説明

射出成形機及び電源コンバータの制御装置

【課題】 エネルギ効率の良い態様でモータ回生時にDCリンクの充電を行うことが可能な射出成形機等の提供。
【解決手段】 所定の成形サイクルで成形を行うために電源からの電力を変換してDCリンクを介してモータ11,24,42,44に供給する電源コンバータ100を制御する制御装置26を備えた射出成形機1であって、前記電源コンバータは、前記モータの回生電力を前記電源に回生するように動作する回生用回路部を有し、前記制御装置は、前記成形サイクルにおける前記モータの力行及び回生の電力パターンに基づいて前記回生用回路部の出力上限Psを設定する回生出力上限設定部263を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の成形サイクルで成形を行うために電源からの電力を変換してDCリンクを介してモータに供給する電源コンバータを制御する制御装置を備えた射出成形機及び電源コンバータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の電源コンバータ自体は知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示される構成では、DCリンクが所定の上限電圧を超えるときに、電源コンバータが電源回生を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−54947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の電源コンバータは、一般的に、モータ回生時に最大出力で運転する。かかる場合、モータ回生時にDCリンクに十分な電荷(エネルギ)が溜まらない場合があり得、エネルギ効率が悪くなり得るという問題点がある。
【0005】
そこで、本発明は、エネルギ効率の良い態様でモータ回生時にDCリンクの充電を行うことが可能な射出成形機及び電源コンバータの制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一局面によれば、所定の成形サイクルで形成を行うために電源からの電力を変換してDCリンクを介してモータに供給する電源コンバータを制御する制御装置を備えた射出成形機であって、
前記電源コンバータは、前記モータの回生電力を前記電源に回生するように動作する回生用回路部を有し、
前記制御装置は、前記成形サイクルにおける前記モータの力行及び回生の電力パターンに基づいて前記回生用回路部の出力上限を設定する回生出力上限設定部を有することを特徴とする、射出成形機が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エネルギ効率の良い態様でモータ回生時にDCリンクの充電を行うことが可能な射出成形機及び電源コンバータの制御装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例の電源コンバータが適用されてもよい射出成形機1の一例の要部構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施例による電源コンバータ100を含むモータ駆動用電源回路の一例を概略的に示す図である。
【図3】電源コンバータ100の回路構成の一例を示す図である。
【図4】コントローラ26の機能ブロック図である。
【図5】本実施例による電源コンバータ100の制御方法を示す図である。
【図6】図5に示す制御処理により実現される各種波形を示す図である。
【図7】比較例1による同波形(図6に対応する波形)を示す図である。
【図8】比較例2による同波形(図6に対応する波形)を示す図である。
【図9】本実施例による電源コンバータ100の制御方法のその他の一例を示すフローチャートである。
【図10】図9に示す制御処理により実現される各種波形を示す図である。
【図11】代替実施例により実現される各種波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0010】
図1は、本発明の一実施例の電源コンバータが適用されてもよい射出成形機1の一例の要部構成を示す図である。
【0011】
射出成形機1は、本例では電動式射出成形機であり、射出用のサーボモータ11を備える。射出用のサーボモータ11の回転はボールネジ12に伝えられる。ボールネジ12の回転により前後進するナット13はプレッシャプレート14に固定されている。プレッシャプレート14は、ベースフレーム(図示せず)に固定されたガイドバー15、16に沿って移動可能である。プレッシャプレート14の前後進運動は、ベアリング17、ロードセル18、射出軸19を介してスクリュ20に伝えられる。スクリュ20は、加熱シリンダ21内に回転可能に、しかも軸方向に移動可能に配置されている。加熱シリンダ21におけるスクリュ20の後部には、樹脂供給用のホッパ22が設けられている。射出軸19には、ベルトやプーリ等の連結部材23を介してスクリュ回転用のサーボモータ24の回転運動が伝達される。すなわち、スクリュ回転用のサーボモータ24により射出軸19が回転駆動されることにより、スクリュ20が回転する。
【0012】
可塑化/計量工程においては、加熱シリンダ21の中をスクリュ20が回転しながら後退することにより、スクリュ20の前部、すなわち加熱シリンダ21のノズル21−1側に溶融樹脂が貯えられる。射出工程においては、スクリュ20の前方に貯えられた溶融樹脂を金型内に充填し、加圧することにより成形が行われる。この時、樹脂を押す力がロードセル18により反力として検出される。つまり、スクリュ前部における樹脂圧力が検出される。検出された圧力は、ロードセル増幅器25により増幅され、制御手段として機能するコントローラ26(制御装置)に入力される。また、保圧工程では、金型内に充填した樹脂が所定の圧力に保たれる。
【0013】
プレッシャプレート14には、スクリュ20の移動量を検出するための位置検出器27が取り付けられている。位置検出器27の検出信号は増幅器28により増幅されてコントローラ26に入力される。この検出信号は、スクリュ20の移動速度を検出するためにも使用されてもよい。
【0014】
サーボモータ11、24にはそれぞれ、回転数を検出するためのエンコーダ31、32が備えられている。エンコーダ31、32で検出された回転数はそれぞれコントローラ26に入力される。
【0015】
サーボモータ42は、型開閉用のサーボモータであり、サーボモータ44は、成形品突出し(エジェクタ)用のサーボモータである。サーボモータ42は、例えばトグルリンク(図示せず)を駆動して型開閉を実現する。また、サーボモータ44は、例えばボールネジ機構を介してエジェクタロッド(図示せず)を移動させることで成形品突出しを実現する。サーボモータ42、44にはそれぞれ、回転数を検出するためのエンコーダ43、45が備えられている。エンコーダ43、45で検出された回転数はそれぞれコントローラ26に入力される。
【0016】
コントローラ26は、マイクロコンピュータを中心に構成されており、例えば、CPU、制御プログラム等を格納するROM、演算結果等を格納する読書き可能なRAM、タイマ、カウンタ、入力インターフェイス、及び出力インターフェイス等を有する。
【0017】
コントローラ26は、複数の各工程に応じた電流(トルク)指令をサーボモータ11,24,42,44に送る。例えば、コントローラ26は、サーボモータ24の回転数を制御して可塑化/計量工程を実現する。また、コントローラ26は、サーボモータ11の回転数を制御して射出工程及び保圧工程を実現する。同様に、コントローラ26は、サーボモータ42の回転数を制御して型開工程及び型閉工程を実現する。コントローラ26は、サーボモータ44の回転数を制御して成形品突出し工程を実現する。
【0018】
ユーザインターフェース35は、型開閉工程、射出工程等の各成形工程のそれぞれに対して、成形条件を設定可能な入力設定部を備える。また、ユーザインターフェース35は、後述の消費電力算出のために、型開閉工程、射出工程等の各成形工程のそれぞれに対して成形条件を入力する入力部を備える。その他、ユーザインターフェース35は、ユーザからの各種指示を入力する入力部を備えると共に、ユーザに対して各種情報を出力する出力部(例えば表示部)を備える。
【0019】
射出成形機1における射出成形の1サイクルは、典型的には、金型を閉じる型閉工程と、金型を締め付ける型締め工程と、金型のスプル(図示せず)にノズル21−1を押しつけるノズルタッチ工程と、加熱シリンダ21内のスクリュ20を前進させて、スクリュ20前方に溜まった溶融材料を金型キャビティ(図示せず)内に射出する射出工程と、その後、気泡、ヒケの発生を抑制するために保持圧力をしばらくかける保圧工程と、金型キャビティ内に充填された溶融材料が冷却されて固まるまでの間の時間に次のサイクルのために、スクリュ20を回転させて、樹脂を溶融しながら加熱シリンダ21の前方にため込む可塑化/計量工程と、固化された成形品を金型から取り出すために、金型を開く型開工程と、成形品を金型に設けられた突出しピン(図示せず)によって押し出す成形品突出し工程とからなる。
【0020】
図2は、本発明の一実施例による電源コンバータ100を含むモータ駆動用電源回路の一例を概略的に示す図である。図2では、一例として、射出用のサーボモータ11が示される。他のサーボモータ24,42,44についても同様であってよい。代替実施例では、電源コンバータ100には、複数のサーボモータ11,24,42,44が接続されてもよい。
【0021】
電源コンバータ100は、電源200に接続される。電源200は、交流電源であってよい。また、電源コンバータ100は、サーボモータ11にDCリンク300を介して接続される。電源コンバータ100は、電源200からの電力を変換してDCリンク300を介してサーボモータ11に供給する。尚、一般的には、電源コンバータ100は、サーボモータ11にDCリンク300及びインバータ(図示せず)を介して接続される。インバータは、電源コンバータ100の出力(直流電力)を3相交流電力に変換してもよい。インバータは、例えば6個のパワートランジスタで構成される3相ブリッジ回路を含んでよい。DCリンク300は、コンデンサ(キャパシタ)、バスバー、ケーブル等から構成される。
【0022】
電圧検出部190は、DCリンク300の両極間電圧を検出するように設けられる。電圧検出部190により検出される電圧は、コントローラ26に供給される(図4参照)。
【0023】
図3は、電源コンバータ100の回路構成の一例を示す図である。図3に示す例では、電源コンバータ100は、交流電源に接続される端子R,S,Tと、DCリンク300に接続される端子P,Nを備える。電源コンバータ100は、6個のダイオードで構成される整流器(力行用回路部)102と、6個のトランジスタで構成されるブリッジ回路(回生用回路部)104とを備える。尚、図3には、力行時の電力の流れと回生時の電力の流れが矢印にて示される。
【0024】
尚、電源コンバータ100は、回生性能を有するものであれば、任意の構成であってよい。例えば、電源コンバータ100は、特許文献1に開示されるような力行と回生とを共通のブリッジ回路で実現する構成(即ち回生用回路部と力行用回路部とが共通の回路部で実現される構成)であってもよい。
【0025】
図4は、電源コンバータ100の制御装置として機能するコントローラ26の機能ブロック図である。尚、電源コンバータ100の制御装置は、コントローラ26とは別の制御装置により実現されてもよい。
【0026】
コントローラ26は、電源コンバータ制御部261と、維持エネルギ設定部262と、回生出力上限設定部263と、充電目標エネルギ設定部264とを含む。コントローラ26は、一又は二以上の演算処理装置、及びソフトウェア(プログラム)やデータ等を格納するためのRAMやROM等の記憶媒体等を備えて構成されている。そして、コントローラ26の各機能部261,262,263,264は、前記演算処理装置を中核部材として、入力されたデータに対して種々の処理を行うための機能部がハードウェア又はソフトウェア或いはその両方により実装されて構成されている。各機能部261,262,263,264の機能については、図5等を参照して説明する。
【0027】
図5は、本実施例による電源コンバータ100の制御方法の一例を示すフローチャートである。図5に示す制御処理は、コントローラ26により実現される。図5に示す制御処理は、サーボモータ11の回生時(サーボモータ11の場合は、例えば射出減速時)に関連して実行される。
【0028】
ステップ400では、充電目標エネルギ設定部264は、今回のサーボモータ11の回生終了時(力行開始時)における目標DCリンクエネルギを設定する。目標DCリンクエネルギは、DCリンク300に溜められるべきエネルギの目標値である。尚、DCリンクエネルギとは、DCリンク300に溜められたエネルギであり、DCリンク300の容量をCと、両極間電圧をVとすると、(1/2)CVで表される。目標DCリンクエネルギは、DCリンク300に蓄積可能な最大のエネルギに対応してよい。例えば、目標DCリンクエネルギは、DCリンク300を安全に使用するエネルギ限界に所定の余裕を持たせた値であってよい。或いは、目標DCリンクエネルギは、次回の力行で使用されるエネルギ(サーボモータ11で消費される電力)に対応してもよい。尚、目標DCリンクエネルギは、例えばユーザインターフェース35を介して適切な値がユーザにより設定されてもよい。
【0029】
ステップ401では、回生出力上限設定部263は、電源コンバータ100の出力上限Psを設定する。出力上限Psは、例えばユーザインターフェース35を介して適切な値がユーザにより設定されてもよい。或いは、後述の如く、出力上限Psは、前回のサーボモータ11の回生時の制御結果に基づいて設定されてもよい。尚、出力上限Psは、当然ながら、電源コンバータ100の装置限界(最大値)Ps1以下の値である。
【0030】
ステップ402では、維持エネルギ設定部262は、第1維持エネルギEc1を設定する。第1維持エネルギEc1は、今回のサーボモータ11の回生開始直前のDCリンクエネルギに対応してよい。実際には、力行用回路部102の無駄な動作を防ぐため、第1維持エネルギEc1は高い目に設定するのが望ましい。今回のサーボモータ11の回生開始直前のDCリンクエネルギは、今回のサーボモータ11の回生開始直前の電圧検出部190の検出電圧に基づいて判断されてもよい。但し、第1維持エネルギEc1は、厳密に回生開始直前のDCリンクエネルギである必要はなく、例えば今回のサーボモータ11の回生開始前の力行中のDCリンクエネルギに対応してもよい。また、回生開始直前のDCリンクエネルギが毎回略一定である場合は、当該一定値が固定値として設定されてもよい。
【0031】
ステップ404では、電源コンバータ制御部261は、上記ステップ401で設定された出力上限Psと、上記ステップ402で設定された第1維持エネルギEc1に基づいて、電源コンバータ100の出力を制御する。具体的には、電源コンバータ100の出力が出力上限Psを超えない範囲で、DCリンクエネルギが第1維持エネルギEc1を維持するように、電源コンバータ100の出力(回生用回路部104の出力)が制御される。尚、電源コンバータ100の出力は、各トランジスタ(例えば図3に示す例では、回生用回路部104の各トランジスタ)のスイッチング時間(デューティ)を操作することにより制御される。ステップ404では、DCリンクエネルギが第1維持エネルギEc1(≒回生開始直前のDCリンクエネルギ)を維持するように、電源コンバータ100の出力が制御されるので、サーボモータ11からの回生エネルギが出力上限Psに達しない限り(図6のt2参照)、サーボモータ11からの回生エネルギは実質的に全て電源200へと向けられる。尚、サーボモータ11からの回生エネルギが出力上限Psを超えると、余剰分がDCリンク300に溜まり、DCリンクエネルギが増加する。
【0032】
ステップ406では、維持エネルギ設定部262は、上記ステップ404の制御中、電圧検出部190の検出電圧を監視し、DCリンクエネルギが減少したか否かを判断する。換言すると、ステップ406では、サーボモータ11からの回生エネルギが電源コンバータ100の出力上限Psを下回り始めるタイミング(図6のt4参照)が検出される。DCリンクエネルギが減少した場合には、ステップ408に進み、DCリンクエネルギが減少しない場合、上記ステップ404に戻る。このように、DCリンクエネルギが減少するまで、上記ステップ404の制御が継続される。
【0033】
ステップ408では、維持エネルギ設定部262は、第2維持エネルギEc2を設定する。第2維持エネルギEc2は、上記ステップ400で設定された目標DCリンクエネルギに対応するように設定される。尚、上記ステップ400において、目標DCリンクエネルギが、次回の力行で使用されるエネルギ(サーボモータ11で消費される電力)に対応するように設定された場合には、今回の回生時のサーボモータ11からの回生エネルギのうち、次回の力行で使用する分は電源200へと回生されずにDCリンクエネルギとして蓄えられ、次回の力行で使用されない余剰分だけが電源200へと回生される。これにより、次回の力行で使用する電力を電源コンバータ100を介して供給する必要がなくなるので、電源コンバータ100での損失を低減又は無くして高効率化を図ることができると共に、余剰分を回生して省エネルギ化を図ることができる。
【0034】
ステップ410では、電源コンバータ制御部261は、上記ステップ408で設定された第2維持エネルギEc2に基づいて、電源コンバータ100の出力を制御する。尚、この制御も、電源コンバータ100の出力が出力上限Ps(上記ステップ402で設定)を超えない範囲で実行される。具体的には、電源コンバータ100の出力が出力上限Psを超えない範囲で、DCリンクエネルギが第2維持エネルギEc2を維持するように、電源コンバータ100の出力(回生用回路部104の出力)が制御される。
【0035】
ステップ412では、サーボモータ11の回生が完了したか否か(即ち力行が開始したか否か、又は、サーボモータ11が停止したか否か)が判定される。サーボモータ11の回生が依然として継続している場合は、ステップ410に戻る。このようにして、サーボモータ11の回生が完了するまで、DCリンクエネルギが第2維持エネルギEc2を維持するように電源コンバータ100の出力が制御される。
【0036】
他方、サーボモータ11の回生が完了した場合は、今回のサーボモータ11の回生時の制御が終了する。この際、サーボモータ11の回生完了時の電圧検出部190の検出電圧に基づいて、現在のDCリンクエネルギ(サーボモータ11の回生完了時のDCリンクエネルギ)と、第2維持エネルギEc2との関係がチェックされてもよい。この場合、サーボモータ11の回生完了時のDCリンクエネルギが第2維持エネルギEc2よりも小さい場合は、次回のサーボモータ11の回生時の制御では、上記ステップ401で設定される出力上限Psは、今回の出力上限Psよりも小さい値(絶対値で小さい値)に設定されてもよい。この減少幅は、一定であっても良いし、サーボモータ11の回生完了時のDCリンクエネルギと第2維持エネルギEc2との差に応じて決定されてもよい。
【0037】
また、サーボモータ11の回生完了時のDCリンクエネルギが第2維持エネルギEc2と略一致し、且つ、上記ステップ410の処理中に電源コンバータ100の出力が所定値よりも大きかった場合(即ち所定基準以上の電源回生が行われていた場合)、次回のサーボモータ11の回生時の制御では、上記ステップ401で設定される出力上限Psは、今回の出力上限Psよりも大きい値に設定されてもよい。この増加幅は、一定であっても良いし、上記ステップ410の処理中の電源コンバータ100の出力態様(例えば、電源回生エネルギ量)に応じて決定されてもよい。
【0038】
ここで、一例として、次回のサーボモータ11の回生時の制御で使用される出力上限Ps(i+1)は、今回の出力上限Ps(i)に基づいて次のような関係に基づいて決定されてもよい。
Ps(i+1)=Ps(i)+K(Ec2'−Ec2)
ここで、Kは所定のゲインであり、Ec2'は、サーボモータ11の回生完了時の電圧検出部190の検出電圧に基づくDCリンクエネルギ(サーボモータ11の回生完了時のDCリンクエネルギ)である。ゲインKは、サーボモータ11の回生時間(回生開始から完了までの時間)や、電源コンバータ100の動作時間(図6の時刻t1から時刻t5までの時間参照)に応じて決定されてもよい。
【0039】
図6は、図5に示す制御処理により実現される各種波形を示す図であり、図6(A)には、サーボモータ11の回生電力(モータ回生電力)と、電源コンバータ100の出力電力とが、時系列の波形で示されている。また、図6(B)には、DCリンクエネルギが、図6(A)に合わせた時系列の波形で示されている。尚、図6では、力行側を正とし、回生側を負としているが、以下の説明における大小関係は、説明の複雑化を防止する観点から、絶対値での大小関係を意味する。これについては、用語"増加"及び"減少"についても同様である。
【0040】
図6に示すように、時刻t1にてサーボモータ11の動作が力行から回生に切り替わると、サーボモータ11の回生電力は、図6(A)に示すように、徐々に増加し、時刻t3で最大となり、その後、徐々に減少していく。電源コンバータ100の出力電力は、サーボモータ11の力行時はゼロである。回生開始時の時刻t1から図5のステップ404の処理が開始される。時刻t1からのサーボモータ11の回生電力の増加に伴い、電源コンバータ100の出力電力は徐々に増加し、時刻t2にて電源コンバータ100の出力電力が出力上限Psに達する。この間(時刻t1〜時刻t2)、DCリンクエネルギは、第1維持エネルギEc1に維持される。サーボモータ11の回生電力が出力上限Psを超えると、その余剰分がDCリンクエネルギとして溜められる。従って、DCリンクエネルギは、時刻t2から徐々に増加していく。やがてサーボモータ11の回生電力が減少し始め、時刻t4にてサーボモータ11の回生電力が出力上限Psまで減少する。この段階では、DCリンクエネルギは、第1維持エネルギEc1よりも大きくなっており、例えば図6(B)に示すように、第2維持エネルギEc2に近い値となっている。この段階で、図5のステップ404の処理が継続されると、DCリンクエネルギが持ち出されることになるので、DCリンクエネルギが減少傾向を示す(図6(B)の時刻t4付近の波形参照)。この場合、図5のステップ406の肯定判定を受けてステップ408の処理が実行されることになる。これにより、DCリンクエネルギは、第2維持エネルギEc2に維持される。また、電源コンバータ100の出力電力は、サーボモータ11の回生電力の減少パターンに略追従して減少していく。
【0041】
尚、図6に示す例では、サーボモータ11の回生電力が出力上限Psまで減少した時点(時刻t4)にて、DCリンクエネルギが第2維持エネルギEc2に近い値まで増加しているが、安全のため、第2維持エネルギEc2よりも所定基準以上小さい値であってもよい。これは、仮にサーボモータ11の回生電力が図6(A)よりも大きかった場合には、サーボモータ11の回生電力が出力上限Psまで減少する前に、DCリンクエネルギが第2維持エネルギEc2に達してしまう虞があるためである。この観点から、次回のサーボモータ11の回生時の制御において上記ステップ401で設定される出力上限Psは、今回のサーボモータ11の回生時の制御における、サーボモータ11の回生電力が出力上限Psまで減少した時点(ステップ406で肯定判定された時点)のDCリンクエネルギと、第2維持エネルギEc2との差に基づいて設定されてもよい。例えば、この差が所定基準よりも小さい場合には、出力上限Psが大きくなる方向に変更され、この差が所定基準よりも大きい場合には、出力上限Psが小さくなる方向に変更されてよい。
【0042】
図7は、比較例1による同波形(図6に対応する波形)を示す。図7(A)には、比較のため、本実施例による電源コンバータ100の出力電力の変化態様が一点鎖線で示される。比較例1では、サーボモータ11の回生電力が最大値(装置限界Ps1)を超えない条件で実行される。本実施例では、出力上限Psが設定されるのに対して(ステップ402参照)、比較例1では、装置限界Ps1が常に出力上限Psとして設定されている。この場合、図7(B)に示すように、サーボモータ11の回生電力との関係によっては、電源への回生エネルギ分が大きくなり、回生完了時にDCリンクエネルギが第2維持エネルギEc2に達しない場合がありうる。これに対して、本実施例によれば、上述の如く出力上限Psを調整することによって、回生完了時のDCリンクエネルギを第2維持エネルギEc2に到達させることが可能である。
【0043】
図8は、比較例2による同波形(図6に対応する波形)を示す。比較例2では、回生開始時には電源コンバータ100が動作せず、DCリンクエネルギが第2維持エネルギEc2に到達した後に、その後の余剰なモータ回生電力を電源へと回生するように電源コンバータ100が動作する。この場合、回生完了時にDCリンクエネルギが第2維持エネルギEc2に達するものの、DCリンクエネルギが第2維持エネルギEc2に達した後(図8の時刻t6以後)は、DCリンクエネルギがDCリンク300のエネルギ限界を超えないことを保証するため、電源コンバータ100の動作によりサーボモータ11の回生電力の略全てを電源回生へと回す必要があり、その分だけ高い電源コンバータ100の能力(電源コンバータの大型化)が必要となる。これに対して、本実施例によれば、上述の如く出力上限Psを調整することによって、回生完了時のDCリンクエネルギを第2維持エネルギEc2に到達させるので、比較例2において必要となるような電源コンバータ100の高い能力が不要となり、電源コンバータ100の小型化を図ることができる。
【0044】
尚、本実施例では、回生開始時に電源コンバータ100が動作開始しているが、回生開始時から遅れ時間を持って電源コンバータ100が動作開始してもよい。
【0045】
また、本実施例では、射出用のサーボモータ11に関する電源コンバータ100について説明したが、本実施例は、他のサーボモータ24,42,44を含む任意のモータに適用可能である。例えば、サーボモータ11,24,42,44に対してそれぞれ同様の電源コンバータの制御を適用してもよい。この場合、それぞれのサーボモータ11,24,42,44による回生電力のパターンの相違を考慮して、出力上限Psがそれぞれ独立に設定されてもよい。例えば型開停止、型閉停止、射出減速等のようなサイクル運転の工程別に独立した異なる制御(特に出力上限Ps)を適用してもよい。また、代替実施例では、電源コンバータ100には、複数のサーボモータ11,24,42,44が接続されてもよい。この場合も、それぞれのサーボモータ11,24,42,44による回生電力のパターンの相違を考慮して、出力上限Psがそれぞれ独立に設定されてもよい。
【0046】
図9は、本実施例による電源コンバータ100の制御方法のその他の一例を示すフローチャートである。図9に示す制御処理は、コントローラ26により実現される。図9に示す制御処理は、サーボモータ11の回生時(サーボモータ11の場合は、例えば射出減速時)に関連して実行される。
【0047】
ステップ900では、充電目標エネルギ設定部264は、上述のステップ400と同様、今回のサーボモータ11の回生終了時(力行開始時)における目標DCリンクエネルギを設定する。
【0048】
ステップ901では、回生出力上限設定部263は、上述のステップ401と同様、電源コンバータ100の出力上限Psを設定する。
【0049】
ステップ902では、維持エネルギ設定部262は、維持エネルギEcを設定する。維持エネルギEcは、現状のDCリンクエネルギに対応するように設定される。現状のDCリンクエネルギは、現時点の電圧検出部190の検出電圧に基づいて判断されてよい。
【0050】
ステップ904では、電源コンバータ制御部261は、上記ステップ901で設定された出力上限Psと、上記ステップ902で設定された維持エネルギEcに基づいて、電源コンバータ100の出力を制御する。具体的には、電源コンバータ100の出力が出力上限Psを超えない範囲で、DCリンクエネルギが維持エネルギEcを維持するように、電源コンバータ100の出力(回生用回路部104の出力)が制御される。ステップ904では、DCリンクエネルギが現状の維持エネルギEcを維持するように、電源コンバータ100の出力が制御されるので、サーボモータ11からの回生エネルギが出力上限Psに達しない限り、サーボモータ11からの回生エネルギは実質的に全て電源200へと向けられる。尚、サーボモータ11からの回生エネルギが出力上限Psを超えると、余剰分がDCリンク300に溜まり、DCリンクエネルギが増加する。
【0051】
ステップ906では、維持エネルギ設定部262は、上記ステップ904の制御中、電圧検出部190の検出電圧を監視し、DCリンクエネルギが減少したか否かを判断する。DCリンクエネルギが減少した場合には、ステップ902に戻る。このようにして、維持エネルギEcは、DCリンクエネルギが減少する度に、現状のDCリンクエネルギへと更新される。他方、DCリンクエネルギが減少しない場合、上記ステップ908に進む。
【0052】
ステップ908では、サーボモータ11の回生が完了したか否か(即ち力行が開始したか否か、又は、サーボモータ11が停止したか否か)が判定される。サーボモータ11の回生が依然として継続している場合は、ステップ904に戻る。このようにして、サーボモータ11の回生が完了するまで、DCリンクエネルギが維持エネルギEcを維持するように電源コンバータ100の出力が制御される。
【0053】
図10は、図9に示す制御処理により実現される各種波形を示す図であり、図10(A)には、サーボモータ11の回生電力(モータ回生電力)と、電源コンバータ100の出力電力とが、時系列の波形で示されている。また、図10(B)には、DCリンクエネルギが、図10(A)に合わせた時系列の波形で示されている。尚、図10では、力行側を正とし、回生側を負としているが、以下の説明における大小関係は、説明の複雑化を防止する観点から、絶対値での大小関係を意味する。これについては、用語"増加"及び"減少"についても同様である。図10には、目標DCリンクエネルギが模式的に示されている。
【0054】
図10に示すように、時刻t1にてサーボモータ11の動作が力行から回生に切り替わると、サーボモータ11の回生電力は、図10(A)に示すように、徐々に増加し、時刻t3で最大となり、その後、徐々に減少し、時刻t5で極小となった後、再度、徐々に増加し、時刻t7で極大となり、その後、徐々に減少していく。電源コンバータ100の出力電力は、サーボモータ11の力行時はゼロである。回生開始時の時刻t1から図9のステップ904の処理が開始される。時刻t1からのサーボモータ11の回生電力の増加に伴い、電源コンバータ100の出力電力は徐々に増加し、時刻t2にて電源コンバータ100の出力電力が出力上限Psに達する。この間(時刻t1〜時刻t2)、DCリンクエネルギは、維持エネルギEc1に維持される。サーボモータ11の回生電力が出力上限Psを超えると、その余剰分がDCリンクエネルギとして溜められる。従って、DCリンクエネルギは、時刻t2から徐々に増加していく。やがてサーボモータ11の回生電力が減少し始め、時刻t4にてサーボモータ11の回生電力が出力上限Psまで減少する。この段階では、DCリンクエネルギは、維持エネルギEc1よりも大きくなっている。この段階で、図9のステップ904の処理が継続されると、DCリンクエネルギが持ち出されることになるので、DCリンクエネルギが減少傾向を示す(図10(B)の時刻t4付近の波形参照)。この場合、図9のステップ906の肯定判定を受けてステップ902で維持エネルギEcが維持エネルギEc2に更新されることになる。その後、時刻t6にて電源コンバータ100の出力電力が出力上限Psに達する。サーボモータ11の回生電力が出力上限Psを超えると、その余剰分がDCリンクエネルギとして溜められる。従って、DCリンクエネルギは、時刻t6から徐々に増加していく。やがてサーボモータ11の回生電力が減少し始め、時刻t8にてサーボモータ11の回生電力が出力上限Psまで減少する。この段階では、DCリンクエネルギは、維持エネルギEc2よりも大きくなっている。この段階で、図9のステップ904の処理が継続されると、DCリンクエネルギが持ち出されることになるので、DCリンクエネルギが減少傾向を示す(図10(B)の時刻t8付近の波形参照)。この場合、図9のステップ906の肯定判定を受けてステップ902で維持エネルギEcが維持エネルギEc3に更新されることになる。このようにして、一回の回生でサーボモータ11の回生電力が増減して出力上限Psを2回以上超える場合にも、維持エネルギEcが更新されて、最終的なDCリンクエネルギが目標DCリンクエネルギに対応するように制御することが可能である。また、一回の回生でサーボモータ11の回生電力が増減するパターンである場合にも、出力上限Psを調整することで、最終的なDCリンクエネルギが目標DCリンクエネルギに対応するように制御することが可能である。尚、出力上限Psは、一回の回生動作中に設定値で維持しているが、一回の回生動作中にDCリンクエネルギの増加態様やDCリンクエネルギと目標DCリンクエネルギとの偏差を監視して可変させてもよい。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0056】
例えば、図6(A)に示したサーボモータ11の回生電力のパターンは、一例であり、本発明は任意の回生パターン(図10(A)参照)にも適用可能である。
【0057】
また、本実施例では、図6(A)に示すように、回生開始時からサーボモータ11の回生電力が出力上限Psを超えるまで、又は、サーボモータ11の回生電力が出力上限Psを下回ってから回生完了時まで、電源コンバータ100の出力がサーボモータ11の回生電力に追従するように電源コンバータ100が制御されている。そして、このような制御は、電圧検出部190の検出電圧に基づいて実現されている。しかしながら、サーボモータ11の回生電力のパターンが予め分かっている場合(例えば、試験や稼動時に得られるパターン)、当該既知のパターンに基づいてフィードフォワード的に電源コンバータ100を制御することで、応答性(追従性)を高めることも可能である。また、電源コンバータ100の出力がサーボモータ11の回生電力に追従して変化する必要はなく、例えば図11に示すような態様で制御されてもよい。図11に示す例では、電源コンバータ100は、動作時には、常に出力上限Psで出力するように制御される(即ち、図11(A)に示すような矩形波の出力となるように制御される)。電源コンバータ100の動作開始タイミング及び終了タイミングは、任意に設定されてよく、例えば電圧検出部190の検出電圧に基づいて検出した図11(B)に示すDCリンクエネルギの変動T1,T2タイミングに対応させてもよい。
【0058】
また、本実施例では、エネルギの次元の物理量を用いて制御を行っているが、電圧等のような、等価的に異なる次元の物理量を用いて同様の制御を行うことは可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 射出成形機
11 サーボモータ
12 ボールネジ
13 ナット
14 プレッシャプレート
15,16 ガイドバー
17 ベアリング
18 ロードセル
19 射出軸
20 スクリュ
21 加熱シリンダ
21−1 ノズル
22 ホッパ
23 連結部材
24 サーボモータ
25 ロードセル増幅器
26 コントローラ
27 位置検出器
28 増幅器
31,32 エンコーダ
35 ユーザインターフェース
42 サーボモータ
44 サーボモータ
43,45 エンコーダ
100 電源コンバータ
102 力行用回路部
104 回生用回路部
190 電圧検出部
200 電源
261 電源コンバータ制御部
262 維持エネルギ設定部
263 回生出力上限設定部
264 充電目標エネルギ設定部
300 DCリンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の成形サイクルで成形を行うために電源からの電力を変換してDCリンクを介してモータに供給する電源コンバータを制御する制御装置を備えた射出成形機であって、
前記電源コンバータは、前記モータの回生電力を前記電源に回生するように動作する回生用回路部を有し、
前記制御装置は、前記成形サイクルにおける前記モータの力行及び回生の電力パターンに基づいて前記回生用回路部の出力上限を設定する回生出力上限設定部を有することを特徴とする、射出成形機。
【請求項2】
前記回生出力上限設定部は、前記モータの回生終了時における前記DCリンクの目標充電エネルギに基づいて、前記回生用回路部の出力上限を設定する、請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記モータの回生中に前記DCリンクの充電される充電エネルギを維持する維持エネルギ設定部を有し、前記維持エネルギ設定部で設定された維持エネルギを維持するように前記回生用回路部の出力を制御する、請求項1又は2に記載の射出成形機。
【請求項4】
前記維持エネルギ設定部は、前記DCリンクの充電エネルギが減少した場合に、前記DCリンクの維持エネルギを再設定する、請求項3に記載の射出成形機。
【請求項5】
電源からの電力を変換してDCリンクを介してモータに供給する電源コンバータの制御装置であって、
前記モータの回生終了時における前記DCリンクの目標充電エネルギに基づいて、前記電源コンバータの回生出力上限を設定する回生出力上限設定部を備えることを特徴とする、制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−206379(P2012−206379A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73645(P2011−73645)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】