説明

感光性フレキソ印刷原版

【課題】
薄膜でありながら高い遮光性と耐傷性を有する感熱マスク層を持つ感光性フレキソ印刷原版を提供する。
【解決手段】
少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)保護層、(D)感熱マスク層が順次積層されてなる感光性フレキソ印刷原版であって、(D)感熱マスク層が、カーボンブラックと、その分散バインダーとしてブチラール樹脂及び極性基含有ポリアミドとを含有することを特徴とする感光性フレキソ印刷原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ製版技術によりフレキソ印刷版を製造するために使用される感光性フレキソ印刷原版に関し、特に、薄膜でありながら高い遮光性と耐傷性を有する感熱マスク層を有する感光性フレキソ印刷原版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキソ印刷の分野において、デジタル画像形成技術として知られるコンピュータ製版技術(Computer to Plate、CTP技術)は極めて一般的なものになってきている。CTP技術は、コンピュータ上で処理された情報を印刷版上に直接出力してレリーフとなる凹凸パターンを得る方法である。この技術により、ネガフィルムの製造工程が不要となり、コストとネガ作成に必要な時間を削減できる。
【0003】
CTP技術では、重合すべきでない領域を覆うために、従来から用いられているネガフィルムが印刷版内で形成統合されるマスクに取って代えられる。この統合マスクを得る方法として、感光性樹脂層上に化学線に対して不透明な感赤外線層(感熱マスク層)を設け、赤外線レーザーでこの感赤外線層を蒸発させることにより画像マスクを形成する方法が広く使用されている(特許文献1参照)。
【0004】
感熱マスク層には、放射線不透明材料であるカーボンブラックとバインダーよりなるものが一般的に使われている。感熱マスク層は赤外線レーザーによりアブレーションされるものであり、より薄い層がアブレーション効率の点から好ましい。また、薄膜であるほどレリーフに与えるシワの影響も少ない。ただし、感熱マスク層は光重合層に対する化学放射線の透過を阻止するために、一般的に2.0以上の透過光学濃度(遮光性)が求められる。理想的な感熱マスク層は、薄膜でありながら所定以上の透過光学濃度(遮光性)を持つ層である。
【0005】
感熱マスク層の光学濃度(遮光性)は一般に以下の式で定義される。
光学濃度 = log(100/T) = εcl
ここでTは透過率(%)、cは赤外線吸収物質の濃度(mol・l−1)、lは厚さ(cm)、εは分子吸光係数(l・mol−1・cm−1)である。上記式から理解できるように、赤外線吸収物質(カーボンブラック)の濃度を高めることで、光学濃度を高めることは可能であるが、この場合、膜が脆くなりすぎ、加工工程で無数の傷が発生する。傷箇所では遮光することができず、レリーフに不要な画像が形成されてしまう。また、塗膜厚みを厚くすることでも光学濃度を高めることができるが、この場合、アブレーションに高エネルギーが必要であり、またレリーフ上にシワを発生させる原因となる。レリーフのシワは感光性樹脂層が柔軟である水現像版では特に顕著な問題となる。
【0006】
一方、遮光性は、同じカーボンブラック濃度、層厚であってもカーボンブラックの分散状態により変化することが知られている。一般に分散状態が良好であるほど高い光学濃度を達成できる。カーボンブラックの分散状態は、バインダー樹脂によって大きな影響を受けるものである。
【0007】
これまで、感熱マスク層のバインダー樹脂としては、ナイロン樹脂(特許文献2参照)、ポリビニルアルコール樹脂(特許文献3参照)、熱分解性ポリマー(特許文献4参照)、または複数のポリマーを使用する方法が知られている。ナイロン樹脂を使用した場合、感熱マスク層の耐傷性は良好であるが、カーボンブラックの分散状態が良好でなく、所定の光学濃度を達成するには層厚を厚くする必要がある。一方、ポリビニルアルコール樹脂を使用した場合、膜の耐傷性に劣るという欠点がある。熱分解性ポリマーを使用した場合も、満足のいくアブレーション効率を得ることはできない。従って、薄膜でありながら高い光学濃度(遮光性)を持ち且つ耐傷性に優れる感熱マスク層は現在のところ存在しないのが実情である。
【特許文献1】特表平7−506201号
【特許文献2】特開平8−305030号
【特許文献3】特開平9−171247号
【特許文献4】特開2002−214792号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は薄膜でありながら高い遮光性と耐傷性を有する感熱マスク層を持つ感光性フレキソ印刷原版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、感熱マスク層のカーボンブラックの分散性を向上させるバインダーとしてブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドを使用することにより、所望の効果が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
即ち、本発明は、少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)保護層、(D)感熱マスク層が順次積層されてなる感光性フレキソ印刷原版であって、(D)感熱マスク層が、カーボンブラックと、その分散バインダーとしてブチラール樹脂及び極性基含有ポリアミドとを含有することを特徴とする感光性フレキソ印刷原版である。
【0011】
本発明の感光性フレキソ印刷原版の好ましい態様では、ブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドの重量比が20〜80:20〜80であり、カーボンブラックと分散バインダーの重量比が25〜50:20〜75である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の感光性フレキソ印刷原版は、感熱マスク層のカーボンブラックの分散バインダーとして、ブチラール樹脂を使用することによりカーボンブラックの分散性の向上を図るとともに、極性基含有ポリアミドも使用することにより耐傷性の向上と極性基による分散性の向上を図っている。従って、本発明によれば、薄膜の感熱マスク層で高い遮光性を達成することができ、結果として低いエネルギーでアブレーションが可能で、レリーフにシワが残りにくいものを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の感光性フレキソ印刷原版を詳細に説明する。
【0014】
本発明のフレキソ印刷原版は、少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)保護層、(D)感熱マスク層が順次積層した構成を有する。
【0015】
本発明の原版に使用される(A)支持体は、可撓性であるが、寸法安定性に優れた材料が好ましく、例えばスチール、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属製支持体、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、またはポリカーボネートフィルムなどの熱可塑性樹脂製支持体を挙げることができる。これらの中でも、寸法安定性に優れ、充分に高い粘弾性を有するポリエチレンテレフタレートフイルムが特に好ましい。支持体の厚みは、機械的特性、形状安定性あるいは印刷版製版時の取り扱い性等から50〜350μm、好ましくは100〜250μmが望ましい。また、必要により、支持体と感光性樹脂層との接着性を向上させるために、それらの間に接着剤を設けても良い。
【0016】
本発明の原版に使用される(B)感光性樹脂層は、合成高分子化合物、光重合性不飽和化合物、及び光重合開始剤の必須成分と、可塑剤、熱重合防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、香料、又は酸化防止剤などの任意の添加剤とから構成される。(B)感光性樹脂層は水系現像液で現像可能なものでも有機溶剤で現像可能なものでもよい。水現像可能な合成高分子化合物としては、ラテックスを使用することが好ましい。
【0017】
使用可能なラテックスとしては、ポリブタジエンラテックス、天然ゴムラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックス、ポリクロロプレンラテックス、ポリイソプレンラテックス、ポリウレタンラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、ビニルピリジン重合体ラテックス、ブチル重合体ラテックス、チオコール重合体ラテックス、アクリレート重合体ラテックスなどの水分散ラテックス重合体やこれら重合体にアクリル酸やメタクリル酸などの他の成分を共重合して得られる重合体が挙げられる。これらの中でも、分子鎖中にブタジエン骨格またはイソプレン骨格を含有する水分散ラテックス重合体が、硬度やゴム弾性の点から好ましく用いられる。具体的には、ポリブタジエンラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、ポリイソプレンラテックスが好ましい。ラテックスは、独立した微粒子としてその存在が確認できることが必要である。
【0018】
本発明の原版に使用される(C)保護層は、感光性樹脂層と感熱マスク層の間の物質移動と、感光性樹脂層の酸素による重合阻害を防止するために設けられる。(C)保護層は特に制限されず、水に可溶性または不溶性のいずれのポリマーを使用しても構成することができる。(C)保護層を構成するポリマーとしては、例えば可溶性ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、アルキルセルロース、セルロース系ポリマー(特にヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース)、セルロースアセテートブチレート、ポリブチラール、ブチルゴム、NBRゴム、アクリルゴム、スチレン―ブタジエンゴム、ラテックス、可溶性ポリエステルが挙げられる。これらのポリマーは、一種類の使用に限定されず、二種類以上のポリマーを組み合わせて使用することもできる。(C)保護層としては、感熱マスク層よりも熱分解温度の高いものが好ましい。保護層の熱分解温度が感熱マスク層よりも低ければ、感熱マスク層のアブレーションの際に、保護層も熱分解されてしまうことがあるからである。
【0019】
保護層の層厚としては、0.2μm〜3.0μmが好ましく、さらに好ましくは0.2m〜1.5μmの範囲である。上記下限未満になると酸素バリア性が不十分であり、レリーフの版面に荒れが生じるおそれがある。上記上限を越えると、細線再現不良が起こるおそれがある。
【0020】
本発明の原版に使用される(D)感熱マスク層は、赤外線レーザーを吸収し熱に変換する機能と紫外光を遮断する機能を有する材料であるカーボンブラックと、その分散バインダーとから構成される。また、これら以外の任意成分として、顔料分散剤、フィラー、界面活性剤又は塗布助剤などを本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0021】
本発明では、カーボンブラックの分散バインダーとしてブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドを併用することを特徴とする。ブチラール樹脂はカーボンブラックの分散性を向上することができ、高い遮光性に寄与することができるが、ブチラール樹脂単独の使用では感熱マスク層の被膜が脆くなり、耐傷性に劣る。そこで、本発明では、この耐傷性を克服するために極性基含有ポリアミドを使用する。極性基含有ポリアミドは、極性基を含有する効果でカーボンブラックの分散性にも優れており、ブチラール樹脂の一部を置き換えても分散性を低下させない。また、ブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドはともにアルコール及び水に溶解するので、これらを分散バインダーとして併用するとフィルム形成時の取り扱いや溶剤及び水での現像性に優れた感熱マスク層を容易に作成することができる。ブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドからなる感熱マスク層は、水に容易に分散するため、特に水現像版の感熱マスク層として好適に用いることができる。
【0022】
分散バインダーとして使用するブチラール樹脂は、ポリビニルブチラールとも言い、ポリビニルアルコールとブチルアルデヒドを酸触媒で反応させて生成するポリビニルアセタールの一種である。
【0023】
分散バインダーとして使用する極性基含有ポリアミドとしては、極性基を持つ共重合ポリアミドが好ましい。使用されるポリアミドは、従来公知のカチオン性ポリアミド、ノニオン性ポリアミド、アニオン性ポリアミドから適宜選択すればよく、例えば、第三アミン基含有ポリアミド、第四アンモニウム塩基含有ポリアミド、エーテル基含有ポリアミド、スルホン酸基含有ポリアミドなどが挙げられる。
【0024】
(D)感熱マスク層の分散バインダー中のブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドの重量比は20〜80:20〜80であることが好ましい。両者の重量比が上記の範囲にないと、カーボンブラックの分散性と感熱マスク層の被膜の耐傷性をバランス良く達成できないおそれがある。
【0025】
(D)感熱マスク層中のカーボンブラックと分散バインダーの重量比は25〜50:20〜75であることが好ましい。両者の重量比が上記の範囲にないと、薄層でカーボンブラックによる遮光性を達成できないおそれがある。
【0026】
(D)感熱マスク層は、化学線に関して2.0以上の光学濃度であることが好ましく、さらに好ましくは2.0〜3.0の光学濃度であり、特に好ましくは、2.2〜2.5の光学濃度である。
【0027】
(D)感熱マスク層の層厚は、0.5〜2.5μmが好ましく、1.0〜2.0μmがより好ましい。上記下限以上であれば、高い塗工技術を必要とせず、一定以上の光学濃度を得ることができる。また、上記上限以下であれば、感熱マスク層の蒸発に高いエネルギーを必要とせず、コスト的に有利である。
【0028】
(D)感熱マスク層上には、剥離可能な可撓性カバーフィルムを設けて印刷原版を保護することが好ましい。好適な剥離可能な可撓性カバーフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルムを挙げることができる。しかしながら、このような保護フィルムは絶対に必要というものではない。
【0029】
本発明のフレキソ印刷原版を製造する方法は特に限定されないが、一般的には以下のようにして製造される。
まず、感熱マスク層のカーボンブラック以外のバインダー等の成分を適当な溶媒に溶解させ、そこにカーボンブラックを分散させて分散液を作製する。次に、このような分散液を感熱マスク層用支持体(例えばPETフィルム)上に塗布して、溶剤を蒸発させる。その後、保護層成分を上塗りし、一方の積層体を作成する。さらに、これとは別に支持体上に塗工により感光性樹脂層を形成し、他方の積層体を作成する。このようにして得られた二つの積層体を、圧力及び/又は加熱下に、感光性樹脂層が保護層に隣接するように積層する。なお、感熱マスク層用支持体は、印刷原版の完成後はその表面の保護フィルムとして機能する。
【0030】
本発明の印刷原版から印刷版を製造する方法としては、保護フィルムが存在する場合には、まず保護フィルムを感光性印刷版から除去する。その後、感熱マスク層をIRレーザにより画像様に照射して、感光性樹脂層上にマスクを形成する。好適なIRレーザの例としては、ND/YAGレーザ(1064nm)又はダイオードレーザ(例、830nm)を挙げることができる。コンピュータ製版技術に好適なレーザシステムは、市販されており、例えばCDI Spark(エスコ・グラフィックス社)を使用することができる。このレーザシステムは、印刷原版を保持する回転円筒ドラム、IRレーザの照射装置、及びレイアウトコンピュータを含み、画像情報は、レイアウトコンピュータからレーザ装置に直接移される。
【0031】
画像情報を感熱マスク層に書き込んだ後、感光性印刷原版にマスクを介して活性光線を全面照射する。これは版をレーザシリンダに取り付けた状態で行うことも可能であるが、版をレーザ装置から除去し、慣用の平板な照射ユニットで照射する方が規格外の版サイズに対応可能な点で有利であり一般的である。活性光線としては、150〜500nm、特に300〜400nmの波長を有する紫外線を使用することができる。その光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ジルコニウムランプ、カーボンアーク灯、紫外線用蛍光灯等を使用することができる。その後、照射された版は現像され、印刷版を得る。現像工程は、慣用の現像ユニットで実施することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
分散バインダーの準備
分散バインダーとして、ブチラール樹脂、第三アミン基含有ポリアミド、エーテル基含有ポリアミド、極性基不含有ポリアミド、及びポリビニルアルコールを準備した。ブチラール樹脂としては、積水化学工業(株)製のBM−5を使用した。第三アミン基含有ポリアミド及びエーテル基含有ポリアミドとしては、以下のようにして合成したものを使用した。極性基不含有ポリアミドとしては、ヘンケル社製のマクロメルト6900を使用した。ポリビニルアルコールとしては、日本合成化学(株)製のGH23を使用した。
【0034】
第三アミン基含有ポリアミドの合成
ε−カプロラクタム50重量部、N,N、−ジ(γ−アミノプロピル)ピペラジンアジペート40重量部、3−ビスアミノメチルシクロヘキサンアジペート10重量部と水100重量部をオートクレーブ中に仕込み、窒素置換後、密閉して徐々に加熱した。内圧が10kg/mに達した時点から、その圧力を保持できなくなるまで水を留出させ、約2時間で常圧に戻し、その後1時間常圧で反応させた。最高重合反応温度は255℃であった。これにより、融点137℃、比粘度1.96の第三アミン基含有ポリアミドを得た。
【0035】
エーテル基含有ポリアミドの合成
数平均分子量600のポリエチレングリコールの両末端にアクリロニトリルを付加し、これを水素還元して得たα,ω−ジアミノポリオキシエチレンとジアジピン酸との等モル塩:60重量部、ε−カプロラクタム:20重量部およびヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩:20重量部を溶融重合して、相対粘度(ポリマー1gを水クロラール100mlに溶解し、25℃で測定した粘度)が2.50のエーテル基含有ポリアミドを得た。
【0036】
感熱マスク層塗工液の調製
表1の感熱マスク層組成に記載の組成(重量比)に従って分散バインダーを溶媒に溶解させ、そこにカーボンブラックを分散させて分散液を調製し、感熱マスク層塗工液とした。なお、使用した溶媒は、実施例1〜4及び比較例1〜3については、メタノールとエタノールの70:30の重量割合の混合液であり、比較例4については、ノルマルブタノールとトルエンの80:20の重量割合の混合液であり、比較例5については、水であった。
【0037】
感熱マスク層の作成
両面に離型処理を施したPETフィルム支持体(東洋紡績(株)、E5000、厚さ100μm)に、感熱マスク層塗工液を、層厚が1.5μmになるように適宜選択したバーコーターを用いて塗工し、120℃×5分乾燥して感熱マスク層を作成した。
【0038】
性能評価
上記のようにして得られた各感熱マスク層の性能を、以下のようにして評価した。
遮光性:白黒透過濃度計DM−520(大日本スクリーン製造(株))を用いて、PE
Tフィルム支持体上に作成された感熱マスク層の光学濃度を測定した。
耐傷性:PETフィルム支持体上に作成された感熱マスク層を20cm×20cmの
正方形に切り取り、その層面に別のPETフィルム(東洋紡績(株)、E50
00、厚さ100μm)を重ね合わせ、その状態を維持して力を掛けずに左右
方向に1回ずつこすった後、感熱マスク層の表面上に形成された傷を、10倍
ルーペを使用して検査した。
○:傷なし。
△:50μm以上の傷が1〜4個ある。
×:50μm以上の傷が5個以上ある。
【0039】
これらの性能評価の結果を以下の表1に示す。

【0040】
表1から明らかな通り、感熱マスク層のカーボンブラックの分散バインダーとしてブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドを併用した実施例1〜4では、層厚1.5μmという薄膜でありながら、遮光性、耐傷性のいずれも優れる。但し、ブチラール樹脂と極性基不含有ポリアミドを併用した比較例3は、耐傷性に優れるが、遮光性が格段に劣る。このため、比較例3の感熱マスク層を使用した印刷原版の場合、ネガとして役割を果せるレベルの遮光性を持たせるためには感熱マスク層の層厚を厚くしなければならない。この結果、高いアブレーションエネルギーが必要となり、また印刷原版中の感光性樹脂層が柔軟である場合、感光性樹脂層のシワの原因ともなる。また、分散バインダーとしてブチラール樹脂を単独で使用した比較例2、及びポリビニルアルコールを単独で使用した比較例5は、遮光性に優れるが、耐傷性に劣る。また、分散バインダーとして極性基含有ポリアミドを単独で使用した比較例1、及び極性基不含有ポリアミドを単独で使用した比較例4は、耐傷性に優れるが、遮光性に劣る。従って、比較例1及び4の感熱マスク層を使用した印刷原版の場合、比較例3の感熱マスク層を使用した印刷原版と同様、感熱マスク層の層厚を厚くしなければならず、高いアブレーションエネルギーの問題や感光性層のシワの問題が生じるであろう。
【0041】
以上の結果から、感熱マスク層のカーボンブラックの分散バインダーとしてブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドを併用すれば、薄膜で高い遮光性と耐傷性を有する感熱マスク層を持つ印刷版が得られると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の感光性フレキソ印刷原版は、薄膜の感熱マスク層であっても高い遮光性と耐傷性を有するので、特に赤外線レーザーでアブレーションされるCTP版として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)保護層、(D)感熱マスク層が順次積層されてなる感光性フレキソ印刷原版であって、(D)感熱マスク層が、カーボンブラックと、その分散バインダーとしてブチラール樹脂及び極性基含有ポリアミドとを含有することを特徴とする感光性フレキソ印刷原版。
【請求項2】
ブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドの重量比が20〜80:20〜80であることを特徴とする請求項1に記載の感光性フレキソ印刷原版。
【請求項3】
カーボンブラックと分散バインダーの重量比が25〜50:20〜75であることを特徴とする請求項1または2に記載の感光性フレキソ印刷原版。

【公開番号】特開2009−300588(P2009−300588A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152884(P2008−152884)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【特許番号】特許第4200510号(P4200510)
【特許公報発行日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】