説明

懸架システム

【課題】自動車が被けん引車をけん引している状態において無理な車高調整が行われることを回避する。
【解決手段】車高調整装置を含む懸架システムにおいて、その懸架システムが搭載されている自動車が被けん引車をけん引していることをけん引検出部により検出してけん引情報を発生させ(S1)、そのけん引情報に応じて車高調整規制部により車高調整装置の作動を規制する(S2)。車高調整の規制は、車高調整の禁止,標準車高への強制復帰,標準車高より低い設定車高への強制移行,車高調整可能範囲の減縮,車高調整装置の作動速度の低減,車高調整装置の作動継続時間の短縮等により行う。さらに、けん引中であることを運転者に報知するとともに(S3)、駆動システム,ブレーキシステム,操舵システム等自動車の走行を制御するのに必要な各システムにけん引情報を供給する(S4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の懸架システムに関するものであり、特に、被けん引車をけん引する機能を有する自動車の懸架システムの制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の中には、被けん引車が連結される連結装置を備え、けん引機能を有するものがあり、下記特許文献1〜3には、けん引中におけるアクティブサスペンションの制御方法が記載されている。
また、特許文献4には、車高調整装置を含む自動車がけん引される場合に、車高調整を禁止することが記載されている。
【特許文献1】特開平7−125524号公報
【特許文献2】特開平7−125525号公報
【特許文献3】特開平7−125526号公報
【特許文献4】実開平3−94309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、連結装置を備え、被けん引車をけん引する機能を有する自動車における懸架システム、特に、車高調整装置において、無用なあるいは不適切な制御が行われることを回避することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明に係る懸架システムは、当該懸架システムが搭載された自動車が被けん引車をけん引していることを検出し、けん引情報を発生させるけん引検出部と、そのけん引情報に応じて前記車高調整装置の作動を規制する車高調整規制部とを含むものとされる。
【発明の効果】
【0005】
自動車が被けん引車をけん引している状態とけん引していない状態とでは、車高調整装置に対する荷重が異なることが多い。したがって、けん引検出部を設け、けん引検出部によってけん引情報が発生させられた場合には、車高調整規制部により車高調整が規制されるようにすることが望ましい。この規制には、後述するように、種々の態様があり得るが、端的なものは車高調整の禁止である。けん引によって後輪側の車高調整装置に対する荷重が大きくなっており、車高を高めることが困難あるいは不可能な状態で、車高調整装置に車高を高めるべき旨の指令が供給されれば、車高調整装置が無理な作動を続けることとなり、エネルギが無駄になり、場合によっては過熱状態となり、甚だしい場合には耐久性の低下,故障等の原因となる。自動車が被けん引車をけん引中であることは運転者には判っているため、手動操作により車高調整装置が作動しない状態とすることはできるのであるが、その場合には操作忘れや誤操作により、けん引状態で車高調整が行われてしまう可能性がある。それに対し、けん引状態であることが検出され、けん引状態では車高調整が自動的に禁止されるようにしておけば、上記問題の発生を確実に回避することができる。
【発明の態様】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(5)項が請求項3に、(9)項が請求項4に、(12)項が請求項5に、(13)項が請求項6に、(14)項が請求項7に、(15)項が請求項8にそれぞれ相当する。
【0008】
(1)車高調整装置を含む懸架システムであって、
当該懸架システムが搭載された自動車が被けん引車をけん引していることを検出し、けん引情報を発生させるけん引検出部と、
そのけん引情報に応じて前記車高調整装置の作動を規制する車高調整規制部と
を含むことを特徴とする懸架システム。
(2)前記けん引検出部が、
前記被けん引車との接続部の状態を検出する接続部状態検出部と、
その接続部状態検出部により検出された接続部の状態に基づいて前記けん引を検出する接続部状態依拠検出部と
を含む(1)項に記載の懸架システム。
被けん引車との接続部の状態を接続部状態検出部により検出すれば、それの検出結果に基づいてけん引を検出することができる。
接続部状態検出部を複数種類含み、それら複数種類の接続部状態検出部の検出結果に基づいて接続部状態依拠検出部がけん引を検出するようにすることも可能であり、(a)複数種類の接続部状態検出部がいずれも接続状態を示す場合に、接続部状態依拠検出部がけん引を検出するようにすれば、誤ってけん引が検出されることを回避することができ、(b)いずれか一つでも接続状態を示す場合にけん引を検出するようにすれば、一部の接続部状態検出部が失陥した状態においてもけん引を検出することができる。3種類以上の接続部状態検出部を設け、それらのうちの一部ずつに上記(a)と(b)とを採用すれば、両方の作用効果が得られる。
(3)前記接続部状態検出部が、前記被けん引車の電気部品への配線の前記自動車側の部分と前記被けん引車側の部分との接続の有無を検出する配線接続有無検出部を含む(2)項に記載の懸架システム。
被けん引車に電気部品が設けられ、その電気部品への電流や制御信号が自動車側から供給される場合には、そのための配線の自動車側の部分と被けん引車側の部分とが、自動車と被けん引車との連結時に接続されることが必要である。例えば、被けん引車のテールランプが点灯されるようにすること、例えば、自動車のブレーキ操作に応じて被けん引車のブレーキランプが点灯されるようにすることが法的に義務付けられているため、ブレーキランプを含むテールランプは上記電気部品として特に好適なものである。そして、配線の自動車側の部分と被けん引車側の部分とが接続されたか否かは、自動車側において電気的に容易に検出することができる。したがって、配線接続有無検出部により接続状態検出部を構成すれば安価に目的を達し得る。
(4)前記接続部状態検出部が、前記自動車と前記被けん引車とを機械的に連結する連結装置が連結状態にあるか否かを検出する連結装置状態検出部を含む(2)項または(3)項のいずれかに記載の懸架システム。
けん引車をけん引するためには、機械的な連結装置の連結が不可欠であるため、連結装置が連結状態にあるか否かを検出する連結装置状態検出部により接続部状態検出部を構成すれば、配線接続有無検出部により接続部状態検出部を構成する場合に比較して、より確実にけん引状態を検出することが可能となる。機械的な連結装置の連結に伴って、電気配線が必然的に接続される構成とし、その電気配線を接続部状態検出部として利用することも可能であり、そのようにすれば、信頼性向上とコスト低減との両立を図り得る。
(5)前記けん引検出部が、
前記自動車の実際の状態量である実状態量を検出する1つ以上の状態量検出装置と、
その状態量検出装置により検出された実状態量に基づいてけん引を検出する実状態量依拠検出部と
を含む(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の懸架システム。
状態量検出装置により検出される実状態量は、自動車が被けん引車をけん引している状態とけん引していない状態とでは明瞭に異なることが多い。したがって、そのような状態量検出装置により検出された実状態量に基づけば、実状態量依拠検出部によりけん引(けん引中であること)を検出することができる。実状態量依拠検出部は、例えば、実状態量と、非けん引状態における対応する状態量である基準状態量との相違状態が設定相違状態以上である場合に、けん引を検出するものとすることができる。上記相違状態には、検出状態量の基準状態量からの偏差,その偏差の変化速度,偏差の変化形態等、状態量自体の相違態様は勿論、基準状態と相違した状態の継続時間の長さ等も含まれる。
状態量検出装置を複数設ける場合には前記(2)項に関する説明が当てはまる。また、実状態量が設定時間以上の間けん引を示す場合に、実状態量依拠検出部がけん引を検出するようにすることによっても、誤ってけん引が検出されることを回避することができる。
(6)前記状態量検出装置が、少なくとも、前記自動車の後輪に対応する車高を検出する後輪車高検出装置を含む(5)項に記載の懸架システム。
けん引状態におていは、後輪車高が通常より低くなることが多く、その場合には後輪車高に基づいてけん引を検出することができる。後輪車高のみからは、車高が低く制御されているのか、けん引に起因して後輪車高が低くなっているのかが不明の場合があるが、その場合には、自動車の後輪に対応する後輪車高が低く、前輪に対応する前輪車高が高くなることが多い事実を利用することができる。例えば、前輪車高と後輪車高との差、あるいは前輪車高の標準前輪車高からの偏差と後輪車高の標準後輪車高からの偏差との比較等に基づけば、けん引を検出することができるのである。
(7)前記状態量検出装置が、前記自動車の実際の旋回状態量である実旋回状態量を検出する旋回状態量検出装置を含む(5)項または(6)項に記載の懸架システム。
ヨーレイト,横加速度等が旋回状態量の例であるが、これらは自動車が被けん引車をけん引している状態では、非けん引状態においてはあり得ない変化形態や大きさを示すことが多い。したがって、実旋回状態量に基づけばけん引を検出することができる。
(8)前記状態量検出装置が、少なくとも、前記自動車の後輪に対する荷重である後輪荷重を検出する後輪荷重検出装置を含む(5)項ないし(7)項のいずれかに記載の懸架システム。
けん引状態におていは、後輪荷重が通常より大きくなることが多く、その場合には後輪荷重に基づいてけん引を検出することができる。後輪荷重検出装置に加えて前輪荷重検出装置も設ければ、けん引に起因して後輪荷重が大きくなる一方、前輪荷重が小さくなっていることを検出することができ、けん引を一層高い信頼性を以て検出することができる。
(9)前記けん引検出部が、
前記自動車の2種以類上の実際の状態量である実状態量を検出する2つ以上の状態量検出装置と、
それら2つ以上の状態量検出装置の一部のものの検出値である実状態量に基づいて非けん引状態における残りの状態量検出装置に対応する状態量を推定し、その推定した状態量である推定状態量と前記残りの状態量検出装置により実際に検出された実状態量との相違状態が設定相違状態以上である場合に、けん引を検出する状態量相違依拠検出部と
を含む(1)項ないし(8)項のいずれかに記載の懸架システム。
(7)項におけるように実旋回状態量に基づけばけん引を検出できる場合が多いが、さらに操舵角および車速のように、旋回を生じさせる原因となる状態量にも基づけば、一層高い信頼性を以てけん引を検出することができる。上記相違状態には、実状態量の推定状態量からの偏差,その偏差の変化速度,偏差の変化形態等、状態量自体の相違態様は勿論、推定状態とは相違した状態の継続時間の長さ等も含まれる。上記実旋回状態量と操舵角および車速と同様な関係にある2種以上の状態量はこれらの他にも、例えば下記のように存在する。
(10)前記状態量検出装置が、実際の旋回状態量である実旋回状態量を検出する旋回状態量検出装置と、操舵装置の操舵量を検出する操舵量検出装置および前記自動車の車速を検出する車速検出装置とを含み、前記状態量相違依拠検出部が、前記操舵量および前記車速から非けん引状態における旋回状態量を推定する旋回状態量推定部と、その旋回状態量推定部により推定された旋回状態量である推定旋回状態量と前記旋回状態量検出装置により検出された実旋回状態量とに基づいてけん引を検出する旋回状態量相違依拠検出部とを含む(9)項に記載の懸架システム。
(11)前記状態量検出装置が、前記自動車の前後方向の実際の加速度である実加速度を検出する加速度検出装置と、前記実加速度発生の原因となった状態量である加速度要因状態量を検出する加速度要因状態量検出装置とを含み、前記状態量相違依拠検出部が、前記加速度要因状態量から非けん引状態における加速度を推定する加速度推定部と、その加速度推定部により推定された推定加速度と前記加速度検出装置により検出された実加速度とに基づいてけん引を検出する加速度相違依拠検出部とを含む(9)項または(10)項に記載の懸架システム。
上記加速度には正の加速度(狭義の加速度)のみならず、負の加速度(すなわち減速度)も含まれる。したがって、加速度要因状態量には、アクセルペダル等加速操作部材の操作量やエンジントルク等駆動量のみならず、ブレーキペダル等制動操作部材の操作量や制動トルク,ブレーキ液圧等制動量も含まれる。
被けん引車をけん引している場合には、同じ駆動量や制動量に対して得られる加速度の絶対値が小さくなる。したがって、例えば、推定加速度と実加速度との差の絶対値が設定値以上である場合には、被けん引車をけん引していると検出することができる。
(12)前記けん引検出部が、
(a)前記被けん引車との接続部の状態を検出する接続部状態検出部と、その接続部状態検出部により検出された接続部の状態に基づいて前記けん引を検出する接続部状態依拠検出部と、
(b)前記自動車の1つ以上の実際の状態量である実状態量を検出する状態量検出装置と、その状態量検出装置により検出された実状態量に基づいてけん引を検出する実状態量依拠検出部と、
(c)前記自動車の2種以上の実際の状態量である実状態量を検出する2つ以上の状態量検出装置と、それら2つ以上の状態量検出装置の一部のものの検出値である実状態量に基づいて非けん引状態における残りのものに対応する状態量を推定し、その推定した状態量である推定状態量と前記残りのものにより実際に検出された実状態量との相違状態が設定相違状態以上である場合に、けん引を検出する状態量相違依拠検出部と
の3つのうちの少なくとも2つを含む(1)項に記載の懸架システム。
本項に係る懸架システムには、前記(2)項に関して行った説明が当てはまる。
(13)前記車高調整規制部による車高調整の規制が、車高調整の禁止,標準車高への強制復帰,標準車高より低い設定車高への強制移行,車高調整可能範囲の減縮,車高調整装置の作動速度の低減,車高調整装置の作動継続時間の短縮の少なくとも1つを含む(1)項ないし(12)項のいずれかに記載の懸架システム。
上記種々の形態の各々については後に実施例の項において説明する。
(14)前記自動車がけん引中であることを運転者に報知するけん引報知装置を含む(1)項ないし(13)項のいずれかに記載の懸架システム。
けん引中は、自動車の操縦を非けん引状態における操縦とは異ならせることが望ましいのであるが、けん引に慣れていない運転者はついけん引中であることを忘れる場合がある。そこで、運転者にけん引中であることを認識させ続けることが望ましいのであるが、煩わし過ぎることは望ましくない。そこで、けん引報知装置としては、例えば、点灯あるいは点滅を継続するランプ、一定時間毎あるいは自動車の旋回,制動,加速等の開始毎等に音で報知するブザー等の音発生器または声で報知するスピーカ、画像で表示するディスプレイ等が好適である。
(15)前記自動車の当該懸架システム以外の装置に前記けん引情報を供給するけん引情報供給部を含む(1)項ないし(14)項のいずれかに記載の懸架システム。
駆動システム,ブレーキシステム,操舵システム,トラクション制御システム,アンチロック制御システム,操縦安定性制御システム等、自動車の走行を制御するのに必要な各システムの制御は、自動車が被けん引車をけん引している状態とけん引していない状態とでは、制御ゲイン,しきい値等、制御条件を異ならせることが望ましいものである。例えば、けん引状態では、加速すべき質量が被けん引車分大きいため、自動車を非けん引状態におけると同じ加速度で加速するために必要な駆動源の駆動トルクが大きく、同様に、所要制動トルクも大きい。さらに、前輪と後輪とに対する荷重が異なるため、トラクション制御装置,アンチロック制御装置等の制御条件も変えることが望ましい。また、旋回時には、被けん引車から自動車に、非けん引状態では加えられないヨーモーメントが加えられるため、操舵システム,操縦安定性制御システム等の制御条件も非けん引状態におけるものとは異ならせることが望ましい。
けん引情報供給部を設ければ、この供給部から、自動車の走行を制御するのに必要なシステムの少なくとも1つに、自動車が被けん引車をけん引している旨の情報を供給することができるため、その情報に基づいて、そのシステムにおいて、制御条件を非けん引状態におけるものと異ならせ、その異ならせた制御条件でシステムを制御することが可能となる。
(16)被けん引車が連結される連結装置と、
前記被けん引車をけん引していることを検出し、けん引情報を発生させるけん引検出部と、
そのけん引情報を利用するけん引情報利用部と
を含むことを特徴とするけん引機能を有する自動車。
上記各項に記載の特徴は本項の自動車にも適用可能である。本項に係る発明においては、車高調整装置あるいは懸架システムも自動車の制御システムの一つと考えることとする。
【実施例】
【0009】
以下、請求可能発明の実施例を、図面を参照しつつ説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、上記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更を施した態様で実施することができる。
【0010】
本実施例の懸架システムは、図1に示す四輪駆動車2に搭載される4輪独立懸架式の懸架システムである。四輪駆動車2は、連結装置3を備えており、この連結装置3に連結される被けん引車4をけん引する機能を有するものである。被けん引車はブレーキランプを含むテールランプ5を備えており、このテールランプ5に電流を供給するための配線6の、四輪駆動車2側の部分と被けん引車6側の部分とが、コネクタ8により接続される。
【0011】
本懸架システムは、図2に示すように、左側前輪FL,右側前輪FR,左側後輪RL,右側後輪RRの4つの車輪に設けられた4つの懸架シリンダ10と、それら懸架シリンダ10の各々と接続された制御シリンダ12と、それら懸架シリンダ10の各々にそれぞれ並列的に接続された2つのアキュムレータである第1アキュムレータ14,第2アキュムレータ16と、各懸架シリンダ10と各第2アキュムレータ16との連通の有無を切換える第2アキュムレータ切換弁18(以下、単に「切換弁18」と略す場合がある)と、車高調整装置20と、本懸架システムの制御装置である電子制御ユニット(ECU)22とを含んで構成されている。本懸架システムは、作動液として作動油を使用する油圧システムとして構成されている。なお、懸架シリンダ10,第1アキュムレータ14,第2アキュムレータ16,切換弁18は、総称であり、以下の説明において、どの車輪に対するものであるかを明確にする必要のある場合には、図に示すように、車輪位置を示す添え字(FL,FR,RL,RR)を付すこととする。
【0012】
懸架シリンダ10の各々は、サスペンションスプリングであるコイルスプリング(図示を省略)とともに、車輪と車体との間に配設されている。懸架シリンダ10は、ハウジング30と、ハウジング30内部を移動可能とされたピストン32と、一端部がピストン32に連結され他端部がハウジング30より延び出すピストンロッド34とを含んで構成されている。懸架シリンダ10は、ピストンロッド34のハウジング30から延び出した一端部が車輪に連結され、ハウジング30のピストンロッド34が延び出していない端部が車体の一部に連結されるようになっており、車体の一部に対する車輪の上下動に伴って伸縮する。
【0013】
懸架シリンダの10の各々において、ハウジング30の内部は、ピストン32によって、ピストンロッド34が存在していない側の作動液室36と、ピストンロッド34が存在する側の作動液室38との2つの作動液室に区画されている。また、ピストン32には、絞りを有して2つの作動液室36,38を連通させる連通路40が設けられており、車体の一部に対する車輪の上下動によって、ピストン32がハウジング30内を移動する際に、作動液がその連通路40を通って移動可能とされている。この絞りを有する連通路40の存在により、懸架シリンダ10は、減衰力を発生させるもの、つまり、ショックアブソーバとして機能するものなっている。
【0014】
また、各々の懸架シリンダ10の作動液室36には、作動液を流入・流出可能なポートが設けられており、そのポートは、可変絞り弁50を介して、制御シリンダ12への液通路である主管路52に接続されている。車輪の車体の一部に対する上下動によりピストン32がハウジング30内を移動することにより、作動液室36に対して作動液が流入・流出するようになっている。なお、この可変絞り弁50は、懸架シリンダ10に対して流入・流出する作動液の流れを絞るものであり、その絞り量が可変とされていることで、懸架シリンダ10が発生させる減衰力を調節する機能を有するもの、つまり、減衰力調整機構を構成するものとされている。なお、可変絞り弁50,主管路52は総称であり、どの車輪に対するものであるかを明確にする必要がある場合には、図に示すように、車輪位置を示す添え字を付す。
【0015】
制御シリンダ12は、ハウジング54と、ハウジング54内部を移動可能なピストン組立体56(「シリンダ区画体」の一態様である)とを含んで構成されている。ピストン組立体56は、2つのピストン58と、それら2つのピストン58を連結する連結部材60とを含んで構成されている。ハウジング54には仕切壁62が設けられており、連結部材60は、その仕切壁62を貫通して配設されている。このような構造により、制御シリンダ12は、互いに液密な4つの作動液室64,66を有するものとされている。詳しく言えば、2つのピストン58の各々と仕切壁62の間に2つの内側液室64を有し、ピストン58の各々を挟んで2つの内側液室64の反対側に2つの外側液室66を有している。なお、ピストン58,内側液室64,外側液室66は、左右の車輪のいずれに対応するものかを明確にする必要がある場合において、図に示すように、車輪の左右を示す添え字(L,R)を付す。
【0016】
2つの内側液室64および2つの外側液室66の各々には、それら各々に対して作動液が流入・流出可能なポートが設けられており、そのそのポートには、上述の主管路52が接続されている。具体的には、左側前輪FLの懸架シリンダ10FLからの主管路52FLが、外側液室66Lに、右側前輪FRの懸架シリンダ10FRからの主管路52FRが、外側液室66Rに、それぞれ接続されており、左側後輪RLの懸架シリンダ10RLからの主管路52RLが、内側液室64Lに、右側後輪RRの懸架シリンダ10RRからの主管路52RRが、内側液室64Rに、それぞれ接続されている。制御シリンダ12において、ピストン組立体56は、各作動液室64,66内の作動液の圧力の変化によって移動し、それらの作動液室64,作動液室66の圧力バランス、つまり、各懸架シリンダ10の作動液室36の圧力バランスに応じた位置に位置させられる。つまり、制御シリンダ12は、4つの懸架シリンダ10の作動を関連付けるものとされているのである。
【0017】
上述した構成から、制御シリンダ12のピストン組立体56には、各車輪に設けられた懸架シリンダ10の液圧(詳しくは、作動液室36の液圧)に応じた力(概ねその液圧と受圧面の受圧面積との積で表される力)が作用し、静止状態においては、これらが釣り合っている。路面から前後左右の車輪の1つに外部入力が加わってその1輪が昇降しようとする場合、あるいは互いに対角に位置する懸架シリンダ10FLとが懸架シリンダ10RRとが共に縮み、別の対角に位置する懸架シリンダ10FRと懸架シリンダ10RLとが伸びようとする場合には、制御シリンダ12においてピストン組立体56が移動し、それら懸架シリンダ10の動作を許容する。それにより、起伏の大きな悪路等を走行する場合において、車体姿勢に関して高い安定性が得られるとともに、4つの車輪の接地性が高められることになる。一方、車体にピッチングモーメントあるいはローリングモーメントが作用した場合には、制御シリンダ12のピストン組立体56に作用する力が釣り合い、あるいは力の差が小さいために、ピストン組立体56が移動しないか、移動しても移動量が小さく、ピッチングやローリングの発生が防止あるいは抑制される。
【0018】
各車輪ごとに設けられている第1アキュムレータ14は、主管路52の懸架シリンダ10に近い箇所に接続されており、懸架シリンダ10の作動液室36と連通させられている。また、第2アキュムレータ16は、主管路52の懸架シリンダ10に近い箇所に、切換弁18を介して接続されている。つまり、2つのアキュムレータ14,16は、互いに並列的に配設され、懸架シリンダ10の同じ作動液室36に連通させらるものとなっている。
【0019】
切換弁18は、常開の電磁式開閉弁であって非励磁状態において連通状態となっており、その状態において、第2アキュムレータ16は懸架シリンダ10の作動液室36と連通させられている。切換弁18が励磁状態とされた場合には、切換弁18は非連通状態となり、その状態では、第2アキュムレータ16と懸架シリンダ10との連通が遮断されることになる。なお、第1アキュムレータ14および第2アキュムレータ16は、主管路52によって、制御シリンダ12の4つの作動液室64,66のいずれかとも連通させられあるいは連通可能なものとされている。
【0020】
第1アキュムレータ14および第2アキュムレータ16は、いずれもばねとしての機能を有するものであり、両者が懸架シリンダ10に対して並列的に接続された構造により、懸架シリンダ10と2つのアキュムレータ14,16とにより1つのばねが構成されることとなる。切換弁18によって、第2アキュムレータ16と懸架シリンダ10との連通の有無が切換えられることにより、そのばねのばね定数が変更される。なお、第2アキュムレータ16のばね定数は、第1アキュムレータ14のばね定数より小さいものとされており(第1アキュムレータ14が高圧アキュムレータとされ、第2アキュムレータ16が低圧アキュムレータとされていると言うことができる)、切換弁18による連通の有無の切換により、ばね定数は、比較的大きく変更されることとなる。
【0021】
車高調整装置20は、ポンプ80とポンプモータ82とを備えたポンプ装置84,リザーバ86,蓄圧用アキュムレータ88,車高調整用バルブセット90等を含んで構成されている。リザーバ86とポンプ80とは汲上通路92によって接続され、ポンプ80の吐出側にはポンプ通路94が接続されている。ポンプ通路94には、ポンプ圧を検出する圧力センサ96,逆止弁98,消音用アキュムレータ100が接続されているとともに、蓄圧用アキュムレータ88が常閉の電磁式開閉弁である蓄圧用アキュムレータ弁102を介して接続されている。さらに、ポンプ通路94と汲上通路92とをポンプ80をバイパスして接続する流出通路104が設けられ、流出通路104には常閉の電磁式開閉弁である流出弁106が設けられている。
【0022】
ポンプ通路94は、4つの主管路52の各々に接続される4つの流出入路108に分岐しており、それら流出入路108によって、作動液が、懸架シリンダ10の各々対して流出入させられる。車高調整用バルブセット90は、6つの常閉の電磁式開閉弁から構成され、それらうちの4つのものである流出入路開閉弁110の各々は、4つの流出入路108の各々に、その各々の導通・非導通状態を切換えるべく設けられており、残る2つの電磁式開閉弁である左右連通弁112F,112R(「左右連通弁112」と総称する場合がある)が、前輪側、後輪側の各々の2つの流出入路108を互いに連通可能とすべく、上記流出入路開閉弁110の懸架シリンダ10側に設けられている。4つの流出入路開閉弁110の各々を開弁することにより、4つの懸架シリンダ10の各々のシリンダ長が、すなわち、各懸架シリンダ10が設けられている部分の車高が、独立して調整可能とされ、また、左右弁通弁112の各々を開弁することで、前輪側、後輪側の各々における左右の車高が、独立して整合可能とされている。なお、流出入路108,流出入路開閉弁110は、総称であり、以下の説明において、どの車輪に対するものであるかを明確にする必要がある場合には、図に示すように、車輪位置を示す添え字(FL,FR,RL,RR)を付す。
【0023】
前述した4つの切換弁18、4つの可変絞り弁50および車高調整装置20(詳しくは、各種開閉弁,ポンプ装置)の作動は、ECU22によって制御される。ECU22は、コンピュータと駆動回路とを含んで構成される電子式の制御装置である。また、本懸架システムには、各種のスイッチ、制御のために依拠する情報としての車両の操作状態,走行状態を検出するための各種のセンサ等が設けられ、ECU22に接続されている。具体的に言えば、各車輪に対しては、車輪とそれが設けられている車体の一部との車両高さ方向の距離(以下、「車輪車体間距離」あるいは単に「車高」という場合がある。例えば、懸架シリンダ10の全長等であってもよい)を検出する車高センサ120(H)、車輪の荷重を検出する荷重センサ121(L)、車輪の回転速度を検出するための車輪速センサ122(v)が設けられており、また、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサ124(θ)、ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ125(Y)、ブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ126(B)、所望の車高を選択するための車高モードスイッチ128(HM)、前記テールランプ5を接続するための配線6がコネクタ8により接続された状態にあるか否かを電気的に検出する電気接続センサ130(EC)、前記連結装置3が連結状態にあるか否かを検出する連結センサ132(MC)、車高調整装置20による車高調整が制限されている状態を解除するために手動操作される制限解除スイッチ134(RC)等がそれぞれ設けられている。荷重センサ121としては、例えば、ショックアブソーバ10の液圧室36の液圧を検出する液圧センサを採用することができ、連結センサ132としては、例えば、光電スイッチ,リミットスイッチ等を採用することができる。
【0024】
本懸架システムの制御装置であるECU22を機能構成をブロック図で概念的に示せば、図3のようになる。ECU22は、コンピュータ138と、駆動回路142,144,146,148,150とを含んで構成されている。コンピュータ138は、切換弁18に関する制御を行う切換弁制御部160と、可変絞り弁50に関する制御を行う可変絞り弁制御部162と、車高調整装置20に関する制御を行う車高調整制御部164とを構成している。
【0025】
また、コンピュータ138は、入出力インターフェース(I/O)170を有しており、そのI/O170には、第2アキュムレータ切換弁18,可変絞り弁50,車高調整装置20,報知ランプ152,スピーカ154が、それぞれ駆動回路142〜150を介して接続されている。また、I/O170には他のシステムの電子制御ユニット(他のECU)156が接続されている。他のECU156には、駆動システムとしての電子制御エンジン、ブレーキシステムとしての電子制御液圧ブレーキシステム、操舵システムとしてのパワーステアリングシステム、路面との間の摩擦力に対して駆動トルクが過大であるために発生する駆動輪スリップを抑制するトラクション制御システム、路面との間の摩擦力に対して制動トルクが過大であるために発生する車輪スリップを抑制するアンチロック制御システム、本四輪駆動車2がステアリングホイールの操作状態に適切に従って走行するように制御する操縦安定性制御システム等が含まれている。
【0026】
I/O170にはさらに、先に説明した車高センサ120,荷重センサ121,車輪速センサ122,操舵角センサ124,ブレーキ液圧センサ126,車高モードスイッチ128,電気接続センサ130,連結センサ132,制限解除スイッチ134等がそれぞれ接続されている。
なお、車高調整装置20に関しては簡略化して示しているが、実際には、制御対象となるアクチュエータであるポンプモータ82,蓄圧用アキュムレータ弁102,流出弁106,流出入路開閉弁110,左右連通弁112等が、個々に、それぞれの駆動回路を介してI/O170に接続され、また、圧力センサ90がI/O170に接続される構成となっている。
【0027】
前記切換弁制御部160,可変絞り弁制御部160,車高調整制御部164等は、コンピュータ138のROMに記憶された制御プログラムの実行によりそれぞれの制御を行うものであるが、本発明の理解には不必要な部分は説明を省略し、車高調整制御部164における制御についてのみ説明する。
本懸架システムにおいては、4つの車輪を個別に車高調整可能となっているが、説明を単純化するために、主として、4輪全てについて共通に車高調整がなされる場合を説明する。車高調整制御は、車高調整装置20を制御することによって行われる。本懸架システムでは、車高が「高」,「標準」,「低」の3つの状態をとり得るように設定されている。つまり、車高に対して3つのモードが用意されおり、そのモードの選択は、運転者による車高モードスイッチ128による操作によって行われる。運転者によるモード選択がなされた場合には、マニュアル車高調整が実行される。このマニュアル車高調整は、車輪速センサ122の検出値に基づいて車両速度を判断し、車両が略停止している状態においてのみ実行されるように制限されている。実際の車高は、4つの車高センサ120の検出値に基づいて取得され、各モードについて設定されている目標値との偏差に基づいて車高調整がなされる。
【0028】
マニュアル車高調整において、車高を上げる必要がある場合は、蓄圧用アキュムレータ弁102が開弁されるとともにポンプ80が作動させられ、流出入路開閉弁110が開弁されることで、作動液がリザーバ86から汲上られて流出入路108から主管路を52を通って懸架シリンダ10に流入する状態とされる。実際の車高が目標値となるまで、その状態が維持され、実際の車高が目標値となった場合は、流出入路開閉弁110が閉弁され、その後、圧力センサ96によって検出されるポンプ通路94の作動液圧、つまり、蓄圧アキュムレータ88の液圧が、設定された圧力(次の車高を上げるための作動が実行可能な程度の圧力として設定されている)となった場合に、蓄圧用アキュムレータ弁102が閉弁されてポンプ80の作動が停止させられる。逆に、車高を下げる必要がある場合は、流出弁106が開弁されるとともに、流出入路開閉弁110が開弁されることで、懸架シリンダ10から作動液がリザーバ86に戻される状態とされる。実際の車高が目標値となるまで、その状態が維持され、実際の車高が目標値となった場合は、流出入路開閉弁110が閉弁され、流出弁106が閉弁される。
【0029】
本懸架システムでは、上記マニュアル車高調整の他に、車両の速度に基づくオート車高調整が行われる。オート車高調整は、車輪速センサ122の検出値から得られる車両速度が設定速度(例えば、40km/h)より大きい状態が設定時間連続する場合に、車高モードスイッチ128の操作によって指定されているモードから、1段階車高の低いモードに変更し、車両速度が設定速度以下の状態が設定時間連続する場合に、変更された車高モードを復帰させる制御である(指定されているモードが低の場合は除く)。このオート車高調整は、比較的高速の走行状態において車両の挙動を安定させるために行う制御である。調整のための車高調整装置20の制御作動は、マニュアル車高調整と同様に行われる。
【0030】
以上、4輪全てについて共通に車高調整がなされる場合のみを説明したが、4つの車輪に関して個別に車高調整する場合は、流出入路開閉弁110を個別に制御作動すればよく、また、前輪側、後輪側の各々の左右の車輪に関して共通に、かつ、前輪側、後輪側に関して個別に車高調整する場合は、左右連通弁112を開弁した状態において調整すればよい。以上説明した、車高調整制御は、ECU22が車高調整制御ルーチンを実行することによって行われるが、ECU22におけるそのルーチンを実行する部分が車高調整制御部164を構成している。
【0031】
四輪駆動車2が被けん引車4をけん引していない状態では、このように車高調整が行われるが、被けん引車4をけん引している状態では、車高調整装置20の作動が規制される。この規制は図4〜7に示すフローチャートで表される車高調整規制プログラムの実行により行われる。まず、図4に示す車高調整規制メインプログラムのステップ1(以下、S1と略記する。他のステップについても同様とする。)において、本四輪駆動車2が被けん引車4をけん引しているか否かの判定が行われ、S2で必要に応じて車高調整の規制が行われ、S3で運転者に対してけん引中であるか否かの報知が行われ、S4で懸架システム以外のシステムに対してけん引中であるか否かの情報の提供が行われる。本車高調整規制プログラムは、キースイッチがONの状態にある間、繰り返し実行される。
【0032】
上記けん引判定ステップの詳細(けん引判定ルーチン)を図5に示す。S11において、配線6がコネクタ8により接続状態にあるか否かが、電気接続センサ130の出力(検出信号)に基づいて判定され、S12において、連結装置3に被けん引車4が連結されているか否かが、連結センサ132の出力に基づいて判定される。いずれか一方の判定結果がYESの場合には、S13において、車高センサ120の検出結果に基づいて前輪側の車高から後輪側の車高を差し引いた前後車高差が設定差以上であるか否かが判定される。その判定の結果がNOであれば、S14において、荷重センサ121の出力に基づいて、後輪の荷重から前輪の荷重を差し引いた前後輪荷重差が正であるか否かが判定される。本四輪駆動車2は、非けん引状態においては、上記差が負になるように設計されているのであるが、けん引状態においては後輪側の荷重が増加する一方、前輪側の荷重が減少し、差が負になるため、その事実の有無がS14において判定されるのである。
【0033】
S13,S14のいずれかの判定結果がYESであれば、S15において本四輪駆動車2が走行中であるか否かが、車輪速センサ122の検出結果から演算される車速(四輪駆動車2の走行速度)に基づいて判定される。そして、走行中であれば、S16,S17およびS18の各々において、旋回状態量,加速度および減速度がそれぞれけん引を示唆しているか否かが判定される。旋回状態量がけん引を示唆しているか否かは、例えば、操舵角センサ124の検出結果と上記車速とに基づいてヨーレイトが推定され、その推定された推定ヨーレイトと、ヨーレイトセンサ125により検出された実ヨーレイトとのヨーレイト偏差の絶対値が、設定ヨーレイト偏差以上であるか否かにより判定されるようにすることができる。上記推定ヨーレイトの推定は、本四輪駆動車が非けん引状態にあると仮定して行われる。下記の推定加速度および推定減速度の推定についても同様である。加速度がけん引を示唆しているか否かは、電子制御エンジンから供給されるエンジンの出力トルクに基づいて推定される推定加速度から、前記車速の微分値として演算される実加速度を差し引いた加速度偏差が、設定加速度偏差以上であるか否かにより判定される。減速度がけん引を示唆しているか否かは、ブレーキ液圧センサ126により検出されたブレーキ液圧から推定された推定減速度(正の値)から、前記車速の微分値の絶対値として演算される推定減速度を差し引いた減速度偏差が、設定減速度偏差以上であるか否かにより判定される。
【0034】
上記S11,S12のいずれかの判定結果がNOの場合、あるいはS13,S14の判定結果がNOの場合には、S19において、本四輪駆動車2が走行中であるか否かが判定され、判定結果がYESであれば、S16〜S18が実行されるが、NOの場合はS20において、前記制限解除スイッチ134により制限解除指令が入力されているか否かが判定される。この判定の結果がNOである場合は、後に説明するように、非けん引判定1が行われ、その判定に応じて車高調整の制限が行われるのであるが、運転者がけん引中ではないことを知っており、車高調整が制限されることを望まない場合には、制限解除スイッチ134を手動操作することにより、非けん引判定2が行われて車高調整制限が行われないようにされているのである。これは例外的な処置であるため、車高調整装置保護の観点から、制限解除スイッチ134としては、手動操作されている間のみ制限解除信号を出力するものが望ましい。
【0035】
以上の各判定ステップの判定結果に応じてS21〜24においてけん引中であるか否かが判定される。S11とS12とのいずれかの判定結果がYESの場合には、コネクタ8の接続と連結装置3の連結とのいずれかが示唆されたことになる。また、S13とS14とのいずれかの判定結果がYESの場合には、車高または荷重がけん引を示唆していることになる。その上でS15の判定結果がNOの場合には本四輪駆動車2は停車していることとなるため、S21においてけん引判定1のフラグがONとされる。このけん引判定1は、停車中であっても得られる情報のみに基づくけん引判定なのであり、けん引判定1がなされるための条件は、(コネクタ接続OR連結装置連結)AND(車高けん引示唆OR荷重けん引示唆)AND(停車中)である。
【0036】
それに対して、S15において走行中であると判定された場合にはさらに、S16〜S18の判定が行われ、これらの判定結果のいずれかがけん引を示唆する場合には、S22においてけん引判定2のフラグがONとされる。また、S11〜S14のいずれの判定結果もNOであった場合でも、四輪駆動車2が走行中であってS19の判定結果がYESであれば、S16〜S18が実行され、それらのいずれかの判定結果がYESであれば、S22においてけん引判定2のフラグがONにされる。すなわち、けん引判定2は、走行中にのみ得られる情報に基づくけん引判定なのであり、けん引判定2がなされるための条件は、(走行中)AND(旋回状態量けん引示唆OR加速度けん引示唆OR減速度けん引示唆)である。
【0037】
S11,S12の判定結果がいずれもNOであるか、S13,S14の判定結果がいずれもNOであるかのいずれかであり、かつ、S19,S20の判定結果がのNOであれば、S24において非けん引判定1のフラグがONにされ、けん引判定1およびけん引判定2のフラグがいずれもOFFとされる。非けん引判定1がなされるための条件は、(コネクタ不接続AND連結装置不連結)OR(前後車高差非けん引示唆AND前後輪荷重差非けん引示唆)AND(停車中)AND(制限解除入力なし)である。
また、S16〜S18のいずれの判定結果もNOであるいか、あるいはS20の判定結果がNOであれば、S23において非けん引判定2のフラグがONにされ、けん引判定1およびけん引判定2のフラグがいずれもOFFとされる。非けん引判定2がなされるための条件は、(走行中)AND(旋回状態量非けん引示唆AND加速度非けん引示唆AND減速度非けん引示唆)OR〔(コネクタ不接続AND連結装置不連結)OR(前後車高差非けん引示唆AND前後輪荷重差非けん引示唆)AND(停車中)AND(制限解除入力)〕である。
【0038】
以上のようにけん引判定が行われた後、S2の車高調整規制ステップが、図6の車高調整規制ルーチンの実行によって実施される。
停車中にコネクタ8の接続と連結装置3の連結とのいずれか一方、および車高けん引示唆と荷重けん引示唆とのいずれか一方の条件が満たされ、けん引判定判定1がなされた場合(S31)には、S32において現在の車高が「高」車高であるか否かの判定が行われ、「高」車高であればS33で「標準」車高に強制的に復帰させられる。また、現在の車高が「高」車高ではない場合は、S34において「標準」車高であるか否かの判定が行われ、「標準」車高であればS35で強制的に「低」車高へ移行させられる。
【0039】
また、走行中に旋回状態量,加速度あるいは減速度によるけん引示唆に基づいてけん引判定2がなされた場合(S36)には、S37において車高調整が禁止される。
停車中に、コネクタ8の不接続、連結装置3の不連結に基づいて非けん引判定1がなされた場合(S38)には、S39において車高調整の制限が行われる。この車高調整制限は、例えば、車高調整装置の継続作動時間を通常(非制限時)に比較して短くすること、車高調整装置の作動速度を通常より低速にすること等により行われる。いずれの場合にも車高調整装置の過熱を回避することができる。また、車高調整を設定時間行っても、あるいは一定時間ずつの車高調整を設定回数行っても、実際の車高が目標車高に達しない場合は、以後の車高調整が禁止されるようにしてもよい。
走行中に旋回状態量,加速度あるいは減速度による非けん引示唆に基づいてけん引判定2がなされた場合(S40)には、S41において車高調整が許可される。
【0040】
S3のけん引報知ステップは図7のけん引報知ルーチンにより表される。停車中にけん引判定1がなされた場合(S51)にはS58において報知ランプ152の点灯が指示され、走行中にけん引判定2が行われた場合(S52)には、S53,S54において加速,制動中が否かが判定され、加速,制動中であれば、S55において報知ランプ152が点滅させられる。報知ランプ152はS58において一旦点灯させられれば、非けん引判定1または2が行われるまでは点灯状態に維持されるが、その報知ランプ152が点滅させられるのである。ランプは一般に、継続的に点灯している状態と点滅する状態とでは後者の方が人の注意を引くため、加速あるいは制動が行われる際に、運転者に現在けん引中であるので、そのことを考慮して加速操作あるいは制動操作をするように注意を喚起することができる。なお、本実施例においては、加速中であるか否かは電子制御エンジンからの情報に基づいて判定され、制動中であるか否かは、ブレーキ液圧センサ126の出力に基づいて判定されるが、アクセルペダル等アクセル操作部材やブレーキペダル等制動操作部材の操作を検出する操作部材センサを設けて、そのセンサの出力に基づいて判定されるようにすれば、早期に判定を行うことが可能となる。
【0041】
続いて、S56において旋回中か否かが判定され、旋回中であれば、S57において、スピーカ154によりけん引中であるのでそのことを考慮して操舵を行うようにとの注意がなされる。けん引中における旋回は特に注意を要するので、最も運転者の注意を引き易い方法で報知が行われるのである。なお、旋回中か否かの判定は、操舵角センサ124の出力に基づいて行われる。
【0042】
以上の説明から明らかなように、電子制御ユニット22の、図4に示す車高調整規制メインプログラムのS1を実行する部分が各種センサと共同してけん引検出部を構成し、S2を実行する部分が車高調整規制部を構成し、S3を実行する部分が報知ランプ152およびスピーカ154と共同してけん引報知装置を構成し、S4を実行する部分がけん引情報供給部を構成している。
電子制御ユニット22の、図5に示すけん引判定ルーチンのS11を実行する部分が電気接続センサ130と共同して配線接続有無検出部を構成し、S12を実行する部分が連結センサ132と共同して連結装置状態検出部を構成しており、これら配線接続有無検出部および連結装置状態検出部が接続状態検出部を構成している。また、車高センサ120が車高検出装置(後輪車高検出装置を含む)、荷重センサ121が車輪荷重検出装置(後輪荷重検出装置を含む)、操舵角センサ124が操舵量検出装置をそれぞれ構成しており、これらは状態量検出装置の各一例である。電子制御ユニット22の、S13の一部を実行する部分が車高センサ120と共同して前後車高差検出部を構成し、S14の一部を実行する部分が荷重センサ121と共同して前後輪荷重差検出部を構成している。車輪速センサ122およびそれの出力に基づいて車速および加速度を演算する電子制御ユニット22一部が車速検出装置および加速度検出装置を構成し、ヨーレイトセンサ125が旋回状態量検出装置を構成しており、これらはそれぞれ状態量検出装置の各一例である。
【0043】
そして、電子制御ユニット22の、図5に示すけん引判定ルーチンのS16の一部を実行する部分が旋回状態量推定部を構成し、S16,S22およびS23を実行する部分が、状態量相違依拠検出部の一例としての旋回状態量相違依拠検出部を構成している。また、電子制御ユニット22の電子制御エンジンから供給されるエンジンの出力を受け取る部分や、ブレーキ液圧センサ126が加速度要因状態量検出装置を構成し、電子制御ユニット22のS17,S18のそれぞれ一部を実行する部分が加速度推定部を構成し、S17,S18S22およびS23を実行する部分が加速度相違依拠検出部を構成している。
また、電子制御ユニット22の、S11,S12およびS21〜S24を実行する部分が接続状態依拠検出部を構成し、S13,S14およびS21〜S24を実行する部分が実状態量依拠検出部を構成し、S16〜S18およびS21〜S24を実行する部分が状態量相違依拠検出部を構成している。
【0044】
なお、図5のけん引判定ルーチンにおいて、種々の情報に基づく判定結果の組合わせに基づいて最終的なけん引判定が行われるようにされていたが、これら種々の情報の組み合わせ方は一例に過ぎず、これに限定されるものではないことは勿論、複数の情報の組合わせに基づいて判定されるようにすること自体も不可欠ではなく、これらの情報の1つに基づいてけん引判定が行われるようにすることも可能である。さらに別の情報がけん引判定の基礎とされるようにすることも可能である。
【0045】
また、図5のけん引判定ルーチンにおいて、SS19およびS20を省略することも可能であり、その場合には、けん引判定2がなされるための条件は、(コネクタ接続OR連結装置連結)AND(車高けん引示唆OR荷重けん引示唆)AND(走行中)AND(旋回状態量けん引示唆OR加速度けん引示唆OR減速度けん引示唆)となる。
さらに、前記S16,S17およびS18の各々においては、旋回状態量,加速度および減速度がそれぞれけん引中であることを示しているか否かの判定が、推定旋回状態量,推定加速度および推定減速度と実状態旋回状態量、実加速度および実減速度との差あるいは差の絶対値が設定差以上であるか否かに基づいて行われるようになっていたが、推定状態量と実状態量との比等他の量に基づいて判定されるようにすることも可能である。
また、車高調整装置として、前記実施例におけるような液圧式車高調整装置に代えて、エアばね内の圧縮エア量を制御することにより車高を調整するエア式車高調整装置等、他の形式の車高調整装置を採用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】請求可能発明の一実施例である懸架システムが搭載された四輪駆動車が被けん引車をけん引している状態を示す正面図である。
【図2】上記懸架システムを概略的に示す図である。
【図3】上記懸架システムにおける制御装置を示す機能ブロック図である。
【図4】上記制御装置のコンピュータに記憶させられた車高調整規制制御プログラムを表すフローチャートである。
【図5】上記車高調整規制制御プログラムのけん引判定ルーチンを表すフローチャートである。
【図6】上記車高調整規制制御プログラムの車高調整規制ルーチンを表すフローチャートである。
【図7】上記車高調整規制制御プログラムのけん引報知ルーチンを表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0047】
2:四輪駆動車 3:連結装置 4:被けん引車 5:テールランプ 6:配線 8:コネクタ 10:懸架シリンダ 12:制御シリンダ 20:車高調整装置 22:電子制御ユニット(ECU) 84:ポンプ装置 120:車高センサ 121:荷重センサ 122:車輪速センサ 124:操舵角センサ 125:ヨーレイトセンサ 126:ブレーキ液圧センサ 128:車高モードスイッチ 130:電気接続センサ 132:連結センサ 134:制限解除スイッチ 138:コンピュータ 152:報知ランプ 154:スピーカ 156:他の電子制御ユニット(ECU) 164:車高調整制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車高調整装置を含む懸架システムであって、
当該懸架システムが搭載された自動車が被けん引車をけん引していることを検出し、けん引情報を発生させるけん引検出部と、
そのけん引情報に応じて前記車高調整装置の作動を規制する車高調整規制部と
を含むことを特徴とする懸架システム。
【請求項2】
前記けん引検出部が、
前記被けん引車との接続部の状態を検出する接続部状態検出部と、
その接続部状態検出部により検出された接続部の状態に基づいて前記けん引を検出する接続部状態依拠検出部と
を含む請求項1に記載の懸架システム。
【請求項3】
前記けん引検出部が、
前記自動車の実際の状態量である実状態量を検出する1つ以上の状態量検出装置と、
その状態量検出装置により検出された実状態量に基づいてけん引を検出する実状態量依拠検出部と
を含む請求項1または2に記載の懸架システム。
【請求項4】
前記けん引検出部が、
前記自動車の2種以類上の実際の状態量である実状態量を検出する2つ以上の状態量検出装置と、
それら2つ以上の状態量検出装置の一部のものの検出値である実状態量に基づいて非けん引状態における残りの状態量検出装置に対応する状態量を推定し、その推定した状態量である推定状態量と前記残りの状態量検出装置により実際に検出された状態量である実状態量との相違状態が設定相違状態以上である場合に、けん引を検出する状態量相違依拠検出部と
を含む請求項1ないし3のいずれかに記載の懸架システム。
【請求項5】
前記けん引検出部が、
(a)前記被けん引車との接続部の状態を検出する接続部状態検出部と、その接続部状態検出部により検出された接続部の状態に基づいて前記けん引を検出する接続部状態依拠検出部と、
(b)前記自動車の1つ以上の実際の状態量である実状態量を検出する状態量検出装置と、その状態量検出装置により検出された実状態量に基づいてけん引を検出する実状態量依拠検出部と、
(c)前記自動車の2種以上の実際の状態量である実状態量を検出する2つ以上の状態量検出装置と、それら2つ以上の状態量検出装置の一部のものの検出値である実状態量に基づいて非けん引状態における残りのものに対応する状態量を推定し、その推定した状態量である推定状態量と前記残りのものにより実際に検出された実状態量との相違状態が設定相違状態以上である場合に、けん引を検出する状態量相違依拠検出部と
の3つのうちの少なくとも2つを含む請求項1に記載の懸架システム。
【請求項6】
前記車高調整規制部による車高調整の規制が、車高調整の禁止,標準車高への強制復帰,標準車高より低い設定車高への強制移行,車高調整可能範囲の減縮,車高調整装置の作動速度の低減,車高調整装置の作動継続時間の短縮の少なくとも1つを含む請求項1ないし5のいずれかに記載の懸架システム。
【請求項7】
前記自動車がけん引中であることを運転者に報知するけん引報知装置を含む請求項1ないし6のいずれかに記載の懸架システム。
【請求項8】
前記自動車の当該懸架システム以外の装置にけん引情報を供給するけん引情報供給部を含む請求項1ないし7のいずれかに記載の懸架システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−76373(P2006−76373A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260665(P2004−260665)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】