説明

多層回路基板形成方法及び多層回路基板形成装置

【課題】 簡易で低コストな構成で複数層の回路パターンを精度良く形成するための、インクジェット法を採用した多層回路基板形成方法及び多層回路基板形成装置を提供すること。
【解決手段】 回路パターン101と所定距離をおいた位置に導電性溶液を用いて位置決めパターン103を形成する。更に、上層の回路パターンの形成に先立って位置決めパターン103の位置情報を検出し、得られた検出値に基づいて記録位置を補正しながら上層の回路パターン103を形成する。これにより、装置に搬入する際の精度の高い位置合わせや、大掛かりな機構を備えることなく、各層間の記録位置の整合性をとることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録技術を用いて基材に形成した回路層を積層することによって多層回路基板を形成する多層回路基板形成方法、及び多層回路基板形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI等の半導体や各種電子部品等を実装した回路基板は、電子機器や通信機器、コンピュータ等の心臓部として現在広く有用されている。このような回路基板の基材としては、セラミックやガラス繊維などの補強材とエポキシ樹脂などの合成樹脂との複合材など適用していることが多い。しかし、携帯電話やディジタルカメラのように、小型な機器に組み込ませる回路基板の場合には、より実装性を向上させるために、ポリエステル樹脂やアラミド樹脂等を使用することによって、基材に屈曲性を持たせている場合も多い。回路基板の回路パターン層数についても、かつては片面基板や両面基板がほとんどであったが、装置の小型化、高密度化に従って、現在では8層や16層などの多層回路基板が主流となっている。また、電子回路の高速化に伴って、回路パターンの微細化と高密度化も急速に進んでいる。
【0003】
回路基板の回路パターン形成方法としては様々な方法が実用化されているが、現在の主流はサブトラクテイブ法である。しかし、サブトラクテイブ法は穴開け工程、無電解メッキ工程、ドライフィルム等によるパターニング工程、電解メッキ工程、エッチング工程、半田剥離工程など多くの工程を経るため、製造原価に占める加工費の割合が高い。よってこの加工費の低減が、回路基板業界における大きな課題の1つになっている。また、メッキ工程やエッチング工程で発生する廃液処理についても、環境問題の点から見逃せない課題となっている。
【0004】
このような問題に対応するために、インクジェット記録方法の技術を利用して、回路パターンを形成する方法が既に提案されている(例えば特許文献1参照。)。インクジェット記録技術によれば、記録ヘッドの記録素子から吐出させた微小な液滴を、数〜数十ミクロンの位置精度で記録媒体に着弾・定着させることができる。そして、高速記録が可能、低ランニングコスト、装置の省スペース化が容易、低騒音、など様々な利点も有している。よって、記録装置として端を発したインクジェット記録技術ではあるが、今日では回路基板の回路パターン形成、カラーフィルタの画素形成、有機EL素子の発光層や電子源の電子放出素子の形成、マイクロレンズ製作等、様々な産業分野での活用が有望視されている。
【0005】
特許文献1によれば、導電パターン用溶液および絶縁パターン用溶液をインクジェット記録ヘッドから吐出することによって、導電パターンと絶縁パターンに基づいた描画を基材表面に形成し、これを回路パターンとする方法が開示されている。更に、このように形成した回路パターンを複数積層することにより、多層構造の回路基板を形成することも可能となる。より軽薄短小な多層回路基板を形成する場合であっても、インクジェット法を応用すれば、十〜数十ミクロン程度の線幅で回路パターンを描画することが可能である。更に今日では、サブミクロンのパターン描画が可能である内容の研究報告もなされている。
【0006】
このようなインクジェット法を利用して多層回路基板を形成するにあたっては、複数層の回路パターン間の位置を精度良く合わせることが、技術課題の1つとなっている。多層回路基板においては、複数層の回路を順治形成していく過程において、形成済みの回路パターンと新たに積層する回路パターンとの相対位置関係を確保することが要される。この際、同一装置内で精度を確保しながら連続して複数の回路基板の描画を実行することが可能であれば、複数の回路パターン間の位置精度は然程問題にはならない。しかしながら、インクジェット法を応用した多層回路基板の形成においては、一つの層の回路パターンを描画した後、これを定着させるために加熱あるいは焼成して硬化処理する工程が要される。そして、この硬化処理を行うための機構には制約が多く、回路パターンの形成を行うインクジェット記録装置内に一体的に備えることは困難な状況となっている。
【0007】
よって、一般には、回路形成のための装置と、硬化処理のための装置はそれぞれ別装置として用意されている。結果、多層回路基板を形成する際には、各層を形成するたびに回路形成装置と硬化装置との間に基材の出し入れが介在する。従って、回路形成装置に基材を挿入するたびに、描画に影響を与えない精度で下層の回路パターンに対しての正確な位置合わせを行う工程が要されるのである。この工程あるいはその際の精度が損なわれると、隣接層に形成されている回路パターン間において、断線やショートが発生する恐れが生じる。
【0008】
このような懸念を抑制するために、例えば回路パターンのラインとスペース間を広くする方法も考えられる。しかし、これでは上記弊害の恐れは低減するものの、そもそもの目的である回路基板の微細化と高密度化が十分に達成できなくなってしまう。
【0009】
そこで、アライメントマークを利用することで、隣接層間の相対位置関係を確保しながら回路パターンを積層する方法が既に提案されている(例えば特許文献2参照。)。特許文献2によれば、基準となる回路層に形成されたアライメントマークをX線で照射し、蛍光板上に像を結ばせ、CCDカメラで撮像してアライメントマークの位置を検出する方法が開示されている。更に、検出したアライメントマークの位置に基づいて新たなアライメントマークを多層回路基板の表層に形成する方法も開示されている。このような方法であれば、多層回路基板の表面には常にアライメントマークが存在するので、新たな回路パターンを積層する際には、当該アライメントマークを頼りに高精度に位置合わせを行うことが出来る。
【0010】
【特許文献1】特開平11−163499号公報
【特許文献2】特開2003−131401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2の方法を採用するに当たっては、回路層にX線を照射するための発光手段、蛍光板、アライメントマークを検出するためのCCDカメラなど、通常の回路形成装置に必要な機構に加え、より大掛かりで複雑な機構が要される。これでは、装置自体のコストも多大なものとなってしまう。
【0012】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、より簡易で低コストな構成で複数層の回路パターンを精度良く形成するための、インクジェット法を採用した多層回路基板形成方法及び多層回路基板形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そのために本発明においては、 記録ヘッドから基材上に導電性溶液および絶縁性溶液を吐出させて形成される回路パターンを複数積層することにより多層回路基板を形成する多層回路基板形成方法において、前記導電性溶液と前記絶縁性溶液との少なくとも一方を用いて第1回路パターンを形成する工程と、前記第1回路パターンと所定距離を置いた位置の前記基材上に前記導電性溶液を用いて位置決めパターンを形成する工程と、前記位置決めパターンを検出する工程と、前記導電性溶液と前記絶縁性溶液との少なくとも一方を用い、該検出工程の検出値に基づいて前記第1回路パターンの上層に第2回路パターンを形成する工程とを有することを特徴とする。
【0014】
また、記録ヘッドから導電性溶液および絶縁性溶液を吐出させて基材上に形成される回路層を複数積層することにより多層回路基板を形成する多層回路基板形成装置において、前記記録ヘッドより導電性溶液と絶縁性溶液との少なくとも一方を吐出させて第1の回路パターンを形成する手段と、前記記録ヘッドより導電性溶液を吐出させることにより、前記第1の回路パターンの形成領域外で前記第1回路パターンと所定距離を置いた位置に位置決めパターンを形成する手段と、前記位置決めパターンを検出する手段と、前記記録ヘッドより前記導電性溶液と前記絶縁性溶液との少なくとも一方を吐出させて、前記検出手段の検出値に基づいて、前記第1回路パターンの上層に第2回路パターンを形成する手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多層回路基板の形成過程において、高精度な基材の位置合わせ機構を備えていなくても、隣接層の回路パターン間の相対位置を正確に合わせた多層回路基板が形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の特徴を示す多層回路基板形成方法および多層回路基板形成装置を具体的に説明する。
【0017】
図1は、以下に説明する複数の実施例に共通して適用可能な、インクジェット法を採用した多層回路基板形成装置の斜視図である。図において、1はキャリッジである。キャリッジ1は、記録ヘッド2およびタンク3を搭載した状態で、図の主走査方向および副走査方向に移動することが出来る。記録ヘッド2は、導電性溶液を吐出する記録素子と絶縁性溶液を吐出する記録素子を、それぞれ1個ずつ備えており、不図示のホスト装置から転送されるパターンデータに基づいて、導電性溶液もしくは絶縁性溶液を基材4上に吐出する。タンク3は、導電性溶液を収容するものと絶縁性溶液を収容するものとが用意されており、それぞれの溶液を対応する記録素子に供給する。
【0018】
本発明に適用可能な導電性溶液には、金属コロイドや分散剤、水、水溶性有機溶剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤等が必要に応じて含まれている。金属コロイドとしては、Ag、Pt、SnO2、Al、Cr、Zn、Feなどが挙げられるが、導電性の面から考慮すると、Ag、SnO2、Alを適用することが望ましい。一般にコロイド粒子の直径は数100nm以下であるが、本発明に適用するに当たっては、回路パターンの均一性や安定性等の観点から、粒子直径が数10〜数100nmの範囲の金属コロイドが好適である。この範囲内では金属コロイドが溶液中で沈降することも抑えられ、溶液の保存安定性の低下を有効に防止することが出来るからである。以下の実施例においては、イオン性溶液を用いることによって導電性溶液としている。
【0019】
一方、本発明で適用可能な絶縁性溶液には、絶縁性材料、水、水溶性有機溶剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤等が必要に応じて含まれている。絶縁性材料としては、非イオン性ポリマー等が挙げられ、具体例として、エポキシ樹脂等を主成分とするソルダーレジストを適用することが出来る。
【0020】
基材4は、一般には、フィルム、シート、板などのような平面形状をしている。但し、インクジェット方式による回路パターンの形成が可能であれば、曲面であっても構わない。材質は、加熱工程および焼成工程に耐えられる耐熱性を有するものが適当で、例えばアルミナ、シリカ、窒化アルミニウム、チタン酸バリウム、ジルコニアなどを焼結した多孔質セラミックス、ポリオレフィンや無機フィラを主材料にした多孔質樹脂フィルムやガラス繊維等が挙げられる。
【0021】
5は本多層回路基板形成装置の定盤である。6は、キャリッジ1を支持する門型ベースであり、Y軸リニアモータステージ8に案内されながら、図の副走査方向に移動走査可能になっている。更に、キャリッジ1は、門型ベース6上に設けられたX軸リニアモータステージ7に案内されることによって、図の主走査方向へも移動走査可能となっている。以上の構成より、キャリッジ1はX軸リニアモータステージ7及びY軸リニアモータステージ8によるリニアモータ駆動によって、ステージ上の任意の二次元座標位置(X,Y)へ移動可能となっている。
【0022】
なお、定盤5、X軸リニアモータステージ7およびY軸リニアモータステージ8は、高剛性な構造物として製作されているため、移動に伴ってステージ表面が変動することはない。よって、記録ヘッド2の溶液を吐出する面と回路パターン形成領域面においては、所定の距離が保たれた状態で、記録ヘッド2をXY平面内で移動することができる。
【0023】
図には示されていないが、2つのリニアモータステージ7および8には、キャリッジ1や門型ベース6の相対位置を検出するためのリニアエンコーダと原点センサが内蔵されており、リニアモータ駆動のサーボ制御入力として利用されている。本発明の実施例では、形成する回路パターンの精度に合わせて、0.5ミクロン程度の分解能を有するリニアエンコーダを適用している。X軸リニアモータステージ7に備えられたリニアエンコーダの信号は、記録ヘッド2が溶液を吐出するタイミングを制御するためにも利用される。
【0024】
9は、本発明の特徴でもある複数の回路層間の位置を検出するために用いられる導電プローブである。また、10は、導電プローブ9を主走査方向あるいは副走査方向に搬送するプローブステージである。
【0025】
図2(a)〜(d)は、導電プローブ9の構成および動作を説明するための拡大図である。本発明の実施形態で適用する導電プローブ9は、2本のプローブ芯13を備えており、これらを基材上に接触させたり退避させたりすることが出来る。図2(a)は、プローブ芯13を基材より退避させた状態、同図(b)は、プローブ芯13を基材に接触させた状態をそれぞれ示している。プローブ芯13は、導電プローブ9に備えられたモータ11およびギア12によって、基材への接触・退避が制御されている。
【0026】
本発明の実施例において、2つのプローブ芯13は予め定められた距離をおいて設置されており、図2(c)に示したように、基材に記録された2本の位置決めパターンの距離と一致している。プローブ芯13が基材へ接触する際には、2本のプローブ芯13が2本の位置決めパターン103に同時に接触するよう制御されている。
【0027】
図2(d)は、プローブ芯13の詳細な構成を説明するための断面図である。プローブ針13は、その先端に配備されている可動針18によって基材4に形成された導電性の位置決めパターン103に接触する。この接触による通電あるいは非通電の情報は更に上方に配備されている固定針16に伝達される。固定針16の上部はフレキケーブル14と半田接続され、接続部15にて固定されている。固定針16の回りには、圧接ばね17が配備されており、この働きによって可動針18は固定芯に対して上下移動することが出来る。フレキシブルケーブル14は、不図示の導電チェック回路に接続され、当該導電チェック回路は更にタイマー演算回路などに接続されている。
【0028】
図3は、本発明の実施例に適用可能な、多層回路形成装置302の接続状態を説明するためのブロック図である。多層回路形成装置302はホスト装置301と接続されており、ホスト装置301から入力されて来る情報に従って、各層のパターン形成を行う。ホスト装置は、形成すべき回路構成を多層に分解および算出し、一層ごとに多層回路形成装置302に入力する。また、必要に応じて多層回路形成装置302は、パターンの形成状況などをホスト装置301に通知する。
【0029】
303は、形成された各層の回路パターンを焼成するための硬化処理装置である。多層回路形成装置で一層ごとに形成された回路層は、その度にユーザによって硬化処理装置へ搬入される。そして、硬化処理完了後、再びユーザによって多層回路形成装置302に搬出される。
【0030】
以上説明した構成の多層回路基板形成装置を用い、実際に多層回路を形成する工程を実施例として以下に詳細に説明する。
【実施例1】
【0031】
図4は、本実施例において多層回路を形成する工程を説明するためのフローチャートである。
【0032】
本処理が開始されると、まずステップS1にて、ホスト装置301より一層分の回路パターン情報が多層回路形成装置に入力される。多層回路形成装置302は、入力された回路パターンに従って、記録ヘッドより導電性溶液および絶縁性溶液を吐出し、パターンを形成する(ステップS2)。具体的には、X軸リニアモータステージ7およびY軸リニアモータステージ8によってキャリッジ1を所定の速度Vx、Vyで走査させながら、各層のパターンデータに従って記録ヘッド2より導電性溶液及び絶縁性溶液を吐出させる。これにより、基材4上の回路パターン形成領域には、導電パターンあるいは絶縁パターンがほぼ隙間の無い状態で、かつ一様な厚みとなるように形成される。
【0033】
続くステップS3では、ステップS2で形成した回路パターンの領域外に位置決めパターンを形成する。
【0034】
図5は、ステップS2で形成する回路パターンと、ステップS3で形成する位置決めパターンとの配置状態を説明するための模式図である。図において、102は回路パターンの形成領域であり、その内部にはステップS2によって回路パターン101が形成されている。これに対し、103がステップS3で形成する位置決めパターンである。位置決めパターン103は、回路パターン102との相対位置が明確に定められた位置にほぼ平行な2本の直線として形成され、次に積載される層の回路パターン形成位置を調整するために利用される。後の工程において、2本のプローブ芯13を2本の位置決めパターン103のそれぞれに接触させるので、導電プローブの搬送精度の点から考慮すると、位置決めパターン103の接触部分は、図のようにある程度の太い線幅であることが好ましい。図では、X軸およびY軸に対し、複数の位置決めパターン103が示されているが、実際には、X軸方向の調整とY軸方向の調整のために、一層に付きそれぞれ1つずつのパターンが記録される。複数の層のそれぞれにおいては、互いに接しない位置に位置決めパターン103が記録されていることが望まれることから、ここでは複数の層に対応した複数の位置決めパターンが示されている。なお、ステップS1〜ステップS3の工程においては、導電プローブ9は基材から退避された状態になっている。
【0035】
再び、図4のフローチャートに戻る。ステップS3で位置決めパターンが形成されると、ユーザは回路パターンが形成された回路基板を多層回路形成装置から硬化処理装置303へ移し、硬化処理を実行する(ステップS4)。基材上の回路パターンは、各溶液中に含まれる溶剤が揮発することによって基材上に一応は定着するものの、そのままでは導電パターン部分の導電率が低く、実用には向かない。しかし、硬化処理を施すことによって、導電性溶液中の金属コロイドは溶解し金属結合が実現されるので、導電パターン部分の導電率が向上し、良好な特性を有する回路基板として活用することが出来るようになる。
【0036】
ステップS5では、以上の工程で全ての層についての回路形成が完了したか否かを判断する。この判断は、ホスト装置301が行うものであっても良いし、ユーザ自身が判断するものであってもよい。ここで、全ての層についての回路形成が完了したと判断された場合は、本処理を終了する。一方、まだ回路形成すべき層が残っていると判断された場合には、ステップS6へ進む。
【0037】
ステップS6では、まず、回路基板を硬化処理装置303から多層回路形成装置302へ戻す。この際、装置に対する回路基板の精度の高い位置合わせは特に行わない。
【0038】
続くステップS7では、プローブステージ10上に導電プローブ9を搬送させ、隣接層に記録された位置決めチェックパターン103近傍にこれを配置する。その後、モータ11を駆動し、退避させておいた2本のプローブ芯13を位置決めパターン103の2本にそれぞれ接触させる。この際、下層の回路パターンや位置決めパターンは、ステップS4の焼成工程によって既に基材に定着した状態となっている。そして、次層のパターン記録に先立って記録位置を調整するため、チェックパターンの記録および導電プローブ9による抵抗値検出を開始する。以下に、X成分の補正値を検出するためチェックパターンの形成例について説明する。
【0039】
図6は、位置決めパターン103に対するチェックパターン104の記録位置を説明するための拡大図である。本実施例においては、下層に記録された2本の位置決めパターン103と交差するように、チェックパターン104は図の矢印の方向に徐々に記録されていく。ここではX軸リニアエンコーダ出力値がX1、Y軸リニアエンコーダ出力値がY1の位置より、キャリッジ1を速度VxでX軸リニアモータステージ上を走査させながら、記録ヘッド1より導電性溶液を連続して吐出させる。
【0040】
図7は、チェックパターンを形成する際の吐出経過時間とチェックパターンの形成状態を示した図である。図において、図7(a)は、チェックパターンの記録開始時点(Tx0)の状態を示した図である。同図(b)は、記録開始から位置決めパターン103の1本目と交差した時点(Tx1)の状態を示している。また、同図4(c)は、位置決めパターン103の2本目と交差した時点(Tx2)の状態を示している。更に同図(d)は、2本の位置決めパターンを完全に交差して、チェックパターン104の記録が完了した時点の様子を示した図である。本実施形態において、位置決めパターン103およびチェックパターン104は双方とも導電性である。よって、両者が交差した時点、すなわちTx2の時点で2本のプローブ芯間が通電する。
【0041】
図8は、上記吐出経過時間に対する導通チェック回路の出力状態を示した図である。図に示すように、Tx0およびTx1では0であった出力レベルが、チェックパターン104が位置決めパターン103の2本ともを交差した時点(Tx2)から1になっている。
【0042】
本実施形態においては、図4のステップS7およびステップS8によって、このようなチェックパターン104の記録と通電したか否かの確認を繰り返す。ステップS8によって、位置決めパターン103間の通電が確認されるとステップS9に進み、チェックパターン104の記録を終了する。
【0043】
続くステップS10では、通電が確認された時点(Tx2)とチェックパターン104の記録を開始した時点Tx0との差(Tx2−Tx0)を、道通チェック回路に接続されたタイマー演算回路によって算出する。そして、ステップS11では、次に回路パターンを形成する際のX方向位置合わせ用パラメータとしてこれを保存する。
【0044】
以上ではX方向の位置合わせとして説明したが、ステップS7〜ステップS11で説明した各工程は、Y方向調整用の位置決めパターンに対しても行われ、同様にして算出された(Ty2−Ty0)がY方向位置合わせ用パラメータとして保存される。
【0045】
その後、再びステップS1に戻り、ステップS11で保存されたパラメータに基づいて位置合わせした状態で、最上層の回路パターンを記録する。
【0046】
図9は、以上説明した一連の工程によって求められたパラメータに基づいて、最上層の回路パターンを記録する状態を示した図である。隣接下層の座標系において、X座標検知用の位置決めパターン103の2本目が記録されている位置をPx_0、またY座標検知用の位置決めパターン103の2本目が記録されている位置をPy_0とする。このとき、速度VxでX軸方向に移動するキャリッジ1が、X1の位置よりPx_0に到達するまでの時間は、ステップS11で保存された値(Tx2−Tx0)に一致する。同様にして、速度VyでY軸方向に移動するキャリッジ1が、Y1の位置よりPy_0に到達するまでの時間は(Ty2−Ty0)である。従って、当該回路層のX座標Pxに、X1に位置するキャリッジ2が速度Vxで到達するまでの時間Txは、
Tx = (Tx2−Tx0)+ (Px−Px_0)/Vx ・・・式1
Y座標Pyに、Y1に位置するキャリッジ2が速度Vyで到達するまでの時間Tyは、
Ty = (Ty2−Ty0)+ (Py−Py_0)/Vy ・・・式2
として表すことができる。すなわち、式1および式2に従ったタイミングで、座標(Px、Py)に対する記録ヘッド2からの吐出を行うことによって、任意の座標(Px、Py)に対して、下層に形成された回路と整合された回路パターンを形成することが出来る。
【0047】
尚、記録ヘッド2は移動走査するキャリッジ2に搭載された状態で溶液の吐出を行うので、厳密には、記録ヘッド1が溶液を吐出する位置と実際に溶液が基材上に記録される位置にはずれが含まれている。例えば、溶液の吐出速度を10m/sec、記録ヘッドから基材までの距離を100μmとすると、吐出された時点から基材へ着弾するタイミングまでの時間は10μsecとなる。また、この時のキャリッジの移動速度Vxを50mm/secであるとすると、記録ヘッド1が溶液を吐出した位置と実際に溶液が基材上に記録された位置は0.5μmずれていることになる。但し、この程度のずれは、多層回路パターンを形成する際の誤差としては十分に小さい値をみなすことが出来る。よって、本実施形態においては上記誤差については特に考慮に入れていない。
【0048】
以上説明したように本実施例においては、下層の基材を記録する際には回路パターンからの相対位置が定められた箇所に位置決めパターンを記録し、上層の基材に記録する際には下層の位置決めパターンの位置を検出したタイミングに基づいて、上層の回路パターンを記録する。これにより、基材間の相対位置を厳密に合わせることなく、互いに整合性を有する複数の回路パターン層より構成された多層回路基板を形成することが可能となる。
【実施例2】
【0049】
本実施例においても実施例1と同様の多層回路形成装置を用いる。但し、本実施例においては、位置決めパターンの検出タイミングによってタイミング補正を行うのではなく、位置決めパターンの検出位置(アドレス)を確認し、当該アドレスからの相対距離によって、上層回路のパターン位置を把握するものとする。
【0050】
図10は、本実施例における位置決めパターン103とチェックパターン104の記録位置、および位置決めパターンに接続する回路形態を説明するための模式図である。本実施例におけるX座標用およびY座標用の導電チェック回路は、リニアエンコーダ読み取り回路に接続されている。
【0051】
本実施例においても図4で説明したフローチャートを適用することが出来る。但し、ステップS10において、実施例1では通電が確認された時点(Tx2)を検出したが、本実施例では通電が確認された時点におけるリニアエンコーダの出力値X0をラッチおよび保持する。ここで保持されたアドレスX0は、リニアエンコーダ座標に対する位置決めパターン103のアドレスである。位置決めパターン103と、パターン形成領域の相対アドレスは、予め定められていることから、当該回路層のX座標の値がPxである点に記録を行う場合には、リニアエンコーダの値X2が、
X2 = (Px−Px_0)+ X0 ・・・式3
となる位置で記録ヘッドの吐出を実行すればよい。同様に、Y座標の値がPyである点に記録を行う場合には、リニアエンコーダの値Y2が、
Y2 = (Py−Py_0)+ Y0 ・・・式4
となる位置で記録ヘッドの吐出を実行すればよい。すなわち、リニアエンコーダのアドレス(X2、Y2)でインクを吐出することにより、座標(Px、Py)に対する記録がなされる、実施例1と同様の効果を得ることが出来る。
【0052】
以上説明したように本実施例においては、下層の基材を記録する際には回路パターンからの相対位置が定められた箇所に位置決めパターンを記録し、上層の基材に記録する際には下層の位置決めパターンの位置を検出したリニアエンコーダ座標に基づいて、上層の回路パターンを記録する。これにより、基材間の相対位置を厳密に合わせることなく、互いに整合性を有する複数の回路パターン層より構成された多層回路基板を形成することが可能となる。
【0053】
なお、以上説明した実施例では、導電性溶液を用いてチェックパターンを記録する内容で説明したが、本発明の効果はこれに限定されるものではない。吐出する際の溶液の状態では導電性を有するものの、焼成することによって絶縁性を有する絶縁性溶液であれば、チェックパターンとして適用することは可能である。
【0054】
また、上記実施例では、X座標検知用の位置決めパターンと、Y座標検知用の位置決めパターンをそれぞれの軸に沿った形で2次元に配列させた例で説明したが、このようなレイアウトでなくとも本発明の目的を達成することは出来る。
【0055】
図11は、上記実施例にも適用可能な、位置決めパターンの別のレイアウト例を説明するための模式図である。本例によれば、回路基板の一辺に、X座標調整用の位置決めパターンとY座標調整用の位置決めパターンとが交互に配置されている。本発明において、位置決めパターンが回路パターンに対してどのような方向に記録される形態であっても構わない。両者の相対的な位置関係が明確にされてさえいれば、本発明の効果は同様に得ることが出来る。図11に示したように、全ての位置決めパターンが1つのプローブステージに平行に配列されていれば、1つの導電プローブ9と1つのプローブステージ10によって、本発明の目的を達成することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例に適用可能なインクジェット法を採用した多層回路基板形成装置の斜視図である。
【図2】(a)〜(d)は、導電プローブの構成および動作を説明するための拡大図である。
【図3】本発明の実施例に適用可能な多層回路形成装置の接続状態を説明するためのブロック図である。
【図4】本発明の実施例において多層回路を形成する工程を説明するためのフローチャートである。
【図5】回路パターンと位置決めパターンとの配置状態を説明するための模式図である。
【図6】位置決めパターンに対するチェックパターンの記録位置を説明するための拡大図である。
【図7】(a)〜(d)は、チェックパターンを形成する際の吐出経過時間とチェックパターンの形成状態を示した図である。
【図8】吐出経過時間に対する導通チェック回路の出力状態を示した図である。
【図9】取得したパラメータに基づいて、最上層の回路パターンを記録する状態を示した図である。
【図10】実施例2における位置決めパターンとチェックパターンの記録位置、および位置決めパターンに接続する回路形態を説明するための模式図である。
【図11】位置決めパターンの別のレイアウト例を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0057】
1 キャリッジ
2 記録ヘッド
3 タンク
4 基材
5 定盤
6 門型ベース
7 X軸リニアモータステージ
8 Y軸リニアモータステージ
9 導電プローブ
10 プローブステージ
11 モータ
12 ギア
13 プローブ芯
14 フレキシブルケーブル
15 半田接続
16 固定針
17 圧接ばね
18 可動針
101 回路パターン
102 回路パターン形成領域
103 位置決めパターン
104 チェックパターン
301 ホスト装置
302 多層回路形成装置
303 硬化処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドから基材上に導電性溶液および絶縁性溶液を吐出させて形成される回路パターンを複数積層することにより多層回路基板を形成する多層回路基板形成方法において、
前記導電性溶液と前記絶縁性溶液との少なくとも一方を用いて第1回路パターンを形成する工程と、
前記第1回路パターンと所定距離を置いた位置の前記基材上に前記導電性溶液を用いて位置決めパターンを形成する工程と、
前記位置決めパターンを検出する工程と、
前記導電性溶液と前記絶縁性溶液との少なくとも一方を用い、該検出工程の検出値に基づいて前記第1回路パターンの上層に第2回路パターンを形成する工程と
を有することを特徴とする多層回路基板形成方法。
【請求項2】
前記位置決めパターン検出工程は、前記記録ヘッドから導電性溶液を吐出することによって前記位置決めパターンと交差するチェックパターンを段階的に記録する工程と、前記位置決めパターンの通電を前記段階に伴って確認する工程と、前記通電が確認された時点の情報を記憶する工程とを有することを特徴とする請求項1に記載の多層回路基板形成方法。
【請求項3】
前記情報は前記通電が確認された時点の前記記録ヘッドの位置情報であり、前記第2回路パターン形成工程では、前記位置情報に基づいて前記記録ヘッドが吐出を行う位置を補正することを特徴とする請求項2に記載の多層回路基板形成方法。
【請求項4】
前記情報は前記チェックパターンの記録を開始した時点から前記通電が確認された時点までの時間情報であり、前記第2回路パターン形成工程では、前記時間情報に基づいて前記記録ヘッドが吐出を行うタイミングを補正することを特徴とする請求項2に記載の多層回路基板形成方法。
【請求項5】
前記位置決めパターンはほぼ平行な2本の直線によって構成され、前記第1回路パターンおよび前記第2回路パターンの形成領域外に形成されることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の多層回路基板形成方法。
【請求項6】
前記位置決めパターン形成工程と前記位置決めパターン検出工程との間に、前記第1回路パターンを硬化させる工程を更に有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項多層回路基板形成方法。
【請求項7】
記録ヘッドから導電性溶液および絶縁性溶液を吐出させて基材上に形成される回路層を複数積層することにより多層回路基板を形成する多層回路基板形成装置において、
前記記録ヘッドより導電性溶液と絶縁性溶液との少なくとも一方を吐出させて第1の回路パターンを形成する手段と、
前記記録ヘッドより導電性溶液を吐出させることにより、前記第1の回路パターンの形成領域外で前記第1回路パターンと所定距離を置いた位置に位置決めパターンを形成する手段と、
前記位置決めパターンを検出する手段と、
前記記録ヘッドより前記導電性溶液と前記絶縁性溶液との少なくとも一方を吐出させて、前記検出手段の検出値に基づいて、前記第1回路パターンの上層に第2回路パターンを形成する手段と
を有することを特徴とする多層回路基板形成装置。
【請求項8】
前記位置決めパターン検出手段は、前記位置決めパターンの電気的な通電の有無を検出する導電検知手段と、前記検出値を保存する手段を備えていることを特徴とする請求項7に記載の多層回路基板形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−5425(P2007−5425A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181624(P2005−181624)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】