建設機械及びその制御方法
【課題】満充電時でも発進し極低速で走行可能な建設機械及びその制御方法を提供する。
【解決手段】蓄電器14に接続された電動発電機11と、エンジン10とを備え、それらの出力が遊星ギヤ装置により合成されて駆動輪20へと伝達される建設機械1において、遊星ギヤ装置は、エンジン10の運転中に駆動輪20側への出力回転数が零になる場合に電動発電機11が逆回転するように構成し、遊星ギヤ装置と駆動輪20との間には変速機12を介設する。アクセル開度、車速、蓄電器14の蓄電量等に基づいてエンジン10、電動発電機11及び変速機12を制御する制御装置2を備える。蓄電器14の蓄電量が所定量以上に多く、停車乃至極低速状態でアクセルが踏み込まれていれば、制御装置2により、変速機12の前後進を進行方向と逆向きに切替えるとともに、電動発電機11に逆トルクを発生させることによって力行状態とする。
【解決手段】蓄電器14に接続された電動発電機11と、エンジン10とを備え、それらの出力が遊星ギヤ装置により合成されて駆動輪20へと伝達される建設機械1において、遊星ギヤ装置は、エンジン10の運転中に駆動輪20側への出力回転数が零になる場合に電動発電機11が逆回転するように構成し、遊星ギヤ装置と駆動輪20との間には変速機12を介設する。アクセル開度、車速、蓄電器14の蓄電量等に基づいてエンジン10、電動発電機11及び変速機12を制御する制御装置2を備える。蓄電器14の蓄電量が所定量以上に多く、停車乃至極低速状態でアクセルが踏み込まれていれば、制御装置2により、変速機12の前後進を進行方向と逆向きに切替えるとともに、電動発電機11に逆トルクを発生させることによって力行状態とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及び電動発電機を備えたハイブリッドタイプの建設機械に関し、特に、ホイールローダ等のように極低速で大きな牽引力を発生することの多いものに好適な制御の技術に係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、動力源としてエンジン及び電動モータを備えた、いわゆるハイブリッドタイプの車両において、例えば特許文献1に記載のように、遊星ギヤ装置のサンギヤに内燃機関の出力軸を、またリングギヤには電動モータの出力軸をそれぞれ結合して、それらの出力を合成しプラネタリキャリアから駆動輪側へ出力するように構成したものが知られている。
【0003】
同文献に記載のハイブリッド車両では、停車時には駆動輪側へ繋がるキャリアの回転が停止する(即ち出力回転数が零になる)一方で、内燃機関のアイドル回転はサンギヤに入力し、リングギヤ及びこれに繋がる電動モータが逆回転するようになる。そして、その状態から電動モータを回生制動して滑らかに逆回転を停止させるとともに、正転力行に移行させることによってスムーズな発進が実現する。
【0004】
ところで、例えばホイールローダのような建設機械は、前記文献に記載の乗用車等とは走行パターンが大きく異なっており、或る程度以上の車速で継続して走行することは少ない。ホイールローダによる総作業の大半はいわゆるV字作業で占められており、発進して土砂をすくい込み、一旦、後退してから今度はトラックに向かって前進する、というように低速での加減速の繰り返しが主体になる。また、土砂をすくい込むときには、極低速でありながら大きな牽引力が必要になる、いわゆるストール状態になることもある。
【0005】
そのため従来、中型以上のホイールローダではトルクコンバータを備えるのが一般的であったが、良く知られているようにトルクコンバータは全体的に効率が悪く、特に低速度比での効率は極端に悪い。また、トルクコンバータによるトルクの伝達は、エンジン回転数が低いときには十分に得られない。このようなトルクコンバータの特性は、前記した加減速の繰り返しやストール等、ホイールローダの走行パターンに必ずしも適しているとは言えない。
【0006】
この点につき本発明の発明者らは、ホイールローダ等の建設機械においてトルクコンバータを廃止しハイブリッド化する場合に、どのような構造とすべきか検討を重ねた結果、電動発電機及びエンジンの出力を遊星ギヤ装置により合成して駆動輪側へ出力するとともに、その遊星ギヤ装置と駆動輪との間には変速機を介設する、という構造を採用することとした(例えば特許文献2を参照)。
【0007】
特許文献2に記載の建設機械では、低速域で直結クラッチを解放したときにトルクコンバータと同等以上の走行性能を得るべく、蓄電器の蓄電量に応じてエンジン回転数を制御するとともに、変速機の変速段の制御によって電動発電機の動作を力行、回生制動に適切に切替えることで、エンジントルクと電動発電機トルクとのバランスを保ちつつ、蓄電器の限られた蓄電容量の範囲内において充放電を繰り返しながら建設機械を走行させることができ、良好な走行性能が得られるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−14385号公報
【特許文献2】特開2008−247269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記特許文献2に記載のハイブリッドタイプの建設機械では、同文献の図1等に開示されているように、エンジンの出力が遊星ギヤ装置のサンギヤに入力し、電動発電機の出力はリングギヤに入力し、それらが合成されてプラネタリキャリアから出力される。そして、同図6〜8等に示されているように、停車中(車速零)の建設機械が発進して所定車速になるまでの間、電動発電機に繋がるリングギヤは逆回転することになる。
【0010】
このときに電動発電機は正転方向のトルク(正トルク)を発生しており、いわゆる回生制動の状態になって発電することになるが、例えば満充電のように蓄電量の多い状態では、過充電を阻止する必要があるから電動発電機を発電動作させることはできない。つまり、満充電時にハイブリッドタイプの建設機械は発進や極低速の走行ができない、一種の機能停止状態に陥ることになる。
【0011】
そして、上述したようにホイールローダのような建設機械では土砂のすくい込み等、極低速で大きな牽引力を発生する状況が頻発し、このときには前記したように電動発電機が回生制動状態で発電動作することになるから、蓄電器は蓄電量の多い状態になりやすく、前記のように満充電に起因する機能停止状態に陥りやすいと言える。
【0012】
このような問題点に着目して本発明の目的は、例えば満充電時のように蓄電器の蓄電量が多い場合でも発進することができ、極低速での走行も可能な建設機械、及びそのための制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために本発明では、前記のように蓄電器の蓄電量が多い場合には変速機を前後進逆向きに切替えるとともに、電動発電機を逆転動作させることによって、発進及び極低速での走行を可能とした。
【0014】
すなわち、本発明は、蓄電器に接続された電動発電機と、エンジンとを備え、該電動発電機及びエンジンの出力が遊星ギヤ装置により合成されて駆動輪側に出力されるように構成された建設機械を対象として、前記遊星ギヤ装置が、前記エンジンの運転中に駆動輪側への出力回転数が零になる場合に前記電動発電機は逆回転するように構成されており、この遊星ギヤ装置と前記駆動輪との間の動力伝達経路には、前後進の切替が可能な変速機が介設されているものとする。
【0015】
そして、少なくともアクセル開度及び前記蓄電器の蓄電量に基づいて、前記エンジン、電動発電機及び変速機を制御する制御装置を備え、この制御装置により、前記蓄電器の蓄電量が所定量以上の満充電状態であって且つアクセルが踏み込まれている場合に、前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるとともに、前記電動発電機に逆トルクを発生させて、力行状態とするようにした。
【0016】
このように構成された建設機械が停車乃至極低速状態にあるときに、遊星ギヤ装置にはエンジン回転(正転)が入力する一方で駆動輪側への出力は零ないしそれに近い回転数になるから、電動発電機は逆回転することになる。この状態でアクセルが踏み込まれていて、蓄電器の蓄電量が所定量以上であれば、制御手段により変速機の前後進が進行方向とは逆向きに切替えられるとともに、電動発電機が逆トルクを発生するようになる(例えば、後述する実施形態の図25を参照)。
【0017】
こうして逆回転しながら逆トルクを発生する(即ち逆転動作する)電動発電機は力行状態になるので、蓄電器は放電するようになり、満充電であっても問題は生じない。また、そうして電動発電機が逆転動作すると遊星ギヤ装置からの回転出力も逆転方向に増大することになるが、これを受け入れる変速機の前後進が進行方向と逆向きになっているので、建設機械は進行方向に進むようになる。このときにエンジンには正転方向へ加速するような力が加わり、いわゆるエンジンブレーキのかかった状態になる。
【0018】
好ましいのは、そのエンジンブレーキの大きさを調整可能なエンブレ調整装置を設け、前記のように変速機を前後進切替えて電動発電機を逆転作動させながら発進、走行するときに、エンジンブレーキを増強することであり、こうすればエンジン回転の吹け上がりを抑制することができる。また、そのエンジンブレーキの大きさをアクセル開度等に応じて調整すれば、操縦者のアクセル操作に対応して車速がスムーズに上昇する良好な走行性能を実現できる。
【0019】
ここで、前記のエンブレ調整装置としては、エンジンに駆動連結された油圧ポンプを利用することができる。一般的に建設機械には荷役装置やステアリング装置等を駆動するための油圧源として油圧ポンプが備わっているので、その油圧ポンプの吐出圧力(必要に応じて吐出流量も)を制御することによって、エンジンの回転負荷の大きさを調整することができる。
【0020】
そして、上述のように変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替え、電動発電機を逆転動作させて発進した後に、車速が高くなって所定値を超えれば変速機の前後進を進行方向の向きに戻し、電動発電機には正トルクを発生させて力行状態に維持するようにしてもよい。その後、蓄電器の蓄電量が少なくなれば、変速機の変速段を上げることにより電動発電機を回生制動状態とし、発電動作させることもできる。
【0021】
或いは、そうして所定車速に達する前に、電動発電機の力行動作によって蓄電器の蓄電量が減少し、それが設定量以下にまで減少したときに、変速機の前後進を進行方向の向きに戻し、電動発電機には正トルクを発生させて回生制動状態としてもよい。
【0022】
また、停車中乃至車速が所定値以下の極低速状態を除けば、一例として前記の特許文献2に記載のものと同様にエンジン、電動発電機及び変速機を制御してもよく、例えばエンジン回転数については、アクセルが踏み込まれている場合に蓄電器の蓄電量に応じて、蓄電量が比較的少ないときにエンジン回転数を高めにする一方、蓄電量が比較的多ければエンジン回転数は低めに制御すればよい。
【0023】
また、変速機については、アクセルが踏み込まれている場合に電動発電機が力行状態にあり、且つ蓄電器の蓄電量が少ないときには変速段を上げる一方、電動発電機が回生制動状態にあり、且つ蓄電器の蓄電量が多いときには変速段を下げるようにすればよい。
【0024】
見方を変えれば本発明は、蓄電器に接続された電動発電機と、エンジンとを備え、該電動発電機及びエンジンの出力が遊星ギヤ装置により合成されて駆動輪側に出力されるように構成された建設機械の制御方法が対象である。そして、前記遊星ギヤ装置が、前記エンジンの運転中に駆動輪側への出力回転が零になる場合に前記電動発電機が逆回転するように構成されており、その遊星ギヤ装置と前記駆動輪との間の動力伝達経路には、前後進の切替が可能な変速機が介設されており、少なくともアクセル開度及び前記蓄電器の蓄電量に基づいて前記エンジン、電動発電機及び変速機を制御する制御装置を備え、前記蓄電器の蓄電量が所定量以上の満充電状態であって且つアクセルが踏み込まれている場合に、前記制御装置により、前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるとともに、前記電動発電機に逆トルクを発生させることによって力行状態とする、ことが特徴である。
【0025】
かかる制御方法において、エンジンブレーキの大きさを調整可能なエンブレ調整装置を設けておき、前記のように変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるときには、これにより通常とは逆向きに作用する電動発電機の反力トルクを受け止めるべく、前記エンブレ調整装置によってエンジンブレーキを増強するのが好ましい。
【0026】
また、前記のように変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えた状態で蓄電器の蓄電量が減少し、それが設定量以下になれば、前記制御装置により変速機の前後進を進行方向の向きに戻し、電動発電機には正トルクを発生させて回生制動状態とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
以上より、本発明に係る建設機械及びその制御方法によると、例えばホイールローダのような建設機械をハイブリッド化した場合に、電動発電機に接続された蓄電器が満充電になっていても、変速機を前後進逆向きに切替えるとともに、電動発電機を逆転動作させることによって発進し、極低速で走行することができる。つまり、ハイブリッドタイプの建設機械に特有の満充電時の機能停止状態に陥ることがない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る建設機械の駆動系の構成を示すブロック図である。
【図2】同建設機械の制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】同制御装置によるエンジン回転数の設定処理手順を示すフローチャートである。
【図4】電動発電機トルク指令及びエンジントルク指令の算出処理手順を示す説明図である。
【図5】変速段数計算の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】アイドリング状態における遊星ギヤ装置の速度線図である。
【図7】1速の発進(又は牽引状態)における速度線図である。
【図8】1速の走行状態における速度線図である。
【図9】1速の走行状態で遷移車速に達したときの速度線図である。
【図10】1速の走行状態で力行に移行したときの速度線図である。
【図11】2速にシフトアップして回生制動に移行したときの速度線図である。
【図12】2速の走行状態で力行に移行したときの速度線図である。
【図13】エンジントルクが相対的に小さいトルクバランスでの速度線図である。
【図14】2速の走行状態で遷移車速に達したときの速度線図である。
【図15】エンジントルクが相対的に大きいトルクバランスでの速度線図である。
【図16】エンジンの回転数とトルクとの関係を示すグラフである。
【図17】電動発電機の回転数とトルクとの関係を示すグラフである。
【図18】実施形態の建設機械における速度と牽引力との関係を示す走行特性図である。
【図19】エンジン回転数が比較的高い場合の図18相当図である。
【図20】電動発電機が力行の状態から減速するときの速度線図である。
【図21】電動発電機が回生制動の状態から減速するときの図20相当図である。
【図22】シフトダウンして電動発電機を回生制動に移行させた図20相当図である。
【図23】満充電時の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図24】エンブレ増強指令の算出処理手順を示す説明図である。
【図25】満充電時の制御における図7相当図である。
【図26】同じく図8相当図である。
【図27】満充電時の制御において遷移車速に達したときの速度線図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0030】
(駆動系の概略構成)
図1は、本発明の実施形態に係る建設機械1の駆動系の構成を示すブロック図である。図示のように建設機械1は、動力源としてエンジン10及び電動発電機11を備え、これらの出力を遊星ギヤ装置により合成して、駆動輪20側に出力するように構成した、いわゆるハイブリッドタイプの駆動系を備えている。
【0031】
図の例では、エンジン10の出力軸が遊星ギヤ装置のサンギヤ16aに接続され、電動発電機11の出力軸は、リングギヤ16bと接続されるギヤ17に接続されている。また、遊星ギヤ装置のキャリア18は、複数の変速段に自動的に切替可能な電子制御の変速機12に接続されていて、この変速機12がデファレンシャルギヤ19を介して駆動輪20に接続されている。さらに、サンギヤ16aとキャリア18との間には直結クラッチ15が設けられており、これを締結すればエンジン10の出力が変速機12に直接、伝達されるようになる。
【0032】
なお、前記のようにデファレンシャルギヤ19を介さずに、変速機12と駆動輪20とを直接、接続することもできる。また、前記エンジン10、電動発電機11及び駆動輪20と遊星ギヤ装置の各回転要素、即ちサンギヤ16a、リングギヤ16b及びキャリア18との接続についても前記の構成には限定されない。
【0033】
前記電動発電機11は、インバータ13を介して蓄電器14と接続されており、この蓄電器14から電力の供給を受けて電動機として動作する(力行)一方、発電機としても動作し(回生制動)、蓄電器14を充電することができる。電動発電機11は、図17を参照して後述するように正逆両方向への回転が可能なもので、正回転、逆回転のそれぞれで力行及び回生制動の状態に切替えることができる。このような電動発電機11の動作の切替えはインバータ13を介して制御装置2により行われる。
【0034】
また、この実施形態において建設機械1は、図示しないバケットやアーム等の荷役装置を駆動したり、或いは操舵装置を駆動するための油圧ポンプ41と、その油圧ポンプ41からの圧油をアクチュエータに供給及び排出するための荷役・操舵油圧回路43とを備えている。油圧ポンプ41は、ギヤ42及び44によりエンジン10の出力軸に駆動連結されており、これと荷役・操舵油圧回路43との間には抵抗制御装置51が設けられている。詳しくは後述するが、抵抗制御装置51は、油圧ポンプ41をエンブレ調整装置として機能させるためのものである。
【0035】
前記エンジン10、電動発電機11及び変速機12の動作を協調させて適切に制御するために、建設機械1には統合的な制御装置2が搭載されている。図2は、制御装置2の構成を示す機能ブロック図であり、この制御装置2には、蓄電器14の蓄電量、アクセル及びブレーキの操作量、車速、電動発電機11の回転数及びトルク(蓄電器14の充放電量に相当)、エンジン10の回転数、並びに、変速レバー、前後進レバー、荷役操作レバー等の各レバー位置が入力される。
【0036】
そして、制御装置2のエンジン回転数設定手段201が、蓄電量及びアクセルの操作量の入力に基づいて、エンジン回転数の設定を行う。また、エンジン回転数制御手段202は、エンジン回転数設定手段201によって定められた設定回転数及びエンジン10の実際のエンジン回転数、並びに電動発電機11の実際の回転数の入力を受け、これらの入力からエンジン10及び電動発電機11に必要なトルクを算出し、その算出した結果を示すエンジントルク増減指令及び電動発電機トルク増減指令を出力する。
【0037】
また、計算手段203が備える走行トルク計算手段203aは、アクセル及びブレーキの操作量等から、走行に必要とされる走行トルクを計算して、その計算した結果を走行トルク指令として出力する。出力トルク制限手段204は、所定の状況で電動発電機11の出力を制限するために、走行トルク計算手段203aから受けた走行トルク指令を修正してトルク配分手段205へ出力する。なお、この出力トルク制限手段204は省略し、走行トルク計算処理手段203aからトルク配分手段205へ直接、走行トルク指令を入力するようにしてもよい。
【0038】
この例では走行トルク計算手段203aは、アクセル及びブレーキ操作量から走行に必要とされる走行トルクを計算して出力するので、ブレーキを効かした状態で駆動力をかけることによりエネルギを無駄に消費したり、ブレーキに過度な負担をかけるような動作を起こさせないようにすることができる。
【0039】
トルク配分手段205は、後述するが、走行トルク指令に基づいて電動発電機11及びエンジン11へのトルク配分を計算し、その結果として電動発電機トルク指令及びエンジントルク指令を電動発電機11及びエンジン10へそれぞれ出力する。なお、この電動発電機トルク指令に、エンジン回転数制御手段202によって出力された電動発電機トルク増減指令が加えられた信号が、電動発電機11に入力される。一方、エンジン10には、エンジントルク指令にエンジントルク増減指令が加えられた信号が入力される。
【0040】
また、計算手段203が備える変速段数計算手段203bは、後述するように、アクセル操作量、蓄電器14の蓄電量、及び電動発電機の動作状態(回生制動又は力行)から変速段数を計算し、その計算した結果に基づいて、シフトアップ又はシフトダウンが必要であるか否かについての変速指令を、変速機12へ出力する。この実施形態の変速段数計算手段203bは、前後進レバーの位置に応じて前進又は後進に切替える変速指令も出力し、さらに、後述するように蓄電器14の満充電時に必要に応じて、前後進を進行方向と逆向きに切替える変速指令も出力する。
【0041】
さらにまた、図示のように計算手段203は、荷役必要トルク計算手段203cとエンブレ増強値計算手段203dとを備えている。荷役必要トルク計算手段203cは、荷役装置や操舵装置を駆動するために油圧ポンプ41が必要とするトルクを計算し、その計算した結果を示す荷役エンジントルク指令を出力する。このようにして出力された荷役エンジントルク指令は、トルク配分手段205によって出力されるエンジントルク指令に上乗せされる。
【0042】
一方、エンブレ増強値計算手段203dは、後述する満充電時の制御において必要とされるエンジンブレーキの大きさを計算して、この計算結果を示すエンブレ増強指令を抵抗制御装置51へ出力する。
【0043】
なお、前記計算手段203は、減速中に変速段を切り替える場合に、クラッチが切れた状態となって減速が一旦弱まる(トルク抜け)ことに伴う操縦フィーリングの低下を防止するために、機械式ブレーキを制御する電子制御ブレーキ回路21に対して、機械式ブレーキ指令を出力するようになっている。これにより、機械式ブレーキが補助的に用いられることになり、前後進の切替の際(スイッチバック)の減速段階でのトルク抜けが発生した場合でも操縦フィーリングは良好に保たれる。
【0044】
(駆動系の基本的な制御)
この実施形態の建設機械1における駆動系の基本的な制御は、アクセル操作量及び車速に基づいて必要とされる駆動力を走行トルク計算手段203aによって計算し、それに応じて電動発電機11とエンジン10とのトルクの配分(遊星ギヤ装置のギヤ比によって決められる)をトルク配分手段205が行い、その結果を電動発電機11及びエンジン10に出力する、というものである。
【0045】
詳しくは、まず、建設機械1が停止している状態においてアクセルが離されると、通常、エンジン回転数はアイドリング回転数になるが、この実施形態では基本的にエンジン回転数はアクセル操作量からは独立しており、主に蓄電量により設定される。これは次の理由による。すなわち、変速機12の変速段が同じであれば、エンジン回転数が低いほど、電動発電機11が回生制動(発電)する上限の車速(即ち回生制動と力行との遷移点における車速であり、以下、遷移車速ともいう)が低くなり、エンジン回転数が高いほど遷移車速は高くなる。そして、この遷移車速を上回る車速では電動発電機11が力行状態になるが、蓄電量の制限があるので、力行を長時間継続することはできない。
【0046】
そこで、この実施形態では、以下に述べるようにエンジン回転数を蓄電量に応じて設定することで、電動発電機11の回生制動領域及び力行領域のそれぞれにおいて蓄電量が最適となるような制御を行うようにしている。なお、上述したように遷移車速はエンジン回転数により変化するが、それ以前に変速機12の変速段によって変化する。例えば変速段数を上げれば(シフトアップ)、変速機12への入力回転に対して出力回転が高くなるので、遷移車速も高くなる。そこで、この実施形態では、車速に応じて蓄電器14の蓄電量が最適となるように、エンジン回転数及び変速段数を制御するようにしている。
【0047】
−エンジン回転数の設定手順−
次に、フローチャート等を参照しながら、エンジン回転数設定手段201、変速段数計算手段203b、及びトルク配分手段205における具体的な処理について、説明する。なお、以下に説明するのは、直結クラッチ15が解放された低速域での走行、すなわち例えばホイールローダのV字作業のように建設機械1が加速及び減速を繰り返したりスイッチバックを繰り返したりするときの処理についてのものである。
【0048】
まず、エンジン回転数設定手段201におけるエンジン設定回転数計算の処理手順を、図3のフローチャートに示す。図示のように、エンジン回転数設定手段201は、蓄電器14の蓄電量が、予め設定された蓄電量の下限値(設定下限値)より少ないか否かを判定する(S101)。ここで、蓄電量が設定下限値よりも少ないと判定した場合(S101でYES)、すなわち蓄電量が不足していると判定した場合、エンジン回転数設定手段201は、アクセルが踏み込まれている(アクセルがオンされている)か否かを判定する(S102)。アクセルが踏み込まれていないと判定した場合(S102でNO)は処理を終了し、アクセルが踏み込まれていると判定した場合(S102でYES)は、エンジン設定回転数を増加する(S103)。
【0049】
一方、ステップS101で蓄電量が設定下限値以上であると判定した場合(S101でNO)、すなわち蓄電量が十分であると判定した場合、エンジン回転数設定手段201は、蓄電器14の蓄電量が、予め設定された蓄電量の上限値(設定上限値)より多いか否かを判定する(S104)。ここで、蓄電量が設定上限値以下であると判定した場合(S104でNO)、すなわち蓄電量は適切であると判定した場合は処理を終了し、蓄電量が設定上限値より多いと判定した場合(S104でYES)、アクセルが踏み込まれているか否かを判定する(S105)。そして、アクセルが踏み込まれていないと判定した場合(S105でNO)は処理を終了し、アクセルが踏み込まれていると判定した場合(S105でYES)は、エンジン設定回転数を低下させる(S103)。
【0050】
要するに、アクセルが踏み込まれているときには、蓄電器14の蓄電量が相対的に少ない場合にエンジン回転数を上昇させる一方、蓄電量が相対的に多い場合にはエンジン回転数を低下させるようにしており、このような処理によって蓄電量に応じた適切なエンジン回転数の設定を行うことができる。
【0051】
ここで、上述したエンジン回転数の制御は、操縦フィーリングに影響を与えることがないように、エンジン回転数のみを変化させることが好ましく、そのためには、アクセル操作量に対応した駆動力を電動発電機11及びエンジン10により発生した状態で、エンジン回転数のみを変化させる必要がある。そこで、以下に述べるように、遊星ギヤ装置の出力軸であるキャリア18のトルクを一定に保ったまま、エンジン10と電動発電機11とのトルク配分を変えることによってエンジン回転数の増速及び減速を行う。
【0052】
−エンジン及び電動発電機のトルク配分−
図4には、トルク配分手段205における電動発電機トルク指令及びエンジントルク指令の算出処理の手順を示す。なお、説明の便宜のために、図2における出力トルク制限手段204は省略し、走行トルク計算手段203aとトルク配分手段205とが直接、接続されている場合について示している。また、図の上段に示す走行トルク指令について先に説明し、下段に示す荷役エンジントルク指令については、後から説明する。
【0053】
まず、この電動発電機トルク指令及びエンジントルク指令の算出処理の前提となる遊星ギヤ装置の基本式は以下のようになる。
【0054】
aE・ωE+aM・ωM+aout・ωout=0 …(1式:回転数の関係)
TE/aE=TM/aM=Tout/aout …(2式:トルクの関係)
aE+aM+aout=0 …(3式:係数の関係)
以上の式において、ωE,ωM,ωoutはエンジン(サンギヤ),電動発電機(リングギヤ)、出力軸(キャリア)の回転数をそれぞれ表しており、TE,TM,Toutは、エンジン(サンギヤ),電動発電機(リングギヤ)、出力軸(キャリア)のトルクをそれぞれ表している。また、aE,aM,aoutは、遊星ギヤ装置パラメータを表している。
【0055】
図4に示すとおり、走行トルク計算手段203aは、アクセル開度、車速、及び変速段数に基づいて、走行に必要なトルクを算出し、その算出した結果として走行トルク指令(Tout)をトルク配分手段205へ出力する。この走行トルク指令(Tout)の入力を受けたトルク配分手段205は、TM=Tout・aM/aout 及び TE=Tout・aM/aout を計算し、その計算結果として電動発電機トルク指令(TM)及びエンジントルク指令(TE)を電動発電機11及びエンジン10へそれぞれ出力する。
【0056】
なお、自車が走行するのに必要なトルク以外の牽引力を必要としない通常の走行の場合、走行トルクは、アクセル開度及び車速(車速の変化率も含む)により一意に決定される。この走行トルクの計算においては、変速段によらず同じ加速となるように、変速段の段数も考慮され、これにより、蓄電量により変速段が異なっている場合であっても、同じ速度で同じアクセル開度であれば同じ走行トルク指令が出力されて、同じ加速力が得られるようになる。したがって、操縦者はその時点での変速段数を意識する必要はない。
【0057】
これに対し、重量物の牽引及び土砂のすくいこみ等の牽引力が必要な走行状況においては、走行トルク指令を出力しても車速が上昇しないため、必要に応じて走行トルク指令を増加する必要が生じる。この場合は、走行トルク計算処理に組み込まれた積分制御の上限値をアクセル開度に応じて設定するようにする。こうすれば、重量物の牽引や土砂のすくいこみ時に、アクセルを踏み込んでも車速が上昇しない、いわゆるストール状態になれば牽引力が徐々に増加してゆき、その上限値がアクセル開度に応じて設定されることになるから、必要な牽引力がアクセル操作によって得られるようになる。
【0058】
このような牽引力が必要とされる走行状況においては、回生制動による走行が多くなり、発電状態が持続することになるため、後述する変速段数計算手段203bにおける処理の結果としてシフトダウンが行われ、その結果、牽引力も増すことになる。また、土砂のすくい込み作業等の際に操縦者が事前に牽引力の増加が必要であると判断した場合は、手動でシフトダウンを行うことによって円滑に作業を行えるようにすることもできる。
【0059】
また、荷役装置や操舵装置を駆動するときには、そのために油圧ポンプ41が必要とするトルクを上乗せする必要があるので、計算手段203の荷役エンジントルク計算手段203cが油圧ポンプ41の必要とするトルクTE2を算出し、その算出した結果として荷役エンジントルク指令(TE2)を出力する。この荷役エンジントルク指令(TE2)は、図4の下段に示すようにエンジントルク指令(TE)に加算され、その加算後のエンジントルク指令(TE+TE2)がエンジン10へ出力される。この際、必要とするポンプ吐出量も計算し、油圧ポンプへ出力するとともに、油圧ポンプが必要とするトルクの計算にその吐出量を使用する。
【0060】
この実施形態では建設機械1は、エンジントルクと電動発電機トルクとがバランスを保った状態で走行するので、エンジン軸に直結された油圧ポンプ41に負荷をかける場合は、上述したように、走行系が必要とするエンジントルク(TE)と、荷役系が必要とする荷役エンジントルク(TE2)とを加算して全体のエンジントルク(TE+TE2)を決定する必要がある。
【0061】
また、全体のエンジントルク(TE+TE2)が、エンジン10で発生可能なトルクを超える場合は、制御装置2が、予め定められた走行系及び荷役系の優先度にしたがってエンジントルク(TE)及び荷役エンジントルク(TE2)を設定し、その設定値から走行トルク指令(Tout)を逆算して電動発電機トルク指令も修正する。これにより、走行系と荷役系との間の干渉を防止することができる。なお、この優先度は、操縦者がレバー等によって設定できるようにすればよい。
【0062】
−変速段の制御手順−
図5は、変速段数計算手段203bにおける変速段数計算の処理手順を示すフローチャートである。図示のように変速段数計算手段203bは、まず、アクセルが踏み込まれている(アクセルがオンされている)か否かを判定し(S201)、アクセルが踏み込まれていれば(S201でYES)、続いて電動発電機11が回生制動状態にあるか力行状態にあるか判定する(S202)。
【0063】
そして、電動発電機11が力行状態にあると判定すれば(S202で「力行」)、続いて蓄電量が設定下限値より少ないか否かを判定し(S203)、設定下限値以上で蓄電量が十分であると判定すれば(S203でNO)処理を終了する。一方、蓄電量が設定下限値よりも少なく、不足していると判定すれば(S203でYES)、変速段数計算手段203bは変速機12へ、シフトアップするように変速指令を出力する(S204)。
【0064】
こうしてシフトアップし変速段数を上げれば、車速に対応する変速機12の出力回転数が同じであっても入力回転数は低くなるので、力行状態にある電動発電機11の回転数は零に近づくように変化し、力行による蓄電器14の放電が抑制される。なお、変速機12が既に最高段にあればシフトアップできないことは言うまでもない。
【0065】
一方、前記ステップS202において電動発電機11が回生制動状態にある(電動発電機11が逆転している)と判定すれば(S202で「回生制動」)、変速段数計算手段203bは、蓄電量が設定上限値より多いか否か判定し(S205)、設定上限値以下で適切な蓄電量であると判定すれば(S205でNO)処理を終了する。一方、蓄電量が設定上限値より多く、過剰であると判定すれば(S205でYES)、変速段数計算手段203bは変速機12へ、シフトダウンするように変速指令を出力する(S206)。
【0066】
こうしてシフトダウンし変速段数を下げれば、車速に対応する変速機12の出力回転数が同じであっても入力回転数は高くなるので、回生制動状態にある電動発電機11の回転数は零に近づくようになり、回生制動による蓄電器14の充電が抑制される。但し、上述したすくい込み時等のストール状態では変速機12は既に1速段にあり、シフトダウンはできないから、蓄電量が設定上限値を超えて満充電になるおそれがある。この場合は、後述するように満充電時の制御が行われる。
【0067】
また、前記ステップS201においてアクセルが踏み込まれていないと判定した場合(S201でNO)、つまり、減速中などでエンジンブレーキがかかっている状態であれば、変速段数計算手段203bは、電動発電機11が回生制動状態にあるか力行状態にあるかを判定し(S207)、力行状態にあれば(S207でYES)続いて蓄電量が設定下限値より少ないか否かを判定し(S208)、蓄電量が設定下限値以上で十分であれば(S208でNO)処理を終了する。一方、蓄電量が設定下限値より少なく、不足していれば(S208でYES)、変速段数計算手段203bは変速機12へ、シフトダウンするように変速指令を出力する(S209)。
【0068】
一方、前記ステップS207において電動発電機11が回生制動状態にあると判定すれば、変速段数計算手段203bは、蓄電量が設定上限値より多いか否かを判定し(S210)、設定上限値以下の適切な蓄電量であれば(S210でNO)処理を終了する。一方、蓄電量が設定上限値より多く、過剰であれば(S210でYES)、変速段数計算手段203bは変速機12へ、シフトアップするように変速指令を出力する(S211)。
【0069】
つまり、減速中などでエンジンブレーキがかかっている状態でも基本的には、アクセルの踏み込まれているときと同様に蓄電器14の蓄電量に応じてその充放電を制御する。但し、減速中は建設機械1の運動エネルギを回生して充電するのが原則であり、相対的にはシフトダウンが行われやすくなるように制御するのが好ましい。
【0070】
以上、説明したようなエンジン回転数、トルク配分及び変速段の制御によって、電動発電機11の動作が蓄電器14の蓄電量に応じて適切に力行及び回生制動の間で切り替えられ、建設機械1は、以下に述べるように蓄電器14の限られた蓄電容量の範囲内において充放電を繰り返しながら走行するようになる。
【0071】
−建設機械の走行動作−
次に、上述の如き基本的な駆動系の制御を行った場合における本実施形態の建設機械の走行動作について、遊星ギヤ装置の速度線図を参照しながら説明する。
【0072】
まず、図6は、アイドリング状態における遊星ギヤ装置の速度線図である。建設機械1が停車して変速段が1速にあり、エンジン10がアイドリングしているときには実質的にエンジントルクは零であり、車体は停止しているため、図示のように遊星ギヤ装置のキャリア18の回転数(出力軸回転数)は零になる。このとき電動発電機11は無負荷状態で逆回転させられている。なお、厳密にはエンジン10は、アイドリングを保つためにそれ自体及び電動発電機11の機械摩擦分のトルクを発生している。
【0073】
この状態で操縦者がアクセルを踏み込むと、上述したようにトルク配分手段205によってトルクの配分がなされ、図7に白矢印で示すように、電動発電機11及びエンジン10に必要なトルクが発生し、それにより遊星ギヤ装置の出力軸にもアクセル操作量に応じたトルクが発生する。図7、8から分かるように出力軸回転数が低い場合、電動発電機11は回転の反対方向にトルクを発生することとなり、いわゆる回生制動となって発電し蓄電器14を充電する。
【0074】
なお、エンジン10の発生トルクと電動発電機11の発生トルクとのバランスを変えることにより、エンジン回転数及び電動発電機回転数を制御することができる。この点については、図13乃至図15を参照して後述する。
【0075】
図8は、前記のように発生したトルクによって建設機械1が発進し、車速が上昇するに従い遊星ギヤ装置の出力軸回転数が上昇した状態を示す。このとき、図7の発進時に比べると電動発電機11の回転数は零に近づいている。さらに車速が上昇すると、図9に示すように電動発電機11の回転数は零になって、その後、図10に示すように電動発電機11の動作状態が遷移点を超えて、回生制動から力行へと切り替わるようになる。
【0076】
そうして電動発電機11が力行状態になると蓄電器14は放電してその蓄電量が減少し、これが設定下限値になれば、上述したように変速段数計算手段203bから変速機12に対してシフトアップの変速指令が出力される。その結果、変速機12の変速段が上がれば、図11に示すように遊星ギヤ装置の出力軸回転数が低下し、電動発電機11は再び逆回転する回生制動状態になって、発電するようになる。その後、さらに車速が高くなると、図12に示すように電動発電機11は再び力行状態に切り替わる。
【0077】
−トルクバランス−
次に、上述したエンジン10及び電動発電機11の発生トルクのバランスを変えることにより、エンジン回転数及び電動発電機回転数を制御する点について説明する。
【0078】
上述した遊星ギヤ装置の基本式の2式に示すように、この実施形態に係る建設機械1の駆動系においても遊星ギヤ装置のサンギヤ16a、リングギヤ16b及びキャリア18の各軸のトルクバランスが決まる。そして、エンジン10と電動発電機11とのトルクがバランスしていると、エンジン10及び電動発電機11はともに回転数を上げながら車体を加速させる(出力軸の回転数を上昇させる)ようになる。
【0079】
ここでエンジン10及び電動発電機11のトルクバランスを変えて、例えばエンジントルクを大きくすると、エンジン回転数が上昇する一方で、電動発電機回転数は低下することになる。このように、エンジン10及び電動発電機11のトルクバランスを変えてエンジン10及び電動発電機11の回転数を制御することによっても、充放電を繰り返しながら建設機械1の走行を続けることが可能になる。以下、図13乃至図15を参照しながら具体的に説明する。
【0080】
図13乃至図15は、一例として2速での加速状態を示す遊星ギヤ装置の速度線図であり、図示のいずれの場合においても遊星ギヤ装置の出力軸回転数は同じである。まず、図14に示すように電動発電機11が回生制動と力行との遷移点にあると、電力の充放電は行われない。ここからエンジントルクを減少させると、エンジン回転数が低下する一方で電動発電機回転数は上昇し、図13に示すように電動発電機11が力行状態になって蓄電器14が放電するようになる。一方、図14の状態からエンジントルクを増大させると、エンジン回転数が上昇する一方で電動発電機回転数は低下し、図15に示すように電動発電機11が回生制動状態になって蓄電器14を充電するようになる。
【0081】
このように、車速が同じであってもエンジン10の回転数によって、電動発電機11は力行及び回生制動のいずれかの状態を取り得るため、電動発電機11による充放電はエンジン回転数の制御によっても切替えることができる。
【0082】
−建設機械の走行特性−
次に、建設機械1の走行特性について車速と牽引力との関係を示す特性図を参照しながら説明する。まず、エンジン10単独の特性は図16に示すようになり、これはアイドリング回転数(又は有効トルクを発生する最低の回転数)以下では回転しない。エンジントルクは、図にエンジン発生トルクのラインで示すような特性となるが、後述する走行特性図を作成する便宜上、図示の網掛け領域(エンジン回転数によらず最大トルクが一定の領域)内で発生するものとみなす。
【0083】
一方、電動発電機11の特性は図17に示すようになり、これは正転しながら正トルクを発生しているとき、及び逆転しながら逆トルクを発生しているとき、即ち回転の向きのトルクを発生しているときが力行領域になる。一方、正転しながら逆トルクを発生しているとき、及び逆転しながら正トルクを発生しているとき、即ち回転とは逆向きのトルクを発生しているときが回生制動領域となる。
【0084】
図18及び図19は、建設機械1の速度と牽引力との関係を示す走行特性図であり、図18はエンジン回転数が低い場合を、また、図19はエンジン回転数が高い場合をそれぞれ示す。なお、各図において点線のラインは電動発電機11の出力を表しており、これは、従来一般的なトルクコンバータを搭載した建設機械における1〜3速の牽引力と同等に設定された定出力ラインである。
【0085】
図18は、エンジン10が、電動発電機11の最大トルクと比べて、遊星ギヤ装置のバランス上で高いトルクを発生することができることを想定して作成されている。この図において1速、2速及び3速の各変速段の最大牽引力は、図17に示す電動発電機11の最大トルクで決定され、最高速度は、同じく電動発電機11の最高回転数で決定される。また、各変速段の特性における左半分の領域(網掛け領域)は電動発電機11の回生制動領域を、右半分の領域は力行領域を、それぞれ示している。
【0086】
図示のように本実施形態の建設機械1は、変速段が1速のとき所定車速(図18では約3km/h)まで同じ牽引力を持続することができる。変速段を上げると最大牽引力は低くなるが、回生制動領域での最大速度は上昇するから、低い変速段で回生制動により発電しながら走行し、電動発電機の回転数が正転となる速度域からは蓄電された電力を消費しながら力行して、さらに走行する。そして、蓄電量が少なくなると変速段を上げて再び回生制動となり、発電しながら走行することになる。このようにして建設機械1は充放電を繰り返しながら走行することができる。
【0087】
なお、そのまま高速の定速走行を行う場合は、直結クラッチ15を結合できる速度(直結クラッチ結合速度)になったときに直結クラッチ15を結合してエンジン10のみで走行することになる。通常は3速の直結クラッチ解放状態(電動発電機11の回生制動又は力行を利用した走行状態)から、3速のままで直結クラッチ15を結合すればよい。
【0088】
一方、エンジン10が高回転になれば、回転数が高くなった分、図19に示すように牽引力が高速側に移動する。例えば、変速段が1速の場合の最大牽引力は車速零の場合と同じままで、回生制動と力行との遷移点である3km/h程度までカバーしている。また、同図における定出力ラインを参照すると、車速が7km/h程度になるまでは、1速から3速までの回生制動領域でカバーできることが分かる。よって、蓄電器14の蓄電量が不足気味であっても、エンジン回転数を上げることにより回生制動でカバーする速度領域を広げて、発電しながら走行を継続することができる。
【0089】
−減速時の制御−
次に、減速時の建設機械1の走行動作について図20〜22を参照して説明する。まず、図20の速度線図は、変速機12が2速にあって電動発電機11が力行で走行している状態から減速を開始するときを示しており、この場合は、図示のように電動発電機11の回生制動により建設機械1の運動エネルギを回生して、発電しながら減速する。一方、図21は、電動発電機11が回生制動で走行している状態からの減速について示しており、この場合は、電動発電機11の力行により放電しながら減速することになる。
【0090】
例えば蓄電器14の蓄電量が満充電に近い状態にあって、放電する必要があるときには前記図21に示すように減速してもよいが、通常、減速時には運動エネルギを回生して充電するのが原則である。よって、2速から1速へシフトダウンし、図22に示すように電動発電機11を力行状態から回生制動状態へ遷移させて減速するのが好ましい。
【0091】
−満充電時の制御−
次に、蓄電器14が満充電状態のときの制御手順について、主に図23のフローチャートや図25〜27の速度線図等を参照して説明する。上述したように、この実施形態の建設機械1は、蓄電器14の蓄電量に応じてエンジン回転数や変速機12の変速段を制御し、蓄電器14の限られた蓄電容量の範囲内で充放電を繰り返しながら走行するようになっているが、土砂のすくい込み時等にストール状態が頻発し、否応なしに回生制動の動作状態が継続すると、蓄電器14の蓄電量が満充電に相当する所定量に達することがある。
【0092】
こうして蓄電器14が満充電になると、建設機械1は発進することができず、極低速での走行もできなくなる。これは、上述したが、建設機械1の駆動系においてエンジン10及び電動発電機11の出力軸が遊星ギヤ装置のサンギヤ16a、リングギヤ16bに接続されており、図6〜9を参照して説明したように、停車中から発進して車速が遷移車速になるまでの間、電動発電機11は逆回転しながら正トルクを発生する回生制動の状態になるからである。
【0093】
すなわち、蓄電器14が満充電乃至それに近い状態にあるときには、この蓄電器14を保護するために過充電を阻止しなくてはならず、前記のように電動発電機11を回生制動状態で発電動作させることはできないのである。これは、ハイブリッドタイプの駆動系に特有の機能停止状態と言うことができる。
【0094】
かかる問題点に鑑みてこの実施形態では、蓄電器14が満充電になってしまったときには、変速機12の前後進を進行方向とは逆向きに切替えるとともに、電動発電機11は逆転作動させて力行状態に制御することにより、建設機械1を発進乃至極低速で走行できるようにしている。
【0095】
図23は、前記のような満充電時の制御の手順を示すフローチャートであり、このフローは、例えば、図5を参照して説明した変速段数計算のフローのサブルーチンとして、ステップS206にリンクしている。
【0096】
すなわち、前記図5のステップS206において、言い換えると、アクセルが踏み込まれていて電動発電機11は回生制動状態にあり、蓄電器14の蓄電量が設定上限値以上になっているときに、図23のサブルーチンがスタートし、まず、変速段数計算手段203bが、変速機12の変速段が1速にあるか否か判定する(S301)。変速段が1速でなければ(S301でNO)シフトダウンできるので、サブルーチンは終了し(エンド)、図5のフローに戻ってシフトダウンするよう変速委12に変速指令を出力する。
【0097】
一方、変速段が1速であれば(S301でYES)シフトダウンできないので、今度は蓄電器14が満充電になっているか否か判定する(S302)。満充電でなければ(S302でNO)サブルーチンは終了するが、このとき、前記したように電動発電機11は回生制動の状態にあり、車速が遷移車速に達しておらず、電動発電機11は逆回転している。この状態が継続すると、蓄電器14の蓄電量はさらに増大して、満充電に相当する所定量に達する。
【0098】
そうすると満充電であると判定し(S302でYES)、変速段数計算手段203bが変速機12へ、前後進を進行方向とは逆向きに切替えるように変速指令を出力する。また、トルク配分手段205が電動発電機11へ、逆転動作するように電動発電機トルク指令を出力する(S303)。具体的にはトルク配分手段205は、走行トルク計算手段203aからの走行トルク指令を受けて、電動発電機11を逆転動作させるように負の電動発電機トルク指令(TM)を電動発電機11に出力する。
【0099】
また、トルク配分手段205は、負のエンジントルク指令(TE)をエンブレ増強値計算手段203dに出力し、これを受けたエンブレ増強値計算手段203dが抵抗制御装置51にエンブレ増強指令を出力する(S304)。具体的には、図24に一例を示すように、エンブレ増強値計算手段203dは、まず、エンジン回転数からエンジン10自体のエンブレ値(TEB)を計算し、このエンブレ値(TEB)を前記負のエンジントルク指令(TE)から減算してエンブレ増強値(TEBcmd)を算出する。
【0100】
このような計算によってエンジン10自体の回転抵抗、即ちエンブレ値(TEB)と、抵抗制御装置51により発生させられる抵抗(TEBcmd)とがエンジン出力軸に発生する制動トルクとなる。つまり、エンジン出力軸には、TEB−TEBcmd=TEの制動トルクを発生させることができる。
【0101】
前記のように負の電動発電機トルク指令を受けた電動発電機11は、図25、26に黒矢印で示すように逆トルクを発生し、それが逆回転していることから力行状態になって、電動機として動作する。このため、満充電になっている蓄電器14は放電することになり、機能停止状態に陥ることはない。また、負のエンジントルク指令を受けた抵抗制御装置51は、油圧ポンプ41の吐出圧力を電子制御されたリリーフ弁等の作動によって調整し、油圧ポンプ41を抵抗器として機能させることによって、図に黒矢印で示すように制動トルクを発生させてエンジン10の吹け上がりを抑制する。
【0102】
なお、前記油圧ポンプ41は可変容量型のものとしてもよく、こうすれば、吐出流量の調整と吐出圧力の調整とを組み合わせることによって、油圧ポンプ41をより調整機能の高い抵抗器として機能させることができる。
【0103】
そうして電動発電機11及びエンジン10にそれぞれ負のトルクが発生することで、遊星ギヤ装置の出力軸にも、図に黒矢印で示すようにアクセル操作量に応じた負のトルクが発生する。これにより、その出力軸の回転数が負の向きに増大するようになり、これを受け入れる変速機12において前後進が逆転されていることから、建設機械1は進行方向に進むようになる。このとき建設機械1の車速はアクセル操作に対応してスムーズに上昇するようになり、良好な走行性能が得られる。
【0104】
図23のフローに戻ると、前記のように変速機12の前後進が逆向きに切替わり、電動発電機11が逆転動作しながら建設機械1が走行する間、アクセルが踏み込まれているか否かを確認し(S305)、アクセルが離されれば(S305でNO)変速機12の前後進を進行方向の向きに切替えるとともに電動発電機11を正トルクを発生する状態に戻して(S308)、サブルーチンは終了する。一方、アクセルが踏み込まれていれば(S305でYES)、今度は建設機械1の車速が上述の遷移車速、即ち電動発電機11の力行、回生制動の動作の遷移点に対応する車速に達したか否か判定する(S306)。
【0105】
そして、車速が遷移車速に達していれば(S306でYES)、変速機12の前後進を進行方向の向きに切替えるとともに電動発電機11を正転動作に戻して(S308)、サブルーチンは終了する。一方、遷移車速に達していなければ(S306でNO)、今度は蓄電器14の蓄電量が設定下限値(設定量)になったかどうか判定し(S307)、設定下限値になるまでは前記ステップS305に戻って、前記した処理を継続する一方、蓄電量が設定下限値以下になれば(S307でYES)、変速機12の前後進を進行方向の向きに切替えるとともに電動発電機11を正トルクを発生する状態に戻して(S308)、サブルーチンは終了する(エンド:図5のフローに戻る)。
【0106】
次に、前記のような満充電時の制御を行ったときの建設機械1の走行動作について、図25〜27の速度線図を参照して説明する。まず、図25は、一例として建設機械1の発進時を示しており、変速機12の変速段は1速にある。エンジン10は正転しているが、車体は停止しているため遊星ギヤ装置のキャリア18の回転数(出力軸回転数)は零であり、電動発電機11は逆回転している。
【0107】
そして、操縦者のアクセル操作に応じて、図に黒矢印で示すように逆トルクが電動発電機11に発生するとともに、エンジン10にも制動トルクが発生し、これにより遊星ギヤ装置の出力軸に負トルクが発生すると、建設機械1は、前後進レバーによって選択されている進行方向に発進する。こうして発進した建設機械1の車速が上昇するに従い、図26に示すように遊星ギヤ装置の出力軸回転数が負の方向(図の下方)に増大する。このとき電動発電機11は力行状態になって、蓄電器14を放電させる。
【0108】
さらに車速が上昇して遷移車速に達すると、図27に示すように遊星ギヤ装置の出力回転数は、その絶対値が図9に示すものと同じになる。ここで変速機12の前後進が進行方向の向きに戻されるとともに、電動発電機11は正トルクを発生する状態に切替えられると、遊星ギヤ装置は前記図9に示す状態になり、電動発電機11の回転数は一時的に零になるが、直ちに車速が上昇して図10のように遷移点を超えるので、電動発電機11は力行状態に維持されるようになる。
【0109】
或いは、前記図27に示す状態にまで車速が上昇せず、極低速での走行が継続して蓄電器14の放電が続くと、その蓄電量が設定下限値以下にまで減少することがあり、この場合は前記図26に示す状態で変速機12の前後進が進行方向の向きに戻されて、遊星ギヤ装置が図8に示す状態になる。このときに電動発電機11は、正トルクを発生する状態に切替えられることで回生制動状態になって、蓄電器14を充電するようになる。
【0110】
そうして車速が高くなるか或いは蓄電器14の蓄電量が少なくなって、満充電時の制御を終了すれば、上述した基本的な駆動系の制御が行われ、蓄電器14の蓄電量等に応じて変速機12の変速段が適切に切替えられるようになり、建設機械1は、蓄電器14の限られた蓄電容量の範囲内において充放電を繰り返しながら走行を続けることができる。
【0111】
以上、説明したように本実施形態の建設機械1は、アクセル開度や車速、蓄電器14の蓄電量等に基づいてエンジン回転数や変速機12の変速段を適切に制御することにより、蓄電器14の限られた蓄電容量の範囲内で充放電を繰り返しながら走行することができる。例えばホイールローダのような建設機械において電動発電機に求められる充放電電力を満たすために、蓄電器には非常に高い入出力密度が要求されるが、現状、このように入出力密度の高い蓄電器は、キャパシタのように比較的エネルギ密度の低いものに限られ、その蓄電容量は十分とは言い難い。よって、本実施形態の建設機械1の有用性は高い。
【0112】
しかも、本実施の形態に係る建設機械1は、蓄電器が満充電であっても発進し、極低速での走行を行うことができ、ハイブリッドタイプの駆動系に特有の機能停止状態に陥ることがない。例えばホイールローダのような建設機械においては低速での加減速が繰り返され、ストール状態になることも多いから、電動発電機11は否応なしに回生制動状態になってしまい、蓄電器14が満充電になる可能性も高い。よって、この点でも本実施形態の建設機械1の有用性は高いと言える。
【0113】
なお、上述した実施形態の説明は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、或いはその用途を制限することを意図するものではない。例えば実施形態に記載の建設機械1においては、エンジン10に駆動連結された油圧ポンプ41と荷役・操舵油圧回路43との間に抵抗制御装置51を設けて、油圧ポンプ41の吐出流量及び吐出圧力を制御することによりエンジンブレーキの大きさを調整するようにしているが、例えば電磁クラッチ、流体継ぎ手等、種々の機構を利用してエンブレ調整装置を構成することが可能である。
【0114】
また、エンジン10及び電動発電機11の出力を合成する遊星ギヤ装置の構成についても一例にすぎず、例えば遊星ギヤ装置には直結クラッチ15がなくてもよい。さらに、制御装置2による駆動系の基本的な制御についても一例にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明に係る建設機械及びその制御方法によると、ハイブリッド駆動系の電動発電機に接続された蓄電器が満充電状態になっても発進し、極低速で走行することができるので、頻繁にストール状態等になって蓄電器が充電される機会の多いホイールローダ等に特に好適なものである。
【符号の説明】
【0116】
1 建設機械
2 制御装置
10 エンジン
11 電動発電機
12 変速機
14 蓄電器
16a サンギヤ(遊星ギヤ装置)
16b リングギヤ(遊星ギヤ装置)
17 ギヤ(遊星ギヤ装置)
18 キャリア(遊星ギヤ装置)
20 駆動輪
41 油圧ポンプ
43 荷役・操舵油圧回路(エンブレ調整装置)
51 抵抗制御装置(エンブレ調整装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及び電動発電機を備えたハイブリッドタイプの建設機械に関し、特に、ホイールローダ等のように極低速で大きな牽引力を発生することの多いものに好適な制御の技術に係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、動力源としてエンジン及び電動モータを備えた、いわゆるハイブリッドタイプの車両において、例えば特許文献1に記載のように、遊星ギヤ装置のサンギヤに内燃機関の出力軸を、またリングギヤには電動モータの出力軸をそれぞれ結合して、それらの出力を合成しプラネタリキャリアから駆動輪側へ出力するように構成したものが知られている。
【0003】
同文献に記載のハイブリッド車両では、停車時には駆動輪側へ繋がるキャリアの回転が停止する(即ち出力回転数が零になる)一方で、内燃機関のアイドル回転はサンギヤに入力し、リングギヤ及びこれに繋がる電動モータが逆回転するようになる。そして、その状態から電動モータを回生制動して滑らかに逆回転を停止させるとともに、正転力行に移行させることによってスムーズな発進が実現する。
【0004】
ところで、例えばホイールローダのような建設機械は、前記文献に記載の乗用車等とは走行パターンが大きく異なっており、或る程度以上の車速で継続して走行することは少ない。ホイールローダによる総作業の大半はいわゆるV字作業で占められており、発進して土砂をすくい込み、一旦、後退してから今度はトラックに向かって前進する、というように低速での加減速の繰り返しが主体になる。また、土砂をすくい込むときには、極低速でありながら大きな牽引力が必要になる、いわゆるストール状態になることもある。
【0005】
そのため従来、中型以上のホイールローダではトルクコンバータを備えるのが一般的であったが、良く知られているようにトルクコンバータは全体的に効率が悪く、特に低速度比での効率は極端に悪い。また、トルクコンバータによるトルクの伝達は、エンジン回転数が低いときには十分に得られない。このようなトルクコンバータの特性は、前記した加減速の繰り返しやストール等、ホイールローダの走行パターンに必ずしも適しているとは言えない。
【0006】
この点につき本発明の発明者らは、ホイールローダ等の建設機械においてトルクコンバータを廃止しハイブリッド化する場合に、どのような構造とすべきか検討を重ねた結果、電動発電機及びエンジンの出力を遊星ギヤ装置により合成して駆動輪側へ出力するとともに、その遊星ギヤ装置と駆動輪との間には変速機を介設する、という構造を採用することとした(例えば特許文献2を参照)。
【0007】
特許文献2に記載の建設機械では、低速域で直結クラッチを解放したときにトルクコンバータと同等以上の走行性能を得るべく、蓄電器の蓄電量に応じてエンジン回転数を制御するとともに、変速機の変速段の制御によって電動発電機の動作を力行、回生制動に適切に切替えることで、エンジントルクと電動発電機トルクとのバランスを保ちつつ、蓄電器の限られた蓄電容量の範囲内において充放電を繰り返しながら建設機械を走行させることができ、良好な走行性能が得られるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−14385号公報
【特許文献2】特開2008−247269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記特許文献2に記載のハイブリッドタイプの建設機械では、同文献の図1等に開示されているように、エンジンの出力が遊星ギヤ装置のサンギヤに入力し、電動発電機の出力はリングギヤに入力し、それらが合成されてプラネタリキャリアから出力される。そして、同図6〜8等に示されているように、停車中(車速零)の建設機械が発進して所定車速になるまでの間、電動発電機に繋がるリングギヤは逆回転することになる。
【0010】
このときに電動発電機は正転方向のトルク(正トルク)を発生しており、いわゆる回生制動の状態になって発電することになるが、例えば満充電のように蓄電量の多い状態では、過充電を阻止する必要があるから電動発電機を発電動作させることはできない。つまり、満充電時にハイブリッドタイプの建設機械は発進や極低速の走行ができない、一種の機能停止状態に陥ることになる。
【0011】
そして、上述したようにホイールローダのような建設機械では土砂のすくい込み等、極低速で大きな牽引力を発生する状況が頻発し、このときには前記したように電動発電機が回生制動状態で発電動作することになるから、蓄電器は蓄電量の多い状態になりやすく、前記のように満充電に起因する機能停止状態に陥りやすいと言える。
【0012】
このような問題点に着目して本発明の目的は、例えば満充電時のように蓄電器の蓄電量が多い場合でも発進することができ、極低速での走行も可能な建設機械、及びそのための制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために本発明では、前記のように蓄電器の蓄電量が多い場合には変速機を前後進逆向きに切替えるとともに、電動発電機を逆転動作させることによって、発進及び極低速での走行を可能とした。
【0014】
すなわち、本発明は、蓄電器に接続された電動発電機と、エンジンとを備え、該電動発電機及びエンジンの出力が遊星ギヤ装置により合成されて駆動輪側に出力されるように構成された建設機械を対象として、前記遊星ギヤ装置が、前記エンジンの運転中に駆動輪側への出力回転数が零になる場合に前記電動発電機は逆回転するように構成されており、この遊星ギヤ装置と前記駆動輪との間の動力伝達経路には、前後進の切替が可能な変速機が介設されているものとする。
【0015】
そして、少なくともアクセル開度及び前記蓄電器の蓄電量に基づいて、前記エンジン、電動発電機及び変速機を制御する制御装置を備え、この制御装置により、前記蓄電器の蓄電量が所定量以上の満充電状態であって且つアクセルが踏み込まれている場合に、前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるとともに、前記電動発電機に逆トルクを発生させて、力行状態とするようにした。
【0016】
このように構成された建設機械が停車乃至極低速状態にあるときに、遊星ギヤ装置にはエンジン回転(正転)が入力する一方で駆動輪側への出力は零ないしそれに近い回転数になるから、電動発電機は逆回転することになる。この状態でアクセルが踏み込まれていて、蓄電器の蓄電量が所定量以上であれば、制御手段により変速機の前後進が進行方向とは逆向きに切替えられるとともに、電動発電機が逆トルクを発生するようになる(例えば、後述する実施形態の図25を参照)。
【0017】
こうして逆回転しながら逆トルクを発生する(即ち逆転動作する)電動発電機は力行状態になるので、蓄電器は放電するようになり、満充電であっても問題は生じない。また、そうして電動発電機が逆転動作すると遊星ギヤ装置からの回転出力も逆転方向に増大することになるが、これを受け入れる変速機の前後進が進行方向と逆向きになっているので、建設機械は進行方向に進むようになる。このときにエンジンには正転方向へ加速するような力が加わり、いわゆるエンジンブレーキのかかった状態になる。
【0018】
好ましいのは、そのエンジンブレーキの大きさを調整可能なエンブレ調整装置を設け、前記のように変速機を前後進切替えて電動発電機を逆転作動させながら発進、走行するときに、エンジンブレーキを増強することであり、こうすればエンジン回転の吹け上がりを抑制することができる。また、そのエンジンブレーキの大きさをアクセル開度等に応じて調整すれば、操縦者のアクセル操作に対応して車速がスムーズに上昇する良好な走行性能を実現できる。
【0019】
ここで、前記のエンブレ調整装置としては、エンジンに駆動連結された油圧ポンプを利用することができる。一般的に建設機械には荷役装置やステアリング装置等を駆動するための油圧源として油圧ポンプが備わっているので、その油圧ポンプの吐出圧力(必要に応じて吐出流量も)を制御することによって、エンジンの回転負荷の大きさを調整することができる。
【0020】
そして、上述のように変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替え、電動発電機を逆転動作させて発進した後に、車速が高くなって所定値を超えれば変速機の前後進を進行方向の向きに戻し、電動発電機には正トルクを発生させて力行状態に維持するようにしてもよい。その後、蓄電器の蓄電量が少なくなれば、変速機の変速段を上げることにより電動発電機を回生制動状態とし、発電動作させることもできる。
【0021】
或いは、そうして所定車速に達する前に、電動発電機の力行動作によって蓄電器の蓄電量が減少し、それが設定量以下にまで減少したときに、変速機の前後進を進行方向の向きに戻し、電動発電機には正トルクを発生させて回生制動状態としてもよい。
【0022】
また、停車中乃至車速が所定値以下の極低速状態を除けば、一例として前記の特許文献2に記載のものと同様にエンジン、電動発電機及び変速機を制御してもよく、例えばエンジン回転数については、アクセルが踏み込まれている場合に蓄電器の蓄電量に応じて、蓄電量が比較的少ないときにエンジン回転数を高めにする一方、蓄電量が比較的多ければエンジン回転数は低めに制御すればよい。
【0023】
また、変速機については、アクセルが踏み込まれている場合に電動発電機が力行状態にあり、且つ蓄電器の蓄電量が少ないときには変速段を上げる一方、電動発電機が回生制動状態にあり、且つ蓄電器の蓄電量が多いときには変速段を下げるようにすればよい。
【0024】
見方を変えれば本発明は、蓄電器に接続された電動発電機と、エンジンとを備え、該電動発電機及びエンジンの出力が遊星ギヤ装置により合成されて駆動輪側に出力されるように構成された建設機械の制御方法が対象である。そして、前記遊星ギヤ装置が、前記エンジンの運転中に駆動輪側への出力回転が零になる場合に前記電動発電機が逆回転するように構成されており、その遊星ギヤ装置と前記駆動輪との間の動力伝達経路には、前後進の切替が可能な変速機が介設されており、少なくともアクセル開度及び前記蓄電器の蓄電量に基づいて前記エンジン、電動発電機及び変速機を制御する制御装置を備え、前記蓄電器の蓄電量が所定量以上の満充電状態であって且つアクセルが踏み込まれている場合に、前記制御装置により、前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるとともに、前記電動発電機に逆トルクを発生させることによって力行状態とする、ことが特徴である。
【0025】
かかる制御方法において、エンジンブレーキの大きさを調整可能なエンブレ調整装置を設けておき、前記のように変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるときには、これにより通常とは逆向きに作用する電動発電機の反力トルクを受け止めるべく、前記エンブレ調整装置によってエンジンブレーキを増強するのが好ましい。
【0026】
また、前記のように変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えた状態で蓄電器の蓄電量が減少し、それが設定量以下になれば、前記制御装置により変速機の前後進を進行方向の向きに戻し、電動発電機には正トルクを発生させて回生制動状態とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
以上より、本発明に係る建設機械及びその制御方法によると、例えばホイールローダのような建設機械をハイブリッド化した場合に、電動発電機に接続された蓄電器が満充電になっていても、変速機を前後進逆向きに切替えるとともに、電動発電機を逆転動作させることによって発進し、極低速で走行することができる。つまり、ハイブリッドタイプの建設機械に特有の満充電時の機能停止状態に陥ることがない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る建設機械の駆動系の構成を示すブロック図である。
【図2】同建設機械の制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】同制御装置によるエンジン回転数の設定処理手順を示すフローチャートである。
【図4】電動発電機トルク指令及びエンジントルク指令の算出処理手順を示す説明図である。
【図5】変速段数計算の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】アイドリング状態における遊星ギヤ装置の速度線図である。
【図7】1速の発進(又は牽引状態)における速度線図である。
【図8】1速の走行状態における速度線図である。
【図9】1速の走行状態で遷移車速に達したときの速度線図である。
【図10】1速の走行状態で力行に移行したときの速度線図である。
【図11】2速にシフトアップして回生制動に移行したときの速度線図である。
【図12】2速の走行状態で力行に移行したときの速度線図である。
【図13】エンジントルクが相対的に小さいトルクバランスでの速度線図である。
【図14】2速の走行状態で遷移車速に達したときの速度線図である。
【図15】エンジントルクが相対的に大きいトルクバランスでの速度線図である。
【図16】エンジンの回転数とトルクとの関係を示すグラフである。
【図17】電動発電機の回転数とトルクとの関係を示すグラフである。
【図18】実施形態の建設機械における速度と牽引力との関係を示す走行特性図である。
【図19】エンジン回転数が比較的高い場合の図18相当図である。
【図20】電動発電機が力行の状態から減速するときの速度線図である。
【図21】電動発電機が回生制動の状態から減速するときの図20相当図である。
【図22】シフトダウンして電動発電機を回生制動に移行させた図20相当図である。
【図23】満充電時の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図24】エンブレ増強指令の算出処理手順を示す説明図である。
【図25】満充電時の制御における図7相当図である。
【図26】同じく図8相当図である。
【図27】満充電時の制御において遷移車速に達したときの速度線図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0030】
(駆動系の概略構成)
図1は、本発明の実施形態に係る建設機械1の駆動系の構成を示すブロック図である。図示のように建設機械1は、動力源としてエンジン10及び電動発電機11を備え、これらの出力を遊星ギヤ装置により合成して、駆動輪20側に出力するように構成した、いわゆるハイブリッドタイプの駆動系を備えている。
【0031】
図の例では、エンジン10の出力軸が遊星ギヤ装置のサンギヤ16aに接続され、電動発電機11の出力軸は、リングギヤ16bと接続されるギヤ17に接続されている。また、遊星ギヤ装置のキャリア18は、複数の変速段に自動的に切替可能な電子制御の変速機12に接続されていて、この変速機12がデファレンシャルギヤ19を介して駆動輪20に接続されている。さらに、サンギヤ16aとキャリア18との間には直結クラッチ15が設けられており、これを締結すればエンジン10の出力が変速機12に直接、伝達されるようになる。
【0032】
なお、前記のようにデファレンシャルギヤ19を介さずに、変速機12と駆動輪20とを直接、接続することもできる。また、前記エンジン10、電動発電機11及び駆動輪20と遊星ギヤ装置の各回転要素、即ちサンギヤ16a、リングギヤ16b及びキャリア18との接続についても前記の構成には限定されない。
【0033】
前記電動発電機11は、インバータ13を介して蓄電器14と接続されており、この蓄電器14から電力の供給を受けて電動機として動作する(力行)一方、発電機としても動作し(回生制動)、蓄電器14を充電することができる。電動発電機11は、図17を参照して後述するように正逆両方向への回転が可能なもので、正回転、逆回転のそれぞれで力行及び回生制動の状態に切替えることができる。このような電動発電機11の動作の切替えはインバータ13を介して制御装置2により行われる。
【0034】
また、この実施形態において建設機械1は、図示しないバケットやアーム等の荷役装置を駆動したり、或いは操舵装置を駆動するための油圧ポンプ41と、その油圧ポンプ41からの圧油をアクチュエータに供給及び排出するための荷役・操舵油圧回路43とを備えている。油圧ポンプ41は、ギヤ42及び44によりエンジン10の出力軸に駆動連結されており、これと荷役・操舵油圧回路43との間には抵抗制御装置51が設けられている。詳しくは後述するが、抵抗制御装置51は、油圧ポンプ41をエンブレ調整装置として機能させるためのものである。
【0035】
前記エンジン10、電動発電機11及び変速機12の動作を協調させて適切に制御するために、建設機械1には統合的な制御装置2が搭載されている。図2は、制御装置2の構成を示す機能ブロック図であり、この制御装置2には、蓄電器14の蓄電量、アクセル及びブレーキの操作量、車速、電動発電機11の回転数及びトルク(蓄電器14の充放電量に相当)、エンジン10の回転数、並びに、変速レバー、前後進レバー、荷役操作レバー等の各レバー位置が入力される。
【0036】
そして、制御装置2のエンジン回転数設定手段201が、蓄電量及びアクセルの操作量の入力に基づいて、エンジン回転数の設定を行う。また、エンジン回転数制御手段202は、エンジン回転数設定手段201によって定められた設定回転数及びエンジン10の実際のエンジン回転数、並びに電動発電機11の実際の回転数の入力を受け、これらの入力からエンジン10及び電動発電機11に必要なトルクを算出し、その算出した結果を示すエンジントルク増減指令及び電動発電機トルク増減指令を出力する。
【0037】
また、計算手段203が備える走行トルク計算手段203aは、アクセル及びブレーキの操作量等から、走行に必要とされる走行トルクを計算して、その計算した結果を走行トルク指令として出力する。出力トルク制限手段204は、所定の状況で電動発電機11の出力を制限するために、走行トルク計算手段203aから受けた走行トルク指令を修正してトルク配分手段205へ出力する。なお、この出力トルク制限手段204は省略し、走行トルク計算処理手段203aからトルク配分手段205へ直接、走行トルク指令を入力するようにしてもよい。
【0038】
この例では走行トルク計算手段203aは、アクセル及びブレーキ操作量から走行に必要とされる走行トルクを計算して出力するので、ブレーキを効かした状態で駆動力をかけることによりエネルギを無駄に消費したり、ブレーキに過度な負担をかけるような動作を起こさせないようにすることができる。
【0039】
トルク配分手段205は、後述するが、走行トルク指令に基づいて電動発電機11及びエンジン11へのトルク配分を計算し、その結果として電動発電機トルク指令及びエンジントルク指令を電動発電機11及びエンジン10へそれぞれ出力する。なお、この電動発電機トルク指令に、エンジン回転数制御手段202によって出力された電動発電機トルク増減指令が加えられた信号が、電動発電機11に入力される。一方、エンジン10には、エンジントルク指令にエンジントルク増減指令が加えられた信号が入力される。
【0040】
また、計算手段203が備える変速段数計算手段203bは、後述するように、アクセル操作量、蓄電器14の蓄電量、及び電動発電機の動作状態(回生制動又は力行)から変速段数を計算し、その計算した結果に基づいて、シフトアップ又はシフトダウンが必要であるか否かについての変速指令を、変速機12へ出力する。この実施形態の変速段数計算手段203bは、前後進レバーの位置に応じて前進又は後進に切替える変速指令も出力し、さらに、後述するように蓄電器14の満充電時に必要に応じて、前後進を進行方向と逆向きに切替える変速指令も出力する。
【0041】
さらにまた、図示のように計算手段203は、荷役必要トルク計算手段203cとエンブレ増強値計算手段203dとを備えている。荷役必要トルク計算手段203cは、荷役装置や操舵装置を駆動するために油圧ポンプ41が必要とするトルクを計算し、その計算した結果を示す荷役エンジントルク指令を出力する。このようにして出力された荷役エンジントルク指令は、トルク配分手段205によって出力されるエンジントルク指令に上乗せされる。
【0042】
一方、エンブレ増強値計算手段203dは、後述する満充電時の制御において必要とされるエンジンブレーキの大きさを計算して、この計算結果を示すエンブレ増強指令を抵抗制御装置51へ出力する。
【0043】
なお、前記計算手段203は、減速中に変速段を切り替える場合に、クラッチが切れた状態となって減速が一旦弱まる(トルク抜け)ことに伴う操縦フィーリングの低下を防止するために、機械式ブレーキを制御する電子制御ブレーキ回路21に対して、機械式ブレーキ指令を出力するようになっている。これにより、機械式ブレーキが補助的に用いられることになり、前後進の切替の際(スイッチバック)の減速段階でのトルク抜けが発生した場合でも操縦フィーリングは良好に保たれる。
【0044】
(駆動系の基本的な制御)
この実施形態の建設機械1における駆動系の基本的な制御は、アクセル操作量及び車速に基づいて必要とされる駆動力を走行トルク計算手段203aによって計算し、それに応じて電動発電機11とエンジン10とのトルクの配分(遊星ギヤ装置のギヤ比によって決められる)をトルク配分手段205が行い、その結果を電動発電機11及びエンジン10に出力する、というものである。
【0045】
詳しくは、まず、建設機械1が停止している状態においてアクセルが離されると、通常、エンジン回転数はアイドリング回転数になるが、この実施形態では基本的にエンジン回転数はアクセル操作量からは独立しており、主に蓄電量により設定される。これは次の理由による。すなわち、変速機12の変速段が同じであれば、エンジン回転数が低いほど、電動発電機11が回生制動(発電)する上限の車速(即ち回生制動と力行との遷移点における車速であり、以下、遷移車速ともいう)が低くなり、エンジン回転数が高いほど遷移車速は高くなる。そして、この遷移車速を上回る車速では電動発電機11が力行状態になるが、蓄電量の制限があるので、力行を長時間継続することはできない。
【0046】
そこで、この実施形態では、以下に述べるようにエンジン回転数を蓄電量に応じて設定することで、電動発電機11の回生制動領域及び力行領域のそれぞれにおいて蓄電量が最適となるような制御を行うようにしている。なお、上述したように遷移車速はエンジン回転数により変化するが、それ以前に変速機12の変速段によって変化する。例えば変速段数を上げれば(シフトアップ)、変速機12への入力回転に対して出力回転が高くなるので、遷移車速も高くなる。そこで、この実施形態では、車速に応じて蓄電器14の蓄電量が最適となるように、エンジン回転数及び変速段数を制御するようにしている。
【0047】
−エンジン回転数の設定手順−
次に、フローチャート等を参照しながら、エンジン回転数設定手段201、変速段数計算手段203b、及びトルク配分手段205における具体的な処理について、説明する。なお、以下に説明するのは、直結クラッチ15が解放された低速域での走行、すなわち例えばホイールローダのV字作業のように建設機械1が加速及び減速を繰り返したりスイッチバックを繰り返したりするときの処理についてのものである。
【0048】
まず、エンジン回転数設定手段201におけるエンジン設定回転数計算の処理手順を、図3のフローチャートに示す。図示のように、エンジン回転数設定手段201は、蓄電器14の蓄電量が、予め設定された蓄電量の下限値(設定下限値)より少ないか否かを判定する(S101)。ここで、蓄電量が設定下限値よりも少ないと判定した場合(S101でYES)、すなわち蓄電量が不足していると判定した場合、エンジン回転数設定手段201は、アクセルが踏み込まれている(アクセルがオンされている)か否かを判定する(S102)。アクセルが踏み込まれていないと判定した場合(S102でNO)は処理を終了し、アクセルが踏み込まれていると判定した場合(S102でYES)は、エンジン設定回転数を増加する(S103)。
【0049】
一方、ステップS101で蓄電量が設定下限値以上であると判定した場合(S101でNO)、すなわち蓄電量が十分であると判定した場合、エンジン回転数設定手段201は、蓄電器14の蓄電量が、予め設定された蓄電量の上限値(設定上限値)より多いか否かを判定する(S104)。ここで、蓄電量が設定上限値以下であると判定した場合(S104でNO)、すなわち蓄電量は適切であると判定した場合は処理を終了し、蓄電量が設定上限値より多いと判定した場合(S104でYES)、アクセルが踏み込まれているか否かを判定する(S105)。そして、アクセルが踏み込まれていないと判定した場合(S105でNO)は処理を終了し、アクセルが踏み込まれていると判定した場合(S105でYES)は、エンジン設定回転数を低下させる(S103)。
【0050】
要するに、アクセルが踏み込まれているときには、蓄電器14の蓄電量が相対的に少ない場合にエンジン回転数を上昇させる一方、蓄電量が相対的に多い場合にはエンジン回転数を低下させるようにしており、このような処理によって蓄電量に応じた適切なエンジン回転数の設定を行うことができる。
【0051】
ここで、上述したエンジン回転数の制御は、操縦フィーリングに影響を与えることがないように、エンジン回転数のみを変化させることが好ましく、そのためには、アクセル操作量に対応した駆動力を電動発電機11及びエンジン10により発生した状態で、エンジン回転数のみを変化させる必要がある。そこで、以下に述べるように、遊星ギヤ装置の出力軸であるキャリア18のトルクを一定に保ったまま、エンジン10と電動発電機11とのトルク配分を変えることによってエンジン回転数の増速及び減速を行う。
【0052】
−エンジン及び電動発電機のトルク配分−
図4には、トルク配分手段205における電動発電機トルク指令及びエンジントルク指令の算出処理の手順を示す。なお、説明の便宜のために、図2における出力トルク制限手段204は省略し、走行トルク計算手段203aとトルク配分手段205とが直接、接続されている場合について示している。また、図の上段に示す走行トルク指令について先に説明し、下段に示す荷役エンジントルク指令については、後から説明する。
【0053】
まず、この電動発電機トルク指令及びエンジントルク指令の算出処理の前提となる遊星ギヤ装置の基本式は以下のようになる。
【0054】
aE・ωE+aM・ωM+aout・ωout=0 …(1式:回転数の関係)
TE/aE=TM/aM=Tout/aout …(2式:トルクの関係)
aE+aM+aout=0 …(3式:係数の関係)
以上の式において、ωE,ωM,ωoutはエンジン(サンギヤ),電動発電機(リングギヤ)、出力軸(キャリア)の回転数をそれぞれ表しており、TE,TM,Toutは、エンジン(サンギヤ),電動発電機(リングギヤ)、出力軸(キャリア)のトルクをそれぞれ表している。また、aE,aM,aoutは、遊星ギヤ装置パラメータを表している。
【0055】
図4に示すとおり、走行トルク計算手段203aは、アクセル開度、車速、及び変速段数に基づいて、走行に必要なトルクを算出し、その算出した結果として走行トルク指令(Tout)をトルク配分手段205へ出力する。この走行トルク指令(Tout)の入力を受けたトルク配分手段205は、TM=Tout・aM/aout 及び TE=Tout・aM/aout を計算し、その計算結果として電動発電機トルク指令(TM)及びエンジントルク指令(TE)を電動発電機11及びエンジン10へそれぞれ出力する。
【0056】
なお、自車が走行するのに必要なトルク以外の牽引力を必要としない通常の走行の場合、走行トルクは、アクセル開度及び車速(車速の変化率も含む)により一意に決定される。この走行トルクの計算においては、変速段によらず同じ加速となるように、変速段の段数も考慮され、これにより、蓄電量により変速段が異なっている場合であっても、同じ速度で同じアクセル開度であれば同じ走行トルク指令が出力されて、同じ加速力が得られるようになる。したがって、操縦者はその時点での変速段数を意識する必要はない。
【0057】
これに対し、重量物の牽引及び土砂のすくいこみ等の牽引力が必要な走行状況においては、走行トルク指令を出力しても車速が上昇しないため、必要に応じて走行トルク指令を増加する必要が生じる。この場合は、走行トルク計算処理に組み込まれた積分制御の上限値をアクセル開度に応じて設定するようにする。こうすれば、重量物の牽引や土砂のすくいこみ時に、アクセルを踏み込んでも車速が上昇しない、いわゆるストール状態になれば牽引力が徐々に増加してゆき、その上限値がアクセル開度に応じて設定されることになるから、必要な牽引力がアクセル操作によって得られるようになる。
【0058】
このような牽引力が必要とされる走行状況においては、回生制動による走行が多くなり、発電状態が持続することになるため、後述する変速段数計算手段203bにおける処理の結果としてシフトダウンが行われ、その結果、牽引力も増すことになる。また、土砂のすくい込み作業等の際に操縦者が事前に牽引力の増加が必要であると判断した場合は、手動でシフトダウンを行うことによって円滑に作業を行えるようにすることもできる。
【0059】
また、荷役装置や操舵装置を駆動するときには、そのために油圧ポンプ41が必要とするトルクを上乗せする必要があるので、計算手段203の荷役エンジントルク計算手段203cが油圧ポンプ41の必要とするトルクTE2を算出し、その算出した結果として荷役エンジントルク指令(TE2)を出力する。この荷役エンジントルク指令(TE2)は、図4の下段に示すようにエンジントルク指令(TE)に加算され、その加算後のエンジントルク指令(TE+TE2)がエンジン10へ出力される。この際、必要とするポンプ吐出量も計算し、油圧ポンプへ出力するとともに、油圧ポンプが必要とするトルクの計算にその吐出量を使用する。
【0060】
この実施形態では建設機械1は、エンジントルクと電動発電機トルクとがバランスを保った状態で走行するので、エンジン軸に直結された油圧ポンプ41に負荷をかける場合は、上述したように、走行系が必要とするエンジントルク(TE)と、荷役系が必要とする荷役エンジントルク(TE2)とを加算して全体のエンジントルク(TE+TE2)を決定する必要がある。
【0061】
また、全体のエンジントルク(TE+TE2)が、エンジン10で発生可能なトルクを超える場合は、制御装置2が、予め定められた走行系及び荷役系の優先度にしたがってエンジントルク(TE)及び荷役エンジントルク(TE2)を設定し、その設定値から走行トルク指令(Tout)を逆算して電動発電機トルク指令も修正する。これにより、走行系と荷役系との間の干渉を防止することができる。なお、この優先度は、操縦者がレバー等によって設定できるようにすればよい。
【0062】
−変速段の制御手順−
図5は、変速段数計算手段203bにおける変速段数計算の処理手順を示すフローチャートである。図示のように変速段数計算手段203bは、まず、アクセルが踏み込まれている(アクセルがオンされている)か否かを判定し(S201)、アクセルが踏み込まれていれば(S201でYES)、続いて電動発電機11が回生制動状態にあるか力行状態にあるか判定する(S202)。
【0063】
そして、電動発電機11が力行状態にあると判定すれば(S202で「力行」)、続いて蓄電量が設定下限値より少ないか否かを判定し(S203)、設定下限値以上で蓄電量が十分であると判定すれば(S203でNO)処理を終了する。一方、蓄電量が設定下限値よりも少なく、不足していると判定すれば(S203でYES)、変速段数計算手段203bは変速機12へ、シフトアップするように変速指令を出力する(S204)。
【0064】
こうしてシフトアップし変速段数を上げれば、車速に対応する変速機12の出力回転数が同じであっても入力回転数は低くなるので、力行状態にある電動発電機11の回転数は零に近づくように変化し、力行による蓄電器14の放電が抑制される。なお、変速機12が既に最高段にあればシフトアップできないことは言うまでもない。
【0065】
一方、前記ステップS202において電動発電機11が回生制動状態にある(電動発電機11が逆転している)と判定すれば(S202で「回生制動」)、変速段数計算手段203bは、蓄電量が設定上限値より多いか否か判定し(S205)、設定上限値以下で適切な蓄電量であると判定すれば(S205でNO)処理を終了する。一方、蓄電量が設定上限値より多く、過剰であると判定すれば(S205でYES)、変速段数計算手段203bは変速機12へ、シフトダウンするように変速指令を出力する(S206)。
【0066】
こうしてシフトダウンし変速段数を下げれば、車速に対応する変速機12の出力回転数が同じであっても入力回転数は高くなるので、回生制動状態にある電動発電機11の回転数は零に近づくようになり、回生制動による蓄電器14の充電が抑制される。但し、上述したすくい込み時等のストール状態では変速機12は既に1速段にあり、シフトダウンはできないから、蓄電量が設定上限値を超えて満充電になるおそれがある。この場合は、後述するように満充電時の制御が行われる。
【0067】
また、前記ステップS201においてアクセルが踏み込まれていないと判定した場合(S201でNO)、つまり、減速中などでエンジンブレーキがかかっている状態であれば、変速段数計算手段203bは、電動発電機11が回生制動状態にあるか力行状態にあるかを判定し(S207)、力行状態にあれば(S207でYES)続いて蓄電量が設定下限値より少ないか否かを判定し(S208)、蓄電量が設定下限値以上で十分であれば(S208でNO)処理を終了する。一方、蓄電量が設定下限値より少なく、不足していれば(S208でYES)、変速段数計算手段203bは変速機12へ、シフトダウンするように変速指令を出力する(S209)。
【0068】
一方、前記ステップS207において電動発電機11が回生制動状態にあると判定すれば、変速段数計算手段203bは、蓄電量が設定上限値より多いか否かを判定し(S210)、設定上限値以下の適切な蓄電量であれば(S210でNO)処理を終了する。一方、蓄電量が設定上限値より多く、過剰であれば(S210でYES)、変速段数計算手段203bは変速機12へ、シフトアップするように変速指令を出力する(S211)。
【0069】
つまり、減速中などでエンジンブレーキがかかっている状態でも基本的には、アクセルの踏み込まれているときと同様に蓄電器14の蓄電量に応じてその充放電を制御する。但し、減速中は建設機械1の運動エネルギを回生して充電するのが原則であり、相対的にはシフトダウンが行われやすくなるように制御するのが好ましい。
【0070】
以上、説明したようなエンジン回転数、トルク配分及び変速段の制御によって、電動発電機11の動作が蓄電器14の蓄電量に応じて適切に力行及び回生制動の間で切り替えられ、建設機械1は、以下に述べるように蓄電器14の限られた蓄電容量の範囲内において充放電を繰り返しながら走行するようになる。
【0071】
−建設機械の走行動作−
次に、上述の如き基本的な駆動系の制御を行った場合における本実施形態の建設機械の走行動作について、遊星ギヤ装置の速度線図を参照しながら説明する。
【0072】
まず、図6は、アイドリング状態における遊星ギヤ装置の速度線図である。建設機械1が停車して変速段が1速にあり、エンジン10がアイドリングしているときには実質的にエンジントルクは零であり、車体は停止しているため、図示のように遊星ギヤ装置のキャリア18の回転数(出力軸回転数)は零になる。このとき電動発電機11は無負荷状態で逆回転させられている。なお、厳密にはエンジン10は、アイドリングを保つためにそれ自体及び電動発電機11の機械摩擦分のトルクを発生している。
【0073】
この状態で操縦者がアクセルを踏み込むと、上述したようにトルク配分手段205によってトルクの配分がなされ、図7に白矢印で示すように、電動発電機11及びエンジン10に必要なトルクが発生し、それにより遊星ギヤ装置の出力軸にもアクセル操作量に応じたトルクが発生する。図7、8から分かるように出力軸回転数が低い場合、電動発電機11は回転の反対方向にトルクを発生することとなり、いわゆる回生制動となって発電し蓄電器14を充電する。
【0074】
なお、エンジン10の発生トルクと電動発電機11の発生トルクとのバランスを変えることにより、エンジン回転数及び電動発電機回転数を制御することができる。この点については、図13乃至図15を参照して後述する。
【0075】
図8は、前記のように発生したトルクによって建設機械1が発進し、車速が上昇するに従い遊星ギヤ装置の出力軸回転数が上昇した状態を示す。このとき、図7の発進時に比べると電動発電機11の回転数は零に近づいている。さらに車速が上昇すると、図9に示すように電動発電機11の回転数は零になって、その後、図10に示すように電動発電機11の動作状態が遷移点を超えて、回生制動から力行へと切り替わるようになる。
【0076】
そうして電動発電機11が力行状態になると蓄電器14は放電してその蓄電量が減少し、これが設定下限値になれば、上述したように変速段数計算手段203bから変速機12に対してシフトアップの変速指令が出力される。その結果、変速機12の変速段が上がれば、図11に示すように遊星ギヤ装置の出力軸回転数が低下し、電動発電機11は再び逆回転する回生制動状態になって、発電するようになる。その後、さらに車速が高くなると、図12に示すように電動発電機11は再び力行状態に切り替わる。
【0077】
−トルクバランス−
次に、上述したエンジン10及び電動発電機11の発生トルクのバランスを変えることにより、エンジン回転数及び電動発電機回転数を制御する点について説明する。
【0078】
上述した遊星ギヤ装置の基本式の2式に示すように、この実施形態に係る建設機械1の駆動系においても遊星ギヤ装置のサンギヤ16a、リングギヤ16b及びキャリア18の各軸のトルクバランスが決まる。そして、エンジン10と電動発電機11とのトルクがバランスしていると、エンジン10及び電動発電機11はともに回転数を上げながら車体を加速させる(出力軸の回転数を上昇させる)ようになる。
【0079】
ここでエンジン10及び電動発電機11のトルクバランスを変えて、例えばエンジントルクを大きくすると、エンジン回転数が上昇する一方で、電動発電機回転数は低下することになる。このように、エンジン10及び電動発電機11のトルクバランスを変えてエンジン10及び電動発電機11の回転数を制御することによっても、充放電を繰り返しながら建設機械1の走行を続けることが可能になる。以下、図13乃至図15を参照しながら具体的に説明する。
【0080】
図13乃至図15は、一例として2速での加速状態を示す遊星ギヤ装置の速度線図であり、図示のいずれの場合においても遊星ギヤ装置の出力軸回転数は同じである。まず、図14に示すように電動発電機11が回生制動と力行との遷移点にあると、電力の充放電は行われない。ここからエンジントルクを減少させると、エンジン回転数が低下する一方で電動発電機回転数は上昇し、図13に示すように電動発電機11が力行状態になって蓄電器14が放電するようになる。一方、図14の状態からエンジントルクを増大させると、エンジン回転数が上昇する一方で電動発電機回転数は低下し、図15に示すように電動発電機11が回生制動状態になって蓄電器14を充電するようになる。
【0081】
このように、車速が同じであってもエンジン10の回転数によって、電動発電機11は力行及び回生制動のいずれかの状態を取り得るため、電動発電機11による充放電はエンジン回転数の制御によっても切替えることができる。
【0082】
−建設機械の走行特性−
次に、建設機械1の走行特性について車速と牽引力との関係を示す特性図を参照しながら説明する。まず、エンジン10単独の特性は図16に示すようになり、これはアイドリング回転数(又は有効トルクを発生する最低の回転数)以下では回転しない。エンジントルクは、図にエンジン発生トルクのラインで示すような特性となるが、後述する走行特性図を作成する便宜上、図示の網掛け領域(エンジン回転数によらず最大トルクが一定の領域)内で発生するものとみなす。
【0083】
一方、電動発電機11の特性は図17に示すようになり、これは正転しながら正トルクを発生しているとき、及び逆転しながら逆トルクを発生しているとき、即ち回転の向きのトルクを発生しているときが力行領域になる。一方、正転しながら逆トルクを発生しているとき、及び逆転しながら正トルクを発生しているとき、即ち回転とは逆向きのトルクを発生しているときが回生制動領域となる。
【0084】
図18及び図19は、建設機械1の速度と牽引力との関係を示す走行特性図であり、図18はエンジン回転数が低い場合を、また、図19はエンジン回転数が高い場合をそれぞれ示す。なお、各図において点線のラインは電動発電機11の出力を表しており、これは、従来一般的なトルクコンバータを搭載した建設機械における1〜3速の牽引力と同等に設定された定出力ラインである。
【0085】
図18は、エンジン10が、電動発電機11の最大トルクと比べて、遊星ギヤ装置のバランス上で高いトルクを発生することができることを想定して作成されている。この図において1速、2速及び3速の各変速段の最大牽引力は、図17に示す電動発電機11の最大トルクで決定され、最高速度は、同じく電動発電機11の最高回転数で決定される。また、各変速段の特性における左半分の領域(網掛け領域)は電動発電機11の回生制動領域を、右半分の領域は力行領域を、それぞれ示している。
【0086】
図示のように本実施形態の建設機械1は、変速段が1速のとき所定車速(図18では約3km/h)まで同じ牽引力を持続することができる。変速段を上げると最大牽引力は低くなるが、回生制動領域での最大速度は上昇するから、低い変速段で回生制動により発電しながら走行し、電動発電機の回転数が正転となる速度域からは蓄電された電力を消費しながら力行して、さらに走行する。そして、蓄電量が少なくなると変速段を上げて再び回生制動となり、発電しながら走行することになる。このようにして建設機械1は充放電を繰り返しながら走行することができる。
【0087】
なお、そのまま高速の定速走行を行う場合は、直結クラッチ15を結合できる速度(直結クラッチ結合速度)になったときに直結クラッチ15を結合してエンジン10のみで走行することになる。通常は3速の直結クラッチ解放状態(電動発電機11の回生制動又は力行を利用した走行状態)から、3速のままで直結クラッチ15を結合すればよい。
【0088】
一方、エンジン10が高回転になれば、回転数が高くなった分、図19に示すように牽引力が高速側に移動する。例えば、変速段が1速の場合の最大牽引力は車速零の場合と同じままで、回生制動と力行との遷移点である3km/h程度までカバーしている。また、同図における定出力ラインを参照すると、車速が7km/h程度になるまでは、1速から3速までの回生制動領域でカバーできることが分かる。よって、蓄電器14の蓄電量が不足気味であっても、エンジン回転数を上げることにより回生制動でカバーする速度領域を広げて、発電しながら走行を継続することができる。
【0089】
−減速時の制御−
次に、減速時の建設機械1の走行動作について図20〜22を参照して説明する。まず、図20の速度線図は、変速機12が2速にあって電動発電機11が力行で走行している状態から減速を開始するときを示しており、この場合は、図示のように電動発電機11の回生制動により建設機械1の運動エネルギを回生して、発電しながら減速する。一方、図21は、電動発電機11が回生制動で走行している状態からの減速について示しており、この場合は、電動発電機11の力行により放電しながら減速することになる。
【0090】
例えば蓄電器14の蓄電量が満充電に近い状態にあって、放電する必要があるときには前記図21に示すように減速してもよいが、通常、減速時には運動エネルギを回生して充電するのが原則である。よって、2速から1速へシフトダウンし、図22に示すように電動発電機11を力行状態から回生制動状態へ遷移させて減速するのが好ましい。
【0091】
−満充電時の制御−
次に、蓄電器14が満充電状態のときの制御手順について、主に図23のフローチャートや図25〜27の速度線図等を参照して説明する。上述したように、この実施形態の建設機械1は、蓄電器14の蓄電量に応じてエンジン回転数や変速機12の変速段を制御し、蓄電器14の限られた蓄電容量の範囲内で充放電を繰り返しながら走行するようになっているが、土砂のすくい込み時等にストール状態が頻発し、否応なしに回生制動の動作状態が継続すると、蓄電器14の蓄電量が満充電に相当する所定量に達することがある。
【0092】
こうして蓄電器14が満充電になると、建設機械1は発進することができず、極低速での走行もできなくなる。これは、上述したが、建設機械1の駆動系においてエンジン10及び電動発電機11の出力軸が遊星ギヤ装置のサンギヤ16a、リングギヤ16bに接続されており、図6〜9を参照して説明したように、停車中から発進して車速が遷移車速になるまでの間、電動発電機11は逆回転しながら正トルクを発生する回生制動の状態になるからである。
【0093】
すなわち、蓄電器14が満充電乃至それに近い状態にあるときには、この蓄電器14を保護するために過充電を阻止しなくてはならず、前記のように電動発電機11を回生制動状態で発電動作させることはできないのである。これは、ハイブリッドタイプの駆動系に特有の機能停止状態と言うことができる。
【0094】
かかる問題点に鑑みてこの実施形態では、蓄電器14が満充電になってしまったときには、変速機12の前後進を進行方向とは逆向きに切替えるとともに、電動発電機11は逆転作動させて力行状態に制御することにより、建設機械1を発進乃至極低速で走行できるようにしている。
【0095】
図23は、前記のような満充電時の制御の手順を示すフローチャートであり、このフローは、例えば、図5を参照して説明した変速段数計算のフローのサブルーチンとして、ステップS206にリンクしている。
【0096】
すなわち、前記図5のステップS206において、言い換えると、アクセルが踏み込まれていて電動発電機11は回生制動状態にあり、蓄電器14の蓄電量が設定上限値以上になっているときに、図23のサブルーチンがスタートし、まず、変速段数計算手段203bが、変速機12の変速段が1速にあるか否か判定する(S301)。変速段が1速でなければ(S301でNO)シフトダウンできるので、サブルーチンは終了し(エンド)、図5のフローに戻ってシフトダウンするよう変速委12に変速指令を出力する。
【0097】
一方、変速段が1速であれば(S301でYES)シフトダウンできないので、今度は蓄電器14が満充電になっているか否か判定する(S302)。満充電でなければ(S302でNO)サブルーチンは終了するが、このとき、前記したように電動発電機11は回生制動の状態にあり、車速が遷移車速に達しておらず、電動発電機11は逆回転している。この状態が継続すると、蓄電器14の蓄電量はさらに増大して、満充電に相当する所定量に達する。
【0098】
そうすると満充電であると判定し(S302でYES)、変速段数計算手段203bが変速機12へ、前後進を進行方向とは逆向きに切替えるように変速指令を出力する。また、トルク配分手段205が電動発電機11へ、逆転動作するように電動発電機トルク指令を出力する(S303)。具体的にはトルク配分手段205は、走行トルク計算手段203aからの走行トルク指令を受けて、電動発電機11を逆転動作させるように負の電動発電機トルク指令(TM)を電動発電機11に出力する。
【0099】
また、トルク配分手段205は、負のエンジントルク指令(TE)をエンブレ増強値計算手段203dに出力し、これを受けたエンブレ増強値計算手段203dが抵抗制御装置51にエンブレ増強指令を出力する(S304)。具体的には、図24に一例を示すように、エンブレ増強値計算手段203dは、まず、エンジン回転数からエンジン10自体のエンブレ値(TEB)を計算し、このエンブレ値(TEB)を前記負のエンジントルク指令(TE)から減算してエンブレ増強値(TEBcmd)を算出する。
【0100】
このような計算によってエンジン10自体の回転抵抗、即ちエンブレ値(TEB)と、抵抗制御装置51により発生させられる抵抗(TEBcmd)とがエンジン出力軸に発生する制動トルクとなる。つまり、エンジン出力軸には、TEB−TEBcmd=TEの制動トルクを発生させることができる。
【0101】
前記のように負の電動発電機トルク指令を受けた電動発電機11は、図25、26に黒矢印で示すように逆トルクを発生し、それが逆回転していることから力行状態になって、電動機として動作する。このため、満充電になっている蓄電器14は放電することになり、機能停止状態に陥ることはない。また、負のエンジントルク指令を受けた抵抗制御装置51は、油圧ポンプ41の吐出圧力を電子制御されたリリーフ弁等の作動によって調整し、油圧ポンプ41を抵抗器として機能させることによって、図に黒矢印で示すように制動トルクを発生させてエンジン10の吹け上がりを抑制する。
【0102】
なお、前記油圧ポンプ41は可変容量型のものとしてもよく、こうすれば、吐出流量の調整と吐出圧力の調整とを組み合わせることによって、油圧ポンプ41をより調整機能の高い抵抗器として機能させることができる。
【0103】
そうして電動発電機11及びエンジン10にそれぞれ負のトルクが発生することで、遊星ギヤ装置の出力軸にも、図に黒矢印で示すようにアクセル操作量に応じた負のトルクが発生する。これにより、その出力軸の回転数が負の向きに増大するようになり、これを受け入れる変速機12において前後進が逆転されていることから、建設機械1は進行方向に進むようになる。このとき建設機械1の車速はアクセル操作に対応してスムーズに上昇するようになり、良好な走行性能が得られる。
【0104】
図23のフローに戻ると、前記のように変速機12の前後進が逆向きに切替わり、電動発電機11が逆転動作しながら建設機械1が走行する間、アクセルが踏み込まれているか否かを確認し(S305)、アクセルが離されれば(S305でNO)変速機12の前後進を進行方向の向きに切替えるとともに電動発電機11を正トルクを発生する状態に戻して(S308)、サブルーチンは終了する。一方、アクセルが踏み込まれていれば(S305でYES)、今度は建設機械1の車速が上述の遷移車速、即ち電動発電機11の力行、回生制動の動作の遷移点に対応する車速に達したか否か判定する(S306)。
【0105】
そして、車速が遷移車速に達していれば(S306でYES)、変速機12の前後進を進行方向の向きに切替えるとともに電動発電機11を正転動作に戻して(S308)、サブルーチンは終了する。一方、遷移車速に達していなければ(S306でNO)、今度は蓄電器14の蓄電量が設定下限値(設定量)になったかどうか判定し(S307)、設定下限値になるまでは前記ステップS305に戻って、前記した処理を継続する一方、蓄電量が設定下限値以下になれば(S307でYES)、変速機12の前後進を進行方向の向きに切替えるとともに電動発電機11を正トルクを発生する状態に戻して(S308)、サブルーチンは終了する(エンド:図5のフローに戻る)。
【0106】
次に、前記のような満充電時の制御を行ったときの建設機械1の走行動作について、図25〜27の速度線図を参照して説明する。まず、図25は、一例として建設機械1の発進時を示しており、変速機12の変速段は1速にある。エンジン10は正転しているが、車体は停止しているため遊星ギヤ装置のキャリア18の回転数(出力軸回転数)は零であり、電動発電機11は逆回転している。
【0107】
そして、操縦者のアクセル操作に応じて、図に黒矢印で示すように逆トルクが電動発電機11に発生するとともに、エンジン10にも制動トルクが発生し、これにより遊星ギヤ装置の出力軸に負トルクが発生すると、建設機械1は、前後進レバーによって選択されている進行方向に発進する。こうして発進した建設機械1の車速が上昇するに従い、図26に示すように遊星ギヤ装置の出力軸回転数が負の方向(図の下方)に増大する。このとき電動発電機11は力行状態になって、蓄電器14を放電させる。
【0108】
さらに車速が上昇して遷移車速に達すると、図27に示すように遊星ギヤ装置の出力回転数は、その絶対値が図9に示すものと同じになる。ここで変速機12の前後進が進行方向の向きに戻されるとともに、電動発電機11は正トルクを発生する状態に切替えられると、遊星ギヤ装置は前記図9に示す状態になり、電動発電機11の回転数は一時的に零になるが、直ちに車速が上昇して図10のように遷移点を超えるので、電動発電機11は力行状態に維持されるようになる。
【0109】
或いは、前記図27に示す状態にまで車速が上昇せず、極低速での走行が継続して蓄電器14の放電が続くと、その蓄電量が設定下限値以下にまで減少することがあり、この場合は前記図26に示す状態で変速機12の前後進が進行方向の向きに戻されて、遊星ギヤ装置が図8に示す状態になる。このときに電動発電機11は、正トルクを発生する状態に切替えられることで回生制動状態になって、蓄電器14を充電するようになる。
【0110】
そうして車速が高くなるか或いは蓄電器14の蓄電量が少なくなって、満充電時の制御を終了すれば、上述した基本的な駆動系の制御が行われ、蓄電器14の蓄電量等に応じて変速機12の変速段が適切に切替えられるようになり、建設機械1は、蓄電器14の限られた蓄電容量の範囲内において充放電を繰り返しながら走行を続けることができる。
【0111】
以上、説明したように本実施形態の建設機械1は、アクセル開度や車速、蓄電器14の蓄電量等に基づいてエンジン回転数や変速機12の変速段を適切に制御することにより、蓄電器14の限られた蓄電容量の範囲内で充放電を繰り返しながら走行することができる。例えばホイールローダのような建設機械において電動発電機に求められる充放電電力を満たすために、蓄電器には非常に高い入出力密度が要求されるが、現状、このように入出力密度の高い蓄電器は、キャパシタのように比較的エネルギ密度の低いものに限られ、その蓄電容量は十分とは言い難い。よって、本実施形態の建設機械1の有用性は高い。
【0112】
しかも、本実施の形態に係る建設機械1は、蓄電器が満充電であっても発進し、極低速での走行を行うことができ、ハイブリッドタイプの駆動系に特有の機能停止状態に陥ることがない。例えばホイールローダのような建設機械においては低速での加減速が繰り返され、ストール状態になることも多いから、電動発電機11は否応なしに回生制動状態になってしまい、蓄電器14が満充電になる可能性も高い。よって、この点でも本実施形態の建設機械1の有用性は高いと言える。
【0113】
なお、上述した実施形態の説明は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、或いはその用途を制限することを意図するものではない。例えば実施形態に記載の建設機械1においては、エンジン10に駆動連結された油圧ポンプ41と荷役・操舵油圧回路43との間に抵抗制御装置51を設けて、油圧ポンプ41の吐出流量及び吐出圧力を制御することによりエンジンブレーキの大きさを調整するようにしているが、例えば電磁クラッチ、流体継ぎ手等、種々の機構を利用してエンブレ調整装置を構成することが可能である。
【0114】
また、エンジン10及び電動発電機11の出力を合成する遊星ギヤ装置の構成についても一例にすぎず、例えば遊星ギヤ装置には直結クラッチ15がなくてもよい。さらに、制御装置2による駆動系の基本的な制御についても一例にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明に係る建設機械及びその制御方法によると、ハイブリッド駆動系の電動発電機に接続された蓄電器が満充電状態になっても発進し、極低速で走行することができるので、頻繁にストール状態等になって蓄電器が充電される機会の多いホイールローダ等に特に好適なものである。
【符号の説明】
【0116】
1 建設機械
2 制御装置
10 エンジン
11 電動発電機
12 変速機
14 蓄電器
16a サンギヤ(遊星ギヤ装置)
16b リングギヤ(遊星ギヤ装置)
17 ギヤ(遊星ギヤ装置)
18 キャリア(遊星ギヤ装置)
20 駆動輪
41 油圧ポンプ
43 荷役・操舵油圧回路(エンブレ調整装置)
51 抵抗制御装置(エンブレ調整装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電器に接続された電動発電機と、エンジンとを備え、該電動発電機及びエンジンの出力が遊星ギヤ装置により合成されて、駆動輪側に出力されるように構成された建設機械であって、
前記遊星ギヤ装置は、前記エンジンの運転中に駆動輪側への出力回転数が零になる場合には前記電動発電機が逆回転するように構成され、
前記遊星ギヤ装置と前記駆動輪との間の動力伝達経路には、前後進の切替が可能な変速機が介設され、
少なくともアクセル開度及び前記蓄電器の蓄電量に基づいて、前記エンジン、電動発電機及び変速機を制御する制御装置を備えており、
該制御装置は、前記蓄電器の蓄電量が所定量以上の満充電状態であって且つアクセルが踏み込まれている場合に、前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるとともに、前記電動発電機に逆トルクを発生させることによって力行状態とするように構成されている、建設機械。
【請求項2】
エンジンブレーキの大きさを調整可能なエンブレ調整装置が設けられ、
前記制御装置は、前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるときには、前記エンブレ調整装置によってエンジンブレーキを増強するように構成されている、請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記エンブレ調整装置は、前記エンジンに駆動連結された油圧ポンプの少なくとも吐出圧力を制御することによって、エンジンブレーキの大きさを調整するように構成されている、請求項2に記載の建設機械。
【請求項4】
前記制御装置は、前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えた状態で前記蓄電器の蓄電量が減少して設定量以下になれば、前記変速機の前後進を進行方向の向きに切替えるとともに、前記電動発電機に正トルクを発生させて回生制動状態とするように構成されている、請求項1〜3のいずれか1つに記載の建設機械。
【請求項5】
蓄電器に接続された電動発電機と、エンジンとを備え、該電動発電機及びエンジンの出力が遊星ギヤ装置により合成されて、駆動輪側に出力されるように構成された建設機械の制御方法であって、
前記遊星ギヤ装置は、前記エンジンの運転中に駆動輪側への出力回転数が零になる場合には前記電動発電機が逆回転するように構成され、
前記遊星ギヤ装置と前記駆動輪との間の動力伝達経路には、前後進の切替が可能な変速機が介設され、
前記建設機械には、少なくともアクセル開度及び前記蓄電器の蓄電量に基づいて、前記エンジン、電動発電機及び変速機を制御する制御装置が備えられ、
前記蓄電器の蓄電量が所定量以上の満充電状態であって且つアクセルが踏み込まれている場合に、前記制御装置により、前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるとともに、前記電動発電機に逆トルクを発生させることによって力行状態とする、建設機械の制御方法。
【請求項6】
エンジンブレーキの大きさを調整可能なエンブレ調整装置が設けられており、
前記制御装置によって前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるときには、前記エンブレ調整装置によってエンジンブレーキを増強する、請求項5に記載の建設機械の制御方法。
【請求項7】
前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えた状態で前記蓄電器の蓄電量が減少して設定量以下になれば、前記制御装置により、前記変速機の前後進を進行方向の向きに切替えるとともに、前記電動発電機に正トルクを発生させて回生制動状態とする、請求項5又は6のいずれかに記載の建設機械の制御方法。
【請求項1】
蓄電器に接続された電動発電機と、エンジンとを備え、該電動発電機及びエンジンの出力が遊星ギヤ装置により合成されて、駆動輪側に出力されるように構成された建設機械であって、
前記遊星ギヤ装置は、前記エンジンの運転中に駆動輪側への出力回転数が零になる場合には前記電動発電機が逆回転するように構成され、
前記遊星ギヤ装置と前記駆動輪との間の動力伝達経路には、前後進の切替が可能な変速機が介設され、
少なくともアクセル開度及び前記蓄電器の蓄電量に基づいて、前記エンジン、電動発電機及び変速機を制御する制御装置を備えており、
該制御装置は、前記蓄電器の蓄電量が所定量以上の満充電状態であって且つアクセルが踏み込まれている場合に、前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるとともに、前記電動発電機に逆トルクを発生させることによって力行状態とするように構成されている、建設機械。
【請求項2】
エンジンブレーキの大きさを調整可能なエンブレ調整装置が設けられ、
前記制御装置は、前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるときには、前記エンブレ調整装置によってエンジンブレーキを増強するように構成されている、請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記エンブレ調整装置は、前記エンジンに駆動連結された油圧ポンプの少なくとも吐出圧力を制御することによって、エンジンブレーキの大きさを調整するように構成されている、請求項2に記載の建設機械。
【請求項4】
前記制御装置は、前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えた状態で前記蓄電器の蓄電量が減少して設定量以下になれば、前記変速機の前後進を進行方向の向きに切替えるとともに、前記電動発電機に正トルクを発生させて回生制動状態とするように構成されている、請求項1〜3のいずれか1つに記載の建設機械。
【請求項5】
蓄電器に接続された電動発電機と、エンジンとを備え、該電動発電機及びエンジンの出力が遊星ギヤ装置により合成されて、駆動輪側に出力されるように構成された建設機械の制御方法であって、
前記遊星ギヤ装置は、前記エンジンの運転中に駆動輪側への出力回転数が零になる場合には前記電動発電機が逆回転するように構成され、
前記遊星ギヤ装置と前記駆動輪との間の動力伝達経路には、前後進の切替が可能な変速機が介設され、
前記建設機械には、少なくともアクセル開度及び前記蓄電器の蓄電量に基づいて、前記エンジン、電動発電機及び変速機を制御する制御装置が備えられ、
前記蓄電器の蓄電量が所定量以上の満充電状態であって且つアクセルが踏み込まれている場合に、前記制御装置により、前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるとともに、前記電動発電機に逆トルクを発生させることによって力行状態とする、建設機械の制御方法。
【請求項6】
エンジンブレーキの大きさを調整可能なエンブレ調整装置が設けられており、
前記制御装置によって前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えるときには、前記エンブレ調整装置によってエンジンブレーキを増強する、請求項5に記載の建設機械の制御方法。
【請求項7】
前記変速機の前後進を進行方向と逆向きに切替えた状態で前記蓄電器の蓄電量が減少して設定量以下になれば、前記制御装置により、前記変速機の前後進を進行方向の向きに切替えるとともに、前記電動発電機に正トルクを発生させて回生制動状態とする、請求項5又は6のいずれかに記載の建設機械の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−245948(P2011−245948A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119785(P2010−119785)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(509241041)株式会社KCM (35)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(509241041)株式会社KCM (35)
【Fターム(参考)】
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