説明

堆積膜形成装置

【課題】 画像欠陥が低減された電子写真用感光体を製造することが可能な電子写真用感光体製造装置を提供する。
【解決手段】 第1の円筒状側壁と、前記第1の円筒状側壁を取り囲む第2の円筒状側壁との間に構成された減圧可能な反応容器と、
前記反応容器内に配置され、基体を保持する基体保持部材と、
前記反応容器内に原料ガスを供給するための原料ガス供給手段と、
を備える複数の基体に同時に堆積膜を形成可能な堆積膜形成装置において、前記第1の円筒状側壁及び第2の円筒状側壁の少なくとも一部が誘電体で構成されるとともに、
前記反応容器内に高周波電力を供給する電力供給系として、前記第1の円筒状側壁の内側に第1の高周波電極を、前記第2の円筒状側壁の外側に第2の高周波電極を配置させ、かつ、さらに前記第1の高周波電極と前記第2の高周波電極に対し、異なる周波数の高周波電力を供給する手段を有する、堆積膜形成装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に堆積膜、特に電子写真用感光体、光起電力デバイス等に用いる堆積膜の形成装置及び形成方法に関するものであり、より具体的には、プラズマCVD法を用いたアモルファスシリコン電子写真用感光体製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイス、電子写真用感光体、光起電力デバイス、その他各種エレクトロニクス素子等に用いる素子部材に用いる堆積膜形成方法の一つとしてプラズマCVD法が知られており、そのための装置も実用化されている。
【0003】
プラズマCVD法は、原料ガスを直流、又は高周波、又はマイクロ波グロー放電により分解し、基板上に薄膜状の堆積膜を形成する方法であり、例えば、水素で補償されたアモルファスシリコン(以下、「a−Si:H」と表記する)堆積膜の形成等に利用され、現在実用化が非常に進んでおり、その際に使用される装置も各種提案されている。
【0004】
特に、高周波供給電源としてVHF帯の高周波を用いたVHFプラズマCVD法による堆積膜形成装置は、堆積膜の堆積速度が大きく、大面積基板への堆積膜形成に有利なことから、近年活発に研究開発が行われ、注目されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
図1にVHF帯域の電源を用いた、従来の電子写真用感光体の製造装置の一例を示す。図1において、(a)は概略縦断面図、(b)は(a)の切断線X−X'に沿う概略横断面図である。
【0006】
図1に示した製造装置は、少なくとも一部が誘電体からなる円筒状側壁101で囲まれた減圧可能な空間内に、堆積膜が形成される複数の円筒状基体111、原料ガスを空間内に導入する原料ガス導入管110、放電空間を減ずるための導電性の円筒状部材102が設置され、空間内に高周波電力を導入するための高周波電極103等が円筒状側壁外部に設置されている。
【0007】
図1に示した製造装置を使用した場合の電子写真用感光体製造方法の一例を以下に示す。
【0008】
高周波電源107より出力された高周波電力は、マッチングボックス106を介した後、導電性部材で構成される複数の高周波電力分割伝送部材117へと分割された後、高周波電極103を介して少なくとも一部が誘電体からなる円筒状側壁101で囲まれた空間内に導入され、前記空間内にプラズマが形成される。この放電時に生成される原料ガスの分解生成物が円筒状基体上に堆積することにより、堆積膜が形成される。このような製造装置を使用することにより、VHFプラズマCVD法によって、速い堆積膜形成速度でも高品質な堆積膜を得ることができ、さらには、複数の基体を同時に処理することが可能となり、製品の低コスト化、及び高品質化を実現することができる。そして、現在実用上問題ないレベルの電子写真用感光体の製造は可能となっている。
【0009】
しかしながら、図1に示したような構成の装置は、基体に対して高周波電極が一方向のみから高周波電力を供給する形となっており、基体から見て高周波電極が配置されている空間と、高周波電極が配置されていない空間(図1中のα)とで、プラズマ密度が異なる状態となるため、長時間にわたって安定的に均一性の高いプラズマを発生させるには、改善の余地があった。
【0010】
そこで、プラズマの均一性を高めるために、反応容器の外部のみからの高周波電力供給だけでなく、上述の円筒状部材102の替わりに高周波電極を内部に設け、空間α部にも直接に高周波電力を供給する方法も提案されている(例えば、特許文献2)。
【0011】
図2に、2種類の高周波電極を用いた、電子写真用感光体製造用のVHF方式プラズマCVD装置の一例を示す。図2において、(a)は概略縦断面図、(b)は(a)の切断線X−X'に沿う概略横断面図である。
【0012】
図2に示した製造装置は、誘電体からなる円筒状反応容器201内に、円周上に複数の円筒状基体211を配置させ、かつ反応容器外に高周波電力供給用電極203を配置させ、円筒状基体211が配置された円周の内側にさらに高周波電力供給用の高周波電極202を設け、外側の電極203と内側の電極202に高周波電力を導入できるように発明されたものである。円筒状基体211の配置円周内に、さらに別の高周波電極を設けて高周波電力を供給することにより、図1の装置で改善の余地があった、プラズマの不均一性の問題を軽減することが可能となるように設計されている。
【特許文献1】特開2006−9042号公報
【特許文献2】特開2005−68455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、近年においては、電子写真用感光体が搭載される電子写真装置の高速化及びカラー高画質化が進み、それに伴いa−Si:H膜を用いた電子写真用感光体に要求される電位特性及び画像欠陥のレベルも格段に高くなってきている。特に、成膜中の異常放電や、装置内のダストに起因して感光体中に生成される直径約1〜数十μmサイズの半球状の突起(以後、球状突起と略)に由来する、微小な画像欠陥を格段に低減することが要求されてきている。また、電子写真による印刷物においても、インクジェットプリンタによる写真出力と同様に、A4やA3等の印刷媒体に対して非画像域のない印刷物、所謂フチ無し印刷を実現することに対する要求が高くなってきた。それに伴い、以前の電子写真感光体では非画像域であるために問題とならなかった、感光体の中央から上下13cmから16cmの距離にあたる部分においても、電位特性および画像欠陥のさらなる改善の必要性が生じている。特にa−Si:H感光体においては、要求される画像欠陥の改善のために、感光体の中央から上下13cmから16cmの部分における球状突起の数をさらに低減することが課題となっている。
【0014】
そのような状況下において、従来の製造装置及び製造方法で作製した電子写真用感光体では改善の余地を残しているのが現状であり、早急な対応が求められている。
【0015】
例えば、図1に示した製造装置を使用して、上記手法による電位特性及び突起欠陥の改善を試みた場合、特に低出力の高周波電力を導入しようとした場合に、従来では表面化することがなかった新たな問題が発生する可能性がある。
【0016】
図1に示した製造装置を使用すると、放電空間を制限するために装置中央に配置された導電性の円筒状部材102が、接地された導電性の底板115に垂直に接する構成になっている。このような装置構成で放電状況を観察したところ、特に低出力の状態で円筒状部材102の周囲において、底板115に近接している領域で異常な放電が発生する場合があるのが観察された。このように異常放電が発生する理由は定かでは無いが、円筒状部材102の周囲は放電空間内でも比較的プラズマ密度が低い為に、特に低出力の時にプラズマが安定せずに異常な放電が発生しやすくなると考えられる。その結果、発生した異常放電に由来する微小な核が、分解生成された原料ガスにより形成され、円筒状基体111の底板に近接した部分に付着し、微小な球状突起を生じさせる可能性が高くなる。
【0017】
また、図2に示した製造装置を使用した場合には、少なくとも一部が誘電体からなる反応容器内に高周波電力を印加するための放電空間内に配置された高周波電極202は、底板215と垂直に交わる構成となっている。このような装置構成で放電状況を観察したところ、特に低出力の状態で高周波電極202の周囲において、底板215に近接している領域で異常な放電が発生する場合があるのが観察された。このように異常放電が発生する理由は定かでは無いが、この場合、電極と底板の間は適当な絶縁部材216で絶縁されているが、電極―底板間距離が数cm程度と接近する部分があるため、特に低出力の高周波電力を供給する際は、プラズマが不安定となり電極―底板間に意図しない異常な放電が発生しやすくなると考えられる。その結果、発生した異常放電に由来する微小な核が形成され、円筒状基体の底板に近接した部分に付着し、微小な球状突起を生じさせる可能性が高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述した異常放電を解消するために、本発明者らは鋭意検討を行った結果、高周波電極を全て大気中に配置させ、放電空間から排除し、さらにプラズマ密度を放電空間中で均一化するために、異なる高周波電極に対して異なる周波数の高周波電力を供給することを考えるに至った。
【0019】
即ち、本発明の電子写真用感光体製造装置は、
第1の円筒状側壁と、前記第1の円筒状側壁を取り囲む第2の円筒状側壁との間に構成された減圧可能な反応容器と、前記反応容器内に配置され、基体を保持する基体保持部材と、前記反応容器内に原料ガスを供給するための原料ガス供給手段と、を備える複数の基体に同時に堆積膜を形成可能な堆積膜形成装置において、前記第1の円筒状側壁及び第2の円筒状側壁の少なくとも一部が誘電体で構成されるとともに、前記反応容器内に高周波電力を供給する電力供給系として、前記第1の円筒状側壁の内側に第1の高周波電極を配置させ、前記第2の円筒状側壁の外側に第2の高周波電極を配置させ、さらに前記第1の高周波電極と前記第2の高周波電極に対し、異なる周波数の高周波電力を供給する手段を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、2つの円筒状側壁で囲んで形成される放電空間の外側に配置された2種類の高周波電力導入用電極と、円筒状基体とを適切な位置に配置させ、高周波電極にそれぞれ異なる周波数の高周波電力を印加することにより、放電空間内に十分な密度をもった均一なプラズマが長時間にわたって生成可能となり、さらに、放電空間内での異常放電も発生しにくいため、その結果、感光体上の球状突起数を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図を用いて本発明を詳述する。図3は本発明のa−Si:H感光体堆積膜製造装置の一例を示した模式的な概略図である。図3(a)は概略垂直断面図、図3(b)は図3(a)の切断線X−X'に沿う概略横断面図である。
【0022】
第1の円筒状側壁302、及び第2の円筒状側壁301を支持する底面には排気口312が形成され、排気管の他端は不図示の排気装置に接続されている。堆積膜の形成される円筒状基体311は、同一円周上に等間隔で互いに平行に配置されている。基体311は回転軸313によって保持され、モーターにより回転軸313が回転し、円筒状基体311はその母線方向中心軸のまわりを自転するようになっている。また、円筒状基体311は発熱体314によって加熱可能となっている。
【0023】
第1の円筒状側壁302の配置円内には、第1の高周波電力導入用電極304が設置され、第1の高周波電源308から出力された高周波電力は、第1のマッチングボックス305を経て、第1の高周波電力導入用電極304から成膜空間に供給される。
【0024】
また、第2の円筒状側壁301の配置円外には、第2の高周波電力導入用電極303が設置され、第2の高周波電源307から出力された高周波電力は、第2のマッチングボックス306を経て、第2の高周波電力導入用電極303から第2の円筒状側壁を介して成膜空間に供給される。
【0025】
それぞれの高周波電極303、304は、絶縁部材319によって、底板からは絶縁された状態で設置されている。
【0026】
放電空間内には原料ガス導入管310が設置され、原料ガス導入管の他端には不図示の原料ガス供給手段が接続されている。原料ガス供給手段から所望の原料ガスを、原料ガス導入管を介して放電空間内に供給する。
【0027】
このような装置を用いた堆積膜の形成は、例えば概略以下のようにして行われる。
【0028】
まず、円筒状基体311を反応容器内に設置し、不図示の排気装置により排気口312を通して反応容器内を排気する。続いて、発熱体314により円筒状基体311を所定の温度に加熱・制御する。
【0029】
円筒状基体311が所定の温度となったところで、原料ガス導入管310を介して、原料ガスを反応容器内に導入する。原料ガスの流量が設定流量となり、また、反応容器内の圧力が安定したのを確認した後、第1の高周波電源308から第1のマッチングボックス305を介して第1の高周波電極304へ所定の高周波電力を供給する。同様に、第2の高周波電源307から第2のマッチングボックス306を介して第2の高周波電極303へ所定の高周波電力を供給する。上記方法で反応容器内に導入された高周波電力によって、反応容器内にグロー放電が生起し、原料ガスは励起・解離して円筒状基体311上に堆積膜が形成される。
【0030】
所望の膜厚の形成が行なわれた後、高周波電力の導入を止め、続いて原料ガスの供給を停止して堆積膜の形成を終える。多層構造の堆積膜を形成する場合には、同様の操作を複数回繰り返す。この場合、各層間においては、上述したように1つの層の形成が終了した時点で一旦放電を完全に停止し、次層のガス流量、圧力に設定が変更された後、再度放電を生起して次層の形成を行ってもよいし、あるいは、1つの層の形成終了後一定時間でガス流量、圧力、高周波電力を次層の設定値に徐々に変化させることにより連続的に複数層を形成してもよい。
【0031】
堆積膜の形成中、必要に応じて、回転軸313を介して円筒状基体311をモータにより所定の速度で回転させてもよい。
【0032】
本発明においては、第1の円筒状側壁302、及び第2の円筒状側壁301は、その少なくとも一部が誘電体材料で構成されていることが必要である。それぞれの円筒状側壁は、大気を遮断可能な減圧容器壁となりうるものでなければならず、また、高周波電力導入部を兼ねる働きをするべきものであり、誘電損失の小さい材料であることが好ましい。具体的には、アルミナ、酸化ケイ素、窒化ホウ素、窒化ケイ素、又は窒化炭素等のセラミックス材料が好ましく用いられる。
【0033】
本発明においては、第1の高周波電極304、第2の高周波電極303は、導電性材料から構成されれば特に制限ははなく、アルミニウム、ニッケル、チタン、銀、金、銅、SUSなどを用いることができる。
【0034】
本発明においては、高周波電力の周波数が、50MHz以上250MHz以下のVHF帯の高周波電力を用いることが好ましい。VHF帯の高周波電力においては、放電空間での波長が10cm程度から数m程度となる場合が多く、装置寸法、基体寸法と同程度となる場合が多いため、高周波電力が堆積膜の均一性に及ぼす影響、特に定在波による影響が顕在化しやすい。しかし、本発明形態においては、反応容器の内外から異なる周波数の高周波電力を供給することで、上述のような定在波の影響を受けにくくなり、堆積膜の均一性を良好に保つことができる。
【0035】
また、本発明における、第1の円筒状側壁の円周内側に設けられる第1の高周波供給用電極の個数Nと、第2の円筒状側壁の円周外側に設けられる第2の高周波電力供給用電極の個数Nは、下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。
【0036】
≧ N (1)
反応容器内に形成されるプラズマの密度が均一になりやすくなり、堆積膜の均一性の向上、異常放電により形成される球状突起を軽減することが可能となる。さらに好ましくは、NとNが同数である場合であり、内外電極がそれぞれ1対となるようにすることにより、長時間にわたって安定した電力供給を行うことが可能となる。
【0037】
本発明における、第1の円筒状側壁、第2の円筒状側壁、第1の高周波電極、第2の高周波電極、円筒状基体支持部材が、それぞれ同一の中心軸を有するように配置されることが好ましい。装置の対称性を高めることにより、放電生成されるプラズマの均一性を向上させることが可能となる。
【0038】
本発明における、高周波供給用電極は、円筒状または円柱状の形態であることが好ましい。
【0039】
本発明において、堆積膜を堆積させる基体は円筒状であることが好ましい。さらに、隣接する、第1の高周波電極と円筒状基体の間の最短距離Rと、第2の高周波電極と円筒状基体の間の最短距離Rとが、下記式(2)の関係を有することが好ましい。
【0040】
0.80≦R/R≦1.25 (2)
上述のRとRについて、図3(c)に示した。図3(c)は、図3(b)における、第1の高周波電極、第2の高周波電極、及び円筒状側壁をそれぞれ一つずつ有する部分を拡大した図である。この関係式(2)を有する配置構成にすることにより、第1の円筒状側壁と第2の円筒状側壁で形成される反応容器内に高周波電力が均一に導入されやすくなり、異常放電を低減し、安定な放電状態を維持することができる。
【0041】
第1の高周波電極に供給する高周波の周波数fと、第2の高周波電極に供給する高周波の周波数fについては、下記式(3)の関係を満たすことが好ましい。
【0042】
> f (3)
周波数が高いほど誘電体中での高周波の減衰率は一般的に大きくなる。そのため、本発明における装置構成においては、高周波電極を円筒状側壁の内外に配置させるため、高周波電力を複数の電極に導入する際に、前記第2の高周波電極の方が電力導入する放電空間の体積が大きく、高周波の伝達距離が長くなる。従って、内外の電極にそれぞれ均等な密度となるように高周波電力を供給するためには、第2の高周波電極に供給する高周波の周波数の方が小さい構成となっていることが、プラズマの均一性が増すため、好ましい。
【0043】
さらに、本発明における、第1の高周波電極と、円筒状基体と、第2の高周波電極とが、同一直線上に並んで配置されることが好ましい。
【0044】
また、本発明の堆積膜形成装置、及び方法については、円筒状基体上にシリコン原子を含有する非晶質膜を形成することで、電子写真用感光体を製造すること、つまり上述のa−Si:H感光体ドラムを作製するのに最も適している。
【0045】
図8は本発明の構成のアモルファスシリコン感光体800の模式的な断面図の一例である。
【0046】
図8に示すアモルファスSi感光体はアルミニウム等の導電性基体801と、導電性基体801の表面に順次積層された電荷注入阻止層802と光導電層803、保護層804から成る。
【0047】
導電性基体801としては、例えば、Al、Cr、Mo、Au、In、Nb、Te、V、Ti、Pt、Pd、Fe等の金属及びこれらの合金、例えばステンレス等の導電性材料が挙げられる。又、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド等の合成樹脂のフィルム又はシート、ガラス、セラミック等の電気絶縁性支持体の少なくとも感光層を形成する側の表面を導電処理したものも導電性基体として用いることができる。
【0048】
光導電層803は、水素及び/又はハロゲン(X)を含み、シリコン原子を母体とするアモルファスシリコン(a−Si:(H、X))をベースとし、更に炭素原子、窒素原子、酸素原子、ホウ素原子、リン原子から選ばれる原子をさらに含有してもよい。また、光導電層803は、複数の層を積層した構成とすることも可能であり、電荷発生層、電荷輸送層とを積層した機能分離型の光導電層とすることも可能である。
【0049】
また、感光体の高帯電性、高光感度、等の電子写真特性を実現するために、光導電層の膜厚は、10〜50μmであることが好ましく、20〜45μmであることがより好ましく、25〜40μmであることが最も好ましい。
【0050】
保護層804は、水素及び/又はハロゲン(X)を含み、シリコン原子を母体としたアモルファスシリコン(a−Si:(H、X))をベースとし、更に炭素原子、窒素原子及び酸素原子から選ばれる少なくとも1種以上の原子を更に含有する非単結晶材料から構成される。あるいは、水素及び/又はハロゲンを含み、炭素原子を母体としたアモルファスカーボン(a−C:(H,X))をベースとし、更に窒素原子及び酸素原子から選ばれる少なくとも1種以上の原子を更に含有する非晶質性材料から構成される。このような非晶質材料として、アモルファス炭化珪素、アモルファス窒化珪素、アモルファス酸化珪素、アモルファス炭化窒素、アモルファスカーボン等が挙げられる。この中でもアモルファス炭化珪素(a−SiC:(H、X))、あるいはアモルファスカーボン(a−C:(H,X))で形成されることが 電子写真特性における高帯電性の観点から好ましい。
【0051】
また、感光体の高帯電性、低残留電位、等の電子写真特性を満足するために、保護層804の膜厚は、0.01〜3μmであることが好ましく、0.05〜2μmであることがより好ましく、0.1〜1μmであることが最も好ましい。
【0052】
電荷注入阻止層802を設ける場合には、一般的にa−Si:(H、X)をベースとし、周期表13族元素、15族元素等のドーパントを含有させることにより伝導型を制御し、導電性基体からのキャリアの注入阻止能を持たせることが可能であり、特にホウ素、リンを含有することが好ましい。この場合、必要に応じて炭素原子、窒素原子及び酸素原子から選ばれる少なくとも1種以上の原子を含有させることで応力を調整し、感光層の密着性向上の機能を持たせることもできる。
【0053】
電荷注入阻止層802の膜厚は、0.01〜10μmであることが好ましい。
【0054】
また、図8に図示されてはいないが、光導電層803と保護層804の間に、上部阻止層を設けることも可能である。上部阻止層を設ける場合には、一般的にa−Si:(H、X)をベースとし、周期表13族元素、15族元素等のドーパントを含有させることにより伝導型を制御し、保護層からのキャリアの注入阻止能を持たせることが可能である。この場合、必要に応じて炭素原子、窒素原子及び酸素原子から選ばれる少なくとも1種以上の原子を含有させることで応力を調整し、感光層の密着性向上の機能を持たせることもできる。
【0055】
上部阻止層の膜厚は、伝導性と阻止能を両立させる観点から、0.01〜5μmであることが好ましい。
【0056】
以上示したように、本発明においては、放電空間の外側に配置された二種類の高周波電力導入用電極と、円筒状基体とを適切な位置に配置させ、二種類の高周波電極にそれぞれ異なる周波数の高周波電力を印加することで、放電空間内に十分な密度をもった均一なプラズマが生成可能となり、その結果、特に円筒状基体の下部における直径15μm以下の球状突起を低減することが可能となる。
【0057】
以下、実施例により本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【実施例1】
【0058】
図3に示す堆積膜形成装置を用い、直径80mm、長さ358mmの6本の円筒状アルミニウムシリンダー(基体)311上に、第1の高周波電力供給電源308として発振周波数110MHzの電源を使用し、第2の高周波電力供給電源307として発振周波数55MHzの電源を使用した。第1の高周波電極304、及び第2の高周波電極303としては、直径20mm、長さ50cmのSUS304製円柱を使用した。第1の円筒状側壁302は外径200mm、厚さ5mmのアルミナ製円筒であり、第2の円筒状側壁301は外径500mm、厚さ5mmのアルミナ製円筒である。また、プラズマに曝される第1の円筒状側壁302の外周面、及び第2の円筒状側壁301の内周面はブラスト加工により、Rz(JIS規格条件)をRz=40μmとした。さらに、第1の高周波電極304と第2の高周波電極303と円筒状シリンダ311の最短距離R、Rについては、R=75mm、R=75mmであり、それぞれが同一直線状になるようにそれぞれを配置させた。表1に示す条件(基体温度、ガス導入種及び流量、第1の高周波電極及び第2の高周波電極に印加する電力量、反応容器内の内圧)により、a−Si:H感光体を作製した。
【0059】
まず、反応容器内に円筒状アルミニウムシリンダー311を円周上に設置し、不図示の排気装置により排気口312を通して排気した。続いて、回転軸313を介して円筒状アルミニウムシリンダー311を不図示のモーターにより3rpmの速度で回転させた。また、原料ガス導入管310より反応容器中にArを600ml/min(normal)で供給しながら、発熱体314により円筒状アルミニウムシリンダー311を2時間かけて200℃になるように加熱した。
【0060】
次に、Arの供給を停止し、反応容器内を不図示の排気手段を用いて排気口312を通して排気した後、原料ガス導入管310を介して、表1に示した電荷注入阻止層形成に用いる原料ガスを導入した。原料ガスの流量が設定流量になったことを確認した後、排気口312と不図示の排気装置の間に設けられた圧力調整バルブにより、反応容器内の内圧を所望の値に調整した。圧力値が安定したのを確認し、所望の発振周波数に設定済みの第1の高周波電源308と第2の高周波電源307の出力が表1の値となるように調整し、マッチングボックス305を介して第1の高周波電極304へ、マッチングボックス306を介して第2の高周波電極303へ、高周波電力を供給した。
【0061】
第1の高周波電極304、及び第2の高周波電極303より放射された高周波電力は、それぞれ第1の円筒状側壁302、及び第2の円筒状側壁301を透過して反応容器内に導入され、原料ガスを励起解離することによりガス活性種を生成させ、円筒状アルミニウムシリンダー311上に電荷注入阻止層を形成した。所望の膜厚になるように一定時間、膜形成を行い、高周波電力の供給を止め、続いて原料ガスの導入も停止して電荷注入阻止層の形成を終えた。その後、同様の操作を表1の条件に従って複数回繰り返すことにより、光導電層、変化層、保護層をこの順に積層形成し、a−Si:H感光体(S−1)を得た。
【0062】
【表1】

【0063】
(比較例1)
図1に示した構成の堆積膜形成装置を用い、高周波電極103へ供給する高周波の周波数を110MHzとし、高周波電極に供給する電力量を表2の値となるように調整した以外は、実施例1と同様に堆積膜を形成し、a−Si:H感光体(S−11)を得た。
【0064】
【表2】

【実施例2】
【0065】
円筒状シリンダ311は固定したままで、R=70mm、R=85mmとなるように第1の高周波電極304と第2の高周波電極303を配置させた以外は、実施例1と同様の条件で堆積膜を形成し、a−Si:H感光体(S−2)を得た。
【実施例3】
【0066】
円筒状シリンダ311は固定したままで、R=80mm、R=65mmとなるように第1の高周波電極304と第2の高周波電極303を配置させた以外は、実施例1と同様の条件で堆積膜を形成し、a−Si:H感光体(S−3)を得た。
【実施例4】
【0067】
図3に示した構成の装置の代わりに、図5に示した、第1の高周波電極を3本等間隔で円周上にR=100mmとなるように配置させた堆積膜形成装置を用いた以外は、実施例1と同様の条件で堆積膜を形成し、a−Si:H感光体(S−4)を得た。
【実施例5】
【0068】
第1の高周波電極に55MHz、第2の高周波電極に110MHzの高周波を導入するように設定した以外は、実施例1と同様の条件で堆積膜を形成し、a−Si:H感光体(S−5)を得た。
【実施例6】
【0069】
図3に示した構成の装置の代わりに、図4に示した、第1の高周波電極、及び第2の高周波電極に15mm×15mm×500mmの四角柱形状の棒状電極を使用した以外は、実施例1と同様の条件で堆積膜を形成し、a−Si:H感光体(S−6)を得た。
【実施例7】
【0070】
図3に示した構成の装置の代わりに、図6に示した、第2の高周波電極を3本等間隔で円周上にR=200mmとなるように配置させた堆積膜形成装置を用いた以外は、実施例1と同様の条件で堆積膜を形成し、a−Si:H感光体(S−7)を得た。
【実施例8】
【0071】
図3に示した構成の装置の代わりに、図7に示した装置を用いた。その際、R=100mm、R=200mmとなるように第1の高周波電極、第2の高周波電極、円筒状アルミニウムシリンダーを配置させた。また、第1の高周波電極に250MHz、第2の高周波電極に110MHzの高周波を導入するように設定した。以上の構成の装置を用いた以外は、実施例1と同様の条件で堆積膜を形成し、a−Si:H感光体(S−8)を得た。
【実施例9】
【0072】
第1の高周波電極に110MHz、第2の高周波電極に55MHzの高周波を導入するように設定した以外は、実施例8と同様の条件で堆積膜を形成し、a−Si:H感光体(S−9)を得た。
【0073】
(球状突起評価方法)
上述の方法で得られたそれぞれのa−Si:H感光体(S−1)〜(S−11)の中心位置から150mmの位置(底板側。下部)を光学顕微鏡にて観測し、幅10mm×長さ(周方向感光体1周分に相当)251mmについて球状突起の個数を算出し、実施例1を100とした際の相対値を算出した。これらの値をそれぞれ6本の感光体について観測し、その平均値を算出して比較した。結果を表3に示す。
【0074】
(堆積膜形成中のプラズマの放電状態診断方法)
上述の各実施例における、下部阻止層形成過程中において、第1の高周波電極304に電力を供給している高周波供給用電源308の反射波を常時モニタリングし、定常状態からの瞬間的な値のずれを異常放電による反射波ピークとして観測した。結果を表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
上述した本例の結果から明らかな様に、二つの円筒状側壁で囲まれる放電空間の外側に配置された二つの高周波電力導入用電極と、円筒状基体とを適切な位置に配置させ、二つの高周波電極にそれぞれ異なる周波数の高周波電力を印加することで、感光体上の球状突起数を低減でき、本発明の効果を得ることができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】(a)従来のVHFプラズマCVD方式による堆積膜形成装置の一例を示す模式的構成の横から見た概略縦断面図である。 (b)従来のVHFプラズマCVD方式による堆積膜形成装置の一例を示す模式的構成の上から見た概略横断面図である。
【図2】(a)従来のVHFプラズマCVD方式による堆積膜形成装置の一例を示す模式的構成の横から見た概略縦断面図である。 (b)従来のVHFプラズマCVD方式による堆積膜形成装置の一例を示す模式的構成の上から見た概略横断面図である。
【図3】(a)本発明で用いる、VHFプラズマCVD方式による堆積膜形成装置の一例を示す模式的構成の横から見た概縦断面図である。 (b)本発明で用いる、VHFプラズマCVD方式による堆積膜形成装置の一例を示す模式的構成の上から見た概略横断面図である。 (c)(b)に示した断面図の一部を拡大した図である。
【図4】本発明に用いる堆積膜形成装置の別の一例である。
【図5】本発明に用いる堆積膜形成装置の別の一例である。
【図6】本発明に用いる堆積膜形成装置の別の一例である。
【図7】本発明に用いる堆積膜形成装置の別の一例である。
【図8】本発明で堆積形成可能なアモルファスシリコン感光体の一例を表す概略断面図である。
【符号の説明】
【0078】
101 円筒状側壁
102 導電性円筒状部材
103 第2の高周波電極
106 マッチングボックス
107 高周波電力供給用電源
109 シールド
110 ガス導入管
111 円筒状基体
112 排気口
114 発熱体
115 上蓋
117 電力分割伝送部材
118 輝度測定用窓
119 絶縁部材
201 円筒状側壁
202 高周波電極
203 高周波電極
205 マッチングボックス
206 マッチングボックス
207 高周波供給用電源
208 高周波供給用電源
209 シールド
210 ガス導入管
211 円筒状基体
212 排気口
214 発熱体
215 底板
216 絶縁部材
217 電力分割伝送部材
218 輝度測定用窓
301 第2の円筒状側壁
302 第1の円筒状側壁
303 第2の高周波電極
304 第1の高周波電極
305 マッチングボックス
306 マッチングボックス
307 高周波電力供給用電源
308 高周波電力供給用電源
309 シールド
310 ガス導入管
311 円筒状基体
312 排気口
313 円筒状基体用回転軸
314 発熱体
317 電力分割伝送部材
318 輝度測定用窓
319 絶縁部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の円筒状側壁と、前記第1の円筒状側壁を取り囲む第2の円筒状側壁との間に構成された減圧可能な反応容器と、
前記反応容器内に配置され、基体を保持する基体保持部材と、
前記反応容器内に原料ガスを供給するための原料ガス供給手段と、
を備える複数の基体に同時に堆積膜を形成可能な堆積膜形成装置において、前記第1の円筒状側壁及び第2の円筒状側壁の少なくとも一部が誘電体で構成されるとともに、
前記反応容器内に高周波電力を供給する電力供給系として、前記第1の円筒状側壁の内側に第1の高周波電極を、前記第2の円筒状側壁の外側に第2の高周波電極を配置させ、さらに前記第1の高周波電極と前記第2の高周波電極に対し、異なる周波数の高周波電力を供給する手段を有する、堆積膜形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の堆積膜形成装置において、前記第1の高周波電極と前記第2の高周波電極に供給する前記高周波電力の周波数が、それぞれ、50MHz以上250MHz以下であることを特徴とする、堆積膜形成装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の堆積膜形成装置において、前記第2の高周波電極の数Nと、前記第1の高周波電極の数Nが、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする、堆積膜形成装置。
≧ N (1)
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の堆積膜形成装置において、前記第1の円筒状側壁と前記第2の円筒状側壁が同一の中心軸を有するように配置されており、かつ、前記第1の高周波電極と、前記第2の高周波電極と、前記基体支持部材とが、それぞれ前記中心軸上に中心を持つ円周上に配置されることを特徴とする、堆積膜形成装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の堆積膜形成装置において、前記第1の電極と前記第2の電極が、円筒状又は円柱状であることを特徴とする、堆積膜形成装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の堆積膜形成装置において、前記基体が円筒状であり、かつ、前記円筒状基体表面から前記第1の高周波電極表面の最短距離Rと、前記円筒状基体表面から前記第2の高周波電極表面の最短距離Rが、下記式(2)の関係を有することを特徴とする、堆積膜形成装置。
0.80≦R/R≦1.25 (2)
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の堆積膜形成装置において、前記第1の高周波電極に供給する高周波の周波数fと、前記第2の高周波電極に供給する高周波の周波数fが、下記式(3)の関係を満たすことを特徴とする、堆積膜形成装置。
> f (3)
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の堆積膜形成装置において、前記第2の高周波電極の数Nと、前記第1の高周波電極の数Nと、前記円筒状基体の数が、同数であることを特徴とする、堆積膜形成装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の堆積膜形成装置において、前記第2の高周波電極と、前記第1の高周波電極と、前記円筒状基体とが、同一直線上に並んで配置されることを特徴とする、堆積膜形成装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の堆積膜形成装置において、前記円筒状基体上にシリコン原子を含有する非晶質膜を形成することで、電子写真用感光体を製造することを特徴とする、堆積膜形成装置。
【請求項11】
第1の円筒状側壁と、前記第1の円筒状側壁を取り囲む第2の円筒状側壁との間に構成された減圧可能な反応容器内に複数の基体を配置し、前記反応容器内に原料ガスを供給し、
高周波電力供給手段から前記反応容器内に高周波電力を導入して前記原料ガスを分解して前記基体上に堆積膜を形成する堆積膜形成方法において、
前記第1の円筒状側壁の内側に第1の高周波電極を、前記第2の円筒側壁の外側に第2の高周波電極を配置させ、第1の高周波電極及び第2の高周波電極にそれぞれ異なる周波数の高周波電力を印加し、反応容器外に配置された前記第1の電極及び第2の電極から、前記第1の円筒状側壁と前記第2の円筒状側壁の少なくとも一部を構成する誘電部材を通過して前記反応容器内に高周波電力が導入されることを特徴とする、堆積膜形成方法。
【請求項12】
請求項11に記載の堆積膜形成方法において、前記第1の高周波電極と前記第2の高周波電極に供給する前記高周波電力の周波数が、それぞれ、50MHz以上250MHz以下であることを特徴とする、堆積膜形成方法。
【請求項13】
請求項11か12のいずれか1項に記載の堆積膜形成装置において、前記第1の高周波電極に供給する高周波の周波数fと、前記第2の高周波電極に供給する高周波の周波数fが、下記式(4)の関係を満たすことを特徴とする、堆積膜形成方法。
> f (4)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−179863(P2008−179863A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15164(P2007−15164)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】