説明

情報記録再生装置

【課題】高記録密度及び低消費電力の情報記録再生装置を提案する。
【解決手段】実施形態に係わる情報記録再生装置は、記録層12と、記録層12に電圧を印加して記録層12に相変化を発生させて情報を記録する記録回路とを備える。記録層12は、少なくとも1種類の陽イオン元素と少なくとも1種類の陰イオン元素を有する化合物から構成され、陽イオン元素の少なくとも1種類は、電子が不完全に満たされたd軌道を有する遷移元素であり、隣接する陽イオン元素間の平均最短距離は、0.32nm以下である。記録層12は、(i) AxMyX4 (0≦x≦2.2、1.8≦y≦3)、(ii) AxMyX3 (0≦x≦1.1、0.9≦y≦3)及び(iii) AxMyX4 (0≦x≦1.1、0.9≦y≦3)のうちから選択される材料を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、高記録密度の情報記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型携帯機器が世界的に普及し、同時に、高速情報伝送網の大幅な進展に伴い、小型大容量不揮発性メモリの需要が急速に拡大してきている。その中でも、NAND型フラッシュメモリ及び小型HDD(hard disk drive)は、特に、急速な記録密度の進化を遂げ、大きな市場を形成するに至っている。
【0003】
しかし、両者共に、既に記録密度の限界が指摘されている。即ち、NAND型フラッシュメモリでは、最小線幅の縮小に伴う加工コストの増大が著しく、また、小型HDDでは、トラッキング精度が十分に確保できない、という問題に直面している。
【0004】
このような状況の下、記録密度の限界を大幅に超えることを目指した新規メモリのアイデアがいくつか提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7,733,684号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態は、高記録密度及び低消費電力の不揮発性の情報記録再生装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、情報記録再生装置は、記録層と、前記記録層に電圧を印加して前記記録層に相変化を発生させて情報を記録する記録回路とを具備し、前記記録層は、少なくとも1種類の陽イオン元素と少なくとも1種類の陰イオン元素を有する化合物から構成され、前記陽イオン元素の少なくとも1種類は、電子が不完全に満たされたd軌道を有する遷移元素であり、隣接する陽イオン元素間の平均最短距離は、0.32nm以下である。
【0008】
前記記録層は、(i) AxMyX4 (0≦x≦2.2、1.8≦y≦3)、(ii) AxMyX3 (0≦x≦1.1、0.9≦y≦3)及び(iii) AxMyX4 (0≦x≦1.1、0.9≦y≦3)のうちから選択される材料を備える。
【0009】
但し、(i)及び(ii)に関し、Aは、Na, K, Rb, Be, Mg, Ca, Sr, Ba, Al, Ga, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ge, Ag, Au, Cd, Sn, Sb, Pt, Pd, Hg, Tl, Pb, Bi のグループから選択される少なくとも1種類の元素、Mは、Al, Ga, Ti, Ge, Sn, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Nb, Ta, Mo, W, Ru, Rh のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。
【0010】
また、(iii)に関し、Aは、Mg, Ca, Sr, Al, Ga, Sb, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Rh, In, Sb, Tl, Pb, Bi のグループから選択される少なくとも1種類の元素、Mは、Al, Ga, Ti, Ge, Sn, V, Nb, Ta, Cr, Mn, Mo, W, Ir, Os のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。
【0011】
また、(i)、(ii)及び(iii)に関し、Xは、O又はNを主成分とし、1%以上30%以下ハロゲン元素を含有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】情報記録の原理を示す図。
【図2】プローブメモリを示す図。
【図3】複数のブロックに分けられたデータ領域を示す図。
【図4】プローブメモリの情報記録時の様子を示す図。
【図5】書き込み動作を示す図。
【図6】ブロック内の記録単位を示す図。
【図7】読み出し動作を示す図。
【図8】半導体メモリを示す図。
【図9】メモリセルアレイ構造の例を示す図。
【図10】メモリセル構造の例を示す図。
【図11】メモリセルアレイ構造の例を示す図。
【図12】メモリセルアレイ構造の例を示す図。
【図13】フラッシュメモリへの適用例を示す図。
【図14】NANDセルユニットを示す回路図。
【図15】NANDセルユニットの構造を示す図。
【図16】NANDセルユニットの構造を示す図。
【図17】NANDセルユニットの構造を示す図。
【図18】NORセルを示す回路図。
【図19】NORセルの構造を示す図。
【図20】2トランジスタセルユニットを示す回路図。
【図21】2トランジスタセルユニットの構造を示す図。
【図22】2トランジスタセルユニットの構造を示す図。
【図23】ハロゲン含有量とサイクル寿命との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら実施形態を説明する。
【0014】
1. 参考技術
高記録密度を目指した新規メモリのアイデアの例を説明する。
【0015】
例えば、PRAM(相変化メモリ)は、記録材料として、アモルファス状態(オン)と結晶状態(オフ)の2つの状態をとることができる材料を使用し、この2つの状態を2値データ“0”,“1”に対応させてデータを記録する、という原理を採用する。
【0016】
書き込み/消去に関しては、例えば、大電力パルスを記録材料に印加することによりアモルファス状態を作り、小電力パルスを記録材料に印加することにより結晶状態を作る。
【0017】
読み出しに関しては、記録材料に、書き込み/消去が起こらない程度の小さな読み出し電流を流し、記録材料の電気抵抗を測定することにより行う。アモルファス状態の記録材料の抵抗値は、結晶状態の記録材料の抵抗値よりも大きく、その差は、103程度である。
【0018】
PRAMの最大の特長は、素子サイズを10nm程度にまで縮小しても動作できるという点にあり、この場合には、約10Tbpsi (tera bit per square inch)の記録密度を実現できるため、高記録密度化への候補の一つとされる。
【0019】
また、PRAMとは異なるが、これと非常に似た動作原理を有する新規メモリが報告されている。
【0020】
この報告によれば、データを記録する記録材料の代表例は、酸化ニッケルであり、PRAMと同様に、書き込み/消去には、大電力パルスと小電力パルスとを使用する。この場合、PRAMに比べて、書き込み/消去時の消費電力が小さくなる、という利点が報告されている。
【0021】
現在までのところ、この新規メモリの動作メカニズムについては解明されていないが、再現性については確認されており、高記録密度化への候補の他の一つとされる。また、動作メカニズムについても、いくつかのグループが解明を試みている。
【0022】
これらの他、MEMS(micro electro mechanical systems)技術を使ったMEMSメモリが提案されている。
【0023】
特に、ミリピード(Millipede)と呼ばれるMEMSメモリは、アレイ状の複数のカンチレバーと有機物質が塗布された記録媒体とが対向する構造を有し、カンチレバーの先端のプローブは、記録媒体に適度な圧力で接触している。
【0024】
書き込みに関しては、選択的に、プローブに付加されるヒータの温度を制御することにより行う。即ち、ヒータの温度を上げると、記録媒体が軟化し、プローブが記録媒体にめり込んで、記録媒体に窪みを形成する。
【0025】
読み出しに関しては、記録媒体が軟化しない程度の電流をプローブに流しながら、記録媒体の表面に対し、このプローブをスキャンさせることにより行う。プローブが記録媒体の窪みに落ち込むとプローブの温度が低下し、ヒータの抵抗値が上昇するため、この抵抗値の変化を読み取ることによりデータをセンスできる。
【0026】
ミリピードのようなMEMSメモリの最大の特長は、ビットデータを記録する各記録部に配線を設ける必要がないため、記録密度を飛躍的に向上できる点にある。現状で、既に、1Tbpsi程度の記録密度を達成している。
【0027】
また、ミリピードの発表を受けて、最近、MEMS技術と新たな記録原理とを組み合わせ、消費電力、記録密度や、動作速度などに関して大きな改善を達成しようという試みがなされている。
【0028】
例えば、記録媒体に強誘電体層を設け、記録媒体に電圧を印加することにより強誘電体層に誘電分極を引き起こしてデータの記録を行う方式が提案されている。この方式によれば、ビットデータを記録する記録部同士の間隔(記録最小単位)を結晶の単位胞レベルにまで近づけることができる、との理論的予測がある。
【0029】
仮に、記録最小単位が強誘電体層の結晶の1単位胞になると、記録密度は、約4Pbpsi(peta bit per square inch)という巨大な値になる。
【0030】
しかし、このような強誘電体記録のMEMSメモリは、従来から知られている原理でありながら現在においても実現されていない。
【0031】
その最も大きな理由は、記録媒体からその外部に出る電場が空気中のイオンにより遮蔽されてしまうことにある。つまり、記録媒体からの電場を感知できないため、読み出しを行うことができない。
【0032】
また、結晶中に格子欠陥が存在すると、格子欠陥による電荷が記録部に移動して電荷を遮蔽してしまう、という理由もある。
【0033】
前者の空気中のイオンによる電場遮蔽の問題は、最近、SNDM(走査型非線形誘電率顕微鏡)を用いた読み出し方式の提案により解決され、この新規メモリは、実用化に向けてかなり進展してきている。
【0034】
2. 概要
実施形態の情報記録再生装置は、記録部が、電極層、記録層、保護層のスタック構造を有する。
【0035】
記録層に使用する材料は、少なくとも2種類の陽イオン元素を有する複合化合物とする。また、陽イオン元素の少なくとも1種類は、電子が不完全に満たされたd軌道を有する遷移元素とし、かつ、隣接する陽イオン元素間の平均最短距離は、0.32nm以下とする。
【0036】
ここで、隣接する陽イオン元素間の平均最短距離を0.32nm以下にしたのは、記録層の電子伝導度を向上させるためであり牽いてはサイクル寿命延命化につながることとなる。
【0037】
具体的には、以下の化学式からなる材料により上記要件を満たす記録層を構成する。
【0038】
・ AxMyX4
Aは、Na, K, Rb, Be, Mg, Ca, Sr, Ba, Al, Ga, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ge, Ag, Au, Cd, Sn, Sb, Pt, Pd, Hg, Tl, Pb, Bi のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。
【0039】
また、Aは、Mg, Al, Mn, Fe, Co, Ni, Zn のグループから選択される少なくとも1種類の元素とするのがより好ましい。これらの元素を使用すると、結晶構造を維持するためのイオン半径が最適となり、イオン移動度についても十分に確保できるからである。
【0040】
Mは、Al, Ga, Ti, Ge, Sn, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Nb, Ta, Mo, W, Ru, Rh のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。
【0041】
また、Mは、V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni のグループから選択される少なくとも1種類の元素とするのがより好ましい。これらの元素を使用すると、結晶内の電子状態をコントロールし易くなるためである。
【0042】
Xは、O又はNを主成分とし、1%以上30%以下のハロゲン元素を含有し、モル比x, yは、それぞれ、0≦x≦2.2、1.8≦y≦3を満たすものとする。
【0043】
ここで、ハロゲン元素の含有量に関し、下限としての1%は、サイクル寿命の向上に必要なために設定された値であり、上限としての30%は、AxMyX4の結晶構造を維持するために設定された値である。
【0044】
・ AxMyX3
Aは、Na, K, Rb, Be, Mg, Ca, Sr, Ba, Al, Ga, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ge, Ag, Au, Cd, Sn, Sb, Pt, Pd, Hg, Tl, Pb, Bi のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。
【0045】
また、Aは、Mg, Al, Mn, Fe, Co, Ni, Zn のグループから選択される少なくとも1種類の元素とするのがより好ましい。これらの元素を使用すると、結晶構造を維持するためのイオン半径が最適となり、イオン移動度についても十分に確保できるからである。
【0046】
Mは、Al, Ga, Ti, Ge, Sn, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Nb, Ta, Mo, W, Ru, Rh のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。
【0047】
また、Mは、V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni のグループから選択される少なくとも1種類の元素とするのがより好ましい。これらの元素を使用すると、結晶内の電子状態をコントロールし易くなるためである。
【0048】
AとMは、互いに異なる元素であり、Xは、O, Nのグループから選択される少なくとも1種類の元素を主成分とし、更にハロゲン元素を1%以上30%以下含有している。モル比x, yは、それぞれ、0≦x≦1.1、0.9≦y≦3を満たすものとする。
【0049】
ここで、ハロゲン元素の含有量に関し、下限としての1%は、サイクル寿命の向上に必要なために設定された値であり、上限としての30%は、AxMyX3の結晶構造を維持するために設定された値である。
【0050】
・ AxMyX4
Aは、Mg, Ca, Sr, Al, Ga, Sb, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Rh, In, Sb, Tl, Pb, Bi のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。
【0051】
また、Aは、Mg, Al, Ga, Sb, Ti, Mn, Fe, Co のグループから選択される少なくとも1種類の元素とするのがより好ましい。これらの元素を使用すると、結晶構造を維持するためのイオン半径が最適となり、イオン移動度についても十分に確保できるからである。
【0052】
Mは、Al, Ga, Ti, Ge, Sn, V, Nb, Ta, Cr, Mn, Mo, W, Ir, Os のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。
【0053】
また、Mは、Cr, Mn, Mo, W のグループから選択される少なくとも1種類の元素とするのがより好ましい。これらの元素を使用すると、結晶内の電子状態をコントロールし易くなるためである。
【0054】
Xは、O又はNを主成分とし、1%以上30%以下のハロゲン元素を含有し、モル比x, yは、それぞれ、0≦x≦1.1、0.9≦y≦3を満たすものとする。
【0055】
ここで、ハロゲン元素の含有量に関し、下限としての1%は、サイクル寿命の向上に必要なために設定された値であり、上限としての30%は、AxMyX4の結晶構造を維持するために設定された値である。
【0056】
尚、上記3つの材料(AxMyX4, AxMyX3, AxMyX4)のモル比x, yに関し、数値範囲の下限は、結晶構造を維持するためであり、その上限は、結晶内の電子状態をコントロールするために設定される。
【0057】
また、記録層に使用する材料は、以下の結晶構造群のいずれかに該当する結晶とする。
【0058】
・ スピネル構造
・ クリプトメレン構造
・ イルメナイト構造
・ ウルフラマイト構造
・ ホランダイト構造
・ ヘテロライト構造
・ ラムスデライト構造
・ デラフォサイト構造
・ α-NaFeO2構造
・ LiMoN2構造
以上のような材料を記録層に使用することで、記録密度に関しては、原理的にはPbpsi級を実現でき、さらに、低消費電力化も達成できる。
【0059】
3. 記録/再生の基本原理
実施形態の情報記録再生装置における情報の記録/再生の基本原理について説明する。
【0060】
図1は、記録部の構造と記録回路とを示している。
11は、電極層、12は、記録層、13Aは、電極層(又は保護層)である。
【0061】
記録回路10は、記録層12に電圧を印加して記録層12に相変化を発生させて情報を記録するための回路である。
【0062】
記録層12内の小さな白丸は、拡散イオンを表し、小さな黒丸は、遷移元素イオンを表す。また、大きな白丸は、陰イオンを表す。
【0063】
記録層12に電圧を印加し、記録層12内に電位勾配を発生させると、拡散イオンの一部が結晶中を移動する。そこで、実施形態では、記録層12の初期状態を絶縁体(高抵抗状態)とし、情報記録に関しては、電位勾配により記録層12を相変化させ、記録層12に伝導性を持たせる(低抵抗状態)ことにより行う。
【0064】
まず、例えば、電極層13Aの電位が電極層11の電位よりも相対的に低い状態を作る。電極層11を固定電位(例えば、接地電位)とすれば、電極層13Aに負の電位を与えればよい。
【0065】
この時、記録層12内の拡散イオンの一部が電極層(陰極)13A側に移動し、記録層(結晶)12内の拡散イオン(陽イオン)+遷移元素イオンが陰イオンに対して相対的に減少する。電極層13A側に移動した拡散イオンは、電極層13Aから電子を受け取り、メタルとして析出するため、メタル層14を形成する。
【0066】
記録層12の内部では、陰イオンが過剰となり、結果的に、記録層12内の遷移元素の価数を上昇させる。つまり、記録層12には、キャリアが注入されることになるが、このことにより電子伝導性を有するようになり、情報記録(セット動作)が完了する。
【0067】
情報再生に関しては、電流パルスを記録層12に流し、記録層12の抵抗値を検出することにより容易に行える。但し、電流パルスは、記録層12を構成する材料が相変化を起こさない程度の微小な値であることが必要である。
【0068】
以上の過程は、一種の電気分解であり、電極層(陽極)11側では、電気化学的酸化により酸化剤が生じ、電極層(陰極)13A側では、電気化学的還元により還元剤が生じた、と考えることができる。
【0069】
このため、情報記録の状態(低抵抗状態)を初期状態(高抵抗状態)に戻すには、例えば、記録層12を大電流パルスによりジュール加熱して、記録層12の酸化還元反応を促進させればよい。即ち、大電流パルスの遮断後の残留熱により記録層12は、絶縁体に戻る(リセット動作)。
【0070】
但し、この動作原理を実用化するには、室温でリセット動作が生じないこと(十分に長いリテンション時間の確保)と、リセット動作の消費電力が十分に小さいこととを確認しなければならない。
【0071】
前者に対しては、拡散イオンの価数を2価以上にすることで対応できる。
【0072】
また、後者に対しては、結晶破壊を引き起こすことなく、記録層(結晶)12内を移動する拡散イオンのイオン半径及び移動パスを有する結晶構造を有する材料を見つけ出すことにより対応できる。そのような記録層12としては、既に述べたような元素及び結晶構造を採用すればよい。
【0073】
ところで、セット動作後の電極層(陽極)11側には酸化剤が生じるため、電極層11としては、酸化され難い材料(例えば、電気伝導性窒化物、電気伝導性酸化物など)から構成することが好ましい。
【0074】
また、このような材料としては、イオン伝導性を有しないものがよい。
【0075】
そのような材料としては、以下に示されるものがあり、その中でも、電気伝導率の良さなどを加味した総合的性能の点から、LaNiO3は、最も好ましい材料ということができる。
【0076】
・ MN
Mは、Ti, Zr, Hf, V, Nb, Ta のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。Nは、窒素である。
【0077】
・ MOx
Mは、Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zr, Nb, Mo, Ru, Rh, Pd, Ag, Hf, Ta, W, Re, Ir, Os, Pt のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。モル比xは、1≦x≦4を満たすものとする。
【0078】
・ AMO3
Aは、La, K, Ca, Sr, Ba, Ln(Lanthanide) のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。
【0079】
Mは、Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zr, Nb, Mo, Ru, Rh, Pd, Ag, Hf, Ta, W, Re, Ir, Os, Pt のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。
【0080】
Oは、酸素である。
【0081】
・ A2MO4
Aは、K, Ca, Sr, Ba, Ln(Lanthanide) のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。
【0082】
Mは、Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zr, Nb, Mo, Ru, Rh, Pd, Ag, Hf, Ta, W, Re, Ir, Os, Pt のグループから選択される少なくとも1種類の元素である。
【0083】
Oは、酸素である。
【0084】
また、セット動作後の保護層(陰極)13側には還元剤が生じるため、保護層13としては、記録層12が大気と反応することを防止する機能を持っていることが好ましい。
【0085】
そのような材料としては、例えば、アモルファスカーボン、ダイヤモンドライクカーボン、SnO2などの半導体がある。
【0086】
電極層13Aは、記録層12を保護する保護層として機能させてもよいし、電極層13Aの代わりに保護層を設けてもよい。この場合、保護層は、絶縁体でもよいし、導電体でもよい。
【0087】
また、リセット動作において記録層12の加熱を効率よく行うために、陰極側、ここでは、電極層13A側に、ヒータ層(抵抗率が約10-5Ωcm以上の材料)を設けることが好ましい。
【0088】
また、以上の電極を保護しつつ、記録層のみを有効に加熱するという効果を同時に満たす方法として、両者の間にペルチエ素子膜を挿入するといった方法を用いると更に良い。
【0089】
例えば、正極電極とReRAM膜との間にp型ペルチエ素子膜を挿入することにより正極からReRAM方向に熱を輸送する効果をもたらすこととなる。
【0090】
その結果、動作中電極を冷却し電極の劣化を抑制しつつ、ReRAMを効率的に過熱することができ、サイクル寿命、リセット確率、リセット時消費電力のいずれも特性改善の方向に向かうこととなる。
【0091】
P型ペルチエ素子膜材料としては、ペルチエ係数Πが大きな材料が好ましいが、Π=αTとゼーベック係数αと温度Tの積という関係になっており、ゼーベック係数の大きな材料が好ましいこととなる。
【0092】
更に、このゼーベック係数は、フェルミ面での状態密度が急峻になっている材料が大きいことが知られているが、この条件を満たす材料として強相関系且つ低次元構造の結晶構造を有するものが好ましい。
【0093】
こういった材料として、例えば、Ca3Co4O9, LaCaCoO4, La2CuO4, CuAlO2等が挙げられる。
【0094】
また、これらは、ReRAM材料よりも低抵抗であることが必要なため、これらに若干p型キャリアを積極的に注入し低抵抗化したものを用いることが望ましいが、以上の材料はいずれも実際、ゼーベック係数は、100μV/K以上を有することが判明している。従って、これらの膜を用いた場合、計算上、リセット時のReRAMの全発熱量に対して30%〜100%の電極冷却効果が期待されることになる。
【0095】
4. 適用例
次に、適用例を説明する。
以下では、実施形態を、プローブメモリに適用した場合と半導体メモリに適用した場合の2つについて説明する。
【0096】
(1) プローブメモリ
A. 構造
図2及び図3は、プローブメモリを示している。
【0097】
XYスキャナー14上には、記録媒体が配置される。この記録媒体に対向する形でプローブアレイが配置される。
【0098】
プローブアレイは、基板23と、基板23の一面側にアレイ状に配置される複数のプローブ(ヘッド)24とを有する。複数のプローブ24の各々は、例えば、カンチレバーから構成され、マルチプレクスドライバ25,26により駆動される。
【0099】
複数のプローブ24は、それぞれ、基板23内のマイクロアクチュエータを用いて個別に動作可能であるが、ここでは、全てをまとめて同じ動作をさせて記録媒体のデータエリアに対するアクセスを行う例を説明する。
【0100】
まず、マルチプレクスドライバ25,26を用いて、全てのプローブ24をX方向に一定周期で往復動作させ、記録媒体のサーボエリアからY方向の位置情報を読み出す。Y方向の位置情報は、ドライバ15に転送される。
【0101】
ドライバ15は、この位置情報に基づいてXYスキャナー14を駆動し、記録媒体をY方向に移動させ、記録媒体とプローブとの位置決めを行う。
【0102】
両者の位置決めが完了したら、データエリア上のプローブ24の全てに対して、同時、かつ、連続的に、データの読み出し又は書き込みを行う。
【0103】
データの読み出し及び書き込みは、プローブ24がX方向に往復動作していることから連続的に行われる。また、データの読み出し及び書き込みは、記録媒体のY方向の位置を順次変えることにより、データエリアに対して、一行ずつ、実施される。
【0104】
尚、記録媒体をX方向に一定周期で往復運動させて記録媒体から位置情報を読み出し、プローブ24をY方向に移動させるようにしてもよい。
【0105】
記録媒体は、例えば、基板20と、基板20上の電極層11と、電極層11上の記録層12とから構成される。
【0106】
記録層12は、複数のデータエリア、並びに、複数のデータエリアのX方向の両端にそれぞれ配置されるサーボエリアを有する。複数のデータエリアは、記録層12の主要部を占める。
【0107】
サーボエリア内には、サーボバースト信号が記録される。サーボバースト信号は、データエリア内のY方向の位置情報を示している。
【0108】
記録層12内には、これらの情報の他に、さらに、アドレスデータが記録されるアドレスエリア及び同期をとるためのプリアンブルエリアが配置される。
【0109】
データ及びサーボバースト信号は、記録ビット(電気抵抗変動)として記録層12に記録される。記録ビットの“1”,“0”情報は、記録層12の電気抵抗を検出することにより読み出す。
【0110】
本例では、1つのデータエリアに対応して1つのプローブ(ヘッド)が設けられ、1つのサーボエリアに対して1つのプローブが設けられる。
【0111】
データエリアは、複数のトラックから構成される。アドレスエリアから読み出されるアドレス信号によりデータエリアのトラックが特定される。また、サーボエリアから読み出されるサーボバースト信号は、プローブ24をトラックの中心に移動させ、記録ビットの読み取り誤差をなくすためのものである。
【0112】
ここで、X方向をダウントラック方向、Y方向をトラック方向に対応させることにより、HDDのヘッド位置制御技術を利用することが可能になる。
【0113】
B. 記録/再生動作
図2及び図3のプローブメモリの記録/再生動作について説明する。
【0114】
図4は、情報記録(セット動作)について示している。
記録媒体は、半導体チップ20上の電極層11/記録層12/保護層13Bからなるものとする。
【0115】
情報記録は、記録層(記録媒体)12の記録単位に電圧を印加し、記録層12の記録単位内に電位勾配を発生させて電流パルスを流すことにより行う。本例では、プローブ24の電位が電極層11の電位よりも相対的に低い状態を作る。電極層11を固定電位(例えば、接地電位)とすれば、プローブ24に負の電位を与えればよい。
【0116】
電流パルスは、例えば、電子発生源又はホットエレクトロン源を使用し、プローブ24から電極層11に向かって電子を放出することにより発生させる。
【0117】
この時、例えば、図5に示すように、記録層12の記録単位では、拡散イオンの一部がプローブ(陰極)24側に移動し、結晶内の拡散イオン(陽イオン)が陰イオンに対して相対的に減少する。また、プローブ24側に移動した拡散イオンは、プローブ24から電子を受け取ってメタルとして析出する。
【0118】
記録層12の記録単位では、陰イオンが過剰となり、結果的に、記録層12の記録単位における遷移元素の価数を上昇させる。つまり、記録層12の記録単位は、相変化によるキャリアの注入により電子伝導性を有するようになるため、情報記録(セット動作)が完了する。
【0119】
尚、情報記録のための電流パルスは、プローブ24の電位が電極層11の電位よりも相対的に高い状態を作ることにより発生させることもできる。
【0120】
図6は、情報記録が完了した後のデータ領域内のブロックを示している。
黒丸は、情報記録がなされた記録単位を表している。本例のプローブメモリによれば、ハードディスクと同様に、記録媒体の記録単位に情報記録を行うことができると共に、新規な記録材料を採用することにより、従来のハードディスクや半導体メモリよりも高記録密度が実現できる。
【0121】
図7は、情報再生について示している。
情報再生に関しては、電流パルスを記録層12の記録単位に流し、記録層12の記録単位の抵抗値を検出することにより行う。但し、電流パルスは、記録層12の記録単位を構成する材料が相変化を起こさない程度の微小な値とする。
【0122】
例えば、センスアンプS/Aにより発生した読み出し電流(電流パルス)をプローブ24から記録層(記録媒体)12の記録単位に流し、センスアンプS/Aにより記録単位の抵抗値を測定する。既に説明した新材料を採用すると、セット/リセット状態の抵抗値の差は、103以上を確保できる。
【0123】
尚、情報再生では、記録媒体上をプローブ24により走査(スキャン)することで、連続再生が可能となる。
【0124】
消去(リセット)動作に関しては、記録層12の記録単位を大電流パルスによりジュール加熱して、記録層12の記録単位における酸化還元反応を促進させることにより行う。
【0125】
消去動作は、記録単位ごとに行うこともできるし、複数の記録単位又はブロック単位で行うこともできる。
【0126】
C. まとめ
このようなプローブメモリによれば、現在のハードディスクやフラッシュメモリよりも高記録密度及び低消費電力を実現できる。
【0127】
(2) 半導体メモリ
A. 構造
図8は、クロスポイント型半導体メモリを示している。
【0128】
ワード線WLi−1,WL,WLi+1は、X方向に延び、ビット線BLj−1,BL,BLj+1は、Y方向に延びる。
【0129】
ワード線WLi−1,WL,WLi+1の一端は、選択スイッチとしてのMOSトランジスタRSWを経由してワード線ドライバ&デコーダ31に接続され、ビット線BLj−1,BL,BLj+1の一端は、選択スイッチとしてのMOSトランジスタCSWを経由してビット線ドライバ&デコーダ&読み出し回路32に接続される。
【0130】
MOSトランジスタRSWのゲートには、1本のワード線(ロウ)を選択するための選択信号Ri−1,R,Ri+1が入力され、MOSトランジスタCSWのゲートには、1本のビット線(カラム)を選択するための選択信号Ci−1,C,Ci+1が入力される。
【0131】
メモリセル33は、ワード線WLi−1,WL,WLi+1とビット線BLj−1,BL,BLj+1との交差部に配置される。いわゆるクロスポイント型セルアレイ構造である。
【0132】
メモリセル33には、記録/再生時における回り込み電流(sneak current)を防止するためのダイオード34が付加される。
【0133】
図9は、図8の半導体メモリのメモリセルアレイ部の構造を示している。
半導体チップ30上には、ワード線WLi−1,WL,WLi+1とビット線BLj−1,BL,BLj+1が配置され、これら配線の交差部にメモリセル33及びダイオード34が配置される。
【0134】
このようなクロスポイント型セルアレイ構造の特長は、メモリセル33に個別にMOSトランジスタを接続する必要がないため、高集積化に有利な点にある。例えば、図11及び図12に示すように、メモリセル33を積み重ねて、メモリセルアレイを3次元構造にすることも可能である。
【0135】
メモリセル33は、例えば、図10に示すように、記録層12、保護層13及びヒータ層35のスタック構造から構成される。1つのメモリセル33により1ビットデータを記憶する。また、ダイオード32は、ワード線WLiとメモリセル33との間に配置される。
【0136】
B. 記録/再生動作
図8乃至図10を用いて記録/再生動作を説明する。
ここでは、点線Aで囲んだメモリセル33を選択し、これについて記録/再生動作を実行するものとする。
【0137】
情報記録(セット動作)は、選択されたメモリセル33に電圧を印加し、そのメモリセル33内に電位勾配を発生させて電流パルスを流せばよいため、例えば、ワード線WLの電位がビット線BLの電位よりも相対的に低い状態を作る。ビット線BLを固定電位(例えば、接地電位)とすれば、ワード線WLに負の電位を与えればよい。
【0138】
この時、点線Aで囲まれた選択されたメモリセル33では、陽イオンの一部がワード線(陰極)WL側に移動し、結晶内の陽イオンが陰イオンに対して相対的に減少する。また、ワード線WL側に移動した陽イオンは、ワード線WLから電子を受け取ってメタルとして析出する。
【0139】
点線Aで囲まれた選択されたメモリセル33では、陰イオンが過剰となり、結果的に、結晶内における遷移元素の価数を上昇させる。つまり、点線Aで囲まれた選択されたメモリセル33は、相変化によるキャリアの注入により電子伝導性を有するようになるため、情報記録(セット動作)が完了する。
【0140】
尚、情報記録時には、非選択のワード線WLi−1,WLi+1及び非選択のビット線BLj−1,BLj+1については、全て同電位にバイアスしておくことが好ましい。
【0141】
また、情報記録前のスタンバイ時には、全てのワード線WLi−1,WL,WLi+1及び全てのビット線BLj−1,BL,BLj+1をプリチャージしておくことが好ましい。
【0142】
また、情報記録のための電流パルスは、ワード線WLの電位がビット線BLの電位よりも相対的に高い状態を作ることにより発生させてもよい。
【0143】
情報再生に関しては、電流パルスを点線Aで囲まれた選択されたメモリセル33に流し、そのメモリセル33の抵抗値を検出することにより行う。但し、電流パルスは、メモリセル33を構成する材料が相変化を起こさない程度の微小な値とすることが必要である。
【0144】
例えば、読み出し回路により発生した読み出し電流(電流パルス)をビット線BLから点線Aで囲まれたメモリセル33に流し、読み出し回路によりそのメモリセル33の抵抗値を測定する。既に説明した新材料を採用すれば、セット/リセット状態の抵抗値の差は、103以上を確保できる。
【0145】
消去(リセット)動作に関しては、点線Aで囲まれた選択されたメモリセル33を大電流パルスによりジュール加熱して、そのメモリセル33における酸化還元反応を促進させることにより行う。
【0146】
C. まとめ
このような半導体メモリによれば、現在のハードディスクやフラッシュメモリよりも高記録密度及び低消費電力を実現できる。
【0147】
(3) その他
本実施の形態では、プローブメモリと半導体メモリの2つについて説明したが、ここで提案する材料及び原理を、現在のハードディスクやDVDなどの記録媒体に適用することも可能である。
【0148】
5. フラッシュメモリへの適用
(1) 構造
本発明の例は、フラッシュメモリに適用することも可能である。
【0149】
図13は、フラッシュメモリのメモリセルを示している。
【0150】
フラッシュメモリのメモリセルは、MIS(metal-insulator-semiconductor)トランジスタから構成される。
【0151】
半導体基板41の表面領域には、拡散層42が形成される。拡散層42の間のチャネル領域上には、ゲート絶縁層43が形成される。ゲート絶縁層43上には、本発明の例に係る記録層(ReRAM: Resistive RAM)44が形成される。記録層44上には、コントロールゲート電極45が形成される。
【0152】
半導体基板41は、ウェル領域でもよく、また、半導体基板41と拡散層42とは、互いに逆の導電型を有する。コントロールゲート電極45は、ワード線となり、例えば、導電性ポリシリコンから構成される。
【0153】
記録層44は、図1に示す材料から構成される。
【0154】
(2) 基本動作
図13を用いて基本動作について説明する。
セット(書き込み)動作は、コントロールゲート電極45に電位V1を与え、半導体基板41に電位V2を与えることにより実行する。
【0155】
電位V1,V2の差は、記録層44が相変化又は抵抗変化するのに十分な大きさであることが必要であるが、その向きについては、特に、限定されない。
【0156】
即ち、V1>V2およびV1<V2のいずれでもよい。
【0157】
例えば、初期状態(リセット状態)において、記録層44が絶縁体(抵抗大)であると仮定すると、実質的にゲート絶縁層43が厚くなったことになるため、メモリセル(MISトランジスタ)の閾値は、高くなる。
【0158】
この状態から電位V1,V2を与えて記録層44を導電体(抵抗小)に変化させると、実質的にゲート絶縁層43が薄くなったことになるため、メモリセル(MISトランジスタ)の閾値は、低くなる。
【0159】
尚、電位V2は、半導体基板41に与えたが、これに代えて、メモリセルのチャネル領域に拡散層42から電位V2を転送するようにしてもよい。
【0160】
リセット(消去)動作は、コントロールゲート電極45に電位V1’を与え、拡散層42の一方に電位V3を与え、拡散層42の他方に電位V4(<V3)を与えることにより実行する。
【0161】
電位V1’は、セット状態のメモリセルの閾値を越える値にする。
【0162】
この時、メモリセルは、オンになり、電子が拡散層42の他方から一方に向かって流れると共に、ホットエレクトロンが発生する。このホットエレクトロンは、ゲート絶縁層43を介して記録層44に注入されるため、記録層44の温度が上昇する。
【0163】
これにより、記録層44は、導電体(抵抗小)から絶縁体(抵抗大)に変化するため、実質的にゲート絶縁層43が厚くなったことになり、メモリセル(MISトランジスタ)の閾値は、高くなる。
【0164】
このように、フラッシュメモリと類似した原理により、メモリセルの閾値を変えることができるため、フラッシュメモリの技術を利用して、本発明の例に係る情報記録再生装置を実用化できる。
【0165】
(3) NAND型フラッシュメモリ
図14は、NANDセルユニットの回路図を示している。図15は、NANDセルユニットの構造を示している。
【0166】
P型半導体基板41a内には、N型ウェル領域41b及びP型ウェル領域41cが形成される。P型ウェル領域41c内に、本発明の例に係るNANDセルユニットが形成される。
【0167】
NANDセルユニットは、直列接続される複数のメモリセルMCからなるNANDストリングと、その両端に1つずつ接続される合計2つのセレクトゲートトランジスタSTとから構成される。
【0168】
メモリセルMC及びセレクトゲートトランジスタSTは、同じ構造を有する。具体的には、これらは、N型拡散層42と、N型拡散層42の間のチャネル領域上のゲート絶縁層43と、ゲート絶縁層43上の記録層(ReRAM)44と、記録層44上のコントロールゲート電極45とから構成される。
【0169】
メモリセルMCの記録層44の状態(絶縁体/導電体)は、上述の基本動作により変化させることが可能である。これに対し、セレクトゲートトランジスタSTの記録層44は、セット状態、即ち、導電体(抵抗小)に固定される。
【0170】
セレクトゲートトランジスタSTの1つは、ソース線SLに接続され、他の1つは、ビット線BLに接続される。
【0171】
セット(書き込み)動作前には、NANDセルユニット内の全てのメモリセルは、リセット状態(抵抗大)になっているものとする。
【0172】
セット(書き込み)動作は、ソース線SL側のメモリセルMCからビット線BL側のメモリセルに向かって1つずつ順番に行われる。
【0173】
選択されたワード線(コントロールゲート電極)WLに書き込み電位としてV1(プラス電位)を与え、非選択のワード線WLに転送電位(メモリセルMCがオンになる電位)としてVpassを与える。
【0174】
ソース線SL側のセレクトゲートトランジスタSTをオフ、ビット線BL側のセレクトゲートトランジスタSTをオンにし、ビット線BLから選択されたメモリセルMCのチャネル領域にプログラムデータを転送する。
【0175】
例えば、プログラムデータが“1”のときは、選択されたメモリセルMCのチャネル領域に書き込み禁止電位(例えば、V1と同じ程度の電位)を転送し、選択されたメモリセルMCの記録層44の抵抗値が高い状態から低い状態に変化しないようにする。
【0176】
また、プログラムデータが“0”のときは、選択されたメモリセルMCのチャネル領域にV2(<V1)を転送し、選択されたメモリセルMCの記録層44の抵抗値を高い状態から低い状態に変化させる。
【0177】
リセット(消去)動作では、例えば、全てのワード線(コントロールゲート電極)WLにV1’を与え、NANDセルユニット内の全てのメモリセルMCをオンにする。また、2つのセレクトゲートトランジスタSTをオンにし、ビット線BLにV3を与え、ソース線SLにV4(<V3)を与える。
【0178】
この時、ホットエレクトロンがNANDセルユニット内の全てのメモリセルMCの記録層44に注入されるため、NANDセルユニット内の全てのメモリセルMCに対して一括してリセット動作が実行される。
【0179】
読み出し動作は、選択されたワード線(コントロールゲート電極)WLに読み出し電位(プラス電位)を与え、非選択のワード線(コントロールゲート電極)WLには、メモリセルMCがデータ“0”、“1”によらず必ずオンになる電位を与える。
【0180】
また、2つのセレクトゲートトランジスタSTをオンにし、NANDストリングに読み出し電流を供給する。
【0181】
選択されたメモリセルMCは、読み出し電位が印加されると、それに記憶されたデータの値に応じてオン又はオフになるため、例えば、読み出し電流の変化を検出することにより、データを読み出すことができる。
【0182】
尚、図15の構造では、セレクトゲートトランジスタSTは、メモリセルMCと同じ構造を有しているが、例えば、図16に示すように、セレクトゲートトランジスタSTについては、記録層を形成せずに、通常のMISトランジスタとすることも可能である。
【0183】
図17は、NAND型フラッシュメモリの変形例である。
【0184】
この変形例は、NANDストリングを構成する複数のメモリセルMCのゲート絶縁層がP型半導体層47に置き換えられている点に特徴を有する。
【0185】
高集積化が進み、メモリセルMCが微細化されると、電圧を与えていない状態で、P型半導体層47は、空乏層で満たされることになる。
【0186】
セット(書き込み)時には、選択されたメモリセルMCのコントロールゲート電極45にプラスの書き込み電位(例えば、3.5V)を与え、かつ、非選択のメモリセルMCのコントロールゲート電極45にプラスの転送電位(例えば、1V)を与える。
【0187】
この時、NANDストリング内の複数のメモリセルMCのP型ウェル領域41cの表面がP型からN型に反転し、チャネルが形成される。
【0188】
そこで、上述したように、ビット線BL側のセレクトゲートトランジスタSTをオンにし、ビット線BLから選択されたメモリセルMCのチャネル領域にプログラムデータ“0”を転送すれば、セット動作を行うことができる。
【0189】
リセット(消去)は、例えば、全てのコントロールゲート電極45にマイナスの消去電位(例えば、-3.5V)を与え、P型ウェル領域41c及びP型半導体層47に接地電位(0V)を与えれば、NANDストリングを構成する全てのメモリセルMCに対して一括して行うことができる。
【0190】
読み出し時には、選択されたメモリセルMCのコントロールゲート電極45にプラスの読み出し電位(例えば、0.5V)を与え、かつ、非選択のメモリセルMCのコントロールゲート電極45に、メモリセルMCがデータ“0”、“1”によらず必ずオンになる転送電位(例えば、1V)を与える。
【0191】
但し、“1”状態のメモリセルMCの閾値電圧Vth”1”は、0V < Vth”1” < 0.5Vの範囲内にあるものとし、“0”状態のメモリセルMCの閾値電圧Vth”0”は、0.5V < Vth”0” < 1Vの範囲内にあるものとする。
【0192】
また、2つのセレクトゲートトランジスタSTをオンにし、NANDストリングに読み出し電流を供給する。
【0193】
このような状態にすれば、選択されたメモリセルMCに記憶されたデータの値に応じてNANDストリングに流れる電流量が変わるため、この変化を検出することにより、データを読み出すことができる。
【0194】
尚、この変形例においては、P型半導体層47のホールドープ量がP型ウェル領域41cのそれよりも多く、かつ、P型半導体層47のフェルミレベルがP型ウェル領域41cのそれよりも0.5V程度深くなっていることが望ましい。
【0195】
これは、コントロールゲート電極45にプラスの電位を与えたときに、N型拡散層42間のP型ウェル領域41cの表面部分からP型からN型への反転が開始し、チャネルが形成されるようにするためである。
【0196】
このようにすることで、例えば、書き込み時には、非選択のメモリセルMCのチャネルは、P型ウェル領域41cとP型半導体層47の界面のみに形成され、読み出し時には、NANDストリング内の複数のメモリセルMCのチャネルは、P型ウェル領域41cとP型半導体層47の界面のみに形成される。
【0197】
つまり、メモリセルMCの記録層44が導電体(セット状態)であっても、拡散層42とコントロールゲート電極45とが短絡することはない。
【0198】
(4) NOR型フラッシュメモリ
図18は、NORセルユニットの回路図を示している。図19は、NORセルユニットの構造を示している。
【0199】
P型半導体基板41a内には、N型ウェル領域41b及びP型ウェル領域41cが形成される。P型ウェル領域41c内に、本発明の例に係るNORセルが形成される。
【0200】
NORセルは、ビット線BLとソース線SLとの間に接続される1つのメモリセル(MISトランジスタ)MCから構成される。
【0201】
メモリセルMCは、N型拡散層42と、N型拡散層42の間のチャネル領域上のゲート絶縁層43と、ゲート絶縁層43上の記録層(RRAM)44と、記録層44上のコントロールゲート電極45とから構成される。
【0202】
メモリセルMCの記録層44の状態(絶縁体/導電体)は、上述の基本動作により変化させることが可能である。
【0203】
(5) 2トランジスタ型フラッシュメモリ
図20は、2トランジスタセルユニットの回路図を示している。図21は、2トランジスタセルユニットの構造を示している。
【0204】
2トランジスタセルユニットは、NANDセルユニットの特徴とNORセルの特徴とを併せ持った新たなセル構造として開発されたものである。
【0205】
P型半導体基板41a内には、N型ウェル領域41b及びP型ウェル領域41cが形成される。P型ウェル領域41c内に、本発明の例に係る2トランジスタセルユニットが形成される。
【0206】
2トランジスタセルユニットは、直列接続される1つのメモリセルMCと1つのセレクトゲートトランジスタSTとから構成される。
【0207】
メモリセルMC及びセレクトゲートトランジスタSTは、同じ構造を有する。具体的には、これらは、N型拡散層42と、N型拡散層42の間のチャネル領域上のゲート絶縁層43と、ゲート絶縁層43上の記録層(ReRAM)44と、記録層44上のコントロールゲート電極45とから構成される。
【0208】
メモリセルMCの記録層44の状態(絶縁体/導電体)は、上述の基本動作により変化させることが可能である。これに対し、セレクトゲートトランジスタSTの記録層44は、セット状態、即ち、導電体(抵抗小)に固定される。
【0209】
セレクトゲートトランジスタSTは、ソース線SLに接続され、メモリセルMCは、ビット線BLに接続される。
【0210】
メモリセルMCの記録層44の状態(絶縁体/導電体)は、上述の基本動作により変化させることが可能である。
【0211】
図21の構造では、セレクトゲートトランジスタSTは、メモリセルMCと同じ構造を有しているが、例えば、図22に示すように、セレクトゲートトランジスタSTについては、記録層を形成せずに、通常のMISトランジスタとすることも可能である。
【0212】
6. 実験例
いくつかのサンプルを作成し、サイクル寿命ついて評価した実験例を説明する。
【0213】
サンプルとしては、単純化し、直径約60mm、厚さ約1mmのガラス基板からなるディスク上に記録部を形成したものを採用する。
【0214】
(1) 第1実験例
第1実験例のサンプルは、以下の通りである。
【0215】
記録部は、電極層、記録層及び保護層の積層から構成する。電極層は、ディスク上に厚さ約500nmで形成されるPt膜とする。記録層は、ZnV2O3.9F0.1とし、保護層は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)とする。
【0216】
ZnV2O3.9F0.1は、例えば、ディスクの温度を300℃から600℃までの範囲内の値に維持し、Ar 95%, O2 5% の雰囲気中でRFマグネトロンスパッタを行うことにより、ディスク上に厚さ約10nmで形成される。尚、スパッタリングターゲットは、元素それぞれの酸化物及びフッ化物を所望の組成比になるように配合し均一に混合した後、Arガス中で700〜800℃程度の温度で焼結して作成した。また、ダイヤモンドライクカーボンは、例えば、CVD法により、ZnV2O3.9F0.1上に厚さ約3nmで形成される。
【0217】
サンプルの評価は、タングステン(W)からなり、先端径が10nm以下の先鋭化されたプローブを用いて行う。
【0218】
プローブの先端を記録部の表面に接触させ、書き込みは、電極層とプローブとの間に10nsec幅で1Vの電圧パルスを印加し、消去は、電極層とプローブとの間に100nsec幅で0.2Vの電圧パルスを印加する。
【0219】
書き込み/消去後に、それぞれ、電極層とプローブとの間に10nsec幅で0.1Vの電圧パルスを印加して記録層の抵抗値を測定したところ、初期(消去)状態では107Ω台の値であったのに対し、記録(書き込み)状態では103Ω台の値に変化した。
【0220】
その後、サイクル寿命の測定を実施したところ、100000サイクル以上有することが確認された。
【0221】
(2) 第2実験例
第2実験例では、記録層をZnCr2O3.9F0.1とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0222】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0223】
(3) 第3実験例
第3実験例では、記録層をZnMn2O3.9F0.1とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0224】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0225】
(4) 第4実験例
第4実験例では、記録層をZnCo2O3.9F0.1とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0226】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0227】
(5) 第5実験例
第5実験例では、記録層をMgCr2O3.9F0.1とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0228】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0229】
(6) 第6実験例
第6実験例では、記録層をMgMn2O3.9F0.1とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0230】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0231】
(7) 第7実験例
第7実験例では、記録層をMgCo2O3.9F0.1とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0232】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0233】
(8) 第8実験例
第8実験例では、記録層をCoMn2O3.9F0.1とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0234】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0235】
(9) 第9実験例
第9実験例では、記録層をCaCr2O3.9F0.1とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0236】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0237】
(10) 第10実験例
第10実験例では、記録層をCaMn2O3.9F0.1とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0238】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0239】
(11) 第11実験例
第11実験例では、記録層をSrMn2O3.9F0.1とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0240】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0241】
(12) 第12実験例
第12実験例では、記録層を、Ba0.25Mn2O3.9F0.1とBaとの積層にした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法については、Ba0.25Mn2O3.9F0.1をスパッタ法により形成し、Baを約10nmの厚さで形成する点以外は第1実験例と同様に行う。
【0242】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0243】
(13) 第13実験例
第13実験例では、記録層を、Zn0.25Mn2O3.9F0.1とZnとの積層にした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法については、Zn0.25Mn2O3.9F0.1をスパッタ法により形成し、Znを約10nmの厚さで形成する点以外は第1実験例と同様に行う。
【0244】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0245】
(14) 第14実験例
第14実験例では、記録層を、CuAlO1.9F0.1とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0246】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0247】
(15) 第15実験例
第15実験例では、記録層を、MgCrO2.9F0.1とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0248】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0249】
(16) 第16実験例
第16実験例では、記録層をNiWN1.9F0.1とし、保護層をSnO2とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法については、NiWN1.9F0.1を Ar 95%, NH 35% の雰囲気中でスパッタ法により形成する点以外は、第1実験例と同様に行う。
【0250】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0251】
(17) 第17実験例
第17実験例では、記録層をZn1.2V1.8O3.9F0.1とし、保護層をSnO2とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0252】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0253】
(18) 第18実験例
第18実験例では、記録層をZn1.2Cr1.8O3.9F0.1とし、保護層をSnO2とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0254】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0255】
(19) 第19実験例
第19実験例では、記録層をZnAl1.8Cr0.2O3.9F0.1とし、保護層をSnO2とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0256】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0257】
(20) 第20実験例
第20実験例では、記録層をZnAl1.8Mn0.2O3.9F0.1とし、保護層をSnO2とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0258】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0259】
(21) 第21実験例
第21実験例では、記録層をMn3O3.9F0.1とし、保護層をSnO2とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0260】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0261】
(22) 第22実験例
第22実験例では、記録層をCo3O3.9F0.1とし、保護層をSnO2とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0262】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となり、サイクル寿命は、100000サイクル以上有することが確認された。
【0263】
(23) 第1比較例
第1比較例では、記録層をZnV2O4とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0264】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となるものの、サイクル寿命は、2360サイクルであった。
【0265】
(24) 第2比較例
第2比較例では、記録層をZnCr2O4とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0266】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となるものの、サイクル寿命は、3784サイクルであった。
【0267】
(25) 第3比較例
第3比較例では、記録層をZnMn2O4とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0268】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となるものの、サイクル寿命は、12313サイクルであった。
【0269】
(26) 第4比較例
第4比較例では、記録層をZnCo2O4とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0270】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となるものの、サイクル寿命は、1549サイクルであった。
【0271】
(27) 第5比較例
第5比較例では、記録層をMgCr2O4とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0272】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となるものの、サイクル寿命は、653サイクルであった。
【0273】
(28) 第6比較例
第6比較例では、記録層をMgMn2O4とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0274】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となるものの、サイクル寿命は、2413サイクルであった。
【0275】
(29) 第7比較例
第7比較例では、記録層をMn3O4とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0276】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となるものの、サイクル寿命は、1313サイクルであった。
【0277】
(30) 第8比較例
第8比較例では、記録層をCo3O4とした点を除き、第1実験例のサンプルと同じものを使用する。また、製造方法及び評価方法についても、第1実験例と同様に行う。
【0278】
書き込み/消去後の抵抗値は、第1実験例と同様に、103Ω台/107Ω台となるものの、サイクル寿命は、2113サイクルであった。
【0279】
(31) まとめ
以上、説明したように、第1〜第22実験例のいずれのサンプルにおいても、100000サイクル以上のサイクル寿命を有しているが、第1〜第8比較例においては、いずれも20000サイクル以下となっており、実施形態の情報記録再生装置の効果が確認された。
【0280】
尚、表1に、第1〜第22実験例、及び、表2に、第1〜第8比較例の検証結果をまとめたものを示す。
【表1】

【表2】

【0281】
7. ハロゲン含有量とサイクル寿命との関係
実施形態では、記録層の材料(AxMyX4, AxMyX3, AxMyX4)に関し、Xは、O又はNを主成分とし、1%以上30%以下のハロゲン元素を含有する。
【0282】
表3は、ハロゲン含有量とサイクル寿命との関係を示す実験結果である。
【表3】

【0283】
ここで、Mn3O4-xFxは、Mn3X4の陰イオン種(X)が酸素元素(O)と弗素元素(F)であることを意味する。同様に、MnAl2O4-xFxは、MnAl2X4の陰イオン種(X)が酸素元素(O)と弗素元素(F)であることを意味し、CoAl2O4-xFxは、CoAl2X4の陰イオン種(X)が酸素元素(O)と弗素元素(F)であることを意味し、Mn3O4-xClxは、Mn3X4の陰イオン種が酸素元素(O)と塩素元素(Cl)であることを意味する。
【0284】
また、陰イオン種(X)に含有されるハロゲン元素(ここでは、F又はCl)の割合Rは、
R = x/((4-x)+x)
で表される。
【0285】
表3の結果をグラフとして表したのが図23である。
【0286】
同図によれば、0.04≦ x ≦1.2の範囲内においてサイクル寿命100000サイクルを実現できることが分かる。
【0287】
これは、陰イオン種(X)に含有されるハロゲン元素の割合Rで表すと、
0.01≦ R ≦0.3
となる。
【0288】
即ち、陰イオン種(X)に含有されるハロゲン元素の割合が、1%以上、30%以下においてサイクル寿命の向上という効果が発揮される。
【0289】
8. むすび
実施形態によれば、ハロゲン添加により従来の性能に加え更に大幅なサイクル寿命の延命化を実現できる。結果として、高記録密度及び低消費電力の不揮発性の情報記録再生装置を実現できる。
【0290】
このように、実施形態によれば、従来技術では到達することのできない性能を有する情報記録再生装置を可能とする。従って、実施形態は、現在の不揮発性メモリの記録密度の壁を打ち破る次世代技術として産業上のメリットは多大である。
【0291】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0292】
11,13A: 電極層、 12: 記録層、 13B: 保護層、 14: メタル層、 20,30: 半導体チップ、 21: データ領域、 22: サーボ領域、 23: プローブ、 31: ワード線ドライバ&デコーダ、 32: ビット線ドライバ&デコーダ&読み出し回路、 33: メモリセル、 34: ダイオード、 35: ヒータ層、 WLi−1,WL,WLi+1: ワード線、 BLj−1,BL,BLj+1: ビット線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録層と、前記記録層に電圧を印加して前記記録層に相変化を発生させて情報を記録する記録回路とを具備し、
前記記録層は、少なくとも1種類の陽イオン元素と少なくとも1種類の陰イオン元素を有する化合物から構成され、前記陽イオン元素の少なくとも1種類は、電子が不完全に満たされたd軌道を有する遷移元素であり、隣接する陽イオン元素間の平均最短距離は、0.32nm以下であり、
前記記録層は、(i) AxMyX4 (0≦x≦2.2、1.8≦y≦3)、(ii) AxMyX3 (0≦x≦1.1、0.9≦y≦3)及び(iii) AxMyX4 (0≦x≦1.1、0.9≦y≦3)のうちから選択される材料を備える、
但し、(i)及び(ii)に関し、Aは、Na, K, Rb, Be, Mg, Ca, Sr, Ba, Al, Ga, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ge, Ag, Au, Cd, Sn, Sb, Pt, Pd, Hg, Tl, Pb, Bi のグループから選択される少なくとも1種類の元素、Mは、Al, Ga, Ti, Ge, Sn, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Nb, Ta, Mo, W, Ru, Rh のグループから選択される少なくとも1種類の元素であり、
(iii)に関し、Aは、Mg, Ca, Sr, Al, Ga, Sb, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Rh, In, Sb, Tl, Pb, Bi のグループから選択される少なくとも1種類の元素、Mは、Al, Ga, Ti, Ge, Sn, V, Nb, Ta, Cr, Mn, Mo, W, Ir, Os のグループから選択される少なくとも1種類の元素であり、
(i)、(ii)及び(iii)に関し、Xは、O又はNを主成分とし、1%以上30%以下ハロゲン元素を含有する、
ことを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項2】
前記記録層は、スピネル構造、クリプトメレン構造、イルメナイト構造、ホランダイト構造、ウルフラマイト構造、ヘテロライト構造、ラムスデライト構造、デラフォサイト構造、α-NaFeO2構造及びLiMoN2構造のうちから選択される結晶構造を持つ材料により構成されることを特徴とする請求項1に記載の情報記録再生装置。
【請求項3】
前記記録回路は、前記記録層に対して前記電圧を局所的に印加するヘッドを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報記録再生装置。
【請求項4】
前記記録回路は、前記記録層を挟み込むワード線及びビット線を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報記録再生装置。
【請求項5】
前記記録回路は、MISトランジスタを含み、前記記録層は、前記MISトランジスタのゲート電極とゲート絶縁層との間に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の情報記録再生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2012−138512(P2012−138512A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290992(P2010−290992)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.RRAM
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】