説明

引張強度800MPaを超える超高強度溶接鋼管の製造方法

【課題】天然ガスや原油の輸送用として好滴な、引張強度800MPaを超える超高強度溶接鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】質量%でC:0.03〜0.12%、Si:≦0.5%、Mn:1.8〜3.0%、P≦0.010%,S≦0.002%、Al:0.01〜0.08%、Cu:≦0.7%、Ni:0.01〜3.0%、Cr:≦1.0%、Mo:≦1.0%、Nb:0.01〜0.08%、V:≦0.10%、Ti:0.005〜0.025%、B:≦0.005%、Ca:≦0.01%、REM:≦0.02%、Zr:≦0.03%、Mg:≦0.01%、N:0.001〜0.006%、PcmB≦0.22、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼板を冷間加工で管状に成形した後,突合せ部を、COガスシールドを用いたレーザーとAr−COガスシールドを用いたガスシールドアーク溶接を組合わせたハイブリッド溶接法によって溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,引張強度800MPaを超える超高強度溶接鋼管の製造方法に関し、特に母材、溶接熱影響部(HAZ)および縦シーム溶接部の溶接金属の靭性や耐切断割れ性、および低温割れ感受性に優れ、天然ガスや原油の輸送用として好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,天然ガスや原油の輸送用として使用されるラインパイプは,高圧化による輸送効率の向上、薄肉化による現地溶接施工能率の向上、および地球環境保全など種々の課題を解決しなければならない。
【0003】
高圧化による輸送効率の向上には、鋼板の高強度化が有効で、薄肉化による現地溶接施工能率の向上のため、低温割れ感受性に優れたAPI規格でX100グレードのラインパイプが既に実用化し,引張強度900MPaを超えるX120グレードも試作されている。
【0004】
高強度ラインパイプ用溶接鋼管およびその素材となる高強度厚鋼板の製造方法に関しては,例えば特許文献1に,熱間圧延後2段冷却を行い,2段目の冷却停止温度を300℃以下とすることで,高強度化を達成する技術が開示されている。
【0005】
特許文献2に,高価な合金元素添加量を削減しつつ,高強度・高靱性を得るための加速冷却および焼戻し条件に関する技術が開示されている。特許文献3に,母材については特許文献2と同様に合金元素添加量を削減し,さらに縦シーム溶接部の溶接金属において高強度・高靱性を得るための成分設計に関する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−293089号公報
【特許文献2】特開2002―173710号公報
【特許文献3】特開2000―355729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1〜3に記載されたラインパイプやラインパイプ用鋼は、縦シーム溶接を大入熱サブマージアーク溶接で行うと、板厚によっては縦シーム溶接部でHAZ部が大きく軟化し、実管を用いた水圧試験で強度の低いHAZ部で破壊することが懸念されるため、溶接入熱を低下させなければならず、生産性が低下する。
【0007】
HAZ軟化による継手強度不足を補うため、縦シーム溶接部の溶接金属を高強度化することが有効であるが、溶接金属中の合金元素量を増加させ、低温割れ等の溶接金属欠陥が発生しやすくなり,手直し等溶接作業性を著しく悪化させるようになる。
【0008】
また、母材中の合金元素量を増やすと,パイプ同士を接合する、入熱の小さい多層溶接による円周溶接部においてHAZ硬さが増大し,特に初層溶接部で低温割れ感受性が増大するため、開先の予熱管理などが必要となり、現地施工性が低下する。
【0009】
更に熱間圧延後の冷却停止温度を低くして,ミクロ組織を低温変態組織とすることで高強度を達成した場合,冷却ままの鋼板を必要なサイズにせん断加工で切断する際,鋼中に残存する拡散性水素が原因で板面に平行な割れ(以下、切断割れ)が発生する。
【0010】
一方,加速冷却後に焼戻し処理などの熱処理を行った場合,鋼中の水素は十分拡散させられるので,切断割れは抑制できるものの,熱処理過程でミクロ組織中にセメンタイトが析出・粗大化して靱性が低下し,特に脆性亀裂伝播停止特性の評価を行うDWTT(Drop Weight Tear Test)特性が劣化する。
【0011】
そこで、本発明は,引張強度800MPa以上において、上記課題を解決したラインパイプ用鋼を用いたラインパイプ用溶接鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は上記課題を解決するため、母材特性と縦シーム溶接法について、下記の項目について鋭意検討を行った。
【0013】
1)レーザー・アークハイブリッド溶接法の縦シーム溶接への適用:従来の大入熱サブマージアーク溶接による溶接効率を維持しつつ,溶接部の冷却速度を向上させて、HAZおよび溶接金属の強度を上昇させる溶接条件。
【0014】
2)引張強度800MPa以上で優れた変形性能、DWTT特性、耐切断割れ性、および低温割れ感受性を備えた鋼板の製造プロセス。
【0015】
3)縦シーム溶接時の溶接割れを抑制し,かつ高冷却速度において溶接金属強度・靱性を達成する溶接金属成分。
【0016】
本発明は上記検討の結果得られた知見を基になされたもので、すなわち、本発明は、
1.ミクロ組織がフェライトと焼戻しマルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織で、鋼中のCa,O,Sから求まるACRが0〜2を満足する、引張強度800MPa以上でYR85%以下かつ一様伸び5%以上のの鋼板を冷間加工で管状に成形した後,突合せ部を、COガスシールドを用いたレーザーとAr−COガスシールドを用いたガスシールドアーク溶接を組合わせたハイブリッド溶接法によって溶接することを特徴とする超高強度溶接鋼管の製造方法。
但し、ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S)で、Ca,O、Sは鋼中含有量(%)を示す。
2.前記突合せ部の内外面を前記ハイブリッド溶接で溶接することを特徴とする1記載の超高強度溶接鋼管の製造方法。
3.前記突合せ部の内面を前記ハイブリッド溶接で溶接し、外面をサブマージアーク溶接で溶接することを特徴とする1記載の超高強度溶接鋼管の製造方法。
4.前記鋼板が、
質量%で、
C:0.04〜0.12%
Si:0.01〜0.5%
Mn:1.80〜2.50%
Al:0.01〜0.08%
P≦0.010%,S≦0.002%
Cu:0.01〜0.8%
Ni:0.1〜1.0%
Cr:0.01〜0.8%
Mo:0.01〜0.8%
Nb:0.01〜0.08%
V:0.01〜0.10%
Ti:0.005〜0.025%
Ca:0.0005〜0.01%
N:0.001〜0.006%
PcmB≦0.22
残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を,
1000〜1200℃に加熱した後,熱間圧延を開始し,圧延終了温度をAr変態点以上,Ar+100℃以下の温度域となるよう圧延を行い,次いで,Ar−50℃以上,Ar変態点以下の温度域から,(1)式を満足するマルテンサイト生成臨界冷却速度Vcrm以上の冷却速度でマルテンサイト変態開始温度Ms以下、300℃以上の温度域の冷却停止温度まで冷却した後,冷却停止温度±50℃以内に60s〜300sの間保持し,その後室温まで空冷することによって得られる鋼板で、
前記突合せ部の溶接金属の化学成分が
質量%で,
C:0.05〜0.09%
Si:0.1〜0.4%
Mn:1.0〜2.0%
Al:≦0.015%
Cu:≦0.5%
Ni:≦3.0%
Cr:≦1.0%
Mo:≦1.0%
V:≦0.1%
Ti:0.003〜0.10%
B:≦0.0030%
O:≦0.03%
N:≦0.008%
PcmW≦0.2
残部Feおよび不可避的不純物
であることを特徴とする1乃至3の何れか一つに記載の超高強度溶接鋼管の製造方法。
【0017】
但し、PcmB=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×B
PcmW=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+60×B−12×N−4×O
ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S)
Ms=517−300C−11Si−33Mn−22Cr−17Ni−11Mo
で、各元素は含有量(%)を示す。
logVcrm=2.94−0.75×(β−1) (1)
ここで、β(%)=2.7C+0.4Si+Mn+0.45Ni+0.8Cr+Mo
5.更に前記鋼板が、冷却停止温度±50℃以内に60s〜300sの間保持後、直ちに該温度から450℃以上、Ac変態点以下の温度域へ1℃/s以上の昇温速度で急速加熱し、焼戻しを行って得られることを特徴とする4記載の超高強度溶接鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、安全性に優れ、天然ガスや原油の輸送用として好適な、引張強度800MPa以上の超高強度溶接鋼管の製造が可能で産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、ミクロ組織がフェライトと焼戻しマルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織で、鋼中のCa、O、Sから求まるACRが0〜2を満足する、引張強度800MPa以上でYR85%以下かつ一様伸び5%以上の鋼板を冷間加工で管状に成形した後,COガスシールドを用いたレーザーとAr−COガスシールドを用いたガスシールドアーク溶接を組合わせたハイブリッド溶接法によって突合わせ部の溶接を行い溶接鋼管とすることを特徴とする。
【0020】
YRは、公称歪0.5%における降伏強度を引張強度で除した値に100を掛けて%表示した値である。
【0021】
図4は、COガスシールドを用いたレーザー溶接とAr−COガスシールドを用いたガスシールドアーク溶接を組合わせたハイブリッド溶接法を説明する模式図で、ハイブリッド溶接5は、溶接方向に、レーザトーチ6がガスアーク溶接トーチ7に先行して配置される。
【0022】
レーザトーチ6とガスアーク溶接トーチ7は、それぞれの溶接による溶融池8が一つに合体される1プール溶接としてビード9を形成するように配置する。その結果、従来のサブマージアーク溶接並の溶接速度で鋼板突き合わせ部の溶接を行うことが可能であり,さらに溶接部の冷却速度が著しく向上する。
【0023】
先行するレーザートーチ6により狭い領域に高密度の入熱を与えることで鋼板を容易に溶解させ,その後のガスアーク溶接の入熱レベルでも十分に溶接金属を溶着させられるからであると考えられる。
【0024】
同一の板厚の母材を当該ハイブリッド溶接とサブマージアーク溶接で溶接する際の溶接入熱は、当該ハイブリッド溶接によるものは、サブマージアーク溶接の約1/2となる。
【0025】
従って、管厚が厚く,レーザー・アークハイブリッド溶接1層では貫通溶接できない場合,パイプの内外面それぞれ1層ずつレーザー・アークハイブリッド溶接を行っても継手強度の低下は小さい。また,外面側を従来のSAW溶接による1層溶接を行っても同様に内面側のHAZ部で十分な強度が確保され,母材と同等以上の継手強度を満足することができる。
【0026】
図5に本発明に係る超高強度溶接鋼管の製造方法での縦シーム溶接方法を模式的に示す。(a)は板厚が薄い場合を示し、レーザー・アークハイブリッド溶接9の外面側一層溶接、(b)は板厚がより厚い場合を示し、レーザー・アークハイブリッド溶接9の内外面側一層溶接、(c)は更に厚い場合を示し、内面側をレーザー・アークハイブリッド溶接9、外面側をサブマージアーク溶接10とする。
【0027】
尚、レーザ溶接のシールドガスとしてCOガスを用いることでブローホールの発生を著しく抑制し,ガスアーク溶接のシールドガスをArとCOの混合ガスとすることで溶接金属中の酸素量を低く抑えることができる。
【0028】
次に,本発明における,ミクロ組織がフェライトと焼戻しマルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織で、鋼中のCa、O、Sから求まるACRが0〜2を満足する、引張強度800MPa以上YR85%以下かつ一様伸び5%以上の鋼板について説明する。
【0029】
ミクロ組織は引張強度800MPa以上を確保し、YR85%以下かつ一様伸び5%以上の優れた変形性能、DWTT特性を得るため、強度と靭性と変形性能に優れるフェライトと焼戻しマルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織とする。また、鋼組成におけるACRを0〜2とする。
【0030】
ACRは(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S)で定義され、MnSに関するパラメータであり、0以上、2以下の範囲とした場合,CaSを生成させて,靭性に有害で、拡散性水素のトラップサイトとなるMnSを低減させ、耐切断割れ性、および低温割れ感受性に優れた鋼板とすることが可能となる。尚、Ca、O、Sは鋼中含有量(%)を示す。
【0031】
本発明鋼板として好適な成分限定理由を説明する。説明において%は質量%とする。
【0032】
C:0.04〜0.12%
Cは低温変態組織においては過飽和固溶することで強度上昇に寄与し,また後述するようにNb,Vの炭化物を形成することでHAZの軟化抵抗をもたらす。これらの効果を得るためには0.04%以上の添加が必要であるが,0.12%を超えて添加すると,パイプの円周溶接部の硬度上昇が著しくなり,低温割れが発生しやすくなるため,上限を0.12%とした。
【0033】
Si:0.01〜0.5%
Siは変態組織によらず固溶強化するため,母材,HAZの強度上昇に有効である。しかし,0.5%を超えて添加すると靱性が著しく低下するため上限を0.5%とした。
【0034】
Mn:1.8〜2.5%
Mnは焼入性向上元素として作用する。特にHAZにおいて高強度を達成するための低温変態組織を得るために1.8%以上の添加が必要であるが,連続鋳造プロセスでは中心偏析部の濃度上昇が著しく,2.5%を超える添加を行うと,偏析部での遅れ破壊の原因となるため,上限を2.5%とした。
P:≦0.010%
S:≦0.002%
P,Sはいずれも鋼中に不可避不純物として存在する。特に中心偏析部での偏析が著しい元素であり,母材の偏析部起因の靱性低下を抑制するために,それぞれ上限を0.010%,0.002%とした。
【0035】
Al:0.01〜0.08%
Alは脱酸元素として作用する。0.01%以上の添加で十分な脱酸効果が得られるが,0.08%を超えて添加すると鋼中の清浄度が低下し,靱性劣化の原因となるため,上限を0.08%とした。
【0036】
Cu:0.01〜0.8%,Cr:0.01〜0.8%,Mo:0.01〜0.8%
Cu,Cr,Moはいずれも焼入性向上元素として作用するが,0.01%以下ではその効果が得られない。これらは多量のMn添加の代替のため使用することで,同じように低温変態組織を得て母材・HAZの高強度化に寄与するが,高価な元素であり,かつそれぞれ0.8%以上添加しても高強度化の効果は飽和するため,上限を0.8%とした。
【0037】
Ni:0.1〜1.0%
Niもまた,焼入性向上元素として作用するほか,添加しても靱性劣化を起こさないため,有用な元素である.この効果を得るために,0.1%以上の添加が必要であるが,高価な元素であるため,上限を1.0%とした。
【0038】
Nb:0.01〜0.08%
Nbは炭化物を形成することで,特に2回以上の熱サイクルを受ける溶接熱影響部(以下、HAZ)の焼戻し軟化を防止して,必要なHAZ強度を得るために必要な元素である。
【0039】
また,熱間圧延時のオーステナイト未再結晶領域を拡大する効果もあり,特に950℃まで未再結晶領域とするためには0.01%以上の添加が必要である。一方,0.08%を超えて添加すると,HAZの靱性を著しく損ねることから上限を0.08%とする。
【0040】
V:0.01〜0.1%
VはNbとの複合添加により,多重溶接熱サイクル時に析出硬化し,HAZ軟化防止に寄与するが,0.1%を超えて添加すると析出硬化が著しくHAZ靱性の劣化につながるため、上限を0.1%とする。
【0041】
Ti:0.005〜0.025%
Tiは窒化物を形成し,鋼中の固溶N量低減に有効であるほか,析出したTiNがピンニング効果でオーステナイト粒の粗大化抑制防止をすることで,母材,HAZの靱性向上に寄与する。必要なピンニング効果を得るためには0.005%以上の添加が必要であるが,0.025%を超えて添加すると炭化物を形成するようになり,その析出硬化で靱性が著しく劣化するため,上限を0.025%とした。
【0042】
Ca:0.0005〜0.01%
Caは鋼中の硫化物の形態制御に有効な元素であり,添加することで靱性に有害なMnSの生成を抑制するが0.0005%未満ではその効果が得られない。しかし,0.01%を超えて添加すると,CaO−CaSのクラスターを形成し,かえって靱性を劣化させるので,上限を0.01%とした。
【0043】
N:0.001〜0.006%
Nは通常鋼中の不可避不純物として存在するが,前述の通りTi添加を行うことで,オーステナイト粗大化を抑制するTiNを形成する。有効なピンニング効果を得るためには0.001%以上鋼中に存在することが必要であるが,0.006%を超える場合,溶接部,特に溶融線近傍で1450℃以上に加熱されたHAZでTiNが分解した場合,固溶Nの悪影響が著しいため,上限を0.006%とした。
【0044】
PcmB≦0.22
PcmBは溶接割れ感受性組成として,HAZ部の低温割れ防止のための予熱温度と相関し、PcmB=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×Bで定義される。
【0045】
図1は,種々の化学組成を有する鋼を,種々の予熱温度を与えた後行った低温割れ試験によって得られたHAZ部の低温割れ阻止予熱条件をPcmB値で整理したものである。
【0046】
パイプ同士の円周溶接時の初層溶接において,パイプ予熱温度を75℃まで許容する場合のHAZ割れ防止にはPcmB値を0.22以下とする必要があるため,上限を0.22とした。
【0047】
なお,パイプライン敷設現場での作業性を考えると,パイプ予熱温度が低い方が望ましく,この観点からPcmBの好適範囲は0.20以下となる。
【0048】
次に,素材鋼板の製造方法の限定理由について説明する.
[製造条件]
上記した組成を有する溶鋼を、転炉、電気炉等の通常の溶製手段で溶製し、連続鋳造法または造塊-分塊法等の通常の鋳造法でスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。
【0049】
鋼の製鋼方法については特に限定しないが,経済性の観点から,転炉法による製鋼プロセスと,連続鋳造プロセスによる鋼片の鋳造を行うことが望ましい。尚、溶製方法、鋳造法については上記した方法に限定されるものではない。
【0050】
1.スラブ加熱ー圧延条件
鋼素材は、オーステナイト単相組織となる温度に加熱される。鋼素材の加熱温度は、鋼素材をオーステナイト化するため、好ましくは1000〜1200℃とする。鋼素材の加熱温度が1000℃未満では、熱間変形抵抗が高すぎて1回あたりの圧下率を高く採れず、生産性が低下する。
【0051】
また、V、Nb等の析出物形成元素を含有する場合には,これら元素が十分にオーステナイト中に固溶せず,これら元素の効果を十分に発揮することが困難となる。一方,加熱温度が1200℃を超えると、結晶粒が粗大化するとともに,スケールロス量の増加や炉の改修頻度の増加を招く。このため,鋼素材の加熱温度は1000〜1200℃の範囲に限定した。
【0052】
加熱された鋼素材は,圧延終了温度をAr変態点以上、Ar+100℃以下の温度域とする熱間圧延を施す。
【0053】
2.熱処理
圧延終了後,Ar−50℃以上Ar変態点以下の温度域から、Ms点以下300℃以上の温度域まで、マルテンサイト生成臨界冷却速度Vcrm以上の冷却速度で冷却し、冷却停止温度±50℃以内に60s〜300sの間保持後、室温まで空冷する。
【0054】
焼入れの開始温度が,Ar−50℃未満では、焼入れ冷却開始時の組織においてフェライトが著しく増加するため,焼入れ処理を施しても所望のミクロ組織が得られず,所望の高強度・高靭性を確保することができない。
【0055】
また,焼入れの開始温度が,Ar変態点より高くなると,初析フェライトが得られず,YR85%以下かつ一様伸び5%以上を満足する変形性能が得られない。このため,冷却開始温度をAr−50℃以上Ar変態点以下の範囲に限定する。
【0056】
焼入れ冷却の冷却速度は,マルテンサイト生成臨界冷却速度Vcrm以上の冷却速度とする。なお,本発明でマルテンサイト生成臨界冷却速度Vcrmは以下の(3)式で定義される冷却速度をいう。
logVcrm=2.94−0.75*(β−1)
(β(%)=2.7C+0.4Si+Mn+0.45Ni+0.8Cr+Mo)・・・(3)
(ここで,Vcrm:マルテンサイト生成臨界冷却速度(℃/s)でマルテンサイト生成臨界冷却速度Vcrmとは、全組織中の90%以上の分率でマルテンサイト組織を含有する冷却速度を意味する。
【0057】
マルテンサイト生成臨界冷却速度Vcrm以上の冷却速度で,マルテンサイト変態開始温度Ms以下300℃以上の温度域の焼入れ冷却停止温度まで冷却する焼入れ処理を施すことにより,板厚方向各位置で部分的にマルテンサイトがまず生成する。
【0058】
マルテンサイトを部分的に生成させることで,生成したマルテンサイトと未変態のオーステナイトとの界面にマルテンサイト変態時の膨張による歪が生成され、この歪エネルギーにより未変態のオーステナイトが下部ベイナイトへ変態しやすくなるとともに,下部ベイナイト相を従来に比べて微細でかつ多量に生成させることが可能となる。
【0059】
焼入れ冷却の冷却速度がマルテンサイト生成臨界冷却速度Vcrm未満では,マルテンサイト変態前に粗大なベイナイトの生成量が増加し,上記したマルテンサイト変態による歪の生成が不十分となり,所期の効果が得られない。
【0060】
また,焼入れ冷却停止温度が,Ms点を超える温度では,マルテンサイトの生成による歪生成効果が期待できず,下部ベイナイト相への変態促進が不十分となり、更に等温保持中あるいは空冷中に生成する、靭性に有害な島状マルテンサイト量が増加する。
【0061】
一方,焼入れ冷却停止温度が300℃未満では,Cの拡散が不十分となり,亀裂伝播抵抗に有効な炭化物がベイニティックフェライト内部に析出しない。このようなことから,焼入れ冷却停止温度はMs点以下300℃以上の温度域の温度とする。尚,好ましくは、Ms点以下350℃以上の温度範囲である。
【0062】
次いで,上記した範囲の焼入れ冷却停止温度で冷却停止した後、60s〜300sの間,鋼の温度を冷却停止温度±50℃以内に保持し,その後室温まで空冷する。
【0063】
焼入れ冷却停止温度±50℃以内で60s〜300s保持することにより,マルテンサイトが自己焼鈍される一方,未変態オーステナイトの下部ベイナイトへの変態が促進され,焼戻しマルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織を得ることができる。
【0064】
また、マルテンサイトのラス間に形成される、靭性に有害な針状の島状マルテンサイト量を減少させることが可能となる。
【0065】
60s以内の等温変態では下部ベイナイト変態は完了せず高強度・高靭性が得られず、300sを超えて長く保持すると,組織の粗大化が起こるため強度が低下する。このため、該温度域での保持時間を60s〜300s、好ましくは60s〜100sの範囲とする。
【0066】
また,靭性を特に向上させる場合は、厚鋼板を冷却停止温度±50℃以内に60〜300sの間保持した後,該温度から450℃以上Ac変態点以下の温度域へ1℃/s以上の昇温速度で急速加熱して焼戻しを行う。
【0067】
なお、組織の粗大化による強度低下を抑制するため少なくとも冷却停止後300s以内に焼戻す必要がある。
【0068】
加熱温度が450℃未満の場合,靭性向上の効果はほとんど得られず,Ac変態点以上の温度とすると強度の低下が起こるため,加熱温度は450℃以上Ac変態点以下とする。また,昇温速度を1℃/s未満とすると,靭性は向上するが強度の低下が著しくなるため,昇温速度は1℃/s以上とする。
【0069】
マルテンサイトが自己焼鈍される一方,未変態オーステナイトの下部ベイナイトへの変態が促進され,焼戻しマルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織が得られる。これにより,強度をほとんど劣化させることなく靭性を向上することができる。
【0070】
尚,鋼の製鋼方法については特に限定しないが,経済性の観点から,転炉法による製鋼プロセスと,連続鋳造プロセスによる鋼片の鋳造を行うことが望ましい。
【0071】
上記方法で製造された鋼板の鋼管への成形方法は特に限定はなく,従来から用いられているUOE成形,プレスベンド成形,ロール成形いずれも使用可能である。
【0072】
次に,溶接金属の添加元素の限定理由を説明する.
C:0.05〜0.09%
溶接金属においてもCは鋼の強化元素として重要な元素である。特に,継手部のオーバーマッチングを達成するため,溶接金属部においても引張強度≧800MPaとする必要があり,この強度を得るために0.05%以上含有している必要がある。一方,0.09%を超えていると,溶接金属の高温割れが発生しやすくなるため,上限を0.09%とした。
【0073】
Si:0.1〜0.4%
Siは溶接金属の脱酸ならびに良好な作業性を確保するために必要で,0.1%未満では十分な脱酸効果が得られず,一方0.4%を超えると,溶接作業性の劣化を引き起こすため,上限を0.4%とした。
【0074】
Mn:1.0〜2.0%
Mnは溶接金属の高強度化に重要な元素である。特に,引張強度≧800MPaといった高強度は,従来のアシキュラフェライト組織化では達成不可能であり,多量のMnを含有させベイナイト組織とすることで可能となる。この効果を得るためには1.0%以上含有させる必要があるが,2.0%を超えると溶接性が劣化するため,上限を2.0%とした。
【0075】
Al:≦0.015%
Alは脱酸元素として作用するが,溶接金属部においてはむしろTiによる脱酸による靱性改善効果が大きく,かつAl酸化物系の介在物が多くなると溶接金属シャルピーの吸収エネルギーの低下が起こるため,積極的には添加せず,その上限を0.015%とする。
【0076】
Cu:≦0.5%、Ni:≦3.0%、Cr:≦1.0%、Mo:≦1.0%
母材と同じくCu,Ni,Cr,Moは溶接金属においても焼入性を向上させるので,ベイナイト組織化のために含有させる。ただし,その量が多くなると溶接ワイヤへの合金元素添加量が多大となり,ワイヤ強度が著しく上昇する結果,溶接時のワイヤ送給性に障害が生じるためそれぞれ上限を,0.5%,3.0%,1.0%,1.0%とした。
【0077】
V:≦0.1%
適量のV添加は靱性・溶接性を劣化させずに強度を高めることから有効な元素であるが,0.1%を超えると溶接金属の再熱部の靱性が著しく劣化するため,上限を0.1%とした。
【0078】
Ti:0.003〜0.10%
Tiは溶接金属中では脱酸元素として働き,溶接金属中の酸素の低減に有効である。この効果を得るためには0.003%以上の含有が必要であるが,0.10%を超えた場合,余剰となったTiが炭化物を形成し,溶接金属の靱性を劣化させるため,上限を0.03%とした。
【0079】
B:≦0.0030%
強度グレードの低いラインパイプ用溶接管においては,ミクロ組織をアシキュラフェライト化するために,B添加が有効であるが,引張強度800MPa以上の高強度化のため,ベイナイト組織とする場合,溶接金属中のB量が0.0030%を超えると靱性の低いマルテンサイト組織が生成するため,上限を0.0030%とした。
【0080】
O:≦0.03%
溶接金属中の酸素量の低減は靱性改善効果があり,特に0.03%以下とすることで著しく改善されるため,上限を0.03%とした。
【0081】
N:≦0.008%
溶接金属中の固溶Nの低減もまた靱性改善効果があり,特に0.008%以下とすることで著しく改善されるため,上限を0.008%とした。
【0082】
PcmW≦0.2
PcmW(=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+60×B−12×N−4×O)は溶接金属の溶接性の指標であり,パイプのシーム溶接部がパイプ同士の円周溶接を行ったときに受ける熱影響を受けた後の硬さ(以後、T−クロス硬さ)と良い相関を有する。
【0083】
図3はT−クロス部1を示し、2は円周溶接、3は縦シーム溶接、31は縦シーム溶接3の外面側、32は縦シーム溶接3の内面側、4はT−クロス硬さを求める硬さ試験の測定位置で、T−クロス硬さは円周溶接2のボンド部よりHAZ側2mmの位置で管厚方向に硬さ試験を行い、得られた硬さ分布の最高硬さと定義する。
【0084】
図2はT−クロス硬さとPcmWの関係を示し、PcmWが大きく,T−クロス硬さが高くなると,円周溶接時にパイプシーム溶接部で低温割れが発生しやすくなることから,割れ発生防止の目安であるビッカース硬さ(Hv5)で300ポイント以下を満足させるため,溶接金属のPcmW値の上限を0.2とした。
【実施例】
【0085】
表1に示す化学組成のA〜Iの鋼を用い,表2に示す熱間圧延・加速冷却,再加熱条件で各種鋼板を作製した。なお,再加熱は,加速冷却設備と同一ライン場に設置した誘導加熱型の加熱装置を用いて行った。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
得られた鋼板をせん断機により20箇所切断し,その後,鋼板切断面を磁粉探傷により調査し,切断割れが認められた切断端面の数を求めた。ここで,1つの端面内に複数の割れが確認できた場合でも,端面としては1つなので,切断割れの発生数は1とした。
【0089】
そして,全ての切断箇所において,切断割れが認められない場合を良好(切断割れ発生数0)とした。
【0090】
得られた鋼板より,API−5Lに準拠した全厚引張試験片およびDWTT試験片を,板厚中央位置からJIS Z2202(1980)のVノッチシャルピー衝撃試験片を採取し,鋼板の引張試験,DWTT試験(試験温度:−30℃)およびシャルピー衝撃試験(試験温度:−30℃)を実施して,強度と靱性を評価した。
【0091】
表3に示す溶接方法で,溶接ワイヤおよび溶接方法を種々変更して得られた鋼板の突合わせ溶接を行い,溶接継手を作製した。それぞれの継手の溶接金属部より,分析試料を採取し化学分析を行った。分析結果を併せて表3に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
また,API−5Lに準拠した継手引張試験片(余盛付)と,JIS Z2202のVノッチシャルピー衝撃試験片を採取し,溶接継手の引張試験およびシャルピー衝撃試験(採取位置:外面側表面下2mm、切欠位置:溶接金属,HAZ、試験温度:−30℃)を実施して,溶接部の強度と靱性を評価した。尚、溶接の開先形状は素管製造時の開先形状に準じた。
【0094】
低温割れ感受性は、JIS Z 3158に準じて,y形溶接割れ試験を実施した。試験雰囲気は,気温30℃で湿度80%とし、当該環境下に1時間放置した100kgf級高張力鋼用の手溶接棒を用い,予熱温度75℃とした試験体に試験ビードを溶接した。
【0095】
溶接割れ感受性は,試験ビードと直交する断面の観察結果で得られた断面割れ率で評価した。T−クロス硬さ試験は、溶接継手と直交するようにガスアーク溶接を実施してTクロス部を作成した試験体で行った。
【0096】
母材の強度・靱性調査結果,溶接継手部の強度・靱性調査結果,および溶接割れ感受性の評価,T−クロス硬さ結果をまとめて表4に示す。
【0097】
【表4】

【0098】
継手No.1〜10は本発明鋼を用いた継手で、継手を構成する母材はいずれも板切断実験で割れが発生せず,800MPaを超える母材引張強度を有し,200Jを超える高いシャルピー吸収エネルギーおよび85%を超えるDWTT延性破面率を示し,かつYR85%以下および一様伸び5%以上の変形性能を満足した。
【0099】
更に,継手強度も母材と同等以上の値を示し,溶接金属およびHAZシャルピー吸収エネルギーも100Jを超える優れた値が得られた。また,y形溶接割れ試験では割れは観察されず、T−クロス試験でもT−クロス部の硬さは低く優れた溶接性が確認された。
【0100】
一方,レーザー・アークハイブリッド溶接時のガスアークトーチのシールドガスをCOガスとし,溶接金属の酸素量が上限を超えた継手No.11は,溶接金属のシャルピー吸収エネルギーが著しく低下した。
【0101】
また,レーザートーチのシールドガスをArとCOの混合ガスとした継手No.12は,溶接金属中にブローホールと考えられる欠陥が残存していたため,継手引張時に溶接金属で破断したほか,シャルピー吸収エネルギーが低下した。
【0102】
溶接金属のPcmW値が上限を超えた継手No.13は溶接継手強度,靱性は良好であったが,T−クロス硬さ(Hv5)が300超えで低温割れ感受性に劣る。
【0103】
一方,圧延終了温度が本発明の上限を上回った継手No.14の母材は,オーステナイト粒の微細化が不十分となった結果,母材のシャルピー吸収エネルギー値が低く,DWTT延性破面率も40%以下であった。
【0104】
また,冷却開始温度が本発明の上限を上回った継手No.15の母材は,Ar変態点以下でのフェライト変態が起こらなかったためYRが高く,一様伸びが5%未満となり,変形性能が劣化した。
【0105】
継手No.16の母材は、圧延後の冷却停止温度が本発明の上限を上回り、マルテンサイト変態が起こらず,ベイナイト主体組織となり,より高温での冷却停止のためにベイナイト下部組織が粗大化し,母材降伏強度とともに継手引張強度が低下した。
【0106】
また,継手No.17の母材は圧延後の冷却停止温度が本発明の下限を下回り、下部ベイナイト主体組織が得られず,焼戻しマルテンサイト主体組織となったために,強度は高い値を示したが,シャルピー吸収エネルギー値が低く、DWTT延性破面率も55%であった。
【0107】
また,圧延後の冷却速度が本発明の下限を下回った継手No.18の母材は著しく強度が低下した。冷却停止温度±50℃での保持時間が本発明の下限を下回った継手No.19の母材は,マルテンサイト組織の増加により強度は上昇したものの,下部ベイナイト組織の体積率が充分ではなく,シャルピー吸収エネルギー値が低く、DWTT延性破面率も55%と低かった。
【0108】
継手No.20の母材は冷却停止温度±50℃での保持時間が本発明の上限を上回り、母材強度が低く、およびDWTT延性破面率も70%に低下した。
【0109】
継手No.21の母材は冷却停止後の加熱温度が本発明の上限を上回り,鋼板のAc変態点を超えた結果,α−γ逆変態が起きて,島状マルテンサイトが多量に生成し,下部ベイナイト組織の体積率が減少した結果,強度が低下した。
【0110】
冷却停止後オンライン加熱時の昇温速度が本発明の下限を下回った継手No.22の母材は,母材強度は高い値を示したが,シャルピー吸収エネルギー値は低く、DWTT延性破面率が20%に低下した。
【0111】
また,継手No.23の母材はACR値が本発明範囲外で,MnS系硫化物が増加した結果,DWTT延性破面率が低下した。
【0112】
継手No.24の母材は鋼板のMn添加量が本発明の範囲外で上限を上回り、母材シャルピー値,溶接金属シャルピー値,HAZシャルピー値が劣化し,さらに,y形溶接割れ試験において,低温割れが発生した。
【0113】
一方,鋼板のC添加量が本発明の上限を上回った継手No.25の母材も同様に低温割れが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】鋼の低温割れ阻止予熱温度とPcmB値の相関図。
【図2】Tクロス試験で得られた溶接金属HAZ硬さとPcmW値の相関図。
【図3】Tークロス硬さ試験を説明する図。
【図4】レーザー・アークハイブリッド溶接を説明する模式図。
【図5】本発明に係る縦シーム溶接部を説明する図で(a)はレーザー・アークハイブリッド溶接の外面側一層溶接、(b)はレーザー・アークハイブリッド溶接の内外面側一層溶接、(c)は内面側をレーザー・アークハイブリッド溶接、外面側をサブマージアーク溶接の場合を示す。
【符号の説明】
【0115】
1 T−クロス部
2 円周溶接
3 縦シーム溶接
31 縦シーム溶接の外面側
32 縦シーム溶接の内面側
4 T−クロス硬さを求める硬さ試験の測定位置
5 ハイブリッド溶接
6 レーザトーチ
7 ガスアーク溶接トーチ
8 溶融池
9 ビード
10 サブマージアーク溶接

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロ組織がフェライトと焼戻しマルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織で、鋼中のCa,O,Sから求まるACRが0〜2を満足する、引張強度800MPa以上でYR85%以下かつ一様伸び5%以上の鋼板を冷間加工で管状に成形した後,突合せ部を、COガスシールドを用いたレーザーとAr−COガスシールドを用いたガスシールドアーク溶接を組合わせたハイブリッド溶接法によって溶接することを特徴とする超高強度溶接鋼管の製造方法.
但し、ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S)で、Ca,O、Sは鋼中含有量(%)を示す。
【請求項2】
前記突合せ部の内外面を前記ハイブリッド溶接で溶接することを特徴とする請求項1記載の超高強度溶接鋼管の製造方法。
【請求項3】
前記突合せ部の内面を前記ハイブリッド溶接で溶接し、外面をサブマージアーク溶接で溶接することを特徴とする請求項1記載の超高強度溶接鋼管の製造方法。
【請求項4】
前記鋼板が、
質量%で、
C:0.04〜0.12%
Si:0.01〜0.5%
Mn:1.80〜2.50%
Al:0.01〜0.08%
P≦0.010%,S≦0.002%
Cu:0.01〜0.8%
Ni:0.1〜1.0%
Cr:0.01〜0.8%
Mo:0.01〜0.8%
Nb:0.01〜0.08%
V:0.01〜0.10%
Ti:0.005〜0.025%
Ca:0.0005〜0.01%
N:0.001〜0.006%
PcmB≦0.22
残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を,
1000〜1200℃に加熱した後,熱間圧延を開始し,圧延終了温度をAr変態点以上,Ar+100℃以下の温度域となるよう圧延を行い,次いで,Ar−50℃以上,Ar変態点以下の温度域から,(1)式を満足するマルテンサイト生成臨界冷却速度Vcrm以上の冷却速度でマルテンサイト変態開始温度Ms以下、300℃以上の温度域の冷却停止温度まで冷却した後,冷却停止温度±50℃以内に60s〜300sの間保持し,その後室温まで空冷することによって得られる鋼板で、
前記突合せ部の溶接金属の化学成分が
質量%で,
C:0.05〜0.09%
Si:0.1〜0.4%
Mn:1.0〜2.0%
Al:≦0.015%
Cu:≦0.5%
Ni:≦3.0%
Cr:≦1.0%
Mo:≦1.0%
V:≦0.1%
Ti:0.003〜0.10%
B:≦0.0030%
O:≦0.03%
N:≦0.008%
PcmW≦0.2
残部Feおよび不可避的不純物
であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の超高強度溶接鋼管の製造方法。
但し、PcmB=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×B
PcmW=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+60×B−12×N−4×O
ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/(1.25×S)
Ms=517−300C−11Si−33Mn−22Cr−17Ni−11Mo
で、各元素は含有量(%)を示す。
logVcrm=2.94−0.75×(β−1) (1)
ここで、β(%)=2.7C+0.4Si+Mn+0.45Ni+0.8Cr+Mo
【請求項5】
更に前記鋼板が、冷却停止温度±50℃以内に60s〜300sの間保持後、直ちに該温度から450℃以上、Ac変態点以下の温度域へ1℃/s以上の昇温速度で急速加熱し、焼戻しを行って得られることを特徴とする請求項4記載の超高強度溶接鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−23569(P2008−23569A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200516(P2006−200516)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】