説明

弾性表面波素子および発振器

【課題】弾性表面波素子を2つの異なった振動モードで励振できるようにし、FSK変調器の発振回路の簡素化を図れるようにする。
【解決手段】発振器40は、IDTを介して弾性表面波素子10の圧電基板を励振する増幅回路42を有する。弾性表面波素子10は、弾性表面波の伝播方向に沿って第1IDT14と第2IDT16とを備えている。第2IDT16は、スイッチ部44に接続してある。スイッチ部44は、切替え制御部50に接続してある。切替え制御部50は、入力する「0」、「1」に応じてスイッチ部44を切り替え、弾性表面波素子10の第1IDT14と第2IDT16とに同位相の信号、または第1IDT14と第2IDT16との間で相互に逆位相となる信号を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板に弾性表面波が励振される弾性表面波素子に係り、特に対称モードと斜対称モードとの2の励振モードが得られる2モード型の弾性表面波素子および発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のドアをカギを用いずに電波によって施錠、開錠できるキーレスエントリーと呼ばれるシステムが普及してきている。また、キーレスエントリーシステムは、自動車の施錠、開錠ばかりでなく、家のドアの施錠、開錠、電子機器の制御などにも適用されてきている。このキーレスエントリーシステムは、周波数偏移変調(Frequency Shift Keying:FSK)の無線技術が利用されている。すなわち、キーレスエントリーシステムは、利用者の携帯するリモコン装置にFSK信号の送信機が内蔵してある。現在、キーレスエントリーシステムは、ほとんど2値FSK信号を利用している。この2値FSK信号を出力する送信機は、デジタル信号の「0」と「1」とを、周波数f1とf2とに周波数偏移変調して出力する。
【0003】
従来、2値のFSK信号を発生させる方法として、弾性表面波共振子に可変容量ダイオードを接続し、可変容量ダイオードの容量値を変える方法がある。ところが、可変容量ダイオードを用いると小型化が困難であるところから、弾性表面波共振子の入力側に2つのコンデンサの並列接続した回路とスイッチ回路とを接続し、デジタル信号の「0」、「1」に応じてスイッチ回路を開閉し、並列接続した2つのコンデンサの一方または両方を弾性表面波共振子に接続して、2つの異なった周波数の発振が行なえるようにしたFSK変調器がある(特許文献1)。
【特許文献1】特開平8−18337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載のFSK変調器は、コンデンサの並列回路を必要とし、部品点数が多くなるとともに、回路も複雑となる。また周波数を変調するためにコンデンサを使用するため、所定の周波数に調整するのに手間がかかり、精度の高い周波数を有するなFSK信号を得ることが困難で、変調器間の周波数のばらつきも大きくなる。
【0005】
本発明は、前記従来技術の欠点を解消するためになされたもので、弾性表面波素子を2つの異なった振動モードで励振できるようにし、FSK変調器の発振回路の簡素化を図れるようにすることを目的としている。
【0006】
また、本発明は、出力する2つの周波数の間におけるスプリアスの発生を防げるようにすることを目的としている。
そして、本発明は、弾性表面波素子のインピーダンスを低下できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る弾性表面波素子は、圧電基板の弾性表面波の伝播方向に沿って形成され、前記圧電基板を励振するすだれ状電極からなる第1IDTと第2IDTとを備えた弾性表面波素子であって、前記第1IDTと前記第2IDTとの間における電極指の対数の差が±5%以内であることを特徴としている。
【0008】
このようになっている本発明は、第1IDTと第2IDTとに同位相信号を与えると、圧電基板の弾性表面波素子の伝播方向に、第1IDTと第2IDTとの中間点を中心とする線対称ないわゆるS0モードの振動モードを発生させることができる。また、第1IDTと第2IDTとに、相互に逆位相となる信号を与えると、第1IDTと第2IDTとの中間点を回転中心とする点対称(斜対称)のいわゆるA0モードの振動モードを発生させることができる。したがって、2つの異なった振動モードに対応した周波数の信号が得られ、2値FSK信号を得ることができる。そして、弾性表面波素子を2つの異なった振動モードで励振できるため、周波数偏移変調するための可変容量ダイオードやコンデンサを必要とせず、FSK変調器の発振回路の簡素化を図ることができる。
【0009】
発明者の研究によると、2つのIDTの電極指の対数を同じにすると、S0モードに対応した周波数とA0モードに対応した周波数との2つの周波数の間におけるスプリアスの発生を防ぐことができる。そして、第1IDTと第2IDTとにおける電極指の対数の差が±5%より大きいと、2つの周波数の間の周波数においてスプリアスの発生が見られる。このため、2つのIDT間における電極指の対数の差は、±5%以下にすることが望ましい。
【0010】
第1IDTと第2IDTとは、電極指の形成ピッチを同じにする。2つのIDT間で電極指の形成ピッチが異なると、きれいなS0モードまたはA0モードを発生させることができない。第1IDTと第2IDTとの間に、いずれか一方のIDTに電気的に接続した第3IDTを設けることができる。この第3のIDTは、第1IDT、第2IDTのどちらかに電気的に接続してもよい。弾性表面波の伝播方向におけるIDTの対称性が崩れるが、S0モードとA0モードとに対応した振動モードが得られる。
【0011】
第3IDTは、電極指の形成ピッチが第1IDTと第2IDTとの電極指の形成ピッチより大きくするとよい。第3のIDTを設けると弾性表面波の伝播方向においてIDTの対称性が崩れる。このため、第3IDTの電極指の形成ピッチを第1IDT、第2IDTと同じにするとスプリアスが発生する。このスプリアスは、第3IDTの電極指の形成ピッチを第1IDT、第2IDTの電極指の形成ピッチより大きくすると、抑制することができる。発明者の研究によると、第1IDTと第2IDTとの電極指の形成ピッチをλ1、第3IDTの前記電極指の形成ピッチをλ2としたときに、λ2≧1.008×λ1すると、S0モードに対応した周波数と、A0モードに対応した周波数との間の周波数にスプリアスの発生がない。
【0012】
各IDTの間に、圧電基板を励振しない領域を設けることができる。この励振しない部分は、何も設けなくともよいが、例えば格子状の中間反射器を配置することができる。各IDTの間に格子状の中間反射器を設けることにより、弾性表面波の反射効率が向上して弾性表面波素子のインピーダンスを低下させることができる。
【0013】
本発明に係る発振器は、上記したいずれかの弾性表面波素子と、前記各IDTを介して前記弾性表面波素子の前記圧電基板を励振する増幅回路と、前記弾性表面波素子と前記増幅回路との間に設けられ、前記第1IDTと前記第2IDTとのいずれか一方を接続したスイッチ部と、入力した入力信号の状態に応じて前記スイッチ部を切替え制御し、前記スイッチ部を介して、前記第1IDTと前記第2IDTとに同位相の信号、または両者間において相互に逆位相となる信号を与える切替え制御部と、を有することを特徴としている。
【0014】
このようになっている本発明は、弾性表面波素子の弾性表面波の伝播方向において、圧電基板に線対称のS0モードの振動と、点対称のA0モードの振動とを発生させることができる。したがって、2つの振動モードに対応した2つの異なる周波数の信号が得られ、2つの異なる周波数の信号を得るために可変容量ダイオードやコンデンサを必要とせず、小型化が図れ、回路を簡素にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る弾性表面波素子および弾性表面波発振器の好ましい実施の形態を、添付図面に従って詳細に説明する。
図2は、第1実施形態に係る弾性表面波素子の模式的に示した平面図である。図2において、弾性表面波素子10は、圧電基板(例えば、水晶基板)12の表面にすだれ状電極からなる第1IDT14と第2IDT16との一対のIDTが形成してある。各IDT14、16は、それぞれ一対の櫛型電極18(18a、18b)、20(20a、20b)から形成してある。第1IDT14を構成している櫛型電極18a、18bは、それぞれがバスバー22(22a、22b)と、一端をバスバー22に接続した櫛歯となる電極指24(24a、24b)からなっていて、それぞれの電極指24が噛み合うように配置してある。第2IDT16の櫛型電極20a、20bも同様に形成してあって、バスバー26(26a、26b)と電極指28(28a、28b)とからなり、それぞれの電極指28が噛み合うように配置してある。
【0016】
各櫛型電極18、20は、電極指24、28の形成ピッチがλとなっている。したがって、第1IDT14と第2IDT16とは、隣接する電極指24a、24bおよび電極指28a、28bの配置ピッチがλ/2となっている。また、第1IDT14と第2IDT16とは、実施形態の場合、それぞれの電極指24、28の対数が同じにしてある。第1IDT14と第2IDT16とは、それぞれ一対の櫛型電極間に信号電圧が印加されると、圧電基板12を励振して弾性表面波を発生する。この弾性表面波は、電極指24、28と直交した方向に伝播する。すなわち、第1IDT14、第2IDT16は、弾性表面波の伝播方向に沿って配置してある。また、第1IDT14、第2IDT16の外側には、これらのIDT14、16を挟んで反射器30(30a、30b)が配置してある。各反射器30は、電極指24、28と平行に形成され、両端が相互に接続された複数の導体ストリップ32からなり、格子状をなしている。
【0017】
このように形成してある弾性表面波素子10は、弾性表面波の伝播方向において線対称となるS0モードの振動と、斜対称(点対称)となるA0モードとの2つの振動モードを得ることができる。すなわち、いずれか一方のIDT(例えば、第2IDT16)の一方の櫛型電極20aを切替えスイッチ34の接点aと切替えスイッチ36の接点eとに接続する。また、他方の櫛型電極20bを切替えスイッチ34の接点bとス切替えイッチ36の接点dとに接続する。さらに、切替えスイッチ34の接点cは、第1IDT14の櫛型電極18aとともに、例えばプラス端子に接続し、切替えスイッチ36の接点fは、第1IDT14の櫛型電極18bとともにマイナス端子に接続する。これらの切替えスイッチ34、36は、連動して切り替えられる。
【0018】
そして、上記のように、第2IDT16を切替えスイッチ34、36に接続して図2に示したように、スイッチ34の接点cを接点aと接続し、スイッチ36の接点fを接点dに接続する。切替えスイッチ34、36がこのように設定されると、第1IDT14と第2IDT16とには、同位相の信号が入力する。このため、第1IDT14、第2IDT16によって圧電基板12を励振すると、図3(1)に示したように、弾性表面波の伝播方向において線対称ないわゆるS0モードの振動モードが得られる。
【0019】
一方、図2の破線に示したように、切替えスイッチ34の接点cを接点bに接続し、切替えスイッチ36の接点fを接点eに接続する。各スイッチ34、36がこのように設定されると、第1IDT14と第2IDT16とに入力する信号は、相互に逆位相となる。このため、弾性表面波素子10の圧電基板12には、図3(2)に示したように、弾性表面波の伝播方向において点対称ないわゆる斜対称であるA0モードの振動モードが得られる。
【0020】
したがって、弾性表面波素子10は、S0モードの振動モードに対応した周波数の信号と、A0モードの振動モードに対応した周波数の信号とを得ることができ、2値FSKの信号とすることができる。なお、発明者の研究によると、第1IDT14の電極指24と第2IDT16の電極指28とは、対数の差が±5%以内であることが望ましい。両者の対数の差が±5%を超えると、第1IDT14、第2IDT16に同位相の信号を与えて得た共振周波数と、第1IDT14と第2IDT16との間で相互に逆位相となる信号を与えて得た共振周波数との間の周波数にスプリアスが発生して好ましくない。
【0021】
図4は、第1実施形態に係る弾性表面波素子10において、第1IDT14の電極指24の対数を80に固定し、第2IDT16の電極指28の対数を70から90まで2対ずつ変えたときの、周波数とインピーダンスとの関係の一部を示した図である。図4(1)〜(4)は、いずれも横軸がMHzで表した周波数であり、縦軸がインピーダンスの絶対値をΩで表している。また、図4の破線の曲線は、第1IDT14と第2IDT16とに同位相の信号を与えて圧電基板12を励振した場合であり、実線の曲線は第1IDT14と第2IDT16とに相互に逆位相となる信号を与えて励振した場合である。
【0022】
第1IDT14の電極指24が80対であって、第2IDT16の電極指28が74対の場合、図4(1)中の矢印で示したように、第1IDT14と第2IDT16とを逆位相で励振するとスプリアスが発生する。このスプリアスは、第2IDT16の電極指28の対数を少なくするほど大きくなる。しかし、第2IDT16の電極指28の対数を76にすると、図4(2)に示したように、スプリアスが発生しなくなる。
【0023】
一方、第2IDT16の電極指28の対数を増加させていった場合、第2IDT16の電極指28の対数が84まではスプリアスの発生が見られない(図4(3)参照)。しかし、第2IDT16の電極指28の対数が86になると、図4(4)の矢印に示したように、第1IDT14と第2IDT16とを逆位相で励振するとスプリアスが発生する。このスプリアスは、第2IDT16の電極指28の対数を増加させるほど大きくなる。
【0024】
これらのことから、第1IDT14と第2IDT16とを同位相と逆位相とで励振する場合、両者の電極指の対数の差が±5%を超えるとスプリアスが発生する。しかし、両者の電極指の対数の差が±5%以内であれば、スプリアスの発生をなくすことができる。したがって、デジタル信号の「0」と「1」とに対応して、第1IDT14、第2IDT16に同位相の信号を与えてS0モードの振動モードを発生させ、第1IDT14と第2IDT16とに逆位相の信号を与えてA0モードの振動モードを発生させる場合、第1IDT14、第2IDT16間における電極指の対数の差は、±5%以内であることが好ましく、特に対数を同じにすることが望ましい。
【0025】
図1は、上記の弾性表面波素子10を用いて2値FSK信号が得られる発振器(いわゆるFSK変調器)の回路図の一例を示したものである。図1において、発振器40は、増幅回路42を構成しているトランジスタTrを有している。トランジスタTrは、コレクタが抵抗R1を介して電源Vccに接続してあり、エミッタが抵抗R2を介して接地してある。トランジスタTrのベースは、入力端子INに接続してあるとともに、直列接続したコンデンサC1、C2を介して接地してある。入力端子INには、「0」と「1」とからなるデジタル信号が入力する。直列接続したコンデンサC1とコンデンサC2との接続点は、トランジスタTrのエミッタに接続してある。
【0026】
また、トランジスタTrのベースには、スイッチ部44を介して弾性表面波素子10を備えたSAW共振器が接続してある。スイッチ部44は、トランジスタなどからなる切替えスイッチ46、48からなっていて、これらの切替えスイッチ46、48に第2IDT16を構成している一対の櫛型電極が接続してある。切替えスイッチ46、48は、図2に示した切替えスイッチ34、36と同様の作用を行なえるように構成してあって、連動して切り替えられるようになっている。そして、切替えスイッチ46の接点cはトランジスタTrのベースと入力端子INに接続してあり、切替えスイッチ48の接点fは接地してある。したがって、スイッチ部44は、第2IDT16を構成している一対の櫛型電極の一方をトランジスタTrと入力端子INとへの接続と、接地とへ切替え接続を、これに連動して他方の櫛型電極を接地と、トランジスタTrのベース、入力端子INとへ切り替え接続をする。
【0027】
また、第1IDT14は、一方の櫛型電極がトランジスタTrのベースと入力端子INとに接続してあり、他方の櫛型電極が接地してある。したがって、スイッチ部44の切替え動作により、第1IDT14と第2IDT16とに同位相の信号を与えることができ、第1IDT14と第2IDT16との間で信号の位相を180°異ならせることができる。
【0028】
入力端子INには、切替え制御部50の入力側が接続してある。切替え制御部50の出力側は、スイッチ部44に接続してある。切替え制御部50は、入力端子INに入力するデジタル信号の「0」、「1」に応じてスイッチ部44の切替えスイッチ46、48を連動して切り替え、デジタル信号の「0」、「1」に対応して弾性表面波素子10にS0モードまたはA0モードの振動モードを発生させる。なお、トランジスタTrのコレクタと抵抗R1との間には、直流カット用のコンデンサC3を介して出力端子OUTが接続してあり、周波数偏移変調した2値FSK信号が出力される。
【0029】
このような弾性表面波素子10を用いた発振器40は、周波数の異なった2つの信号を得るために、可変容量ダイオードやコンデンサを必要とせず、部品点数の削減が図れて回路構成を簡素にすることができる。しかも、弾性表面波素子10を2つの異なる振動モードで励振するようになっているため、周波数精度の高い安定したFSK信号を得ることができる。また、弾性表面波素子10は、弾性表面波の伝播方向である縦モードの振動モードであるため、横モードに比較してS0モードとA0モードとの周波数差を大きくすることができ、2値FSK信号の受信を容易にすることができる。
【0030】
図5は、第2実施形態に係る弾性表面波素子の説明図である。なお、図5においては、圧電基板の記載が省略してあり、電極の配置のみが示してある。図5において、弾性表面波素子60は、第1IDT14と第2IDT16とが弾性表面波の伝播方向に沿って設けてある。実施形態の場合、第1IDT14と第2IDT16との電極指24、28は、同じ対数を有している。そして、第1IDT14と第2IDT16とは、それぞれを構成している櫛型電極18、20の電極指24、28の形成ピッチがλ1と同じにしてある。したがって、第1IDT14と第2IDT16とは、それぞれの隣接する電極指24a、24bおよび電極指28a、28bの配置間隔がλ1/2となっている。
【0031】
第2実施形態の弾性表面波素子60は、第1IDT14と第2IDT16との間に、圧電基板を励振しない領域が設けてある。圧電基板を励振しない領域は、実施形態の場合、反射器30と同様に形成した格子状の中間反射器62からなっている。この中間反射器62は、複数の導体ストリップ64が形成ピッチλ2/2で設けてあり、両端が相互に接続されて電気的に浮いた状態に保持される。中間反射器62は、実施形態の場合、導体ストリップ64の形成ピッチλ2/2がIDT14、16の隣接する電極指24、28の配置ピッチλ1/2と同じにしてある。つまり、中間反射器62は、導体ストリップ64の、各IDI14、16の電極指の形成ピッチλ1に対応する形成ピッチλ2がλ1と同じにしてある。
【0032】
このようになっている第2実施形態の弾性表面波素子60は、第1IDT14と第2IDT16とのいずれか一方(例えば、第2IDT16)の一対の櫛型電極20a、20bを連動して切り替えられる切替えスイッチ34、36に接続し、第1IDT14、第2IDT16に与える信号が同位相となる場合と、相互に逆位相となる場合とに切り替えられるようにする。
【0033】
なお、発明者が第2実施形態の弾性表面波素子片60について第1IDT14と第2IDT16との電極指の対数、IDTの電極指の配置ピッチλ1/2と中間反射器62の隣接する導体ストリップ64の配置ピッチλ2/2との関係が弾性表面波素子60の振動モードに与える影響をシミュレーションした。シミュレーションにおける第1IDT14の電極指24の対数と、第2IDT16の電極指28の対数とは、いずれも80である。また、中間反射器62の導体ストリップ64の対数は20(導体ストリップの本数は40本)である。
【0034】
シミュレーションの結果、電極指の対数に関しては、前記と同様に、第1IDT14と第2IDT16との両者間における電極指の対数の差が±5%を超えるとスプリアスが発生し、±5%以内であればスプリアスの発生は見られなかった。他方、IDT14、16の電極指の配置ピッチλ1/2と中間反射器62の導体ストリップ64の配置ピッチλ2/2については、スプリアスに関して何ら影響が見られなかった。すなわち、λ2/λ1の値を1.000から1.020まで変化させたが、スプリアスの発生はなかった。これは、弾性表面波の伝播方向において励振部、すなわちIDTの対称性が保たれていることによるものと考えられる。したがって、第1IDT14と第2IDT16との間に、圧電基板を励振しない領域を設けてもスプリアスに影響を与えないことが確認された。そして、第1IDT14と第2IDT16との間に中間反射器62を配置することにより、弾性表面波の反射効率が向上し、弾性表面波素子のインピーダンスを低下させることができる。
【0035】
図6は、第3実施形態に係る弾性表面波素子の説明図である。この実施形態に係る弾性表面波素子70は、第1IDT14と第2IDT16との間に、中間反射器に代えて第3のIDT72を配置したものである。この第3IDT72は、第1IDT14または第2IDT16のいずれか一方(この実施形態では、第1IDT14)に電気的に接続される。したがって、第3IDT72は、常に第1IDT14と同位相の信号が与えられる。このため、第3実施形態の弾性表面波素子70は、弾性表面波の伝播方向においてIDTからなる励振部が非対称となっている。
【0036】
発明者は、第3IDT72の電極指74(74a、74b)の形成ピッチλ2を、第1IDT14および第2IDT16の電極指の形成ピッチλ1と変えた場合に、スプリアスにどのような影響を与えるかをシミュレーションした。図7は、弾性表面波素子70の周波数とインピーダンスとの関係のシミュレーション結果を示したものである。なお、シミュレーションにおいては、第1IDT14の電極指24の対数と、第2IDT16の電極指28の対数とはいずれも80であり、第3IDT72の電極指74の対数は20である。また、図7(1)〜(5)は、いずれも横軸がMHzで表した周波数、縦軸がΩで表したインピーダンスの絶対値である。そして、図7における破線の曲線が3つのIDTに同位相の信号を与えた場合であり、実線が第2IDT16に第1IDT14、第3IDT72と逆位相の信号を与えて励振した場合である。
【0037】
第3IDT72の電極指74の形成ピッチλ2を第1IDT14、第2IDT16の電極指24、28の形成ピッチλ1と同じにした場合、すなわち(λ2/λ1)=1.000の場合、図7(1)の矢印に示したように、スプリアスが発生する。このスプリアスは、λ2/λ1を大きくするにしたがって、低周波数側に移動して小さくなる(図7(2)、(3)参照)。そして、図7(4)に示したように、(λ2/λ1)が1.008以上になるとスプリアスを生じない。図7(5)に示したように、(λ2/λ1)=1.020とした場合にもスプリアスを生じなかった。
【0038】
このことから、第1IDT14と第2IDT16との間に第3のIDTを設けた場合、励振部が弾性表面波の伝播方向において非対称となるため、スプリアスを発生させないためには、第3IDTについて何らかの工夫をする必要がある。その1つが第3IDTの電極指の形成ピッチλ2を第1IDT、第2IDTの電極指の形成ピッチλ1より大きくすることである。特に、(λ2/λ1)≧1.008とすることが望ましい。なお、第3IDT72は、第2IDT16側に接続してもよい。また、発明者がシミュレーションをしたところ、第1IDT14と第2IDT16との電極指の対数の差が±5%以下であればスプリアスが発生せず、差が5%を超えるとスプリアスが発生した。
【0039】
図8は、第4実施形態に係る弾性表面波素子の説明図である。この第4実施形態に係る弾性表面波素子80は、第1IDT14と第2IDT16との間に第3IDT72を有するとともに、各IDTの間に圧電基板を励振しない領域を設けたものである。すなわち、第1IDT14と第3IDT72との間と、第3IDT72と第2IDT16との間に、反射器30と同様に形成した第1中間反射器82、第2中間反射器84が設けてある。第3IDT72は、第1IDT14、第2IDT16のいずれかに電気的に接続される。この実施形態の場合、第3IDT72は、第1IDT14に接続してある。また、中間反射器82、84の導体ストリップ86a、86bの配置ピッチλ3/2は、実施形態の場合、第1IDT14、第2IDT16の電極指の配置ピッチλ1/2と同じにしてある。
【0040】
このように形成した弾性表面波素子80における第3IDT72の電極指74の形成ピッチλ2と、第1IDT14、第2IDT16の電極指の形成ピッチλ1との関係がスプリアスに与える影響をシミュレーションした。なお、第1IDT14、第2IDT16の電極指は80対、第3IDT72の電極指は20対である。また、第1中間反射器82と第2中間反射器84とのそれぞれの導体ストリップ86(86a、86b)の数は、10対(20本)である。
【0041】
図9は、シミュレーションの結果であって、周波数とインピーダンスとの関係を示したものである。なお、図9(1)〜(4)は、いずれも横軸がMHzで表した周波数、縦軸がΩで表したインピーダンスの絶対値である。そして、図9における破線の曲線が3つのIDTに同位相の信号を与えた場合であり、実線が第2IDT16に第1IDT14、第3IDT72と逆位相の信号を与えて励振した場合である。
【0042】
第3IDT72の電極指74の形成ピッチλ2を第1IDT14、第2IDT16の電極指の形成ピッチλ1と同じにした(λ2/λ1)=1.000の場合、図9(1)の矢印に示したように、スプリアスが発生する。このスプリアスは、λ1に対してλ2を大きくするにしたがって、図9(2)に示したように、低周波数側に移動して小さくなる。そして、図9(3)に示したように、(λ2/λ1)が1.006以上になるとスプリアスを生じない。図9(4)に示したように、(λ2/λ1)=1.020であってもスプリアスを生じなかった。
【0043】
この結果から、各IDTの間に励振しない部分を設けた場合、(λ2/λ1)≧1.006であればスプリアスを生じない。なお、第3IDT72は、第2IDT16側に接続してもよい。また、発明者がシミュレーションをしたところ、第1IDT14と第2IDT16と間における電極指の対数の差が±5%以下であればスプリアスが発生せず、差が5%を超えるとスプリアスが発生した。そして、中間反射器82、84の導体ストリップ86の配置ピッチλ3/2は、第3IDT72の電極指74の配置ピッチλ2/2と同じあっても、λ1/2、λ2/2以外の値であってもスプリアスへの影響はなかった、また、第1中間反射器82の導体ストリップ86aの配置ピッチと第2中間反射器84の導体ストリップ86bの配置ピッチとが異なっていてもよい。
【0044】
図10は、図8に示した第4実施形態の弾性表面波素子80において、第3IDT72の電極指74の対数と、第1中間反射器82と第2中間反射器84との導体ストリップ86の対数(本数)を変えた場合に、スプリアスにどのような影響を与えるかを調べたものである。図10(1)〜(4)は、いずれも横軸がMHzで表した周波数、縦軸がΩで表したインピーダンスの絶対値である。また、図10(1)〜(4)は、いずれも第1IDT14と第2IDT16との電極指24、28が80対であって、第3IDT72の電極指74の形成ピッチλ2と第1IDT14、第2IDT16の電極指の形成ピッチλ1との比(λ2/λ1)は、1.002にしてある。されに、図10(1)〜(4)は、いずれも周波数とインピーダンスとの関係を示しており、破線が3つのIDTに同位相の信号を与えて励振した場合、実線が第2IDT16と、第1IDT14、第3IDT72との間で相互に逆位相の信号を与えて励振した場合を示している。
【0045】
図10(1)は、第3IDT72の電極指74の対数を20、第1、第2中間反射器82、84の導体ストリップ86の対数を10(20本)のときの周波数とインピーダンスとの関係を示したものである。このような条件の下においては、図10(1)中の矢印に示したように、スプリアスが発生する。そして、第3IDT72の電極指74を20対のまま、第1、第2中間反射器82、84の導体ストリップ86を20対(40本)にした場合、図10(2)のようになり、スプリアスはほとんど移動しない。すなわち、中間反射器の導体ストリップの本数は、スプリアス周波数にほとんど影響しない。
【0046】
一方、第1、第2中間反射器82、84の導体ストリップ86の対数をそれぞれ10対(20本)にし、第3IDT72の電極指の対数を40対にした場合、図10(3)の矢印に示したように、スプリアス周波数が低周波数側に移動した。さらに、第1、第2中間反射器82、84の導体ストリップ86の本数を10対のまま、第3IDT72の電極指74の対数を60にした場合、図10(4)の矢印に示してあるように、スプリアスがさらに低周波数側に移動したが消えることはなかった。
【0047】
これらのことから、第1IDT14と第2IDT16とに同位相の信号を与えて励振する場合と、第1IDT14と第2IDT16とに相互に逆位相なる信号を与えて励振する場合とに切り替えて使用する場合、第1IDT14と第2IDT16とにおける電極指の対数の差を±5%以内にすることが好ましく、特に両者の電極指の対数を同じにすることが望ましい。そして、両者間の電極指の対数の差が±5%を超えるとスプリアスが発生する。
【0048】
なお、上記各実施形態は、本発明の一態様であって、実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態において、各IDTの間に設けた圧電基板を励振しない領域が中間反射器である場合について説明したが、何にも設けないようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施形態に係る発振器の回路の一例を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る弾性表面波素子の平面図である。
【図3】第1実施形態に係る弾性表面波素子に生ずる対称モードと斜対称モードとの説明図である。
【図4】第1実施形態に係る弾性表面波素子における第1、第2IDTの電極指の対数とスプリアスとの関係を説明する図である。
【図5】第2実施形態に係る弾性表面波素子の説明図である。
【図6】第3実施形態に係る弾性表面波素子の説明図である。
【図7】第3実施形態に係る弾性表面波素子における第3IDTの電極指の形成ピッチとスプリアスとの関係を説明する図である。
【図8】第4実施形態に係る弾性表面波素子の説明図である。
【図9】第4実施形態に係る弾性表面波素子における第3IDTの電極指の形成ピッチとスプリアスとの関係を説明する図である。
【図10】第4実施形態に係る弾性表面波素子における第3IDTの電極指の対数、中間反射器の導体ストリップの本数とスプリアスとの関係を説明する図である。
【符号の説明】
【0050】
10………弾性表面波素子、12………圧電基板、14………第1IDT、16………第2IDT、24a、24b、28a、28b………電極指、34、36………切替えスイッチ、40………発振器、42………増幅回路、44………スイッチ部、46、48………切替えスイッチ、50………切替え制御部、60、70、80………弾性表面波素子、62、82、84………励振しない領域(中間反射器)、72………第3IDT、74a、74b………電極指。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の弾性表面波の伝播方向に沿って形成され、前記圧電基板を励振するすだれ状電極からなる第1IDTと第2IDTとを備えた弾性表面波素子であって、
前記第1IDTと前記第2IDTとの間における電極指の対数の差が±5%以内であることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波素子において、
前記第1IDTと前記第2IDTとは、前記電極指の形成ピッチを同じにしてあることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の弾性表面波素子において、
前記第1IDTと前記第2IDTとの間に、いずれか一方のIDTに電気的に接続した第3IDTを有することを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項4】
請求項3に記載の弾性表面波素子において、
前記第3IDTは、電極指の形成ピッチが前記第1IDTと前記第2IDTとの前記電極指の形成ピッチより大きくしてあることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項5】
請求項4に記載の弾性表面波素子において、
前記第1IDTと前記第2IDTとの前記電極指の形成ピッチをλ1、前記第3IDTの前記電極指の形成ピッチをλ2としたときに、
λ2≧1.008×λ1
であることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の弾性表面波素子において、
前記各IDTの間に、前記圧電基板を励振しない領域を設けたことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項7】
請求項6に記載の弾性表面波素子において、
前記圧電基板を励振しない領域は、中間反射器であることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の弾性表面波素子と、
前記各IDTを介して前記弾性表面波素子の前記圧電基板を励振する増幅回路と、
前記弾性表面波素子と前記増幅回路との間に設けられ、前記第1IDTと前記第2IDTとのいずれか一方を接続したスイッチ部と、
入力した入力信号の状態に応じて前記スイッチ部を切替え制御し、前記スイッチ部を介して、前記第1IDTと前記第2IDTとに同位相の信号、または両者間において相互に逆位相となる信号を与える切替え制御部と、
を有することを特徴とする弾性表面波発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−208690(P2007−208690A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25568(P2006−25568)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】