説明

大気中の一酸化炭素や炭化水素の濃度を検出するガスセンサ

【課題】大気中の一酸化炭素や炭化水素の濃度を検出するガスセンサを提供する。
【解決手段】酸化物半導体微粒子により構成されている多孔体からなるガス検出部分を少なくとも二つ備え、その一つは特定可燃性ガス成分をガス検出部分に到達させないための触媒層を有し、もう一つは前記触媒層を有さず、前記特定可燃性ガス成分以外のガスに対する前記触媒層を有するガス検出部分の電気抵抗値と前記触媒層を有しないガス検出部分の電気抵抗値とがほぼ相殺されるようにこれらのガス検出部分を接続する電気回路を備えたガスセンサ。
【効果】大気中の一酸化炭素や炭化水素の濃度を高精度に検出できる新しいタイプのガスセンサを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の一酸化炭素や炭化水素の濃度を検出するガスセンサに関するものであり、更に詳しくは、高温で使用可能で、高速応答性を有し、ガス検出部分の抵抗値の経時変化を相殺できる、高性能で、応答速度に優れ、高温耐久性のある一酸化炭素センサ等に関するものである。本発明は、従来のガスセンサにおける問題点である、応答速度が十分でない、高温(300℃)以上での使用が不可能である、作製コストが大きくなる、及び抵抗値の経時変化を相殺できない、等の課題を確実に解決することが可能な新しいガスセンサ、特に、高性能の一酸化炭素ガスセンサを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
大気中の一酸化炭素は、例えば、CO濃度が1.28%であれば、1分から3分で人は死亡するといわれている。このため、応答速度に優れたCOセンサの開発が強く必要とされている。また、センサとしては、一般的に、高速応答性のものが必要とされている。一般的に、市場に出ている定電位電解方式の可燃性ガスセンサでは、応答時間は30秒程度かかるため、応答速度が十分とはいい難い。また、この方式のセンサは、作動温度が40℃までであり、高温(300℃以上)での使用は不可能である。
【0003】
半導体式センサでは、一般的に、応答時間が遅く、また、作動温度も比較的低く、高温での使用は難しい。例えば、先行技術文献(特許文献1)で開示されている技術は、半導体ガスセンサに関するものであるが、該センサに使われている材料はSnOやZnOである。この種のセンサでは、雰囲気に可燃性ガスが現れた場合、これらの材料の表面に吸着した酸素分子と可燃性ガスとが反応し、吸着した酸素に捕獲されていた電子が移動できるようになり、抵抗が下がるというメカニズムで作動している。よって、これらの材料は、酸素センサ用の材料としては使うことができず、専ら可燃性ガスセンサ用として用いられている。
【0004】
また、先行技術文献(特許文献2)で開示されている技術は、半導体式センサに関するものであるが、この種のセンサでは、ガス検出材に2種類のp型半導体を用いているため、ガス検出材の作製プロセスが1種類の場合の2倍必要であり、そのため、作製コストが大きくなるという問題点があった。また、2種類の材料の抵抗の経時変化も異なることが予想されるため、経時変化を相殺することができない。混成電位型のセンサは、高温での使用が可能であるが、応答時間が90秒であり、応答性に問題を有する(特許文献3)。
【0005】
また、2つのガス検出材が同一である半導体式センサが開示されているが(特許文献4、特許文献5)、この種のセンサでは、これらのガス検出材の双方に触媒層が載せられており、検出したい特定可燃性ガスが触媒層を通らないとガス検出材に到達することができず、ガスが触媒層を通るための時間が必要であり、その分、応答時間が大きくなるということが予想される。
【0006】
【特許文献1】特開平7−209234号公報
【特許文献2】特開平7−140100号公報
【特許文献3】特開2001−4589号公報
【特許文献4】特開昭62−126341号公報
【特許文献5】特開平9−269307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術の有する諸問題を解決することができると共に、特に、高温(300℃以上)で耐性を有する新しいタイプの一酸化炭素センサを開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、酸素濃度変化に対して高速に応答する酸化物半導体微粒子により構成されている多孔体をガス検出部分として用いること、そして、触媒層を設けたガス検出部分と触媒層を設けないガス検出部分を組み合わせて特定ガス以外の反応を相殺することにより所期の目的を達成することができることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、高速応答酸素センサを発展させたものであり、上記酸化物半導体微粒子により構成されている多孔体は、酸素センサに使用されているものと同一のものを使用し、高温で使用可能で、高速応答特性を有し、かつ同材料のガス検出部分を二つ用いることより、作製コストを小さくし、ガス検出部分の抵抗値の経時変化を相殺できるガスセンサ、特に、一酸化炭素センサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)酸素センサ素子として使用可能である酸化物半導体微粒子により構成されている多孔体からなるガス検出部分を少なくとも二つ備え、その一つは特定可燃性ガス成分をガス検出部分に到達させないための触媒層を有し、もう一つは前記触媒層を有さず、前記特定可燃性ガス成分以外のガスに対する前記触媒層を有するガス検出部分の電気抵抗値と前記触媒層を有しないガス検出部分の電気抵抗値とがほぼ相殺されるようにこれらのガス検出部分を接続する電気回路を備えたことを特徴とするガスセンサ。
(2)前記触媒層を有しないガス検出部分における酸素濃度変化に対する90%応答時間が1秒以内である、前記(1)に記載のガスセンサ。
(3)前記酸化物半導体微粒子が、n型の半導体であり、その抵抗値は、酸素分圧の1/n乗(nは4以上)に比例するものである、前記(1)に記載のガスセンサ。
(4)前記酸化物半導体微粒子の平均粒径が、10nmから200nmである、前記(1)に記載のガスセンサ。
(5)前記触媒層を有するガス検出部分と前記触媒層を有しないガス検出部分の主成分が、同一である、前記(1)に記載のガスセンサ。
(6)前記触媒層を有するガス検出部分と前記触媒層を有しないガス検出部分の主成分が、酸化セリウムである、前記(1)に記載のガスセンサ。
(7)前記触媒層を有するガス検出部分と前記触媒層を有しないガス検出部分の副成分が、酸化ジルコニウム又は酸化ハフニウムある、前記(6)に記載のガスセンサ。
(8)前記特定可燃性ガス成分の濃度変化に対する90%応答時間が8秒以内又は特定可燃性ガス成分の濃度変化に対する66%応答時間が2秒以内である、前記(1)に記載のガスセンサ。
(9)前記特定可燃性ガス成分が、一酸化炭素である、前記(1)に記載のガスセンサ。
(10)前記触媒層に貴金属が含まれる、前記(1)に記載のガスセンサ。
(11)前記触媒層が、アルミナ多孔体に白金を担持させた触媒層である、前記(10)に記載のガスセンサ。
(12)前記電気回路が、前記触媒層を有するガス検出部分と前記触媒層を有しないガス検出部分とを直列接続する回路を含み、この回路に電圧を印加して前記ガス検出部分の少なくとも一つの分圧を測定する手段を備えた、前記(1)に記載のガスセンサ。
【0010】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、酸素センサ素子として使用可能である酸化物半導体微粒子により構成されている多孔体からなるガス検出部分を少なくとも二つ備え、その一つは特定可燃性ガス成分をガス検出部分に到達させないための触媒層を有し、もう一つは前記触媒層を有さず、前記特定可燃性ガス成分以外のガスに対する前記触媒層を有するガス検出部分の電気抵抗値と前記触媒層を有しないガス検出部分の電気抵抗値とがほぼ相殺されるようにこれらのガス検出部分を接続する電気回路を備えたことを特徴とするものである。
【0011】
本発明者らは、これまで、高速応答特性を有する抵抗型酸素センサの開発を行ってきたが、その中で、例えば、センサの作動温度が600℃で数百ミリ秒の応答時間(90%応答時間)である高速応答な酸素センサを開発した。これは、酸化セリウムの粒子や結晶子をナノサイズ化することにより高速応答化を実現できたものである(特開2003−149189号公報)。このように、上記酸素センサは、酸素分圧の変化に対して非常に応答が速い酸素センサである。本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、上記酸素センサのガス検出材と触媒層を融合させることにより、COに対して応答することを見出し、本発明に至り、また、本発明では、酸素分圧変化に対して応答しない技術を付加することを可能とした。
【0012】
本発明では、ガス検出部分が酸化物半導体微粒子により構成されている多孔体からなる抵抗型酸素センサを使って、一酸化炭素ガスセンサを構築した。抵抗型酸素センサのガス検出部分の抵抗Rは、酸素分圧Pと次式の関係式がある。
R=AP1/n
ここで、Aは定数、nは4以上の定数である。
【0013】
そのガス検出部分を少なくとも二つ備え、一つは可燃性ガス成分をガス検出部分に到達させないための触媒層を載せたもの(前記触媒層を設けたガス検出部分)であり、もう一つは、可燃性ガス成分を燃焼させることなくガス検出部分に到達させ、ガス検出部分において燃焼反応させるもの(前記触媒層を設けないガス検出部分)である。これらの2つのガス検出部分の酸化物半導体材料は、同一であることが可能である。前記触媒層を設けないガス検出部分では、可燃性ガス成分がすぐにガス検出部分に到達でき、それにより、応答時間を短縮させることができる。
【0014】
本発明のガスセンサにおけるガス検出部分は、酸化物半導体微粒子により構成された多孔体であって、酸化物半導体微粒子の平均粒径を200nm以下、より好ましくは10〜200nmまで小さくすることを特徴とするものである。ここで、多孔体とは、緻密体ではなく、多くの気孔を含んだ組織のものを意味する。また、多孔体に含まれる微粒子同士は、ネックにより結合していることが好ましい。更に、微粒子としては、複数の結晶子が含まれる場合がある。
【0015】
本発明においては、上記酸化物半導体としては、例えば、酸素空孔の拡散係数が大きい酸化セリウムあるいは酸化セリウムを含む複合酸化物が好ましいものとして例示される。更に、上記酸化セリウムを含む複合酸化物としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化ハフニウムの内の1種以上と酸化セリウムとの複合体が例示される。しかし、本発明において、酸化物半導体は、これらに限定されるものではなく、これらと同等もしくは類似であって同効のものであれば同様に使用することができる。
【0016】
上記平均粒径を有する酸化物半導体微粒子としては、好適には、例えば、噴霧熱分解法、スプレードライ法、沈澱法などの製造方法により製造されたものが例示されるが、これらに限定されるものではない。そして、その形状としては、例えば、球状に近いものが好適なものとして例示される。
【0017】
本発明のガスセンサにおけるガス検出部分の製造方法を説明すると、例えば、厚膜の場合、上記平均粒径の酸化物半導体微粒子と、ビヒクル、スキージオイル等の有機溶媒を混合し、ペーストを作製し、このペーストを基板上に印刷する。この場合、基板としては、好適には、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、石英などが使用されるが、特にこれらに制限されるものではない。印刷方法としては、好適には、例えば、スクリーン印刷法が用いられる。しかし、これに制限されるものではない。
【0018】
次に、これを空気中で400〜600℃で加熱して、有機溶媒を除去し、次いで、好適には、例えば、空気中で500〜1200℃で焼成して多孔体とする。得られる多孔体は、上記平均粒径を有する酸化物半導体微粒子により構成される。次いで、上記多孔体の両端にPt、Pdなどの貴金属の電極を設け、ガス検出部分を作製する。ガスセンサの酸素濃度検出部分を構成する多孔体の形態としては、好適には、例えば、厚膜、薄膜、バルク体が例示されるが、これらに制限されるものではない。また、感度を増すために、例えば、ガス検出部分には貴金属粒子を担持させることも可能である。
【0019】
前記触媒層を設けたガス検出部分では、可燃性ガス成分をガス検出部分から離れた部分で燃焼させ、燃焼後のガスを検出部分に到達させる必要があり、このため、ガス検出部分の上層に触媒層が必要である。この触媒層としては、好適には、例えば、アルミナなどのセラミックスにPtやPdなどの貴金属を担持させたものが例示される。触媒層の作製方法は任意であり、例えば、アルミナの微粒子を塩化白金水溶液に含浸させ、乾燥、焼成させることにより、Ptが担持したアルミナ粉末を得ることができる。
【0020】
この触媒層が特定ガスのみを燃焼することができれば、特定ガス以外との選択性が生じる。つまり、センサは特定ガスしか応答しない。この触媒層として、例えば、アルミナ多孔体に白金40wt%を担持させたものは、後記する実施例6で示すように、COに対する応答の向きとHに対する応答の向きが異なることから、両者のガスを識別可能と考えられ、好ましい触媒層の1つの形態として例示される。
【0021】
次に、これを有機溶媒などと混ぜることによりペースト化し、スクリーン印刷法や、ディップコーティング法などでガス検出部分の上層部分として塗布させ、焼成することにより、触媒層が得られる。2つのガス検出部分(前記触媒層を設けたガス検出部分と前記触媒層を設けないガス検出部分)や基板は、高温耐久性を有する。二つのガス検出部分(前記触媒層を設けたガス検出部分と前記触媒層を設けないガス検出部分)からの信号の処理の仕方は、様々であり任意に設計することができる。
【0022】
例えば、図1に示すように、前記触媒層を設けたガス検出部分と前記触媒層を設けないガス検出部分を電気的に直列につなぎ、それらに一定電圧を負荷させる。このときの前記触媒層を設けたガス検出部分あるいは前記触媒層を設けないガス検出部分の電圧を測ることにより、可燃性ガスの応答を検知する方法が例示される。これにより、単なる酸素濃度変化はキャンセルすることができる。また、図2に示すように、減算回路を組み合わせる方法も例示される。図2に示した減算回路は、本発明の好適な一例を示すものであり、この回路に限定されるものではない。
【0023】
本発明においては、前記触媒層を設けないガス検出部分における酸素濃度変化に対する90%応答時間は、1秒以下であることが好ましい。また、特定可燃性ガス成分の濃度変化に対する90%応答時間が8秒以内又は特定可燃性ガス成分の濃度変化に対する66%応答時間が2秒以内であることが好ましい。また、本発明では、前記酸化物半導体微粒子は、n型の半導体であり、その抵抗値は、酸素分圧の1/n乗(nは4以上)に比例するものであることが好ましい。また、前記触媒層を有するガス検出部分と前記触媒層を有しないガス検出部分の主成分は、同一であることが可能であり、例えば、酸化セリウムであることが好ましい。また、それらの副成分は、例えば、酸化ジルコニウム又は酸化ハフニウムであることが好ましい。
【0024】
また、本発明において、前記特定可燃性ガス成分とは、一酸化炭素、メタン、プロパンなどの炭化水素ガス、水素などあるいはそれらを含むガス成分を意味する。また、前記触媒層に、貴金属、例えば、Pd、Ptが含まれること、前記電気回路は、前記触媒層を有するガス検出部分と前記触媒層を有しないガス検出部分とを直列接続する回路を含み、この回路に電圧を印加して前記のガス検出部分の少なくとも一つの分圧を測定する手段を具備していることが好ましい。
【0025】
従来のガスセンサでは、例えば、応答速度が十分ではない、高温(300℃以上)では使用できない、作製コストが高い、抵抗値の経時変化を相殺することができない、高性能の一酸化炭素センサがない等の問題点があった。これに対し、本発明では、高温(300℃以上)で使用可能であり、作製コストが低く、ガス検出部分の抵抗値の経時変化を相殺でき、高速応答特性を示し、特に、高性能の一酸化炭素センサとして有用な新しいタイプのガスセンサを提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)触媒層を設けたガス検出部分と触媒層を設けないガス検出部分を組み合わせることで、特定ガス以外の反応を相殺できるガスセンサを構築し、提供することができる。
(2)酸化物半導体微粒子を用いることにより、応答速度に優れたセンサを得ることができる。
(3)ガス検出部分に使う酸化物半導体は1種類でよいため、作製コストを小さくでき、実用化技術として有用である。
(4)センサ素子部は高温で使用可能であり、高温耐久性を有するセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
本実施例では、沈殿法により得られた10mol%酸化ジルコニウムが添加された酸化セリウム微粒子からなる粉末を原料として用いた。この沈殿法での粉末の作製方法を説明すると、まず、硝酸セリウム水溶液とオキシ硝酸ジルコニウム水溶液を作製し、CeイオンとZrイオンの比が9:1になるように両水溶液を混合した。次に、アンモニア水を加えると、沈殿物が生成した。その沈殿物とカーボンとを混合し、空気中において900から950℃で4時間加熱して、粉末を得た。原料の粒径は10nmから50nmであった。
【0029】
次に、この原料粉末に対して、溶媒となるエタノールを加えた。次いで、超音波ホモジナイザーにより、分散させた。沈殿した粉末は除去した。次に、酸化物を含んだエタノールを、スターラーで撹拌しながら、エタノールを揮発させた。その後、有機バインダーであるビヒクルを加えた。ビヒクルとして、エチルセルロースとテルピネオールの混合物を使用した。こうして、酸化物と有機バインダーとの混合物からなるペーストが得られた。次に、このペーストをスクリーン印刷によりアルミナ基板上に印刷した。その後、印刷したものを空気中500℃で5時間仮焼し、続いて、空気中1100℃で2時間焼成を行い、ガス検出部分を得た。
【0030】
前記触媒層を設けたガス検出部分は、以下の手順で作製した。まず、アルミナ粉末とビヒクルを混合したアルミナペーストを作製し、それを上記ガス検出部分の一方のみにスクリーン印刷により製膜した。次に、150℃で乾燥後、白金ターゲットのスパッタにより、アルミナ膜上のみに白金を設けた。この操作を3回繰り返し、その後、1000℃で焼成し、触媒層とした。
【0031】
図1に示すように、電気回路を作り、空気から空気+1%COガスに変更したときの、Voutを測定した。なお、この実験では、一定電圧を1Vとした。また、触媒層付ガス検出部分と触媒層なしガス検出部分のそれぞれの抵抗も同時に測定した。その結果を図3に示す。作動温度は500℃であった。空気+1%COガスが導入されると瞬時にVoutが変化した。触媒層付ガス検出部分の抵抗はほとんど変化しなかったが、触媒層なしガス検出部分の抵抗は大きく変化し、値は小さくなった。
【0032】
このことから、触媒層において、COが燃焼され、触媒層を設けたガス検出部分にCOガスが到達していないと推察された。また、触媒層なしガス検出部分では、
次式で示す反応が生じていると推察された。
CO+1/2O→CO
=1/2O+V・・+2e’
【0033】
ここで、Oは酸化セリウムの酸化物イオンであり、V・・は酸素空孔、e’は電子である。COが酸化セリウム直上で酸素と反応し、局所的に酸素分圧が減少する。このため、二つ目の化学平衡式が右側にシフトする。このことにより、酸化セリウムでの電子濃度が増え、抵抗が下がったと考えられる。
【実施例2】
【0034】
実施例1で作製したガスセンサの酸素ガスに対する応答を調べた結果を図4に示す。酸素濃度を変えると、触媒層付ガス検出部分及び触媒層なしガス検出部分は、同程度抵抗が変化した。しかしながら、図1に示すような電気回路でのセンサ出力Voutは、酸素濃度を2桁変えてもほとんど変化せず、酸素ガスに対しては、センサ出力としては応答しないことが実証された。
【実施例3】
【0035】
前述の通り、触媒層なしのガス検出部分での抵抗変化は、酸素分圧変化に起因している。従って、酸素分圧変化に対して抵抗変化が速ければ、COに対する応答も速いことが期待される。そこで、実施例1で作製した触媒層なしのガス検出部分の酸素分圧変化に対する抵抗変化の応答時間を調べた。
【0036】
図5に、600℃での急激な酸素分圧変化に対する触媒層なしガス検出部分の抵抗変化を示す。非常に速い応答を示した。90%応答時間t90を表1にまとめた。この表の値を、logt90=a/(T+273)+bにフィティングさせて、500℃での応答時間を見積もると0.4秒であり、非常に速いことが予想された。
【0037】
【表1】

【実施例4】
【0038】
次に、COに対する応答時間を以下の方法で求めた。10cm×10cm×5cmほどの上面が開放されている小箱の中に、実施例1で作製した触媒層なしのガス検出部分を取り付けた。小箱の上面に薄い膜を張り、小箱の内を密閉状態にした。次に、小箱を30Lの箱に入れ、箱も密閉状態にした。COガス濃度が5000ppmになるように箱の中に導入した。このとき、小箱内は密閉されているため、COガス濃度は0である。次に、小箱の膜を破り、ガス検出部分の雰囲気を5000ppmCOとした。このときの、ガス検出部分の抵抗変化を図6に示す。ガス検出部分の温度は450℃に設定した。
【0039】
COガス濃度が導入されてすぐに抵抗が減少した。90%応答時間は8秒、66%応答時間は2秒であった。このことから、触媒層なしのガス検出部分はCOに対して非常に速い応答を示すことがわかった。理想的には触媒層付ガス検出部分はCOに対して応答しないため、センサの応答時間は、触媒層なしのガス検出部分の抵抗変化時間と同じと考えてよく、本発明で得られるセンサはCOに対して非常に速い応答速度を有することが示された。
【実施例5】
【0040】
本実施例では、実施例1と同じ方法でガス検出部分を作製し、触媒層として、アルミナ多孔体に白金40wt%を担持させたものを用いた。センサの回路は、図1に示したものを用いた。このとき、図1の一定電圧Vの値として、1Vに設定した。COが加えられていない空気中でのセンサ出力Voutを、V(air)とし、COが添加された空気中でのセンサ出力Voutを、V(CO)とし、V(air)/V(CO)を感度として求めた。その結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
330ppmにおいて、出力の変化は400、450、500℃において、それぞれ12、6、3%であるから、330ppmでは十分な感度を有することが分かった。消防隊や救急隊の隊員が持つCOセンサとしては、1000ppm程度の感度があれば十分と言われており、本発明で得られるセンサは、この用途として十分使えることが示された。
【0043】
住宅用の不完全燃焼警報器では、50ppm以上で警報が出力されるように設定されている。このことから、上記のデータをもとに50ppmでの感度を外挿により求めてみると、400、450、500℃で、V(air)/V(CO)は、それぞれ1.118、1.060、1.024となる。感度の小さい500℃でも2%ほどの変化があることから、住宅用の不完全燃焼警報器としても十分使用可能であることが示された。
【実施例6】
【0044】
実施例5で使用したセンサの400℃におけるHに対する感度を調べた結果を表3に示す。ここで、Hが添加された空気中でのセンサ出力Voutを、V(H)とした。
【0045】
【表3】

【0046】
表3に示したように、COに対する応答の向きと、Hに対する応答の向きが異なることが明らかとなった。このことから、触媒層として、アルミナ多孔体に白金40wt%を担持させたものを使用した場合、COであるかHであるかを識別できる可能性があることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上詳述したように、本発明は、大気中の一酸化炭素や炭化水素の濃度を検出するガスセンサに係るものであり、本発明により、特定ガス以外の反応を相殺できるガスセンサを提供することができる。また、本発明により、高温で使用可能で、高速応答性を有し、かつ同材料のガス検出部分を二つ用いることで、作製コストを小さくし、ガス検出部分の抵抗値の経時変化を相殺できるガスセンサ、特に、一酸化炭素センサを提供することができる。本発明は、酸化物半導体微粒子を用いることにより、センサ素子部は高温で使用可能であり、高温耐久性を有するセンサを提供することを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】信号の処理の仕方の一例を示す。
【図2】信号の処理の仕方の他の例を示す。
【図3】測定結果の例を示す。
【図4】酸素ガスに対する応答を示す。
【図5】酸素分圧に対する触媒層なしのガス検出部分の抵抗変化を示す。
【図6】COガス濃度変化に対する触媒層なしのガス検出部分の抵抗変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素センサ素子として使用可能である酸化物半導体微粒子により構成されている多孔体からなるガス検出部分を少なくとも二つ備え、その一つは特定可燃性ガス成分をガス検出部分に到達させないための触媒層を有し、もう一つは前記触媒層を有さず、前記特定可燃性ガス成分以外のガスに対する前記触媒層を有するガス検出部分の電気抵抗値と前記触媒層を有しないガス検出部分の電気抵抗値とがほぼ相殺されるようにこれらのガス検出部分を接続する電気回路を備えたことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記触媒層を有しないガス検出部分における酸素濃度変化に対する90%応答時間が1秒以内である、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記酸化物半導体微粒子が、n型の半導体であり、その抵抗値は、酸素分圧の1/n乗(nは4以上)に比例するものである、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記酸化物半導体微粒子の平均粒径が、10nmから200nmである、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記触媒層を有するガス検出部分と前記触媒層を有しないガス検出部分の主成分が、同一である、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記触媒層を有するガス検出部分と前記触媒層を有しないガス検出部分の主成分が、酸化セリウムである、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記触媒層を有するガス検出部分と前記触媒層を有しないガス検出部分の副成分が、酸化ジルコニウム又は酸化ハフニウムある、請求項6に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記特定可燃性ガス成分の濃度変化に対する90%応答時間が8秒以内又は特定可燃性ガス成分の濃度変化に対する66%応答時間が2秒以内である、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項9】
前記特定可燃性ガス成分が、一酸化炭素である、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項10】
前記触媒層に貴金属が含まれる、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項11】
前記触媒層が、アルミナ多孔体に白金を担持させた触媒層である、請求項10に記載のガスセンサ。
【請求項12】
前記電気回路が、前記触媒層を有するガス検出部分と前記触媒層を有しないガス検出部分とを直列接続する回路を含み、この回路に電圧を印加して前記ガス検出部分の少なくとも一つの分圧を測定する手段を備えた、請求項1に記載のガスセンサ。


【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−17426(P2007−17426A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113066(P2006−113066)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】