説明

建設機械用キャブ

【課題】 高価なスイッチ類を用いず、またオペレータの意思に頼ることなく、前窓が格納位置から閉じようとするのを防止できるようにする。
【解決手段】 右側のロック装置25のフック部材31には、格納用係合ピン27に係合する第1の爪部31Eと、この第1の爪部31Eよりも先端側に位置して格納用係合ピン27に係合する第2の爪部31Fとを設ける。従って、前窓21を格納位置に向け移動したときには、第1の爪部31Eよりも先端側の第2の爪部31Fが格納用係合ピン27に容易に、かつ確実に係合する。また、格納用係合ピン27に対する第1の爪部31Eの係合が不十分で、もしも第1の爪部31Eが外れた場合でも、第1の爪部31Eよりも先端側に位置する第2の爪部31Fを格納用係合ピン27に係合させることができ、前窓21が前側に移動しようとするのを未然に防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル等に設けられた建設機械用キャブに関し、特に、開閉可能な前窓が設けられた建設機械用キャブに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械としての油圧ショベルは、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の前側に俯仰動可能に設けられた作業装置とにより構成されている。また、上部旋回体には、左前側に位置してオペレータが乗車するキャブが設けられ、該キャブは、前面部、後面部、左側面部、右側面部および天面部からなるキャブボックスと、前記キャブボックスに設けられた前窓とを含んで構成されている。
【0003】
また、油圧ショベル用キャブは、例えばオペレータが上半身を前側に乗出して作業を行う場合、周囲の作業者と言葉を交しながら作業を行う場合等のために、キャブボックスの前面部を閉塞する前窓が開閉可能となっている。詳しくは、キャブボックスの左側面部と右側面部には、前面部と天面部に沿うように逆L字状に延びる凹溝状の左,右のガイドレールが設けられ、前窓は、矩形状の窓枠の4隅に左,右方向に突出するローラ取付軸にローラを回転可能に取付け、該各ローラを凹溝状のガイドレールに係合させる構成としている。
【0004】
これにより、前窓は、各ローラをガイドレールに沿わせて前面部側に移動することにより該前面部を閉塞することができる。一方、前窓は、各ローラをガイドレールに沿わせて天面部側に移動することにより該天面部の下側に格納でき、この状態では前面部を開放することができる。
【0005】
また、キャブボックスと前窓との間には、該前窓を天面部側に格納した状態で保持するロック装置が設けられている。このロック装置は、例えばガイドレールの上部後端側に位置してキャブボックスの左,右の側面部に設けられた係合ピンと、基端側がブラケット等を介して窓枠に回動可能に設けられ、先端側が自由端となり該前窓を天面部側の格納位置に格納したときに前記係合ピンに係合するフック部材とにより大略構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−88814号公報
【0007】
そして、特許文献1による油圧ショベルでは、前窓を格納したときに、ロック装置の係合ピンとフック部材とを係合することにより、前窓を格納位置に保持することができる。また、前窓を格納した状態でフック部材を解除操作することにより、係合ピンに対するフックの係合を解除することができ、前窓をガイドレールに沿わせて前面部側に移動して該前面部を閉塞することができる。
【0008】
ここで、油圧ショベル用キャブでは、前窓を格納した状態で、油圧ショベルの走行時や作業時にがたついて損傷しないように、例えばキャブボックス側に設けた弾性部材に前窓を押付けた状態でロック装置によりロックする構成となっている。
【0009】
この場合、ロック装置の係合ピンとフックとを係合させるためには、前窓をキャブボックスの弾性部材に押付けなくてはならないから、押付け力が弱いと、係合ピンとフックとが完全に係合しないことがある。このときには、走行時や作業時の振動により係合ピンからフックが外れて前窓が前側に移動する虞がある。
【0010】
そこで、従来技術によるロック装置には、フック部材の位置を検出することにより係合ピンに対してフック部材が確実に係合しているか否かを監視する係合状態検出手段を備えたものがある(例えば、特許文献2参照)。また、他の従来技術による建設機械用キャブには、前窓を格納した状態で、手動によってスライドラッチを前窓とキャブボックスとの間で係合させて格納位置にロックする構成としたものがある(例えば、特許文献3参照)。
【0011】
【特許文献2】特開2006−241716号公報
【特許文献3】実開昭62−56681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上述した特許文献2によるキャブでは、ロック装置にフック部材の位置を検出するためのスイッチ等からなる係合状態検出手段を設け、このスイッチに基づく制御も行う必要があるから、ロック装置が高価なものになってしまうという問題がある。
【0013】
また、特許文献3によるキャブでは、手動式のスライドラッチを前窓とキャブボックスとの間で係合させることにより前窓を格納位置にロックするものであるから、オペレータの意思に頼るところが大きく、スライドラッチによるロック操作を掛け忘れる虞があり、確実な前窓のロックを期待することができないという問題がある。
【0014】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、高価なスイッチ類を用いず、またオペレータの意思に頼ることなく、前窓が格納位置から閉じようとするのを確実に防止できるようにした建設機械用キャブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による建設機械用キャブは、前面部、後面部、左側面部、右側面部および天面部により形成され内部に運転室が画成されるキャブボックスと、該キャブボックス内で左側面部と右側面部の位置に前面部から天面部に沿うように略L字状に設けられた左,右のガイドレールと、矩形状の窓枠と該窓枠の左,右両側にそれぞれ設けられた左,右のローラとからなり該各ローラが前記各ガイドレールに沿って案内される前窓と、該前窓が前記各ガイドレールに沿って閉窓位置から格納位置に移動したとき該前窓をロックするロック装置とを備えている。
【0016】
そして、上述した課題を解決するために、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記ロック装置は、前記ガイドレールの後端側に位置して前記キャブボックスの側面部に設けられた係合ピンと、前記窓枠に取付けられ前記ローラが取付けられる支持部材と、基端側が該支持部材に回動可能に設けられ先端側が自由端となり前記前窓を格納位置に配置したときに前記係合ピンに係合するフック部材とからなり、前記フック部材には、長手方向の中間に位置して形成され前記係合ピンに係合可能な第1の爪部と、該第1の爪部よりも先端側に位置して形成され前記係合ピンに係合可能な第2の爪部とを備える構成としたことにある。
【0017】
請求項2の発明は、前記ロック装置の支持部材とフック部材との間には、前記フック部材を前記係合ピンと係合する方向に付勢するばね部材を設ける構成としたことにある。
【0018】
請求項3の発明は、前記支持部材には、前記係合ピンが第1の爪部に係合したときに前記係合ピンを保持する凹溝部を設ける構成としたことにある。
【0019】
請求項4の発明は、前記フック部材の第2の爪部は、前記前窓が格納位置に接近したときに前記係合ピンに係合し、前記第1の爪部は、第2の爪部が係合ピンに係合した位置から前窓を格納位置までさらに移動したときに前記係合ピンに係合する構成としたことにある。
【0020】
請求項5の発明は、前記ロック装置は、前記前窓の左,右両側に設け、前記フック部材に設けられた第2の爪部は、前記左,右のロック装置のうち一方のロック装置に設ける構成としたことにある。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、ロック装置のフック部材には、係合ピンに係合可能な第1の爪部と、該第1の爪部よりも先端側に位置して係合ピンに係合可能な第2の爪部とを設けた2段階の構成としている。従って、前窓を左,右のガイドレールに沿って格納位置に向け移動したときには、第1の爪部よりも先端側に位置した第2の爪部が係合ピンに容易に、かつ確実に係合するから、第1の爪部が係合ピンに係合できない場合でも、前窓が前側に移動しようとするのを未然に防ぐことができる。
【0022】
また、前窓を格納位置に格納したときに、係合ピンに対する第1の爪部の係合が不十分で、走行時や作業時に係合ピンから第1の爪部が外れることがあっても、この第1の爪部よりもフック部材の先端側に設けられた第2の爪部が係合ピンに係合することができ、第2の爪部により前窓が前側に移動しようとするのを未然に防ぐことができる。
【0023】
この結果、ロック装置は、1つのフック部材に2つの爪部を設けるという簡単な構成によって、走行時や作業時に前窓が不用意に閉じようとするのを確実に防止することができ、作業性、信頼性等を向上することができる。また、ロック装置は、フック部材の形状変更だけであるから、安価に製造することができる上に、小さなスペースに設けることができる。
【0024】
請求項2の発明によれば、支持部材とフック部材との間にフック部材を係合ピンに係合する方向に付勢するばね部材を設けることにより、係合ピンに対する各爪部の係合状態を維持することができる。
【0025】
請求項3の発明によれば、支持部材に設けた凹溝部は、第1の爪部に係合ピンが係合したときに該係合ピンを保持することができるから、第1の爪部を係合ピンに確実に係合させることができる。
【0026】
請求項4の発明によれば、前窓を左,右のガイドレールに沿って格納位置に移動させたときには、まず、前窓が格納位置に接近したときに、フック部材の第2の爪部を係合ピンに係合することができる。次に、前窓を第2の爪部が係合ピンに係合した位置から格納位置までさらに移動したときには、第1の爪部を係合ピンに係合することができる。これにより、前窓を格納位置に移動したときには、少なくとも第2の爪部を係合ピンに確実に係合させることができる。
【0027】
請求項5の発明によれば、左,右のロック装置のうち一方のロック装置に第2の爪部を設けているから、少ない設計変更で前窓を格納位置に確実にロックすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態に係る建設機械用キャブとして油圧ショベルに用いるキャブを例に挙げ、図1ないし図15に従って詳細に説明する。
【0029】
図1において、1は建設機械としての油圧ショベルで、該油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、該上部旋回体3の前側に俯仰動可能に設けられ、土砂の掘削作業等を行う作業装置4とにより大略構成されている。
【0030】
ここで、上部旋回体3は、支持構造体をなす旋回フレーム5と、該旋回フレーム5の左前側に搭載された後述のキャブ11と、該キャブ11の後側に位置して旋回フレーム5に搭載されたエンジン、タンク等(いずれも図示せず)を覆う外装カバー6と、前記旋回フレーム5の後端部に取付けられたカウンタウエイト7とによって大略構成されている。
【0031】
次に、11は本実施の形態による建設機械用キャブとしての油圧ショベル用キャブ(以下、キャブ11という)を示している。このキャブ11は、旋回フレーム5の左前側に搭載され、オペレータが搭乗する運転室を画成するものである。また、キャブ11は、図2、図3に示す如く、後述するキャブボックス12、フロア部材18、ガイドレール19、前窓21、ロック装置25,36等により構成されている。
【0032】
12はキャブ11の外形を構成するキャブボックスで、該キャブボックス12は、前側に配置された前面部13と、該前面部13と対面するように後側に配置された後面部14と、左側に位置して前記前面部13と後面部14との間に設けられた左側面部15と、右側に位置して前記前面部13と後面部14との間に設けられた右側面部16と、上側を閉塞して設けられた天面部17とにより角型形状に形成されている。なお、キャブボックス12としては、角型形状の他にも、例えば左側面、天面部等が湾曲した円筒型、卵型等の他の形状も含むものである。
【0033】
また、キャブボックス12の前面部13は、四角形状に開口する枠体として形成されている。また、キャブボックス12の左側面部15には、図1に示すように乗降用のドア15Aが開閉可能に取付けられている。
【0034】
さらに、18はキャブボックス12の下側を閉塞して設けられたフロア部材である。このフロア部材18は、前側がオペレータが足を乗せる床板18Aとなり、後側が運転席44を取付けるための運転席台座18Bとなっている。
【0035】
19はキャブボックス12の左側面部15,右側面部16にそれぞれ設けられた左,右のガイドレールで、左側のガイドレール19は図13に一部のみ図示し、右側のガイドレール19は図3に全体を示している。また、左,右のガイドレール19は、左,右方向で対向して配置されている点を除いてほぼ同様に形成されている。そこで、全体が図示された右側のガイドレール19について説明することで、左側のガイドレール19の説明を省略するものとする。
【0036】
このガイドレール19は、図3に示すように、前面部13と天面部17に沿うように前側下部から前側上部を経由して後側上部に延びるほぼ逆L字状に形成されている。詳しくは、ガイドレール19は、前面部13に沿って上,下方向に延びる縦レール部19Aと、天面部17に沿うように該縦レール部19Aの上部から後方向に延びる横レール部19Bとによって大略構成されている。また、ガイドレール19は、左,右方向の内向きに開口する断面U字状の凹陥溝として形成されている。
【0037】
20はガイドレール19に設けられた弾性部材で、該弾性部材20は、弾性を有するゴム材料、樹脂材料等からなり、横レール部19B内の後部に取付けられている。そして、弾性部材20は、後述の前窓21を天面部17側の格納位置に移動させたときに、上側のローラ34に弾性的に当接することにより、前窓21を格納位置に移動したときの衝撃を緩和すると共に、格納位置に配置した前窓21のがたつきを抑えるものである。
【0038】
21はキャブボックス12に設けられた前窓である。この前窓21は、枠体として形成された前面部13を閉塞するものである。また、前窓21は、図4に示す如く、前面部13に対応するように上,下方向に延びた矩形状の窓枠22と、該窓枠22を塞ぐように取付けられた矩形状のガラス23と、前記窓枠22の上部の左,右両側に設けられ、後述するロック装置36,25の一部として設けられたローラ34と、前記窓枠22の下部の左,右両側にローラ軸24Aを介して回転自在に取付けられた左,右のローラ24とにより大略構成されている。
【0039】
また、窓枠22の上部には、左側の角隅位置に取付ブラケット22A(図13参照)が取付けられ、右側の角隅位置に取付ブラケット22B(図5、図8等参照)が取付けられている。そして、左側の取付ブラケット22Aには、左側のロック装置36が取付けられ、右側の取付ブラケット22Bには、右側のロック装置25が取付けられている。
【0040】
ここで、左,右のロック装置36,25には、それぞれローラ34が回転自在に設けられ、この左,右のローラ34が下側に位置する左,右のローラ24と一緒に左,右のガイドレール19内に配置されることにより、該各ガイドレール19に沿って前面部13を閉塞する閉窓位置(図2に示す位置)と天面部17の下側に格納された格納位置(図7に示す位置)との間で移動することができる。
【0041】
次に、前窓21の上側に設けられた左,右のロック装置36,25について説明する。ここでは、本実施の形態の特徴部分を備えた右側のロック装置25の構成について先に述べる。
【0042】
25はキャブ11内の右上部に設けられた右側のロック装置である。このロック装置25は、前窓21が各ガイドレール19に沿って閉窓位置から格納位置に移動したときに、図7、図8に示すように、この前窓21を格納位置にロックするものである。また、ロック装置25は、図3ないし図12等に示すように、後述の係合ピン26,27、支持部材28、フック部材31、ばね部材33、ローラ34により大略構成されている。
【0043】
図3において、26は右側面部16の上部前側に設けられた閉窓用係合ピンで、該閉窓用係合ピン26は、前窓21を前側に移動して閉じたときに、フック部材31に設けられた閉窓用爪部31Dが係合するものである。また、閉窓用係合ピン26は、ガイドレール19の縦レール部19Aの上部前側に位置して左,右方向の内側(左側)に向けて突出している。
【0044】
27は右側面部16の上部後側に設けられた格納用係合ピンで、該格納用係合ピン27は、図8、図15に示すように、前窓21を開いて天面部17の下側に格納したときに、フック部材31に設けられた各爪部31E,31Fが係合するものである。また、格納用係合ピン27は、ガイドレール19の横レール部19Bの後部下側に位置して左,右方向の内側(左側)に向けて突出している。
【0045】
28はロック装置25のベースとなる支持部材で、該支持部材28は、窓枠22の右側の取付ブラケット22Bに取付けられるものである。そして、支持部材28は、前記取付ブラケット22Bに取付けられる取付板29と、該取付板29の右側に直角、即ちT字状をなすように取付けられ、後述のフック部材31、ローラ34を支持する支持板30とにより構成されている。また、取付板29には、図5等に示すように、後述のボルト35が挿通するボルト挿通孔29Aが複数個、例えば2個形成されている。
【0046】
一方、支持板30は、略長方形状の板体からなり、支持部材28を窓枠22に取付けたときに、該窓枠22の右側部に位置する部位には、右側に突出してローラ軸30Aが設けられている。また、ローラ軸30Aと対角となる位置には、フック部材31を回動可能に支持するための挿着孔30Bが形成されている。また、取付板29を挟んでローラ軸30Aの反対側にはばね掛け部30Cが設けられている。
【0047】
また、取付板29を挟んで挿着孔30Bの反対側には、閉窓用係合ピン26が後述するフック部材31の閉窓用爪部31Dに係合したときに、前記係合ピン26を保持する閉窓用凹溝部30Dが形成されている。さらに、取付板29とばね掛け部30Cとの間には、格納用係合ピン27が後述するフック部材31の第1の爪部31Eに係合したときに、前記係合ピン27を保持する格納用凹溝部30Eが形成されている。
【0048】
31は支持部材28に回動可能に取付けられたフック部材である。このフック部材31は、略L字状の爪形成板31Aと、該爪形成板31Aの長辺部をほぼ直角に折曲げて形成したレバー形成板31Bとを有している。また、爪形成板31AにはL字の角部に取付孔31Cが形成され、該取付孔31Cからレバー形成板31Bと反対側に延びた先端側には閉窓用爪部31Dが形成されている。ここで、閉窓用爪部31Dは、前窓21を閉窓位置に配置したときに、キャブボックス12側の閉窓用係合ピン26に係合して前窓21を閉窓位置にロックするものである。
【0049】
また、フック部材31の爪形成板31Aには、レバー形成板31Bに沿う長手方向の中間に位置して第1の爪部31Eが形成されている。この第1の爪部31Eは、三角形状ないし扇形状の突起として形成され、図7、図8に示す如く、前窓21を格納位置に移動したときに格納用係合ピン27に係合するものである。
【0050】
さらに、フック部材31の爪形成板31Aは、取付孔31C側を基端側とした場合、該取付孔31Cと反対側で第2の爪部31Fが形成される先端側が自由端となっている。即ち、爪形成板31Aには、第1の爪部31Eよりも先端側に位置して第2の爪部31Fが形成されている。
【0051】
ここで、本実施の形態の特徴部分となる第2の爪部31Fについて説明すると、この第2の爪部31Fは、三角形状ないし扇形状の突起として形成され、図15に示す如く、前窓21を格納位置まで接近させたとき、または第1の爪部31Eが格納用係合ピン27から外れたときに格納用係合ピン27に係合することができる。また、第2の爪部31Fは、図10に示すように、格納用係合ピン27が係合する係合端縁31F1が奥部に向けて先端側に後退するように斜めに形成されている。これにより、係合端縁31F1は、格納用係合ピン27を奥部側(第2の爪部31Fの付け根側)に配置することができ、第2の爪部31Fに格納用係合ピン27を確実に係合させることができる。
【0052】
従って、前窓21を移動して格納位置に接近させたときには、先端側に位置する第2の爪部31Fが格納用係合ピン27に係合する。このときに前窓21は、弾性部材20に当接していないから、フック部材31は、図6に示す格納用係合ピン27との当接位置から前窓21を横レール部19Bに沿って軽い力で後側に移動させるだけで、格納用係合ピン27に当接した第2の爪部31Fの傾斜部によって自動的に回動し、図15に示すように、第2の爪部31Fを格納用係合ピン27に簡単に係合することができる。
【0053】
また、第2の爪部31Fが格納用係合ピン27に係合した位置から前窓21を後側にさらに移動し、弾性部材20を弾性変形させつつ格納位置に配置することにより、第1の爪部31Eを格納用係合ピン27に係合することができる。
【0054】
また、フック部材31のレバー形成板31Bには、屈曲して閉窓用爪部31Dと反対側に延びるレバー部31Gが設けられ、該レバー部31Gの付根部の近傍には、ばね掛け突起31Hが設けられている。ここで、レバー部31Gは、図10に二点鎖線で示すように、矢示方向に操作することにより、後述の回動軸32を中心にしてフック部材31を回動させ、閉窓用爪部31Dと閉窓用係合ピン26との係合を解除し、第1の爪部31Eまたは第2の爪部31Fと格納用係合ピン27との係合を解除するものである。
【0055】
32は支持部材28に対してフック部材31を回動可能に支持するための回動軸である。この回動軸32は、短尺な段付円柱状に形成され、支持板30の挿着孔30Bに回転自在に挿着され、先端部がフック部材31の取付孔31Cに取付けられている。これにより、フック部材31は、この回動軸32(取付孔31C)を回動中心とし、図10中の二点鎖線で示すように回動することができる。
【0056】
33は支持部材28とフック部材31との間に設けられたばね部材で、該ばね部材33は、引張りばねとして構成されている。また、ばね部材33は、一端が支持板30のばね掛け部30Cに掛け止めされ、他端がフック部材31のばね掛け突起31Hに掛け止めされている。これにより、ばね部材33は、閉窓用爪部31Dが閉窓用係合ピン26に係合し、第1の爪部31Eまたは第2の爪部31Fが格納用係合ピン27に係合する方向にフック部材31を付勢するものである。
【0057】
34は支持部材28に取付けられたローラで、該ローラ34は、支持板30のローラ軸30Aに回転自在に取付けられている。そして、ローラ34は、前述したローラ24とほぼ同様に、ガイドレール19内を回転しながら移動するものである。
【0058】
このように、右側のロック装置25は、支持部材28の支持板30に設けられたローラ軸30Aにローラ34を取付けた状態で、取付板29のボルト挿通孔29Aに挿通したボルト35を窓枠22の右側の取付ブラケット22Bに螺着することにより、該窓枠22の右上の角隅位置に取付けることができる。
【0059】
次に、36はキャブ11内の左上部に設けられた左側のロック装置である(図13参照)。この左側のロック装置36は、右側のロック装置25とほぼ同様に、前窓21が各ガイドレール19に沿って閉窓位置から格納位置に移動したときに、この前窓21を格納位置にロックするものである。また、左側のロック装置36は、格納用係合ピン37、支持部材38(取付板39、支持板40)、フック部材41、回動軸42、ばね部材43および前述したローラ34(図4中に図示)により大略構成されている。なお、左側のロック装置36は、フック部材41の形状が異なる点を除いて、形状面、機能面で右側のロック装置25とほぼ同様に構成されている。即ち、フック部材41は、第1の爪部41Aだけが設けられ、第2の爪部が設けられていない点で、前述した右側のフック部材31と相違している。
【0060】
そして、左側のロック装置36は、支持部材38の取付板39をボルト35によって窓枠22の左側の取付ブラケット22Aに取付けることにより、該窓枠22の左上の角隅位置に取付けることができる。
【0061】
なお、44はキャブボックス12内に位置してフロア部材18の運転席台座18B上に配設された運転席である(図3参照)。この運転席44は、キャブ11内に搭乗したオペレータが着座するものである。また、運転席44の周囲には、作業装置4等を操作する作業レバー45、下部走行体2を操作する走行レバー、各種スイッチ類(いずれも図示せず)が配設されている。
【0062】
本実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
【0063】
まず、オペレータはキャブ11に搭乗して運転席44に着座し、この状態で走行レバーを操作することにより、下部走行体2を走行させることができる。また、作業レバー45等を操作することにより、作業装置4を俯仰動させて土砂の掘削作業等を行うことができる。
【0064】
次に、作業装置4で深穴を掘削する場合には、運転席44に着座したままでは作業装置4の先端側が見えないため、オペレータは前窓21を開き、運転席44から腰を上げて上半身を前側に乗出し、下を覗き込むようにして作業装置4の操作を行う。また、周囲の作業者と言葉を交しながら作業を行う場合にも、前窓21を開くようにしている。
【0065】
そこで、前窓21を開放、閉塞する場合の手順について、図7ないし図15を参照して説明する。
【0066】
まず、前窓21を開いて格納する場合には、各ローラ24,34を左,右のガイドレール19の縦レール部19Aから横レール部19B側に移動する。これにより、図7に示すように、前窓21を格納位置に配置することができ、キャブボックス12の前面部13を開放することができる。
【0067】
ここで、右側のロック装置25のフック部材31には、第1の爪部31Eよりも先端側に位置して第2の爪部31Fを設けているから、前窓21を左,右のガイドレール19に沿って格納位置に向け移動したときには、第2の爪部31Fを格納用係合ピン27に係合させることができる。このときに、第2の爪部31Fは、図15に示すように、前窓21のローラ34が弾性部材20に当接する前に格納用係合ピン27に係合することができるから、前窓21を横レール部19Bに沿って軽い力で後側に移動させるだけで簡単に係合することができる。
【0068】
また、第2の爪部31Fが格納用係合ピン27に係合した位置から前窓21を後側にさらに移動し、弾性部材20を弾性変形させつつ格納位置に配置することにより、図8に示すように、右側のロック装置25の第1の爪部31Eを格納用係合ピン27に係合することができる。この格納用係合ピン27が第2の爪部31Fから第1の爪部31Eに段階的に係合する動作は、実際には、前窓21が勢いを付けて移動されるため、第2の爪部31Fによる係合を飛び越えて一気に第1の爪部31Eに係合するようになる。このときには、左側のロック装置36の第1の爪部41Aも格納用係合ピン37に係合することができる。
【0069】
なお、前窓21を後側に移動させる勢いが弱い場合には、弾性部材20の弾性力に抗して第1の爪部31E,41Aに格納用係合ピン27,37を係合させることができない。しかし、第2の爪部31Fは、前窓21が弾性部材20に当接する前に、弱い力でも格納用係合ピン27に係合することができるから、オペレータは、意識することなく自動的に前窓21が閉じないようにロックすることができる。
【0070】
また、前窓21を格納位置に配置したときに、図14に示すように、格納用係合ピン27,37に対する第1の爪部31E,41Aの係合が不十分な場合があり、この状態で走行や作業を行うと第1の爪部31E,41Aが係合ピン27,37から外れる虞がある。しかし、右側のロック装置25に設けた第1の爪部31Eが係合ピン27から外れることがあっても、図15に示す如く、この第1の爪部31Eよりもフック部材31の先端側に設けられた第2の爪部31Fが係合ピン27に係合するから、この場合でも、前窓21が閉じないようにロックすることができる。
【0071】
一方、フック部材31,41をばね部材33,43に抗して回動操作することにより、係合ピン27,37との係合を解除することができるから、図2に示すように、前窓21を閉窓位置に配置し、キャブボックス12の前面部13を閉塞することができる。
【0072】
かくして、本実施の形態によれば、右側のロック装置25のフック部材31には、格納用係合ピン27に係合可能な第1の爪部31Eと、該第1の爪部31Eよりも先端側に位置して格納用係合ピン27に係合可能な第2の爪部31Fとを設けた2段階の係合構造をもって形成している。
【0073】
従って、前窓21を左,右のガイドレール19に沿って格納位置に向け移動したときには、第1の爪部31Eよりも先端側に位置した第2の爪部31Fを格納用係合ピン27に容易に、かつ確実に係合させることができる。これにより、例えば前窓21を格納位置に移動するときの勢いが弱く、第1の爪部31Eが格納用係合ピン27に係合できない場合でも、第2の爪部31Fによって前窓21が前側に移動しようとするのを未然に防ぐことができる。
【0074】
また、前窓21を格納位置に格納したときに、格納用係合ピン27に対する第1の爪部31Eの係合が不十分で、走行時や作業時に第1の爪部31Eが格納用係合ピン27から外れることが考えられる。しかし、このような場合でも、第1の爪部31Eよりもフック部材31の先端側に設けられた第2の爪部31Fを格納用係合ピン27に係合させることができ、第2の爪部31Fにより前窓21が前側に移動しようとするのを未然に防ぐことができる。
【0075】
この結果、右側のロック装置25は、1つのフック部材31に格納用係合ピン27に係合する2つの爪部31E,31Fを設けるという簡単な構成によって、走行時や作業時に前窓21が不用意に閉じようとするのを確実に防止することができ、作業性、信頼性等を向上することができる。また、ロック装置25は、フック部材31の形状変更だけであるから、安価に製造することができる上に、小さなスペースに設けることができる。
【0076】
また、支持部材28にローラ34を回転自在に取付けると共に、フック部材31を回動可能に取付け、前記支持部材28と該フック部材31との間にフック部材31を係合ピン26,27に係合する方向に付勢するばね部材33を設けることにより、ロック装置25をローラ34と一体的に組立てることができる。このように別途組立てたロック装置25は、その支持部材28の取付板29を介して窓枠22に簡単に取付けることができる。
【0077】
また、支持部材28の支持板30には、係合ピン27が第1の爪部31Eに係合したときに前記係合ピン27を保持する格納用凹溝部30Eを設けているから、この格納用凹溝部30Eは、第1の爪部31Eに係合ピン27が係合したときに該係合ピン27を保持することができ、第1の爪部31Eを係合ピン27に確実に係合させることができる。
【0078】
さらに、左,右のロック装置36,25のうち一方となる右側のロック装置25のフック部材31に第2の爪部31Fを設ける構成としているから、1個のロック装置25に対して少ない設計変更を施すだけで、前窓21を格納位置に確実にロックすることができる。
【0079】
なお、実施の形態では、左,右のロック装置36,25のうち一方となる右側のロック装置25のフック部材31に第2の爪部31Fを設ける構成としている。しかし、本発明はこれに限らず、例えば左側のロック装置36のフック部材41に第2の爪部を設ける構成としてもよい。また、左,右のロック装置36,25の両方に第2の爪部を設ける構成としてもよい。
【0080】
また、実施の形態では、前窓21の左,右両側にロック装置36,25を設けた場合を例示したが、本発明はこれに限らず、左側のロック装置36、右側のロック装置25のうち、いずれか一方のロック装置だけを設ける構成としてもよい。
【0081】
さらに、実施の形態では、建設機械用キャブとしてクローラ式の油圧ショベル1のキャブ11を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば本実施の形態によるキャブ11をホイール式の下部走行体を備えた油圧ショベルに適用してもよい。さらに、例えば油圧クレーン、ホイールローダ、トラクタ等の他の建設機械のキャブにも広く適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施の形態による建設機械用キャブが適用されるクローラ式の油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】作業装置を省略した油圧ショベルを示す左側面図である。
【図3】前窓を省略したキャブを図2中の矢示III−III方向からみた拡大断面図である。
【図4】前窓を運転室側から拡大してみた外観斜視図である。
【図5】前窓と右側のロック装置とを分解した状態で示す要部拡大の分解斜視図である。
【図6】前窓を格納位置側に移動して右側のロック装置が格納用係合ピンに当接した状態を示す要部拡大の断面図である。
【図7】前窓を格納位置に移動して右側のロック装置の第1の爪部が格納用係合ピンに係合した状態を示す要部拡大の断面図である。
【図8】図7中の右側のロック装置を拡大した要部拡大の断面図である。
【図9】右側のロック装置を組立てた状態で示す外観斜視図である。
【図10】図9に示す右側のロック装置の左側面図である。
【図11】右側のロック装置を分解した状態を左側からみた分解斜視図である。
【図12】右側のロック装置を分解した状態を右側からみた分解斜視図である。
【図13】前窓を格納位置に移動して左側のロック装置の第1の爪部が格納用係合ピンに係合した状態を示す要部拡大の断面図である。
【図14】格納用係合ピンに対する第1の爪部の係合が不十分な状態を示す要部拡大の断面図である。
【図15】右側のロック装置の第2の爪部が格納用係合ピンに係合した状態を示す要部拡大の断面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 油圧ショベル(建設機械)
11 油圧ショベル用キャブ(建設機械用キャブ)
12 キャブボックス
13 前面部
14 後面部
15 左側面部
16 右側面部
17 天面部
19 ガイドレール
20 弾性部材
21 前窓
22 窓枠
24,34 ローラ
25 右側のロック装置
26 閉窓用係合ピン
27,37 格納用係合ピン
28,38 支持部材
29,39 取付板
30,40 支持板
30D 閉窓用凹溝部
30E 格納用凹溝部
31,41 フック部材
31D 閉窓用爪部
31E,41A 第1の爪部
31F 第2の爪部
32,42 回動軸
33,43 ばね部材
36 左側のロック装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面部、後面部、左側面部、右側面部および天面部により形成され内部に運転室が画成されるキャブボックスと、該キャブボックス内で左側面部と右側面部の位置に前面部から天面部に沿うように略L字状に設けられた左,右のガイドレールと、矩形状の窓枠と該窓枠の左,右両側にそれぞれ設けられた左,右のローラとからなり該各ローラが前記各ガイドレールに沿って案内される前窓と、該前窓が前記各ガイドレールに沿って閉窓位置から格納位置に移動したとき該前窓をロックするロック装置とを備えてなる建設機械用キャブにおいて、
前記ロック装置は、前記ガイドレールの後端側に位置して前記キャブボックスの側面部に設けられた係合ピンと、前記窓枠に取付けられ前記ローラが取付けられる支持部材と、基端側が該支持部材に回動可能に設けられ先端側が自由端となり前記前窓を格納位置に配置したときに前記係合ピンに係合するフック部材とからなり、
前記フック部材には、長手方向の中間に位置して形成され前記係合ピンに係合可能な第1の爪部と、該第1の爪部よりも先端側に位置して形成され前記係合ピンに係合可能な第2の爪部とを備える構成としたことを特徴とする建設機械用キャブ。
【請求項2】
前記ロック装置の支持部材とフック部材との間には、前記フック部材を前記係合ピンと係合する方向に付勢するばね部材を設ける構成としてなる請求項1に記載の建設機械用キャブ。
【請求項3】
前記支持部材には、前記係合ピンが第1の爪部に係合したときに前記係合ピンを保持する凹溝部を設ける構成としてなる請求項1または2に記載の建設機械用キャブ。
【請求項4】
前記フック部材の第2の爪部は、前記前窓が格納位置に接近したときに前記係合ピンに係合し、前記第1の爪部は、第2の爪部が係合ピンに係合した位置から前窓を格納位置までさらに移動したときに前記係合ピンに係合する構成としてなる請求項1,2または3に記載の建設機械用キャブ。
【請求項5】
前記ロック装置は、前記前窓の左,右両側に設け、前記フック部材に設けられた第2の爪部は、前記左,右のロック装置のうち一方のロック装置に設ける構成としてなる請求項1,2,3または4に記載の建設機械用キャブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−59643(P2010−59643A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224698(P2008−224698)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】