説明

山形フィルム冷却穴を有する物品と関連の加工処理

【課題】第1の流体に曝される内面と、入口と、内面から離間した外面であって、より高温の第2の流体に曝される外面とを有する物品を提供する。
【解決手段】この物品は、少なくとも1つの列状又はその他のパターンの通路穴28を更に有する。各通路穴は、基板20を貫通して内面の入口から外面26に近接する通路穴出口部まで延在する入口ボア34を有し、この入口ボアは、穴出口部に隣接する山形出口32で終端する。山形出口は、共通表面領域を自身間に有する1対のウィング状溝を有する。共通表面領域は、穴出口部に隣接する谷状部と、この谷状部に隣接する台地状部を含む。この物品はエアフォイルであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の概ねの主題はガスタービンエンジンに関し、特にエンジンの様々な部品の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンは、エンジン空気を圧縮する圧縮機を含む。エンジンは、また、加圧空気を燃料と混合して高温燃焼ガスを生成する燃焼器を含む。典型的な設計(例えば航空エンジン又は据置型のパワースステム)において、エネルギーは、圧縮機に動力を供給する高圧タービン(HPT)及び低圧タービン(LPT)のガスから取り出される。低圧タービンは、ターボファン航空エンジン用途ではファンに動力を供給し、船舶及び産業用途では外部シャフトに動力を供給する。
【0003】
ガスタービンエンジンは通常、超高温環境で動作するので、ガスタービンエンジンの冷却システムの必要性は決定的である。例えば、エンジン部品は、航空用途では約3800°F(2093°C)まで、据置型の発電用途では2700°F(1482°C)までの温度を有する高温ガスに曝されることが多い。高温ガスに曝される部品を冷却するために、これらの「高温ガス流路」の部品には大抵、内側対流冷却と外側フィルム冷却の両方を行う。
【0004】
フィルム冷却の場合、複数の冷却穴が部品の比較的低温の表面から部品の「高温」の表面まで延在する。冷却穴は通常、部品の金属壁部を貫通して浅い角度で傾斜する円筒状のボア穴である。フィルム冷却は、高温ガスから部品の表面へと至る入射熱流束を減少させるので、温度制御のために重要な機能である。冷却穴を形成するにあたり、例えば必要な穴深さ及び形状といった様々な要因に応じて、多様な技術を用いることができる。レーザー穿孔処理、ウォータージェット切削処理、放電加工(EDM)処理は、フィルム冷却穴の形成によく用いられる技術である。フィルム冷却穴は大抵、列状の緊密に離間した穴として構成され、これらの穴が合わさって、外表面全体にわたる大面積の冷却ブランケットになる。
【0005】
冷却空気は大抵、圧縮機から取り出された後にエンジンの燃焼領域をバイパスし、冷却穴を介して高温表面に供給される圧縮空気である。このクーラントが、高温の部品表面と高温ガス流との間に保護「フィルム」を形成することによって、部品を加熱から保護する一助となる。更に、例えばサーマルバリアコーティング(TBC)等の保護コーティングを高温の表面上に用いて部品の動作温度を高めることができる。
【0006】
フィルム冷却性能は、クーラントの流れが高温表面を「抱き込む」ときに最も高くなる。これを念頭に置いて、多様な表面外形及び形状が冷却穴の出口部領域のために設計されてきた。例として、1つ以上の部品表面上に意図的に形成された様々な種類の溝や凹みが挙げられる。このような表面的な特徴によって、クーラントの流れと高温の表面の接触時間が長くなり、且つ/又はより低温の効果的なガス温度の層を表面上に供給できる。
【0007】
様々な検討事項が、最適なフィルム冷却システムを設計する上で重要になる。例えば、一定量の空気が部品の高温の表面全体を流れるようにすることが通常は必要であり、上述のように、その空気の大部分が、できる限り長く高温の表面と接触した状態を保つことも重要である。また、フィルム冷却穴が多数あると、より多量の空気をエンジン圧縮機から取り出す必要がある分、冷却穴の個数が多すぎるとエンジン効率が損なわれかねない。また、今後のタービンエンジン設計には、尚一層高い動作温度を伴う可能性があるので、フィルム冷却システムの改良は、尚一層重要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7328580B2号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの問題を考えると、ガスタービンエンジンのフィルム冷却性能を高める新規な方法及び構造は、当該技術分野において歓迎されるであろう。こうした革新技術は、エンジン効率を大幅に低下させることなく冷却流の性能を高めるはずである。また、フィルム冷却構造は、タービンエンジン部の強度及び完全性を損ねるものであってはならない。更に、新規なフィルム冷却構造は、上述の穿孔、切削、及び機械加工技術のうち1つ以上の技術によって正確且つ効率的に形成可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態において、基板の形態の物品であって、第1の流体に曝される、入口を有する内面と、この内面から離間した、より高温の第2の流体に曝される外面を有する物品を開示する。この物品は、更に、少なくとも1つの列状又はその他のパターンの通路穴を有し、各通路穴は、内面の入口から外面に近接する通路穴出口部まで基板を貫通して延在する入口ボアを有し、この入口ボアは穴出口部に隣接する山形出口となって終端する。この山形出口は、共通表面領域を両者間に有する1対のウィング状溝を有し、この共通表面領域は穴出口部に隣接する谷状部を含むと共に、谷状部に隣接する台地状部を更に含む。
【0011】
別の実施形態は、1つ以上の山形フィルム冷却穴を備えて構成されるフィルム冷却式エアフォイル又はエアフォイル領域に関する。このエアフォイル又はエアフォイル領域は、
a)第1の流体に曝される、入口を有する少なくとも1つの内面と、
b)内面から離間した、より高温の第2の流体に曝される外面と、
c)少なくとも1つの列状又はその他のパターンの通路穴であって、各通路穴が内面から外面に近接する通路穴出口部まで基板を部分的に貫通して延在する入口ボアを有し、入口ボアは本明細書に記載のように山形出口となって終端する通路穴と、を有する。
【0012】
また別の実施形態は、内面と内面から離間した外面とを有し、少なくとも部分的にこれらの2面間に延在する入口ボアを更に有する基板に、1つの列状又はその他のパターンの通路穴を形成する方法であって、入口ボアは外面に近接する穴出口部に隣接した山形出口となって終端し、山形出口は共通表面領域を両者間に有する1対の溝を有し、共通表面領域は穴出口部に隣接する谷状部とこの谷状部に隣接する台地状部を含む方法に関する。この方法は、コンピュータ制御された単一の又は反復的なプランジング動作、スイーピング動作、又はプランジングとスイーピングとの複合動作で、接触装置又は接触媒体を基板の所定の領域に誘導することによって、各入口ボアと山形出口とを形成するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】基板を貫通して延在する3つの通路穴の通常的な出口部領域を示す、基板の外面の斜視図である。
【図2】図1に示す通路穴のうちの1つの、図1の線2−2に沿った横断面図である。
【図3】図2に示す通路穴の、線3−3に沿った平面図である。
【図4】本発明の別の実施形態に従った通路穴の横断面図である。
【図5】本発明の実施形態に従った通路穴の山形出口領域の上面図である。
【図6】本発明の実施形態に従った通路穴の山形出口領域の一部分を示す上面図である。
【図7】本発明の別の実施形態に従った通路穴の横断面図である。
【図8】本発明の実施形態に従った、コーティングで覆われた基板の場合の通路穴及び出口部領域の横断面図である。
【図9】本発明の実施形態において用いられるウォータージェット切削機の概略斜視図である。
【図10】本発明に関連するウォータージェット切削機用ノズルアセンブリの概略斜視図である。
【図11】本発明の一部の実施形態に従った、基板に通路穴を形成するプランジング装置の動作を示す図である。
【図12】本発明に従った、マルチプランジ技術によって形成される通路穴の山形領域を示す上面図である。
【図13】本発明の実施形態に有用な放電加工装置の概略斜視図である。
【図14】本発明の実施形態に従った通路穴を創出する、レーザーベースのシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書に開示する数値的な範囲は包括的で組み合わせ可能である(例えば、「約25w%以下」又は更に具体的に「約5w%から約20w%」の範囲には、端点とその範囲の間にある全ての値が含まれる)。特に明示しない限り、あらゆる組成及び重量は、組成物全体の重量に基づいて提示され、割合もまた、重量に基づいて提示されている。また、「組み合わせ」という表現には、混成物、混合物、合金、反応生成物等が含まれる。
【0015】
また、「第1」「第2」等の表現は、本明細書においてはいかなる順序、数量、重要性も示すものではなく、或る要素を他の要素と区別するために用いられる。「a」「an」という表現は、本明細書においては数量を限定するものではなく、記載の品目が1つ以上あることを示す。数量に関連して用いられる「約」という修飾語は、記載の値を含むと共に、文脈から明らかな意味(例えば、特定の数量の測定誤差の程度)も有する。
【0016】
また、本明細書において、接尾辞「s」は通常、修飾する用語の単数形及び複数形の両方を含み、したがってその用語の1つ以上のものを含むこととする(例えば、「通路穴」という用語は、明示しない限り1つ以上の通路穴を含む)。本明細書を通じて「一実施形態」「別の実施形態」「或る実施形態」等は、その実施形態に関連して説明する特定の要素(例えば、特徴、構造、及び/又は特性)が、本明細書に説明する1つ以上の実施形態に含まれているが、その他の実施形態に含まれることも、含まれないこともあるということを意味する。加えて、説明する本発明の特徴を、様々な実施形態においていかなる適宜の態様で組み合わせてもよいことを理解されたい。
【0017】
高温に曝され、冷却が必要なあらゆる基板を本発明に適用できる。例として、セラミック又は金属ベースの材料が挙げられる。基板を構成し得る金属又は金属合金の非限定的な例として、鋼、アルミニウム、チタン、モリブデン等の高融点金属、及びニッケル、コバルト、又は鉄等がベースの超合金が挙げられる。また、基板を、ケイ化ニオブ金属間化合物等の複合材料で形成してもよい。
【0018】
非常に多くの場合、基板は、ガスタービンエンジン部品の少なくとも1つの壁部である。この種の壁部及びタービン部品そのものは、多くの文献に記載されている。非限定的な例として、米国特許第6,234,755号(Bunkerら)及び第7,328,580号(Leeら、以下「Lee」)が挙げられ、この両特許を参照により本明細書に援用する。
【0019】
Leeの文献は、長手方向又は軸方向の中心軸の周りにおいて軸対称の航空用ガスタービンエンジンを包括的に論述している。このエンジンは、順番に流体連通するファン、多段軸流圧縮機、環状燃焼器、その後に更に、高圧タービン(HPT)、低圧タービン(LPT)を含む。
【0020】
HPTは通常、内側及び外側ノズルバンド内に支持された1列の中空ステータベーンを備えるタービンノズルを含む。第1段タービンは第1段タービンノズルの後にあり、この第1段タービンは、支持ロータディスクから半径方向外方に延在すると共に環状タービンシュラウドによって取り巻かれる、1列の中空ロータブレードを含む。低圧タービン(LPT)は高圧タービンの後にあり、この低圧タービンは、更なるノズルとロータブレードとを含むが、これはエンジン設計に応じて内部冷却回路を含む場合も含まない場合もある。排気ライナは通常、低圧タービンの後にある。
【0021】
Lee特許に記載のようなガスタービンエンジンの運転時、周囲空気が上述のファンによって加圧される。周囲空気の一部分は圧縮機に流入して更に加圧され、外側部分はファン出口から排出され、ターボファンエンジン用途の推力を供給する。圧縮機内で加圧された空気が燃焼器内で燃料と混合され、高温の燃焼ガスが生じる。この燃焼ガスは、運転時に圧縮機とファンに動力を供給するためのエネルギーを燃焼ガスから取り出す、様々なタービンブレード段を通って流れる。このようなエンジンの構造に関する更なる詳細は、Lee特許に加え、その他様々な文献に記載されている。
【0022】
上述の及びLeeの文献に記載のような典型的なガスタービンエンジンは、従来式の構成と動作を有するが、このようなエンジンを本明細書に記載のように改良して、フィルム冷却を改善できる。このため、上述のように運転時に圧縮機から加圧空気の一部分を抽出することによって、エンジンの高温燃焼ガスからの加熱に曝される様々なエンジン部品の1つ以上を適切に冷却できる。
【0023】
これらの部品は通常、図1に示すように少なくとも1つの金属壁部20を含む。この壁部を上述したような超合金から形成するが、それは、こうした材料が高温下で高い強度を示すからである。図1の平面図に壁部の一部分を示し、図2の断面図にも一部分を示す。壁部の厚さは、その壁部が組み込まれている物品によって異なる。多くの場合、例えば多くの航空用部品の場合には、壁部は約0.020インチ〜約0.150インチ(508ミクロン〜約3810ミクロン)の範囲の厚さを有する。地上用部品の場合は、壁部は約0.050インチ〜約0.300インチ(1270ミクロン〜約7620ミクロン)の範囲の厚さを有することが多い。
【0024】
壁部は、対向する内壁面及び外壁面24、26を含む。壁部の内面又は内側面は、部品に設けられた、圧縮機から何らかの従来的な態様で抽出された空気を受け取る、適切な冷却回路の外側境界面を形成する。外面26は、運転時に高温燃焼ガス22に曝される(図1参照)ので、適切なフィルム冷却保護を必要とする。
【0025】
図1及び2に示す例証的な部品壁部20は様々な部品に見受けられる。これらの部品には、内側又は外側燃焼器ライナ、タービンノズルベーン、タービンノズルバンド、タービンロータブレード、タービンシュラウド、又は排気ライナが含まれる。これらのいずれの部品にも、様々な形態のフィルム冷却穴又は「通路穴」が組み込まれていることが多い。
【0026】
本発明の実施形態において、通路穴28は、壁部部品20の所定の区間に沿って適切な列状又はその他のパターン(図1)状に配置される。Lee特許の実施形態のように、通路穴28は「山形」の構成を特徴としている。好適な実施形態において、各通路穴28は壁部20を長手方向に貫通して延在すると共に、穴に沿った長手方向と穴の幅を横断する横方向との両方向に分岐する。このように、各穴は内面24に面一に配置される入口30(図2参照)から外面26に面一に配置される山形出口32まで延在する。上述のように、圧縮機からの加圧空気の一部分は、通路穴28を介して山形出口32から流出する冷却空気33として導かれる(図1)。
【0027】
好適な実施形態において、各々の通路穴28は、入口ボア34を含む。このボアは通常、その入口端部からその出口端部までほぼ一定の流路面積を有する。図2に示すように、入口ボアは長手方向又は軸方向の中心軸36を有する。このボアそのものは、円筒状又はほぼ円筒状の、即ち山形出口の始点の手前まで円筒状又はほぼ円筒状を維持する通路穴の一部分と考えられる。このため、図2において、入口ボアは、軸36に沿った点XとYの間の区間と考えられる。入口ボアの上方終端部を「ボア出口」38とよぶが、このボア出口は、依然として外壁面(外側壁面)26よりも下方に位置する。入口ボアは、大抵は互いに平行な自身の内面又は外面に対して、比較的浅い角度「A」だけ傾斜している。入口ボアの傾斜角Aは通常、フィルム冷却穴に用いる典型的な傾斜、例えば約20度〜約45度を指す。
【0028】
上述のように、図3は図2に示す通路穴の線3−3に沿った平面図である。図面は、中心軸36によって効果的に二等分された通路穴入口30を示している。入口ボア34は、点Xから点Yまで延在する、即ち穴出口38として終端するものとして図示されている。ボア出口38から面26(即ち入口穴30と反対方向)へと向かう通路穴の残りの部分は「通路穴出口部」と考えられる。
【0029】
引き続き図3を参照すると、ボア出口38は、概略的に機構40として示す山形出口で終端する。山形出口40は、その長さ「Z」の大部分において、1対のウィング状溝42及び44を含む。これらのウィング状溝は、溝開始位置39(溝の「上流側」始点)から外側壁面26(図2)まで長手方向に分岐している。溝開始位置は通常、軸36に沿った山形出口40の全長に基づくと、ボア出口38から約15%〜約35%の長さの位置にある(図3)。
【0030】
一部の実施形態において、ウィング状溝は、上述のLee特許におけるウィング状溝と同様の大きさ及び形状であり、通常はほぼ楕円形の断面形状を有する。一例として、ウィング状溝は、ほぼ円形又は部分的に円形であってよい。
【0031】
ウィング状溝42、44は、その間に共通面領域46を有する。ウィング状溝は、この面領域に沿って横方向に、内壁面24から離れる方向に分岐しており、最終的に外壁面26と融合すると言える。
【0032】
一部の実施形態において、共通面領域46は、谷状部又は「底部」48と、谷状部48に隣接する台地状部50とを含む。台地状部50は、谷状部よりも上方に隆起し、軸36に沿って穴入口30と反対方向に延在しており、基本的には外壁面26と面一となる位置52で終端する。谷状部48は、台地状部50の高さよりも低いものの、基本的にはウィング状溝42、44の深さよりも高い位置にあることを理解されたい。また、谷状部48は、入口ボア34(通常は弧状面)の下面54(図2)の延長部と考えられる。以下に説明するように、本発明の実施形態に記載の通路穴及び山形出口の外形は、然るべき種類の穿孔、機械加工、及び切削技術を用いることによって得られる。
【0033】
図2に概略的に示すように、台地状部50は大抵、谷状部48よりも上方に立ち上がり、比較的水平に隆起した外形になっている。台地状部の上面56は、非常に平坦であり、谷状部48の表面に対して若干平行であってよい。但し、以下に更に説明するように、台地状部の形状、大きさ、及び配向を、台地状部の任意の個別の表面又は「面」として、大幅に変更してもよい。一例として、台地状部の前面58(図3を参照)は、谷状部48の表面に対してほぼ垂直である。しかし、以下に示すように、前面は通常、勾配を有し、例えばその大きさが次第に縮小して(傾斜面のように)最終的に谷状部表面48と融合する。概して、台地状部と台地状部が隆起する谷状部との形状及び大きさは、通路穴を介して送られる冷却空気を最大限に拡散させる上で重要な要素となる。以下に更に説明するように、別の有利な結果として、外壁面26からの冷却空気の流れの剥離が抑制されることがある。
【0034】
図3を参照すると、山形出口40の全域に収まった台地状部50の位置も、一部の実施形態では重要な特徴となる。各溝は、溝開始位置39から通路穴入口30の下流方向の遠端、即ち溝が外面26と交わる点(即ち図3の位置52)まで延在する全長寸法を有すると言える。一部の実施形態において、台地状部のほぼ全体が、位置39から離れる方向に全長寸法の約40%を超える領域に配置される。一部のその他の好適な実施形態では、台地状部のほぼ全体が、位置39から離れる方向に全長寸法の約60%を超える領域に配置される。
【0035】
一部の実施形態において、台地状部は、図3のような平面図(「上面図」)において、三角形、台形、又はその他何らかの多角形の形状を有する。図3に、台形状の台地状部50を示す。図4は、三角形状の台地状部を示す(この図面において、図2及び3と同様又は同一の特徴については、符号を付していない)。図4において、台地状部60は、谷状部62よりも上方に隆起している。この三角形状の台地状部は、2つの溝66、68間のほぼ中間部分に、軸70に沿って位置しており通路穴入口72の方向を示す上流側頂点64を含む。但し、頂点は軸70と整合している必要はなく、例えば「偏心(off−center)」していてもよい。更に、三角形そのものが正三角形でなくてもよい。上述のように、台地状部の正確な形状は、主に台地状部が形成される態様に応じて決定される(2つの溝も、例えば深さ及び形状が幾分、互いに異なっていてもよい)。
【0036】
図5に、通路穴80の一部分の別の実施形態を、基板の外面(「高温表面」)82の上面図として示す。この図面(以下で検討する図7に幾分類似している)において、台地状部92は、溝86及び88間に配置される(この図面では、台地状部92が領域93から上方に角度を成しているように見えるが、台地状部は基本的に外面領域93と同じ平面上に位置してもよい)。谷状部90は、基板内へと延在する入口ボア(特に図示せず)に向かって台地状部から下方に傾斜する。台地状部の表面82に対する高さは、異なっていてよい。一部の実施形態において、台地状部の高さは、通路穴出口部から該穴出口部から離れる方向に遠端まで延在する長さ寸法の約2%〜約20%である。
【0037】
また、一部の実施形態において、表面90、溝86、及び溝88の各機構はいずれも入口ボアに融合する。また、場合によっては、表面86、90及び88、90の接触部分によってそれぞれ形成される縁部98及び100は「尖った」直線的な縁部である必要はない。例えば、これらの縁部は、互いに独立した曲面状又は「丸味を帯びたもの」であってよい。図5のような通路穴の部分図である図6に示すように、上面/谷状部102も、一方の溝から他方の溝(溝はここには図示せず)まで延在するほぼ「円弧」状に沿って、又はその他何らかの曲率線に沿って湾曲してよい。
【0038】
図7は、本発明の実施形態に従った、別の山形形状を有する通路穴108の図である(ここでは、図2及び3と同様の特徴には符号を付していない)。図面の下半分に、軸112に沿って配置される入口ボア110の横断面図を示す。上半分の図面は、平面図又は「上面図」である。この実施形態において、台地状部114は入口穴118から最遠の隆起領域である。谷状部120は、台地状部に隣接しており軸112に沿って延在する。谷状部は、入口穴118の方向に下方に傾斜する上面122を有する。
【0039】
上述のように、本明細書に記載のような物品は、1つ以上のコーティングにより覆われることが多い。多目的のコーティングが用いられる。多くの場合、熱保護及び/又は酸化保護用のコーティングが施される。一例として、ガスタービンブレード等の物品は、セラミックコーティング、例えばイットリア安定化ジルコニア等のジルコニア材料で形成されるサーマルバリアコーティング(TBC)により覆われる。タービンブレードでは多くの場合、ブレード表面全体に先ず、例えば金属アルミナイド又はMCrAlY材料等の結合層が施される。このとき「M」は、鉄、ニッケル、コバルト、又はこれらの混合物である。これらのコーティングシステムは、上述のBunkerの第’755号特許をはじめ、多くの文献に記載されている。
【0040】
図8は、本発明の一部の実施形態に従った、基板125を貫通して延在する別の通路穴123の横断面図である。この場合、基板の外面(「高温」表面)124は、上述のように1つ以上の個別のコーティングを構成し得る保護コーティングシステム126により覆われる。保護コーティングの厚さを、様々な要因に応じて大幅に変更してもよい(例えば約0.005インチ(127ミクロン)〜約0.050インチ(1270ミクロン))。地上用ガスタービンの「高温」部に用いるニッケル超合金ベースのタービンブレードの場合、保護コーティングは、約0.015インチ(381ミクロン)〜約0.045インチ(1143ミクロン)の厚さを有することが多く、約0.020インチ(500ミクロン)〜約0.035インチ(889ミクロン)の厚さを有することが更に多い。通路穴123は、以下に記載の技術のうちの1つによって、基板125を貫通し、コーティング126を貫通して形成される。
【0041】
引き続き図8を参照すると、台地状部128は谷状部130から延在し、この谷状部よりも上方に隆起する。この場合、台地状部の「前面」132は、入口ボア134の方向に傾斜する。但し、台地状部と周囲の谷状部との形状及び大きさを、様々な要因に応じて大幅に変更してもよい。様々な要因には、通路穴を通る冷却流体の出口部の所望の形状に加え、通路穴及び山形部分をコーティング126及び基板125内に形成する技術が含まれる。新規なクーラント流路形状に従って保護コーティングを介したフィルム冷却特性を改善できることは、本発明の実施形態の重要な側面である。
【0042】
本発明の通路穴は、所定の種類の設備を用いて幾つかの特殊技術によって良好に形成可能である。これらの技術には、ウォータージェット切削システム、放電加工(EDM)システム、及びレーザー穿孔システムが含まれる。これらの各々のシステムを以下に説明する。更に、場合によっては、これもまた以下に説明するように、特定の機器を単一の又は反復的なプランジング動作で用いることによって、これらの技術の各々を実施できる(本明細書では、EDMは「接触装置」を用いた基板の処理に関すると言え、ウォータージェット切削システム及びレーザー穿孔システムは、以下に更に説明するように、「接触媒体」を用いた基板の処理に関すると言える)。
【0043】
以上に示唆したように、一部の実施形態において、通路穴はウォータージェット切削加工、例えばアブレシブウォータージェット切削加工により形成される。このような「ウォーターソー(water saw)」とよばれることもある加工は、当該技術分野では周知であり、多くの文献に記載されている。非限定的な例として、米国特許第6,905,396号(Millerら)、第5,979,663号(Herrmannら)、第5,851,139号(Xu)及び第5,169,065号(Bloch)が挙げられるが、これらのいずれの特許も参照により本明細書に援用される。
【0044】
概して、ウォータージェット加工では、高圧水流中に懸濁させた研削材粒子(例えば研削用「粗粒」)の高速流を用いる。水圧は大幅に変動してよいが、約5,000〜90,000psiの範囲内であることが多い。ガーネット、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、及びガラスビード等の多様な研削材が用いられる。この加工は、本発明の様々な実施形態において、上述のように、例えば金属基板、或いは基板と該基板上の保護コーティングとを貫通する通路穴の形成に用いられる。金属に用いる一部のその他の切削加工とは違って、ウォータージェット加工では、加工に伴って基板が著しく加熱されることがない。このため、通路穴の所望の出口部形状に悪影響を及ぼし得る「熱影響部」が基板表面上に形成されることがない。
【0045】
更に、ウォータージェットシステムは、多軸コンピュータ数値制御(CNC)装置を含み得る。CNCシステムそのものは、当該技術分野において周知であり、例えば、参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2005/0013926号(S.Rutkowskiら)に記載されている。このCNCシステムによって、複数のX、Y、及びZ軸と回転軸とに沿って、切削工具を移動させることができる。
【0046】
図9は、本発明に適する1つのウォータージェット切削機150の概略斜視図である。図10は、以下に説明する基板に対する装置の機能を示す、図9の機械のノズルアセンブリの概略斜視図である。図10のウォータージェット装置は通常、供給液体178(大抵は水)を高圧で噴射オリフィス152(図10)に送給可能な高容量ポンプ(図示せず)を備える。この噴射オリフィスは、その内部に混合室156が画定された分配ヘッド154内で支持されている。加圧された液体は、混合室から送出しノズル158に導入され、この送出しノズルを通って、上述のように、線状の噴流160となって相応に強力に放出される(図10参照)(この種の設備に関する様々な詳細事項も上述のMillerらの特許に記載されている)。
【0047】
引き続き図9及び10を参照すると、分配ヘッド154及びノズル158は、直立可動支柱164からの片持ちアーム162上において支持されている。この構成により、分配ヘッド154及びノズル158の、複数の移動軸の周りにおける往復運動の制御、例えば軸X及びYで示すような直角配向の移動方向の水平移動、並びに軸Zで示すような(上述したような)垂直移動が可能になる。加えて、適切なモータ(図示せず)も片持ちアーム162上に配設してよい。これらのモータにより、分配ヘッド及びノズルに、例えば軸B及びCで示す直角配向の回転軸の周りにおいて、関連ある回転運動を行わせることができる。
【0048】
図10を参照すると、典型的な基板166の一部分が示されている。非限定的な図面では、金属コーティング168が基板の外面上に直接施されており、この金属コーティング上にセラミックコーティング170(例えば上述のようなTBC)が施されている。図示の機構によると、流動性研削材172が調量装置174を通り、管176を介して送給される。研削材は、ベンチュリ効果により混合室156内に引き込まれて一次加圧水流178と混合され、噴射流体流160を構成する(研削材は上述の種類のものであってよい)。
【0049】
Millerらの特許に記載のように、噴流160の移動の制御は、ウォータージェット装置を効果的に機能させる上で重要である。複数の軸B、C、X、Y、Z(図9)の周りにおいて選択的にジェットノズル158の動作を(例えば上述のCNC装置で)制御することによって、ジェットノズルを三次元の移動経路において往復運動させることができる。これらの移動経路は、コーティングの有無にかかわらず、実質的に基板の三次元構成及び形状に正確に従ったものであり、ノズル158を基板に対して正確に一定の間隔及び角度配向に維持する。更に、当業者には理解できるように、多くの特徴とパラメータとを選択的に設定、変更、及び制御することで、ウォータージェット切削工具の使用を最適化できる。調節の非限定的な例には、アブレシブ噴射水流の、ノズルから放出される時の圧力、研削材と水の混合比、流体流の形状と相対的な拡散、研削材の具体的な種類及び大きさ、ノズルの直径が含まれる。
【0050】
本発明の好適な実施形態の殆どにおいて、ウォータージェット技術は、1つ以上の所定のパターンに従って基板の所定の領域に線状の噴流を導くことによって実施される。送出ノズルは、噴流を単一の又は反復的なプランジング動作、スイーピング動作、又はプランジングとスイーピングとの複合動作で誘導するようにプログラムされる。所定のパターンは、入口ボアの形成と山形出口の形成を含めた、上述の通路穴外形をもたらすパターンである。
【0051】
図11は、本発明の一部の実施形態に従って特定の通路穴を作製するプランジング動作を示す簡単な図である。プランジング動作は通常、様々な種類の設備、例えばウォータージェット、レーザー、放電加工(EDM)、又は機械式ビットに関連する円筒状工具によって行われる。本明細書では、プランジング技術をウォータージェット装置に関して詳細に説明するが、当業者は、この技術を本明細書に記載のその他の設備にも難なく適応させることができよう。
【0052】
引き続き図11を参照して、上述のようなウォータージェット装置を用いてもよい。予めプログラムされた一連のプランジ(「マルチプランジ」)を用いて、基板194の外面192を貫通して円穴形状190を形成する(ここでは、送出しノズル及び噴射水流を図示していないが、上述のように基板よりも上方に配置される。また、この技術によって多数の穴を基板に形成できるが、ここでは単一の穴を示す)。非限定的な例として、連続的な穴形状の方向は、表面192を通って一方の溝196の所定の領域から基板の反対側の溝198(この図では幾分途切れている)へと進んでいる。また、制御された噴射水流は、溝の形成後にほぼ水平な経路200を辿って移動する。この動作は、基板の表面を通る、制御された「スイーピング」と考えられる。このように、穴形状の形成は、プランジングとスイーピングの複合動作によって行われる。上述のようなCNC式の装置は、各通路穴の形成に用いるプランジング(例えば図9の「Z」方向)及びスイーピング(例えばX及びY方向)の動作に特に適する。
【0053】
図12は、マルチプランジ技術を用いて形成される通路穴210の一部分を表している。この図では、溝196及び198と入口ボア211を示す。1つの頂点214が入口ボア211の方向を「示す(point)」三角形の形状を有する台地状部212も示されている。影付きの機構216は、従来の山形出口形状に形成された通路穴と比較した、外観の相違を示す。換言すると、機構216(単一の機構とも考えられる)には、マルチプランジ技術を用いる一部の実施形態において、溝の上に「フード」が形成される。このようなフードは、例えば上述のLeeらの特許にあるように、当該技術分野において周知の山形形状にある程度は設けられることもあるが、このような大きさ及び形状のフードが以前から周知であったとは思われない。一部の実施形態において、フィルム穴の上面領域におけるフードの曲率は、以前から周知の山形形状に比べて大きい。また、一部の好適な実施形態において、フードの全表面積は、例えば図12に示すように、溝の全表面積の少なくとも約20%である。高温用基板の場合には、このような「フード部」の外形を改良することで、出口穴に隣接する外面(「高温表面」)へのフィルムクーラントの付着性の向上、即ち表面に沿った付着距離の延伸が可能になる。
【0054】
一部の実施形態において、本発明の通路穴は、放電加工(EDM)技術を用いることによっても良好に形成可能である。EDM技術は、当該技術分野において周知であり、参照により本明細書に援用される米国特許第6,969,817号(Martin Kin−Fei Leeら)をはじめ、多くの文献に記載されている。これらの技術は、「EDMフライス加工」、「電気火花加工」又は「スパークエロージョン」とよばれることもある。概して、EDMは、高速で繰り返される一連の放電によって、基板又は工作物中に所望の形状を得るために用いられる。この放電は、誘電性液体によって分離された、電圧に曝された2つの電極間で生じる。
【0055】
幾つかの種類のEDM装置の更なる具体例を挙げると、DC電圧がドリル電極に印加され、基板の所望の部分が、ドリル電極と基板表面の間の隙間の火花形成によって損傷する。電極と工作物との間の隙間には通常、誘電性の液体が送り込まれる。EDM穿孔装置は大抵、水(例えば非導電性脱イオン水)を加工液として用いる。材料除去プロセスは、部分的にスパークエロージョンであり、部分的に電解加工である。概して、工作物の導電性要件が、セラミック(TBC)保護膜等の非導電性材料で覆われた基板へのEDM加工の妨げになる。EDM設備に関するその他の詳細と、設備の使用にあたっての動作設定は、電気機械加工技術分野の当業者には周知であろう。
【0056】
本発明の実施形態の殆どについて、EDM電極は、上述のようにスイーピング動作で基板に向けられる。この動作は、図11に示す経路に沿った方向でもよいが、異なる経路を選択してもよい。ウォータージェット切削加工の場合と同様に、EDM装置を、多軸コンピュータ数値制御(CNC)装置によって制御できる。これらの装置によって、電極を2次元及び3次元の経路の全体に沿って誘導することに加え、電極を1つ以上の回転軸上での移動させることができる。
【0057】
本発明に適するEDM装置の非限定的な一例を図13に示す。このような装置の多くの要素も、上述のKin−Fei Leeによる特許文献に示されている。装置220は、ヘッドアセンブリ222を含む。このヘッドアセンブリに関する機能と詳細は、当該技術分野において周知であり(例えば米国特許第9,969,817号の図3)、本明細書で詳細に論述する必要はない。電磁石224がアダプタプレート228を用いてスライドアセンブリ226に結合される。第1の手動スライド230は、スライドアセンブリアダプタプレートに結合される。この手動スライド230によって、装置を基板、例えばタービンブレードの外面に電磁石224又はその他何らかの従来式の取付け機構を用いて取り付けた後、オペレータがヘッドアセンブリ222を位置決めできるようになる。
【0058】
第2の手動スライド232は、第1の手動スライド230に作動的に結合されており、第1の手動スライド230に対してヘッドアセンブリ222を垂直並進移動させるように構成されている。第2のスライド232は、小型傾斜回転バイス234に作動的に結合されている。この小型傾斜回転バイス234によって、曲線矢印236で示す両方向へ、ヘッドアセンブリ222を回転させることができる。また、このバイス234によって、ヘッドアセンブリ222を、角度を成して傾斜させることができる(この角度傾斜を矢印238で示す)。この実施形態では、手動スライドと小型傾斜回転バイスとを論述するが、穿孔及び/又はフライス加工の対象となる表面又は部分に対するヘッドアセンブリ222の位置決めが可能なあらゆる機構(例えば何らかのCNC装置)が、本開示の装置の様々な実施形態において用いられる等価物であることを理解されたい。
【0059】
本発明に使用可能な典型的なEDM装置において、ホルダ240を用いて、消耗ワイヤ電極242の移動を固定及び案内する。EDMシステム用の様々な種類のホルダ及び電極が市販されている。供給元の一例が、コネチカット州ミドルタウンのエアロスペーステクニクス(Aerospace Techniques)社である。装置220を介して供給されるワイヤ電極を、装置に関連付けられたプログラミングによって配向することで、本発明に必要な通路穴/出口部外形を正確に形成できる。
【0060】
その他の実施形態において、本発明の通路穴は、例えばレーザー穿孔装置等のレーザーシステムを用いることによって良好に形成可能である。好適な実施形態において、レーザー源には少なくとも1つのパルスレーザービームを用いる。このようなシステムは、2009年5月5日出願の特許出願第12/435,547号(Bunkerら)において説明されており、その内容を参照により本明細書に援用する。(常にというわけではないものの)通常、パルスレーザービームは、約50μ秒未満の範囲を含むパルス幅、約0.1ジュール未満の範囲を有するパルスエネルギー、約1000Hzを超える範囲の繰返し率を有する。このシステムは、また、レーザー源に結合された制御サブシステム等の、基板の位置をパルス幅及びエネルギーレベルと同期させるように構成されたその他様々な要素を含んでよい。このような制御サブシステムは、基板上に施されたコーティングを貫通する通路穴及び出口部外形を形成する場合に有利である。
【0061】
図14は、本発明の実施形態に従って少なくとも1つの通路穴を創出する、レーザーベースのシステムの概略図である。このシステム250は、パルスレーザービーム254を出力するレーザー源252を含む。レーザー源252は通常、約50μ秒未満のパルス幅と約0.1ジュール未満のパルスエネルギー値を有する。パルスは大抵、約1000Hzを超える繰返し率で励起される。一実施形態において、レーザービーム254の波長は、約200nm〜約1100nmの範囲内である。別の実施形態において、レーザービームの平均出力は約20Wを超え、約200ミクロン未満のスポットサイズに集光可能な所望のビーム品質を有する。
【0062】
一実施例において、パルス幅は約10μ秒〜約200ナノ秒の範囲内である。別の実施形態において、パルス幅は約50μ秒〜約1フェムト秒の範囲内である。このようなレーザーを用いると、幅広いレーザー強度を得られる。また、パルスエネルギーの低減、適切な波長、パルス幅の縮小により、レーザー加工のあらゆる弊害を軽減できる。同時に、比較的高い材料除去率を達成できる。
【0063】
引き続き図14を参照すると、レーザー源252に結合されたレーザービーム伝送システム256は、サンプル262の表面260上に1つ以上のビーム258を伝送する(サンプルは単純なブロック状で示されているが、上述のようにタービンブレードの形状であってもよい)。一部の実施形態において、レーザービーム伝送システム256は、ミラーレンズ加工ヘッドをベースにしたビーム伝送を用いる。別の実施形態においては、ファイバ加工ヘッドをベースにしたビーム伝送を用いる。場合によっては、レーザービーム伝送システムに、光ガルバノスキャナベースのビーム伝送を用いてもよい。
【0064】
モーションシステム262は更に、レーザービーム伝送システム256に結合されており、レーザービーム照射とサンプル262との間の相対位置を同期させる。監視サブシステム264は、レーザー経路の位置とレーザー加工の進捗を検出する。典型的な実施形態において、監視サブシステム264は更に、レーザー動作情報を収集すると共に、制御サブシステム又はプロセッサ266との間で情報をやり取りする。サブシステム/プロセッサによって、所望の時点で自動的にレーザー加工を中止し、次の加工位置への移動を指示できる。典型的なシステム設計において、制御サブシステム264は、レーザー源252、レーザービーム伝送システム256、監視サブシステム266、及びモーションシステム262と通信する。この種のシステムに関するその他関連の詳細は、特許出願第12/435,547号に記載されている。ウォータージェットシステム及びEDM装置の場合のように、本明細書に記載のようなレーザーベースのシステムを用いて、本発明に必要な通路穴及び出口部外形を正確に形成できる。
【0065】
種々の更なる改変及び検討事柄にも留意されたい。本明細書に記載の加工処理を用いて通路穴全体、即ち好適な山形出口を含む通路穴を形成できる。但し、これらの加工処理を用いて、例えば事前に基板に形成した通路穴(入口ボア)の延長部として山形出口のみを形成してもよい。
【0066】
更に、上述の技術を組み合わせたものを用いて通路穴又はその一部分を形成できる。例えば、通路穴の主要部分、即ち入口ボアをレーザー穿孔技術によって形成した後、所望の山形出口をEDM又はウォータージェット技術によって形成してもよい。その他の改変も可能である。異なる穴形成技術の幾つかを組み合わせた例が、米国特許第4,808,785号(Vertzら、参照により本明細書に援用される)に示されているが、その教示内容は、本発明に必要な特定の山形出口に関するものではない。
【実施例1】
【0067】
以下に示す実施例は例証目的にすぎず、本発明の特許請求の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0068】
複数の異なるモデル形状について、(X/Ms)値の関数として、フィルム冷却効率のモデル研究を行った(「M」を吹出し比、「s」をフィルム穴ボア断面と同じ流路面積を示す同等の二次元スロット高さとすると、無次元距離「X/Ms」は、フィルム穴出口部を始点とする冷却面に沿った軸方向距離「x」と積M*sの比である)。一例として、標準ディフューザ型通路穴、即ち穴出口部が山形の外形を有さない代わりに標準の台形の形状で終端する通路穴を評価した。本明細書に記載のマルチプランジ技術によって形成された、山形がベースの幾何形状に加えて、米国特許第7,328,580号(Leeら、上述した)に記載の山形の幾何形状に概ね沿った山形形状の穴も評価した。これらの研究から、マルチプランジ技術によって形成された穴を含む全ての山形形状の穴が、望ましいレベルの冷却効果を示すことがわかった。
【0069】
本発明の様々な実施形態を詳細に説明した。しかし、こうした詳細に厳密に忠実である必要はなく、様々な改変及び修正が当業者には想到可能であり、これらは全て、添付の特許請求の範囲に明示する本発明の範囲に含まれることを理解されたい。
【符号の説明】
【0070】
20 金属壁部
22 高温燃焼ガス
24 内壁面
26 外壁面
28 通路穴
30 通路穴入口
32 山形出口
33 冷却空気
34 入口ボア
36 軸
38 ボア出口
39 溝開始位置
40 山形出口
42 ウィング状溝
44 ウィング状溝
46 共通表面領域
48 谷状部/底部
50 台地状部
52 台地状部の終端位置
54 入口ボア34の下面
56 台地状部の上面
58 台地状部の前面
60 台地状部
62 谷状部
64 三角形頂点
66 溝
68 溝
70 軸
72 穴入口
80 通路穴
82 外面
84 台地状部
86 溝
88 溝
90 上面
93 後面
94 入口ボア
96 谷状領域
98 表面縁部
100 表面縁部
102 上面
108 通路穴
110 入口ボア
112 軸
114 台地状部
116 隆起領域
118 入口穴
120 谷状部
122 上面
123 通路穴
124 基板の外面
125 基板
126 保護コーティングシステム
128 台地状部
150 ウォータージェット切削機
152 噴射オリフィス
154 分配ヘッド
156 混合室
158 送出しノズル
160 直線状噴流
162 アーム
164 支柱
166 基板
168 金属コーティング
170 サーマルバリアコーティング
172 研削材
174 調量装置
176 管
178 水
190 円穴形状
192 表面
194 基板
196 溝
198 溝
200 水平経路
210 通路穴
211 入口ボア
212 台地状部
214 頂点
216 影付きの機構
220 EDM装置
222 ヘッドアセンブリ
224 電磁石
226 スライドアセンブリ
228 アダプタプレート
230 手動スライド
232 第2の手動スライド
234 小型傾斜回転装置
236 曲線矢印
238 矢印
240 ホルダ
242 ワイヤ電極
250 レーザーベースのシステム
252 レーザー源
254 パルスレーザービーム
256 レーザービーム伝送システム
258 レーザービーム
260 サンプル表面
262 サンプル
264 監視サブシステム
266 制御サブシステム/プロセッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(20)の形態の物品であって、
a)入口(30)を有する内面(24)と、
b)前記内面(24)から離間した外面(26)と、
c)少なくとも1つの列状又はその他のパターン状の通路穴(28)であって、各通路穴が前記内面(24)の前記入口(30)から前記基板(20)を貫通して前記外面(26)に近接する通路穴出口部(38)まで延在する入口ボア(34)を有し、前記入口ボア(34)は、前記穴出口部(38)に隣接する山形出口(32)で終端し、前記山形出口(32)は、共通表面領域(46)を自身間に有する1対のウィング状溝(42、44)を有する通路穴(28)と、を有し、
前記共通表面領域(46)は、前記穴出口部(38)に隣接する谷状部(48)と前記谷状部(48)に隣接する台地状部(50)とを含む、物品。
【請求項2】
各通路穴(28)は、前記内面及び前記外面(24、26)間で傾斜しており、
前記ウィング状溝(42、44)は、前記通路穴と前記外面との間で長手方向に、前記共通表面領域(46)に沿って横方向に分岐しており、
前記台地状部(50)の形状及び寸法とその周囲の共通表面領域(46)とによって、前記外面(26)からの前記冷却空気の流れの剥離を最小限に抑えながら、前記通路穴(28)を通って前記内面から前記外面へと送られる冷却空気の拡散が最大化される、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記入口ボア(34)は、前記外面(26)よりも下方で終端し、前記溝(42、44)は、前記共通表面領域(46)に沿って前記内面(24)から離れる方向に深さを減少して前記外面と融合する、請求項2に記載の物品。
【請求項4】
前記台地状部(50)は、ほぼ三角形又は台形の形状である、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記台地状部(60)は、ほぼ三角形の形状であり、前記三角形の台地状部の頂点は、前記2つの溝(66、68)の間のほぼ中間部分且つ前記共通表面領域(62)の一部分よりも上方に位置し、前記頂点は、ほぼ前記穴出口部の方向を示す、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
少なくとも1つのコーティング(126)が前記外面(124)上に施されており、各通路穴(123)の少なくとも一部分が前記コーティングを貫通して形成されている、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記コーティングは、金属コーティング上にセラミックTBCを含むコーティングシステムであり、前記通路穴(123)は、前記コーティングシステムを貫通して形成されている、請求項6に記載の物品。
【請求項8】
前記基板(20)は、ガスタービンエンジン壁部である、請求項1に記載の物品。
【請求項9】
各通路穴(28)は、ウォータージェット切削加工処理、放電加工(EDM)処理、レーザー穿孔加工処理、及びこれらを組み合わせたものから成る群から選択される技術によって形成される、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
内面(24)と前記内面から離間した外面(26)とを有すると共に前記2つの面間に少なくとも部分的に延在する入口ボア(34)を更に有する基板(20)に、列状又はその他のパターンの通路穴(28)を形成する方法であって、
前記入口ボアは、前記外面(26)に近接する穴出口部(38)に隣接する山形出口(32)で終端し、前記山形出口は、共通表面領域(46)を自身間に有する1対のウィング状溝(42、44)を有し、前記共通表面領域は、前記穴出口部(38)に隣接する谷状部(48)と前記谷状部に隣接する台地状部(50)とを含み、
コンピュータ制御された単一の又は反復的なプランジング動作、スイーピング動作、又はプランジングとスイーピングの複合動作で、接触装置又は接触媒体を前記基板(20)の所定の領域に誘導することによって、各入口ボア(34)と山形出口(32)を形成するステップを含む、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2011−247248(P2011−247248A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62490(P2011−62490)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】