを至らしめた実験結果である。
【0066】
前述の発明者が行った実験について説明する。
【0067】
(実験方法)
前述の実験の方法は、基板4の洗浄工程P203と水洗工程P204と移動工程P207が行われる空間領域13の相対湿度を変化させる。また、洗浄工程P203による洗浄時間を変化させる。さらに、洗浄工程P203で洗浄された基板4が、洗浄工程P203から水洗工程P204へ移動工程P207によって移動にかかる時間、すなわち工程間移動(移送)時間を変化させる条件を用いて基板4を洗浄する方法とした。
【0068】
実験に用いる水溶液21は、フッ化水素酸を水溶させた水溶液21を用いる方法とした。
【0069】
(供試材)
実験に用いる基板4は、シリコン基板を用いた。シリコン基板の表面には洗浄対象となる膜41として、略1000nmの熱酸化膜412を予め形成して用いることとした。
【0070】
実験に用いる水溶液21は、フッ化水素酸を水溶させた水溶液21を用いた。水溶液21は、液温を25℃に調整した場合、前記熱酸化膜412に対するエッチングレート130(nm/min)の水溶液21を液温25℃で用いた。
【0071】
(詳細条件)
空間領域13の相対湿度は、略、30%RH、40%RH、45%RH、55%RH、60%RH、70%RH、85%RH、に調整した条件とした。
【0072】
基板4の洗浄工程P203と移動工程P207とで行う基板の洗浄実験の条件について説明する。説明の便宜のため、洗浄工程P203を洗浄と、移動工程P207を移動と称して各実験水準を説明する。
【0073】
基板4の洗浄時間と移動時間の実験条件は、前記洗浄と移動との工程時間の合計を略180秒とする条件とした。例えば、実験水準73Aは、洗浄180秒と移動3秒とを1回実施(繰返しなし)の条件とした。また、実験水準73Bは、洗浄60秒と移動30秒とを2回繰返し行い、工程時間の合計を180秒とした。他の実験水準も同様で、実験水準73Cは、洗浄30秒と移動15秒とを4回繰返し行い、工程時間の合計を180秒とした。実験水準73Dは、洗浄120秒と移動60秒とを1回実施(繰返しなし)とし、工程時間の合計を180秒とした。
【0074】
前記条件は、基板4に水溶液21が接液する時間を各実験水準共に同じ(一定)時間とした。接液する時間を一定とし、基板4が空間領域13に内在する時の相対湿度と移動工程時間とを変化させることで、洗浄時間と移動時間に依存せず、空間領域13を加湿することで洗浄の均一性が得られることを至らしめた実験条件である。
【0075】
(評価方法)
前述の実験の評価は、基板4の表面に形成された熱酸化膜412の厚さを光干渉式膜厚測定装置(型番:VM−1020、製造者:大日本スクリーン製造株式会社)で測定を行う。熱酸化膜412の膜厚の測定は、基板4の洗浄前と洗浄後に図6に示す9箇所を膜厚測定点61として測定を行った。次に測定を行った9箇所の洗浄前の膜厚から洗浄後の膜厚を差し引いた値を洗浄量(エッチング量)とした。次に基板ごとに、膜厚測定点61での洗浄量(膜厚量)の最大値から最小値を差し引いた値を洗浄量のバラツキの範囲(レンジ)として評価を行った。
【0076】
(実験の結果)
図5を用いて前述の実験の結果について説明する。
【0077】
図5の散布図のX軸71は、前記実験条件である空間領域13の相対湿度(単位:%RH(Relative Humidity))を示す。Y軸72は、前記実験評価における基板4の表面に形成されている膜41の洗浄量(単位:ナノメートル)のバラツキを示したものである。X軸71とY軸72の交点73は、実験水準ごとにX軸71に示す相対湿度の空間領域13で基板4の洗浄実験を行った場合の洗浄された膜厚量のバラツキ(レンジ)を示したものである。また、曲線74は、実験を行った空間領域13の相対湿度におけるバラツキの最大値を示した曲線である。
【0078】
実験の結果、空間領域13を相対湿度60%RHから85%RH未満に加湿することで、洗浄後の基板表面の膜厚の均一性が高い基板洗浄が行える。また、空間領域13を相対湿度65%RHから85%未満に加湿することで、洗浄後の基板表面の膜厚の均一性を確実に高めることができる。
【0079】
図5に示す、空間領域13の相対湿度が60%RH未満では、実験水準73Bから実験水準73Dの何れの条件も、洗浄(エッチング)された熱酸化膜412の量にバラツキが大きく生じる。しかし、空間領域13の相対湿度が60%RH以上では、図5に示す、実験水準73Bから実験水準73Dの何れの条件も洗浄された熱酸化膜412の膜厚量のバラツキが減少し、相対湿度65%RH以上では顕著にバラツキが減少する。
【0080】
また、図5に示す、実験水準73Aのように、基板4が洗浄工程P203から水洗工程P204へ移動する時間が短時間(例えば、3秒程度)であれば、空間領域13の相対湿度にかかわらず、水溶液21から取り出された基板4表面の膜厚の均一性が高い基板洗浄ができる。
【0081】
前記実験から本発明の効果を得るためには、空間領域13の相対湿度は60%RH以上が好ましく、さらに、相対湿度65%RH以上に加湿を行うと確実に洗浄後の基板表面の膜厚の均一性を高めることができる。また、前記実験結果から空間領域13の相対湿度が85%RHから100%RH未満でも、洗浄後の基板表面の膜厚の均一性を高めることができると類推する。
【0082】
上述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0083】
本実施形態の基板洗浄方法によれば、洗浄工程P203及び移動工程P207が行われる空間領域13を相対湿度60%RH以上100%RH未満に加湿することで、基板表面の親水性を高めることができる。また、親水性を高めることで基板4の表面を均一に水溶液21の液膜が覆うことができる。従って、基板4を水溶液21から取り出した場合に基板4の表面と水溶液21との接液時間を均一に保ち、基板表面をムラなく均一に洗浄することができる基板洗浄方法を実現できる。これにより、水溶液21の部分的な乾燥による蒸発残留物を付着することを抑制でき、蒸発残留物が付着した部分を製造工程で取り除く必要なく歩留まりも向上する。
【0084】
本実施形態の基板洗浄方法によれば、前記空間領域13を相対湿度60%RH以上100%RH未満に加湿し、さらに、洗浄工程P203に用いる水溶液21は、フッ化水素酸を有した構成にすることで、水溶液21の液膜が基板4の表面を均一に覆うことができる。フッ化水素酸に含まれる水素分子とフッ素分子とは、基板4に付着する水分子との間で強い結合によって、水溶液21の液膜が基板4の表面を均一に覆うことができる。
【0085】
本実施形態の基板洗浄方法によれば、気化工程P209による加湿は、導入される空気171が有する熱エネルギーで水を蒸発させることから、加湿工程P208で新たにエネルギーを消費することなく加湿を行うことができる。また、加湿量は常に導入する空気に保有できる水分量以下であり、過剰な加湿が行われることがない。従って、エネルギー消費が少なく、過剰な加湿による水滴が基板4に付着することのない加湿工程P208を実現することができる。これにより、加湿による水滴が基板4に付着することで生じる乾燥シミ、いわゆるウオーターマークの発生を抑制できる。
【0086】
本実施形態の基板洗浄方法によれば、移動工程P207の次工程として水洗工程P204を備えることで、洗浄工程P203から取り出した基板4の表面に水溶液21の液膜を保った状態で水洗工程P204を開始し、基板4の表面を均一に洗浄した状態で洗浄を停止することができる。
【0087】
本実施形態の基板洗浄装置によれば、洗浄部2と移動部5とを備える空間領域13を加湿部14によって相対湿度60%RH以上100%RH未満に加湿することで、基板4の親水性を高めることができる。従って、基板4を洗浄部2から取り出した場合に水溶液21と基板4の表面との接液時間を均一に保ち、基板4の表面を均一に洗浄することができる基板洗浄装置1が実現できる。
このことにより、移動部5で行われる工程間移動に掛かる時間の短縮に拠らなくても、空間領域13を加湿することで、洗浄部2から取り出した基板4の表面を水溶液21の液膜を保った状態で、水洗部3によって水洗を行うことができる。従って、移動部5の高速動作による基板洗浄装置1及び移動部5からの発塵と振動を抑制し基板4表面の汚染を抑制することができる。
【0088】
本実施形態の基板洗浄装置によれば、気化部141による加湿は、導入される空気171が有する熱エネルギーで水を蒸発させることから、加湿を行うために必要であった加熱部(装置)などが不要となる。また、加湿量の制御装置を設けなくても常に導入する空気171が保有できる水分量以下の加湿となり、過剰な加湿が行われることがない。従って、構造が簡便な加湿部14を構成とすることができ、過剰な加湿による水滴で基板を汚染することなく加湿を行うことができる。このことにより、加湿に用いる水が直接基板4に接触しないため、加湿に用いる水(例えば超純水)は純度の低い水を採用することができ、加湿に掛かるコストを抑制できる。
【0089】
本実施形態の基板洗浄装置によれば、水洗部3を備えることで、洗浄部2から取り出された基板4の表面に水溶液21が均一に付着した状態で基板4の水洗を開始することができる。従って、基板4を水溶液21から取り出した場合に、水溶液21と基板4の表面との接液時間を均一に保ち、基板4の表面を均一に洗浄した状態で、洗浄を停止することができる基板洗浄装置1が実現する。
【0090】
なお、上述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更や改良等を加えて実施する事が可能である。変形例を以下に述べる。
【0091】
(変形例1)前記実施形態の基板洗浄方法において、加湿した空間領域13に洗浄工程P203と水洗工程P204とを設けて基板の洗浄を行うことは、基板に水溶液21を滴下し基板の洗浄工程P203を行い、次工程として水洗水31を滴下し基板4の水洗工程P204を行う基板洗浄方法及び基板洗浄装置に適用することができる。
【0092】
(変形例2)前記実施形態の基板洗浄方法において、水溶液21はフッ化水素酸を有する水溶液21を採用しているが、これに限らず水素分子やフッ素分子を有する洗浄に有効な成分を用いても良い。
【符号の説明】
【0093】
1…基板洗浄装置、2…洗浄部、3…水洗部、4…基板、5…移動部、11…外装筐体、12…洗浄チャンバー、13…空間領域、14…加湿部、21…水溶液、22…洗浄槽、31…水洗水、32…水洗槽、41…膜、45…基板カセット、P201…基板セット工程、P202…ローダー工程、P203…洗浄工程、P204…水洗工程、P205…アンローダー工程、P207…移動工程、P208…加湿工程、P209…気化工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の洗浄を行う基板洗浄方法であって、
基板の洗浄に有効な成分を含んだ水溶液に、前記基板を浸漬して洗浄を行う洗浄工程と、
洗浄された前記基板を前記水溶液から取り出して次工程に移動する移動工程と、
前記洗浄工程及び前記移動工程が行われる空間領域を相対湿度60%RH以上100%RH未満に加湿する加湿工程と、
を備えることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項2】
請求項1に記載の基板洗浄方法であって、
前記水溶液は、フッ化水素酸を有し構成されていることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の基板洗浄方法であって、
前記加湿工程は、前記空間領域に導入される空気が有する熱エネルギーを利用して水を気化する気化工程を備えることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の基板洗浄方法であって、
前記移動工程の次工程として、洗浄された前記基板を水で洗浄する水洗工程を備えることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項5】
基板の洗浄に有効な成分を含んだ水溶液を用いて前記基板を洗浄する洗浄部と、
前記洗浄部で洗浄された前記基板を取り出して次工程に移動する移動部と、
前記洗浄部による洗浄、及び前記移動部による前記基板の移動が行われる空間領域を相対湿度60%RH以上100%RH未満に加湿する加湿部と、
を備えることを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項6】
請求項5に記載の基板洗浄装置であって、
前記加湿部は、前記空間領域に導入される空気が有する熱エネルギーを利用して水を気化する気化部を備えることを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の基板洗浄装置であって、
前記基板洗浄装置で洗浄された前記基板を水で洗浄する水洗部を備えることを特徴とする基板洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−44082(P2012−44082A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185844(P2010−185844)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】