説明

微細針の射出成形方法

【課題】 本発明の射出成形方法によれば、樹脂バリが形成されず、微細針を離型しやすく、その複雑な外形形状を忠実に再現することができる。
【解決手段】 本発明の射出成形方法によれば、少なくとも1つの突起部を有する微細針の射出成形方法が提供され、この射出成形方法は、微細針を構成する樹脂材料の温度をガラス転移温度以上、融点以下に維持するステップと、100MPa以上の射出圧で樹脂材料を気密封止された鋳型に射出するステップとを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの突起部を有する微細針を射出成形する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今のマイクロマシン技術のめざましい発展により、特許文献1に記載されているように、マイクロマシン技術を用いてシリコン基板上に任意の形状を有する微細針の鋳型を形成することができるようになった。そして、こうした鋳型に任意の樹脂材料を充填することにより、任意の形状および寸法を有する微細針を製造することが可能となった。
【0003】
しかし一般的な熱可塑性樹脂材料(ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル(PE)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)など)を用いた従来式の成形プロセスによれば、数μmオーダの樹脂バリが発生することは不可避であって、本明細書の文脈における微細針の太さが10μmオーダでることを考えれば、微細針を製造するために従来式の成形プロセスを採用することはできない。すなわち、通常サイズの製品で許容される樹脂バリが微細針においては致命的欠陥となり得る。
【0004】
また微細針は、突起部などの複雑な外形形状を有し、その外形形状に固有の効果が期待されるのであるから、樹脂材料を鋳型の先端まで十分に(隅々まで)充填して、微細針の外形形状が完全に再現されなければ、微細針としての本来の効果を発揮し得ない。
【0005】
さらに、微細針を鋳型から離型する際、体積力に比べて表面力の影響が大きくなるため、微細針と鋳型との間で表面固着力の影響を受けて、微細針を鋳型から離型することが困難となる。
【0006】
これらの問題点を解決するためには、微細針の強度(曲げ強度、引っ張り強度)が離型時の固着力以上である必要があり、すなわち微細針を太く、または短くする必要があるが、微細針の寸法に対する要請とは相反することとなってしまう。したがって、寸法を変更することなく、強度が改善された微細針を開発・提供することに対する要求は高い。
【0007】
これに対し、ステンレスやセラミックス製に匹敵するほどの初期強度を有する生分解性ポリマ製の円柱状の骨治療用具、および押出成形によるその製造方法が特許文献2に提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−275327号公報
【特許文献2】特開平5−168647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の押出成形によれば、成形物の外形形状はダイス2の出力断面により決定され、ダイス2の出力断面が、例えば円断面であれば、成形物は円柱状に成形される。すなわち、特許文献2に記載の製造方法によれば、突起部を有するような任意の複雑な外形形状を有する微細針を成形することはできない。
【0010】
そこで本発明の1つの態様は、このような問題を解決しようとするためになされたもので、少なくとも1つの突起部を有する微細針の射出成形方法を提供し、とりわけ樹脂バリが形成されることなく、離型しやすく、その複雑な外形形状を厳密に再現できる射出成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る1つの態様によれば、少なくとも1つの突起部を有する微細針の射出成形方法が提供され、この射出成形方法は、微細針を構成する樹脂材料の温度をガラス転移温度以上、融点以下に維持するステップと、100MPa以上の射出圧で樹脂材料を気密封止された鋳型に射出するステップとを有することを特徴とする。
【0012】
また、射出ステップは、1kPa以下の真空雰囲気中で行われることが好ましい。
【0013】
さらに、樹脂材料は、生分解性材料であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る1つの態様による微細針の射出成形方法によれば、樹脂バリが形成されず、微細針を離型しやすく、その複雑な外形形状を忠実に再現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1〜図5を参照しながら、本発明に係る微細針の射出成形方法について以下説明する。
本発明に係る射出成形方法で成形された微細針1は、概略、図1(a)〜(c)に示すように、ホルダ部2とニードル部3を有する。ニードル部3は、これに限定されないが、例えば、ピラミッド状の外形形状(ギザギザ形状)を有する1つまたはそれ以上の突起部を有する。この微細針1は任意の適当な支持装置(図示せず)を用いて、ホルダ部2を支持した上で、ニードル部3を患者の皮膚などに突き刺すことにより、患者の血液を採取する。なお、この微細針1は、任意の樹脂材料で形成することができるが、好適には、生適合性材料またポリ乳酸などの生分解性材料で構成される。
【0016】
また、本発明に係る射出成形方法で用いられる微細針1の鋳型4は、図2に示すように、エッチングプロセスを用いてシリコン基板5上に形成されたキャビティ(凹部)6を有している。このキャビティ6は、微細針1のニードル部3のギザギザ形状と相補関係にある複雑な形状を有しており、微細針1のニードル部3およびこれに対応するシリコン基板5上のキャビティ6を図3および図4に示す。
【0017】
ここで図5を参照しながら、本発明に係る実施形態による微細針の射出成形機について以下説明する。
本発明の射出成形機10は、概略、キャビティ6を含む鋳型4と、鋳型4を収容するための収容部11を有する下型(下金型)12と、キャビティ6内に樹脂材料を搬送・注入するためのランナ部13および射出口15を有する上型(上金型)14と、ランナ部13内の樹脂材料を加圧するプランジャ16とを備える。また射出成形機10は、下型12を支持するための下型取り付けガイド板18と、上型14および下型12の温度を調整・制御するための上型温調板20および下型温調板22と、上側および下側断熱板24,26を介して上型温調板20および下型温調板22を支持する上型板28および下型板30とを有する。上型温調板20および下型温調板22は、上型14および下型12を加熱するための電気抵抗式ヒータと、冷却するための水冷(または空冷)冷却器と、ヒータおよび冷却器を自動的に制御するコンピュータ(図示せず)とを有する。なお、上型温調板20、上側断熱板24および上型板28には、プランジャ16の上方に開口部が設けられている。
【0018】
さらに、射出成形機10は、図示しない第1および第2の油圧機構を有し、第1の油圧機構は、上型板28と下型板30を垂直方向に型締力Fで型締めし、第2の油圧機構は、ランナ部13内の樹脂材料が射出圧Pまで加圧されるように、上型温調板20、上側断熱板24および上型板28の開口部を介して、プランジャ16を下方へ押圧する。
【0019】
この射出成形機10は、図5の破線で概略的に図示したように、真空容器32内に配設され、1kPa以下、好適には数100Pa、さらに好適には数10Pa)の真空状態を実現することができる。
【0020】
次に、本発明の射出成形機10による動作について説明する。ただし、理解しやすくするために、本発明の微細針1がポリ乳酸で構成される場合について説明するが、微細針1を構成する樹脂材料により本発明は限定されるものではない。
【0021】
まず、鋳型4を下型12の収容部11に収容し、図示しない固定手段で固定する。択一的には、鋳型4を収容部11と同一形状を有するように加工することにより、鋳型4を収容部11内に固定してもよい。
【0022】
そして、下型12に上型14を重ね合わせ、第1の油圧機構を用いて型締圧力F(例えば、1.56kN)で上型14および下型12を型締めする。このとき、鋳型4と上型14の間のキャビティ6が実質的に気密封止され、上型14の射出口15は、鋳型4のキャビティ6に対向している。
【0023】
さらに、上型温調板20および下型温調板22を用いて、上型14および下型12の温度を樹脂材料(ポリ乳酸)の溶融温度T(約172℃)より小さく、ガラス転移温度T(約70℃)より高い温度(例えば、約160℃)に設定し、成形プロセス中、一定となるように制御する。
【0024】
ここで、ポリ乳酸ペレット34(以下、単に「ペレット」という。)を上型14のランナ部13に搬送して、高温の上型14で加熱することにより、ペレット34(樹脂材料)を低流動性および高粘性を有するような固体状態に維持する。
【0025】
最後に、加熱された低流動性ペレット34を極めて高い射出圧P(約100MPa〜約700MPa、好適には390Mpa)でキャビティ6内に射出して、成形物としての微細針1を得る。
【0026】
このように、ペレット34は溶融温度Tより低い温度で維持されているので、射出された成形物の密度を増大させることにより、材料の強度(ヤング率)を向上させるとともに、離型時に加わる力に十分耐え得る頑健な微細針1を成形することができる。その結果、信頼性が高く、歩留まりの高い微細針1の射出成形方法を実現することができる。
また、上型14および下型16は非常に大きい型締圧力Fで互いに押圧され、射出されたペレット34が高い粘性を有するため、上型14と鋳型4の間に生じ得る樹脂バリを実質的に抑制または解消することができる。
さらに、射出成形機10全体を真空状態に維持して、ペレット34を射出するので、キャビティ6内に存在していた空気によるボイドを回避し、微細針1の適正な外形形状を忠実に再現することができる。
加えて、気密封止された鋳型4(キャビティ6)内に樹脂材料を射出するので、キャビティ6の形状を任意に変えることにより、任意の外形形状を有する微細針1を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)は、本発明に係る射出成形方法で成形された微細針の概略的斜視図で、(b)は(b)はその平面図、そして(c)はその側面図である。
【図2】本発明に係る射出成形方法で用いられる鋳型の断面図である。
【図3】本発明に係る射出成形方法で成形された微細針の微細針のニードル部を示す拡大写真である。
【図4】シリコン基板上の(ニードル部に対応する)キャビティ全体に確実に樹脂材料が充填された様子を示す拡大写真である。
【図5】本発明に係る射出成形機の概略図である。
【符号の説明】
【0028】
1 微細針、2 ホルダ部、3 ニードル部、4 突起部、5 シリコン基板、6 キャビティ(凹部)10 射出成形機、11 収容部、12 下型(下金型)、13 ランナ部、14 上型(上金型)、15 射出口、16 プランジャ、18 取り付けガイド板、20 上型温調板、22 下型温調板、24 上側断熱板、26 下側断熱板、28 上型板、30 下型板、32 真空容器、34 ペレット(樹脂材料)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの突起部を有する微細針の射出成形方法であって、
微細針を構成する樹脂材料の温度をガラス転移温度以上、融点以下に維持するステップと、
100MPa以上の射出圧で樹脂材料を気密封止された鋳型に射出するステップとを有することを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
射出ステップは、1kPa以下の真空雰囲気中で行われることを特徴とする請求項1に記載の射出成形方法。
【請求項3】
樹脂材料は、生分解性材料であることを特徴とする請求項1に記載の射出成形方法。


【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−334991(P2006−334991A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164334(P2005−164334)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(503467089)株式会社ライトニックス (10)
【Fターム(参考)】