差動位相偏移変調光受光用回折格子及びそれを用いた光受信装置
【課題】位相の変化を正確に検出する。
【解決手段】位相偏移変調された信号光を出射する、少なくとも一つの出射端としての端部11aと、端部11aから出射された光を回折させる回折格子本体としての格子面12と、前記回折格子本体から出射された光を入射する、m(m:整数)次回折光が入射される場所以外の場所に設けられた、少なくとも一つの第1の入射端としての端部11bとを備えた、位相偏移変調光受光用回折格子としての透過型回折格子11。
【解決手段】位相偏移変調された信号光を出射する、少なくとも一つの出射端としての端部11aと、端部11aから出射された光を回折させる回折格子本体としての格子面12と、前記回折格子本体から出射された光を入射する、m(m:整数)次回折光が入射される場所以外の場所に設けられた、少なくとも一つの第1の入射端としての端部11bとを備えた、位相偏移変調光受光用回折格子としての透過型回折格子11。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動位相偏移変調光受光用回折格子及びそれを用いた光受信装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信における伝送容量は日々刻々拡大しており、現在普及している波長分割多重方式によっても、伝送容量の大容量化は限界に近づいている。
【0003】
伝送容量を更に大容量化するための方策のひとつに、信号光の振幅又は位相を変化させることで情報を伝達する多値変調方式がある。
【0004】
多値変調の方法は各種知られているが、信号光の位相そのもの値に情報を載せる通常の位相偏移変調の他、直前の信号からの位相の変化量に情報を載せる方法がある。これを差動位相偏移変調という。
【0005】
差動位相偏移変調において位相の変化量はπ、π/2等任意の量を定めることができ、特に位相の変化量をπ/2としたものは差動四値位相変調(Differential Quadrature Phase Shift Keying:以下DQPSKと称する)と呼ばれる。
【0006】
差動位相偏移変調は、信号光の位相そのものの値を用いる必要がないため実施が容易と考えられる反面、復調時に誤りが生じやすい。そこで受信側において信号光の位相の変動をいかに正確に検出するかが重要となっており、従来より光の干渉を利用する方法が知られている。以下、DQPSKを例にとって説明を行う。
【0007】
図21は、従来の技術によるDQPSKによる光受信装置のフロントエンド部の構成を示す図である(例えば、非特許文献1を参照)。
【0008】
図21に示すように、フロントエンド部100は、信号光から干渉光を得るための干渉系110、及び干渉系110から出力された干渉光を電気信号に変換するバランス型受信器120から構成される。
【0009】
干渉系110は、入力した信号光を分岐させるビームスプリッタ111、ビームスプリッタ111で分岐された一方の信号光から干渉光を得るマッハツェンダ干渉計112a、ビームスプリッタ111で分岐された他方の信号光から干渉光を得るマッハツェンダ干渉計112bとから構成される。なお、干渉系110として一組のマッハツェンダ干渉計112a、112bを用いたが、マイケルソン干渉計などを用いてもよい。
【0010】
又、バランス型受信器120は、マッハツェンダ干渉計121aから出射された干渉光を電気信号に変換する第1のバランス型フォトダイオード(PD)120a、及びマッハツェンダ干渉計121bから出射された干渉光を電気信号に変換する第2のバランス型PD120bとから構成される。
【0011】
以上のような構成を有する光受信装置のフロントエンド部100の動作を以下に説明する。信号光は干渉系110に入力するとビームスプリッタ111で2つに分岐され、2つのマッハツェンダ干渉計112a、112bにそれぞれ導かれる。
【0012】
マッハツェンダ干渉計112aは、入力した一方の光信号に対し1シンボル分の時間遅延T及び位相差0を付加するものであり、マッハツェンダ干渉計112bは、入力した他方の光信号に対し1シンボル分の時間遅延Tと位相差π/2を付加するものである。
【0013】
マッハツェンダ干渉計112aに導かれた光信号は、さらに2つに分割され、一方の光信号は時間遅延Tを与えられて他方の光信号と再び結合される。このとき一方の光導波路の時間遅延Tにより再結合後の光信号は干渉光となり、互いの位相差に応じて2つのポートから所定の比率で出力する。マッハツェンダ干渉計112aの2つのポートからの出力はそれぞれバランス型PD120aにて受光され、当該比率に応じた同相信号成分dIとして出力され、図示しない後段の復号部に出力される。
【0014】
同様に、マッハツェンダ干渉計112bに導かれた光信号は、時間遅延T及び位相差π/2を与えられた後2つのポートから出力され、バランス型PD120aにてそれぞれ受光され、当該比率に応じた直交信号成分dQとして出力される。
【0015】
同相信号成分dI、直交信号成分dQは、信号光の位相の変化に応じて、図22の信号点配置図に示すように、(1、0)、(0、1)、(−1、0)、(−1、−1)の4つの組み合わせをとる。このように、DQPSKにおいては1つの信号の位相変動で2ビットの信号を伝達し、位相変動量に応じた4値の情報を伝達することが可能となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】“非コヒーレント多値受信器を用いた光ファイバ非線形効果の補償”2008年電子情報通信学会総合大会 通信講演論文集2、383ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記従来の光受信器には以下のような課題があった。
【0018】
フロントエンド部100は、マッハツェンダ干渉計112a、112bを用いた干渉系110、及び一対のバランス型PD120a及び120bを用いたバランス型受信器120を利用しているが、バランス型受信器120の出力である同相信号成分dI、直交信号成分dQの品質は、干渉系110の作製ばらつき又はPDの受光感度ばらつき等に依存する。
【0019】
干渉系110のマッハツェンダ干渉計112a、112bは一般に光ファイバや、SiO2基板上に形成された平面光導波路として実現されるが、マッハツェンダ干渉計112a、112bはそれぞれ別材料、又は独立した工程によって作製されるため、同一特性を確保することが困難であり、信号光の時間遅延や位相差の波長依存性等にばらつきが生ずる。同様のことがPD120a及び120bについても当てはまり、受光感度等の特性にばらつきが生ずる。
【0020】
このように、干渉系110の各部の特性が異なる場合には、同相信号成分dI、直交信号成分dQは、図22の信号点配置図において図中各点に示す信号光の位相の変化量に対応した正規の位置から外れてしまう。この信号点のずれは信号光の位相の変化が正確に検出できないことと同等であり、光信号の正確な復調の妨げとなってしまう。
【0021】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、位相の変化を正確に検出することができる差動位相偏移変調光受光用回折格子、及びそれを用いた光受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の目的を達成するために、第1の本発明は、差動位相偏移変調された信号光を出射する、少なくとも一つの出射端と、
前記出射端から出射された光を回折させる回折格子本体と、
前記回折格子本体から出射された光を入射する、m(m:整数)次回折光が入射される場所以外の場所に設けられた、少なくとも一つの第1の入射端とを備えた、差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0023】
又、第2の本発明は、前記第1の入射端の位置は、前記差動位相偏移変調された前記信号光の位相の変化量に基づき決定される、第1の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0024】
又、第3の本発明は、前記位相の変化量をπ/nとすると(n:自然数)、
前記第1の入射端は、前記回折格子本体から(m±(2n)−1)次回折光を入射する位置に配置される、第2の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0025】
又、第4の本発明は、前記回折格子本体から出射された光のうち、前記m次回折光を入射する、少なくとも一つの第2の入射端を備えた、第1から3のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0026】
又、第5の本発明は、前記回折格子本体における回折光の出射位置は複数であって、
前記複数の前記出射位置と前記出射端との間の光路長はそれぞれ異なる、第1から4のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0027】
又、第6の本発明は、前記回折格子本体は、
前記出射端から出射された光が斜め方向から入射される入射面を有する、第5の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0028】
又、第7の本発明は、前記回折格子本体は、
前記入射面と同一の面から回折した光を出射する反射型回折格子を有する、第6の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0029】
又、第8の本発明は、前記回折格子本体は、
前記出射端、前記第1の入射端及び前記反射型回折格子と光学的に結合したスラブ導波路を有し、
前記出射端、前記第1の入射端及び前記反射型回折格子は、前記スラブ導波路上にて同一のローランド円の周上に配置されている、第7の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0030】
又、第9の本発明は、前記回折格子本体は、
前記入射面を透過して回折した光を出射する透過型回折格子を有する、第1から第6のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0031】
又、第10の本発明は、前記回折格子本体は、スラブ導波路であり、
前記透過型回折格子は、前記スラブ導波路内に形成された格子面であり、
前記出射端及び前記第1の入射端は、前記スラブ導波路の縁部に設けられている、第9の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0032】
又、第11の本発明は、前記回折格子本体は、前記出射端及び前記第1の入射端が設けられるとともに、前記透過型回折格子が収納される筐体部と、
前記筐体部内の前記出射端と前記透過型回折格子との間の空間に設けられた、前記出射端から出射された光を分岐させ、前記透過型回折格子の互いに異なるスリットに入射させる分岐光学系とを有する、第9の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0033】
又、第12の本発明は、前記回折格子本体は、互いに光路長が異なる複数の導波路を有するアレー導波路を有する、第1から第5のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0034】
又、第13の本発明は、
前記回折格子本体の温度を一定に保つよう調節する温度調節部を備えた、第1から第12のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0035】
又、第14の本発明は、
電圧を印加することにより前記回折格子本体の屈折率を調整する屈折率調節部を備えた、第1から第12のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0036】
又、第15の本発明は、
第1から第14のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子と、
少なくとも前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記第1の入射端と、光学的に結合した受光素子と、
前記受光素子の受光した光信号を処理する信号処理部とを備えた、光受信装置である。
【0037】
又、第16の本発明は、
第4の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子と、
前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記第1の入射端と光学的に結合した第1の受光素子と、
前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記第2の入射端と光学的に結合した第2の受光素子と、
前記第1の受光素子の受光した光信号の大きさと、前記第2の受光素子の受光した光信号の大きさとの組み合わせに基づいて、前記差動位相偏移変調光受光用回折格子へ入力した前記信号光の位相の変化量を識別する変化量識別部とを備えた、光受信装置である。
【0038】
又、第17の本発明は、
前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記回折格子本体は、一端に前記出射端が設けられ、他端が互いに光路長が異なる複数の光導波路に分岐しているアレー導波路と、
一端は前記アレー導波路と光学的に接続され、他端は前記第1の入射端及び前記第2の入射端が設けられたスラブ導波路とを有し、
前記アレー導波路の前記複数の光導波路は、前記外部より入力する前記信号光の位相が変化した場合、位相の変化する前の前記信号光と前記位相の変化した後の前記信号光とが、同一時間内に前記スラブ導波路を伝播する光路長差を有する、第16の本発明の光受信装置である。
【発明の効果】
【0039】
以上のような本発明によれば、位相の変化を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態1の透過型回折格子11を含む光受信装置の構成図である。
【図2】(a)本発明の実施の形態1における位相の変化を検知する原理を説明するための図である。(b)本発明の実施の形態1における位相の変化を検知する原理を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態2の反射型導波路回折格子31を含む光受信装置の構成図である。
【図4(a)】本発明の実施の形態2の反射型導波路回折格子31における信号光入力時の動作を説明するための図である。
【図4(b)】本発明の実施の形態2の反射型導波路回折格子31における信号光入力時の動作を説明するための図である。
【図4(c)】本発明の実施の形態2の反射型導波路回折格子31における信号光入力時の動作を説明するための図である。
【図4(d)】本発明の実施の形態2の反射型導波路回折格子31における信号光入力時の動作を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態2の反射型導波路回折格子31を含む光受信装置において用いられる信号光の模式図である。
【図6】本発明の実施の形態3のアレー導波路回折格子60を含む光受信装置の構成図である。
【図7】本発明の実施の形態3のアレー導波路回折格子60を含む光受信装置において用いられる信号光の模式図である。
【図8】(a)本発明の実施の形態3のアレー導波路回折格子60における信号光入力時の動作を説明するための図である。(b)本発明の実施の形態3のアレー導波路回折格子60における信号光入力時の動作を説明するための図である。(c)本発明の実施の形態3のアレー導波路回折格子60における信号光入力時の動作を説明するための図である。
【図9】本発明の実施の形態3における信号光のパルスの干渉条件を説明するための図である。
【図10】本発明の実施の形態4のアレー導波路回折格子60を含む光受信装置の構成図である。
【図11】本発明の実施の形態4のアレー導波路回折格子60を含む光受信装置の要部構成図である。
【図12】本発明の実施の形態5のアレー導波路回折格子60を含む光受信装置の構成図である。
【図13】本発明の実施の形態5のアレー導波路回折格子60を含む光受信装置の要部構成図である。
【図14】本発明の実施の形態6の透過型回折格子312bを含む光受信装置の構成図である。
【図15】本発明の透過型回折格子の他の構成例を含む光受信装置の構成図である。
【図16】本発明の実施の形態7のアレー導波路回折格子460及び復調部470を含む光受信装置の構成図である。
【図17】本発明の実施の形態7の光受信装置の動作を説明するための図である。
【図18】本発明の実施の形態7の光受信装置の他の構成例を示す図である。
【図19】本発明の実施の形態7の光受信装置の動作の例を説明するためのグラフを示す図である。
【図20】本発明の実施の形態7の光受信装置の動作の例を説明するための表を示す図である。
【図21】従来の技術によるDQPSKによる光受信装置のフロントエンド部の構成を示す図である。
【図22】DQPSKの信号点配置図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置の構成図である。
【0042】
図1において、光受信装置1は、入力する光信号を電気信号に変換するフロントエンド部10と、フロントエンド部10から得られた電気信号を復調する復調部20とから構成される。フロントエンド部10は、差動位相偏移変調により変調された信号光が入力される透過型回折格子11、透過型回折格子11から出力される光を受光し、電気信号に変換するフォトダイオード(PD)13及び14から構成される。
【0043】
透過型回折格子11はSiO2等により作製されたスラブ導波路であって、その内部には図中奥から手前方向に向かって形成されたスリットを有する格子面12が形成されている。透過型回折格子11の内部において、端部11aから奥に向かって出射された信号光は、図中矢印に示す平行光L0として透過型回折格子11内部全体に渡って直進する。格子面12は平行光L0の進行方向に直交しており、平行光L0は格子面12により回折され、端面11dから透過型回折格子11の外部に向かって出力される。
【0044】
PD13及び14は、透過型回折格子11から出力された光を受光する手段であり、PD13は透過型回折格子11の端部1bを経由した光を受光する位置に、PD14は透過型回折格子11の端部11cを経由した光を受光する位置に、それぞれ位置している。
【0045】
以上の構成において、透過型回折格子11は、本発明の差動位相型変位変調光受光用回折格子であって、かつ回折格子本体及びスラブ導波路に相当する。又、端部11aは本発明の出射端に相当し、端部11bは本発明の第1の入射端に、端部11cは本発明の第2の入射端にそれぞれ相当する。又、格子面12は本発明の透過型回折格子の格子面に相当する。又、PD13、14は本発明の受光素子に、復調部20は本発明の信号処理部に相当し、光受信装置1は本発明の光受信装置に相当する。
【0046】
以上のような構成を有する、本発明の実施の形態1の光受信装置を以下に説明する。
【0047】
光受信装置の基本的な動作は従来例と同様であり、送信側から光ファイバ等によって伝達されてきた信号光は、透過型回折格子11を経由した後、PD13又はP14により受光され、PD13又は14は光を受光するとこれを電気信号に変換し、復調部20へ出力する。復調部20はPD13又は14からの電気信号を復調して原信号を得る。
【0048】
本発明の実施の形態1においては、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相の変化を、透過型回折格子11、及びPD13、14を用いて検出するようにしたことを特徴とする。以下、図1及び図2(a)(b)を参照して詳細な説明を行う。
【0049】
図2(a)は、透過型回折格子11内部の、格子面12近傍の状態を模式的に示す図である。図2(a)に示すように、格子面12は複数(図中では3つのみ例示)のスリット12aが設けられた面である。端部11aから出射された平行光L0が格子面12を通過する際に、スリット12aからそれぞれ出射される波面が干渉を起こすことにより、以下の(数1)を満たす回折角θを有する回折光が生ずる。
(数1)
d・sinθ=m・λ
なお、(数1)においてdはスリット12aの間隔、mは回折次数(m:整数)、λは平行光L0の波長である。
【0050】
ところで、差動位相型偏移変調された信号光の位相φは一般にφ=ω・t+A(ω:信号光の振動数、t:時間、A:任意の値を取り得る初期位相)で示され、このφからの位相差(例えば、φ±π/2、π、3π/2、…)を有する信号の位相はφ=(ω・t+A±π/2(又、±π、±3π/2、…))で示される。
【0051】
しかしながら、簡単のため、以下の説明においては、位相差の基準となる位相を有する信号光を「φ=0の位相を有する信号光」と定義し、この信号光φ=0に対して位相差を有する信号光を、その位相差の値によって定義することとした。例えば、基準となる信号光に対してπの位相差を持つ信号を「φ=πの位相を有する信号光」と呼ぶ。
【0052】
以下、説明をつづける。図2(a)に示すように、信号光である平行光L0の位相φが一定の位相φ=0である場合は、スリット12aからそれぞれ出射される波面において、図中波面の実線で示す波の山と山、及び、図中波面の点線で示す谷と谷が重なり合う、図中○印で示す位置を結ぶ線上に回折光が生じ、波の山と谷とが重なり合う部分は暗部となる。
【0053】
このように、平行光L0は、回折後は離散した±m次の回折光として透過型回折格子11内を進行し、図1においては、端面11dの特定位置から外部へ出力される。
【0054】
なお、図2(a)中においては、格子面12の作用により0次回折光と、±1次回折光が生ずるものとして示したが、±m次の回折光のうち光強度が最も強いのは0次回折光であり、これは平行光L0と同一光軸上の光である。したがって、本実施の形態1においては、0次回折光が透過する位置を透過型回折格子11の端部11cと定め、端部11cから出力される光を受光できるようにPD14を配置するようにしている。すなわち、格子面12から透過型回折格子11の端部11cに入射され、外部へ出力される0次回折光L1がPD14によって受光される。
【0055】
次に、信号光に位相の変化が生じた場合の動作を説明する。
【0056】
図2(b)に示すように、信号光である平行光L0の位相φがφ=0からφ=πに変化した場合、スリット12aからそれぞれ出射される波面において、φ=0である波とφ=0である波とが干渉する箇所が生ずる。当該箇所においては、位相が一定である場合に波の山と山、又は谷と谷が重なり合って±m次の回折光を生じさせていた位置は、一方の波の山と谷とが入れ替わるため、互いに打ち消し合い、図中×印で示すように暗部となる。
【0057】
一方、位相が一定である場合に暗部となっていた、波の山と谷とが重なりあっていた位置は、一方の波の山と谷とが入れ替わるため、波の山と山、又は谷と谷とが重なり、図中▲印で示す位置を結ぶ線上に新たな回折光を生じさせる。
【0058】
このとき、位相φ=0である信号光と位相φ=πである信号光との干渉によって生じる新たな回折光は、以下の(数2)を満たす。
(数2)
d・sinθ=(m±(1/2))・λ
したがって、信号光の位相がφ=0からφ=πに変化すると、その変化の前後における平行光L0は、回折後は(m±(1/2))次回折光として透過型回折格子11内を進行し、端面11dの特定位置から外部へ出力されることとなる。
【0059】
ここで、(数2)に示される条件は、同位相の信号光同士が干渉する場合に光が弱め合うことにより生ずる暗線の発生条件と同一であり、波長λの係数(m±(1/2))は整数値を取り得ない値、すなわち非整数である。このことから、本明細書の説明においては、位相差がある信号光同士の干渉により生じる回折光を、非整数の次数の回折光と呼ぶ。
【0060】
なお、図2(b)中においては、格子面12の作用により±1/2次回折光と、±3/2次回折光が生ずるものとして示したが、次数が小さい回折光のほうが強い光強度を有するため、本実施の形態1においては、1/2次回折光が透過する位置を透過型回折格子11の端部11bと定め、端部11bから出力される光を受光できるようにPD13を配置するようにしている。すなわち、格子面12から透過型回折格子11の端部11bに入射され、外部へ出力される+1/2次回折光L2がPD14によって受光される。
【0061】
更に、平行光L0の位相がφ=πに変化した後は、スリット12aからそれぞれ出射される波面は、φ=πである波同士が干渉することとなる。この場合は、図2(a)に示す場合と同様、平行光L0は、回折後は離散した±m次の回折光として透過型回折格子11内を進行し、外部へ出力される0次回折光L1がPD14によって受光される。
【0062】
以上のように、本実施の形態1の光受信装置によれば、透過型回折格子11を備えたことにより、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相が一定である場合に生ずる0次回折光L1、及び当該信号光の位相が変化した場合に生ずる1/2次回折光L2の2種類の回折光を発生させ、これら回折光を、それぞれPD13、14を用いて検出するようにしている。
【0063】
透過型回折格子11は単一の部品であり、各回折光は同一品質のスラブ導波路内を通過するため光導波路の作製に起因する特性のばらつきは原理的に生じない。又、PD13、PD14はそれぞれ独立した回折光を受光する単一ダイオードにより構成されるため、受光特性のバラツキによる影響を受けにくい。したがって、本実施の形態1においては、図15に示す従来例より単純な構成であって正確な位相の変化を検知することができる。
【0064】
なお、上記の実施の形態においては、位相の変化量をπであるとしたが、位相の変化量は任意の値であってよく、その変化量に基づいて発生する回折光の位置を特定し、当該位置に、PDを設けるようにすればよい。このとき、端部11b、11c等の具体的な位置は各回折光の回折角及び透過型回折格子11の各部の寸法から計算により求めてもよいし、実際にPDにより透過型回折格子11からの出力光を受光することによって決定してもよい。
【0065】
望ましくは、位相の変化量をπ/nとすると(n:自然数)、透過型回折格子11からの光が出力される端部は、透過型回折格子11から非整数の次数(m±(2n)−1)(m:整数)を有する(m±(2n)−1)回折次数光を入射する位置に配置されるようにする。このときmは最小値m=0としたほうが、検出すべき光の光強度を最大限確保できるため、望ましい。
【0066】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置の構成図である。
【0067】
図3において、光受信装置2は、入力する光信号を電気信号に変換するフロントエンド部30と、フロントエンド部30から得られた電気信号を復調する復調部40とから構成される。
【0068】
フロントエンド部30は、差動位相偏移変調により変調された信号光が入力される反射型導波路回折格子31、反射型導波路回折格子31から出力される光を受光し、電気信号に変換するフォトダイオード(PD)33〜36から構成される。
【0069】
反射型導波路回折格子31はSiO2等により作製されたスラブ導波路であって、外部からの信号光を入力するための入力導波路34a、復調部40へ光を出力するための出力導波路34b〜34eを有する。又、反射型導波路回折格子31の内部は平面図においてローランド円37を形成しており、その内部側壁には、反射型回折面32、入力導波路43aから光を反射型回折面32に向けて出射する端部31a、及び反射型回折面32から出射された光を、出力導波路34b〜34eを介してPD33〜36へ入射させるための端部31b〜31eが配置されている。なお、反射型回折面32は反射型導波路回折格子31の内部を加工して形成してもよいし、別構成として配置するようにしてもよい。
【0070】
反射型導波路回折格子31において、入力導波路43aから入射し、端部31aから出射された信号光は、図中矢印に示す入力信号光L0として広がりながら直進する。反射型回折面32は入力信号光L0を端部31b〜31eに向かって回折させる。
【0071】
反射型回折面32、端部31a、及び端部31b〜31eはローランド円37上に配置されていることから、端部31aから出射された光であって、反射型回折面32により回折された光は、必ず端部31b〜31eのいずれかに到達することとなる。
【0072】
PD33〜36は、反射型導波路回折格子31の出力導波路34b〜34eから出力された光をそれぞれ受光する手段であり、PD33は反射型導波路回折格子31の端部31bを経由した光を導く出力導波路34bと光学的に接続する位置に、PD34は反射型導波路回折格子31の端部31cを経由した光を導く出力導波路34cと光学的に接続する位置に、PD35は反射型導波路回折格子31の端部31dを経由した光を導く出力導波路34dと光学的に接続する位置に、PD36は反射型導波路回折格子31の端部31eを経由した光を導く出力導波路34eと光学的に接続する位置に、それぞれ位置している。
【0073】
以上の構成において、反射型導波路回折格子31は、本発明の差動位相型変位変調光受光用回折格子に相当する。又、端部31aは本発明の出射端に相当し、端部31c〜31eは本発明の第1の入射端に、端部31bは本発明の第2の入射端にそれぞれ相当する。又、反射型回折面32は本発明の反射型回折格子に相当する。又、PD33〜36は本発明の受光素子に、復調部40は本発明の信号処理部に相当し、光受信装置2は本発明の光受信装置に相当する。
【0074】
以上のような構成を有する、本発明の実施の形態2の光受信装置を以下に説明する。
【0075】
光受信装置の基本的な動作及び原理は、実施の形態1と同様である。すなわち、反射型導波路回折格子31を用いて、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相が一定である場合に生ずる回折光、及び当該信号光の位相が変化した場合に生ずる回折光の2種類の回折光を発生させ、これら回折光をそれぞれPD33〜36を用いて検出する。
【0076】
以下、図3及び図4(a)(b)(c)(d)を参照して更に詳細な説明を行う。ただし図4(a)(b)(c)(d)は、反射型導波路回折格子31内部における入力信号光L0と反射型回折面32近傍の状態を模式的に示す図である。又、信号光は、実施の形態1と同様、位相φがφ=0及びφ=πの2つの値を持ち、これら2値の変化を検出対象とするものとする。
【0077】
図4(a)に示すように、端部31aから反射型回折面32に向けて出射されている入力信号光L0の位相がφ=0からφ=πに変化した場合、時刻t=T1において、反射型回折面32に達している入力信号光L0の波面はその位相φがφ=0である波のものだけなので、この入力信号光L0が反射型回折面32から回折して生ずる光は、実施の形態1と同様、0次回折光L11として、端部31bへ入射される。
【0078】
すなわち、時刻t=T1においては、0次回折光L11のみがPD33によって受光される。
【0079】
次に、図4(b)に示すように、時刻t=T2において、反射型回折面32に達している入力信号光L0の位相がφ=0からφ=πに変化した場合、反射型回折面32で反射したφ=0の位相の波の波面とφ=πの位相の波の波面とが干渉するため、実施の形態1の図2(b)の場合と同様、1/2次回折光L21が発生し、端部31dに入射される。
【0080】
一方、反射型回折面32においては、φ=0の波の波面も連続して反射型回折面32に達しており、これら反射型回折面32で反射したφ=0の位相の波同士が干渉するため、これら干渉に基づき生じた0次回折光L12も同時に発生し、端部31bに入射される。
【0081】
すなわち、時刻t=T2においては、1/2次回折光L21がPD35によって受光され、0次回折光L12がPD33によって受光される。なお、図4(a)において1/2次回折光L21及び0次回折光L12の光路は理解の容易のために模式的に記述したものであって、現実の光路とは異なる。これは以下の説明においても同様である。
【0082】
更に、図4(c)に示すように、時刻t=T3においては、反射型回折面32に達している入力信号光L0において、位相がφ=0からφ=πに変化する部分は、反射型回折面32の図中上部へ移動し続け、当該上部において、反射型回折面32で反射したφ=0の位相の波の波面とφ=πの位相の波の波面とが干渉するため、1/2次回折光L22を発生させ、端部31dに入射させる。
【0083】
一方、反射型回折面32においては、図4(b)の場合と同様、φ=0の波の波面も連続して反射型回折面32に達しており、これら反射型回折面32で反射したφ=0の位相の波同士の干渉に基づき生じた0次回折光L13も同時に端部31bに入射され続ける。
【0084】
すなわち、時刻t=T3においても、1/2次回折光及び0次回折光が両方受光される動作が継続している。
【0085】
図4(d)に示す場合も、図4(c)の場合と同様であり、時刻t=T4においても、反射型回折面32に達している入力信号光L0において、位相がφ=0からφ=πに変化する部分は、反射型回折面32の図中上部へ移動し続けるため、当該上部において反射型回折面32で反射したφ=0の位相の波の波面とφ=πの位相の波の波面との干渉により生じた1/2次回折光L23は端部31dに入射される。
【0086】
又、反射型回折面32においても、反射型回折面32で反射したφ=0の位相の波同士の干渉に基づき生じた0次回折光L14も同時に端部31bに入射され続ける。
【0087】
すなわち、時刻t=T4においても、1/2次回折光及び0次回折光が両方受光される動作が継続しており、この状態は、入力信号光L0において、位相がφ=0からφ=πに変化する部分が反射型回折面32で反射しきってしまうまで続くことになる。
【0088】
以上図4(a)〜(d)に示したように、本実施の形態2の光受信装置においては、ローランド円37上に配置した反射型回折面32、端部31a、及び端部31b〜31eを有する反射型導波路回折格子31を用いたことにより、入力信号光L0において位相φがφ=0からφ=πに変化した状態の波が連続して反射型回折面32に到達する構成を実現している。これにより入力信号光が反射型導波路回折格子31内部を伝播する長期間に渡って、位相の変化に起因する1/2次回折光を発生させ、PD35に受光させることができる。
【0089】
これは以下の効果をもたらす。すなわち、実施の形態1のような透過型回折格子を用いた場合、PDが実際に光を検出時間に比して1/2次回折光が発生する期間が短時間となってしまい、十分に回折光を検知できない恐れがある。これに対し、本実施の形態2による反射型導波路回折格子31においては、PDの検知可能な時間に比して十分長期間1/2次回折光を発生させることができるため、位相の変化をより正確に検知することが可能となる。
【0090】
なお、上記の説明においては、位相の変化量はπであるとしたが、実施の形態1と同様に、PDの配置個所として、当該位相の変化量に基づいて発生する回折光の位置を特定できれば、任意の値であってよい。更に位相の変化量はπ/n(n:自然数)が望ましい。n=2の場合、位相の変化量はπ/2であり、DQPSKにおいて本実施の形態を実現することが可能となる。このとき端部31d及び31eは、DQPSKにおいて、それぞれ位相φの値がφ=π/2の場合、φ=3π/2である場合に、位相の変化により発生する、1/4次回折光及び3/4次回折光の入射を受ける端部である。したがって、上記図4(a)〜(b)に示すのと同様の原理で、これら端部31d及び31eを介して、長期間にわたってPD34、PD37にこれら回折光を入射させ、信号を取り出すことができる。
【0091】
又、本実施の形態2の構成は、図5に示すように、信号光が、1シンボルが連続して伝送されるNRZ(non return zero)信号である場合に用いるのが好適である。一旦電圧が0に帰還するRZ(return zero)信号においては、位相の変化の間に空白が発生し、干渉が生じない恐れがあるためである。
【0092】
(実施の形態3)
図6は、本発明の実施の形態3の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置の構成図である。
【0093】
図6において、光受信装置3は、入力する光信号を電気信号に変換するフロントエンド部50と、フロントエンド部50から得られた電気信号を復調する復調部70とから構成される。
【0094】
フロントエンド部50は、差動位相偏移変調により変調された信号光が入力されるアレー導波路回折格子60、アレー導波路回折格子60から出力される光を受光し、電気信号に変換するフォトダイオード(PD)51〜54から構成される。
【0095】
アレー導波路回折格子60は、外部からの信号光を入力するための入力導波路61a、入力導波路61aから入力した光をアレー導波路63へ分配する入力側スラブ導波路62、2本の光導波路63(イ)及び63(ロ)を有するアレー導波路63、アレー導波路63から出力された光を再結合して出力導波路61b〜61eへ導く出力側スラブ導波路64、及び復調部70へ光を出力するための出力導波路61b〜61eを有する。
【0096】
アレー導波路回折格子60において、隣接する光導波路63(イ)及び63(ロ)の光路長は、(数3)に示す差分ΔLずつ異なる。
(数3)
ΔL=k・λ
ただしλは信号光の波長であり、kは自然数である。なお、隣接する光導波路の本数が3本以上の場合、最短のものと最長のものとの光路長差は(数4)に示す通りとなる。
(数4)
ΔL=(光導波路の本数−1)・k・λ
又、出力側スラブ導波路64は、その内部でアレー導波路63から出力された光を干渉させる手段であって、干渉光を、出力導波路61b〜61eを介してPD51〜54へ入射させるための端部64b〜64eが配置されている。なお、アレー導波路63の光導波路63(イ)及び63(ロ)はSiO2基板65上に形成した光導波路として実現され、入力側スラブ導波路62、アレー導波路63及び出力側スラブ導波路64も同一のSiO2基板65上に形成される。なお、アレー導波路63を構成する各光導波路63(イ)及び63(ロ)は光ファイバにより構成し、入力側スラブ導波路62及び出力側スラブ導波路64とは別構成としてもよい。
【0097】
アレー導波路回折格子60において、入力導波路61aから入射し、端部62aから出射された信号光は、入力側スラブ導波路62内を広がりながら進み、アレー導波路63の各光導波路に同一位相で入力される。
【0098】
上述したように、アレー導波路63を構成する各光導波路63(イ)、63(ロ)は光路長がk・λ異なることから、アレー導波路63から出力側スラブ導波路64に出力された光は、出力側スラブ導波路64内で干渉して回折光となり、端部64b〜64eのいずれかに到達することとなる。
【0099】
PD51〜54は、アレー導波路回折格子60の出力導波路61b〜61eから出力された光をそれぞれ受光する手段であり、PD51はアレー導波路回折格子60の端部64bを経由した光を導く出力導波路61bと光学的に接続する位置に配置される。又、PD52はアレー導波路回折格子60の端部64cを経由した光を導く出力導波路61cと光学的に接続する位置に、PD53はアレー導波路回折格子60の端部64dを経由した光を導く出力導波路61dと光学的に接続する位置に、PD54はアレー導波路回折格子60の端部64eを経由した光を導く出力導波路61eと光学的に接続する位置に、それぞれ配置される。
【0100】
以上の構成において、アレー導波路回折格子60は、本発明の差動位相型変位変調光受光用回折格子に相当する。又、端部62aは本発明の出射端に相当し、端部64c〜64eは本発明の第1の入射端に、端部64bは本発明の第2の入射端にそれぞれ相当する。又、アレー導波路63は本発明のアレー導波路に相当する。又、PD51〜54は本発明の受光素子に、復調部70は本発明の信号処理部に相当し、光受信装置3は本発明の光受信装置に相当する。
【0101】
以上のような構成を有する、本発明の実施の形態3の光受信装置3を以下に説明する。
【0102】
光受信装置3の基本的な動作及び原理は、実施の形態1、2と同様である。すなわち、アレー導波路回折格子60を用いて、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相が一定である場合に生ずる回折光、及び当該信号光の位相が変化した場合に生ずる回折光の2種類の回折光を発生させ、これら回折光をそれぞれPD51〜54を用いて検出する。
【0103】
以下、図6、図7、図8(a)(b)(c)及び図9を参照して更に詳細な説明を行う。ただし図7は、光受信装置3にて受光される光信号を示す図、図8(a)(b)(c)は、アレー導波路回折格子60内部における入力信号光L0と反射型回折面32近傍の状態を模式的に示す図、及び図9はアレー導波路63内における各信号光の状態を説明するための図である。
【0104】
信号光は、実施の形態1と同様、位相φがφ=0及びφ=πの2つの値を持ち、これら2値の変化を検出対象とするものとする。更に、図7に示すように、信号光は、1シンボルと1シンボルとの間に必ず電圧が0に帰還して伝送されるRZ(return zero)信号であり、位相がφ=0であるパルス、及び位相がφ=πであるパルスが等時間間隔で伝送されるものとする。
【0105】
上述したように、アレー導波路63を構成する各光導波路63(イ)、63(ロ)は光路長がk・λ異なることから、アレー導波路63から出力側スラブ導波路64に出力された光は、光導波路毎に(数5)に示す時間遅延Δtを生じさせる。
(数5)
Δt=n・ΔL/c
ただしnは光導波路の屈折率、cは光速度である。
【0106】
ここで図8(a)に示すように、時刻t=T1において、アレー導波路63内を進行する各信号光は、それぞれ位相φ=0であるパルス及びφ=πであるパルスを含んでいるが、光導波路の光路差に基づく時間遅延のため、時刻t=T1において、出力側スラブ導波路64に出力されたパルスは、光導波路63(イ)及び光導波路63(ロ)のいずれにおいても位相φ=0のものだけなので、これらパルスが出力側スラブ導波路64内で干渉して生ずる光は、実施の形態1の図2(a)の場合と同様、整数の次数を有する回折光L31として、端部64bへ入射される。
【0107】
すなわち、時刻t=T1においては、k次回折光L31のみがPD51によって受光される。なお、図8(a)においてk次回折光L31の光路は理解の容易のために模式的に記述したものであって、現実の光路とは異なる。これは以下の説明においても同様である。
【0108】
次に、図8(b)に示すように、時刻t=T2においては、出力側スラブ導波路64には、光導波路63(イ)から出力された位相φ=πのパルスに加えて、光導波路63(ロ)から出力された位相φ=0のパルスも入力する。このとき、出力側スラブ導波路64内で位相φ=0のパルスと位相φ=πのパルスとが干渉するため、実施の形態1の図2(b)の場合と同様、非整数の次数を有する回折光L41が発生し、端部64dに入射される。
【0109】
更に、図8(c)に示すように、時刻t=T3においては、図8(a)の場合と同様、出力側スラブ導波路64には、光導波路63(イ)及び光導波路63(ロ)から出力された位相φ=πのパルス同士の干渉に基づくk次回折光L33が発生し、端部64bに入射される。
【0110】
以下信号光のパルスの出力側スラブ導波路64への入力に応じて回折光が適宜発生し、端部64b又は64dに入射されることとなり、位相の変化が検知される。
【0111】
ここで信号光における位相φ=0のパルスと位相φ=πのパルスが干渉するための条件の一例を説明する。アレー導波路63における、各光導波路の光路長差ΔLに基づく時間遅延Δtは、一般に(数6)で表すことができる。
(数6)
Δt=n・ΔL/c
の時間遅延が生じる。ここでcは光速度、nはアレー導波路の屈折率である。
【0112】
ここで、パルスの時間幅Tw1、パルスの時間間隔Tw2が(数7)(数8)の関係を満たすように設定する。
(数7)
Tw1<Tw2
(数8)
Tw1<Δt
(数7)(数8)の条件で信号光をアレー導波路63に出力すると、図9に示すように、時刻t=T1において、光導波路63(イ)及び63(ロ)を伝達するパルスは同位相φ=0である。これは出力側スラブ導波路64内にてk次回折光を生じさせる条件であり、図8(a)に示す状態に相当する。
【0113】
次に、t=T2では、光導波路63(イ)上には、位相φ=πのパルスが伝達しているが、光導波路63(ロ)においては、時間遅延Δtのため、位相φ=0のパルスが存在する。これは出力側スラブ導波路64内にて(k+(1/2))次回折光を生じさせる条件であり、図8(b)に示す状態に相当する。さらに、t=T3では、光導波路63(イ)及び63(ロ)を伝達するパルスは同位相φ=πであり、図8(c)に示す状態に相当する。
【0114】
このように、(数6)(数7)に示す条件に基づけば、出力側スラブ導波路64内にて、アレー導波路63の各光導波路を通過するパルス同士でk次回折光と(k+(1/2))次回折光とを択一的に発生させることができる。なお、光導波路63(イ)又は光導波路63(ロ)のいずれか一方にしかパルスが伝達しない場合は、干渉が発生しないため、出力導波路61b〜eに信号光が出力されることはない。
【0115】
実施の形態2で説明した反射型回折格子を用いた場合は、図7に示すRZ信号を用いた場合、信号光のパルス間の時間遅延が大きい場合、回折後の光の一部に干渉が生じず、位相の変化を検出できない恐れがあった。
【0116】
これに対し、本実施の形態3によるアレー導波路回折格子60においては、複数の光導波路で光路差を作り出すようにしたことで、信号光を構成するシンボルである各パルスが必ずアレー導波路63の出力後に干渉を起こすため、位相が互いに異なるパルス同士の干渉により生ずる回折光を確実に発生させることができ、位相の変化をより正確に検知することが可能となる。
【0117】
なお、(数7)(数8)に示す条件は一例であって、信号光のパルスの時間遅延は、アレー導波路63を構成する複数の光導波路において、位相が互いに異なるパルス同士が同一時刻に同時に出力側スラブ導波路64内に出力されるものであれば、任意の条件を設定するようにしてもよい。当然、アレー導波路63を構成する光導波路の本数によって限定されるものでもない。
【0118】
以上説明したように、本実施の形態3の光受信装置3においては、複数の光導波路を有するアレー導波路63を備えたアレー導波路回折格子60を用いたことにより、RZ信号のようなパルスを信号光として扱う場合でも、確実に位相の変化を検知することができる。又、光導波路の光路長によって信号光の時間遅延を設定できるため、実施の形態2と同様、入力信号光がアレー導波路回折格子60内部を伝播する長期間に渡って、位相の変化に起因する(k+(1/2))次回折光を発生させ、PD53に受光させることができる。
【0119】
なお、上記の説明においては、位相の変化量はπであるとしたが、実施の形態1と同様に、PDの配置個所として、当該位相の変化量に基づいて発生する回折光の位置を特定できれば、任意の値であってよい。更に位相の変化量はπ/n(n:自然数)が望ましい。n=2の場合、位相の変化量はπ/2であり、DQPSKにおいて本実施の形態を実現することが可能となる。
【0120】
このとき端部64d及び64eは、DQPSKにおいて、それぞれ位相φの値がφ=π/2の場合、φ=3π/2である場合に、位相の変化により発生する、(k+(1/4))次回折光及び(k+(3/4))次回折光の入射を受ける端部となる。したがって、上記図8(a)〜(c)に示すのと同様の原理で、これら端部64d及び64eを介して、PD52、PD54にこれら回折光を入射させ、信号を取り出すことができる。なお、本実施の形態においては自然数kにより回折光の次数を規定されることとなるが、これはアレー導波路においては光導波路の光路差が0となる、すなわち0次回折光が発生する条件がないためであって、本実施の形態の条件は、実施の形態1、2においてmが正整数である場合に相当することとなる。
【0121】
(実施の形態4)
図10は、本発明の実施の形態4の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置4の構成図である。ただし図10において図6と同一又は相当部には、同一符号を付し、詳細な説明は省略する。又、伝熱板80はSiO2基板65の裏面に設けられたセラミック、金属、樹脂等により構成された板であり、SiO2基板65に対して均一な熱伝導を行うための手段である。
【0122】
又、図11に示すように、伝熱板80の、SiO2基板65と対向しない側に面にはペルチェ素子83が設けられる。ペルチェ素子83は印加される電圧の極性に応じて発熱又は吸熱を行い、伝熱板80を介してSiO2基板65の温度を制御する手段である。又、図10において、サーミスタ81及び82はSiO2基板65上にシリコンペースト等で固定された温度検出器である。なお、サーミスタ81、82及びペルチェ素子83は本発明の温度調節部に相当する。又、光受信装置4は本発明の光受信装置に相当する。
【0123】
以上の構成を有する本実施の形態4の光受信装置4においては、ペルチェ素子83は、サーミスタ81及び82の検出する温度に基づき、図示しないマイコン等の外部制御手段によって、SiO2基板65の温度を一定に保つための発熱又は吸熱の動作を行う。
【0124】
アレー導波路回折格子60は一枚のSiO2基板65上に各部が形成されているが、周囲温度の変化、又は信号光の導波による熱伝導の影響をうけると、アレー導波路63を構成する各光導波路が伸縮する等の歪みを生じて、正確な光路長が保てなくなる恐れがある。
【0125】
本実施の形態4によれば、サーミスタ81及び82の検出する温度に基づき動作するペルチェ素子83を備えたことにより、SiO2基板65上の、特にアレー導波路63が形成された部分に、伝熱板80を設けてムラなく熱伝導を行わせることにより、アレー導波路63の光路長を一定に保つことができる。
【0126】
なお、上記の構成においては本発明の温度調節部としてペルチェ素子83を用いるとして説明を行ったが、ニクロム線やその他熱電対を用いたヒータで代用するようにしてもよい。又、伝熱板80はSiO2基板65の裏面に設けるものとしたが、表面、又は両面に設けるようにしてもよい。
【0127】
(実施の形態5)
図12は、本発明の実施の形態5の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置5の構成図である。ただし図12において図6と同一又は相当部には、同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0128】
本実施の形態においては、アレー導波路回折格子60において、入力側スラブ導波路62、アレー導波路63及び出力側スラブ導波路64をSiO2基板65に代えてニオブ酸リチウム単結晶からなる誘電体結晶基板90上に形成した点、及び、図13に示すように、誘電体結晶基板90を挟むように電極板91及び92を設け、これら電極板91及び92間に電源93による所定電圧を印加できるように構成した点を特徴とする。電極板91及び92は、誘電体結晶基板90上のアレー導波路63が形成された部分に重なるよう位置している。なお、電極板91、92及び電源93は本発明の屈折率調節部に相当する。
又、光受信装置6は本発明の光受信装置に相当する。
【0129】
以上の構成を有する本実施の形態5の光受信装置5においては、誘電体結晶基板90をニオブ酸リチウム単結晶からなる構成としたことにより、電極板91、92の間に電源93によって電位差を与えると、誘電体結晶基板90の電気光学効果により屈折率が変化する。したがって、電圧によって入力側スラブ導波路62、アレー導波路63及び出力側スラブ導波路64の屈折率を制御することができる。
【0130】
したがって、実施の形態4と同様に、周囲温度の変化、又は信号光の導波による熱伝導の影響をうけると、アレー導波路63を構成する各光導波路の長さが変動した場合でも、誘電体結晶基板90自体の屈折率を変化させることで、各光導波路の光路長、又は信号光の時間遅延を補償することができる。
【0131】
又、本実施の形態5によれば、同一の光受信装置5を、異なる波長を有する信号光に対して用いることができる。すなわち、特定波長λの信号光に対してアレー導波路63の各光導波路を設計した場合、当該アレー導波路63は、特定波長λからΔλだけ異ならせた波長λ′の信号光に対しては光路長が異なることとなるため、例えばm・λ=m′・λ′(m′:m′≠mを満たす整数)であるような例外的な関係を別として、これを用いることが難しくなる可能性がある。しかしながら、本実施の形態によれば、電圧の印加によりアレー導波路回折格子60の屈折率を可変させることで各光導波路の光路長を波長λ′に対応するよう調整することができる。
【0132】
このように、本実施の形態5によれば、同一の光受信装置5を、複数の異なる波長の信号光に対応させることができる。
【0133】
なお、上記の構成においては、誘電体結晶基板90はニオブ酸リチウム単結晶からなるものとして説明を行ったが、電気光学効果を有するものであれば、他の組成によるものであってもよい。
【0134】
又、上記実施の形態4、5は、実施の形態3のアレー導波路回折格子60を備えた構成において実施するものとして説明を行ったが、実施の形態1の透過型回折格子11、又は実施の形態2の反射型導波路回折格子31を備えた構成において実施してもよい。
【0135】
(実施の形態6)
図14は、本発明の実施の形態6の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置の構成図である。
【0136】
図14において、光受信装置6は、入力する光信号を電気信号に変換するフロントエンド部310と、フロントエンド部310から得られた電気信号を復調する復調部320とから構成される。
【0137】
フロントエンド部310は、差動位相偏移変調により変調された信号光から回折光を取り出す回折格子本体311、回折格子本体311から出力される光を受光し、電気信号に変換するフォトダイオード(PD)313及び314から構成される。
【0138】
回折格子本体311は、中空の筐体部312a、及び筐体部312aの内に配置された、図中奥から手前方向に向かって形成されたスリットを有する透過型回折格子312bとを備える。筐体部312a内には、信号光を平行光として内部へ導くための、コリメータレンズ等として実現されるレンズ312c、及びレンズ312cと透過型回折格子312bとの間の空間に配置された、ハーフミラー312d及び反射ミラー312eが設けられている。更に、筐体部312aの、レンズ312cが設けられた面に対向する面上には、透過型回折格子312bから出力された光を透過させるための開口部312f及び312gが設けられている。
【0139】
PD313及び314は、回折格子本体311から出力された光を受光する手段であり、PD313は回折格子本体311の開口部312fを経由した光を受光する位置に、PD314は回折格子本体311の端部312gを経由した光を受光する位置に、それぞれ位置している。なお、開口部312f及び312gは物理的な開口であってもよいし、フェルール、光ファイバ等によって実現される、PD313及び314と光学的に結合可能な構成であればよい。
【0140】
以上の構成において、回折格子本体311は、本発明の差動位相型変位変調光受光用回折格子に相当する。又、筐体部312aは本発明の筐体部に相当し、透過型回折格子312bは本発明の透過型回折格子に相当する。又、レンズ312cは本発明の出射端に相当し、開口部312fは本発明の第1の入射端に、開口部312gは本発明の第2の入射端にそれぞれ相当する。又、レンズ312c、ハーフミラー312d及び反射ミラー312eは本発明の分岐光学系に相当する。又、PD313、314は本発明の受光素子に、復調部320は本発明の信号処理部に相当し、光受信装置6は本発明の光受信装置に相当する。
【0141】
本発明の実施の形態6の基本的な動作及び原理は、実施の形態1と同様である。すなわち、反射型導波路回折格子311を用いて、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相が一定である場合に生ずる回折光、及び当該信号光の位相が変化した場合に生ずる回折光の2種類の回折光を発生させ、これら回折光をそれぞれPD313及び314を用いて検出する。
【0142】
本実施の形態6においては、中空の筐体部312a内に設けた透過型回折格子312bを備えた構成としたことにより、次のようにして回折光を発生させるようにしている。
【0143】
回折格子本体311の内部において、外部から入射した信号光は、レンズ312cを介することにより、図中矢印に示す平行光L0としてハーフミラー312dに直進する。筐体部312a内は中空なので、平行光L0は収束した光軸となる。
【0144】
ハーフミラー312dにおいては、平行光L0の一部は透過し、残りの一部は反射する。ハーフミラー312dを透過した光は透過型回折格子312bに向かい、ハーフミラー312dを反射した光L0′は、反射ミラー312eで更に反射されてから、透過型回折格子312bに直進する。
【0145】
ここでレンズ312c、透過型回折格子312b、ハーフミラー312d及び反射ミラー312eの光学的なレイアウトは以下のようになっている。すなわち、透過型回折格子312dのスリットS0は、レンズ312cの光軸上に配置され、当該光軸上にハーフミラー312dが位置している。又、ハーフミラー312dと反射ミラー312eは、反射ミラー312eにより反射された光が、平行光L0と平行であり、かつ、透過型回折格子312dのスリットS0に隣接するスリットS1に入射するような位置関係となるよう配置される。
【0146】
このような構成としたことにより、透過型回折格子312bに入射する信号光は、スリットS0に入射するものとスリットS1に入射するものとで、光路差を生ずる。具体的には、スリットS1に入射する信号光は、ハーフミラー312dと反射ミラー312eで折り返される分だけ、スリットS0に入射されるものより光路差が大きくなる。
【0147】
この結果、実施の形態3と同様、スリットS0から出射される信号光とスリットS1から出射される信号光が同位相であれば、整数次の回折光L0が発生し、開口部312gを介してPD314に受光される。又、スリットS0から出射される信号光とスリットS1から出射される信号光が異なる位相であれば、非整数次の回折光L1が発生し、開口部312fを介してPD313に受光される。なお信号光の位相差の数に基づく開口部の位置、個数の変化の対応は、実施の形態1〜3と同様である。
【0148】
以上のように、本実施の形態6によれば、透過型回折格子を用いた構成においても信号光の光路差を大きくとり、信号光の時間遅延を大きく設定できるため、実施の形態2、3と同様、入力信号光が回折格子本体311内部を伝播する長期間に渡って、位相の変化に起因する非整数次の回折光を発生させ、PD313に受光させることができる。
【0149】
なお、実施の形態1においては、本発明の回折格子本体を、スラブ導波路及びスラブ導波路内の格子面として形成した透過型回折格子により実現した場合、入力信号光L0と、格子面12とが直交する構成であるとして説明を行ったが、実施の形態2と同様に、入力信号光L0が格子面12に対して斜め方向から入射されるようにすれば、入力信号光L0において位相φがφ=0からφ=πに変化した状態の波を連続して格子面12に入力させることができ、実施の形態2、3及び6同様、PDの受光時間を大きくとることができる。
【0150】
図15にそのような構成の一例を示す。図15に示す光受信装置7は、実施の形態1において、透過型回折格子11に代えて、信号光が入力する面201を斜面とすることにより、格子面12に対して斜交する配置とした構成を有する。この場合、端部11aから入力した入力信号光L0の波面は、格子面12の下部から上部に向けて順番に到達することとなり、位相が異なる波面同士が干渉する時間を長期間とることができる。
【0151】
なお、図15に例示される光受信装置7においては、端部11aから入力信号光L0が斜め方向から入力することにより本発明の回折格子本体に相当する格子面12におけるスリット12aの開口位置と端部11aとの間の距離は互いに異なることとなっている。この関係は、本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子における、回折格子本体における回折光の出射位置が複数であって、この複数の出射位置と出射端との間の光路長がそれぞれ異なる関係に対応している。同様の構成は、実施の形態6においても実現されており、この場合はハーフミラー312d及び反射ミラー312eによって光路長の異なりを作り出している。
【0152】
しかしながら、本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子における、回折光の出射位置が複数であって、この複数の出射位置と出射端との間の光路長がそれぞれ異なる関係とは、上記図15に示す光受信装置7や実施の形態2、6の構成に限定されない。例えば、物理的な距離が同一であっても、信号光が透過する媒体の屈折率が変化すれば光路長は異なる。したがって、図1に示す構成のように、入力信号光L0が格子面12に向かって直交するレイアウトとなっていても、透過型回折格子11を構成する材料として、屈折率分布が変化する材料を用いることによって、図14と同様、入力信号光L0に光路差を与えて、位相が異なる波面同士が干渉する時間を長期間とることができ、位相の変化を確実に検知することができる。
【0153】
(実施の形態7)
図16は、本発明の実施の形態7の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置の構成図である。
【0154】
図16において、光受信装置8は、入力する光信号を電気信号に変換するフロントエンド部450と、フロントエンド部450から得られた電気信号を復調する復調部470とから構成される。ただし、図16において図6と同一又は相当部には、同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0155】
フロントエンド部450は、差動位相偏移変調により変調された信号光が入力されるアレー導波路回折格子460、アレー導波路回折格子460から出力される光を受光し、電気信号に変換するフォトダイオード(PD)51〜54から構成される。
【0156】
アレー導波路回折格子460において、入力導波路61a、入力側スラブ導波路62、出力側スラブ導波路64、出力側スラブ導波路64、及び出力導波路61b〜61eは実施の形態3の光受信装置3と同様の構成であるが、アレー導波路463は、2本の光導波路463(イ)及び463(ロ)が、実施の形態3と同様、互いにk・λ(λ:信号光の波長、k:自然数)異なる光路長に設計され更に、この光路長差に基づく時間遅延Δtに、更に後述する条件が与えられるように設計されている。
【0157】
次に、復調部470は、PD51〜54にそれぞれ一対一対応して設けられ、PD51〜54から出力された電気信号を数値化するA/D変換部471〜474と、A/D変換部471〜474から得られた各数値を比較し、その比較結果を用いて信号光の位相の変化量を演算する演算部475とを有する。
【0158】
以上の構成において、アレー導波路回折格子460は本発明の差動位相型変位変調光受光用回折格子に相当する。又、復調部470は本発明の位相差識別部に相当し、光受信装置8は本発明の光受信装置に相当する。又、アレー導波路63は本発明のアレー導波路に相当し、出力側スラブ導波路64は本発明のスラブ導波路に相当する。
【0159】
本発明の実施の形態7の基本的な動作及び原理は、実施の形態3と同様である。すなわち、互いに光路差を有する複数の光導波路463(イ)及び463(ロ)からなるアレー導波路463を有するアレー導波路回折格子460を用いて、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相が一定である場合に生ずる回折光、及び当該信号光の位相が変化した場合に生ずる回折光の2種類の回折光を発生させ、これら回折光をPD51〜54を用いて検出する。
【0160】
本実施の形態7による光受信装置8は、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相が一定である場合に生ずる回折光、及び当該信号光の位相が変化した場合に生ずる回折光の2種類の回折光のいずれの受光に際しても、復調部470は、全てのPD51〜54の信号光に基づき位相の変化量を求めることを特徴とする。
【0161】
以下、詳細な説明を行う。
【0162】
アレー導波路回折格子460のアレー導波路463において、光導波路463(イ)と463(ロ)との光路長差は、上記k・λであって、光導波路463(ロ)を通過する信号光は光導波路463(イ)を通過する光に対して時間遅延を与える。
【0163】
この時間遅延は、図17に示すように、信号光の位相が変化した場合において、光導波路463(イ)及び463(ロ)と出力側スラブ導波路64とのそれぞれの結合点64(イ)及び64(ロ)に、位相の変化前の信号光のパケットと、位相の変化前の信号光のパケットとがそれぞれ同時に到達するように設定されている。図17の場合、信号光の位相φがφ=πからφ=0に変化した時、光路長の短い光導波路463(イ)と出力側スラブ導波路64との結合点64(イ)には変化後の位相φ=0の信号光のパケットが到達し、光路長の長い光導波路463(ロ)と出力側スラブ導波路64との結合点64(ロ)には変化前の位相φ=πの信号光のパケットが到達している。
【0164】
出力側スラブ導波路64において、結合点64(イ)及び64(ロ)に信号光のパケットが同時に到達すると、各パケットは干渉を生じて、干渉光を発生させる。干渉光は基本的に出力側スラブ導波路64内部全体を伝播し、端部64b〜64bに達すると、それぞれPD51〜54により受光される。PD51〜54は、受光した光の強度(光強度)に対応した電気信号を出力する。PD51〜54から出力された電気信号は、それぞれA/D変換部471〜474に入力し、データとして数値化され、演算部475へ入力される。演算部475は、各数値の入力を受けると、これを出力比、すなわちPD51〜54とPD51〜54から得られた各数値との対応関係として算出し、当該出力比を、内蔵した出力比テーブル475aに記録された出力比と比較し、一致又は近似するものを選択する。
【0165】
ここで出力比テーブル475aは、予め実験及び計算により求めた出力比と位相の変化量との対応をまとめたテーブルである。演算部475は、PD51〜54から得られた出力比が、出力比テーブル475aに記録された出力比と一致又は近似した場合、その一致又は近似した出力比が対応する位相の変化量を、演算結果として外部へ出力する。
【0166】
信号光の位相の変化量に応じて、PD51〜54がそれぞれ受光する光の光強度は変化し、したがって演算部475が算出する出力比も変化する。演算部475は、変化する出力比に対応した位相の変化量を出力比テーブル475aを用いて算出することで、外部から入力する信号光の位相の変化に追従して正確に位相の変化量を求めることができる。
【0167】
本実施の形態7による光受信装置8は、実施の形態3の光受信装置3に比して、更に位相変化の検出精度を向上できるという利点を有する。それは以下の理由による。
【0168】
図8(a)〜(c)を参照して説明したように、実施の形態3の光受信装置3であれば、信号光の位相に変化が生じた場合、その変化に伴い生じた干渉光をPD51〜54を用いて検出し、復調部70は、PD51〜54のうち、最も光強度の大きな光を検出したものからの電気信号に依拠して位相量の変化を求めていた。
【0169】
これは、端部64b〜64eの位置が、出力側スラブ導波路64の出射端面上における干渉光のピークに対応するように配置され、かつ、端部64b〜64eのそれぞれの位置が、そのまま位相の変化量に対応する関係を有するように設計していたためであり、PD51〜54が受光する特定の干渉光の光強度が、他の干渉光の光強度と十分に識別可能な程度に大きい、つまりPD間のアイソレーションが十分大きいことに基づいている。
【0170】
しかしながら、各PD51〜54が受光する干渉光の光強度に十分な違いがない、つまりPD間のアイソレーションが十分な大きさでない場合、復調部70においては、PD51〜54が干渉光を受光したとき、各干渉光の識別を行うことができなくなる、又は誤識別を行い、正確な位相の変化を検知できない恐れがある。
【0171】
これに対し、本実施の形態7の光受信装置8においては、復調部470は、全てのPD51〜54が受光する干渉光の光強度の出力比を求め、出力比との対応関係から位相の変化量を演算する。出力比の変化は、信号光の位相の変化に対して十分識別可能なパターンとして現れるため、PD間のアイソレーションが小さい場合であっても、位相の変化を正確に検知することが可能となる。なお、上記の説明において、光強度は、本発明の光信号の大きさに相当する。
【0172】
ここで、図18〜20に、PDの個数を5つとして作成した光受信装置におけるPDの受光特性及び出力比の特性の一例を示す。
【0173】
図18に示す光受信装置9は、5つのPD451〜454及びそれに対応した端部464a〜464e、出力導波路461a〜461e及びA/D変換部476a〜476eを備えたこと以外は、図16の光受信装置8と同様の構成、機能を有する。なお、アレー導波路回折格子460はスリット2つを有する回折格子に相当するものとする。
【0174】
図19は、PD451〜454と光学的に結合する出力導波路461a〜461eが、中央の出力導波路461cを回折角0(rad)として、0.04(rad)刻みの間隔で離隔配置した構成とした場合における、信号光の位相変化と光強度との関係を示したグラフである。
【0175】
図19に示すように、信号光の位相が変化する場合において、位相の変化量は、最大の変化量πであっても、光強度の差分は、PD間に必要なアイソレーションの半分程度(10dB以下)と小さな値となっている。
【0176】
図20は、信号光の位相変化をPD451〜454の出力比と対応付けた例であり、これと同様の内容がデータとして出力比テーブル475aに格納されている。各位相差に対応した出力比は互いに大きく異なり、他と容易に識別可能であることが分かる。
【0177】
以上のように、本実施の形態7の光受信装置8によれば、信号光の位相変化を、より正確に検知することが可能となる。
【0178】
なお、上記の説明においては、PD、出力導波路の数は4又は5であるとしたが、2以上の任意の数であってもよい。又、上記の説明においては、復調部470の構成は、実施の形態3の構成と組み合わせて実現するものとして説明を行ったが、他の実施の形態1、2、4〜6他の構成と組み合わせて実現してもよい。
【0179】
又、上記の説明においては、光導波路463(イ)及び463(ロ)と出力側スラブ導波路64とのそれぞれの結合点64(イ)及び64(ロ)に、位相の変化前の信号光のパケットと、位相の変化前の信号光のパケットとがそれぞれ同時に到達するように設定されているものとして説明を行ったが、正確に同時でなくともよい。各PDの出力比を得ることができる時間内、つまり、位相の変化する前の信号光と位相の変化した後の信号光とが、スラブ導波路を伝播することで干渉光を生ずることができる時間内であれば、光信号のパケットの到着時刻には許容誤差があってもよい。
【0180】
又、上記の各実施の形態の説明においては、差動位相偏移変調された信号光を例として説明を行ったが、差動位相変位変調においては、位相量が変化する場合のみを検知できれば信号の再生が可能であることから、位相量が同一の信号光が干渉して生じるm次回折次数光(整数次の回折光)を受光するための構成は省略してもよい。実施の形態1の場合、端部11cに対応したPD14及び透過型回折格子11の端部11cに当たる部分を省略してもよい。同様に、実施の形態2の場合は、PD33及び出力導波路34bを省略してもよい。同様に、実施の形態3の場合は、PD51、出力導波路61bを省略してもよい。
【0181】
更に、上記の説明においては、単一波長の信号光を差動位相偏移変調するものとして説明を行ったが、本発明は、波長多重光のそれぞれについて差動位相偏移変調を行った信号光に対して適用するものとしてもよい。この場合は、回折格子として、波長毎に本発明の出射端、第1の入射端及び/又は第2の入射端を備えた構成にすればよい。
【0182】
又、上記の説明においては、光受信装置全体を例にとり説明を行ったが、本発明は位相偏移変調光受光用回折格子単体で実施するものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明は、以上のような本発明によれば、位相の変化を正確に検出することができ、位相偏移変調光を受光するための回折格子、及びこれを用いた光受信装置等において有用である。
【符号の説明】
【0184】
1 光受信装置
10 フロントエンド部
11 透過型回折格子
11a、11b、11c 端部
12 格子面
13、14 フォトダイオード(PD)
20 復調部
L0 入力信号光
L1 0次回折光
L2 1/2次回折光
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動位相偏移変調光受光用回折格子及びそれを用いた光受信装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信における伝送容量は日々刻々拡大しており、現在普及している波長分割多重方式によっても、伝送容量の大容量化は限界に近づいている。
【0003】
伝送容量を更に大容量化するための方策のひとつに、信号光の振幅又は位相を変化させることで情報を伝達する多値変調方式がある。
【0004】
多値変調の方法は各種知られているが、信号光の位相そのもの値に情報を載せる通常の位相偏移変調の他、直前の信号からの位相の変化量に情報を載せる方法がある。これを差動位相偏移変調という。
【0005】
差動位相偏移変調において位相の変化量はπ、π/2等任意の量を定めることができ、特に位相の変化量をπ/2としたものは差動四値位相変調(Differential Quadrature Phase Shift Keying:以下DQPSKと称する)と呼ばれる。
【0006】
差動位相偏移変調は、信号光の位相そのものの値を用いる必要がないため実施が容易と考えられる反面、復調時に誤りが生じやすい。そこで受信側において信号光の位相の変動をいかに正確に検出するかが重要となっており、従来より光の干渉を利用する方法が知られている。以下、DQPSKを例にとって説明を行う。
【0007】
図21は、従来の技術によるDQPSKによる光受信装置のフロントエンド部の構成を示す図である(例えば、非特許文献1を参照)。
【0008】
図21に示すように、フロントエンド部100は、信号光から干渉光を得るための干渉系110、及び干渉系110から出力された干渉光を電気信号に変換するバランス型受信器120から構成される。
【0009】
干渉系110は、入力した信号光を分岐させるビームスプリッタ111、ビームスプリッタ111で分岐された一方の信号光から干渉光を得るマッハツェンダ干渉計112a、ビームスプリッタ111で分岐された他方の信号光から干渉光を得るマッハツェンダ干渉計112bとから構成される。なお、干渉系110として一組のマッハツェンダ干渉計112a、112bを用いたが、マイケルソン干渉計などを用いてもよい。
【0010】
又、バランス型受信器120は、マッハツェンダ干渉計121aから出射された干渉光を電気信号に変換する第1のバランス型フォトダイオード(PD)120a、及びマッハツェンダ干渉計121bから出射された干渉光を電気信号に変換する第2のバランス型PD120bとから構成される。
【0011】
以上のような構成を有する光受信装置のフロントエンド部100の動作を以下に説明する。信号光は干渉系110に入力するとビームスプリッタ111で2つに分岐され、2つのマッハツェンダ干渉計112a、112bにそれぞれ導かれる。
【0012】
マッハツェンダ干渉計112aは、入力した一方の光信号に対し1シンボル分の時間遅延T及び位相差0を付加するものであり、マッハツェンダ干渉計112bは、入力した他方の光信号に対し1シンボル分の時間遅延Tと位相差π/2を付加するものである。
【0013】
マッハツェンダ干渉計112aに導かれた光信号は、さらに2つに分割され、一方の光信号は時間遅延Tを与えられて他方の光信号と再び結合される。このとき一方の光導波路の時間遅延Tにより再結合後の光信号は干渉光となり、互いの位相差に応じて2つのポートから所定の比率で出力する。マッハツェンダ干渉計112aの2つのポートからの出力はそれぞれバランス型PD120aにて受光され、当該比率に応じた同相信号成分dIとして出力され、図示しない後段の復号部に出力される。
【0014】
同様に、マッハツェンダ干渉計112bに導かれた光信号は、時間遅延T及び位相差π/2を与えられた後2つのポートから出力され、バランス型PD120aにてそれぞれ受光され、当該比率に応じた直交信号成分dQとして出力される。
【0015】
同相信号成分dI、直交信号成分dQは、信号光の位相の変化に応じて、図22の信号点配置図に示すように、(1、0)、(0、1)、(−1、0)、(−1、−1)の4つの組み合わせをとる。このように、DQPSKにおいては1つの信号の位相変動で2ビットの信号を伝達し、位相変動量に応じた4値の情報を伝達することが可能となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】“非コヒーレント多値受信器を用いた光ファイバ非線形効果の補償”2008年電子情報通信学会総合大会 通信講演論文集2、383ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記従来の光受信器には以下のような課題があった。
【0018】
フロントエンド部100は、マッハツェンダ干渉計112a、112bを用いた干渉系110、及び一対のバランス型PD120a及び120bを用いたバランス型受信器120を利用しているが、バランス型受信器120の出力である同相信号成分dI、直交信号成分dQの品質は、干渉系110の作製ばらつき又はPDの受光感度ばらつき等に依存する。
【0019】
干渉系110のマッハツェンダ干渉計112a、112bは一般に光ファイバや、SiO2基板上に形成された平面光導波路として実現されるが、マッハツェンダ干渉計112a、112bはそれぞれ別材料、又は独立した工程によって作製されるため、同一特性を確保することが困難であり、信号光の時間遅延や位相差の波長依存性等にばらつきが生ずる。同様のことがPD120a及び120bについても当てはまり、受光感度等の特性にばらつきが生ずる。
【0020】
このように、干渉系110の各部の特性が異なる場合には、同相信号成分dI、直交信号成分dQは、図22の信号点配置図において図中各点に示す信号光の位相の変化量に対応した正規の位置から外れてしまう。この信号点のずれは信号光の位相の変化が正確に検出できないことと同等であり、光信号の正確な復調の妨げとなってしまう。
【0021】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、位相の変化を正確に検出することができる差動位相偏移変調光受光用回折格子、及びそれを用いた光受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の目的を達成するために、第1の本発明は、差動位相偏移変調された信号光を出射する、少なくとも一つの出射端と、
前記出射端から出射された光を回折させる回折格子本体と、
前記回折格子本体から出射された光を入射する、m(m:整数)次回折光が入射される場所以外の場所に設けられた、少なくとも一つの第1の入射端とを備えた、差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0023】
又、第2の本発明は、前記第1の入射端の位置は、前記差動位相偏移変調された前記信号光の位相の変化量に基づき決定される、第1の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0024】
又、第3の本発明は、前記位相の変化量をπ/nとすると(n:自然数)、
前記第1の入射端は、前記回折格子本体から(m±(2n)−1)次回折光を入射する位置に配置される、第2の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0025】
又、第4の本発明は、前記回折格子本体から出射された光のうち、前記m次回折光を入射する、少なくとも一つの第2の入射端を備えた、第1から3のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0026】
又、第5の本発明は、前記回折格子本体における回折光の出射位置は複数であって、
前記複数の前記出射位置と前記出射端との間の光路長はそれぞれ異なる、第1から4のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0027】
又、第6の本発明は、前記回折格子本体は、
前記出射端から出射された光が斜め方向から入射される入射面を有する、第5の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0028】
又、第7の本発明は、前記回折格子本体は、
前記入射面と同一の面から回折した光を出射する反射型回折格子を有する、第6の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0029】
又、第8の本発明は、前記回折格子本体は、
前記出射端、前記第1の入射端及び前記反射型回折格子と光学的に結合したスラブ導波路を有し、
前記出射端、前記第1の入射端及び前記反射型回折格子は、前記スラブ導波路上にて同一のローランド円の周上に配置されている、第7の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0030】
又、第9の本発明は、前記回折格子本体は、
前記入射面を透過して回折した光を出射する透過型回折格子を有する、第1から第6のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0031】
又、第10の本発明は、前記回折格子本体は、スラブ導波路であり、
前記透過型回折格子は、前記スラブ導波路内に形成された格子面であり、
前記出射端及び前記第1の入射端は、前記スラブ導波路の縁部に設けられている、第9の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0032】
又、第11の本発明は、前記回折格子本体は、前記出射端及び前記第1の入射端が設けられるとともに、前記透過型回折格子が収納される筐体部と、
前記筐体部内の前記出射端と前記透過型回折格子との間の空間に設けられた、前記出射端から出射された光を分岐させ、前記透過型回折格子の互いに異なるスリットに入射させる分岐光学系とを有する、第9の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0033】
又、第12の本発明は、前記回折格子本体は、互いに光路長が異なる複数の導波路を有するアレー導波路を有する、第1から第5のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0034】
又、第13の本発明は、
前記回折格子本体の温度を一定に保つよう調節する温度調節部を備えた、第1から第12のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0035】
又、第14の本発明は、
電圧を印加することにより前記回折格子本体の屈折率を調整する屈折率調節部を備えた、第1から第12のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子である。
【0036】
又、第15の本発明は、
第1から第14のいずれかの本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子と、
少なくとも前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記第1の入射端と、光学的に結合した受光素子と、
前記受光素子の受光した光信号を処理する信号処理部とを備えた、光受信装置である。
【0037】
又、第16の本発明は、
第4の本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子と、
前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記第1の入射端と光学的に結合した第1の受光素子と、
前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記第2の入射端と光学的に結合した第2の受光素子と、
前記第1の受光素子の受光した光信号の大きさと、前記第2の受光素子の受光した光信号の大きさとの組み合わせに基づいて、前記差動位相偏移変調光受光用回折格子へ入力した前記信号光の位相の変化量を識別する変化量識別部とを備えた、光受信装置である。
【0038】
又、第17の本発明は、
前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記回折格子本体は、一端に前記出射端が設けられ、他端が互いに光路長が異なる複数の光導波路に分岐しているアレー導波路と、
一端は前記アレー導波路と光学的に接続され、他端は前記第1の入射端及び前記第2の入射端が設けられたスラブ導波路とを有し、
前記アレー導波路の前記複数の光導波路は、前記外部より入力する前記信号光の位相が変化した場合、位相の変化する前の前記信号光と前記位相の変化した後の前記信号光とが、同一時間内に前記スラブ導波路を伝播する光路長差を有する、第16の本発明の光受信装置である。
【発明の効果】
【0039】
以上のような本発明によれば、位相の変化を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態1の透過型回折格子11を含む光受信装置の構成図である。
【図2】(a)本発明の実施の形態1における位相の変化を検知する原理を説明するための図である。(b)本発明の実施の形態1における位相の変化を検知する原理を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態2の反射型導波路回折格子31を含む光受信装置の構成図である。
【図4(a)】本発明の実施の形態2の反射型導波路回折格子31における信号光入力時の動作を説明するための図である。
【図4(b)】本発明の実施の形態2の反射型導波路回折格子31における信号光入力時の動作を説明するための図である。
【図4(c)】本発明の実施の形態2の反射型導波路回折格子31における信号光入力時の動作を説明するための図である。
【図4(d)】本発明の実施の形態2の反射型導波路回折格子31における信号光入力時の動作を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態2の反射型導波路回折格子31を含む光受信装置において用いられる信号光の模式図である。
【図6】本発明の実施の形態3のアレー導波路回折格子60を含む光受信装置の構成図である。
【図7】本発明の実施の形態3のアレー導波路回折格子60を含む光受信装置において用いられる信号光の模式図である。
【図8】(a)本発明の実施の形態3のアレー導波路回折格子60における信号光入力時の動作を説明するための図である。(b)本発明の実施の形態3のアレー導波路回折格子60における信号光入力時の動作を説明するための図である。(c)本発明の実施の形態3のアレー導波路回折格子60における信号光入力時の動作を説明するための図である。
【図9】本発明の実施の形態3における信号光のパルスの干渉条件を説明するための図である。
【図10】本発明の実施の形態4のアレー導波路回折格子60を含む光受信装置の構成図である。
【図11】本発明の実施の形態4のアレー導波路回折格子60を含む光受信装置の要部構成図である。
【図12】本発明の実施の形態5のアレー導波路回折格子60を含む光受信装置の構成図である。
【図13】本発明の実施の形態5のアレー導波路回折格子60を含む光受信装置の要部構成図である。
【図14】本発明の実施の形態6の透過型回折格子312bを含む光受信装置の構成図である。
【図15】本発明の透過型回折格子の他の構成例を含む光受信装置の構成図である。
【図16】本発明の実施の形態7のアレー導波路回折格子460及び復調部470を含む光受信装置の構成図である。
【図17】本発明の実施の形態7の光受信装置の動作を説明するための図である。
【図18】本発明の実施の形態7の光受信装置の他の構成例を示す図である。
【図19】本発明の実施の形態7の光受信装置の動作の例を説明するためのグラフを示す図である。
【図20】本発明の実施の形態7の光受信装置の動作の例を説明するための表を示す図である。
【図21】従来の技術によるDQPSKによる光受信装置のフロントエンド部の構成を示す図である。
【図22】DQPSKの信号点配置図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置の構成図である。
【0042】
図1において、光受信装置1は、入力する光信号を電気信号に変換するフロントエンド部10と、フロントエンド部10から得られた電気信号を復調する復調部20とから構成される。フロントエンド部10は、差動位相偏移変調により変調された信号光が入力される透過型回折格子11、透過型回折格子11から出力される光を受光し、電気信号に変換するフォトダイオード(PD)13及び14から構成される。
【0043】
透過型回折格子11はSiO2等により作製されたスラブ導波路であって、その内部には図中奥から手前方向に向かって形成されたスリットを有する格子面12が形成されている。透過型回折格子11の内部において、端部11aから奥に向かって出射された信号光は、図中矢印に示す平行光L0として透過型回折格子11内部全体に渡って直進する。格子面12は平行光L0の進行方向に直交しており、平行光L0は格子面12により回折され、端面11dから透過型回折格子11の外部に向かって出力される。
【0044】
PD13及び14は、透過型回折格子11から出力された光を受光する手段であり、PD13は透過型回折格子11の端部1bを経由した光を受光する位置に、PD14は透過型回折格子11の端部11cを経由した光を受光する位置に、それぞれ位置している。
【0045】
以上の構成において、透過型回折格子11は、本発明の差動位相型変位変調光受光用回折格子であって、かつ回折格子本体及びスラブ導波路に相当する。又、端部11aは本発明の出射端に相当し、端部11bは本発明の第1の入射端に、端部11cは本発明の第2の入射端にそれぞれ相当する。又、格子面12は本発明の透過型回折格子の格子面に相当する。又、PD13、14は本発明の受光素子に、復調部20は本発明の信号処理部に相当し、光受信装置1は本発明の光受信装置に相当する。
【0046】
以上のような構成を有する、本発明の実施の形態1の光受信装置を以下に説明する。
【0047】
光受信装置の基本的な動作は従来例と同様であり、送信側から光ファイバ等によって伝達されてきた信号光は、透過型回折格子11を経由した後、PD13又はP14により受光され、PD13又は14は光を受光するとこれを電気信号に変換し、復調部20へ出力する。復調部20はPD13又は14からの電気信号を復調して原信号を得る。
【0048】
本発明の実施の形態1においては、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相の変化を、透過型回折格子11、及びPD13、14を用いて検出するようにしたことを特徴とする。以下、図1及び図2(a)(b)を参照して詳細な説明を行う。
【0049】
図2(a)は、透過型回折格子11内部の、格子面12近傍の状態を模式的に示す図である。図2(a)に示すように、格子面12は複数(図中では3つのみ例示)のスリット12aが設けられた面である。端部11aから出射された平行光L0が格子面12を通過する際に、スリット12aからそれぞれ出射される波面が干渉を起こすことにより、以下の(数1)を満たす回折角θを有する回折光が生ずる。
(数1)
d・sinθ=m・λ
なお、(数1)においてdはスリット12aの間隔、mは回折次数(m:整数)、λは平行光L0の波長である。
【0050】
ところで、差動位相型偏移変調された信号光の位相φは一般にφ=ω・t+A(ω:信号光の振動数、t:時間、A:任意の値を取り得る初期位相)で示され、このφからの位相差(例えば、φ±π/2、π、3π/2、…)を有する信号の位相はφ=(ω・t+A±π/2(又、±π、±3π/2、…))で示される。
【0051】
しかしながら、簡単のため、以下の説明においては、位相差の基準となる位相を有する信号光を「φ=0の位相を有する信号光」と定義し、この信号光φ=0に対して位相差を有する信号光を、その位相差の値によって定義することとした。例えば、基準となる信号光に対してπの位相差を持つ信号を「φ=πの位相を有する信号光」と呼ぶ。
【0052】
以下、説明をつづける。図2(a)に示すように、信号光である平行光L0の位相φが一定の位相φ=0である場合は、スリット12aからそれぞれ出射される波面において、図中波面の実線で示す波の山と山、及び、図中波面の点線で示す谷と谷が重なり合う、図中○印で示す位置を結ぶ線上に回折光が生じ、波の山と谷とが重なり合う部分は暗部となる。
【0053】
このように、平行光L0は、回折後は離散した±m次の回折光として透過型回折格子11内を進行し、図1においては、端面11dの特定位置から外部へ出力される。
【0054】
なお、図2(a)中においては、格子面12の作用により0次回折光と、±1次回折光が生ずるものとして示したが、±m次の回折光のうち光強度が最も強いのは0次回折光であり、これは平行光L0と同一光軸上の光である。したがって、本実施の形態1においては、0次回折光が透過する位置を透過型回折格子11の端部11cと定め、端部11cから出力される光を受光できるようにPD14を配置するようにしている。すなわち、格子面12から透過型回折格子11の端部11cに入射され、外部へ出力される0次回折光L1がPD14によって受光される。
【0055】
次に、信号光に位相の変化が生じた場合の動作を説明する。
【0056】
図2(b)に示すように、信号光である平行光L0の位相φがφ=0からφ=πに変化した場合、スリット12aからそれぞれ出射される波面において、φ=0である波とφ=0である波とが干渉する箇所が生ずる。当該箇所においては、位相が一定である場合に波の山と山、又は谷と谷が重なり合って±m次の回折光を生じさせていた位置は、一方の波の山と谷とが入れ替わるため、互いに打ち消し合い、図中×印で示すように暗部となる。
【0057】
一方、位相が一定である場合に暗部となっていた、波の山と谷とが重なりあっていた位置は、一方の波の山と谷とが入れ替わるため、波の山と山、又は谷と谷とが重なり、図中▲印で示す位置を結ぶ線上に新たな回折光を生じさせる。
【0058】
このとき、位相φ=0である信号光と位相φ=πである信号光との干渉によって生じる新たな回折光は、以下の(数2)を満たす。
(数2)
d・sinθ=(m±(1/2))・λ
したがって、信号光の位相がφ=0からφ=πに変化すると、その変化の前後における平行光L0は、回折後は(m±(1/2))次回折光として透過型回折格子11内を進行し、端面11dの特定位置から外部へ出力されることとなる。
【0059】
ここで、(数2)に示される条件は、同位相の信号光同士が干渉する場合に光が弱め合うことにより生ずる暗線の発生条件と同一であり、波長λの係数(m±(1/2))は整数値を取り得ない値、すなわち非整数である。このことから、本明細書の説明においては、位相差がある信号光同士の干渉により生じる回折光を、非整数の次数の回折光と呼ぶ。
【0060】
なお、図2(b)中においては、格子面12の作用により±1/2次回折光と、±3/2次回折光が生ずるものとして示したが、次数が小さい回折光のほうが強い光強度を有するため、本実施の形態1においては、1/2次回折光が透過する位置を透過型回折格子11の端部11bと定め、端部11bから出力される光を受光できるようにPD13を配置するようにしている。すなわち、格子面12から透過型回折格子11の端部11bに入射され、外部へ出力される+1/2次回折光L2がPD14によって受光される。
【0061】
更に、平行光L0の位相がφ=πに変化した後は、スリット12aからそれぞれ出射される波面は、φ=πである波同士が干渉することとなる。この場合は、図2(a)に示す場合と同様、平行光L0は、回折後は離散した±m次の回折光として透過型回折格子11内を進行し、外部へ出力される0次回折光L1がPD14によって受光される。
【0062】
以上のように、本実施の形態1の光受信装置によれば、透過型回折格子11を備えたことにより、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相が一定である場合に生ずる0次回折光L1、及び当該信号光の位相が変化した場合に生ずる1/2次回折光L2の2種類の回折光を発生させ、これら回折光を、それぞれPD13、14を用いて検出するようにしている。
【0063】
透過型回折格子11は単一の部品であり、各回折光は同一品質のスラブ導波路内を通過するため光導波路の作製に起因する特性のばらつきは原理的に生じない。又、PD13、PD14はそれぞれ独立した回折光を受光する単一ダイオードにより構成されるため、受光特性のバラツキによる影響を受けにくい。したがって、本実施の形態1においては、図15に示す従来例より単純な構成であって正確な位相の変化を検知することができる。
【0064】
なお、上記の実施の形態においては、位相の変化量をπであるとしたが、位相の変化量は任意の値であってよく、その変化量に基づいて発生する回折光の位置を特定し、当該位置に、PDを設けるようにすればよい。このとき、端部11b、11c等の具体的な位置は各回折光の回折角及び透過型回折格子11の各部の寸法から計算により求めてもよいし、実際にPDにより透過型回折格子11からの出力光を受光することによって決定してもよい。
【0065】
望ましくは、位相の変化量をπ/nとすると(n:自然数)、透過型回折格子11からの光が出力される端部は、透過型回折格子11から非整数の次数(m±(2n)−1)(m:整数)を有する(m±(2n)−1)回折次数光を入射する位置に配置されるようにする。このときmは最小値m=0としたほうが、検出すべき光の光強度を最大限確保できるため、望ましい。
【0066】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置の構成図である。
【0067】
図3において、光受信装置2は、入力する光信号を電気信号に変換するフロントエンド部30と、フロントエンド部30から得られた電気信号を復調する復調部40とから構成される。
【0068】
フロントエンド部30は、差動位相偏移変調により変調された信号光が入力される反射型導波路回折格子31、反射型導波路回折格子31から出力される光を受光し、電気信号に変換するフォトダイオード(PD)33〜36から構成される。
【0069】
反射型導波路回折格子31はSiO2等により作製されたスラブ導波路であって、外部からの信号光を入力するための入力導波路34a、復調部40へ光を出力するための出力導波路34b〜34eを有する。又、反射型導波路回折格子31の内部は平面図においてローランド円37を形成しており、その内部側壁には、反射型回折面32、入力導波路43aから光を反射型回折面32に向けて出射する端部31a、及び反射型回折面32から出射された光を、出力導波路34b〜34eを介してPD33〜36へ入射させるための端部31b〜31eが配置されている。なお、反射型回折面32は反射型導波路回折格子31の内部を加工して形成してもよいし、別構成として配置するようにしてもよい。
【0070】
反射型導波路回折格子31において、入力導波路43aから入射し、端部31aから出射された信号光は、図中矢印に示す入力信号光L0として広がりながら直進する。反射型回折面32は入力信号光L0を端部31b〜31eに向かって回折させる。
【0071】
反射型回折面32、端部31a、及び端部31b〜31eはローランド円37上に配置されていることから、端部31aから出射された光であって、反射型回折面32により回折された光は、必ず端部31b〜31eのいずれかに到達することとなる。
【0072】
PD33〜36は、反射型導波路回折格子31の出力導波路34b〜34eから出力された光をそれぞれ受光する手段であり、PD33は反射型導波路回折格子31の端部31bを経由した光を導く出力導波路34bと光学的に接続する位置に、PD34は反射型導波路回折格子31の端部31cを経由した光を導く出力導波路34cと光学的に接続する位置に、PD35は反射型導波路回折格子31の端部31dを経由した光を導く出力導波路34dと光学的に接続する位置に、PD36は反射型導波路回折格子31の端部31eを経由した光を導く出力導波路34eと光学的に接続する位置に、それぞれ位置している。
【0073】
以上の構成において、反射型導波路回折格子31は、本発明の差動位相型変位変調光受光用回折格子に相当する。又、端部31aは本発明の出射端に相当し、端部31c〜31eは本発明の第1の入射端に、端部31bは本発明の第2の入射端にそれぞれ相当する。又、反射型回折面32は本発明の反射型回折格子に相当する。又、PD33〜36は本発明の受光素子に、復調部40は本発明の信号処理部に相当し、光受信装置2は本発明の光受信装置に相当する。
【0074】
以上のような構成を有する、本発明の実施の形態2の光受信装置を以下に説明する。
【0075】
光受信装置の基本的な動作及び原理は、実施の形態1と同様である。すなわち、反射型導波路回折格子31を用いて、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相が一定である場合に生ずる回折光、及び当該信号光の位相が変化した場合に生ずる回折光の2種類の回折光を発生させ、これら回折光をそれぞれPD33〜36を用いて検出する。
【0076】
以下、図3及び図4(a)(b)(c)(d)を参照して更に詳細な説明を行う。ただし図4(a)(b)(c)(d)は、反射型導波路回折格子31内部における入力信号光L0と反射型回折面32近傍の状態を模式的に示す図である。又、信号光は、実施の形態1と同様、位相φがφ=0及びφ=πの2つの値を持ち、これら2値の変化を検出対象とするものとする。
【0077】
図4(a)に示すように、端部31aから反射型回折面32に向けて出射されている入力信号光L0の位相がφ=0からφ=πに変化した場合、時刻t=T1において、反射型回折面32に達している入力信号光L0の波面はその位相φがφ=0である波のものだけなので、この入力信号光L0が反射型回折面32から回折して生ずる光は、実施の形態1と同様、0次回折光L11として、端部31bへ入射される。
【0078】
すなわち、時刻t=T1においては、0次回折光L11のみがPD33によって受光される。
【0079】
次に、図4(b)に示すように、時刻t=T2において、反射型回折面32に達している入力信号光L0の位相がφ=0からφ=πに変化した場合、反射型回折面32で反射したφ=0の位相の波の波面とφ=πの位相の波の波面とが干渉するため、実施の形態1の図2(b)の場合と同様、1/2次回折光L21が発生し、端部31dに入射される。
【0080】
一方、反射型回折面32においては、φ=0の波の波面も連続して反射型回折面32に達しており、これら反射型回折面32で反射したφ=0の位相の波同士が干渉するため、これら干渉に基づき生じた0次回折光L12も同時に発生し、端部31bに入射される。
【0081】
すなわち、時刻t=T2においては、1/2次回折光L21がPD35によって受光され、0次回折光L12がPD33によって受光される。なお、図4(a)において1/2次回折光L21及び0次回折光L12の光路は理解の容易のために模式的に記述したものであって、現実の光路とは異なる。これは以下の説明においても同様である。
【0082】
更に、図4(c)に示すように、時刻t=T3においては、反射型回折面32に達している入力信号光L0において、位相がφ=0からφ=πに変化する部分は、反射型回折面32の図中上部へ移動し続け、当該上部において、反射型回折面32で反射したφ=0の位相の波の波面とφ=πの位相の波の波面とが干渉するため、1/2次回折光L22を発生させ、端部31dに入射させる。
【0083】
一方、反射型回折面32においては、図4(b)の場合と同様、φ=0の波の波面も連続して反射型回折面32に達しており、これら反射型回折面32で反射したφ=0の位相の波同士の干渉に基づき生じた0次回折光L13も同時に端部31bに入射され続ける。
【0084】
すなわち、時刻t=T3においても、1/2次回折光及び0次回折光が両方受光される動作が継続している。
【0085】
図4(d)に示す場合も、図4(c)の場合と同様であり、時刻t=T4においても、反射型回折面32に達している入力信号光L0において、位相がφ=0からφ=πに変化する部分は、反射型回折面32の図中上部へ移動し続けるため、当該上部において反射型回折面32で反射したφ=0の位相の波の波面とφ=πの位相の波の波面との干渉により生じた1/2次回折光L23は端部31dに入射される。
【0086】
又、反射型回折面32においても、反射型回折面32で反射したφ=0の位相の波同士の干渉に基づき生じた0次回折光L14も同時に端部31bに入射され続ける。
【0087】
すなわち、時刻t=T4においても、1/2次回折光及び0次回折光が両方受光される動作が継続しており、この状態は、入力信号光L0において、位相がφ=0からφ=πに変化する部分が反射型回折面32で反射しきってしまうまで続くことになる。
【0088】
以上図4(a)〜(d)に示したように、本実施の形態2の光受信装置においては、ローランド円37上に配置した反射型回折面32、端部31a、及び端部31b〜31eを有する反射型導波路回折格子31を用いたことにより、入力信号光L0において位相φがφ=0からφ=πに変化した状態の波が連続して反射型回折面32に到達する構成を実現している。これにより入力信号光が反射型導波路回折格子31内部を伝播する長期間に渡って、位相の変化に起因する1/2次回折光を発生させ、PD35に受光させることができる。
【0089】
これは以下の効果をもたらす。すなわち、実施の形態1のような透過型回折格子を用いた場合、PDが実際に光を検出時間に比して1/2次回折光が発生する期間が短時間となってしまい、十分に回折光を検知できない恐れがある。これに対し、本実施の形態2による反射型導波路回折格子31においては、PDの検知可能な時間に比して十分長期間1/2次回折光を発生させることができるため、位相の変化をより正確に検知することが可能となる。
【0090】
なお、上記の説明においては、位相の変化量はπであるとしたが、実施の形態1と同様に、PDの配置個所として、当該位相の変化量に基づいて発生する回折光の位置を特定できれば、任意の値であってよい。更に位相の変化量はπ/n(n:自然数)が望ましい。n=2の場合、位相の変化量はπ/2であり、DQPSKにおいて本実施の形態を実現することが可能となる。このとき端部31d及び31eは、DQPSKにおいて、それぞれ位相φの値がφ=π/2の場合、φ=3π/2である場合に、位相の変化により発生する、1/4次回折光及び3/4次回折光の入射を受ける端部である。したがって、上記図4(a)〜(b)に示すのと同様の原理で、これら端部31d及び31eを介して、長期間にわたってPD34、PD37にこれら回折光を入射させ、信号を取り出すことができる。
【0091】
又、本実施の形態2の構成は、図5に示すように、信号光が、1シンボルが連続して伝送されるNRZ(non return zero)信号である場合に用いるのが好適である。一旦電圧が0に帰還するRZ(return zero)信号においては、位相の変化の間に空白が発生し、干渉が生じない恐れがあるためである。
【0092】
(実施の形態3)
図6は、本発明の実施の形態3の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置の構成図である。
【0093】
図6において、光受信装置3は、入力する光信号を電気信号に変換するフロントエンド部50と、フロントエンド部50から得られた電気信号を復調する復調部70とから構成される。
【0094】
フロントエンド部50は、差動位相偏移変調により変調された信号光が入力されるアレー導波路回折格子60、アレー導波路回折格子60から出力される光を受光し、電気信号に変換するフォトダイオード(PD)51〜54から構成される。
【0095】
アレー導波路回折格子60は、外部からの信号光を入力するための入力導波路61a、入力導波路61aから入力した光をアレー導波路63へ分配する入力側スラブ導波路62、2本の光導波路63(イ)及び63(ロ)を有するアレー導波路63、アレー導波路63から出力された光を再結合して出力導波路61b〜61eへ導く出力側スラブ導波路64、及び復調部70へ光を出力するための出力導波路61b〜61eを有する。
【0096】
アレー導波路回折格子60において、隣接する光導波路63(イ)及び63(ロ)の光路長は、(数3)に示す差分ΔLずつ異なる。
(数3)
ΔL=k・λ
ただしλは信号光の波長であり、kは自然数である。なお、隣接する光導波路の本数が3本以上の場合、最短のものと最長のものとの光路長差は(数4)に示す通りとなる。
(数4)
ΔL=(光導波路の本数−1)・k・λ
又、出力側スラブ導波路64は、その内部でアレー導波路63から出力された光を干渉させる手段であって、干渉光を、出力導波路61b〜61eを介してPD51〜54へ入射させるための端部64b〜64eが配置されている。なお、アレー導波路63の光導波路63(イ)及び63(ロ)はSiO2基板65上に形成した光導波路として実現され、入力側スラブ導波路62、アレー導波路63及び出力側スラブ導波路64も同一のSiO2基板65上に形成される。なお、アレー導波路63を構成する各光導波路63(イ)及び63(ロ)は光ファイバにより構成し、入力側スラブ導波路62及び出力側スラブ導波路64とは別構成としてもよい。
【0097】
アレー導波路回折格子60において、入力導波路61aから入射し、端部62aから出射された信号光は、入力側スラブ導波路62内を広がりながら進み、アレー導波路63の各光導波路に同一位相で入力される。
【0098】
上述したように、アレー導波路63を構成する各光導波路63(イ)、63(ロ)は光路長がk・λ異なることから、アレー導波路63から出力側スラブ導波路64に出力された光は、出力側スラブ導波路64内で干渉して回折光となり、端部64b〜64eのいずれかに到達することとなる。
【0099】
PD51〜54は、アレー導波路回折格子60の出力導波路61b〜61eから出力された光をそれぞれ受光する手段であり、PD51はアレー導波路回折格子60の端部64bを経由した光を導く出力導波路61bと光学的に接続する位置に配置される。又、PD52はアレー導波路回折格子60の端部64cを経由した光を導く出力導波路61cと光学的に接続する位置に、PD53はアレー導波路回折格子60の端部64dを経由した光を導く出力導波路61dと光学的に接続する位置に、PD54はアレー導波路回折格子60の端部64eを経由した光を導く出力導波路61eと光学的に接続する位置に、それぞれ配置される。
【0100】
以上の構成において、アレー導波路回折格子60は、本発明の差動位相型変位変調光受光用回折格子に相当する。又、端部62aは本発明の出射端に相当し、端部64c〜64eは本発明の第1の入射端に、端部64bは本発明の第2の入射端にそれぞれ相当する。又、アレー導波路63は本発明のアレー導波路に相当する。又、PD51〜54は本発明の受光素子に、復調部70は本発明の信号処理部に相当し、光受信装置3は本発明の光受信装置に相当する。
【0101】
以上のような構成を有する、本発明の実施の形態3の光受信装置3を以下に説明する。
【0102】
光受信装置3の基本的な動作及び原理は、実施の形態1、2と同様である。すなわち、アレー導波路回折格子60を用いて、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相が一定である場合に生ずる回折光、及び当該信号光の位相が変化した場合に生ずる回折光の2種類の回折光を発生させ、これら回折光をそれぞれPD51〜54を用いて検出する。
【0103】
以下、図6、図7、図8(a)(b)(c)及び図9を参照して更に詳細な説明を行う。ただし図7は、光受信装置3にて受光される光信号を示す図、図8(a)(b)(c)は、アレー導波路回折格子60内部における入力信号光L0と反射型回折面32近傍の状態を模式的に示す図、及び図9はアレー導波路63内における各信号光の状態を説明するための図である。
【0104】
信号光は、実施の形態1と同様、位相φがφ=0及びφ=πの2つの値を持ち、これら2値の変化を検出対象とするものとする。更に、図7に示すように、信号光は、1シンボルと1シンボルとの間に必ず電圧が0に帰還して伝送されるRZ(return zero)信号であり、位相がφ=0であるパルス、及び位相がφ=πであるパルスが等時間間隔で伝送されるものとする。
【0105】
上述したように、アレー導波路63を構成する各光導波路63(イ)、63(ロ)は光路長がk・λ異なることから、アレー導波路63から出力側スラブ導波路64に出力された光は、光導波路毎に(数5)に示す時間遅延Δtを生じさせる。
(数5)
Δt=n・ΔL/c
ただしnは光導波路の屈折率、cは光速度である。
【0106】
ここで図8(a)に示すように、時刻t=T1において、アレー導波路63内を進行する各信号光は、それぞれ位相φ=0であるパルス及びφ=πであるパルスを含んでいるが、光導波路の光路差に基づく時間遅延のため、時刻t=T1において、出力側スラブ導波路64に出力されたパルスは、光導波路63(イ)及び光導波路63(ロ)のいずれにおいても位相φ=0のものだけなので、これらパルスが出力側スラブ導波路64内で干渉して生ずる光は、実施の形態1の図2(a)の場合と同様、整数の次数を有する回折光L31として、端部64bへ入射される。
【0107】
すなわち、時刻t=T1においては、k次回折光L31のみがPD51によって受光される。なお、図8(a)においてk次回折光L31の光路は理解の容易のために模式的に記述したものであって、現実の光路とは異なる。これは以下の説明においても同様である。
【0108】
次に、図8(b)に示すように、時刻t=T2においては、出力側スラブ導波路64には、光導波路63(イ)から出力された位相φ=πのパルスに加えて、光導波路63(ロ)から出力された位相φ=0のパルスも入力する。このとき、出力側スラブ導波路64内で位相φ=0のパルスと位相φ=πのパルスとが干渉するため、実施の形態1の図2(b)の場合と同様、非整数の次数を有する回折光L41が発生し、端部64dに入射される。
【0109】
更に、図8(c)に示すように、時刻t=T3においては、図8(a)の場合と同様、出力側スラブ導波路64には、光導波路63(イ)及び光導波路63(ロ)から出力された位相φ=πのパルス同士の干渉に基づくk次回折光L33が発生し、端部64bに入射される。
【0110】
以下信号光のパルスの出力側スラブ導波路64への入力に応じて回折光が適宜発生し、端部64b又は64dに入射されることとなり、位相の変化が検知される。
【0111】
ここで信号光における位相φ=0のパルスと位相φ=πのパルスが干渉するための条件の一例を説明する。アレー導波路63における、各光導波路の光路長差ΔLに基づく時間遅延Δtは、一般に(数6)で表すことができる。
(数6)
Δt=n・ΔL/c
の時間遅延が生じる。ここでcは光速度、nはアレー導波路の屈折率である。
【0112】
ここで、パルスの時間幅Tw1、パルスの時間間隔Tw2が(数7)(数8)の関係を満たすように設定する。
(数7)
Tw1<Tw2
(数8)
Tw1<Δt
(数7)(数8)の条件で信号光をアレー導波路63に出力すると、図9に示すように、時刻t=T1において、光導波路63(イ)及び63(ロ)を伝達するパルスは同位相φ=0である。これは出力側スラブ導波路64内にてk次回折光を生じさせる条件であり、図8(a)に示す状態に相当する。
【0113】
次に、t=T2では、光導波路63(イ)上には、位相φ=πのパルスが伝達しているが、光導波路63(ロ)においては、時間遅延Δtのため、位相φ=0のパルスが存在する。これは出力側スラブ導波路64内にて(k+(1/2))次回折光を生じさせる条件であり、図8(b)に示す状態に相当する。さらに、t=T3では、光導波路63(イ)及び63(ロ)を伝達するパルスは同位相φ=πであり、図8(c)に示す状態に相当する。
【0114】
このように、(数6)(数7)に示す条件に基づけば、出力側スラブ導波路64内にて、アレー導波路63の各光導波路を通過するパルス同士でk次回折光と(k+(1/2))次回折光とを択一的に発生させることができる。なお、光導波路63(イ)又は光導波路63(ロ)のいずれか一方にしかパルスが伝達しない場合は、干渉が発生しないため、出力導波路61b〜eに信号光が出力されることはない。
【0115】
実施の形態2で説明した反射型回折格子を用いた場合は、図7に示すRZ信号を用いた場合、信号光のパルス間の時間遅延が大きい場合、回折後の光の一部に干渉が生じず、位相の変化を検出できない恐れがあった。
【0116】
これに対し、本実施の形態3によるアレー導波路回折格子60においては、複数の光導波路で光路差を作り出すようにしたことで、信号光を構成するシンボルである各パルスが必ずアレー導波路63の出力後に干渉を起こすため、位相が互いに異なるパルス同士の干渉により生ずる回折光を確実に発生させることができ、位相の変化をより正確に検知することが可能となる。
【0117】
なお、(数7)(数8)に示す条件は一例であって、信号光のパルスの時間遅延は、アレー導波路63を構成する複数の光導波路において、位相が互いに異なるパルス同士が同一時刻に同時に出力側スラブ導波路64内に出力されるものであれば、任意の条件を設定するようにしてもよい。当然、アレー導波路63を構成する光導波路の本数によって限定されるものでもない。
【0118】
以上説明したように、本実施の形態3の光受信装置3においては、複数の光導波路を有するアレー導波路63を備えたアレー導波路回折格子60を用いたことにより、RZ信号のようなパルスを信号光として扱う場合でも、確実に位相の変化を検知することができる。又、光導波路の光路長によって信号光の時間遅延を設定できるため、実施の形態2と同様、入力信号光がアレー導波路回折格子60内部を伝播する長期間に渡って、位相の変化に起因する(k+(1/2))次回折光を発生させ、PD53に受光させることができる。
【0119】
なお、上記の説明においては、位相の変化量はπであるとしたが、実施の形態1と同様に、PDの配置個所として、当該位相の変化量に基づいて発生する回折光の位置を特定できれば、任意の値であってよい。更に位相の変化量はπ/n(n:自然数)が望ましい。n=2の場合、位相の変化量はπ/2であり、DQPSKにおいて本実施の形態を実現することが可能となる。
【0120】
このとき端部64d及び64eは、DQPSKにおいて、それぞれ位相φの値がφ=π/2の場合、φ=3π/2である場合に、位相の変化により発生する、(k+(1/4))次回折光及び(k+(3/4))次回折光の入射を受ける端部となる。したがって、上記図8(a)〜(c)に示すのと同様の原理で、これら端部64d及び64eを介して、PD52、PD54にこれら回折光を入射させ、信号を取り出すことができる。なお、本実施の形態においては自然数kにより回折光の次数を規定されることとなるが、これはアレー導波路においては光導波路の光路差が0となる、すなわち0次回折光が発生する条件がないためであって、本実施の形態の条件は、実施の形態1、2においてmが正整数である場合に相当することとなる。
【0121】
(実施の形態4)
図10は、本発明の実施の形態4の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置4の構成図である。ただし図10において図6と同一又は相当部には、同一符号を付し、詳細な説明は省略する。又、伝熱板80はSiO2基板65の裏面に設けられたセラミック、金属、樹脂等により構成された板であり、SiO2基板65に対して均一な熱伝導を行うための手段である。
【0122】
又、図11に示すように、伝熱板80の、SiO2基板65と対向しない側に面にはペルチェ素子83が設けられる。ペルチェ素子83は印加される電圧の極性に応じて発熱又は吸熱を行い、伝熱板80を介してSiO2基板65の温度を制御する手段である。又、図10において、サーミスタ81及び82はSiO2基板65上にシリコンペースト等で固定された温度検出器である。なお、サーミスタ81、82及びペルチェ素子83は本発明の温度調節部に相当する。又、光受信装置4は本発明の光受信装置に相当する。
【0123】
以上の構成を有する本実施の形態4の光受信装置4においては、ペルチェ素子83は、サーミスタ81及び82の検出する温度に基づき、図示しないマイコン等の外部制御手段によって、SiO2基板65の温度を一定に保つための発熱又は吸熱の動作を行う。
【0124】
アレー導波路回折格子60は一枚のSiO2基板65上に各部が形成されているが、周囲温度の変化、又は信号光の導波による熱伝導の影響をうけると、アレー導波路63を構成する各光導波路が伸縮する等の歪みを生じて、正確な光路長が保てなくなる恐れがある。
【0125】
本実施の形態4によれば、サーミスタ81及び82の検出する温度に基づき動作するペルチェ素子83を備えたことにより、SiO2基板65上の、特にアレー導波路63が形成された部分に、伝熱板80を設けてムラなく熱伝導を行わせることにより、アレー導波路63の光路長を一定に保つことができる。
【0126】
なお、上記の構成においては本発明の温度調節部としてペルチェ素子83を用いるとして説明を行ったが、ニクロム線やその他熱電対を用いたヒータで代用するようにしてもよい。又、伝熱板80はSiO2基板65の裏面に設けるものとしたが、表面、又は両面に設けるようにしてもよい。
【0127】
(実施の形態5)
図12は、本発明の実施の形態5の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置5の構成図である。ただし図12において図6と同一又は相当部には、同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0128】
本実施の形態においては、アレー導波路回折格子60において、入力側スラブ導波路62、アレー導波路63及び出力側スラブ導波路64をSiO2基板65に代えてニオブ酸リチウム単結晶からなる誘電体結晶基板90上に形成した点、及び、図13に示すように、誘電体結晶基板90を挟むように電極板91及び92を設け、これら電極板91及び92間に電源93による所定電圧を印加できるように構成した点を特徴とする。電極板91及び92は、誘電体結晶基板90上のアレー導波路63が形成された部分に重なるよう位置している。なお、電極板91、92及び電源93は本発明の屈折率調節部に相当する。
又、光受信装置6は本発明の光受信装置に相当する。
【0129】
以上の構成を有する本実施の形態5の光受信装置5においては、誘電体結晶基板90をニオブ酸リチウム単結晶からなる構成としたことにより、電極板91、92の間に電源93によって電位差を与えると、誘電体結晶基板90の電気光学効果により屈折率が変化する。したがって、電圧によって入力側スラブ導波路62、アレー導波路63及び出力側スラブ導波路64の屈折率を制御することができる。
【0130】
したがって、実施の形態4と同様に、周囲温度の変化、又は信号光の導波による熱伝導の影響をうけると、アレー導波路63を構成する各光導波路の長さが変動した場合でも、誘電体結晶基板90自体の屈折率を変化させることで、各光導波路の光路長、又は信号光の時間遅延を補償することができる。
【0131】
又、本実施の形態5によれば、同一の光受信装置5を、異なる波長を有する信号光に対して用いることができる。すなわち、特定波長λの信号光に対してアレー導波路63の各光導波路を設計した場合、当該アレー導波路63は、特定波長λからΔλだけ異ならせた波長λ′の信号光に対しては光路長が異なることとなるため、例えばm・λ=m′・λ′(m′:m′≠mを満たす整数)であるような例外的な関係を別として、これを用いることが難しくなる可能性がある。しかしながら、本実施の形態によれば、電圧の印加によりアレー導波路回折格子60の屈折率を可変させることで各光導波路の光路長を波長λ′に対応するよう調整することができる。
【0132】
このように、本実施の形態5によれば、同一の光受信装置5を、複数の異なる波長の信号光に対応させることができる。
【0133】
なお、上記の構成においては、誘電体結晶基板90はニオブ酸リチウム単結晶からなるものとして説明を行ったが、電気光学効果を有するものであれば、他の組成によるものであってもよい。
【0134】
又、上記実施の形態4、5は、実施の形態3のアレー導波路回折格子60を備えた構成において実施するものとして説明を行ったが、実施の形態1の透過型回折格子11、又は実施の形態2の反射型導波路回折格子31を備えた構成において実施してもよい。
【0135】
(実施の形態6)
図14は、本発明の実施の形態6の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置の構成図である。
【0136】
図14において、光受信装置6は、入力する光信号を電気信号に変換するフロントエンド部310と、フロントエンド部310から得られた電気信号を復調する復調部320とから構成される。
【0137】
フロントエンド部310は、差動位相偏移変調により変調された信号光から回折光を取り出す回折格子本体311、回折格子本体311から出力される光を受光し、電気信号に変換するフォトダイオード(PD)313及び314から構成される。
【0138】
回折格子本体311は、中空の筐体部312a、及び筐体部312aの内に配置された、図中奥から手前方向に向かって形成されたスリットを有する透過型回折格子312bとを備える。筐体部312a内には、信号光を平行光として内部へ導くための、コリメータレンズ等として実現されるレンズ312c、及びレンズ312cと透過型回折格子312bとの間の空間に配置された、ハーフミラー312d及び反射ミラー312eが設けられている。更に、筐体部312aの、レンズ312cが設けられた面に対向する面上には、透過型回折格子312bから出力された光を透過させるための開口部312f及び312gが設けられている。
【0139】
PD313及び314は、回折格子本体311から出力された光を受光する手段であり、PD313は回折格子本体311の開口部312fを経由した光を受光する位置に、PD314は回折格子本体311の端部312gを経由した光を受光する位置に、それぞれ位置している。なお、開口部312f及び312gは物理的な開口であってもよいし、フェルール、光ファイバ等によって実現される、PD313及び314と光学的に結合可能な構成であればよい。
【0140】
以上の構成において、回折格子本体311は、本発明の差動位相型変位変調光受光用回折格子に相当する。又、筐体部312aは本発明の筐体部に相当し、透過型回折格子312bは本発明の透過型回折格子に相当する。又、レンズ312cは本発明の出射端に相当し、開口部312fは本発明の第1の入射端に、開口部312gは本発明の第2の入射端にそれぞれ相当する。又、レンズ312c、ハーフミラー312d及び反射ミラー312eは本発明の分岐光学系に相当する。又、PD313、314は本発明の受光素子に、復調部320は本発明の信号処理部に相当し、光受信装置6は本発明の光受信装置に相当する。
【0141】
本発明の実施の形態6の基本的な動作及び原理は、実施の形態1と同様である。すなわち、反射型導波路回折格子311を用いて、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相が一定である場合に生ずる回折光、及び当該信号光の位相が変化した場合に生ずる回折光の2種類の回折光を発生させ、これら回折光をそれぞれPD313及び314を用いて検出する。
【0142】
本実施の形態6においては、中空の筐体部312a内に設けた透過型回折格子312bを備えた構成としたことにより、次のようにして回折光を発生させるようにしている。
【0143】
回折格子本体311の内部において、外部から入射した信号光は、レンズ312cを介することにより、図中矢印に示す平行光L0としてハーフミラー312dに直進する。筐体部312a内は中空なので、平行光L0は収束した光軸となる。
【0144】
ハーフミラー312dにおいては、平行光L0の一部は透過し、残りの一部は反射する。ハーフミラー312dを透過した光は透過型回折格子312bに向かい、ハーフミラー312dを反射した光L0′は、反射ミラー312eで更に反射されてから、透過型回折格子312bに直進する。
【0145】
ここでレンズ312c、透過型回折格子312b、ハーフミラー312d及び反射ミラー312eの光学的なレイアウトは以下のようになっている。すなわち、透過型回折格子312dのスリットS0は、レンズ312cの光軸上に配置され、当該光軸上にハーフミラー312dが位置している。又、ハーフミラー312dと反射ミラー312eは、反射ミラー312eにより反射された光が、平行光L0と平行であり、かつ、透過型回折格子312dのスリットS0に隣接するスリットS1に入射するような位置関係となるよう配置される。
【0146】
このような構成としたことにより、透過型回折格子312bに入射する信号光は、スリットS0に入射するものとスリットS1に入射するものとで、光路差を生ずる。具体的には、スリットS1に入射する信号光は、ハーフミラー312dと反射ミラー312eで折り返される分だけ、スリットS0に入射されるものより光路差が大きくなる。
【0147】
この結果、実施の形態3と同様、スリットS0から出射される信号光とスリットS1から出射される信号光が同位相であれば、整数次の回折光L0が発生し、開口部312gを介してPD314に受光される。又、スリットS0から出射される信号光とスリットS1から出射される信号光が異なる位相であれば、非整数次の回折光L1が発生し、開口部312fを介してPD313に受光される。なお信号光の位相差の数に基づく開口部の位置、個数の変化の対応は、実施の形態1〜3と同様である。
【0148】
以上のように、本実施の形態6によれば、透過型回折格子を用いた構成においても信号光の光路差を大きくとり、信号光の時間遅延を大きく設定できるため、実施の形態2、3と同様、入力信号光が回折格子本体311内部を伝播する長期間に渡って、位相の変化に起因する非整数次の回折光を発生させ、PD313に受光させることができる。
【0149】
なお、実施の形態1においては、本発明の回折格子本体を、スラブ導波路及びスラブ導波路内の格子面として形成した透過型回折格子により実現した場合、入力信号光L0と、格子面12とが直交する構成であるとして説明を行ったが、実施の形態2と同様に、入力信号光L0が格子面12に対して斜め方向から入射されるようにすれば、入力信号光L0において位相φがφ=0からφ=πに変化した状態の波を連続して格子面12に入力させることができ、実施の形態2、3及び6同様、PDの受光時間を大きくとることができる。
【0150】
図15にそのような構成の一例を示す。図15に示す光受信装置7は、実施の形態1において、透過型回折格子11に代えて、信号光が入力する面201を斜面とすることにより、格子面12に対して斜交する配置とした構成を有する。この場合、端部11aから入力した入力信号光L0の波面は、格子面12の下部から上部に向けて順番に到達することとなり、位相が異なる波面同士が干渉する時間を長期間とることができる。
【0151】
なお、図15に例示される光受信装置7においては、端部11aから入力信号光L0が斜め方向から入力することにより本発明の回折格子本体に相当する格子面12におけるスリット12aの開口位置と端部11aとの間の距離は互いに異なることとなっている。この関係は、本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子における、回折格子本体における回折光の出射位置が複数であって、この複数の出射位置と出射端との間の光路長がそれぞれ異なる関係に対応している。同様の構成は、実施の形態6においても実現されており、この場合はハーフミラー312d及び反射ミラー312eによって光路長の異なりを作り出している。
【0152】
しかしながら、本発明の差動位相偏移変調光受光用回折格子における、回折光の出射位置が複数であって、この複数の出射位置と出射端との間の光路長がそれぞれ異なる関係とは、上記図15に示す光受信装置7や実施の形態2、6の構成に限定されない。例えば、物理的な距離が同一であっても、信号光が透過する媒体の屈折率が変化すれば光路長は異なる。したがって、図1に示す構成のように、入力信号光L0が格子面12に向かって直交するレイアウトとなっていても、透過型回折格子11を構成する材料として、屈折率分布が変化する材料を用いることによって、図14と同様、入力信号光L0に光路差を与えて、位相が異なる波面同士が干渉する時間を長期間とることができ、位相の変化を確実に検知することができる。
【0153】
(実施の形態7)
図16は、本発明の実施の形態7の、差動位相偏移変調による光信号を受信する光受信装置の構成図である。
【0154】
図16において、光受信装置8は、入力する光信号を電気信号に変換するフロントエンド部450と、フロントエンド部450から得られた電気信号を復調する復調部470とから構成される。ただし、図16において図6と同一又は相当部には、同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0155】
フロントエンド部450は、差動位相偏移変調により変調された信号光が入力されるアレー導波路回折格子460、アレー導波路回折格子460から出力される光を受光し、電気信号に変換するフォトダイオード(PD)51〜54から構成される。
【0156】
アレー導波路回折格子460において、入力導波路61a、入力側スラブ導波路62、出力側スラブ導波路64、出力側スラブ導波路64、及び出力導波路61b〜61eは実施の形態3の光受信装置3と同様の構成であるが、アレー導波路463は、2本の光導波路463(イ)及び463(ロ)が、実施の形態3と同様、互いにk・λ(λ:信号光の波長、k:自然数)異なる光路長に設計され更に、この光路長差に基づく時間遅延Δtに、更に後述する条件が与えられるように設計されている。
【0157】
次に、復調部470は、PD51〜54にそれぞれ一対一対応して設けられ、PD51〜54から出力された電気信号を数値化するA/D変換部471〜474と、A/D変換部471〜474から得られた各数値を比較し、その比較結果を用いて信号光の位相の変化量を演算する演算部475とを有する。
【0158】
以上の構成において、アレー導波路回折格子460は本発明の差動位相型変位変調光受光用回折格子に相当する。又、復調部470は本発明の位相差識別部に相当し、光受信装置8は本発明の光受信装置に相当する。又、アレー導波路63は本発明のアレー導波路に相当し、出力側スラブ導波路64は本発明のスラブ導波路に相当する。
【0159】
本発明の実施の形態7の基本的な動作及び原理は、実施の形態3と同様である。すなわち、互いに光路差を有する複数の光導波路463(イ)及び463(ロ)からなるアレー導波路463を有するアレー導波路回折格子460を用いて、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相が一定である場合に生ずる回折光、及び当該信号光の位相が変化した場合に生ずる回折光の2種類の回折光を発生させ、これら回折光をPD51〜54を用いて検出する。
【0160】
本実施の形態7による光受信装置8は、差動位相偏移変調により変調された信号光の位相が一定である場合に生ずる回折光、及び当該信号光の位相が変化した場合に生ずる回折光の2種類の回折光のいずれの受光に際しても、復調部470は、全てのPD51〜54の信号光に基づき位相の変化量を求めることを特徴とする。
【0161】
以下、詳細な説明を行う。
【0162】
アレー導波路回折格子460のアレー導波路463において、光導波路463(イ)と463(ロ)との光路長差は、上記k・λであって、光導波路463(ロ)を通過する信号光は光導波路463(イ)を通過する光に対して時間遅延を与える。
【0163】
この時間遅延は、図17に示すように、信号光の位相が変化した場合において、光導波路463(イ)及び463(ロ)と出力側スラブ導波路64とのそれぞれの結合点64(イ)及び64(ロ)に、位相の変化前の信号光のパケットと、位相の変化前の信号光のパケットとがそれぞれ同時に到達するように設定されている。図17の場合、信号光の位相φがφ=πからφ=0に変化した時、光路長の短い光導波路463(イ)と出力側スラブ導波路64との結合点64(イ)には変化後の位相φ=0の信号光のパケットが到達し、光路長の長い光導波路463(ロ)と出力側スラブ導波路64との結合点64(ロ)には変化前の位相φ=πの信号光のパケットが到達している。
【0164】
出力側スラブ導波路64において、結合点64(イ)及び64(ロ)に信号光のパケットが同時に到達すると、各パケットは干渉を生じて、干渉光を発生させる。干渉光は基本的に出力側スラブ導波路64内部全体を伝播し、端部64b〜64bに達すると、それぞれPD51〜54により受光される。PD51〜54は、受光した光の強度(光強度)に対応した電気信号を出力する。PD51〜54から出力された電気信号は、それぞれA/D変換部471〜474に入力し、データとして数値化され、演算部475へ入力される。演算部475は、各数値の入力を受けると、これを出力比、すなわちPD51〜54とPD51〜54から得られた各数値との対応関係として算出し、当該出力比を、内蔵した出力比テーブル475aに記録された出力比と比較し、一致又は近似するものを選択する。
【0165】
ここで出力比テーブル475aは、予め実験及び計算により求めた出力比と位相の変化量との対応をまとめたテーブルである。演算部475は、PD51〜54から得られた出力比が、出力比テーブル475aに記録された出力比と一致又は近似した場合、その一致又は近似した出力比が対応する位相の変化量を、演算結果として外部へ出力する。
【0166】
信号光の位相の変化量に応じて、PD51〜54がそれぞれ受光する光の光強度は変化し、したがって演算部475が算出する出力比も変化する。演算部475は、変化する出力比に対応した位相の変化量を出力比テーブル475aを用いて算出することで、外部から入力する信号光の位相の変化に追従して正確に位相の変化量を求めることができる。
【0167】
本実施の形態7による光受信装置8は、実施の形態3の光受信装置3に比して、更に位相変化の検出精度を向上できるという利点を有する。それは以下の理由による。
【0168】
図8(a)〜(c)を参照して説明したように、実施の形態3の光受信装置3であれば、信号光の位相に変化が生じた場合、その変化に伴い生じた干渉光をPD51〜54を用いて検出し、復調部70は、PD51〜54のうち、最も光強度の大きな光を検出したものからの電気信号に依拠して位相量の変化を求めていた。
【0169】
これは、端部64b〜64eの位置が、出力側スラブ導波路64の出射端面上における干渉光のピークに対応するように配置され、かつ、端部64b〜64eのそれぞれの位置が、そのまま位相の変化量に対応する関係を有するように設計していたためであり、PD51〜54が受光する特定の干渉光の光強度が、他の干渉光の光強度と十分に識別可能な程度に大きい、つまりPD間のアイソレーションが十分大きいことに基づいている。
【0170】
しかしながら、各PD51〜54が受光する干渉光の光強度に十分な違いがない、つまりPD間のアイソレーションが十分な大きさでない場合、復調部70においては、PD51〜54が干渉光を受光したとき、各干渉光の識別を行うことができなくなる、又は誤識別を行い、正確な位相の変化を検知できない恐れがある。
【0171】
これに対し、本実施の形態7の光受信装置8においては、復調部470は、全てのPD51〜54が受光する干渉光の光強度の出力比を求め、出力比との対応関係から位相の変化量を演算する。出力比の変化は、信号光の位相の変化に対して十分識別可能なパターンとして現れるため、PD間のアイソレーションが小さい場合であっても、位相の変化を正確に検知することが可能となる。なお、上記の説明において、光強度は、本発明の光信号の大きさに相当する。
【0172】
ここで、図18〜20に、PDの個数を5つとして作成した光受信装置におけるPDの受光特性及び出力比の特性の一例を示す。
【0173】
図18に示す光受信装置9は、5つのPD451〜454及びそれに対応した端部464a〜464e、出力導波路461a〜461e及びA/D変換部476a〜476eを備えたこと以外は、図16の光受信装置8と同様の構成、機能を有する。なお、アレー導波路回折格子460はスリット2つを有する回折格子に相当するものとする。
【0174】
図19は、PD451〜454と光学的に結合する出力導波路461a〜461eが、中央の出力導波路461cを回折角0(rad)として、0.04(rad)刻みの間隔で離隔配置した構成とした場合における、信号光の位相変化と光強度との関係を示したグラフである。
【0175】
図19に示すように、信号光の位相が変化する場合において、位相の変化量は、最大の変化量πであっても、光強度の差分は、PD間に必要なアイソレーションの半分程度(10dB以下)と小さな値となっている。
【0176】
図20は、信号光の位相変化をPD451〜454の出力比と対応付けた例であり、これと同様の内容がデータとして出力比テーブル475aに格納されている。各位相差に対応した出力比は互いに大きく異なり、他と容易に識別可能であることが分かる。
【0177】
以上のように、本実施の形態7の光受信装置8によれば、信号光の位相変化を、より正確に検知することが可能となる。
【0178】
なお、上記の説明においては、PD、出力導波路の数は4又は5であるとしたが、2以上の任意の数であってもよい。又、上記の説明においては、復調部470の構成は、実施の形態3の構成と組み合わせて実現するものとして説明を行ったが、他の実施の形態1、2、4〜6他の構成と組み合わせて実現してもよい。
【0179】
又、上記の説明においては、光導波路463(イ)及び463(ロ)と出力側スラブ導波路64とのそれぞれの結合点64(イ)及び64(ロ)に、位相の変化前の信号光のパケットと、位相の変化前の信号光のパケットとがそれぞれ同時に到達するように設定されているものとして説明を行ったが、正確に同時でなくともよい。各PDの出力比を得ることができる時間内、つまり、位相の変化する前の信号光と位相の変化した後の信号光とが、スラブ導波路を伝播することで干渉光を生ずることができる時間内であれば、光信号のパケットの到着時刻には許容誤差があってもよい。
【0180】
又、上記の各実施の形態の説明においては、差動位相偏移変調された信号光を例として説明を行ったが、差動位相変位変調においては、位相量が変化する場合のみを検知できれば信号の再生が可能であることから、位相量が同一の信号光が干渉して生じるm次回折次数光(整数次の回折光)を受光するための構成は省略してもよい。実施の形態1の場合、端部11cに対応したPD14及び透過型回折格子11の端部11cに当たる部分を省略してもよい。同様に、実施の形態2の場合は、PD33及び出力導波路34bを省略してもよい。同様に、実施の形態3の場合は、PD51、出力導波路61bを省略してもよい。
【0181】
更に、上記の説明においては、単一波長の信号光を差動位相偏移変調するものとして説明を行ったが、本発明は、波長多重光のそれぞれについて差動位相偏移変調を行った信号光に対して適用するものとしてもよい。この場合は、回折格子として、波長毎に本発明の出射端、第1の入射端及び/又は第2の入射端を備えた構成にすればよい。
【0182】
又、上記の説明においては、光受信装置全体を例にとり説明を行ったが、本発明は位相偏移変調光受光用回折格子単体で実施するものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明は、以上のような本発明によれば、位相の変化を正確に検出することができ、位相偏移変調光を受光するための回折格子、及びこれを用いた光受信装置等において有用である。
【符号の説明】
【0184】
1 光受信装置
10 フロントエンド部
11 透過型回折格子
11a、11b、11c 端部
12 格子面
13、14 フォトダイオード(PD)
20 復調部
L0 入力信号光
L1 0次回折光
L2 1/2次回折光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動位相偏移変調された信号光を出射する、少なくとも一つの出射端と、
前記出射端から出射された光を回折させる回折格子本体と、
前記回折格子本体から出射された光を入射する、m(m:整数)次回折光が入射される場所以外の場所に設けられた、少なくとも一つの第1の入射端とを備えた、差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項2】
前記第1の入射端の位置は、前記差動位相偏移変調された前記信号光の位相の変化量に基づき決定される、請求項1に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項3】
前記位相の変化量をπ/nとすると(n:自然数)、
前記第1の入射端は、前記回折格子本体から(m±(2n)−1)次回折光を入射する位置に配置される、請求項2に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項4】
前記回折格子本体から出射された光のうち、前記m次回折光を入射する、少なくとも一つの第2の入射端を備えた、請求項1から3のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項5】
前記回折格子本体における回折光の出射位置は複数であって、
前記複数の前記出射位置と前記出射端との間の光路長はそれぞれ異なる、請求項1から4のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項6】
前記回折格子本体は、
前記出射端から出射された光が斜め方向から入射される入射面を有する、請求項5に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項7】
前記回折格子本体は、
前記入射面と同一の面から回折した光を出射する反射型回折格子を有する、請求項6に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項8】
前記回折格子本体は、
前記出射端、前記第1の入射端及び前記反射型回折格子と光学的に結合したスラブ導波路を有し、
前記出射端、前記第1の入射端及び前記反射型回折格子は、前記スラブ導波路上にて同一のローランド円の周上に配置されている、請求項7に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項9】
前記回折格子本体は、
前記入射面を透過して回折した光を出射する透過型回折格子を有する、請求項1から6のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項10】
前記回折格子本体は、スラブ導波路であり、
前記透過型回折格子は、前記スラブ導波路内に形成された格子面であり、
前記出射端及び前記第1の入射端は、前記スラブ導波路の縁部に設けられている、請求項9に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項11】
前記回折格子本体は、前記出射端及び前記第1の入射端が設けられるとともに、前記透過型回折格子が収納される筐体部と、
前記筐体部内の前記出射端と前記透過型回折格子との間の空間に設けられた、前記出射端から出射された光を分岐させ、前記透過型回折格子の互いに異なるスリットに入射させる分岐光学系とを有する、請求項9に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項12】
前記回折格子本体は、一端に前記出射端が設けられ、他端が互いに光路長が異なる複数の光導波路に分岐しているアレー導波路を有する、請求項1から5のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項13】
前記回折格子本体の温度を一定に保つよう調節する温度調節部を備えた、請求項1から12のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項14】
電圧を印加することにより前記回折格子本体の屈折率を調整する屈折率調節部を備えた、請求項1から12のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子と、
少なくとも前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記第1の入射端と、光学的に結合した受光素子と、
前記受光素子の受光した光信号を処理する信号処理部とを備えた、光受信装置。
【請求項16】
請求項4に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子と、
前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記第1の入射端と光学的に結合した第1の受光素子と、
前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記第2の入射端と光学的に結合した第2の受光素子と、
前記第1の受光素子の受光した光信号の大きさと、前記第2の受光素子の受光した光信号の大きさとの組み合わせに基づいて、前記差動位相偏移変調光受光用回折格子へ入力した前記信号光の位相の変化量を識別する変化量識別部とを備えた、光受信装置。
【請求項17】
前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記回折格子本体は、一端に前記出射端が設けられ、他端が互いに光路長が異なる複数の光導波路に分岐しているアレー導波路と、
一端は前記アレー導波路と光学的に接続され、他端は前記第1の入射端及び前記第2の入射端が設けられたスラブ導波路とを有し、
前記アレー導波路の前記複数の光導波路は、前記外部より入力する前記信号光の位相が変化した場合、位相の変化する前の前記信号光と前記位相の変化した後の前記信号光とが、同一時間内に前記スラブ導波路を伝播する光路長差を有する、請求項16に記載の光受信装置。
【請求項1】
差動位相偏移変調された信号光を出射する、少なくとも一つの出射端と、
前記出射端から出射された光を回折させる回折格子本体と、
前記回折格子本体から出射された光を入射する、m(m:整数)次回折光が入射される場所以外の場所に設けられた、少なくとも一つの第1の入射端とを備えた、差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項2】
前記第1の入射端の位置は、前記差動位相偏移変調された前記信号光の位相の変化量に基づき決定される、請求項1に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項3】
前記位相の変化量をπ/nとすると(n:自然数)、
前記第1の入射端は、前記回折格子本体から(m±(2n)−1)次回折光を入射する位置に配置される、請求項2に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項4】
前記回折格子本体から出射された光のうち、前記m次回折光を入射する、少なくとも一つの第2の入射端を備えた、請求項1から3のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項5】
前記回折格子本体における回折光の出射位置は複数であって、
前記複数の前記出射位置と前記出射端との間の光路長はそれぞれ異なる、請求項1から4のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項6】
前記回折格子本体は、
前記出射端から出射された光が斜め方向から入射される入射面を有する、請求項5に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項7】
前記回折格子本体は、
前記入射面と同一の面から回折した光を出射する反射型回折格子を有する、請求項6に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項8】
前記回折格子本体は、
前記出射端、前記第1の入射端及び前記反射型回折格子と光学的に結合したスラブ導波路を有し、
前記出射端、前記第1の入射端及び前記反射型回折格子は、前記スラブ導波路上にて同一のローランド円の周上に配置されている、請求項7に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項9】
前記回折格子本体は、
前記入射面を透過して回折した光を出射する透過型回折格子を有する、請求項1から6のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項10】
前記回折格子本体は、スラブ導波路であり、
前記透過型回折格子は、前記スラブ導波路内に形成された格子面であり、
前記出射端及び前記第1の入射端は、前記スラブ導波路の縁部に設けられている、請求項9に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項11】
前記回折格子本体は、前記出射端及び前記第1の入射端が設けられるとともに、前記透過型回折格子が収納される筐体部と、
前記筐体部内の前記出射端と前記透過型回折格子との間の空間に設けられた、前記出射端から出射された光を分岐させ、前記透過型回折格子の互いに異なるスリットに入射させる分岐光学系とを有する、請求項9に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項12】
前記回折格子本体は、一端に前記出射端が設けられ、他端が互いに光路長が異なる複数の光導波路に分岐しているアレー導波路を有する、請求項1から5のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項13】
前記回折格子本体の温度を一定に保つよう調節する温度調節部を備えた、請求項1から12のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項14】
電圧を印加することにより前記回折格子本体の屈折率を調整する屈折率調節部を備えた、請求項1から12のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子と、
少なくとも前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記第1の入射端と、光学的に結合した受光素子と、
前記受光素子の受光した光信号を処理する信号処理部とを備えた、光受信装置。
【請求項16】
請求項4に記載の差動位相偏移変調光受光用回折格子と、
前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記第1の入射端と光学的に結合した第1の受光素子と、
前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記第2の入射端と光学的に結合した第2の受光素子と、
前記第1の受光素子の受光した光信号の大きさと、前記第2の受光素子の受光した光信号の大きさとの組み合わせに基づいて、前記差動位相偏移変調光受光用回折格子へ入力した前記信号光の位相の変化量を識別する変化量識別部とを備えた、光受信装置。
【請求項17】
前記差動位相偏移変調光受光用回折格子の前記回折格子本体は、一端に前記出射端が設けられ、他端が互いに光路長が異なる複数の光導波路に分岐しているアレー導波路と、
一端は前記アレー導波路と光学的に接続され、他端は前記第1の入射端及び前記第2の入射端が設けられたスラブ導波路とを有し、
前記アレー導波路の前記複数の光導波路は、前記外部より入力する前記信号光の位相が変化した場合、位相の変化する前の前記信号光と前記位相の変化した後の前記信号光とが、同一時間内に前記スラブ導波路を伝播する光路長差を有する、請求項16に記載の光受信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図4(c)】
【図4(d)】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図4(c)】
【図4(d)】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2010−102294(P2010−102294A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77057(P2009−77057)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(508290389)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(508290389)
【Fターム(参考)】
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